(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077910
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】火災報知システム
(51)【国際特許分類】
G08B 27/00 20060101AFI20240603BHJP
G08B 17/00 20060101ALI20240603BHJP
G08B 5/00 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
G08B27/00 A
G08B17/00 F
G08B5/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190144
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000111074
【氏名又は名称】ニッタン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】門脇 督
(72)【発明者】
【氏名】山納 正人
【テーマコード(参考)】
5C083
5C087
5G405
【Fターム(参考)】
5C083CC25
5C083DD16
5C083JJ30
5C083JJ34
5C087AA11
5C087AA23
5C087DD04
5C087EE02
5C087EE05
5C087FF01
5C087FF02
5C087GG08
5C087GG09
5C087GG68
5C087GG82
5G405AA08
5G405CA28
5G405FA03
(57)【要約】
【課題】火災の発生場所に応じて最も安全な避難方向を火災感知器にて表示することができる火災報知システムを提供する。
【解決手段】表示手段を有する複数の火災感知器と記憶部および制御部を有する受信機とを備えた火災報知システムにおいて、前記制御部は複数の火災感知器のうちいずれか一の火災感知器から検出情報信号または火災検知信号を受信すると、一の火災感知器以外であって通路に沿って配設された複数の火災感知器のそれぞれについて、火災を検知した火災感知器との位置関係、避難口との位置関係、設置されている通路の延設方向、に基づいて避難方向をそれぞれ決定し、表示手段に表示する避難方向に関する情報信号を対応する火災感知器へ送信し、通路に沿って配設された複数の火災感知器は、制御部から情報信号を受信すると当該火災感知器が備える表示手段に受信した情報信号に基づいて避難方向を示す情報を表示するようにした。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示手段を有し建物または施設の区画内および通路に沿って配設された複数の火災感知器と、
前記複数の火災感知器が設置されている通路および避難口を含む内部構造情報および当該建物または施設における前記複数の火災感知器の設置位置情報が階別に記憶されている記憶部および制御部を有する受信機と、
を備えた火災報知システムであって、
前記制御部は、
前記複数の火災感知器のうちいずれか一の火災感知器から検出情報信号または火災検知信号を受信すると、
前記一の火災感知器以外であって前記通路に沿って配設された複数の火災感知器のそれぞれについて、当該火災感知器と火災を検知した火災感知器との位置関係、当該火災感知器と前記避難口との位置関係、当該火災感知器が設置されている通路の延設方向、に基づいて火災感知器の設置位置における避難方向をそれぞれ決定し、前記表示手段に表示する避難方向に関する情報信号を、対応する火災感知器へ送信し、
前記通路に沿って配設された複数の火災感知器は、前記制御部から前記情報信号を受信すると、当該火災感知器が備える前記表示手段に、受信した前記情報信号に基づいて避難方向を示す情報を表示する
ことを特徴とした火災報知システム。
【請求項2】
前記記憶部は、
前記通路に沿って配設された複数の火災感知器それぞれについて、前記内部構造情報および前記設置位置情報から定まる他の火災感知器への方向を示す第1の方向ベクトル、当該火災感知器が設置されている通路の延設方向を示す第2の方向ベクトル、前記避難口への第3の方向ベクトルを記憶し、
前記制御部は、
前記他の火災感知器のそれぞれについて、当該他の火災感知器から前記火災を検知した火災感知器への前記第1の方向ベクトルと前記第2の方向ベクトルとの内積が最大となる前記第2の方向ベクトル以外の前記第2の方向ベクトルを特定し、当該特定された第2の方向ベクトルと前記第3の方向ベクトルとの内積が最大となる前記第2の方向ベクトルを前記情報信号として、対応する火災感知器へ送信する
