(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077963
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】密閉型ロータリ圧縮機及び冷蔵庫
(51)【国際特許分類】
F04C 29/02 20060101AFI20240603BHJP
F04C 29/12 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
F04C29/02 351A
F04C29/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190228
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 和広
(72)【発明者】
【氏名】永田 修平
(72)【発明者】
【氏名】楠本 寛
(72)【発明者】
【氏名】秋澤 健裕
(72)【発明者】
【氏名】中村 考作
【テーマコード(参考)】
3H129
【Fターム(参考)】
3H129AA04
3H129AA05
3H129AA13
3H129AA21
3H129AA32
3H129AB03
3H129BB04
3H129BB35
3H129BB42
3H129CC03
3H129CC05
3H129CC06
3H129CC07
3H129CC09
3H129CC22
3H129CC24
3H129CC33
(57)【要約】
【課題】圧縮機の回転速度が増加しても冷凍サイクル内の油循環率の増加を抑制する。
【解決手段】密閉型ロータリ圧縮機は、密閉容器内にモータ要素と圧縮要素を収納すると共に、密閉容器内を吸入圧力空間とし、底部には油貯溜部が設けられ、圧縮要素はシリンダと、ローラと、シリンダとローラとの間に形成されるシリンダ室内を吸入室と圧縮室に区切るベーンと、シリンダの両端開口部を封止する主軸受及び副軸受を備える。また、前記密閉容器に設けられ、前記吸入圧力空間にガスを導く吸入管と、吸入圧力空間内のガスを吸入室に供給するシリンダ吸入管と、シリンダ吸入管の側面に形成された小孔と、油貯溜部の油を前記小孔に導くための気泡ポンプを備え、気泡ポンプは、下端が油貯溜部の油中に開口し、上端が前記小孔に対向して開口する揚液管と、ローラの内周側空間のガスを揚液管の下端の開口に導く送気通路を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器と、前記密閉容器内にモータ要素と圧縮要素を収納すると共に、この密閉容器内を吸入圧力空間とし、前記密閉容器の底部には油貯溜部が設けられ、前記圧縮要素は円筒状のシリンダと、前記シリンダ内を偏心運動するローラと、前記シリンダと前記ローラとの間に形成されるシリンダ室内を吸入室と圧縮室に区切るベーンと、前記シリンダの両端開口部を封止する主軸受及び副軸受を備える密閉型ロータリ圧縮機であって、
前記密閉容器に設けられ、該密閉容器内の吸入圧力空間にガスを導く吸入管と、
前記吸入圧力空間内のガスを前記シリンダ室内の吸入室に供給するシリンダ吸入管と、
前記シリンダ吸入管の側面に形成された小孔と、
前記油貯溜部の油を前記シリンダ吸入管の側面に設けた前記小孔に導くための気泡ポンプを備え、
前記気泡ポンプは、下端が前記油貯溜部の油中に開口し、上端が前記シリンダ吸入管の小孔に対向して開口する揚液管と、前記ローラの内周側空間のガスを前記揚液管の下端の開口に導く送気通路を備えていることを特徴とする密閉型ロータリ圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載の密閉型ロータリ圧縮機であって、
前記気泡ポンプにおける揚液管の出口側開口を、前記シリンダ吸入管の側面に設けた小孔の近傍に設けていることを特徴とする密閉型ロータリ圧縮機。
【請求項3】
請求項1に記載の密閉型ロータリ圧縮機であって、
前記主軸受または前記副軸受には前記ローラの内周側空間に開口する円周溝が設けられ、前記送気通路の一端側は前記円周溝に接続されて、円周溝内に流入したガスを、前記送気通路を介して前記揚液管の下端開口に供給することを特徴とする密閉型ロータリ圧縮機。
