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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007801
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】往復動工具
(51)【国際特許分類】
   B25D 17/08 20060101AFI20240112BHJP
   B25D 16/00 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
B25D17/08
B25D16/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109130
(22)【出願日】2022-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003052
【氏名又は名称】弁理士法人勇智国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 斉
(72)【発明者】
【氏名】古澤 正規
【テーマコード(参考)】
2D058
【Fターム(参考)】
2D058AA14
2D058BB15
2D058CA05
2D058CB06
(57)【要約】
【課題】往復動工具のツールホルダと先端工具との間のガタに起因する振動の低減に資する技術を提供する。
【解決手段】往復動工具は、先端工具を、少なくとも、直線状に往復動させるように構成されている。往復動工具は、ツールホルダと、少なくとも1つの弾性保持部とを備える。ツールホルダは、長軸を有し、先端工具の一部を前記長軸に沿って往復動可能に収容するように構成されている。ツールホルダは、先端工具の第2摺動部と摺動可能な第1摺動部を含む。少なくとも1つの弾性保持部は、ツールホルダの第1摺動部に設けられ、第2摺動部に作用する付勢力が釣り合うように、ツールホルダの径方向内側に向かう付勢力を第2摺動部に付与しつつ、第2摺動部を弾性的に保持するように構成されている。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端工具を、少なくとも、直線状に往復動させるように構成された往復動工具であって、
長軸を有し、前記先端工具の一部を前記長軸に沿って往復動可能に収容するように構成されたツールホルダであって、前記先端工具の第2摺動部と摺動可能な第1摺動部を含むツールホルダと、
前記第1摺動部に設けられ、前記第2摺動部に作用する付勢力が釣り合うように、前記ツールホルダの径方向内側に向かう付勢力を前記第2摺動部に付与しつつ、前記第2摺動部を弾性的に保持するように構成された少なくとも1つの弾性保持部とを備えた往復動工具。
【請求項2】
請求項1に記載の往復動工具であって、
前記少なくとも1つの弾性保持部は、前記長軸に平行な方向において互いから離間して配置された第1弾性保持部と第2弾性保持部とを含むことを特徴とする往復動工具。
【請求項3】
請求項2に記載の往復動工具であって、
前記先端工具に係合することで、前記先端工具が前記ツールホルダから抜けることを防止するように構成されたツールリテーナを更に備え、
前記ツールリテーナは、前記長軸に平行な方向において、前記第1弾性保持部と前記第2弾性保持部との間に配置されていることを特徴とする往復動工具。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1つに記載の往復動工具であって、
前記少なくとも1つの弾性保持部は、
前記径方向に移動可能に、前記ツールホルダの前記第1摺動部に保持された複数の当接部材と、
前記複数の当接部材を前記径方向内側に向けて付勢するように構成された少なくとも1つの弾性体とを備えることを特徴とする往復動工具。
【請求項5】
請求項4に記載の往復動工具であって、
前記複数の当接部材は、前記長軸周りの周方向に等間隔で配置されていることを特徴とする往復動工具。
【請求項6】
請求項5に記載の往復動工具であって、
前記複数の当接部材は、前記第2摺動部の前記外周面に対して転動可能な3つの金属製のボールであって、
前記少なくとも1つの弾性体は、前記第1摺動部の外周に装着された単一のゴムリングであることを特徴とする往復動工具。
【請求項7】
請求項6に記載の往復動工具であって、
前記少なくとも1つの弾性保持部は、前記3つのボールと前記単一のゴムリングとの間に夫々介在し、前記3つのボールを回転可能に受けるように構成された3つの介在部材を更に備えることを特徴とする往復動工具。
【請求項8】
請求項4~7の何れか1つに記載の往復動工具であって、
前記少なくとも1つの弾性体は、前記長軸に平行な方向に作用する衝撃を緩和する緩衝部材としても機能するように構成されていることを特徴とする往復動工具。
【請求項9】
請求項4~8の何れか1つに記載の往復動工具であって、
前記先端工具に係合することで、前記先端工具が前記ツールホルダから抜けることを防止するように構成されたツールリテーナを更に備え、
前記ツールリテーナの保持機構の一部は、前記少なくとも1つの弾性体を保持するように構成されていることを特徴とする往復動工具。
【請求項10】
請求項1~9の何れか1つに記載の往復動工具であって、
前記往復動工具は、更に、前記先端工具を前記長軸周りに回転駆動するように構成されていることを特徴とする往復動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、往復動工具に関する。より詳細には、本開示は、先端工具を直線状に往復動させるように構成された往復動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
往復動工具は、ツールホルダによって駆動軸に沿って摺動可能に保持された先端工具を、直線状に往復動させるように構成されている。往復動工具の動作時には、被加工材からの反力等に起因して、先端工具が駆動軸に交差する方向に振れてツールホルダにぶつかり、振動や騒音の原因となる場合がある。そこで、例えば、特許文献1は、騒音対策として、ツールホルダの内周と、先端工具の後端に位置する小径部の外周との間に介在配置されたゴムリングを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-142916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のゴムリングは、被加工材からの反力等に起因する先端工具の振れを小さくすることができる。しかしながら、寸法誤差等に起因して、ツールホルダと先端工具の夫々の摺動部分の間にガタ(不測の緩み、隙間)がある場合、このゴムリングでは、十分な振動低減効果が得られない可能性がある。
