(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007800
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】情報処理装置、デバイス、コンピュータプログラム及び情報処理方法
(51)【国際特許分類】
G06N 3/063 20230101AFI20240112BHJP
G06N 3/04 20230101ALI20240112BHJP
【FI】
G06N3/063
G06N3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109129
(22)【出願日】2022-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】廣谷 潤
(72)【発明者】
【氏名】武田 侑大
(72)【発明者】
【氏名】水本 昂宏
(57)【要約】
【課題】記憶保持性、高次元性及び非線形性を調整できる情報処理装置、デバイス、コンピュータプログラム及び情報処理方法を提供する。
【解決手段】情報処理装置は、時系列の第1熱関連情報を入力する入力層と、熱の伝播が可能な対象物の熱関連特性を含む特性に基づいて、対象物に入力される時系列の第1熱関連情報が対象物の複数の位置へ伝播することにより複数の位置それぞれで観測可能な時系列の第2熱関連情報を保持する複数の仮想ノードを備え、入力層から時系列の第1熱関連情報が入力される熱リザバー層と、熱リザバー層に入力された時系列の第1熱関連情報に基づき、熱リザバー層の複数の仮想ノードが保持する時系列の第2熱関連情報を、複数の仮想ノード間の結合係数を用いて線形結合する結合層と、結合層で線形結合された第2熱関連情報を出力値として出力する出力層とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時系列の第1熱関連情報を入力する入力層と、
熱の伝播が可能な対象物の熱関連特性を含む特性に基づいて、前記対象物に入力される時系列の第1熱関連情報が前記対象物の複数の位置へ伝播することにより前記複数の位置それぞれで観測可能な時系列の第2熱関連情報を保持する複数の仮想ノードを備え、前記入力層から時系列の第1熱関連情報が入力される熱リザバー層と、
前記熱リザバー層に入力された時系列の前記第1熱関連情報に基づき、前記熱リザバー層の複数の前記仮想ノードが保持する時系列の前記第2熱関連情報を、前記複数の仮想ノード間の結合係数を用いて線形結合する結合層と、
前記結合層で線形結合された前記第2熱関連情報を出力値として出力する出力層と
を備える、
情報処理装置。
【請求項2】
前記第1熱関連情報は、熱データ又は温度データを含む、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記第2熱関連情報は、熱データ、温度データ又は温度変化に依拠して変化する物理量を含む、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記熱関連特性は、熱伝導率又は熱拡散率を含む、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記特性は、前記対象物の形状を含む、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記対象物の材質は、導体、半導体、絶縁体、相変化材料、及び超電導材料の少なくとも一つ、又は液体、気体、若しくは超臨界流体を含む、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記熱リザバー層は、
前記対象物に入力される時系列の熱データ又は温度データが前記対象物の熱伝導率又は熱拡散率に従って伝播することにより、前記複数の位置それぞれで観測可能な熱データ、温度データ又は温度変化に依拠して変化する物理量を、前記複数の仮想ノードに保持する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項8】
時系列の第1熱関連情報及び出力値の正解値を含む訓練データに基づいて、前記時系列の第1熱関連情報を前記熱リザバー層に入力した場合、前記複数の仮想ノードが保持する時系列の第2熱関連情報を、前記複数の仮想ノード間の結合係数を用いて線形結合して出力する出力値が、前記正解値に近づくように、前記結合係数を決定する決定部を備える、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項9】
更に、前記出力層が出力する出力値に基づいて、評価対象の温度に関連する状態を評価する評価部を備える、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項10】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の情報処理装置と、
前記対象物に入力される時系列の第1熱関連情報を取得する取得部と
を備え、
前記取得部で取得した時系列の第1熱関連情報を前記情報処理装置に入力し、前記情報処理装置が出力する出力値又は前記出力値に基づく評価対象の温度に関連する状態の評価結果を外部へ出力する、
デバイス。
【請求項11】
コンピュータに、
熱の伝播が可能な対象物の熱関連特性を含む特性に基づいて、前記対象物に入力される時系列の第1熱関連情報が前記対象物の複数の位置へ伝播することにより前記複数の位置それぞれで観測可能な時系列の第2熱関連情報を保持する複数の仮想ノードを備える熱リザバー層に時系列の第1熱関連情報を、入力層を介して入力し、
入力した時系列の前記第1熱関連情報に基づき、前記熱リザバー層の複数の前記仮想ノードが保持する時系列の前記第2熱関連情報を、前記複数の仮想ノード間の結合係数を用いて線形結合して出力する出力値を、出力層を介して読み出す、
処理を実行させるコンピュータプログラム。
【請求項12】
熱の伝播が可能な対象物の熱関連特性を含む特性に基づいて、前記対象物に入力される時系列の第1熱関連情報が前記対象物の複数の位置へ伝播することにより前記複数の位置それぞれで観測可能な時系列の第2熱関連情報を保持する複数の仮想ノードを備える熱リザバー層に時系列の第1熱関連情報を、入力層を介して入力し、
入力した時系列の前記第1熱関連情報に基づき、前記熱リザバー層の複数の前記仮想ノードが保持する時系列の前記第2熱関連情報を、前記複数の仮想ノード間の結合係数を用いて線形結合して出力値を、出力層を介して出力する、
