IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社の特許一覧

特開2024-78148非水電解液、および該非水電解液を備える蓄電デバイス
<>
  • 特開-非水電解液、および該非水電解液を備える蓄電デバイス 図1
  • 特開-非水電解液、および該非水電解液を備える蓄電デバイス 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078148
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】非水電解液、および該非水電解液を備える蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20240603BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240603BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20240603BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240603BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20240603BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20240603BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M10/052
H01G11/06
H01G11/64
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190540
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】矢野 裕太
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
【Fターム(参考)】
5E078AA15
5E078AB02
5E078AB06
5E078DA14
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
(57)【要約】
【課題】電解質塩としてフッ素を含むリチウム塩を含む非水電解液を備える蓄電デバイスにおいて、蓄電デバイス中にフッ化物イオンが残存するのを抑制すること。
【解決手段】ここで開示される非水電解液は、蓄電デバイスに用いられる。非水電解液は、フッ素を含むリチウム塩である電解質塩と、カーボネート類である非水溶媒と、フッ化物イオンを捕捉する捕捉剤と、を含む。捕捉剤は、以下の一般式(1)に示された化合物である。一般式(1)におけるRは、炭素数が6以下であり、少なくとも一つの水素原子がハロゲン置換された、または、ハロゲン置換されていないアルキル基、アルケニル基、およびフェニル基のいずれかであり;R、R、およびRは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、およびn-ブチル基のうちのいずれか一つである。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスに用いられる非水電解液であって、
フッ素を含むリチウム塩である電解質塩と、
カーボネート類である非水溶媒と、
フッ化物イオンを捕捉する捕捉剤と、
を含み、
ここで、前記捕捉剤は、一般式(1):
【化1】
(ここで、Rは、炭素数が6以下であり、少なくとも一つの水素原子がハロゲン置換された、または、ハロゲン置換されていないアルキル基、アルケニル基、およびフェニル基のいずれかであり;R、R、およびRは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、およびn-ブチル基のうちのいずれか一つである)
に示された化合物である、非水電解液。
【請求項2】
前記一般式(1)におけるR、R、および、Rがいずれもメチル基である、請求項1に記載の非水電解液。
【請求項3】
前記一般式(1)におけるRがハロゲン原子を少なくとも1つ含む、請求項1に記載の非水電解液。
【請求項4】
前記捕捉剤は、トリメチルシリルアセテート、トリメチルシリルプロピオネート、トリイソプロピルシリルアクリレート、または、トリメチルシリルトリフルオロアセテートである、請求項1に記載の非水電解液。
【請求項5】
前記捕捉剤を0.1M以上含む、請求項1に記載の非水電解液。
【請求項6】
電極体と、
請求項1~5のいずれか一項に記載の非水電解液と、
前記電極体と前記非水電解液とを収容する電池ケースと、
を備える蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解液、および該非水電解液を備える蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電解質塩と、特定の構造を有するSO基含有化合物である添加剤とを含有する非水電解液が開示されている。かかるSO基含有化合物では、硫酸(HSO)の一方の水素原子が、特定の炭素数を有するアルキル基、アルコキシアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、鎖状または環状エステル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、硫黄原子を含有する有機基、ケイ素原子を含有する有機基、シアノ基を含有する有機基、リン原子を含有する有機基、または-P(=O)F基で置換されている。硫酸のもう一方の水素原子は、リチウム等のアルカリ金属、マグネシウム等のアルカリ土類金属、第4級オニウム、またはシリル基で置換された化合物である。この公報には、かかる化学構造上の特徴により、SO基含有化合物の一部が負極で分解して皮膜を形成するとともに、正極でも分解して電気抵抗の低い皮膜を形成することが記載されている。そして、これによって、広い温度範囲で蓄電デバイスの電気化学特性を著しく改善することができるとされている。
