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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078172
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】車両用制動装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20240603BHJP
   B60T 8/171 20060101ALI20240603BHJP
   B60T 13/138 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
B60T8/17 B
B60T8/171 Z
B60T13/138 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190568
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】315019735
【氏名又は名称】日立Astemo上田株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮田 和明
(72)【発明者】
【氏名】小池 正樹
【テーマコード(参考)】
3D048
3D246
【Fターム(参考)】
3D048BB25
3D048CC54
3D048HH18
3D048HH26
3D048HH66
3D048HH68
3D048QQ07
3D048RR06
3D048RR13
3D246BA02
3D246DA01
3D246GA04
3D246GA22
3D246GB37
3D246GC14
3D246GC16
3D246HA39A
3D246HA43A
3D246HA44A
3D246JA12
3D246KA15
3D246LA04Z
3D246LA15Z
3D246LA33Z
3D246LA63Z
3D246LA73Z
(57)【要約】
【課題】制動操作量に対する発生制動力の相関関係に係る整合度に基づき制動性能評価を行う制動性能評価システムによる制動性能不良の誤評価を可及的に抑制する。
【解決手段】車両用制動装置11は、マスタシリンダ装置14と、モータシリンダ装置16と、マスタシリンダ装置14及びモータシリンダ装置16の間を連通する配管チューブ22a,22dに介在するように設けられ、該液圧路を開放又は閉止するように動作する常時開型の遮断弁60a,60bと、所要の昇圧要求が生じた際のブレーキパッド温度Tpadが第1負荷閾値Tpadth1を超えているか否かを判定する判定部75と、所要の昇圧要求に基づき遮断弁60a,60bを閉止させる駆動制御を行う制動制御部77と、を備える。制動制御部77は、昇圧要求が生じた際のブレーキパッド温度Tpadが第1負荷閾値Tpadth1を超えている場合に、第1閉弁過渡特性を用いて非静音制御を実行する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者による制動操作に従う一次液圧を発生するマスタシリンダ装置と、
所要の昇圧要求に従う電動アクチュエータの作動により目標制動力に応じた二次液圧を発生するモータシリンダ装置と、
前記マスタシリンダ装置及び前記モータシリンダ装置の間を連通する液圧路に介在するように設けられ、当該液圧路を開放又は閉止するように動作する常時開型の電磁弁と、
所要の昇圧要求に基づき前記電磁弁を閉止させる駆動制御を行う制御部と、を備え、自車両に制動力を付与する車両用制動装置であって、
昇圧要求が生じた際の制動負荷が定常域に属するか否かを判定する判定部をさらに備え、
前記判定部は、昇圧要求が生じた際の制動負荷が所定の第1負荷閾値を超えている場合に、当該制動負荷が前記定常域を超える警戒域に属する旨の判定を下し、
前記制御部は、昇圧要求が生じた際の前記制動負荷が前記警戒域に属する場合に、当該昇圧要求の発生時点から前記電磁弁を閉止するに至る第1閉弁過渡特性を用いて制動制御を実行し、
前記第1閉弁過渡特性は、昇圧要求が生じた際の前記制動負荷が前記定常域に属している場合に当該昇圧要求の発生時点から前記電磁弁を閉止するに至る第2閉弁過渡特性と比べて急峻に設定される
ことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用制動装置であって、
前記昇圧要求は、運転者による制動操作に関わらず生じた前記目標制動力に基づく昇圧要求である
ことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両用制動装置であって、
前記判定部は、昇圧要求が生じた際の前記制動負荷が所定の第2負荷閾値を超えているか否かをさらに判定し、当該第2負荷閾値は、前記第1負荷閾値と比べて高い値に設定され、
昇圧要求が生じた際の前記制動負荷が前記第2負荷閾値を超えている場合、前記判定部は、前記制動負荷が前記警戒域を超える警告域に属する旨の判定を下す
ことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用制動装置であって、
昇圧要求が生じた際の前記制動負荷の大小評価はブレーキパッド温度の相関値に基づき行われ、前記第1負荷閾値及び前記第2負荷閾値は、ブレーキパッド温度の相関値により定義される
ことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項5】
請求項1~4のうちいずれか一項に記載の車両用制動装置であって、
前記判定部は、前記制動負荷が前記警戒域に属する場合に昇圧要求が生じた際の当該制動負荷が所定の第3負荷閾値未満か否かをさらに判定し、当該第3負荷閾値は、前記第1負荷閾値と比べて低い値に設定され、
前記制動負荷が前記警戒域に属する場合に昇圧要求が生じた際の当該制動負荷が前記第3負荷閾値未満である場合に、前記判定部は、当該制動負荷が前記警戒域から前記定常域へと遷移した旨の判定を下す
ことを特徴とする車両用制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に制動力を付与する車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電気自動車では、油圧系統を媒介して制動力を付与する既存のブレーキシステムに加えて、電気系統を媒介して制動力を発生させるバイワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムが採用されている。かかるバイワイヤ式のブレーキシステムでは、運転者のブレーキペダルの操作量を電気信号に変換して、スレーブシリンダ(以下、「モータシリンダ装置」という。)のピストンを駆動する電動アクチュエータに与える。
【0003】
すると、電動アクチュエータの作動に伴うピストンの駆動によってモータシリンダ装置に制動液圧が発生する。こうして発生した制動液圧によりホイールシリンダを作動させることで車両に制動力を付与する(例えば、特許文献1の車両用ブレーキ装置を参照)。
特許文献1に係るバイワイヤ式の車両用ブレーキ装置によれば、電気系統を媒介して、車両に制動力を付与することができる。
【0004】
特許文献1に係るバイワイヤ式の車両用ブレーキ装置では、バルブに連結されたプランジャをリターンスプリングのばね力に抗して閉弁位置に向けて駆動する形式の電磁弁を、マスターシリンダとモータシリンダ装置とを連通する液圧路に設ける。そして、運転者の制動操作に従ってマスターシリンダで発生した一次液圧を電磁弁で遮断すると共に、ブレーキペダル操作量に応じた二次液圧をモータシリンダ装置に発生させる。