情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、デバイス、コンピュータプログラム及び情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再帰的ニューラルネットワークの新たなアーキテクチャとして提案されたリザバーコンピューティングが注目されている。リザバーコンピューティングは、他の再帰的ニューラルネットワークと同様に、様々な時系列データの学習に適している。リザバーコンピューティングは、入力層、リザバー層、リードアウト層を有し、リザバー層はランダムに固定化された結合重みを有し、学習はリードアウト層のみで行われる。
【0003】
特許文献1には、相互インダクタンスを介して複数の振動子であるLCR回路を相互に結合したリザバー演算装置を備え、量子系を利用した複数の量子リザバー演算装置と同様に[0,1]の連続値を出力でき、リザバーコンピューティングで必要とされる記憶性の性質を具備する機械学習装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、記憶保持性を決定付ける振動子の減衰時間は、LCRの値によって調整できる可能性があるが、振動を安定化させて減衰時間を長くするにはQ値を向上させる必要があり技術的に困難な場合がある。また、リザバーコンピューティングでは記憶保持性だけでなく高次元性及び非線形性も必要である。さらに、これらの記憶保持性、高次元性及び非線形性は、様々な時系列タスクに応じて調整できることが必要である。
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、記憶保持性、高次元性及び非線形性を調整できる情報処理装置、デバイス、コンピュータプログラム及び情報処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、本実施形態の情報処理装置は、時系列の第1熱関連情報を入力する入力層と、熱の伝播が可能な対象物の熱関連特性を含む特性に基づいて、前記対象物に入力される時系列の第1熱関連情報が前記対象物の複数の位置へ伝播することにより前記複数の位置それぞれで観測可能な時系列の第2熱関連情報を保持する複数の仮想ノードを備え、前記入力層から時系列の第1熱関連情報が入力される熱リザバー層と、前記熱リザバー層に入力された時系列の前記第1熱関連情報に基づき、前記熱リザバー層の複数の前記仮想ノードが保持する時系列の前記第2熱関連情報を、前記複数の仮想ノード間の結合係数を用いて線形結合する結合層と、前記結合層で線形結合された前記第2熱関連情報を出力値として出力する出力層とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、記憶保持性、高次元性、及び非線形性を調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態の情報処理装置の構成の一例を示す図である。
【
図2】熱リザバー(平面板)の熱の伝播の一例を示す図である。
【
図3】熱リザバー(平面板)の入力点と観測点の一例を示す図である。
【
図4】熱リザバーの実装状態と熱リザバー層の仮想ノードとの関係を示す図である。
【
図5】熱リザバーの実装形態の一例を示す図である。
【
図6】熱リザバーモデル部の構成の一例を示す図である。
【
図7】熱リザバーを利用した場合の高次元性を示す図である。
【
図8】熱リザバーを利用した場合の記憶保持性を示す図である。
【
図9】熱リザバーを利用した場合の非線形性を示す図である。
【
図10】熱リザバーモデル部の学習に用いる訓練データの一例を示す図である。
【
図11】熱リザバーモデル部60の学習処理の一例を示す図である。
【
図12】出力層の出力に基づく評価対象の評価の一例を示す図である。
【
図13】情報処理装置のユースケースの一例を示す図である。
【
図14】本実施形態のデバイスの構成の一例を示す図である。
【
図15】情報処理装置による学習処理の一例を示す図である。
【
図16】情報処理装置による推論処理の一例を示す図である。
【
図17】数値計算のための熱リザバーの一例を示す図である。
【
図19】熱拡散率モデルがTの3乗の場合のパリティタスクの評価結果を示す図である。
【
図20】熱拡散率モデルがTのマイナス1乗の場合のパリティタスクの評価結果を示す図である。
【
図21】熱拡散率モデルがTの3乗の場合の予測値が正解値に追従する様子を示す図である。
【
図22】熱拡散率モデルがTのマイナス1乗の場合の予測値が正解値に追従する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて説明する。
図1は本実施形態の情報処理装置50の構成の一例を示す図である。情報処理装置50は、装置全体を制御する制御部51、入出力部52、メモリ53、学習処理部54、評価部55、記憶部56、及び熱リザバーモデル部60を備える。情報処理装置50は、処理機能を分散させて、複数の装置で構成してもよい。
【0011】
記憶部56は、例えば、ハードディスク又は半導体メモリ等で構成することができ、コンピュータプログラム57(プログラム製品)、及び所要の情報を記憶する。コンピュータプログラム57は、外部の装置からダウンロードして記憶部56に記憶してもよい。また、記録媒体(例えば、CD-ROM等の光学可読ディスク記憶媒体)に記録されたコンピュータプログラム57を記録媒体読取部で読み取って記憶部56に記憶してもよい。
【0012】
制御部51は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等が所要数組み込まれて構成されている。制御部51は、コンピュータプログラム57で定められた処理を実行することができる。すなわち、制御部51による処理は、コンピュータプログラム57による処理でもある。制御部51は、コンピュータプログラム57を実行することにより、学習処理部54及び評価部55の機能を実行することができる。
【0013】
入出力部52は、情報処理装置50が処理するために必要なデータを取得するとともに、情報処理装置50が処理した結果得られたデータを出力する。また、入出力部52は、キーボード、マウス、表示パネル、タッチパネル等のユーザインタフェースを備えてもよい。入出力部52は、対象物としての熱リザバー200に入力される時系列のデータ、例えば、温度データ又は熱データ(「第1熱関連情報」とも称する)を取得することができる。
