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  • 特開-鮑加工食品及び鮑加工食品の製造方法 図1
  • 特開-鮑加工食品及び鮑加工食品の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078044
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】鮑加工食品及び鮑加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/40 20160101AFI20240603BHJP
   A23L 17/10 20160101ALI20240603BHJP
   A23B 4/03 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
A23L17/40 C
A23L17/10
A23B4/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190358
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】521109110
【氏名又は名称】沢田 泉
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】沢田 泉
(72)【発明者】
【氏名】小田 滋晃
(72)【発明者】
【氏名】藤掛 進
(72)【発明者】
【氏名】小田 昌希
(72)【発明者】
【氏名】椋田 和洋
(72)【発明者】
【氏名】藤村 公平
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC10
4B042AD04
4B042AD39
4B042AE04
4B042AG64
4B042AH01
4B042AP03
4B042AP17
4B042AP23
4B042AP30
(57)【要約】
【課題】一般家庭で手軽に味わうことができる鮑加工食品を提供する。
【解決手段】乾燥鮑を削って形成した鮑加工食品であって、塩分濃度が3.0%以上9.0%以下であるとともに、厚さが0.01mm以上0.03mm以下のものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥鮑を削り節状に削ってなることを特徴とする鮑加工食品。
【請求項2】
塩分濃度が3.0%以上9.0%以下であるとともに、厚さが0.01mm以上0.03mm以下である請求項1記載の鮑加工食品。
【請求項3】
水分活性値が0.7AW未満である請求項1記載の鮑加工食品。
【請求項4】
塩漬けした鮑を乾燥させて塩分濃度が3.0%以上9.0%以下の乾燥鮑を形成する乾燥鮑製造工程と、
前記乾燥鮑を0.01mm以上0.03mm以下の厚みに削る削り工程とを備えることを特徴とする鮑加工食品の製造方法。
【請求項5】
前記乾燥鮑製造工程と前記削り工程との間に、前記乾燥鮑の水分活性値を0.7AW以上0.8AW以下になるように調節する水分活性値調整工程をさらに備えている請求項4記載の鮑加工食品の製造方法。
【請求項6】
前記水分活性値調整工程が、前記乾燥鮑を蒸気によって蒸した後、その表面に付着した水分を浸透させて水分活性値を調節するものである請求項5記載の鮑加工食品の製造方法。
【請求項7】
塩分濃度が3.0%以上9.0%以下の乾燥鮑の水分活性値を0.7AW以上0.8AW以下になるように調節する水分活性値調節工程と、
前記水分活性値調節工程を経た乾燥鮑を0.01mm以上0.03mm以下の厚みに削る削り工程とを備えていることを特徴とする鮑加工食品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鮑加工食品及び鮑加工食品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中華料理などの食材として使用される乾燥鮑は、形が良く大きいものほど高値で取り引きされることから、水揚げされた鮑から殻を取り外した鮑肉を丸ごと乾燥させて作られ、そのままの状態で取り引きされる。
【0003】
このように乾燥鮑は、丸ごと取り引きされ、また、高級食材であることも相まって商品単価が高く、さらに、調理も難しいことから、一般家庭で手軽に味わえるものではない。