【請求項4】
請求項3に記載の密閉型ロータリ圧縮機であって、
前記主軸受または前記副軸受に設けた前記円周溝はシリンダ側端面に設けられた弾性軸受部を形成するための円周溝であることを特徴とする密閉型ロータリ圧縮機。
【請求項5】
請求項4に記載の密閉型ロータリ圧縮機であって、
前記揚液管の下端開口は漏斗部に形成され、前記揚液管の上部側は曲り管に構成されてその開口が前記シリンダ吸入管の小孔に対向配置される構成としていることを特徴とする密閉型ロータリ圧縮機。
【請求項6】
請求項5に記載の密閉型ロータリ圧縮機であって、
前記揚液管は前記副軸受、前記シリンダ及び前記主軸受を貫通して設けられていることを特徴とする密閉型ロータリ圧縮機。
【請求項7】
請求項6に記載の密閉型ロータリ圧縮機であって、
前記送気通路は、前記円周溝に接続される水平孔と、前記揚液管の下部の前記漏斗部に開口するJ字形の送気管を備えることを特徴とする密閉型ロータリ圧縮機。
【請求項8】
請求項5に記載の密閉型ロータリ圧縮機であって、
前記曲り管の出口流路断面積に対して前記シリンダ吸入管の小孔の入口流路断面積を1/2~1/10としていることを特徴とする密閉型ロータリ圧縮機。
【請求項9】
請求項5に記載の密閉型ロータリ圧縮機であって、
前記曲り管の出口と前記シリンダ吸入管の小孔入口との間隔を、前記小孔の直径よりも大きく且つ前記曲り管の出口直径よりも小さい寸法に構成していることを特徴とする密閉型ロータリ圧縮機。
【請求項10】
請求項7に記載の密閉型ロータリ圧縮機であって、
前記送気管の開口に、多数の小孔を有する多孔材で構成したバブル発生手段を設けていることを特徴とする密閉型ロータリ圧縮機。
【請求項11】
密閉型ロータリ圧縮機、凝縮器、膨張装置、蒸発器を備え、これらの機器を冷媒配管により順次接続して冷凍サイクルを構成している冷蔵庫であって、
前記密閉型ロータリ圧縮機として請求項1~10の何れか一項に記載の密閉型ロータリ圧縮機を用いていることを特徴とする冷蔵庫。
【請求項12】
請求項11に記載の冷蔵庫であって、
冷凍サイクルの冷媒としてイソブタン(R600a)を用い、前記イソブタンの冷凍サイクルへの封入量を100g以下としていることを特徴とする冷蔵庫。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷蔵庫、冷凍機、空気調和機などの冷凍サイクル装置に使用される密閉型ロータリ圧縮機及び冷蔵庫に係り、特に、密閉容器内を吸入圧力としている低圧方式の密閉型ロータリ圧縮機に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
密閉容器内を吸入圧力としている従来の低圧方式の密閉型ロータリ圧縮機としては、特開2001-165065号公報(特許文献1)に記載のものがある。この特許文献1のものには、密閉容器内を吸込圧力にすると共に、ピストンをローラ部とベーン部とで一体に形成し、シリンダ室内の吸入室(ローラ部の外周側)と油供給側(ローラ部の内周側)とに間欠的に連通する油ポケットを設けて、前記油供給側からシリンダ室内の前記吸入室側に所定量の油を供給するようにした揺動ピストン形圧縮機が記載されている。
【0003】
また、非特許文献1(増淵、小型気泡ポンプの性能測定、小山工業高等専門学校研究紀要第44号(2011)、p.73~78)のものには、気泡ポンプについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】増淵、小型気泡ポンプの性能測定、小山工業高等専門学校研究紀要第44号(2011)、p.73~78
