(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078192
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】医療用組成物
(51)【国際特許分類】
A61L 31/14 20060101AFI20240603BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20240603BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20240603BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20240603BHJP
A61L 27/42 20060101ALI20240603BHJP
A61L 27/48 20060101ALI20240603BHJP
A61L 27/10 20060101ALI20240603BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20240603BHJP
A61L 31/02 20060101ALI20240603BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20240603BHJP
A61K 31/765 20060101ALI20240603BHJP
A61K 33/42 20060101ALI20240603BHJP
A61K 31/23 20060101ALI20240603BHJP
A61K 31/231 20060101ALI20240603BHJP
A61K 31/22 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
A61L31/14 500
A61P7/04
A61P19/00
A61L27/58
A61L27/42
A61L27/48
A61L27/10
A61L27/18
A61L31/02
A61L31/06
A61K31/765
A61K33/42
A61K31/23
A61K31/231
A61K31/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190595
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗本 理央
(72)【発明者】
【氏名】成田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】緒方 藍歌
【テーマコード(参考)】
4C081
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C081AA14
4C081AC16
4C081BA11
4C081CA161
4C081CE11
4C081CF031
4C081DA14
4C086AA01
4C086AA02
4C086FA02
4C086HA19
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA63
4C086MA70
4C086NA14
4C086ZA53
4C086ZA96
4C206AA01
4C206AA02
4C206DB03
4C206DB06
4C206DB07
4C206DB43
4C206DB48
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA36
4C206MA83
4C206MA90
4C206NA14
4C206ZA53
4C206ZA96
(57)【要約】
【課題】本発明は、生体吸収性を有するとともに、指での混練時の取り扱い性及び骨髄の断面への塗り込み性に優れる医療用組成物を提供する。
【解決手段】医療用組成物は、重量平均分子量が0.5万~4.5万である脂肪族ポリエステルと、体積基準のメジアン径が4μm~1200μmのセラミック粒子と、前記脂肪族ポリエステル以外の有機酸エステル化合物と、を含有する。前記有機酸エステル化合物の含有量は、医療用組成物の総量に対して、6質量%~24質量%である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量(Mw)が0.5万~4.5万である脂肪族ポリエステルと、
体積基準のメジアン径が4μm~1200μmのセラミック粒子と、
前記脂肪族ポリエステル以外の有機酸エステル化合物と、
を含有し、
前記有機酸エステル化合物の含有量が、医療用組成物の総量に対して、6質量%~24質量%である、医療用組成物。
【請求項2】
前記脂肪族ポリエステルの含有量は、医療用組成物の総量に対して、32質量%~57質量%であり、
前記セラミック粒子の含有量は、医療用組成物の総量に対して、32質量%~57質量%である、請求項1に記載の医療用組成物。
【請求項3】
前記有機酸エステル化合物の含有量が、医療用組成物の総量に対して、9質量%~19質量%である、請求項1又は請求項2に記載の医療用組成物。
【請求項4】
前記メジアン径が、10μm~450μmである、請求項1又は請求項2に記載の医療用組成物。
【請求項5】
前記脂肪族ポリエステルが、下記式(1)で表される構造を含む、請求項1又は請求項2に記載の医療用組成物。
【化1】
〔式(1)中、Aは下記式(a)で表される基であり、Bは下記式(b)で表される基であり、mは2~196であり、nは2~196である。〕
【化2】
〔式(a)中、R
1は炭素数1~5のアルキレン基である。〕
【化3】
〔式(b)中、R
2は炭素数1~5のアルキレン基である。〕
【請求項6】
前記セラミック粒子の成分は、ハイドロキシアパタイトを含む、請求項1又は請求項2に記載の医療用組成物。
【請求項7】
前記有機酸エステル化合物が、アーモンド油及び乳酸エチルの少なくとも一方を含む、請求項1又は請求項2に記載の医療用組成物。
【請求項8】
前記脂肪族ポリエステルの含有量が、医療用組成物の総量に対して、36質量%超51質量%未満であり、
前記メジアン径が、4μm以上160μm未満であり、
前記有機酸エステル化合物が、アーモンド油及び乳酸エチルを含む、請求項1又は請求項2に記載の医療用組成物。
【請求項9】
体液封止剤である、請求項1又は請求項2に記載の医療用組成物。
【請求項10】
止血剤である、請求項1又は請求項2に記載の医療用組成物。
【請求項11】
骨髄止血剤である、請求項1又は請求項2に記載の医療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
外科的処置等により骨を切断したり破砕したりすると、骨の断面から出血することがある。そこで、骨蝋又はボーンワックスのような止血剤を骨の断面に塗り込む止血処置が行われている。止血剤は、出血を止める作用に加えて、止血箇所の骨の再生を阻害しないことが求められる。加えて、止血剤は、止血処理の際に指等(例えば、指の先端、指の中間部(第一関節~第二関節辺り)、手のひら等)で混練して適度な硬さに調製された後に止血箇所に塗り込まれるため、取り扱い性が良好であることも求められる。
【0003】
非特許文献1は、蜜蝋を主成分とする止血剤を開示している。蜜蝋は、非生体吸収性である。そのため、非特許文献1の止血剤は、長期間組織内に残存し、骨の治癒や再生に対して物理的な障壁となり得る。
