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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078025
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】断熱材
(51)【国際特許分類】
   F16L 59/02 20060101AFI20240603BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20240603BHJP
   C04B 35/83 20060101ALI20240603BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
F16L59/02
B32B5/26
C04B35/83
C04B38/00 303A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190323
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敏樹
(72)【発明者】
【氏名】太田 祐介
(72)【発明者】
【氏名】野村 健太
(72)【発明者】
【氏名】藤井 伸
【テーマコード(参考)】
3H036
4F100
4G019
【Fターム(参考)】
3H036AA09
3H036AB15
3H036AB24
3H036AC03
4F100AA37A
4F100AD11A
4F100AD11B
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100DE02B
4F100DG15
4F100EJ65B
4F100JJ02
4F100YY00A
4F100YY00B
4G019EA07
(57)【要約】
【課題】断熱効果の高い断熱材を提供する。
【解決手段】炭素繊維を用いた断熱材であって、表面に熱分解炭素を含む熱分解炭素層を有するとともに、上記熱分解炭素層の下に、上記炭素繊維間に鱗片状黒鉛を含有する下地層を有することを特徴とする断熱材。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維を用いた断熱材であって、
表面に熱分解炭素を含む熱分解炭素層を有するとともに、前記熱分解炭素層の下に、前記炭素繊維間に鱗片状黒鉛を含有する下地層を有することを特徴とする断熱材。
【請求項2】
前記下地層中の、前記鱗片状黒鉛の配合比率が5~40体積%である、請求項1に記載の断熱材。
【請求項3】
前記鱗片状黒鉛は、平均粒子径が2μm~500μmである、請求項1又は2に記載の断熱材。
【請求項4】
前記炭素繊維が、前記炭素繊維のニードルマット又は前記炭素繊維の抄造体を構成する、請求項1又は2に記載の断熱材。
【請求項5】
前記下地層の表面には前記炭素繊維が露出している、請求項1又は2に記載の断熱材。
【請求項6】
前記下地層の前記鱗片状黒鉛及び前記炭素繊維は、互いに炭素系接着材で接合されている、請求項1又は2に記載の断熱材。
【請求項7】
前記下地層は、厚さが10μm~1000μmである、請求項1又は2に記載の断熱材。
【請求項8】
前記熱分解炭素層は、厚さが2~60μmである、請求項1又は2に記載の断熱材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維を用いた断熱材は、耐熱温度が高く断熱性能も優れることから、単結晶引き上げ装置、セラミック焼結炉など、高温炉用断熱材として広く利用されている。
【0003】
炭素繊維を用いた断熱材は、炭素繊維による伝熱を抑制するため、気孔率の高いフェルト、抄造体などの形態で広く利用されている。一般に、フェルトは変形性があるため、空いた空間に充填して当該空間を埋める部材や、他の部品を囲む断熱材として利用される。一方、抄造体は高い形状保持性を有するため、所定の形状に加工し、断熱部品として利用される。なお、フェルトは、圧縮した後、バインダによって固定することにより、形状保持性の良い断熱部品として使用することもできる。
