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特開2024-77905金属印刷用インキ組成物および印刷塗装金属缶
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077905
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】金属印刷用インキ組成物および印刷塗装金属缶
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/105 20140101AFI20240603BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240603BHJP
   B41M 1/28 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
C09D11/105
C09D201/00
B41M1/28
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190136
(22)【出願日】2022-11-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592057961
【氏名又は名称】マツイカガク株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山下 千晶
(72)【発明者】
【氏名】利倉 学
(72)【発明者】
【氏名】大山 泰輝
(72)【発明者】
【氏名】北口 聡子
【テーマコード(参考)】
2H113
4J038
4J039
【Fターム(参考)】
2H113AA03
2H113AA06
2H113BA01
2H113BA05
2H113BA06
2H113BB10
2H113BC02
2H113CA25
2H113DA03
2H113EA07
2H113EA10
2H113FA29
4J038EA011
4J038PB04
4J038PC02
4J039AE06
4J039BA04
4J039BE12
4J039BE22
4J039CA07
4J039EA42
4J039FA01
4J039GA01
4J039GA02
(57)【要約】
【課題】従来の墨インキと比較して、印刷塗装面の漆黒性に優れ、且つ、細かなデザインの再現性にも優れた金属印刷用インキ組成物およびそれを用いた印刷塗装金属缶を提供することを目的とする。
【解決手段】多塩基酸と多価アルコールと脂肪酸成分の縮合重合物である、脂肪酸変性アルキッド樹脂、カーボンブラック、及び溶剤を含有する金属印刷用インキ組成物であって、脂肪酸変性アルキッド樹脂全量に含まれる脂肪酸成分が(1)水酸基を有する脂肪酸又は油(A)を脂肪酸成分の全質量を基準として25~75質量%含有し、且つ、(2)ヨウ素価が100以下である脂肪酸又は油(B)(ただし上記(A)である場合を除く)を含有することを特徴とする金属印刷用インキ組成物およびそれにより印刷された印刷塗装金属缶を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多塩基酸と多価アルコールと脂肪酸成分との縮合重合物である脂肪酸変性アルキッド樹脂、カーボンブラック、及び溶剤を含有し、前記脂肪酸変性アルキッド樹脂が下記(1)及び(2)を満たすことを特徴とする金属印刷用インキ組成物。
(1)脂肪酸変性アルキッド樹脂全量に含まれる脂肪酸成分が、水酸基を有する脂肪酸又は油(A)を前記脂肪酸成分の全質量を基準として25~75質量%含有する。
(2)脂肪酸変性アルキッド樹脂全量に含まれる脂肪酸成分が、ヨウ素価が100以下である脂肪酸又は油(B)(ただし上記(A)である場合を除く)を含有する。
【請求項2】
前記脂肪酸変性アルキッド樹脂が、脂肪酸変性アルキッド樹脂の全質量を基準として脂肪酸成分を35~65質量%含有する請求項1に記載の金属印刷用インキ組成物。
【請求項3】
金属印刷媒体上に設けられた請求項1又は2に記載の金属印刷用インキ組成物からなる印刷層と、印刷層上に設けられたオーバープリント用ワニスからなるオーバープリント用ワニス層とを有する印刷塗装金属缶。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属印刷用インキ組成物およびそれを用いた印刷塗装金属缶に関する。更に詳しくは、印刷塗装面の漆黒性に優れ、且つ、細かなデザインの再現性にも優れた金属印刷用インキ組成物およびそれを用いた印刷塗装金属缶に関する。
