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特開2024-780アルミニウムクラッド材のすべり量予測方法およびアルミニウムクラッド材の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000780
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】アルミニウムクラッド材のすべり量予測方法およびアルミニウムクラッド材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 1/22 20060101AFI20231226BHJP
   B23K 20/04 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
B21B1/22 B
B23K20/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099682
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 陽亮
(72)【発明者】
【氏名】伊東 正登
【テーマコード(参考)】
4E002
4E167
【Fターム(参考)】
4E002AA08
4E002AD12
4E002BA03
4E002BC05
4E002BC10
4E167AA06
4E167AA25
4E167BC03
4E167BC04
4E167BC05
4E167BC06
4E167BC12
4E167DC02
(57)【要約】
【課題】本発明は、クラッド材のすべり量予測方法と製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、心材と皮材の圧延方向のすべり量を求めるに際し、接合モードに至るまでのパス数と、各パスにおける圧下率と、パス数に応じた表面積拡大比を利用し、摩擦モードにおいてクラッド圧延の数値解析により表面積拡大率とすべり量を求め、接合モードに至る所定のパスのロールバイト内の途中またはロールバイト出口で限界表面積拡大率に達すると仮定し、接合モードにおいてクラッド圧延の数値解析により表面積拡大率とすべり量を求め、限界表面積拡大率が摩擦モードの表面積拡大率累積と接合モードの表面積拡大率の合計値になる関係を利用し、この関係に実機圧延による既知のすべり量の結果を当てはめ、実機圧延によるパス数に応じたすべり量を再現できるように逆解析を行って限界表面積拡大率を求め、この限界表面積拡大率を利用しすべり量を予測する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる2つ以上の板材を重ね合わせた積層物を熱間圧延ロールによる接合工程において接合し、この接合により得られた接合体を引き続き前記熱間圧延ロールにより圧延して少なくとも心材と皮材を接合したアルミニウムクラッド材を製造するにあたり、すべり量を予測する方法であって、
前記接合工程で生じる前記心材と前記皮材の間の圧延方向のすべり量を求めるに際し、
前記心材と前記皮材のすべり量が増加する摩擦モードに従う複数のパスを経て、任意のパス数における所定のパスにおいて前記心材と前記皮材のすべり量が一定値となる接合モードに至ると仮定し、
前記接合モードに至るまでのパス数と、各パスにおける圧下率と、前記パス数に応じた表面積拡大比を利用し、前記摩擦モードにおいてクラッド圧延の数値解析により表面積拡大率とすべり量を求め、前記接合モードに至る所定のパスのロールバイト内の途中あるいはロールバイト出口で限界表面積拡大率に達すると仮定し、前記接合モードにおいてクラッド圧延の数値解析により表面積拡大率とすべり量を求め、
前記限界表面積拡大率が前記摩擦モードの表面積拡大率累積と前記接合モードの表面積拡大率の合計値になるという関係を利用し、この関係に実機圧延による既知のすべり量の結果を当てはめ、実機圧延によるパス数に応じたすべり量を再現できるように逆解析を行って前記限界表面積拡大率を求め、この限界表面積拡大率を利用して前記すべり量を予測することを特徴とするアルミニウムクラッド材のすべり量予測方法。
【請求項2】
上下に配置したワークロールの間を前記ワークロールの一側から他側に通過するフォワードと前記ワークロールの他側から一側に通過するリバースを交互に繰り返すことで実機により熱間圧延を実施し、
前記フォワードと前記リバースを繰り返して前記熱間圧延を進行させるに際し、前記フォワードか前記リバースにおける前記心材のすべり量あるいは前記皮材のすべり量が増加する間を摩擦モードと規定し、前記フォワードか前記リバースにおける前記心材のすべり量あるいは前記皮材のすべり量が一定値となる圧延パスを接合モードと規定し、前記接合モードに至るまでのパス数をnとし、摩擦モードのパス数i回目の表面積拡大比をSとし、
限界表面積拡大率Eが、摩擦モードの表面積拡大率累積Efricと接合モードの表面積拡大率累積Econの合計値であると仮定し、以下の(1)式の関係を利用し、前記限界表面積拡大率Eを数値解析による逆解析により求めることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウムクラッド材のすべり量予測方法。
【数1】
【請求項3】
nパス目にフォワードで接合モードに至る時の累積のすべり量をLFW,nと定義し、その前後のパスにてリバースで接合モードに至る時の累積のすべり量をLREV,n±1と定義し、摩擦モードにおけるiパス目のフォワードの累積のすべり量をLFW,fric,iと定義し、摩擦モードにおけるiパス目のリバースの累積のすべり量をLREV,fric,iと定義し、摩擦モードにおけるiパス目のそのパスでのフォワードのすべり量をlFW,fric,iと定義し、摩擦モードにおけるiパス目のそのパスでのリバースのすべり量をlREV,fric,iと定義し、接合モードに至る時のそのパスでのフォワードのすべり量をlFW,conと定義し、接合モードに至る時のそのパスでのリバースのすべり量をlREV,conと定義し、圧延の数値解析により皮材の変形抵抗÷心材の変形抵抗X1、限界表面積拡大率X2、圧下率X3、クラッド率X4を変数としてすべり量の解析値を得ることをf(X1、X2、X3、X4)と定義すると、
前記接合モードに至った時の前記フォワードのすべり量が以下の(2)式の関係を満足し、前記接合モードに至った時の前記リバースのすべり量が以下の(3)式の関係を満足し、摩擦モードのフォワードのすべり量が以下の(4)式の関係を満足し、摩擦モードのリバースのすべり量が以下の(5)式の関係を満足し、接合モードに至る時のそのパスでのフォワードのすべり量が以下の(6)式の関係を満足し、接合モードに至る時のそのパスでのリバースのすべり量が以下の(7)式の関係を満足すると仮定し、各パスでのフォワードおよびリバースのすべり量を算出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウムクラッド材のすべり量予測方法。
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【数7】
【請求項4】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる2つ以上の板材を重ね合わせた積層物を熱間圧延ロールによる接合工程において接合し、この接合により得られた接合体を引き続き前記熱間圧延ロールにより圧延して少なくとも心材と皮材を接合したアルミニウムクラッド材を製造する方法であって、