【0003】
非特許文献1には、層状のリチウム遷移金属酸化物の表面に形成されたLiCOが分解されるメカニズムに関する記載がある。この文献には、電解液に含まれる支持塩(例えば、LiPF)と、水または水素イオンとが反応することによって発生したフッ化水素がLiCOを分解することで、遷移金属が溶出し、正極と負極とにおける抵抗を増加させうることが記載されている。また、この文献には、フッ化水素がアルミニウム製の集電体を溶解することによって、抵抗を増大させうることが記載されている。
【0004】
非特許文献2には、リチウムイオン電池の正極における高電圧動作があると、正極-電解液相間(cathode-electrolyte interphase)において、溶媒が分解することによって、水とフッ化水素とが生成される反応が起こりうることが記載されている。この文献には、さらに、フッ化水素が正極と負極との両方にアタックすることで、正極からの遷移金属の溶解、負極におけるSEI皮膜の劣化等を引き起こしうることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-159120号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Freiberg,et.al.,Electrochimica.Acta.,2020,346,136271
【非特許文献2】Yu,et.al.,Electrochem.Commun.,2022,138,107286
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、本発明者は、電解質塩としてフッ素を含むリチウム塩を含む非水電解液を備える蓄電デバイスにおいて、蓄電デバイス中にフッ化物イオンが残存するのを抑制したいと考えている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここで開示される非水電解液は、蓄電デバイスに用いられる。非水電解液は、フッ素を含むリチウム塩である電解質塩と、カーボネート類である非水溶媒と、フッ化物イオンを捕捉する捕捉剤と、を含む。上記捕捉剤は、以下の一般式(1)に示された化合物である。
【0009】
【化1】
【0010】
上記一般式(1)において、Rは、炭素数が6以下であり、少なくとも一つの水素原子がハロゲン置換された、または、ハロゲン置換されていないアルキル基、アルケニル基、およびフェニル基のいずれかであり;R、R、およびRは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、およびn-ブチル基のうちのいずれか一つである。かかる構成によると、フッ素を含むリチウム塩を含む非水電解液を備える蓄電デバイスにおいて、フッ化物イオンが残存するのを抑制することができる。
【0011】
ここで開示される非水電解液の好ましい一態様では、一般式(1)におけるR、R、および、Rがいずれもメチル基である。かかる構成によると、捕捉剤の立体障害を小さくすることができる。このため、非水電解液中のフッ化物イオン残存抑制効果を高めることができる。
【0012】
ここで開示される非水電解液の好ましい一態様では、一般式(1)におけるRがハロゲン原子を少なくとも1つ含む。かかる構成によると、ハロゲン原子の電子吸引効果によって、エステル基がケイ素原子から脱離しやすくなる。このため、非水電解液中のフッ化物イオン残存抑制効果を高めることができる。
【0013】
ここで開示される非水電解液の好ましい一態様では、捕捉剤は、トリメチルシリルアセテート、トリメチルシリルプロピオネート、トリイソプロピルシリルアクリレート、または、トリメチルシリルトリフルオロアセテートである。かかる化合物である捕捉剤は、非水電解液中のフッ化物イオン残存抑制効果を実現するのに好適である。
【0014】
好ましい一態様では、ここで開示される非水電解液は、捕捉剤を0.1M以上含む。かかる構成によると、非水電解液中のフッ化物イオンの残存量を適切に低減することができる。
【0015】
また、ここで開示される技術によると、電極体と、上述の非水電解液と、該電極体と該非水電解液とを収容する電池ケースと、を備える蓄電デバイスが開示される。かかる構成の蓄電デバイスでは、上述の非水電解液を備えているため、電池性能の低下が抑制されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、蓄電デバイス100の縦断面図である。
図2図2は、電極体20の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、ここで開示される非水電解液と、該非水電解液を備える蓄電デバイスの一実施形態を説明する。ここで説明される実施形態は、特にここで開示される技術を限定することを意図したものではない。ここで開示される技術は、特に言及されない限りにおいて、ここで説明される実施形態に限定されない。図面は模式的に描かれており、必ずしも実物を反映していない。また、同一の作用を奏する部材・部位には、適宜に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、数値範囲を示す「A~B」の表記は、特に言及されない限りにおいて「A以上B以下」を意味するとともに、「Aを上回り、かつ、Bを下回る」の意味をも包含する。
【0018】
