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特開2024-77937船舶の方位表示方法および装置、船舶、並びにプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077937
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】船舶の方位表示方法および装置、船舶、並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
   B63B 49/00 20060101AFI20240603BHJP
【FI】
B63B49/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190187
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】安間 寛文
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 秀紀
(72)【発明者】
【氏名】岡本 順敬
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英吉
(57)【要約】
【課題】船舶の実方位の誤認を抑制する。
【解決手段】CPU21は、船舶の速度Vおよび方位を取得し、速度Vおよび方位に基づいて表示部25にマークMを表示させる。その際、CPU21は、速度Vが第1の所定速度TH1を超える場合は、船舶6の方位を判別可能にマークMを表示させ、速度Vが第1の所定速度TH1を超えない場合は、船舶6の方位を判別不能に、マークMを表示させる。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の速度および方位を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにより取得された前記速度および前記方位に基づいて表示部にマークを表示させる制御ステップと、をコンピュータに実行させ、
前記制御ステップは、前記速度が第1の所定速度を超える場合は、前記船舶の方位を判別可能に前記マークを表示させ、前記速度が前記第1の所定速度を超えない場合は、前記船舶の方位を判別不能に前記マークを表示させる、船舶の方位表示方法。
【請求項2】
前記制御ステップは、前記速度が前記第1の所定速度を超える場合は、前記速度に応じて前記マークの表示態様を変化させる、請求項1に記載の船舶の方位表示方法。
【請求項3】
前記制御ステップは、前記速度が前記第1の所定速度を超え前記第1の所定速度より速い第2の所定速度を超えない場合と比べて、前記速度が前記第2の所定速度を超える場合に、前記船舶の方位をより明確に判別容易に前記マークを表示させる、請求項2に記載の船舶の方位表示方法。
【請求項4】
前記取得ステップは、さらに、前記船舶を推進する推進機の動作状態を取得し、
前記制御ステップは、前記推進機の動作状態が、前記推進機の停止を示す場合は、前記速度にかかわらず、前記船舶の方位を判別不能に前記マークを表示させる、請求項1に記載の船舶の方位表示方法。
【請求項5】
前記取得ステップは、陸または障害物と前記船舶との距離を取得し、
前記制御ステップは、前記第1の所定速度を、取得された前記距離に応じて設定する、請求項1に記載の船舶の方位表示方法。
【請求項6】
前記取得ステップは、陸または障害物と前記船舶との距離を取得し、
前記制御ステップは、前記第1の所定速度および前記第2の所定速度を、取得された前記距離に応じて設定する、請求項3に記載の船舶の方位表示方法。
【請求項7】
前記制御ステップは、測位情報の受信状態が悪いと判定されたこと、前記船舶を推進する推進機のシフト機構のシフト位置が中立位置または後進位置であること、または、低速走行を示す走行モードが設定されていること、という条件のうち少なくとも1つが満たされる場合は、前記速度にかかわらず、前記船舶の方位を判別不能に前記マークを表示させる、請求項1に記載の船舶の方位表示方法。
【請求項8】
前記取得ステップは、前記船舶を推進する推進機の動作回転数を取得し、
前記制御ステップは、取得された前記動作回転数が第1の所定回転数以下で且つ、前記速度が第3の所定速度以上である場合は、前記速度にかかわらず、前記船舶の方位を判別不能に前記マークを表示させる、請求項1に記載の船舶の方位表示方法。
【請求項9】