電磁弁の型式としては、フェイルセーフを確保する目的で常時開型を用いる。
【0005】
常時開型の電磁弁を閉止するにはリターンスプリングの反力を受けるプランジャを閉位置に維持して閉弁するのに必要な推力を発生させるための電力の供給を要する。電磁弁に電力を供給すると、プランジャが閉弁位置に到達した際にケースとの間で衝突音が生じる。また、電力の供給を停止してプランジャを初期位置に戻す際にも、リターンスプリングのばね力によってプランジャが初期位置に到達した際にケースとの間で衝突音が生じる。
【0006】
こうした衝突音を低減するために、特許文献1に係るバイワイヤ式の車両用ブレーキ装置は、ブレーキ操作に応じて電磁弁を開閉制御する制御装置を備える。この制御装置は、プランジャを閉弁位置に向けて駆動する際に、ソレノイドへの供給電流を漸増させる制御を行う。説明の便宜上、こうした制御を静音制御と呼ぶ。この静音制御によって、プランジャが閉弁位置に到達する際の速度を抑制する。
【0007】
特許文献1に係るバイワイヤ式の車両用ブレーキ装置によれば、前記静音制御によってプランジャが閉弁位置に到達する際の速度を抑制することにより、電磁弁の作動に伴って生じる衝突音(騒音)を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012-131438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に係るバイワイヤ式車両用ブレーキ装置では、前記静音制御によってプランジャが閉弁位置に到達する際の速度が抑制されるため、電磁弁の応答性が損なわれる。その結果、液圧路の遮断に時間的な遅れが生じて、制動操作量に対する発生制動力の相関関係に係る整合度が損なわれてしまう。
【0010】
ここで、前記相関関係に係る整合度に基づき制動性能評価を行う制動性能評価システムを採用した場合、例えば、長い降坂路を下るような制動負荷の大きい走行シ-ンでは、同制動性能評価システムが制動性能の低下を誤評価してしまうおそれがあった。
【0011】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、制動操作量に対する発生制動力の相関関係に係る整合度に基づき制動性能評価を行う制動性能評価システムを採用した場合であっても、当該制動性能評価システムによる制動性能不良の誤評価を可及的に抑制可能な車両用制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、(1)に係る発明は、運転者による制動操作に従う一次液圧を発生するマスタシリンダ装置と、所要の昇圧要求に従う電動アクチュエータの作動により目標制動力に応じた二次液圧を発生するモータシリンダ装置と、前記マスタシリンダ装置及び前記モータシリンダ装置の間を連通する液圧路に介在するように設けられ、当該液圧路を開放又は閉止するように動作する常時開型の電磁弁と、所要の昇圧要求に基づき前記電磁弁を閉止させる駆動制御を行う制御部と、を備え、自車両に制動力を付与する車両用制動装置であって、昇圧要求が生じた際の制動負荷が定常域に属するか否かを判定する判定部をさらに備え、前記判定部は、昇圧要求が生じた際の制動負荷が所定の第1負荷閾値を超えている場合に、当該制動負荷が前記定常域を超える警戒域に属する旨の判定を下し、前記制御部は、昇圧要求が生じた際の前記制動負荷が前記警戒域に属する場合に、当該昇圧要求の発生時点から前記電磁弁を閉止するに至る第1閉弁過渡特性を用いて制動制御を実行し、前記第1閉弁過渡特性は、昇圧要求が生じた際の前記制動負荷が前記定常域に属している場合に当該昇圧要求の発生時点から前記電磁弁を閉止するに至る第2閉弁過渡特性と比べて急峻に設定されることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る車両用制動装置によれば、制動操作量に対する発生制動力の相関関係に係る整合度に基づき制動性能評価を行う制動性能評価システムを採用した場合であっても、当該制動性能評価システムによる制動性能不良の誤評価を可及的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る車両用制動装置の概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る車両用制動装置に備わるESB-ECU及び統合ECUの周辺を含む構成を表すブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係る車両用制動装置の動作説明に供するフローチャート図である。
図4】本発明の実施形態に係る車両用制動装置の動作説明に供するタイムチャート図である。
図5】本発明の比較例に係る車両用制動装置の動作と、本発明の実施形態に係る車両用制動装置の動作とを対比して表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る車両用制動装置について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下に示す図において、共通の機能を有する部材間、又は、相互に対応する機能を有する部材間には、原則として共通の参照符号を付するものとする。また、説明の便宜のため、部材のサイズ及び形状は、変形又は誇張して模式的に表す場合がある。
【0016】
〔本発明の実施形態に係る車両用制動装置11の要旨〕
はじめに、本発明の実施形態に係る車両用制動装置11の要旨について説明する。
本発明の実施形態に係る車両用制動装置11は、昇圧要求が生じた際の制動負荷Tpad が定常域を超える警戒域に属する場合に、当該昇圧要求の発生時点から電磁弁60a、60bを閉止するに至る第1閉弁過渡特性を用いて制動制御を実行する。前記第1閉弁過渡特性は、昇圧要求が生じた際の制動負荷Tpadが定常域に属している場合に当該昇圧要求の発生時点から電磁弁電磁弁60a、60bを閉止するに至る第2閉弁過渡特性と比べて急峻に設定される。
これにより、制動操作量に対する発生制動力の相関関係に係る整合度に基づき制動性能評価を行う制動性能評価システムを採用した場合であっても、当該制動性能評価システムによる制動性能不良の誤評価(図5参照)を可及的に抑制することができる。
以下、本発明の実施形態に係る車両用制動装置11の詳細について、順次説明する。
【0017】
〔本発明の実施形態に係る車両用制動装置11の概略構成〕
次に、本発明の実施形態に係る車両用制動装置11の概略構成について、図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る車両用制動装置11の概略構成図である。
車両用制動装置11は、油圧系統を媒介して制動力を発生する既存のブレーキシステムに加えて、電気系統を媒介して制動力を発生する、バイワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムを備えている。
【0018】
車両用制動装置11は、図1に示すように、マスタシリンダ装置14と、モータシリンダ装置16と、ビークル・スタビリティ・アシスト装置18(以下、「VSA装置18」と呼ぶ。ただし、VSAは登録商標)と、液圧制動機構24FR,24RL,24RR,24FLと、を備えて構成されている。
なお、液圧制動機構24FR,24RL,24RR,24FLを総称する際には「液圧制動機構24」と省略する。
【0019】