【0004】
特許文献1には、炭素からなる骨材と熱硬化性樹脂からなる粘結剤とを含む緻密下地層形成液を、成形断熱材の少なくとも一つの表面から少なくとも0.4mmの領域に含浸させ、その後500℃以上で焼成して上記熱硬化性樹脂を炭素化させて緻密下地層となす緻密下地層形成ステップと、焼成後に炭素粒子となる成分を含んだ骨材と熱硬化性樹脂からなる粘結剤とを含む表面被覆液を、上記緻密下地層の表面から少なくとも0.1mmの領域の少なくとも一部に含浸させ、その後1000℃以上で焼成して、上記熱硬化性樹脂を炭素化させて表面被覆層となす表面被覆層形成ステップと、備え、上記緻密下地層における骨材の体積分率が、0.3~5%であり、上記表面被覆層における骨材の体積分率が、1~7%である成形断熱材の製造方法が開示されている。
特許文献1では、実施例において、緻密下地層に鱗状黒鉛粉末を含有させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-158874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の断熱材を、誘導加熱炉のような高温の発熱体の周囲に配置するような断熱材として使用した場合、断熱効果が充分とは言えず、さらに断熱効果を向上させることが望まれていた。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされた発明であり、本発明の目的は、断熱効果の高い断熱材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の断熱材は、炭素繊維を用いた断熱材であって、表面に熱分解炭素を含む熱分解炭素層を有するとともに、上記熱分解炭素層の下に、上記炭素繊維間に鱗片状黒鉛を含有する下地層を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の断熱材は、下地層において炭素繊維間に鱗片状黒鉛を含有する。放射による伝熱が支配的な1400℃を超える高温領域において、鱗片状黒鉛によって放射熱の熱反射率を高くすることができる。そのため、断熱効果の高い断熱材とすることができる。なお、特許文献1においては、鱗片状黒鉛を下地層に使用することは記載されているものの、鱗片状黒鉛によって放射熱の熱反射率を高くすることが出来るという作用効果は示唆されていない。
【0010】
また、本発明の断熱材は、表面に熱分解炭素層を有する。
熱分解炭素層は、高温度域、特に1400℃を超える高温域において、放射による熱伝導を遮断して、優れた断熱性を発揮する。また、断熱材が使用される環境において反応性ガスが発生する場合であっても、反応性ガスに対する活性が低く、劣化や消耗が生じにくい。
【0011】
すなわち、鱗片状黒鉛を含有する下地層と、熱分解炭素層とを共に備えることによって、下地層の鱗片状黒鉛と熱分解炭素層の両方の作用によって放射熱を反射することができるので、断熱効果の高い断熱材とすることができる。
【0012】
本発明の断熱材では、上記下地層中の、上記鱗片状黒鉛の配合比率が5~40体積%であることが好ましい。
鱗片状黒鉛の配合比率が上記範囲であると、鱗片状黒鉛により放射熱を反射するという効果がより好適に発揮される。
【0013】
本発明の断熱材では、上記鱗片状黒鉛は、平均粒子径が2μm~500μmであることが好ましい。
鱗片状黒鉛の平均粒子径が2μm~500μmであると、放射熱を好適に反射できるとともに、炭素繊維のすき間に薄く下地層を形成することができ、断熱材において、炭素繊維と熱分解炭素層との接合を高いレベルで確保することができる。また、熱伝導率が大きくなりやすい下地層の厚さが厚くなり過ぎることを防止することができる。
【0014】
本発明の断熱材では、上記炭素繊維が、上記炭素繊維のニードルマット又は上記炭素繊維の抄造体を構成することが好ましい。
炭素繊維のニードルマット及び炭素繊維の抄造体は、ランダムに配置された炭素繊維で構成されるため、高い断熱性を発揮することができ、断熱材を構成する基材として特に好適である。
【0015】
本発明の断熱材では、上記下地層の表面には上記炭素繊維が露出していることが好ましい。
