(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078182
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】測位装置、測位方法および測位プログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 19/23 20100101AFI20240603BHJP
【FI】
G01S19/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190582
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉井 聖人
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 正和
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062AA13
5J062BB01
5J062CC07
5J062CC13
5J062DD13
5J062GG00
(57)【要約】
【課題】測位演算の精度を維持しつつ、補正値の準備に必要な作業工数を減らすことができる測位装置、測位方法および測位プログラムを提案すること。
【解決手段】測位装置は、温度制御部と、設定部と、算出部とを備える。温度制御部は、測位衛星から測位信号を受信するアンテナの温度を調整する調整部を制御して温度を一定値に保つ。設定部は、温度が一定値に保たれた状態のアンテナの回路を測位信号が伝搬する際に生じる伝搬遅延を補正する遅延補正値を一定値に応じた値に設定する。算出部は、設定された遅延補正値に基づいて測位衛星までの疑似距離を算出する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位衛星から測位信号を受信するアンテナの温度を調整する調整部を制御して前記温度を一定値に保つ温度制御部と、
前記温度が前記一定値に保たれた状態の前記アンテナの回路を前記測位信号が伝搬する際に生じる伝搬遅延を補正する遅延補正値を前記一定値に応じた値に設定する設定部と、
設定された前記遅延補正値に基づいて前記測位衛星までの疑似距離を算出する算出部と
を備える測位装置。
【請求項2】
前記調整部は、
冷却機能および加温機能を備え、
前記温度制御部は、
前記冷却機能および前記加温機能を制御する
請求項1に記載の測位装置。
【請求項3】
前記温度制御部は、
前記アンテナの温度が前記一定値よりも低い閾値未満となった場合に、前記調整部を制御して前記アンテナの温度が前記一定値に到達するまで前記アンテナを加温する
請求項2に記載の測位装置。
【請求項4】
前記温度制御部は、
前記アンテナの温度が前記一定値より高い閾値未満となった場合に、前記調整部を制御して前記アンテナの温度が前記一定値に到達するまで前記アンテナを冷却する
請求項2に記載の測位装置。
【請求項5】
前記調整部は、
冷却機能を備え、
前記温度制御部は、
前記冷却機能を制御する
請求項1に記載の測位装置。
【請求項6】
前記温度制御部は、
前記アンテナの温度を前記アンテナの動作仕様温度の下限値に保つ
請求項5に記載の測位装置。
【請求項7】
前記調整部は、
加温機能を備え、
前記温度制御部は、
前記加温機能を制御する
請求項1に記載の測位装置。
【請求項8】
前記温度制御部は、
前記アンテナの温度を前記アンテナの動作仕様温度の上限値に保つ
請求項7に記載の測位装置。
【請求項9】
前記アンテナは、基板を有し、
前記基板は、
第1主面に前記測位信号を受信するアンテナ部が設けられ、第1主面とは反対側の第2主面に前記回路が保護カバーで保護された状態で設けられ、
前記調整部は、
前記第2主面側における前記保護カバーに設けられる
請求項1に記載の測位装置。
【請求項10】
前記アンテナは、
前記測位信号を受信するアンテナ部と前記回路とを内部に収容する筐体を有し、
前記調整部は、
前記筐体に設けられる
請求項1に記載の測位装置。
【請求項11】
測位装置が実行する測位方法であって、
測位衛星から測位信号を受信するアンテナの温度を調整する調整部を制御して前記温度を一定値に保つ温度制御工程と、
前記温度が前記一定値に保たれた状態の前記アンテナの回路を前記測位信号が伝搬する際に生じる伝搬遅延を補正する遅延補正値を前記一定値に応じた値に設定する設定工程と、
設定された前記遅延補正値に基づいて前記測位衛星までの疑似距離を算出する算出工程と