マスタシリンダ装置14は、自車両(不図示)の運転者によるブレーキペダル12を介する制動操作に従う一次液圧を発生する機能を有する。かかる機能を実現するために、マスタシリンダ装置14は、ブレーキペダル12を介して入力される運転者の制動操作を一次液圧に変換するマスタシリンダ34、運転者によって踏込み操作されるブレーキペダル12に対して擬似的な反力を創りだすストロークシミュレータ64、及び、第1~第3遮断弁60a,60b,62を備えて構成される。
第1及び第2遮断弁60a,60bは、本発明の「電磁弁」に相当する。第1及び第2遮断弁60a,60bの機能について、詳しくは後記する。
【0020】
モータシリンダ装置16は、ブレーキモータ(電動アクチュエータ)72の作動により目標制動力(目標制動トルク)に応じた二次液圧を発生する機能を有する。かかる機能を実現するために、モータシリンダ装置16は、ブレーキモータ72の回転駆動力を受けて二次液圧を発生する一対のスレーブピストン88a,88bを備える。
【0021】
VSA装置18は、自車両の挙動を安定化させる支援を行う機能を有する。詳しく述べると、VSA装置18は、図1に示すように、自車両の挙動に応じてポンプモータ79を作動させ、この作動に伴うポンプ135の駆動によって二次液圧を増減(調整)させるように機能する。
かかる機能の発揮により、VSA装置18は、二次液圧を周期的に増減させることで制動操作時の車輪ロックを抑制するABS機能、加速時等の車輪空転を抑制するTCS(トラクション・コントロール・システム)機能、及び、旋回時の横すべりを抑制する機能を有する。
【0022】
液圧制動機構24は、自車両に備わる四輪(不図示)をそれぞれ制動する機能を有する。液圧制動機構24は、キャリパ27FR,27RL,27RR,27FLとを含んで構成される。
なお、キャリパ27FR,27RL,27RR,27FLを総称する際には「キャリパ27」と省略する。
キャリパ27は、マスタシリンダ装置14で発生した一次液圧、又はモータシリンダ装置16で発生した二次液圧によって、四輪のそれぞれに設けられたディスク(不図示)を挟み込むことで四輪を制動する。
【0023】
なお、符号Pm,Pp,Phは、液圧路22a~22fの各部を流通する制動液(ブレーキ液)の圧力を検出するブレーキ液圧センサである。
【0024】
前記のように構成された車両用制動装置11では、第1及び第2遮断弁60a,60bは、特許文献1(特開2012-131438号公報の図3参照)に示すバルブと同様に、バルブに連結されたプランジャをリターンスプリング(いずれも不図示)のばね力に抗して閉弁位置に向けて駆動する形式の電磁弁である。
【0025】
第1及び第2遮断弁60a,60bは、マスタシリンダ装置14及びモータシリンダ装置16の間を連通する液圧路22a,22dに介在するように設けられている。第1及び第2遮断弁60a,60bは、液圧路22a,22dを開放又は閉止するように動作する常時開型の電磁弁により構成されている。
【0026】
車両用制動装置11では、昇圧要求が生じたESB-ECU29及び統合ECU31(図2参照;詳しくは後記)は、運転者の制動操作に従ってマスタシリンダ装置14で発生する一次液圧を第1及び第2遮断弁60a,60bを用いて遮断する。それと同時に、制動操作量に応じた二次液圧をモータシリンダ装置16のブレーキモータ72を用いて発生させる。
【0027】
要するに、車両用制動装置11では、昇圧要求が生じたESB-ECU29及び統合ECU31は、第1及び第2遮断弁60a,60bを遮断(閉止)する。すると、遮断された第1及び第2遮断弁60a,60bを境界にして、上流側であるマスタシリンダ装置14の側で一次液圧が発生する一方、下流側であるモータシリンダ装置16の側で二次液圧が発生する。
【0028】
昇圧要求が生じていない際の車両用制動装置11の動作は次の通りである。すなわち、昇圧要求が生じていないESB-ECU29及び統合ECU31は、第1及び第2遮断弁60a,60bへの電力の供給を行わない。その結果、第1及び第2遮断弁60a,60bは開放される。すると、運転者の制動操作に従って、上流側であるマスタシリンダ装置14の側で発生した一次液圧が、開放された第1及び第2遮断弁60a,60bを通して、下流側であるモータシリンダ装置16の側へと伝えられる。
【0029】
昇圧要求が生じたESB-ECU29及び統合ECU31では、第1及び第2遮断弁60a,60bを遮断した状態で、二次液圧を調整する機能を有する部材が二系統ある。
1つ目は、ブレーキモータ72の回転駆動力を用いた一対のスレーブピストン88a,88bのスライド位置を調整することで二次液圧を調整する第1系統である。
2つ目は、ポンプモータ79の作動に伴うポンプ135の駆動によって二次液圧を調整する第2系統である。
二次液圧の調整機能に関し、一般に、ブレーキモータ72を用いる第1系統に比べて、ポンプモータ79を用いる第2系統の方が、高い応答性を有する。
【0030】
〔本明細書において用いる用語の定義〕
ここで、車両用制動装置11を説明する際に本明細書において用いる用語を定義する。
「静音制御」とは、第1及び第2遮断弁60a,60bに備わるプランジャ(不図示)を閉弁位置に向けて駆動する際に、ソレノイドへの供給電流を時間的に緩慢に漸増させる(経時変化特性の傾斜(変化率)を緩やかにする)ことにより、プランジャが閉弁位置に到達した際にケースとの間で生じる衝突音を抑制する制御を意味する。
【0031】
「昇圧要求」が生じる場面は大きく分けて二通りある。一つ目は、運転者の制動操作に従って生じる昇圧要求である。二つ目は、運転者の制動操作にかかわらず、自車両の運転状況に係る情報に基づく統合ECU31の制御によって生じる昇圧要求である。具体的には、例えば、統合ECU31は、適応巡航制御(ACC)に係る定速走行制御を行っている際に自車両の車速が設定値を超えるか、ACCに係る追従走行制御を行っている際に先行車との車間距離が設定値を下回るシーンが出現した場合に、所要の昇圧要求を出力する。
【0032】
車両用制動装置11における「制動負荷」とは、例えば、ディスクブレーキに備わるブレーキパッドの温度であるブレーキパッド温度Tpad である。また、ブレーキパッド温度Tpadは、パッド温度センサ163による検出値である。ただし、パッド温度Tpad としては、例えば、自車両の車速や横G等のパラメータに基づいて推定した値を採用しても構わない。
「ブレーキパッド温度の相関値」とは、パッド温度センサ163によるブレーキパッド温度Tpad の検出値、並びにブレーキパッド温度Tpad の推定値の両者を包括する概念である。
【0033】
第1負荷閾値Tpadth1は、図4に示すように、ブレーキパッド温度Tpad (制動負荷)が定常状態である定常域に属する場合において、定常域から警戒を要する警戒域へとブレーキパッド温度Tpad が遷移したか否かを判定する際の基準となる閾値である。
第2負荷閾値Tpadth2は、図4に示すように、ブレーキパッド温度Tpad が警戒域に属する場合において、警戒域から乗員への警告を要する警告域(警告域は警戒域と比べてより厳しい)へとブレーキパッド温度Tpad が遷移したか否かを判定する際の基準となる閾値である。ちなみに、ブレーキパッド温度Tpad は、前記制動性能評価システムにおける評価パラメータとして採用される。前記制動性能評価システムでは、ブレーキパッド温度Tpad が第2負荷閾値Tpadth2を超える場合に、制動負荷が極大であるとみなして車両用制動装置11に係る制動性能不良の判断を下す。これに対し、実施形態に係る車両用制動装置11では、ブレーキパッド温度Tpad が第1負荷閾値Tpadth1(ただし、Tpadth1 <Tpadth2 )を超える場合に、制動負荷が大であるとみなして、既定の静音制御を禁止して非静音制御を実行するようにしている。