下地層の表面に炭素繊維が露出していると、熱分解炭素層が炭素繊維と直接接合するので、下地層と熱分解炭素層との接合強度を高めることができ、下地層と熱分解炭素層との間の層間剥離を防止することができる。
【0016】
本発明の断熱材では、上記下地層の上記鱗片状黒鉛及び上記炭素繊維は、互いに炭素系接着材で接合されていることが好ましい。
下地層を構成する鱗片状黒鉛及び炭素繊維が、互いに炭素系接着材で接合されていると、下地層が強固となり、熱分解炭素層との接合強度が高まる。
【0017】
本発明の断熱材では、上記下地層は、厚さが10μm~1000μmであることが好ましい。
下地層の厚さが1000μm以下であると、断熱性能の低下を抑えることができる。
下地層の厚さが10μm以上であると、下地層と熱分解炭素層との接合強度を充分に確保することができる。
【0018】
本発明の断熱材では、上記熱分解炭素層は、厚さが2~60μmであることが好ましい。
熱分解炭素層の厚さが2~60μmであると、断熱材が使用される環境において発生するガスに対する優れたガス遮断性と放射熱の遮断特性とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の断熱材の実施形態の一例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、図1に破線で囲んだ領域Aの部分である、下地層の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0021】
[断熱材]
本発明の断熱材は、炭素繊維を用いた断熱材であって、表面に熱分解炭素を含む熱分解炭素層を有するとともに、上記熱分解炭素層の下に、上記炭素繊維間に鱗片状黒鉛を含有する下地層を有することを特徴とする。
【0022】
断熱材は、その表面に熱分解炭素層を有する。熱分解炭素層の下に、炭素繊維の成形体(以下、成形体ともいう)があり、成形体の表面で熱分解炭素層と接する表面に下地層が存在する。下地層は成形体の一部であるともいえる。
【0023】
成形体は、炭素繊維を含んでいる。
成形体を構成する炭素繊維の平均繊維径は、1μm~20μmが好ましい。
炭素繊維の平均繊維径が20μm以下であると、炭素繊維自体による伝導伝熱の効果を抑制することができる。また炭素繊維の平均繊維径が1μm以上であると、遮光性に優れ、放射伝熱を抑制することができる。
【0024】
炭素繊維の平均繊維長は、2mm~10000mmが好ましい。
また、炭素繊維の平均繊維長は、2mm~8mmであってもよく、10mm~10000mmであってもよい。
【0025】
炭素繊維は、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維のいずれでも利用できるとともに、黒鉛質、炭素質いずれの炭素繊維も利用することができる。
【0026】
成形体は、炭素繊維のニードルマット、又は、炭素繊維の抄造体で構成されていることが好ましい。
炭素繊維のニードルマット及び炭素繊維の抄造体は、ランダムに配置された炭素繊維で構成されるため、高い断熱性を発揮することができ、断熱材を構成する成形体として特に好適である。
【0027】
成形体が炭素繊維のニードルマットで構成されている場合、炭素繊維の平均繊維長は、10mm~10000mmであることが好ましい。
成形体が炭素繊維の抄造体で構成されている場合、炭素繊維の平均繊維長は、2mm~8mmであることが好ましい。
炭素繊維の平均繊維長が2mm~8mmであると、強度が高く、また、炭素繊維が配向しにくいため、誘導加熱炉に用いた場合、誘導加熱による発熱を最小限に抑えることができる。
【0028】
成形体の嵩密度は、0.1~0.8g/cmであることが好ましい。嵩密度が0.1g/cm以上であると、断熱材として一定の強度を有しているとともに、遮光性を確保できるので、放射伝熱による伝熱を抑制することができる。嵩密度が0.8g/cm以下であると、炭素繊維による伝導伝熱を抑制することができる。
【0029】
成形体の厚さは特に限定されないが、3~550mmであることが好ましい。成形体の厚さに下地層の厚さは含まれ、熱分解炭素層の厚さは成形体の厚さよりだいぶ小さいので、断熱材全体の厚さの好ましい範囲も3~550mmとする。