【0005】
上述の状況に鑑み、本開示は、往復動工具のツールホルダと先端工具との間のガタに起因する振動の低減に資する技術を提供することを、非限定的な1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の非限定的な1つの態様によれば、先端工具を、少なくとも、直線状に往復動させるように構成された往復動工具が提供される。往復動工具は、ツールホルダと、少なくとも1つの弾性保持部とを備える。ツールホルダは、長軸を有し、先端工具の一部を長軸に沿って往復動可能に収容するように構成されている。ツールホルダは、先端工具の第2摺動部と摺動可能な第1摺動部を含む。少なくとも1つの弾性保持部は、第1摺動部に設けられ、第2摺動部に作用する付勢力が釣り合うように、ツールホルダの径方向内側に向かう付勢力を第2摺動部に付与しつつ、第2摺動部を弾性的に保持するように構成されている。
【0007】
本態様によれば、第1摺動部に設けられた少なくとも1つの弾性保持部が、一方向に向かう力が作用するのを防止しつつ、第2摺動部を径方向内側に付勢する。これにより、第1摺動部と第2摺動部の間にガタがある場合でも、先端工具の軸がツールホルダの長軸からずれること(芯ずれ)を抑制することができる。よって、第2摺動部が第1摺動部の内部に衝突することで振動が生じる可能性を低減することができる。また、少なくとも1つの弾性保持部が、先端工具に生じる振動を減衰することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ハンマドリルの断面図である。
図2図1の部分拡大図である。
図3図2のIII-III線における断面図である(但し、先端工具、ツールホルダ、第2弾性保持部のみを図示)。
図4図2のIV-IV線における断面図である(但し、ツールホルダ、連結部材、シリンダのみを図示)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の非限定的な一実施形態において、少なくとも1つの弾性保持部は、長軸に平行な方向において互いから離間して配置された第1弾性保持部と第2弾性保持部とを含んでもよい。この実施形態では、第1弾性保持部と第2弾性保持部とが、ツールホルダの長軸に平行な方向において、先端工具の第2摺動部の2箇所を、径方向内側に付勢しつつ、弾性的に保持する。よって、弾性保持部が1つのみの場合に比べ、第1摺動部と第2摺動部との間にガタがある場合でも、芯ずれが生じる可能性をより確実に低減することができる。また、2つの弾性保持部が、先端工具に生じる振動をより効果的に減衰することができる。
【0010】
本開示の非限定的な一実施形態において、往復動工具は、先端工具に係合することで、先端工具がツールホルダから抜けることを防止するように構成されたツールリテーナを更に備えてもよい。ツールリテーナは、長軸に平行な方向において、第1弾性保持部と前記第2弾性保持部との間に配置されていてもよい。この実施形態によれば、ツールリテーナを、先端工具とツールホルダの芯ずれが生じにくい位置に配置することができる。
【0011】
本開示の非限定的な一実施形態において、少なくとも1つの弾性保持部は、複数の当接部材と、少なくとも1つの弾性体とを備えてもよい。複数の当接部材は、径方向に移動可能に、ツールホルダの第1摺動部に保持されていてもよい。少なくとも1つの弾性体は、複数の当接部材を径方向内側に向けて付勢するように構成されていてもよい。この実施形態によれば、ツールホルダの径方向内側に向かう付勢力を第2摺動部に付与しつつ、第2摺動部を弾性的に保持可能な合理的な構成が実現される。なお、少なくとも1つの弾性保持部が、複数の弾性保持部を含む場合は、複数の弾性保持部の各々が、複数の当接部材と、少なくとも1つの弾性体とを含んでもよい。また、少なくとも1つの弾性体は、複数の当接部材を付勢する単一の弾性体であってもよいし、複数の当接部材を夫々付勢する複数の弾性体であってもよい。
【0012】
本開示の非限定的な一実施形態において、複数の当接部材は、長軸周りの周方向に等間隔で配置されていてもよい。この実施形態によれば、複数の当接部材を、第2摺動部に作用する付勢力が釣り合うように容易に配置することができる。
【0013】
本開示の非限定的な一実施形態において、複数の当接部材は、第2摺動部の外周面に対して転動可能な3つの金属製のボールであってもよい。少なくとも1つの弾性体は、第1摺動部の外周に装着された単一のゴムリングであってもよい。この実施形態によれば、転動可能なボールにより、第2摺動部の摺動が容易となる。また、3つのボールを採用することで、第2摺動部をバランスよく容易に付勢することができる。更に、単一のゴムリングを採用することで、構成を簡素化しつつ、3つのボールを効率的に径方向内側に付勢することができる。また、ゴムの特性を利用して、先端工具に生じる振動を効果的に減衰させることができる。
【0014】
本開示の非限定的な一実施形態において、少なくとも1つの弾性保持部は、3つのボールと単一のゴムリングとの間に夫々介在し、3つのボールを回転可能に可能に受けるように構成された3つの介在部材を更に備えてもよい。この実施形態によれば、ゴムリングがボールを直接受ける場合に比べ、ボールの回転を容易にすることができる。また、ゴムリングの摩耗を抑制することができる。
【0015】
本開示の非限定的な一実施形態において、少なくとも1つの弾性体は、長軸に平行な方向に作用する衝撃を緩和する緩衝部材としても機能するように構成されていてもよい。この実施形態によれば、少なくとも1つの弾性体を、別の機能を発揮する部材として有効活用することができる。よって、緩衝部材を別途設ける必要がない。
【0016】
本開示の非限定的な一実施形態において、往復動工具は、先端工具に係合することで、先端工具がツールホルダから抜けることを防止するように構成されたツールリテーナを更に備えてもよい。ツールリテーナの保持機構の一部は、少なくとも1つの弾性体を保持するように構成されていてもよい。この実施形態によれば、ツールリテーナの保持機構を有効活用して、少なくとも1つの弾性体を保持することができる。よって、少なくとも1つの弾性体を保持するための別の部材を設ける必要がない。
【0017】
本開示の非限定的な一実施形態において、往復動工具は、更に、先端工具を長軸周りに回転駆動するように構成されていてもよい。この実施形態によれば、第1摺動部と第2摺動部との間にガタがある場合でも、少なくとも1つの弾性保持部によって、先端工具の回転時に芯ずれを抑制することができる。