生体吸収性材料を主成分とする止血剤の研究開発もなされている。特許文献1には、特定の脂肪族ポリエステルと、有機粉体及び無機粉体の一方とを含む骨髄止血剤が開示されている。特許文献1には、骨髄止血剤が特定の脂肪族ポリエステルと有機粉体及び無機粉体の一方とを含むことで、骨髄止血剤を指等で混練して使用する際に手袋へのベタつきが抑えられ、取り扱い性が改善されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】C. Schonauer, et. al. European Spine Journal 13, 89-96, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の止血剤は、生体吸収性を有し、かつベタつきや硬さに関する取り扱い性は良好であるものの、骨髄の断面への塗り込み性の更なる改善が求められている。
【0007】
そこで、本発明は、生体吸収性を有するとともに、指での混練時の取り扱い性及び骨髄の断面への塗り込み性に優れる医療用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題に鑑み、本発明者は鋭意研究の結果、特定の脂肪族ポリエステルと、特定のセラミック粒子と、有機酸エステル化合物と、を所定の組成比で配合することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明の完成に至った。即ち、上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
【0009】
<1> 重量平均分子量(Mw)が0.5万~4.5万である脂肪族ポリエステルと、
体積基準のメジアン径が4μm~1200μmのセラミック粒子と、
前記脂肪族ポリエステル以外の有機酸エステル化合物と、
を含有し、
前記有機酸エステル化合物の含有量が、医療用組成物の総量に対して、6質量%~24質量%である、医療用組成物。
<2> 前記脂肪族ポリエステルの含有量は、医療用組成物の総量に対して、32質量%~57質量%であり、
前記セラミック粒子の含有量は、医療用組成物の総量に対して、32質量%~57質量%である、前記<1>に記載の医療用組成物。
<3> 前記有機酸エステル化合物の含有量が、医療用組成物の総量に対して、9質量%~19質量%である、前記<1>又は<2>に記載の医療用組成物。
<4> 前記メジアン径が、10μm~450μmである、前記<1>~<3>のいずれか1つに記載の医療用組成物。
<5> 前記脂肪族ポリエステルが、下記式(1)で表される構造を含む、前記<1>~<4>のいずれか1つに記載の医療用組成物。
【0010】
【0011】
〔式(1)中、下記Aは下記式(a)で表される基であり、Bは下記式(b)で表される基であり、mは2~196であり、nは2~196である。〕
【0012】
【0013】
〔式(a)中、R1は炭素数1~5のアルキレン基である。〕
【0014】
【0015】
〔式(b)中、R2は炭素数1~5のアルキレン基である。〕
<6> 前記セラミック粒子の成分は、ハイドロキシアパタイトを含む、前記<1>~<5>のいずれか1つに記載の医療用組成物。
<7> 前記有機酸エステル化合物が、アーモンド油及び乳酸エチルの少なくとも一方を含む、前記<1>~<6>のいずれか1つに記載の医療用組成物。
<8> 前記脂肪族ポリエステルの含有量が、医療用組成物の総量に対して、36質量%超51質量%未満であり、
前記メジアン径が、4μm以上160μm未満であり、
前記有機酸エステル化合物が、アーモンド油及び乳酸エチルを含む、前記<1>~<7>のいずれか1つに記載の医療用組成物。
<9> 体液封止剤である、前記<1>~<8>のいずれか1つに記載の医療用組成物。
<10> 止血剤である、前記<1>~<8>のいずれか1つに記載の医療用組成物。
<11> 骨髄止血剤である、前記<1>~<8>のいずれか1つに記載の医療用組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、生体吸収性を有するとともに、指での混練時の取り扱い性及び骨髄の断面への塗り込み性に優れる医療用組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、骨髄の断面上において、全体が盛り上がっている状態の医療用組成物の塗布物を示す画像である。
【
図2】
図2は、骨髄の断面上において、一部が盛り上がっている状態の医療用組成物の塗布物を示す画像である。
【
図3】
図3は、骨髄の断面上において、セラミック粒子が残っている状態の医療用組成物の塗布物を示す画像である。
【
図4】
図4は、骨髄の断面上において、全体が完全に塗り込まれている状態の医療用組成物の塗布物を示す画像である。
【
図5】
図5は、医療用組成物の小片が手袋に残る状態の手袋の指先を示す画像である。
【
図6】
図6は、医療用組成物の小片が手袋に少し残る状態の手袋の指先を示す画像である。
【
図7】
図7は、医療用組成物の小片が手袋に残らない状態の手袋の指先を示す画像である。
【
図8】
図8は、仮骨の形成領域の結果を示すコンピューター断層撮影画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではない。
【0019】
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において熱可塑性樹脂組成物中の各成分の含有量は、熱可塑性樹脂組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、熱可塑性樹脂組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示では、「発明を実施するための形態」中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本開示では、「発明を実施するための形態」中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、「実施例」に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
図中、同一又は相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0020】
(1)医療用組成物
本開示の医療用組成物は、重量平均分子量(Mw)が0.5万~4.5万である脂肪族ポリエステルと、体積基準のメジアン径が4μm~1200μmのセラミック粒子と、前記脂肪族ポリエステル以外の有機酸エステル化合物と、を含有する。前記有機酸エステル化合物の含有量は、医療用組成物の総量に対して、6質量%~24質量%である。
【0021】
「脂肪族ポリエステル」とは、環状エステル化合物(例えば、ε―カプロラクトン、δ―バレロラクトン、DL-ラクチド、D-ラクチド、L-ラクチド等)、及び環状カーボネート化合物(例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、トリメチレンカーボネート等)等の単量体の開環重合反応により製造されるポリマーを示す。脂肪族ポリエステルは、いわゆる生分解性ポリマーであることが好ましい。
「体積基準のメジアン径」とは、体積基準の積算粒子径分布の値が50%に相当する粒子径を示す。
