(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077986
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】光ファイバ用母材、光ファイバ用母材の製造方法、及び光ファイバの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/012 20060101AFI20240603BHJP
C03B 37/027 20060101ALI20240603BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
C03B37/012 A
C03B37/027
G02B6/02 466
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190262
(22)【出願日】2022-11-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人情報通信研究機構、「高度通信・放送研究開発委託研究/マルチコアファイバの実用化加速に向けた研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100143764
【弁理士】
【氏名又は名称】森村 靖男
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 翼
(72)【発明者】
【氏名】梶川 翔太
(72)【発明者】
【氏名】竹永 勝宏
【テーマコード(参考)】
2H250
4G021
【Fターム(参考)】
2H250AA53
2H250AB04
2H250AB05
2H250AB10
2H250AC64
2H250AC94
2H250AC95
4G021BA02
4G021BA04
4G021HA00
(57)【要約】
【課題】 クラッドの外周面の円形からの歪みが抑制された光ファイバを製造し得る光ファイバ用母材を提供する。
【解決手段】 マルチコアファイバ用母材1Pのクラッドロッド20Pには、特定領域ARに重心が位置し、断面積が挿入用貫通孔20Hを形成するクラッドロッド20Pの内周面と挿入用貫通孔20Hに挿入されるコアロッド10Pの外周面との隙間の断面積の0.5倍以上2倍以下である調整用貫通孔20Aが形成され、特定領域ARは、一対の挿入用貫通孔20Hに接する共通外接線ECTと、クラッドロッド20Pの中心20PCを通り一対の挿入用貫通孔20Hに接する一対の中心通過接線CPTと、クラッドロッド20Pの外周面において、一対の中心通過接線CPTで挟まれる外周線部分POCと、で囲われる領域である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の挿入用貫通孔を有するクラッドロッドと、
前記挿入用貫通孔に挿入される複数のガラスロッドと、
を備え、
前記クラッドロッドは、特定領域に重心が位置し、断面積が前記挿入用貫通孔を形成する前記クラッドロッドの内周面と当該挿入用貫通孔に挿入される前記ガラスロッドの外周面との隙間の断面積の0.5倍以上2倍以下である調整用貫通孔を有し、
前記特定領域は、前記クラッドロッドにおいて、互いに隣り合う一対の前記挿入用貫通孔に前記クラッドロッドの外周側で接する共通外接線と、前記クラッドロッドの中心を通ると共に、前記中心と前記共通外接線との間において一対の前記挿入用貫通孔に互いに向かい合う側で接する一対の中心通過接線と、前記クラッドロッドの外周面において、一対の前記中心通過接線で挟まれ、前記共通外接線に対向する外周線部分と、で囲われる領域である
ことを特徴とする光ファイバ用母材。
【請求項2】
前記特定領域に前記調整用貫通孔の全体が位置する
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ用母材。
【請求項3】
前記外周線部分の中点に内接し前記調整用貫通孔の前記断面積と同じ面積を有する仮想円に外接し前記クラッドロッドの前記中心を中心とする仮想円の内側に前記調整用貫通孔の重心が位置する
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ用母材。
【請求項4】
前記重心は、前記クラッドロッドの前記中心と前記外周線部分の中点とを通る直線上に位置する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光ファイバ用母材。
【請求項5】
前記調整用貫通孔は複数の貫通孔から成る
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光ファイバ用母材。
【請求項6】
少なくとも2つの前記貫通孔は、前記クラッドロッドの前記中心を中心とする仮想円上に位置する
ことを特徴とする請求項5に記載の光ファイバ用母材。
【請求項7】
複数の挿入用貫通孔を有するクラッドロッドの前記挿入用貫通孔にガラスロッドを挿入する挿入工程を備え、
前記クラッドロッドは、特定領域に重心が位置し、断面積が前記挿入用貫通孔を形成する前記クラッドロッドの内周面と当該挿入用貫通孔に挿入される前記ガラスロッドの外周面との隙間の断面積の0.5倍以上2倍以下である調整用貫通孔を有し、