【0018】
以下、図1図4を参照して、本開示の代表的且つ非限定的な実施形態に係るハンマドリル1について具体的に説明する。ハンマドリル1は取り外し可能に装着された先端工具91を駆動軸DXに沿って直線状に往復動させる動作(以下、打撃動作という)が可能、且つ、先端工具91を駆動軸DX周りに回転駆動する動作(以下、回転動作という)が可能な電動工具である。なお、ハンマドリル1に装着可能な先端工具91には、例えば、ハンマビット、ドリルビットがある。
【0019】
まず、ハンマドリル1の概略構成について説明する。図1に示すように、ハンマドリル1の外郭は、主として、本体ハウジング10と、本体ハウジング10に連結されたハンドル17とによって形成されている。
【0020】
本体ハウジング10には、主に、先端工具91を取り外し可能に保持するように構成されたツールホルダ5と、モータ2と、モータ2の駆動に伴って先端工具91を駆動するように構成された駆動機構3と、振動抑制機構8とが収容されている。なお、駆動機構3及びツールホルダ5は、本体ハウジング10内に配置されたインナハウジング(工具本体ともいう)13に収容(支持)されている。
【0021】
ハンドル17は、使用者によって把持される把持部171を含む。把持部171は、駆動軸DXに交差する方向(詳細には、実質的に直交する方向)に延在している。把持部171の長軸方向の一端部には、使用者によって押圧操作されるスイッチレバー175が設けられている。把持部171内には、スイッチ176が収容されている。スイッチレバー175の押圧操作に応じてスイッチ176がオンとされと、モータ2の駆動が開始され、駆動機構3によって、先端工具91が往復動される、及び/又は、回転駆動される。
【0022】
以下、本体ハウジング10内に配置される要素(構成)について説明する。なお、以下の説明では、便宜上、駆動軸DXの延在方向(以下、単に駆動軸方向ともいう)をハンマドリル1の前後方向と規定する。前後方向において、ツールホルダ5が配置されている側をハンマドリル1の前側と規定し、把持部171が配置されている側を後側と規定する。また、把持部171の長軸方向を、ハンマドリル1の上下方向と規定する。上下方向において、スイッチレバー175が配置されている側を上側と規定し、反対側を下側と規定する。更に、前後方向及び上下方向に直交する方向を、左右方向と規定する。
【0023】
ツールホルダ5は、長軸LX1を有する筒状部材である。ツールホルダ5は、先端工具91の一部を取り外し可能に受け入れ、先端工具91を、長軸LX1の延在方向に直線状に摺動可能、且つ、ツールホルダ5に対して回転不能に保持するように構成されている。また、ツールホルダ5は、長軸LX1周りに回転可能にインナハウジング13に支持されている。よって、先端工具91は、ツールホルダ5と一体的に長軸LX1周りに回転可能である。このように、ツールホルダ5の長軸LX1は、先端工具91の駆動軸DXを規定する。なお、ツールホルダ5は、インナハウジング13のうち、円筒状の前半部分(以下、バレル部14ともいう)に収容されている。インナハウジング13の残りの部分(バレル部14の後方の部分。以下、ギヤハウジング15ともいう)は、駆動機構3を収容する。
【0024】
ツールホルダ5には、シリンダ6が連結されている。シリンダ6は、筒状部材であって、インナハウジング13内にツールホルダ5と同軸状に配置されている。シリンダ6は、連結部材7を介してツールホルダ5の後端部に連結されており、ツールホルダ5及びシリンダ6は、駆動軸DX周りに一体的に回転可能である。なお、ツールホルダ5とシリンダ6の詳細については後述する。
【0025】
本実施形態のモータ2は、ブラシモータである。モータ2は、図示しない電源コードを介して外部の交流電源から供給された電力により駆動される。但し、モータ2にはブラシレスモータが採用されてもよい。また、モータ2は、充電式のバッテリから供給される電力により駆動されてもよい。本実施形態では、モータ2は、モータシャフト25の回転軸が駆動軸DXに交差するように配置されている。但し、モータ2は、モータシャフト25の回転軸が駆動軸DXと平行に延びるように配置されてもよい。
【0026】
以下、駆動機構3について説明する。駆動機構3は、モータ2(モータシャフト25)に動作可能に連結されており、モータ2の動力によって駆動される。本実施形態の駆動機構3は、打撃動作用の運動変換機構31及び打撃要素33と、回転動作用の回転伝達機構37とを含む。
【0027】
運動変換機構31は、モータ2に動作可能に連結されており、モータシャフト25の回転運動を直線運動に変換して打撃要素33に伝達するように構成されている。本実施形態では、運動変換機構31として、周知の構成を有するクランク機構が採用されている。簡単に説明すると、運動変換機構31は、クランクシャフト311と、連接ロッド313と、ピストン315とを含む。クランクシャフト311は、モータシャフト25に動作可能に連結されており、モータシャフト25によって回転される。クランクシャフト311は、偏心ピンを有する。連接ロッド313は、偏心ピンとピストン315とに動作可能に連結されている。ピストン315は、シリンダ6に収容されており、シリンダ6内を摺動可能である。
【0028】
なお、このような運動変換機構31に代えて、回転体の回転に応じて揺動する部材(例えば、swash bearing、wobble plate/bearing)を用いてピストンを往復動させるように構成された周知の機構が採用されてもよい。
【0029】
打撃要素33は、直線状に移動して先端工具91を打撃することで、先端工具91を駆動軸DXに沿って直線状に駆動するように構成されている。本実施形態では、打撃要素33は、ストライカ34と、インパクトボルト35とを含む。ストライカ34は、シリンダ6内でピストン315の前方に配置されており、シリンダ6内を摺動可能である。ストライカ34とピストン315との間には、空気室32が形成されている。インパクトボルト35は、ストライカ34の運動エネルギを先端工具91に伝達する中間子である。インパクトボルト35は、ストライカ34の前方で、ツールホルダ5内に配置されており、ツールホルダ5内を摺動可能である。
【0030】