を含む測位方法。
【請求項12】
測位衛星から測位信号を受信するアンテナの温度を調整する調整部を制御して前記温度を一定値に保つ温度制御手順と、
前記温度が前記一定値に保たれた状態の前記アンテナの回路を前記測位信号が伝搬する際に生じる伝搬遅延を補正する遅延補正値を前記一定値に応じた値に設定する設定手順と、
設定された前記遅延補正値に基づいて前記測位衛星までの疑似距離を算出する算出手順と
をコンピュータに実行させる測位プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、測位装置、測位方法および測位プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、GNSS(Global Navigation Satellite System)等のように、測位衛星から測位信号を受信し、測位信号に基づいた演算結果を外部装置へ出力する測位装置が知られている。この種の測位装置では、受信した測位信号がアンテナから測位装置へ伝搬する際に生じる伝搬遅延を補正する補正値を用いて測位演算を行う。また、特許文献1では、測位信号の周波数、およびアンテナの温度に応じて補正値を決定する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2022/113620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、周波数毎および温度毎のすべての組み合わせについて補正値を事前に準備する必要があるため、補正値の準備に多大な作業工数を要してしまう。
【0005】
そこで、本開示では、測位演算の精度を維持しつつ、補正値の準備に必要な作業工数を減らすことができる測位装置、測位方法および測位プログラムを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本開示に係る測位装置は、温度制御部と、設定部と、算出部とを備える。前記温度制御部は、測位衛星から測位信号を受信するアンテナの温度を調整する調整部を制御して前記温度を一定値に保つ。前記設定部は、前記温度が前記一定値に保たれた状態の前記アンテナの回路を前記測位信号が伝搬する際に生じる伝搬遅延を補正する遅延補正値を前記一定値に応じた値に設定する。前記算出部は、設定された前記遅延補正値に基づいて前記測位衛星までの疑似距離を算出する。
【0007】
これにより、測位装置は、測位演算の精度を維持しつつ、補正値の準備に必要な作業工数を減らすことができる。
【0008】
また、本開示に係る前記調整部は、冷却機能および加温機能を備える。前記温度制御部は、前記冷却機能および前記加温機能を制御する。
【0009】
これにより、測位装置は、アンテナを冷却および加温して温度を一定値に保つことができる。
【0010】
また、本開示に係る前記温度制御部は、前記アンテナの温度が前記一定値よりも低い閾値未満となった場合に、前記調整部を制御して前記アンテナの温度が前記一定値に到達するまで前記アンテナを加温する。
【0011】
これにより、測位装置は、一定値に対応した伝搬遅延量との差が大きい場合に、アンテナを加温して一定値に保つことで、伝搬遅延量がばらつくことを抑えることができる。
【0012】
また、本開示に係る前記温度制御部は、前記アンテナの温度が前記一定値より高い閾値未満となった場合に、前記調整部を制御して前記アンテナの温度が前記一定値に到達するまで前記アンテナを冷却する。
【0013】
これにより、測位装置は、一定値に対応した伝搬遅延量との差が大きい場合に、アンテナを冷却して一定値に保つことで、伝搬遅延量がばらつくことを抑えることができる。
【0014】
また、本開示に係る前記調整部は、冷却機能を備える。前記温度制御部は、前記冷却機能を制御する。
【0015】
これにより、測位装置は、アンテナを冷却して温度を一定値に保つことができる。
【0016】
また、本開示に係る前記温度制御部は、前記アンテナの温度を前記アンテナの動作仕様温度の下限値に保つ。
【0017】
これにより、測位装置は、アンテナの動作を保証しつつ、調整部の部品コストを低減できる。
【0018】
また、本開示に係る前記調整部は、加温機能を備える。前記温度制御部は、前記加温機能を制御する。
【0019】
これにより、測位装置は、アンテナを加温して温度を一定値に保つことができる。
【0020】