前記特定領域は、前記クラッドロッドにおいて、互いに隣り合う一対の前記挿入用貫通孔に前記クラッドロッドの外周側で接する共通外接線と、前記クラッドロッドの中心を通ると共に、前記中心と前記共通外接線との間において一対の前記挿入用貫通孔に互いに向かい合う側で接する一対の中心通過接線と、前記クラッドロッドの外周面において、一対の前記中心通過接線で挟まれ、前記共通外接線に対向する外周線部分と、で囲われる領域である
ことを特徴とする光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の光ファイバ用母材の製造方法で製造された光ファイバ用母材を線引きする線引工程を備える
ことを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の光ファイバ用母材の製造方法で製造された光ファイバ用母材をコラプスして光ファイバ中間体とするコラプス工程と、
前記光ファイバ中間体を線引きする線引工程を備える
ことを特徴とする光ファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ用母材、光ファイバ用母材の製造方法、及び光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光ファイバ通信システムの普及に伴い、光ファイバによって伝送される情報量が飛躍的に増大している。このような背景から、複数のコアの外周が1つのクラッドにより囲まれたマルチコアファイバが用いられている。マルチコアファイバは複数のコアのそれぞれを伝搬する光により複数の信号を伝送させることができるので、1つの光ファイバ当たりの伝送容量が増大される。
【0003】
下記特許文献1には、マルチコアファイバの製造方法が記載されている。特許文献1では、マルチコアファイバのクラッドとなるクラッドロッドに形成された複数の貫通孔にコアロッドを挿入し、クラッドロッド、コアロッド間を一体化させ、線引きする。さらに、特許文献1には、偏波保持ファイバの製造方法が記載されている。この偏波保持ファイバの製造方法では、偏波保持ファイバのクラッドとなるクラッドロッドに形成された一対の貫通孔に応力付与部となる応力付与ロッドを挿入し、クラッドロッド、応力付与ロッド間を一体化させ、線引きする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のマルチコアファイバや偏波保持ファイバといった光ファイバの製造方法のように、クラッドロッドの複数の貫通孔にガラスロッドを挿入する場合、クラッドロッドにおける貫通孔の内壁と、ガラスロッドの外周面との間に隙間が生じる。この隙間は、光ファイバ用母材が光ファイバとなるまでに潰される。従って、ガラスロッドが挿入される貫通孔と対向するクラッドロッドの外周面の部位は、隙間が潰れる分、他の位置よりも内側に移動し易く、クラッドの外周面の断面形状の円形からの歪みが大きくなり易い。このため、光ファイバの直径の計測を安定して行うことが難しい。光ファイバを製造する際、一般的に光ファイバの直径を計測しながら線引きを行い、計測された直径から線引きの速度が調整される。よって、クラッド断面形状が円形から歪んでいる場合、光ファイバ製造時の外径変動が大きくなってしまう。このため、クラッド外周面の断面形状は円形に近いことが好ましい。
【0006】
そこで、本発明は、クラッドの外周面の円形からの歪みが抑制された光ファイバを製造し得る光ファイバ用母材、光ファイバ用母材の製造方法、及び光ファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の態様1は、複数の挿入用貫通孔を有するクラッドロッドと、前記挿入用貫通孔に挿入される複数のガラスロッドと、を備え、前記クラッドロッドは、特定領域に重心が位置し、断面積が前記挿入用貫通孔を形成する前記クラッドロッドの内周面と当該挿入用貫通孔に挿入される前記ガラスロッドの外周面との隙間の断面積の0.5倍以上2倍以下である調整用貫通孔を有し、前記特定領域は、前記クラッドロッドにおいて、互いに隣り合う一対の前記挿入用貫通孔に前記クラッドロッドの外周側で接する共通外接線と、前記クラッドロッドの中心を通ると共に、前記中心と前記共通外接線との間において一対の前記挿入用貫通孔に互いに向かい合う側で接する一対の中心通過接線と、前記クラッドロッドの外周面において、一対の前記中心通過接線で挟まれ、前記共通外接線に対向する外周線部分と、で囲われる領域であることを特徴とする光ファイバ用母材である。
【0008】
このような光ファイバ用母材によれば、光ファイバ用母材から光ファイバが製造される過程において、クラッドロッドにおける挿入用貫通孔の内壁とガラスロッドの外周面との隙間が潰れる。また、調整用貫通孔も潰れる。この調整用貫通孔は、重心が特定領域に位置し、断面積が上記隙間の断面積の0.5倍以上2倍以下の貫通孔である。このため、挿入用貫通孔と対向するクラッドロッドの外周面の部位が内側に移動し、特定領域におけるクラッドロッドの外周面の少なくとも一部も内側に移動する。従って、本発明の光ファイバ用母材によれば、クラッドロッドが調整用貫通孔を有さない場合と比べて、クラッドの外周面の円形からの歪みが抑制された光ファイバを製造し得る。