「セラミック粒子」とは、セラミックからなる粒子を示す。
「有機酸エステル化合物」とは、有機酸とアルコールとのエステルを示し、脂肪族ポリエステルに包含されない。
【0022】
以下、「重量平均分子量が0.5万~4.5万である脂肪族ポリエステル」を単に「脂肪族ポリエステル」ともいい、「体積基準のメジアン径が4μm~1200μmのセラミック粒子」を単に「セラミック粒子」ともいい、「体積基準のメジアン径」を単に「メジアン径」ともいい、「前記脂肪族ポリエステル以外の有機酸エステル化合物」を単に「有機酸エステル化合物」ともいう。
【0023】
本開示の医療用組成物は、上記の構成を有するので、生体吸収性を有するとともに、指での混練時の取り扱い性及び骨髄の断面への塗り込み性に優れる。
【0024】
「生体吸収性」とは、生体内で自然に分解し、消失する性質を示す。
【0025】
(1.1)脂肪族ポリエステル
本開示の医療用組成物は、脂肪族ポリエステルを含有する。
【0026】
(1.1.1)重量平均分子量(Mw)
脂肪族ポリエステルの重量平均分子量(Mw)(以下、単に「重量平均分子量(Mw)」ともいう。)は、0.5万~4.5万である。
重量平均分子量(Mw)が0.5万未満である場合又は4.5万を超える場合、医療用組成物の柔軟性は好ましくない。
重量平均分子量(Mw)は、柔軟性の点で、好ましくは0.6万~3.0万、より好ましくは0.7万~2.5万、さらに好ましくは0.8万~2.0万である。
重量平均分子量(Mw)の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0027】
(1.1.2)構造
脂肪族ポリエステルは、下記式(1)で表される構造を含むことが好ましい。
【0028】
【0029】
式(1)中、Aは下記式(a)で表される基であり、Bは下記式(b)又は下記式(c)で表される基であり、mは2~196であり、nは2~196である。
【0030】
【0031】
式(a)中、R1は炭素数1~5のアルキレン基である。
【0032】
【0033】
式(b)中、R2は炭素数1~5のアルキレン基である。
【0034】
【0035】
式(c)中、R3は水素原子又は炭化水素基であり、R4は炭化水素基である。
【0036】
(1.1.2.1)式(1)
式(1)中、「m」は、2~196であり、好ましくは4~140、より好ましくは6~116、さらに好ましくは8~80である。
式(1)中、「n」は、2~196であり、好ましくは4~140、より好ましくは6~116、さらに好ましくは8~80である。
m及びnの合計量(m+n)は、好ましくは4~245、より好ましくは8~175、さらに好ましくは12~145、特に好ましくは16~100である。
mとnとの比率(m:n)は、好ましくは80:20~10:90、より好ましくは70:30~15:85、さらに好ましくは65:35~20:80である。
比率(m:n)が65:35~20:80の場合、m及びnの各々は、特定の範囲であることが好ましい。詳しくは、mは、好ましくは2~147、より好ましくは4~105、さらに好ましく6~87、特に好ましくは8~60である。詳しくは、nは、好ましくは4~98、より好ましくは6~70、さらに好ましくは8~58、特に好ましくは10~50である。
式(1)中の「m」及び「n」の各々の測定方法は、実施例に記載の方法と同一である。
【0037】
式(1)中、「A」及び「B」は交互に混在していてもよいし、ランダム状に混在してもよいし、ブロック状に混在してもよいし、グラフト状に混在していてもよい。すなわち、式(1)中の[(A)m/(B)n]の構造は、直鎖構造又は分岐構造(すなわち、グラフト構造)であってもよい。直鎖構造は、交互構造、ランダム構造、及びブロック構造を含む。交互構造では、AとBとは交互に配列して結合している。ランダム構造では、AとBとはランダムに配列して結合している。ブロック構造では、AのみのブロックとBのみのブロックとが配列して結合している。
式(1)中の[(A)m/(B)n]の構造がランダム構造であることが好ましい。これにより、脂肪族ポリエステルの融点は低くなる傾向にあり、医療用組成物の手触りは、ワックスのようになる。つまり、医療用組成物の取り扱い性は、優れる。
[(A)m/(B)n]の構造は、重合方法により容易に制御でき、mとnの値も容易に制御できる。
【0038】
式(a)中、R1で表される「アルキレン基」の炭素数は、1~5であり、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基等が挙げられる。R1で表される「アルキレン基」は、置換基を有していてもよいし、有していなくてもよい。
R1で表される「アルキレン基」が有してもよい置換基としては、炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、炭素数2~10の直鎖又は分岐鎖のアルケニル基、炭素数1~10のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、ハロゲン基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、カルボキシ基、アルキン基、歪環化アルキン基、メルカプト基、アルデヒド基、アジド基、アルコキシアミノ基、マレイミド基、フリル基などが挙げられる。これらの中でも、R1で表される「アルキレン基」が有してもよい置換基は、炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基であることが好ましく、炭素数5の直鎖のアルキル基であることがより好ましい。
【0039】
式(b)中、R2で表される「アルキレン基」の炭素数は、1~5であり、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基等が挙げられる。R2で表される「アルキレン基」は、置換基を有していてもよいし、有していなくてもよい。
R2で表される「アルキレン基」が有してもよい置換基としては、炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、炭素数2~10の直鎖又は分岐鎖のアルケニル基、炭素数1~10のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、ハロゲン基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、カルボキシ基、アルキン基、歪環化アルキン基、メルカプト基、アルデヒド基、アジド基、アルコキシアミノ基、マレイミド基、フリル基などが挙げられる。これらの中でも、R2で表される「アルキレン基」が有してもよい置換基は、炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基であることが好ましく、炭素数3の直鎖のアルキル基であることがより好ましい。
【0040】
式(c)中、R3で表される「炭化水素基」及びR4で表される「炭化水素基」の炭素数は、それぞれ独立に、好ましくは1~10、より好ましくは1~6である。
R3で表される「炭化水素基」及びR4で表される「炭化水素基」としては、それぞれ独立に、直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、又は直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基が挙げられる。