モータ2が駆動され、ピストン315が前方に向けて移動されると、空気室32内の空気が圧縮され、圧力が上昇する。このため、ストライカ34は、高速に前方に押し出されてインパクトボルト35に衝突し、インパクトボルト35が運動エネルギを先端工具91に伝達する。これにより、先端工具91は駆動軸DXに沿って直線状に前方へ移動する。一方、ピストン315が後方へ移動されると、空気室32内の空気が膨張して圧力が低下し、ストライカ34が後方へ引き込まれる。被加工材に押し付けられた先端工具91は後方へ移動する。運動変換機構31及び打撃要素33は、このような動作を繰り返す。
【0031】
回転伝達機構37は、モータ2に動作可能に連結されており、モータシャフト25の回転動力を、ツールホルダ5に伝達するように構成されている。回転伝達機構37は、周知の構成を有するギヤ減速機構であって、モータ2の回転動力は、適宜減速された上でツールホルダ5に伝達される。簡単に説明すると、回転伝達機構37は、モータシャフト25によって回転される中間シャフト371に設けられた小ベベルギヤ372と、シリンダ6の外周に固定された大ベベルギヤ374とを含む。モータ2が駆動されると、回転伝達機構37によって、シリンダ6及びツールホルダ5、ひいてはツールホルダ5に保持された先端工具91が、駆動軸DX周りに回転駆動される。
【0032】
なお、本実施形態のハンマドリル1は、打撃のみモードと、回転打撃モードの何れか一方で選択的に動作することができる。打撃のみモードでは、運動変換機構31と打撃要素33のみが駆動され、打撃動作のみが行われる。回転打撃モードでは、運動変換機構31と、打撃要素33と、回転伝達機構37とが駆動され、打撃動作と回転動作とが同時に行われる。モードの切り替えのための構成については、いかなる公知の構成が採用されてもよい。よって、かかる構成についての説明は省略する。但し、ハンマドリル1は、打撃動作及び回転動作の少なくとも一方を選択的に行えればよく、打撃のみモードと、回転打撃モードに加え、回転動作のみが行われる回転のみモードを有してもよい。
【0033】
以下、ツールホルダ5の詳細について説明する。
【0034】
まず、ツールホルダ5に装着可能な先端工具(ビットともいう)91について説明する。図2及び図3に示すように、先端工具91は、ツールホルダ5に挿入されるシャンク911を有する。シャンク911の外周面912には、複数の角溝913と、複数の半円溝914とが形成されている。
【0035】
角溝913は、トルク伝達用の溝であって、概ね矩形状又は台形状の断面を有する。本実施形態では、3つの角溝913が、先端工具91の長軸LX2周りの周方向において、互いから離間して配置され、夫々、長軸LX2と実質的に平行に延びている。半円溝914は、抜け止め用の溝であって、概ね半円状の断面を有する。本実施形態では、2つの半円溝914が、先端工具91の長軸LX2を挟んで対向する位置に配置され、夫々、長軸LX2と実質的に平行に延びている。角溝913と半円溝914とは、周方向において互いから離間している。
【0036】
図2に示すように、ツールホルダ5は、段付きの円筒状部材であって、前側から順に、小径部51と、中径部53と、大径部55とを含む。
【0037】
小径部51は、先端工具91のシャンク911を受け入れ、シャンク911を摺動可能に保持する(収容する)部分である。このため、小径部51の内径は、シャンク911の外径よりも極僅かに大きく設定されている。小径部51の内周面511と、シャンク911の外周面912とは、互いに摺動する摺動面である。
【0038】
小径部51には、複数の突起513が設けられている。各突起513は、小径部51の内周面511から径方向内側に突出し、ツールホルダ5の長軸LX1(駆動軸DX)と実質的に平行に(つまり前後方向に)延びている。突起513は、ツールホルダ5の長軸LX1(駆動軸DX)周りの周方向に互いから離間して配置されている。突起513は、トルク伝達用の突起であって、周方向において、シャンク911の角溝913に対応する位置に配置され、角溝913に嵌合するように構成されている。
【0039】
突起513が角溝913に嵌合する状態で、小径部51にシャンク911が挿入されると、先端工具91の長軸LX2は、ツールホルダ5の長軸LX1(駆動軸DX)と実質的に一致する。また、先端工具91のツールホルダ5に対する駆動軸DX周りの回転が規制され、突起513の両側面と、角溝913の両側面とは、夫々、トルク伝達面として機能する。
【0040】
また、小径部51には、複数の長孔514が設けられている。各長孔514は、小径部51を径方向に貫通する貫通孔である。本実施形態では、2つの長孔514が、長軸LX1を挟んで対向する位置に配置され、長軸LX1(駆動軸DX)と実質的に平行に(つまり前後方向に)延びている。長孔514は、突起513がシャンク911の角溝913に嵌合する状態で、径方向において、シャンク911の半円溝914に対向するように配置されている。長孔514には、夫々、先端工具91の抜け止め用のツールリテーナ515が配置されている。ツールリテーナ515は、概ねL字状の部材である。ツールリテーナ515は、その一部が小径部51の径方向外側に突出するように配置され、長孔514内を前後方向に摺動可能に保持されている。
【0041】
ツールホルダ5の周囲には、ツールリテーナ515の保持機構57が配置されている。保持機構57は、チャックリング571と、前側バネ受け573と、後側バネ受け575と、バネ577とを含む。チャックリング571は、筒状部材であって、長孔514の前半部分を取り囲むように、小径部51の外周に嵌め込まれている。前側バネ受け573は、環状部材であって、ツールリテーナ515の後側で小径部51の周囲に嵌め込まれている。後側バネ受け575は、フランジ部を有する円筒状部材であって、小径部51の後端部の周囲に嵌め込まれている。バネ577は、前側バネ受け573と後側バネ受け575との間に配置され、前側バネ受け573と後側バネ受け575を、互いから離れるように付勢している。
【0042】
以上の構成により、後側バネ受け575は、小径部51と中径部53との間のショルダ部に当接する位置で保持される。一方、前側バネ受け573は、ツールリテーナ515に後方から当接し、ツールリテーナ515を前方へ押圧する。ツールリテーナ515は、チャックリング571に後方から当接する位置(以下、初期位置という)で保持される。このとき、チャックリング571は、ツールリテーナ515の前方及び径方向外側への移動を規制する。また、ツールリテーナ515の一部は、長孔514から小径部51の内部へ突出し、半円溝914に嵌合することで、先端工具91がツールホルダ5から外れるのを防止する。
【0043】