【0009】
本発明の態様2は、前記特定領域に前記調整用貫通孔の全体が位置することを特徴とする態様1の光ファイバ用母材である。
【0010】
この光ファイバ用母材によれば、クラッドの外周面の変形からの歪みがより抑制された光ファイバを製造し得る。
【0011】
本発明の態様3は、前記外周線部分の中点に内接し前記調整用貫通孔の前記断面積と同じ面積を有する仮想円に外接し前記クラッドロッドの前記中心を中心とする仮想円の内側に前記調整用貫通孔の重心が位置することを特徴とする態様1または2の光ファイバ用母材である。
【0012】
この光ファイバ用母材によれば、調整用貫通孔が潰れることによりクラッドの外周面が変形する場合であっても、調整用貫通孔の重心がクラッドロッドの中心側に位置するため、当該変形を緩やかにし得る。
【0013】
本発明の態様4は、前記重心は、前記クラッドロッドの前記中心と前記外周線部分の中点とを通る直線上に位置することを特徴とする態様1から3のいずれかの光ファイバ用母材である。
【0014】
この光ファイバ用母材によれば、調整用貫通孔が潰れることによりクラッドの外周面が変形する場合であっても、変形を一対の挿入用貫通孔に対して、概ね対称にし得る。
【0015】
本発明の態様5は、前記調整用貫通孔は複数の貫通孔から成ることを特徴とする態様1から4のいずれかの光ファイバ用母材である。
【0016】
この光ファイバ用母材によれば、調整用貫通孔が潰れることによりクラッドの外周面が変形する場合であっても、変形を分散させ得、当該変形を緩やかにし得る。
【0017】
本発明の態様6は、少なくとも2つの前記貫通孔は、前記クラッドロッドの前記中心を中心とする仮想円上に位置することを特徴とする態様5の光ファイバ用母材である。
【0018】
この光ファイバ用母材によれば、仮想円上に配置される貫通孔が潰れることによりクラッドの外周面が変形する場合であっても、当該貫通孔の潰れによる変形の度合いを概ね一定にし得、全体として変形を緩やかにし得る。
【0019】
本発明の態様7は、複数の挿入用貫通孔を有するクラッドロッドの前記挿入用貫通孔にガラスロッドを挿入する挿入工程を備え、前記クラッドロッドは、特定領域に重心が位置し、断面積が前記挿入用貫通孔を形成する前記クラッドロッドの内周面と当該挿入用貫通孔に挿入される前記ガラスロッドの外周面との隙間の断面積の0.5倍以上2倍以下である調整用貫通孔を有し、前記特定領域は、前記クラッドロッドにおいて、互いに隣り合う一対の前記挿入用貫通孔に前記クラッドロッドの外周側で接する共通外接線と、前記クラッドロッドの中心を通ると共に、前記中心と前記共通外接線との間において一対の前記挿入用貫通孔に互いに向かい合う側で接する一対の中心通過接線と、前記クラッドロッドの外周面において、一対の前記中心通過接線で挟まれ、前記共通外接線に対向する外周線部分と、で囲われる領域であることを特徴とする光ファイバ用母材の製造方法である。
【0020】
このような光ファイバ用母材の製造方法によれば、態様1と同様にして、クラッドロッドが調整用貫通孔を有さない場合と比べて、クラッドの外周面の変形からの歪みが抑制された光ファイバを製造し得る光ファイバ用母材を製造することができる。
【0021】
本発明の態様8は、態様7の光ファイバ用母材の製造方法で製造された光ファイバ用母材を線引きする線引工程を備えることを特徴とする光ファイバの製造方法である。
【0022】
本発明の態様9は、態様7の光ファイバ用母材の製造方法で製造された光ファイバ用母材をコラプスして光ファイバ中間体とするコラプス工程と、前記光ファイバ中間体を線引きする線引工程を備えることを特徴とする光ファイバの製造方法である。
【0023】
これらの光ファイバの製造方法によれば、態様1と同様にして、クラッドロッドが調整用貫通孔を有さない場合と比べて、クラッドの外周面の変形からの歪みが抑制された光ファイバを製造し得る。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明によれば、クラッドの外周面の円形からの歪みが抑制された光ファイバを製造し得る光ファイバ用母材、光ファイバ用母材の製造方法、及び光ファイバの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1実施形態にかかる光ファイバの長手方向に垂直な断面を示す図である。
【
図2】
図1の光ファイバを製造するための光ファイバ用母材を示す図である。
【
図3】
図2の光ファイバ用母材、及び
図1の光ファイバを製造するためのフローチャートを示す図である。
【
図6】本発明の第2実施形態にかかる光ファイバの長手方向に垂直な断面を示す図である。
【
図7】
図6の光ファイバを製造するための光ファイバ用母材を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る光ファイバ用母材、光ファイバ用母材の製造方法、及び光ファイバの製造方法の好適な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。以下に例示する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、実施形態から変更、改良することができる。なお、理解の容易のため、それぞれの図のスケールと、以下の説明に記載のスケールとが異なる場合がある。