ことを特徴とした請求項1に記載の火災報知システム。
【請求項3】
前記表示手段は、前記避難方向を示す情報を矢印として表示することを特徴とした請求項2に記載の火災報知システム。
【請求項4】
前記表示手段は、前記火災感知器が天井に設置された状態で、当該火災感知器の筐体の表面の視認可能となる部位に配置された複数の発光手段により構成されていることを特徴とした請求項1乃至3のいずれか1項に記載の火災報知システム。
【請求項5】
前記制御部は、
火災を検知した前記一の火災感知器に対して、作動灯として当該一の火災感知器が備える前記表示手段を構成する前記発光手段をすべて点灯させる情報信号を送信することを特徴とした請求項4に記載の火災報知システム。
【請求項6】
前記表示手段は、前記火災感知器が天井に設置された状態で、当該火災感知器の筐体の表面の視認可能となる部位に配置された液晶パネルまたは有機ELパネルであることを特徴とした請求項1乃至3のいずれか1項に記載の火災報知システム。
【請求項7】
前記制御部は、
火災を検知した前記一の火災感知器に対して、作動灯として当該一の火災感知器が備える前記表示手段を構成する前記液晶パネルまたは有機ELパネルを全面点灯させる情報信号を送信することを特徴とした請求項6に記載の火災報知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災感知器を備えた火災報知システムに関し、特に建物や地下街等の施設内において火災が発生した場合に避難方向を表示して避難の支援を行う機能を有する火災報知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ビル等の建物ビルや地下街等の施設で火災等の災害が発生して内部の人が避難する際に、火災が発生した位置や避難口(非常口)の位置等の詳しい情報が分からないまま避難を開始することが多い。そのため、建物や施設内に複数の避難口がある場合に、火災から離れた避難口を選択するなどの適切な判断ができないことがある。
【0003】
従来、火災発生時の避難誘導に関しては、例えば複数の閃光装置を建物や施設の通路に沿って並べて配設しておいて、閃光装置を順次閃光駆動させる制御を繰り返すことで避難方向を表示できるようにした避難誘導システムに関する発明がある(特許文献1)。
また、火災の発生を報知する光警報表示部と互いに異なる避難誘導方向を示す複数の方向表示マーク(矢印)とを有する避難誘導方向表示部を備えた光警報装置を壁面上部や天井面に設置しておいて、火災信号を受信した場合に、複数の方向表示マークのいずれか一つを表示制御するようにした発明が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-109388号公報
【特許文献2】特開2016-200847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている避難誘導システムにおいては、通路に沿って配設された閃光装置の順次閃光により避難者に避難方向および経路を示すことができるものの、比較的フロア面積の大きなビルや施設内で避難者に避難方向を認識させるには、相当数の閃光装置を設置する必要があるため、大規模な工事が必要となりコストが嵩む。また、平常時においては、避難誘導用の閃光装置が建物の内部装飾と調和がとれず、美観を低下させるおそれがあるという課題がある。
【0006】
一方、特許文献2に記載されている光警報装置は、避難誘導方向表示部によって避難方向を表示させることができるものの、表示する矢印の向きは光警報装置ごとにロータリースイッチ等の選択部により選択設定するものである。そのため、1つのフロアに非常口が1箇所であるような小さなビル等には有効であるが、複数の非常口がある大型のビルや施設において、火災の発生場所に応じて最も安全な避難方向を表示するようなことができないという課題がある。
【0007】
本発明は上記のような課題に着目してなされたものでその目的とするところは、火災の発生場所に応じて最も安全な避難方向を火災感知器の表面部にて表示することができる火災報知システムを提供することにある。
本発明の他の目的は、大規模な工事が不要であり大幅なコストアップを回避できるととともに、建物内部の美観を低下させることなく、火災発生時には避難方向を火災感知器の表面部にて表示することができる火災報知システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は、