【背景技術】
【0002】
金属容器は、飲料容器をはじめ一般雑缶や菓子缶など多岐にわたり使用されている。特に金属製飲料容器は、プラスチック容器に比べて内容物の保存安定性に優れるため、アルコール系飲料、炭酸飲料、清涼飲料、コーヒー飲料などに使用されている。また、金属容器の外面側には、金属外面の保護のみならず、内容物に関する表記や出所を表す表記、更には消費者に対する購買意欲促進のためにデザイン性の高い絵柄や模様などが表記されている。
【0003】
近年、金属製飲料容器の外面側のデザインに対する要望は多岐に及んでいる。その背景には、金属製飲料容器入り製品の売り上げは、飲料自体の製品のカテゴリーやその品質に加えて、容器の外面側のデザインによる視認効果が重要である点が大きく関わっている。このため、金属製飲料容器は、印刷、塗装、製缶の総合的な技術向上によるデザイン性改善の取り組みがなされている。また、金属印刷用インキでは、印刷の高速化が一段と進んでいることから、高速時の印刷適性(耐ミスチング性、基材への転移性等)の向上が求められる。
【0004】
このような中、カーボンブラックを使用した墨インキでは、より高い漆黒性が要求されている。この要求を達成するための一つの手段として、印刷インキの流動性を高めることで印刷塗装面への被覆性を高める方法が知られており、印刷インキの流動性を高めるためには、一般的に顔料分散剤を用いる方法が用いられている。(特許文献1)しかしながら、印刷インキの流動性を高めることは画線部から印刷インキがはみ出す現象や印刷部の刷り終わり方向に尾を引いたようなヒゲ状のスラーリング現象による汚れが生じ、それによって細かなデザインが不鮮明になる問題が生じる。
【0005】
以上より、墨インキについては、より高い漆黒性が求められると共に、文字部などにも使用されることから細かなデザインの再現性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3618143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、墨インキに求められる漆黒性と細かなデザインの再現性を兼ね備えた金属印刷用インキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために鋭意研究した結果、脂肪酸変性アルキッド樹脂、カーボンブラック、溶剤を含む金属印刷用インキにおいて、脂肪酸変性アルキッド樹脂中に特定の脂肪酸を含有し、特定の比率・量で脂肪酸を併用した脂肪酸変性アルキッド樹脂を含む金属印刷用インキ組成物が、金属缶の印刷塗装面の漆黒性に優れ、且つ、細かなデザインの再現性にも優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、多塩基酸と多価アルコールと脂肪酸成分との縮合重合物である脂肪酸変性アルキッド樹脂、カーボンブラック、及び溶剤を含有し、前記脂肪酸変性アルキッド樹脂が下記(1)及び(2)を満たすことを特徴とする金属印刷用インキ組成物に関する。
(1)脂肪酸変性アルキッド樹脂全量に含まれる脂肪酸成分が、水酸基を有する脂肪酸又は油(A)を前記脂肪酸成分の全質量を基準として25~75質量%含有する。
(2)脂肪酸変性アルキッド樹脂全量に含まれる脂肪酸成分が、ヨウ素価が100以下である脂肪酸又は油(B)(ただし上記(A)である場合を除く)を含有する。
【0010】
また、本発明は、前記脂肪酸変性アルキッド樹脂が、脂肪酸変性アルキッド樹脂の全質量を基準として脂肪酸成分を35~65質量%含有していることを特徴とする上記の金属印刷用インキ組成物に関するものである。
【0011】
さらに、本発明は、金属印刷媒体上に設けられた上記の金属印刷用インキ組成物からなる印刷層と、印刷層上に設けられたオーバープリント用ワニスからなるオーバープリント用ワニス層とを有する印刷塗装金属缶に関するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、金属缶において印刷塗装面の漆黒性に優れ、且つ、細かなデザインの再現性にも優れる金属印刷用インキ組成物およびそれを印刷してなる印刷物を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の金属印刷用インキ組成物は、多塩基酸と多価アルコールと脂肪酸成分との縮合重合物である脂肪酸変性アルキッド樹脂、カーボンブラック、及び溶剤を含有し、(1)脂肪酸変性アルキッド樹脂全量に含まれる脂肪酸成分が、水酸基を有する脂肪酸又は油(A)を含有し、(2)脂肪酸変性アルキッド樹脂全量に含まれる脂肪酸成分が、ヨウ素価が100以下である脂肪酸又は油(B)(ただし上記(A)である場合を除く)を含有することを特徴とする。
