(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078048
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】ベーンポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 2/344 20060101AFI20240603BHJP
F04C 18/344 20060101ALI20240603BHJP
F04C 5/00 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
F04C2/344 331A
F04C18/344 351C
F04C5/00 311Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190367
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100176072
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 功
(74)【代理人】
【識別番号】100169225
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 明
(72)【発明者】
【氏名】庄司 幸広
(72)【発明者】
【氏名】下口 保
(72)【発明者】
【氏名】長浜 敬則
【テーマコード(参考)】
3H040
【Fターム(参考)】
3H040AA03
3H040BB05
3H040CC16
3H040CC20
3H040DD03
3H040DD08
3H040DD11
3H040DD36
(57)【要約】
【課題】製造にかかるコストを抑制しつつ装置の小型化を実現し、かつ、エネルギー効率の向上を図るベーンポンプを提供する。
【解決手段】ロータ13の各スリット13B内に、それぞれ一部が外周面13Cの径方向外側に突出するようにして配される複数のベーン14を備え、各ベーン14は、吐出口16A,16Bから吐出される流体の圧力が所定値以下の場合、内周面12Aに接した状態となり、吐出口16A,16Bから吐出される流体の圧力が所定値を超えた場合、少なくともロータ13の回転方向における吸入口15Aから吐出口16Aまでの間(及び、吸入口15Bから吐出口16Bまでの間)の領域の一部において、各ポンプ室P内の流体の圧力により内周面12Aから離れるように変形した状態となる弾性部材であるものとする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒形状のカムリングと、
前記カムリングの内側において回転し、当該カムリングの内周面と対向する外周面に複数のスリットが形成されたロータと、
各スリット内に、それぞれ一部が前記外周面の径方向外側に突出するようにして配される複数のベーンと、
前記カムリング、前記ロータ、及び、各ベーンを当該ロータの回転軸の延伸方向両端側から挟持してポンプ室を形成し、各ポンプ室に流体を導入する吸入口、及び、各ポンプ室から当該流体を吐出する吐出口が形成される一対のサイドプレートと、
を備え、
各ベーンは、前記吐出口から吐出される前記流体の圧力が所定値以下の場合、前記内周面に接した状態となり、前記吐出口から吐出される前記流体の圧力が当該所定値を超えた場合、少なくとも前記ロータの回転方向における前記吸入口から前記吐出口までの間の領域の一部において、各ポンプ室内の前記流体の圧力により当該内周面から離れるように変形した状態となる弾性部材である、
ベーンポンプ。
【請求項2】
前記ベーンは、前記内周面と離接する先端部が、前記回転方向と反対側に湾曲した形状である、
請求項1に記載のベーンポンプ。
【請求項3】
前記ベーンが接する前記ロータの前記スリットの開口部分の角部が、曲面形状である、
請求項1に記載のベーンポンプ。
【請求項4】
前記所定値は、0.3MPa以上0.5MPa以下である、
請求項1に記載のベーンポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ベーンポンプは、自動車のトランスミッションの制御用に使用されているポンプであり、今後は、電気自動車の潤滑用及び冷却用のポンプとしても採用されていくと考えられている。一例として下記特許文献1に開示される従来の定容量形(平衡型)ベーンポンプは、常に一定量の作動油を吐出するタイプのものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のベーンポンプは、回路の安全性を考えて、ポンプの吐出口の下流側に接続される配管に安全弁を設置し、配管内の負荷が上がると安全弁を開放し、作動油を逃がすことができる設計にする必要がある。これによって製造にかかるコストが上がり、さらに、装置が大型化してしまう。また、ポンプから安全弁までの回路圧力損失が発生するため、安全弁から作動油を吐出するときには圧力損失が大きくなり、エネルギー効率が低下してしまう。
【0005】