第3負荷閾値Tpadth3は、図4に示すように、ブレーキパッド温度Tpad が警戒域に属する場合において、警戒域から定常域へとブレーキパッド温度Tpad が遷移したか否かを判定する際の基準となる閾値である。
なお、ブレーキパッド温度Tpad が警戒域から定常域へと遷移したか否かを判定する際の基準となる第3負荷閾値Tpadth3を、ブレーキパッド温度Tpad が定常域から警戒域へと遷移したか否かを判定する際の基準となる第1負荷閾値Tpadth1と比べて小さい値に設定したのは、ブレーキパッド温度Tpad が定常域と警戒域との間を短時間で遷移する、いわゆるハンチング現象が生じる事態を未然に回避する趣旨である。
【0034】
車両用制動装置11では、特に断らない限り、自車両の運転状況に係る情報に基づき統合ECU31において昇圧要求が生じたケースを例示して説明する。
【0035】
〔実施形態に係る車両用制動装置11の基本動作〕
次に、実施形態に係る車両用制動装置11の基本動作について説明する。
車両用制動装置11では、モータシリンダ装置16の正常状態下、及びバイワイヤ制御を行うESB-ECU29、統合ECU31(図2参照)の正常状態下において、例えば、運転者がブレーキペダル12を踏むことで制動操作を行うと、バイワイヤ式のブレーキシステムがアクティブになる。
【0036】
正常状態下の車両用制動装置11では、運転者が制動操作を行うと(ただし、運転者の制動操作にかかわらず、自車両の運転状況に係る情報に基づく統合ECU31の制御によって昇圧要求が生じた場合も同様)、第1及び第2遮断弁60a,60bが閉弁遮断される一方、第3遮断弁62が開弁される。マスタシリンダ34で発生した一次液圧は、マスタシリンダ34からストロークシミュレータ64へと逃される。その結果、第1及び第2遮断弁60a,60bが閉弁遮断されていても、一次液圧の緩衝が生じて、運転者の制動操作に従うブレーキペダル12のストロークが生じるようになる。
【0037】
正常状態下の車両用制動装置11では、マスタシリンダ装置14と、モータシリンダ装置16との連通を、第1及び第2遮断弁60a,60bを用いて閉弁遮断した状態で、運転者の制動操作に従う二次液圧をモータシリンダ装置16で発生させ、こうして発生した二次液圧を用いて液圧制動機構24を作動させる。
【0038】
一方、車両用制動装置11では、モータシリンダ装置16、ESB-ECU29、統合ECU31が正常作動しない異常状態下において、運転者が制動操作を行うと、既存の油圧式のブレーキシステムがアクティブになる。
【0039】
異常状態下の車両用制動装置11では、運転者が制動操作を行うと、第1及び第2遮断弁60a,60bが開放された状態で、第3遮断弁62が閉止される。マスタシリンダ34で発生した一次液圧は、所要の液圧路22a~22fを介して液圧制動機構24に伝えられ、液圧制動機構24を作動させる。
【0040】
〔ESB-ECU29及び統合ECU31の周辺を含む構成〕
次に、車両用制動装置11に備わるESB(Electrical Servo Brake)-ECU29及び統合ECU31の周辺を含む構成について、図2を参照して説明する。図2は、車両用制動装置11に備わるESB-ECU29及び統合ECU31の周辺を含む構成を表すブロック図である。
【0041】
車両用制動装置11には、図2に示すように、ESB-ECU29及び統合ECU31が備わっている。
【0042】
ESB-ECU29、及び、統合ECU31の間は、図2に示すように、通信媒体33を介して相互に情報通信可能に接続されている。通信媒体33としては、例えば、自車両内に構築されるCAN(Controller Area Network)を好適に用いることができる。CANとは、車載機器間の情報通信に用いられる多重化されたシリアル通信網である。
【0043】
〔ESB-ECU29の構成〕
ESB-ECU29には、図2に示すように、入力系統として、イグニッションキースイッチ(以下、「IGキースイッチ」と省略する。)121、車速センサ123、ブレーキペダルセンサ125、ホールセンサ127、及び、ブレーキ液圧センサPm,Pp,Phがそれぞれ接続されている。
【0044】
IGキースイッチ121は、自車両に搭載された電装部品の各部に、車載バッテリ(不図示)を介して電源電圧を供給する際に操作されるスイッチである。IGキースイッチ121がオン操作されると、ESB-ECU29に電源電圧が供給されて、ESB-ECU29が起動される。
【0045】
車速センサ123は、自車両の車速を検出する機能を有する。車速センサ123で検出された車速に係る情報は、ESB-ECU29へと送られる。
【0046】
ブレーキペダルセンサ125は、運転者によるブレーキペダル12の操作量(ストローク量)及び加重(踏力)を検出する機能を有する。ブレーキペダルセンサ125で検出されたブレーキペダル12の操作量及び加重に係る情報は、ESB-ECU29へと送られる。
ただし、ブレーキペダルセンサ125は、単にON(踏み込まれている)/OFF(踏み込まれていない)を検出する機能を有するブレーキSWであっても構わない。
【0047】
ホールセンサ127は、ブレーキモータ72の回転角度(一対のスレーブピストン88a,88bの軸線方向における現在位置情報)を検出する機能を有する。ホールセンサ127で検出されたブレーキモータ72の回転角度に係る情報は、ESB-ECU29へと送られる。
【0048】
ブレーキ液圧センサPm,Pp,Phは、ブレーキ液圧系統における第1遮断弁60aの上流側液圧、第2遮断弁60bの下流側液圧、VSA装置18内の液圧をそれぞれ検出する機能を有する。ブレーキ液圧センサPm,Ppで検出されたブレーキ液圧系統における各部の液圧情報は、ESB-ECU29へと送られる。また、ブレーキ液圧センサPhで検出された液圧情報は、ESB-ECU29及び通信媒体33をそれぞれ介して、統合ECU31へと送られる。
【0049】
一方、ESB-ECU29には、図2に示すように、出力系統として、ブレーキモータ72、及び、前記第1~第3遮断弁60a,60b,62がそれぞれ接続されている。
【0050】
ESB-ECU29は、図2に示すように、第1情報取得部71、目標制動力算出部73、判定部75、及び、制動制御部77を有して構成されている。
【0051】
第1情報取得部71は、IGキースイッチ121のオン・オフ操作に係る情報、車速センサ123で検出される車速に係る情報、ブレーキペダルセンサ125で検出される制動操作量及び加重に係る制動操作情報、ホールセンサ127で検出されるブレーキモータ72に係る回転角度情報、ブレーキ液圧センサPm,Pp,Phで検出される各部の制動液圧に係る情報などを取得する機能を有する。
【0052】
目標制動力算出部73は、運転者によるブレーキペダル12の制動操作量に基づく要求制動量に従う目標制動力(目標制動トルク)を算出する機能を有する。また、目標制動力算出部73は、統合ECU31から通信媒体33を介して送られてきた(運転者によるブレーキペダル12の制動操作にかかわらず生じた)昇圧要求に従う目標制動力を算出する機能を有する。
【0053】
判定部75は、昇圧要求が生じた際の制動負荷が定常域に属するか否かを判定する機能を有する。
判定部75は、原則として、昇圧要求が生じた際のブレーキパッド温度Tpad (制動負荷)が第1負荷閾値Tpadth1(図4参照)以下の場合に、制動負荷が定常域に属する旨の判定を下す。
また、判定部75は、昇圧要求が生じた際のブレーキパッド温度Tpad (制動負荷)が第1負荷閾値Tpadth1(図4参照)を超えている場合に、制動負荷が定常域を超える警戒域に属する旨の判定を下す。
ブレーキパッド温度Tpad (制動負荷)が定常域に属する場合において、ブレーキパッド温度Tpad が第1負荷閾値Tpadth1を超えると、ESB-ECU29は、ブレーキパッド温度Tpad が定常域から警戒域へと遷移したとみなす。