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1のものは、ローラ部とベーン部とを一体に形成した揺動ピストン形圧縮機に関するものであるが、ローラとベーンが別体のロータリ圧縮機に関しても、シリンダの隙間からの漏れ防止のために、上記特許文献1のものと同様に、油ポケットを設けて油を供給することは可能である。しかし、油ポケットにより油を供給する場合、圧縮機の回転速度の増加と共に、シリンダ室内の吸入室への給油量が増加するため、これに伴い冷凍サイクル装置の油循環率(油循環流量/(冷媒循環流量+油循環流量))が増加することがわかった。これは、圧縮機の回転速度の増加により、ロータリ圧縮機の軸受への給油量が増え、ローラ部の内周側の空間を満たす油が増加し、それにより油ポケットの空間に入る油の量も増加するためと考えられる。
【0007】
この冷凍サイクル装置の油循環率が増加すると、冷凍サイクル装置の熱交換器(蒸発器や凝縮器)における伝熱管内の油膜厚さが増加し、これに伴い熱抵抗が増加して熱交換性能が低下し圧力損失も増加する。例えば、冷凍サイクル装置の一つである冷蔵庫の場合、急速冷凍時には圧縮機が高速回転速度になるため、油ポケットによる給油方式では吸入室への給油量が過大となって油循環率が大きくなり、冷凍サイクルを循環する油の量が増加する影響で冷蔵庫の熱交換器の性能が低下して冷凍能力が減少する。
【0008】
このように、上記特許文献1に記載のものでは、油ポケットによる給油方式であるため、シリンダ内の吸入室への給油量が圧縮機の回転速度の増加に伴って、油循環率が増加し、冷凍サイクル装置の性能低下を引き起こすという課題がある。
【0009】
本発明の目的は、圧縮機の回転速度が増加しても冷凍サイクル内の油循環率が増加するのを抑制できる密閉型ロータリ圧縮機及び冷蔵庫を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、密閉容器と、前記密閉容器内にモータ要素と圧縮要素を収納すると共に、この密閉容器内を吸入圧力空間とし、前記密閉容器の底部には油貯溜部が設けられ、前記圧縮要素は円筒状のシリンダと、前記シリンダ内を偏心運動するローラと、前記シリンダと前記ローラとの間に形成されるシリンダ室内を吸入室と圧縮室に区切るベーンと、前記シリンダの両端開口部を封止する主軸受及び副軸受を備える密閉型ロータリ圧縮機であって、前記密閉容器に設けられ、該密閉容器内の吸入圧力空間にガスを導く吸入管と、前記吸入圧力空間内のガスを前記シリンダ室内の吸入室に供給するシリンダ吸入管と、前記シリンダ吸入管の側面に形成された小孔と、前記油貯溜部の油を前記シリンダ吸入管の側面に設けた前記小孔に導くための気泡ポンプを備え、前記気泡ポンプは、下端が前記油貯溜部の油中に開口し、上端が前記シリンダ吸入管の小孔に対向して開口する揚液管と、前記ローラの内周側空間のガスを前記揚液管の下端の開口に導く送気通路を備えていることを特徴とする。
【0011】
本発明の他の特徴は、密閉型ロータリ圧縮機、凝縮器、膨張装置、蒸発器を備え、これらの機器を冷媒配管により順次接続して冷凍サイクルを構成している冷蔵庫であって、前記密閉型ロータリ圧縮機として上述した密閉型ロータリ圧縮機を用いていることにある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、圧縮機の回転速度が増加しても冷凍サイクル内の油循環率が増加するのを抑制できる密閉型ロータリ圧縮機及び冷蔵庫を得ることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例1の密閉型ロータリ圧縮機を示す縦断面図である。
【
図3】漏れガス量と揚程油量との関係を試算した結果を示す線図である。
【
図4】油循環率と冷凍能力の関係を試算した結果を示す線図である。
【
図5】本発明の実施例2の冷蔵庫を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の密閉型ロータリ圧縮機及び冷蔵庫の具体的実施例を、図面を用いて説明する。なお、各図において同一符号を付した部分は同一或いは相当する部分を示している。
【実施例0015】
本発明の実施例1の密閉型ロータリ圧縮機を
図1~
図4を用いて説明する。
まず、
図1及び
図2を用いて、本実施例の密閉型ロータリ圧縮機の構成を説明する。
図1は本実施例1の密閉型ロータリ圧縮機の全体構成を示す縦断面図、
図2は
