(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078010
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】製剤キット、薬液の製造方法及びそれによって製造される薬液
(51)【国際特許分類】
A61J 1/05 20060101AFI20240603BHJP
【FI】
A61J1/05 351A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190300
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000149435
【氏名又は名称】株式会社大塚製薬工場
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100186761
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 勇太
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 佑
(72)【発明者】
【氏名】神野 泰旨
【テーマコード(参考)】
4C047
【Fターム(参考)】
4C047AA27
4C047BB01
4C047BB12
4C047BB19
4C047CC04
4C047DD32
4C047DD33
4C047DD34
4C047DD35
4C047GG15
4C047HH04
(57)【要約】
【課題】
無菌性を良好に維持して薬液を製造可能な製剤キット、薬液の製造方法、及びそれによって製造される薬液を提供すること。
【解決手段】
製剤キットは、薬剤を安定化する安定剤、及び緩衝液を収容する内部空間を画成する容器本体と、移動可能または破壊可能に内部空間に収容される第1仕切部と、第1仕切部よりも下流に位置し、移動可能または破壊可能に内部空間に収容される第2仕切部と、内部空間に収容される限外濾過フィルターと、を備え、第1仕切部及び第2仕切部は、内部空間を、第1空間と、第1空間よりも下流に位置する第2空間と、第2空間よりも下流に位置する第3空間とに区分けし、第1空間には安定剤が収容され、第2空間には緩衝液が収容され、第3空間には限外濾過フィルターが収容される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を安定化する安定剤、及び緩衝液を収容する内部空間を画成する容器本体と、
移動可能または破壊可能に前記内部空間に収容される第1仕切部と、
前記第1仕切部よりも下流に位置し、移動可能または破壊可能に前記内部空間に収容される第2仕切部と、
前記内部空間に収容される限外濾過フィルターと、
を備え、
前記第1仕切部及び前記第2仕切部は、前記内部空間を、第1空間と、前記第1空間よりも下流に位置する第2空間と、前記第2空間よりも下流に位置する第3空間とに区分けし、
前記第1空間には前記安定剤が収容され、前記第2空間には前記緩衝液が収容され、前記第3空間には前記限外濾過フィルターが収容される、
製剤キット。
【請求項2】
前記第1仕切部よりも上流に位置し、移動可能または破壊可能に前記内部空間に収容される第3仕切部をさらに備え、
前記第3仕切部は、前記内部空間のうち前記第1仕切部よりも上流に位置する空間を、前記第1空間と、前記第1空間よりも上流に位置する第4空間とに区分けし、
前記第4空間には、前記薬剤のための希釈液が収容される、請求項1に記載の製剤キット。
【請求項3】
前記第1仕切部及び前記第2仕切部を下流側に移動させる駆動部材をさらに備え、
前記容器本体は、前記第1仕切部の初期位置よりも下流であって前記第2仕切部の初期位置よりも上流に位置する第1バイパスと、前記第2仕切部の初期位置よりも下流であって前記限外濾過フィルターよりも上流に位置する第2バイパスとを有する、請求項1または2に記載の製剤キット。
【請求項4】
前記第1仕切部及び前記第2仕切部を回動させる駆動部材をさらに備え、
前記駆動部は、前記第1仕切部を回動させることによって前記第1空間と前記第2空間とを連通させ、かつ、前記第2仕切部を回動させることによって前記第2空間と前記第3空間とを連通させる、請求項1または2に記載の製剤キット。
【請求項5】
前記限外濾過フィルターよりも粗いフィルターをさらに備え、
前記フィルターは、前記第3空間において前記限外濾過フィルターよりも上流、もしくは、前記限外濾過フィルターよりも下流に位置する、請求項1または2に記載の製剤キット。
【請求項6】
前記容器本体の流入口を塞ぐ第1蓋部材をさらに備え、
前記第1蓋部材は、前記内部空間へ前記薬剤を注入するための注入栓である、請求項1または2に記載の製剤キット。
【請求項7】
前記容器本体に対して着脱可能であって、前記容器本体の流出口を塞ぐ第2蓋部材をさらに備え、
前記第2蓋部材は、前記第3空間の一部を画成する凹部を有する、請求項1または2に記載の製剤キット。
【請求項8】
前記容器本体に対して着脱可能である先端部材をさらに備え、
前記先端部材は、前記容器本体に装着されるとき、前記第3空間において前記限外濾過フィルターよりも上流に連通する注射針を有する、請求項7に記載の製剤キット。
【請求項9】
前記第3空間において、前記容器本体によって画成されると共に前記限外濾過フィルターが収容される第1領域と、前記凹部によって画成される第2領域とを仕切る第4仕切部をさらに備える、請求項7に記載の製剤キット。
【請求項10】
外部から前記内部空間に供給される前記薬剤は、核酸を含み、
前記安定剤は、少なくとも脂質を含む溶液である、請求項1または2に記載の製剤キット。
【請求項11】
前記容器本体に接続され、前記薬剤、前記安定剤、及び前記緩衝液の濃縮混合薬液を収容する中空容器と、
前記容器本体から前記中空容器へ前記濃縮混合薬液を移送する移送部材と、
前記中空容器に連通する注射針と、をさらに備える、請求項1または2に記載の製剤キット。
【請求項12】
前記容器本体及び前記中空容器を収容する収容容器をさらに備え、
前記注射針は、前記収容容器内に収納可能である、請求項11に記載の製剤キット。
【請求項13】
容器本体の内部空間に薬剤を供給する工程と、
前記内部空間に予め収容される安定剤に、前記薬剤を混合させる工程と、
前記内部空間に予め収容される緩衝液に、前記薬剤及び前記安定剤の混合物を混合させる工程と、
前記内部空間に予め収容される限外濾過フィルターによって、前記薬剤、前記安定剤及び前記緩衝液の混合液を限外濾過する工程と、
を備える薬液の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の製造方法によって製造される薬液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製剤キット、薬液の製造方法及びそれによって製造される薬液に関する。
【背景技術】
【0002】
DNA、mRNAなどの核酸は、例えばがん治療などのワクチンとして利用されることがある。ここで、核酸は、不安定な物質である。このため、単に核酸を人体に投与する場合、当該核酸は、細胞への到達前に皮膚、血管などに存在する酵素によって分解される。このような分解を防止するため、例えば下記特許文献1には、極性有機溶媒を含む液中に、当該液中に該コア微粒子および該被覆層成分を分散させることによって、コア微粒子を該被覆層成分で被覆する方法が記載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に示される方法を用いて製剤化する場合、例えば、核酸を含む薬剤と各種液との混合工程、及び、限外濾過による濃縮化工程が実施される。これらの工程の実施中、各種液を複数種類の容器に順に移し替える必要があるので、薬液の無菌性の維持ができなくなるおそれがある。よって、無菌性を良好に維持可能な薬液の製造方法が望まれている。
【0005】
本発明の一側面に係る目的は、無菌性を良好に維持して薬液を製造可能な製剤キット、薬液の製造方法、及びそれによって製造される薬液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る製剤キットは、薬剤を安定化する安定剤、及び緩衝液を収容する内部空間を画成する容器本体と、内部空間に収容される限外濾過フィルターと、移動可能または破壊可能に内部空間に収容される第1仕切部と、第1仕切部よりも下流に位置し、移動可能または破壊可能に内部空間に収容される第2仕切部と、を備え、第1仕切部及び第2仕切部は、内部空間を、第1空間と、第1空間よりも下流に位置する第2空間と、第2空間よりも下流に位置する第3空間とに区分けし、第1空間には安定剤が収容され、第2空間には緩衝液が収容され、第3空間には限外濾過フィルターが収容される。
【0007】
この製剤キットでは、薬剤用の安定剤及び緩衝液に加えて、限外濾過フィルターが、1の容器本体の内部空間に収容されている。また、第1空間にて安定剤と混合された薬剤は、例えば第1仕切部の移動または破壊に伴う第1空間と第2空間との連通によって、緩衝液と混合可能になる。加えて、薬剤と安定剤と緩衝液との混合液は、例えば第2仕切部の移動または破壊に伴う第2空間と第3空間との連通によって第3空間に移動する。これにより、限外濾過フィルターを利用した限外濾過を上記混合液に実施して、濃縮液(濃縮混合薬液とも呼称する)を提供できる。このため、上記製剤キットを利用することによって、容器本体とは異なる容器に移し替えられることなく、薬剤と安定剤と緩衝液との混合工程、限外濾過による薬液の濃縮化工程を実施できる。したがって、無菌性を良好に維持して薬液を製造できる。