また、本開示に係る前記温度制御部は、前記アンテナの温度を前記アンテナの動作仕様温度の上限値に保つ。
【0021】
これにより、測位装置は、アンテナの動作を保証しつつ、調整部の部品コストを低減できる。
【0022】
また、本開示に係る前記アンテナは、基板を有する。前記基板は、第1主面に前記測位信号を受信するアンテナ部が設けられ、第1主面とは反対側の第2主面に前記回路が保護カバーで保護された状態で設けられる。前記調整部は、前記第2主面側における前記保護カバーに設けられる。
【0023】
これにより、測位装置は、調整部がアンテナの回路に触れて回路が故障することを回避しつつ、アンテナを冷却または加温することができる。
【0024】
また、本開示に係る前記アンテナは、前記測位信号を受信するアンテナ部と前記回路とを内部に収容する筐体を有する。前記調整部は、前記筐体に設けられる。
【0025】
これにより、測位装置は、調整部によりアンテナを冷却または加温することができる。
【0026】
また、本開示に係る測位方法は、測位装置が実行する測位方法であって、温度制御工程と、設定工程と、算出工程とを備える。前記温度制御工程は、測位衛星から測位信号を受信するアンテナの温度を調整する調整部を制御して前記温度を一定値に保つ。前記設定工程は、前記温度が前記一定値に保たれた状態の前記アンテナの回路を前記測位信号が伝搬する際に生じる伝搬遅延を補正する遅延補正値を前記一定値に応じた値に設定する。前記算出工程は、設定された前記遅延補正値に基づいて前記測位衛星までの疑似距離を算出する。
【0027】
これにより、測位方法は、測位演算の精度を維持しつつ、補正値の準備に必要な工数を減らすことができる。
【0028】
また、本開示に係る測位プログラムは、温度制御手順と、設定手順と、算出手順とをコンピュータに実行させる。前記温度制御手順は、測位衛星から測位信号を受信するアンテナの温度を調整する調整部を制御して前記温度を一定値に保つ。前記設定手順は、前記温度が前記一定値に保たれた状態の前記アンテナの回路を前記測位信号が伝搬する際に生じる伝搬遅延を補正する遅延補正値を前記一定値に応じた値に設定する。前記算出手順は、設定された前記遅延補正値に基づいて前記測位衛星までの疑似距離を算出する。
【0029】
これにより、測位プログラムは、測位演算の精度を維持しつつ、補正値の準備に必要な工数を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】実施形態に係る測位方法の概要を示す図である。
【
図2】実施形態に係る測位装置の構成例を示す機能ブロック図である。
【
図6】実施形態に係る測位装置が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本開示の実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の各実施形態において、同一の部位には同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【0032】
まず、
図1を用いて、実施形態に係る測位方法の概要について説明する。
図1は、実施形態に係る測位方法の概要を示す図である。
図1では、実施形態に係る測位システムSの概要構成例を示している。なお、実施形態に係る測位方法は、
図1に示す測位装置1によって実行される。
【0033】
図1に示すように、実施形態に係る測位システムSは、測位装置1と、アンテナ10と、調整部50と、外部装置100とを含む。
【0034】
アンテナ10は、GPS(Global Positioning System)や、GLONASS(Global Navigation Satellite System)等といったGNSSの測位衛星から送信される測位信号を受信し、受信した測位信号を測位装置1へ出力する。なお、アンテナ10は、準天頂衛星等の他のGNSSシステムの測位信号を受信してもよい。
【0035】
また、
図1に示すように、アンテナ10は、アンテナ部11と、アンプ回路12とを備える。アンテナ部11は、測位信号を受信するアンテナエレメントである。アンプ回路12は、SAW(Surface Acoustic Wave)や増幅器を備え、アンテナ部11で受信した測位信号のノイズ除去や、信号増幅を行い測位装置1へ出力する。
【0036】