前記接合工程で生じる前記心材と前記皮材の間の圧延方向のすべり量を求めるに際し、前記心材と前記皮材のすべり量が増加する摩擦モードに従う複数のパスを経て、任意のパス数における所定のパスにおいて前記心材と前記皮材のすべり量が一定値となる接合モードに至ると仮定し、前記接合モードに至るまでのパス数と、各パスにおける圧下率と、前記パス数に応じた表面積拡大比を利用し、前記摩擦モードにおいてクラッド圧延の数値解析により表面積拡大率とすべり量を求め、前記接合モードに至る所定のパスのロールバイト内の途中あるいはロールバイト出口で限界表面積拡大率に達すると仮定し、前記接合モードにおいてクラッド圧延の数値解析により表面積拡大率とすべり量を求め、前記限界表面積拡大率が前記摩擦モードの表面積拡大率累積と前記接合モードの表面積拡大率の合計値になるという関係を利用し、この関係に実機圧延による既知のすべり量の結果を当てはめ、実機圧延によるパス数に応じたすべり量を再現できるように逆解析を行って前記限界表面積拡大率を求め、この限界表面積拡大率を利用して前記すべり量を予測し、前記アルミニウムクラッド材を製造する場合、前記接合工程に供する前の前記積層物における2つ以上の板材の長さを前記すべり量の予測値に基づき調整することを特徴とするアルミニウムクラッド材の製造方法。
【請求項5】
上下に配置したワークロールの間を前記ワークロールの一側から他側に通過するフォワードと前記ワークロールの他側から一側に通過するリバースを交互に繰り返すことで実機により熱間圧延を実施し、
前記フォワードと前記リバースを繰り返して前記熱間圧延を進行させるに際し、前記フォワードか前記リバースにおける前記心材のすべり量あるいは前記皮材のすべり量が増加する間を摩擦モード、前記フォワードか前記リバースにおける前記心材のすべり量あるいは前記皮材のすべり量が一定値となる圧延パスを接合モードと規定し、前記接合モードに至るまでのパス数をnとし、摩擦モードのパス数i回目の表面積拡大比をSとし、
限界表面積拡大率Eが、摩擦モードの表面積拡大率累積Efricと接合モードの表面積拡大率累積Econの合計値であると仮定し、以下の(1)式の関係を利用し、前記限界表面積拡大率Eを数値解析による逆解析により求めることを特徴とする請求項4に記載のアルミニウムクラッド材の製造方法。
【数8】
【請求項6】
nパス目にフォワードで接合モードに至る時の累積のすべり量をLFW,nと定義し、その前後のパスにてリバースで接合モードに至る時の累積のすべり量をLREV,n±1と定義し、摩擦モードにおけるiパス目のフォワードの累積のすべり量をLFW,fric,iと定義し、摩擦モードにおけるiパス目のリバースの累積のすべり量をLREV,fric,iと定義し、摩擦モードにおけるiパス目のそのパスでのフォワードのすべり量をlFW,fric,iと定義し、摩擦モードにおけるiパス目のそのパスでのリバースのすべり量をlREV,fric,iと定義し、接合モードに至る時のそのパスでのフォワードのすべり量をlFW,conと定義し、接合モードに至る時のそのパスでのリバースのすべり量をlREV,conと定義し、圧延の数値解析により皮材の変形抵抗÷心材の変形抵抗X1、限界表面積拡大率X2、圧下率X3、クラッド率X4を変数として解析値を得ることをf(X1、X2、X3、X4)と定義すると、
接合モードに至った時の前記フォワードのすべり量が以下の(2)式の関係を満足し、接合モードに至った時の前記リバースのすべり量が以下の(3)式の関係を満足し、摩擦モードのフォワードのすべり量が以下の(4)式の関係を満足し、摩擦モードのリバースのすべり量が以下の(5)式の関係を満足し、接合モードに至る時のそのパスでのフォワードのすべり量が以下の(6)式の関係を満足し、接合モードに至る時のそのパスでのリバースのすべり量が以下の(7)式の関係を満足すると仮定し、各パスでのフォワードおよびリバースのすべり量を算出することを特徴とする請求項4または請求項5に記載のアルミニウムクラッド材の製造方法。
【数9】
【数10】
【数11】
【数12】
【数13】
【数14】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムクラッド材のすべり量予測方法およびアルミニウムクラッド材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムクラッド材は熱交換器の構成材料として使用される。アルミニウムクラッド材を圧延により製造する場合、心材より皮材が伸びやすいと、圧延中に皮材が心材の端部から突出する。この突出部分が長い場合、突出部分が圧延装置の搬送路に脱落し、生産の妨げとなる問題がある。
クラッド材の熱間圧延では、その初期段階において、重ね合わせた心材と皮材の界面を接合させる接合工程を行い、その後、板厚を減少させる熱間圧延へ移行する。界面が接合するまでは、心材と皮材がお互いの変形を拘束する効果が小さいことから、強度差による伸び量の違いが生じやすい。
このため、高強度の心材より多く伸びた低強度の皮材が、心材の圧延方向端面よりも突出することで、引き続き行われる板厚を減少させる熱間圧延において、突出した皮材の脱落が生じ、生産トラブルとなるおそれがある。
【0003】
例えば、心材に比べ皮材の材料強度が低い場合、心材より皮材の材料が伸びる。このとき、接合されてない界面において材料のすべりを生じながら、皮材が心材から突出する。特に、圧延方向の前後端で材料が突出しやすく、突出した材料が心材のエッジ部に当たる箇所を起点に脱落することで、生産の妨げになる場合がある。
【0004】
また、低強度の皮材が、心材よりも大きく伸びてしまった場合、皮材と心材の圧延方向伸び量に大きな差が生じる。皮材と心材の伸び量の差は、そのままクラッド材各層の厚さの変化量の差となる。すなわち、皮材と心材の伸びの差が大きい場合、クラッド率の変化が発生し、所望のクラッド率が得られなくなるおそれがある。
前述のとおり、低強度の皮材において圧延方向の前後端が突出しやすいことから、前後端のクラッド率の変化が特に大きくなりやすい。その結果、所望のクラッド率が得られなかった前後端を切り捨てる除去作業が必要となってしまい、著しく生産性を阻害する問題がある。
【0005】
以下の特許文献1および特許文献2に記載の技術では、皮材と心材の界面に網状の物体や箔を設置することにより、皮材と心材のすべりを抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-193012号公報
【特許文献2】特開2015-217403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これら特許文献1、2に記載の技術では、界面に設置した網状体や箔の存在が介在物となり、クラッド材の品質不良の原因となるので、近年の高品質なクラッド材の製造には適用できない問題があった。更に、網状体やシートを別途用意するための労力とコストが懸念される。
また、心材と皮材の界面外周部に溶接を施しておくことで、界面のすべりや伸びの差を抑制する方法も知られているが、溶接工程分のコストが発生する。
【0008】
そこで、クラッド材の熱間圧延において、重ね合わせた心材と皮材が熱間圧延の進行によりどのような状態となるのかについて研究したところ、以下のような考察を得ることができる。
図31は、上下のワークロール100、101の間に帯板状の心材102とその上下両面に配置した皮材103からなるクラッド素材105を挟み込み、ワークロール100、101を矢印方向に回転させて熱間圧延を開始した初期状態を示し、図32は終期状態を示す。
心材102と皮材103は皮材103の方が軟らかいので、皮材103の伸びが大きいと仮定し、心材102より皮材103を予め所定長さ短くした状態から熱間圧延を開始する。図31に示す状態から図32に示す圧延終期状態となるように圧延を続行すると、図31に示す状態において皮材103の長さがaであったとして、図32に示す圧延終期状態において皮材103の長さはa’となる。また、圧延初期の心材102の長さがbであったとして、圧延終期に心材102の長さはb’となる。
【0009】
ワークロール100、101の間隔を絞りつつ、ワークロール100、101の間を繰り返し通過させて徐々に心材102と皮材103の厚みを減少させてゆく。この場合、目的の厚さのクラッド材となる頃に皮材103の長さ方向一端側と心材102の長さ方向一端側の位置が揃うように圧延できると、材料の無駄がなく、理想的な圧延ができたこととなる。
【0010】
上述の熱間圧延に関し、心材102と皮材103の各々の伸び量とすべり量は以下のように仮定できる。