【0027】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係る光ファイバの長手方向に垂直な断面を示す図である。本実施形態では、光ファイバとしてマルチコアファイバを例に説明する。本実施形態のマルチコアファイバ1は、複数のコア10、それぞれのコア10の外周面を隙間なく囲むクラッド20、クラッド20の外周面を被覆する内側被覆層31、内側被覆層31の外周面を被覆する外側被覆層32を備える。
図1の例では、コア10が4つの例が示されている。
【0028】
クラッド20の長手方向に垂直な断面における外径は、概ね円形である。本実施形態では、それぞれのコア10間の距離は互いに等しく、それぞれのコア10はクラッド20の中心20Cを中心として概ね4回回転対称となる位置に配置されている。従って、それぞれのコア10の中心20Cからの距離は概ね同じである。コア10の直径は、例えば4μm以上10μm以下である。
【0029】
それぞれのコア10の屈折率はクラッド20の屈折率よりも高く、それぞれのコア10のクラッド20に対する比屈折率差は、例えば0.2%以上2.0%以下である。このようなコア10は、例えば、ゲルマニウム等の屈折率が高くなるドーパントが添加されたシリカガラスから成り、クラッド20は、例えば、ドーパントが添加されていないシリカガラスから成る。また、コア10が何らドーパントを添加されていないシリカガラスから成り、クラッド20がフッ素等の屈折率が低くなるドーパントが添加されたシリカガラスから成る構成であってもよい。
【0030】
内側被覆層31及び外側被覆層32はそれぞれ紫外線硬化性樹脂等の樹脂から成り、内側被覆層31及び外側被覆層32は互いに異なる樹脂から成る。
【0031】
次に、
図1のマルチコアファイバ1を製造するためのマルチコアファイバ用母材について説明する。
【0032】
図2は、
図1のマルチコアファイバ1を製造するためのマルチコアファイバ用母材の長手方向に垂直な断面の様子を示す図である。マルチコアファイバ用母材1Pは、クラッドロッド20Pと、複数のコアロッド10Pとを備える。なお、図を見やすくする観点から、
図2ではクラッドロッド20P及びコアロッド10Pを示すハッチングが省略されている。
【0033】
クラッドロッド20Pは、マルチコアファイバ1のクラッド20となり、外周の形状が概ね円形のガラスロッドである。クラッドロッド20Pは、複数の挿入用貫通孔20Hを有している。それぞれの挿入用貫通孔20Hの断面形状は円形であり、それぞれの挿入用貫通孔20Hの断面積は互いに概ね等しい。また、本実施形態では、それぞれの挿入用貫通孔20H間の距離は互いに概ね等しく、それぞれの挿入用貫通孔20Hはクラッドロッド20Pの中心20PCを中心として概ね4回回転対称となる位置に形成されている。従って、それぞれの挿入用貫通孔20Hの中心20PCからの距離は概ね同じである。
【0034】
それぞれの挿入用貫通孔20Hには、コアロッド10Pが挿入されている。それぞれのコアロッド10Pは、マルチコアファイバ1のコア10となる外周の形状が概ね円形のガラスロッドである。コアロッド10Pの直径は挿入用貫通孔20Hよりも小さい。従って、挿入用貫通孔20Hには、コアロッド10Pが挿入されている状態で、挿入用貫通孔20Hを形成するクラッドロッド20Pの内周面とコアロッド10Pの外周面との間に隙間が形成されている。それぞれのコアロッド10Pの断面積は互いに概ね等しい。従って、それぞれの挿入用貫通孔20Hの上記隙間の断面積は互いに概ね等しい。なお、コアロッド10Pは、コア10となるガラス体の外周面がクラッド20の一部となるガラス層で被覆された構成でもよい。
【0035】
ここで、クラッドロッド20Pにおいて、共通外接線ECTと、一対の中心通過接線CPTと、外周線部分POCで囲われる特定領域ARを規定する。
図2では、特定領域ARは、斜線で示されており、1つの特定領域ARを規定するための共通外接線ECT、一対の中心通過接線CPT、及び外周線部分POCのみが記載されている。共通外接線ECTは、互いに隣り合う一対の挿入用貫通孔20Hにクラッドロッド20Pの外周側で接する接線である。中心通過接線CPTは、クラッドロッド20Pの中心20PCを通ると共に、挿入用貫通孔20Hに接する接線である。特定領域ARを規定する一対の中心通過接線CPTは、一対の挿入用貫通孔20Hの互いに向かい合う側において、挿入用貫通孔20Hに接する。中心通過接線CPTと挿入用貫通孔20Hとの接点は、中心20PCと共通外接線ECTとの間となる。外周線部分POCは、クラッドロッド20Pの外周面において、一対の中心通過接線CPTで挟まれ、共通外接線ECTに対向する部分である。なお、
図2では、外周線部分POCを視認できるよう、外周線部分POCを示す破線が、クラッドロッド20Pの外周面より僅かに内側に記載されている。
【0036】
