(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000078
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物およびそれを用いた成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20231225BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20231225BHJP
C08G 63/183 20060101ALI20231225BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20231225BHJP
C08K 5/3435 20060101ALI20231225BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L63/00 A
C08G63/183
C08K3/013
C08K5/3435
C08K5/098
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098613
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小西 彬人
(72)【発明者】
【氏名】梅津 秀之
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4J002CD062
4J002CF071
4J002CF183
4J002CL063
4J002DA018
4J002DA098
4J002DC008
4J002DE078
4J002DE098
4J002DE108
4J002DE138
4J002DE148
4J002DE188
4J002DE238
4J002DG058
4J002DH048
4J002DJ008
4J002DJ018
4J002DJ028
4J002DJ038
4J002DJ048
4J002DJ058
4J002DK008
4J002DL008
4J002DM008
4J002EG027
4J002EG037
4J002EU076
4J002EU086
4J002EU186
4J002FA018
4J002FA043
4J002FA048
4J002FA088
4J002FD013
4J002FD018
4J002FD022
4J002FD046
4J002FD066
4J002FD202
4J002FD207
4J002GC00
4J002GG01
4J002GL00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
4J002GQ01
4J029AA03
4J029AB02
4J029AB07
4J029AC01
4J029AE01
4J029BA05
4J029CB06A
4J029FA02
4J029FA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】流動性、高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性に優れるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得ること。
【解決手段】炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールが化合したポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、該(A)成分100重量部に対して、フェノール-ジシクロペンタジエン型アラルキル樹脂もしくはフェノール-ビフェニル型アラルキル樹脂のグリシジルエーテル(B)を0.05~5重量部を配合してなり、脂肪族アルコール由来の脂肪族基濃度X(mmol/g)に対する、カルボキシル基濃度Y(mmol/g)の比(Y/X)が1以下、かつエポキシ基濃度Z(mmol/g)に対する、前記カルボキシル基濃度Yの比(Y/Z)が1以下であることを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールが化合したポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、該(A)成分100重量部に対して、下記一般式(1)で表されるノボラック型エポキシ樹脂(B)を0.05~5重量部を配合してなり、脂肪族アルコール由来の脂肪族基濃度X(mmol/g)に対する、カルボキシル基濃度Y(mmol/g)の比(Y/X)が1以下、かつエポキシ基濃度Z(mmol/g)に対する、前記カルボキシル基濃度Yの比(Y/Z)が1以下であることを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【化1】
(上記一般式(1)中、Xは上記一般式(2)または一般式(3)で表される二価の基を表す。上記一般式(1)および(3)中、R
1、R
2、R
4およびR
5はそれぞれ独立に炭素数1~8のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表し、それぞれ同一でも異なってもよい。R
3は水素原子、炭素数1~8のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表す。上記一般式(1)中、nは1から10の整数を表す。上記一般式(1)および(3)中、a、c、dはそれぞれ独立に0~4の整数を表し、bは0~3の整数を表す。)
【請求項2】
前記炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールが、その炭素鎖において分岐構造を有する飽和脂肪族アルコールである、請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、ヒンダードアミン化合物(C)0.001~1重量部を配合してなる、請求項1または2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
前記ヒンダードアミン化合物(C)が、一般式(4)で表される2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル構造を有するヒンダードアミンである請求項3に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【化2】
【請求項5】
さらに、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、炭素数12以上の脂肪酸金属塩(D)を0.01~1重量部配合してなる、請求項1~4のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、無機充填材(E)1~100重量部を配合してなる請求項1~5のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を溶融成形してなる成形品。
【請求項8】
電気・電子部品の筐体として用いられる、請求項7に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物およびそれを成形してなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、その優れた射出成形性や機械物性などの諸特性を生かし、機械機構部品、電気・電子部品および自動車部品などの幅広い分野に利用されている。近年では、成形品の小型化とともに、薄肉化・軽量化に対する要求が高まっており、流動性に優れた材料が求められている。また、薄肉成形品を得るために成形温度を高温として成形することがあるが、成形温度を高温とした場合、溶融滞留時の粘度変化が大きく、成形時にバリやショートショットなど成形不具合が発生するため、溶融滞留時の粘度変化の少ない、成形安定性に優れた材料が求められている。さらに、成形品は異なる厚みを有するような複雑な形状となってきており、複雑な形状でも成形上の不具合がない成形安定性に優れた材料が求められている。
【0003】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の流動性を改善する手法としては、末端基の水酸基濃度を一定以下として溶融粘度を低下させる手法(例えば、特許文献1)が提案されている。また、溶融滞留時の粘度変化を改善する手法としては、特定構造を有するノボラック型エポキシ化合物を配合する手法(例えば、特許文献2)や、エポキシ化合物とヒンダードアミン化合物を配合する手法(例えば、特許文献3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2021/020208号
【特許文献2】国際公開第2017/135055号
【特許文献3】国際公開第2018/186339号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1においては、溶融粘度は低下するものの、高温での成形時や、複雑な形状の成形品を成形する時(以下、簡略的に「複雑形状成形時」ということがある)の成形安定性に課題があった。また、特許文献2、3においては、溶融物が滞留した時の粘度変化は改善するものの、流動性や複雑形状成形時の成形安定性に課題があった。
【0006】
本発明は、流動性、高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性に優れるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物およびその成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討を重ねた結果、炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールが化合したポリブチレンテレフタレート樹脂(A)に、特定の構造を有するノボラック型エポキシ樹脂(B)を配合し、カルボキシル基濃度に対する、脂肪族アルコール由来の脂肪族基やエポキシ基濃度の比を一定の範囲とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に達した。すなわち本発明は、以下の構成を有する。
