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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078055
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】避雷導線の検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/54 20200101AFI20240603BHJP
   G01R 31/58 20200101ALI20240603BHJP
   G01R 31/56 20200101ALI20240603BHJP
   H02G 13/00 20060101ALI20240603BHJP
   F03D 80/30 20160101ALN20240603BHJP
   F03D 17/00 20160101ALN20240603BHJP
【FI】
G01R31/54
G01R31/58
G01R31/56
H02G13/00 060
F03D80/30
F03D17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190381
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000145954
【氏名又は名称】株式会社昭電
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【弁理士】
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】大林 和輝
(72)【発明者】
【氏名】柳川 俊一
(72)【発明者】
【氏名】今井 勇夫
(72)【発明者】
【氏名】大輪 正文
【テーマコード(参考)】
2G014
3H178
【Fターム(参考)】
2G014AA02
2G014AB02
2G014AB08
2G014AB31
2G014AB33
2G014AC07
2G014AC18
3H178AA03
3H178AA22
3H178AA43
3H178BB43
3H178BB59
3H178DD70X
(57)【要約】
【課題】ユーザーが避雷導線の断線の有無を精度よく判定するために有用な測定結果を出力可能な避雷導線の検査装置を提供する。
【解決手段】避雷導線の検査装置1は、パルス波(第1パルス波)である検査信号を発生させ、避雷導線110の一端から他端に向けて検査信号を注入する検査信号発生器10と、避雷導線110の一端側の電圧波形又は電流波形を観測し、第1パルス波の到達時間と、第1パルス波の反射波(第2パルス波)の到達時間との時間差Δtを測定する測定器20と、を備え、第1パルス波の継続時間は、避雷導線110が断線していない場合の時間差Δtよりも短い。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス波である検査信号を発生させ、避雷導線の一端から他端に向けて前記検査信号を注入する検査信号発生器と、
前記避雷導線の前記一端側の電圧波形又は電流波形を観測し、前記パルス波の到達時間と、前記パルス波の反射波の到達時間との時間差を測定する測定器と、を備え、
前記パルス波の継続時間は、前記避雷導線が断線していない場合の前記時間差よりも短いことを特徴とする避雷導線の検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の避雷導線の検査装置において、
前記測定器は、測定した前記時間差を用いて、前記パルス波が伝搬した距離又は前記パルス波が反射した位置を求めることを特徴とする避雷導線の検査装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の避雷導線の検査装置において、
前記検査信号発生器は、接地線と接続され、
前記接地線は、前記避雷導線よりも長いことを特徴とする避雷導線の検査装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の避雷導線の検査装置において、
前記パルス波の振幅は、40V以上であることを特徴とする避雷導線の検査装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の避雷導線の検査装置において、
前記避雷導線は、本線と、前記本線から分岐した分岐線とを含むことを特徴とする避雷導線の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、避雷導線(ダウンコンダクター)の検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1や特許文献2には、避雷導線にステップ波を注入し、当該ステップ波とその反射波を観測することにより、避雷導線の断線を検出する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-29351号公報