【0008】
上記製剤キットは、第1仕切部よりも上流に位置し、移動可能または破壊可能に内部空間に収容される第3仕切部をさらに備え、第3仕切部は、内部空間のうち第1仕切部よりも上流に位置する空間を、第1空間と、第1空間よりも上流に位置する第4空間とに区分けし、第4空間には、薬剤のための希釈液が収容されてもよい。この場合、希釈剤にて予め希釈されていない薬剤を、容器本体に供給できる。このため、無菌性を良好に維持して薬液を製造できる。
【0009】
上記製剤キットは、第1仕切部及び第2仕切部を下流側に移動させる駆動部材をさらに備え、容器本体は、第1仕切部の初期位置よりも下流であって第2仕切部の初期位置よりも上流に位置する第1バイパスと、第2仕切部の初期位置よりも下流であって限外濾過フィルターよりも上流に位置する第2バイパスとを有してもよい。この場合、駆動部材が第1仕切部を下流に移動させることによって、第1空間と第2空間とが第1バイパスを介して連通する。加えて、駆動部材が第2仕切部を下流に移動させることによって、第2空間と第3空間とが第2バイパスを介して連通する。したがって、内部空間の密封性を確実に維持しつつ、上記混合工程及び上記濃縮化工程を実施できる。
【0010】
上記製剤キットは、第1仕切部及び第2仕切部を回動させる駆動部材をさらに備え、駆動部は、第1仕切部を回動させることによって第1空間と第2空間とを連通させ、かつ、第2仕切部を回動させることによって第2空間と第3空間とを連通させてもよい。この場合、内部空間の密封性を確実に維持しつつ、上記混合工程及び上記濃縮化工程を実施できる。
【0011】
上記製剤キットは、限外濾過フィルターよりも粗いフィルターをさらに備え、フィルターは、第3空間において限外濾過フィルターよりも上流、もしくは、限外濾過フィルターよりも下流に位置してもよい。この場合、混合液又は濃縮混合薬液に含まれる粒子の径を、所定値以下に制御できるので、規格に合致する薬液を製造できる。
【0012】
上記製剤キットは、容器本体の流入口を塞ぐ第1蓋部材をさらに備え、第1蓋部材は、内部空間へ薬剤を注入するための注入栓でもよい。この場合、内部空間の密封性を維持しつつ、薬剤を内部空間に供給できる。
【0013】
上記製剤キットは、容器本体に対して着脱可能であって、容器本体の流出口を塞ぐ第2蓋部材をさらに備え、第2蓋部材は、第3空間の一部を画成する凹部を有してもよい。この場合、限外濾過された不要な液体は、凹部に収容される。
【0014】
上記製剤キットは、容器本体に対して着脱可能である先端部材をさらに備え、先端部材は、容器本体に装着されるとき、第3空間において限外濾過フィルターよりも上流に連通する注射針を有してもよい。この場合、容器本体にて製造された薬液を、注射針を介して人体等の生物に容易に投与できる。
【0015】
上記製剤キットは、第3空間において、容器本体によって画成されると共に限外濾過フィルターが収容される第1領域と、凹部によって画成される第2領域とを仕切る第4仕切部をさらに備えてもよい。この場合、例えば第2蓋部材が容器本体から外されるときであっても、内部空間の密封性を維持できる。
【0016】
外部から内部空間に供給される薬剤は、核酸を含み、安定剤は、少なくとも脂質を含む溶液でもよい。例えば、薬剤が内部空間に無菌的に供給される場合、無菌性を良好に維持できる。
【0017】
上記製剤キットは、容器本体に接続され、薬剤、安定剤、及び緩衝液の濃縮混合薬液を収容する中空容器と、容器本体から中空容器へ濃縮混合薬液を移送する移送部材と、中空容器に連通する注射針と、をさらに備えてもよい。この場合、無菌性を良好に維持しつつ、注射針を介して薬液を人体等の生物に容易に投与できる。
【0018】
注射針は、中空容器内に収納可能でもよい。この場合、輸送時などにおける注射針の破損を抑制できる。
【0019】
本発明の別の一側面に係る薬液の製造方法は、容器本体の内部空間に薬剤を供給する工程と、内部空間に予め収容される安定剤に、薬剤を混合させる工程と、内部空間に予め収容される緩衝液に、薬剤及び安定剤の混合物を混合させる工程と、内部空間に予め収容される限外濾過フィルターによって、薬剤、安定剤及び緩衝液の混合液を限外濾過する工程と、を備える。
【0020】
この製造方法では、容器本体の内部空間にて薬剤と安定剤と緩衝液とを混合できる。加えて、当該内部空間にて、薬剤と安定剤と緩衝液との混合薬剤を限外濾過できる。このため、容器本体とは異なる容器に移し替えられることなく、薬剤と安定剤と緩衝液との混合、ならびに、限外濾過による混合液の濃縮化工程を実施できる。したがって、無菌性を良好に維持して薬液を製造できる。
【0021】
本発明の別の一側面に係る薬液は、上記製造方法によって製造される。この場合、無菌性を良好に維持して薬液を製造できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一側面によれば、無菌性を良好に維持して薬液を製造可能な製剤キット、薬液の製造方法、及びそれによって製造される薬液を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る製剤キットの概略断面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る薬液の製造方法の一例を説明するための概略図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る薬液の製造方法の一例を説明するための概略図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る薬液の製造方法の一例を説明するための概略図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る薬液の製造方法の一例を説明するための概略図である。
【
図6】
図6は、薬液の投与方法の一例を説明するための概略図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態の第1変形例に係る製剤キットを示す概略断面図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態の第2変形例に係る製剤キットを示す概略断面図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態に係る製剤キットの概略断面図である。
【
図10】
図10は、第2実施形態に係る薬液の製造方法の一例を説明するための概略図である。
【
図11】
図11は、第2実施形態の変形例に係る製剤キットを示す概略断面図である。
【
図12】
図12は、第3実施形態に係る製剤キットの概略断面図である。
【
図13】
図13は、第3実施形態に係る薬液の製造方法の一例を説明するための概略図である。
【
図14】
図14(a)は、第1変形例の別例に係る製剤キットの概略断面図である。
図14(b)は、第2変形例の別例に係る製剤キットの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して、本発明の一側面の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0025】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る製剤キットの概略断面図である。
図1に示される製剤キット1は、例えば、種々の薬液を無菌的に製造するための装置である。製剤キット1は、単一の装置から構成されてもよいし、若しくは、複数の装置の組み合わせ体(アセンブリ)から構成されてもよい。本明細書では、薬液は、製剤キットによって調製される最終生成物であり、例えば、ワクチンなどである。薬液は、例えば、核剤(DNA,mRNA)が封入される脂質ナノ粒子(LNP:Lipid Nano Particleとも呼称する)などを含む。薬液がワクチンである場合、有効成分は、ミセル形態よりもLNPの方が好ましい。これは、例えば「mRNA医薬に利用されるキャリア開発:ナノミセル型キャリア、Drug Delivery System 35-1,2020」にも示されるように、ミセル形態と比較して、LNPを使用した方が免疫機能を惹起しやすくなると考えられているからである。第1実施形態では、製剤キット1の利用によってエタノール希釈法を実施し、薬液が生産される。なお、薬液の無菌的な製造とは、薬液の製造開始から製造完了までに、外部から菌が薬液に侵入しない、もしくは実質的に侵入しないことに相当する。
【0026】
製剤キット1がアセンブリである場合、例えば、複数の装置は、互いに一体化しているが、これに限られない。例えば、製剤キット1は、主要装置と、交換可能な付属装置(アタッチメント)を有し得る。この場合、付属装置は、複数種類存在してもよい。第1実施形態では、製剤キット1は、携帯用装置である。このため、製剤キット1の利用によって、例えば、特定の個人に適した薬液を、当該薬液の投与現場などの医療現場で無菌的に生産できる。したがって、製剤キット1の利用によって、特定の個人に適した薬液を低コストにて生産できる。なお、薬液の製造に用いられる材料の一部(例えば、後述する安定剤、緩衝液など)は、工場などによって予め製造され得る。