【0014】
以下、各成分について具体的に説明する。
【0015】
本発明の金属印刷用インキ組成物に使用する脂肪酸変性アルキッド樹脂は、多塩基酸と多価アルコールと脂肪酸成分との縮合重合物を骨格とし、脂肪酸成分としては、油を原料とする脂肪酸、または一価の脂肪酸を使用することができる。
【0016】
水酸基を有する脂肪酸又は油(以下、脂肪酸成分(A)ともいう)としては、例えば、12-ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、ひまし油脂肪酸、硬化ひまし油脂肪酸、ひまし油、及び硬化ひまし油等が使用できる。これらは構造中に1つ以上の水酸基を有しており、樹脂骨格中に水酸基を有することで、カーボンブラックを含むインキ成分がオーバープリント用ワニス層へ移行しやすくなる。このようにインキ成分がオーバープリント用ワニス層へ一部染み出すブリード現象によって、漆黒性が向上する。
【0017】
脂肪酸成分(A)の含有量は、脂肪酸変性アルキッド樹脂全量に含まれる脂肪酸成分の全質量を基準として25質量%以上75質量%以下であり、好ましくは30質量%以上70質量%以下、より好ましくは40質量%以上60質量%以下である。25質量%以下では金属印刷用インキ組成物のブリード現象による効果が低く、漆黒性が不十分である。また、75質量%以上ではブリード現象による効果が過剰となり、金属印刷用インキ組成物が画線部以外のオーバープリントワニス層にまで移行して、細かなデザインが不鮮明になる問題が生じる。
【0018】
脂肪酸成分は、ヨウ素価が100以下である脂肪酸又は油(B)(以下、脂肪酸成分(B)ともいう)を含有する。なお、脂肪酸成分(B)は、脂肪酸成分(A)である場合を除く。ヨウ素価が100以下である脂肪酸又は油を含有することで、金属印刷用インキ組成物の流動性が過剰になることを防ぐことが可能となり、金属印刷用インキ組成物が画線部からはみ出す現象を抑制し、細かなデザイン部の再現性を得ることができる。脂肪酸成分(B)の含有量は脂肪酸変性アルキッド樹脂全量に含まれる脂肪酸成分の全質量を基準として25質量%以上75質量%以下が好ましく、より好ましくは30質量%以上70質量%以下、更に好ましくは40質量%以上60質量%以下である。
【0019】
脂肪酸成分(B)はヨウ素価が100以下である脂肪酸又は油であれば特に限定されず、ヤシ油脂肪酸(ヨウ素価8~10)、パーム油脂肪酸(ヨウ素価45~60)、パーム核油(ヨウ素価14~23)、オリーブ油(ヨウ素価75~90)、カプリル酸(ヨウ素価1.0以下)、カプリン酸(ヨウ素価1.0以下)、ラウリン酸(ヨウ素価1.0以下)、ミリスチン酸(ヨウ素価1.0以下)、パルミチン酸(ヨウ素価1.0以下)、ステアリン酸(ヨウ素価1.0以下)、オレイン酸(ヨウ素価86)等が挙げられる。これらは、不乾性油として分類される油であり、脂肪酸を由来とする成分による特有の臭いを生じにくく、金属缶の内容物のフレーバー性が損なわれにくくなる。
【0020】
これらの脂肪酸変性アルキッド樹脂は、単独または複数併用してもよく、例えば、脂肪酸変性アルキッド樹脂が単独の場合、脂肪酸変性アルキッド樹脂を構成する脂肪酸は、水酸基を有する脂肪酸又は油(A)を脂肪酸成分の全質量を基準として25~75質量%含有し、ヨウ素価100以下である(A)以外の脂肪酸又は油(B)を含有する。
一方、脂肪酸変性アルキッド樹脂が複数の場合、例えば、1種又は2種以上の水酸基を有する脂肪酸又は油(A)で合成された脂肪酸変性アルキッド樹脂と、ヨウ素価が100以下である(A)以外の脂肪酸(B)で合成された脂肪酸変性アルキッド樹脂を併用し、全脂肪酸中の(A)が25~75質量%になるように混合することができる。
【0021】
脂肪酸変性アルキッド樹脂に含まれる脂肪酸成分の総量は脂肪酸変性アルキッド樹脂の全質量を基準として35質量%以上65質量%以下であることが好ましく、より好ましくは40質量%以上60質量%以下である。脂肪酸成分の含有量が上記範囲内である脂肪酸変性アルキッド樹脂を含む金属印刷用インキ組成物は、高速印刷における転移性や機上安定性が優れ、塗膜物性にも優れる。なお、本明細書において脂肪酸成分の含有量とは原料としての配合比率を基準とする値である。また、脂肪酸変性アルキッド樹脂を複数併用する場合はそれらの総量を基準とする。