図1のII-II線矢視断面図である。なお、
図1は
図2のI-I線矢視断面図に相当する図でもある。
【0016】
図1、
図2において、100は密閉型ロータリ圧縮機であり、この密閉型ロータリ圧縮機100は縦型で、密閉容器1内にモータ要素(電動機)2および圧縮要素(圧縮機構部)3が収納され、密閉容器1の底部には油貯溜部4が設けられ、ここには冷凍機油(以下、潤滑油や油ともいう)が貯溜されている。モータ要素2は固定子21と回転子22を備え、これら固定子21と回転子22は中心軸が一致するように配置されている。また、前記回転子22には前記圧縮要素3を駆動するための回転軸5が嵌合固定されている。
【0017】
前記回転軸5には偏心軸部5aが設けられ、この偏心軸部5aには前記圧縮要素3のローラ32が回転自在に嵌合されており、前記回転軸5が回転すると、前記偏心軸部5aを介して前記ローラ32が、
図1、
図2に示すように、円筒状のシリンダ31内を偏心運動する。
【0018】
前記シリンダ31の内面と前記ローラ32の間に形成されるシリンダ室31s内を、吸入室31aと圧縮室31bに区切るために、ベーン35が設けられ、ベーン後端部に設けたばね36により、ベーン35はローラ32の外周面に常時当接しながら、シリンダ31の半径方向に往復運動を繰り返す。なお、前記回転軸5は主軸受33と副軸受34により支持されており、主軸受33と副軸受34の端面はシリンダ31の端面に密着させて、シリンダ31の両端開口部を封止している。
【0019】
前記主軸受33と副軸受34のシリンダ31側の端面には、前記回転軸5のたわみにより軸心が傾斜したときに発生する片当たりを緩和するため、円周溝33a,34aが設けられており、これらの円周溝33a,34aにより弾性軸受を構成している。
【0020】
図1に示すように、密閉容器1の側面には、冷凍サイクルからの冷媒ガス(作動流体)を吸入するための吸入管6が設けられ、この吸入管6は密閉容器1内の吸入圧力空間(以下、単に空間ともいう)11側に開口している。吸入管6を通って密閉容器1内の空間11に流入したガス冷媒は、該空間11に一旦吐き出された後、シリンダ吸入管7からシリンダ室31s内の吸入室31aに流入する。即ち、前記シリンダ吸入管7は、その一端側が前記空間11に開口し、他端側は
図2に示すシリンダ31の吸入通路31cと接続されている。本実施例では、前記吸入通路31cは、シリンダ室31s内の吸入室31aに開口するように、シリンダ31の一端面から他端面まで軸方向に延びている。
【0021】
従って、密閉容器1内の空間11に流入した冷媒ガスは、シリンダ吸入管7を通って、シリンダ室内31sの吸入室31aに吸い込まれるように構成されている。密閉容器1内の空間11は吸入圧力となっており、シリンダ室内31sの吸入室31aに吸い込まれた冷媒ガスは、ローラ32の偏心運動に伴い、圧縮室31bとなったシリンダ室31s内で吸入圧力から吐出圧力まで圧縮された後、吐出口(図示せず)から
図1に示す吐出室33bに吐出され、その後吐出管8を通って密閉容器1外の冷凍サイクルの凝縮器(図示せず)側に流出する。
【0022】
図1に示す密閉容器1底部に設けた油貯溜部4の冷凍機油は、回転軸5の下端に設けられている遠心ポンプや粘性ポンプ等のポンプ(図示せず)により、回転軸5に設けられた給油通路(図示せず)を通って、主軸受33、副軸受34及びローラ32の内周側空間32aに供給される。このとき、ローラ32の内周側空間の圧力は、密閉容器内の圧力と同じ吸入圧力となっている。なお、油貯溜部4の冷凍機油は、その油面高さがシリンダ31の高さ方向の中央付近程度になるように封入されている。
【0023】
密閉型ロータリ圧縮機100のシリンダ室31sを形成するシリンダ31、ローラ32、ベーン35、主軸受33及び副軸受34の部品間の隙間(ローラ32端面の隙間、ベーン35の側面や端面の隙間等)の漏れをシールするためには油が必要である。密閉容器1内が吸入圧力の場合、ローラ32内周側の空間の圧力は、シリンダ室31s内の圧縮室31bより常に低くなるため、密閉容器1内が吐出圧力の場合のように、ローラ内周側の空間の油が、ローラ32端面の隙間を通って、シリンダ室31s内に供給されることはない。従って何らかの方法で、シリンダ室31s内に油を供給する必要がある。