【特許文献2】特開2021-25859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1や特許文献2に記載の技術は、避雷導線に注入されるステップ波とその反射波による理想的な波形(矩形状に変化する波形)が観測される場合には有効であるが、実際には、ノイズや容量性負荷の影響により、理想的な波形が観測されない場合がある。図14(A)~図14(C)に、実際に観測されるステップ波とその反射波の電圧波形の一例を示す。図14(A)は、避雷導線が断線していない場合に観測される電圧波形であり、図14(B)及び図14(C)は、避雷導線が断線している場合に観測される電圧波形である。図14(B)と図14(C)とでは避雷導線の断線位置が異なる。避雷導線が断線している場合に観測される電圧波形(図14(B)、図14(C))は、避雷導線が断線していない場合に観測される電圧波形(図14(A))とは異なるが、反射波到達時の立ち上がり箇所を正確に推定することが難しい。また、反射波の到達は測定器に記録された波形よりユーザーが目視で確認するため、ユーザーの熟練度などにより差異が生じてしまい、あるいは、立ち上がり時間を正確にプロット可能なハイスペックなオシロスコープが必要となる。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、ユーザーが避雷導線の断線の有無を精度よく判定するために有用な測定結果を出力可能な検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]
本適用例に係る避雷導線の検査装置は、パルス波である検査信号を発生させ、避雷導線の一端から他端に向けて前記検査信号を注入する検査信号発生器と、前記避雷導線の前記一端側の電圧波形又は電流波形を観測し、前記パルス波の到達時間と、前記パルス波の反射波の到達時間との時間差を測定する測定器と、を備え、前記パルス波の継続時間は、前記避雷導線が断線していない場合の前記時間差よりも短いことを特徴とする。
本適用例に係る避雷導線の検査装置では、検査信号発生器が避雷導線にステップ波ではなくパルス波である検査信号を注入し、測定器がその応答波形を観察してパルス波の到達時間とパルス波の反射波の到達時間との時間差を測定する。避雷導線が断線していない場合、パルス波の継続時間は、パルス波の到達時間とパルス波の反射波の到達時間との時間差よりも短いので、測定器は、パルス波と反射波が明確に分離された波形を観測し、当該時間差を正確かつ容易に測定することができる。また、避雷導線が断線している場合、測定器が測定するパルス波の到達時間と反射波の到達時間との時間差が避雷導線が断線して
いない場合よりも短くなり、あるいは、パルス波と反射波が分離されずに測定器がパルス波の到達時間と反射波の到達時間との時間差を測定することができない。したがって、ユーザーは、測定器が測定する時間差に基づいて、避雷導線が断線しているか否かを精度よく判定することができる。このように、本適用例に係る避雷導線の検査装置によれば、ユーザーが避雷導線の断線の有無を精度よく判定するために有用な測定結果を出力することができる。
【0007】
[適用例2]
上記適用例に係る避雷導線の検査装置において、前記測定器は、測定した前記時間差を用いて、前記パルス波が伝搬した距離又は前記パルス波が反射した位置を求めてもよい。
本適用例に係る避雷導線の検査装置によれば、パルス波が伝搬した距離又はパルス波が反射した位置を求めるので、ユーザーは、当該距離又は当該位置に基づいて、避雷導線の断線の有無や断線箇所を判定することができる。
【0008】
[適用例3]
上記適用例に係る避雷導線の検査装置において、前記検査信号発生器は、接地線と接続され、前記接地線は、前記避雷導線よりも長くてもよい。
本適用例に係る避雷導線の検査装置によれば、検査信号発生器が発生させたパルス波が測定器の観測位置に到達する時間が、当該パルス波に起因して接地線の一端から他端へと向かい当該他端で反射するパルス波が測定器の観測位置に到達する時間よりも早いので、接地線での反射による測定への悪影響が生じにくい。
【0009】
[適用例4]
上記適用例に係る避雷導線の検査装置において、前記パルス波の振幅は、40V以上であってもよい。
本適用例に係る避雷導線の検査装置によれば、反射波の振幅が比較的大きく、ピークも明瞭であるため、測定器がパルス波の到達時間と反射波の到達時間との時間差を正確に測定することができる。
【0010】
