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特開2024-77972ガスシールド方法及び二重ガスノズル並びに外付けノズル外筒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077972
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】ガスシールド方法及び二重ガスノズル並びに外付けノズル外筒
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/14 20140101AFI20240603BHJP
   B23K 26/342 20140101ALI20240603BHJP
【FI】
B23K26/14
B23K26/342
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190242
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000183347
【氏名又は名称】住友重機械ハイマテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】石川 毅
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA32
4E168BA87
4E168DA02
4E168DA28
4E168DA32
4E168FA01
4E168FB03
(57)【要約】
【課題】高いシールド効果が得られることに加え、ノズルと被処理材との干渉を低減できる簡便かつ安価なガスシールド方法及び当該ガスシールド方法に好適に用いることができる簡便かつ安価な二重ガスノズルを提供する。また、本発明のガスシールド方法に好適に用いることができる外付けノズル外筒も提供する。
【解決手段】ノズル内筒の内部から第一不活性ガスを噴出させ、ノズル内筒と、ノズル内筒の側面を囲繞して設けられたノズル外筒と、の隙間から第二不活性ガスを噴出させ、ノズル内筒の底面をノズル外筒の底面から突出させること、を特徴とするガスシールド方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル内筒とノズル外筒を有するガスシールドノズルを用いたガスシールド方法であって、
前記ノズル内筒の内部から第一不活性ガスを噴出させ、
前記ノズル内筒と、前記ノズル内筒の側面を囲繞して設けられた前記ノズル外筒と、の隙間から第二不活性ガスを噴出させ、
前記ノズル内筒の底面を前記ノズル外筒の底面から突出させること、
を特徴とするガスシールド方法。
【請求項2】
前記ノズル内筒の底面と前記ノズル外筒の底面の距離を3mm以上とすること、
を特徴とする請求項1に記載のガスシールド方法。
【請求項3】
前記ガスシールドノズルの進行方向に対して前記ガスシールドノズルに後退角を設けること、
を特徴とする請求項1又は2に記載のガスシールド方法。
【請求項4】
チタン又はチタン合金の溶接を施すこと、
を特徴とする請求項1又は2に記載のガスシールド方法。
【請求項5】
前記ノズル内筒の中心軸に沿ってレーザビームを照射すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載のガスシールド方法。
【請求項6】
レーザメタルデポジションを用いて金属肉盛層を形成させること、
を特徴とする請求項1又は2に記載のガスシールド方法。
【請求項7】
内部を第一不活性ガスが流通するノズル内筒と、
前記ノズル内筒の側面を囲繞して設けられ、前記ノズル内筒との間に第二不活性ガスが流通する隙間を形成するノズル外筒と、を備え、
前記ノズル内筒の底面が前記ノズル外筒の底面から突出していること、
を特徴とする二重ガスノズル。
【請求項8】
前記ノズル内筒の底面と前記ノズル外筒の底面の距離が3mm以上であること、
を特徴とする請求項7に記載の二重ガスノズル。
【請求項9】
前記ノズル内筒に粉末供給キャリアガスが流通する経路が設けられていること、
を特徴とする請求項7又は8に記載の二重ガスノズル。
【請求項10】
内部を第一不活性ガスが流通するノズル内筒に装着する外付けノズル外筒であって、
前記ノズル内筒の側面を囲繞した状態で前記外付けノズル外筒を固定し、前記ノズル内筒との間に第二不活性ガスが流通する隙間を形成する固定機構を有し、
前記固定機構によって固定された状態において、前記ノズル内筒の底面が前記ノズル外筒の底面から突出すること、
を特徴とする外付けノズル外筒。
【請求項11】
前記ノズル内筒の底面と前記ノズル外筒の底面の距離を制御する位置調整機構を有し、
前記距離が3mm以上となること、
を特徴とする請求項10に記載の外付けノズル外筒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属肉盛及び溶接等に用いることができるガスシールド方法、当該ガスシールド方法に用いる二重ガスノズル及び外付けノズル外筒に関する。
【背景技術】
【0002】
金属肉盛や溶接は、アークやレーザ等の種々の熱源を用いて溶融させた金属を凝固させるプロセスであり、得られる肉盛層や溶接部の種々の特性に及ぼすプロセス雰囲気の影響が極めて大きい。一般的には、アルゴン等の不活性ガスで溶融部近傍をシールドし、大気の混入を抑制するが、シールドが不十分な場合には溶融凝固領域の表面が酸化するだけでなく、ブローホール等の欠陥が形成されてしまう。