【0024】
そこで、本実施例では、シリンダ室31s内に油を供給するための給油手段として気泡ポンプ40を備えている。この気泡ポンプ40の部分は
図1に二点鎖線で示している。
以下、この気泡ポンプ40の構成を詳細に説明する。気泡ポンプ40は、
図1、
図2に示すように、シリンダ31、主軸受33及び副軸受34を貫通するように垂直方向に設けられた揚液管41と、前記ローラ32の内周側の空間と前記揚液管41の下端部側と連通する送気通路42を備えている。前記揚液管41は、その下端部は漏斗部41aとなっており、前記油貯溜部4の潤滑油中に下向きに開口している。前記揚液管41の上端部側は前記シリンダ吸入管7の側面に開口するように垂直方向から水平方向に曲がる曲り管41bとなっている。前記送気通路42は、J字形の送気管42a、シリンダ31を貫通するように形成された縦孔42b及び前記主軸受33に形成された水平孔42cなどから構成されている。
【0025】
前記送気管42aは一端側が前記副軸受34に垂直に形成された孔34bに下側から挿入して圧入されると共に、前記縦孔42bに連通している。また、前記縦孔42bは前記水平孔42cと連通し、この水平孔42cは前記円周溝33aを介して前記ローラ32の内周側の空間と連通している。前記送気管42aの他端側は前記揚液管41下端の漏斗部41a中央に向かって上側に開口している。なお、33cは前記水平孔42cを形成するために、主軸受33の外周側から前記円周溝33aに向かって水平孔42cを穿設した後、前記水平孔42cの外周部側を封止するための封止部材である。
【0026】
前記シリンダ吸入管7の側面には冷凍機油の油面よりも上側になる位置に小孔7aが形成されており、前記揚液管41の曲り管41bの開口端は前記小孔7aに向かって開口している。なお、前記揚液管41は、副軸受34に垂直方向に形成された孔34c、前記シリンダ31に垂直方向に形成された孔31d及び主軸受33に垂直方向に形成された孔33dを貫通すると共に圧入して設けられている。
【0027】
本実施例の密閉型ロータリ圧縮機は、前述したように密閉容器1内が吸入圧力となっており、前記ローラ32の内周側空間32aは、シリンダ室31s内より同等か低くなる。即ち、前記内周側空間32aの圧力は、吸入室31aとは同等の圧力で、圧縮室31bに対しては常に低くなる。このため、シリンダ室31s内とローラ32の内周側空間32aとの圧力差により、前述した部品間の隙間を通って冷媒ガスや油がシリンダ室31s内からローラ32内周側空間32aに漏れ出る。このローラ32内周側空間32aに漏れ出た冷媒ガスは、主軸受33のシリンダ31側の端面に設けられた円周溝33aに流入する。
【0028】
本実施例では、前記円周溝33aに送気通路42の水平孔42cが接続されているため、ローラ32の内周側空間32aに漏れた冷媒ガスは、前記円周溝33aから前記水平孔42cに流出し、その後縦孔42b及び送気管42aを流れて、送気管42aの開口から前記揚液管41下端の漏斗部41aに流出する。揚液管41に流入した冷媒ガスは、該揚液管41内を上昇する。この時、前記揚液管41内の下部側には油貯溜部4内の冷凍機油が流入しているので、揚液管41内を上昇する冷媒ガスと共に、冷凍機油も揚液管41内を上昇して、揚液管41の曲り管41bの開口からシリンダ吸入管7の側面に形成されている前記小孔7aに向かって噴出する。
【0029】
また、揚液管41下部の油が上方に流れて流出することに伴い、油貯溜部4内の油は、前記漏斗部41aと前記送気管42aとの間に形成されるドーナツ状の隙間から揚液管41内に吸い込まれ、冷媒ガスと共に揚液管41内を上昇する。揚液管41内は油と冷媒ガスが混合した二相流となり、この二相流は揚液管41外の油の密度より小さくなるため、浮力によって管内を上昇し、油貯溜部4の冷凍機油の油面より高い位置まで揚程され、揚液管41の曲り管41bからシリンダ吸入管7の側面に向けて噴出する。
【0030】