本明細書において、「蓄電デバイス」とは、電解質を介して一対の電極(正極および負極)の間で電荷担体が移動することによって充放電反応が生じるデバイスをいう。かかる蓄電デバイスは、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等の二次電池;リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等のキャパシタ;を包含する。以下では、上述した蓄電デバイスの一例として、リチウムイオン二次電池を対象とした場合の実施形態について説明する。
【0019】
図1は、蓄電デバイス100の縦断面図である。図2は、電極体20の模式図である。図1に示されているように、蓄電デバイス100は、電極体20と、電池ケース30と、非水電解液80とを備えている。
【0020】
図1および図2に示されているように、電極体20は、長尺なシート状の正極シート50と、長尺なシート状の負極シート60とが、長尺なシート状のセパレータ70を介在させつつ重ね合わせられてシート長手方向(以下、単に「長手方向」ともいう。)に捲回された捲回電極体である。電極体20では、正極シート50における露出領域52aと負極シート60における露出領域62aとが、長手方向に直交する短手方向の両端からそれぞれ外方にはみ出している。
【0021】
図1および図2に示されているように、正極シート50は、長尺なシート状の正極集電箔52と、正極活物質層54とを備えている。正極集電箔52は、例えば、アルミニウム箔である。この実施形態では、正極集電箔52は、正極活物質層54が設けられた領域と、正極活物質層54が設けられずに正極集電箔52の表面が露出した露出領域52aとを有している。正極活物質層54は、例えば、正極集電箔52の片面または両面(ここでは、両面)上に、長手方向に沿って、帯状に設けられている。正極活物質層54は、短手方向の端部(図中では、左側の端部)には、設けられていない。露出領域52aは、ここでは、短手方向の端部(図中では、左側の端部)における帯状の領域である。図1に示されているように、露出領域52aには、集電板42aが取り付けられている。
【0022】
正極活物質層54は、例えば、正極活物質を含んでいる。正極活物質としては、例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNiO、LiCoO、LiFeO、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等のリチウム遷移金属酸化物;LiFePO等のリチウム遷移金属リン酸化合物;等が挙げられる。正極活物質層54は、正極活物質以外に、導電材、バインダ等を含んでいてもよい。導電材としては、例えば、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラック;グラファイト等のその他の炭素材料が挙げられる。バインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。
【0023】
図1および図2に示されているように、負極シート60は、長尺なシート状の負極集電箔62と、負極活物質層64とを備えている。負極集電箔62は、例えば、銅箔である。この実施形態では、負極集電箔62は、負極活物質層64が設けられた領域と、負極活物質層64が設けられずに負極活物質層64の表面が露出した露出領域62aとを有している。負極活物質層64は、例えば、負極集電箔62の片面または両面(ここでは、両面)上に、長手方向に沿って、帯状に設けられている。負極活物質層64は、長手方向に直交する短手方向の端部(図中では、右側の端部)には、設けられていない。露出領域62aは、ここでは、短手方向の端部(図中では、右側の端部)における帯状の領域である。図1に示されているように、露出領域62aには、集電板44aが取り付けられている。
【0024】
負極活物質層64は、例えば、負極活物質を含んでいる。負極活物質としては、例えば、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料が挙げられる。負極活物質層64は、負極活物質以外に、バインダ、増粘剤等を含んでいてもよい。バインダとしては、例えば、スチレンブタジエンラバー(SBR)等が挙げられる。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。
【0025】
セパレータ70としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂材料からなる多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔性シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ70の表面には、耐熱層(HRL)が設けられていてもよい。
【0026】
電池ケース30は、例えば、電極体20と非水電解液80とを収容する外装容器である。電池ケース30は、ここでは、扁平な角型のケースである。図1に示されているように、電池ケース30は、正極端子42と、負極端子44と、安全弁36と、注液孔(図示なし)とを有している。正極端子42は、例えば、正極側の外部接続用端子である。正極端子42は、ここでは、集電板42aを介して、電極体20の正極シート50と電気的に接続されている。負極端子44は、例えば、負極側の外部接続用端子である。負極端子44は、ここでは、集電板44aを介して、電極体20の負極シート60と電気的に接続されている。安全弁36は、例えば、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された、薄肉部である。注液孔は、例えば、電池ケース30に非水電解液80を注液する部位である。
【0027】
