(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077889
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】ミシンの針糸繰り装置
(51)【国際特許分類】
D05B 45/00 20060101AFI20240603BHJP
【FI】
D05B45/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190104
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000113229
【氏名又は名称】株式会社PEGASUS
(72)【発明者】
【氏名】板東 進
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150AA05
3B150AA12
3B150FC02
(57)【要約】
【課題】
緩みのある柔らかい縫い目と緩みのない硬い縫い目を選択できてかつ、形状が従来のものと比べて過剰に複雑でなく、針糸を通す間違いが生じにくい針糸繰りを備えるミシンの針糸繰り装置を提供する。
【解決手段】
針糸繰り装置2は、糸調子器41,第1糸案内部21,給油装置20,糸押えバネ用糸案内22,第1糸案内部の補助案内24,第2糸案内部25,可動糸案内部材31,針糸繰り26を備える。針糸繰り26は、揺動先端側が上下対称に二股形状であって、二か所の揺動先端側のそれぞれに糸繰り孔を有する。緩みのある柔らかい縫い目を縫製するときには上側の糸繰り孔27にのみ針糸を通し、緩みのない硬い縫い目を縫製するときには下側の糸繰り孔28にのみ針糸を通す。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸調子器からの針糸が通される第1糸案内部と、前記第1糸案内部からの針糸が通される可動糸案内部材と、揺動基端側を支持する針糸繰りレバー軸まわりに上下揺動するよう設置された針糸繰りレバーと、前記可動糸案内部材からの針糸が通される糸繰り孔を揺動先端側に有し、前記針糸繰りレバーに配置され針糸繰りレバー軸まわりに上下揺動する針糸繰りとを、ミシン正面側に備えるミシンの針糸繰り装置において、前記針糸繰りは、
揺動先端側が上下対称に二股形状であって、二か所の揺動先端側のそれぞれに前記糸繰り孔を有することを特徴とする、ミシンの針糸繰り装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は縫い針に向かう針糸の繰り出しを促すためのミシンの針糸繰り装置に関する。本発明において、前後とは布送り方向における前後方向をいい、左右とはミシンを正面から見たときの左右方向をいう。また上下とはミシンの上下方向をいう。
【背景技術】
【0002】
従来この種のミシンの針糸繰り装置として例えば、糸調子器からの針糸が通される第1糸案内部と、該第1糸案内部からの針糸が通される第2糸案内部と、該第2糸案内部からの針糸が通される可動糸案内部材と、該可動糸案内部材からの針糸が通される糸繰り孔を揺動先端側に有し、揺動基端側を支持する揺動軸まわりに上下揺動するよう設置された揺動天秤とを、ミシンアーム部の前面側に備えるように構成されたものがある(例えば、特許文献1参照)。
これによれば糸調子器を通した針糸は、第1糸案内部を通した後、第2糸案内部に通し、次いで可動糸案内部材に通し、更に揺動天秤に一体的に設けてある揺動先端側の糸繰り孔に通す。その後針糸天秤を通らずに、糸受けを経て他の糸案内部材を経て針に向かうというものである。この針糸天秤を通らないミシンの針糸繰り装置を用いれば、緩みのある柔らかい縫い目を得られることがよく知られている。
【0003】
また前述と別のミシンの針糸繰り装置として例えば、針糸が針糸天秤を通るように構成されたものがある(例えば、特許文献2参照)。これによれば糸調子器を通した針糸は、第1糸案内部を通した後、可動糸案内部材に通し、更に揺動天秤に一体的に設けてある揺動先端側の糸繰り孔に通し、その後針糸天秤を通して、他の糸案内部材を経て針に向かうというものである。