[適用例5]
上記適用例に係る避雷導線の検査装置は、前記避雷導線は、本線と、前記本線から分岐した分岐線とを含んでもよい。
本適用例に係る避雷導線の検査装置によれば、検査信号発生器が避雷導線にステップ波ではなくパルス波である検査信号を注入するので、避雷導線に含まれる分岐線での反射波の影響によって測定器が測定を誤るおそれが小さい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る検査装置による検査対象である風車の構成を示す図である。
図2】本実施形態に係る検査装置の外観図である。
図3】本実施形態に係る検査装置の機能ブロック図である。
図4】(A)は避雷導線が断線していない場合の測定状態を模式化した図、(B)は観測される電圧波形を模式化した図である。
図5】(A)避雷導線が断線している場合の測定状態を模式化した図、(B)は観測される電圧波形を模式化した図である。
図6】検査信号発生器から出力される検査信号(第1パルス波)の一例を示す図である。
図7】避雷導線の根元部において観測される電圧波形の一例を示す図である。
図8図7に示す電圧波形が比較回路によって2値化された信号の電圧波形の一例を示す図である。
図9】(A)~(F)は、第1パルス波の振幅がそれぞれ10V,20V,40V,60V,80V,100Vである場合に測定器によって観測される電圧波形の一例を示す図である。
図10】分岐線を含む避雷導線の測定状態を模式化した図である。
図11】(A)は避雷導線に分岐線が無い場合に観測される波形を示す図、(B)は、避雷導線が1本の分岐線を含む場合に観測される波形を示す図、(C)は、避雷導線が2本の分岐線を含む場合に観測される波形を示す図である。
図12】本実施形態に係る検査装置の処理の手順を示すフローチャート図である。
図13】本実施形態に係る検査装置がビルに設置された避雷針に接続された状態を示す図である。
図14】(A)は避雷導線が断線していない場合に実際に観測されるステップ波とその反射波の電圧波形の一例を示す図、(B),(C)は避雷導線が断線している場合に実際に観測されるステップ波とその反射波の電圧波形の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。この説明に用いる図面は説明の便宜上のものである。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
以下では、風力発電用の風車のブレード(風車翼)に内蔵された避雷導線が断線しているか否かを検査するための検査装置を例に挙げて説明する。
【0013】
1.風車の構成
図1は、本実施形態に係る検査装置が風車のブレードに内蔵された避雷導線に接続された状態を示す図である。図1に示すように、検査対象となる風車100は、タワー101と、タワー101と接続されるナセル102と、ナセル102と接続される風車ローター103とを備える。すなわち、風車ローター103は、ナセル102を介してタワー101に支持されている。風車ローター103は、ローターヘッド(ハブ)104と、ローターヘッド104に取付けられるブレード105とを備える。風車ローター103には、1本のブレード105が設けられてもよいし、複数本のブレード105が設けられてもよい。ブレード105には、雷を捕捉するための導体からなるレセプター106と、避雷導線110とが内蔵されている。避雷導線110の先端部はレセプター106と接続されている。タワー101には、昇降用梯子107と、接地線120とが収容されている。検査装置1は、避雷導線110の根元部と接地線120の一端との間に電気的に接続される。接地線120の他端は、昇降用梯子107の支柱に接続されている。そして、昇降用梯子107は地面Gと同電位(0V)であり、接地線120は、昇降用梯子107を介して接地されている。検査時には、ユーザーである検査実施者が、昇降用梯子107を使ってナセル102まで昇り、避雷導線110の根元部と接地線120の一端との間に検査装置1を接続し、検査装置1を用いて避雷導線110の断線の有無を検査する。なお、風力発電時には、避雷導線110の根元部と接地線120の一端とが接続されており、レセプター106が捕捉した雷は、避雷導線110、接地線120及び昇降用梯子107を介して地面Gに放流されるようになっている。
【0014】
2.検査装置の構成及び機能
図2は検査装置1の外観図であり、図3は検査装置1の機能ブロック図である。図2に示すように、検査装置1は、直方体形状の筐体2を備え、筐体2の上面には、正側接続端子3、負側接続端子4、測定ボタン31、調整ボタン32及び記録ボタン33を含む操作部30と、表示部40とが設けられている。正側接続端子3は避雷導線110の根元部と接続される端子であり、負側接続端子4は接地線120の一端と接続される端子である。また、筐体2の側面には、電源接続端子5が設けられている。電源接続端子5は、入力電
