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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078191
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】消臭性組成物及びレンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/01 20060101AFI20240603BHJP
   A61L 9/14 20060101ALI20240603BHJP
   B23B 5/00 20060101ALI20240603BHJP
   B24B 13/00 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
A61L9/01 H
A61L9/14
B23B5/00 Z
B24B13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190594
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 陽日
(72)【発明者】
【氏名】吉村 正史
【テーマコード(参考)】
3C045
3C049
4C180
【Fターム(参考)】
3C045CA18
3C049AC01
3C049CA01
3C049CB06
4C180AA02
4C180BB02
4C180BB11
4C180CB01
4C180EB17X
4C180EB29Y
4C180MM10
(57)【要約】
【課題】含硫黄レンズ材料を削った際に発生する悪臭を抑制することができる消臭性組成物を提供する。
【解決手段】本開示の消臭性組成物は、有機ヨウ素化合物(A)を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ヨウ素化合物(A)を含有する、消臭性組成物。
【請求項2】
レンズ材料が削られたときに発生する臭気物質を分解する臭気物質分解剤である、請求項1に記載の消臭性組成物。
【請求項3】
前記有機ヨウ素化合物(A)が、ジヨードメタン化合物(A-1)を含む、請求項1又は請求項2に記載の消臭性組成物。
【請求項4】
前記ジヨードメタン化合物(A-1)が、ジヨードメチル-p-トリルスルホン(A-1-1)を含む、請求項3に記載の消臭性組成物。
【請求項5】
前記有機ヨウ素化合物(A)の含有量が、前記消臭性組成物の総質量に対して、0.0005質量%以上である、請求項1又は請求項2に記載の消臭性組成物。
【請求項6】
シクロデキストリン誘導体(B)を更に含有する、請求項1又は請求項2に記載の消臭性組成物。
【請求項7】
硫黄を含有するレンズ材料を準備することと、
有機ヨウ素化合物(A)及び水溶媒(C)を含有する消臭性組成物を準備することと、
前記消臭性組成物を前記レンズ材料に接触させながら、前記レンズ材料を削ることと、を含む、レンズの製造方法。
【請求項8】
前記有機ヨウ素化合物(A)が、ジヨードメタン化合物(A-1)を含む、請求項7に記載のレンズの製造方法。
【請求項9】
前記ジヨードメタン化合物(A-1)が、ジヨードメチル-p-トリルスルホン(A-1-1)を含む、請求項8に記載のレンズの製造方法。
【請求項10】
前記レンズ材料を削ることにおいて、前記消臭性組成物を前記レンズ材料に噴射して、前記消臭性組成物を前記レンズ材料に接触させる、請求項7に記載のレンズの製造方法。
【請求項11】
前記レンズ材料を削ることが、
前記レンズ材料に接触させた前記消臭性組成物を回収して、回収水を得ることと、
前記回収水を、前記レンズ材料に噴射する前記消臭性組成物として用いることと、を含む請求項10に記載のレンズの製造方法。
【請求項12】
前記消臭性組成物が、シクロデキストリン誘導体(B)を更に含有する、請求項7~請求項11のいずれか1項に記載のレンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消臭性組成物及びレンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、有機ヨウ素化合物は抗菌又は防カビ等の様々な用途に使用できることから数多くの検討が行われている。例えば、特許文献1には、有機ヨウ素化合物の1種であるジヨードメチル-p-トリルスルホンが、殺菌及び殺虫剤として使用できることが記載されている。
【0003】
一方、主に眼鏡に用いられるレンズについて、レンズに加工(例えば、切削、研磨等)を施す際に、悪臭が発生し、レンズ加工者が不快感を覚えることが知られている。そこで、例えば、特許文献2にはレンズに加工を施す際に使用できる、消臭剤として、自己乳化型消泡剤及び両性界面活性剤を備える消臭消泡剤が記載されている。更に、従来の消臭方法として、香料を用いて悪臭をマスキングする消臭方法(特許文献3)、界面活性剤を用いる消臭方法(特許文献4)、金属を用いる消臭方法(特許文献5及び特許文献6)が知られている。
【0004】
硫黄を含有するレンズ(以下、「含硫黄レンズ」ともいう)の屈折率を高めるために、硫黄原子を含有するレンズ材料(以下、「含硫黄レンズ材料」ともいう)が用いられている。具体的に、含硫黄レンズ材料として、ポリイソシアナートとポリチオールよりなる含硫ウレタン系樹脂(特許文献7~特許文献9)、ポリチオ(メタ)アクリレート樹脂(特許文献10~特許文献12)、及び含硫ポリ(メタ)アクリレート樹脂(特許文献13及び特許文献14)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3-287506号公報
【特許文献2】特開2017-127793号公報
【特許文献3】特許第2905576号明細書
【特許文献4】特開2017-127793号公報
【特許文献5】特開2001-269846号公報
【特許文献6】特開平5-301164号公報
【特許文献7】特開昭60-199016号公報
【特許文献8】特開昭62-267316号公報
【特許文献9】特開昭63-46213号公報