【0030】
下地層は、成形体の表面に設けられた層であり、成形体の一部である。下地層の表面は成形体の表面ともなる。
成形体の表面に下地層が設けられていると、断熱材のガス遮断性を向上させることができる。また、下地層によって、炭素繊維の劣化によるパーティクルの発生を抑制することができる。
【0031】
また、下地層は炭素繊維間に鱗片状黒鉛を含有する。
鱗片状黒鉛は、薄い鱗状の形状を有する黒鉛である。
具体的には、フレーク状であり、厚さが100μm以下の黒鉛を鱗片状黒鉛とする。
【0032】
鱗片状黒鉛は、他の炭素系材料と比較して放射光の反射率が高い。そのため、放射による伝熱が支配的な1400℃を超える高温領域において、鱗片状黒鉛によって放射熱の熱反射率を高くすることができる。そのため、断熱効果の高い断熱材とすることができる。
【0033】
下地層中の鱗片状黒鉛の配合比率は5~40体積%であることが好ましい。
鱗片状黒鉛の配合比率が上記範囲であると、鱗片状黒鉛により放射熱を反射するという効果がより好適に発揮される。
下地層中の鱗片状黒鉛の配合比率は、下地層の断面写真を撮影して、断面写真における下地層の面積に占める鱗片状黒鉛の面積の割合(%)を、下地層中の鱗片状黒鉛の配合比率(体積%)として算出する。
【0034】
鱗片状黒鉛の平均粒子径は特に限定されないが、2μm~500μmであることが好ましい。
鱗片状黒鉛の平均粒子径が2μm~500μmであると、放射熱を好適に反射できるとともに、炭素繊維のすき間に薄く下地層を形成することができ、断熱材において、炭素繊維と熱分解炭素層との接合を高いレベルで確保することができる。また、熱伝導率が大きくなりやすい下地層の厚さが厚くなり過ぎることを防止することができる。
なお、鱗片状黒鉛の平均粒子径は、JIS M 8511(2014)に記載された「天然黒鉛の工業分析及び試験法」に準拠した篩分析法により測定することができる。
【0035】
下地層には、鱗片状黒鉛以外の炭素系粒子として、鱗片状黒鉛以外の黒鉛、カーボンブラック、ガラス状カーボン粒子、及び炭素繊維を粉砕した粒子からなる群から選択される少なくとも1つの炭素系粒子を含んでいてもよい。
以下の説明において「炭素系粒子」の語には鱗片状黒鉛は含まない。
【0036】
ガラス状カーボン粒子とは、フェノール樹脂の炭化物などの難黒鉛化性炭素を粉砕したものである。
炭素繊維を粉砕した粒子は、ミルド炭素繊維ともいう。ミルド炭素繊維の平均繊維長は、例えば20μm~500μmであることが好ましい。
【0037】
炭素系粒子は、平均粒子径が10nm~500μmであることが好ましい。
炭素系粒子の平均粒子径が10nm~500μmであると、炭素繊維のすき間に炭素系粒子が侵入しやすく、薄い下地層を形成しやすい。
【0038】
下地層は厚さが10μm~1000μmであることが好ましい。
下地層の厚さが1000μm以下であると、断熱性能の低下を抑えることができる。
下地層の厚さが10μm以上であると、下地層と熱分解炭素層との接合強度を充分に確保することができる。
【0039】
下地層の表面には炭素繊維が露出していることが好ましい。
下地層の表面に炭素繊維が露出していると、熱分解炭素層が炭素繊維と直接接合するので、下地層と熱分解炭素層との接合強度を高めることができ、下地層と熱分解炭素層との間の層間剥離を防止することができる。
【0040】
下地層の鱗片状黒鉛及び炭素繊維は、互いに炭素系接着材で接合されていることが好ましい。
炭素系接着材とは、有機バインダが非酸化性雰囲気下で加熱されることで炭化したものである。
下地層を構成する鱗片状黒鉛及び炭素繊維が、互いに炭素系接着材で接合されていると、下地層が強固となり、熱分解炭素層との接合強度が高まる。
【0041】
熱分解炭素層は、断熱材の表面に位置する層である。
熱分解炭素層は、高温度域、特に1400℃を超える高温域において、放射による熱伝導を遮断して、優れた断熱性を発揮する。また、断熱材が使用される環境において反応性ガスが発生する場合であっても、反応性ガスに対する活性が低く、劣化や消耗が生じにくい。