なお、この針糸天秤を通るミシンの針糸繰り装置は、前述の針糸天秤を通らないミシンの針糸繰り装置よりも旧来から良く知られているものである。この針糸天秤を通るミシンの針糸繰り装置を用いれば緩みのない硬い縫い目を得られることもよく知られている。旧来のミシンの針糸繰り装置を長年使用している縫製工場によっては、旧来どおりの装置で同じ縫い目を得られることが重視されており需要は継続して存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5953062号公報(段落番号0020、
図10)
【0005】
【特許文献2】特許第3729717号公報(段落番号0002、
図11)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記のようなミシンの針糸繰り装置では、緩みのある柔らかい縫い目を得られるミシンと、旧来どおりの緩みのない硬い縫い目を得られるミシンとを別個に持たなければ、両方の縫い目が必要になっても一台のミシンでは対応することができないため経済性が悪い、という問題があった。
【0007】
また例えば揺動天秤に揺動先端側だけでなく揺動先端と揺動基端の間の位置に別個の糸繰り孔を設けて、緩みのある柔らかい縫い目を必要とするときには揺動先端側の糸繰り孔のみに針糸を通して針糸天秤を通らずに他の糸案内部材を経て針に向かう経路と、緩みのない硬い縫い目を必要とするときには揺動先端と揺動基端の間の位置の糸繰り孔のみに針糸を通して針糸天秤を通し他の糸案内部材を経て針に向かう経路とを、選択できるような構成としても、揺動天秤の形状が複雑化して製造コストが上昇し経済性が悪い、という問題があった。さらに揺動天秤の揺動先端側の糸繰り孔にのみ針糸を通す経路のみの旧来のミシンと比べて上記のミシンでは、旧来のミシンに慣れた縫製作業者は揺動先端側の糸繰り孔に針糸を通すことに慣れており、緩みのない硬い縫い目を必要とするときに、揺動先端と揺動基端の間の位置の糸繰り孔から揺動先端側の糸繰り孔に針糸を通して針糸天秤を通すといった間違いを生じやすい、という問題もあった。
【0008】
本発明はこのような問題を解決するためになされたものでありその目的とするところは、緩みのある柔らかい縫い目と緩みのない硬い縫い目を選択でき、形状が過剰に複雑でなく製造コストの上昇が少なく、針糸を通す間違いが生じにくい針糸繰り(揺動天秤)を備えるミシンの針糸繰り装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、糸調子器からの針糸が通される第1糸案内部と、前記第1糸案内部からの針糸が通される可動糸案内部材と、揺動基端側を支持する針糸繰りレバー軸まわりに上下揺動するよう設置された針糸繰りレバーと、前記可動糸案内部材からの針糸が通される糸繰り孔を揺動先端側に有し、前記針糸繰りレバーに配置され針糸繰りレバー軸まわりに上下揺動する針糸繰りとを、ミシン正面側に備えるミシンの針糸繰り装置において、前記針糸繰りは、揺動先端側が上下対称に二股形状であって、二か所の揺動先端側のそれぞれに前記糸繰り孔を有することを特徴とする、ミシンの針糸繰り装置である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、針糸繰りは、揺動先端側が上下対称に二股形状であって、二か所の揺動先端側のそれぞれに前記糸繰り孔を有することで、緩みのある柔らかい縫い目を縫製するときには上側の糸繰り孔にのみ針糸を通し、緩みのない硬い縫い目を縫製するときには下側の糸繰り孔にのみ針糸を通すことで、縫い目を選択することができる。また揺動先端側が上下対称に二股形状であり、形状が旧来のものが揺動先端側が一枝であることと比べて過剰に複雑でない。さらに対称の形状であり非対称の複雑な形状と比べても製造コストで有利である。また揺動先端と揺動基端の間の位置の糸繰り孔から揺動先端側の糸繰り孔に針糸を通すといった間違いも生じない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の針糸繰り装置が適用された偏平縫いミシンの斜視図である。
【
図2】本発明の針糸繰り装置が適用された偏平縫いミシンの針糸繰りの正面図である。(c)は本発明の実施形態の説明に用いた一例の図であり、(d)は本発明の他の一例の図である。