【特許文献10】特開昭64-26613号公報
【特許文献11】特開昭64-31759号公報
【特許文献12】特開昭63-188660号公報
【特許文献13】特開昭62-283109号公報
【特許文献14】特開昭63-268707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、含硫黄レンズ材料を削って含硫黄レンズを作製すると、含硫黄レンズ材料は硫黄原子を含有しているために、悪臭が発生するおそれがあり、作業者が強い不快感を覚えるおそれがある。香料を用いて悪臭をマスキングする消臭方法では、悪臭を香料で上書きするため、悪臭自体を抑制することができないおそれがある。界面活性剤を用いる消臭方法では、使用中に発泡が加速されるため、界面活性剤と消泡剤との併用が必要であるとともに、悪臭を十分に抑制できないおそれがある。金属を用いる消臭方法は、コストや環境負荷の観点から好ましい消臭方法ではなく、悪臭を十分に抑制できないおそれがある。そのため、含硫黄レンズ材料を削った際に発生する悪臭を抑制することができる消臭性組成物が求められている。
【0007】
本開示は、上記に鑑みてなされたものである。
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、含硫黄レンズ材料を削った際に発生する悪臭を抑制することができる消臭性組成物及びレンズの製造方法を提供することである。
【0008】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、理由は定かではないが、含硫黄レンズ材料を削る際に有機ヨウ素化合物を含有する組成物を使用することにより、悪臭を抑制することができるとの知見を実験的に得た。本発明者らは、このような知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0009】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 有機ヨウ素化合物(A)を含有する、消臭性組成物。
<2> レンズ材料が削られたときに発生する臭気物質を分解する臭気物質分解剤である、前記<1>に記載の消臭性組成物。
<3> 前記有機ヨウ素化合物(A)が、ジヨードメタン化合物(A-1)を含む、前記<1>又は<2>に記載の消臭性組成物。
<4> 前記ジヨードメタン化合物(A-1)が、ジヨードメチル-p-トリルスルホン(A-1-1)を含む、前記<3>に記載の消臭性組成物。
<5> 前記有機ヨウ素化合物(A)の含有量が、前記消臭性組成物の総質量に対して、0.0005質量%以上である、前記<1>~<4>のいずれか1つに記載の消臭性組成物。
<6> シクロデキストリン誘導体(B)を更に含有する、前記<1>~<5>のいずれか1つに記載の消臭性組成物。
<7> 硫黄を含有するレンズ材料を準備することと、
有機ヨウ素化合物(A)及び水溶媒(C)を含有する消臭性組成物を準備することと、
前記消臭性組成物を前記レンズ材料に接触させながら、前記レンズ材料を削ることと、を含む、レンズの製造方法。
<8> 前記有機ヨウ素化合物(A)が、ジヨードメタン化合物(A-1)を含む、前記<7>に記載のレンズの製造方法。
<9> 前記ジヨードメタン化合物(A-1)が、ジヨードメチル-p-トリルスルホン(A-1-1)を含む、前記<8>に記載のレンズの製造方法。
<10> 前記レンズ材料を削ることにおいて、前記消臭性組成物を前記レンズ材料に噴射して、前記消臭性組成物を前記レンズ材料に接触させる、前記<7>~<9>のいずれか1つに記載のレンズの製造方法。
<11> 前記レンズ材料を削ることが、
前記レンズ材料に接触させた前記消臭性組成物を回収して、回収水を得ることと、
前記回収水を、前記レンズ材料に噴射する前記消臭性組成物として用いることと、を含む前記<10>に記載のレンズの製造方法。
<12> 前記消臭性組成物が、シクロデキストリン誘導体(B)を更に含有する、前記<7>~<11>のいずれか1つに記載のレンズの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一実施形態によれば、含硫黄レンズ材料を削った際に発生する悪臭を抑制することができる消臭性組成物及びレンズの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。
【0012】
(1)消臭性組成物
本開示の消臭性組成物は、有機ヨウ素化合物(A)を含有する。
【0013】
「有機ヨウ素化合物」とは、炭素とヨウ素との結合を持つ有機化合物を示す。
【0014】
本開示の消臭性組成物は、上記の構成を有するので、含硫黄レンズ材料を削った際に発生する悪臭(以下、単に「悪臭」ともいう)を抑制することができる。
【0015】
消臭性組成物の形態は、特に限定されず、被消臭物の種類等に応じて適宜選択さればよく、例えば、溶液(例えば、水溶液又は非水溶液)、懸濁液(すなわち、スラリー液)、粉体、ペレット、成型加工品等が挙げられる。
【0016】
有機ヨウ素化合物(A)の含有量は、特に限定されず、消臭性組成物の用途等に応じて適宜選択され、消臭性組成物の総質量に対して、0.0005質量%以上であることが好ましい。有機ヨウ素化合物(A)の含有量が0.0005質量%以上であれば、有機ヨウ素化合物(A)の含有量が0.0005質量%未満である場合よりも、消臭性組成物は、悪臭を抑制することができる。
有機ヨウ素化合物(A)の含有量は、消臭性組成物の悪臭の抑制効果をより良好に発現させる観点から、消臭性組成物の総質量に対して、より好ましくは0.001質量%~10質量%、更に好ましくは0.005質量%~1質量%、特に好ましくは0.012質量%~0.1質量%である。
【0017】
(1.1)有機ヨウ素化合物(A)
消臭性組成物は、有機ヨウ素化合物(A)を含有する。
【0018】
有機ヨウ素化合物(A)としては、例えば、ジヨードメタン化合物(A-1)、モノヨード化合物(A-2)、脂肪族ヨード化合物、芳香族ヨード化合物等などが挙げられる。
【0019】