R3は水素原子であり、かつR4は炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、ヘキシル基)であることが好ましい。R3は水素原子、R4がメチル基であることがより好ましい。
【0041】
(1.1.2)好ましい構造
脂肪族ポリエステルは、上記式(1)で表される構造を含み、上記式(1)中、Aは上記式(a)で表される基であり、Bは上記式(b)で表される基であり、mは2~196であり、nは2~196であることが好ましい。
これにより、加水分解時に酸性有機化合物が生成されにくくなり、脂肪族ポリエステルは安定なpHを保てる特性を有する。そのため、医療用組成物の生体安全性は向上することが期待できる。
【0042】
上記式(1)で表される構造は、少なくとも1つのヒドロキシ基を有するアルコールの少なくとも一部のヒドロキシ基の水素が置換基に置換された構造であることが好ましい。
【0043】
少なくとも1つのヒドロキシ基を有するアルコールとしては、1価アルコール、2価アルコール、3価アルコール、4価アルコール、又は5価以上の多価アルコールが挙げられる。
1価のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール等の炭素数1~20の脂肪族アルコール;フェノール、クレゾール、ベンジルアルコール、ナフトール、アントロール等の炭素数6~30の芳香族アルコール(芳香族ヒドロキシ化合物)などが挙げられる。
2価のアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、アゾベンゼンジオール(4,4’-ジヒドロキシアゾベンゼン、2,2’-ジヒドロキシアゾベンゼン等)、メソゲンジオールなどが挙げられる。
3価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、2-メチル-1,2,3-プロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、1,2,4-ベンゼントリオール、カルシトリオール(1,25-ジヒドロキシコレカルシフェロール)、トリエタノールアミン、ブチルトリヒドロキシシランなどが挙げられる。
4価アルコールとしては、例えば、ペンタエリスリトール、1,4-ソルビタンなどが挙げられる。
5価以上の多価アルコールとしては、例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、キトサン、シクロデキストリン、キチン、セルロース、ヒアルロン酸、アミドエタノール表面基を有するデンドリマー(もしくはデンドロン)、ポリビニルアルコール等のヒドロキシ基含有ポリマーなどが挙げられる。
これらアルコールは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
上記式(1)で表される構造は、下記式(2)で表される構造であることが好ましい。
【0045】
【0046】
式(2)中、Aは上記式(a)で表される基であり、Bは上記式(b)又は上記式(c)で表される基であり、mは2~196である、nは2~196であり、R5は、1つ以上の水酸基を有する、直鎖又は分岐鎖の炭化水素基、又は水素原子であり、tは自然数である。
【0047】
式(2)で表される「A」、「B」、「m」及び「n」は、それぞれ式(1)中で表される「A」、「B」、「m」及び「n」と同様であり、好ましい態様も同じである。
【0048】
R5で表される「直鎖又は分岐鎖の炭化水素基」の炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~6である。R5で表される「炭化水素基」は、炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基であることが好ましい。R5で表される「水酸基」の数は、好ましくは1~4、より好ましくは1~2である。
tは、好ましくは1~4、より好ましくは1~2である。tは、前記アルコールの価数に相当する。
【0049】
(1.1.3)含有量
脂肪族ポリエステルの含有量は、特に限定されず、医療用組成物の総量に対して、好ましくは32質量%~57質量%である。脂肪族ポリエステルの含有量が32質量%以上であれば、医療用組成物は、指での混練時の感触がより良好で、骨髄の断面への塗り込み性により優れる。脂肪族ポリエステルの含有量が57質量%以下であれば、医療用組成物は、手袋を用いた指での混練時に手袋により残りにくい。
脂肪族ポリエステルの含有量は、より好ましくは33質量%~55質量%、さらに好ましくは34質量%~52質量%である。
【0050】
(1.2)セラミック粒子
本開示の医療用組成物は、セラミック粒子を含有する。
【0051】
セラミック粒子のメジアン径は、4μm~1200μmである。セラミック粒子のメジアン径が4μm未満であると、医療用組成物の手指混練時の感触が軟らかすぎるおそれがある。セラミック粒子のメジアン径が1200μmを超えると、医療用組成物中の脂肪族ポリエステル、及び有機酸エステル化合物との混和性が悪くなり、医療用組成物の骨塗り込み性が十分ではないおそれがある。
セラミック粒子のメジアン径は、好ましくは5μm~1000μm、より好ましくは6μm~800μm、さらに好ましくは8μm~600μm、特に好ましくは10μm~450μmである。
セラミック粒子のメジアン径の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0052】
セラミック粒子は、特に限定されず、生体吸収性を有するものが好ましく、単体でも混合物でもよい。
セラミック粒子の成分としては、例えば、ハイドロキシアパタイト(HAp)、β-リン酸三カルシウム(β-TCP)、α-リン酸三カルシウム、リン酸八カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム無水和物、リン酸水素カルシウム二水和物、などが挙げられる。
これらの中でも、生体安全性の観点から、セラミック粒子の成分は、ハイドロキシアパタイト(HAp)、及びβ-リン酸三カルシウム(β型リン酸三カルシウム)の少なくとも一方を含むことが好ましく、ハイドロキシアパタイト(HAp)を含むことがより好ましく、ハイドロキシアパタイト(HAp)からなることが特に好ましい。
【0053】
セラミック粒子の含有量は、医療用組成物の総量に対して、好ましくは32質量%~57質量%である。セラミック粒子の含有量が32質量%以上であれば、医療用組成物は、手袋を用いた指での混練時に手袋により残りにくい。セラミック粒子の含有量が57質量%以下であれば、医療用組成物は、指での混練時の感触がより良好で、骨髄の断面への塗り込み性により優れる。
セラミック粒子の含有量は、より好ましくは33質量%~55質量%、さらに好ましくは34質量%~52質量%である。
セラミック粒子の含有量に対する脂肪族ポリエステルの含有量の比率(脂肪族ポリエステル/セラミック粒子)は、好ましくは 7/3~3/7、より好ましくは 65/35~35/65、さらに好ましくは 6/4~4/6、特に好ましくは 5/5~4/6である。比率(脂肪族ポリエステル/セラミック粒子)が上記範囲内であれば、医療用組成物の取り扱い性は、向上する。比率(脂肪族ポリエステル/セラミック粒子)が6/4~4/6である場合、医療用組成物は、手袋を用いた指での混練時に手袋により残りにくくなり、取り扱い性は、より向上する。