【0014】
メモリ53は、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリで構成することができる。コンピュータプログラム57をメモリ53に展開して、制御部51がコンピュータプログラム57を実行することができる。
【0015】
学習処理部54は、熱リザバーモデル部60の学習処理を行う。学習処理の詳細は後述する。
【0016】
熱リザバーモデル部60は、リザバーコンピューティングモデルであり、入力層61、熱リザバー層62、結合層63、及び出力層64を備える。熱リザバーモデル部60は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのハードウェアによって実装することができる。入力層61には、制御部51の制御の下、入出力部52を介して取得した、熱リザバー200に入力された時系列の温度データ又は熱データ(纏めて「入力データ」ともいう)が入力される。入力データは、熱リザバー層62によって非線形変換され、高次元の特徴空間に写像される。特徴空間への写像は、熱リザバー層62の複数の仮想ノードの状態で表される。結合層63は、熱リザバー層62の複数の仮想ノードの状態値を、結合係数(重み係数)を用いて線形結合する。出力層64は、線形結合された出力値を出力する。熱リザバーモデル部60が出力する出力値は、熱リザバー200の温度に関連する状態を評価するために用いることができる。熱リザバーモデル部60の詳細は後述する。
【0017】
評価部55は、熱リザバーモデル部60が出力する出力値に基づいて、熱リザバー200の温度に関連する状態を評価する。評価部55の詳細は後述する。
【0018】
情報処理装置50は、熱の伝播が可能な対象物を利用してリザバーコンピューティングを実現する熱リザバーコンピューティングを含む。本明細書では、熱の伝播が可能な固体、液体、又は気体などを熱リザバーと称する。以下、固体を例に挙げて熱リザバーについて説明する。
【0019】
熱リザバーは、熱の伝播が可能な物体であり、物理的には3次元の物体であるが、概念的には1次元の線(熱の伝播方向が1次元)、2次元の平面(熱の伝播方向が2次元)、又は3次元の曲面やバルク(熱の伝播方向が3次元)のいずれでもよい。以下では、便宜上熱リザバーを平面板(熱の伝播方向が2次元)として説明する。
【0020】
図2は熱リザバー(平面板)の熱の伝播の一例を示す図である。
図2Aに示すように、平面板上に入力点及び複数の観測点1~3を設ける。入力点は、熱リザバーコンピューティングに入力される入力データの入力点であり、熱が平面板を伝播する際の起点であり、伝播する熱の熱源の位置となる。観測点1~3は、平面板を熱が伝播する際に温度や温度変化に依拠して変化する物理量を観測することが可能な点である。観測点は、所望の位置に設けることができる。入力点から熱が入力されると、平面板の熱伝導率又は熱拡散率に応じた速度で熱が伝播し、観測点1~3の温度が変化する。
図2Bは、各観測点1~3における温度変化をプロットしたものである。各観測点1~3における温度変化に基づいて時間的な離散値を取得できる。
図2Bの例では、各時点t1~t8における観測点1~3それぞれの離散値を符号O、△、Xで表している。現在の時刻をt8とすると、過去の温度の時系列データが空間的に(観測点1~3それぞれで)残っていることが分かる。
【0021】
図3は熱リザバー(平面板)の入力点と観測点の一例を示す図である。入力点の数をpとし、観測点の数をqとし、各観測点において観測する離散値の数をNとすると、熱リザバーは、p次元の入力を(q・N)次元の出力へと高次元、非線形変換することが分かる。このように、熱リザバーによって実現される熱リザバーコンピューティング(具体的には、熱リザバー層62)は、入力データを非線形に変換するとともに高次元変換することができる。入力を高次元空間に非線形変換することにより、例えば、機械学習におけるカーネル法のように、高次元空間に入力データを埋め込むことで入力データを分類できる次元数が増え、結果として入力データを分類できる可能性が高くなり、入力データの線形分離が可能になる。なお、熱リザバーへの熱の入力は、点入力でもよく、面入力でもよい。
【0022】
図4は熱リザバーの実装状態と熱リザバー層62の仮想ノードとの関係を示す図である。熱リザバーの観測点1~qそれぞれでN個の離散値を観測したとすると、観測点1におけるN個の離散値を、N個の仮想ノードs11、s12、s13、…s1Nとみなすことができる。また、観測点2におけるN個の離散値を、N個の仮想ノードs21、s22、s23、…s2Nとみなすことができる。以下、同様に、観測点qにおけるN個の離散値を、N個の仮想ノードsq1、sq2、sq3、…sqNとみなすことができる。仮想ノードの数は(q・N)となる。仮想ノードの状態値は、観測点で観測される離散値となる。このように、熱リザバー層62を、熱の伝播という物理現象として実現することにより、一般的な機械学習における高次元化やニューロンの非線形演算などの大きな計算負荷を低減することができ、処理の高速性や消費電力の低減が可能となる。
【0023】
熱リザバーの材質は、導体、半導体、絶縁体、相変化材料、及び超電導材料のいずれでもよく、あるいはこれらの材質を組み合わせたものでもよい。すなわち、熱リザバーの材質は、導体、半導体、絶縁体、相変化材料、及び超電導材料の少なくとも一つを含めることができる。また、熱リザバーの材料は固体に限定されるものではなく、液体、気体、又は超臨界流体などであってもよい。
【0024】
熱リザバーの形状などの特性、あるいは熱伝導率又は熱拡散率などの熱関連特性に応じて熱の伝播の速度や伝播方向、伝播状態は変化し得る。すなわち、熱リザバーの形状や熱伝導率(又は熱拡散率)を変更(調整)することにより、各観測点で観測される離散値は変化するので、熱リザバー層62の各仮想ノードの状態は変化する。
【0025】
図5は熱リザバーの実装形態の一例を示す図である。
図5Aは、バッテリが熱リザバーとしての要件を満たさない場合であり、その場合、熱リザバーとしてのシート型デバイスをバッテリに貼り付けることにより、熱リザバーとして扱うことが可能となる。バッテリの発熱による熱が熱リザバー(シート型デバイス)に面入力される。この場合、熱リザバーの複数の観測点に温度センサを設けることにより、観測点における温度変化を観測することができる。観測点の温度データは、別途ICを用いた演算装置によって学習(線形回帰)に使用することができる。