前記取得ステップは、前記船舶を推進する推進機の動作回転数を取得し、
前記制御ステップは、取得された前記動作回転数が第2の所定回転数以上で且つ、前記速度が第4の所定速度以下である場合は、前記速度にかかわらず、前記船舶の方位を判別不能に前記マークを表示させる、請求項1に記載の船舶の方位表示方法。
【請求項10】
前記取得ステップは、前記船舶を推進する推進機の動作回転数または受信された測位情報の少なくとも一方に基づいて前記速度を取得する、請求項1に記載の船舶の方位表示方法。
【請求項11】
表示部と、
船舶の速度および方位を取得する取得部と、
前記取得部により取得された前記速度および前記方位に基づいて前記表示部にマークを表示させる制御部と、を有し、
前記制御部は、前記速度が第1の所定速度を超える場合は、前記船舶の方位を判別可能に前記マークを表示させ、前記速度が前記第1の所定速度を超えない場合は、前記船舶の方位を判別不能に前記マークを表示させる、船舶。
【請求項12】
表示部と、
船舶の速度および方位を取得する取得部と、
前記取得部により取得された前記速度および前記方位に基づいて前記表示部にマークを表示させる制御部と、を有し、
前記制御部は、前記速度が第1の所定速度を超える場合は、前記船舶の方位を判別可能に前記マークを表示させ、前記速度が前記第1の所定速度を超えない場合は、前記船舶の方位を判別不能に前記マークを表示させる、船舶の方位表示装置。
【請求項13】
船舶の速度および方位を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにより取得された前記速度および前記方位に基づいて表示部にマークを表示させる制御ステップと、をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記制御ステップは、前記速度が第1の所定速度を超える場合は、前記船舶の方位を判別可能に前記マークを表示させ、前記速度が前記第1の所定速度を超えない場合は、前記船舶の方位を判別不能に前記マークを表示させる、プログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の方位表示方法および装置、船舶、並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶において、船の方位を示すマークを表示部に表示させるものが知られている(特許文献1)。一方、車両の分野では、位置および方位を計測し、これらの測位精度に応じたマークを表示させる技術も知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-183160号公報
【特許文献2】特開平5-113342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、検出される方位の精度が船速によって異なる。例えば、車両とは異なり、船舶においては、風や潮流の影響によって実際の方位が変化し、検出される方位との乖離が生じる場合がある。この乖離の程度は徐行時や停泊時に特に大きくなる。検出によって得た方位を一律に表示すると、船舶の実方位の誤認を招く場合がある。
【0005】
本発明は、船舶の実方位の誤認を抑制することができる船舶の方位表示方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の一態様による船舶の方位表示方法は、船舶の速度および方位を取得する取得ステップと、前記取得ステップにより取得された前記速度および前記方位に基づいて表示部にマークを表示させる制御ステップと、をコンピュータに実行させ、前記制御ステップは、前記速度が第1の所定速度を超える場合は、前記船舶の方位を判別可能に前記マークを表示させ、前記速度が前記第1の所定速度を超えない場合は、前記船舶の方位を判別不能に前記マークを表示させる。
【0007】
この構成によれば、船舶の速度および方位が取得され、取得された速度および方位に基づいて表示部にマークが表示される。速度が第1の所定速度を超える場合は、船舶の方位を判別可能にマークが表示され、速度が第1の所定速度を超えない場合は、船舶の方位を判別不能にマークが表示される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、船舶の実方位の誤認を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】情報処理システムの構成を示す図である。