【
図3】本発明の針糸繰り装置が適用された偏平縫いミシンの正面図である。
【
図4】同上装置の針棒の上死点での針糸天秤を通らない糸経路を示す概略の正面図である。
【
図5】同上装置の針棒の下死点での針糸天秤を通らない糸経路を示す概略の正面図である。
【
図6】同上装置の針棒の上死点での針糸天秤を通る糸経路を示す概略の正面図である。
【
図7】同上装置の針棒の下死点での針糸天秤を通る糸経路を示す概略の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、
図1から
図7に基づいて本発明の実施形態を説明する。
図1は本発明の針糸繰り装置が適用された偏平縫いミシンの斜視図である。
図3は同上ミシンの正面図である。以下、ミシン1について説明する。ミシン1は針糸繰り装置2を備える。ミシン1はベッド10、ベッド10から立設する縦胴部11、および縦胴部11からベッド10に平行するように延出するアーム12を有する。
【0013】
ミシン1は主軸(図示なし)によって上下に往復駆動される針棒5と、針棒5の下端部に固定された3本の針50とを備える。ミシン1は各針50に通された針糸52のそれぞれに所定の張力を与える3つの糸調子器41と、上飾りスプレッダー51に通される上飾り糸に所定の張力を与える上飾り糸調子器42と、ルーパー(図示なし)に通されているルーパー糸に所定の張力を与えるルーパー糸調子器43とを、合わせ持つ糸調子器セット4を備える。上飾りスプレッダー51は生地の表面側において、また前記ルーパーは生地の裏面側のベッド10内においていずれも前記主軸に連動するように構成され、ミシン1は3本の針50とルーパーとの協働により形成される縫い目に上飾り糸を絡ませながら、二重環縫い目の一つである偏平縫い目の飾り縫いを形成する。
【0014】
以下、針糸繰り装置2について説明する。針糸繰り装置2は縦胴部11の前面側に設置された糸調子器セット4の左側でかつアーム12の前面側に配された給油装置20、糸調子器41と給油装置20との間に配された第1糸案内部21を備える。給油装置20の左側には糸押えバネ用糸案内22を備え、糸押えバネ用糸案内22の左側には糸押えバネ23を備える。糸押えバネ23の左側には第1糸案内部の補助案内24を備える。
【0015】
第1糸案内部の補助案内24の左側には第2糸案内部25を備える。第2糸案内部25の左側には針糸繰り(揺動天秤)26を備える。針糸繰りレバー軸29まわりに上下揺動する針糸繰りレバー30が設置され、針糸繰りレバー30には針糸繰り26が配置され、針糸繰り26は針糸繰りレバー軸29を揺動基端側として主軸に連動して上下揺動する。針棒5は主軸に連動して上下に直動しており、針糸繰り26は針棒5の上死点,下死点に同期して上下揺動することで、針糸繰り26の揺動先端側に有する糸繰り孔(図示なし)を通る糸の繰り出し量を制御する。
【0016】
針糸繰り26の揺動先端側より右側でかつ第2糸案内部25の左側には針糸繰り26とは別体の可動糸案内部材31を備える。可動糸案内部材31は支持体32と、支持体32を貫通するようにネジ止めされ上端部に糸孔(図示なし)を有する3本の糸案内棒33とからなる。各糸案内棒33は支持体32に対し上下方向に摺動し所望の位置で固定することができ、これにより糸取り及び糸繰り量を調整できるようになっている。可動糸案内部材31は針糸繰り26の糸繰り孔と第2糸案内部25との間で上下の位置調整および左右の位置調整を可能に設置されている。
【0017】
図4,
図5は本発明の針糸繰り装置の針糸天秤を通らない糸経路を示す概略の正面図である。
図6,
図7は本発明の針糸繰り装置の針糸天秤を通る糸経路を示す概略の正面図である。以下、前述の針糸繰り装置2に針糸52を通す糸経路を説明する。第1糸案内部21は糸孔(図示なし)を有しそれぞれ3つの糸調子器41からの3本の針糸52が通されるようになっている。給油装置20(
図4から
図7には図示なし)は潤滑剤のシリコン油が含浸しているフェルトを内部に有する給油箱(図示なし)からなり、これに第1糸案内部21から針糸52が通されることでシリコン油を付与するようになっている。給油装置20からの針糸52は糸押えバネ用糸案内22が有する糸孔(図示なし)に通され、糸押えバネ23(