ツールリテーナ515と保持機構57の周囲には、ツールリテーナ515による先端工具91の保持を解除するための解除カバー581が配置されている。解除カバー581は、筒状部材であって、ツールホルダ5に対して前後方向に移動可能に支持されている。より詳細には、ツールホルダ5の前端部の周囲には、筒状のキャップ583が固定されている。キャップ583の後側には、チャックカバー585が嵌め込まれている。チャックカバー585は、筒状部材であって、ツールリテーナ515と、保持機構57の大部分とを覆う。解除カバー581は、チャックカバー585によって、前後方向に摺動可能に支持されている。解除カバー581は、バネ577によって、前側バネ受け573を介して前方に付勢されている。
【0044】
使用者が解除カバー581を後方へ移動させると、解除カバー581は、バネ577の付勢力に抗して前側バネ受け573とツールリテーナ515とを後方へ移動させる。ツールリテーナ515は、長孔514内を後方に移動して、小径部51の径方向外側へ移動可能となる。よって、先端工具91の取り外しが可能となる。
【0045】
ツールホルダ5の中径部53は、小径部51の後端に接続し、後方に延びる。中径部53は、小径部51よりも大きい内径及び外径を有する。中径部53は、インパクトボルト35を摺動可能に保持する(収容する)部分である。インパクトボルト35は、大径部351と、大径部351の後端から後方に延在し、大径部351よりも小さい外径を有する小径部353とを含む。中径部53の内径は、インパクトボルト35の大径部351の外径よりも極僅かに大きく設定されている。中径部53の内周面531と、インパクトボルト35の大径部351の外周面352とは、互いに摺動する摺動面である。
【0046】
ツールホルダ5の大径部55は、中径部53の後端に接続し、後方に延びる。大径部55は、中径部53よりも大きい内径及び外径を有する。大径部55内には、インパクトボルト35の一部が配置されている。大径部55は、バレル部14の後端部まで延びている。
【0047】
以下、シリンダ6の詳細について説明する。
【0048】
シリンダ6は、実質的に均一の内径を有する円筒部材である。シリンダ6の外径は、ツールホルダ5の大径部55の内径よりも小さい。図1に示すように、シリンダ6は、ピストン315と、ストライカ34とを摺動可能に保持(収容する)。また、シリンダ6の一部は、ツールホルダ5の大径部55の後部内(径方向内側)に配置されている。本実施形態では、シリンダ6の実質的な前半部分が、ツールホルダ5の大径部55の後部内に挿入されている。以下、シリンダ6のうち、ツールホルダ5内に配置される部分を、挿入部61ともいう。
【0049】
図2及び図4に示すように、挿入部61には、複数の通気孔60が形成されている。なお、実際には、図2には通気孔60は現れないが、説明の便宜上、シリンダ6の下部に、前後方向における通気孔60の位置が示されている。各通気孔60は、シリンダ6の内部空間と外部空間との間で空気を流通させるための貫通孔である。本実施形態では、各通気孔60は、シリンダ6内部の空気圧の調整(ストライカ34の駆動タイミングの設定)、及び/又は、いわゆる空打ち抑制のために設けられている。なお、空打ちとは、先端工具91がツールホルダ5に挿入されていない、又は、先端工具91が被加工材に押し付けられていない状態(無負荷状態ともいう)で、打撃要素33が動作することをいう。
【0050】
以下、ツールホルダ5とシリンダ6との連結構造について説明する。
【0051】
図2及び図4に示すように、径方向において、ツールホルダ5とシリンダ6との間には、ツールホルダ5とシリンダ6と同軸状に、連結部材7が配置されている。ツールホルダ5とシリンダ6とは、連結部材7を介して連結されている。連結部材7は、前後方向において、ツールホルダ5の後端部(大径部55の後端部)及びシリンダ6の略中央部に対応する位置に配置されている。
【0052】
連結部材7は、ツールホルダ5とシリンダ6とに夫々係合し、ツールホルダ5とシリンダ6とが一体的に回転するように両者を連結している。より詳細には、本実施形態の連結部材7は、単一の円筒部材(スリーブ、リングともいう)であって、ツールホルダ5の大径部55の内周に嵌合可能、且つ、シリンダ6の外周に嵌合可能に構成されている。また、連結部材7とツールホルダ5の大径部55との一体回転のための連結、及び、連結部材7とシリンダ6との一体回転のための連結は、夫々、凹部と凸部との係合により達成されている。
【0053】
具体的には、連結部材7には、その外周面から径方向外側に突出する複数の外側突起71と、その内周面から径方向内側に突出する複数の内側突起73とが設けられている。本実施形態では、4つの外側突起71が、周方向に等間隔で設けられている。各外側突起71は、矩形状又は台形状の断面を有する突起であって、駆動軸DXと実質的に平行に(前後方向に)延びている。同様に、本実施形態では、4つの内側突起73が、周方向に等間隔で設けられている。内側突起73は、外側突起71と同様の構成を有する。
【0054】
一方、ツールホルダ5の大径部55の後端部の内周面には、4つの外側突起71に対応して、4つの溝551が設けられている。溝551は、外側突起71に整合する形状を有し、大径部55の後端から前方に、駆動軸DXと実質的に平行に延びている。また、シリンダ6の挿入部61の外周面には、4つの内側突起73に対応して、4つの溝63が設けられている。溝63は、内側突起73に整合する形状を有し、シリンダ6の前端から、駆動軸DXと実質的に平行に延びている。溝63は、挿入部61の全長に亘って延びている。溝63の後端の後側には、位置決め突起64が設けられている。位置決め突起64は、シリンダ6の外周面から径方向外側に突出する。連結部材7の後端には、フランジ部75が設けられている。
【0055】
ハンマドリル1の組立時には、内側突起73と溝63とが嵌合するように、連結部材7がシリンダ6に対して周方向に位置決めされ、前方からシリンダ6の外周に嵌め込まれる。連結部材7は、その後端(フランジ部75)が位置決め突起64に当接する位置に位置決めされる。更に、外側突起71と溝551とが嵌合するように、ツールホルダ5が連結部材7に対して周方向に位置決めされ、前方から連結部材7の外周に嵌め込まれる。ツールホルダ5は、その後端が連結部材7のフランジ部75に当接する位置に位置決めされる。つまり、連結部材7は、ツールホルダ5とシリンダ6との連結機能のみならず、ツールホルダ5の位置決め機能も発揮することができる。よって、別途ツールホルダ5の位置決め用の構成を設ける必要がない。
【0056】
以上の手順で、ツールホルダ5とシリンダ6とが、連結部材7を介して一体回転可能に連結される。シリンダ6の溝63の両側面と、連結部材7の内側突起73の両側面と、外側突起71の両側面と、ツールホルダ5の溝551の両側面とは、夫々、トルク伝達面として機能する。