【0054】
脂肪族ポリエステルの含有量は、医療用組成物の総量に対して、32質量%~57質量%であり、セラミック粒子の含有量は、医療用組成物の総量に対して、32質量%~57質量%であることが好ましい。
これにより、医療用組成物は、手袋を用いた指での混練時に手袋により残りにくく、骨髄の断面への塗り込み性により優れ、取り扱い性は、向上する。
【0055】
(1.3)有機酸エステル化合物
本開示の医療用組成物は、有機酸エステル化合物を含有する。
【0056】
有機酸エステル化合物は、特に限定されず、1価の有機酸と1価~3価アルコールとのエステル化合物であればよい。
【0057】
1価の有機酸としては、例えば、1価のヒドロキシ酸、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、オキソカルボン酸が挙げられる。
1価のヒドロキシ酸としては、例えば、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸、リシネライジン酸、セレブロン酸、キナ酸、シキミ酸、サリチル酸、3-メチルサリチル酸、バニリン酸、シリング酸、2、3-ジヒドロキシ安息香酸、2、4-ジヒドロキシ安息香酸、3、4-ジヒドロキシ安息香酸、2、5-ジヒドロキシ安息香酸、オルセリン酸、没食子酸、マンデル酸、ベンジル酸、アトロラクチン酸、メリロト酸、フロレト酸、クマル酸、カフェ酸、フェルラ酸、シナピン酸などが挙げられる。
飽和脂肪酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸、ヘンイコシル酸、ベヘン酸、トリコシル酸、リグノセリン酸などが挙げられる。
不飽和脂肪酸としては、例えば、リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサテトラエン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、パルミトレイン酸、バクセン酸、パウリン酸、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸、ネルボン酸、サピエン酸、ソルビン酸などが挙げられる。
オキソカルボン酸としては、例えば、ピルビン酸などが挙げられる。
【0058】
1価のアルコールとしては、例えば、炭素数1~20の脂肪族アルコール、炭素数6~30の芳香族アルコール(芳香族ヒドロキシ化合物)などが挙げられる。
炭素数1~20の脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール等が挙げられる。
炭素数6~30の芳香族アルコールとしては、例えば、フェノール、クレゾール、ベンジルアルコール、ナフトール、アントロール等が挙げられる。
2価のアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、アゾベンゼンジオール(4,4’-ジヒドロキシアゾベンゼン、2,2’-ジヒドロキシアゾベンゼン等)、メソゲンジオールなどが挙げられる。
3価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、2-メチル-1,2,3-プロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、1,2,4-ベンゼントリオール、カルシトリオール(1,25-ジヒドロキシコレカルシフェロール)、トリエタノールアミン、ブチルトリヒドロキシシランなどが挙げられる。
【0059】
有機酸エステル化合物は、油脂を含んでもよい。油脂は、脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物である。
油脂としては、例えば、植物系油脂、動物系油脂、合成油脂、変性油脂等が挙げられる。
植物系油脂としては、例えば、アボガド油、大豆油、ヤシ油、硬化ヤシ油、パーム油、パーム核油、トウモロコシ油、ラッカセイ油、ヒマワリ油、オリーブ油、サフラワー油、ココナッツ油、カシ油、アーモンド油、クログルミ油、アンズの仁油、ココアバター油、大風子油、紅花油、小麦胚芽油、米胚芽油、米糠油、シナ脂、アマニ油、綿実油、ナタネ油、キリ油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油、綿実ステアリン、ゴマ油、ツバキ油、月見草油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、カルナウバロウ、キャンデリラロウ等が挙げられる。
動物系油脂としては、例えば、ラード油、ニワトリ油、バター油、タラ肝油、鹿脂、ミンク油、イルカ脂、イワシ油、サバ油、馬脂、豚脂、骨油、羊脂、牛脚油、ネズミイルカ油、サメ油、魚油、マッコウクジラ油、鯨油、牛脂、硬化牛脂、牛骨脂、ラノリン、液状ラノリン、還元ラノリン、ラノリンアルコール、ラノリン脂肪酸イソプロピル、POE(ポリオキシエチレン)ラノリンアルコールエーテル、ラノリン脂肪酸ポリエチレングリコール、POE水素添加ラノリンアルコールエステル等が挙げられる。
合成油脂は、これら植物性油脂や動物性油脂から合成される。
変性油脂は、これらの植物性油脂や動物性油脂の一部を酸化、還元等の処理をして変性して得られる。これらの油脂を主成分とする油脂加工品も原料とすることができる。
これらの有機酸エステル化合物を単独あるいは2種類以上を混合してもよい。
【0060】
中でも、有機酸エステル化合物は、アーモンド油及び乳酸エチルの少なくとも一方を含むことが好ましく、アーモンド油及び乳酸エチルを含むことがさらに好ましい。これにより、脂肪族ポリエステルとの混和性が向上し、医療用組成物のラテックス製手袋へのベタつきが抑制され、指での混練時の感触がより良好となり、取り扱い性は、向上する。
【0061】
有機酸エステル化合物の含有量は、医療用組成物の総量に対して、6質量%~24質量%である。有機酸エステル化合物の含有量が6質量%未満であると、医療用組成物は、手袋を用いた指での混練時に手袋に残りやすいおそれがあり、骨髄の断面への塗り込み時の柔軟性が十分ではないおそれがある。有機酸エステル化合物の含有量が24質量%を超えると、医療用組成物は、手指混練時に滑りやすく、もしくは、ベタつきが生じてしまうおそれがある。
有機酸エステル化合物の含有量は、好ましくは8質量%~21質量%、より好ましくは9質量%~19質量%である。
前記比率(脂肪族ポリエステル/セラミック粒子)が5/5超7/3以下である場合、有機酸エステル化合物の含有量は、6質量%~14質量%であることが好ましい。前記比率(脂肪族ポリエステル/セラミック粒子)が3/7~5/5である場合、有機酸エステル化合物の含有量は、6質量%~24質量%であることが好ましい。前記比率(脂肪族ポリエステル/セラミック粒子)が上記の場合の有機酸エステル化合物の含有量が上記範囲内であれば、医療用組成物のラテックス製手袋へのベタつきが抑制される、もしくは、医療用組成物の骨髄の断面への塗り込み時の柔軟性がより優れる。
【0062】
(1.4)任意成分