源と接続される端子である。入力電源は、例えば、AC100VやAC200Vの交流電圧を出力する交流電源であってもよいし、DC5Vの直流電圧を出力するモバイルバッテリなどの直流電源であってもよい。図3に示すように、検査装置1は、検査信号発生器10と、測定器20と、操作部30と、表示部40と、記録装置50とを含む。検査信号発生器10、測定器20及び記録装置50は、図2の筐体2に収容されている。検査信号発生器10及び測定器20は、正側接続端子3により避雷導線110と接続される。また、検査信号発生器10及び測定器20は、負側接続端子4を介して接地線120の一端と接続され、接地線120によって接地される。
【0015】
検査信号発生器10は、接地電位(0V)を基準として所定の振幅のパルス波である検査信号を発生させ、避雷導線110の一端(根元部)から他端(先端部)に向けて検査信号を注入する。例えば、検査信号発生器10は、電源装置11と、昇圧回路12と、コンデンサー13と、半導体スイッチ14と、整合抵抗15と、制御回路16とを含む。電源装置11は、入力電源と接続され、入力電源から供給される電源電圧を所望の直流電圧(例えば、数V)に変換して昇圧回路12に出力する。なお、電源装置11は、この直流電圧の他に、測定器20に含まれるCPU23の動作用の電源電圧も出力する。
【0016】
電源装置11から出力される直流電圧は、昇圧回路12によって数十~数百Vに昇圧され、昇圧回路12の出力電圧に応じた電荷がコンデンサー13に蓄積される。コンデンサー13に蓄積された電荷は、半導体スイッチ14がオンのときに整合抵抗15を介して避雷導線110の一端(根元部)に出力される。半導体スイッチ14のオン/オフは制御回路16によって制御され、半導体スイッチ14がオンすることでパルス波が立ち上がり、その後に半導体スイッチ14がオフすることでパルス波が立ち下がる。このようにして、パルス波である検査信号が、避雷導線110の一端(根元部)から他端(先端部)のレセプター106に向けて注入される。
【0017】
測定器20は、接地電位(0V)を基準として避雷導線110の一端側(根元部側)の電圧波形又は電流波形を観測し、検査信号のパルス波の到達時間と、当該パルス波の反射波の到達時間との時間差Δtを測定する。以下では、検査信号のパルス波を「第1パルス波」と称し、第1パルス波の反射波を「第2パルス波」と称する。この時間差Δtは、第1パルス波が反射する位置によって変化する。図4(A)は、避雷導線110が断線していない場合の測定状態を模式化した図であり、図4(B)は、この場合に測定器20によって観測される電圧波形を模式化した図である。避雷導線110が断線していない場合、図4(A)及び図4(B)に示すように、検査信号発生器10から避雷導線110の根元部に出力された第1パルス波は、レセプター106と接続される避雷導線110の先端部で反射して第2パルス波となる。この場合、測定器20は、避雷導線110の根元部への第1パルス波の到達時間と第2パルス波の到達時間との時間差ΔtとしてΔt1を測定する。一方、図5(A)は、避雷導線110が断線している場合の測定状態を模式化した図であり、図5(B)は、この場合に測定器20によって観測される電圧波形を模式化した図である。避雷導線110が断線している場合、図5(A)及び図5(B)に示すように、検査信号発生器10から避雷導線110の根元部に出力された第1パルス波は、避雷導線110の断線箇所で反射して第2パルス波となる。この場合、測定器20は、避雷導線110の根元部への第1パルス波の到達時間と第2パルス波の到達時間との時間差ΔtとしてΔt1よりも短いΔt2を測定する。
【0018】
図3に示すように、例えば、測定器20は、分圧回路21と、比較回路22と、CPU(Central Processing Unit)23と、メモリー24とを含む。分圧回路21は、避雷導線110の一端側(根元部側)の電圧を数V(例えば、3.3V)に分圧する。例えば、分圧回路21は、避雷導線110の根元部とグラウンドとの間に直列に接続された複数の抵抗を備え、当該複数の抵抗を流れる電流によって生成される電圧を出力してもよい。分
圧回路21の出力電圧は、比較回路22によって所望の閾値電圧VTと大小比較されることにより、2値化信号に変換される。
【0019】
