(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077949
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20240603BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20240603BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20240603BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
C08L21/00
C08L9/00
C08L7/00
C08K3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190206
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】酒井 智行
(72)【発明者】
【氏名】岡松 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】山元 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】上西 和也
(72)【発明者】
【氏名】鹿久保 隆志
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC011
4J002AC042
4J002DA036
4J002FD016
4J002GM01
4J002GN00
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】耐亀裂進展性に優れるゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100質量部と、シス-1,4構造の割合が5~50質量%であり、シンジオタクチック-1,2構造の割合が50~90質量%である、ポリブタジエン1~30質量部と、を含有する、ゴム組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部と、
シス-1,4構造の割合が5~50質量%であり、シンジオタクチック-1,2構造の割合が50~90質量%である、ポリブタジエン1~30質量部と、
を含有する、ゴム組成物。
【請求項2】
前記ポリブタジエンが、シス-1,4構造を有するポリブタジエンブロックと、シンジオタクチック-1,2構造を有するポリブタジエンブロックとからなる、ブロックポリマーである、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
さらに、カーボンブラック10~100質量部及び/又はシリカ10~150質量部を含有する、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記ジエン系ゴム100質量部が、天然ゴム及びポリイソプレンからなる群より選択される少なくとも1種を50質量部以上含む、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリイソプレンゴムを含むゴム成分とシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンとを含有するゴム組成物が知られている(特許文献1)。特許文献1によれば上記ゴム組成物は耐亀裂進展性に優れるものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようななか、本発明者らが特許文献1に記載のゴム組成物について検討したところ、その耐亀裂進展性は昨今要求されるレベルを必ずしも満たすものではないことが明らかになった。
【0005】
そこで、本発明は、上記実情を鑑みて、耐亀裂進展性に優れるゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、ジエン系ゴムに配合するポリブタジエンのミクロ構造を調整することで、上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0007】
(1) ジエン系ゴム100質量部と、
シス-1,4構造の割合が5~50質量%であり、シンジオタクチック-1,2構造の割合が50~90質量%である、ポリブタジエン1~30質量部と、
を含有する、ゴム組成物。
(2) 上記ポリブタジエンが、シス-1,4構造を有するポリブタジエンブロックと、シンジオタクチック-1,2構造を有するポリブタジエンブロックとからなる、ブロックポリマーである、上記(1)に記載のゴム組成物。
(3) さらに、カーボンブラック10~100質量部及び/又はシリカ10~150質量部を含有する、上記(1)又は(2)に記載のゴム組成物。
(4) 上記ジエン系ゴム100質量部が、天然ゴム及びポリイソプレンからなる群より選択される少なくとも1種を50質量部以上含む、上記(1)~(3)のいずれかに記載のゴム組成物。