[1]炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールを共重合したポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、該(A)成分100重量部に対して、下記一般式(1)で表されるノボラック型エポキシ樹脂(B)0.05~5重量部を配合してなり、脂肪族アルコール由来の脂肪族基濃度X(mmol/g)に対する、カルボキシル基濃度Y(mmol/g)の比(Y/X)が1以下、かつ樹脂組成物中のエポキシ基濃度Z(mmol/g)に対する、前記カルボキシル基濃度Yの比(Y/Z)が1以下であることを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0008】
【0009】
(上記一般式(1)中、Xは上記一般式(2)または一般式(3)で表される二価の基を表す。上記一般式(1)および(3)中、R1、R2、R4およびR5はそれぞれ独立に炭素数1~8のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表し、それぞれ同一でも異なってもよい。R3は水素原子、炭素数1~8のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表す。上記一般式(1)中、nは1から10の整数を表す。上記一般式(1)および(3)中、a、c、dはそれぞれ独立に0~4の整数を表し、bは0~3の整数を表す。)[2]前記炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールが、その炭素鎖において分岐構造を有する飽和脂肪族アルコールである、[1]に記載ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[3]さらに、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、ヒンダードアミン化合物(C)を0.001~1重量部を配合してなる、[1]または[2]に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[4]前記ヒンダードアミン化合物(C)が、一般式(4)で表される2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル構造を有するヒンダードアミンである[3]に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0010】
【0011】
[5]さらに、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、炭素数12以上の脂肪酸金属塩(D)を0.01~1重量部を配合してなる、[1]~[4]のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[6]さらに、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、無機充填材(E)を1~100重量部を配合してなる[1]~[5]のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[7][1]~[6]のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を溶融成形してなる成形品。
[8]電気・電子部品の筐体として用いられる、[7]に記載の成形品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、流動性、高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性に優れるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物およびその成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物について、詳細に説明する。
【0014】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)]
本発明に用いるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)(以下、単に「(A)成分」と記載することがある)は、テレフタル酸の残基とブタンジオールの残基を主構造単位とし、さらに炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコール(G)の残基を有する重合体である。ここで「残基」とは、エステル構造を与える構造部分までを含んだ基をいい、すなわち、脱水縮合時に取り除かれる、テレフタル酸にあってはカルボキシル基中の水酸基、ブタンジオールにあっては水酸基中の水素を除いた残りの基を意味する。また、「主構造単位とする」とは、上記の残基を全構造単位中の50モル%以上有することを指し、それらの残基を80モル%以上有することが好ましい態様である。脂肪族アルコール(G)の残基を含まないポリブチレンテレフタレート樹脂である場合、特に流動性が悪化し、加えて高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性が悪化する。
【0015】
また、ブタンジオールとしては、通常1,4-ブタンジオールが用いられる。
【0016】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸とブタンジオール以外のモノマーを含む共重合体であってもよく、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体や、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、ダイマージオールなどの炭素数2~20の脂肪族または脂環式グリコール、ポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの分子量200~100000の長鎖グリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t-ブチルハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどの芳香族ジオキシ化合物およびこれらのエステル形成性誘導体などジオール化合物などが挙げられる。これらは2種以上を用いてもよい。
【0017】
本発明に用いられる炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコール(G)は、炭素原子および水素原子からなる炭化水素を主骨格とし、水酸基を一つ有する単官能のアルコールであり、炭素原子が鎖状につながった構造において直鎖もしくは分岐、環状構造を有していてよい。その例として、デシル基(C10)、ウンデシル基(C11)、ドデシル基(C12)、トリデシル基(C13)、テトラデシル基(C14)、ペンタデシル基(C15)、ヘキサデシル基(C16)、ヘプタデシル基(C17)、オクタデシル基(C18)、ノナデシル基(C19)、イコシル基(C20)、ヘンイコシル基(C21)、ドコシル基(C22)、トリコシル基(C23)、テトラコシル基(C24)、ペンタコシル基(C25)、ヘキサコシル基(C26)、ヘプタコシル基(C27)、オクタコシル基(C28)、トリアコンチル基(C30)、テトラコンチル基(C40)などの直鎖の飽和脂肪族基を有するアルコール化合物、ブチルヘキシル基(C10)、ブチルオクチル基(C12)、ヘキシルオクチル基(C14)、ヘキシルデシル基(C16)、オクチルデシル基(C18)、ヘキシルドデシル基(C18)、トリメチルブチルトリメチルオクチル基(C18)、ブチルテトラデシル基(C18)、ヘキシルテトラデシル基(C20)、オクチルテトラデシル基(C22)、オクチルヘキサデシル基(C24)、デシルテトラデシル基(C24)、ドデシルテトラデシル基(C26)、ドデシルヘキサデシル基(C28)、ドデシルヘキサデシル基(C28)、テトラデシルオクタデシル基(C32)、ヘキサデシルイコサシル基(C36)などの分岐を有する飽和脂肪族基を有するアルコール、パルミトレイル基(C16)、オレイル基(C18)、リノレイル基(C18)、エルシル基(C22)などの不飽和脂肪族基を有するアルコールが挙げられる。上記において「C」の後の数字はその基に含まれる炭素の数を表す。これらの中で、色調の点から直鎖や分岐を有する飽和脂肪族炭化水素基に水酸基が結合したアルコールが好ましく、さらに流動性の点から分岐を有する飽和脂肪族炭化水素に水酸基が結合したアルコール基であることが好ましい。脂肪族基の炭素数は10以上50以下であれば高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性に優れる効果が得られ、さらにこれらを向上できる点で、炭素数の下限は16以上であることが好ましく、20以上であることがさらに好ましい。炭素数の上限は36以下であることが好ましく、30以下であることがさらに好ましい。
【0018】
本発明に用いるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)は、分子末端に有する脂肪族基の官能基濃度が0.005mmol/g以上0.20mmol/g未満であることが好ましい。脂肪族基の官能基濃度が0.005mmol/g以上であれば流動性、高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性に優れる。より好ましくは0.010mmol/g以上、さらに好ましくは0.020mmol/g以上である。脂肪族基の官能基濃度が0.20mmol/g未満であれば、機械物性や耐熱性を向上することができる。より好ましくは0.18mmol/g未満であり、さらに好ましくは0.15mmol/g未満である。