【0022】
多塩基酸としては、例えば、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水コハク酸、アジピン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水マレイン酸などの二塩基酸や、無水トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸無水物などの三塩基酸等が使用できる。多塩基酸は併用されてもよい。
【0023】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、ビスフェノールA、水素化ビスフェノールAなどの2価アルコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどの3価アルコール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の4価以上のアルコールが使用できる。多価アルコールは、併用されてもよい。
【0024】
脂肪酸変性アルキッド樹脂の製造方法は特に限定されない。例えば、油を原料とするエステル交換法、脂肪酸を原料とする脂肪酸法など公知の方法により製造できる。その一例としては、攪拌機、還流冷却管及び温度計を備えた反応容器に上記に記載の脂肪酸、多塩基酸、多価アルコールをキシレンと共に仕込み、窒素雰囲気下にて攪拌しながら240℃まで昇温し、エステル化反応を行う。そして任意の酸価であることを確認した後に反応を終了することで多塩基酸と多価アルコールと脂肪酸成分との縮合重合物である脂肪酸変性アルキッド樹脂を得る。
【0025】
脂肪酸変性アルキッド樹脂のスチレン換算重量平均分子量は、3,000以上であることが好ましく、4,000以上であることがより好ましい。また、脂肪酸変性アルキッド樹脂の重量平均分子量は、30,000以下であることが好ましく、25,000以下であることがより好ましい。脂肪酸変性アルキッド樹脂の重量平均分子量が上記範囲内であることにより、金属印刷用インキ組成物は、塗膜物性が保持され、印刷適性においてミスチングが抑制される。なお、本実施形態において、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography;GPC)により測定した値である。
【0026】
脂肪酸変性アルキッド樹脂の酸価は特に限定されない。一例を挙げると、酸価は、0.1mgKOH/g以上であることが好ましく、1.0mgKOH/g以上であることがより好ましい。また、酸価は、30mgKOH/g以下であることが好ましく、15mgKOH/g以下であることがより好ましい。酸価が上記範囲内であることにより、金属印刷用インキ組成物は、適正な流動性を確保でき転移性が優れる。本実施形態において、酸価は、樹脂1g中に含まれている遊離脂肪酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で定義される。単位はmgKOH/gである。
【0027】
本実施形態の樹脂は、脂肪酸変性アルキッド樹脂に加え、従来、用いられるインキ用樹脂が併用されてもよい。すなわち、印刷適性、塗膜物性等の要求性能に応じて、金属印刷用インキ組成物は、脂肪酸変性アルキッド樹脂と相溶する公知の樹脂が併用され得る。インキ用樹脂は、上記した脂肪酸変性アルキッド樹脂以外のアルキッド樹脂、オイルフリーポリエステル樹脂、石油樹脂、エポキシ樹脂、ケトン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等である。
【0028】
樹脂の含有量は、所定のインキタックバリューに調整できればよく、特に限定されない。一例を挙げると、樹脂の含有量は金属印刷用インキ組成物中、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。また、樹脂の含有量は、金属印刷用インキ組成物中、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましい。樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、金属印刷用インキ組成物は、転移性、ミスチングといった印刷適性における性能が保持され、塗膜物性にも優れる。樹脂の総量に対する脂肪酸変性アルキッド樹脂の含有量は80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0029】