調整部50は、冷却および加温機能を備え、測位装置1の制御に従ってアンテナ10の内部温度または周囲温度を調整する。調整部50の冷却機能は、例えば、ペルチェ素子を用いることができる。また、調整部50の加温機能は、ペルチェ素子や、抵抗等の回路素子や、FET(Field Effect Transistor)等の半導体素子を用いることができる。また、調整部50は、不図示の温度センサを備え、アンテナ10の内部温度や周囲温度を計測する。
【0037】
外部装置100は、測位装置1の演算結果を利用する装置である。外部装置100は、例えば、携帯電話の基地局として機能する装置や、地上デジタル放送の送信局として機能する装置、車車間通信に関わる装置、路車間通信に関わる装置等である。なお、外部装置100は、上記の例に限らず、測位装置1の演算結果を利用する装置であれば足りる。
【0038】
測位装置1は、アンテナ10が受信した測位信号に基づいて測位演算を行い、演算結果を外部装置100へ出力する。例えば、測位装置1は、測位信号に基づいて、時刻情報や、タイミング情報(1PPS等)、位置情報等を演算結果として出力する。
【0039】
具体的には、測位装置1は、測位信号を解析して、測位衛星毎に設定されたコードに対するコード位相差と、測位衛星毎のクロック誤差とを解析結果として得る。また、測位装置1は、受信した測位信号がアンテナ10から測位装置1まで伝搬するまでに生じる伝搬遅延を補正する遅延補正値を設定する。そして、測位装置1は、コード位相差と、クロック誤差と、遅延補正値に基づいて測位衛星から測位装置1までの測位信号の伝搬時間を算出し、伝搬時間に光速を掛けることで測位衛星から測位装置1までの疑似距離を算出する。そして、測位装置1は、算出した疑似距離に基づいて測位演算を行い、時刻情報や、タイミング情報、位置情報等を演算結果として得る。
【0040】
ここで、従来は、遅延補正値の設定に関しては、測位信号の周波数およびアンテナ10の温度に応じた値を設定していた。具体的には、従来は、測位信号の周波数毎、および、アンテナ10の温度毎のすべての組み合わせについて伝搬遅延量を測定することで遅延補正値を準備する必要があった。このため、従来は、遅延補正値の準備に多大な作業工数が必要となってしまう。
【0041】
そこで、本開示では、調整部50によりアンテナ10の温度を一定値に保つことで、温度毎の遅延補正値の準備が不要になるように構成した。具体的には、測位装置1は、アンテナ10の温度が一定値に保たれた状態のアンテナ10の回路(アンプ回路12)を測位信号が伝搬する際に生じる伝搬遅延を補正する遅延補正値を上記の一定値に応じた値に設定し、設定した遅延補正値に基づいて測位衛星までの疑似距離を算出する。
【0042】
すなわち、本開示では、測位信号の周波数毎の遅延補正値のみを準備すればよく、従来のように、アンテナ10の温度毎に遅延補正値を準備する必要がない。また、本開示では、アンテナ10の温度を一定値に保っているため、測位信号の周波数が一定であれば伝搬遅延量がばらつくこともない。従って、本開示によれば、アンテナ10の温度の一定値に応じた遅延補正値を設定することで、疑似距離の算出精度を担保できる。すなわち、本開示によれば、かかる疑似距離を用いることで、測位演算の精度を維持しつつ、遅延補正値の準備に必要な作業工数を減らすことができる。
【0043】
次に、
図2を用いて、実施形態に係る測位装置1の構成例について説明する。
図2は、実施形態に係る測位装置1の構成例を示す機能ブロック図である。なお、
図2のブロック図では、本実施形態の特徴を説明するために必要な構成要素のみを機能ブロックで表しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
【0044】
換言すれば、
図2のブロック図に図示される各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。例えば、各機能ブロックの分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することが可能である。
【0045】
図2に示すように、測位装置1は、制御部2と、記憶部3とを備える。制御部2は、温度制御部21と、解析部22と、設定部23と、算出部24と、測位演算部25とを有する。記憶部3は、補正値情報31を記憶する。
【0046】
ここで、測位装置1は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスクドライブ、入出力ポートなどを有するコンピュータや各種の回路を含む。
【0047】