なお、前記送気管42aの開口端に、多数の小孔を有する多孔材で構成したバブル発生手段を設ければ、漏斗部41a内の油と送気管42aからの冷媒ガスがより均一に混合した二相流とすることができ、揚液管41による油の汲み上げをより安定化させることができる。
【0031】
上述した非特許文献1に記載の気泡ポンプの解析モデルを参考にし、
図1,2に示す密閉型ロータリ圧縮機100における気泡ポンプ40と同様のモデルで、漏れガス量(供給気体量)と揚程油量(揚液量)との関係を試算した。その結果を
図3に示す。
図3の横軸は漏れガス量、縦軸は揚程油量である。また、漏れガス量とは、ローラの内周側空間32aから送気通路42を介して揚液管41に供給される冷媒ガスの量に相当し、揚程油量とは、油貯溜部4の油が揚液管41の上部から噴出する量に相当している。
【0032】
図3に示すように、漏れガス量が多いほど、揚程される油量も大きくなる。しかし、試算した結果では、
図1に示すような密閉型ロータリ圧縮機100で想定される漏れガス量により揚程される油量は、シリンダ31の隙間漏れのシールに必要な油量より過大になることがわかった。
【0033】
そこで、本実施例では、揚液管41から揚程される油量の全てをシリンダ吸入管7に供給するのではなく、揚液管41で揚程されて噴出する油を、シリンダ吸入管7の側面(壁面)に形成した小孔7aに向かって衝突させ、揚液管41から噴出される油のうちの一部を小孔7aからシリンダ吸入管7内に流入させるようにしている。即ち、本実施例では、前記気泡ポンプ40における揚液管41の出口側開口を、シリンダ吸入管7の側面(壁面)に設けた小孔7aに対向させ、その小孔7aの近傍に近接配置している。例えば、前記曲り管41bの出口と前記シリンダ吸入管7の小孔7a入口との間隔を、小孔7aの直径よりも大きく且つ前記曲り管41bの出口直径よりも小さい寸法に構成すると良い。
【0034】
シリンダ吸入管7内に供給する油の量は、曲り管41bの出口流路断面積とシリンダ吸入管7の小孔7aの入口流路断面積の比率を調整することにより、小孔7aからシリンダ吸入管7内への流入量を調整することができる。例えば、前記曲り管41bの出口流路断面積に対して前記シリンダ吸入管7の小孔7aの入口流路断面積を1/2~1/10にすれば、シリンダ吸入管7内に供給する油の量を、揚液管41から噴出される油の量の1/2~1/10程度に調整することができる。
【0035】
前記シリンダ吸入管7の小孔7aから流入した油は、シリンダ吸入管7から吸入される冷媒ガスと混合し、シリンダ室31s内に吸い込まれる。シリンダ室31s内に冷媒ガスと共に供給された油は、シリンダ室31s内の圧力とローラ32の内周側空間32aの圧力との圧力差により、部品間の隙間(ローラ32端面の隙間、ベーン35の側面や端面の隙間)を通ることにより、前記隙間をシールする。
【0036】
図3に示すように、気泡ポンプ40に流れる漏れガス量が多いほど、気泡ポンプ40で揚程される油量(揚程油量)は大きくなる。従って、気泡ポンプ40は、ローラ32の内周側空間32aに漏れたガス量に応じた油量をシリンダ室31s内に供給する仕組みとなっている。シリンダ室31s内の圧力とローラ32の内周側空間32aの圧力との圧力差は圧縮機の回転速度によらず概略一定に保持されるので、ローラ32の内周側空間32aに漏れる単位時間当たりガス量も概略一定になり、前述した隙間のシールのための給油量も圧縮機の回転速度によらず同じとなる。
【0037】
このように、ローラ32の内周側空間32aに漏れる単位時間当たりガス量が回転速度によらず概略一定になるので、前記送気通路42を介して前記揚液管41に供給される漏れガス量も圧縮機の回転速度によらず概略一定にできる。従って、前記油貯溜部4に前記気泡ポンプ40を設け、この気泡ポンプ40にローラ32の内周側空間32aへの漏れガスを導く構成とすることにより、前記シリンダ吸入管の小孔7aに前記揚液管41から、回転速度によらず常に一定の油を供給することが可能となる。
【0038】