図5Bは、発熱機器(バッテリも含む)が熱リザバーの要件を満たす場合であり、シート型デバイスを貼り付ける必要はない。一例として発熱機器の熱効率を予測するとき、熱リザバーへの入力は、熱効率に関連する物理パラメータとすることができる。厳密には、関連する物理パラメータのうち、熱リザバーの入力として収集できる全ての物理パラメータとすることができる。また、
図5Bのように、バッテリ自体が熱リザバーの要件を満たし、バッテリの良否を判定する場合には、バッテリの良否に関連する電流やバッテリの周囲の温度などが熱となってバッテリ(熱リザバー)に入力される。
【0026】
図6は熱リザバーモデル部60の構成の一例を示す図である。入力層61は、時系列の温度データ又は熱データ(時系列の第1熱関連情報)が入力されると、当該時系列の温度データ又は熱データを熱リザバー層62に入力する。
【0027】
熱リザバー層62は、複数の仮想ノードを備える。熱リザバー層62は、熱リザバーの熱の伝播という物理現象として実現されている。すなわち、熱リザバー層62は、熱の伝播が可能な熱リザバーの熱伝導率又は熱拡散率(熱関連特性)、あるいは熱リザバーの形状(特性)に基づいて、熱リザバーに入力される時系列の第1熱関連情報が熱リザバーの複数の位置(観測点)へ伝播することにより当該複数の位置それぞれで観測可能な時系列の第2熱関連情報(例えば、温度データ又は温度変化に依拠して変化する物理量を含む)を保持する複数の仮想ノードを備える。熱リザバー層62の構築・設計は、例えば、学習対象や学習タスクに応じた物理パラメータ(熱リザバーの寸法、形状、熱伝導率(又は熱拡散率)、及び材質など)を、シミュレーション実験を元に行うことができる。
【0028】
結合層63は、熱リザバー層62の複数の仮想ノードが保持する時系列の第2熱関連情報を、複数の仮想ノード間の結合係数を用いて線形結合する。結合層63と出力層64をまとめてリードアウト層65とも称する。
【0029】
出力層64は、結合層63で線形結合された出力値を出力する。出力層64の次元数は任意に設定できる。
【0030】
次に、本実施形態の情報処理装置50(熱リザバーコンピューティング)の高次元性、記憶保持性及び非線形性について説明する。まず、高次元性について説明する。
【0031】
本実施形態とは異なる物理リザバーを利用する物理リザバーコンピューティングでは、高次元性を確保するために、例えば、(1)1出力の物理リザバーを大量に配置する方法が考えらえるが、物理リザバーを大量に配置すると構造が複雑になり、またコストが高くなる。また、(2)1出力の物理リザバーから離散値を取得する方法が考えられるが、過去に入力されたデータと現在のデータとの相互の影響によって、複雑な時系列のデータを用いた学習となり、学習が困難となる。
【0032】
図7は熱リザバーを利用した場合の高次元性を示す図である。例えば、観測点の数をq′とし、離散値の数をNとすると、入力信号はq′・N次元に変換される。また、観測点の数をq(q>q′)とし、離散値の数をNとすると、入力信号はq・N次元に変換される。本実施形態では、熱リザバーに複数の観測点を高い自由度で設定できるため、高次元性を容易に確保できる。また、熱リザバーに与えられた熱は順次伝播するので、過去に観測されるデータと現在観測されるデータとを容易に分離することができ、観測されるデータと現在観測されるデータとの相互の影響を低減できる。
【0033】
次に、記憶保持性について説明する。本実施形態とは異なる物理リザバーを利用する物理リザバーコンピューティングでは、利用する物理現象の減衰時間の長さに応じて記憶保持性が左右される。例えば、(1)リキッドステートネットワークでは、液体の波が伝わる速度に応じて記憶保持性が決定されるが、伝播速度の調整が困難である。また、(2)スピン波を用いたチップデバイスでは、伝播速度が非常に速いため、適用できる時系列タスクが制限される。また、(3)MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)振動子を利用したものは、減衰時間を長くするための技術的制約が伴う。本実施形態の熱リザバーコンピューティングが、記憶保持性(短期記憶性)を必要とする理由は、再帰的ニューラルネットワークと同じように過去の外部入力の記憶を保持するためである。記憶保持性を有することにより、時系列入力の前後関係を考慮した処理を行うことができ、時系列データの背後にある時間経過による因果関係を抽出することができる。すなわち、熱リザバーコンピューティングは、再帰的ニューラルネットワークと同様に、様々な時系列データの学習に用いることができ、例えば、時系列分類タスクなどに応用できる。
【0034】
図8は熱リザバーを利用した場合の記憶保持性を示す図である。本実施形態では、熱リザバーの材質を変更することにより熱伝導率又は熱拡散率を調整することができる。例えば、熱伝導率λが大きい場合、熱の伝播速度が速くなり、温度が一定値に収束するまでの時間Δt1は比較的短い。一方、熱伝導率λが小さい場合、熱の伝播速度が遅くなり、温度が一定値に収束するまでの時間Δt2は比較的長くなる。熱伝導率又は熱拡散率のオーダは、5桁程度で大小を調整できるので、記憶保持性を高い自由度で調整できる。これにより、学習対象や時系列タスクに応じて熱伝導率又は熱拡散率を調整するだけで学習に対応できる。
【0035】
次に、非線形性について説明する。本実施形態とは異なる物理リザバーを利用する物理リザバーコンピューティングでは、利用する物理現象に応じて非線形性の調整に制約があり、非線形性を調整できない。
【0036】
図9は熱リザバーを利用した場合の非線形性を示す図である。本実施形態では、熱リザバーの形状を調整し、あるいは熱リザバーの材質を変更することにより熱伝導率又は熱拡散率を調整することにより、高い自由度で非線形性を調整できる。例えば、
図9Aに示すように、入力点から遠方になるほど、幅寸法が小さくなる先細り型にすることにより、幅が細くなるに従い拡散した熱が集中し、非線形性を調整できる。また、
図9Bに示すように、熱リザバーに不均一な穴を設けることで、熱が非線形に伝播するようにして非線形性を調整できる。また、
