(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077891
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】プログラム、レーザ加工システム及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/082 20140101AFI20240603BHJP
【FI】
B23K26/082
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190106
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】向井 英之
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD07
4E168AD11
4E168BA00
4E168CA06
4E168CA13
4E168CB04
4E168CB22
4E168CB23
4E168EA15
4E168KA10
(57)【要約】
【課題】レーザ光の照射位置をより高い精度で補正できるレーザ加工システムのプログラム、レーザ加工システム及びレーザ加工方法を提供する。
【解決手段】走査制御用の描画データに基づいてレーザ光の照射位置が移動するようにミラーを駆動するガルバノ走査装置を含んだレーザ加工システムのプログラムである。そして、プログラムは、コンピュータに、レーザ光の照射位置を表わす描画データを入力する手順と、加工対象物の位置ズレ情報を入力する手順と、位置ズレ情報に基づいて描画データを補正して加工対象物の位置ズレに対応した補正後の描画データを作成する手順と、補正後の描画データを走査制御用の描画データとして出力する手順と、を実現させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査制御用の描画データに基づいてレーザ光の照射位置が移動するようにミラーを駆動するガルバノ走査装置を含んだレーザ加工システムのプログラムであって、
コンピュータに、
レーザ光の照射位置を表わす描画データを入力する手順と、
加工対象物の位置ズレ情報を入力する手順と、
前記位置ズレ情報に基づいて前記描画データを補正して前記加工対象物の位置ズレに対応した補正後の描画データを作成する手順と、
前記補正後の描画データを前記走査制御用の描画データとして出力する手順と、
を実現させるためのプログラム。
【請求項2】
入力された前記描画データは、前記加工対象物の位置ズレが無いときのレーザ光の照射位置が示されたデータであり、
前記補正後の描画データは、位置ズレした前記加工対象物に対応したレーザ光の照射位置が示されたデータである、
請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
前記ガルバノ走査装置は、前記ミラーを駆動する駆動装置と、描画データに基づいて前記駆動装置に駆動信号を出力する制御ドライバとを備え、
前記補正後の描画データを出力する手順により、前記制御ドライバへ前記補正後の描画データが送られる、
請求項1記載のプログラム。
【請求項4】
前記位置ズレ情報は、前記加工対象物に付随するマークの回転方向のズレ量と並進方向のズレ量とを含んだ情報であり、
前記補正後の描画データを作成する手順は、入力された前記描画データを前記回転方向のズレ量と前記並進方向のズレ量とに応じて座標変換する手順を含む、
請求項1記載のプログラム。
【請求項5】
走査制御用の描画データに基づいてレーザ光の照射位置が移動するようにミラーを駆動するガルバノ走査装置と、加工の制御を行う制御装置とを備えるレーザ加工システムであって、
前記制御装置は、
レーザ光の照射位置を表わす描画データを入力し、
加工対象物の位置ズレ情報を入力し、
前記位置ズレ情報に基づいて前記描画データを補正して前記加工対象物の位置ズレに対応した補正後の描画データを作成し、
前記補正後の描画データを前記走査制御用の描画データとして出力する、
レーザ加工システム。
【請求項6】
走査制御用の描画データに基づいてレーザ光の照射位置が移動するようにミラーを駆動するガルバノ走査装置を用いてレーザ加工を行うレーザ加工方法であって、
レーザ光の照射位置を表わす描画データを入力し、
加工対象物の位置ズレ情報を入力し、
前記位置ズレ情報に基づいて前記描画データを補正して前記加工対象物の位置ズレに対応した補正後の描画データを作成し、