上記課題に鑑み、本発明は、製造にかかるコストを抑制しつつ装置の小型化を実現し、かつ、エネルギー効率の向上を図ることができるベーンポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の第一態様に係るベーンポンプは、筒形状のカムリングと、前記カムリングの内側において回転し、当該カムリングの内周面と対向する外周面に複数のスリットが形成されたロータと、各スリット内に、それぞれ一部が前記外周面の径方向外側に突出するようにして配される複数のベーンと、前記カムリング、前記ロータ、及び、各ベーンを当該ロータの回転軸の延伸方向両端側から挟持してポンプ室を形成し、各ポンプ室に流体を導入する吸入口、及び、各ポンプ室から当該流体を吐出する吐出口が形成される一対のサイドプレートと、を備え、各ベーンは、前記吐出口から吐出される前記流体の圧力が所定値以下の場合、前記内周面に接した状態となり、前記吐出口から吐出される前記流体の圧力が当該所定値を超えた場合、少なくとも前記ロータの回転方向における前記吸入口から前記吐出口までの間の領域の一部において、各ポンプ室内の前記流体の圧力により当該内周面から離れるように変形した状態となる弾性部材である。
【0007】
また、本発明の第二態様では、前記内周面と離接する先端部が、前記回転方向と反対側に湾曲した形状である。
【0008】
また、本発明の第三態様では、前記ベーンが接する前記ロータの前記スリットの開口部分の角部が、曲面形状である。
【0009】
また、本発明の第四態様では、前記所定値は、0.3MPa以上0.5MPa以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るベーンポンプによれば、製造にかかるコストを抑制しつつ装置の小型化を実現し、かつ、エネルギー効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係るベーンポンプの正面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るベーンポンプの部分拡大図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るベーンの変形を説明する部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては極力同一の符号を付して、重複する説明は適宜省略する。
【0013】
≪構成≫
図1は、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と記載)に係るベーンポンプ1の正面図である。また、
図2は、ベーンポンプ1の部分拡大図であり、
図3は、
図1のIII-III断面図である。ただし、
図3においてはベーン14を省略している。
【0014】
ベーンポンプ1は、定容量形ベーンポンプであり、
図1に示すように、ケーシング11、カムリング12、ロータ13、複数のベーン14、第一のサイドプレート15、及び、第二のサイドプレート16を主要部として備えている。
【0015】
ケーシング11は、略円筒形状の内周面を有しており、当該内周面に接するようにしてカムリング12が回転自在に嵌め込まれている。
【0016】
カムリング12は、外周面12Bの径方向の断面形状が正円形となっており、内周面12Aの径方向の断面形状が略楕円形となっている、筒状部材である。
【0017】
ロータ13は、カムリング12の内周面12Aとの間に空間を有するようにして、カムリング12の径方向内側に設けられている。また、ロータ13は、カムリング12の中心線Oと同軸のシャフト(回転軸)13Aを中心として、
図2の破線矢印で示すように回転する。さらに、ロータ13には、外周面13Cに開口するようにして形成された複数のスリット13Bが、周方向において等間隔に配されている。
【0018】
ベーン14は、一部が外周面13Cから突出するようにして、スリット13B内に配されている板状部材である。また、ベーン14は、ばね鋼によって形成された弾性部材である。なお、
図1のように、各スリット13Bに一つずつベーン14が配されているので、ベーン14の数はスリット13Bの数と同数となる。
【0019】
また、各ベーン14は、後述する第一の吐出口16A及び第二の吐出口16Bから吐出される作動油の圧力に応じて、カムリング12の内周面12Aに接した状態と、後述する各ポンプ室P内の作動油の圧力により内周面12Aから離れるように変形した状態とが切り替わる弾性部材である。
【0020】
一対の、第一のサイドプレート15、及び、第二のサイドプレート16は、
図3に示すように、カムリング12、ロータ13、及び、各ベーン14をシャフト13Aの延伸方向両端側から挟持することで、
図1に示すように、複数のポンプ室Pを形成する部材である。
【0021】
第一のサイドプレート15は、シャフト13Aの延伸方向一端側に設けられている。また、第一のサイドプレート15には、各ポンプ室Pに作動油(流体)を導入する、第一の吸入口15A、及び、第二の吸入口15Bが形成されている。なお、第一の吸入口15A、及び、第二の吸入口15Bの上流側には、それぞれ図示しない配管が接続している。