表示手段を有し建物または施設の区画内および通路に沿って配設された複数の火災感知器と、前記複数の火災感知器が設置されている通路および避難口を含む内部構造情報および当該建物または施設における前記複数の火災感知器の設置位置情報が階別に記憶されている記憶部および制御部を有する受信機と、を備えた火災報知システムにおいて、
前記制御部は、
前記複数の火災感知器のうちいずれか一の火災感知器から検出情報信号または火災検知信号を受信すると、
前記一の火災感知器以外であって前記通路に沿って配設された複数の火災感知器のそれぞれについて、当該火災感知器と火災を検知した火災感知器との位置関係、当該火災感知器と前記避難口との位置関係、当該火災感知器が設置されている通路の延設方向、に基づいて火災感知器の設置位置における避難方向をそれぞれ決定し、前記表示手段に表示する避難方向に関する情報信号を、対応する火災感知器へ送信し、
前記通路に沿って配設された複数の火災感知器は、前記制御部から前記情報信号を受信すると、当該火災感知器が備える前記表示手段に、受信した前記情報信号に基づいて避難方向を示す情報を表示するように構成したものである。
【0009】
上記のような構成を有する火災報知システムによれば、火災の発生場所に応じて最も安全な避難方向を通路に沿って配設された火災感知器にて表示することができる。また、避難方向を火災感知器にて表示するため、大規模な工事が不要であり大幅なコストアップを回避できるととともに、建物の内部装飾の美観を低下させることなく、火災発生時に避難方向を火災感知器にて表示することができる。
【0010】
ここで、望ましくは、
前記記憶部は、
前記通路に沿って配設された複数の火災感知器それぞれについて、前記内部構造情報および前記設置位置情報から定まる他の火災感知器への方向を示す第1の方向ベクトル、当該火災感知器が設置されている通路の延設方向を示す第2の方向ベクトル、前記避難口への第3の方向ベクトルを記憶し、
前記制御部は、
前記他の火災感知器のそれぞれについて、当該他の火災感知器から前記火災を検知した火災感知器への前記第1の方向ベクトルと前記第2の方向ベクトルとの内積が最大となる前記第2の方向ベクトル以外の前記第2の方向ベクトルを特定し、当該特定された第2の方向ベクトルと前記第3の方向ベクトルとの内積が最大となる前記第2の方向ベクトルを前記情報信号として、対応する火災感知器へ送信するように構成する。
かかる構成によれば、ベクトル演算によって各火災感知器の表示手段において表示する避難方向を比較的簡単に決定することができる。
【0011】
また、望ましくは、前記表示手段は、前記避難方向を示す情報を矢印として表示するように構成する。
かかる構成によれば、避難方向が矢印で表示されるため、避難者は容易かつ直感的に避難方向を認識することができる。
【0012】
さらに、望ましくは、前記表示手段は、前記火災感知器が天井に設置された状態で、当該火災感知器の筐体の表面の視認可能となる部位に配置された複数の発光手段により構成されているようにする。
あるいは、前記表示手段は、前記火災感知器が天井に設置された状態で、当該火災感知器の筐体の表面の視認可能となる部位に配置された液晶パネルまたは有機ELパネルにより構成する。
上記のような構成によれば、既存の火災感知器の筐体を大型化したり大幅に設計変更したりすることなく、避難方向を表示する表示手段を火災感知器に設けることができる。
【0013】
さらに、望ましくは、前記制御部は、火災を検知した前記一の火災感知器に対して、作動灯として当該一の火災感知器が備える前記表示手段を構成する前記発光手段を全て点灯させる情報信号を送信するように構成する。
あるいは、前記制御部は、火災を検知した前記一の火災感知器に対して、作動灯として当該一の火災感知器が備える前記表示手段を構成する前記液晶パネルまたは有機ELパネルを全点灯させる情報信号を送信するように構成する。
上記のような構成によれば、避難方向を表示する表示手段と別個に作動灯を火災感知器に設ける必要がなく、コストアップを抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る火災報知システムによれば、火災の発生場所に応じて最も安全な避難方向を火災感知器の表面部にて表示することができる。また、大規模な工事が不要であり大幅なコストアップを回避できるととともに、建物内部の美観を低下させることなく、火災発生時には避難方向を火災感知器の表面部にて表示することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の火災報知システムを構成する火災感知器の一例を示す斜視図である。