CPU23は、メモリー24に記憶されているプログラムに従い、測定処理を行う。本実施形態では、CPU23は、検査実施者が操作部30に含まれる測定ボタン31(図2参照)を押下操作すると、この押下操作によって発生する信号を受け取り、検査信号発生器10の制御回路16に対して、半導体スイッチ14を所定時間オンさせるための制御信号を出力する。すなわち、検査実施者が測定ボタン31を押下操作すると、押下時間に関係なく所定時間だけ半導体スイッチ14がオンし、検査信号発生器10から第1パルス波が出力される。図6に、検査信号発生器10から出力される第1パルス波の一例を示す。図6の例では、0nsにおいて半導体スイッチ14がオンすることにより、第1パルス波の電圧が0Vから上昇し、20ns後に約100Vに到達している。さらに、52nsにおいて半導体スイッチ14がオフすることにより、第1パルス波の電圧が約100Vから低下し、28ns後に0Vに到達している。すなわち、図6の例では、半導体スイッチ14がオンする時間は52nsである。
【0020】
CPU23は、制御回路16を介して半導体スイッチ14をオンさせた直後より、比較回路22から出力される2値化信号に基づいて、避雷導線110の根元部への第1パルス波の到達時間と第2パルス波の到達時間との時間差Δtを測定する。図7に、検査信号発生器10から図6に示す第1パルス波が出力された場合に、避雷導線110の根元部において観測される電圧波形の一例を示す。また、図8に、図7に示す電圧波形が比較回路22によって2値化された信号の電圧波形の一例を示す。図7及び図8の例では、閾値電圧VTが40Vに設定されている。図8に示すように、CPU23は、時間差Δtとして、第1パルス波が2値化された第1矩形波の立ち上がりエッジと第2パルス波が2値化された第2矩形波の立ち上がりエッジとの時間差を測定する。あるいは、CPU23は、時間差Δtとして、第1矩形波の立ち下がりエッジと第2矩形波の立ち下がりエッジとの時間差を測定してもよい。ここで、第1矩形波の立ち下がりエッジが第2矩形波の立ち上がりエッジよりも遅れると、第1矩形波と第2矩形波が合成された1つの矩形波となり、CPU23は時間差Δtを測定することができない。時間差Δtの測定を可能にするためには、第1パルス波の継続時間は、避雷導線110が断線していない場合(第1パルス波が避雷導線110の先端部で反射した場合)の時間差Δt(=Δt1)よりも短いことが必要である。第1パルス波の継続時間は、半導体スイッチ14がオンする時間であり、図6の例では52nsに相当する。あるいは、第1パルス波の継続時間は、第1パルス波が発生してから消滅するまでの時間であってもよく、図6の例では80nsに相当してもよい。なお、避雷導線110が断線している場合、断線箇所によって時間差Δtが変化するが、第1パルス波の継続時間が短いほど時間差Δtの測定可能範囲が広くなる。
【0021】
また、第2パルス波は第1パルス波よりも振幅が減衰するので、測定器20が時間差Δtを正確に測定するためには、減衰した第2パルス波の振幅がある程度大きいことが必要である。図9(A)~図9(F)に、第1パルス波の振幅がそれぞれ10V,20V,40V,60V,80V,100Vである場合に測定器20によって観測される電圧波形の一例を示す。図9(A),図9(B)に示すように、第1パルス波の振幅が10V又は20Vの場合、第2パルス波は振幅が小さく、ピークも不明瞭である。これに対して、図9(C)~図9(F)に示すように、第1パルス波の振幅が40V以上の場合、第2パルス波は振幅が比較的大きく、ピークも明瞭であるため、測定器20が時間差Δtを正確に測定することができる。したがって、第1パルス波の振幅は、40V以上であることが好ましい。
【0022】
なお、検査信号発生器10が発生させた第1パルス波により、接地線120の一端から他端へと向かう第3パルス波も発生する。この第3パルス波が接地線120の他端で反射
し、第3パルス波が反射した第4パルス波が第2パルス波よりも前に測定器20に到達すると、時間差Δtの測定に悪影響が生じ得る。そのため、第4パルス波が第2パルス波よりも後に測定器20に到達するように、接地線120は、避雷導線110よりも長いことが好ましい。
【0023】
本実施形態では、CPU23は、さらに、測定した時間差Δtを用いて、検査信号発生器10から出力されたパルス波が伝搬した距離l又は当該パルス波が反射した位置pを求める。具体的には、CPU23は、式(1)のように、避雷導線110を伝搬するパルス波の伝搬速度vと時間差Δtとを用いて、パルス波が伝搬した距離lを算出することができる。なお、パルス波が反射した位置pは、距離lの1/2として算出される。
【数1】
【0024】
一般的に、伝搬速度vは、光速度cよりも低速となる。CPU23は、式(2)を用いて、避雷導線110のケーブル絶縁体の比誘電率ε,比透磁率μより、伝搬速度vを算出することも可能である。
【数2】
【0025】