【0022】
第二のサイドプレート16は、シャフト13Aの延伸方向他端側に設けられている。また、第二のサイドプレート16には、各ポンプ室Pから作動油を吐出する、第一の吐出口16A、及び、第二の吐出口16Bが形成されている。なお、第一の吐出口16A、及び、第二の吐出口16Bの下流側には、それぞれ図示しない配管が接続している。
【0023】
そして、
図1に示すように、ロータ13の回転方向において、第一の吸入口15A、第一の吐出口16A、第二の吸入口15B、第二の吐出口16Bの順で、略等間隔で配置されている。
【0024】
既に説明したように、カムリング12の内周面12Aの径方向の断面形状は楕円形であり、ロータ13の外周面13Cの径方向の断面形状は正円形である。これによって、カムリング12の内周面12Aとロータ13の外周面13Cとの離隔距離は、周方向に変化している。
【0025】
すなわち、
図1に示すように、第一の吸入口15Aと第一の吐出口16Aとの間、及び、第二の吸入口15Bと第二の吐出口16Bとの間において、上記離隔距離は最大になる。また、第一の吐出口16Aと第二の吸入口15Bとの間、及び、第一の吸入口15Aと第二の吐出口16Bとの間において、上記離隔距離は最小になる。
【0026】
各ベーン14は、第一の吐出口16A及び第二の吐出口16Bから吐出される作動油の油圧が所定値以下の場合、すなわち、ベーンポンプ1が通常運転状態の場合、
図2のように、その径方向外側の端部である先端部14Aが、カムリング12の内周面12Aに摺接しながらロータ13とともに回転する。この状態では、離隔距離の変化に追従してベーン14のロータ径方向の突出高さが変化する。
【0027】
したがって、ベーンポンプ1が通常運転状態の場合、ポンプ室Pは間断なく形成されていることになる。さらに、このポンプ室Pは、ロータ13の回転方向において、第一の吸入口15A通過直後の位置から第一の吐出口16Aの位置に向けて、その容積が小さくなる。また同様に、第二の吸入口15B通過直後の位置から第二の吐出口16Bの位置に向けて、その容積が小さくなる。
【0028】
ここで、
図4はベーン14の変形を説明する部分拡大図である。各ベーン14は、第一の吐出口16A及び第二の吐出口16Bから吐出される油圧が所定値を超えた場合、少なくとも、
図4のように、ロータ13の回転方向(破線矢印)における第一の吸入口15Aと第一の吐出口16Aとの間の領域A(
図2及び
図4参照)の一部において、ポンプ室P内の油圧により(四つの実線矢印で示すように)押され、先端部14Aが内周面12Aから離れるように変形する(つまり、ベーン14が
図4中に破線で示す状態から実線で示す状態に変形する)。
【0029】
またこのとき、図示していないが、ロータ13の回転方向における第二の吸入口15Bと第二の吐出口16Bとの間の領域においても、ポンプ室P内の油圧により先端部14Aが内周面12Aから離れるように変形する。
【0030】
このようにしてベーン14は、第一の吐出口16A及び第二の吐出口16Bから吐出される油圧が所定値を超えた場合、少なくとも上述した二箇所の領域において変形しつつ、ロータ13とともに回転する。
【0031】
詳しくは後述の≪動作≫において説明するが、上述のようにしてベーン14とカムリング12との間に隙間ができると、ポンプ室P内の作動油が当該隙間を通って吐出側から吸入側に向けて抜けていく。これにより、第一の吐出口16A及び第二の吐出口16Bから吐出される油圧は所定値に留まる。したがって、ベーンポンプ1には従来のような安全弁を設ける必要がなくなる。
【0032】
なお、上記所定値は、0.3MPa以上0.5MPa以下とするのが望ましい。これは、上記所定値を0.3MPa未満とすると、自動車のトランスミッションの制御用あるいは電気自動車の潤滑用及び冷却用として使用するには作動油の吐出量が少なすぎてしまい、反対に、0.5MPaよりも大きくすると、配管等が破損してしまう可能性が出てしまい、安全弁の代わりとして機能しないためである。
【0033】
ところで、従来のベーンは、径方向に長すぎると、ロータの回転速度を上げた際に、遠心力によりカムリングの内周面と接触する先端部に生じる応力が高くなってしまい、折れてしまう危険性があった。そのため従来のベーンにおいては、径方向の長さを制限した設計としている。これによって、従来のベーンポンプは、始動直後などの回転速度が低い場合においては、ベーンの先端部がカムリングの内周面に接触できないので、ポンプとして機能しなかった。
【0034】
しかしながら、本実施形態に係るベーンポンプ1においては、ベーン14が弾性部材であるため、その先端部14Aに生じる応力で折れる危険性が低いので、ベーン14を径方向に長く設定することができる。これによりベーンポンプ1は、ロータ13の回転速度が低い場合であっても、ベーン14の先端部14Aをカムリング12の内周面12Aに摺接させることができ、ポンプとして機能することができる。
【0035】