カーボンブラックのpHは特に限定されないが、pH2.0~6.0がより好ましい。上記範囲内であることにより、脂肪酸変性アルキッド樹脂に対する親和性が高まり、分散性が良好となる。
【0030】
カーボンブラックの一次粒子径は特に限定されないが、15~50nmがより好ましい。粒子径の範囲が上記範囲内であることにより、金属印刷用インキ組成物は、高い漆黒性が得られやすく、適切な流動性を維持できる。
【0031】
カーボンブラックの含有量は、種類や目的によって適宜調整される。一例を挙げると、カーボンブラックの含有量は、金属印刷用インキ組成物中、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましい。また、カーボンブラックの含有量は、金属印刷用インキ組成物中、45質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。顔料の含有量が上記範囲内であることにより、金属印刷用インキ組成物は、分散安定性が優れ、塗膜物性においては、顔料濃度が高いことによる弊害を回避できる。カーボンブラックは、単独または複数併用されてもよい。
【0032】
溶剤は、金属印刷用インキ組成物に用いられる公知の炭化水素系溶剤が好ましく、沸点が200℃~400℃程度の脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、アルキルベンゼンなどの芳香族系炭化水素、高級アルコール等がより好ましい。溶剤は、単独または複数併用されてもよい。
【0033】
溶剤の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、溶剤の含有量は、金属印刷用インキ組成物中、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。また、溶剤の含有量は、金属印刷用インキ組成物中、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。溶剤の含有量が上記範囲内であることにより、金属印刷用インキ組成物は、金属印刷に適したインキタックバリューに調整されやすい。
【0034】
本実施形態の金属印刷用インキ組成物は、上記成分のほか、金属印刷用インキ組成物に通常配合される添加剤が任意成分として配合されてもよい。任意成分は、顔料分散剤、ドライヤー、滑剤、粘度調整剤、保存安定剤等である。また、必要に応じて無機顔料や有機顔料を使用しても良い。
【0035】
本実施形態の金属印刷用インキ組成物の調製方法は特に限定されない。一例を挙げると、金属印刷用インキ組成物は、3本ロールミル、ボールミル、ビーズミル等を用いて常法によって調製され得る。
【0036】
本発明の金属印刷用インキ組成物の印刷方式については、特に制限はなく、シート印刷で用いられる平版オフセット方式や、印刷塗装金属缶の印刷に用いられる樹脂凸版を使用したドライオフセット方式、水なし平版を使用したオフセット方式などの方法の中から適宜選択して用いることができる。
【0037】
本実施形態の印刷塗装金属缶は、金属印刷媒体上に設けられた金属印刷用インキ組成物からなる印刷層と、印刷層上に設けられたオーバープリント用ワニスからなるオーバープリント用ワニス層とを有する。
【0038】
本発明の金属印刷用インキ組成物が印刷される金属印刷媒体は、アルミニウム板、鉄鋼板、これらにポリエステルフィルムなどをラミネート処理した被覆板等が挙げられるが、それらに限定されない。これらの基材は、化成処理、メッキ処理、サイズ塗装やホワイトコーティング、シルバーコーティング等が施されてもよい。
【0039】
印刷層を設ける工程は、樹脂凸版を使用したドライオフセット法、水無し平版を使用したオフセット法から選ばれる1種の方法であることが好ましい。これらの刷版を使用することにより、本発明の金属印刷用インキを用いて印刷した印刷塗装金属缶は、1分間に千数百缶以上の高速印刷であっても、印刷塗装金属缶の曲面に鮮明な文字や画像を形成できる。
【0040】