前記補正後の描画データを前記走査制御用の描画データとして出力するレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プログラム、レーザ加工システム及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以前より、レーザ光の照射点を移動させるガルバノ走査装置を有するレーザ加工システムがある。ガルバノ操作装置は、レーザ光を反射するミラーと、ミラーを回動駆動するモータとを含む。特許文献1には、ガルバノ走査装置のモータに出力される制御指令を補正することで、レーザ光照射位置のズレを補正するレーザ溶接システムが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加工対象物が位置ズレしている場合に、位置ズレに対応してレーザ光の照射位置をより高い精度で補正できると好ましい。
【0005】
本発明は、レーザ光の照射位置をより高い精度で補正できるプログラム、レーザ加工システム及びレーザ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るプログラムは、
走査制御用の描画データに基づいてレーザ光の照射位置が移動するようにミラーを駆動するガルバノ走査装置を含んだレーザ加工システムのプログラムであって、
コンピュータに、
レーザ光の照射位置を表わす描画データを入力する手順と、
加工対象物の位置ズレ情報を入力する手順と、
前記位置ズレ情報に基づいて前記描画データを補正して前記加工対象物の位置ズレに対応した補正後の描画データを作成する手順と、
前記補正後の描画データを前記走査制御用の描画データとして出力する手順と、
を実現させる。
【0007】
本発明に係るレーザ加工システムは、
走査制御用の描画データに基づいてレーザ光の照射位置が移動するようにミラーを駆動するガルバノ走査装置と、加工の制御を行う制御装置とを備えるレーザ加工システムであって、
前記制御装置は、
レーザ光の照射位置を表わす描画データを入力し、
加工対象物の位置ズレ情報を入力し、
前記位置ズレ情報に基づいて前記描画データを補正して前記加工対象物の位置ズレに対応した補正後の描画データを作成し、
前記補正後の描画データを前記走査制御用の描画データとして出力する。
【0008】
本発明に係るレーザ加工方法は、
走査制御用の描画データに基づいてレーザ光の照射位置が移動するようにミラーを駆動するガルバノ走査装置を用いてレーザ加工を行うレーザ加工方法であって、
レーザ光の照射位置を表わす描画データを入力し、
加工対象物の位置ズレ情報を入力し、
前記位置ズレ情報に基づいて前記描画データを補正して前記加工対象物の位置ズレに対応した補正後の描画データを作成し、
前記補正後の描画データを前記走査制御用の描画データとして出力する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、レーザ光の照射位置をより高い精度で補正できるプログラム及びレーザ加工システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係るレーザ加工システムを示すブロック図である。
【
図2】
図1のレーザ加工システムの光学系を示す構成図である。
【
図3】制御装置が実行するレーザ加工制御処理を示すフローチャートである。
【
図4】
図3のステップS1(A)とステップS2(B)を説明する図である。
【
図5】
図3のステップS3(A)とその後の加工処理(B)を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係るレーザ加工システムを示すブロック図である。
図2は、
図1のレーザ加工システムの光学系を示す構成図である。
【0013】
本実施形態のレーザ加工システム1は、レーザ光を加工対象物Hに照射して加工を行うシステムである。加工の種類は、切断、穿孔、溶接など、特に限定されない。加工対象物Hは、作業領域Qに治具Iを介して固定される。レーザ加工システム1は、レーザ光を出射するレーザ発振器10と、レーザ光の照射位置を移動させるガルバノ走査装置20と、加工対象物Hへレーザ光を集光する集光レンズ31、加工対象物Hの位置ズレを検出する監視装置40と、制御処理を行う制御装置50とを備える。
【0014】
ガルバノ走査装置20は、スキャナヘッド20Aと、スキャナヘッド20Aを駆動する制御ドライバ26とを備える。
図2に示すように、スキャナヘッド20Aは、レーザ光の照射位置をX方向に変位させる第1ミラー21及び第1モータ(駆動装置に相当)22と、Y方向に変位させる第2ミラー23及び第2モータ24(駆動装置に相当)とを備える。第1モータ22は第1ミラー21を回動駆動する。第2モータ24は第2ミラー23を回動駆動する。
【0015】
ガルバノ走査装置20は、レーザ発振器10が出射したレーザ光を第1ミラー21と第2ミラー23とで反射し、集光レンズ31を通して加工対象物Hへ照射する。第1モータ22及び第2モータ24の駆動により第1ミラー21及び第2ミラー23の角度が変わり、集光レンズ31に入射する光軸が変位することで、加工対象物Hに照射されるレーザ光の照射位置がX-Y方向に変化する。