【0004】
なお、乾燥鮑を安価に提供する方法として、特許文献1には、乾燥鮑を缶詰にする方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された方法で提供される缶詰でも、乾燥鮑が丸ごと使用されていることから、さほど商品単価が低くならず、また、調理の難しさについては何ら改善されていないことから、やはり一般家庭で手軽に味わえるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2―20241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、一般家庭で手軽に味わうことができる鮑加工食品を提供することを主な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る鮑加工食品は、乾燥鮑を削り節状に削ってなることを特徴とするものである。
【0009】
本発明に係る鮑加工食品によれば、乾燥鮑を削り節状に削った形成したものであるので、例えば御粥や日本酒などの飲食物に加えた際、鮑の出汁が染み出し易くなり、手軽に鮑の風味を加えることができる。これにより、一般家庭でも手軽に乾燥鮑の風味を味わえるようになる。また、形が悪く小さい安価な乾燥鮑を削って形成し、それを小分けして販売できるので、商品単価も抑えることができる。
【0010】
また、前記鮑加工食品は、塩分濃度が3.0%以上9.0%以下であるとともに、厚さが0.01mm以上0.03mm以下のものであってもよい。
【0011】
このような構成によれば、例えば御粥や日本酒などに加えた際、鮑の出汁とともに、その出汁を際立たせる程良い塩味が染み出し、飲食物に対し手軽に鮑の風味と塩味を加えることができる。また、乾燥鮑を削り節状にする場合、塩分濃度及び厚みを前記範囲にしなければ、歩留りが低下する。詳述すると、塩分濃度が3.0%未満になると、製造工程における塩漬けの際に浸透圧によって旨味成分が流出し風味が悪くなり、塩分濃度が9.0%を越えると、乾燥鮑が硬くなり過ぎて削る際に欠けが生じ易くなる。また、厚みが0.01mm未満になると、乾燥鮑の粘度によって切削刃にくっつき易くなり、厚みが0.03mmを越えると、欠け易くなる。その結果、歩留りが低下する。
【0012】
また、前記鮑加工食品は、水分活性値が0.7AW未満のものであってもよい。
【0013】
このような構成によれば、菌やカビなどの増殖を抑制でき、長期保存が可能となる。
【0014】
また、本発明に係る鮑加工食品の製造方法は、塩漬けした鮑を乾燥させて塩分濃度が3.0%以上9.0%以下の乾燥鮑を形成する乾燥鮑製造工程と、前記乾燥鮑を0.01mm以上0.03mm以下の厚みに削る削り工程とを備えることを特徴とするものである。
【0015】
本発明に係る鮑加工食品の製造方法によれば、乾燥鮑の塩分濃度を3.0%以上9.0%以下とすると、前記したとおり、乾燥鮑が鮑の風味を保ちつつ削り易い硬さになる。その結果、歩留りが向上する。また、厚みが0.01mm以上0.03mm以下になるように削ることで、切削刃への粘着や欠けが生じ難くなり、歩留りが向上する。
【0016】
また、前記乾燥工程と前記削り工程との間に、前記乾燥鮑の水分活性値を0.7AW以上0.8AW以下になるように調節する水分活性値調節工程をさらに備えているものであってもよい。
【0017】
このような構成であれば、乾燥鮑の水分活性値を0.7AW以上0.8AW以下に調整してから削るので、乾燥鮑が適度な粘性を有するようになり、削り易くなって製造効率が向上する。具体的には、乾燥鮑の水分活性値が0.7AW未満では、乾燥鮑が硬くなり過ぎ、欠け易くなる。一方、乾燥鮑の水分活性値が0.8AWをお越えると、乾燥鮑の粘度が上がり過ぎて、削り難くなる。
【0018】
また、前記水分活性値調整工程が、前記乾燥鮑を蒸気によって蒸した後、その表面に付着した水分を浸透させて水分活性値を調節するものであってもよい。
【0019】
このような構成によれば、乾燥鮑を蒸して水分活性値を調節するので、乾燥鮑に必要以上の水分が吸収されず、削り工程後に常温・常湿雰囲気中に放置するだけで、水分活性値が菌やカビが増殖し難い0.7AW未満まで低下させることができる。また、例えば乾燥鮑を蒸気によって蒸す工程において、スチームコンベクションを使用することで、乾燥鮑の芯温を菌やカビが死滅する85℃まで短時間で上昇させることができる。このため、乾燥鮑を短時間で殺菌でき、風味を損なわない。