本発明の医療用組成物は、本発明の効果を妨げない範囲内であれば、必要に応じて、任意成分を含有してもよい。任意成分は、上述した脂肪族ポリエステル、セラミック粒子、及び有機酸エステル化合物の各々とは異なる成分である。
任意成分としては、例えば、骨化促進効果を有するタンパク質、ペプチド、核酸、糖鎖などが挙げられる。
【0063】
(1.5)好ましい組成
本開示の医療用組成物では、
脂肪族ポリエステルの含有量が、医療用組成物の総量に対して、36質量%超51質量%未満であり、
セラミック粒子のメジアン径が、4μm以上160μm未満であり、
有機酸エステル化合物が、アーモンド油及び乳酸エチルを含むことが好ましい。
これにより、医療用組成物の柔軟性、塗り込み性、粘着性、及び伸び性の特に優れる。
【0064】
(1.6)用途
本開示の医療用組成物は、体液封止剤であることが好ましい。
「体液封止剤」とは、体内及び体表の少なくとも一方からの体液の流出を物理的に阻止する材料を示す。
「体液」とは、体内で作られる(分泌性又は外分泌性の)全ての液体を示す。体液としては、例えば、血液、精液、膣分泌液、脳脊髄液、滑液、腹膜液、羊膜液、及び歯科治療における唾液等が挙げられる。
【0065】
本開示の医療用組成物は、止血剤であることが好ましい。
「止血剤」とは、体内及び体表の少なくとも一方からの血液の出血を物理的に阻止する材料を示す。
血液は、例えば、骨髄液、末梢血、臍帯血、月経血等が挙げられる。
【0066】
本開示の医療用組成物は、骨髄止血剤であることが好ましい。
「骨髄止血剤」とは、骨髄液の出血を物理的に阻止する材料を示す。
【0067】
(2)製造方法
本開示の医療用組成物は、脂肪族ポリエステルに、セラミック粒子、有機酸エステル化合物、及び必要に応じて任意成分を添加し、混練することにより得られる。
医療用組成物の原料を混練する方法として、特に限定されず、混練機を用いる方法、医療用組成物の原料を溶媒(例えば、有機溶媒)に溶解又は分散させた後、溶媒の極性を変更して、医療用組成物を析出させる方法等が挙げられる。
なかでも、医療用組成物の原料を混練する方法は、医療用組成物中の溶媒残存による移植部への影響等の観点から、混練機を用いる方法が好ましい。
【0068】
脂肪族ポリエステルの製造方法は、特に限定されず、公知の一般的な製造方法であればよい。詳しくは、脂肪族ポリエステルは、触媒、単量体及び開始剤等の原料を高温溶融状態で混合することで得られる。
触媒としては、例えば、オクチル酸スズ等が挙げられる。
単量体としては、環状エステル化合物、及び環状カーボネート化合物等が挙げられる。環状エステル化合物としては、ε-カプロラクトン、DL-ラクチド、D-ラクチド、L-ラクチド等が挙げられる。環状カーボネート化合物としては、トリメチレンカーボネート等が挙げられる。式(1)中の「A」の由来となる化合物としては、ε-カプロラクトン等が挙げられる。式(1)中の「B」の由来となる化合物としては、DL-ラクチド、D-ラクチド、L-ラクチド、トリメチレンカーボネート等が挙げられる。
開始剤としては、1つ以上のヒドロキシ基を有する炭化水素基、水分子等が挙げられる。
【実施例0069】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施の形態も本発明の範疇に属し得る。
【0070】
[1]準備
[1.1]脂肪族ポリエステル
脂肪族ポリエステルとして、第1~第2のP(TMC-CL)と、第1~第3のP(DLLA-CL)とを準備した。
以下、式(2)中の「m」及び「n」の各々は、核磁気共鳴(NMR)、及びゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)の測定結果に基づく算出値である。
【0071】
[1.1.1]第1のP(TMC-CL)
第1のP(TMC-CL)は、式(2)で表され、上記重合方法にて取得したカプロラクトン22モル%とトリメチレンカーボネート78モル%の共重合体であった。
第1のP(TMC-CL)は、式(2)中、R5=C2H4、t=2、A=カプロラクトン、B:トリメチレンカーボネート、m=12、n=42、脂肪族ポリエステル全体の構造=直鎖型であった。
第1のP(TMC-CL)の重量平均分子量(Mw)は、0.9万であった。
【0072】
[1.1.2]第2のP(TMC-CL)
第2のP(TMC-CL)は、上記重合方法にて取得したカプロラクトン22モル%とトリメチレンカーボネート78モル%の共重合体であった。
第2のP(TMC-CL)は、式(2)で表され、式(2)中、R5=C2H4、t=2、A=カプロラクトン、B:トリメチレンカーボネート、m=14、n=48、脂肪族ポリエステル全体の構造=直鎖型であった。
第2のP(TMC-CL)の重量平均分子量(Mw)は、1.1万であった。
【0073】
[1.1.3]第1のP(DLLA-CL)
第1のP(DLLA-CL)は、上記重合方法にて取得したカプロラクトン60モル%とラセミ型乳酸(DL-乳酸)40モル%との共重合体であった。
第1のP(DLLA-CL)は、式(2)で表され、式(2)中、R5=C2H4、t=2、A=カプロラクトン、B:DL乳酸、m=37、n=25、脂肪族ポリエステル全体の構造=直鎖型であった。
第1のP(DLLA-CL)の重量平均分子量(Mw)は、1.17万であった。
【0074】
[1.1.4]第2のP(DLLA-CL)
第2のP(DLLA-CL)は、上記重合方法にて取得したカプロラクトン60モル%とラセミ型乳酸(DL-乳酸)40モル%との共重合体であった。
第2のP(DLLA-CL)は、式(2)で表され、式(2)中、R5=C2H4、t=2、A=カプロラクトン、B:DL乳酸、m=149、n=100、脂肪族ポリエステル全体の構造=直鎖型であった。
第2のP(DLLA-CL)の重量平均分子量(Mw)は、4.6万であった。
【0075】
[1.1.5]第3のP(DLLA-CL)
第3のP(DLLA-CL)は、上記重合方法にて取得したカプロラクトン60モル%とラセミ型乳酸(DL-乳酸)40モル%との共重合体であった。
第3のP(DLLA-CL)は、式(2)で表され、式(2)中、R5=C5H8、t=4、A=カプロラクトン、B:DL乳酸、脂肪族ポリエステル全体の構造=4分岐型であった。
第2のP(DLLA-CL)の重量平均分子量(Mw)は、6.4万であった。
【0076】
[1.1.6]脂肪族ポリエステルの重量平均分子量(Mw)の測定方法
脂肪族ポリエステルの重量平均分子量(Mw)は、クロロホルムを展開溶媒とする「GPC1260 Infinity LC」(アジレント・テクノロジー株式会社)を用いて以下の条件で測定した。
<条件>
流速 :1.0ml/分
カラム温度:40℃
標準物質 :単分散直鎖ポリスチレン
【0077】
[1.2]セラミック粒子
セラミック粒子として、第1~第6のセラミック粒子を下記のようにして準備した。
【0078】
[1.2.1]セラミック粒子の分級
β-リン酸三カルシウム(β-TCP-100、太平化学産業株式会社)、又はハイドロキシアパタイト(HAP-100、太平化学産業株式会社)を目開き500μm、250μm、150μm、106μm、及び53μmのふるいを用いて分級し、粒子径が53μm~150μm、106μm~250μm、106μm~150μm、150μm~250μm、250μm~500μm、500μm~の粒子径が異なる6種のセラミック粒子を得た。さらに、乳鉢やボールミル装置等を用いて粉砕処理を施したセラミック粒子を目開き53μmのふるいを用いて分級し、53μm以下のセラミック粒子を得た。これにより、下記の第1~第6のセラミック粒子を得た。