「ジヨードメタン化合物」とは、ジヨードメチル基を有するベンゼン及びその誘導体(例えば、α,α-ジヨードアセチルベンゼン誘導体、α,α-ジヨードメチルスルホニルベンゼン誘導体)を示す。「モノヨード化合物」とは、1つのヨウ素原子を有する有機化合物を示す。
【0020】
有機ヨウ素化合物(A)は、ジヨードメタン化合物(A-1)又はモノヨード化合物(A-2)を含むことが好ましく、ジヨードメタン化合物(A-1)を含むことがより好ましく、ジヨードメタン化合物(A-1)であることが更に好ましい。有機ヨウ素化合物(A)がヨードメタン化合物(A-1)又はモノヨード化合物(A-2)を含むことで、有機ヨウ素化合物(A)がジヨードメタン化合物(A-1)又はモノヨード化合物(A-2)を含まない場合よりも、消臭性組成物は、悪臭を抑制することができる。有機ヨウ素化合物(A)がヨードメタン化合物(A-1)を含むことで、有機ヨウ素化合物(A)がヨードメタン化合物(A-1)を含まない場合よりも、消臭性組成物は悪臭を抑制することができる。有機ヨウ素化合物(A)がヨードメタン化合物(A-1)からなることで、有機ヨウ素化合物(A)がヨードメタン化合物(A-1)からならない場合よりも、消臭性組成物は悪臭を抑制することができる。
【0021】
(1.1.1)ジヨードメタン化合物(A-1)
ジヨードメタン化合物(A-1)は、公知のジヨードメタン化合物を用いることができるが、消臭性組成物の悪臭の抑制効果を良好に発現させる観点から、下記一般式(1)で表される化合物(1)を含むことが好ましい。
【0022】
【化1】
【0023】
一般式(1)において、Rは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~7のアシル基、炭素数2~7のアルコキシカルボニル基、炭素数2~7のアルキルアミノカルボニル基又は炭素数3~13のジアルキルアミノカルボニル基を示し、Rは、ハロゲン原子又は炭素数1~6のアルキル基を示し、nは0又は1を示す。
L1は、カルボニル基又はスルホニル基を示す。
【0024】
で表される炭素数1~6のアルキル基は、直鎖アルキル基、分岐を有するアルキル基、又は環状構造を有するアルキル基であってもよく、直鎖アルキル基又は分岐を有するアルキル基であることが好ましい。
で表されるアルキル基の炭素数は、好ましくは1~3、より好ましくは1~2である。
で表される炭素数1~6のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、2-メチルブチル基、ネオペンチル基、1-エチルプロピル基、シクロペンチル基、n-へキシル基、4-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、1-メチルペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0025】
で表される炭素数1~7のアシル基の具体例としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ペンタノイル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0026】
で表される炭素数2~7のアルコキシカルボニル基を構成するアルコキシ基としては、炭素数1~6のアルコキシ基であることが好ましく、炭素数1~3のアルコキシ基であることがより好ましく、炭素数1~2のアルコキシ基であることが更に好ましい。
炭素数2~7のアルコキシカルボニル基を構成するアルコキシ基は、直鎖アルコキシ基、分岐を有するアルコキシ基、又は環状構造を有するアルコキシ基であってもよく、直鎖アルコキシ基又は分岐を有するアルコキシ基であることが好ましい。
炭素数2~7のアルコキシカルボニル基を構成するアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、シクロプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、シクロブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、2-メチルブトキシ基、ネオペンチルオキシ基、1-エチルプロポキシ基、シクロペンチルオキシ基、n-へキシルオキシ基、4-メチルペンチルオキシ基、3-メチルペンチルオキシ基、2-メチルペンチルオキシ基、1-メチルペンチルオキシ基、3,3-ジメチルブトキシ基、2,2-ジメチルブトキシ基、1,1-ジメチルブトキシ基、1,2-ジメチルブトキシ基、1,3-ジメチルブトキシ基、2,3-ジメチルブトキシ基、2-エチルブトキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0027】
で表される炭素数2~7のアルキルアミノカルボニル基又は炭素数3~13のジアルキルアミノカルボニル基を構成するアルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~2のアルキル基であることが更に好ましい。
炭素数2~7のアルキルアミノカルボニル基又は炭素数3~13のジアルキルアミノカルボニル基を構成するアルキル基は、直鎖アルキル基、分岐を有するアルキル基、又は環状構造を有するアルキル基であってもよく、直鎖アルキル基又は分岐を有するアルキル基であることが好ましい。
炭素数2~7のアルキルアミノカルボニル基又は炭素数3~13のジアルキルアミノカルボニル基を構成するアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、2-メチルブチル基、ネオペンチル基、1-エチルプロピル基、シクロペンチル基、n-へキシル基、4-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、1-メチルペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0028】
で表される炭素数3~13のジアルキルアミノカルボニル基を構成する2つのアルキル基は、同じであってもよく、異なっていてもよい。2つのアルキル基は、互いに結合して環状構造を形成してもよい。
【0029】