【0003】
これに対し、例えば、特許文献1(特開2021-194657号公報)においては、「シールドガス雰囲気で溶接するガスシールド溶接用のトーチに設けられ、溶接部の周囲を大気から遮断するガスシールド治具であって、前記トーチに固定される支持部と、前記支持部に弾性変形自在に保持されて、前記トーチを囲んで配置される骨格部材と、前記骨格部材を覆って設けられ、前記トーチの周囲を囲むシート部材と、を備え、前記骨格部材は、前記トーチの軸線に沿ってトーチ基端側からトーチ先端側に向かうに従って裾広がりになる形状を有し、前記シート部材は、前記トーチ基端側に開口部を有するガスシールド治具。」が開示されている。
【0004】
上記特許文献1に記載のガスシールド治具においては、「トーチの軌道に障害物が生じやすい積層造形時であっても、トーチ周囲を確実にシールドガスで覆いながら溶接でき、積層造形物の設計自由度の低下を抑制できる」とされている。
【0005】
また、特許文献2(特開2021-126681号公報)においては、「中空筒型のノズル内に設置されるとともに、前記ノズル開口部から突出する電極を用いて行うガスシールド溶接法方法であって、前記ノズル内を流れて前記ノズル開口部から吹き出すシールドガスにより、前記電極の先端から発生させる放電を大気と接触しないようにシールドし、前記ノズル内の前記シールドガスの流れを、前記電極の周辺の内側ガス流と、前記ノズルの内壁に沿って前記内側ガス流の回りを流れる外側ガス流との2つの流れとし、前記外側ガス流の流速が前記内側ガス流の流速よりも大きい、ガスシールド溶接方法。」が開示されている。
【0006】
上記特許文献2に記載のガスシールド溶接方法においては、「大気が電極の近傍に入り込むことを流速の大きい外側ガス流が防止して、シールド性を高く良好に保つことができる。また流速に違いがあることから外側ガス流の温度の方が内側ガス流の温度よりも低くなり、この温度差によってもシールド性を高く保つことができる」とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-194657号公報
【特許文献2】特開2021-126681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1のガスシールド治具は、シールド部材でトーチ及び溶接部を覆うことで大気から遮断するものであり、被処理材に応じてシールド部材の形状及びサイズを調整する必要がある。また、例えば、複雑形状を有する大型金属部材の一部に肉盛や溶接を施す場合、シールド部材が当該大型金属部材に干渉するケースが多く想定される。加えて、シールド部材にはスパッタ等が付着することから、耐火シートや防炎シートを用いた場合であっても度々交換する必要があり、作業効率やプロセスコストの観点からも問題がある。
【0009】
また、上記特許文献2のガスシールド溶接方法においては、内側ガス流と外側ガス流を形成させるために構造が複雑で高価な二重ノズルが必要となる。また、二重ノズルでは不可避的にノズルの直径が増大することから、通常のノズルと比較すると被処理材やその周辺の構造物への干渉が問題となり、ノズルを任意の位置に配置することが困難な場合が存在する。
【0010】
加えて、酸化されやすいチタン又はチタン合金の溶接やブローホール等の微小欠陥の形成が問題となるレーザメタルデポジションにおいては、ガスシールド性に対する要求が高くなっており、従来のガスシールド方法では十分に当該要求を満足させることができない。
【0011】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、高いシールド効果が得られることに加え、ノズルと被処理材との干渉を低減できる簡便かつ安価なガスシールド方法及び当該ガスシールド方法に好適に用いることができる簡便かつ安価な二重ガスノズルを提供することにある。また、本発明は、本発明のガスシールド方法に好適に用いることができる外付けノズル外筒を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、上記目的を達成すべく、溶接時等のガスシールド方法及び当該ガスシールド方法に用いるガスノズルについて鋭意研究を重ねた結果、二重ガスノズルのノズル内筒の底面をノズル外筒の底面から突出させること等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
即ち、本発明は、
ノズル内筒とノズル外筒を有するガスシールドノズルを用いたガスシールド方法であって、
前記ノズル内筒の内部から第一不活性ガスを噴出させ、
前記ノズル内筒と、前記ノズル内筒の側面を囲繞して設けられた前記ノズル外筒と、の隙間から第二不活性ガスを噴出させ、
前記ノズル内筒の底面を前記ノズル外筒の底面から突出させること、
を特徴とするガスシールド方法、を提供する。
【0014】
従来の二重ガスノズルはノズル内筒とノズル外筒の底面が同一平面上、又はノズル外筒が突出しているのが一般的であり、当該構成によってノズル内筒とノズル外筒の隙間から噴出する外側シールドガスによるシールド効果を高めていると考えられる。しかしながら、ノズル外筒によって二重ガスノズルの先端が太くなり、被処理領域にノズルを近接させることが困難であった。