【0057】
従来の連結ピンを用いた連結構造を有するハンマドリルの組立時には、組立作業者は、ツールホルダの孔とシリンダの孔とを軸方向及び周方向に正確に位置合わせして、連結ピンを径方向に挿入しなければならない。また、連結ピンの径方向外側に、連結ピンが抜けるのを防止するための部材を配置する必要がある。これに対し、本実施形態のツールホルダ5とシリンダ6との連結構造によれば、組立作業者は、上述のように、ツールホルダ5、連結部材7、シリンダ6を、順に周方向に位置合わせして嵌め込む(後方へ移動させる)だけでよい。また、従来の抜け止め用部材が不要となる。よって、連結ピンを用いる従来の連結構造に比べ、ツールホルダ5とシリンダ6とを一体的に回転可能に連結する作業を、容易化、簡素化することができる。また、抜け止め用の部材の配置に起因する径方向の大型化を防止することができる。
【0058】
ハンマドリル1の使用者は、作業姿勢の安定化のため、先端工具91により近いハンマドリル1の前端領域を把持したい場合がある。シリンダ6と、中径部53又は中径部53よりも前方の部分(先端工具91に近い部分)とを連結しようとすると、シリンダ6を、ツールホルダ5及び連結部材7の径方向外側に配置する必要が生じる。この場合、ハンマドリル1の前端領域の径が大きくなる。これに対し、本実施形態では、連結部材7は、ツールホルダ5の後端部、つまり、インパクトボルト35が摺動可能に収容される中径部53よりも後方で、ツールホルダ5の径方向内側、且つ、シリンダ6の径方向外側に配置されている。よって、ツールホルダ5の前端部の径、ひいてはハンマドリル1の前端領域の径を小さくすることができる点で好ましい。
【0059】
また、本実施形態では、連結部材7は、シリンダ6の通気孔60のいくつかを径方向外側から覆っている。このため、連結部材7の内周面には、複数の通気路70が形成されている。本実施形態では、各通気路70は、通気孔60と連通し、シリンダ6の内部空間と外部空間との間で空気が流通することを可能とするように構成されている。具体的には、通気路70は、連結部材7の全長に亘って(前端から後端まで)、連結部材7の軸方向に延びる溝として形成されている。よって、通気路70は、連結部材7の前方の空間(ツールホルダ5内のシリンダ6の外部空間)と、連結部材7の後方の空間(ツールホルダ5の後方のシリンダ6の外部空間)との間の空気の流通も許容する。よって、連結部材7が通気孔60を覆う位置に配置されても、通気路70によって、通気孔60の機能が維持される。
【0060】
以下、ツールホルダ5及びシリンダ6の支持構造について説明する。
【0061】
図1に示すように、ツールホルダ5は、略中央部と後端部の2箇所において、夫々、インナハウジング13に支持された第1軸受131と第2軸受132とによって、回転可能に支持されている。より詳細には、第1軸受131は、バレル部14の前端部内に支持され、ツールホルダ5の中径部53の外周に嵌め込まれている。第2軸受132は、バレル部14の後端部内に支持され、ツールホルダ5の大径部55の後端部の外周に嵌め込まれている。つまり、第2軸受132は、ツールホルダ5と、連結部材7と、シリンダ6とが径方向に重なり合う部分(以下、重なり部567ともいう)の外周に嵌め込まれている。
【0062】
シリンダ6は、略中央部と後端部の2箇所において、夫々、インナハウジング13に支持された第2軸受132と第3軸受133とによって、回転可能に支持されている。つまり、本実施形態では、単一の第2軸受132が、重なり部567において、ツールホルダ5及びシリンダ6の両方の軸受として機能する。第2軸受132は、重なり部567を支持することで、連結部材7を介して連結され、一体的に回転するツールホルダ5とシリンダ6とを安定して支持することができる。第3軸受133は、ギヤハウジング15内に支持され、シリンダ6の後端部に固定された大ベベルギヤ374の支持部の外周に嵌め込まれている。
【0063】
なお、本実施形態では、ツールホルダ5及びシリンダ6は何れも、削り出し加工された金属部品(例えば、鉄製の部品)である。一方、連結部材7は、軽量化を図るべく、焼結金属で形成されている(焼結部品である)。
【0064】
ところで、本実施形態では、上述のように、径方向において、ツールホルダ5とシリンダ6との間に連結部材7が介在する。このため、図2に示すように、この連結部材7の前方には、ツールホルダ5の大径部55の内周面とシリンダ6の挿入部61の外周面との間に形成された空間(隙間)が存在する。そこで、この空間を利用して、空打ち抑制機構65が配置されている。空打ち抑制機構65は、ツールホルダ5の長軸LX1と実質的に平行に連結部材7から延びる直線上に配置されている、ともいえる。
【0065】
空打ち抑制機構65は、可動スリーブ651と、付勢バネ653とを含む。可動スリーブ651は、前後方向に摺動可能に、シリンダ6の前端部の外周に嵌め込まれた円筒状部材である。付勢バネ653は、前後方向において、可動スリーブ651と、連結部材7との間に配置されている。付勢バネ653の前端は、可動スリーブ651に当接し、付勢バネ653の後端は、連結部材7のフランジ部75に当接している。つまり、連結部材7(フランジ部75)は、ツールホルダ5とシリンダ6との連結機能のみならず、付勢バネ653のバネ座としての機能も有する。可動スリーブ651は、付勢バネ653の付勢力でシリンダ6に対して前方へ付勢され、インパクトボルト35を前方へ付勢している。
【0066】
先端工具91がツールホルダ5の後方へ押し込まれない無負荷状態では、可動スリーブ651は、シリンダ6の内部の空気を逃がす位置に配置される。このため、ストライカ34がインパクトボルト35を打撃すること(いわゆる空打ち)が抑制される。
【0067】
以下、振動抑制機構8について説明する。
【0068】
振動抑制機構8は、ツールホルダ5と先端工具91との間のガタ(不測の緩み、隙間)に起因する振動が生じる可能性を低減するための機構であって、駆動軸DXの周囲に設けられている。図2に示すように、本実施形態の振動抑制機構8は、ツールホルダ5の小径部51に設けられた第1弾性保持部81及び第2弾性保持部82を含む。第2弾性保持部82は、前後方向において、第1弾性保持部81の後方に離間配置されている。第1弾性保持部81及び第2弾性保持部82は何れも、シャンク911に作用する付勢力が釣り合うように、ツールホルダ5の径方向内側に向かう付勢力をシャンク911に付与しつつ、シャンク911を弾性的に保持するように構成されている。
【0069】