【0079】
第1のセラミック粒子:ハイドロキシアパタイト粒子(成分:ハイドロキシアパタイト、メジアン径:75μm)
第2のセラミック粒子:ハイドロキシアパタイト粒子(成分:ハイドロキシアパタイト、メジアン径:160μm)。
第3のセラミック粒子:β-リン酸三カルシウム粒子(成分:β-リン酸三カルシウム、メジアン径:160μm)
第4のセラミック粒子:β-リン酸三カルシウム粒子(成分:β-リン酸三カルシウム、メジアン径:367μm)
第5のセラミック粒子:β-リン酸三カルシウム粒子(成分:β-リン酸三カルシウム、メジアン径:3μm)
第6のセラミック粒子:β-リン酸三カルシウム粒子(成分:β-リン酸三カルシウム、メジアン径:1230μm)
【0080】
[1.2.2]メジアン径の測定方法
セラミック粒子の体積基準のメジアン径dは、レーザー回折式粒度分布測定装置(Mastersizer2000、マルバーン・パナリティカル社)を用いて測定した。詳しくは、セラミック粒子を分散媒に分散させ、粒子径分布測定装置を用いて体積基準の粒子径分布を測定し、得られた体積基準の積算粒子径分布の値が50%に相当する粒子径をメジアン径とした。
【0081】
[1.3]有機酸エステル化合物
有機酸エステル化合物として、下記の有機酸エステル1及び有機酸エステル2を準備した。
有機酸エステル1:アーモンド油(Almond oil from Prunus dulcis、シグマアルドリッチ社)
有機酸エステル2:乳酸エチル(一級、富士フイルム和光純薬社)
【0082】
[1.4]任意成分
任意成分として、1,3-プロパンジオール(特級、富士フイルム和光純薬社)を準備した。
【0083】
[2]実施例1~実施例14、比較例1~比較例7
脂肪族ポリエステルと、セラミック粒子と、有機酸エステル化合物と、任意成分とを、表1に示す含有量となるように混合し、医療用組成物を得た。
【0084】
[2.1]各成分の含有量
医療用組成物は有機溶媒などへの溶解、ろ過、再沈殿、分液等の操作で各成分に分離し、分離後に各成分の質量を測定することにより、各成分の医療用組成物の総量に対する含有量を算出することができる。
【0085】
[3]評価方法
[3.1]官能性評価
実施例1~実施例14、比較例1~比較例7の医療用組成物の柔軟性、塗り込み性、粘着性、及び伸び性の各々を下記に示すように行った。
【0086】
ラテックス製手袋(MICROFLEX(登録商標) Diamond Grip Plus)、及び正中切開されたブタ胸骨(東京芝浦臓器社)を準備した。
ラテックス製手袋を装着し、指先に医療用組成物から試料(0.5g~1.0g)をとり、15秒以上指先で混練した。次いで、室温(20℃~25℃)にて、ブタ胸骨の骨髄の断面に試料を塗り込んだ。この時、ブタ胸骨の表面温度は、放射温度計(IR-211H、カスタム社製)を用いて測定したところ、約17℃~19℃であった。
指での試料の混練から骨髄の断面への塗り込み、さらに塗り込み後の手袋への付着量について、画像、及び動画に記録した。記録した画像、及び動画から、柔軟性、塗り込み性、手袋への粘着性、及び伸び性について、表1に示す評価基準で段階評価を実施した。各項目の評価基準の詳細は、後述する。医療用組成物の組成を表2に示した。官能性評価の結果を表3に示した。
【0087】
【0088】
[3.1.1]柔軟性の評価基準
柔軟性は、「市販の骨蝋(LUKENS社製、商品名「BONE WAX」)」の柔軟性を基準に評価した。詳しくは、柔軟性は、医療用組成物の試料を指での混練した時に、市販の骨蝋に近い程、適切と評価した。
【0089】
[3.1.2]塗り込み性の評価基準
塗り込み性は、試料をブタ胸骨の骨髄の断面に塗り込み、試料が塗り込まれた骨髄の断面の表面を目視により観察して評価した。なお、骨髄は、スポンジ状の構造(すなわち、多孔質構造)を有する。
【0090】
観察結果の「盛り上がる」とは、骨髄の断面上の試料の塗布物において、塗布物の全体にわたって、試料に含まれるセラミック粒子の粒子径以上の盛り上がりがある状態を示す。以下、「試料に含まれるセラミック粒子の粒子径以上の盛り上がり」を単に「盛り上がり」ともいう。換言すると、「盛り上がる」とは、塗布物の全体において、試料が、骨髄の内部にほとんど流入していないことを示す。骨髄の断面上の試料の塗布物の全面が盛り上がっている状態を
図1に示す。
図1中、符号「1A」は、全面が盛り上がっている状態の試料の塗布物を示し、符号「100」は、骨髄の断面を示す。
【0091】
観察結果の「一部の盛り上がる」とは、骨髄の断面上の試料の塗布物において、塗布物の一部に、盛り上がりがある状態を示す。骨髄の断面上の試料の塗布物の一部が盛り上がっている状態を
図2に示す。
図2中、符号「1B」は、一部が盛り上がっている状態の試料の塗布物を示し、符号「P」は、試料の塗布物の全体の中で試料の塗布物が盛り上がっている部分を示す。
【0092】
観察結果の「粒子が残る」とは、骨髄の断面上の資料の塗布物において、塗布物の全面にわたって、試料に含まれるセラミック粒子が骨髄の断面上に残っている状態を示す。換言すると、「粒子が残る」とは、塗布物の全体において、試料に含まれる脂肪族ポリエステルは骨髄の内部に流入し、試料に含まれるセラミック粒子は骨髄の内部にほとんど流入していないことを示す。骨髄の断面上に試料に含まれるセラミック粒子が残っている状態を
図3に示す。
図3中、符号「1C」は、セラミック粒子が残っている状態の試料の塗布物を示す。
【0093】
観察結果の「概ね塗り込まれる」とは、骨髄の断面上の試料の塗布物において、塗布物の全体にわたって、盛り上がりがなく、かつ試料に含まれるセラミック粒子が骨髄の断面上に残っていないが、試料が完全に塗り込まれていない状態を示す。
【0094】
観察結果の「塗り込まれる」とは、骨髄の断面上の試料の塗布物において、塗布物の全体にわたって、盛り上がりがなく、かつ試料に含まれるセラミック粒子が骨髄の断面上に残っておらず、試料が完全に塗り込まれている状態を示す。換言すると、「塗り込まれる」とは、塗布物の全体において、試料が骨髄の内部に流入していることを示す。骨髄の断面上の試料の塗布物の全体が完全に塗り込まれている状態を
図4に示す。
図4中、符号「1D」は、全体が完全に塗り込まれている状態の試料の塗布物を示す。
【0095】
[3.1.3]粘着性の評価基準
粘着性は、試料をブタ胸骨の骨髄の断面に塗り込んだ後のラテックス製手袋(MICROFLEX(登録商標) Diamond Grip Plus)に対する試料の付着量から評価した。
観察結果の「手袋に残る」とは、試料の付着量が比較的大きいことを示す。換言すると、比較的多い数の試料の小片がラテックス製手袋に付着していることを目視で確認できることを示す。試料が手袋に残る状態を
図5に示す。
図5中、符号「1E」は、試料の小片を示し、符号「200」は、ラテックス製手袋を装着した指先を示す。
観察結果の「手袋に少し残る」とは、試料の付着量が比較的小さいことを示す。換言すると、比較的少ない数の試料の小片がラテックス製手袋に付着していることを目視で確認できることを示す。試料が手袋に少し残る状態を
図6に示す。
図6中、符号「1F」は、試料の小片を示す。