【0027】
図1に示されるように、製剤キット1は、容器本体2と、仕切部3~5と、フィルター6と、限外濾過フィルター7と、第1蓋部材8と、駆動部材9と、第2蓋部材10とを有する。製剤キット1は、容器本体2と、第1蓋部材8と、第2蓋部材10とによって、密閉の内部空間Sが画成される。よって、製剤キット1の内部空間Sは、外部から菌が侵入しない状態になっている。内部空間Sには、仕切部3~5と、フィルター6と、限外濾過フィルター7とが収容される。
【0028】
容器本体2は、製剤キット1の主要部材の一つである中空部材であり、内部空間Sを画成する。容器本体2は、製剤キット1によって生産される薬液の原材料などを収容する。容器本体2は、
図1に示される方向Dに延在する筒状部材(例えば、円筒状部材、角筒状部材など)であり、例えばシリンジ、コニカルチューブ等である。薬液の混合、遠心分離の実施などの観点から、容器本体2は、円筒状部材でもよい。容器本体2は、例えばガラス成形体もしくは樹脂成形体である。破損防止の観点から、容器本体2は、樹脂成形体でもよい。容器本体2が樹脂成形体である場合、樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、環状オレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、エチレンビニルアルコールなどである。容器本体2には、1種類の樹脂が含まれてもよいし、複数種類の樹脂が含まれてもよい。後者の場合、容器本体2は、複数の樹脂シートの積層体の成形物でもよい。生産される薬液の容器本体2への吸着防止の観点から、樹脂は、ポリオレフィン、環状オレフィンなどでもよい。なお、容器本体2の各寸法は、生成される薬液によって適宜変更される。後述する遠心分離の容易化の観点から、容器本体2は、遠心分離機の収容器具と同様の形状を有してもよい。もしくは、容器本体2は、遠心分離機の収容器具に固定可能なアタッチメントの形状に合わせた形状を有してもよい。
【0029】
容器本体2は、流入口21、流出口22、外周面23及び内周面24を有する。流入口21は、薬液の原材料などが内部空間Sに供給される部分である。方向Dにおいて、流入口21は、容器本体2のうち最も上流に位置する。流出口22は、薬液を製剤キット1の外部へ流出する部分である。方向Dにおいて、流出口22は、容器本体2のうち最も下流に位置する。容器本体2に収容される液体量、製剤キット1によって生産される薬液量を容易に調整する観点から、外周面23には、目盛り(不図示)が設けられてもよい。方向Dから見た内周面24の断面は、例えば円形状であるが、これに限られない。
【0030】
内周面24には、溝25~27が設けられる。溝25~27のそれぞれは、仕切部3~5によって仕切られた空間同士を連通する部分(バイパス)である(詳細は後述)。溝25~27のそれぞれは、方向Dに直交する方向に沿って延在する窪みである。このため、容器本体2において溝25~27のいずれかが設けられる部分の内径は、他の部分の内径よりも大きい。溝25~27のそれぞれは、方向Dから見た内周面24の周方向に沿って延在する。溝25~27のそれぞれは、方向Dから見て、環形状を有してもよいし、曲線形状を有してもよいし、多角形状を有してもよい。溝25~27は、方向Dに沿って順に並んでいる。第1実施形態では、溝25は、方向Dにおいて、溝25~27のうち最も上流に位置する。方向Dにおいて、溝26は、溝25よりも下流に位置し、溝27は、溝26よりも下流に位置する。なお、以下では、方向Dに直交する方向を、単に径方向と呼称することがある。
【0031】
方向Dに沿った溝25の長さL1は、仕切部3の厚さよりも大きい。方向Dに沿った溝26の長さL2は、仕切部4の厚さよりも大きい。長さL2が大きいほど、容器本体2内の液体が溝26を介して移動しやすくなる。長さL2は、仕切部3,4の合計厚さよりも大きくてもよい。方向Dに沿った溝27の長さL3は、仕切部5の厚さよりも大きい。長さL3は、例えば、仕切部3~5の合計厚さよりも大きくてもよい。溝25~27の深さは、互いに同一でもよいし、互いに異なってもよい。
【0032】
仕切部3~5のそれぞれは、内部空間Sを仕切る隔壁部材である。第1実施形態では、仕切部3~5のそれぞれは、ガスケットであるが、これに限られない。仕切部3~5の厚さは、隔壁部材としての機能を発揮できる限り特に限定されない。仕切部3~5の厚さは、互いに同一でもよいし、互いに異なってもよい。仕切部3~5は、方向Dに沿って順に並んでいる。第1実施形態では、仕切部3は、方向Dにおいて、仕切部3~5のうち最も上流に位置する部材(第3仕切部)である。換言すると、仕切部3は、方向Dにおいて、仕切部4,5よりも上流に位置する部材である。仕切部4は、方向Dにおいて、仕切部3よりも下流に位置する部材(第1仕切部)である。仕切部5は、方向Dにおいて、仕切部4よりも下流に位置する部材(第2仕切部)である。第1実施形態では、使用前の製剤キット1では、仕切部3~5は、互いに離間している。一方、仕切部3の移動によって、仕切部3,4が接触し得る(後述する
図3を参照)。同様に、仕切部3,4の移動によって、仕切部4,5が接触し得る(後述する
図4を参照)。なお、以下では、使用前の製剤キット1における仕切部3,4,5の位置を、それぞれ仕切部3,4,5の初期位置とする。なお、本明細書における移動は、所定の方向に沿った直線移動に限られず、所定の位置に留まった回動なども含む概念である。
【0033】
仕切部3,4,5のそれぞれは、少なくとも初期位置にて、内周面24に水密に接触する。このとき、方向Dから見て、仕切部3~5の断面は、内周面24の断面に一致もしくは実質的に一致する。一方、径方向において仕切部3と溝25とが重なるとき、仕切部3の一部は、内周面24に接触しない。このため、仕切部3の一部と、内周面24との間には、溝25によって画成される隙間が設けられる。同様に、仕切部3および仕切部4と溝26とが重なるとき、仕切部3の一部、及び仕切部4の一部の少なくとも一つは、内周面24に接触しない。仕切部3、仕切部4および仕切部5と溝27とが重なるとき、仕切部3の一部、仕切部4の一部、及び仕切部5の一部の少なくとも一つは、内周面24に接触しない。
【0034】
仕切部3~5のそれぞれは、ブチルゴム、ニトリルブタジエンゴム等のニトリル系ゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴムなどの合成ゴム材料もしくは熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系樹脂から形成される。内部空間Sに封入される物質の吸着防止または吸着抑制の観点から、仕切部3~5のそれぞれは、ブチルゴムから形成されてもよい。第1実施形態では、仕切部3~5のそれぞれは、方向Dに沿って移動可能に内部空間Sに収容される。移動中にも仕切り機能を良好に発揮する観点から、仕切部3~5のそれぞれは、ゴム材料もしくは熱可塑性エラストマーから形成されてもよい。
【0035】
使用前の製剤キット1では、仕切部3~5は、内部空間Sを空間S1~S4に区分けする。方向Dにおいて、空間S1(第4空間)は、空間S1~S4のうち最も上流に位置する。換言すると、空間S1は、空間S2~S4よりも上流に位置する。空間S2(第1空間)は、空間S1よりも下流に位置し、空間S3(第2空間)は、空間S2よりも下流に位置し、空間S4(第3空間)は、空間S3よりも下流に位置する。
【0036】
空間S1は、仕切部3と、第1蓋部材8と、内周面24とによって画成される密閉空間である。空間S1には、例えば、外部から薬剤が供給される。このとき、空間S1の無菌状態を維持したまま、外部から薬剤が空間S1に供給されることが好ましい。薬剤は、薬液の主要材料である。第1実施形態では、薬剤は、核剤としてmRNAを含む。空間S1には、薬剤のための希釈液DLが予め収容される。希釈液DLは、薬剤と、後述する安定剤SLとの混合後におけるアルコール濃度(例えば、エタノール濃度)、pHなどを調整する液体である。希釈液DLが空間S1に収容されることによって、高濃度のmRNAを空間S1に供給できる。この場合、mRNAの安定性を向上できると共に、mRNAが収容される容器を小型化できる。希釈液DLは、例えば、注射用水、水溶液などである。水溶液は、例えば、pH5以上pH7以下の酸性もしくは中性溶液である。中性溶液は、例えば、HEPES BUFFER(C8H18N2O4S)などである。酸性溶液は、例えば、リンゴ酸バッファー、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液などである。
【0037】
空間S2は、仕切部3,4と、内周面24とによって画成される密閉空間である。使用前の製剤キット1において、空間S2の一部は、溝25によって画成される。このため、溝25は、仕切部3の初期位置よりも下流であって仕切部4よりも上流に位置する。仕切部3の下流への移動によって、空間S1,S2は、溝25を介して連通し得る(後述する
図2を参照)。このため、溝25は、空間S1,S2を接続するバイパスとして機能し得る。溝25を介して空間S1,S2が連通しているとき、空間S1に収容される液体(薬剤と希釈液DL)と、空間S2に収容される物質とが、混合可能になる。
【0038】