図2】船舶の側面図である。
図3】情報処理システムの要部のブロック図である。
図4】方位表示処理により表示される画面例を示す図である。
図5】マークの表示態様の変形例を示す図である。
図6】モバイル端末における方位表示処理を実現する機能ブロックを示す図である。
図7】方位表示処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施の形態に係る情報処理システムの構成を示す図である。
【0012】
この情報処理システム1は、サーバ2、PC端末3、モバイル端末4、マイコン5、及びECU(Engine Control Unit)61を含む。ECU61は船舶6に搭載される。サーバ2、PC端末3、モバイル端末4、及びマイコン5は、ネットワークNを介して無線又は有線で互いに通信可能に接続される。また、モバイル端末4とマイコン5とが有線又は無線で接続され通信可能である。なお、情報処理システム1に含まれる構成は、それぞれが複数であってもよい。
【0013】
PC端末3は、PC(Personal Computer)である。PC端末3は、スマートフォン、タブレット、携帯電話、ノート型PC、又はウェアラブルコンピュータであってもよい。
【0014】
モバイル端末4は、船舶6に取り付けられた携帯端末である。モバイル端末4は、船舶6に搭乗する人が保持していてもよい。モバイル端末4は、典型的にはスマートフォンであるが、PC、タブレット、携帯電話、ノート型PC、又はウェアラブルコンピュータなどの情報処理装置である。
【0015】
マイコン5は、船舶6に内蔵された基板に搭載された半導体装置、又は半導体装置と電子部品との組み合わせにより構成される情報処理装置である。マイコン5は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又はこれらの組み合わせにより実現される。
【0016】
図2は、船舶6の側面図である。船舶6は、一例としてウォータージェット推進艇(水上オートバイ)であり、いわゆるPWC(パーソナルウォータークラフト)である。なお、本発明の実現に関し、船舶6の種類は問わない。従って、船舶6はPWCに限定されず、船外機、船内機または船内外機によって推進する船舶であってもよい。
【0017】
船舶6は、エンジン11と、エンジン11の駆動力により推力を発生させるジェット推進式の推進部13と、を含む。エンジン11および推進部13は、船舶6を推進する推進機である。
【0018】
エンジン11は、クランクシャフト11aを含む。推進部13は、エンジン11により駆動されることによって、船舶6の後部の下面に設けられた開口を有する水路12に水を取り込むとともに、取り込んだ水を船舶6の後端に位置するノズル13cから噴射する。その結果、船舶6は推進する。
【0019】
推進部13は、ドライブシャフト13aと、インペラ13bと、ノズル13cと、デフレクタ13dと、リバースゲート(バケット)13eと、を含む。ドライブシャフト13aは、前後方向に延びており、前端がクランクシャフト11aに接続されており、後端が水路12内に配置されている。ドライブシャフト13aの後端近傍には、インペラ13bが固定されている。
【0020】
インペラ13bは、ドライブシャフト13aとともに回転することにより、水路12内にノズル13cに向けた流れを発生させる。ノズル13cは、インペラ13bが配置される水路12の最下流位置に配置されている。ノズル13cは、水の排出口(噴射口)としての機能を有している。すなわち、ノズル13cは、水を噴射して推進力を発生させるように構成されている。ノズル13cには、デフレクタ13dおよびリバースゲート13eが設置されている。
【0021】
デフレクタ13dは、上下方向に延びる軸線回りに左右方向に回動可能であり、ノズル13cから噴射される水の向きを左右方向に変更可能に構成されている。リバースゲート13eは、左右方向に延びる軸線回りに上下方向に回動可能である。すなわち、リバースゲート13eは、ノズル13cから噴射される水の向きを前後方向に変更可能なように構成されている。
【0022】
図3は、情報処理システム1の要部のブロック図である。船舶6は、CPU31、ROM32、RAM33、メモリ34、表示部35、入力部36、通信I/F(インターフェイス)37、タイマ(不図示)を備える。ROM32またはメモリ34は制御プログラムを格納している。マイコン5(図1)は、CPU31、ROM32、RAM33、メモリ34等を含む。