非水電解液80は、例えば、電解質塩と、非水溶媒と、捕捉剤と、を含んでいる。電解質塩は、ここでは、フッ素を含むリチウム塩である。かかる電解質塩としては、例えば、LiPF、LiBF、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド(LiTFSI)等が挙げられる。これらは単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。電解質塩として、LiPFが好適に用いられうる。非水電解液80における電解質塩の濃度は、特に限定されないが、0.7mol/L以上1.3mol/L以下が好ましい。
【0028】
非水溶媒は、例えば、カーボネート類であるとよい。カーボネート類としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)等が挙げられる。これらは単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。カーボネート類は、EC、DMC、およびEMCのうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。カーボネート類は、EC、DMC、およびEMCのうちの少なくとも2つを含む混合溶媒であることがより好ましい。
【0029】
捕捉剤は、例えば、フッ化物イオンを捕捉できる化合物である。捕捉剤は、例えば、以下の一般式(1)に示された化合物であることが好ましい。
【0030】
【化2】
【0031】
一般式(1)において、Rは、例えば、炭素数が6以下であるアルキル基、アルケニル基、およびフェニル基のいずれかであるとよい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等の直鎖状アルキル基;iso-プロピル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、iso-ペンチル基、1-エチルプロピル基、3-メチルブチル基、2,2-ジメチルプロピル基、iso-ヘキシル基、3-エチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基等の分岐鎖状アルキル基;が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、エテニル基、n-プロぺニル基、n-ブテニル基、n-ペンテニル基、n-ヘキセニル基等の直鎖状アルケニル基;iso-プロぺニル基、iso-ブテニル基、sec-ブテニル基、iso-ペンテニル基、1-エチルプロぺニル基、3-メチルブテニル基、2,2-ジメチルプロぺニル基、iso-ヘキセニル基、3-エチルブテニル基、3,3-ジメチルブテニル基等の分岐鎖状アルケニル基が挙げられる。Rにおける電子吸引効果を高め、Rを含むエステル基がケイ素原子から脱離しやすくする観点から、Rにおける1つまたは2つ以上の水素原子がハロゲン置換(例えば、フッ素置換、塩素置換、臭素置換、またはヨウ素置換)されることが好ましい。また、Rが、アルキル基またはアルケニル基である場合、電子吸引効果を高める観点から、炭素数が3以下であることが好ましい。
【0032】
一般式(1)において、R、R、およびRは、例えば、CH(メチル基)、CHCH(エチル基)、CHCHCH(n-プロピル基)、CH(CH(iso-プロピル基)、およびCHCHCHCH(n-ブチル基)のうちのいずれか一つであるとよい。R、R、およびRが、上記アルキル基であると、一般式(1)におけるケイ素原子周囲の立体障害を小さくすることができるため、フッ化物イオンがケイ素原子にアクセスしやすくなる。かかる観点から、R、R、およびRは、炭素数が小さいアルキル基であるほどよく、いずれもメチル基であることが好ましい。
【0033】
捕捉剤としては、例えば、トリメチルシリルアセテート、トリメチルシリルプロピオネート、トリイソプロピルシリルアクリレート、または、トリメチルシリルトリフルオロアセテートが好ましく用いられる。なお、捕捉剤としては、1種単独であってもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0034】
非水電解液80における捕捉剤の濃度は、ここで開示される技術の効果が実現される限り、特に限定されないが、概ね0.01M~10Mに設定されうる。非水電解液80におけるフッ化物イオンを充分に捕捉する観点から、捕捉剤の濃度は、0.05M以上が好ましく、0.1M以上がより好ましい。一方で、捕捉剤による電池性能の低下を抑制する観点から、捕捉剤の濃度は、7.5M以下が好ましく、5M以下がより好ましく、あるいは、2.5M以下であってもよく、2M以下であってもよい。
【0035】
上述のとおり、非水電解液80は、電解質塩と、非水溶媒と、捕捉剤と、を含む。電解質塩は、フッ素を含むリチウム塩である。非水溶媒は、カーボネート類である。捕捉剤は、上記一般式(1)に示された化合物である。かかる構成の非水電解液80は、上記一般式(1)に示された捕捉剤を含むことによって、フッ化物イオンを捕捉することができる。このため、該液中にフッ化物イオンが残存するのを抑制することができる。捕捉剤がフッ化物イオンを捕捉するメカニズムについて、本発明者は、以下の式(X)に示されたメカニズムを推測している。ただし、ここで開示される技術の効果が得られるメカニズムをかかるメカニズムに限定することを意図したものではない。
【0036】
【化3】
【0037】
非水電解液80においてフッ化物イオンがある場合、上記式(X)に示されているように、フッ化物イオンが捕捉剤のケイ素原子に接近して該ケイ素原子と結合するとともに、エステル部分がRCOOとしてケイ素原子から脱離する。フッ化物イオンとケイ素原子との結合は、共有結合であるため、捕捉剤に捕捉されたフッ化物イオンは、非水電解液80中に遊離しない。このようにして、非水電解液80では、フッ化物イオンの残存が抑制されている。