【発明の効果】
【0008】
以下に示すように、本発明によれば、耐亀裂進展性に優れるゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明のゴム組成物について説明する。
なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、各成分は、1種を単独でも用いても、2種以上を併用してもよい。ここで、各成分について2種以上を併用する場合、その成分について含有量とは、特段の断りが無い限り、合計の含有量を指す。
また、加硫後のゴム組成物について耐亀裂進展性が優れることを、単に耐亀裂進展性が優れるとも言う。また、加硫後のゴム組成物について破断伸びが大きいことを、破断伸びが優れるとも言う。また、耐亀裂進展性及び破断伸びが優れることを「本発明の効果等が優れる」とも言う。
【0010】
本発明のゴム組成物(以下、単に「本発明の組成物」とも言う)は、
ジエン系ゴム100質量部と、
シス-1,4構造の割合が5~50質量%であり、シンジオタクチック-1,2構造の割合が50~90質量%である、ポリブタジエン1~30質量部と、
を含有する、ゴム組成物である。
【0011】
本発明の組成物はこのような構成をとるため優れた耐亀裂進展性を示すものと考えられる。その理由は明らかではないがおよそ以下のとおりと考えられる。
本発明の組成物に含有されるポリブタジエンは、ポリマー構造の半分以上を剛直なシンジオタクチック-1,2構造が占めるため、ゴム組成物の強靭性に寄与するものと考えられる。一方で、シンジオタクチック-1,2構造は剛直であるが故にその割合が増えると亀裂の起点になり易い。このようななか、本発明の組成物に含有される上記ポリブタジエンの場合、シンジオタクチック-1,2構造と柔軟なシス-1,4構造とが適度に含まれるため、亀裂の起点の発生を抑えつつ、ゴム組成物の強靭性に寄与するものと考えられる。結果として、本発明の組成物は優れた耐亀裂進展性を示すものと考えられる。
【0012】
以下、本発明の組成物に含有される各成分について説明する。
【0013】
[ジエン系ゴム]
本発明の組成物に含有されるジエン系ゴムは特に限定されない。
本発明の組成物は1種のジエン系ゴムを含有するのでも2種以上のジエン系ゴムを含有するのでもよい。
【0014】
〔具体例〕
上記ジエン系ゴムの具体例としては、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、芳香族ビニル-共役ジエン共重合体ゴム、イソプレンゴム(ポリイソプレン)(IR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br-IIR、Cl-IIR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、天然ゴム、ポリイソプレンが好ましい。上記芳香族ビニル-共役ジエン共重合体ゴムとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレン共重合ゴム、ブチルゴムなどが挙げられる。
【0015】
〔分子量〕
上記ジエン系ゴムの重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、100,000~5,000,000であることが好ましく、200,000~3,000,000であることがより好ましく、300,000~2,000,000であることがさらに好ましい。
【0016】
なお、本明細書において重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により得られる標準ポリスチレン換算値である。
【0017】
〔好適な態様〕
上記ジエン系ゴム100質量部は、本発明の効果等がより優れる理由から、天然ゴム及びポリイソプレンからなる群より選択される少なくとも1種を50質量部以上含むのが好ましい。
【0018】
[特定ポリブタジエン]
上述のとおり、本発明の組成物は、シス-1,4構造の割合が5~50質量%であり、シンジオタクチック-1,2構造の割合が50~90質量%である、ポリブタジエン(以下、「特定ポリブタジエン」とも言う)を含有する。
特定ポリブタジエンは、換言すると、シス-1,4構造とシンジオタクチック-1,2構造とを少なくとも有するポリブタジエンであって、上記シス-1,4構造の割合が5~50質量%であり、上記シンジオタクチック-1,2構造の割合が50~90質量%であるポリブタジエンである。
【0019】
〔シス-1,4構造の割合〕
上述のとおり、特定ポリブタジエンのシス-1,4構造(以下、「cis構造」とも言う)の割合(以下、「cis量」とも言う)は、5~50質量%である。cis量は、特定ポリブタジエンの鎖1本あたりのシス-1,4構造を有するブタジエン単位が占める平均の割合である。
【0020】