空間S2には、薬剤を安定化する安定剤SLが予め収容される。安定剤SLは、薬剤に含まれるmRNAを被覆する物質を含む液体である。薬剤と安定剤SLとが混合されることによって、mRNAを安定化できる。安定剤SLは、少なくとも脂質を含む溶液であり、例えば、有機溶媒と脂質とを含む液体(脂質エタノール溶液)である。例えば、希釈液DLによって希釈される薬剤と、安定剤SLとが混合されることによって、核としたmRNAの周りに脂質が集合する。有機溶媒は、例えば、エタノール、2-プロパノールなどである。エタノールは、例えば、パクリタキセル等で実際に希釈溶媒として利用され、がん患者に投与された実績がある。安定剤SLにおける脂質の濃度は、有機溶媒に脂質が溶解できる濃度であればよい。
【0039】
脂質は、例えば、帯電された脂質を含む。帯電された脂質は、例えば、イオナイザブル脂質(例:(4-ヒドロキシブチル)アザンジイル]ビス(ヘキサン-6,1-ジイル)ビス(2-ヘキシルデカン酸エステル);コミナティ、ヘプタデカン-9-イル8-((2-ヒドロキシエチル)(6-オキソ-6-(ウンデシルオキシ)ヘキシル)アミノ)オクタン酸エステル(SM-102);スパイクバックス筋注、((6Z,9Z,28Z,31Z)-heptatriaconta-6,9,28,31tetraen-19-yl-4(dimethylamino)butanoate);オンパットロ点滴静注2mg/mL)、pH酸性で+、中性で荷電なし)、カチオン性脂質(例:DOTAP、常に+チャージ)である。脂質は、帯電していない脂質として、例えば、リン脂質(例:1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC);コミナティ、スパイクバックス筋注、オンパットロ共通、電荷なし)、ポリエチレングリコール(例:2-[(ポリエチレングリコール)-2000]-N,N-ジテトラデシルアセトアミド、1,2-ジミリストイル-rac-グリセロ-3-メチルポリオキシエチレン(PEG2000-DMG);スパイクバックス筋注、(R)-a-(3’-{[1,2-di(myristyloxy)propanoxy]carbonylamino}propyl)-wmethoxy,polyoxyethylene);オンパットロ点滴静注2mg/ml、電荷なし)、コレステロールなどを含んでもよい。脂質としてイオナイザブル脂質が用いられる場合、希釈液DLのpHが酸性付近であることが好ましい。
【0040】
第1実施形態では、希釈液DL、薬剤、及び安定剤SLの混合物において、脂質とmRNAとの比率は、脂質中の窒素の個数N(すなわち、+チャージ数)と、mRNA中のリンの個数P(-チャージ数)とによって定められる。例えば、N/Pは2以上8以下である。N/Pが2以上であることにより、脂質が混合物に溶解しやすい。N/Pが8以下であることにより、mRNAを核とした粒子の径を所定値以下に制御できる。なお、分子内で互いに消しあっているものは、窒素個数Nもしくはリンの個数Pには含めない(例えば、リン脂質(例:1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、電荷なし)など)。
【0041】
空間S3は、仕切部4,5と、内周面24とによって画成される密閉空間である。使用前の製剤キット1において、空間S3の一部は、溝26によって画成される。このため、溝26は、仕切部4の初期位置よりも下流であって仕切部5よりも上流に位置する。仕切部3,4の下流への移動によって、空間S2,S3は、溝26を介して連通し得る(後述する
図3を参照)。このため、溝26は、空間S2,S3を接続するバイパス(第1バイパス)として機能し得る。溝26を介して空間S2,S3が連通しているとき、空間S2に収容される液体(薬剤、希釈液DL、安定剤SL)と、空間S3に収容される物質とが、混合可能になる。
【0042】
空間S3には、緩衝液BLが予め収容される。緩衝液BLは、薬剤と希釈液DLと安定剤SLとの混合物内のmRNAの核をより安定化させる液体である。緩衝液BLは、例えば、当該混合物のアルコール濃度を希釈化することによって、脂質を上記核の周りにさらに集合させる。これにより、上記核を脂質にてパッケージングできる。上記混合物に緩衝液BLを混合することによって、アルコール濃度が、例えば1/5から1/10程度に希釈される。薬剤と、希釈液DLと、安定剤SLと、緩衝液BLとが混合されることによって、有効成分であるLNPが生成される。緩衝液BLは、上記混合物のpH等を調整してもよい。緩衝液BLは、例えば、希釈液DLと同様である。脂質としてイオナイザブル脂質が用いられる場合、緩衝液BLのpHもまた酸性付近であることが好ましい。
【0043】
空間S4は、仕切部5と、第2蓋部材10と、内周面24とによって画成される密閉空間である。使用前の製剤キット1において、空間S4の一部は、溝27によって画成される。このため、溝27は、仕切部5の初期位置よりも下流に位置する。また、溝27は、限外濾過フィルター7よりも上流に位置する。仕切部3,4,5の下流への移動によって、空間S3,S4は、溝27を介して連通し得る(後述する
図4を参照)。このため、溝27は、空間S3,S4を接続するバイパス(第2バイパス)として機能し得る。溝27を介して空間S3,S4が連通しているとき、空間S3に収容される液体(薬剤と、希釈液DLと、安定剤SLと、緩衝液BLとの混合液)が、空間S4に供給される。
【0044】
空間S4には、フィルター6及び限外濾過フィルター7が予め収容される。フィルター6は、薬剤と希釈液DLと安定剤SLと緩衝液BLとの混合液内の粒子径を調整する部材である。フィルター6によって、巨大化したLNPを上記混合液から容易に除去できる。第1実施形態では、フィルター6は、空間S4において、溝27よりも下流であって限外濾過フィルター7よりも上流に位置する。フィルター6の孔径は、限外濾過フィルター7の孔径よりも粗い。フィルター6の孔径は、目的に応じて変更され、例えば、0.1μm以上1.0μm以下である。例えば、薬液ががんワクチンである場合、フィルター6の孔径は、0.15μm以上0.25μm以下である。
【0045】
限外濾過フィルター7は、薬剤と希釈液DLと安定剤SLと緩衝液BLとの混合液ML(後述する
図4を参照)を限外濾過して濃縮化する部材である。容器本体2を遠心分離することによって、混合液MLを、例えば、人体などに投与可能な液量まで濃縮できる。限外濾過後、濃縮した混合液MLに相当する薬液(濃縮混合薬液)は、限外濾過フィルター7よりも上流に残存する。限外濾過フィルター7は、例えば、100kDa程度の分子量を補足できるフィルターである。限外濾過フィルター7の材質は、荷電しなければよく、例えば、ポリサルホン、ポリエーテルサルフォン、ポリオレフィン、再生セルロース等である。限外濾過フィルター7は、例えば注射針などが貫通可能な強度を有する。
【0046】
第1蓋部材8は、容器本体2の流入口21を塞ぐ部材である。第1実施形態では、第1蓋部材8は、内部空間Sへ薬剤を注入するための注入栓である。注入栓は、内部空間Sへ薬剤を注入する部材(例えば、注射針など)が貫通可能な部材である。注入栓は、例えばゴム栓などの弾性を有する部材である。第1蓋部材8は、容器本体2に対して着脱可能であってもよい。薬剤の注入時における無菌状態の維持の観点から、第1蓋部材8は、無菌フィルターを有してもよい。この場合、無菌フィルターは、第1蓋部材8の主要部と一体化してもよいし、当該主要部と離間してもよい。
【0047】
駆動部材9は、仕切部3~5を移動させる部材であり、容器本体2の上流側に位置する。第1実施形態では、駆動部材9は、仕切部3~5を下流側に移動させる部材(例えば、プランジャーなど)であり、第1蓋部材8を摺動可能に貫通する。駆動部材9の押し子9aは、内部空間Sに収容される棒状部分である。駆動部材9は、方向Dに沿って下流側に移動することによって、仕切部3に当接する。駆動部材9がさらに下流側に移動することによって、仕切部3が駆動部材9に押圧される。これにより、仕切部3が下流側に移動する。押し子9aは、例えば、平坦面である先端面を有する剛体である。押し子9aは、例えば、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステルなどの樹脂の成形体である。図示しないが、駆動部材9は、押し子9aを所定位置にて固定するストッパ機構、当該所定位置に掛止する位置決め機構などを有し得る。なお、上記ストッパ機構は、駆動部材9とは異なる部材でもよい。この場合、当該部材は、例えば、容器本体2の一部でもよいし、容器本体2に装着される部材でもよい。
【0048】
第2蓋部材10は、容器本体2の流出口22を塞ぐ部材であって、容器本体2に対して着脱可能である。このため、第2蓋部材10は、容器本体2に対する付属部材(アタッチメント)として機能し得る。第2蓋部材10は、例えば、容器本体2と同様に、ガラス成形体もしくは樹脂成形体である。第2蓋部材10は、空間S4の一部を画成する凹部10aを有する。凹部10aは、限外濾過フィルター7を通過した不要な液体を溜める滞留部分である。第2蓋部材10は、容器本体2から取り外し可能である。第2蓋部材10を容器本体2から取り外すことによって、凹部10aに溜められた液体を容器本体2から除去できる。第2蓋部材10が容器本体2から取り外された場合、容器本体2には、例えば、限外濾過にて得られた薬液を人体等の生物に投与する部材が装着される(不図示)。なお、第1実施形態では、