印刷層の膜厚は特に限定されない。一例を挙げると、印刷層の膜厚は、0.3μm以上であることが好ましく、0.4μm以上であることがより好ましい。また、印刷層の膜厚は、6.0μm以下であることが好ましく、4.0μm以下であることがより好ましい。印刷層の膜厚が上記範囲内であることにより、金属印刷缶の製造方法は、製缶工程において、トラブルを未然に防ぐことができる。
【0041】
オーバープリント用ワニス層を設ける工程は、特に限定されないが、印刷層上にオーバープリント用ワニスをウェットオンウェット法で塗装することが好ましい。
【0042】
オーバープリント用ワニスは特に限定されることなく従来公知のものが使用できる。一例を挙げると、通常金属印刷に用いられるポリエステル・メラミン系、ポリエステル・エポキシ・メラミン系、ポリエステル・アクリル・メラミン系ワニスなどの熱硬化性オーバープリント用ワニスがあげられる。また、水性タイプまたは溶剤タイプのどちらであってもよい。
【0043】
印刷層及びオーバープリント用ワニス層を含む塗装膜の膜厚は特に限定されない。一例を挙げると、塗装膜の膜厚は、3.0μm以上であることが好ましく、6.0μm以上であることがより好ましい。また、塗装膜の膜厚は、30.0μm以下であることが好ましく、20.0μm以下であることがより好ましい。塗装膜の膜厚が上記範囲内であることにより、得られる印刷塗装金属缶は、光沢などの外観が優れ、インキ層の保護を目的とした塗膜物性の優れた塗装膜が得られやすい。
【0044】
塗装膜を焼付け硬化する工程において焼付け条件は特に限定されない。一例を挙げると、焼付け条件は、第一の焼き付けとして180℃~300℃の温度で3秒~90秒程度、第二の焼き付けとして180℃~300℃の温度で30秒~150秒程度加熱硬化させる。ただし、缶種によっては、焼付けが一度であってもよい。これにより、複層塗膜からなる印刷塗装金属缶が製造される。
【実施例0045】
以下に実施例と比較例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものでない。以下、表中の数字は質量基準によるものである。
【0046】
以下の実施例で実施した各種測定の詳細は以下のとおりである。
(重量平均分子量)
重量平均分子量は、(株)島津製作所製のゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography;GPC)で測定し、検出器はRID-10Aを使用した。検量線は標準ポリスチレンサンプルにより作成した。また、溶離液としてテトラヒドロフランを用い、カラムとしてGPC KF-804L(Shodex製)を4本用いた。測定は、流速1.0mL/分、注入量50μL、及びカラム温度40℃の条件下で行った。
(酸価)
酸価は、中和滴定法によって測定した。具体的には、先ず、ポリエステル樹脂1gをキシレン20mLに溶解させた。次いで、先に調製したポリエステル樹脂の溶液に、指示薬として3重量%のフェノールフタレイン溶液を1mL加えた後に0.1mol/Lの水酸化カリウムエタノール溶液で中和滴定を行った。酸価の単位は、mgKOH/gである。
【0047】
以下に示す処方により金属印刷用インキ組成物を作製した。
なお、表1中のPAAは無水フタル酸、PEはペンタエリスリトール、TMPはトリメチロールプロパンである。
【0048】
<脂肪酸変性アルキッド樹脂の合成>
・実施例1
12-ヒドロキシステアリン酸10.5部、ヤシ油脂肪酸24.5部、無水フタル酸35.6部、ペンタエリスリトール18.2部、トリメチロールプロパン18.2部を常法にてエステル化し、脂肪酸含有量35%、酸価4.3mgKOH/g、重量平均分子量7800の脂肪酸変性アルキッド樹脂を得た。なお、脱水量は7.0部であった。
実施例2~12に関しては、実施例1から脂肪酸含有量、12-ヒドロキシステアリン酸の割合を表中に記載の通り変更して常法にてエステル化を行い、記載の脂肪酸変性アルキッド樹脂を得た。
・実施例13
ひまし油脂肪酸17.5部、ヤシ油脂肪酸17.5部、無水フタル酸35.8部、ペンタエリスリトール18.0部、トリメチロールプロパン18.0部を常法にてエステル化し、脂肪酸含有量35%、酸価3.6mgKOH/g、重量平均分子量12100の脂肪酸変性アルキッド樹脂を得た。なお、脱水量は6.8部であった。
実施例14~16に関しては、実施例13から脂肪酸含有量、ひまし油脂肪酸の割合を表中に記載の通り変更して常法にてエステル化を行い、記載の脂肪酸変性アルキッド樹脂を得た。