すなわち、鱗片状黒鉛を含有する下地層と、熱分解炭素層とを共に備えることによって、下地層の鱗片状黒鉛と熱分解炭素層の両方の作用によって放射熱を反射することができるので、断熱効果の高い断熱材とすることができる。
【0042】
熱分解炭素層は、炭化水素ガスを原料として化学気相成長法(CVD法)により形成された層であることが好ましい。
【0043】
熱分解炭素層は、厚さが2~60μmであることが好ましい。
熱分解炭素層の厚さが2~60μmであると、断熱材が使用される環境において発生するガスに対する優れたガス遮断性と放射熱の遮断特性とを両立させることができる。
なお、熱分解炭素層を有しているか、及び、熱分解炭素層の厚さは、熱分解炭素層に相当する部分を含む断熱材の切断面を偏光顕微鏡等で観察することにより確認することができる。
【0044】
断熱材の形状は、特に限定されないが、例えば平板状や筒状等が挙げられる。
断熱材の形状は、断熱対象物の形状に合わせて適宜設定すればよい。
下地層及び熱分解炭素層は、断熱材の表面のうちの一部の面にだけ設けられていてもよく、全ての面に設けられていてもよい。
そして、下地層及び熱分解炭素層が設けられた面を熱源側に向けて配置することが好ましい。
【0045】
以下、図面を参照しながら、本発明の断熱材の一例を説明する。
図1は、本発明の断熱材の実施形態の一例を模式的に示す断面図である。
図2は、図1に破線で囲んだ領域Aの部分である、下地層の部分拡大図である。
図1に示す断熱材1は、炭素繊維11の成形体10(以下、成形体10ともいう)を有する。図1では炭素繊維11は繊維の形状としては示していない。
成形体10は、厚さ方向に対向する第1主面10a及び第2主面10bを有する平板形状である。成形体10の第1主面10aに熱分解炭素層30が設けられており、熱分解炭素層30の下に下地層20が存在する。
下地層20は成形体10の厚さ方向において第1主面10aの近傍のみに設けられている。
【0046】
図2に示すように、下地層20において、炭素繊維11間には鱗片状黒鉛21が存在している。鱗片状黒鉛21及び炭素繊維11は互いに炭素系接着材40で接合されている。
また、下地層20には鱗片状黒鉛以外の炭素系粒子50が含有されている。
さらに、図2には、炭素繊維11が下地層20の表面に露出しており、熱分解炭素層30と炭素繊維11が直接結合している形態を示している。
【0047】
[断熱材の製造方法]
以下、本発明の断熱材を製造することができる、断熱材の製造方法の一例について説明する。
【0048】
(成形体準備工程)
成形体準備工程では、炭素繊維の成形体(以下、成形体という)を準備する。
【0049】
成形体を得る方法としては、ニードリング法や抄造法が挙げられる。
【0050】
ニードリング法の場合、例えば、平均繊維長が10mm~10000mmの炭素繊維をシート状に積層し、ニードリングにより無機繊維同士を交絡させることで成形体を得ることができる。
【0051】
抄造法の場合、例えば、平均繊維長が2mm~8mmの炭素繊維を水等の分散媒に分散させた懸濁液を準備し、型を用いて抄造することで、成形体を得ることができる。
【0052】
抄造法の場合、懸濁液には有機バインダが含まれていてもよい。
懸濁液に有機バインダが含まれていると、抄造時に炭素繊維同士が固定されて、成形性が向上する。
【0053】
(下地層形成工程)
下地層形成工程では、成形体の表面に、鱗片状黒鉛を含有するスラリーを含浸させ、焼成することによって、鱗片状黒鉛を含有する下地層を形成する。鱗片状黒鉛を含有するスラリーには、鱗片状黒鉛以外の炭素系粒子を含有させてもよい。
【0054】
焼成条件は特に限定されないが、温度700~2100℃、非酸化性雰囲気で1~15時間焼成を行うことが好ましい。
なお、非酸化性雰囲気には、不活性雰囲気及び還元性雰囲気を含む。
【0055】
不活性雰囲気は、主成分を不活性ガスとする雰囲気である。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等が挙げられる。
【0056】
還元性雰囲気は、主成分を還元性ガスとする雰囲気である。