しかしながら、比誘電率ε,比透磁率μを正確に求めることは難しいため、式(3)のように、光速度cと適切な補正係数aとの積を伝搬速度vとすることが最も容易である。補正係数aは、仮に伝搬速度vが光速度cと等しいものとして避雷導線110が断線していない状態で測定した時間差Δtを用いて式(1)によって算出される距離lと、避雷導線110の長さとの比として算出される。例えば、避雷導線110の長さが24mである場合に距離lが25mであれば、適切な補正係数aは24/25=0.96となる。
【数3】
【0026】
検査実施者は、測定を開始する前に、操作部30に含まれる調整ボタン32(図2参照)を操作して補正係数aの値を調整する。CPU23は、検査実施者が調整ボタン32を操作すると、この操作によって発生する信号を受け取り、補正係数aに調整された値を設定する。そして、検査実施者が、測定ボタン31を押下操作すると、CPU23は、時間差Δtを測定し、式(3)及び式(2)によって距離lを算出し、算出した距離lを表示部40に表示させる。なお、CPU23は、位置pを算出して表示部40に位置pを表示させてもよいし、距離l及び位置pを算出して表示部40に距離l及び位置pを表示させてもよい。
【0027】
また、CPU23は、検査実施者が操作部30に含まれる記録ボタン33(図2参照)を押下操作すると、この押下操作によって発生する信号を受け取り、記録装置50に、測定結果とともに記録媒体への測定結果の記録を指示する信号を出力する。記録装置50は、この信号を受けて、記録媒体に測定結果を記録する。記録媒体は、例えば、SDカード等である。測定結果は、測定器20が算出した距離l及び位置pの少なくとも一方を含み、時間差Δtを含んでもよい。
【0028】
なお、図10に示すように、避雷導線110が、本線110aと、本線110aから分
岐した少なくとも1つの分岐線110bとを含んでいてもよい。この場合、本線110aの先端部からの反射波である第2パルス波とともに分岐線110bからの反射波も発生する。しかしながら、図11(A)~図11(C)に示すように、測定器20によって観測される波形はほとんど変わらないので、避雷導線110が分岐線110bを含んでいても、時間差Δtの測定にはほとんど影響しない。図11(A)は、避雷導線110が49mの本線110aのみで分岐線110bが無い場合に観測される波形である。図11(B)は、避雷導線110が49mの本線110aと本線110aの根元部から10mの位置で分岐する分岐線110bを含む場合に観測される波形である。図11(C)は、避雷導線110が49mの本線110aと本線110aの根元部から10m,15mの位置でそれぞれ分岐する2つの分岐線110bを含む場合に観測される波形である。
【0029】
3.検査装置の処理手順
最後に、これまでに説明した検査装置1の処理の手順を示すフローチャートを図12に示す。例えば、検査装置1は、CPU23がメモリー24に記憶されているプログラムを実行することにより、図12に示す処理を実行する。図12に示すように、検査装置1は、ユーザーによる調整ボタン32の操作があった場合(ステップS10のY)、調整ボタン32からの信号に基づいて補正係数aを設定する(ステップS20)。検査装置1は、ユーザーによる調整ボタン32の操作がなかった場合は(ステップS10のN)、ステップS20の処理を行わない。次に、検査装置1は、ユーザーによる測定ボタン31の操作があった場合(ステップS30のY)、第1パルス波を発生させて避雷導線110の根元部に出力し(ステップS40)、所定時間が経過するまで(ステップS60のN)、避雷導線110の根元部の電圧を取得する(ステップS50)。この所定時間は、避雷導線110が断線していない場合に、検査信号発生器10によって第1パルス波が発生してから測定器20によって第2パルス波が観測されるまでの時間よりも十分に長い時間に設定される。
【0030】
次に、検査装置1は、所定時間が経過すると(ステップS60のY)、ステップS50で取得した電圧の時系列において第2パルス波が観測された場合(ステップS70のY)、避雷導線110の根元部への第1パルス波の到達時間と第2パルス波の到達時間との時間差Δtを測定する(ステップS80)。次に、検査装置1は、第1パルス波の伝搬距離l及び反射位置pの少なくとも一方を算出する(ステップS90)。次に、検査装置1は、ステップS80の算出結果を表示部40に表示する(ステップS100)。一方、検査装置1は、ステップS50で取得した電圧の時系列において第2パルス波が観測されなかった場合(ステップS70のN)、表示部40にエラーを表示する(ステップS110)。第2パルス波が観測されない場合としては、検査装置1と避雷導線110とが正常に接続されていない場合や、避雷導線110が根元付近で断線していて第1パルス波と第2パルス波が結合された場合などが想定される。検査装置1は、ユーザーによる測定ボタン31の操作がなかった場合は(ステップS30のN)、ステップS40~S110の処理を行わない。
【0031】