【
図2】(A)(B)は、実施形態の火災報知システムを構成する火災感知器に設けられる避難方向表示手段の実施例を示す平面図である。
【
図3】(A)~(D)は
図2の避難方向表示手段による避難方向の表示例を示す図である。
【
図4】1フロア内における火災の発生位置と通路に配設されている複数の火災感知器の避難方向表示手段による避難方向の表示例を示す図である。
【
図5】本発明の火災報知システムを構成する火災受信機の記憶部に記憶されるフロア情報テーブルの一例を示す図である。
【
図6】ある火災感知器に着目して、火災発生を検知した感知器への方向ベクトル、非常口への方向ベクトル、設置位置における廊下の方向ベクトルの例を示した図である。
【
図7】(A)はある火災感知器に着目して内積1を算出する方向ベクトルを示した図、(B)は内積2を算出する方向ベクトルを示した図である。
【
図8】本発明の火災報知システムを構成する火災受信機における火災発生検出時における避難方向に関する情報処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図9】(A)~(D)は火災感知器に設けられる他の避難方向表示手段の実施例および避難方向の表示例を示す図である。
【
図10】火災感知器に設けられるさらに他の避難方向表示手段の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明に係る火災報知システムの一実施形態について説明する。図示しないが、本実施形態の火災報知システムは、ビル等の建物や施設の所定エリア内に所定の間隔をおいて設置されている複数の火災感知器と、感知器回線を介して火災感知器からの火災検知信号を受信する火災受信機を備えて構成されている。
また、火災感知器は、例えば熱、煙、炎などの火災に伴う物理量の検出情報あるいはこれらの物理量が所定値を超えた場合に生成する火災検知信号(発報情報)を、感知器回線を介して火災受信機へ送信する機能を有する回路基板を内蔵している。
さらに、火災感知器は、後述するフロアマップ情報または設置されている位置にて廊下が延びる方向への方向ベクトルと、方向ベクトルごとに発光させるべき表示手段との関係を記憶する記憶手段を有している。
【0017】
本実施形態の火災報知システムを構成する火災感知器10は、
図1に示すように、回路基板等を収納するドーム状の本体ケース11と、複数の開口12aを有し該開口12aの奥部に火災検知素子が臨むように配設されているヘッド部12と、を備えている。
また、火災感知器10は、
図1において、感知器の側面となる部位以外の表面すなわち本体ケース11の上面11Aおよびヘッド部12の上面12Aを利用して、少なくとも互いに直交する4つの方向を向く矢印を、内蔵したLED(発光ダイオード)のような発光素子の点灯により表示可能に構成される。そして、これらの矢印表示が避難方向表示手段として機能する。
【0018】
図1においては、本体ケース11の上面11Aが湾曲しているが、平坦な面(傾斜した面を含む)を有するように本体ケース11が形成されていても良い。また、
図1においては、ヘッド部12の上面12Aが平坦であるが、湾曲した面であっても良い。ただし、印を表示する手段としてシート状の液晶パネルを使用することができ、その場合には、面11Aと面12Aのいずれも平坦な面であるのが望ましい。
なお、火災感知器10は、火災検出信号に自己の通信アドレスを付加するタイプの感知器が望ましい。火災受信機は、自身の記憶装置に記憶されている情報(感知器のアドレスと設置位置との対応を示すテーブル等)を参照して、受信した信号に含まれている火災感知器の通信アドレスに基づいて火災の発生場所を特定する機能を有するように構成される。
【0019】
火災受信機は、監視対象となる建築物の防災センターや管理室に設置され、各所に設置された火災感知器からの検出情報信号あるいは火災検知信号を受信し火災発生の判断もしくは火災感知器の作動検知(火災検知)を集中的に行い、火災発生時には火災受信機自身及び各地区のベル等の音響装置を鳴動させて火災警報出力を行う機能、地区ベル鳴動や排煙などの連動制御を行う機能、および火災の発生場所を表示部に表示する機能を有する。
さらに、本実施形態の火災報知システムを構成する火災受信機は、火災感知器に設けられている避難方向表示手段の表示に関する情報を火災感知器へ送信する機能を有するように構成される。