なお、ベーン14の外周面13Cからの飛び出し部分の長さは、ベーン14全体の長さの1/2程度とするのが好ましい。これにより、ベーン14の外周面13Cからの飛び出し部分にかかる応力を低減することができる。
【0036】
また、
図1、
図2、
図4に示すように、各ベーン14は、内周面12Aと離接する先端部14Aが、ロータ13の回転方向と反対側に湾曲した形状である。これにより、湾曲した部分に作動油が入り込むので、ベーン14とカムリング12の内周面12Aとの摩耗を低減することができる。
【0037】
さらに、
図4に示すように、ベーン14が接するスリット13Bの開口部分の角部13Dは、丸みを帯びた形状、すなわち曲面形状である。これにより、ベーン14と角部13Dとの摩耗を低減することができる。
【0038】
図1及び
図2に示すように、スリット13Bの径方向内側の端部である根元17の形状については、径方向の断面形状が略正円形となっている。また、ベーン14の径方向内側の端部である基端部14Bは、根元17の形状に対応する略正円形であり、基端部14Bは根元17の内周面に摺動することができる。
【0039】
これにより、ロータ13の回転に応じてベーン14の一部の径方向外側への飛び出しを許容しつつ、完全にベーン14がスリット13Bから抜けてしまうことを防ぐことができる。また、基端部14B及び根元17を単なる直線形状とした場合と比べて、基端部14Bと根元17との接触部分に応力を集中させないようにできる。
【0040】
≪動作≫
以下では、ベーンポンプ1の動作について説明する。
【0041】
ベーンポンプ1を始動させると、まず、ロータ13が回転するとともに、ベーンポンプ1の上流側の配管を通過した作動油が、第一の吸入口15A及び第二の吸入口15Bからカムリング12とロータ13との間の空間に導入される。
【0042】
そしてベーン14は、始動直後の低回転状態の時点から、ロータ13の回転による遠心力、及び、根元17への作動油の流入によってスリット13Bから径方向外側に飛び出る。この状態において、ベーン14の先端部14Aは、カムリング12の内周面12Aに摺接し、ポンプ室Pが形成される。
【0043】
第一の吸入口15A及び第二の吸入口15Bから導入された作動油は、ポンプ室Pに流れ込む。ポンプ室Pに流れ込んだ作動油は、ロータ13の回転方向にしたがって移動する。その際、既に説明したように、ポンプ室Pは、第一の吸入口15A通過直後の位置から第一の吐出口16Aの位置に向けて、その容積が小さくなる。また、第二の吸入口15B通過直後の位置から第二の吐出口16Bの位置に向けて、その容積が小さくなる。
【0044】
このポンプ室Pの容積の変化によって、第一の吐出口16A及び第二の吐出口16Bに向けてポンプ室P内部の油圧が上がり、第一の吐出口16A及び第二の吐出口16Bから作動油が押し出されるようにして下流側の配管(図示略)に吐出されることになる。
【0045】
そしてロータ13は、回転速度が予め定められた設定値(上述した所定値以下の値)となると、安定して一定量の作動油を吐出し続ける。
【0046】
ただし、第一の吐出口16A及び第二の吐出口16Bにおける油圧が上述した所定値を超えた場合、特に、第一の吸入口15A通過直後の位置から第一の吐出口16Aの位置に向けて、ポンプ室P内の油圧が高くなる。また同様に、第二の吸入口15B通過直後の位置から第二の吐出口16Bの位置に向けて、ポンプ室P内の油圧が高くなる。
【0047】
すると、これらの位置におけるポンプ室Pの回転方向後方側を形成するベーン14、すなわち、第一の吸入口15Aと第一の吐出口16Aとの間の領域A(
図2及び
図4参照)におけるベーン14が、ポンプ室P内の油圧により、
図4中の四つの矢印で示すように押される。そして、押されたベーン14が、回転方向と逆方向に変形し、その先端部14Aがカムリング12の内周面12Aから離れる。また同様に、第二の吸入口15Bと第二の吐出口16Bとの間の領域においても、ベーン14が、回転方向と逆方向に変形し、その先端部14Aがカムリング12の内周面12Aから離れる。
【0048】
ベーン14がカムリング12から離れたことで、作動油が吐出側から吸入側に流れ、上記ポンプ室P内の圧力が下がるため、第一の吐出口16A及び第二の吐出口16Bにおける油圧が所定値を超えることがなくなる。すなわち、本実施形態に係るベーンポンプ1では、下流側の配管への作動油の吐出量が自動的に調整されるので、従来のベーンポンプのように安全弁を設ける必要がない。
【0049】
≪作用効果≫
本実施形態に係るベーンポンプ1は、筒形状のカムリング12と、カムリング12の内側において回転し、カムリング12の内周面12Aと対向する外周面13Cに複数のスリット13Bが形成されたロータ13と、各スリット13B内に、それぞれ一部が外周面13Cの径方向外側に突出するようにして配される複数のベーン14と、カムリング12、ロータ13、及び、各ベーン14をロータ13のシャフト(回転軸)13Aの延伸方向両端側から挟持してポンプ室Pを形成し、各ポンプ室Pに流体を導入する吸入口15A,15B、及び、各ポンプ室Pから当該流体を吐出する吐出口16A,16Bが形成される一対のサイドプレート15,16と、を備え、