としては、水素原子又は炭素数2~7のアルコキシカルボニル基であることが好ましく、水素原子又はエトキシカルボニル基であることがより好ましい。
【0030】
で表される炭素数1~6のアルキル基は、直鎖アルキル基、分岐を有するアルキル基、又は環状構造を有するアルキル基であってもよく、直鎖アルキル基又は分岐を有するアルキル基であることが好ましい。
で表されるアルキル基の炭素数は、好ましくは1~3、より好ましくは1~2、更に好ましくは1である。
で表される炭素数1~6のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、2-メチルブチル基、ネオペンチル基、1-エチルプロピル基、シクロペンチル基、n-へキシル基、4-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、1-メチルペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0031】
で表されるハロゲン原子の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が挙げられる。
【0032】
の置換位置は特に限定されるものではない。Rの置換位置は、一般式(1)のベンゼン環におけるL1の結合した炭素を基準として、オルト位、メタ位、又はパラ位であってもよく、パラ位であることが好ましい。
【0033】
としては、メチル基、又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0034】
nは、0又は1を示し、1であることが好ましい。
【0035】
L1は、カルボニル基又はスルホニル基を示す。
【0036】
ジヨードメタン化合物(A-1)としては、例えば、ジヨードメチル-p-トリルスルホン、ジヨードメチル-o-トリルスルホン、ジヨードメチル-m-トリルスルホン、ジヨードメチル-p-クロロフェニルスルホン、ジヨードメチル-p-ブロモフェニルスルホン、ジヨードメチル-p-エチルフェニルスルホン、ジヨードメチル-p-プロピルフェニルスルホン、ジヨードメチルフェニルケトン、ジヨードメチル(4-メチルフェニル)ケトン、ジヨードメチル(4-クロロフェニル)ケトン、メチル-2,2-ジヨード-3-オキソ-3-フェニルプロピオネート等が挙げられる。
なかでも、消臭性組成物の悪臭の抑制効果を良好に発現させる観点から、ジヨードメタン化合物(A-1)は、ジヨードメチル-p-トリルスルホン、ジヨードメチル-o-トリルスルホン、ジヨードメチル-m-トリルスルホン、及びジヨードメチル-p-クロロフェニルスルホンから選ばれる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましく、ジヨードメチル-p-トリルスルホン(A-1-1)(以下、「DMTS(A-1-1)」ともいう)を含むことがより好ましい。
【0037】
ジヨードメタン化合物(A-1)は、市販品であってもよい。市販品としては、例えば、「ヨートル(登録商標)DP95」(三井化学株式会社製、主成分:DMTS(A-1-1))等が挙げられる。消臭性組成物が後述するシクロデキストリン誘導体(B)を含有する場合、例えば、「ヨートル(登録商標)DP-CD」(三井化学株式会社製、主成分:DMTS(A-1-1)及びメチル-β-シクロデキストリン(B-1))等が挙げられる。
【0038】
(1.1.1.1)含有量
ジヨードメタン化合物(A-1)の含有量は、特に限定されず、消臭性組成物の総質量に対して、0.0005質量%以上であることが好ましい。ジヨードメタン化合物(A-1)の含有量が0.0005質量%以上であれば、ジヨードメタン化合物(A-1)の含有量が0.0005質量%未満である場合よりも、消臭性組成物は、悪臭を抑制することができる。
ジヨードメタン化合物(A-1)の含有量は、消臭性組成物の悪臭の抑制効果をより良好に発現させる観点から、消臭性組成物の総質量に対して、より好ましくは0.001質量%~10質量%、更に好ましくは0.005質量%~1質量%、特に好ましくは0.012質量%~0.1質量%である。
【0039】
ジヨードメタン化合物(A-1)の含有量は、消臭性組成物の悪臭の抑制効果をより良好に発現させる観点から、有機ヨウ素化合物(A)の総質量に対して、好ましくは0質量%~100質量%、より好ましくは50質量%~100質量%である。
【0040】
(1.1.2)モノヨード化合物(A-2)
モノヨード化合物(A-2)としては、例えば、3-ヨード-2-プロピニル N-ブチルカルバマート、4-クロロフェニル-3-ヨードプロパルギルホルマール、4-メトキシフェニル-3-ヨードプロパルギルホルマール、モノヨードメチル-p-トリルスルホン等が挙げられる。
【0041】
(1.1.2.1)含有量
モノヨード化合物(A-2)の含有量は、特に限定されず、消臭性組成物の総質量に対して、0.0005質量%以上であることが好ましい。モノヨード化合物(A-2)の含有量が0.0005質量%以上であれば、モノヨード化合物(A-2)の含有量が0.0005質量%未満である場合よりも、消臭性組成物は、悪臭を抑制することができる。
モノヨード化合物(A-2)の含有量は、消臭性組成物の悪臭の抑制効果をより良好に発現させる観点から、消臭性組成物の総質量に対して、より好ましくは0.001質量%~10質量%、更に好ましくは0.005質量%~1質量%、特に好ましくは0.012質量%~0.1質量%である。
【0042】
モノヨード化合物(A-2)の含有量は、消臭性組成物の悪臭の抑制効果をより良好に発現させる観点から、有機ヨウ素化合物(A)の総質量に対して、好ましくは0質量%~100質量%、より好ましくは50質量%~100質量%である。
【0043】
(1.2)シクロデキストリン誘導体(B)
消臭性組成物は、シクロデキストリン誘導体(B)を更に含有してもよいし、シクロデキストリン誘導体(B)を含有しなくてもよい。
【0044】
「シクロデキストリン誘導体」とは、シクロデキストリン又はその誘導体を含むシクロデキストリン系化合物を示し、シクロデキストリン及び置換基を有するシクロデキストリンを含む。
【0045】