cis量は、本発明の効果等がより優れる理由から、10~45質量%であることが好ましく、15~30質量%であることがより好ましい。
【0021】
〔シンジオタクチック-1,2構造の割合〕
上述のとおり、特定ポリブタジエンのシンジオタクチック-1,2構造(以下、「syn構造」とも言う)の割合(以下、「syn量」とも言う)は、50~90質量%である。syn量は、特定ポリブタジエンの鎖1本あたりのシンジオタクチック-1,2構造を有するブタジエン単位が占める平均の割合である。なお、シンジオタクチック-1,2構造は少なくとも2つのブタジエン単位からなる。
【0022】
syn量は、本発明の効果等がより優れる理由から、55~85質量%であることが好ましく、70~85質量%であることがより好ましい。
【0023】
〔syn量/cis量〕
cis量に対するsyn量の割合(syn量/cis量)は、本発明の効果等がより優れる理由から、1~10であることが好ましく、2~5であることがより好ましい。
【0024】
〔その他の構造〕
特定ポリブタジエンは、cis構造及びsyn構造いずれにも該当しない構造(その他の構造)を有していてもよい。そのようなその他の構造としては、トランス-1,4構造(以下、「trans構造」とも言い、特定ポリブタジエン中のtran構造の割合を「trans量」とも言う)、シンジオタクチック-1,2構造以外の1,2構造(例えば、イソタクチック-1,2構造、アタクチック-1,2構造、単独の1,2構造)等が挙げられる。
【0025】
特定ポリブタジエン中のその他の構造の割合は、上述したcis量及びsyn量を満たせば特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。特定ポリブタジエン中のその他の構造の割合の下限は特に制限されず、0質量%である。
【0026】
〔分子量〕
特定ブタジエンの重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、1,000~10,000,000であることが好ましく、100,000~2,000,000であることがより好ましく、200,000~1,000,000であることがさらに好ましい。
【0027】
特定ブタジエンの分子量分布(Mw/Mn)は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、1.5~3.0であることが好ましい。
【0028】
〔好適な態様〕
特定ポリブタジエンは、本発明の効果等がより優れる理由から、シス-1,4構造を有するポリブタジエンブロック(以下、「cisブロック」とも言う)と、シンジオタクチック-1,2構造を有するポリブタジエンブロック(以下、「synブロック」とも言う)とからなる、ブロックポリマーであることが好ましい。
【0029】
<cisブロック>
cisブロックは、シス-1,4構造を有するブタジエン単位からなるブロック(連鎖)である。
cisブロックの重合度は、特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、200~10000であることが好ましく、1000~5000であることがより好ましい。
【0030】
<synブロック>
synブロックは、シンジオタクチック-1,2構造を有するブタジエン単位からなるブロック(連鎖)である。
synブロックの重合度は、特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、200~10000であることが好ましく、1000~5000であることがより好ましい。
【0031】
<形態>
上記ブロックポリマーの形態は特に制限されず、ジブロックポリマー(1つのcisブロックと1つのsynブロックからなるジブロックポリマー)、マルチブロックポリマー(例えばトリブロックポリマー)等が挙げられる。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、ジブロックポリマーが好ましい。
【0032】
〔製造方法〕
本発明の組成物の製造方法は特に制限されないが、得られるポリブタジエンについて本発明の本発明の効果等がより優れる理由から、下記の工程を備える製造方法であることが好ましい。この場合、1つのcisブロックと1つのsynブロックからなるジブロックポリマーが得られる。シンジオタクチック重合工程を開始するタイミング(スイッチ化合物を添加するタイミング)を変えることによって各ブロックの長さ(分子量、重合度)を調整することができる。
以下、得られるポリブタジエンについて本発明の効果等が優れることを単に「本発明の効果等が優れる」とも言う。
(1)シス重合工程
金属触媒及び有機アルミニウムを用いてブタジエンを重合することで、シス-1,4構造を有するポリブタジエンブロック(cisブロック)を得る工程
(2)シンジオタクチック重合工程
シス重合工程後にスイッチ化合物を添加することで、上記cisブロックに続けてシンジオタクチック-1,2構造を有するポリブタジエンブロック(synブロック)を得る工程