【0015】
これに対し、本発明者はノズル外筒をノズル内筒よりも短くし、ノズル外筒からノズル内筒を突き出した状態においても、二重ガスノズルのシールド効果が十分に得られ、ノズル外筒を突き出してシールドガスの噴射位置を被処理領域に近接させなくても良好なシールド効果が得られることを見出した。当該構成の二重ガスノズルでは先端部はノズル内筒のみとなり、一般的なガスノズルと同程度の太さとすることができる。その結果、二重ガスノズルの取り回しが容易となり、被処理領域にノズル先端を近接させることも可能となる。
【0016】
加えて、ノズル内筒の底面をノズル外筒の底面から突出させることで、ノズル内筒の底面をノズル外筒の底面と同じ位置にした場合やノズル外筒の底面をノズル内筒の底面から突出させた場合と比較して、より優れたシールド効果を得ることができる。所望のガスシールド領域からより離れた位置で第二不活性ガスを噴出させることによるシールド効果向上の理由は必ずしも明らかになっていないが、不活性ガスの乱流(大気の巻き込み)が抑制されることや、不活性ガスによって広域がシールドされることで酸素の侵入が効果的に抑制されること等が考えられる。
【0017】
本発明のガスシールド方法においては、前記ノズル内筒の底面と前記ノズル外筒の底面の距離を3mm以上とすること、が好ましい。ノズル内筒の底面とノズル外筒の底面の距離を3mm以上とすることで、ガスノズルの取り回し性を向上させることができる。加えて、ノズル内筒の底面とノズル外筒の底面の距離を3mm以上とすることで、第二不活性ガスによるシールド効果を確実に向上させることができる。ノズル内筒の底面とノズル外筒の底面の距離は5mm以上とすることがより好ましく、7.5mm以上とすることが最も好ましい。
【0018】
ここで、ノズル内筒とノズル外筒の間に有効な隙間(スリット)を形成させる観点から、ノズル外筒の高さは少なくとも5mmは必要となる。即ち、例えば、ノズル内筒の高さが30mmの場合、ノズル内筒の底面とノズル外筒の底面の距離の上限値は25mmとなる。
【0019】
また、本発明のガスシールド方法においては、前記ガスシールドノズルの進行方向に対して前記ガスシールドノズルに後退角を設けること、が好ましい。レーザやアーク等で加熱した領域をガスシールドする場合、熱源が通過した後も対象領域は一定時間高温状態に維持される。これに対して、ガスシールドノズルに後退角を設けることで、ガスシールドノズル後方のシールド効果を向上させることができる。
【0020】
また、本発明のガスシールド方法においては、チタン又はチタン合金の溶接を施すこと、が好ましい。チタン材の溶接においては、酸化防止の観点から、加熱領域が350℃に冷却されるまでの間、当該領域の酸素濃度を低く維持することが望まれる。これに対して、本発明のガスシールド方法を用いることで、加熱領域の周囲を広くシールドすることができ、酸素濃度の上昇を効率的に抑制することができる。
【0021】
また、本発明のガスシールド方法においては、前記ノズル内筒の中心軸に沿ってレーザビームを照射すること、が好ましい。ノズル内筒の中心軸に沿ってレーザビームを照射することで、当該レーザビームの周囲及び当該レーザビームが照射される被処理材の表面近傍を効果的にシールドガスで覆うことができる。
【0022】
また、本発明のガスシールド方法においては、レーザメタルデポジションを用いて金属肉盛層を形成させること、が好ましい。レーザメタルデポジションは原料となる金属粉末等をレーザによって溶融させ、任意の基材表面上に急冷凝固させて金属肉盛層を形成させる手法であることから、雰囲気中の酸素との反応が金属肉盛層の種々の特性に大きな影響を及ぼす。これに対し、本発明のガスシールド方法においては処理領域への酸素の侵入を効率的に遮断できるだけでなく、必要に応じて、レーザメタルデポジション用のトーチ先端を処理領域に近接させることができる。
【0023】
また、本発明は、
内部を第一不活性ガスが流通するノズル内筒と、
前記ノズル内筒の側面を囲繞して設けられ、前記ノズル内筒との間に第二不活性ガスが流通する隙間を形成するノズル外筒と、を備え、
前記ノズル内筒の底面が前記ノズル外筒の底面から突出していること、
を特徴とする二重ガスノズル、も提供する。
【0024】
本発明の二重ガスノズルの最大の特徴はノズル内筒の底面がノズル外筒の底面から突出していることであり、ノズル内筒の直径はノズル外筒の直径よりも小さいことから、良好な取り回し性を有している。例えば、レーザメタルデポジション用のトーチ先端を処理領域に近接させる場合、基本的にノズル内筒の干渉の有無を考慮すればよい。
【0025】
本発明の二重ガスノズルにおいては、前記ノズル内筒の底面と前記ノズル外筒の底面の距離が3mm以上であること、が好ましい。ノズル内筒の底面とノズル外筒の底面の距離を3mm以上とすることで、ガスシールドの効果が顕著に得られることに加えて、ガスノズルの取り回し性を十分に確保することができる。ノズル内筒の底面とノズル外筒の底面の距離は5mm以上とすることがより好ましく、7.5mm以上とすることが最も好ましい。
【0026】