【0019】
分子末端に有する脂肪族基の官能基濃度を上記の範囲とするためには、炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコール(G)が、テレフタル酸100モル%に対して、0.1~2.0モル%化合されていればよい。下限としては0.5モル%以上が好ましく、0.7モル%以上がより好ましい。また、上限としては1.8モル%以下が好ましく、1.6モル%以下がより好ましい。
【0020】
本発明において、分子末端に存在する脂肪族基の官能基濃度は、重ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒として1H-NMRによって測定した末端基由来のピークの積分比により求めた値である。
【0021】
前記炭素数が10以上50以下の脂肪族基は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の末端の位置にエステル結合を介して導入されている。
【0022】
本発明に用いるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)は水酸基濃度が0.050mmol/g以下であることが好ましい。水酸基濃度は、流動性、高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性に優れる観点から、より好ましくは0.040mmol/g以下、さらに好ましくは0.030mmol/g以下、さらに好ましくは0.020mmol/g以下である。なお、水酸基濃度の下限は0mmol/gである。ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の水酸基濃度は、重ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒として1H-NMRによって測定した末端基由来のピークの積分比により求めた値である。
【0023】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂(A)のカルボキシル基濃度は、流動性、高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性に優れる観点から、0.070mmol/g以下であることが好ましい。カルボキシル基濃度は、好ましくは0.060mmol/g以下であり、より好ましくは0.50mmol/g以下である。カルボキシル基濃度の下限値は、0mmol/gである。ここで、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)のカルボキシル基濃度は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)をo-クレゾール/クロロホルム溶媒に溶解させた後、エタノール性水酸化カリウムで滴定し、測定した値である。
【0024】
本発明に用いるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の融点は、耐熱性の観点から、180℃以上であることが好ましい。好ましくは190℃以上であり、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは210℃以上である。ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の融点は、DSC(示差走査熱量測定)にて、25℃から20℃/minで昇温した時に得られる吸熱融解ピークのピーク温度の値である。
【0025】
本発明に用いるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)は、高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性に優れる観点から、重量平均分子量(Mw)が8,000以上であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)は、より好ましくは9,000以上、さらに好ましくは10,000以上である。また、重量平均分子量(Mw)が500,000以下の場合、流動性が向上するため、好ましい。重量平均分子量(Mw)は、より好ましくは300,000以下であり、さらに好ましくは250,000以下である。本発明において、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の値である。
【0026】
本発明に用いるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)は、高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性に優れる観点から、固有粘度(IV)が0.6dl/g以上であることが好ましい。固有粘度は、より好ましくは0.65dl/g以上、さらに好ましくは0.7dl/g以上である。また、固有粘度が2dl/g以下の場合、流動性が向上するため、好ましい。固有粘度は、より好ましくは1.7dl/g以下であり、さらに好ましくは1.4dl/g以下である。本発明において、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の固有粘度は、オルトクロロフェノールを溶媒にし、25℃における測定により求められる値である。
【0027】
本発明に用いるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)は、公知の重縮合法や開環重合法でポリブチレンテレフタレート樹脂を重合しながら水酸基を低減する方法(重縮合反応による製造方法)やポリブチレンテレフタレート樹脂を固相重合することにより水酸基を低減する方法(固相重合による製造方法)により製造することができる。重縮合反応による製造方法としてはバッチ重合および連続重合のいずれでもよく、また、エステル交換反応および直接重合による反応、ならびに直接重合による反応のいずれでも適用することができるが、水酸基を低減する観点からはバッチ重合が好ましく、また、直接重合がより好ましく用いられる。
【0028】
本発明に用いるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)は、重縮合反応による製造方法の場合は、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とを、エステル化反応またはエステル交換反応し、次いで重縮合反応する過程において、炭素数10以上50以下の脂肪族アルコールをエステル化反応、エステル交換反応、および重縮合反応から選択されるいずれかの任意の段階で加えることにより製造することができる。特に流動性に優れる樹脂が得られる点で、炭素数10以上50以下の脂肪族アルコールをエステル化反応、エステル交換反応のいずれかの任意の段階で加えることにより製造することが好ましい。
【0029】
本発明に用いるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)のエステル化反応および重縮合反応のいずれかの工程において、フェノール系酸化防止剤をさらに配合することが脂肪族アルコール(G)の熱分解を抑制し、効率よく脂肪族基を導入できる点で好ましい。
【0030】
本発明に用いうるフェノール系酸化防止剤としては、例えば、t―ブチル基を有するフェノール化合物であり、具体的にはトリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビスもしくはトリス(3-t-ブチル-6-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)、N,N’-トリメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)などが挙げられる。
【0031】
フェノール系酸化防止剤の配合量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、0.01~0.20重量部が好ましい。ポリブチレンテレフタレート樹脂の水酸基末端を低減できる点で、より好ましくは0.02重量部以上で、さらに好ましくは0.03重量部以上である。配合量の上限は、分子量を向上できる点で0.15重量部以下がより好ましく。0.10重量部以下がさらに好ましい。
【0032】
本発明に用いるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)のエステル化反応および重縮合反応を効果的に進めるため、これらの反応時に重合反応触媒を添加することが好ましい。重合反応触媒の具体例としては、チタン酸のメチルエステル、テトラ-n-プロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ-tert-ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステルあるいはこれらの混合エステルなどの有機チタン化合物、ジブチルスズオキシド、メチルフェニルスズオキシド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキシド、シクロヘキサヘキシルジスズオキシド、ジドデシルスズオキシド、トリエチルスズハイドロオキシド、トリフェニルスズハイドロオキシド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキシド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸などのアルキルスタンノン酸などのスズ化合物、ジルコニウムテトラ-n-ブトキシドなどのジルコニア化合物、三酸化アンチモンおよび酢酸アンチモンなどのアンチモン化合物などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0033】