各ベーン14は、吐出口16A,16Bから吐出される流体の圧力が所定値以下の場合、内周面12Aに接した状態となり、吐出口16A,16Bから吐出される流体の圧力が所定値を超えた場合、少なくともロータ13の回転方向における吸入口15Aから吐出口16Aまでの間(及び、吸入口15Bから吐出口16Bまでの間)の領域の一部において、各ポンプ室P内の流体の圧力により内周面12Aから離れるように変形した状態となる弾性部材である。
これにより本実施形態では、吐出口16A,16Bから吐出される流体の圧力が高くなると、ベーン14が各ポンプ室P内の流体の圧力により内周面12Aから離れるように変形し、本来吐出口16A,16Bから吐出されるはずの流体の一部が吸入口15A,15B側に抜けるので、吐出口16A,16Bから下流の配管に吐出される流体が所定値を超えることを防ぐことができる。したがって、安全弁を設けずとも回路の安全性を確保することができるので、製造にかかるコストを抑制しつつ装置の小型化を実現し、かつ、エネルギー効率の向上を図ることができる。
さらに本実施形態では、ベーン14が弾性部材であるため、従来のベーンに比べて、先端部14Aに生じる応力が原因で折れるといった危険性が低いので、ベーン14を径方向に長く設定することができる。よって本実施形態では、ロータ13の回転速度が低い場合であっても、ベーン14の先端部14Aをカムリング12の内周面12Aに摺接させることができ、ポンプとして機能することができる。
さらに本実施形態では、ベーン14が弾性部材であるため、ベーン14とスリット13Bとのクリアランスの誤差は、ベーン14の変形量である程度吸収することができるので、高精度な製造が求められていた従来のベーンポンプに比べて、製造にかかるコストを低減することができる。
【0050】
また本実施形態では、内周面12Aと離接する先端部14Aが、ロータ13の回転方向と反対側に湾曲した形状である。
これにより本実施形態は、湾曲した部分に流体が入り込むので、ベーン14とカムリング12の内周面12Aとの摩耗を低減することができる。
【0051】
また本実施形態では、ベーン14が接するロータ13のスリット13Bの開口部分の角部13Dが、曲面形状である。
これにより本実施形態では、ベーン14とスリット13Bの開口部分の角部13Dとの摩耗を低減することができる。
【0052】
また本実施形態では、上記所定値は、0.3MPa以上0.5MPa以下である。
これにより本実施形態に係るベーンポンプ1は、自動車のトランスミッションの制御用あるいは電気自動車の潤滑用及び冷却用として使用するのに十分な吐出量を確保しつつ、流体の圧力による配管等の破損を防ぐことができる。
【0053】
≪変形例≫
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。すなわち、上述した具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。また、上記実施形態及び下記変形例が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【0054】
例えば、上記実施形態では、吸入口及び吐出口がそれぞれ二つずつ形成されるものとしたが、それ以外の個数であってもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、第一の吐出口16A及び第二の吐出口16Bにおける油圧が所定値を超えた場合、第一の吸入口15Aと第一の吐出口16Aとの間の領域、及び、第二の吸入口15Bと第二の吐出口16Bとの間の領域において、ベーン14がカムリング12の内周面12Aから離れるとした。しかしながら、これらの領域に加えて、それ以外の領域においても、ベーン14がカムリング12の内周面12Aから離れるようにしてもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、ロータ13の回転速度が低い場合であっても、ベーン14の先端部14Aをカムリング12の内周面12Aに摺接させるように、ベーン14の長さを設定するものとしたが、さらに言えば、ロータ13の停止状態においても、ベーン14の先端部14Aがカムリング12の内周面12Aに接触(又は押圧)するようにしてもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、ベーンポンプ1が定容量形(すなわち平衡型)ベーンポンプであるとしたが、ベーンポンプ1は可変容量形(すなわち非平衡型)ベーンポンプとしてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1…ベーンポンプ、12…カムリング、12A…(カムリングの)内周面、13…ロータ、13A…シャフト(回転軸)、13B…スリット、13C…(ロータの)外周面、13D…角部、14…ベーン、14A…(ベーンの)先端部、15…第一のサイドプレート、15A…第一の吸入口、15B…第二の吸入口、16…第二のサイドプレート、16A…第一の吐出口、16B…第二の吐出口