ここで、ノズル内筒とノズル外筒の間に有効な隙間(スリット)を形成させる観点から、ノズル外筒の高さは少なくとも5mmは必要となる。即ち、例えば、ノズル内筒の高さが30mmの場合、ノズル内筒の底面とノズル外筒の底面の距離の上限値は25mmとなる。
【0027】
更に、本発明の二重ガスノズルにおいては、前記ノズル内筒に粉末供給キャリアガスが流通する経路が設けられていること、が好ましい。ノズル内筒に粉末供給キャリアガスが流通する経路が設けられていることで、二重ガスノズルをレーザメタルデポジションに用いることができる。より具体的には、ノズル内筒から原料粉末を基材表面に供給しつつ、当該原料粉末にレーザを照射し、任意の積層造形体を形成することができる。加えて、レーザ照射によって温度が上昇した領域への酸素の侵入を効果的に抑制することができる。
【0028】
更に、本発明は、
内部を第一不活性ガスが流通するノズル内筒に装着する外付けノズル外筒であって、
前記ノズル内筒の側面を囲繞した状態で前記外付けノズル外筒を固定し、前記ノズル内筒との間に第二不活性ガスが流通する隙間を形成する固定機構を有し、
前記固定機構によって固定された状態において、前記ノズル内筒の底面が前記ノズル外筒の底面から突出すること、
を特徴とする外付けノズル外筒、も提供する。
【0029】
本発明の外付けノズル外筒は、従来一般的なガスノズルの外側に取り付けることで、本発明の二重ガスノズルと同様の作用効果を得るためのものである。前記固定機構を用いて外付けノズル外筒をノズル内筒に固定することで、ノズル内筒との間に第二不活性ガスが流通する隙間を形成しつつ、ノズル内筒の底面をノズル外筒の底面から突出させることができる。
【0030】
本発明の外付けノズル外筒においては、前記ノズル内筒の底面と前記ノズル外筒の底面の距離を制御する位置調整機構を有し、前記距離が3mm以上となること、が好ましい。当該位置調整機構を有していることで、ノズル内筒の長さに依らず、ノズル内筒の底面をノズル外筒の底面から突出させることができ、ノズル内筒の底面とノズル外筒の底面の距離を3mm以上に調整することができる。
【0031】
位置調整機構は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の位置調整機構を用いることができる。例えば、ネジ機構によってノズル外筒の位置を上下してもよく、適当な締結部を設けてもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、高いシールド効果が得られることに加え、ノズルと被処理材との干渉を低減できる簡便かつ安価なガスシールド方法及び当該ガスシールド方法に好適に用いることができる簡便かつ安価な二重ガスノズルを提供することができる。また、本発明は、本発明のガスシールド方法に好適に用いることができる外付けノズル外筒を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明のガスシールド方法の一態様を示す模式図である。
図2】本発明の二重ガスノズルの一態様を示す模式図である。
図3】本発明の二重ガスノズルの一態様を示す模式図である(レーザメタルデポジションへの適用)。
図4】本発明の外付けノズル外筒の一態様を示す模式図である。
図5】位置調整機構26の模式図である。
図6】位置調整機構26をノズル内筒2に取り付けた状態の模式図である。
図7】外付けノズル外筒20をノズル内筒2に取り付けた状態の模式図である。
図8】第二不活性ガスの流通状態を示す模式図である。
図9】ノズル内筒2の底面とノズル外筒4の底面の距離を制御する方法を示す模式図である(ノズル内筒2の長さが異なる場合)。
図10】ノズル内筒2の底面とノズル外筒4の底面の距離を制御する方法を示す模式図である(ノズル内筒2の外径が異なる場合)。
図11】実施例1における酸素濃度計測の状況を示す断面模式図である。
図12】実施例1において第二不活性ガスの流量を20l/minとした場合の酸素濃度を示すグラフである。
図13】実施例1において第二不活性ガスの流量を30l/minとした場合の酸素濃度を示すグラフである。
図14】酸素濃度に及ぼす第二不活性ガスの流量と内筒ノズルの底面と外筒ノズルの底面との距離の影響を示すグラフである。
図15】実施例2における酸素濃度計測の状況を示す断面模式図である。
図16】実施例2における酸素濃度を示すグラフである。
図17】実施例3における酸素濃度計測の状況を示す断面模式図である。
図18】実施例3における酸素濃度を示すグラフである。
図19】実施例4で得られた各レーザ溶接部の外観写真である。
図20】実施例4で得られた各レーザ溶接部の拡大写真である。
図21】実施例4でレーザ走査速度を3.0m/minとした場合のシミュレーション結果である。
図22】実施例4でレーザ走査速度を3.5m/minとした場合のシミュレーション結果である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図を参照しながら、本発明のガスシールド方法及び二重ガスノズル並びに外付けノズル外筒における代表的な実施形態を詳細に説明する。但し、本発明は図示されるものに限られるものではなく、各図面は本発明を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために必要に応じて比や数を誇張又は簡略化して表している場合もある。更に、以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略することもある。