図1に示される破線よりも先の部分が着脱可能な第2蓋部材10である。
【0049】
次に、
図2~
図5を参照しながら、第1実施形態に係る製剤キット1を利用する薬液の製造方法の一例を説明する。
図2~
図5のそれぞれは、第1実施形態に係る薬液の製造方法の一例を説明するための概略図である。以下の一例によって生成される薬液は、脂質ナノ粒子(LNP)を含む液体とする。LNPの作成方法はいくつか知られているが、以下では、「細胞内動態制御戦略に基づく機能性材料を用いた肝臓標的遺伝子デリバリーシステムの開発、北海道大学博士論文、2014-03-25」、「Inhibition of the Inflammatory Pathway Enhances Both the in Vitro and in Vivo Transfection Activity of Exogenous in Vitro-Transcribed mRNAs Delivered by Lipid Nanoparticles、The Pharmaceutical Society of Japan,2019」などに示されるエタノール希釈法を利用している。概要としては、まず、mRNA希釈用水溶液及び脂質エタノール溶液の混合液のエタノール濃度を30~70%とし、その後、当該混合液を緩衝液にて希釈する。これにより、上記混合液のエタノール濃度を10%以下、好ましくは5%以下まで低下させることによって、LNPを作成する。このとき、製剤キット1には、mRNA水溶液の液量:脂質エタノール溶液の液量=約1:1~3:2の割合になるように、mRNA水溶液と脂質エタノール溶液とが収容される。また、製剤キット1には、上記混合液の液量:緩衝液の液量=1:7~1:9の割合になるように、緩衝液が収容される。例えば、製剤キット1にて生成される薬液が人体に投与される場合であって、容器本体2の容量が5mLに設定される場合、mRNA水溶液が収容される空間が約250~300μLに設定され、脂質エタノール溶液が収容される空間が約200~250μLに設定され、緩衝液が収容される空間が約4500μLに設定される。なお、以下の一例にて生成される薬液の量は、500μL以上700μL以下とする。
【0050】
まず、事前準備として、空間S1に対して核剤を含む薬剤を供給する(ステップST1)。ステップST1では、例えば、第1蓋部材8を貫通する注射針を介して、空間S1に薬剤を供給する。これにより、空間S1に予め収容される希釈液DLと、薬剤とが混合される。薬剤と希釈液DLとは、例えば震盪器、ボルテックスなどによって混合され、希釈薬剤DB(
図2を参照、上記mRNA水溶液に相当)が生成される。第1実施形態では、ステップST1後において空間S1に収容される希釈薬剤DBの量は、約240μLとする。
【0051】
次に、
図2に示されるように、空間S2に予め収容される安定剤SL(上記脂質エタノール溶液に相当)に、希釈薬剤DBを混合させる(ステップST2)。ステップST2では、まず、駆動部材9の押し子9aを方向Dにおいて下流側に移動させ、押し子9aを仕切部3に当接させる。続いて、押し子9aをさらに下流側に移動させることによって、仕切部3を押圧する。そして、仕切部3を下流側に移動させ、径方向において仕切部3の全体を溝25に重ならせる。これにより、溝25を介して空間S1,S2を連通させ、希釈薬剤DBを空間S2に供給する。そして、希釈薬剤DBと安定剤SLとを混合し、LNPを含む混合物IL(
図3を参照)を生成する。希釈薬剤DBと安定剤SLとは、例えば震盪器、ボルテックスなどによって混合される。押し子9aを移動させながらボルテックスを実施し、希釈薬剤DBと安定剤SLとを迅速に混合させてもよい。第1実施形態では、空間S2に収容される安定剤SLの量は、約160μLとする。また、混合物IILのエタノール濃度は、例えば約50%とする。
【0052】
次に、
図3に示されるように、空間S3に予め収容される緩衝液BLに、混合物ILを混合させる(ステップST3)。ステップST3では、まず、駆動部材9の押し子9aを方向Dにおいて下流側に移動させる。これにより、さらに仕切部3を下流側に移動させ、混合物ILが下流側に押し出される。これにより仕切部4を下流側に移動させ、径方向において仕切部4の全体を溝26に重ならせる。これにより、溝26を介して空間S2,S3を連通させ、混合物ILを空間S3に供給する。そして、混合物ILと緩衝液BLとを混合する。混合物ILと緩衝液BLとは、例えば震盪器、ボルテックスなどによって混合される。第1実施形態では、空間S3に収容される緩衝液BLの量は、約3600μLとする。そして、混合物ILと緩衝液BLとの混合液ML(
図4を参照)のエタノール濃度は、例えば5%以下とする。混合物ILと緩衝液BLとの混合中、混合液MLの生成後などにおいて、駆動部材9の押し子9aを方向Dにおいて下流側に移動させる。これにより、さらに仕切部3を下流側に移動させ、仕切部3を仕切部4に当接させる。
【0053】
次に、
図4に示されるように、空間S4に混合液MLを移送する(ステップST4)。ステップST4では、まず、駆動部材9の押し子9aを方向Dにおいて下流側に移動させる。これにより、さらに仕切部3,4を下流側に移動させ、混合液MLが下流側に押し出される。これにより、仕切部5を下流側に移動させ、径方向において仕切部5の全体を溝27に重ならせる。これにより、溝27を介して空間S3,S4を連通させ、混合液MLを空間S4に供給する。そして、駆動部材9の押し子9aを方向Dにおいて下流側に移動させる。これにより、さらに仕切部3,4を下流側に移動させ、仕切部4を仕切部5に当接させる。
【0054】
次に、
図5に示されるように、混合液MLをフィルター6及び限外濾過フィルター7によって濾過する(ステップST5)。ステップST5では、まず、駆動部材9の押し子9aを方向Dにおいて下流側に移動させる。これにより、さらに仕切部3~5を下流側に移動させ、仕切部5の少なくとも一部を溝27よりも下流に移動させる。これにより、空間S4を密閉空間にできるので、混合液MLの仕切部5よりも上流への移送を防止できる。また、仕切部3~5の移動中などにおいて、混合液MLは、フィルター6を透過する。このとき、仕切部3~5が下流側へ移動することによって、混合液MLのフィルター6の投下を促進してもよい。第1実施形態では、仕切部5がフィルター6に当接するまで押し子9aが下流側に移動するが、これに限られない。続いて、限外濾過フィルター7によって、混合液MLを限外濾過する。容器本体2を遠心分離機に直接的もしくは間接的に装着し、遠心分離を実施する。容器本体2の遠心分離は、例えば、2000rpm以上4000rpm以下の回転数にて、所定時間実施される。これにより、不要な液体ULを限外濾過フィルター7よりも下流に移送し、第2蓋部材10の凹部10aに溜める。一方、限外濾過フィルター7よりも上流には、濃縮された混合液である薬液FL(濃縮混合薬液)が生成される。薬液FLの量は、遠心分離の時間などによって調整する。以上のステップST1~ST5を実施することによって、製剤キット1にて薬液FLを製造する。
【0055】
続いて、製造した薬液の投与方法の一例を
図6を参照しながら説明する。
図6は、薬液の投与方法の一例を説明するための概略図である。
図6に示されるように、まず、第2蓋部材10を容器本体2から取り外す。続いて、容器本体2に対して着脱可能である先端部材11を容器本体2の流出口22に装着する。先端部材11は、容器本体2に対する付属部材(アタッチメント)の一つであり、蓋部12と、筒状部13と、注射針14とを有する。筒状部13は、注射針14を支持する部分であり、例えば円筒形状を有する。蓋部12と筒状部13とは、例えば一体成形される。筒状部13内には、注射針14を支持する弾性部材などが収容されてもよい。注射針14は、容器本体2内の薬液FLを人体等の生物に投与可能な中空部分である。先端部材11が容器本体2に装着されるとき、注射針14の一端14aは、空間S4において限外濾過フィルター7よりも上流に連通する。これにより、例えば押し子9aの下流側への移動に伴って、注射針14を介した薬液FLの生物への投与が可能になる。
【0056】
以上に説明した第1実施形態に係る製剤キット1では、安定剤SL及び緩衝液BLに加えて、限外濾過フィルター7が、容器本体2の内部空間Sに予め収容されている。より具体的には、空間S2には安定剤SLが予め収容され、空間S3には緩衝液BLが予め収容され、空間S4には限外濾過フィルター7が予め収容されている。これにより、空間S2に供給されて安定剤SLと混合された薬剤は、仕切部4の移動に伴う空間S2,S3の連通によって、緩衝液BLと混合可能になる。加えて、薬剤と安定剤SLと緩衝液BLとの混合液MLは、仕切部4,5の移動に伴う空間S3と空間S4との連通によって、限外濾過フィルター7を利用した限外濾過を実施できる。このため、第1実施形態に係る製剤キット1を利用することによって、容器本体2とは異なる容器に移し替えられることなく、薬剤と安定剤SLと緩衝液BLとの混合工程、限外濾過による薬液の濃縮化工程を実施できる。したがって、製剤キット1を利用した製造方法によって、無菌性を良好に維持して薬液FLを製造できる。
【0057】
加えて、第1実施形態では、製剤キット1の利用によって、例えば、特定の個人に適した薬液を、当該薬液の投与現場などの医療現場で無菌的に生産できる。したがって、製剤キット1の利用によって、特定の個人に適した薬液を低コストにて生産できる。