即ち、本実施例によれば、圧縮機の回転速度によらず、シリンダ室31sからローラの内周側空間32aへの漏れ量にほぼ比例した油をシリンダ室31sに供給できるため、例えば、冷蔵庫の圧縮機が高速回転速度となる急速冷凍時でも、シリンダ室31sへの給油量が過大にならず、この結果、冷蔵庫等の冷凍サイクル装置の油循環率(油循環流量/(冷媒循環流量+油循環流量))の増加を抑えることができる。
【0039】
冷凍サイクル装置における前記油循環率と、冷凍サイクル装置の熱交換器の伝熱管内の油膜厚さの関係を算出し、前記油膜厚さが増加した分、熱抵抗や圧力損失が増加するというモデルを作成し、これを用いて冷蔵庫における油循環率と蒸発器の冷凍能力の関係を試算した結果を
図4に示す。
【0040】
図4に示す油循環率と冷凍能力の関係の試算において、上述した特許文献1に記載の油ポケットによる給油では、油循環率が圧縮機の回転速度に比例すると仮定し、冷蔵庫の運転比率が多くなる冷凍能力の低い低速運転時における圧縮機の回転速度1200rpmでの油循環率を1wt%と仮定し、冷凍能力の高い急速冷凍時の回転速度4300rpmでの油循環率を3wt%と仮定した。
【0041】
一方、本実施例における気泡ポンプ40による給油では、回転速度1200rpm時の必要な給油量が、上記油ポケットによる給油量と同じになるようにした場合、油循環率も同じ1wt%となる。気泡ポンプは圧縮機の回転速度によらず単位時間当りの給油量が一定となるので、油循環流量も回転速度によらず一定となる。一方、冷媒の循環流量は圧縮機の回転速度にほぼ比例するので、急速冷凍時の回転速度4300rpm時での油循環率(油循環流量/(冷媒循環流量+油循環流量))は回転速度にほぼ反比例し,0.3wt%(=1wt%×1200/4300)と小さくすることができる。
【0042】
従って、本実施例の気泡ポンプを備える密閉型ロータリ圧縮機を冷凍サイクル装置の圧縮機として採用することにより、特許文献1に記載の油ポケットを用いて給油する圧縮機を用いたものに対し、油循環率を3wt%から0.3wt%に低減することができ、この結果、
図4に示すように、冷凍能力を5.3%向上させることができる。
【0043】
以上説明したように、本実施例1によれば、油貯溜部4の油をシリンダ吸入管7の側面に設けた小孔7aに導くための気泡ポンプ40を備え、前記気泡ポンプ40は、下端が前記油貯溜部の油中に開口し、上端が前記シリンダ吸入管の小孔に対向して開口する揚液管41と、ローラ32の内周側空間32aのガスを前記揚液管41の下端の開口に導く送気通路42を備える構成としているので、シリンダ31の隙間から漏れたガスを気泡ポンプ40に導くことで揚程された油の一部を、シリンダ吸入管7に流入させ冷媒ガスと共にシリンダ室31s内に供給することができる。従って、圧縮機の回転速度の増加に伴う油循環率の増加を抑えることができ、冷凍サイクル装置の性能向上を図ることができる。
本実施例2において、冷蔵庫200は、食品等を冷やす機器であり、外部空間に対して断熱する箱体である断熱箱体201、断熱箱体201内に設けられた冷蔵室202、上段冷凍室203、下段冷凍室204、野菜室205等を有している。前記断熱箱体201内の各室は仕切によりを区画されている。
冷蔵庫200を構成している前記冷凍サイクルには、冷媒として、オゾン層破壊係数(ODP)や地球温暖化係数(GWP)が小さい、例えばイソブタン(R600a)等の強燃性冷媒が用いられている。家庭用の冷蔵庫の冷媒として強燃性のイソブタンが使用される場合、その使用量には厳しい制限があり、冷蔵庫1台あたりに封入できるイソブタンの使用量は100g以下に制限されている。このため、一般的に冷媒封入量が多くなる密閉型ロータリ圧縮機の採用は困難であったが、冷蔵庫に使用される圧縮機として本発明の低圧方式の密閉型ロータリ圧縮機を採用することにより、冷蔵庫に封入される冷媒量を低減できる。従って、強燃性冷媒のイソブタンを使用しつつその使用量を低減して安全性を向上し、且つ冷凍サイクルの油循環率を低減して冷凍能力の向上も図れる家庭用の冷蔵庫を実現できる。
また、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。