図31に、熱間圧延開始初期の心材102と皮材103の位置を示す。すべり量は、上下のワークロール100、101が抜けた際の心材102と皮材103の伸び量の差分としてここでは定義する。数式で表すと下記のように示される。
すべり量=(皮材103の伸び量)-(心材102の伸び量)
=(圧延終期の皮材103の長さ-圧延初期の皮材103の長さ)-(圧延終期の心材102の長さ-圧延初期の心材102の長さ)= (a’ -a)-(b’-b)
【0011】
ここで、クラッド材のすべり量の予測方法として、以下の式より、数値解析と実機との伸び量のずれについて、最小二乗法を用いることで補正係数αを算出できると考えることができる。そして、未知の圧延条件における数値解析によるすべり量を算出し、α倍することで予測値を算出するという手法を考えることができる。
以下の式において、iはサンプルナンバーを示し、xiは該当サンプルナンバーの予測値を示し、yiは該当サンプルナンバーの実績値を示し、αは補正係数を示す。
【0012】
【数1】
【0013】
しかし、上述の解析モデルの問題点として、心材/皮材界面の接触の定義を行う場合、クーロン摩擦を導入することが考えられるが、心材と皮材の金属間での接合のしやすさ等を考慮できていない問題がある。
そのため、クラッド率、圧下量、材料の組み合わせ、変形抵抗が異なる場合、補正係数を各4つのパラメーターの組み合わせで算出する必要があり、補正係数を求めるために必要なデータ点数は膨大な数になるおそれがある。また、この技術では1パスあたりのすべり量により補正係数を算出するため、多パスで圧延する場合、各パスにおけるすべり量を算出することは容易ではなく、上側の皮材103と下側の皮材103のすべり量を個々に算出できない課題がある。
【0014】
本願発明は、心材と皮材を有するアルミニウムクラッド材のすべり量を予測する場合、心材と皮材の界面に生じるすべりを加味してクラッド材の製造時に心材端部から皮材端部が伸びて突出することを抑制し、心材端部側における皮材端部の脱落を防止できる技術の提供を目的とする。
また、本願発明は、心材端部から突出する皮材量を抑制することで、皮材の切り捨て量を削減し、適正なクラッド率のアルミニウムクラッド材を効率良く製造できる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)本発明に係るアルミニウムクラッド材のすべり量予測方法は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる2つ以上の板材を重ね合わせた積層物を熱間圧延ロールによる熱間圧延の接合工程において接合し、この接合により得られた接合体を引き続き前記熱間圧延ロールにより熱間圧延して少なくとも心材と皮材を接合したアルミニウムクラッド材を製造するにあたり、すべり量を予測する方法であって、前記接合工程で生じる前記心材と前記皮材の間の圧延方向のすべり量を求めるに際し、
前記心材と前記皮材のすべり量が増加する摩擦モードに従う複数のパスを経て、任意のパス数における所定のパスにおいて前記心材と前記皮材のすべり量が一定値となる接合モードに至ると仮定し、
前記接合モードに至るまでのパス数と、各パスにおける圧下率と、前記パス数に応じた表面積拡大比を利用し、前記摩擦モードにおいてクラッド圧延の数値解析により表面積拡大率とすべり量を求め、前記接合モードに至る所定のパスのロールバイト内の途中あるいはロールバイト出口で限界表面積拡大率に達すると仮定し、前記接合モードにおいてクラッド圧延の数値解析により表面積拡大率とすべり量を求め、
前記限界表面積拡大率が前記摩擦モードの表面積拡大率累積と前記接合モードの表面積拡大率の合計値になるという関係を利用し、この関係に実機圧延による既知のすべり量の結果を当てはめ、実機圧延によるパス数に応じたすべり量を再現できるように逆解析を行って前記限界表面積拡大率を求め、この限界表面積拡大率を利用して前記すべり量を予測することを特徴とする。
【0016】
(2)本発明に係るアルミニウムクラッド材のすべり量予測方法において、上下に配置したワークロールの間を前記ワークロールの一側から他側に通過するフォワードと前記ワークロールの他側から一側に通過するリバースを交互に繰り返すことで実機により熱間圧延を実施し、前記フォワードと前記リバースを繰り返して前記熱間圧延を進行させるに際し、前記フォワードか前記リバースにおける前記心材のすべり量あるいは前記皮材のすべり量が増加する間を摩擦モードと規定し、前記フォワードか前記リバースにおける前記心材のすべり量あるいは前記皮材のすべり量が一定値となる間を接合モードと規定し、前記接合モードに至るまでの各モードのパス数をn、Piを各モードのパス数i回目の圧下率とし、各モードのパス数i回目の表面積拡大比をSとし、限界表面積拡大率Eが、摩擦モードの表面積拡大率累積Efricと接合モードの表面積拡大率累積Econの合計値であると仮定し、以下の(1)式の関係を利用し、前記限界表面積拡大率Eを求めることが好ましい。
【0017】
【数2】
【0018】
(3)本発明に係るアルミニウムクラッド材のすべり量予測方法において、nパス目にフォワードで接合モードに至る時の累積のすべり量をLFW,nと定義し、その前後のパスにてリバースで接合モードに至る時の累積のすべり量をLREV,n±1と定義し、摩擦モードにおけるiパス目のフォワードの累積のすべり量をLFW,fric,iと定義し、摩擦モードにおけるiパス目のリバースの累積のすべり量をLREV,fric,iと定義し、摩擦モードにおけるiパス目のそのパスでのフォワードのすべり量をlFW,fric,iと定義し、摩擦モードにおけるiパス目のそのパスでのリバースのすべり量をlREV,fric,iと定義し、接合モードに至る時のそのパスでのフォワードのすべり量をlFW,conと定義し、接合モードに至る時のそのパスでのリバースのすべり量をlREV,conと定義し、圧延の数値解析により皮材の変形抵抗÷心材の変形抵抗X1、限界表面積拡大率X2、圧下率X3、クラッド率X4を変数としてすべり量の解析値を得ることをf(X1、X2、X3、X4)と定義すると、
接合モードに至った時の前記フォワードのすべり量が以下の(2)式の関係を満足し、接合モードに至った時の前記リバースのすべり量が以下の(3)式の関係を満足し、摩擦モードのフォワードのすべり量が以下の(4)式の関係を満足し、摩擦モードのリバースのすべり量が以下の(5)式の関係を満足し、接合モードに至る時のそのパスでのフォワードのすべり量が以下の(6)式の関係を満足し、接合モードに至る時のそのパスでのリバースのすべり量が以下の(7)式の関係を満足すると仮定し、各パスでのフォワードおよびリバースのすべり量を算出することを特徴とする。
【0019】
【数3】
【0020】
【数4】
【0021】
【数5】
【0022】
【数6】
【0023】
【数7】
【0024】
【数8】
【0025】
(4)本発明に係るアルミニウムクラッド材の製造方法は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる2つ以上の板材を重ね合わせた積層物を熱間圧延ロールによる熱間圧延の接合工程において接合し、この接合により得られた接合体を引き続き前記熱間圧延ロールにより熱間圧延して少なくとも心材と皮材を接合したアルミニウムクラッド材を製造する方法であって、前記接合工程で生じる前記心材と前記皮材の間の圧延方向のすべり量を求めるに際し、前記心材と前記皮材のすべり量が増加する摩擦モードに従う複数のパスを経て、任意のパス数における所定のパスにおいて前記心材と前記皮材のすべり量が一定値となる接合モードに至ると仮定し、前記接合モードに至るまでのパス数と、各パスにおける圧下率と、前記パス数に応じた表面積拡大比を利用し、前記摩擦モードにおいてクラッド圧延の数値解析により表面積拡大率とすべり量を求め、前記接合モードに至る所定のパスのロールバイト内の途中あるいはロールバイト出口で限界表面積拡大率に達すると仮定し、前記接合モードにおいてクラッド圧延の数値解析により表面積拡大率とすべり量を求め、前記限界表面積拡大率が前記摩擦モードの表面積拡大率累積と前記接合モードの表面積拡大率の合計値になるという関係を利用し、この関係に実機圧延による既知のすべり量の結果を当てはめ、実機圧延によるパス数に応じたすべり量を再現できるように逆解析を行って前記限界表面積拡大率を求め、この限界表面積拡大率を利用して前記すべり量を予測し、前記アルミニウムクラッド材を製造する場合、前記接合工程に供する前の前記積層物における2つ以上の板材の長さを前記すべり量の予測値に基づき調整することを特徴とする。