【0020】
また、本発明に係る鮑加工食品の製造方法は、塩分濃度が3.0%以上9.0%以下の乾燥鮑の水分活性値を0.7AW以上0.8AW以下になるように調節する水分活性値調節工程と、前記水分活性値調節工程を経た乾燥鮑を0.01mm以上0.03mm以下の厚みに削る削り工程とを備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
このように本発明に係る鮑加工食品であれば、一般家庭で手軽に味わうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例の各サンプル製造時の歩留りを示すデータである。
図2】実施例の各サンプルの食味試験の結果を示すデータである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態に係る鮑加工食品及び鮑加工食品の製造方法について図1及び図2を参照しながら説明する。
【0024】
<実施形態> 本実施形態に係る鮑加工食品の製造方法は、乾燥鮑製造工程と、水分活性値調節工程と、削り工程とを備えている。
【0025】
前記乾燥鮑製造工程は、乾燥鮑を製造する工程であり、具立的には、下処理工程と、塩漬工程と、煮熟工程と、乾燥工程とを備えている。
【0026】
前記下処理工程は、水揚げされた鮑からぬめりを取り除く工程である。本実施形態の下処理工程では、水揚げされた鮑から殻を取り除いて得た鮑肉を塩で揉んだ後、その塩を水洗いする。
【0027】
前記塩漬工程は、下処理した鮑に塩を浸透させる工程である。本実施形態の塩漬工程では、下処理した鮑を塩分濃度3.0%以上9.0%以下の塩水に漬け込む。漬込み期間は、5日以上7日以下であることが好ましい。漬込み期間が5日未満だと、鮑の塩分濃度が低くなり、保存時に雑菌やカビなどが繁殖し易くる。一方、漬込み期間が7日を越えると、鮑の塩分濃度が高くなり過ぎ、乾燥後に鮑が硬くなって削り工程で欠け易くなり、その結果、歩留まりが悪くなる。漬込み期間中は、雑菌やカビが繁殖し難いように2℃以上5℃以下に保つことが好ましい。
【0028】
前記煮熟工程は、塩漬した鮑を温水で煮る工程である。本実施形態の煮熟工程では、75℃以上80℃以下の温水で40分以上50分以下煮る。
【0029】
前記乾燥工程は、煮熟した鮑を乾燥させる工程である。本実施形態の乾燥工程は、乾燥期間を短縮するために赤外線乾燥機を利用して乾燥させる。具体的には、42℃以上48以下の温風で95時間以上120時間以下乾燥させる。乾燥工程では、乾燥後の鮑(以下、乾燥鮑ともいう)の水分活性値が0.7未満になるように乾燥させる。これにより、塩分濃度が3.0%以上9.0%以下の乾燥鮑が得られる。
【0030】
前記水分活性値調節工程は、乾燥鮑の水分活性値が0.7AW以上0.8AW以下になるように調節する工程である。本実施形態の水分活性値調節工程は、乾燥鮑を水蒸気によって蒸した後、その表面に付着した水分を浸透させて水分活性値を前記範囲に調節する。具体的には、スチームコンベクションを使用し、85℃以上90℃以下の熱風で水蒸気を循環させ、その雰囲気中で乾燥鮑を芯温が85℃以上になるまで加熱する。より具体的には、4分以上6分以下加熱する。その後、乾燥鮑を冷蔵庫に入れ冷却しつつ、その乾燥鮑の表面に付着した水分を内部へ浸透させる。より具体的には、乾燥鮑を室内が2℃以上5℃以下に保たれた冷蔵庫に入れて1日以上2日以下冷却する。
【0031】
前記削り工程は、水分活性値調節工程を経た乾燥鮑を削り節状(薄板状・薄膜状)に削る工程である。具体的には、削り工程では、乾燥鮑を0.01mm以上0.03以下の厚みに削って削り節状にする。なお、削り工程前の乾燥鮑の塩分濃度は、3.0%以上9.0%以下となり、また、その水分活性値が0.7AW以上0.8AW以下となることから、削り際に切削刃への粘着や欠けが生じ難い硬さとなっており、さらに0.01mm以上0.03以下の厚みに削ることで、より切削刃への粘着や欠けが生じ難くなる。その結果、歩留りが悪くなることを抑制できる。
【0032】