図9Cに示すように、熱伝導率又は熱拡散率の異なる素材(材料)を混合させて熱リザバーの熱伝導率又は熱拡散率の分布にグラデーションをもたせることで、非線形性を調整できる。なお、形状の調整は、
図9の例に限定されない。
【0037】
上述のように、本実施形態の熱リザバーリザバーコンピューティング(情報処理装置50)は、熱リザバーの形状、熱伝導率(又は熱拡散率)を変更することで、記憶保持性、非線形性、及び高次元性を高い自由度で調節できる。これにより、将来的に様々な時系列タスクを処理・学習できることが期待できる。
【0038】
また、熱の伝播という物理現象を用いるので、ある程度、解析・評価技術は確立しているということができ、測定系(検出系、観測系)の開発・設計に多くの労力を必要としない。測定系や熱リザバーは比較的導入し易くコストも低い。また、熱が伝播する熱リザバーの熱を入力として用いるので、本来利用されない熱をそのまま用いることができ、消費エネルギー、効率、経済性の観点で優れている。また、熱に変換できる物理量(例えば、電流など)も入力して用いることができるので熱リザバーの適用分野を広げることが可能となる。
【0039】
次に、熱リザバーコンピューティング、すなわち、熱リザバーモデル部60の学習方法について説明する。
【0040】
図10は熱リザバーモデル部60の学習に用いる訓練データの一例を示す図である。
図10では、訓練データの収集方法について説明する。熱リザバーの種々の状態(
図10では、便宜上、状態1、2、…、mとする)において、複数の入力点で取得された入力データを学習用入力データとして収集する。入力データは、熱リザバーに入力される時系列の第1熱関連情報に相当し、例えば、温度データ又は熱データを含む。熱リザバーの状態1、2、…、mそれぞれに対応して収集した学習用入力データをベクトルG1、G2、Gmで表す。また、熱リザバーの状態が状態1、2、…、mである場合に、熱リザバーの状態を表す出力値の正解値(真値)をベクトルD1、D2、…Dmで表す。ベクトルD1、D2、…Dmは教師データとなる。
【0041】
また、学習用入力データG1を熱リザバー層62に入力した場合の熱リザバー層62の複数の仮想ノードの状態を示す値をベクトルS1で表す。ベクトルS1は、複数の仮想ノードが保持する、時系列の第2熱関連情報に相当し、例えば、温度データ又は温度変化に依拠して変化する物理量を含む。ベクトルS1を結合層63に入力した場合に結合層63が出力する出力値のベクトルをY1で表す。また、学習用入力データG2を熱リザバー層62に入力した場合の熱リザバー層62の複数の仮想ノードの状態を示す値をベクトルS2で表し、ベクトルS2を結合層63に入力した場合に結合層63が出力する出力値のベクトルをY2で表す。以下、同様に、学習用入力データGmを熱リザバー層62に入力した場合の熱リザバー層62の複数の仮想ノードの状態を示す値をベクトルSmで表し、ベクトルSmを結合層63に入力した場合に結合層63が出力する出力値のベクトルをYmで表す。
【0042】
図11は熱リザバーモデル部60の学習処理の一例を示す図である。一般的な再帰的ニューラルネットワークは非線形・高次元の複雑なモデルであり、学習には大規模なデータや処理時間が必要である。熱リザバーコンピューティングでは、熱リザバー層62を、熱の伝播が可能な熱リザバーで実装することにより(
図6参照)、ニューラルネットワークとは直接関係なく、高次元で非線形性を有するモデルを実現可能となる。熱リザバー層62は、熱リザバーの熱関連特性を含む特性に応じて、複数の仮想ノードの状態がランダムに設定されるので学習によって熱リザバー層62内のパラメータを調整する必要はない。すなわち、出力層64の出力は、結合層63によって熱リザバー層62の状態の線形結合で与えられる。出力層64の出力が正解値と同じ又は近い値となるように、結合層63の結合係数(重み係数)を線形回帰などの簡単なアルゴリズムを用いて学習すればよい。
【0043】
図11Aに示すように、熱リザバー層62の仮想ノードをs1、s2、s3、…sjとする。j=q・Nとしてもよい。出力層64の出力値(出力ノード)をy1、y2、…、yrとする。仮想ノードs1から出力値y1、y2、…、yrへの結合係数をw11、w12、…w1rとする。以下、同様に、仮想ノードsjから出力値y1、y2、…、yrへの結合係数をwj1、wj2、…wjrとする。
【0044】
図11Bに示すように、出力値ベクトルをYで表し、仮想ノード値ベクトルをSで表し、結合係数行列をWで表すと、Y=S・Wという式において、出力値ベクトルYが正解値ベクトルDに近づくように結合係数行列Wの結合係数を算出すればよい。
【0045】
上述のように、学習処理部54は、決定部としての機能を有し、時系列の第1熱関連情報及び出力値の正解値を含む訓練データを取得し、取得した訓練データに基づいて、時系列の第1熱関連情報を熱リザバー層62に入力した場合、熱リザバー層62の複数の仮想ノードが保持する時系列の第2熱関連情報を、複数の仮想ノード間の結合係数を用いて線形結合して出力する出力値が、正解値に近づくように、結合係数を決定することにより、熱リザバーモデル部60を学習する。
【0046】
上述のように、結合層63の如く単純な構成と線形回帰という簡単なアルゴリズムによって学習できるので、膨大なデータが必要なく、処理時間も比較的短時間なので低消費電力でも動作が可能であり、またリアルタイムでの学習も可能となる。これにより、本実施形態の情報処理装置50は、IoTデバイスなどのエッジ・コンピューティングに適用することが可能となる。
【0047】
出力値y及び出力値ベクトルYは、特に単位を有する物理量ではなく、演算された結果の数値である。演算結果が、熱リザバーの状態、特に温度に関連する状態とどのように関連するかを判定する必要がある。
【0048】
図12は出力層64の出力に基づく評価対象の評価の一例を示す図である。評価部55は、出力層64が出力する出力値に基づいて、評価対象の温度に関連する状態を評価する。
図12Aは出力層64が複数の出力値を出力する場合を示す。各出力値に対応させて、複数の評価1、2、…rを設定しておく。出力値の値が所定の閾値以上である場合、当該出力値に対応する評価を対象物の評価結果として判定できる。評価1、2、…rを、どのような状態の評価であるかは適宜決定すればよい。評価1、2、…、rをそれぞれ異なる状態(例えば、対象物の性能など)に対する評価でもよく、ある特定の状態の時間的変化(例えば、機器の劣化度合いの予測結果など)でもよい。
【0049】