消臭性組成物がシクロデキストリン誘導体(B)を更に含有することにより、包接化合物が形成されやすくなる。包接化合物は、ゲスト化合物としての有機ヨウ素化合物(A)(例えば、ジヨードメタン化合物(A-1))と、ホスト化合物としてのシクロデキストリン誘導体(B)とを含んでもよい。シクロデキストリン誘導体(B)は、水に対する溶解性が高い。シクロデキストリン誘導体(B)が水に対する溶解性の低いゲスト化合物を包接すると、得られた包接化合物は水に溶解する。有機ヨウ素化合物(A)が水に対する溶解性が低い場合(例えば、DMTS(A-1-1))であっても、包接化合物は、水に対する溶解性が向上する。その結果、消臭性組成物は、水溶液の形態で用いられ得る。それ故、消臭性組成物の取扱性はより優れる。
【0046】
シクロデキストリン誘導体(B)における置換基としては、アルキル基、ヒドロキシアルキル基等が挙げられる。
アルキル基及びヒドロキシアルキル基における炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~3、更に好ましくは1である。
【0047】
シクロデキストリン誘導体(B)としては、α-シクロデキストリン誘導体、β-シクロデキストリン誘導体及びγ-シクロデキストリン誘導体のいずれでもよく、これらの混合物でもよい。具体的に、シクロデキストリン誘導体(B)としては、メチル-β-シクロデキストリン(以下、「MβCD(B-1)」ともいう)、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、メチル-γ-シクロデキストリン、メチル-α-シクロデキストリン等が挙げられる。
中でも、包接化合物をより形成しやすくする等の観点から、シクロデキストリン誘導体(B)は、β-シクロデキストリン誘導体(すなわち、β-シクロデキストリン又はその誘導体を含むβ-シクロデキストリン系化合物)を含むことが好ましい。
有機ヨウ素化合物(A)の水溶液への溶解性を向上させる等に観点から、β-シクロデキストリン誘導体は、MβCD(B-1)、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを含むことが好ましく、MβCD(B-1)を含むことがより好ましい。
【0048】
β-シクロデキストリン誘導体は、市販品であってもよい。市販品としては、例えば、「CAVASOL W7 M」(MβCD(B-1)、シクロケム社製)、「CAVASOL W7 HP」(ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、シクロケム社製)、「化学修飾サイクロデキストリン メチル-β-CD」(塩水港精糖社製)、「化学修飾サイクロデキストリン HP-β-CD」(塩水港精糖社製)、「セルデックス HP-β-CD」(日本食品化工社製)等が挙げられる。
【0049】
(1.2.1)含有量
シクロデキストリン誘導体(B)の含有量は、特に限定されず、消臭性組成物の総質量に対して、好ましくは0.05質量%~40質量%、より好ましくは0.15質量%~10質量%、更に好ましくは0.15質量%~2質量%である。
【0050】
シクロデキストリン誘導体(B)の含有量は、消臭性組成物の水溶媒(C)に対する溶解性を向上させる等の観点から、消臭性組成物に含まれる有機ヨウ素化合物(A)の総質量に対して、好ましくは300質量%~3600質量%、より好ましくは600質量%~2700質量%、更に好ましくは900質量%~2100質量%である。
【0051】
(1.3)水溶媒(C)
消臭性組成物は、水溶媒(C)を更に含有してもよいし、水溶媒(C)を含有しなくてもよい。
消臭性組成物が水溶媒(C)を含有することにより、消臭性組成物の形態は、水溶液となり得る。そのため、消臭性組成物の形態が粉体である場合よりも、消臭性組成物の取り扱い性は優れる。
【0052】
水溶媒(C)としては、水を含有する溶媒であればよく、例えば、水(以下、「水(C-1)」ともいう。)(例えば、精製水、イオン交換水)、生理食塩水等が挙げられる。水溶媒(C)は、単独又は2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0053】
(1.3.1)含有量
消臭性組成物が水溶媒(C)を含有する場合、水溶媒(C)の含有量は、消臭性組成物の全質量に対して、好ましくは30質量%~99質量%、より好ましくは50質量%~99質量%である。
【0054】
(1.4)他の成分(D)
消臭性組成物は、必要に応じて、他の成分(D)を更に含有してもよいし、他の成分(D)を含有しなくてもよい。他の成分(D)としては、公知の成分であってもよく、例えば、消臭剤、有機溶媒、界面活性剤、pH調整剤、消泡剤、防錆剤、粘度調整剤(例えば、増粘剤)、金属封鎖剤(キレート剤)、光安定化剤、紫外線吸収剤、促進剤、付着増進剤、香料、スケール防止剤、帯電防止剤、溶剤、樹脂バインダー、柔軟加工剤、表面処理剤、コーティング剤、塗料、酸化防止剤、色素、ゲル化剤、冷感剤 、温感剤、刺激剤、忌避剤、防虫剤、抗菌成分、抗ウイルス剤、他の防カビ剤等が挙げられる。これら他の成分(D)は、単独又は2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0055】
(1.5)臭気物質分解剤
消臭性組成物は、含硫黄レンズ材料が削られたときに発生する臭気物質を分解する臭気物質分解剤であることが好ましい。例えば、消臭性組成物は、公知のレンズ加工装置を用いて含硫黄レンズ材料を削る際の循環水として用いられることが好ましい。これにより、消臭性組成物は、レンズ加工者が不快感を覚えることを抑制することができる。
臭気物質は、臭いを発する公知の化合物を示す。臭気物質としては、例えば、硫黄原子を含有する化合物、リン原子を含有する化合物、窒素原子を含有する化合物、エステル類、アルデヒド類、脂肪酸等が挙げられる。
【0056】
(1.6)用途