これらの重合反応触媒の中でも、有機チタン化合物およびスズ化合物が好ましく、チタン酸のテトラ-n-ブチルエステル(TBT)がさらに好ましく用いられる。重合反応触媒の添加量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、0.01~0.2重量部の範囲が好ましい。反応触媒の添加量は0.01重量部以上であれば重合を短時間で完結できるため好ましく、より好ましくは0.03重量部以上であり、さらに好ましくは0.04重量部以上である。一方、反応触媒の添加量は0.2重量部以下であれば色調を向上できることから好ましく、より好ましくは0.15重量部以下であり、さらに好ましくは0.1重量部以下である。
【0034】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の製造方法においては、テレフタル酸とブタンジオールを混合してスラリーを形成する工程、触媒溶液を調整する工程、エステル化後の反応物を金属製のメッシュ等からなるフィルターにてフィルタリングする工程、溶融樹脂を水浴に吐出しストランドカッターなどでカッティングする工程など、エステル化反応と重縮合反応以外の公知のポリエステル樹脂の製造工程を含んでいてもよい。
【0035】
[ノボラック型エポキシ樹脂(B)]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、下記一般式(1)で表されるノボラック型エポキシ樹脂(B)(以下、単に「(B)成分」あるいは「ノボラック型エポキシ樹脂(B)」と記載することがある)を配合してなることを特徴とする。脂肪族アルコール由来の脂肪族基を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂(A)に対し、下記一般式(1)で表されるノボラック型エポキシ樹脂(B)を配合して反応させることで、特異的に流動性、高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性のバランスに優れた樹脂組成物とすることができる。一般式(1)で表されるノボラック型エポキシ樹脂(B)を含まない場合、流動性のほか、特に高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性が悪化する。また、ノボラック型エポキシ樹脂(B)を2種以上配合してもよい。
【0036】
【0037】
上記一般式(1)中、Xは上記一般式(2)または一般式(3)で表される二価の基を表す。上記一般式(1)および(3)中、R1、R2、R4およびR5はそれぞれ独立に炭素数1~8のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表し、それぞれ同一でも異なってもよい。R3は水素原子、炭素数1~8のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表す。上記一般式(1)中、nは0から10の整数を表す。上記一般式(1)および(3)中、a、c、dはそれぞれ独立に0~4の整数を表し、bは0~3の整数を表す。
【0038】
高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性を向上させる観点から、上記一般式(1)におけるXは、上記一般式(2)で表される二価の基であることが好ましい。
【0039】
炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などが挙げられる。これらの中でも反応性の点でメチル基が好ましい。炭素数6~10のアリール基としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。これらの中でも反応性の点でフェニル基が好ましい。a、b、c、dは反応性の点で0または1が好ましい。
【0040】
本発明において、前記一般式(1)で表されるノボラック型エポキシ樹脂(B)の配合量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対し、0.05~5重量部である。(B)成分の配合量が0.05重量部未満の場合、高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性が低下する。一方、(B)成分の配合量が5重量部を超えると、流動性、高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性が悪化する。
【0041】
本発明において、前記一般式(1)で表されるノボラック型エポキシ樹脂(B)の配合量の好ましい範囲は、前記一般式(1)で表されるノボラック型エポキシ樹脂(B)のエポキシ当量に応じて設定することができる。例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)由来のカルボキシル基の量に対する、前記一般式(1)で表されるノボラック型エポキシ樹脂(B)由来のエポキシ基の量の比(エポキシ基量(mmol/g)/カルボキシル基量(mmol/g))は、1~7となる範囲で配合を行うことが好ましい。(エポキシ基量(mmol/g)/カルボキシル基量(mmol/g))が1以上の場合、高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性をより向上させることができる。前記の比(エポキシ基量(mmol/g)/カルボキシル基量(mmol/g))は、2以上が好ましい。また、前記の比(エポキシ基量(mmol/g)/カルボキシル基量(mmol/g))が7以下の場合、流動性、高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性、機械物性をより高いレベルで両立することができる。前記の比(エポキシ基量(mmol/g)/カルボキシル基量(mmol/g))は、6以下が好ましく、5以下がより好ましい。なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に配合するポリブチレンテレフタレート樹脂(A)由来のカルボキシル末端基の量は、(A)成分のカルボキシル末端基濃度と、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物全体における(A)成分の配合割合とから求めることができる。
【0042】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、組成物中の、脂肪族アルコール由来の脂肪族基(以下、単に「脂肪族基」と記載することもある)濃度X(mmol/g)に対する、カルボキシル基濃度Y(mmol/g)の比(Y/X)が、1以下である。カルボキシル基が多い場合、高温で熱分解するため成形安定性が悪化することがあるが、脂肪族基が存在することで、高温での成形安定性を改善しつつ、さらに流動性および複雑形状成形時の成形安定性に優れる樹脂組成物が得られる。
【0043】
Y/Xが1より多い、すなわちカルボキシル基濃度が脂肪族基濃度よりも大きい場合、高温での成形安定性が悪化するほか、流動性および複雑形状成形時の成形安定性も悪化する。Y/Xは、流動性、高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性に優れる観点から、0.8以下が好ましく、0.6以下がより好ましく、0.4以下がさらに好ましい。一方、カルボキシル基は少ない方が良く、Y/Xの下限値は0である。
【0044】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、組成物中のエポキシ基濃度Z(mmol/g)に対する、カルボキシル基濃度Yの比(Y/Z)が1以下である。上述のように、カルボキシル基が多い場合、高温で熱分解するため成形安定性が悪化することがあるため、新たに生成するカルボキシル基をエポキシ基と反応させ、カルボキシル基の増加を抑制することで、高温での成形安定性を改善しつつ、さらに流動性および複雑形状成形時の成形安定性に優れる樹脂組成物が得られる。
【0045】
Y/Zが1より多い、すなわちカルボキシル基濃度がエポキシ基濃度よりも大きい場合、高温での成形安定性が悪化するほか、流動性および複雑形状成形時の成形安定性も悪化する。Y/Zは、流動性、高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性に優れる観点から、0.8以下が好ましく、0.6以下がより好ましく、0.4以下がさらに好ましい。一方、カルボキシル基は少ない方が良く、Y/Zの下限値は0である。
【0046】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中のカルボキシル基濃度はできる限り低いことが好ましく、20mmol/g以下が好ましく、さらには15mmol/g以下であることが特に好ましい。最も好ましい態様は0mmol/gである。なお、カルボキシル基濃度は、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物をo-クレゾール/クロロホルム(2/1,vol/vol)混合溶液に溶解させた溶液を、1%ブロモフェノールブルーを指示薬として、0.05mol/Lエタノール性水酸化カリウムで滴定することにより算出することができる。
【0047】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中のエポキシ基濃度は5mmol/g以上が好ましい。エポキシ基濃度は、10mmol/g以上がさらに好ましく、20mmol/g以上が特に好ましい。また、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中のエポキシ基濃度が150mmol/g以下の場合、流動性、高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性に優れ好ましい。エポキシ基濃度は、130mmol/g以下がより好ましい。