【0035】
1.ガスシールド方法
図1に、本発明のガスシールド方法の一態様を示す模式図を示す。図1の模式図は断面図であり、ノズル内筒2の内部から第一不活性ガスを噴出させ、ノズル内筒2と、ノズル内筒2の側面を囲繞して設けられたノズル外筒4と、の隙間から第二不活性ガスを噴出させ、基材6の表面をガスシールドしている状態を示している。
【0036】
ここで、ノズル内筒2の底面はノズル外筒4の底面から突出しており(ノズル外筒4の底面はノズル内筒2の底面より後退しており)、ノズルを基材6の表面に垂直とした状態であっても、障害物8を回避してノズル全体を基材6に近接させることができる。
【0037】
また、第一不活性ガスに加えて第二不活性ガスを噴出させることで、基材6の表面近傍への酸素の侵入を極めて効果的に抑制することができる。ここで、第一不活性ガスと第二不活性ガスは同種の不活性ガスとしてもよく、異なる不活性ガスとしてもよい。不活性ガスの種類は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の不活性ガスを使用することができるが、例えば、アルゴンガスや窒素ガスを用いることができる。また、適当なガスを混合して用いてもよい。
【0038】
また、第一不活性ガスと第二不活性ガスを噴出させる流量は、使用する不活性ガスの種類、ガスシールドする領域までの距離及び当該領域の大きさ等に応じて適宜調整すればよい。また、第一不活性ガスの流量と第二不活性ガスの流量は同じ値にしてもよく、異なる値にしてもよい。ここで、第二不活性ガスの流量は5~25l/minとすることが好ましく、10~20l/minとすることがより好ましい。第二不活性ガスの流量を当該範囲とすることで、第二不活性ガスを用いることによるシールド効果をより確実に得ることができる。
【0039】
ノズル内筒2の底面とノズル外筒4の底面の距離は3mm以上とすることが好ましい。ノズル内筒2の底面とノズル外筒4の底面の距離を3mm以上とすることで、ガスノズルの取り回し性を向上させることができる。加えて、ノズル内筒2の底面とノズル外筒4の底面の距離を3mm以上とすることで、第二不活性ガスによるシールド効果を確実に向上させることができる。ノズル内筒2の底面とノズル外筒4の底面の距離は5mm以上とすることがより好ましく、7.5mm以上とすることが最も好ましい。
【0040】
ここで、ノズル内筒2とノズル外筒4の間に有効な隙間(スリット)を形成させる観点から、ノズル外筒4の高さは少なくとも5mmは必要となる。即ち、例えば、ノズル内筒2の高さが30mmの場合、ノズル内筒2の底面とノズル外筒4の底面の距離の上限値は25mmとなる。
【0041】
また、ガスシールドノズルの進行方向に対して、ガスシールドノズルに後退角を設けることが好ましい。レーザやアーク等で加熱した領域をガスシールドする場合、熱源が通過した後も対象領域は一定時間高温状態に維持される。これに対して、ガスシールドノズルに後退角を設けることで、ガスシールドノズル後方のシールド効果を向上させることができる。後退角の値は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、所望のガスシールド状態に応じて適宜調整すればよいが、例えば、10~30°とすることができる。
【0042】
また、本発明のガスシールド方法においては、チタン又はチタン合金の溶接を施すこと、が好ましい。チタン材の溶接においては、酸化防止の観点から、加熱領域が350℃に冷却されるまでの間、当該領域の酸素濃度を低く維持することが望まれる。より具体的には、溶接中の最高到達温度における酸素濃度は0.3%以下とすることが好ましい。これに対して、本発明のガスシールド方法を用いることで、シールド効果が最も高い領域の酸素濃度を確実に0.3%以下とすることができることに加え、加熱領域の周囲が広くシールドされることから、酸素濃度の上昇を効率的に抑制することができる。
【0043】
また、ノズル内筒2の中心軸に沿ってレーザビームを照射することが好ましい。ノズル内筒2の中心軸に沿ってレーザビームを照射することで、当該レーザビームの周囲及び当該レーザビームが照射される被処理材(基材6)の表面近傍を効果的にシールドガスで覆うことができる。
【0044】
また、本発明のガスシールド方法は、レーザメタルデポジションを用いた金属肉盛層の形成に好適に用いることができる。レーザメタルデポジションは原料となる金属粉末等をレーザによって溶融させ、任意の基材表面上に急冷凝固させて金属肉盛層を形成させる手法であることから、雰囲気中の酸素との反応が金属肉盛層の種々の特性に大きな影響を及ぼす。これに対し、本発明のガスシールド方法では処理領域への酸素の侵入を効率的に遮断できるだけでなく、必要に応じて、レーザメタルデポジション用のトーチ先端を処理領域に近接させることができる。
【0045】
2.二重ガスノズル
図2に、本発明の二重ガスノズルの一態様を示す模式図を示す。図2の模式図は縦断面図であり、内部を第一不活性ガスが流通するノズル内筒2と、ノズル内筒2の側面を囲繞して設けられ、ノズル内筒2との間に第二不活性ガスが流通する隙間を形成するノズル外筒4と、が備えられている。
【0046】