【0026】
(5)本発明に係るアルミニウムクラッド材の製造方法において、上下に配置したワークロールの間を前記ワークロールの一側から他側に通過するフォワードと前記ワークロールの他側から一側に通過するリバースを交互に繰り返すことで実機により前記熱間圧延を実施し、
前記フォワードと前記リバースを繰り返して前記熱間圧延を進行させるに際し、前記フォワードか前記リバースにおける前記心材のすべり量あるいは前記皮材のすべり量が増加する間を摩擦モードと規定し、前記フォワードか前記リバースにおける前記心材のすべり量あるいは前記皮材のすべり量が一定値となる圧延パスを接合モードと規定し、前記接合モードに至るまでのパス数をnとし、摩擦モードのパス数i回目の表面積拡大比をSとし、
限界の表面積拡大率Eが、摩擦モードの表面積拡大率累積Efricと接合モードの表面積拡大率累積Econの合計値であると仮定し、以下の(1)式の関係を利用し、前記限界の表面積拡大率Eを数値解析による逆解析により求めることが好ましい。
【0027】
【数9】
【0028】
(6)本発明に係るアルミニウムクラッド材の製造方法において、nパス目にフォワードで接合モードに至る時の累積のすべり量をLFW,nと定義し、その前後のパスにてリバースで接合モードに至る時の累積のすべり量をLREV,n±1と定義し、摩擦モードにおけるiパス目のフォワードの累積のすべり量をLFW,fric,iと定義し、摩擦モードにおけるiパス目のリバースの累積のすべり量をLREV,fric,iと定義し、摩擦モードにおけるiパス目のそのパスでのフォワードのすべり量をlFW,fric,iと定義し、摩擦モードにおけるiパス目のそのパスでのリバースのすべり量をlREV,fric,iと定義し、接合モードに至る時のそのパスでのフォワードのすべり量をlFW,conと定義し、接合モードに至る時のそのパスでのリバースのすべり量をlREV,conと定義し、圧延の数値解析により皮材の変形抵抗÷心材の変形抵抗X1、限界表面積拡大率X2、圧下率X3、クラッド率X4を変数として解析値を得ることをf(X1、X2、X3、X4)と定義すると、
接合モードに至った時の前記フォワードのすべり量が以下の(2)式の関係を満足し、接合モードに至った時の前記リバースのすべり量が以下の(3)式の関係を満足し、摩擦モードのフォワードのすべり量が以下の(4)式の関係を満足し、摩擦モードのリバースのすべり量が以下の(5)式の関係を満足し、接合モードに至る時のそのパスでのフォワードのすべり量が以下の(6)式の関係を満足し、接合モードに至る時のそのパスでのリバースのすべり量が以下の(7)式の関係を満足すると仮定し、各パスでのフォワードおよびリバースのすべり量を算出することを特徴とする。
【0029】
【数10】
【0030】
【数11】
【0031】
【数12】
【0032】
【数13】
【0033】
【数14】
【0034】
【数15】
【発明の効果】
【0035】
本発明により、心材と皮材からなるアルミニウムクラッド材の接合工程において、熱間圧延により伸びが異なる心材と皮材を用いた接合工程であっても、心材と皮材の伸びを適切に把握することができる。このため、接合工程に供する心材と皮材の長さを予め適切に調整しておくことが可能となり、心材端部から皮材が伸びて突出する現象を抑制し、心材端部側における皮材の脱落を防止できる技術を提供できる。
また、本発明により、心材端部から突出する皮材量を抑制することで、皮材の切り捨て量を削減し、適正なクラッド率のアルミニウムクラッド材を効率良く製造できるアルミニウムクラッド材の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明に係るアルミニウムクラッド材のすべり量予測に用いる解析モデルの一例を示す概略図。
図2】心材と皮材からなるアルミニウムクラッド材を圧延する場合の解析に用いる表面積拡大率と表面積拡大比について説明するためのモデル図であり、(A)は解析に用いる要素が圧延位置の直前にある状態を示す図、(B)は(A)に示す状態の部分拡大図、(C)は解析に用いる要素が圧延位置を通過中の状態を示す図、(D)は(B)に示す状態の部分拡大図。
図3】同表面積拡大率と表面積拡大比について説明するためのモデル図であり、(A)は解析に用いる要素が圧延位置を通過した後の状態を示す図、(B)は(A)に示す状態の部分拡大図。
図4】心材と皮材からなるアルミニウムクラッド材のすべり予測に用いた解析モデルの一例を示すもので、(A)は皮材の長さ方向一端部と心材との境界位置に皮材追従マークと心材追従マークを設定した圧延前の状態を示す解析モデルの概略図、(B)は圧延後に皮材追従マークと心材追従マークが移動した位置を示す解析モデルの概略図。
図5】上下に配置したワークロールを用いて心材とその上下に配置した皮材からなるアルミニウム積層物を熱間圧延により圧延する場合、積層物の進行方向を左向きとする任意の1パスにおける初期状態を示す模式図。
図6】上下に配置したワークロールを用いて心材とその上下に配置した皮材からなるアルミニウム積層物を熱間圧延により圧延する場合、積層物の進行方向を左向きとする任意の1パスにおける終期状態を示す模式図。
図7】上下に配置したワークロールを用いて心材とその上下に配置した皮材からなるアルミニウム積層物を熱間圧延により圧延する場合、積層物の進行方向を右向きとする任意の1パスにおける初期状態を示す模式図。
図8】上下に配置したワークロールを用いて心材とその上下に配置した皮材からなるアルミニウム積層物を熱間圧延により圧延する場合、積層物の進行方向を右向きとする任意の1パスにおける終期状態を示す模式図。
図9】熱間圧延のパス数と圧下率の関係を示すグラフ。
図10】熱間圧延のパス数と上側の皮材のすべり量の関係を示すグラフ。
図11】熱間圧延のパス数と下側の皮材のすべり量の関係を示すグラフ。
図12】熱間圧延のパス数と累積表面積拡大率の関係を示すグラフ。
図13】熱間圧延のパス数と上側の皮材のフォワードにおけるすべり量の算出結果を示すグラフ。
図14】熱間圧延のパス数と上側の皮材のリバースにおけるすべり量の算出結果を示すグラフ。
図15】試料Aを用いた場合において、熱間圧延のパス数と上側の皮材のリバースにおけるすべり量の実施結果を示すグラフ。
図16】試料Aを用いた場合において、熱間圧延のパス数と上側の皮材のフォワードにおけるすべり量の実施結果を示すグラフ。
図17】試料Aを用いた場合において、熱間圧延のパス数と下側の皮材のリバースにおけるすべり量の実施結果を示すグラフ。
図18】試料Aを用いた場合において、熱間圧延のパス数と下側の皮材のフォワードにおけるすべり量の実施結果を示すグラフ。
図19】試料Bを用いた場合において、熱間圧延のパス数と上側の皮材のフォワードにおけるすべり量の実施結果を示すグラフ。
図20】試料Bを用いた場合において、熱間圧延のパス数と上側の皮材のリバースにおけるすべり量の実施結果を示すグラフ。
図21】試料Bを用いた場合において、熱間圧延のパス数と下側の皮材のフォワードにおけるすべり量の実施結果を示すグラフ。
図22】試料Bを用いた場合において、熱間圧延のパス数と下側の皮材のリバースにおけるすべり量の実施結果を示すグラフ。
図23】試料Cを用いた場合において、熱間圧延のパス数と上側の皮材のフォワードにおけるすべり量の実施結果を示すグラフ。
図24】試料Cを用いた場合において、熱間圧延のパス数と上側の皮材のリバースにおけるすべり量の実施結果を示すグラフ。