図4から
図7には図示なし)の上方を経て第1糸案内部の補助案内24が有する糸孔(図示なし)に通される。糸押えバネ23は線バネであり、針糸52に糸調子器41を操作せずに微細な張力を与える必要がある縫製のときに糸に接触させる。
【0018】
第1糸案内部の補助案内24からの針糸52は第2糸案内部25が有する糸孔(図示なし)に通される。第2糸案内部25からの針糸52は可動糸案内部材31の糸案内棒33が有する糸孔に通される。可動糸案内部材31からの針糸52は針糸繰り26の揺動先端側に有する糸繰り孔に通される。針糸繰り26は揺動先端側に有する糸繰り孔に針糸52を通して上下揺動することで、縫製中に針糸52を引っ張ることでの糸取りと緩めることでの糸の繰り出しを繰り返す。
【0019】
図2は本発明の針糸繰り装置が適用された偏平縫いミシンの針糸繰りの正面図である。(c)の針糸繰り26は、揺動先端側が上下対称に二股形状で、二か所の揺動先端側のそれぞれに糸繰り孔を有する。これは(d)のように揺動先端側が対称であればよい。緩みのある柔らかい縫い目を縫製するときには上側の糸繰り孔27にのみ針糸52を通し、緩みのない硬い縫い目を縫製するときには下側の糸繰り孔28にのみ針糸52を通す。針糸繰り26は、針糸繰りレバー30に固定する胴体部に長穴が設けられており、左右位置を調節して針糸繰りレバー30に配置される。
【0020】
前述の針糸52の糸経路についてあらためて記すと、糸調子器41,第1糸案内部21,給油装置20,糸押えバネ用糸案内22,第1糸案内部の補助案内24,第2糸案内部25,可動糸案内部材31,針糸繰り26の順に、それぞれが有する糸孔,糸繰り孔を経由することになる。緩みのある柔らかい縫い目を縫製するときには上述の経路のうえで、針糸繰り26は上側の糸繰り孔27のみに針糸52は通される。緩みのない硬い縫い目を縫製するときには、上述の経路の一部は省かれて、針糸52の経路は糸調子器41,第1糸案内部21,給油装置20,第1糸案内部の補助案内24,可動糸案内部材31,針糸繰り26の順となり、針糸繰り26は下側の糸繰り孔28のみに針糸52は通される。
【0021】
以下、針糸繰り装置2について続けて説明する。針糸繰り26の左側で針棒5は上端に針棒天秤53を備える。針棒5は主軸によって上下に往復駆動されており、針棒天秤53も同じく主軸によって上下に往復駆動される。針糸繰り26の左側でアーム12の前面側に針糸案内54を備える。針糸繰り26の左側でアーム12の前面側で針糸繰り26と針棒5の間に糸受け55を備える。糸受け55の左側でアーム12の前面側で針糸案内54の前面側に第3,4糸案内部56,57を備える。針棒天秤53,第3,4糸案内部56,57は糸孔(図示なし)を有する。針糸案内54は3本の針糸52の各糸が接触しないように左右に振り分ける案内溝(図示なし)を有する。糸受け55は糸の経路を屈曲させる案内端(図示なし)を有する。
【0022】
以下、前述の針糸繰り装置2について、針糸繰り26以降の針糸52を通す糸経路を説明する。緩みのある柔らかい縫い目を縫製するときには、針糸繰り26,糸受け55,第3,4糸案内部56,57の順に、それぞれが有する糸孔,案内端を経由して針50に針糸52は通される。緩みのない硬い縫い目を縫製するときには、針糸繰り26,針棒天秤53,針糸案内54の順に、それぞれが有する糸孔,案内溝を経由して針50に針糸52は通される。
【0023】
図4,
図5は本発明の針糸繰り装置の針棒の上死点,下死点での針糸天秤を通らない糸経路を示す概略の正面図である。これは緩みのある柔らかい縫い目を縫製するときの糸経路である。可動糸案内部材31から針糸繰り26を経て第3糸案内部56に至る糸の針糸繰り前後の経路長について、針棒5の上死点時の針糸繰り前後の経路長と針棒5の下死点時の針糸繰り前後の経路長の差が、針棒5の上下往復運動の最大長よりも小さくなるように、可動糸案内部材31は上下の位置調整および左右の位置調整がなされている。これにより、針棒5の針50が上死点から下死点へ移動するときには、主として針50が針糸52を糸調子器41から前述の糸経路を経由して引き出し、針棒5の針50が下死点から上死点へ移動するときには、すでに針50により引き出された針糸52について縫いで消費される必要最小限の糸の量より余剰となる針糸52を針糸繰り26により引き戻す。引き出された糸の量は針棒5の上下往復運動の最大長と糸の張力状態にもとづいており、引き戻す糸の量は前述の上死点,下死点時の針糸繰り前後の経路長の差と糸の張力状態にもとづいている。この糸経路では、引き出された糸の量より引き戻す糸の量の方が小さいため、縫い目には縫いで消費される必要最小限の糸の量より余剰となる糸が縫い込まれて緩みのある柔らかい縫い目を形成する。