【0048】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中のエポキシ基濃度は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物をo-クレゾール/クロロホルム(2/1(vol/vol))混合溶液に溶解させた後、酢酸および臭化トリエチルアンモニウム/酢酸溶液を加え、0.1mol/L過塩素酸酢酸によって電位差滴定することにより求めたエポキシ基濃度と、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の組成とから算出することができる。
【0049】
なお、本発明において、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中のカルボキシル基濃度およびエポキシ基濃度は、(A)成分および(B)成分以外の成分を配合する場合、(A)成分および(B)成分以外の成分に由来するカルボキシル基またはエポキシ基を含めた濃度とする。
【0050】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)のカルボキシル基が、ノボラック型エポキシ樹脂(B)のエポキシ基と反応した反応物を含むが、当該反応物は高分子同士の複雑な反応により生成されたものであるから、その構造を特定することは実際的でない事情が存在する。したがって、本発明は配合する成分の量を用いて発明を特定するものである。
【0051】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、ノボラック型エポキシ樹脂(B)以外のエポキシ化合物を配合することができる。1分子あたりのエポキシ基数が2以下のエポキシ化合物としては、シクロヘキサンカルボン酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステル、ラウリン酸グリシジルエステル、パルミチン酸グリシジルエステル、バーサティック酸グリシジルエステル、オレイン酸グリシジルエステル、リノール酸グリシジルエステル、リノレン酸グリシジルエステル、4-t-ブチル安息香酸グリシジルエステル、p-トルイル酸グリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、オルトフタル酸ジグリシジルエステル;ビスフェノールA、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロカテコール、ビスフェノールF、サリゲニン、ビスフェノールS、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロアントラセン-9,10-ジオール、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、1,1-メチレンビス-2,7-ジヒドロキシナフタレン等のフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの縮合により得られる縮合物などが挙られる。その中でもビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの縮合物が好ましい。
【0052】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、流動性、高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性に優れる観点から、さらにヒンダードアミン化合物(C)を配合することが好ましい。ここで、一般的なアミン化合物を配合した場合は、アミンの求核性により下記式(5)で表されるように、エポキシ化合物の自己開環重合も促進してしまうことにより、滞留安定性が悪化してしまう。これに対し、ヒンダードアミン化合物(C)を配合した場合は、その立体障害の強い構造により、エポキシ化合物の自己開環重合を抑制できる点で反応促進剤として優れている。
【0053】
【0054】
ヒンダードアミン化合物(C)は、下記構造式(6)で表される1,4-(2,2,6,6-テトラメチル)ピペリジレン構造を分子中に少なくとも一つ有する構造を持つ化合物である。
【0055】
【0056】
ヒンダードアミン化合物(C)の具体例としては、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、ビス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アジペート、ビス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)スベレート、ビス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)フタレート、ビス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)テレフタレート、ビス-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)テレフタレート、N,N’-ビス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イソフタルアミド、N,N’-ビス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アジパミド、2,2,4,4-テトラメチル-7-オキサ-3,20-ジアザジスピロ[5,1,11,2]ヘニコサン-21-オン、ビス-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-n-ブチル(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)マロネート、ビス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-n-ブチル(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)マロネート、ブタンテトラカルボン酸のテトラ-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)エステル、1-[2-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]-4-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、ポリ[[6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]]、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシラート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシラート、コハク酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β’,β’-テトラメチル-3,9-(2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)ジエタノールとの縮合物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β’,β’-テトラメチル-3,9-(2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)ジエタノールとの縮合物などが挙げられる。
【0057】
ヒンダードアミン化合物の中でも、活性水素を有し、塩基性の強い2級アミンであり、(B)エポキシ化合物とカルボキシル基との反応を促進できることから、一般式(4)で表される2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル構造を有したヒンダードアミンが好ましい。
【0058】
【0059】
ヒンダードアミン化合物(C)の配合量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対し、流動性、高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性に優れる観点から、0.001重量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.01重量部以上であり、さらに好ましくは0.03重量部以上である。一方、流動性、高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性に優れる観点から、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対し、1重量部以下であることが好ましく。より好ましくは0.8重量部以下であり、さらに好ましくは0.5重量部以下である。
【0060】
なお、ヒンダードアミン化合物以外の反応促進剤を併用してもよい。
【0061】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、長鎖脂肪族基を有するポリブチレンテレフタレート樹脂(A)への相溶性に優れ、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)とノボラック型エポキシ樹脂(B)の反応を促進することができ、流動性、高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性に優れる観点から、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対し、炭素数12以上の脂肪酸金属塩(D)を0.01重量部以上含むことが好ましく、0.05重量部以上がより好ましく、0.1重量部以上含むことがさらに好ましい。一方、炭素数12以上の脂肪酸金属塩(D)は、流動性、高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性に優れる観点から、1重量部以下含むことが好ましく、0.7重量部以下がより好ましく、0.5重量部以下がさらに好ましい。