図25】試料Cを用いた場合において、熱間圧延のパス数と下側の皮材のフォワードにおけるすべり量の実施結果を示すグラフ。
図26】試料Cを用いた場合において、熱間圧延のパス数と下側の皮材のリバースにおけるすべり量の実施結果を示すグラフ。
図27】試料Dを用いた場合において、熱間圧延のパス数と上側の皮材のリバースにおけるすべり量の実施結果を示すグラフ。
図28】試料Dを用いた場合において、熱間圧延のパス数と上側の皮材のフォワードにおけるすべり量の実施結果を示すグラフ。
図29】試料Dを用いた場合において、熱間圧延のパス数と下側の皮材のフォワードにおけるすべり量の実施結果を示すグラフ。
図30】試料Dを用いた場合において、熱間圧延のパス数と下側の皮材のリバースにおけるすべり量の実施結果を示すグラフ。
図31】熱間圧延の任意の1パスの初期段階においてワークロールの間に心材と該心材の上下両面に配置した積層物を挟持した状態を示す模式図。
図32】熱間圧延の任意の1パスの終期段階において心材と皮材の伸び量について説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、添付図面に基づき、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。
本実施形態においては、熱間圧延によりアルミニウムの心材と皮材からなる積層物に対し圧延を施し、心材と皮材を接合するとともに、それらの厚さを減少させて目的厚さのアルミニウムクラッド材を製造する場合について以下に説明する。
【0038】
図1は、上述の熱間圧延によりアルミニウムクラッド材を製造する方法について、有限要素法に基づく解析を実施するための解析モデルの概要を示す説明図である。有限要素法を実施するためのプログラムに付属しているサブルーチンを使用することで、アルミニウムクラッド材の金属の組合せによる圧着性、界面の摩擦すべりから接合に変化することを解析可能となる。有限要素法を実施するためのプログラムとして、例えば、ダッソーシステムズ株式会社製abaqus、バージョン6.14を用いることができる。
【0039】
図1において、水平に設置されている帯板状の心材1の上に帯板状の皮材2が設置され、心材1より皮材2は図1の左右方向の長さが若干短い状態に描かれている。図1に示す心材1と皮材2は、図1の左右方向を熱間圧延時の心材1と皮材2の搬送方向と仮定し、該搬送方向をX軸方向と仮定し、心材1と皮材2の厚さ方向を前記X軸方向に直交するY軸方向と仮定する。図1において、心材1と皮材2の左側端部は揃えて配置され、皮材2の上にワークロール3(熱間圧延ロール)が配置されている。ワークロール3の周面輪郭の内側に描いた半円弧状の矢印は、ワークロール3の回転方向を示している。図1は、心材1と皮材2の縦断面を描いた解析モデル図であり、図1ではワークロール3の横断面輪郭が円形状に描かれている。
【0040】
図1に示す解析モデルはX軸対称とされるので、図1に描かれている心材1は、実際の心材の半分程度の厚さが表記されていることとなり、図1に描かれている心材1の下方側に残り半分の厚さの心材と皮材と下側のワークロールが存在すると仮定して解析がなされる。図1に示す解析モデルでは、ワークロール3の周速を例えば5m/minに固定して後述する解析を実施できる。予測対象の条件に応じて、圧下率、クラッド率、皮材2の変形抵抗÷心材1の変形抵抗、限界表面積拡大率の合計4パラメータを変量させることができる。
【0041】
図2図3は、心材1の両面に皮材2、4を設けた板材を上下のワークロール3、5により圧延する場合のより詳細なモデル図を示す。
本実施形態では、皮材-心材界面の皮材側の表面積拡大率と表面積拡大比を利用することとする。なお、心材側と皮材側の表面積拡大率の平均と表面積拡大比の平均を利用してもよい。
本実施形態で行う圧延解析は2次元で実施する。圧延解析を3次元で実施しても良い。本実施形態において圧延解析を2次元で実施する場合、図2図3の紙面奥行き方向のひずみを0とする平面ひずみ仮定を利用する。この仮定の場合、表面積=図2中又は図3中の圧延方向の長さA×紙面奥行き方向の任意長さl(エル)=Aとなる。図2図3の紙面奥行き方向の任意長さlは、圧延で変化しないと仮定する。
図2(A)、図2(C)、図3(A)は上述の有限要素法で解析する要素としての1マス(図2(A)に示す矩形部分)が圧延の進行に伴って移動し、変形する状態を示す。
図2(A)、図2(B)において解析要素の1マスは、ワークロール3の直前に位置している。図2(C)、図2(D)において解析要素の1マスは、ワークロール3下方の圧延領域内に位置している。図3(A)、図3(B)において解析要素の1マスは、ワークロール3による圧延領域を通過した位置に移動している。
図2(B)に示す圧延前の位置において圧延方向に沿う幅Aを有する1マスは、図2(D)に示すように圧延されて変形され、図3(B)に示すように圧延方向に沿う幅Aを有する矩形状に引き延ばされる。
本実施形態では、表面積拡大率E(%)と表面積拡大比を下記に示すように定義する。
表面積拡大率(E)=(A-A)/A×100
表面積拡大比(S)=A/A
【0042】
図4は、有限要素法に基づく解析を実施する場合、上述の如く皮材-心材界面の皮材側の表面積拡大率と表面積拡大比を利用すると仮定し、図4(A)に示すように心材の上に皮材が存在し、皮材-心材界面の皮材側の位置に、皮材追従マークと心材追従マークを設置した状態の解析モデル図を示す。
図4(A)に示すように皮材の左端部側に位置していた圧延ロールが皮材の長さ方向に沿って圧延を実施し、圧延ロ-ルが皮材の右端側を通過した状態の解析結果を図4(B)に示す。
図4(B)に示すように心材と皮材の両方が圧延により伸びるが、一般的に皮材は心材より変形抵抗が低く、圧延方向に沿う心材の変形量より圧延方向に沿う皮材の変形量が大きくなる。このため、図4(B)において皮材追従マークは心材追従マークより圧延方向に沿って遠い位置まで移動する。図4(B)に示す皮材追従マークと心材追従マークの間隔(圧延方向の間隔)をすべり量と定義できる。
【0043】
なお、計算コスト削減のため、本実施形態では、図2(A)、(C)、図3(A)に描かれている上下のワークロール3、5のうち、上側のワークロール3による変形挙動のみを有限要素法でモデル化し、数値解析を実施することとする。上側のワークロール3による変形挙動のみを解析するため、心材の厚さ方向中央部を境に図4(A)、(B)に示す線対称と記入した位置の線分に沿って分割し、この線分が示す境界に線対称の条件を付与する。上側の皮材と下側の皮材のそれぞれの変形抵抗に応じて上側の変形のし易さと、下側の変形のし易さは変化する。
この上側の圧下率と下側の圧下率を近似的に算出することができ、該当する圧下条件におけるすべり量を数値解析により求めることができる。なお、上述の近似を利用することなく、上側の皮材と下側の皮材の両方を含む数値解析モデルを用いてそれぞれ解析しても差し支えない。上側の皮材と下側の皮材の両方を含む数値解析モデルについては、後に説明する。
【0044】
なお、上述の数値解析において、皮材と心材の界面に対し力学的相互作用を設定することが好ましい。上述の商用ソフト(例えば、Abaqus)では、力学的相互作用としてクーロン摩擦条件やせん断摩擦条件を設定することができる。また、ソフトに付属のユーザーサブルーチンを用いて、独自の相互作用を設定することができる。本実施形態では、ユーザーサブルーチンを用いて、クーロン摩擦を基本条件とし、圧延によって増大する表面積拡大率が「限界表面積拡大率」に到達すると界面を接合させるとして、その相互作用条件を設定する。ユーザーサブルーチンを用いずとも、FEMでクーロン摩擦モデルを用いて圧延解析を行うことにしても構わない。
【0045】
上述の表面積拡大率がある閾値(限界表面積拡大率)を超えた場合、心材1と皮材2の界面が摩擦挙動から接合挙動に変化する。金属の接合メカニズムとして、金属表面は汚れ膜や酸化膜に覆われているが、圧下して面圧が高まると、汚れ膜や酸化膜が破壊され、界面に露出した新生面同士が直接接触して金属間結合が生じることで接合する。限界表面積拡大率は、金属の組み合わせによる界面の接合のしやすさを示すパラメータである。