消臭性組成物の用途は、特に限定されず、含硫黄レンズ材料を削った際に発生する悪臭を抑制する用途と異なるその他の用途に用いられてもよい。その他の用途としては、例えば、生ゴミ、衣類、繊維製品、体臭、冷蔵庫、たんす・クローゼット・押入れ、室内、車内(自動車、電車、航空機、バス、船舶等)、家具、インテリア(人工芝等)、壁紙、トイレ、浴室、ペット用品、工場内、工業廃液、空気清浄機、空調機、脱臭機、送・排風機用のフィルター、下水処理場、家畜舎および塵芥処理場等の消臭または脱臭等が挙げられる。
【0057】
(2)レンズの製造方法
本開示のレンズの製造方法は、含硫黄レンズ材料を準備すること(以下、「第1準備工程」ともいう)と、有機ヨウ素化合物(A)及び水溶媒(C)を含有する消臭性組成物(以下、「消臭性組成物(水溶液)」ともいう)を準備すること(以下、「第2準備工程」ともいう)と、消臭性組成物(水溶液)を含硫黄レンズ材料に接触させながら、含硫黄レンズ材料を削ること(以下、「削り工程」ともいう)と、を含む。第1準備工程及び第2準備工程の実施順は、特に限定されない。削り工程は、第1準備工程及び第2準備工程が実施された後に実施される。
【0058】
本開示のレンズの製造方法は、上記の構成を有するので、含硫黄レンズ材料を削った際に発生する悪臭を抑制して、含硫黄レンズを製造することができる。
【0059】
含硫黄レンズとしては、例えば、眼鏡レンズ、fθレンズ、ピックアップレンズ、撮像用レンズ、センサー用レンズ、プリズム、導光板、車載カメラレンズ等が挙げられる。
【0060】
「(2)レンズの製造方法」における消臭性組成物は、水溶媒(C)を含有することの他は、「(1)消臭性組成物」で例示した消臭性組成物と同様である。そのため、「(2)レンズの製造方法」における消臭性組成物の説明は省略する。
【0061】
(2.1)第1準備工程
レンズの製造方法は、第1準備工程を含む。第1準備工程では、含硫黄レンズ材料を準備する。含硫黄レンズ材料を準備する方法は、特に限定されず、公知の製造方法で含硫黄レンズ材料を製造する方法、市販品を入手する方法等が挙げられる。含硫黄レンズ材料は、硫黄を含有すれば特に限定されず、プラスチック材料であってもよいし、ガラス材料であってもよい。公知の製造方法としては、特許4460837号、特許5170936号、特許6980949号、特許第7105928号等に記載の製造方法等が挙げられる。プラスチック材料の市販品としては、三井化学株式会社製の市販品(例えば、「MR-174」、「MR-160DG」、「MR-7」、「MR-10」等)等が挙げられる。
【0062】
(2.2)第2準備工程
レンズの製造方法は、第2準備工程を含む。第2準備工程では、消臭性組成物(水溶液)を準備する。消臭性組成物(水溶液)を準備する方法は、特に限定されず、新品の水溶媒(C)と有機ヨウ素化合物(A)とを混合する方法、使用済みの水溶媒(C)を含む水溶液と、有機ヨウ素化合物(A)とを混合する方法(例えば、使用済みの循環水に有機ヨウ素化合物(A)を添加する方法)等が挙げられる。
【0063】
第2準備工程において、有機ヨウ素化合物(A)は、ジヨードメタン化合物(A-1)を含むことが好ましい。有機ヨウ素化合物(A)がジヨードメタン化合物(A-1)を含むことで、有機ヨウ素化合物(A)がジヨードメタン化合物(A-1)を含まない場合よりも、レンズの製造方法は、含硫黄レンズ材料を削った際に発生する悪臭を抑制して、含硫黄レンズを製造することができる。
【0064】
第2準備工程において、ジヨードメタン化合物(A-1)は、ジヨードメチル-p-トリルスルホン(A-1-1)を含むことが好ましい。ジヨードメタン化合物(A-1)がDMTS(A-1-1)を含むことで、ジヨードメタン化合物(A-1)がDMTS(A-1-1)を含まない場合よりも、レンズの製造方法は、含硫黄レンズ材料を削った際に発生する悪臭を抑制して、含硫黄レンズを製造することができる。
【0065】
第2準備工程において、消臭性組成物は、シクロデキストリン誘導体(B)を更に含有することが好ましい。有機ヨウ素化合物(A)が水に対する溶解性が低い場合(例えば、DMTS(A-1-1))であっても、包接化合物は、水に対する溶解性が高い。その結果、消臭性組成物は、水溶液の形態で用いられ得る。それ故、消臭性組成物の取扱性はより優れる。つまり、消臭性組成物がシクロデキストリン誘導体(B)を更に含有することで、消臭性組成物がシクロデキストリン誘導体(B)を更に含有しない場合よりも、含硫黄レンズの生産性は向上する。
【0066】
(2.3)削り工程
レンズの製造方法は、削り工程を含む。削り工程では、消臭性組成物(水溶液)を含硫黄レンズ材料に接触させながら、含硫黄レンズ材料を削る。削り工程では、公知のレンズ加工装置を用いることができる。
【0067】
消臭性組成物(水溶液)を含硫黄レンズ材料に接触させる方法は、特に限定されず、消臭性組成物(水溶液)を含硫黄レンズ材料に噴射する方法、消臭性組成物(水溶液)に含硫黄レンズ材料を含侵させる方法等が挙げられる。消臭性組成物(水溶液)を含硫黄レンズ材料に接触させる方法は、消臭性組成物(水溶液)を含硫黄レンズ材料に噴射して、消臭性組成物を前記レンズ材料に接触させる方法であることが好ましい。これにより、含硫黄レンズの生産性は向上する。
【0068】
含硫黄レンズ材料を削る方法は、特に限定されず、加工具を用いて含硫黄レンズ材料を切削する方法、加工具を用いて含硫黄レンズ材料を研磨する方法等が挙げられる。加工具は、レンズの加工に用いられる公知の加工具であればよい。
【0069】
削り工程は、含硫黄レンズ材料に接触させた消臭性組成物(水溶液)を回収して、回収水を得ること(以下、「回収工程」ともいう)を含んでもよいし、回収工程を含まなくてもよい。削り工程は、回収工程を含む場合、回収水を、含硫黄レンズ材料に噴射する消臭性組成物(水溶液)として用いることが好ましい。これにより含硫黄レンズの生産のランニングコストはより抑制され得る。
【0070】
削り工程で用いられる公知のレンズ加工装置は、加工室と、加工具と、循環水タンクと、噴射部と、を備えてもよい。
加工室は、含硫黄レンズ材料を収容する。加工室は、含硫黄レンズ材料を挟持する一対のレンズチャック軸を有してもよい。
加工具は、含硫黄レンズ材料を削る。加工具は、砥石群と、砥石群を回転させるモータとを有してもよい。砥石群としては、例えば、プラスチック用粗砥石、仕上げ砥石等が挙げられる。