図12Bは出力層64が一つの出力値yを出力する場合を示す。例えば、出力値yが閾値以上である場合、対象物は正常である判定し、出力値yが閾値未満である場合、評価対象は異常である判定できる。なお、評価の方法は、
図12の例に限定されるものではない。
【0050】
図13は情報処理装置50のユースケースの一例を示す図である。評価対象がバッテリである場合、バッテリの表面にシート型の熱リザバーを貼り付け、温度分布を取得することができる。これにより、バッテリの温度管理を行って、バッテリの良否、バッテリの劣化度を評価できる。なお、バッテリ自体の出力に温度依存性がある場合、当該出力を取得してもよい。
【0051】
評価対象が発熱機器(例えば、エンジン、タービンなど)である場合、発熱機器の温度と熱効率との間には相関関係がある。発熱機器自体が熱リザバーに相当し、発熱機器の表面を温度センサで取得して表面温度の不均一性などをモニタして温度管理を行うことで、発熱機器の熱効率、正常・異常を評価できる。これにより、発熱機器の省エネを達成することもできる。
【0052】
評価対象が半導体チップの場合、半導体チップ自体が熱リザバーに相当し、半導体チップ内に埋め込まれた温度センサで温度を取得することにより半導体チップ内の温度変動による特性変動を評価できる。トランジスタなどの半導体は、動作温度によって半導体中のキャリア量が変わり、温度を一定に保つことが必要不可欠である。情報処理装置50を半導体チップに適用することにより、特性のばらつきを最小限に抑えることができる。
【0053】
評価対象として住環境に適用することができる。住環境において部屋の温度を均一に保つことは快適な生活に必要不可欠である。部屋の空気が熱リザバーに相当し、部屋の温度分布結果を情報処理装置50に入力することにより、例えば、快適指数を評価することができる。これにより、住環境の状態を即座に把握することができる。なお、情報処理装置50のユースケースは、
図13の例に限定されない。
【0054】
図14は本実施形態のデバイス100の構成の一例を示す図である。デバイス100は、例えば、高効率動作が可能であり、またオンライン学習が可能なデバイス(例えば、IoTデバイスなど)であり、エッジ・コンピューティングに利用可能なデバイスである。デバイス100は、デバイス全体を制御する制御部10、インタフェース部20、通信部30、記憶部40、及び前述の情報処理装置50を備える。
【0055】
制御部10は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等が所要数組み込まれて構成されている。制御部10は、コンピュータプログラムで定められた処理を実行してもよい。
【0056】
記憶部40は、例えば、ハードディスク又は半導体メモリ等で構成することができ、デバイス100が取得した情報(データ)、デバイス100の処理結果などの所要の情報を記憶する。記憶部40は、デバイス100で動作するコンピュータプログラムを記憶してもよい。
【0057】
インタフェース部20は、熱リザバー200に入力された時系列の第1熱関連情報を取得する。制御部10は、インタフェース部20を介して取得した時系列の第1熱関連情報を記憶部40に記憶する。
【0058】
通信部30は、通信モジュルーを備え、インタフェース部20を介して取得した情報、情報処理装置50による処理結果を外部の装置へ送信する。また、通信部30は、外部の装置から指令などの情報を受信できる。
【0059】
上述のように、デバイス100は、情報処理装置50、熱リザバーに入力される時系列の第1熱関連情報を取得するインタフェース部(取得部)、取得した時系列の第1熱関連情報を情報処理装置50に入力し、情報処理装置50が出力する出力値又は出力値に基づく評価対象の温度に関連する状態の評価結果を外部へ出力することができる。
【0060】
図15は情報処理装置50による学習処理の一例を示す図である。以下では便宜上、処理の主体を制御部51として説明する。制御部51は、熱リザバーの入力データ(時系列の第1熱関連情報)及び出力値の正解値を含む訓練データを取得し(S11)、取得した訓練データに基づいて、入力層61を介して入力データを熱リザバー層62に入力する(S12)。
【0061】
制御部51は、出力層64が出力する出力値が正解値に近づくように結合層63の結合係数を調整する(S13)。制御部51は、出力値と正解値との差分が許容範囲内であるか否かを判定し(S14)、許容範囲内でない場合(S14でNO)、ステップS12以降の処理を続ける。
【0062】
出力値と正解値との差分が許容範囲内である場合(S14でYES)、制御部51は、調整した結合係数を記憶部56に記憶し(S15)、処理を終了する。
【0063】
図16は情報処理装置50による推論処理の一例を示す図である。制御部51は、熱リザバーに入力された時系列データ(時系列の第1熱関連情報)を取得し(S21)、入力層61を介して取得した時系列データを熱リザバー層62に入力する(S22)。
【0064】
制御部51は、出力層64が出力する出力値を取得し(S23)、取得した出力値に基づいて評価対象を評価し(S24)、処理を終了する。評価対象の評価結果は、所要の装置に出力することができる。
【0065】
上述のように、制御部51は、熱の伝播が可能な熱リザバーの熱関連特性を含む特性に基づいて、当該熱リザバーに入力される時系列の第1熱関連情報が当該熱リザバーの複数の位置へ伝播することにより複数の位置それぞれで観測可能な時系列の第2熱関連情報を保持する複数の仮想ノードを備える熱リザバー層に時系列の第1熱関連情報を入力し、複数の仮想ノードが保持する時系列の第2熱関連情報を、複数の仮想ノード間の結合係数を用いて線形結合して出力する出力値を読み出すことができる。
【0066】
次に、本実施形態の情報処理装置50による熱リザバーコンピューティングの原理実証のための数値計算に基づく評価結果について説明する。
【0067】
図17は数値計算のための熱リザバーの一例を示す図である。熱リザバーは熱の伝播方向が一次元と見なせる棒体の対象物とする。棒体の一端にレーザ光の入力点を設け、入力点に対してレーザ光u(k)を入力する。入力点は、時系列の第1熱関連情報の入力点に相当する。u(k)の値は、レーザ光の照射時に1とし、非照射時に-1とする。棒体の長さをLとし、棒体の他端にはヒートシンクが固定され、温度TがT=T∞(一定値)となっているとする。棒体の任意の位置に観測点を設けている。観測点は、時系列の第2熱関連情報が観測される位置に相当する。棒体の一端から他端に向かう方向をx軸とする。