クラッドロッド20Pは、上記のように規定される特定領域ARに、調整用貫通孔20Aを有している。本実施形態では、調整用貫通孔20Aは、断面積が互いに等しい2つの貫通孔20A1から成っている。2つの貫通孔20A1の全体が特定領域AR内に位置している。つまり、本実施形態では、調整用貫通孔20Aの全体が特定領域AR内に位置している。従って、調整用貫通孔20Aの重心も特定領域AR内に位置している。また、本実施形態の2つの貫通孔20A1は、クラッドロッド20Pの中心20PCを中心とする仮想円20CR上に形成されている。また、本実施形態の2つの貫通孔20A1は、クラッドロッド20Pの中心20PCと外周線部分POCの中点とを通る直線BST上を基準として対称の位置に形成されている。従って、調整用貫通孔の重心は、直線BST上に位置している。ここで、外周線部分POCの中点に内接し、調整用貫通孔20Aの断面積と同じ面積を有する仮想円20CSを想定する。
図2では、20CSは一点鎖線で示されている。さらに、仮想円20CSに外接し、クラッドロッド20Pの中心20PCを中心とする仮想円20CLを想定する。本実施形態の2つの貫通孔20A1は、この仮想円20CLの内側に位置している。つまり、調整用貫通孔20Aの重心を含む全体が仮想円20CLの内側に位置している。ただし、調整用貫通孔20Aの重心を含む全体が仮想円20CLの内側に位置している構成に限定されず、調整用貫通孔20Aの重心が仮想円20CLの内側に位置し、調整用貫通孔20Aの一部が仮想円20CLの外側に位置してもよい。
【0037】
挿入用貫通孔20Hと異なり、調整用貫通孔20Aには、ガラスロッドが挿入されていない。
【0038】
2つの貫通孔20A1の断面積を合わせた調整用貫通孔20Aの断面積は、挿入用貫通孔20Hを形成するクラッドロッド20Pの内周面と挿入用貫通孔20Hに挿入されるガラスロッドであるコアロッド10Pの外周面との隙間の断面積の0.5倍以上2倍以下である。
【0039】
次に、
図1のマルチコアファイバ用母材1P及びマルチコアファイバ1を製造する製造方法について説明する。
【0040】
図3は、
図2のマルチコアファイバ用母材1P、及び
図1のマルチコアファイバ1を製造するためのフローチャートを示す図である。
図3に示すように、本実施形態のマルチコアファイバ用母材1Pの製造方法は、準備工程P1、及び挿入工程P2を含み、マルチコアファイバ1の製造方法は、これらに線引工程P3を更に含む。
【0041】
(準備工程P1)
本工程は、複数の挿入用貫通孔20H及び調整用貫通孔20Aを有しマルチコアファイバ1のクラッド20となるクラッドロッド20P、及び挿入用貫通孔20Hに個別に挿入可能でありマルチコアファイバ1のコア10となる複数のコアロッド10Pを準備する工程である。
図4は、準備工程後の様子を示す図である。
図4に示すように、コアロッド10Pの数は、挿入用貫通孔20Hの数と同じである。また、本実施形態では、クラッドロッド20Pの長さとコアロッド10Pの長さとが互いに等しい。本工程では、コアロッド10P及びクラッドロッド20Pを製造により準備しても、購入により準備してもよい。
【0042】
(挿入工程P2)
本工程は、コアロッド10Pを挿入用貫通孔20Hに挿入する工程である。本工程により、
図2に示すマルチコアファイバ用母材1Pを得る。この状態において、挿入用貫通孔20Hを形成するクラッドロッド20Pの内周面と挿入用貫通孔20Hに挿入されるコアロッド10Pの外周面との間には隙間が生じている。
【0043】
(線引工程P3)
本工程は、マルチコアファイバ用母材1Pを線引してマルチコアファイバ1を製造する工程である。
図5は、本工程を示す図である。本工程では、まず、マルチコアファイバ用母材1Pの一方の端部にダミーガラスを溶着し、他方の端部にガラス管を溶着する。そして、マルチコアファイバ用母材1Pを紡糸炉110に設置して、ガラス管を介して、クラッドロッド20Pの各貫通孔内を脱気する。次に、紡糸炉110の加熱部111によりマルチコアファイバ用母材1Pを加熱する。この加熱により、マルチコアファイバ用母材1Pの下端は溶融状態となり、マルチコアファイバ用母材1Pからガラスが線引きされる。このとき、挿入用貫通孔20Hの隙間が潰されると共に、調整用貫通孔20Aが潰される。線引きされた溶融状態のガラスは、紡糸炉110から出ると、すぐに固化して、それぞれのコアロッド10Pがそれぞれのコア10となり、クラッドロッド20Pがクラッド20となる。このようにして、複数のコア10及びクラッド20によって構成されるマルチコアファイバの裸線が得られる。その後、このマルチコアファイバの裸線は、冷却装置120を通過して、適切な温度まで冷却される。冷却されたマルチコアファイバの裸線は、コーティング装置130を通過して、内側被覆層31及び外側被覆層32が形成され、
図1に示すマルチコアファイバ1となる。そして、マルチコアファイバ1は、ターンプーリー141により方向が変換され、リール142により巻取られる。こうして、マルチコアファイバ1は製造される。
【0044】
以上説明したように、本実施形態の光ファイバ用母材であるマルチコアファイバ用母材1Pでは、クラッドロッド20Pが、特定領域ARに重心が位置し、断面積が挿入用貫通孔20Hを形成するクラッドロッド20Pの内周面と挿入用貫通孔20Hに挿入されるガラスロッドであるコアロッド10Pの外周面との隙間の断面積の0.5倍以上2倍以下である調整用貫通孔20Aを有している。
【0045】