【0020】
なお、火災受信機は、火災感知器10からの検出情報信号または火災検知信号を受信したり火災感知器へ情報信号を送信したりする信号送受信部、CPU(中央処理ユニット)などからなる演算機能を備えた制御部、CPUが実行するプログラムやフロア図等のマップ情報、火災感知器の設置位置情報、ベクトル内積値を算出するための計算式などを記憶する記憶部、各種指令の入力部、情報表示部、音声を出力可能なスピーカ、電源電圧を供給する電源部などを備えている。火災感知器の設置位置情報は、火災感知器に付与された火災受信機との通信のためのアドレス情報に対応付けられて記憶部に記憶される。
【0021】
図2には、火災感知器10に設けられる避難方向表示手段の構成例が示されている。
このうち
図2(A)は複数のバー状の表示用セグメントSGが矢印を形成するように並べて配設されたもの、
図2(B)は複数のドット状の表示用セグメントが矢印を形成するように並べて配設されたものである。なお、ヘッド部12の開口12aを分離する支柱12bの表面にも、表示用セグメントSGを設けるようにしても良い。要するに、火災感知器が天井に設置された状態で視認可能な筐体表面の部位に設けられていれば良い。
【0022】
上記各表示用セグメントSGは透明な導光部材もしくは半透明の部材で形成し、背部にそれぞれLEDを配設して、表示したい矢印を構成するセグメントに対応するLEDを点灯させることで方向表示を行う。矢印を表わすセグメントの点灯は、当該矢印を表示する複数のセグメントを同時に点灯させても良いし、矢印の後端側から先頭に向かって順次点灯を繰り返すようにしても良い。
【0023】
図3(A)~(D)には、上記のように構成された避難方向表示手段を備えた火災感知器による避難方向の表示例が示されている。このうち(A)と(C)は直線通路(廊下)の途中に配設された火災感知器において表示される避難方向表示の例を、(B)と(D)は通路(廊下)の曲がり角に配設された火災感知器において表示される避難方向表示の例(L字矢印)をそれぞれ示している。
また、
図4には、1つのフロアにおいて複数の火災感知器の避難方向表示手段を使用して避難誘導する場合における避難誘導表示例が示されている。
【0024】
図4においては、左上の部屋にて火災が発生しており、右下に避難口としての非常口がある場合の例を示している。
図4に示されているように、廊下に配設されている各火災感知器10においては、火災発生位置FPから遠ざかり非常口EXTへ向かう方向を示す矢印が表示される。火災発生位置によっては、避難口としての階段ST1またはST2へ向かう方向を示す矢印が表示される場合もある。また、
図4においては、非常口EXTへ向かう最短の経路が避難経路として選択され、それに沿って矢印が示されているが、火災発生位置によっては、遠回りする経路に沿うように矢印が表示されることもある。
なお、
図4においては、廊下の角では方向を変えるように折れ曲がる矢印を表示する例が示されているが、避難の方向を示せば十分であるとの考え方から、表示を行う火災感知器すべてにおいて直線状の矢印を表示するようにしてもよい。
【0025】
本実施形態の火災報知システムにおいては、火災発生位置の部屋に配設されている火災感知器からの検出情報に基づいて火災受信機が火災発生と判断すると、火災受信機が自己の記憶装置に記憶されているエリア(フロア)のマップを参照して、最も安全な非常口を選択し、当該エリア(フロア)の廊下に配設されている各火災感知器へ、避難方向表示手段において表示する矢印の向きに関する情報を送信する。
【0026】
上記のような処理を可能にするため、火災受信機の記憶装置には、
図5に示すように、フロアマップ上における非常口の位置や監視エリア内の各火災感知器の設置位置、廊下の方向ベクトル(廊下が延びる方向と長さ)を記載したフロア情報が記憶されている。なお、このフロア情報は階別に定義され記憶されている。ここで、廊下の方向ベクトルの欄が複数あるのは、L字に交わる廊下の角に設置されている火災感知器と、T字路に設置されている火災感知器と、十字路に設置されている火災感知器等があるためである。
なお、非常口の位置や各火災感知器の設置位置は、例えば
図6に示すように、フロアに応じて座標系(x-y座標)を設定し、該座標系における座標値で表わすことができる。
【0027】
さらに、
図5に示すフロア情報は、システムの設置工事時において、システムの管理者による各種設定作業の一環において設定入力されるものとし、入力終了後に各火災感知器に送信され、火災感知器が有する記憶手段に記憶されるものとする。