【0068】
観測点での温度変化(∂T/∂t)は、一次元の熱伝導方程式で表すことができ、(∂T/∂t)={(λ(T)/(ρC)}・(∂2 T/∂x2 )=α(T)・(∂2 T/∂x2 )という式で表すことができる。ここで、tは時間、Tは温度、λ(T)は熱伝導率、ρは密度、Cは比熱、α(T)は熱拡散率を表す。
【0069】
図18は記憶タスクの評価結果を示す図である。情報処理装置50による熱リザバーコンピューティングの記憶保持性を評価するために以下の記憶タスクを実行する。入力をu(k)とし、出力をm
n (k)とし、u(k)を式(1)で表し、出力m
n (k)を式(2)で表す。kはステップ番号である。
【0070】
【0071】
式(2)のnは記憶保持性を示す指標である。nがn=1の場合、出力mn (k)は、入力u(k)となる。出力mn (k)は、(n-1)個前の入力u(k)を表す。熱リザバーコンピューティングを、入力がu(k)の時に、出力がmn (k)となるように学習する。記憶保持性の性能をNRMSE(normalized root-mean square error)で評価する。NRMSEは、式(3)で算出することができる。式(3)において、t(k)は予測値を示し、Mはステップの総数を示し、varは分散を示す。
【0072】
数値計算の条件は、以下のとおりである。ステップ間隔を0.01[s]、熱拡散率αを8.8×10-7[m2 /s]、棒体の長さLを500[μm]、温度T∞を300[K]、観測点の数qを10、離散値の数Nを50、レーザ光の強度QL を7.9[kW/m2 ]とする。また、学習データ数を2000、検証データ数を500とした。
【0073】
図18において横軸はn(記憶保持性を示す指標)を示し、縦軸はNRMSEを示す。一般的にNRMSEは、0.4以下であれば良いと考えられる。nが4の場合には、NRMSEは0.4以下であり、nが5の場合にはNRMSEが0.4を超える。これにより、本実施形態の熱リザバーコンピューティングの短期記憶数は4ということができる。すなわち、1~4ステップ分の記憶保持性を確保できることが確認された。また、熱伝導率(熱拡散率)を小さくする、あるいは熱リザバーの形状を大きくすることにより、記憶保持性はさらに向上することが期待できる。また、熱リザバーの熱伝導率(熱拡散率)又は形状を調整することにより、記憶保持性を調整できる。
【0074】
次に、パリティタスクについて説明する。パリティタスクは、パリティ検査タスクとも称し、非線形性を評価するため、1又は-1の二値をランダムに入力し、iステップ前(iは1以上の整数)までのすべての入力の掛け合わせを出力させるものである。入力をu(k)とし、出力をpn (k)とし、u(k)を式(4)で表し、出力pn (k)を式(5)で表す。kはステップ番号である。式(4)は式(1)と同じである。
【0075】
【0076】
出力pn (k)は、i=0からi=(n-1)までのu(k)を全て掛け合わせたものである。熱リザバーコンピューティングを、入力がu(k)の時に、出力がpn (k)となるように学習する。非線形性の性能をNRMSE(normalized root-mean square error)で評価する。NRMSEは、式(6)で算出することができる。式(6)において、t(k)は予測値を示し、Mはステップの総数を示し、varは分散を示す。
【0077】
図19は熱拡散率モデルがTの3乗の場合のパリティタスクの評価結果を示す図である。数値計算の条件は、以下のとおりである。ステップ間隔を0.01[s]、熱拡散率αを6.0×10
-9×T
3 [m
2 /s]、棒体の長さLを500[μm]、温度T∞を5[K]、観測点の数qを10、離散値の数Nを50、レーザ光の強度Q
L を7.9[kW/m
2 ]とする。熱拡散率モデルがTの3乗は、低温時(例えば、数十K以内)の状態を示す。
【0078】
図19において横軸はnを示し、縦軸はNRMSEを示す。一般的にNRMSEは、0.4以下であれば良いと考えられる。nが2の場合には、NRMSEは0.4以下であり、nが3の場合にはNRMSEが0.4を超える。これにより、本実施形態の熱リザバーコンピューティングの短期記憶数は2ということができ、非線形性を確保できることが確認された。また、熱リザバーの熱伝導率(熱拡散率)又は形状を調整することにより、非線形性を調整できる。
【0079】
図20は熱拡散率モデルがTのマイナス1乗の場合のパリティタスクの評価結果を示す図である。数値計算の条件は、熱拡散率αが6.0×10
-4/T[m
2 /s]であり、温度T∞が300[K]である点を除いて
図19の場合と同様である。熱拡散率モデルがTのマイナス1乗は、常温時(例えば、300K程度)の状態を示す。
図20において横軸はnを示し、縦軸はNRMSEを示す。nが2の場合には、NRMSEは0.4以下であり、nが3の場合にはNRMSEが0.4を超える。これにより、本実施形態の熱リザバーコンピューティングの短期記憶数は2ということができ、非線形性を確保できることが確認された。また、熱リザバーの熱伝導率(熱拡散率)又は形状を調整することにより、非線形性を調整できる。また、
図19と
図20とでは、短期記憶数nの値に応じてNRMSEの推移が異なることから、熱拡散率(熱伝導率)を変えることで、非線形性を調整できることが示唆される。
【0080】
図19及び
図20の例では、熱拡散率(熱伝導率)がTの3乗(低温領域)、あるいはTのマイナス1乗(常温領域)に比例する温度依存モデルを用いたが、熱拡散率(熱伝導率)の温度依存性は、これらのモデルに限定されるものではない。例えば、Tのa乗(aは実数)、ln(T)、exp(T)に比例するモデルを用いてもよい。
【0081】
図21は熱拡散率モデルがTの3乗の場合の予測値が正解値に追従する様子を示す図である。
図21中、横軸はステップ番号を示し、縦軸は予測値及び正解値の値を示す。数値計算の条件は、
図19の場合と同様である。
図21Aはn=1の場合、すなわち出力p
n (k)が入力u(k)の場合を示す。
図21Bはn=2の場合、すなわち、出力p
n (k)が現在のステップと1ステップ前の入力u(k)の掛け合わせの場合を示す。
図21Aに示すように、n=1の場合は予測値と真値(正解値)が一致する。また、