【0023】
CPU31は、ROM32等に格納された制御プログラムをRAM33に展開して実行することにより、各種の制御処理を実現する。RAM33は、CPU31が制御プログラムを実行する際のワークエリアを提供する。表示部35は各種情報を表示する。入力部36は、設定値やモードの入力を船舶6の操船者から受け付ける。通信I/F37は、ネットワークNとの通信が可能であるほか、CAN等によって、駆動源41(エンジン11が該当する)を制御するECU61(図1)との通信も行うことができる。
【0024】
船舶6は、駆動源41のほか、始動操作部42、各種操作部43、各種処理部44、各種センサ45、位置検出部46、通信I/F47、シフト機構48を備える。
【0025】
始動操作部42は、駆動源41を始動させる指示を入力するための始動スイッチ等である。各種操作部43は、ステアリングやリモコンなど、操船者が操船するために操作される操作部である。各種操作部43は、このほか、操船者が各種設定を入力するのにも用いられる。各種処理部44は、ECU61を含み、船舶6に関する各種の動作を処理する。各種センサ45には、各種操作部43の操作を検出するセンサが含まれる。
【0026】
各種センサ45には、加速度センサ、速度センサ、角速度センサ、方位センサ、エンジン回転数センサ、シフト位置センサ等が含まれてもよい(いずれも図示せず)。位置検出部46は、GPS(Global Positioning System)衛星からGPS信号(測位情報)を受信し、船舶6の現在位置を示す位置情報を出力する。通信I/F47は、CAN等によって、通信I/F37との通信を行うことができる。
【0027】
各種センサ45における速度センサは、船舶6の航行速度(船速)を検出する。方位センサは船舶6の方位を検出する。なお、船舶6の速度や方位を検出する手法は限定されず、例えば、位置検出部46で取得した位置情報に基づき検出(決定)されてもよい。また、船舶6の速度は、エンジン回転数センサで検出されたエンジン回転数NEと、位置検出部46で取得された位置情報との少なくとも一方に基づいて決定されてもよい。例えばCPU31は、エンジン回転数NEから推定される速度と、位置情報の推移から推定される速度との中間の値を、船舶6の速度として決定してもよい。
【0028】
なお、モバイル端末4のCPU21が、エンジン回転数NEおよび位置情報をマイコン5から受信し、これらの少なくとも一方に基づいて船舶6の速度を決定してもよい。
【0029】
シフト機構48は、リバースゲート13eと、リバースゲート13eを操作するレバー(不図示)とを含む。各種センサ45におけるシフト位置センサは、シフト機構48のシフト位置を検出する。船舶6がPWCの場合は、シフト位置センサは、リバースゲート13eの位置を検出する。リバースゲート13eは、前進位置、中立位置、後進位置に位置することが可能である。
【0030】
なお、船外機等に適用されるもののように、ギアを介してシフト位置を変更する構成のシフト機構においては、シフト位置としては、船舶を推進する推進機における前後進切替機構のシフト位置が検出される。なお、構成によっては、シフト位置センサは、シフト機構の実際のシフト位置を検出してもよいし、シフト位置を指示する指示位置を検出してもよい。
【0031】
各種センサ45や位置検出部46による検出結果や、走行モードの情報は、随時、モバイル端末4へ送信される。走行モードには、デフォルトで設定される通常モードのほか、低速走行を示す低速走行モードがある。また、CPU31は、位置検出部46によるGPS信号の受信状態の良否を判定し、その情報を随時、モバイル端末4へ送信する。
【0032】
モバイル端末4は、CPU21、ROM22、RAM23、メモリ24、表示部25、入力部26、通信I/F27、タイマ(不図示)を備える。CPU21は、ROM22またはメモリ24に格納された制御プログラムをRAM23に展開して実行することにより、各種の制御処理を実現する。RAM23は、CPU21が制御プログラムを実行する際のワークエリアを提供する。表示部25は各種情報を表示する。
【0033】
入力部26は、各種設定や指示の入力をモバイル端末4の使用者から受け付ける。また、メモリ24には、各種処理を実現するためのアプリケーションが格納されている。例えば、サーバ2からダウンロードされたアプリケーション28により、後述する図7に示す方位表示処理が実現される。通信I/F27は、ネットワークNとの通信が可能である。通信I/F27は、また、Bluetooth(登録商標)等の近距離無線通信機能を含む。なお、モバイル端末4は、位置検出部46と同様の位置検出部を有してもよい。