このマルチコアファイバ用母材1Pによれば、マルチコアファイバ用母材1Pからマルチコアファイバ1が製造される過程において、クラッドロッド20Pにおける挿入用貫通孔20Hの内壁とコアロッド10Pの外周面との隙間が潰れる。このため、調整用貫通孔20Aが設けられない場合、製造されるマルチコアファイバ1のクラッド20の外周面の断面の形状は、四角形に近くなり、円形からの歪みが大きい傾向にある。しかし、本実施形態のマルチコアファイバ用母材1Pでは、クラッドロッド20Pが調整用貫通孔20Aを有するため、調整用貫通孔20Aも潰れる。この調整用貫通孔20Aは、重心が特定領域に位置し、断面積が上記隙間の0.5倍以上2倍以下の貫通孔ある。従って、挿入用貫通孔20Hと対向するクラッドロッド20Pの外周面が内側に移動すると共に、特定領域ARにおけるクラッドロッド20Pの外周面の少なくとも一部が内側に移動する。従って、本実施形態のマルチコアファイバ用母材1P、マルチコアファイバ用母材1Pの製造方法、及びマルチコアファイバ1の製造方法によれば、クラッドロッド20Pが調整用貫通孔20Aを有さない場合と比べて、クラッド20の外周面の円形からの歪みが抑制されたマルチコアファイバ1を製造し得る。
【0046】
また、本実施形態のマルチコアファイバ用母材1Pでは、特定領域ARに調整用貫通孔20Aの全体が位置している。このため、調整用貫通孔20Aの一部が特定領域ARの外に位置する場合と比べて、クラッドの外周面の変形からの歪みがより抑制された光ファイバを製造し得る。
【0047】
また、本実施形態のマルチコアファイバ用母材1Pでは、外周線部分POCの中点に内接し調整用貫通孔20Aの断面積と同じ面積を有する仮想円20CSに外接しクラッドロッド20Pの中心20PCを中心とする仮想円20CLの内側に調整用貫通孔20Aの全体が位置している。このため、仮想円20CLよりも外側に調整用貫通孔20Aが形成される場合と比べて、調整用貫通孔20Aの重心がクラッドロッド20Pの中心20PC側に位置するため、調整用貫通孔20Aが潰れることによりクラッド20の外周面が変形する場合であっても、当該変形を緩やかにし得る。
【0048】
また、本実施形態のマルチコアファイバ用母材1Pでは、調整用貫通孔20Aの重心は、クラッドロッド20Pの中心20PCと外周線部分POCの中点とを通る直線BST上に位置している。このため、調整用貫通孔20Aが潰れることによりクラッドの外周面が変形する場合であっても、当該変形を一対の挿入用貫通孔20Hに対して、概ね対称にし得る。
【0049】
また、本実施形態のマルチコアファイバ用母材1Pでは、調整用貫通孔20Aは複数の貫通孔20A1から成っている。このため、調整用貫通孔20Aが潰れることによりクラッド20の外周面が変形する場合であっても、変形を分散させ得、当該変形を緩やかにし得る。なお、調整用貫通孔20Aが複数の貫通孔20A1から成っている場合、調整用貫通孔20Aの断面積は、それぞれの貫通孔の断面積の合計である。
【0050】
また、本実施形態のマルチコアファイバ用母材1Pでは、2つの貫通孔20A1は、クラッドロッド20Pの中心20PCを中心とする仮想円20CR上に位置している。このため、仮想円20CR上に配置される貫通孔20A1が潰れることによりクラッド20の外周面が変形する場合であっても、当該貫通孔20A1の潰れによる変形の度合いを概ね一定にし得、全体として変形を緩やかにし得る。
【0051】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について
図6、
図7を参照して詳細に説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0052】
図6は、本実施形態に係る光ファイバの長手方向に垂直な断面を示す図である。本実施形態では、光ファイバとして偏波保持ファイバを例に説明する。
図6に示すように、偏波保持ファイバ2は、コア10が1つであり、当該コア10がクラッド20の中心20C上に位置し、クラッド20内にコア10を挟むように配置された一対の応力付与部12を含む。
【0053】
応力付与部12は、例えば、クラッド20と異なる熱膨張係数を有するガラスから構成され、コア10を挟むように配置する一対の応力付与部12からコア10に応力が付与される。一対の応力付与部12から引張応力や圧縮応力が加えられたコア10は、光弾性効果により複屈折率が誘起され、これらの互いに垂直な2つの方向の偏波モードで異なる伝搬定数を有する。
【0054】
このような応力付与部12を構成する材料としては、例えば、ホウ素等のドーパントが添加された石英ガラスを挙げることができる。
【0055】
図7は、
図6の偏波保持ファイバ2を製造するための光ファイバ用母材である偏波保持ファイバ用母材2Pの長手方向に垂直な断面の様子を示す図である。偏波保持ファイバ用母材2Pは、クラッドロッド20Pと、コアロッド10Pと一対の応力付与ロッド12Pとを備える。本例では、コアロッド10Pは、隙間なくクラッドロッド20Pで囲われている。なお、
図2と同様の理由から、
図7ではクラッドロッド20P、コアロッド10P、及び応力付与ロッド12Pを示すハッチングが省略されている。
【0056】