図21Bに示すように、n=2の場合、真値(正解値)が「1」の場合、予測値は0.55~0.9程度で追従し、真値が「-1」の場合、予測値は-0.8~-0.95程度で追従している様子が分かる。予測値の分離の閾値を「0」とすれば、入力を「1」又は「-1」のいずれかで分類できていることが分かる。
【0082】
図22は熱拡散率モデルがTのマイナス1乗の場合の予測値が正解値に追従する様子を示す図である。
図22中、横軸はステップ番号を示し、縦軸は予測値及び正解値の値を示す。数値計算の条件は、
図20の場合と同様である。
図22Aはn=1の場合、すなわち出力p
n (k)が入力u(k)の場合を示す。
図22Bはn=2の場合、すなわち、出力p
n (k)が現在のステップと1ステップ前の入力u(k)の掛け合わせの場合を示す。
図22Aに示すように、n=1の場合は予測値と真値(正解値)が一致する。また、
図22Bに示すように、n=2の場合、真値(正解値)が「1」の場合、予測値は0.8程度で追従し、真値が「-1」の場合、予測値は-0.8~-0.9程度で追従している様子が分かる。予測値の分離の閾値を「0」とすれば、入力を「1」又は「-1」のいずれかで分類できていることが分かる。
【0083】
(付記1)情報処理装置は、時系列の第1熱関連情報を入力する入力層と、熱の伝播が可能な対象物の熱関連特性を含む特性に基づいて、前記対象物に入力される時系列の第1熱関連情報が前記対象物の複数の位置へ伝播することにより前記複数の位置それぞれで観測可能な時系列の第2熱関連情報を保持する複数の仮想ノードを備え、前記入力層から時系列の第1熱関連情報が入力される熱リザバー層と、前記熱リザバー層に入力された時系列の前記第1熱関連情報に基づき、前記熱リザバー層の複数の前記仮想ノードが保持する時系列の前記第2熱関連情報を、前記複数の仮想ノード間の結合係数を用いて線形結合する結合層と、前記結合層で線形結合された前記第2熱関連情報を出力値として出力する出力層とを備える。
【0084】
(付記2)情報処理装置は、付記1において、前記第1熱関連情報は、熱データ又は温度データを含む。
【0085】
(付記3)情報処理装置は、付記1又は付記2において、前記第2熱関連情報は、熱データ、温度データ又は温度変化に依拠して変化する物理量を含む。
【0086】
(付記4)情報処理装置は、付記1から付記3のいずれか一つにおいて、前記熱関連特性は、熱伝導率又は熱拡散率を含む。
【0087】
(付記5)情報処理装置は、付記1から付記4のいずれか一つにおいて、前記特性は、前記対象物の形状を含む。
【0088】
(付記6)情報処理装置は、付記1から付記5のいずれか一つにおいて、前記対象物の材質は、導体、半導体、絶縁体、相変化材料、及び超電導材料の少なくとも一つ、又は液体、気体、若しくは超臨界流体を含む。
【0089】
(付記7)情報処理装置は、付記1から付記6のいずれか一つにおいて、前記熱リザバー層は、前記対象物に入力される時系列の熱データ又は温度データが前記対象物の熱伝導率又は熱拡散率に従って伝播することにより、前記複数の位置それぞれで観測可能な熱データ、温度データ又は温度変化に依拠して変化する物理量を、前記複数の仮想ノードに保持する。
【0090】
(付記8)情報処理装置は、付記1から付記7のいずれか一つにおいて、時系列の第1熱関連情報及び出力値の正解値を含む訓練データに基づいて、前記時系列の第1熱関連情報を前記熱リザバー層に入力した場合、前記複数の仮想ノードが保持する時系列の第2熱関連情報を、前記複数の仮想ノード間の結合係数を用いて線形結合して出力する出力値が、前記正解値に近づくように、前記結合係数を決定する決定部を備える。
【0091】
(付記9)情報処理装置は、付記1から付記8のいずれか一つにおいて、更に、前記出力層が出力する出力値に基づいて、評価対象の温度に関連する状態を評価する評価部を備える。
【0092】
(付記10)デバイスは、前述の情報処理装置と、前記対象物に入力される時系列の第1熱関連情報を取得する取得部とを備え、前記取得部で取得した時系列の第1熱関連情報を前記情報処理装置に入力し、前記情報処理装置が出力する出力値又は前記出力値に基づく評価対象の温度に関連する状態の評価結果を外部へ出力する。
【0093】
(付記11)コンピュータプログラムは、コンピュータに、熱の伝播が可能な対象物の熱関連特性を含む特性に基づいて、前記対象物に入力される時系列の第1熱関連情報が前記対象物の複数の位置へ伝播することにより前記複数の位置それぞれで観測可能な時系列の第2熱関連情報を保持する複数の仮想ノードを備える熱リザバー層に時系列の第1熱関連情報を、入力層を介して入力し、入力した時系列の前記第1熱関連情報に基づき、前記熱リザバー層の複数の前記仮想ノードが保持する時系列の前記第2熱関連情報を、前記複数の仮想ノード間の結合係数を用いて線形結合して出力する出力値を、出力層を介して読み出す、処理を実行させる。
【0094】
(付記12)情報処理方法は、熱の伝播が可能な対象物の熱関連特性を含む特性に基づいて、前記対象物に入力される時系列の第1熱関連情報が前記対象物の複数の位置へ伝播することにより前記複数の位置それぞれで観測可能な時系列の第2熱関連情報を保持する複数の仮想ノードを備える熱リザバー層に時系列の第1熱関連情報を、入力層を介して入力し、入力した時系列の前記第1熱関連情報に基づき、前記熱リザバー層の複数の前記仮想ノードが保持する時系列の前記第2熱関連情報を、前記複数の仮想ノード間の結合係数を用いて線形結合して出力値を、出力層を介して出力する。
【0095】
各実施形態に記載した事項は相互に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した独立請求項及び従属請求項は、引用形式に関わらず全てのあらゆる組み合わせにおいて、相互に組み合わせることが可能である。さらに、特許請求の範囲には他の2以上のクレームを引用するクレームを記載する形式(マルチクレーム形式)を用いているが、これに限るものではない。マルチクレームを少なくとも一つ引用するマルチクレーム(マルチマルチクレーム)を記載する形式を用いて記載してもよい。
【符号の説明】
【0096】
10 制御部
20 インタフェース部
30 通信部
40 記憶部
50 情報処理装置
51 制御部
52 入出力部
53 メモリ
54 学習処理部
55 評価部
56 記憶部
57 コンピュータプログラム
60 熱リザバーモデル部
61 入力層
62 熱リザバー層
63 結合層
64 出力層
65 リードアウト層
100 デバイス
200 熱リザバー(対象物)