【0034】
サーバ2と通信可能に接続される船舶6、モバイル端末4およびPC端末3は、それぞれ複数あってもよい。なお、通信I/F27、37、47に含まれる通信機能は複数あってもよく、それらの通信機能の方式は、有線、無線を問わない。また、いずれの通信I/Fも、ネットワークNとの通信を含んでもよく、あるいは近距離無線通信機能を含んでもよい。
【0035】
図4(a)~(c)は、図7で後述する方位表示処理により表示される画面例を示す図である。これらの画面は、モバイル端末4の表示部25に表示される。
【0036】
モバイル端末4のCPU21は、画面上にマークMを表示させる。マークMは、船舶6の方位(現在の向き)を認識させるために表示される。CPU21は、船舶6で検出された速度および方位を、マイコン5から受信することにより取得し、これら速度および方位に基づいて、マークMの表示態様を変化させる。
【0037】
画面において、上方が北を示すものとし、マークMは、一例として画面の中央に表示される。地図上のマークMの座標が現在位置を示し、画面の中央の座標を示す数値が現在位置として別途、表示されている(図示せず)。操船者は、マークMの形状や向きから船舶6の方位を知ることができる。また、操船者は、地図上のマークMの座標から、船舶6の現在位置を知ることができる。
【0038】
車両とは異なり、船舶においては、風や潮流の影響によって、検出される方位と実際の方位との乖離が生じ、乖離の程度は徐行時や停泊時等の状況によって特に大きくなる場合がある。そこで、CPU21は、船舶6の実方位の誤認を招かないように、上記乖離が大きくなる状況においては、方位の判別容易性を低くするか、または方位を判別不能に、マークMを表示させる。マークMの表示態様を制御する処理の詳細については図7で説明する。
【0039】
図4(a)~(c)では、マークMの形状の違いにより、船舶6の方位の判別容易性が異なる。まず、図4(a)でのマークMは二等辺三角形であり、尖った方向(図4(a)では上方)が船舶6の方位を示す。その方位は北方であることが明確にわかる。CPU21は、マークMの尖り方向を、取得された船舶6の方位に一致させる。図4(b)でのマークMは、円形の一部(上部)が少し尖っており、その方位は北方であることがわかる。図4(c)では、マークMは円形であり、いずれの方向にも尖っておらず、方位が示されていない。
【0040】
このように、図4(a)、(b)では、船舶6の方位が北方であることがわかり、図4(c)では船舶6の方位が不明である。従って、図4(a)のマークMが、方位の判別が最も容易であり、図4(b)では図4(a)と比べて方位が少し明確でなくなり、図4(d)では船舶6の方位が判別不能になる。
【0041】
方位の判別容易性を異ならせるマークの形状等の表示態様は例示したものに限定されず、図5(a)、(b)に示す変形例を採用可能である。
【0042】
例えば、図5(a)に示すように、マークは方位に応じた矢印形状でもよい。また、マークの表示態様を異ならせる段階は3段階に限らず、2段階でもよいし、4段階以上でもよい。あるいは、表示態様をシームレスに変化させてもよい。図5(a)に示す例では、矢印形状の長さが異なることで、マークM1が、船舶6の方位の判別が最も容易であり、マークM2、M3の順に方位の判別が容易でなくなり、マークM4では方位が判別不能になる。
【0043】
あるいは、図5(b)に示すように、マークを円形等の一定形状とし、マークにおける方位を示す位置に、何らかの別の識別情報を付加してもよい。例えば、方位の判別容易性に応じてマークの一部または全部の色を互いに異ならせてもよい。図5(b)に示す例では、マークM21、M22、M23の外郭形状はいずれも同じ円形である。方位の判別が最も容易なマークM21では、方位を示す位置の一部が第1色で表示され、2番目に判別が容易なマークM22では上方半分が第2色で表示されている。また、方位の判別不能なマークM23では、全体が第3色で表示されるか、または無色で表示される。
【0044】
図6は、モバイル端末4における方位表示処理を実現する機能ブロックを示す図である。この機能ブロックには、機能部として、取得部401、制御部402が含まれる。これらの各機能部は、主として、モバイル端末4のCPU21、ROM22、RAM23、メモリ24、表示部25および通信I/F27のうちいずれか2つ以上の協働により実現される。モバイル端末4において、アプリケーション28が予めインストールされている。アプリケーション28が起動することで、上記した各機能部の機能が実行される。