クラッドロッド20Pは、一対の挿入用貫通孔20Hを有している。本実施形態においても、一対の挿入用貫通孔20Hの断面形状は円形であり、それぞれの挿入用貫通孔20Hの断面積は互いに概ね等しい。本実施形態では、一対の挿入用貫通孔20Hは、コアを挟む位置に形成されている。具体的には、挿入用貫通孔20Hは、クラッドロッド20Pの中心20PCを基準に対称な位置に形成されている。従って、それぞれの挿入用貫通孔20Hの中心20PCからの距離は概ね同じである。
【0057】
それぞれの挿入用貫通孔20Hには、応力付与ロッド12Pが挿入されている。それぞれの応力付与ロッド12Pは、偏波保持ファイバ2の応力付与部12となる外周の形状が概ね円形のガラスロッドである。応力付与ロッド12Pの直径は挿入用貫通孔20Hよりも小さい。従って、挿入用貫通孔20Hには、応力付与ロッド12Pが挿入されている状態で、挿入用貫通孔20Hを形成するクラッドロッド20Pの内周面と応力付与ロッド12Pの外周面との間に隙間が形成されている。それぞれの応力付与ロッド12Pの断面積は互いに概ね等しい。従って、それぞれの挿入用貫通孔20Hの上記隙間の断面積は互いに概ね等しい。なお、応力付与ロッド12Pは、応力付与部12となるガラス体の外周面がクラッド20の一部となるガラス層で被覆された構成でもよい。
【0058】
本実施形態においても、第1実施形態と同様の共通外接線ECTと、一対の中心通過接線CPTと、外周線部分POCで囲われる特定領域ARを規定する。
図7では、1つの特定領域ARを規定するための共通外接線ECT、一対の中心通過接線CPT、及び外周線部分POCのみが記載されている。本実施形態の場合、共通外接線ECTは、一対の挿入用貫通孔20Hにクラッドロッド20Pの外周側で接する。
図7では、
図2と同様の理由から、外周線部分POCを示す破線が、クラッドロッド20Pの外周面より僅かに内側に記載されている。
【0059】
クラッドロッド20Pは、特定領域ARに、調整用貫通孔20Aを有している。本実施形態においても、第1実施形態と同様に調整用貫通孔20Aが2つの貫通孔20A1から成っている。貫通孔20A1の位置の説明は、第1実施形態と同様である。調整用貫通孔20Aには、ガラスロッドが挿入されていない。
【0060】
また、本実施形態においても、2つの貫通孔20A1の断面積を合わせた調整用貫通孔20Aの断面積は、挿入用貫通孔20Hを形成するクラッドロッド20Pの内周面と挿入用貫通孔20Hに挿入されるガラスロッドである応力付与ロッド12Pの外周面との隙間の断面積の0.5倍以上2倍以下である。
【0061】
本実施形態の偏波保持ファイバ用母材2Pの製造方法、及び、偏波保持ファイバ2の製造方法は、第1実施形態のマルチコアファイバ用母材1Pの製造方法、及び、マルチコアファイバ1の製造方法と概ね同様である。従って、第1実施形態のマルチコアファイバ用母材1Pの製造方法、及び、マルチコアファイバ1の製造方法の説明において、マルチコアファイバ1を偏波保持ファイバ2と読み替え、マルチコアファイバ用母材1Pを偏波保持ファイバ用母材2Pと読み替える。
【0062】
(準備工程P1)
本実施形態では、一対の挿入用貫通孔20H及び調整用貫通孔20Aを有し偏波保持ファイバ2のクラッド20となるクラッドロッド20P、及び挿入用貫通孔20Hに個別に挿入可能であり偏波保持ファイバ2の応力付与部12となる一対の応力付与ロッド12Pを準備する点で、第1実施形態の準備工程P1と異なる。本工程では、応力付与ロッド12P及びクラッドロッド20Pを製造により準備しても、購入により準備してもよい。
【0063】
(挿入工程P2)
本工程は、応力付与ロッド12Pを挿入用貫通孔20Hに挿入する点で、第1実施形態の挿入工程P2と異なる。
【0064】
(線引工程P3)
本工程は、偏波保持ファイバ用母材2Pを線引して偏波保持ファイバ2を製造する点で第1実施形態の線引工程P3と異なる。
【0065】
本実施形態の光ファイバ用母材である偏波保持ファイバ用母材2Pは、第1実施形態のマルチコアファイバ用母材1Pと同様にして、クラッドロッド20Pが、特定領域ARに重心が位置し、断面積が挿入用貫通孔20Hを形成するクラッドロッド20Pの内周面と挿入用貫通孔20Hに挿入されるガラスロッドである応力付与ロッド12Pの外周面との隙間の断面積の0.5倍以上2倍以下である調整用貫通孔20Aを有している。従って、本実施形態の偏波保持ファイバ用母材2P、偏波保持ファイバ用母材2Pの製造方法、及び偏波保持ファイバ2の製造方法によれば、調整用貫通孔20Aが形成されていない場合と比べて、クラッド20の外周面の円形からの歪みが抑制された偏波保持ファイバ2を製造し得る。
【0066】
以上、本発明について、実施形態を例に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0067】
例えば、第1実施形態では、コア10の数が4とされたが、クラッド20の中心20C以外に配置されるコア10が複数であれば、その数は特に限定されない。また、クラッド20の中心にコア10が配置されてもよい。
【0068】
上記実施形態では、光ファイバとしてマルチコアファイバ1、偏波保持ファイバ2を例に説明した。しかし、クラッドロッド20Pの中心20PC以外に形成された複数の挿入用貫通孔20Hに挿入されるガラスロッドは、光ファイバのクラッド20内における所定の部位となるガラスロッドであれば、コアロッド10Pや応力付与ロッド12Pに限定されない。