上述の数値解析において、クラッド材の構成と限界表面積拡大率を入力することで、すべり量を出力できる。また、数値解析を用いずとも、数値解析に基づく重回帰分析や、機械学習などの代理モデルを使用して計算しても構わない。
【0046】
後に、図9を用いて説明する通り、熱間圧延では複数のパスの圧延後に心材と皮材が接合するので、接合するまでのパス数i回目の表面積拡大比Sとし、限界表面積拡大率Eが、摩擦モードの表面積拡大率累積Efricと接合モードの表面積拡大率累積Econの合計値であるという、以下の(1)式の関係を有する。心材と皮材はパス数i回目までの圧延で接合し接合体となるので、ここまでの複数のパスが接合工程となり、引き続きこの後の圧延で必要な厚さまで圧延し、アルミニウムクラッド材が得られる。
【0047】
【数16】
【0048】
nパス目の圧下最中で限界表面積拡大率に到達するが、限界表面積拡大率は、初めから分かっているわけではなく、限界表面積拡大率を試行錯誤的に変更したnパス目の数値解析を実施する。ここで、心材と皮材の材料や心材と皮材の厚さなどの条件を同等として実機熱間圧延試験によるnパス目のすべり量の実機データを求めておく。実機データは既知のすべり量のデータとなる。
そして、この実機データを再現するように、(1)式から限界表面積拡大率を決定する。この解析を限界表面積拡大率を決定するための逆解析と呼ぶことにする。この逆解析は、クラッド圧延の数値解析と称することができ、表面積拡大率とすべり量を求めることができる。これはすべり量の予測値を求めたこととなる。
nパス目の圧下最中に接合させる数値解析の方が精度が良く好ましい。但し、圧下最中に接合する数値解析を実施するには、上述のソフトのユーザーサブルーチンを用いる必要があるので、標準的に利用可能なクーロン摩擦条件やせん断摩擦条件でnパス目の数値解析を実施し、すべり量を評価し、nパス目圧下後の表面積拡大率を限界の表面積拡大率としてもよい。この場合のすべり量予測精度は落ちるが、簡易予測法として利用することができる。このような仮定の場合、ロールバイト内の途中あるいはロールバイト出口で限界表面積拡大率に達すると仮定する。ロールバイトとは、圧延ロールにより挟まれている領域のことを示す。上述のように途中で接合する場合はユーザーサブルーチンを使用することで取り扱うことができる。後述する実施例のようにユーザーサブルーチンを使用してロールバイト内の途中として限界表面積拡大率とすることが好ましいが、ロールバイト出口で限界表面積拡大率になると仮定し、簡易予測法として求めることもできる。
【0049】
なお、一例として、上述の4つのパラメータに関し、重回帰分析を適用する場合は、すべり量を4パラメータの変数で数式化することができる。
すべり量=g(X1,X2,X3,X4)
ただし、X1:皮材の変形抵抗÷心材の変形抵抗、X2:限界表面積拡大率、X3:圧下率、X4:クラッド率とする。
上述の如くすべり量の予測値を求めることができると、すべり量を打ち消すように予め皮材の長さを心材より短くしておくと、最終的にアルミニウムクラッド材を圧延により製造した場合、皮材の無駄に長くなる部分の長さをできるだけ短くするか無くすることができる。以上のように皮材と心材の長さを予め調整しておくならば、皮材と心材を用いてアルミニウムクラッド材を製造する場合、皮材の無駄をできるだけ少なくするか、なくすることが可能となる。
【0050】
「限界表面積拡大率の算出方法」
上述の解析モデルを用いるための4つの解析パラメータにおいて、限界表面積拡大率は、材料の組み合わせごとに決定されるパラメータであり、算出する上で、実機における圧延試験が必要となる。実機圧延試験の概略に関し、以下に説明する。
図5は、熱間圧延の所定の1パスにおいて、フォワード初期における熱間圧延開始時の心材10と皮材11からなる積層物12と、上下のワークロール13、14の位置関係を示す模式図である。図6は、同フォワード終期における熱間圧延終期の心材10と皮材11と上下のワークロール13、14の位置関係を示す模式図である。ここで用いたフォワードとは、図5図6に示すようにワークロール13、14に対して積層物12が左側に移動し、相対的に積層物12が右向きに伸ばされる状態を意味する。なお、本実施形態において適用する心材10と皮材11は、アルミニウムあるいはアルミニウム合金からなると想定する。
【0051】
図7は、熱間圧延の所定の1パスにおいて、リバース初期における熱間圧延開始時の心材10と皮材11からなる積層物12と、上下のワークロール(熱間圧延ロール)13、14の位置関係を示す模式図である。図8は、同リバース終期における熱間圧延終期の心材10と皮材11と上下のワークロール13、14の位置関係を示す模式図である。ここで用いたリバースとは、図7図8に示すようにワークロール13、14に対して積層物12が右側に移動し、相対的に積層物12が左向きに伸ばされる状態を意味する。
これらの定義は、本実施形態においてリバース式の熱間圧延装置を用いることを前提に解析を実施するためであり、上下のワークロール13、14に対し、フォワードとリバースを交互に繰り返しながら熱間圧延を実施してアルミニウムクラッド材を製造することを前提とする。本実施形態では、1パス毎にフォワードとリバースを繰り返す、リバース式の熱間圧延装置を用いることを前提とし、以下に説明する。フォワードはワークロール13、14の一側から他側に積層物が通過する動作であり、リバースはワークロール13、14の他側から一側に積層物が通過する動作であるといえる。
【0052】
図5図8に示した圧延条件に従い、(Al-Mn系の)アルミニウム合金からなる帯板状の心材と、(Al-Si系の)アルミニウム合金からなる帯板状の皮材を用いた積層物を用意し、480℃に均熱した積層物をワークロール13、14を用いた熱間圧延に供する試験を実施した。
以下の表1に、試験に用いた上側の皮材の厚さ(mm)と、下側の皮材の厚さ(mm)と、心材の厚さ(mm)と、それらの長さ(mm)と、上側の皮材の変形抵抗(MPa)と、下側の皮材の変形抵抗(MPa)と、心材の変形抵抗(MPa)を示す。
【0053】
【表1】
【0054】
図9に上述の熱間圧延を実施した場合のパス回数と圧下率との関係をフォワードとリバースごとに区別して示す。
図9に示されているのはクラッド3層全体での圧下率となる。必須ではないが計算コストの観点で、上側(あるいは下側)のみを有限要素でモデル化し数値解析を実施することができる。上側と下側は先に説明したように心材の肉厚中央部を境に分割できる。近似として、省略した下側(あるいは上側)との境界に線対称の条件を与えることができる。上側(あるいは下側)のみを有限要素でモデル化し数値解析を実施する場合は、上側(あるいは下側)の圧下率を求める必要がある。1パス目リバースの場合を例に下記のように推定した。
【0055】
心材の肉厚中央部を境に分割した上側と下側をそれぞれ上側モデルと下側モデルと呼称する。上側の皮材の変形抵抗、上側モデルの圧下率、上側モデルの厚みをそれぞれY、R、hとし、下側の皮材の変形抵抗、下側モデルの圧下率、下側モデルの厚みをそれぞれY、R、hとする。上側と下側で皮材の変形抵抗が大きい方が圧下率が小さくなると考え、以下の(8)式の近似が利用可能と仮定した。なお、近似方法は(8)式には限らず、心材の変形抵抗の影響や皮材の厚みの影響を考慮してもよい。また、手順の簡単さを重視する場合は、R=Rとしてもよい。近似を使わずに、上の皮材と下の皮材の両方を含む数値解析モデルを用いても構わない。
【0056】
【数17】
【0057】
また、クラッド3層全体での圧下率RWHは下記の(9)式で表すことができる。
【0058】
【数18】
【0059】
上記2つの式を変形すると、以下の(10)式およびが(11)式が得られる。(10)式により上側モデルの圧下率、(11)式により下側モデルの圧下率を求めることができる。
【0060】
【数19】
【0061】
【数20】
【0062】