観察結果の「手袋に残らない」とは、試料の付着量がほぼないことを示す。換言すると、試料の小片がラテックス製手袋に付着していることを目視で確認できないことを示す。試料が手袋に残らない状態を
図7に示す。
【0096】
[3.1.4]伸び性の評価基準
伸び性は、試料をブタ胸骨の骨髄の断面に指で塗り込んだ際に、塗り込む指に追従して試料が進展していく様子から評価した。
観察結果の「伸びる」とは、塗り込む指に追従して試料が進展したことを示す。
観察結果の「少し伸びる」とは、試料の一部が塗り込む指に追従せずに、断続的に試料が進展したことを示す。
観察結果の「伸びない」とは、塗り込む指に追従せずに試料が進展しなかったことを示す。
【0097】
[3.2]生体吸収性の評価
ウサギの大腿骨に直径2mm、深さ8mmの穴をあけた。この穴に医療用組成物を塗り込み、止血することなく放置した。医療用組成物を穴に塗り込んだ時点から2週間経過した大腿骨と、医療用組成物を穴に塗り込んだ時点から16週間放置した大腿骨と、をコンピューター断層撮影(CT)した。実施例1の結果を
図8に示す。
図8中、「実施例」は、当該実施例の結果を示す。
図8中の「実施例」の項目において、1列目は2週間後のウサギの大腿骨の外面を示し、2列目は2週間後のウサギの大腿骨のCT画像を示し、3列目は16週間後のウサギの大腿骨の外面を示し、4列目は16週間後のウサギの大腿骨のCT画像を示す。以下、同様である。
他の実施例及び比較例も実施例1と同様の結果であった。
【0098】
参考例「Sham」として、ウサギの大腿骨の穴に何も充填せずに放置した場合の大腿骨の経過を観察した。詳しくは、上記と同様にしてあけたウサギの大腿骨の穴に、何も充填せずに、止血することなく放置した。ウサギの大腿骨に穴をあけた時点から2週間経過した大腿骨と、ウサギの大腿骨に穴をあけた時点から16週間放置した大腿骨と、をコンピューター断層撮影(CT)した。結果を
図8に示す。
図8中、「Sham」は、当該参考例の結果を示す。
【0099】
参考例「BONE WAX」として、ウサギの大腿骨の穴に市販の骨蝋を塗り込んで放置した場合の大腿骨の経過を観察した。詳しくは、市販の骨蝋(LUKENS社製、商品名「BONE WAX」)を準備した。上記と同様にしてあけたウサギの大腿骨の穴に、市販の骨蝋を塗り込み、止血することなく放置した。市販の骨蝋を穴に塗り込んだ時点から2週間経過した大腿骨と、市販の骨蝋を穴に塗り込んだ時点から16週間放置した大腿骨とをコンピューター断層撮影(CT)した。その結果を
図8に示す。
図8中、「Bone Wax」は、当該参考例の結果を示す。
【0100】
【0101】
表2中、「構造」とは、脂肪族ポリエステル全体を示す。「P(TMC-CL)」とは、脂肪族ポリエステルの原料である単量体に、トリメチレンカーボネート(TMC)及びカプロラクトン(CL)を用いたことを示す。「P(DLLA-CL)」とは、脂肪族ポリエステルの原料である単量体に、DL-ラクチド(DLLA)及びカプロラクトン(CL)を用いたことを示す。「HAP」とは、ハイドロキシアパタイトを示す。「β-TCP」とは、β-リン酸三カルシウムを示す。「PDO」とは、1,3-プロパンジオールを示す。
【0102】
【0103】
表3中、「評価スコア」は、柔軟性のスコアと、塗り込み性のスコアとの合計を示す。「総評価スコア」とは、柔軟性のスコアと、塗り込み性のスコアと、手袋への粘着性のスコアと、伸び性のスコアとの合計を示す。
【0104】
実施例1~実施例14の医療用組成物は、重量平均分子量(Mw)が0.5万~4.5万である脂肪族ポリエステルと、体積基準のメジアン径が4μm~1200μmのセラミック粒子と、脂肪族ポリエステル以外の有機酸エステル化合物と、を含有し、有機酸エステル化合物の含有量が、医療用組成物の総量に対して、6質量%~24質量%であった。
表3に示すように、実施例1~実施例14の評価スコアは、4以上であった。つまり、実施例1~実施例14の医療用組成物は、指での混練時の取り扱い性及び骨髄の断面への塗り込み性に優れることがわかった。
更に、実施例1~実施例14の総評価スコアは、6以上であった。
【0105】
比較例1及び比較例2では、重量平均分子量(Mw)が4.5万を超えていた。そのため、比較例1及び比較例2の評価スコアは0であった。詳しくは、比較例1及び比較例2の医療用組成物の柔軟性及び塗り込み性は非常に劣ることがわかった。
比較例3及び比較例5では、有機酸エステル化合物の含有量が6質量%未満であった。比較例5の医療用組成物は、1,3-プロパンジオールを含有していた。比較例4では、有機酸エステル化合物の含有量が24質量%超であった。そのため、比較例3~比較例5の評価スコアは2であった。詳しくは、医療用組成物の柔軟性及び塗り込み性は劣ることがわかった。
比較例6では、セラミック粒子のメジアン径が4μm未満であった。そのため、比較例6の評価スコアは3であった。詳しくは、比較例6の医療用組成物の塗り込み性は十分であるものの、過度に柔軟になり、手袋などの手術器具への粘着性が著しくなるため好ましくないことがわかった。
比較例7では、セラミック粒子のメジアン径が1200μmを超えていた。そのため、比較例7の評価スコアは1であった。詳しくは、比較例7の医療用組成物は、セラミック粒子が過度に大きいため、脂肪族ポリエステルとの混和性が悪くなり、手袋などの手術器具への粘着性が著しくなるため好ましくなく、塗り込み性は劣ることがわかった。
【0106】
図8の結果が示す画像の通り、実施例1では、16週間経過後の実施例及び参考例(sham)の大腿骨の孔は、骨で充填されていた。つまり、大腿骨の孔内に骨が再生していたことがわかった。
この結果から、実施例1~実施例14の医療用組成物は、生体吸収性に優れたものであった。
【0107】
一方、16週間経過後の参考例(Bone wax)の大腿骨の孔には、骨が形成されていなかった。つまり、市販の骨蝋(LUKENS社製、商品名「BONE WAX」)では、胸骨の間隙領域が大きく、止血箇所において骨が再生しにくかった。
【0108】
これらの結果から、実施例1~実施例14の医療用組成物は、生体吸収性を有するとともに、指での混練時の取り扱い性及び骨髄の断面への塗り込み性に優れることがわかった。
【0109】
実施例1、実施例6及び実施例7の医療用組成物は、柔軟性、塗り込み性、粘着性及び伸び性の各々が実施例のなかで最も優れていることがわかった。
特定の医療用組成物は、実施例のうち、実施例1、実施例6及び実施例7を包含する。
特定の医療用組成物は、
重量平均分子量(Mw)が0.5万~4.5万である脂肪族ポリエステルと、
体積基準のメジアン径が4μm以上160μm未満のセラミック粒子と、
前記脂肪族ポリエステル以外の有機酸エステル化合物と、
を含有し、
前記有機酸エステル化合物は、アーモンド油及び乳酸エチルを含み、
前記脂肪族ポリエステルの含有量が、医療用組成物の総量に対して、36質量%超51質量%未満であり、
前記有機酸エステル化合物の含有量が、医療用組成物の総量に対して、6質量%~24質量%である。
本発明により、脂肪族ポリエステルと、1種以上のセラミック粒子と、1種以上の有機酸エステル化合物を含む骨髄止血剤を得ることができる。その骨髄止血剤は生体吸収性を有しつつ、同時に手袋装着時のベタつき(粘着性)や手指混練時の硬さに関する取り扱い性に優れ、かつ骨髄の断面へ良好に塗り込める特性を有しており、特定の利用分野における止血剤としての用途に使用することが期待され、産業上の意義は極めて大きい。