・実施例17
12-ヒドロキシステアリン酸25.0部、ラウリン酸25.0部、無水フタル酸25.3部、ペンタエリスリトール15.7部、トリメチロールプロパン15.7部を常法にてエステル化し、脂肪酸含有量50%、酸価3.0mgKOH/g、重量平均分子量7600の脂肪酸変性アルキッド樹脂を得た。なお、脱水量は6.7部であった。

・比較例1
12-ヒドロキシステアリン酸8.0部、ヤシ油脂肪酸32.0部、無水フタル酸32.7部、ペンタエリスリトール16.9部、トリメチロールプロパン16.9部を常法にてエステル化し、脂肪酸含有量40%、酸価4.2mgKOH/g、重量平均分子量5200の脂肪酸変性アルキッド樹脂を得た。なお、脱水量は6.5部であった。
比較例2~4に関しては、比較例1から脂肪酸含有量、12-ヒドロキシステアリン酸の割合を表中に記載の通り変更して常法にてエステル化を行い、記載の脂肪酸変性アルキッド樹脂を得た。

・比較例5
ヤシ油脂肪酸40.0部、無水フタル酸31.6部、ペンタエリスリトール17.8部、トリメチロールプロパン17.8部を常法にてエステル化し、脂肪酸含有量40%、酸価4.4mgKOH/g、重量平均分子量4900の脂肪酸変性アルキッド樹脂を得た。なお、脱水量は7.2部であった。
比較例6に関しては、比較例5から脂肪酸含有量の割合を表中に記載の通り変更して常法にてエステル化を行い、記載の脂肪酸変性アルキッド樹脂を得た。
【0049】
<印刷インキ組成物の調整>
得られた脂肪酸変性アルキッド樹脂を用いて、表1、2に示す配合で実施例、比較例の金属印刷用インキを調整した。
カーボンブラック顔料は三菱ケミカル株式会社製MA77を使用した。また、溶剤は新日本石油株式会社製リニアアルキルベンゼンである。添加剤は日本ルーブリゾール株式会社製ソルスパース20000である。
【0050】
実施例1~17および比較例1~6で調製した印刷インキについて、以下に示す方法でテストパネルを作製し、そのテストパネルを用いて、漆黒性、スラーリングを評価した。また、耐ミスチング性についても評価した。
【0051】
<漆黒性>
実施例1~17および比較例1~6で調製した印刷インキについて、高速印刷適性試験機((株)エスエムテー製PM904PT)を使用して、インキ皮膜の厚さが基板上で2μmとなるように均一に試験用ゴムロールに写し、ついでアルミニウム製の板に対して8m/sの印刷速度で転写し、その直後、熱硬化性オーバープリント用ワニスを2m/sの速度で膜厚が13μmとなるように印刷インキ層上に塗装した。その後、200℃にて3分間焼き付けて印刷塗装膜を作製した。この印刷塗装膜について、漆黒性を目視で評価した。
(評価基準)
〇:印刷塗装膜の焼付後の漆黒性が良好な状態。
△:印刷塗装膜の焼付後の漆黒性がやや劣るが、品質上問題にならない状態。
×:印刷塗装膜の焼付後の漆黒性が著しく劣り、商品として使用できない状態。
【0052】
<スラーリング現象>
実施例1~17および比較例1~6で調製した金属印刷用インキについて、高速印刷適性試験機((株)エスエムテー製PM904PT)を使用して、バーコード状の細かいデザインを施した版を用いて、ウェットでのインキ皮膜の厚さが2μmとなるように均一に試験用ゴムロールに写し、ついでアルミニウム製の板を用いて8m/sの印刷速度で転写し、その直後、熱硬化性オーバープリント用ワニスを2m/sの速度でインキ層上に塗装した。その後、200℃にて3分間焼き付けて印刷塗装膜を作製した。この印刷塗装膜について、印刷部の刷り終わり方向に尾を引いたようなヒゲ状のスラーリング現象による汚れの有無を光学顕微鏡で観察することにより評価した。スラーリング現象が少ないほど細かなデザインの再現性に優れる。
(評価基準)
〇:スラーリングが全く存在しない、または僅かに認められる状態。
△:スラーリングが認められるが目視ではほとんど判定できず、品質上問題にならない状態。
×:目視でスラーリングが認められ、商品として使用できない状態。
【0053】
<耐ミスチング性>
調整した金属印刷用インキ2.62ccをインコメーターの回転ローラーに塗布し、均一にならした後、2400rpmで5分間回転させた。この間、ローラー下部に10cm四方の板を置いておき、板上へのインキの飛散量を比較した。ロールの測定温度は40℃に保って行った。
(評価基準)
〇:測定前後の板の質量変化が50mg未満であり、生産に支障がないレベル。