また、二重ガスノズル10の最大の特徴はノズル内筒2の底面とノズル外筒4の底面の位置関係であり、ノズル内筒2の底面がノズル外筒4の底面から突出している。ノズル内筒2とノズル外筒4は一体形状としてバルク体から削り出しで作製してもよく、ノズル内筒2とノズル外筒4を溶接や機械締結等によって接合してもよい(接合部は図示せず)。
【0047】
ノズル内筒2の底面とノズル外筒4の底面の距離は3mm以上であることが好ましい。ノズル内筒2の底面とノズル外筒4の底面の距離を3mm以上とすることで、優れたシールド効果とガスノズルの取り回し性を両立させることができる。ノズル内筒の底面とノズル外筒の底面の距離は5mm以上とすることがより好ましく、7.5mm以上とすることが最も好ましい。
【0048】
ノズル内筒2とノズル外筒4の間に有効な隙間(スリット)を形成させる観点から、ノズル外筒4の高さは少なくとも5mmは必要となる。即ち、例えば、ノズル内筒2の高さが30mmの場合、ノズル内筒2の底面とノズル外筒4の底面の距離の上限値は25mmとなる。
【0049】
ノズル内筒2及びノズル外筒4の素材は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、ガスノズルとして使用されている従来公知の種々の素材を用いることができる。例えば、ステンレス鋼を用いることで良好な耐食性を付与することができ、アルミニウム又はアルミニウム合金を用いることで軽量化することができる。
【0050】
図3に、レーザメタルデポジションに好適に用いることができる二重ガスノズルの一態様を示す模式図を示す。ノズル内筒2に粉末供給キャリアガスが流通する経路12が設けられている。ノズル内筒2に粉末共有キャリアガスが流通する経路12が設けられていることで、二重ガスノズル10をレーザメタルデポジションに用いることができる。より具体的には、ノズル内筒2から原料粉末を基板表面に供給しつつ、当該原料粉末にレーザを照射し、任意の積層造形体を形成することができる。加えて、レーザ照射によって温度が上昇した領域への酸素の侵入を効果的に抑制することができる。
【0051】
経路12の形状及び大きさは、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、原料粉末の種類、大きさ、形状及び所望の供給量等に応じて適宜調整すればよい。
【0052】
3.外付けノズル外筒
図4に、本発明の外付けノズル外筒の一態様を示す模式図を示す(側面図は概略断面図)。外付けノズル外筒20は、内部を第一不活性ガスが流通するノズル内筒2に装着する外付けノズル外筒であり、外筒部22、固定機構24及び位置調整機構26を有している。
【0053】
固定機構24は、ノズル内筒2の側面を囲繞した状態で外付けノズル外筒20を固定し、ノズル内筒2との間に第二不活性ガスが流通する隙間を形成するための機構であり、簡単には、ネジを用いた固定機構とすることができる。例えば、ネジ止めする位置を調整することによって、ノズル内筒2の底面を外付けノズル外筒20の底面から突出させることができる。
【0054】
また、外筒部22は位置調整機構26の外周面を上下に移動させることができる。その結果、ノズル内筒2の底面とノズル外筒4の底面の距離を任意の値に設定することができる。外筒部22を位置調整機構26の外周面に沿って上下に移動させる方法は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されないが、例えば、外筒部22の内面と位置調整機構26の外周面にネジ溝を形成させ、外筒部22を当該ネジ溝に沿って回転させることで、上下に移動させることができる。また、外筒部22の内面と位置調整機構26の外周面を摩擦力によって固定し、外力を印加することで外筒部22の位置を調整してもよい。ここで、外筒部22が移動可能な距離を十分に確保することで、ノズル内筒2の底面とノズル外筒4の底面との距離が3mm以上となるように調整できることが好ましい。
【0055】
図5に位置調整機構26の模式図、図6に位置調整機構26をノズル内筒2に取り付けた状態の模式図を示す(各側面図は概略断面図)。位置調整機構26は固定機構24を備えており、ノズル内筒2の任意の位置に固定することができる。また、位置調整機構26は内径調整機構30を有しており、ノズル内筒2の外径に応じて、位置調整機構26の内径を調整することができる。内径調整機構30は位置調整機構26の最内周に設置できる円環状の部材であればよく、例えば、円環状の弾性体を用いることができる。太さの異なる円環状の弾性体を用いることで、位置調整機構26の内径を任意の値とすることができる。
【0056】
図7に外付けノズル外筒20をノズル内筒2に取り付けた状態の模式図を示す(各側面図は概略断面図)。外筒部22は位置調整機構26に連結されており、位置調整機構26の外周面を上下に移動できることから、ノズル内筒2の底面とノズル外筒4の底面の距離を任意の値に設定することができる。また、固定機構24及び位置調整機構26によって、ノズル内筒2の側面をノズル内筒2の側面を囲繞した状態で外付けノズル外筒20を固定し、ノズル内筒2との間に隙間を形成することで、図8に矢印で示すように、第二不活性ガスを流通させることができる。
【0057】
