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特開2024-78233磁性基体、磁性基体を備えるコイル部品、コイル部品を備える回路基板、及び回路基板を備える電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078233
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】磁性基体、磁性基体を備えるコイル部品、コイル部品を備える回路基板、及び回路基板を備える電子機器
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/24 20060101AFI20240603BHJP
   H01F 1/33 20060101ALI20240603BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20240603BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
H01F1/24
H01F1/33
H01F17/04 F
H01F27/255
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190647
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】萩原 智也
(72)【発明者】
【氏名】冨田 龍也
(72)【発明者】
【氏名】中島 啓之
【テーマコード(参考)】
5E041
5E070
【Fターム(参考)】
5E041AA11
5E041BD01
5E070AA01
5E070BA12
5E070BB01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】軟磁性金属粒子の充填率を高く維持したまま、軟磁性金属粒子同士の結合強度が改善された磁性基体、磁性基体を備えるコイル部品、コイル部品を備える回路基板及び回路基板を備える電子機器を提供する。
【解決手段】コイル部品において、磁性基体10は、各々がFeを含有する複数の軟磁性金属粒子と、複数の軟磁性金属粒子の各々の表面を覆う複数の絶縁膜と、を備える。複数の軟磁性金属粒子は、第1軟磁性金属粒子30aを含み、複数の絶縁膜は、第1軟磁性金属粒子の表面を覆う第1絶縁膜40aを含む。第1絶縁膜40aは、第1酸化物領域41と、第2酸化物領域42aと、を含む。第1酸化物領域41は、第1軟磁性金属粒子30aと第2軟磁性金属粒子30bとの間に介在しており、非晶質のAl酸化物を主成分として含む。第2酸化物領域42aは、第1軟磁性金属粒子30aの表面の一部を覆い、元素Aの酸化物を主成分として含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々がFeを含有する複数の軟磁性金属粒子と、
前記複数の軟磁性金属粒子の各々の表面を覆う複数の絶縁膜と、
を備え、
前記複数の軟磁性金属粒子は、第1軟磁性金属粒子を含み、
前記複数の絶縁膜は、前記第1軟磁性金属粒子の表面を覆う第1絶縁膜を含み、
前記第1絶縁膜は、前記第1軟磁性金属粒子に隣接する第2軟磁性金属粒子と前記第1軟磁性金属粒子との間に介在しており、非晶質のAl酸化物を主成分として含む第1酸化物領域と、前記第1軟磁性金属粒子の表面の一部を覆い元素Aの酸化物を主成分として含む第2酸化物領域と、を含む、
磁性基体。
【請求項2】
前記第1酸化物領域は、前記第1軟磁性金属粒子の表面の一部である第1表面領域を覆い、
前記第2酸化物領域は、前記第1軟磁性金属粒子の前記第1表面領域とは異なる第2表面領域を覆っている、
請求項1に記載の磁性基体。
【請求項3】
前記複数の軟磁性金属粒子は、前記第1軟磁性金属粒子に隣接する第3軟磁性金属粒子と、前記第2軟磁性金属粒子及び前記第3軟磁性金属粒子に隣接する第4軟磁性金属磁性粒子と、をさらに含み、
前記第1酸化物領域は、前記第1軟磁性金属粒子と前記第2軟磁性金属粒子との間及び前記第3軟磁性金属粒子と前記第4軟磁性金属磁性粒子との間に介在している、
請求項1又は2に記載の磁性基体。
【請求項4】
前記第1軟磁性金属粒子を通る平面で前記磁性基体を切断した断面において、前記第1酸化物領域が占める面積は、前記断面の総面積の2%以下である、
請求項1又は2に記載の磁性基体。
【請求項5】
前記第1酸化物領域は、非晶質のSi酸化物、非晶質のCa酸化物、及び非晶質のMg酸化物から成る群より選択される少なくとも一つの酸化物をさらに含有する、
請求項1又は2に記載の磁性基体。
【請求項6】
前記第1絶縁膜は、前記軟磁性金属粒子の前記第1表面領域及び前記第2表面領域とは異なる第3表面領域を覆いSiの酸化物を主成分として含む第3酸化物領域をさらに含む、
請求項2に記載の磁性基体。
【請求項7】
前記第1絶縁膜は、FeCr24を含有する第4酸化物領域をさらに含む、
請求項1又は2に記載の磁性基体。
【請求項8】
前記複数の軟磁性金属粒子の各々におけるFeの含有率は、95wt%以上である、
請求項1又は2に記載の磁性基体。
【請求項9】
前記元素Aは、Feよりも酸化しやすい元素である、
請求項1又は2に記載の磁性基体。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の磁性基体と、
前記磁性基体に備えられるコイル導体と、
を備えるコイル部品。
【請求項11】
請求項10に記載のコイル部品を含む、回路基板。
【請求項12】
請求項11に記載の回路基板を含む、電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書における開示は、主に、磁性基体、磁性基体を備えるコイル部品、コイル部品を備える回路基板、及び回路基板を備える電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