還元性ガスとしては、水素、一酸化炭素、炭化水素、塩素等が挙げられる。
【0057】
下地層形成工程で用いるスラリーには、有機バインダが含まれていてもよい。
スラリーに有機バインダが含まれていると、成形体の表面に鱗片状粒子を含有するスラリーを含浸させた際に、鱗片状粒子が成形体の表面近傍に留まりやすくなるため、下地層が厚くなりすぎることを防ぐことができる。
【0058】
有機バインダとしては、非酸化性雰囲気で加熱することにより炭化する有機バインダ、及び、非酸化性雰囲気での加熱により分解するなどして残渣を生じない有機バインダの両方を用いることができる。
また、有機バインダは、溶媒に溶解するものであってもよく、溶媒中に微粒子として分散するものであってもよい。
【0059】
有機バインダが、非酸化性雰囲気で加熱することにより炭化する有機バインダである場合には、炭化した有機バインダが炭素系接着材として機能し、鱗片状粒子と炭素繊維とを接合することができる。また、成形体の表面に偏在することとなる下地層を構成する鱗片状粒子が炭素繊維から脱落することを防止することができる。
【0060】
炭化する有機バインダとしては、例えば、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)及びピッチ等が挙げられる。
【0061】
スラリーに有機バインダが含まれない場合、成形体にスラリーを含浸させた後に、有機バインダ溶液を成形体に含浸させることが好ましい。
これにより、スラリーに有機バインダが含まれている場合と同様に、有機バインダが炭素系接着材として機能し、鱗片状粒子と炭素繊維とを接合することができる。
【0062】
下地層形成工程においては、まず鱗片状粒子と溶媒を含有し、かつ有機バインダを含有しないスラリーに成形体を浸漬させ、続いて有機バインダ溶液に成形体を浸漬することで、成形体の内部への有機バインダの浸透を少なくし、断熱性能の低下を抑制することができる。
【0063】
また、下地層形成工程におけるスラリーの含浸は、含浸後においても、成形体の表面に炭素繊維が残り、残った炭素繊維が成形体の表面に露出するように行うことが好ましい。下地層の表面に炭素繊維が露出していると、後の熱分解炭素層形成工程で形成する熱分解炭素層が、炭素繊維と直接接合するので、炭素繊維と熱分解炭素層の結合力を強くし、熱分解炭素層を剥がれにくくすることができる。
【0064】
(熱分解炭素層形成工程)
熱分解炭素層形成工程では、成形体の下地層が設けられた表面に、熱分解炭素を含む熱分解炭素層を形成する。
【0065】
熱分解炭素層を形成する方法は特に限定されないが、例えば、CVD炉を用いて化学気相成長により熱分解炭素層を形成する方法が挙げられる。
CVD炉を用いて熱分解炭素層を形成する工程をCVD工程ともいう。
【0066】
CVD工程の条件は特に限定されない。
原料ガスは炭化水素ガスが利用でき、例えばメタン、エタン、プロパン、エチレンなどが利用できる。
【0067】
CVD工程の温度は例えば800~2000℃が好ましい。
CVD工程の温度が800℃以上であると、原料ガスが容易に分解するので熱分解炭素層を形成しやすい。
CVD工程の温度が2000℃以下であると、炭素繊維の昇華が抑制され変質が防止できる。
【0068】
成形体を構成する炭素繊維が炭素質の場合、CVD工程の温度は1700℃以下であることが望ましい。
炭素質の炭素繊維は高い温度に曝すと黒鉛質に変質し、熱伝導率が高くなるなどの変質が起こるようになる。そのため、1700℃以下の温度でCVD工程を実施することにより、炭素繊維の黒鉛質への変質を抑制し、成形体の断熱性を維持することができる。
以上の工程により、本発明の断熱材を製造することができる。
【0069】
本明細書には以下の事項が開示されている。
【0070】
本開示(1)は、炭素繊維を用いた断熱材であって、表面に熱分解炭素を含む熱分解炭素層を有するとともに、上記熱分解炭素層の下に、上記炭素繊維間に鱗片状黒鉛を含有する下地層を有することを特徴とする断熱材である。
【0071】
本開示(2)は、上記下地層中の、上記鱗片状黒鉛の配合比率が5~40体積%である、本開示(1)に記載の断熱材である。
【0072】