図2及び図3に示すように、第1弾性保持部81及び第2弾性保持部82の各々は、3つのボール83と、3つの介在部材84と、1つの弾性リング87とを含む。なお、第1弾性保持部81の弾性リング87と、第2弾性保持部82の弾性リング87とは、軸方向及び径方向の寸法において異なるが、実質的な機能は同じである。
【0070】
ボール83は、ツールホルダ5の径方向に移動可能に、小径部51に保持されている。より詳細には、ツールホルダ5の小径部51の前部(長孔514の前側)には、第1弾性保持部81のボール83用の3つの保持孔517が形成されている。ツールホルダ5の小径部51の後端部(長孔514の後側)には、第2弾性保持部82のボール83用の3つの保持孔517が形成されている。
【0071】
3つの保持孔517は、前後方向において同じ位置、且つ、長軸LX1(駆動軸DX)周りの周方向において等間隔で配置されている。なお、保持孔517は、上述の突起513及び長孔514と重ならないように配置されている(オフセットされている)。各保持孔517は、小径部51の径方向に延在し、小径部51の内部空間と外部空間とを連通させる貫通孔である。第1弾性保持部81及び第2弾性保持部82の各々において、3つのボール83は、夫々、3つの保持孔517内に転動可能に配置されている。各保持孔517の径方向内側の端は、ボール83が径方向内側に外れないように構成されている。なお、本実施形態のボール83は、金属製(例えば、スチール製)である。
【0072】
介在部材84は、ボール83を回転可能に受ける(保持する)ように構成された部材であって、ボール83と弾性リング87の間に介在し、ツールホルダ5の径方向に移動可能に、小径部51に保持されている。より詳細には、介在部材84は、ボール83の外周面(球面)の一部に概ね整合するように構成された受け面85を有する。介在部材84は、保持孔517内において、ボール83の径方向外側に配置され、保持孔517内を摺動可能である。なお、本実施形態の介在部材84は、金属製(例えば、スチール製)である。
【0073】
弾性リング87は、均一の内径と外径を有する環状の弾性体である。弾性リング87は、第1弾性保持部81及び第2弾性保持部82の各々において、3つの保持孔517を覆うように、小径部51の外周に装着されている。弾性リング87は、介在部材84を介してボール83を径方向内側に付勢するように構成されている。本実施形態の弾性リング87は、ゴム製である。
【0074】
以上のような構成により、先端工具91のシャンク911がツールホルダ5の小径部51に挿入されていないときには、ボール83は、弾性リング87の付勢力で、保持孔517内で径方向において最も内側に配置される。このとき、ボール83の一部は、保持孔517から小径部51の内部へ突出する。シャンク911が小径部51に挿入されるのに応じて、ボール83は、シャンク911の外周面に当接して押され、弾性リング87の付勢力に抗して、介在部材84と共に径方向外側へ移動する。シャンク911が小径部51内に配置されている状態では、ボール83は、弾性リング87によって径方向内側に付勢され、シャンク911の外周面に対して転動可能に、シャンク911に押し付けられる(図3参照)。
【0075】
本実施形態では、図2に示すように、第1弾性保持部81の弾性リング87は、前後方向において、チャックリング571と、チャックカバー585との間で保持されている。第1弾性保持部81の弾性リング87は、ボール83を径方向内側に付勢する機能のみならず、前後方向における衝撃を緩和する機能を発揮する。
【0076】
より詳細には、いわゆる空打ちが発生すると、インパクトボルト35に打撃された先端工具91が、ツールリテーナ515を前方に高速で移動させ、チャックリング571に衝突させる場合がある。弾性リング87は、ツールリテーナ515の衝突時の、チャックリング571からチャックカバー585及びキャップ583への衝撃を緩和することができる。なお、弾性リング87は、このような衝撃緩和目的で、既存のハンマドリルにも採用されている。よって、第1弾性保持部81の位置をこの弾性リング87の位置に応じて設定することで、新たに部品を増やすことなく、第1弾性保持部81を構成することができる。
【0077】
一方、第2弾性保持部82の弾性リング87は、上述のツールリテーナ515の保持機構57を利用して保持されている。具体的には、後側バネ受け575の円筒部の内周面には、環状の保持溝が形成されており、弾性リング87は、この溝に嵌め込まれ、保持されている。このため、第2弾性保持部82の弾性リング87は、第1弾性保持部81の弾性リング87に比べ、軸方向及び径方向の寸法が小さいが、弾性リング87と同様に機能する。このように、本実施形態では、ツールリテーナ515の保持機構57の一部が、第2弾性保持部82の弾性リング87の保持に有効活用されている。
【0078】
以下、振動抑制機構8の作用について説明する。
【0079】
ハンマドリル1が打撃のみモード、又は、回転打撃モードで動作すると、先端工具91は、前後方向に直線状に往復動する。このとき、先端工具91のシャンク911の外周面912は、ツールホルダ5の小径部51の内周面511に対して摺動する。しかしながら、例えば寸法誤差に起因して、シャンク911の外周面912と小径部51の内周面511との間にガタが生じる場合がある。このような場合、シャンク911が小径部51内を往復摺動するときに、先端工具91の長軸LX2がツールホルダ5の長軸LX1に対して傾き(芯ずれが生じ)、シャンク911が小径部51の内部に衝突すると、振動、騒音が発生してしまう。
【0080】
これに対し、本実施形態では、シャンク911と摺動する小径部51に設けられた第1弾性保持部81及び第2弾性保持部82の各々が、シャンク911に作用する付勢力が釣り合うように、シャンク911を径方向内側に付勢しつつ、シャンク911を弾性的に保持する。よって、シャンク911と小径部51との間にガタがある場合でも、芯ずれを抑制することができる。よって、シャンク911が小径部51の内部に衝突することで生じる振動を低減することができる。また、弾性リング87が、先端工具91に生じる振動を減衰することができる。また、ハンマドリル1が回転打撃モードで動作するときには、先端工具91の回転軸も安定させることができる。
【0081】
特に、本実施形態では、第1弾性保持部81と第2弾性保持部82とが、前後方向において、シャンク911の2箇所を、径方向内側に付勢しつつ、弾性的に保持する。よって、第1弾性保持部81と第2弾性保持部82のうち一方のみが設けられる場合に比べ、芯ずれが生じる可能性をより確実に低減することができる。また、2つの弾性リング87が、先端工具91に生じる振動をより効果的に減衰することができる。