【0016】
制御ドライバ26は、レーザ光の照射位置を表わす走査制御用の描画データを入力する。走査制御用の描画データには、レーザ光の一連の照射位置を順に表わす複数の座標が示される。座標とは、任意の一点の位置を表わす数値の組み合わせを意味する。走査制御用の描画データに含まれる複数の座標は、レーザ光の照射位置の変化順に対応して、一続きに並んだ一連の座標である。一連の座標には、座標の値が連続的に変化する部分と、座標の値が断続する部分とが含まれてもよい。座標の値が連続的に変化する部分は、レーザ光の照射位置が線状に連なって変化する描画部分を意味する。座標の値が断続する部分は、レーザ光の照射位置が一旦途切れて別の箇所に移動する描画部分を意味する。
【0017】
制御ドライバ26は、走査制御用の描画データに示される一連の座標にレーザ光の照射位置が順次変化するように、第1モータ22及び第2モータ24を駆動する。制御ドライバ26は、第1モータ22及び第2モータ24に駆動信号を出力し、駆動信号によって第1モータ22及び第2モータ24の回動量を制御する。上記の駆動信号はアナログ信号(例えばアナログの駆動電流)であってもよい。より具体的には、制御ドライバ26は、第1モータ22に出力するアナログ信号を大小変化させることで第1モータ22の回動量を制御し、第2モータ24に出力されるアナログ信号を大小変化させることで第2モータ24の回動量を制御する構成であってもよい。
【0018】
監視装置40は、例えば、デジタルカメラによって撮影された加工対象物Hの映像から加工対象物Hの位置及び向きを検出し、予め設定された基準状態からのズレを算出する。加工対象物Hを固定する治具IにはアライメントマークM1、M2が付され、監視装置40は、当該アライメントマークM1、M2を識別することで、上記のズレを算出してもよい。
【0019】
制御装置50は、制御プログラムを実行することで、レーザ発振器10及びガルバノ走査装置20を制御するコンピュータである。制御装置50は、制御プログラムを記憶する記憶部51と、オペレータからの操作を入力する入力機器53と、オペレータから与えられたデータを読み込むデータ読込器54と、外部機器との間で指令及びデータをやり取りするI/Oポート55とを備える。I/Oポート55には、レーザ発振器10と、ガルバノ走査装置20の制御ドライバ26と、監視装置40とが接続される。制御ドライバ26は、制御装置50を構成するコンピュータの筐体内に装着されてもよい。
【0020】
記憶部51には、本発明の実施形態に係るプログラムとして、レーザ加工制御処理のプログラム51aが記憶されている。
【0021】
制御装置50は、レーザ発振器10に指令を送ることで、レーザ発振器10からレーザ光を出射させたり、停止させたりすることができる。制御装置50は、ガルバノ走査装置20の制御ドライバ26に、描画データを送り、かつ、走査開始の指令を送ることで、ガルバノ走査装置20に描画データに基づく一連の動作を開始させることができる。
【0022】
<レーザ加工制御処理>
図3は、制御装置が実行するレーザ加工制御処理を示すフローチャートである。レーザ加工制御処理のプログラム51aは、記憶部51など非一過性の記憶媒体に記憶されている。制御装置50は、可搬型の非一過性の記憶媒体に記憶されたプログラムを読み込み、当該プログラムを実行するように構成されてもよい。上記の可搬型の非一過性の記憶媒体は、レーザ加工制御処理のプログラム51aを記憶していてもよい。
【0023】
レーザ加工制御処理が開始されると、制御装置50は、レーザ光の照射位置を表わす描画データ(補正前の描画データ)を入力する(ステップS1)。
【0024】
図4(A)は、描画データの一例を説明する図である。同図において、ラインL0はレーザ光の一連の照射位置を表わしている。ステップS1で入力される描画データは、ラインL0を表わす一連の座標を含んだデータである。当該座標は、レーザ光を照射する作業領域Qに予め設定された基準座標系(座標軸X
0、Y
0)の値として表わされる。基準座標系には、加工対象物H及び治具Iがズレなく置かれた場合に、加工対象物H及び治具I、あるいは、そのアライメントマークM1、M2が、どの座標に位置するかが規定されている。当該規定された位置を二点鎖線で示す。位置ズレが無いときのアライメントマークM1、M2の位置を、アライメントマークM1、M2の基準位置O1、O2と記す。
【0025】
ステップS1で入力される描画データは、加工対象物Hが位置ズレなく設置されている場合に、当該加工対象物Hに対して要求されるレーザ光の照射位置が示されている。描画データは、オペレータによりデータ読込器54を介して入力されてもよいし、予め制御装置50内で作成されたものであってもよい。