【0045】
まず、取得部401は、船舶6の速度Vおよび方位を取得する。制御部402は、取得された速度Vおよび方位に基づいて表示部25にマークMを表示させる。制御部402は、速度Vが第1の所定速度TH1を超える場合(TH1<V)は、船舶6の方位を判別可能に、マークMを表示させる(例えば、図4(a)、(b))。特に、制御部402は、速度Vが第1の所定速度TH1より速い第2の所定速度TH2を超える場合(TH2<V)は、船舶6の方位をより明確に判別容易に、マークMを表示させる(例えば、図4(b))。制御部402は、速度Vが第1の所定速度TH1を超えない場合(V≦TH1)は、船舶6の方位を判別不能に、マークMを表示させる(例えば、図4(c))。
【0046】
図7は、方位表示処理を示すフローチャートである。この処理は、モバイル端末4において、ROM22またはメモリ24に格納されたプログラムを、CPU21がRAM23に展開して実行することにより実現される。この処理は、アプリケーション28が起動されると開始される。
【0047】
ステップS101では、CPU21は、速度閾値を設定する。ここでは、速度閾値として第1の所定速度TH1および第2の所定速度TH2の2つを設定する。ただし、設定する速度閾値は1つでもよいし、3つ以上でもよい。TH1値、TH2値は予めメモリ24に格納されている。大小関係は、上述したようにTH1<TH2である。一例として、TH1=5km/h、TH2=15km/hである。
【0048】
なお、2回目以降のループにおいては、速度閾値は動的に設定されてもよい。例えば、検出された障害物等(陸や島、橋などを含む)と船舶6との距離に応じて速度閾値を設定してもよい。すなわち、CPU21は、マイコン5から取得した障害物等と船舶6との距離に応じて、第1の所定速度TH1および第2の所定速度TH2の少なくとも一方を設定してもよい。その場合、障害物等との距離が短いほど、設定される速度閾値を大きく(速く)してもよい。
【0049】
ステップS102では、CPU21は、推進機(エンジン11および推進部13)の動作状態を取得する。具体的には、CPU21は、エンジン11の動作回転数であるエンジン回転数NEを取得する。エンジン回転数NEは、各種センサ45のエンジン回転数センサにより検出され、モバイル端末4に随時送信されている。
【0050】
ステップS103では、CPU21は、取得したエンジン回転数NEに基づいて推進機が停止したか、すなわち、エンジン11が停止状態であるか否かを判別する。エンジン回転数NEが所定回転数以下の場合に、エンジン11が停止状態であると判別される。そしてCPU21は、エンジン11が停止状態であると判別した場合は、ステップS108に進み、エンジン11が停止状態でないと判別した場合はステップS104に進む。
【0051】
ステップS108では、CPU21は、船舶6の方位を判別不能なマークMを表示部25に表示させる。例えば、図4(c)のマークMや、図5(a)、(b)のマークM4、M23が表示される。すなわち、推進機の動作状態が停止を示す場合は、速度にかかわらず、船舶6の方位を判別不能なマークが表示される。エンジン11が停止状態であるときは、船舶6が方位の検出精度が低いからである。方位を判別不能なマークMを表示することで、船舶6の実方位の誤認を招くことが抑制される。
【0052】
ステップS104では、CPU21は、船舶6の現在の位置、速度V、および方位を取得する。これらの情報は、船舶6のマイコン5から受信することにより取得される。なお、上述したように、CPU21が、船舶6から受信したエンジン回転数NEおよび位置情報の少なくとも一方に基づいて速度Vを決定してもよい。
【0053】
ステップS105では、CPU21は、所定条件が成立するか否かを判別する。ここで、所定条件を例示する。下記の(a)~(e)の少なくとも1つが成立した場合に、所定条件が成立したと判別される。
(a)GPS信号の受信状態が悪いこと
(b)推進機のシフト機構48のシフト位置が中立位置または後進位置であること
(c)低速走行モードが設定されていること
(d)エンジン回転数NEが、第1の所定回転数NE1以下で且つ、速度Vが第3の所定速度TH3以上であること