【0054】
また、判定部75は、ブレーキパッド温度Tpad が警戒域に属する場合に、昇圧要求が生じた際のブレーキパッド温度Tpadが第2負荷閾値Tpadth2(図4参照)を超えるか否かを判定する。ブレーキパッド温度Tpad が警戒域に属する場合において、ブレーキパッド温度Tpad が第2負荷閾値Tpadth2を超えていると、ESB-ECU29は、ブレーキパッド温度Tpad (制動負荷)が警戒域から警告域へと遷移したとみなす。
【0055】
さらに、判定部75は、ブレーキパッド温度Tpad (制動負荷)が警戒域に属する場合において、昇圧要求が生じた際のブレーキパッド温度Tpad が第3負荷閾値Tpadth3(図4参照)未満か否かを判定する。ブレーキパッド温度Tpad が警戒域に属する場合において、ブレーキパッド温度Tpad が第3負荷閾値Tpadth3未満になると(図4の時刻t13参照)、ESB-ECU29は、例外的に、ブレーキパッド温度Tpad が警戒域から定常域へと遷移したとみなす。
【0056】
制動制御部77は、基本的に、液圧制動機構24において作用する液圧制動力が、運転者の制動操作に基づく目標制動力に追従するように、液圧制動力の大きさを調整する制動制御を行う機能を有する。
【0057】
制動制御部77は、昇圧要求が生じた際のブレーキパッド温度Tpad が第1負荷閾値Tpadth1を超えていない場合、すなわち、所要の昇圧要求が生じた際の制動負荷が定常域に属する場合に、前記制動性能評価システムによる制動性能不良の誤評価が生じる蓋然性が低いとみなして、当該昇圧要求の発生時点(図4の時刻t1参照)を起点として第1及び第2遮断弁60a,60bに係る第2閉弁過渡特性を用いて静音制御を実行する。
【0058】
一方、制動制御部77は、昇圧要求が生じた際のブレーキパッド温度Tpad が第1負荷閾値Tpadth1を超えている場合、すなわち、第1昇圧要求が生じた際の制動負荷が警戒域に属する場合に、前記制動性能評価システムによる制動性能不良の誤評価が生じる蓋然性が高いとみなして、当該第1昇圧要求の発生時点(図4の時刻t7、t12参照)を起点として第1及び第2遮断弁60a,60bに係る第1閉弁過渡特性を用いて非静音制御を実行する。
【0059】
ESB-ECU29は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備えたマイクロコンピュータにより構成される。このマイクロコンピュータは、ROMに記憶されているプログラムやデータを読み出して実行し、ESB-ECU29が有する、各種の情報取得機能、目標制動力算出機能、所要の昇圧要求が生じた際の車両用制動装置11に係る制動負荷の高低を判定する機能、並びに、液圧制動力の大きさを調整する制動制御を行う機能を含む各種機能に係る実行制御を行うように動作する。
【0060】
〔統合ECU31の構成〕
統合ECU31には、図2に示すように、入力系統として、レーダ151、カメラ153、車輪速センサ155、アクセルペダルセンサ157、ヨーレイトセンサ159、Gセンサ161、及び、パッド温度センサ163がそれぞれ接続されている。
【0061】
レーダ151としては、例えば、レーザレーダ、マイクロ波レーダ、ミリ波レーダ、超音波レーダなどを適宜用いることができる。レーダ151は、自車両のフロントグリル裏部などに設けられる。レーダ151による自車両周囲の物標分布情報は、統合ECU31へ送られる。
【0062】
カメラ153は、自車両前方の斜め下方に傾いた光軸を有し、自車両の進行方向の画像を撮像する機能を有する。カメラ153としては、例えば、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)カメラやCCD(Charge Coupled Device)カメラなどを適宜用いることができる。カメラ153は、自車両のウインドシールド中央上部などに設けられる。カメラ153により撮像された自車両の進行方向画像情報は、例えばNTSC(National Television Standards Committee)などのインターレース方式により生成される画像信号として統合ECU31へ送られる。
【0063】
車輪速センサ155は、自車両に設けられた各車輪毎の回転速度(車輪速)をそれぞれ検出する機能を有する。車輪速センサ155でそれぞれ検出される各車輪毎の車輪速情報は、統合ECU31へ送られる。
【0064】
アクセルペダルセンサ157は、運転者によるアクセルペダルの操作量(ストローク量)を検出する機能を有する。アクセルペダルセンサ157で検出されたアクセルペダルの操作量情報は、統合ECU31へ送られる。
【0065】
ヨーレイトセンサ159は、自車両に発生しているヨーレイトを検出する機能を有する。ヨーレイトセンサ159で検出されたヨーレイト情報は、統合ECU31へ送られる。
【0066】
Gセンサ161は、自車両に発生している前後G(前後加速度)及び横G(横加速度)をそれぞれ検出する機能を有する。Gセンサ161で検出されたG情報は、統合ECU31へ送られる。
【0067】
パッド温度センサ163は、ブレーキパッド(不図示)に近接して設けられ、摩擦制動により生じたブレーキパッド温度Tpadを検出する機能を有する。ブレーキパッド温度Tpadは、自車両の制動状態と相関がある。そのため、本発明においてブレーキパッド温度Tpadは、自車両の制動性能を判定する際の指標として用いられる。パッド温度センサ163で検出されたブレーキパッド温度Tpadの情報(制動性能情報)は、統合ECU31へ送られる。
【0068】
また、統合ECU31には、図2に示すように、出力系統として、警報装置76、及びポンプモータ79がそれぞれ接続されている。
【0069】
警報装置76は、例えば、自車両の制動負荷が警告域に属するほど高い場合(Tpad>Tpadth2)等に、運転者の聴覚、視覚、触覚等を刺激することで警報を発する機能を有する。
【0070】
ポンプモータ79は、例えば、ABS制御の作動を要する場合等に、統合ECU31において生成された制動制御信号に基づいて回転駆動される。ポンプモータ79の回転駆動に伴うポンプ135(図1参照)の駆動によって、ポンプモータ79は、主として二次液圧の増減調整を行うことができる。
【0071】
次に、統合ECU31の内部構成にいて説明する。
第2情報取得部171は、レーダ151で検出された物標分布情報、カメラ153で撮像された進行方向画像情報、車輪速センサ155で検出された車輪速情報、アクセルペダルセンサ157で検出されるアクセルペダルの加減速操作量情報、ヨーレイトセンサ159で検出されるヨーレイト情報、Gセンサ161で検出されるG情報、及び、パッド温度センサ163で検出されるブレーキパッド温度Tpadを含む各種情報をそれぞれ取得する機能を有する。
また、第2情報取得部171は、ESB-ECU29から通信媒体33を介して送られてくる、車速センサ123による車速情報、及び、ブレーキペダルセンサ125で検出されたブレーキペダル12の操作量及び加重に係る情報を取得する機能を有する。
【0072】
演算部173は、第2情報取得部171で取得した車速情報、及び、各車輪毎の車輪速情報に基づいて、各車輪毎のスリップ率(スリップ情報)を演算により求める機能を有する。演算部173で求められた各車輪毎のスリップ情報は、統括制御部175において、ABS制御の作動要否を判定する際などに適宜参照される。
【0073】