【0038】
そして、蓄電デバイス100は、電極体20と、非水電解液80と、電池ケース30と、を備える。上記のとおり、非水電解液80では、該液中のフッ化物イオンの残存が抑制されている。これによって、蓄電デバイス100では、フッ化物イオンによって生じうる不具合(例えば、正極活物質の溶解、SEI皮膜の劣化等)の発生が抑制されている。このため、蓄電デバイス100では、電池性能の低下が抑制されている。
【0039】
蓄電デバイス100は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(BEV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。また、蓄電デバイス100は、小型電力貯蔵装置等の蓄電池として用いられうる。また、蓄電デバイス100は、複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも用いられうる。
【0040】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を下記実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0041】
<評価用リチウムイオン二次電池の作製>
以下のとおり、例1~例9に係る評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
-例1-
正極活物質としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/3(LNCM)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、LNCM:AB:PVDF=87:10:3の質量比でN-メチルピロリドン(NMP)と混合し、正極活物質層形成用のスラリーを調製した。このスラリーを、アルミニウム箔に塗布して乾燥させた。このようにして、正極活物質層を備える正極シートを作製した。なお、正極活物質層の寸法は、47mm×45mmであった。
【0042】
負極活物質としての黒鉛(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=98:1:1の質量比でイオン交換水と混合して、負極活物質層形成用のスラリーを調製した。このスラリーを、銅箔に塗布して乾燥することにより、負極活物質層を備える負極シートを作製した。なお、負極活物質層の寸法は、49mm×47mmであった。
【0043】
セパレータ基材として、厚さ12μmの微多孔性ポリプロピレンシートを用意した。このセパレータ基材を、袋状に加工した。このようにして、袋状のセパレータを作製した。なお、セパレータの寸法は、51mm×49mmであった。
【0044】
正極シートを袋状のセパレータに収容した。負極シートを別の袋状のセパレータに収容した。各々の袋状のセパレータに収容された電極シートを、正極活物質層と負極活物質層とが対向するように積層して電極体を作製した。この電極体に集電端子を取り付け、これをラミネートケースに収容した。その後、ラミネートケースに、非水電解液を注液し、ラミネートケースを熱溶着して封止した。このようにして、例1の評価用リチウムイオン二次電池を得た。なお、非水電解液は、1.16MのLiPFである電解質塩と、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)とをEC:EMC:DMC=3:3:4の体積比で含む混合非水溶媒と、1.0Mの以下の式(A):
【化4】
に示されたトリメチルシリルアセテートである捕捉剤と、を含むものであった。
【0045】
-例2-
捕捉剤として、以下の式(B):
【化5】
に示されたトリメチルシリルプロピオネートを用いた。そのこと以外は、例1と同じ材料および手順を用いて、例2の評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0046】
-例3-
捕捉剤として、以下の式(C):
【化6】
に示されたトリイソプロピルシリルアクリレートを用いた。そのこと以外は、例1と同じ材料および手順を用いて、例3の評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0047】
-例4-
捕捉剤として、以下の式(D):
【化7】
に示されたトリメチルシリルトリフルオロアセテートを用いた。そのこと以外は、例1と同じ材料および手順を用いて、例4の評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0048】
-例5-
捕捉剤の濃度を0.1Mとした。そのこと以外は、例4と同じ材料および手順を用いて、例5の評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0049】
-例6-
捕捉剤の濃度を2Mとした。そのこと以外は、例4と同じ材料および手順を用いて、例6の評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0050】
-例7-
捕捉剤の濃度を5Mとした。そのこと以外は、例4と同じ材料および手順を用いて、例7の評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0051】
-例8-
捕捉剤として、以下の式(E):
【化8】
に示されたトリメチルフェニルアセテートを用いた。そのこと以外は、例1と同じ材料および手順を用いて、例8の評価用リチウムイオン二次電池を得た。なお、上記式(E)中の「Ph」は、フェニル基を示している。
【0052】
-例9-