【0058】
第1実施形態では、製剤キット1は、仕切部4よりも上流に位置し、移動可能に内部空間Sに収容される仕切部3を備え、仕切部3は、内部空間Sのうち仕切部4よりも上流に位置する空間を、空間S2と、空間S2よりも上流に位置する空間S1とに区分けし、空間S1には、薬剤のための希釈液DLが収容される。このため、希釈液にて予め希釈されていない薬剤を、容器本体2に供給できる。このため、無菌性を良好に維持して薬液を製造できる。加えて、薬剤の希釈工程を簡易化できるため、薬液FLの生産性を向上できる。
【0059】
第1実施形態では、製剤キット1は、仕切部3~5を下流側に移動させる駆動部材9を備え、容器本体2は、仕切部3の初期位置よりも下流であって仕切部4の初期位置よりも上流に位置する溝25と、仕切部4の初期位置よりも下流であって仕切部5の初期位置よりも上流に位置する溝26(第1バイパス)と、仕切部5の初期位置よりも下流であって限外濾過フィルター7よりも上流に位置する溝27(第2バイパス)とを有する。このたえ、駆動部材9が仕切部3を下流に移動させることによって、空間S1,S2が溝25を介して連通する。同様に、仕切部4が下流に移動することによって空間S2,S3が溝26を介して連通し、仕切部5が下流に移動することによって空間S3,S4が溝27を介して連通する。よって、内部空間Sの密封性を確実に維持しつつ、上記混合工程及び上記濃縮化工程を実施できる。したがって、無菌性を良好に維持して薬液FLを製造できる。
【0060】
第1実施形態では、製剤キット1は、限外濾過フィルター7よりも粗いフィルター6を備え、フィルター6は、空間S4において限外濾過フィルター7よりも上流に位置する。この場合、薬液FL内に含まれる粒子の径を、所定値以下に制御できる。
【0061】
第1実施形態では、製剤キット1は、容器本体2の流入口21を塞ぐ第1蓋部材8を備え、第1蓋部材8は、内部空間Sへ薬剤を注入するための注入栓である。このため、内部空間Sの密封性を維持しつつ、薬剤を内部空間Sに供給できる。
【0062】
第1実施形態では、製剤キット1は、容器本体2に対して着脱可能であって、容器本体2の流出口22を塞ぐ第2蓋部材10を備え、第2蓋部材10は、空間S4の一部を画成する凹部10aを有する。このため、限外濾過された不要な液体ULは、凹部10aに収容される。
【0063】
第1実施形態では、製剤キット1は、容器本体2に対して着脱可能である先端部材11を備え、先端部材11は、容器本体2に装着されるとき、空間S4において限外濾過フィルター7よりも上流に連通する注射針14を有する。このため、容器本体2にて製造された薬液FLを、注射針14を介して容易に人体等の生物に投与できる。
【0064】
第1実施形態では、外部から内部空間に供給される薬剤は、核酸を含み、安定剤SLは、少なくとも脂質を含む溶液である。例えば、薬剤が内部空間に無菌的に供給される場合、無菌性を良好に維持できる。
【0065】
次に、
図7及び
図8を参照しながら第1実施形態の変形例に係る製剤キットについて説明する。変形例の説明において上述した実施形態と重複する記載は省略し、異なる部分を記載する。つまり、技術的に可能な範囲において、変形例に上述した実施形態の記載を適宜用いてもよい。
【0066】
図7は、第1実施形態の第1変形例に係る製剤キットを示す概略断面図である。
図7に示されるように、第1変形例の製剤キット1Aは、容器本体2の代わりに貫通孔2aが設けられる容器本体2Aと、希釈装置30とをさらに備える点で、第1実施形態の製剤キット1と異なる。なお、貫通孔2aは、空間S4のうち、フィルター6よりも下流であって、限外濾過フィルター7よりも上流に位置する領域に連通する。
【0067】
希釈装置30は、薬液FLを希釈する装置であり、容器本体2Aに接続される。第1変形例では、希釈装置30は、貫通孔2aを介して内部空間Sに接続される。希釈装置30は、例えば、空間S4に収容される薬液FLが想定より濃縮されたときなどにおいて、当該空間S4に希釈液DL2を供給する装置である。希釈装置30は、容器本体2Aに対して付加可能に設けられてもよい。なお、希釈液DL2は、希釈液DLと同一でもよいし、異なってもよい。
【0068】
希釈装置30は、中空容器31と、接続管32と、逆止弁33と、移送部材34とを有する。中空容器31は、希釈液DL2を収容する中空部材である。中空容器31は、方向Dに延在する筒状部材(例えば、円筒状部材、角筒状部材など)であり、例えばシリンダである。中空容器31は、容器本体2Aと同様に、ガラス成形体もしくは樹脂成形体である。なお、中空容器31の各寸法は、容器本体2Aの寸法などによって適宜変更される。中空容器31は、流入口31aと、流出口31bとを有する。容器本体2Aへの希釈液DL2の供給量を容易に調整する観点から、中空容器31の外周面には、目盛り(不図示)が設けられてもよい。
【0069】
接続管32は、中空容器31の流出口31bと、容器本体2Aの内部空間Sとを接続する中空部材である。接続管32は、流出口31bを介して中空容器31の空間に連通すると共に、貫通孔2aを介して空間S4に連通する。逆止弁33は、容器本体2Aから希釈装置30への液体の移動を防止する部材であり、接続管32に設けられる。移送部材34は、希釈液DL2を下流側へ移送させる部材である。第1変形例では、移送部材34はプランジャーであるが、これに限られない。移送部材34の下流側への移動に伴って、希釈液DL2が接続管32を介して容器本体2Aへ押し出される。
【0070】
以上に説明した第1変形例においても、上記第1実施形態と同様の作用効果が奏される。加えて、例えば遠心分離後、薬液FLが想定より濃縮された場合などにおいても、無菌性を維持しつつ薬液FLの濃度を容易に調整できる。
【0071】
図8は、第1実施形態の第2変形例に係る製剤キットを示す概略断面図である。
図8に示されるように、第2変形例の製剤キット1Bは、容器本体2の代わりに貫通孔2a,2bが設けられる容器本体2Bと、希釈装置30と、薬液投与装置40とをさらに備える点で、第1実施形態の製剤キット1と異なる。なお、貫通孔2bは、空間S4のうち、フィルター6よりも下流であって、限外濾過フィルター7よりも上流に位置する領域に連通する。
【0072】
薬液投与装置40は、製剤キット1B内の薬液FLを人体等の生物に投与する装置であり、容器本体2Bに接続される。第2変形例では、薬液投与装置40は、貫通孔2bを介して内部空間Sに接続される。薬液投与装置40は、空間S4から薬液FLを吸い出し、当該薬液FLを生物に投与する装置である。
【0073】
薬液投与装置40は、中空容器41と、接続管42と、開閉弁43と、移送部材44と、注射針45とを有する。中空容器41は、薬液FLを収容可能な中空部材である。中空容器41は、方向Dに延在する筒状部材(例えば、円筒状部材、角筒状部材など)であり、例えばシリンダである。中空容器41は、容器本体2Bと同様に、ガラス成形体もしくは樹脂成形体である。なお、中空容器41の各寸法は、製剤キット1Bによって生成される薬液FLの量などによって適宜変更される。中空容器41は、流入口41aと、流出口41bとを有する。中空容器41に吸い出される薬液FLの量を容易に確認する観点から、中空容器41の外周面には、目盛り(不図示)が設けられてもよい。
【0074】
接続管42は、中空容器41の空間と、容器本体2Bの内部空間Sとを接続する中空部材である。接続管42は、中空容器41に設けられる流入口41aを介して中空容器41の空間に連通すると共に、貫通孔2bを介して空間S4に連通する。開閉弁43は、薬液投与装置40と容器本体2Bとの間における液体の移動を防止する部材であり、接続管42に設けられる。開閉弁43は、例えば、接続管42に対して抜き差し可能なフィルター(隔壁)などでもよい。移送部材44は、容器本体2Bから中空容器41へ薬液FLを移送させる部材である。第2変形例では、移送部材44は吸子であるが、これに限られない。例えば、希釈装置30が移送部材として機能してもよい。この場合、希釈装置30には窒素ガスなどの不活性ガスが収容されており、当該不活性ガスによる圧力によって薬液FLを中空容器41へ移送させてもよい。希釈装置30が移送部材として機能する場合、希釈装置30には、希釈液DL2の代わりに上記不活性ガスのみが充填されてもよい。移送部材44の上流側への移動に伴って、薬液FLが接続管42を介して中空容器41に引き込まれる。注射針45は、中空容器41内の薬液FLを人体等の生物に投与する部材であり、中空容器41に連通する。例えば、移送部材44の下流側への移動に伴って、薬液FLが注射針45を介して人体等の生物に投与される。
【0075】
以上に説明した第2変形例においても、上記第1実施形態の第1変形例と同様の作用効果が奏される。加えて、無菌性を良好に維持しつつ、製剤キット1Bから薬液FLを生物に容易に投与できる。
【0076】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態に係る製剤キットについて説明する。第2実施形態の説明において上記第1実施形態と重複する記載は省略し、異なる部分を記載する。つまり、技術的に可能な範囲において、第2実施形態に上記第1実施形態の記載を適宜用いてもよい。
【0077】
図9は、第2実施形態に係る製剤キットの概略断面図である。
図10は、第2実施形態に係る薬液の製造方法の一例を説明するための概略図である。