1パス目のリバースの場合で具体的に算出すると、クラッド3層全体での圧下率RWHは0.9%に対して、以下の(12)式のように上側モデルの圧下率を計算でき、以下の(13)式で下側モデルの圧下率を計算できる。
【0063】
【数21】
【0064】
【数22】
【0065】
図10は、上側の皮材における熱間圧延パス数とすべり量の関係を実機試験において求めた結果を示し、図11は、下側の皮材における熱間圧延パス数とすべり量の関係を実機試験において求めた結果を示す。なお、図10図11では、記載の簡略化のため、上側の皮材を上ライナーと記載し、下側の皮材を下ライナーと記載している。
この試験では、上側の皮材を具体例として、限界表面積拡大率Eの算出方法を以下に説明する。
図10において1パス目がフォワードを示し、交互にフォワードとリバースを繰り返しているパスにおいて、6パス目から、すべり量が一定値になっていることがわかる。すなわち、6パス目で界面の状態が摩擦から接合に移行したと考えることができる。
【0066】
ここでは、5パス目までの状態を摩擦モードと定義(規定)し、6パス目以降を接合モードと定義(規定)すると限界表面積拡大率(E)は、
=Efric(摩擦モードの表面積拡大率累積)+Econ(接合モードの表面積拡大率累積)となる。
以上説明した関係を以下の(14)式で表示することができる。ただし、以下の(14)式において、S:i回目の表面積拡大比を意味する。
【0067】
【数23】
【0068】
6パス目に関しては、数値解析から逆算することで限界表面積拡大率を算出できる。
以上説明の方法で算出した上側ライナーと下側ライナーにおける表面積拡大率と熱間圧延パス数の関係を以下の説明と図12に示す。
【0069】
なお、数値解析に代えて、6パス目に関し、上述の重回帰分析と変量解析を利用する場合は、以下の式を用いることもできる。
6パス目のすべり量の増加量=g(X1,E―Efric,X3,X4)
ただし、X1:皮材の変形抵抗÷心材の変形抵抗、X2:6パス目の表面積拡大率に対する限界表面積拡大率=E―Efric、X3:圧下率、X4:クラッド率とする。
ここでは、6パス目で界面の状態が摩擦から接合に移行したと解釈し、摩擦モードの表面積拡大率累積Efricのiを5までで計算し、6パス目以降の接合モードの表面積拡大率累積Econを別に計算できる。
【0070】
図12は、前述の数値解析により算出した、上下の皮材の累積の表面積拡大率と熱間圧延のパス数との関係を示すグラフである。なお、図12以降の各図において、記載の簡略化のため、上側の皮材を上ライナーと記載し、下側の皮材を下ライナーと記載した。
図12において○印で囲んだ点は、クラッド材界面が接合に必要な限界表面積拡大率Eを示している。
【0071】
具体的なすべり量の算出方法(すべり量予測方法)について、上側の皮材を例として以下に説明する。
摩擦モードにおけるiパス目のフォワードの累積のすべり量をLFV,fric,iと定義し、摩擦モードにおけるiパス目のリバースの累積のすべり量をLREV,fric,iと定義する。摩擦モードにおけるiパス目のそのパスでのフォワードのすべり量をlFW,fric,iと定義し、摩擦モードにおけるiパス目のそのパスでのリバースのすべり量をlREV,fric,iと定義すると、フォワードの累積のすべり量とリバースの累積のすべり量は、以下の(15)式と(16)式で表すことができる。
【0072】
【数24】
【0073】
【数25】
【0074】
例えば、6パス目(リバースの時)に接合すると仮定すると、限界表面積拡大率Eから5パス目までの累積の表面積拡大率累積Efricの差分を6パス目で接合するのに必要な6パス目の表面積拡大率とし、数値解析によって以下の(17)式で示す様にlREV,conを算出することができる。
【0075】
【数26】
【0076】
フォワードの時に接合する場合は、数値解析によって以下の(18)式で示す様にlFW,conを算出することができる。
【0077】
【数27】
【0078】
以上のように計算することで、リバースとフォワードの各パスでのすべり量を算出することができる。上記の手順で算出した、上側の皮材のリバースとフォワードでのパス数-すべり量の関係を求めた結果を図13図14に示す。
【0079】
図13は、上側の皮材のフォワード(上ライナーフォワードと略記)における、実機試験結果と上述の予測モデルに基づく計算結果について、パス数とすべり量の関係を求めた結果を示す。
図14は、上側の皮材のリバース(上ライナーリバースと略記)における、実機試験結果と上述の予測モデルに基づく計算結果について、パス数とすべり量の関係を求めた結果を示す。
上述のように、限界表面積拡大率Eを算出することで、リバース、フォワードのすべり量を算出できる。また、クラッド率、変形抵抗、圧下率を変更した場合でも、金属間の組み合わせが同じ場合は、同じ限界表面積拡大率Eを用いてすべり量を予測することができる。
【0080】
以下、先の表1に示した試料Aの場合と同様に、以下の表2に示す上側の皮材の厚さ(mm)と、下側の皮材の厚さ(mm)と、心材の厚さ(mm)と、それらの長さ(mm)と、上側の皮材の変形抵抗(MPa)と、下側の皮材の変形抵抗(MPa)と、心材の変形抵抗(MPa)を有する試料B、C、Dについて、解析した結果を図15図30に示す。なお、以下の表2と図15以降の説明では、対比のために先の表1に記載した試料Aの結果も順次併記している。
【0081】
【表2】
【0082】
図15は、表2に示す試料Aについて、上側の皮材のリバース(上Aリバースと略記)における、実機試験結果と上述の予測モデルに基づく計算結果について、パス数とすべり量の関係を求めた結果を示す。
図16は、表2に示す試料Aについて、上側の皮材のフォワード(上Aフォワードと略記)における、実機試験結果と上述の予測モデルに基づく計算結果について、パス数とすべり量の関係を求めた結果を示す。
図15図16に示す実機のデータと予測モデルの対比から、すべり量において若干の相違はあるものの、摩擦モードから接合モードに遷移するパス数などを適格に求めて把握することができており、従来はすべり量とパス数の関係を全く把握できなかった状態より前進できた。
【0083】
図17は、表2に示す試料Aについて、下側の皮材のリバース(下Aリバースと略記)における、実機試験結果と上述の予測モデルに基づく計算結果について、パス数とすべり量の関係を求めた結果を示す。
図18は、表2に示す試料Aについて、下側の皮材のフォワード(下Aフォワードと略記)における、実機試験結果と上述の予測モデルに基づく計算結果について、パス数とすべり量の関係を求めた結果を示す。
【0084】
図19は、表2に示す試料Bについて、上側の皮材のフォワード(上Bフォワードと略記)における、実機試験結果と上述の予測モデルに基づく計算結果について、パス数とすべり量の関係を求めた結果を示す。
図20は、表2に示す試料Bについて、上側の皮材のリバース(上Bリバースと略記)における、実機試験結果と上述の予測モデルに基づく計算結果について、パス数とすべり量の関係を求めた結果を示す。
【0085】
図21は、表2に示す試料Bについて、下側の皮材のフォワード(下Bフォワードと略記)における、実機試験結果と上述の予測モデルに基づく計算結果について、パス数とすべり量の関係を求めた結果を示す。
図22は、表2に示す試料Bについて、下側の皮材のリバース(下Bリバースと略記)における、実機試験結果と上述の予測モデルに基づく計算結果について、パス数とすべり量の関係を求めた結果を示す。
【0086】
図23は、表2に示す試料Cについて、上側の皮材のフォワード(上Cフォワードと略記)における、実機試験結果と上述の予測モデルに基づく計算結果について、パス数とすべり量の関係を求めた結果を示す。
図24は、表2に示す試料Cについて、上側の皮材のリバース(上Cリバースと略記)における、実機試験結果と上述の予測モデルに基づく計算結果について、パス数とすべり量の関係を求めた結果を示す。
【0087】
図25は、表2に示す試料Cについて、下側の皮材のフォワード(下Cフォワードと略記)における、実機試験結果と上述の予測モデルに基づく計算結果について、パス数とすべり量の関係を求めた結果を示す。