統括制御部175は、基本的には、演算部173で求められる各車輪毎のスリップ率情報等に基づいて、ABS制御の作動要否を判定する。この判定の結果、ABS制御を作動すべき旨の判定が下された場合、統括制御部175は、各車輪のスリップを抑制するように、VSA装置18による制動液圧調整機能の発揮によって、各車輪毎の制動力を周期的に増減させる制動制御を行う。
【0074】
また、統括制御部175は、レーダ151で検出された物標分布情報、カメラ153で撮像された進行方向画像情報、車速センサ123による車速情報を含む各種情報等に基づいて、予め設定された車速に基づき自車両を定速走行させる定速走行制御、及び自車両の走行車線において進行方向前方を走行する先行車に対し設定された車間距離を保って追従走行させる追従走行制御を含む適応巡航制御(ACC)を行う。
すなわち、統括制御部175は、自車両の車速を目標車速の範囲内に維持した状態で、先行車との車間距離を設定された車間距離に保ちながら、運転者によるアクセルペダルやブレーキペダルの操作を要することなしに、加速制御及び減速制御を含む自車両の適応巡航制御(ACC)を行う。
【0075】
統合ECU31は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備えたマイクロコンピュータにより構成される。このマイクロコンピュータは、ROMに記憶されているプログラムやデータを読み出して実行し、統合ECU31が有する、各種の情報取得機能、各車輪毎のスリップ情報を演算する機能、ABS制御機能、適応巡航制御(ACC)機能を含む各種機能に係る実行制御を行うように動作する。
【0076】
〔車両用制動装置11の概略動作〕
次に、車両用制動装置11の概略動作について、図3を参照して説明する。図3は、車両用制動装置11の動作説明に供するフローチャート図である。
ただし、前提として、IGキースイッチ121は常時オンしているものとする。また、ブレーキパッド温度Tpad は定常域に属する値であるとする。
【0077】
図3に示すステップS11において、統合ECU31の第2情報取得部171は、レーダ151で検出された物標分布情報、カメラ153で撮像された進行方向画像情報、車輪速センサ155で検出された車輪速情報、アクセルペダルセンサ157で検出されるアクセルペダルの加減速操作量情報、ヨーレイトセンサ159で検出されるヨーレイト情報、Gセンサ161で検出されるG情報、及び、パッド温度センサ163で検出されるブレーキパッド温度Tpadを含む各種情報をそれぞれ取得する。
【0078】
ステップS12において、統合ECU31は、適応巡航制御(ACC)に基づく昇圧要求が生じたか否かを調べる。昇圧要求が生じた旨の判定が下されない場合(ステップS12のNo)、統合ECU31は、処理の流れをステップS11に戻す。
一方、昇圧要求が生じた旨の判定が下される(ステップS12のYes)と、統合ECU31は、昇圧要求が生じた旨及びブレーキパッド温度Tpadの情報をESB-ECU29宛に送ると共に、処理の流れを次のステップS13へ進ませる。
【0079】
ステップS13において、ESB-ECU29の判定部75は、昇圧要求が生じた際のブレーキパッド温度Tpadが第1負荷閾値Tpadth1(図4参照)を超えているか否かを判定する。
【0080】
ステップS13の判定の結果、昇圧要求が生じた際のブレーキパッド温度Tpadが第1負荷閾値Tpadth1を超えていない(昇圧要求が生じた際の制動負荷が定常域に属する)旨の判定が下された場合(ステップS13のNo)、ESB-ECU29は、前記制動性能評価システムによる制動性能不良の誤評価が生じる蓋然性が低いとみなして、処理の流れを次のステップS14へ進ませる。
【0081】
一方、ステップS13の判定の結果、昇圧要求が生じた際のブレーキパッド温度Tpadが第1負荷閾値Tpadth1を超えている(昇圧要求が生じた際の制動負荷が警戒域に属する)旨の判定が下された場合(ステップS13のNo)、ESB-ECU29は、前記制動性能評価システムによる制動性能不良の誤評価が生じる蓋然性が高いとみなして、処理の流れを次のステップS15へ進ませる。
【0082】
ステップS14において、ESB-ECU29の制動制御部77は、昇圧要求が生じた際の制動負荷が定常域に属する場合に、当該昇圧要求の発生時点(図4の時刻t1参照)を起点として第1及び第2遮断弁60a,60bに係る第2閉弁過渡特性を用いて静音制御を実行する。静音制御の具体例について、詳しくは後記する。
【0083】
ステップS15において、ESB-ECU29の制動制御部77は、昇圧要求が生じた際の制動負荷が警戒域に属する場合に、当該第1昇圧要求の発生時点(図4の時刻t7、t12参照)を起点として第1及び第2遮断弁60a,60bに係る第1閉弁過渡特性を用いて非静音制御を実行する。非静音制御の具体例について、詳しくは後記する。
【0084】
ステップS14又はS15の処理が終了すると、ESB-ECU29及び統合ECU31は、昇圧要求が生じた際の制動制御に関する一連の処理の流れを終了させる。
【0085】
〔車両用制動装置11の詳細動作〕
次に、車両用制動装置11の詳細動作について、図4を参照して説明する。
図4は、車両用制動装置11の動作説明に供するタイムチャート図である。図4(a)は、昇圧要求発生状況の経時変化を示す。図4(b)は、ブレーキパッド温度Tpadの経時変化を示す。図4(c)は、制動負荷判定結果の経時変化を示す。図4(d)は、第1及び第2遮断弁60a,60bに係る電磁弁駆動出力の経時特性(閉弁過渡特性)を示す。
【0086】
図4の時刻t1において、適応巡航制御(ACC)に基づく昇圧要求が生じた。時刻t1からt5に至る期間において、昇圧要求が生じている(図4(a)参照)。同時刻t1において、ブレーキパッド温度Tpad は定常域(Tpad <Tpadth1)に属している。同時刻t1において、制動負荷判定結果は負荷小である。そのため、同時刻t1において生じた昇圧要求に対し、ESB-ECU29は、時刻t1からt5に至る期間において、当該昇圧要求の発生時点(時刻t1)を起点として第1及び第2遮断弁60a,60bに係る第2閉弁過渡特性を用いて静音制御を実行する。
【0087】
図4(d)に示す電磁弁駆動出力(既定の第2閉弁過渡特性)は、同時刻t1において0(電磁弁を開放状態にする出力値)から第1出力値P1(電磁弁を閉止準備状態まで導く出力値)に至るまで鋭敏に立ち上がった後、時刻t1からt3に至る期間において、第1出力値P1から第2出力値P2(電磁弁を閉止完了状態まで導く出力値)に至るまで緩やかにかつ線形に立ち上がる。時刻t1からt3に至る期間が、静音制御に係る第2閉弁過渡特性の特徴的な部分である。これにより、第1及び第2遮断弁60a,60bの閉弁に伴う作動音(騒音)を可及的に抑制するようにしている。
時刻t3からt4に至る所定長の期間では、第3出力値P3(電磁弁を閉止完了状態に保持するための所定の出力値)を保つ。時刻t4からt5に至る任意の期間(所要の昇圧要求が生じている時刻t1-t5に至る期間から時刻t1-t4に至る所定長の期間を差し引いた残期間)では、電磁弁を閉止完了状態に維持できる所定の出力値を保つ。時刻t5において、所要の昇圧要求が消滅すると、電磁弁駆動出力は、第1出力値P1から0に至るまで鋭敏に立ち下がっている。
【0088】
図4の時刻t7において、ACCに基づく昇圧要求が生じた。時刻t7からt11に至る期間において、昇圧要求が生じている(図4(a)参照)。同時刻t7において、ブレーキパッド温度Tpad は警戒域(Tpad >Tpadth1)に属している。同時刻t7において、制動負荷判定結果は負荷大である。そのため、同時刻t7において生じた昇圧要求に対し、ESB-ECU29は、時刻t7からt11に至る期間において、当該昇圧要求の発生時点(時刻t7)を起点として第1及び第2遮断弁60a,60bに係る第1閉弁過渡特性を用いて非静音制御を実行する。