図9に示される製剤キット1Cは、容器本体2の代わりに容器本体2Cを、仕切部3~5の代わりに仕切部3A~5Aを、駆動部材9の代わりに駆動部材9Aを備える点で、第1実施形態の製剤キット1とは異なる。加えて、製剤キット1Cは、仕切部50をさらに備える点で、第1実施形態の製剤キット1とは異なる。
【0078】
容器本体2Cの内周面24Aには、第1実施形態とは異なり、溝25~27が設けられていない。このため、内周面24Aの径は一定になっているが、これに限られない。
【0079】
仕切部3A~5Aのそれぞれは、内周面24Aに水密に接触している部材である。仕切部3A~5Aのそれぞれは、第1実施形態の仕切部3~5と同様にゴム材料から形成されてもよいし、容器本体2Cと同様の材料(例えば、ポリオレフィン、環状オレフィンなどの樹脂)から形成されてもよい。仕切部3Aは、第1板状部分3aと、第1板状部分3aよりも下流に位置すると共に第1板状部分3aに接する第2板状部分3bとを有する。同様に、仕切部4Aは、第1板状部分4aと、第1板状部分4aよりも下流に位置すると共に第1板状部分4aに接する第2板状部分4bとを有する。仕切部5Aは、第1板状部分5aと、第1板状部分5aよりも下流に位置すると共に第1板状部分5aに接する第2板状部分5bとを有する。
【0080】
第1板状部分3aは、内周面24Aに対して摺動可能な板状部分であり、内周面24Aに水密に接触している。第1板状部分3aには、方向Dに沿って延在する貫通孔3cが設けられる。第2板状部分3bは、内周面24Aに水密に接触しており、かつ、内周面24Aに固定される。第2板状部分3bには、方向Dに沿って延在する貫通孔3dが設けられる。貫通孔3c,3dが方向Dに沿って重なるとき、空間S1,S2が、貫通孔3c,3dを介して連通する。第1板状部分4a,5aのそれぞれは、第1板状部分3aと同様の構造及び機能を有し、かつ、第2板状部分4b,5bのそれぞれは、第2板状部分3bと同様の構造及び機能を有する。このため、第1板状部分4a,5aには貫通孔4c,5cがそれぞれ設けられ、第2板状部分4b,5bには貫通孔4d,5dがそれぞれ設けられる。貫通孔4c,4dが方向Dに沿って重なるとき、空間S2,S3が貫通孔4c,4dを介して連通する。貫通孔5c,5dが方向Dに沿って重なるとき、空間S3,S4が貫通孔5c,5dを介して連通する。
【0081】
仕切部50は、内周面24Aに水密に接触している部材(第4仕切部)であり、流出口22の近傍に設けられる。仕切部50は、限外濾過フィルター7よりも下流であって、流出口22よりも上流に位置する。これにより、仕切部50は、空間S4において、容器本体2Cによって画成されると共に限外濾過フィルター7が収容される領域(第1領域)と、第2蓋部材10の凹部10aによって画成される領域(第2領域)とを仕切る。仕切部50は、第1板状部分50aと、第1板状部分50aよりも下流に位置すると共に第1板状部分50aに接する第2板状部分50bとを有する。第1板状部分50aは、第1板状部分3aと同様の構造及び機能を有し、かつ、第2板状部分50bは、第2板状部分3bと同様の構造及び機能を有する。このため、第1板状部分50aには貫通孔50cが設けられ、第2板状部分50bには貫通孔50dが設けられる。貫通孔50c,50dが方向Dに沿って重なるとき、空間S4が容器本体2Cの外部に連通し得る。
【0082】
駆動部材9Aは、仕切部3A~5A,50を周方向に回動させる部材である。第2実施形態では、駆動部材9Aは、第1蓋部材8を貫通しているが、これに限られない。例えば、駆動部材9Aは、容器本体2Cの一部でもよい。駆動部材9Aは、仕切部3A~5A,50を一つずつ周方向に回動させる。これにより、製剤キット1C内の液体を順に混合できる。一例として、仕切部3A~5A,50のそれぞれと連動する複数の駆動部材9Aが、容器本体2Cに設けられてもよい。例えば、容器本体2Cの外側から各駆動部材9Aを操作することによって、仕切部3A~5A,50のそれぞれを、独立して回動できる。別例として、容器本体2Aに設けられる係止部分(不図示)などが設けられることによって、仕切部3A~5A,50が順に回動可能になる。
図10に示されるように、駆動部材9Aは、仕切部3Aの第1板状部分3aを周方向に回動させることによって、貫通孔3cを貫通孔3dに重ねる。これにより、空間S1,S2を連通させ、希釈薬剤DBを生成できる。同様に、駆動部材9Aは、仕切部4Aの第1板状部分4aを周方向に回動させることによって、貫通孔4cを貫通孔4dに重ね、仕切部5Aの第1板状部分5aを周方向に回動させることによって、貫通孔5cを貫通孔5dに重ねる。これにより、容器本体2Cに収容される液体を順に混合できる(詳細は割愛)。加えて、駆動部材9Aは、仕切部50の第1板状部分50aを回動させることによって、貫通孔50cを貫通孔50dに重ねる。これにより、例えば、限外濾過フィルター7を通過した不要な液体ULが、貫通孔50c,50dを介して第2蓋部材10に流れる。
【0083】
以上に説明した第2実施形態においても、上記第1実施形態と同様の作用効果が奏される。
【0084】
次に、
図11を参照しながら第2実施形態の変形例に係る製剤キットについて説明する。当該変形例の説明において上述した第1実施形態及び第2実施形態と重複する記載は省略し、異なる部分を記載する。つまり、技術的に可能な範囲において、変形例に上述した第1実施形態及び第2実施形態の記載を適宜用いてもよい。
【0085】
図11は、第2実施形態の変形例に係る製剤キットを示す概略断面図である。
図11に示されるように、変形例の製剤キット1Dは、容器本体2Cの代わりに貫通孔2a,2bが設けられる容器本体2Dと、希釈装置30Aと、薬液投与装置40Aとをさらに備える点で、第2実施形態の製剤キット1Cと異なる。容器本体2Dには、容器本体2Cと同様に、溝25~27が設けられていない。このため、容器本体2Dは、貫通孔2a,2bが設けられる点で、容器本体2Cと異なる。
【0086】
希釈装置30Aは、上記第1実施形態の第2変形例の希釈装置30と同様の機能及び構成を有する装置であり、容器本体2Dに接続される。希釈装置30Aには、希釈液DL2が収容されているが、これに限られない。例えば、希釈装置30Aが薬液FLを薬液投与装置40Aに移送させる移送部材としても機能する場合、希釈装置30Aには、窒素ガスなどの不活性ガスが収容されてもよい。この場合、希釈装置30Aには、希釈液DL2の代わりに上記不活性ガスのみが充填されてもよい。
【0087】
薬液投与装置40Aは、上記第1実施形態の第2変形例の薬液投与装置40と同様の機能及び構成を有する装置であり、容器本体2Dに接続される。
【0088】
以上に説明した変形例においても、上記第2実施形態と同様の作用効果が奏される。加えて、無菌性を良好に維持しつつ、製剤キット1Dから薬液FLを生物に容易に投与できる。
【0089】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態に係る製剤キットについて説明する。第2実施形態の説明において上記第1及び第2実施形態と重複する記載は省略し、異なる部分を記載する。つまり、技術的に可能な範囲において、第3実施形態に上記第1及び第2実施形態の記載を適宜用いてもよい。
【0090】
図12は、第3実施形態に係る製剤キットの概略断面図である。
図13は、第3実施形態に係る薬液の製造方法の一例を説明するための概略図である。
図12及び
図13に示される製剤キット1Eは、容器本体2の代わりに容器本体2Cを、仕切部3~5の代わりに仕切部3B~5Bを、駆動部材9の代わりに仕切破壊部材60を備える点で、第1実施形態の製剤キット1とは異なる。
【0091】
仕切部3B~5Bのそれぞれは、内周面24Aに水密に接触している部材である。仕切部3B~5Bのそれぞれは、例えば、方向Dに沿った力が加わることによって破壊される板状部材、膜状部材などである。このため、仕切部3B~5Bのそれぞれは、破壊可能に内部空間Sに収容される。
【0092】
仕切破壊部材60は、仕切部3B~5Bを破壊する部材であり、容器本体2Cの上流側に位置する。仕切破壊部材60は、第1実施形態の仕切部3~5と同様にゴム材料から形成されてもよいし、容器本体2Cと同様の材料(例えば、ポリオレフィン、環状オレフィンなどの樹脂)から形成されてもよい。第3実施形態では、仕切破壊部材60は、方向Dに沿って移動可能な部材(例えば、プランジャーなど)である。仕切破壊部材60の押し子60aは、先細りする先端部60bを有する。このような先端部60bが設けられることによって、仕切部3B~5Bを容易に破壊できる。液体の流動性を高める観点から、先端部60bの根元の幅は、押し子60aの幅よりも大きくてもよい。
【0093】
仕切破壊部材60が下流に移動すると、仕切部3Bに接触する。続いて、仕切破壊部材60がさらに下流に移動することによって、仕切部3Bが破壊される。これにより、
図13に示されるように、空間S1,S2が連通し、混合物ILが生成される。仕切破壊部材60のさらなる下流への移動によって、仕切部4B,5Bが順に破壊される。そして、フィルター6及び限外濾過フィルター7による濾過を実施することによって、薬液FLを生成できる。
【0094】
以上に説明した第3実施形態においても、上記第1実施形態と同様の作用効果が奏される。
【0095】
本発明の一側面に係る複室容器は、例えば以下の[1]~[14]に記載する通りであり、上記実施形態及び上記変形例に基づいてこれらを詳細に説明した。