循環水タンクは、含硫黄レンズ材料に噴射した消臭性組成物(水溶液)を回収する。循環水タンクは、消臭性組成物(水溶液)を収容する容器と、削り屑を回収する網と、を有してもよい。循環水タンクは、加工室内に配置されていてもよいし、加工室外に配置されていてもよい。
噴射部は、循環水タンク内の循環水を加工室内に供給して含硫黄レンズ材料に噴射する。噴射部は、消臭性組成物(水溶液)を再使用する循環式の装置であってもよい。詳しくは、噴射部は、消臭性組成物(水溶液)を噴出するノズルと、ノズルに接続されたチューブと、循環水タンク内に蓄えられた消臭性組成物(水溶液)を汲み上げてチューブを介してノズルに供給する電動式の給水ポンプと、を有してもよい。ノズルは、含硫黄レンズ材料と砥石群との接触部分に消臭性組成物(水溶液)を噴射するように、加工室内に配置されている。
公知のレンズ加工装置は、例えば、特許第5269514号明細書、特開2006-305698号公報等に記載の装置であってもよい。
【0071】
削り工程は、公知のレンズ加工装置を用いて、次のようにして実施されてもよい。ノズルから消臭性組成物(水溶液)を噴出して、含硫黄レンズ材料と砥石群との接触部分に消臭性組成物(水溶液)を接触させる。この接触部分に消臭性組成物(水溶液)が接触した状態を維持しながら、モータによって砥石群を回転させて、含硫黄レンズ材料を削る。ノズルから噴出された消臭性組成物(水溶液)、及び含硫黄レンズ材料の削り屑(以下、単に「削り屑」ともいう)は、循環水タンクに導かれて、循環水タンクに回収される。循環水タンク内の消臭性組成物(水溶液)は、給水ポンプによって汲み上げられて、ノズルから再度噴出される。
【実施例0072】
以下、本開示を実施例により更に具体的に説明するが、本開示はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0073】
[1]レンズの製造
[1.1]実施例1
[1.1.1]第1準備工程
含硫黄レンズ材料として、「MR-174」(三井化学株式会社製、直径:80mm、質量:60g)を準備した。
【0074】
[1.1.2]第2準備工程
[1.1.2.1]消臭性組成物(水溶液)の原料
消臭性組成物(水溶液)の原料として、下記の製品を準備した。
(有機ヨウ素化合物(A))
・DMTS(A-1-1):三井化学株式会社製の「ヨートル(登録商標)DP95」(成分:ジヨードメチル-p-トリルスルホン、形態:粉体)
(シクロデキストリン誘導体(B))
・MβCD(B-1):株式会社シクロケム製の「CAVASOL(登録商標) W7 M」(成分:メチル-β-シクロデキストリン、形態:粉体)
(水溶媒(C))
・水(C-1):精製水
【0075】
[1.1.2.2]消臭性組成物(水溶液)の作製
反応器(容量:3000mL)に、750gの「MβCD(B-1)」と、1500mLの「水(C-1)」とを装入した。その後、「DMTS(A-1-1)」の含有量がジヨードメチル-p-トリルスルホン水溶液の全量に対して3質量%となるように、「DMTS(A-1-1)」を添加し、50℃で5時間撹拌した。その後、0.3MPa以下で加圧ろ過を行い、ジヨードメチル-p-トリルスルホン水溶液(以下、「DPCD」ともいう。)を得た。
DPCD中のDMTSの濃度を、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いて下記の方法により求めた。
DPCD中のDMTSの濃度は、予め作成した絶対検量線に基づいて求めた。絶対検量線は、水溶媒にDMTSを溶解させた溶液についてHPLC分析を行った場合における、溶液中のDMTSの濃度と、ピークのArea%と、の関係を示すグラフであり、以下の方法で作成した。
アセトニトリル:水=1:1である溶媒を用いて、濃度の異なるDMTS溶液を3種類用意し、HPLCを用いてDMTSに相当するピークのArea%を算出した。その後、DMTS濃度を縦軸、得られたArea%を横軸として絶対検量線を作成した。
HPLCの条件は、以下の通りとした。
-HPLCの条件-
・カラム:(株)ワイエムシィ製「YMC-Pack ODS-A」(150×6mm)
・移動相:アセトニトリル:HO(0.1質量%トリフルオロ酢酸)=5:5→10:0 Over 15min、retention 10min、流速0.5mL/min
・温度:40℃
・検出波長:254nm
【0076】
DMTS及びMβCD濃度が表1の濃度となるように上記方法で製造したDPCDを20Lの水(C-1)に加え、消臭性組成物(水溶液)を得た。
【0077】
[1.1.3]削り工程
レンズ加工装置として、「Le-1000」(株式会社ニデック製)を準備した。レンズ加工装置の循環水として、消臭性組成物(水溶液)を用いた。レンズ加工装置は、含硫黄レンズ材料を収容する加工室と、含硫黄レンズ材料を削る加工具と、含硫黄レンズ材料に噴射した消臭性組成物(水溶液)を回収する循環水タンクと、循環水タンク内の循環水を加工室内に供給して含硫黄レンズ材料に噴射する噴射部と、を備える。
レンズ加工装置の加工室内に含硫黄レンズ材料をセットし、レンズ加工装置に自動加工処理を実行させた。詳しくは、噴射部から消臭性組成物(水溶液)を含硫黄レンズ材料に噴射して、消臭性組成物(水溶液)を含硫黄レンズ材料に接触させながら、加工具によって含硫黄レンズ材料(直径:80mm)を削った。これにより、含硫黄レンズ(直径:50mm)を得た。
含硫黄レンズ材料を削っている際に、含硫黄レンズ材料に接触させた消臭性組成物(水溶液)を循環水タンク内に回収して、回収水を得、得られた回収水を含硫黄レンズ材料に噴射する消臭性組成物(水溶液)として再利用した。削り屑は、消臭性組成物(水溶液)とともに循環水タンク内に回収された。循環水タンクでは、削り屑の大部分は、回収水に浮いていた。
【0078】
次いで、削り工程を再度実施した。これにより、合計2枚の含硫黄レンズを得た。
【0079】
[1.2]実施例2~実施例5、比較例1及び参考例1
実施例2~実施例4では、消臭性組成物(水溶液)の原料を表1に示す濃度となるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、合計2枚の含硫黄レンズを得た。