コンピュータのCPUは、例えば、ROMに記憶された受信プログラムを読み出して実行することによって、制御部2の温度制御部21、解析部22、設定部23、算出部24および測位演算部25として機能する。
【0048】
また、制御部2の温度制御部21、解析部22、設定部23、算出部24および測位演算部25の少なくともいずれか一部または全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアで構成することもできる。
【0049】
また、記憶部3は、例えば、半導体素子メモリや、ハードディスクドライブといった記憶デバイスで構成される記憶部である。かかる記憶部3には、補正値情報31や、各種プログラム等といった制御部2の処理に必要な各種情報が記憶される。
【0050】
次に、
図3を用いて、記憶部3に記憶される補正値情報31について説明する。
図3は、補正値情報31の一例を示す図である。補正値情報31は、上記した遅延補正値を含む情報である。補正値情報31は、例えば、事前に試験等によって生成される。具体的には、補正値情報31は、アンテナ10の温度を一定値にした状態における測位信号の伝搬遅延量を測定し、測定した伝搬遅延量に応じた遅延補正値を設定する。
【0051】
図3に示すように、補正値情報31は、「信号種類」と、「周波数」と、「遅延補正値」とを含む。「信号種類」は、測位信号の種類を示す情報である。「周波数」は、測位信号の周波数特性を示す情報であり、例えば、測位信号の中心周波数帯である。「遅延補正値」は、伝搬遅延量を補正する遅延補正値の情報である。
【0052】
次に、
図2に戻って、制御部2の各機能(温度制御部21、解析部22、設定部23、算出部24および測位演算部25)について詳細に説明する。
【0053】
温度制御部21は、調整部50を制御してアンテナ10の温度を一定値に保つ制御を行う。具体的には、温度制御部21は、調整部50が備える温度センサによって検出されたアンテナ10の温度に基づいて調整部50の冷却または加温機能を制御することで、アンテナ10を冷却または加温してアンテナ10の温度を一定値に保つ。
【0054】
例えば、温度制御部21は、アンテナ10の温度が閾値(一定値よりも所定値低い値)未満となった場合には、調整部50の加温機能を起動してアンテナ10の温度が一定値に到達するまで加温する。また、温度制御部21は、アンテナ10の温度が閾値(一定値よりも所定値高い値)以上となった場合には、調整部50の冷却機能を起動してアンテナ10の温度が一定値に到達するまで冷却する。なお、上記の閾値は、例えば、一定値に対応した伝搬遅延量との差が所定値以上となる値が設定される。
【0055】
なお、温度制御部21は、調整部50の冷却機能および加温機能を常時起動して、アンテナ10の温度が一定値から所定範囲内の温度に収まるように制御してもよい。
【0056】
また、調整部50は、冷却機能および加温機能の双方を備える場合に限らず、冷却機能または加温機能のいずれか一方のみを有してもよい。かかる点の詳細については後述する。
【0057】
解析部22は、アンテナ10で受信した測位信号を解析する。具体的には、解析部22は、測位信号を解析して、測位衛星毎に設定されたコードに対するコード位相差と、測位衛星毎に設定された搬送波周波数(測位信号の周波数)とを解析結果として得る。
【0058】
また、解析部22は、測位信号に含まれる航法メッセージを解析する。具体的には、解析部22は、航法メッセージから、測位衛星毎のクロック誤差と、測位衛星毎の軌道情報(測位衛星の位置情報)とを取得する。
【0059】
設定部23は、アンテナ部11で受信した測位信号がアンプ回路12を伝搬する際に生じる伝搬遅延を補正する遅延補正値を設定する。具体的には、設定部23は、アンテナ10の温度が一定値に保たれた状態において、かかる一定値に応じた値を遅延補正値として設定する。
【0060】
より具体的には、設定部23は、補正値情報31を参照して、受信した測位信号の種類(信号種類)において、解析部22によって解析された周波数に対応する遅延補正値を選択して設定する。
【0061】
算出部24は、測位衛星から測位装置1までの疑似距離を算出する。具体的には、算出部24は、コード位相差と、クロック誤差と、遅延補正値に基づいて測位衛星から測位装置1までの測位信号の伝搬時間を算出し、伝搬時間に光速を掛けることで測位衛星から測位装置1までの疑似距離を算出する。
【0062】