【0062】
炭素数12以上の脂肪酸金属塩としては、具体的に、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、オレイン酸、エルカ酸、12-ヒドロキシステアリン酸などの脂肪族カルボン酸またはヒドロキシカルボン酸とリチウム、ナトリウム、カルシウムなど金属のイオンとの塩が挙げられる。また、炭素数12以上の脂肪酸金属塩(D)は、炭素数12以上の脂肪酸エステル系ワックス、ポリオレフィン系ワックス、エチレンビスステアロアマイド系ワックスなどと混合されていてもよい。
【0063】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、さらに無機充填材(E)を配合することが好ましい。無機充填材が配合されることにより、機械強度と耐熱性をより向上させることができる。
【0064】
前記の無機充填材(E)の具体例としては、例えば、繊維状、ウィスカー状、針状、粒状、粉末状および層状の無機充填材が挙げられ、具体的には、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維や液晶性ポリエステル繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、硫酸カルシウムウィスカー、針状酸化チタン、ガラスビーズ、ミルドファイバー、ガラスフレーク、ワラステナイト、シリカ、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムの混合物、微粉ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、スメクタイト系粘土鉱物(モンモリロナイト、ヘクトライト)、バーミキュライト、マイカ、フッ素テニオライト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウム、およびドロマイトなどが挙げられる。本発明に使用する上記の無機充填材は、その表面が公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理されていてもよい。また、本発明に使用する上記の無機充填材は、2種以上を併用してもよい。
【0065】
本発明で用いられる無機充填材(E)は、特に機械強度、耐熱性の点からガラス繊維が好ましい。ガラス繊維としては、チョップドストランドタイプやロービングタイプのガラス繊維であり、その表面をアミノシラン化合物やエポキシシラン化合物などのシランカップリング剤および/またはウレタン、アクリル酸/スチレン共重合体などのアクリル酸からなる共重合体、アクリル酸メチル/メタクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体などの無水マレイン酸からなる共重合体、酢酸ビニル、ビスフェノールAジグリシジルエーテルやノボラック系エポキシ化合物などの1種以上のエポキシ化合物などを含有した集束剤で処理されたガラス繊維が好ましく用いられる。無水マレイン酸からなる共重合体を含有した収束剤で処理されたガラス繊維が高温での成形安定性をより向上できることからさらに好ましい。シランカップリング剤および/または集束剤はエマルジョン液に混合されて使用されていてもよい。
【0066】
また、繊維状の無機充填剤を用いる場合の繊維径は通常1~30μmの範囲が好ましい。また、前記の繊維断面は通常円形状であるが、任意の縦横比の楕円形ガラス繊維、扁平ガラス繊維およびまゆ型形状ガラス繊維など任意な断面を持つ繊維状の無機充填剤を用いることもできる。また、ガラス繊維の種類としては一般に樹脂の強化材として用いるものであれば特に限定はないが、機械特性、耐熱性に優れるEガラスや、低誘電性に優れる低誘電ガラスが好ましい。
【0067】
本発明で用いられる無機充填材(E)の配合量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対し1~100重量部であることが好ましい。無機充填材(E)を1重量部以上配合することにより、機械強度と耐熱性をより向上させることができ、成形品の寸法安定性を向上することができる。30重量部以上がより好ましく、40重量部以上がさらに好ましく、50重量部以上が特に好ましい。一方、無機充填材(E)を100重量部以下配合することにより、成形性をより向上させることができる。90重量部以下がより好ましく、80重量部以下がさらに好ましい。
【0068】
また、本発明で用いられる無機充填材(E)として、上記のガラス繊維以外に例えばミルドファイバー、ガラスフレーク、カオリン、タルクおよびマイカを用いた場合は、異方性低減に効果があるため反りの少ない成形品が得られる。また、滞留安定性をより向上させる目的で、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムの混合物、微粉ケイ酸、ケイ酸アルミニウムおよび酸化ケイ素などを用いてもよい。
【0069】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、(A)成分以外の熱可塑性樹脂を配合してもよく、成形性、寸法精度、成形収縮および靭性などを向上させることができる。(A)成分以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、芳香族または脂肪族ポリケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、熱可塑性澱粉樹脂、ポリウレタン樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリ-4-メチルペンテン-1、ポリエーテルイミド樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などを挙げることができる。
【0070】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、難燃剤を配合することができる。難燃剤としては、例えば、リン系難燃剤、臭素系難燃剤などのハロゲン系難燃剤、トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩、シリコーン系難燃剤および無機系難燃剤などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
【0071】
難燃剤の配合量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対し、1~50重量部が好ましい。難燃性の観点から、5重量部以上がより好ましく、耐熱性の観点から40重量部以下がより好ましい。
【0072】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、さらにカーボンブラック、酸化チタンおよび種々の色の顔料や染料を1種以上配合することができ、種々の色への調色や、耐候(光)性および導電性を改良することも可能である。カーボンブラックとしては、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、アントラセンブラック、油煙、松煙、および、黒鉛などが挙げられる。カーボンブラックは、平均粒径が500nm以下であり、ジブチルフタレート吸油量が50~400cm3/100gであるものが好ましく用いられる。酸化チタンとしては、ルチル形あるいはアナターゼ形などの結晶形を持ち、平均粒径5μm以下の酸化チタンが好ましく用いられる。
【0073】
これらカーボンブラック、酸化チタンおよび種々の色の顔料や染料は、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、ポリオール、およびシランカップリング剤などで処理されていてもよい。また、本発明の樹脂組成物における分散性向上や製造時のハンドリング性の向上のため、種々の熱可塑性樹脂と溶融ブレンドあるいは単にブレンドした混合材料として用いてもよい。
【0074】
本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、結晶核剤、可塑剤、難燃助剤、および帯電防止剤などの任意の添加剤を1種以上配合してもよい。
【0075】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、例えば、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)、および、ノボラック型エポキシ樹脂(B)および必要に応じてその他の成分を溶融混練することにより得ることができる。
【0076】
溶融混練の方法としては、例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)、ノボラック型エポキシ樹脂(B)および各種添加剤などを予備混合して、押出機などに供給して溶融混練する方法、あるいは、重量フィダーなどの定量フィダーを用いて各成分を所定量押出機などに供給して溶融混練する方法などが挙げられる。
【0077】
上記の予備混合の例として、ドライブレンドする方法や、タンブラー、リボンミキサーおよびヘンシェルミキサー等の機械的な混合装置を用いて混合する方法などが挙げられる。また、無機充填材(E)を配合する場合は、二軸押出機などの多軸押出機の元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加してもよい。また、液体の添加剤の場合は、二軸押出機などの多軸押出機の元込め部とベント部の途中に液添ノズルを設置してプランジャーポンプを用いて添加する方法や、元込め部などから定量ポンプで供給する方法などを用いてもよい。
【0078】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、ペレット化してから成形加工することが好ましい。ペレット化の方法として、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を構成する各成分を、例えば“ユニメルト”あるいは“ダルメージ”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸押出機、三軸押出機、コニカル押出機およびニーダータイプの混練機などを用いて、ストランド状に吐出し、ストランドカッターでカッティングする方法が挙げられる。