【0033】
以下、各工程について説明する。
【0034】
<シス重合工程>
シス重合工程は、金属触媒及び有機アルミニウムを用いてブタジエンを重合することで、シス-1,4構造を有するポリブタジエンブロック(cisブロック)を得る工程である。
【0035】
(金属触媒)
金属触媒の具体例としては、鉄、ネオジム、コバルト、及び、チタン、並びに、これらの化合物が挙げられる。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、コバルト系触媒(コバルト、コバルト化合物)が好ましい。
コバルト系触媒は、本発明の効果等がより優れる理由から、コバルト化合物(特に二塩化コバルト)であることが好ましい。
【0036】
(有機アルミニウム)
有機アルミニウムの具体例としては、トリアルキルアルミニウム、アルキルアルミニウムハライド、アルミノキサン等が挙げられる。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、アルミノキサンが好ましい。なお、有機アルミニウムは助触媒として機能する。
【0037】
アルミノキサンは、トリアルキルアルミニウムと水との反応により得られる生成物である。アルミノキサンとしては、メチルアルミノキサン、エチルアルミノキサン、プロピルアルミノキサン、ブチルアルミノキサン、イソブチルアルミノキサン、メチルエチルアルミノキサン、メチルブチルアルミノキサン、メチルイソブチルアルミノキサンなどが例示できる。これらのアルミノキサンは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。アルミノキサンは、本発明の効果等がより優れる理由から、メチルエチルアルミノキサン、メチルブチルアルミノキサン、メチルイソブチルアルミノキサンなどのモデファイドメチルアルミノキサン(修飾メチルアルミノキサン)(MMAO)であることが好ましい。
【0038】
<シンジオタクチック重合工程>
シンジオタクチック重合工程は、シス重合工程後にスイッチ化合物を添加することで、上記cisブロックに続けてシンジオタクチック-1,2構造を有するポリブタジエンブロック(synブロック)を得る工程である。
【0039】
(スイッチ化合物)
上記スイッチ化合物は、シス重合工程中の金属触媒(特にコバルト系触媒)の金属原子(特にコバルト)に配位することで、シス-1,4構造を得る重合生成を、シンジオタクチック-1,2構造を得る重合生成へと、重合反応を切り変える化合物である。
上記スイッチ化合物の具体例としては、二硫化炭素及び単座芳香族ホスフィンが挙げられる。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、単座芳香族ホスフィンが好ましい。
単座芳香族ホスフィンの具体例としては、シクロヘキシルジフェニルホスフィン、イソプロピルジフェニルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、エチルジフェニルホスフィン、n-プロピルジフェニルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ジエチルフェニルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン等が挙げられる。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、シクロヘキシルジフェニルホスフィンが好ましい。
【0040】
〔含有量〕
本発明の組成物において特定ポリブタジエンの含有量は、上述したジエン系ゴム100質量部に対して1~30質量部である。
特定ポリブタジエンの含有量は、本発明の効果等がより優れる理由から、上述したジエン系ゴム100質量部に対して15~25質量部であることが好ましい。
【0041】
[任意成分]
本発明の組成物は、必要に応じて、その効果や目的を損なわない範囲でさらに他の成分(任意成分)を含有することができる。
上記任意成分としては、例えば、充填剤(例えば、シリカ、カーボンブラック)、シランカップリング剤、テルペン樹脂(例えば、芳香族変性テルペン樹脂)、熱膨張性マイクロカプセル、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、上述したフェニレンジアミン系老化防止剤以外の老化防止剤、ワックス、加工助剤、オイル、液状ポリマー、熱硬化性樹脂、加硫剤(例えば、硫黄)、加硫促進剤などのゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤などが挙げられる。
【0042】
本発明の組成物は、本発明の効果等がより優れる理由から、上述したジエン系ゴム100質量部に対して、カーボンブラック10~100質量部及び/又はシリカ10~150質量部を含有するのが好ましい。
【0043】