【0026】
次に、作業領域に加工対象物Hがセットされると、制御装置50は、監視装置40から加工対象物Hの位置ズレ情報を入力する(ステップS2)。
【0027】
図4(B)は、位置ズレ情報の一例を説明する図である。同図において、実線で示す加工対象物H、治具I及びアライメントマークM1、M2が、作業領域Qの実際の状況を表わす。監視装置40が検出する位置ズレ情報は、
図4(B)のズレ(変位ベクトル)A1、A2の情報である。ズレA1、A2は、アライメントマークM1、M2の基準位置O1、O2からのズレの方向及び量を示す。ズレA1、A2の情報から、加工対象物H及び治具Iの回転方向のズレ量と並進方向のズレ量とが計算できる。標準座標系(座標軸X
0、Y
0)を、位置ズレ情報に基づき回転方向及び並進方向にずらした実座標系(座標軸X
1、Y
1)を重ねて示す。
【0028】
続いて、制御装置50は、位置ズレに対応した描画データ、すなわち、位置ズレした加工対象物Hに対応したレーザ光の照射位置を表わす描画データを、補正後の描画データとして作成する(ステップS3)。
【0029】
図5(A)は、入力された描画データと補正後の描画データとを説明する図である。同図において、ラインL0がステップS1で入力された描画データに含まれる一連の座標を示し、ラインL1が補正後の描画データに含まれる一連の座標を示す。補正後の描画データ(ラインL1)は、ステップS1で入力した描画データ(ラインL0)の各座標に、ステップS2で入力された位置ズレ情報(回転方向のずれ量と並進方向のずれ量)に応じた座標変換を行うことで取得される。
図5(A)の例では、基準座標系(X
0,Y
0)と実座標系(X
1,Y
1)との間の座標変換を施すことで、描画データが補正後の描画データに書き替えられる。ステップS3では、このような計算を制御装置50が行い、補正後の描画データが作成される。補正後の描画データには、実座標系のラインL1が基準座標系の値として表わされた一連の座標が含まれる。
【0030】
続いて、制御装置50は、補正後の描画データをガルバノ走査装置20の制御ドライバ26に送り(ステップS4)、続いて、レーザ発振器10とガルバノ走査装置20の制御ドライバ26とに動作開始の指令を送ることで、加工処理を開始させる(ステップS5)。
【0031】
図5(B)は、位置ズレを有する加工対象物と補正後の描画データとの関係を説明する図である。制御ドライバ26には、補正後の描画データが送られているので、補正後の描画データに基づいてレーザ光の照射位置が制御される。したがって、
図5(B)に示すように、位置ズレした加工対象物Hに対応したラインL1に沿ってレーザ光が照射され、位置ズレした加工対象物Hに対して位置ズレが無い場合と同様の加工が行われる。そして、描画データに基づくガルバノ走査装置20の一連の動作が終了したら、加工処理が終了する。
【0032】
<比較例との対比>
ここで、比較例として別の補正方式を説明する。レーザ光の照射位置を、描画データに示される一連の座標から回転方向と並進方向とに所定量だけずらしたい場合、制御ドライバ26から第1モータ22と第2モータ24とにそれぞれ出力されるアナログ信号に補正を加えるという補正方式を採用することができる。当該補正方式によっても、アナログ信号が補正されることで、第1モータ22及び第2モータ24の回動量が補正され、描画データに示された座標からずれた位置にレーザ光を照射することができる。しかしながら、このような補正方式は、ミラーの回動機構の特性やモータの駆動特性が、レーザ光の照射位置の補正量に影響を及ぼす。そのため、補正の精度を向上することが困難である。さらに、ガルバノ走査装置の機構又は仕様が異なる場合に、アナログ信号の補正の仕方が異なってくるため、ガルバノ走査装置の種別ごとに適切なアナログ信号の補正の仕方を探索しなければならないという煩雑さがある。また、比較例の補正方式では、フィードバック制御によって加工中にリアルタイムでレーザ光の照射位置を補正するため、補正遅延が生じやすいという課題がある。
【0033】
一方、本実施形態の補正方式では、制御ドライバ26は標準の動作を行えばよい。すなわち、本実施形態においては、補正により描画データの座標値が変わるものの、制御ドライバ26は、レーザ光の照射位置が描画データに示された一連の座標に順次変化するように第1モータ22及び第2モータ24の駆動を制御するという標準の動作を行う(
図3のステップS5)。したがって、本実施形態の加工制御処理によれば、上記比較例の補正方式にあった補正精度向上の困難性を低減することができ、補正精度を大幅に向上できる。さらに、本実施形態の加工制御処理によれば、ガルバノ走査装置の種別ごとに補正の仕方を探索するという煩雑さが不要となり、様々な型式のガルバノ走査装置に対して同様の補正処理を適用できるという利点を有する。さらに、本実施形態の補正方式では、加工前に加工対象物Hの位置ズレに対処する処理(制御装置50が位置ズレ情報を入力し描画データを補正する)を行ってしまうので、上記比較例のように補正遅延が発生しないという利点を有する。