図5において実線(a)で示す針糸52は針棒の下死点における糸経路を、破線(b)で示す針糸52は針棒の上死点における糸経路を示す。
【0024】
図6,
図7は本発明の針糸繰り装置の針棒の上死点,下死点での針糸天秤を通る糸経路を示す概略の正面図である。これは緩みのない硬い縫い目を縫製するときの糸経路である。可動糸案内部材31から針糸繰り26を経て針棒天秤53に至る糸の針糸繰り前後の経路長について、針棒5の上死点時の針糸繰り前後の経路長と針棒5の下死点時の針糸繰り前後の経路長の差は、0又はできる限り小さくなるように、可動糸案内部材31は上下の位置調整および左右の位置調整がなされている。これにより、針棒5の針50が上死点から下死点へ移動するときには、主として針棒天秤53と針50が針糸52を糸調子器41から前述の糸経路を経由して引き出し、針棒5の針50が下死点から上死点へ移動するときには、すでに針棒天秤53と針50により引き出された針糸52を針棒天秤53により引き戻す。引き出された糸の量と引き戻す糸の量は針棒天秤53すなわち針棒5の上下往復運動の最大長と糸の張力状態にもとづいている。この糸経路では、引き出された糸の量と引き戻す糸の量の差がほとんどなく、縫いで消費される必要最小限の糸の量の分だけ不足するため縫い目には糸に張力が与えられて緩みのない硬い縫い目を形成する。
図7において実線(a)で示す針糸52は針棒の下死点における糸経路を、破線(b)で示す針糸52は針棒の上死点における糸経路を示す。
【0025】
以上説明したミシンにおける針糸繰り装置によれば、針糸繰りは揺動先端側が上下対称に二股形状であって、二か所の揺動先端側のそれぞれに糸繰り孔を有することにより、緩みのある柔らかい縫い目を縫製するときには上側の糸繰り孔にのみ針糸を通し、緩みのない硬い縫い目を縫製するときには下側の糸繰り孔にのみ針糸を通すことで、緩みのある柔らかい縫い目と緩みのない硬い縫い目を選択できる。また揺動先端側が上下対称に二股形状であり、形状が旧来のものが揺動先端側が一枝であることと比べて過剰に複雑でない。さらに対称の形状であり非対称の複雑な形状と比べても製造コストで有利である。また揺動先端と揺動基端の間の位置の糸繰り孔から揺動先端側の糸繰り孔に針糸を通すといった間違いも生じない。
【0026】
本発明は以上説明した実施例に限定されるものではなく、当業者であれば本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、前記実施例に種々の変更を付加して実施することができ、本発明はそれらの変更形態をも包含するものである。また本実施例は二重環縫いミシンの一つである偏平縫いミシンを用いたがこれに限定されるものではなく、例えば一本針二重環縫いミシンや多本針二重環縫いミシンであって同様の針糸繰り装置を備える環縫いミシンにも実施することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 ミシン
2 針糸繰り装置
4 糸調子器セット
5 針棒
10 ベッド
11 縦胴部
12 アーム
20 給油装置
21 第1糸案内部
22 糸押えバネ用糸案内
23 糸押えバネ
24 第1糸案内部の補助案内
25 第2糸案内部
26 針糸繰り(揺動天秤)
27 上側の糸繰り孔
28 下側の糸繰り孔
29 針糸繰りレバー軸
30 針糸繰りレバー
31 可動糸案内部材
32 支持体
33 糸案内棒
41 糸調子器
42 上飾り糸調子器
43 ルーパー糸調子器
50 針
51 上飾りスプレッダー
52 針糸
53 針棒天秤
54 針糸案内
55 糸受け
56 第3糸案内部
57 第4糸案内部