捕捉剤を用いなかった。そのこと以外は、例1と同じ材料および手順を用いて、例9の評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0053】
<フッ化物イオン残存抑制効果の評価>
各例の評価用リチウムイオン二次電池に対して、3.0Vから4.3Vまで1Cの電流値での定電流充電と、4.3Vから3.0Vまで0.5Cの電流値での定電流放電を1サイクルとする充放電を、5サイクル行った。その後、評価用リチウムイオン二次電池を解体し、フッ化物イオンの濃度をイオンクロマトグラフィー(ion chromatography;IC)を用いて測定した。この測定におけるIC分析では、日本ダイオネクス社製の分析装置(ICS-600)を用いた。また、展開液として、炭酸ナトリウム(0.1M)と炭酸水素ナトリウム(0.1M)とを含むアセトニトリル溶液を用いた。なお、具体的な手法は、以下のとおりである。
【0054】
まず、解体した評価用二次電池から、負極シートを取り出し、30mm×30mmのサイズの試験片を得た。次いで、試験片を、白金(Pt)ビーカー中の展開液に投入した。次いで、超音波処理を10分間行うことによって、負極シートから負極活物質を剥離するとともに、成分を展開液に溶出させて溶出液を得た。次いで、吸引濾過を行うことによって、溶出液から負極活物質を取り除いた。そして、展開液にて溶出液を50mlに定容し、IC分析を行った。IC分析によって、溶出液中のフッ化物イオンの濃度(質量%)を算出した。
【0055】
上述のように得られた測定値に基づいて、評価用リチウムイオン二次電池におけるフッ化物イオンの残存抑制効果を評価した。まず、例9のフッ化物イオンの濃度を100%としたときの、各例のフッ化物イオンの濃度の割合(%)を算出した。この値(%)をフッ化物イオンの残存率(%)とし、表1の「残存率(%)」欄に示す。また、各例の残存率(%)に基づいて、以下のとおり、フッ化物イオンの残存抑制効果を評価した。この評価結果を、表1の「評価」欄に示す。
E(優れた抑制効果):フッ化物イオンの残存率が75%以下
G(良好な抑制効果):フッ化物イオンの残存率が75%超過95%未満
P(抑制効果なし):フッ化物イオンの残存率が95%以上
【0056】
【表1】
【0057】
<電池性能評価>
各例の評価用リチウムイオン二次電池に対して、3.0Vから4.3Vまで1Cの電流値での定電流充電と、4.3Vから3.0Vまで0.5Cの電流値での定電流放電を1サイクルとする充放電を、5サイクル行った。その後、評価用リチウムイオン二次電池の容量を測定し、以下の数式(P)を用いて求めた値を、各例の容量維持率(%)とした。結果を表1の「容量維持率(%)」欄に示す。なお、容量維持率が95%超過であった例について、「電池性能の低下がない」と評価した。
数式(P):容量維持率(%)=(5サイクル後の容量/初期容量)×100
【0058】
表1に示された結果について、例1~例7と、例8および例9とを比較すると、フッ素を含むリチウム塩である電解質塩と、カーボネート類である非水溶媒と、上記一般式(1)に示された化合物である捕捉剤とを含む非水電解液は、蓄電デバイスにおけるフッ化物イオンの残存を抑制できることがわかった。また、このような非水電解液を用いると、蓄電デバイスの性能の低下を抑制する効果(例えば、充放電による容量維持率の低下を抑制する効果)を得られることがわかった。
【0059】
以上のとおり、ここで開示される技術の具体的な態様として、以下の各項に記載のものが挙げられる。
項1:
蓄電デバイスに用いられる非水電解液であって、
フッ素を含むリチウム塩である電解質塩と、
カーボネート類である非水溶媒と、
フッ化物イオンを捕捉する捕捉剤と、
を含み、
ここで、前記捕捉剤は、一般式(1):
【化9】
(ここで、Rは、炭素数が6以下であり、少なくとも一つの水素原子がハロゲン置換された、または、ハロゲン置換されていないアルキル基、アルケニル基、およびフェニル基のいずれかであり;R、R、およびRは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、およびn-ブチル基のうちのいずれか一つである)
に示された化合物である、非水電解液。
項2:
前記一般式(1)におけるR、R、および、Rがいずれもメチル基である、項1に記載の非水電解液。
項3:
前記一般式(1)におけるRがハロゲン原子を少なくとも1つ含む、項1または2に記載の非水電解液。
項4:
前記捕捉剤は、トリメチルシリルアセテート、トリメチルシリルプロピオネート、トリイソプロピルシリルアクリレート、または、トリメチルシリルトリフルオロアセテートである、項1~3のいずれか一つに記載の非水電解液。
項5:
前記捕捉剤を0.1M以上含む、項1~4のいずれか一つに記載の非水電解液。
項6:
電極体と、
項1~5のいずれか一項に記載の非水電解液と、
前記電極体と前記非水電解液とを収容する電池ケースと、
を備える蓄電デバイス。
【0060】
以上、ここで開示される技術の実施形態について説明したが、ここで開示される技術を上記実施形態に限定することを意図したものではない。ここで開示される技術は、他の実施形態においても実施されうる。特許請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上記した実施形態の一部を他の変形態様に置き換えることも可能であり、上記した実施形態に他の変形態様を追加することも可能である。また、その技術的特徴が必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することも可能である。
【符号の説明】
【0061】
20 電極体
30 電池ケース
50 正極シート
60 負極シート
70 セパレータ
80 非水電解液
100 蓄電デバイス

図1
図2