測位演算部25は、算出部24によって算出された疑似距離と、解析部22によって解析された測位衛星の軌道情報とに基づいて、測位演算を行う。具体的には、測位演算部25は、測位装置1の位置情報や、時刻情報、1PPS等のタイミング情報を演算結果として算出する。測位演算部25は、演算結果を外部装置100へ出力する。
【0063】
次に、
図4および
図5を用いて、調整部50の設置例について説明する。
図4および
図5は、調整部50の設置例を示す図である。なお、
図4および
図5では、アンテナ10の内部に調整部50が配置される例を示している。
【0064】
図4および
図5に示すように、アンテナ10は、アンテナ部11と、アンプ回路12と、筐体13とを備える。アンテナ部11およびアンプ回路12は、1つの基板にまとめて配置される。具体的には、アンテナ部11およびアンプ回路12は、それぞれ基板の表裏に分かれて配置される。より具体的には、アンテナ部11は、基板の表面(X軸正方向側の第1主面)に配置され、アンプ回路12は、基板の裏面(X軸負方向側の第2主面)に配置される。なお、基板の裏面側は、アンプ回路12を保護する保護カバー14が設けられる。
【0065】
筐体13は、アンテナ10の外観を構成する筐体部材である。筐体13は、上面側(X軸正方向側)が凸状のドーム形状で構成され、底面側(X軸負方向側)が平面で構成され、内部空間を密閉する。また、筐体13の底面には、筐体13の内部空間において、アンテナ部11およびアンプ回路12を搭載した基板が配置される。つまり、筐体13は、アンテナ部11およびアンプ回路12を内部に収容する。
【0066】
図4および
図5に示すように、調整部50は、アンテナ部11およびアンプ回路12を搭載した基板の裏面側に配置される。つまり、調整部50は、基板のアンプ回路12側に配置される。より具体的には、調整部50は、アンプ回路12を保護する保護カバー14に配置される。言い換えれば、調整部50は、アンプ回路12と調整部50とにより保護カバー14を挟み込む位置に配置される。
【0067】
そして、調整部50は、不図示の温度センサによって保護カバー14の温度を検出するとともに、保護カバー14を冷却または加温する。これにより、冷却または加温された保護カバー14の熱によりアンプ回路12が冷却または加温される。つまり、調整部50は、アンプ回路12に直接触れて冷却または加温するのではなく、保護カバー14を介してアンプ回路12を間接的に冷却または加温する。これにより、調整部50がアンプ回路12に触れてアンプ回路12が故障することを回避しつつ、アンプ回路12を冷却または加温することができる。
【0068】
なお、
図4および
図5では、保護カバー14に調整部50を配置する例を示したが、例えば、筐体13の内面側や外面側に調整部50を配置してもよい。つまり、調整部50は、筐体13に配置されることで、筐体13の内部空間全体を冷却または加温することで、アンプ回路12を冷却または加温する。
【0069】
次に、
図6を用いて、実施形態に係る測位装置1が実行する処理の手順について説明する。
図6は、実施形態に係る測位装置1が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
【0070】
図6に示すように、まず、制御部2は、調整部50を制御してアンテナ10の温度を一定値に保持する(ステップS101)。
【0071】
つづいて、制御部2は、アンテナ10で受信した測位信号から航法メッセージを解析する(ステップS102)。
【0072】
つづいて、制御部2は、アンテナ10の温度を一定値に保った状態のアンテナ10の回路(アンプ回路12)を測位信号が伝搬する際に生じる伝搬遅延を補正する遅延補正値を一定値に応じた値に設定する(ステップS103)。
【0073】
つづいて、制御部2は、設定した遅延補正値に基づいて測位衛星までの疑似距離を算出する(ステップS104)。
【0074】
つづいて、制御部2は、算出した疑似距離に基づいて測位演算を行い(ステップS105)、演算結果を外部装置100へ出力し(ステップS106)、処理を終了する。
【0075】
以上説明したように、本開示の一実施形態によれば、測位装置1は、温度制御部21と、設定部23と、算出部24とを備える。温度制御部21は、測位衛星から測位信号を受信するアンテナ10の温度を調整する調整部50を制御して温度を一定値に保つ。設定部23は、温度が一定値に保たれた状態のアンテナ10の回路(アンプ回路12)を測位信号が伝搬する際に生じる伝搬遅延を補正する遅延補正値を一定値に応じた値に設定する。算出部24は、設定された遅延補正値に基づいて測位衛星までの疑似距離を算出する。これにより、測位装置1は、測位演算の精度を維持しつつ、補正値の準備に必要な作業工数を減らすことができる。