前記削り工程を経て得られた鮑の削り片は、例えば常温(20℃以上28℃以下)・常湿(60%以上80%以下)の室内で自然と水分が抜けて水分活性値が0.5以上0.7未満になる。
【0033】
前記各工程を経て得られた乾燥鮑の削り片は、塩分濃度が3.0%以上9.0%以下、厚みが0.01mm以上0.03以下、水分活性値が0.5AW以上0.7AW未満となる。なお、水分活性値が、0.73AW未満となることにより、雑菌やカビなどの繁殖し難くなる。
【実施例0034】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することが勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0035】
本実施例では、下処理工程を経た7cm程度の大きさ(具体的には、長手方向の長さが7cm程度)の鮑を使用し、塩漬工程における塩水の塩分濃度を変更した他は、同一条件で塩分濃度が異なる複数のサンプルを作製した。そして、各サンプルの作製時における歩留りを評価した。さらに、歩留まりが良好なサンプルについては、食味試験を実施した。
【0036】
各サンプルは、具体的には次のように作製した。先ず、塩分濃度3.4%、7%、9%、11%、13%、15%、17%の塩水を用意し、それぞれの塩水に生鮮鮑を7日間漬込んだ。その後、塩漬けした鮑を75℃の温水で40分煮た後、赤外線乾燥機に投入し45℃の熱風で99時間乾燥させて乾燥鮑を得た。次に、その乾燥鮑をスチームコンベクションに投入し、85℃以上90℃以下の熱風で水蒸気を循環させて蒸すことにより、その芯温が85℃になるまで加熱した後、室温5℃の冷蔵庫内で1日保管して水分活性値が0.75AWになるように調節した。その後、乾燥鮑を厚さ0.02mmに削ってサンプルA~Gを得た。
【0037】
各サンプルの塩分濃度と歩留りとの関係を図1に示す。サンプルの塩分濃度(サンプル自体の塩分濃度)は、フォルハルト法によって測定した。ここで、サンプルの塩分濃度とは、乾燥鮑の削り片の塩分濃度であるから、当然に削る前の乾燥鮑も同様の塩分濃度となる。また、歩留りは、次の式に基づき算出した。歩留り(%)=(削り工程後のサンプルの総重量(g)/削り工程前の乾燥鮑の総重量(g))×100。図1から分かるように、サンプルの塩分濃度が9%を超えると、歩留りが悪くなっていることが分かる。これは、サンプルの塩分濃度、つまり、乾燥鮑の塩分濃度が9%を超えると、乾燥鮑の硬化が進み、削り工程で欠け易くなることが原因と考えられる。
【0038】
次に、歩留りが極端に悪かったサンプルF,Gを除くサンプルA~Eに関し、食味試験を実施した結果を図2に示す。食味試験は、20代~60代の12人の被験者を対象に行った。具体的には、被験者にサンプルA~Eを食べてもらい、鮑と塩味とのバランスが優れたものほど高得点となるように、それぞれのサンプルに1~6の点数を付けてもらった。なお、図2では、それぞれのサンプルの合計点数を示す。図2から分かるように、サンプルの塩分濃度が9%以下のサンプルA~Cについて合計点数が高く、一方、サンプルの塩分濃度が9.0%を超えるサンプルD,Eについては合計点数が低い。この結果から、サンプルの塩分濃度を9.0%以下にすれば、鮑の風味を生かすことができることが分かる。また、サンプルの塩分濃度が8%以下のサンプルA,Bについては、特に合計点が高い。この点に関し、被験者にアンケートを取ったところ、これは適度に塩味が抑えられ鮑の風味が良く感じられたという回答が得られた。このことから、鮑の風味を重要視すれば、サンプルの塩分濃度は3.0%以上8.0%以下であることがより好ましいといえる。
【0039】
<その他の実施形態> 本発明は、前記実施形態に限定されるものではない。前記実施形態では、塩漬工程において、鮑を塩水に漬け込んだが、これに限定されず、例えば塩に直接漬け込んでもよい。この場合、塩の重量は、漬込む鮑の重量の3.0%以上9.0%以下にすることが好ましい。
【0040】
また、前記実施形態では、乾燥工程において乾燥期間を短縮するため赤外線乾燥機を使用したが、これに限定されず、例えば天日干しにて乾燥させてもよい。
【0041】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の一部同士の組み合わせや、変形等を行っても構わない。

図1
図2