ノズル内筒2の長さが異なる場合において、ノズル内筒2の底面とノズル外筒4の底面の距離を制御する例を模式的に図9に示す。この場合、外筒部22を位置調整機構26の外周面に沿って上下に移動させることで、ノズル内筒2の底面とノズル外筒4の底面の距離を任意の値に設定することができる。ノズル内筒2の底面とノズル外筒4の底面との距離が3mm以上となるように調整できることが好ましい。
【0058】
ノズル内筒2の外径が異なる場合において、ノズル内筒2の底面とノズル外筒4の底面の距離を制御する例を模式的に図10に示す。この場合、内径調整機構30を用いて位置調整機構26の内径をノズル内筒2の外径に合せた後、位置調整機構26をノズル内筒2に固定する。当該状態において、外筒部22を位置調整機構26の外周面に沿って上下に移動させることで、ノズル内筒2の底面とノズル外筒4の底面の距離を任意の値に設定することができる。ノズル内筒2の底面とノズル外筒4の底面との距離が3mm以上となるように調整できることが好ましい。
【0059】
外筒部22の素材は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、ガスノズルとして使用されている従来公知の種々の素材を用いることができる。例えば、ステンレス鋼を用いることで良好な耐食性を付与することができ、アルミニウム又はアルミニウム合金を用いることで軽量化することができる。
【0060】
以下、実施例によって本発明のガスシールド方法及び二重ガスノズル並びに外付けノズル外筒を更に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例0061】
<実施例1>
図11の断面模式図に示す態様でシールドガスを流通させ、酸素濃度計サンプリングノズルを用いて酸素濃度を測定した。レーザメタルデポジション用のガスシールドノズルを用い、ノズル内筒には原料粉末を供給するためのスリットが設けられている。また、ノズル内筒の側面を囲繞するようにノズル外筒を設け、ノズル内筒とノズル外筒の間に第二不活性ガスを噴出するための隙間を形成した。ノズル内筒の底面の外径を13.4mmとし、ノズル内筒とノズル外筒の間の隙間を1mmとした。
【0062】
ノズル内筒の底面はノズル外筒の底面から突出しており、ノズル内筒の高さを一定としてノズル外筒の高さを変化させることで、ノズル内筒の底面とノズル外筒の底面の距離を1mm、3mm、5mm、7.5mm、15mm、22.5mmとした。また、比較として、ノズル外筒を使用しない場合(第二不活性ガスを用いない場合)についても検討した。なお、図11には、高さの異なる各ノズル外筒を設置した場合を重畳して示している。
【0063】
ノズル内筒の内部から第一不活性ガスとしてアルゴンガスを20l/minで噴出させ、ノズル内筒のスリットからキャリアガスとしてアルゴンガスを7l/minで噴出させた。なお、ノズル内筒のスリットからはアルゴンガスを噴出させたのみであり、レーザメタルデポジション用の原料粉末は使用していない。ノズル外筒とノズル内筒の隙間から第二不活性ガスとしてアルゴンガスを10、20、30又は40l/minで流通させた。
【0064】
ノズル内筒の底面から酸素濃度計サンプリングノズル先端までの距離を13mmとし、酸素濃度計サンプリングノズルの先端の位置を変化させた。酸素濃度計サンプリングノズルがノズル内筒の中心軸に位置する場合を0mmとし、水平方向に1~5mmオフセットさせた場合の各位置における酸素濃度を計測した。
【0065】
第二不活性ガスの流量を20l/minとした場合の酸素濃度を図12、30l/minとした場合の酸素濃度を図13にそれぞれ示す。図中のプロットの近傍に記載した数値(mm)は、ノズル内筒の底面とノズル外筒の底面の距離である。図12及び図13の結果より、第二不活性ガスの流量に依らず、ノズル内筒の底面をノズル外筒の底面から突出させることで、ノズル内筒の底面とノズル外筒の底面を同じ位置とした場合と比較して、良好なシールド効果が得られていることが分かる。
【0066】
具体的には、外筒ノズルを使用しない場合、オフセット位置が2mmよりも大きくなるとシールド効果の低下に伴い酸素濃度が増加している。これに対し、内筒ノズルの底面を外筒ノズルの底面から突出させた場合はより低い酸素濃度を維持しており、特に、内筒ノズルの底面と外筒ノズルの底面の距離を3mm以上とすることによって、当該効果が顕著になっている。
【0067】
第二不活性ガスの流量に着目すると、内筒ノズルの底面と外筒ノズルの底面の距離が1mmの場合は当該流量の増加によってガスシールド効果が向上しているが、適当な距離を設定した場合、第二不活性ガスの流量を増加させてもガスシールド効果の向上は認められず、逆に当該効果が低下する傾向が認められる。
【0068】
各条件で測定された酸素濃度に関して、オフセットが5mmの場合における第二不活性ガスの流量と内筒ノズルの底面と外筒ノズルの底面との距離との関係を図14に示す。図中のプロットの近傍に記載した数値(mm)は、ノズル内筒の底面とノズル外筒の底面の距離である。ガスシールド領域の酸素濃度はノズル内筒の底面とノズル外筒の底面の距離とガス流量に影響を受け、これらの値によって制御できることが分かる。
【0069】
<実施例2>