【0076】
なお、上述した実施形態では、調整部50は、冷却機能および加温機能双方を備える例について説明したが、冷却機能または加温機能のいずれかのみを備える構成であってもよい。
【0077】
(冷却機能のみ備える場合)
かかる場合、温度制御部21は、例えば、アンテナ10の温度をアンテナ10の動作仕様温度の下限値(例えば、-40℃)を一定値として設定する。なお、動作仕様温度は、アンテナ10が少なくとも保証期間の間は正常に動作可能な温度である。つまり、温度制御部21は、アンテナ10の温度が動作仕様温度の下限値から所定値以上高くなった場合に冷却機能を起動して、動作仕様温度の下限値までアンテナ10を冷却する。このように、アンテナ10の温度を動作仕様温度の下限値で保つようにすることで、アンテナ10を加温する必要がないため、加温機能を省くことができる。これにより、アンテナ10の動作を保証しつつ、調整部50の部品コストを低減できる。
【0078】
なお、アンテナ10の温度は、アンテナ10周辺の外気温が影響する。このため、温度制御部21は、動作仕様温度の下限値に代えて、アンテナ10周辺の外気温よりも低い値(動作仕様温度の下限値よりも高い値)の温度に保つようにしてもよい。
【0079】
(加温機能のみ備える場合)
かかる場合、温度制御部21は、例えば、アンテナ10の温度をアンテナ10の動作仕様温度の上限値(例えば、85℃)を一定値として設定する。つまり、温度制御部21は、アンテナ10の温度が動作仕様温度の上限値から所定値以上低くなった場合に加温機能を起動して、動作仕様温度の上限値までアンテナ10を加温する。このように、アンテナ10の温度を動作仕様温度の上限値で保つようにすることで、アンテナ10を冷却する必要がないため、冷却機能を省くことができる。これにより、アンテナ10の動作を保証しつつ、調整部50の部品コストを低減できる。
【0080】
なお、温度制御部21は、動作仕様温度の上限値に代えて、アンテナ10周辺の外気温よりも高い値(動作仕様温度の上限値よりも低い値)の温度に保つようにしてもよい。
【0081】
また、上記した実施形態に加えて、調整部50による温度調整モードと、通常モード(温度調整無し)とを切り替え可能に構成されてもよい。例えば、測位装置1は、アンテナ10の周囲の外気温を検出し、かかる外気温と調整部50の目標値(一定値)との差が所定値以上である場合には、温度調整モードに切り替えるようにしてもよい。
【0082】
また、調整部50が保つアンテナ10の温度(一定値)は、例えば、測位装置1の管理者等によって変更可能に構成されてもよい。かかる場合、管理者は、測位装置1に対して変更後の温度に対応した遅延補正値を入力する。
【0083】
また、上記実施形態において説明した各処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部又は一部を手動的に行うこともでき、あるいは、手動的に行われるものとして説明した処理の全部又は一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。この他、上記文書中や図面中で示した処理手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。例えば、各図に示した各種情報は、図示した情報に限られない。
【0084】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
【0085】
また、本発明は上記実施形態に係る限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。例えば、処理内容を矛盾させない領域で上述の実施形態を適宜組み合わせて得られる形態も本発明の技術的範囲に含まれる。また、上述の実施形態のフローチャート及びシーケンス図に示された各ステップは、適宜順序を変更することが可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 測位装置
2 制御部
3 記憶部
10 アンテナ
11 アンテナ部
12 アンプ回路
13 筐体
14 保護カバー
21 温度制御部
22 解析部
23 設定部
24 算出部
25 測位演算部
31 補正値情報
50 調整部
100 外部装置
S 測位システム