図26は、表2に示す試料Cについて、下側の皮材のリバース(下Cリバースと略記)における、実機試験結果と上述の予測モデルに基づく計算結果について、パス数とすべり量の関係を求めた結果を示す。
【0088】
図27は、表2に示す試料Dについて、上側の皮材のリバース(上Dリバースと略記)における、実機試験結果と上述の予測モデルに基づく計算結果について、パス数とすべり量の関係を求めた結果を示す。
図28は、表2に示す試料Dについて、上側の皮材のフォワード(上Dフォワードと略記)における、実機試験結果と上述の予測モデルに基づく計算結果について、パス数とすべり量の関係を求めた結果を示す。
【0089】
図29は、表2に示す試料Dについて、下側の皮材のフォワード(下Dフォワードと略記)における、実機試験結果と上述の予測モデルに基づく計算結果について、パス数とすべり量の関係を求めた結果を示す。
図30は、表2に示す試料Dについて、下側の皮材のリバース(下Dリバースと略記)における、実機試験結果と上述の予測モデルに基づく計算結果について、パス数とすべり量の関係を求めた結果を示す。
【0090】
図19図30に示す結果を参照して分かるように、多くの試料において、予測モデルが実機の結果に近いすべり量を示しており、従来技術では全く予測がつかなかった状態に比べ、摩擦モードから接合モードに遷移する状態を予測することができ、最終パスまでにどの程度、上側の皮材と下側の皮材が伸びるか否かを把握することができた。上述のすべり量は伸び量に対応する。
図13図30の各図に示すように、各パスにおいて上側の皮材と下側の皮材のすべり量(伸び量)を把握できる。
【0091】
例えば、図23図24に示すように上側の皮材においてフォワードとリバースの予測モデルのすべり量は実機の熱間圧延の場合とすべり量とかなり近似性が高い。図23図24に示す試料Cを熱間圧延してアルミニウムクラッド材を製造する場合、予測モデルに基づき、全てのパスでどの程度の合計伸び量となるかを計算により求めると、熱間圧延開始前の状態から熱間圧延終期までにどの程度上側の皮材が伸びるのか、予測ができる。
【0092】
同様な予測を心材についても行い、心材と皮材が熱間圧延開始前の状態から熱間圧延終期までにどの程度伸びるのか、それぞれの総伸び量を把握しておき、総伸び量の差異を把握する。例えば、皮材が心材より最終的にどの程度余計に伸びるのかを把握し、その長さ分、皮材を短くしておき、熱間圧延を開始するならば、熱間圧延終了時に、心材と皮材の長さの差異を最小とする熱間圧延を実現しながらアルミニウムクラッド材を製造できる。
よって、アルミニウムクラッド材を製造するに際し、心材端部側における皮材の脱落を防止できる技術を提供できる。
また、心材端部から突出する皮材量を抑制することで、皮材の切り捨て量を削減し、適正なクラッド率のアルミニウムクラッド材を効率良く製造できる技術を提供できる。
【0093】
なお、先の例においては、実機試験により熱間圧延を実施した場合、上側の皮材において6パス目からすべり量が一定となったため、5パス目までを摩擦モード、6パス目以降を接合モードと判断した。このため、先に説明した以下の(14)式を用いた。
【0094】
【数28】
【0095】
ところが、上側の皮材において何パス目までが摩擦モードで何パス目から接合モードとなるかは、熱間圧延の条件や用いる心材と皮材の厚さ、種別により任意の異なるパス数となる。このため、上述の(14)式は以下に示す(19)式として一般化し、実機試験により異なるパス数で摩擦モードから接合モードに遷移した場合は、以下の(19)式に従い、計算することができる。(19)式においてnは、該当する皮材において摩擦モードから接合モードに移行した場合のパス数を示す。
【0096】
【数29】
【0097】
実機試験により、5パス目まで摩擦モード、6パス目から接合モードの場合は上述の(14)式を用いたが、他の任意のパス数で摩擦モードから接合モードに遷移した場合は、上述の(19)式を用い、先に説明した、限界表面積拡大率(E)を求める場合の以下の関係式に合わせて計算することができる。
=Efric(摩擦モードの表面積拡大率累積)+Econ(接合モードの表面積拡大率累積)
【0098】
なおまた、先の例では(15)式と(16)式において、上側の皮材を例にとって説明したが、(15)式と(16)式は、上側の皮材と下側の皮材のどちらの場合でも適用することができる。また、上述の関係を一般式とする場合は、以下に説明する各式に従うことができる。
【0099】
nパス目にフォワードで接合モードに至る時の累積のすべり量をLFW,nと定義し、その前後のパスにてリバースで接合モードに至る時の累積のすべり量をLREV,n±1と定義し、摩擦モードにおけるiパス目のフォワードの累積のすべり量をLFW,fric,iと定義し、摩擦モードにおけるiパス目のリバースの累積のすべり量をLREV,fric,iと定義し、摩擦モードにおけるiパス目のそのパスでのフォワードのすべり量をlFW,fric,iと定義し、摩擦モードにおけるiパス目のそのパスでのリバースのすべり量をlREV,fric,iと定義し、接合モードに至る時のそのパスでのフォワードのすべり量をlFW,conと定義し、接合モードに至る時のそのパスでのリバースのすべり量をlREV,conと定義し、圧延の数値解析により皮材の変形抵抗÷心材の変形抵抗X1、限界表面積拡大率X2、圧下率X3、クラッド率X4を変数として解析値を得ることをf(X1、X2、X3、X4)と定義すると、
接合モードに至った時の前記フォワードのすべり量が以下の(2)式の関係を満足し、接合モードに至った時の前記リバースのすべり量が以下の(3)式の関係を満足し、摩擦モードのフォワードのすべり量が以下の(4)式の関係を満足し、摩擦モードのリバースのすべり量が以下の(5)式の関係を満足し、接合モードに至る時のそのパスでのフォワードのすべり量が以下の(6)式の関係を満足し、接合モードに至る時のそのパスでのリバースのすべり量が以下の(7)式の関係を満足する。
【0100】
【数30】
【0101】
【数31】
【0102】
【数32】
【0103】
【数33】
【0104】
【数34】
【0105】
【数35】
【0106】
これら(2)式~(7)式を利用することにより、各状態におけるすべり量を求めることができる。
なお、3層のクラッド材圧延の数値解析により上側のすべり量を評価する場合は、上側の皮材の変形抵抗÷心材の変形抵抗X1、上側の皮材と心材との間の限界表面積拡大率X2、圧下率X3、上側の皮材のクラッド率X4を変数として上側のすべり量の解析値を得ることはf2上(X1、X2、X3、X4)などと表記でき、上述の(2)式~(7)式に適用することができる。
また、3層のクラッド材圧延の数値解析により下側のすべり量を評価する場合は、下側の皮材の変形抵抗÷心材の変形抵抗X1、下側の皮材と心材との間の限界表面積拡大率X2、圧下率X3、下側の皮材のクラッド率X4を変数として下側のすべり量の解析値を得ることはf2下(X1、X2、X3、X4)などと表記でき、上述の(2)式~(7)式に適用することができる。
なお、上側のすべり量と下側のすべり量を分けずに解析する場合の関数表示は、f(X1、X1、X2、X2、X3、X4、X4)の式で表示できる。
これらのように解析値を得ることをまとめてf(X1、X2、X3、X4)と表記し、上述したように各式に適用することができる。
【0107】
先の実施例においては、上側と下側で分けて解析した。先のX3は好ましくは、上下の皮材の変形抵抗に応じて設定することが好ましいが、上側と下側とで同じX3を選択し、近似することが望ましい。勿論、上側の皮材と下側の皮材の個々の変形抵抗に合わせてX3、X3とそれぞれ設定し、上述の関数表示に適用しても良い。
【符号の説明】
【0108】
1…心材、2、4…皮材、3、5…ワークロール(熱間圧延ロール)、10…心材、11…皮材、12…積層物、13、14…ワークロール(熱間圧延ロール)。
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