【0089】
図4(d)に示す電磁弁駆動出力(非既定の第1閉弁過渡特性)は、同時刻t7において0(電磁弁を開放状態にする出力値)から第1出力値P1(電磁弁を閉止準備状態まで導く出力値)に至るまで鋭敏に立ち上がった後、時刻t7からt8に至る期間において、第1出力値P1から第2出力値P2(電磁弁を閉止完了状態まで導く出力値)に至るまで急峻かつ線形に立ち上がる。時刻t7からt8に至る期間が、非静音制御に係る第1閉弁過渡特性の特徴的な部分である。特に、時刻t7からt8に至る期間は、時刻t1からt3に至る期間と比べて短い時間長に設定されている。これにより、前記制動性能評価システムを採用した場合であっても、当該制動性能評価システムによる制動性能不良の誤評価を可及的に抑制するようにしている。
時刻t8からt10に至る所定長の期間では、第3出力値P3(電磁弁を閉止完了状態に保持するための所定の出力値)を保つ。時刻t10からt11に至る任意の期間(所要の昇圧要求が生じている時刻t7-t11に至る期間から時刻t7-t10に至る所定長の期間を差し引いた残期間)では、電磁弁を閉止完了状態に維持できる所定の出力値を保つ。時刻t11において、所要の昇圧要求が消滅すると、電磁弁駆動出力は、第1出力値P1から0に至るまで鋭敏に立ち下がっている。
【0090】
図4の時刻t12において、ACCに基づく昇圧要求が生じた。時刻t12からt16に至る期間において、昇圧要求が生じている(図4(a)参照)。同時刻t12において、ブレーキパッド温度Tpad は警戒域(Tpad >Tpadth3)に属している。同時刻t12において、制動負荷判定結果は負荷大である。そのため、同時刻t12において生じた昇圧要求に対し、ESB-ECU29は、時刻t12からt16に至る期間において、当該昇圧要求の発生時点(時刻t12)を起点として第1及び第2遮断弁60a,60bに係る第1閉弁過渡特性を用いて非静音制御を実行する。
【0091】
図4(d)に示す電磁弁駆動出力(非既定の第1閉弁過渡特性)は、同時刻t12において0(電磁弁を開放状態にする出力値)から第1出力値P1(電磁弁を閉止準備状態まで導く出力値)に至るまで鋭敏に立ち上がった後、時刻t12からt14に至る期間において、第1出力値P1から第2出力値P2(電磁弁を閉止完了状態まで導く出力値)に至るまで急峻かつ線形に立ち上がる。時刻t12からt14に至る期間が、非静音制御に係る第1閉弁過渡特性の特徴的な部分である。特に、時刻t12からt14に至る期間は、時刻t1からt3に至る期間と比べて短い時間長に設定されている。これにより、時刻t7からt11に至る期間と同様に、前記制動性能評価システムを採用した場合であっても、当該制動性能評価システムによる制動性能不良の誤評価を可及的に抑制するようにしている。
時刻t14からt15に至る所定長の期間では、第3出力値P3(電磁弁を閉止完了状態に保持するための所定の出力値)を保つ。時刻t15からt16に至る任意の期間(所要の昇圧要求が生じている時刻t12-t16に至る期間から時刻t12-t15に至る所定長の期間を差し引いた残期間)では、電磁弁を閉止完了状態に維持できる所定の出力値を保つ。時刻t16において、所要の昇圧要求が消滅すると、電磁弁駆動出力は、第1出力値P1から0に至るまで鋭敏に立ち下がっている。
【0092】
図4に示す時刻t2において、定常域に属していたブレーキパッド温度Tpad が第1負荷閾値Tpadth1を超えている。これにより、同時刻t2において、制動負荷は、定常域から警戒域へと遷移している。
【0093】
図4に示す時刻t13において、警戒域に属していたブレーキパッド温度Tpad が第3負荷閾値Tpadth3未満になっている。これにより、同時刻t13において、制動負荷は、警戒域から定常域へと遷移している。
【0094】
図4に示す時刻t6において、警戒域に属していたブレーキパッド温度Tpad が第2負荷閾値Tpadth2を超えている。これにより、同時刻t6において、制動負荷は、警戒域から警告域へと遷移している。なお、制動負荷(ブレーキパッド温度Tpad )が警告域に属する場合、前記制動性能評価システムでは、制動負荷が極大であるとみなして車両用制動装置11に係る制動性能不良の判断を下す。これにより、乗員に対し制動性能不良の警報が発せられる。
【0095】
〔車両用制動装置11の作用効果〕
次に、車両用制動装置11の作用効果について、図5を参照して説明する。
図5は、本発明の比較例に係る車両用制動装置の動作と、本発明の実施例に係る車両用制動装置11の動作とを対比して表す説明図である。
【0096】
第1の観点(請求項1に相当)に基づく車両用制動装置11は、運転者による制動操作に従う一次液圧を発生するマスタシリンダ装置14と、所要の昇圧要求に従うブレーキモータ72及びポンプモータ79(電動アクチュエータ)の作動により目標制動力に応じた二次液圧を発生するモータシリンダ装置16と、マスタシリンダ装置14及びモータシリンダ装置16の間を連通する液圧路22a,22dに介在するように設けられ、当該液圧路を開放又は閉止するように動作する常時開型の第1及び第2遮断弁60a,60b(電磁弁)と、所要の昇圧要求に基づき電磁弁を閉止させる駆動制御を行う制動制御部(制御部)77と、を備え、自車両に制動力を付与する車両用制動装置11である。
昇圧要求が生じた際のブレーキパッド温度Tpad(制動負荷)が定常域に属するか否かを判定する判定部75をさらに備える。判定部75は、昇圧要求が生じた際のブレーキパッド温度Tpad(制動負荷)が所定の第1負荷閾値Tpadth1を超えている場合に、当該制動負荷が定常域を超える警戒域に属する旨の判定を下す。
制動制御部77は、昇圧要求が生じた際のブレーキパッド温度Tpad(制動負荷)が警戒域に属する場合に、当該昇圧要求の発生時点から前記電磁弁を閉止するに至る第1閉弁過渡特性を用いて制動制御(非静音制御)を実行する。
前記第1閉弁過渡特性は、昇圧要求が生じた際の制動負荷が定常域に属している場合に当該昇圧要求の発生時点から前記電磁弁を閉止するに至る第2閉弁過渡特性と比べて急峻に設定される構成を採用することとした。
【0097】
第1の観点に基づく車両用制動装置11によれば、制動制御部77は、昇圧要求が生じた際のブレーキパッド温度Tpad(制動負荷)が警戒域に属する(Tpad >Tpadth1)場合に、(静音制御用の)第2閉弁過渡特性と比べて急峻に設定される(非静音制御用の)第1閉弁過渡特性を用いて制動制御を実行するため、前記制動性能評価システムを採用した場合であっても、当該制動性能評価システムによる制動性能不良の誤評価を可及的に抑制することができる。
【0098】
ここで、車両用制動装置11では、制動操作量(ストローク量)に対する発生制動力(制動液圧)の相関関係に係る整合度に基づき制動性能評価を行う制動性能評価システムを採用している。
当該制動性能評価システムでは、図5に示すように、所要の昇圧要求が生じた際の制動負荷が大(Tpad >Tpadth1)である共通の条件下におけるストローク量と制動液圧との相関特性を用いる。かかる相関特性の例として、図5の点線は規範となる規範特性を、図5の一点鎖線は静音制御による比較例特性を、図5の実線は非静音制御による実施例特性を、それぞれ対比して示している。
【0099】
静音制御による比較例特性では、静音制御の弱点(液圧路の遮断に時間的な遅れが生じる結果、二次液圧に液損が生じて、規範特性に対して比較例特性が図5中の向かって右側にシフト)が露呈する。このとき、当該制動性能評価システムによって制動性能評価を行うと、特にストローク量の大きい(昇圧要求の大きい)部分では、制動性能不良であるとの誤評価を招いてしまう。
【0100】