あるいは、フロア情報のすべてに代え、各火災感知器について、設置されている位置にて廊下が延びる方向への方向ベクトルと、方向ベクトルごとに発光させるべき表示手段との関係を示す情報を送信して記憶してもよい。
【0028】
また、火災受信機が表示を指示した矢印の向きと指示を受けた各火災感知器において表示する矢印のマップ上における向きとを一致させるため、各火災感知器は壁面や天井面に設置される際に、例えば本体ケースに付けた目印が必ず所定の方向(例えば北)を向くように設置されるようにする。ただし、設置作業を簡単にするとともに向きが誤った設置を回避するため、各火災感知器に地磁気センサーを設けるなどして、各火災感知器が自己の向きを認識できるようにした上で、その向きを受信機に送信するように構成しても良い。あるいは、
図6に示すように、建物のフロア形状に合わせてx-y座標を設定し、設定された座標系において、x軸やy軸を用いて定義された方向に印が向くように各火災感知器が設置されるようにしても良い。
【0029】
次に、各火災感知器(以下、感知器と略す)の避難方向表示手段における表示する矢印の向きの決定の仕方ついて、
図6~
図7を用いて説明する。なお、以下の説明においては、着目する感知器から火災を検知した感知器への方向ベクトル(方向と距離)をA、着目する感知器が設置されている位置から非常口(又は階段)への方向ベクトルをB、着目する感知器が設置されている位置にて廊下が延びる方向への方向ベクトルをCとする。
【0030】
先ず、
図6に示すように、着目する感知器について、火元の方向ベクトルA、廊下の方向ベクトルCおよび非常口への方向ベクトルBを特定する(第1ステップ)。なお、廊下の方向ベクトルCは、感知器の設置個所が十字路なら4個、T字路なら3個、直線廊下なら2個となる。次に、
図7(A)に示すように、注目する感知器から火災を検知した感知器への方向ベクトルAと複数の廊下の方向ベクトルC(ここではC1~C3)との内積を求め、内積値が最大となる方向ベクトルCiを特定する(第2ステップ)。因みに、このベクトルが火元に接近する廊下の方向を示している。
図7(A)においては、ベクトルC1~C3のうちC3がこのベクトルに相当する。
【0031】
続いて、特定した方向ベクトルC(C3)を除いた他の方向ベクトルC(C1,C2)と、注目する感知器から複数の非常口(又は階段)への方向ベクトルB(B1~B3)との内積をそれぞれ求め、その内積値の中で最大となる方向ベクトルCを特定する(第3ステップ)。
図6(B)においては、ベクトルC1とベクトルB1,B2,B3との内積およびベクトルC2とベクトルB1,B2,B3との内積を求めることとなる。この第3ステップで特定されたベクトルが火元から最も直接的に離れた非常口に向かう廊下の方向を示している。
図6(B)においては、ベクトルB1がこのベクトルに相当する。なお、ベクトルC1とB3との内積は負となるので、絶対値が大きくても最大のベクトルにはならない。
その後、第3ステップで特定された方向ベクトルCの向きを表わすように、当該感知器の避難方向表示手段において表示する矢印の向きを決定する(第4ステップ)。そして、上記処理を着目するフロアの廊下に設置されているすべての感知器について実行する。
【0032】
なお、例外的な処理として、第3ステップで算出した方向ベクトルCと方向ベクトルBとの内積が全て負になったら、非常口へ直接接近できる廊下の方向がないことを意味するので、火元へ向かう方向ベクトルAの反対方向、表示する矢印の向きとして採用する。また、第2ステップで算出した方向ベクトルAと方向ベクトルCとの内積が全て0になったら、廊下が延びる方向とは直交する方向に火元があることを意味するので、複数の非常口(又は階段)のうち最も近い非常口(又は階段)へ向かう方向を、表示する矢印の向きとして採用する。
【0033】
次に、火災の発生を検知した感知器から検出情報を受信した火災受信機(以下、受信機)における情報処理の具体的な手順の一例を、
図8のフローチャートを用いて説明する。
受信機は、
図8のフローチャートの処理を開始すると、先ず監視エリア内の各感知器から検出情報(温度、煙濃度等)を受信し(ステップS1)、温度や煙濃度等が予め設定されしきい値を超えている感知器があるか否か判定する(ステップS2)。そして、しきい値を超えている感知器がある(Yes)と判定すると、ステップS3へ進み、非常ベルを鳴らすなどして火災の発生を報知する発報処理を行う。