【0069】
また、上記実施形態では、特定領域ARに調整用貫通孔20Aの全体が位置する例で説明をした。しかし、本発明は、特定領域ARに調整用貫通孔20Aの重心が位置していれば良く、調整用貫通孔20Aの一部が特定領域ARの外に位置してもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、特定領域ARにおける仮想円20CLの内側に調整用貫通孔20Aの全体が位置する例で説明した。また、特定領域ARにおける仮想円20CLよりもクラッドロッド20Pの内側に調整用貫通孔20Aの重心が位置して、調整用貫通孔20Aの一部が仮想円20CLよりもクラッドロッド20Pの外側に位置してもよい旨の説明をした。しかし、本発明では、これらの説明と異なり、仮想円20CLよりもクラッドロッド20Pの外側に調整用貫通孔20Aの重心が位置してもよく、仮想円20CLよりもクラッドロッド20Pの外側に調整用貫通孔20Aの全体が位置してもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、調整用貫通孔20Aの重心がクラッドロッド20Pの中心20PCと外周線部分POCの中点とを通る直線BST上に位置する例で説明した。しかし、調整用貫通孔20Aの重心が直線BST上に位置しなくてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、調整用貫通孔20Aが2つの貫通孔20A1から成る例で説明した。しかし、調整用貫通孔20Aが3つ以上の貫通孔20A1から成ってもよく、調整用貫通孔20Aが1つの貫通孔から成ってもよい。調整用貫通孔20Aが1つの貫通孔から成る場合、例えば、上記実施形態に記載した2つの貫通孔20A1が繋がった形状であってもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、2つの貫通孔20A1は、クラッドロッド20Pの中心20PCを中心とする仮想円20CR上に位置する例で説明した。しかし、クラッドロッド20Pが複数の貫通孔20A1を有する場合に、複数の貫通孔20A1が共通の仮想円20CR上に位置しなくてもよい。すなわち、クラッドロッド20Pが複数の貫通孔20A1を有する場合に、クラッドロッド20Pの中心20PCから貫通孔20A1までの距離が、少なくとも2つの貫通孔20A1で互いに異なってもよい。また、調整用貫通孔20Aが3つ以上の貫通孔20A1から成る場合に、2以上の貫通孔20A1が共通の仮想円20CR上に位置することが好ましい。
【0074】
また、上記実施形態では、挿入工程P2の後に、マルチコアファイバ用母材1Pや偏波保持ファイバ用母材2Pを線引きして、マルチコアファイバ1や偏波保持ファイバ2を製造した。つまり、挿入用貫通孔20Hにガラスロッドが挿入され、挿入用貫通孔20H内に隙間がある状態の光ファイバ用母材を線引きして光ファイバを製造した。しかし、本発明は、これに限定されない。例えば、第1実施形態において、マルチコアファイバ用母材1Pをコラプスして、マルチコアファイバ用母材1Pの挿入用貫通孔20Hの隙間及び調整用貫通孔20Aを潰すコラプス工程を行い、マルチコアファイバ1の中間体である光ファイバ中間体を製造し、当該光ファイバ中間体を線引きする線引工程P3を行ってもよい。同様に第2実施形態において、偏波保持ファイバ用母材2Pをコラプスして、偏波保持ファイバ用母材2Pの挿入用貫通孔20Hの隙間及び調整用貫通孔20Aを潰すコラプス工程を行い、偏波保持ファイバ2の中間体である光ファイバ中間体を製造し、当該光ファイバ中間体を線引きする線引工程P3を行ってもよい。コラプス工程を有する場合には、線引工程P3の脱気は不要である。
【0075】
また、上記実施形態では、それぞれの挿入用貫通孔20Hの断面積が互いに等しく、挿入用貫通孔20Hに挿入されるコアロッド10Pや応力付与ロッド12Pの断面積が互いに等しい例で説明をした。そのため、挿入用貫通孔20Hの隙間の断面積も互いに等しい例で説明をした。しかし、互いに隣り合う挿入用貫通孔20Hの断面積が互いに異なったり、これら挿入用貫通孔20Hに挿入されるコアロッド10Pや応力付与ロッド12Pの断面積が互いに異なり、互いに隣り合う挿入用貫通孔20Hの隙間の断面積が互いに異なってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上説明したように、本発明によれば、クラッドの外周面の円形からの歪みが抑制された光ファイバを製造し得る光ファイバ用母材、光ファイバ用母材の製造方法、及び光ファイバの製造方法が提供され、光通信の分野や、その他光ファイバを利用したデバイスに利用することができる。
【符号の説明】
【0077】
1・・・マルチコアファイバ(光ファイバ)
2・・・偏波保持ファイバ(光ファイバ)
10・・・コア
12・・・応力付与部
20・・・クラッド
1P・・・マルチコアファイバ用母材(光ファイバ用母材)
2P・・・偏波保持ファイバ用母材(光ファイバ用母材)
10P・・・コアロッド(ガラスロッド)
12P・・・応力付与ロッド(ガラスロッド)
20P・・・クラッドロッド
20H・・・挿入用貫通孔
20A・・・調整用貫通孔
P1・・・準備工程
P2・・・挿入工程
P3・・・線引工程