実施例5では、DMTS(A-1-1)の代わりにIPBC(A-2-1)(3-ヨード-2-プロピニル N-ブチルカルバマート)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、IPBC溶液(IPBC、水及びMβCDの混合溶液)を製造し、更に表1の濃度となるように20Lの水(C-1)に加え、消臭性組成物(水溶液)を製造した。なお、IPBC溶液中のIPBC濃度は実施例1と同様にHPLCを用いて、予め作成した絶対検量線に基づいて求めた。なお、HPLC条件は以下のとおりである。
-HPLCの条件-
・カラム:(株)ワイエムシィ製「YMC-Pack ODS-A」(150×6mm)
・移動相:アセトニトリル:H2O(0.1質量%トリフルオロ酢酸)=5:5、30min、流速0.5mL/min
・温度:40℃
・検出波長:220nm
その後、実施例1と同様にして、削り工程を経て合計2枚の含硫黄レンズを得た。
比較例1では、消臭性組成物(水溶液)の代わりに、水(C-1)のみ用いたこと以外は実施例1と同様にして、合計2枚の含硫黄レンズを得た。
参考例1では、消臭性組成物(水溶液)の代わりに消臭剤の市販品(株式会社サンニシムラ製の「サン消臭剤」)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、合計2枚の含硫黄レンズを得た。
【0080】
[2]評価
[2.1]官能評価(回収水)
合計2枚の含硫黄レンズを得た後に、循環水タンク内から回収水を採取した。採取した回収水の臭いを一人の官能評価実施者が嗅いで、下記の評価基準により、回収水の臭いを評価した。評価結果を表1に示す。
【0081】
[2.1.1]官能評価(回収水)の評価基準
5:回収水から強烈な臭気が感じられた。
4:回収水から強い臭気が感じられた。
3:回収水から認識できる臭気が感じられた。
2:回収水から弱い臭気が感じられた。
1:回収水から気にならない程度の臭気が感じられた。または回収水は無臭であった。
【0082】
[2.2]官能評価(削り屑)
合計2枚の含硫黄レンズを得た後に、循環水タンク内から削り屑を採取した。採取した削り屑を30分以内に一人の官能評価実施者が嗅いで、下記の評価基準により、削り屑の臭いを評価した。評価結果を表1に示す。
【0083】
[2.2.1]官能評価(削り屑)の評価基準
5:削り屑から強烈な臭気が感じられた。
4:削り屑から強い臭気が感じられた。
3:削り屑から認識できる臭気が感じられた。
2:削り屑から弱い臭気が感じられた。
1:削り屑から気にならない程度の臭気が感じられた。または削り屑は無臭であった。
【0084】
[2.3]定量分析(回収水)
合計2枚の含硫黄レンズを得た後に、循環水タンク内から回収水を採取した。ガスクロマトグラフィー(以下、「GC」ともいう)を用いて、下記の測定条件で、採取した回収水の分析を行った。
【0085】
[2.3.1]GCの測定条件
システム :Agilent_6890N/5973N(アジレント・テクノロジー株式会社製)
カラム :CP-Sil 5 CB for Sulfur(0.32mmID×30m 膜厚:4.0μm)
キャリアガス :He
キャリアガス流量 :1.3mL/分
注入方法 :スプリット法
カラム温度パターン :50℃で1分間保持、50℃から200℃まで10℃/分昇温、200℃で4分間保持
注入口温度 :200℃
イオン源温度 :230℃
インターフェイス温度:200℃
四重極温度 :120℃
【0086】
[2.3.2]臭いを発生する化合物
比較例1の回収水では、GCで化合物1~化合物4が検出された。化合物1~化合物4の各々は、臭いを発する化合物として知られた公知の化合物であった。化合物1、化合物3及び化合物4は、硫黄原子を含有する化合物であった。化合物2は、硫黄原子を含有しない化合物であった。化合物1~化合物4の各々の分子量は、異なり、50~200の範囲内であった。
【0087】
クロマトグラムにて比較例1の回収水から検出された化合物1~化合物4のピークについて、ピーク曲線下面積を算出した。実施例1~実施例5及び参考例1の回収水についても比較例1と同じ保持時間でピークが検出された。実施例1~実施例5及び参考例1の回収水から検出された化合物1~化合物4のピークについても、比較例1と同様にしてピーク曲線下面積を算出した。化合物1~化合物4の各々について、比較例1のピーク曲線下面積を100%としたときの実施例1~実施例5及び参考例1の各々のピーク曲線下面積の数値(以下、「存在比」ともいう)を算出した。存在比の算出結果を表2に示す。表2中の存在比が低いほど、回収水の臭いが低減されていることを示す。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
表1中、「ヨウ素量」は、消臭性組成物の原料の分子量及び配合量から算出された値を示す。
【0091】
実施例1~実施例5の消臭性組成物は、DMTS(A-1-1)又はIPBC(A-2-1)を含有していた。そのため、実施例1~実施例3、及び実施例5の回収水の官能評価の評価結果は、表1に示すように、比較例1よりも低かった。更に、実施例1~実施例4の削り屑の官能評価の評価結果は、表1に示すように、比較例1よりも低かった。つまり、実施例1~実施例5では、回収水の官能評価及び削り屑の官能評価の少なくとも一方は、比較例1よりも低かった。その結果、実施例1~実施例5の消臭性組成物は、含硫黄レンズ材料を削った際に発生する悪臭を抑制することができる消臭性組成物であることがわかった。
GCで検出された回収液中の化合物1~化合物4の各々の存在比は、比較例1よりも低かった。これにより、臭いを発生する化合物の発生量は、実施例1~実施例5の消臭性組成物によって低減されことが確認された。つまり、削り工程における悪臭の発生が抑制されたことが確認された。その結果、実施例1~実施例5の消臭性組成物は、含硫黄レンズ材料を削った際に発生する悪臭を抑制することができる消臭性組成物であることがわかった。
更に、実施例1~実施例5では参考例1(市販の消臭剤)と比べてみても同等以上に臭いを低減できることが確認された。