【0079】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を溶融成形することにより、フィルム、繊維およびその他各種形状の成形品を得ることができる。溶融成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形およびブロー成形などが挙げられ、射出成形が特に好ましく用いられる。
【0080】
射出成形の方法としては、通常の射出成形方法以外にもガスアシスト成形、2色成形、サンドイッチ成形、インモールド成形、インサート成形およびインジェクションプレス成形などが知られているが、いずれの成形方法も適用できる。
【0081】
本発明の成形品は、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができる。また、本発明の成形品は、特に無線LAN、ETC、衛星通信用アンテナや車載レーダーなどの高周波領域に対応した電気・電子部品、自動車部品に有用である。また、インサート成形により金属部品と複合化して使用される成形品に有用である。
【0082】
具体的な用途としては、エアフローメーター、エアポンプ、イグニッションホビン、イグニッションケース、クラッチボビン、センサーハウジング、アイドルスピードコントロールバルブ、バキュームスイッチングバルブ、ECUハウジング、インヒビタースイッチ、回転センサー、加速度センサー、ディストリビューターキャップ、コイルベース、ABS用アクチュエーターケース、エアクリーナーハウジング、ブレーキブースター部品、各種ケース、各種チューブ、各種タンク、各種ホース、各種クリップ、各種バルブ、各種パイプなどの自動車用アンダーフード部品、トルクコントロールレバー、レジスターブレード、ウォッシャーレバー、ウインドレギュレーターハンドル、ウインドレギュレーターハンドルのノブ、パッシングライトレバー、サンバイザーブラケット、各種モーターハウジングなどの自動車用内装部品、ルーフレール、フェンダー、ガーニッシュ、バンパー、ドアミラーステー、グリルエプロンカバーフレーム、ランプリフレクター、ランプベゼル、ドアハンドルなどの自動車用外装部品、ワイヤーハーネスコネクター、SMJコネクター、PCBコネクターなど各種自動車用コネクター、電気用コネクター、リレーケース、コイルボビン、光ピックアップシャーシ、モーターケース、ノートパソコンハウジングおよび内部部品、CRTディスプレーハウジング、および内部部品、プリンターハウジングおよび内部部品、携帯電話、モバイルパソコン、ハンドヘルド型モバイルなどの携帯端末ハウジングおよび内部部品、記録媒体(CD、DVD、PD、FDDなど)ドライブのハウジングおよび内部部品、コピー機のハウジングおよび内部部品、ファクシミリのハウジングおよび内部部品などに代表される電気・電子部品、携帯端末、通信基地局、ミリ波センサーおよび車載通信機器などに使われる電気・電子部品の筐体を挙げることができる。更に、VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、ビデオカメラ、プロジェクターなどの映像機器部品、レーザーディスク(登録商標)、コンパクトディスク(CD)、DVD-ROM、DVD-R、ブルーレイディスクなどの光記録媒体の基板、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品などに代表される家庭・事務電気製品部品を挙げることができる。また、電子楽器、家庭用ゲーム機、携帯型ゲーム機などのハウジングや内部部品、各種ギヤー、各種ケース、センサー、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、光ピックアップ、発振子、各種端子板、プリント配線板、スピーカー、ヘッドホン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、トランス部材などの電気・電子部品、サッシ戸車、ブラインドカーテンパーツ、配管ジョイント、カーテンライナー、ブラインド部品、ガスメーター部品、水道メーター部品、湯沸かし器部品、ルーフパネル、天井釣り具などの建築部材、軸受、レバー、カム、ラチエット、ローラー、給水部品、玩具部品、ファン、洗浄用治具、モーター部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などの機械部品などとして有用である。
【0083】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、流動性および複雑形状成形時の成形安定性に優れる観点から、薄肉で、かつ厚みの異なる部位を有するような、携帯端末、通信基地局、ミリ波センサーおよび車載通信機器などに使われる電気・電子部品の筐体に特に有用である。
【実施例0084】
次に、実施例により本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を具体的に説明する。実施例および比較例に用いられる原料を次に示す。ここで%および部とは、特記のない限り重量%および重量部を表す。なお、本発明はここに挙げた具体的な例に限定して解釈されるものではない。
【0085】
各製造例においては、次に記載する測定方法によって、その特性を評価した。
【0086】
1.融点
株式会社パーキンエルマー製DSC7を用いて、試料を25℃から300℃まで窒素雰囲気下10℃/minの昇温速度で分析し、得られた吸熱ピークの中で最も高温のピークのピーク温度として求めた。
【0087】
2.官能基濃度(脂肪族基、水酸基、カルボキシル基)
試料2gをヘキサフルオロイソプロパノール5mLに溶解させ、エタノール50mLにより再沈殿させ、沈殿物を捕集して真空乾燥機にて真空下80℃で乾燥し、精製した。精製物30mgを重ヘキサフルオロイソプロパノール0.7mLに溶解させて、日本電子(株)製JNM-ECZ500Rにて、1H-NMR測定を行った。得られた1H-NMRスペクトルを、Macromol.Chem.Phys.2014,215,2138-2160に記載の方法でスペクトルのピークを帰属し、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体由来の残基のピークの積分値Saとその水素原子数Ha、および官能基(脂肪族基、水酸基)由来のピークの積分値Sbとその水素原子数Hbを求め、以下の式から官能基濃度を求めた。
官能基濃度(mmol/g)={(Sb/Sa)×(Ha/Hb)}/ユニット平均分子量×1000
ここで、ユニット平均分子量は、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体由来の残基とジオールまたはそのエステル形成性誘導体由来の残基の分子量に各残基の含有比率を掛け合わせて積算した値である。
【0088】
カルボキシル基濃度は、試料2gをo-クレゾール/クロロホルム(2/1,vol/vol)50mL混合溶液に溶解させた後、1%ブロモフェノールブルーを支持薬として、0.05mol/Lエタノール性水酸化カリウムによって滴定することにより算出した。
【0089】
実施例および比較例に用いられる原料を次に示す。
【0090】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)
[製造例1]
エステル化反応におけるジオール成分とジカルボン酸成分のモル比(ジオール成分/ジカルボン酸成分)を1.5とし、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸:2000g、ジオール成分として1,4-ブタンジオール:1627g、分岐を有する飽和脂肪族アルコールとして2-ヘキシル-1-ドデカノール:49g(テレフタル酸100モル%に対して1.5モル%)、エステル化反応触媒としてTBT:生成する熱可塑性樹脂100gに対して7.5×10-5モル(熱可塑性樹脂100重量部に対して0.025重量部)を、精留塔の付いた反応器に仕込み、温度160℃、窒素気流下にてエステル化反応を開始した。その後、徐々に昇温し、最終的に温度225℃の条件下でエステル化反応を行った。留出液の状態などによりエステル化反応の終了を確認し、エステル化反応の反応時間を220分間とした。得られた反応物に、重縮合反応触媒としてTBT:生成するポリエステル樹脂100gに対して7.5×10-5モル(熱可塑性樹脂100重量部に対して0.025重量部)を添加し、温度260℃、圧力100Paの条件で重縮合反応を行った。反応物の粘度などにより重縮合反応の終了を確認し、熱可塑性樹脂を得るための重縮合反応の反応時間を140分間とし、合計360分間反応を実施し、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A-1)を得た。
【0091】
[製造例2]
分岐を有する飽和脂肪族アルコールとして2-デシル-1-テトラデカノール:64g(テレフタル酸100モル%に対して1.5モル%)を用いる以外は、製造例1と同様に反応を実施し、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A-2)を得た。
【0092】
[製造例3]
分岐を有する飽和脂肪族アルコールとして2-テトラデシル-1-オクタデカノール:84g(テレフタル酸100モル%に対して1.5モル%)を用いる以外は、製造例1と同様に反応を実施し、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A-3)を得た。
【0093】
[製造例4]
分岐を有する飽和脂肪族アルコールとして2-デシル-1-テトラデカノール:2.1g(テレフタル酸100モル%に対して0.05モル%)を用いる以外は、製造例1と同様に反応を実施し、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A-4)を得た。