△:測定前後の板の質量変化が50mg以上、100mg未満であり、インキは飛散しているが生産に支障をきたさないレベル。
×:測定前後の板の質量変化が100mg以上であり、生産に支障をきたすレベル。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
実施例、比較例の処方設計は下記の通りである。
(I)表1(実施例1~17)
・多塩基酸と多価アルコールと脂肪酸成分との縮合重合物である脂肪酸変性アルキッド樹脂、カーボンブラック、及び溶剤を含有し、脂肪酸変性アルキッド樹脂全量に含まれる脂肪酸成分が、
(1)水酸基を有する脂肪酸又は油(A)を脂肪酸成分の全質量を基準として25~75質量%含有する。
(2)ヨウ素価が100以下である脂肪酸または油(B)(ただし上記(A)である場合を除く)を含有する。
(II)表2(比較例1~4)
・実施例の組成物との相違点として、水酸基を有する脂肪酸又は油(A)が脂肪酸成分の全質量を基準として25~75質量%の範囲でない。
(III)表2(比較例5、6)
・実施例の組成物との相違点として、水酸基を有する脂肪酸又は油のいずれも含有していない。
【0057】
表1及び2に示されるように、本発明の実施例に記載の金属印刷用インキ組成物を用いた場合、比較例の金属印刷用インキ組成物を用いた場合と比べて、高い漆黒性を有し、スラーリング現象の抑制に優れ、且つ、ミスチングが実用レベルであり、印刷適性に優れた金属印刷用インキ組成物を得ることができることが分かった。
【手続補正書】
【提出日】2023-03-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多塩基酸と多価アルコールと脂肪酸成分との縮合重合物である脂肪酸変性アルキッド樹脂、カーボンブラック、及び溶剤を含有し、前記脂肪酸変性アルキッド樹脂が下記(1)及び(2)を満たすことを特徴とする金属印刷用インキ組成物。
(1)脂肪酸変性アルキッド樹脂全量に含まれる脂肪酸成分が、水酸基を有する脂肪酸又は油(A)を前記脂肪酸成分の全質量を基準として25~75質量%含有する。
(2)脂肪酸変性アルキッド樹脂全量に含まれる脂肪酸成分が、ヨウ素価が100以下である脂肪酸又は油(B)(ただし上記(A)である場合を除く)を前記脂肪酸成分の全質量を基準として25~75質量%含有し、
前記ヨウ素価が100以下である脂肪酸又は油(B)が、ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸、パーム核油、オリーブ油、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及びオレイン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。
【請求項2】
前記脂肪酸変性アルキッド樹脂が、脂肪酸変性アルキッド樹脂の全質量を基準として脂肪酸成分を35~65質量%含有する請求項1に記載の金属印刷用インキ組成物。
【請求項3】
金属印刷媒体上に設けられた請求項1又は2に記載の金属印刷用インキ組成物からなる印刷層と、印刷層上に設けられたオーバープリント用ワニスからなるオーバープリント用ワニス層とを有する印刷塗装金属缶。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
すなわち、本発明は、多塩基酸と多価アルコールと脂肪酸成分との縮合重合物である脂肪酸変性アルキッド樹脂、カーボンブラック、及び溶剤を含有し、前記脂肪酸変性アルキッド樹脂が下記(1)及び(2)を満たすことを特徴とする金属印刷用インキ組成物に関する。
(1)脂肪酸変性アルキッド樹脂全量に含まれる脂肪酸成分が、水酸基を有する脂肪酸又は油(A)を前記脂肪酸成分の全質量を基準として25~75質量%含有する。
(2)脂肪酸変性アルキッド樹脂全量に含まれる脂肪酸成分が、ヨウ素価が100以下である脂肪酸又は油(B)(ただし上記(A)である場合を除く)を前記脂肪酸成分の全質量を基準として25~75質量%含有し、
前記ヨウ素価が100以下である脂肪酸又は油(B)が、ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸、パーム核油、オリーブ油、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及びオレイン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む