【0034】
次に、火災の発生を検知した感知器Xの設置位置情報を記憶装置より読み出して火元の位置を認識する(ステップS4)。続いて、感知器X以外の感知器Yについて、設置位置座標、廊下の方向ベクトルC、非常口の存在位置座標をフロア情報テーブル(
図5)から読み出し(ステップS5)、感知器Yから感知器Xへの方向ベクトルAを算出する(ステップS6)。
その後、ステップS5で読み出した感知器Yの複数の方向ベクトルCのそれぞれについて、感知器Yの方向ベクトルCとステップS6で算出した方向ベクトルAとの内積1を算出する(ステップS7)。そして、算出された内積1のうち最大のものを特定する(ステップS8)。続いて、ステップS5で読み出した座標値を用いて、感知器Yから非常口(又は階段)への方向ベクトルBを算出する(ステップS9)。
【0035】
次に、ステップS8で最大と判断された内積1の方向ベクトルC以外の方向ベクトルCについて、ステップS9で算出した方向ベクトルBと方向ベクトルCとの内積2を算出する(ステップS10)。その後、ステップS10で算出された内積2のうち最大のものを特定し、特定した内積2の方向ベクトルCを感知器Yにそれぞれ送信する(ステップS11)。なお、
図8のフローチャートでは、ステップS11で感知器Yへ方向ベクトルCを送信しているが、方向ベクトルCに基づいて対応する感知器Yの避難方向表示手段において表示すべき矢印の向きを受信機の側で判断して、矢印の向きを示す情報を感知器Yへ送信するようにしても良い。このようにすることで、感知器の側においてフロアマップに関する情報を保持する必要がなくなる。
【0036】
図9には、火災感知器に設ける避難方向表示手段の他の実施例が示されている。
図9に示す避難方向表示手段は、感知器10の本体ケース11表面の直交する4箇所に、円弧状をなす発光部(LED)L1,L2,L3,L4をそれぞれ設け、
図9(A)~(D)に示すように、いずれか1つの発光部を発光させることで避難方向を表示するようにしたものである。
円弧状をなす発光部を設ける代わりに、
図10に示すように、三角形をなす4個の発光部L1,L2,L3,L4を、それぞれ頂点が上、左、右、下を向くように配置して設けるようにしても良い。また、4個の発光部を本体ケース11の代わりにヘッド部12に設けても良い。さらに、発光部の数を増やして、直交4方向以外の方向も表示できるように構成しても良い。
【0037】
以上説明したように、上記実施形態によれば、各感知器に設けられている避難方向表示手段に避難方向を示す矢印が表示されるため、表示された矢印を見た避難者は、容易かつ直感的に避難方向を知ることができ、速やかに非常口に到達して避難することができる。また、感知器により避難方向を表示するため、避難方向を表示するための多数のランプや表示装置を感知器とは別に設ける必要がないので、大規模な工事が不要であり大幅なコストアップを回避できるととともに、建物の内部装飾の美観を低下させることなく、火災発生時に避難方向を表示することができる。
【0038】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記実施形態では、火災感知器に設けた避難方向表示手段に避難方向を示す矢印を表示させる場合について説明したが、現在の火災感知器は、火災を検出した場合には「自分が検出した」ことを示すための「作動灯」を備え、火災を検出した際には作動灯を点灯することが求められている。そこで、火災を検出した際には、避難方向表示手段の全セグメントあるいは矢印の先端の「ハの字部分」以外のセグメントを点灯させるようにしても良い。また、避難方向表示手段を液晶パネルで構成した場合には、液晶パネルを全面的に発光させるようにしても良い。さらに、上記実施形態の避難方向表示手段と共に作動灯を感知器に設けるようにしてもよいことは言うまでもない。
【0039】
また、避難方向表示手段はLEDや液晶パネルの他、有機ELパネルでも実現できる。この場合、有機ELパネルの利点である曲面での表示が可能となるので、
図1を用いて説明したように、本体ケース11の上面11Aとヘッド部12の上面12Aを曲面にすることができる。そして、このようにすると、火災感知器10の意匠について設計の自由度が増すため、美観に配慮しつつ本発明にかかる火災報知システムを構築することができる。
【符号の説明】
【0040】
10 火災感知器(感知器)
11 本体ケース(筐体)
12 ヘッド部(筐体)
12a 開口
12b 支柱
SG セグメント
L1,L2,L3,L4 発光部