〔カーボンブラック〕
本発明の組成物は、本発明の効果等がより優れる理由から、カーボンブラックを含有するのが好ましい。
上記カーボンブラックは特に限定されず、例えば、SAF-HS、SAF、ISAF-HS、ISAF、ISAF-LS、IISAF-HS、HAF-HS、HAF、HAF-LS、FEF等の各種グレードのものを使用することができる。
上記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、50~200m2/gであることが好ましく、70~150m2/gであることがより好ましい。
ここで、窒素吸着比表面積(N2SA)は、カーボンブラック表面への窒素吸着量をJIS K6217-2:2001「第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」にしたがって測定した値である。
【0044】
<含有量>
本発明の組成物においてカーボンブラックの含有量は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、上述したジエン系ゴム100質量部に対して、1~100質量部であることが好ましく、30~70質量部であることがより好ましい。
【0045】
[製造方法]
本発明の組成物の製造方法は特に制限されず、その具体例としては、例えば、上述した各成分を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど)を用いて、混練する方法などが挙げられる。本発明の組成物が加硫剤(例えば、硫黄)、加硫促進剤を含有する場合は、得られるゴム組成物について本発明の効果等がより優れる理由から、加硫剤、加硫促進剤以外の成分を先に高温(好ましくは100~155℃)で混合し、冷却してから、加硫剤、加硫促進剤を混合するのが好ましい。
本発明の組成物は、従来公知の加硫または架橋条件で加硫または架橋することができる。
【0046】
[用途]
本発明の組成物はゴム材料として好適に用いられる。例えば、タイヤ(特に、空気入りタイヤ)、コンベアベルト、ホース、防振材、ゴムロール、鉄道車両の外幌等に好適に用いられる。なかでも、タイヤ(特にトレッド)に好適に用いられる。
【実施例0047】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
[ポリブタジエンの合成]
以下のとおり、各ポリブタジエン(特定BR1、特定BR2、比較BR)を合成した。
なお、特定BR1及び特定BR2は、シス-1,4構造の割合(cis量)が5~50質量%であり、シンジオタクチック-1,2構造の割合(syn量)が50~90質量%であるポリブタジエンであるため、上述した特定ポリブタジエンに該当する。一方で、比較BRは、cis量及びsyn量が上記範囲から外れるため、上述した特定ポリブタジエンには該当しない。
【0049】
〔特定BR1〕
【0050】
<シス重合工程>
2ツ口フラスコ(300mL)に0.02gの二塩化コバルト(無水)を加え、室温下で窒素置換した。次に60mL(50g)の1,3-ブタジエンの15%トルエン溶液(ブタジエンとして約7.5g)及びトルエン溶液中の修飾メチルアルミノキサン(MMAO-3A)5mLを加え、10分間撹拌した。
【0051】
<シンジオタクチック重合工程>
次に、0.02gのシクロヘキシル-ジフェニルホスフィン(PCyPh2)を10mLの脱水トルエンで希釈した溶液を加え、続けて50分間撹拌した。
その後、10%の塩酸を含有する5mLのメタノールの添加によりクエンチした。次に、良溶媒にトルエン、貧溶媒にメタノールを用いて2回精製し、60℃で真空乾燥した。このようにして、ポリブタジエンを得た。得られたポリブタジエンを特定BR1とする。特定BR1は、シス-1,4構造を有する1つのポリブタジエンブロック(cisブロック)と、シンジオタクチック-1,2構造を有する1つのポリブタジエンブロック(synブロック)とからなる、ジブロックポリマーである。
【0052】
特定BR1についてNMR(核磁気共鳴法)スペクトルを測定したところ、cis量は20質量%であり、syn量は80質量%であった。また、特定BR1の重量平均分子量は、450,000であった。また、重量平均分子量並びにcis量及びsyn量から、cisブロックの重合度は1581、synブロックの重合度は6739と見積もられた。
【0053】
〔特定BR2〕
シス重合工程の反応時間(撹拌時間)を20分間に変更し、シンジオタクチック重合工程の反応時間(撹拌時間)を40分間に変更した点以外は、特定BR1と同様の手順に従ってポリブタジエンを得た。得られたポリブタジエンを特定BR2とする。特定BR2は1つのcisブロックと1つのsynブロックとからなるジブロックポリマーである。
【0054】
特定BR2についてNMRスペクトルを測定したところ、cis量は40質量%であり、syn量は60質量%であった。また、特定BR2の重量平均分子量は、342,000であった。また、重量平均分子量並びにcis量及びsyn量から、cisブロックの重合度は2656、synブロックの重合度は3667と見積もられた。