(e)エンジン回転数NEが、第2の所定回転数NE2以上で且つ、速度Vが第4の所定速度TH4以下であること
条件(a)は、位置検出部46によるGPS信号の受信状態の良否の判定結果を示す情報から判定される。条件(b)に関し、シフト位置の情報はマイコン5から受信される。なお、条件(b)に関し、上述したように、シフト位置は実際の位置でもよいし指示または決定されたシフト位置でもよい。例えばヤマハ発動機社の「RiDE(ライド)」のように、左右のハンドルレバーに前進機能と後進機能とを独立して設けた構成のものでは、両ハンドルレバーの操作の組み合わせに応じて定まるモードから、シフト位置が決定されてもよい。
【0054】
条件(d)(e)に関し、エンジン回転数NEは、マイコン5から受信されるか、またはCPU21により決定される。条件(d)(e)に関し、第1の所定回転数NE1は、第2の所定回転数NE2より小さい。第3の所定速度TH3は、一例として、第2の所定速度TH2と同じ値である。大小関係は、TH1≦TH4<TH3である。また、条件(d)(e)においては、速度Vは、少なくともGPS信号に基づき検出・決定された値であるとする。
【0055】
ステップS105での判別の結果、所定条件が成立した場合は、CPU21は、ステップS108に進む。従って、船舶6の方位を判別不能なマークMが表示される。条件(a)~(e)のいずれか1つでも成立する場合は、検出された方位の信頼性が低いと考えられるからである。この場合、判別不能なマークMを表示することで、船舶6の実方位の誤認を招くことが抑制される。
【0056】
例えば、条件(d)が成立する場合は、NE≦NE1であることにより、エンジン回転数NEから推定される速度が低速相当であるのに対し、TH3≦Vであることにより、速度Vは中速以上である。この場合、追い風によって船舶6が流され、意図したよりも速い速度で船舶6が走行していたり、向きが変化したりしている可能性があるからである。
【0057】
また、条件(e)が成立する場合は、NE2≦NEであることにより、エンジン回転数NEから推定される速度が中速以上相当であるのに対し、V≦TH4であることにより、速度Vは低速である。この場合、向かい風などによって、意図する速度で船舶6が進むことができなかったり、向きが変化したりしている可能性があるからである。
【0058】
ステップS105での判別の結果、所定条件が成立しない場合は、CPU21は、ステップS106に進む。ステップS106では、CPU21は、速度Vが第1の所定速度TH1以下である(V≦TH1)か否かを判別する。その判別の結果、V≦TH1である場合は、CPU21は、ステップS108に進む。この場合、船舶6は低速または停泊中であるので、取得した方位の信頼性は低い。従って、船舶6の方位を判別不能なマークMを表示させることで、船舶6の実方位の誤認を抑制することができる。
【0059】
一方、TH1<Vである場合は、CPU21は、ステップS107に進み、速度Vが第1の所定速度TH1より大きく第2の所定速度TH2以下である(TH1<V≦TH2)か否かを判別する。その判別の結果、CPU21は、TH1<V≦TH2である場合はステップS109に進み、TH2<Vである場合はステップS110に進む。
【0060】
CPU21は、ステップS109では、船舶6の方位を判別可能に、マークMを表示させ、ステップS110では、ステップS109の場合と比べて、船舶の方位をより明確に判別容易に、マークMを表示させる。例えば、ステップS109では、図4(b)のマークMや図5(b)のマークM22が表示され、ステップS110では、図4(a)のマークMや図5(b)のマークM21が表示される。これは、TH1<V≦TH2の場合よりもTH2<Vの場合の方が、取得した方位の信頼性は高いからである。
【0061】
このように、CPU21は、速度Vが第1の所定速度TH1を超える場合は、速度Vに応じてマークMの表示態様を変化させる。特に、CPU21は、速度Vが速いほど、方位が明確となるように、マークMの形状や色を変える。
【0062】
なお、マークの表示態様を異ならせる段階を図5(a)に示すような4段階以上とする場合は、次のように制御してもよい。例えば、V≦TH1の場合にマークM4が表示され、TH1<V≦TH2の場合にマークM3が表示され、TH2<V≦TH5の場合にマークM2が表示され、TH5<Vの場合にマークM1が表示されるようにしてもよい。ここで、TH5はTH2より速い(大きい)値である。
【0063】