酸素濃度計サンプリングノズルの先端部の周囲に平板を配置したこと以外は実施例1と同様にして、各位置における酸素濃度を計測した。当該状況の断面模式図を図15に示す。図15には、高さの異なる各ノズル外筒を設置した場合を重畳して示している。第二不活性ガスの流量は20l/minとした。なお、平板に貫通孔を設け、当該貫通孔に酸素濃度計サンプリングノズルを挿入して固定した。
【0070】
得られた酸素濃度を図16に示す。内筒ノズルの底面と外筒ノズルの底面の距離が小さい場合、オフセット量が小さい領域においてシールド効果がやや弱くなっているが、当該条件においても、オフセット量が大きい領域では第二不活性ガスの流通によるシールド効果の向上が認められる。また、内筒ノズルの底面と外筒ノズルの底面の距離を7.5mm以上とした場合は、全ての位置において顕著なシールド効果の向上が認められる。なお、内筒ノズルの底面と外筒ノズルの底面の距離が3mmと5mmの場合、オフセット量5~15mmの酸素濃度が高くなっている。これは、内筒ノズルの底面と外筒ノズルの底面の距離が5mm以下の場合、第一不活性の噴出直後の流れが第二不活性ガスによって乱されることを示唆している。
【0071】
<実施例3>
ガスシールドノズルを20°傾斜させたこと以外は実施例2と同様にして、各位置における酸素濃度を計測した。当該状況の断面模式図を図17に示す。内筒ノズルの底面と外筒ノズルの底面の距離は15mmとし、第二不活性ガスの流量は20l/minとした。また、比較として、外筒ノズルを用いない場合(第二不活性ガスを噴出させない場合)の酸素濃度も計測した。
【0072】
得られた酸素濃度を図18に示す。全ての位置において、第二不活性ガスを噴出させた場合の酸素濃度が低くなっており、当該酸素濃度は内筒ノズルの底面と外筒ノズルの底面の距離の増加に伴って低くなっている。特に、オフセット量が±5mm程度までの領域においては、0.3%以下の酸素濃度となっている。
【0073】
また、酸素濃度の分布はオフセットの+側と-側で異なっており、-側におけるシールド効果がより高くなっている。後退角を設けた溶接時において、図18の-側は溶接後に相当することから、ガスシールドノズルに後退角を設けることで、溶接部の冷却過程においてより良好なシールド効果を得ることができる。
【0074】
<実施例4>
実施例1と同様のガスシールドノズルを用い、3mm×50mm×100mmの純チタン板に対してビードオンプレートにてレーザ溶接を行った。レーザ溶接にはφ0.6mmコアファイバーに高出力半導体レーザをカップリングした産業用レーザ光源を用いた。当該レーザの波長は940~1060nmである。純チタン板表面におけるレーザビーム径はφ2.5mmとし、ノズル内筒の内部から第一不活性ガスとしてアルゴンガスを20l/minで噴出させ、ノズル内筒のスリットからキャリアガスとしてアルゴンガスを7l/minで噴出させた。なお、ノズル内筒のスリットからはアルゴンガスを噴出させたのみであり、レーザメタルデポジション用の原料粉末は使用していない。その他のガスシールド条件及びレーザ溶接条件を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
得られた各レーザ溶接部のビード色を目視で確認した。得られた結果を表1に示す。また、各レーザ溶接部の外観写真及びその拡大写真を図19及び図20にそれぞれに示す。図中に示している数字は実験番号である。酸化が最も抑制された場合は「銀色」となり、本発明のガスシールド方法を用いることで、効果的に酸化が抑制されていることが分かる。
【0077】
本発明のガスシールド方法によるチタン溶接部の酸化抑制効果をより詳細に検討するために、株式会社計算力学センター製のソフトウェア(Quick Welder)を用いて、純チタンのレーザ溶接中の温度分布を計算した。当該計算には一般社団法人日本チタン協会が公開している純チタンの物性値(比重:4510kg/m、比熱:519J/kg・K、熱伝導率:17.0W/m・K)を用い、レーザ光吸収率を50%とした。レーザ溶接条件は、レーザ出力を1.5kW、レーザ走査速度を3.0m/min又は3.5m/min、ビーム径をφ5mmとした。また、レーザ溶接中の冷却条件は、溶接部の裏面は冷却、その他の領域は放冷とした。
【0078】
レーザ走査速度を3.0m/minとした場合及び3.5m/minとした場合のシミュレーション結果を図21及び図22にそれぞれ示す。溶接部の温度分布は3色で示されており、中心領域は1050℃以上、中間領域は700℃以上、最外縁領域は350℃以上となっている。即ち、何れのレーザ走査速度の場合においても、1050℃以上の高温になっている領域の最大径は10mm程度であり、例えば、図18から、当該領域の酸素濃度は極めて低い値となっていることが分かる。また、350℃以上の領域においても十分なシールド効果が得られている。これらの結果、図19及び図20に示されているように、酸化されやすいチタン材の溶接であっても、本発明のガスシールド方法を用いることで良好な接合部を得ることができる。
【符号の説明】
【0079】
2・・・ノズル内筒、
4・・・ノズル外筒、
6・・・基材、
8・・・障害物、
10・・・二重ガスノズル、
12・・・経路、
20・・・外付けノズル外筒、
22・・・外筒部、
24・・・固定機構、
26・・・位置調整機構、
30・・・内径調整機構。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22