本開示(3)は、上記鱗片状黒鉛は、平均粒子径が2μm~500μmである、本開示(1)又は(2)に記載の断熱材である。
【0073】
本開示(4)は、上記炭素繊維が、上記炭素繊維のニードルマット又は上記炭素繊維の抄造体を構成する、本開示(1)~(3)のいずれかに記載の断熱材である。
【0074】
本開示(5)は、上記下地層の表面には上記炭素繊維が露出している、本開示(1)~(4)のいずれかに記載の断熱材である。
【0075】
本開示(6)は、上記下地層の上記鱗片状黒鉛及び上記炭素繊維は、互いに炭素系接着材で接合されている、本開示(1)~(5)のいずれかに記載の断熱材である。
【0076】
本開示(7)は、上記下地層は、厚さが10μm~1000μmである、本開示(1)~(6)のいずれかに記載の断熱材である。
【0077】
本開示(8)は、上記熱分解炭素層は、厚さが2~60μmである、本開示(1)~(7)のいずれかに記載の断熱材である。
【実施例0078】
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0079】
(実施例1)
[成形体準備工程]
炭素繊維(平均繊維径:13μm、平均繊維長:3.3mm)を抄造法により成形し、炭素繊維からなるシート状の成形体(厚さ3mm)を得た。
この成形体を不活性雰囲気下で2000℃に加熱して、成形体に含まれる有機バインダ(フェノール樹脂)を炭素化した。
【0080】
[下地層形成工程]
成形体の表面を加工して形状を整えた後、有機バインダ及び鱗片状黒鉛を含有するスラリーを成形体の表面の全部に塗布した。
なお、鱗片状黒鉛としては、平均粒子径が100μmの粒子を用いた。また有機バインダとしてはフェノール樹脂を用いた。
【0081】
続いて、スラリーを塗布した成形体を還元性雰囲気の炉に入れ、温度2000℃で1時間加熱することで、炭素繊維間に鱗片状黒鉛が配置され、鱗片状黒鉛と炭素繊維とが互いに炭素系接着材で接合されている下地層を、成形体の表面に形成した。
【0082】
この時点で下地層の表面を偏光顕微鏡で観察したところ、炭素繊維の一部が表面に露出していることを確認した。また、スラリー中の有機バインダが還元性雰囲気下で加熱されることにより炭素化した炭素系接着材によって、鱗片状黒鉛と炭素繊維とが接合されていることを確認した。
【0083】
[熱分解炭素層形成工程]
続いて、下地層が形成されたシート状成形体をCVD炉に入れ、一度炉内を真空引きして炉内の気圧を下げた後、原料ガスを導入して、下地層の表面に熱分解炭素層を形成して、断熱材を得た。
シート状成形体は支持ピンの上に載置され、支持ピンにより点支持された状態で熱分解炭素層を形成した。
シート状成形体は点支持されているため、シート状成形体のほぼ全面に、同時に熱分解炭素層が形成される。
【0084】
上記CVD工程において、シート状成形体の表面には下地層が形成されているため、上記工程では原料ガスが成形体の内部にまで浸透せず、表面に沈積する。このとき、表面に露出した炭素繊維がアンカーとなって、炭素繊維からなる成形体と熱分解炭素層とを強固に接続する。
【0085】
断熱材を厚さ方向に沿って切断し、切断面のうち表面近傍を偏光顕微鏡で観察したところ、断熱材の表面には厚さ20μmの熱分解炭素層が形成されており、さらに、熱分解炭素層の直下に厚さ100μmの下地層が形成されていることを確認した。
【0086】
(比較例1)
熱分解炭素層形成工程を行わないほかは、実施例1と同様の手順で、比較例1に係る断熱材を得た。
【0087】
[断熱特性評価]
2000℃不活性雰囲気下に、実施例1及び比較例1に係る各断熱材を入れ、レーザーフラッシュ法により断熱特性を評価した。
比較例1の断熱材を基準にして、実施例1の断熱材は熱伝導率が10%以上低減できていた。
この結果から、実施例1に係る断熱材の断熱特性が、比較例1に係る断熱材よりも優れていることを確認した。
【符号の説明】
【0088】
1 断熱材
10 炭素繊維の成形体
10a 第1主面
10b 第2主面
11 炭素繊維
20 下地層
21 鱗片状黒鉛
30 熱分解炭素層
40 炭素系接着材
50 鱗片状黒鉛以外の炭素系粒子

図1
図2