ステップS108、S109、S110の後、CPU21は、ステップS111に進み、その他の処理を実行して、ステップS101に戻る。ここで、その他の処理においては、例えば、CPU21は、走行モードの変更が通知された場合は、最新の走行モードをメモリ24に記憶させる。走行モードは、操船者の指示に基づいて船舶6で設定され、モバイル端末4へ通知される。また、アプリケーション28の停止や終了の指示があれば、CPU21は、図7に示す処理を中断、終了させる処理を実行する。
【0064】
本実施の形態によれば、CPU21は、船舶の速度Vおよび方位を取得し、速度Vおよび方位に基づいて表示部25にマークMを表示させる。その際、CPU21は、速度Vが第1の所定速度TH1を超える場合は、船舶6の方位を判別可能にマークMを表示させ、速度Vが第1の所定速度TH1を超えない場合は、船舶6の方位を判別不能にマークMを表示させる。これにより、船舶6の実方位の誤認を抑制することができる。
【0065】
また、CPU21は、速度Vが第1の所定速度TH1を超える場合、速度Vに応じてマークMの表示態様を変化させ、特に、速度Vが速いほど、方位が明確となるように、マークMの形状や色を変える。従って、取得した方位の信頼性が高いほど方位を明確に認識させることができる。
【0066】
また、エンジン11の停止状態では、速度にかかわらず、船舶6の方位を判別不能なマークMが表示されるので、例えば、船舶6が回頭するような状況での方位の報知を回避することで、実方位の誤認を抑制することができる。
【0067】
また、速度閾値(TH1等)を、陸などの障害物等と船舶6との距離に応じて設定すれば、方位の誤認により障害物等に船舶6が近づき過ぎることが抑制される。
【0068】
また、ステップS105において、条件(a)~(e)の少なくとも1つが成立した場合に、船舶6の方位を判別不能なマークMが表示される。これにより、検出された方位の信頼性が低い場合に方位の報知を回避することで、実方位の誤認を抑制することができる。
【0069】
なお、本実施の形態では、図7に示す方位表示処理は、船舶の方位表示装置となるモバイル端末4で実行されるとしたが、これに限らない。例えば、マイコン5が方位表示処理を実行し、船舶6の表示部35にマークMを表示させてもよい。この場合、マイコン5および表示部35が船舶の方位表示装置となる。
【0070】
また、マイコン5が、図7に示す処理のうち表示以外の処理を実行し、表示に必要な情報をモバイル端末4へ送信し、モバイル端末4が、受信した表示に必要な情報に基づいて表示部25にマークを表示させる構成としてもよい。この場合、例えば、マイコン5は、速度Vおよび方位を取得し、速度Vおよび方位に基づいてマークを生成する。マイコン5は、TH1<Vの場合は方位を判別可能なマークを生成し、V≦TH1の場合は方位を判別不能なマークを生成する。そして、マイコン5は、生成したマークをモバイル端末4へ送信する。モバイル端末4は、受信したマークを表示させる。
【0071】
なお、方位表示処理により表示される画面(図4等)において、船舶6の現在位置を知らせるための情報を表示することは必須でない。例えば、マークMは、方位の報知だけを目的とした表示でもよく、マークM等によって位置情報を判別可能であることは必須でない。
【0072】
なお、船舶6の推進機は、駆動源としてエンジンを備える構成に限られず、例えば電気モータを備える構成であてもよい。
【0073】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。
【0074】
本発明は、上記した実施形態の1以上の機能を実現するプログラムをネットワークや非一過性の記憶媒体を介してシステムや装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータの1以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行する処理でも実現可能である。以上のプログラムおよび以上のプログラムを記憶する記憶媒体は、本発明を構成する。また、本発明は、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0075】
6 船舶、 21 CPU、 25 表示部、 401 取得部、 402 制御部、 M マーク、 V 速度、 TH1 第1の所定速度
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図7