【0082】
また、本実施形態では、第1弾性保持部81と第2弾性保持部82の何れにおいても、弾性リング87から3つのボール83を介してシャンク911に作用する付勢力が釣り合うように、3つのボール83は、周方向に等間隔で配置されている。よって、先端工具91に対して一方向に向かう力が作用するのを防止し、芯ずれの可能性をより確実に低減することができる。また、弾性リング87は1つのみであるため、部品数を抑えつつ、3つのボール83を効率的に径方向内側に付勢することができる。また、弾性リング87は、ゴムの特性を利用して、先端工具91に生じる振動を効果的に減衰させることができる。更に、介在部材84は、ゴム製の弾性リング87がボール83を直接受ける場合に比べ、ボール83の回転を容易にし、弾性リング87の摩耗を抑制することができる。
【0083】
上記実施形態の各構成要素(特徴)と本開示又は発明の各構成要素(特徴)の対応関係を以下に示す。但し、実施形態の各構成要素は、単なる一例であって、本開示又は本発明の各構成要素を限定するものではない。
【0084】
ハンマドリル1は、本開示に係る「往復道工具」の一例である。ツールホルダ5の小径部51は、「第1摺動部」の一例である。先端工具91のシャンク911は、「第2摺動部」の一例である。ボール83は、「当接部材」の一例である。弾性リング87は、「弾性体」及び「ゴムリング」の一例である。
【0085】
なお、上記実施形態は単なる例示であり、本開示に係る往復動工具は、例示されたハンマドリル1に限定されるものではない。例えば、下記に例示される変更を加えることができる。また、これらの変更のうち少なくとも1つが、実施形態に例示されるハンマドリル1、及び各請求項に記載された特徴の少なくとも1つと組み合わされて採用されうる。
【0086】
本開示に係る往復動工具は、打撃動作のみが可能な電動ハンマとして構成されてもよいし、先端工具(ブレード)を往復動させるレシプロソーとして構成されてもよい。往復動工具の変更に応じて、又は、変更にかかわらず、例えば、本体ハウジング10の構成、駆動機構3の構成は適宜変更されうる。
【0087】
また、ツールホルダ5の形状や配置、内部に配置される要素は、往復動工具の変更に応じて、又は、変更にかかわらず、適宜、変更されうる。例えば、ツールホルダ5は、往復動工具で使用される先端工具の一部(第2摺動部)と摺動可能な部分(第1摺動部)を含めば足りる。また、ツールホルダ5の突起513、長孔514の形状、数、配置は、あくまでも例示であり、往復動工具で使用される先端工具の構成に応じて、適宜、変更又は省略されうる。
【0088】
振動抑制機構8に含まれる弾性保持部の数は、2に限られず、1であっても、3以上であってもよい。しかしながら、振動の効果的な抑制という観点からは、振動抑制機構8は、長軸LX1に平行な方向において離間配置された複数の弾性保持部を含むことが好ましい。
【0089】
上記実施形態では、第1弾性保持部81及び第2弾性保持部82の各々は、3つのボール83と、弾性リング87と、弾性リング87とボール83との間に夫々介在する3つの介在部材84とを含む。しかしながら、各弾性保持部の構成は、適宜変更されうる。
【0090】
例えば、介在部材84は、省略されてもよい。また、例えば、ボール83(及び介在部材84)の数は、3に限られず、2以上の任意の数であればよい。複数のボール83(及び介在部材84)は、周方向に等間隔で配置される必要はないが、複数のボール83の夫々からシャンク911に作用する力が釣り合うように配置されていることが好ましい。また、シャンク911の外周面912に対して転動可能なボール83に代えて、外周面912に対して摺動可能に当接する部材(例えば、球面状の一端部を有するピン)が採用されてもよい。弾性リング87は、ゴムではなく、例えば、弾性を有する合成樹脂(例えば、エラストマ、合成樹脂の発泡体)で形成されていてもよい。また、単一の弾性リング87に変えて、ボール83(及び介在部材84)と同じ数の弾性体が採用されてもよい。
【0091】
上記実施形態では、第1弾性保持部81と、第2弾性保持部82とは、弾性リング87の形状以外、実質的に同一の構成を有する。しかしながら、弾性リング87の形状以外の構成(例えば、ボール83の数、配置)も、互いに異なっていてもよい。
【0092】
本発明及び上記実施形態の趣旨に鑑み、以下の態様が構築される。以下の態様のうち少なくとも1つが、実施形態及びその変形例の特徴、あるいは各請求項に記載された特徴の少なくとも1つと組み合わされて採用されうる。
[態様1]
前記ツールホルダの前記第1摺動部には、径方向に夫々貫通する複数の孔が形成されており、
前記複数の当接部材は、夫々、前記複数の孔内に前記径方向に移動可能に配置されている。
[態様2]
前記複数の当接部材の各々は、前記第2摺動部の前記外周面に対して転動可能なボールである。
[態様3]
前記少なくとも1つの弾性体は、ゴムで形成されている。
【符号の説明】
【0093】
1:ハンマドリル、10:本体ハウジング、13:インナハウジング、131:第1軸受、132:第2軸受、133:第3軸受、14:バレル部、15:ギヤハウジング、17:ハンドル、171:把持部、175:スイッチレバー、176:スイッチ、2:モータ、25:モータシャフト、3:駆動機構、31:運動変換機構、311:クランクシャフト、313:連接ロッド、315:ピストン、32:空気室、33:打撃要素、34:ストライカ、35:インパクトボルト、351:大径部、352:外周面、353:小径部、37:回転伝達機構、371:中間シャフト、372:小ベベルギヤ、374:大ベベルギヤ、5:ツールホルダ、51:小径部、511:内周面、513:突起、514:長孔、515:ツールリテーナ、517:保持孔、53:中径部、531:内周面、55:大径部、551:溝、567:重なり部、57:保持機構、571:チャックリング、573:前側バネ受け、575:後側バネ受け、577:バネ、581:解除カバー、583:キャップ、585:チャックカバー、6:シリンダ、60:通気孔、61:挿入部、63:溝、64:位置決め突起、65:空打ち抑制機構、651:可動スリーブ、653:付勢バネ、7:連結部材、70:通気路、71:外側突起、73:内側突起、75:フランジ部、8:振動抑制機構、81:第1弾性保持部、82:第2弾性保持部、83:ボール、84:介在部材、85:受け面、87:弾性リング、91:先端工具、911:シャンク、912:外周面、913:角溝、914:半円溝、DX:駆動軸、LX1:長軸、LX2:長軸
図1
図2
図3
図4