【0034】
以上のように、本実施形態のレーザ加工システム1、レーザ加工方法及びプログラム51aによれば、制御装置50は、レーザ光の照射位置を表わす描画データを入力し(ステップS1)、加工対象物Hの位置ズレ情報を入力する(ステップS2)。そして、制御装置50は、位置ズレ情報に基づいて描画データを補正して、加工対象物Hの位置ズレに対応した補正後の描画データを作成する(ステップS3)。そして、制御装置50は、補正後の描画データを、走査制御用の描画データとして出力する。このような処理により、比較例との対比で示したように、補正精度を大幅に向上できるという効果が得られる。さらに、機構や仕様が異なる様々なガルバノ走査装置に対して、少ない煩雑さで同様の補正処理を適用し、加工対象物Hの位置ズレに対応できるという効果が得られる。
【0035】
具体的には、描画データは、加工対象物Hの位置ズレが無いときのレーザ光の照射位置が示されたデータであり、補正後の描画データは、位置ズレした加工対象物Hに対応したレーザ光の照射位置が示されたデータである。当該構成により、位置ズレを考慮せずに作成した描画データを用いて、位置ズレした加工対象物Hに対して要求された位置にレーザ光を照射することができる。
【0036】
さらに、ガルバノ走査装置20は、第1ミラー21及び第2ミラー23をそれぞれ駆動する第1モータ22及び第2モータ24と、第1モータ22及び第2モータ24へ駆動信号を出力する制御ドライバ26とを備える。そして、制御装置50が出力する補正後の描画データは、走査制御用の描画データとして制御ドライバ26へ送られる。当該構成により、ガルバノ走査装置20の前段で加工対象物Hの位置ズレに対処する処理を遂行することができる。
【0037】
さらに、位置ズレ情報は、加工対象物Hの治具Iに付されたアライメントマークM1、M2の回転方向のズレ量と並進方向のズレ量とを含んだ情報である。さらに、補正後の描画データを作成する処理(ステップS3)は、描画データの座標を、上記の回転方向のズレ量と並進方向のズレ量とに応じて座標変換する処理を含んでいる。このような処理により、高い補正精度を実現する補正後の描画データを、負荷の少ない計算で作成することが可能となる。
【0038】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記実施形態においては、制御装置50が、補正後の描画データを直接に制御ドライバ26へ出力する構成を示したが、当該構成に限られない。例えば、制御装置50が出力した補正後の描画データが、その他の様々なデータ処理を施すデータ処理部を通過した後に、制御ドライバ26へ送られてもよい。また、上記実施形態では、加工対象物Hの位置ズレを検出するためのマークとして、治具Iに付された2つのアライメントマークM1、M2を示したが、アライメントマークは方向を識別可能な1つのマークであってもよいし、3個以上のマークであってもよい。さらに、アライメントマークは、加工対象物Hに付随して設けられれば、治具I以外の構成に付されてもよいし、加工対象物H自体に付されてもよい。さらに、加工対象物Hの位置ズレを検出するためのマークは、アライメント専用のマークでなくてもよく、例えば加工対象物Hに付随した何らかの識別可能なマークが適用されてもよい。「付随した」とは、加工対象物Hとの相対位置が変わらないように加工対象物Hと一緒に移動する関係にあることを意味する。また、加工対象物Hは、治具Iを介さずに作業領域Qに設置されてもよい。
【0039】
また、上記実施形態では、加工中に位置ズレの変化が無い例を示したが、加工中に加工対象物Hの位置ズレ量が変化する場合に、本発明を適用することもできる。この場合、位置ズレが変化するごとに、制御装置が補正後の描画データを更新し、更新された描画データをガルバノ走査装置20へ送る。そして、描画データが更新されたら、ガルバノ走査装置20は、更新された描画データに基づいて駆動するように構成されればよい。その他、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 レーザ加工システム
10 レーザ発振器
20 ガルバノ走査装置
21 第1ミラー
22 第1モータ(駆動装置)
23 第2ミラー
24 第2モータ(駆動装置)
26 制御ドライバ
31 集光レンズ
40 監視装置
50 制御装置
51 記憶部
51a プログラム
55 I/Oポート
Q 作業領域
H 加工対象物
I 治具
M1、M2 アライメントマーク
O1、O2 基準位置
A1、A2 ズレ
L0 ライン(描画データ)
L1 ライン(補正後の描画データ)