これに対し、非静音制御による実施例特性では、前記静音制御の弱点が解消されているため、規範特性に対して実施例特性が図5中の向かって右手側にシフトする事態は抑制されている。そのため、当該制動性能評価システムによって制動性能評価を行った場合でも、ストローク量の大きい(昇圧要求の大きい)部分において、制動性能不良であるとの誤評価を招くことはない。
【0101】
第2の観点(請求項2)に基づく車両用制動装置11では、第1の観点に基づく車両用制動装置11であって、前記昇圧要求は、運転者による制動操作に関わらず生じた前記目標制動力に基づく昇圧要求である構成を採用しても構わない。
ここで、前記昇圧要求としては、特に限定されないが、例えば、適応巡航制御(ACC)に基づく昇圧要求を挙げることができる。
【0102】
第2の観点に基づく車両用制動装置11によれば、いわゆる自動運転への迅速な適用を踏まえた制動制御技術を提供することができる。
【0103】
第3の観点(請求項3)に基づく車両用制動装置11では、第1又は第2の観点に基づく車両用制動装置11であって、判定部75は、昇圧要求が生じた際のブレーキパッド温度Tpad (制動負荷)が所定の第2負荷閾値Tpadth2を超えているか否かをさらに判定する。当該第2負荷閾値Tpadth2は、第1負荷閾値Tpadth1と比べて高い値に設定される。
昇圧要求が生じた際のブレーキパッド温度Tpad(制動負荷)が第2負荷閾値Tpadth2を超えている場合、判定部75は、ブレーキパッド温度Tpad(制動負荷)が警告域に属する旨の判定を下す。
ここで、第2負荷閾値Tpadth2は、図4に示すように、ブレーキパッド温度Tpad が警戒域に属する場合において、警戒域から乗員への警告を要する警告域(警告域は警戒域と比べてより厳しい)へとブレーキパッド温度Tpad が遷移したか否かを判定する際の基準となる閾値である。ちなみに、ブレーキパッド温度Tpad は、前記制動性能評価システムにおける評価パラメータとして採用される。前記制動性能評価システムでは、ブレーキパッド温度Tpad が第2負荷閾値Tpadth2を超える場合に、制動負荷が極大であるとみなして車両用制動装置11に係る制動性能不良の判断を下す。これに対し、実施形態に係る車両用制動装置11では、ブレーキパッド温度Tpad が第1負荷閾値Tpadth1(ただし、Tpadth1 <Tpadth2 )を超える場合に、制動負荷が大であるとみなして、既定の静音制御を禁止して非静音制御を実行するようにしている。
【0104】
第3の観点に基づく車両用制動装置11によれば、昇圧要求が生じた際のブレーキパッド温度Tpad(制動負荷)が前記第2負荷閾値Tpadth2を超えている(ただし、Tpad>Tpadth2>Tpadth1)場合、判定部75は、ブレーキパッド温度Tpad(制動負荷)が警告域に属する旨の判定を下すため、第1又は第2の観点に基づく車両用制動装置11の作用効果に加えて、ブレーキパッド温度Tpad(制動負荷)に基づく制動性能評価を適切に行うことができる。
【0105】
第4の観点(請求項4)に基づく車両用制動装置11では、第3の観点に基づく車両用制動装置11であって、昇圧要求が生じた際の前記制動負荷の大小評価はブレーキパッド温度Tpad の相関値に基づき行われ、第1負荷閾値Tpadth1及び第2負荷閾値Tpadth2は、ブレーキパッド温度Tpad の相関値により定義される構成を採用してもよい。
なお、ブレーキパッド温度Tpad の相関値とは、ブレーキパッド温度Tpad の検出値、並びにブレーキパッド温度Tpad の推定値の両者を包括する概念である。
【0106】
第4の観点に基づく車両用制動装置11によれば、昇圧要求が生じた際の制動負荷の大小評価はブレーキパッド温度Tpad の相関値に基づき行われ、第1負荷閾値Tpadth1及び第2負荷閾値Tpadth2は、ブレーキパッド温度Tpad の相関値により定義されるため、第1又は第2の観点に基づく車両用制動装置11の作用効果に加えて、ブレーキパッド温度Tpad の相関値と第1負荷閾値Tpadth1及び第2負荷閾値Tpadth2との比較結果に基づいて制動負荷の大小評価を適切に遂行することができる。
【0107】
第5の観点(請求項5)に基づく車両用制動装置11では、第1~第4のうちいずれかの観点に基づく車両用制動装置11であって、判定部75は、制動負荷が警戒域に属する場合に昇圧要求が生じた際のブレーキパッド温度Tpad(制動負荷)が所定の第3負荷閾値Tpadth3未満か否かをさらに判定し、当該第3負荷閾値Tpadth3は、前記第1負荷閾値Tpadth1と比べて低い値に設定され、前記制動負荷が警戒域に属する場合に昇圧要求が生じた際のブレーキパッド温度Tpad(制動負荷)が第3負荷閾値Tpadth3未満である場合に、判定部75は、ブレーキパッド温度Tpad(制動負荷)が警戒域から定常域へと遷移した旨の判定を下す。
【0108】
第1負荷閾値Tpadth1は、図4に示すように、ブレーキパッド温度Tpad (制動負荷)が定常域に属する場合において、定常域から警戒域へとブレーキパッド温度Tpad が遷移したか否かを判定する際の基準となる閾値である。
第3負荷閾値Tpadth3は、図4に示すように、ブレーキパッド温度Tpad が警戒域に属する場合において、警戒域から定常域へとブレーキパッド温度Tpad が遷移したか否かを判定する際の基準となる閾値である。
なお、ブレーキパッド温度Tpad が警戒域から定常域へと遷移したか否かを判定する際の基準となる第3負荷閾値Tpadth3を、ブレーキパッド温度Tpad が定常域から警戒域へと遷移したか否かを判定する際の基準となる第1負荷閾値Tpadth1と比べて小さい値に設定したのは、ブレーキパッド温度Tpad が定常域と警戒域との間を短時間で遷移する、いわゆるハンチング現象が生じる事態を避ける趣旨である。
【0109】
第5の観点に基づく車両用制動装置11によれば、制動負荷が警戒域に属する場合に昇圧要求が生じた際のブレーキパッド温度Tpad(制動負荷)が第3負荷閾値Tpadth3未満である場合に、判定部75は、ブレーキパッド温度Tpad(制動負荷)が警戒域から定常域へと遷移した旨の判定を下すため、第1又は第2の観点に基づく車両用制動装置11の作用効果に加えて、ブレーキパッド温度Tpad が定常域と警戒域との間を短時間で遷移する、いわゆるハンチング現象を未然に回避することができる。
【0110】
〔その他の実施形態〕
以上説明した複数の実施形態は、本発明の具現化の例を示したものである。したがって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されることがあってはならない。本発明はその要旨又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形態で実施することができるからである。
【0111】
例えば、車両用制動装置11が有する各種機能を、ESB-ECU29及び統合ECU31に分けて持たせる例をあげて説明したが、本発明はこの例に限定されない。
本発明は、車両用制動装置11が有する各種機能をひとつのECUにまとめて持たせる態様を採用しても構わない。
【符号の説明】
【0112】
11 車両用制動装置
14 マスタシリンダ装置
16 モータシリンダ装置
22a,22d 配管チューブ(液圧路)
60a,60b 第1及び第2遮断弁(電磁弁)
72 ブレーキモータ(電動アクチュエータ)
75 判定部
77 制動制御部(制御部)
79 ポンプモータ(電動アクチュエータ)
Tpad ブレーキパッド温度(制動負荷)
Tpadth1 第1負荷閾値
Tpadth2 第2負荷閾値
Tpadth3 第3負荷閾値
図1
図2
図3
図4
図5