【0055】
〔比較BR〕
シス重合工程の反応時間(撹拌時間)を40分間に変更し、シンジオタクチック重合工程の反応時間(撹拌時間)を20分間に変更した点以外は、特定BR1と同様の手順に従ってポリブタジエンを得た。得られたポリブタジエンを比較BRとする。比較BRは1つのcisブロックと1つのsynブロックとからなるジブロックポリマーである。
【0056】
比較BRについてNMRスペクトルを測定したところ、cis量は70質量%であり、syn量は30質量%であった。また、比較BRの重量平均分子量は、331,000であった。また、重量平均分子量並びにcis量及びsyn量から、cisブロックの重合度は4290、synブロックの重合度は1840と見積もられた。
【0057】
[ゴム組成物の調製]
下記表1の各成分を同表に示す組成(質量部)で混合した。
具体的には、まず、硫黄及び加硫促進剤以外の成分を1.8Lの密閉型混合機で130℃の条件下で5分間混合し、マスターバッチを放出した。その後、上記マスターバッチに硫黄及び加硫促進剤を加えてオープンロールを用い90℃の条件下で2分間混合して、各ゴム組成物を調製した。
【0058】
[評価]
得られたゴム組成物について以下の評価を行った。
【0059】
〔耐亀裂進展性〕
得られた各ゴム組成物(未加硫)を、金型(15cm×15cm×0.2cm)中、150℃で30分間プレス加硫して、加硫ゴムシートを作製した。得られた加硫ゴムシートについて、JIS K6260に準拠して、屈曲回数10万回後の亀裂成長長さを測定した。そして、以下の式から指数を求めた。
結果を表1に示す。指数が大きい程、耐亀裂進展性に優れることを意味する。実用上、指数は200以上であることが好ましい。
指数=(比較例6の亀裂成長長さ)÷(各例の亀裂成長長さ)×100
【0060】
〔破断伸び〕
上述のとおり加硫ゴムシートを作製した。得られた加硫ゴムシートについて、JIS K6251:2010に準拠し、JIS3号ダンベル型試験片(厚さ2mm)を打ち抜き、温度20℃、引張り速度500mm/分の条件で破断伸びを測定した。そして、以下の式から指数を求めた。指数が大きい程、破断伸びが大きいことを意味する。
指数=(各例の破断伸び)÷(比較例6の破断伸び)×100
【0061】
【0062】
表1中の各成分の詳細は以下のとおりである。
・特定BR1、特定BR2及び比較BR:それぞれ上述のとおり合成した特定BR1、特定BR2及び比較BR
・synBR:シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン(シンジオタクチック-1,2構造の割合:100質量%)
・VCR:UVEPOL VCR 412(ポリブタジエン、シス-1,4構造の割合:87質量%、シンジオタクチック-1,2構造の割合:12質量%、トランス-1,4構造の割合:1質量%、UBE社製)
・cisBR:シス-1,4-ポリブタジエン(シス-1,4構造の割合:98質量%、シンジオタクチック-1,2構造の割合:1質量%、トランス-1,4構造の割合:1質量%)
・天然ゴム:天然ゴム
・カーボンブラック:ショウブラックN234(昭和キャボット社製)
・酸化亜鉛:亜鉛華3種(正同化学工業社製)
・ステアリン酸:ビーズステアリン酸YR(日本油脂社製)
・老化防止剤6PPD:N-フェニル-N′-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン(6PPD)
・老化防止剤RD:ノンフレックスRD(精工化学社製)
・硫黄:油処理硫黄(軽井沢精錬所社製)
・加硫促進剤CBBS:ノクセラーCZ(大内新興化学工業社製)
【0063】
なお、表1中、「cis量」は、上述したシス-1,4構造の割合(cis量)を表し、「syn量」は、上述したシンジオタクチック-1,2構造の割合(syn量)を表し、「trans量」は、上述したトランス-1,4構造の割合(trans量)を表す。
【0064】
表1から分かるように、特定ポリブタジエンを含有する実施例1~3は、いずれも優れた耐亀裂進展性を示した。
実施例1と実施例2との対比(特定ポリブタジエンの種類のみが異なる態様同士の対比)から、特定ポリブタジエンのsyn量が70質量%以上である実施例1は、より優れた耐亀裂進展性及び破断伸びを示した。
また、実施例1と実施例3との対比(特定ポリブタジエンの含有量のみが異なる態様同士の対比)から、ジエン系ゴム100質量部に対して特定ポリブタジエンを15質量部以上含有する実施例1は、より優れた耐亀裂進展性及び破断伸びを示した。
【0065】
一方、ポリブタジエンのcis量及びsyn量が特定の範囲から外れる比較例1~4、及び、ポリブタジエン全体としてcis量及びsyn量が特定の範囲であるものの別々のポリブタジエンとして含有する比較例5は、いずれも耐亀裂進展性が不十分であった。