[1]薬剤を安定化する安定剤、及び緩衝液を収容する内部空間を画成する容器本体と、
移動可能または破壊可能に前記内部空間に収容される第1仕切部と、
前記第1仕切部よりも下流に位置し、移動可能または破壊可能に前記内部空間に収容される第2仕切部と、
前記内部空間に収容される限外濾過フィルターと、
を備え、
前記第1仕切部及び前記第2仕切部は、前記内部空間を、第1空間と、前記第1空間よりも下流に位置する第2空間と、前記第2空間よりも下流に位置する第3空間とに区分けし、
前記第1空間には前記安定剤が収容され、前記第2空間には前記緩衝液が収容され、前記第3空間には前記限外濾過フィルターが収容される、
製剤キット。
[2] 前記第1仕切部よりも上流に位置し、移動可能または破壊可能に前記内部空間に収容される第3仕切部をさらに備え、
前記第3仕切部は、前記内部空間のうち前記第1仕切部よりも上流に位置する空間を、前記第1空間と、前記第1空間よりも上流に位置する第4空間とに区分けし、
前記第4空間には、前記薬剤のための希釈液が収容される、[1]に記載の製剤キット。
[3] 前記第1仕切部及び前記第2仕切部を下流側に移動させる駆動部材をさらに備え、
前記容器本体は、前記第1仕切部の初期位置よりも下流であって前記第2仕切部の初期位置よりも上流に位置する第1バイパスと、前記第2仕切部の初期位置よりも下流であって前記限外濾過フィルターよりも上流に位置する第2バイパスとを有する、[1]または[2]に記載の製剤キット。
[4] 前記第1仕切部及び前記第2仕切部を回動させる駆動部材をさらに備え、
前記駆動部は、前記第1仕切部を回動させることによって前記第1空間と前記第2空間とを連通させ、かつ、前記第2仕切部を回動させることによって前記第2空間と前記第3空間とを連通させる、[1]または[2]に記載の製剤キット。
[5] 前記限外濾過フィルターよりも粗いフィルターをさらに備え、
前記フィルターは、前記第3空間において前記限外濾過フィルターよりも上流、もしくは、前記限外濾過フィルターよりも下流に位置する、[1]~[4]のいずれかに記載の製剤キット。
[6] 前記容器本体の流入口を塞ぐ第1蓋部材をさらに備え、
前記第1蓋部材は、前記内部空間へ前記薬剤を注入するための注入栓である、[1]~[5]のいずれかに記載の製剤キット。
[7] 前記容器本体に対して着脱可能であって、前記容器本体の流出口を塞ぐ第2蓋部材をさらに備え、
前記第2蓋部材は、前記第3空間の一部を画成する凹部を有する、[6]に記載の製剤キット。
[8] 前記容器本体に対して着脱可能である先端部材をさらに備え、
前記先端部材は、前記容器本体に装着されるとき、前記第3空間において前記限外濾過フィルターよりも上流に連通する注射針を有する、[7]に記載の製剤キット。
[9] 前記第3空間において、前記容器本体によって画成されると共に前記限外濾過フィルターが収容される第1領域と、前記凹部によって画成される第2領域とを仕切る第4仕切部をさらに備える、[7]または[8]に記載の製剤キット。
[10] 外部から前記内部空間に供給される前記薬剤は、核酸を含み、
前記安定剤は、少なくとも脂質を含む溶液である、[1]~[9]のいずれかに記載の製剤キット。
[11] 前記容器本体に接続され、前記薬剤、前記安定剤、及び前記緩衝液の濃縮混合薬液を収容する中空容器と、
前記容器本体から前記中空容器へ前記濃縮混合薬液を移送する移送部材と、
前記中空容器に連通する注射針と、をさらに備える、[1]~[10]に記載の製剤キット。
[12] 前記容器本体及び前記中空容器を収容する収容容器をさらに備え、
前記注射針は、前記収容容器内に収納可能である、[11]に記載の製剤キット。
[13] 容器本体の内部空間に薬剤を供給する工程と、
前記内部空間に予め収容される安定剤に、前記薬剤を混合させる工程と、
前記内部空間に予め収容される緩衝液に、前記薬剤及び前記安定剤の混合物を混合させる工程と、
前記内部空間に予め収容される限外濾過フィルターによって、前記薬剤、前記安定剤及び前記緩衝液の混合液を限外濾過する工程と、
を備える薬液の製造方法。
[14] [13]に記載の製造方法によって製造される薬液。
【0096】
しかし、本発明の一側面は、上記実施形態、上記変形例及び上記[1]~[14]に限定されない。本発明の一側面は、その要旨を逸脱しない範囲でさらなる変形が可能である。例えば、上記実施形態及び上記変形例は、適宜組み合わされてもよい。例えば、上記第1実施形態と上記第2実施形態とが適宜組み合わされてもよいし、上記第1実施形態と上記第3実施形態とが適宜組み合わされてもよいし、上記第2実施形態と上記第3実施形態とが適宜組み合わされてもよい。また、上記第2実施形態及び上記第3実施形態のそれぞれは、上記第1変形例もしくは上記第2変形例に組み合わされてもよい。
【0097】
上記実施形態及び上記変形例では、容器本体に希釈液が収容されるが、これに限られない。例えば、容器本体には希釈液が収容されなくてもよい。ステップST1にて、容器本体には予め希釈された薬剤が供給されてもよい。
【0098】
上記実施形態に係る製剤キットは、容器本体を密封可能に収容する収容容器をさらに備えてもよい。当該収容容器は、例えば、シリンジ、コニカルチューブ等の筒状部材である。収容容器は、例えばガラス成形体もしくは樹脂成形体である。収容容器が樹脂成形体である場合、収容容器は、容器本体と同様の材料から形成されてもよい。収容容器は、遠心分離機の収容器具と同様の形状を有してもよい。この場合、製剤キットを遠心分離機に直接的に装着できるので、遠心分離を容易に実施できる。加えて、容器本体を密封することによって、薬剤などを収容する容器が二重構造になるので、無菌性を良好に維持できる。製剤キットの遠心分離、搬送などに伴う容器本体の破損防止の観点から、収容容器には、当該収容容器の内面と、容器本体との隙間を埋める充填材などが収容されてもよい。なお、上記変形例に係る製剤キットも、以下に説明するように、上記収容容器を備えてもよい。
【0099】
図14(a)は、第1変形例の別例に係る製剤キットの概略断面図である。
図14(b)は、第2変形例の別例に係る製剤キットの概略断面図である。
図14(a)に示されるように、上記第1変形例の別例では、製剤キット1Aは、容器本体2Aと希釈装置30とを収容する収容容器70をさらに備えてもよい。同様に、
図14(b)に示されるように、上記第2変形例の別例では、製剤キット1Bは、容器本体2Aと希釈装置30と薬液投与装置40とを収容する収容容器80をさらに備えてもよい。収容容器80には、注射針45が挿通可能な開口80aが設けられ、注射針45は、収容容器80に収容可能に設けられる。この場合、中空容器41などには、注射針45を移動させる移動機構が設けられ得る。これにより、製剤キット1Bの運搬時などに注射針45を収容容器80に収容できるので、注射針45が破損しにくくなる。注射針45が収容容器80に収容されているとき、開口80aが蓋などによって閉塞されてもよい。なお、収容容器70,80のそれぞれには上記充填材などが収容されてもよい。
【0100】
上記実施形態及び上記変形例では、フィルターは限外濾過フィルターよりも上流に位置するが、これに限られない。フィルターは、限外濾過フィルターよりも下流に位置してもよい。この場合、薬液は、フィルターを介した上で、生物に投与される。なお、上記第1実施形態の上記第2変形例及び上記第2実施形態の上記変形例などでは、フィルターは、薬液投与装置に収容されてもよい。
【0101】
上記実施形態及び上記第1変形例では、製剤キットにて製造される薬液を生物に投与するとき、容器本体から蓋部材を取り外した後、注射針を有する先端部材を容器本体に装着するが、これに限られない。例えば、製剤キットとは別の装置を利用して、上記薬液を製剤キットから取り出してもよい(放出されてもよい)。一例としては、容器本体から蓋部材を取り外した後、限外濾過フィルターに注射針を外部から挿入することによって、当該注射針を介して容器本体から薬液を抽出してもよい。
【符号の説明】
【0102】
1,1A,1B,1C,1D,1E…製剤キット、2,2A,2B,2C,2D…容器本体、2a,2b…貫通孔、3,3A,3B…仕切部(第3仕切部)、3a,4a,5a,50a…第1板状部分、3b,4b,5b,50b…第2板状部分、3c,3d,4c,4d,5c,5d,50c,50d…貫通孔、4,4A,4B…仕切部(第1仕切部)、5,5A,5B…仕切部(第2仕切部)、6…フィルター、7…限外濾過フィルター、7…限外濾過フィルター、8…第1蓋部材、9,9A…駆動部材、9a,60a…押し子、10…第2蓋部材、10a…凹部、11…先端部材、12…蓋部、13…筒状部、14,45…注射針、21,31a,41a…流入口、22,31b,41b…流出口、23…外周面、24,24A…内周面、25…溝、26…溝(第1バイパス)、27…溝(第2バイパス)、30,30A…希釈装置、31,41…中空容器、32,42…接続管、33…逆止弁、34,44…移送部材、40,40A…薬液投与装置、43…開閉弁、50…仕切部(第4仕切部)、60…仕切破壊部材、60b…先端部、70,80…収容容器、80a…開口、BL…緩衝液、DL,DL2…希釈液、FL…薬液(濃縮混合薬液)、IL…混合物、ML…混合液、S…内部空間、S1…空間(第4空間)、S2…空間(第1空間)、S3…空間(第2空間)、S4…空間(第3空間)、SL…安定剤。