また、検査装置1は、ユーザーによる記録ボタン33の操作があった場合(ステップS120のY)、測定結果(最後にステップS90で算出した距離lや位置p、さらにはステップS80で測定した時間差Δt)を記録媒体に記録する(ステップS130)。検査装置1は、ユーザーによる記録ボタン33の操作がなかった場合は(ステップS120のN)、ステップS130の処理を行わない。なお、検査装置1は、ステップS110で表示部40にエラーを表示させた場合も、測定結果がないので、ステップS130の処理を行わなくてもよい。そして、検査装置1は、検査が終了するまで(ステップS140のN)、ステップS10~S130の処理を繰り返し行う。
【0032】
4.作用効果
以上に説明したように、本実施形態に係る検査装置1によれば、避雷導線110が断線していない場合、第1パルス波の継続時間は、第1パルス波の到達時間と第2パルス波の到達時間との時間差Δtよりも短いので、測定器20は、第1パルス波と第2パルス波が明確に分離された波形を観測し、時間差Δtを正確かつ容易に測定することができる。また、避雷導線110が断線している場合、測定器20が測定する時間差Δtが避雷導線110が断線していない場合よりも短くなり、あるいは、第1パルス波と第2パルス波が分離されずに測定器20が時間差Δtを測定することができない。したがって、検査実施者は、測定器20が測定する時間差Δtに基づいて、避雷導線110が断線しているか否かを精度よく判定することができる。また、本実施形態に係る検査装置1によれば、測定器20が第1パルス波が伝搬した距離l又は第1パルス波が反射した位置pを算出するので、検査実施者は、当該距離l又は位置pに基づいて、避雷導線110の断線の有無や断線箇所を判定することができる。また、本実施形態に係る検査装置1によれば、接地線120が避雷導線110よりも長いので、接地線120での反射による時間差Δtの測定への悪影響が生じにくい。また、本実施形態に係る検査装置1によれば、第1パルス波の振幅を40V以上とすることにより、第2パルス波の振幅が比較的大きく、ピークも明瞭であるため、測定器20が時間差Δtを正確に測定することができる。また、本実施形態に係る検査装置1によれば、検査信号発生器10が避雷導線110にステップ波ではなくパルス波である検査信号を注入するので、避雷導線110が分岐線110bを含んでいても分岐線110bでの反射波の影響によって測定器20が時間差Δtの測定を誤るおそれが小さい。さらに、本実施形態に係る検査装置1によれば、検査実施者は、測定器20による測定結果を用いて、短時間で避雷導線110の検査を実施することができる。
【0033】
5.応用例
上記の実施形態では、検査装置1の検査対象として、風力発電用の風車のブレードに内蔵された避雷導線を例に挙げたが、検査装置1の検査対象となる避雷導線はこれに限られず、例えば、ビルなどの建物に設置された避雷導線であってもよい。図13は、検査装置1が、ビル200に設置された避雷導線210に接続された状態を示す図である。図13の例では、ビル200の屋上には、雷を捕捉するための導体からなる避雷針201が設置されている。避雷導線210の先端部は避雷針201と接続されている。検査装置1は、避雷導線210の一端(根元部)と接地線220の一端との間に電気的に接続される。接地線220の他端は地面Gに埋設されている接地極202と接続されている。検査時には、検査実施者が、避雷導線210の一端(根元部)と接地線220の一端との間に検査装置1を接続し、検査装置1を用いて避雷導線210の断線の有無を検査する。なお、検査時以外は、避雷導線210の根元部と接地線220の一端とが接続されており、避雷針201が捕捉した雷は避雷導線210、接地線220及び接地極202を介して地面Gに放流されるようになっている。
【0034】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0035】
1…検査装置、2…筐体、3…正側接続端子、4…負側接続端子、5…電源接続端子、10…検査信号発生器、11…電源装置、12…昇圧回路、13…コンデンサー、14…半導体スイッチ、15…整合抵抗、16…制御回路、20…測定器、21…分圧回路、22…比較回路、23…CPU、24…メモリー、30…操作部、31…測定ボタン、32…
調整ボタン、33…記録ボタン、40…表示部、50…記録装置、100…風車、101…タワー、102…ナセル、103…風車ローター、104…ローターヘッド、105…ブレード、106…レセプター、107…昇降用梯子、110…避雷導線、120…接地線、200…ビル、201…避雷針、202…接地極、210…避雷導線、220…接地線
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