【0094】
[製造例5]
エステル化反応におけるジオール成分(A)とジカルボン酸成分(B)のモル比((A)/(B))を1.7とし、ジカルボン酸成分(B)としてテレフタル酸:2000g、ジオール成分(A)として1,4-ブタンジオール:1840g、エステル化反応触媒としてTBT:生成する熱可塑性樹脂100gに対して7.5×10-5モル(熱可塑性樹脂100重量部に対して0.025重量部)を、精留塔の付いた反応器に仕込み、温度160℃、圧力90kPaの減圧下にてエステル化反応を開始した。その後、徐々に昇温し、最終的に温度225℃の条件下でエステル化反応を行った。留出液の状態などによりエステル化反応の終了を確認し、エステル化反応の反応時間を180分間とした。得られた反応物に、重縮合反応触媒としてTBT:生成するポリエステル樹脂100gに対して7.5×10-5モル(熱可塑性樹脂100重量部に対して0.025重量部)を添加し、温度245℃、圧力100Paの条件で重縮合反応を行った。反応物の粘度などにより重縮合反応の終了を確認し、熱可塑性樹脂を得るための重縮合反応の反応時間を150分間とし、合計330分間反応を実施し、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A-5)を得た。
【0095】
一般式(1)で表されるノボラック型エポキシ樹脂(B)
<B-1>下記式(7)で表されるエポキシ当量253g/eqのノボラック型エポキシ樹脂:日本化薬(株)製“XD-1000”を用いた。
【0096】
【0097】
(上記式(7)中のnは、1~3である。)
<B-2>下記式(8)で表されるエポキシ当量290g/eqのノボラック型エポキシ樹脂:日本化薬(株)製“NC-3000H”を用いた。
【0098】
【0099】
(上記式(8)中のnは、2~4である。) 。
【0100】
一般式(1)で表されるノボラック型エポキシ樹脂(B)とは異なる他のノボラック型エポキシ樹脂
<B-3>下記式(9)で表されるエポキシ当量211g/eqのノボラック型エポキシ樹脂:日本化薬(株)製“EOCN-102S”を用いた。
【0101】
【0102】
(上記式(9)中のnは、3~5である。) 。
【0103】
ヒンダードアミン化合物(C)
<C-1>ビス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)テレフタレート:(株)ADEKA製の“アデカスタブ”(登録商標)LA57 。
【0104】
炭素数12以上の脂肪酸金属塩(D)
<D-1>モンタン酸カルシウム塩とモンタン酸ワックスの混合物:Clariant(株)製の“Licowax”OP 。
【0105】
無機充填材(F)
<E-1>無水マレイン酸からなる共重合体を含有する集束剤により処理されたガラス繊維:日本電気硝子(株)製ECS03T-253、断面の直径13μm、繊維長3mm。
【0106】
[各特性の測定方法]
実施例、比較例においては、次に記載する測定方法によって、その特性を評価した。
【0107】
3.樹脂組成物中の官能基濃度比(脂肪族基X、カルボキシル基Y、エポキシ基Z)
試料2gをヘキサフルオロイソプロパノール5mLに溶解させ、エタノール50mLにより再沈殿させ、沈殿物を捕集して真空乾燥機にて真空下80℃で乾燥し、精製した。精製物30mgを重ヘキサフルオロイソプロパノール0.7mLに溶解させて、日本電子(株)製JNM-ECZ500Rにて、1H-NMR測定を行った。得られた1H-NMRスペクトルを、Macromol.Chem.Phys.2014,215,2138-2160に記載の方法でスペクトルのピークを帰属し、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体由来の残基のピークの積分値Saとその水素原子数Ha、および脂肪族基由来のピークの積分値Sbとその水素原子数Hbを求め、以下の式から脂肪族基濃度Xを求めた。
官能基濃度(mmol/g)={(Sb/Sa)×(Ha/Hb)}/ユニット平均分子量×1000
ここで、ユニット平均分子量は、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体由来の残基とジオールまたはそのエステル形成性誘導体由来の残基の分子量に各残基の含有比率を掛け合わせて積算した値である。
【0108】
カルボキシル基濃度Y(mmol/g)は、試料2gをo-クレゾール/クロロホルム(2/1(vol/vol))50mL混合溶液に溶解させた後、1%ブロモフェノールブルーを支持薬として、0.05mol/Lエタノール性水酸化カリウムによって滴定して求めた。
【0109】
エポキシ基濃度Z(mmol/g)は、試料2gをo-クレゾール/クロロホルム(2/1(vol/vol))30mL混合溶液に溶解させた後、酢酸20mLおよび臭化トリエチルアンモニウム/酢酸20wt%溶液10mLを加え、0.1mol/L過塩素酸酢酸によって電位差滴定して求めた。
【0110】
上記した方法で求めたX,Y,Zから、Y/X、Y/Zを算出した。
【0111】
4.流動性
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を、ファナックα30C射出成形機(ファナック製)に供し、シリンダー温度を260℃、金型温度を80℃として、幅12.7mm×長さ100mm×0.3mm厚みの成形品を成形できる金型を用い、射出速度100mm/s、最大射出圧力100MPaの成形条件で、20ショット連続成形を行った。後半の10ショットについて、平均長さを算出し、長いほど流動性に優れるとした。
【0112】
5.高温での成形安定性
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を、ファナックα30C射出成形機(ファナック製)に供し、シリンダー温度を280℃、金型温度を80℃として、幅12.7mm×長さ100mm×厚み0.3mmの成形品を成形できる金型を用い、射出速度100mm/sの成形条件で、長さが25mmになるように成形圧力を調整して100ショット連続成形を行った。得られた試験片について、長さが24mm以下または26mm以上となるショット数(長さがバラつくショット数)を算出した。この数値が小さいほど、高温での成形安定性に優れるとした。
【0113】
6.複雑形状成形品での成形安定性
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を、ファナックα30C射出成形機(ファナック製)に供し、幅12.7mm×長さ100mm×厚み0.3mmの直方体の内部空間を持つ金型を用い、シリンダー温度280℃、金型温度80℃、射出速度100mm/sの条件で、前記金型の端部(前記直方体において面積が最も小さい面の重心の位置)に設けたゲートから試料の樹脂組成物を射出して、射出長さが長さ方向に25mmとなる成形圧力を求めた。ついで、金型を幅12.7mm×長さ100mmで、長手方向の一端から50mmまでの部分(該部分を「直方体空間1」という)の厚みが0.5mm、残りの部分(該部分を「直方体空間2」という)の厚みが0.3mmである内部空間(なお、直方体空間1と直方体空間2は最も面積が小さい面を接して接面全体でもって連通し、また、面積が最も大きい面のうち鉛直方向上側にある面は同一平面にある)を持った金型を用い、該金型の端部(直方体空間1の直方体空間2に連通する側とは反対側の面の重心の位置)に設けたゲートから、シリンダー温度280℃、金型温度80℃、射出速度100mm/s、かつ、先に求めた成形圧力で、試料の樹脂組成物を10ショット射出し、0.3mm厚部分での流動長を求め、その平均値を算出した。0.3mm厚部分の流動長が大きいほど、流動性の厚み依存性が小さく、複雑形状成形品での成形安定性に優れるとした。
【0114】
[実施例1~12]、[比較例1~6]
スクリュー径30mm、L/D35の同方向回転ベント付き二軸押出機(日本製鋼所製、TEX-30α)を用いて、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)、ノボラック型エポキシ樹脂(B)、ヒンダードアミン化合物(C)、炭素数12以上の脂肪酸金属塩(D)および無機充填材(E)を表2~4に示した組成で混合し、二軸押出機の元込め部から添加した。なお、無機充填材(E)は、元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加した。さらに、混練温度260℃、スクリュー回転150rpmの押出条件で溶融混合を行い、ストランド状に吐出し、冷却バスを通し、ストランドカッターによりペレット化した。
【0115】
得られたペレットを110℃の温度の熱風乾燥機で6時間乾燥後、前記方法で評価した。表1~4にその結果をまとめた。
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
実施例1~12と比較例1~6の比較より、炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールを共重合したポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と特定構造のノボラック型エポキシ樹脂(B)を含み、かつカルボキシル基濃度に対する、脂肪族アルコール由来の脂肪族基やエポキシ基濃度の比を一定の範囲とすることにより、流動性、高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性に優れる材料が得られた。
【0121】
実施例2、8~10の比較より、さらにヒンダードアミン化合物(C)および炭素数12以上の脂肪酸金属塩(D)を含有する場合に、さらに流動性、高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性に優れる材料が得られた。
【0122】
実施例2、6、7と比較例3、4の比較より、特定構造のノボラック型エポキシ樹脂(B)を特定量配合することで、流動性、高温での成形安定性、および複雑形状成形時の成形安定性に優れる材料が得られた。