コイル部品において、軟磁性材料から構成された複数の軟磁性金属粒子を含む軟磁性基体が用いられている。軟磁性基体に含まれる軟磁性金属粒子の各々の表面は絶縁膜で覆われており、隣接する軟磁性金属粒子同士は、当該絶縁膜を介して結合している。軟磁性基体は、フェライトから構成される磁性基体よりも磁気飽和が起こりにくいという特徴を有するため、大電流が流れる回路で使用されるコイル部品での使用に特に適している。
【0003】
軟磁性金属粒子は、例えば、Feを主成分とする軟磁性材料から構成される。このようなFeを主成分とするFe基の軟磁性金属粒子を作製するための原料粉は、磁気特性や絶縁特性の改善のために、Feに加えてSi、Cr、Al等の添加元素を含む。磁性基体は、軟磁性材料からなる原料粉を樹脂と混合して混合樹脂組成物を生成し、この混合樹脂組成物を加熱することで作製される。加熱処理時には、原料粉粒子に含まれる添加元素(例えば、Si、Cr、Al)が各原料粉粒子の表面に移動して酸化される。このため、軟磁性金属粒子の表面には、原料粉に含まれる元素の酸化物を含む絶縁性の酸化被膜が形成される。この酸化被膜により、隣接する軟磁性金属粒子間が電気的に絶縁される。
【0004】
軟磁性金属粒子の表面は、絶縁性のコーティング膜で被覆されてもよい。絶縁性のコーティング膜として、ガラスや非晶質の酸化ケイ素膜が用いられる。
【0005】
このように、軟磁性金属粒子の表面には、原料粉に含まれる元素に由来する絶縁性の酸化物の被膜、又は、原料粉の含まれる元素に由来しない絶縁性の物質を含むコーティング膜が形成される。
【0006】
特許文献1には、軟磁性金属粒子の表面に4層の酸化物層が積層された絶縁膜を有する磁性基体が記載されている。特許文献1の磁性基体は、以下のようにして製造される。まず、水アトマイズ法により、表面にSiの酸化物層(第1酸化物層)及びFeの酸化物層(第2酸化物層)が形成されている原料粉が準備される。次に、この原料粉の表面に、TEOS(テトラエトキシシラン)をエタノールに混合させた混合液を塗布することにより、原料粉の表面に被覆膜が形成される。そして、この表面に被覆膜が形成された原料粉を成型して成型体を作製し、この成型体に加熱処理を施すことにより、成型体から磁性基体が得られる。この加熱処理により、被覆層がSiの酸化物を含む第3酸化物層となり、被覆層の外表面にFeを含む第4酸化物層が形成される。このため、加熱処理に得られる磁性基体中の軟磁性金属粒子の表面には、第1酸化物層~第4酸化物層の4層の酸化物層が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-158261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
磁性基体において、隣接する軟磁性金属粒子同士は、各々の表面に形成された絶縁膜を介して結合するので、磁性基体に含まれる各軟磁性金属粒子の表面に形成される絶縁膜の膜厚を薄くすると、隣接する軟磁性金属粒子の各々に形成された絶縁膜同士の接触面積が小さくなる。隣接する軟磁性金属粒子の各々に形成された絶縁膜同士の接触面積が小さくなると、絶縁膜によって結合されている隣接する軟磁性金属粒子間の結合力が弱くなり、その結果、磁性基体の機械的強度が低下するという問題がある。
【0009】
他方、軟磁性金属粒子間の結合力を高めるために、積層された複数の酸化物層から構成される絶縁膜の膜厚を厚くすると、軟磁性金属粒子の周りの周方向において一様に絶縁膜の厚さが厚くなるため、磁性基体における軟磁性金属粒子の充填率が大きく低下するという問題がある。
【0010】
本明細書において開示される発明の目的は、上述した問題の少なくとも一部を解決又は緩和することである。本発明のより具体的な目的の一つは、軟磁性金属粒子の充填率を高く維持したまま、軟磁性金属粒子同士の結合強度が改善された磁性基体を提供することである。
【0011】
本発明の前記以外の目的は、明細書全体の記載を通じて明らかにされる。特許請求の範囲に記載される発明は、「発明を解決しようとする課題」から把握される課題以外の課題を解決するものであってもよい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実施形態における磁性基体は、各々がFeを含有する複数の軟磁性金属粒子と、前記複数の軟磁性金属粒子の各々の表面を覆う複数の絶縁膜と、を備える。複数の軟磁性金属粒子は、第1軟磁性金属粒子を含み、複数の絶縁膜は、第1軟磁性金属粒子の表面を覆う第1絶縁膜を含む。前記第1絶縁膜は、第1酸化物領域と、第2酸化物領域と、を含む。第1酸化物領域は、第1軟磁性金属粒子と第2軟磁性金属粒子との間に介在しており、非晶質のAl酸化物を主成分として含む。第2酸化物領域は、第1軟磁性金属粒子の表面の一部を覆い、元素Aの酸化物を主成分として含む。
【発明の効果】
【0013】
本明細書により開示される発明の実施形態によれば、軟磁性金属粒子の充填率を高く維持したまま、軟磁性金属粒子同士の結合強度が改善された磁性基体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態による磁性複合体を備えるコイル部品を模式的に示す斜視図である。
図2図1のコイル部品の分解斜視図である。
図3図1のコイル部品をI-I線で切断した断面を模式的に示す断面図である。
図4】一実施形態による磁性基体の断面の一部の領域を拡大して模式的に示す拡大断面図である。
図5】別の実施形態による磁性基体の断面の一部の領域を拡大して模式的に示す拡大断面図である。
図6】さらに別の実施形態による磁性基体の断面の一部の領域を拡大して模式的に示す拡大断面図である。
図7】さらに別の実施形態による磁性基体の断面の一部の領域を拡大して模式的に示す拡大断面図である。
図8】本発明の一実施形態によるコイル部品の製造工程を示すフロー図である。
図9】本発明の別の実施形態によるコイル部品の製造工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。複数の図面において共通する構成要素には同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。以下で説明される本発明の実施形態は、必ずしも特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。以下の実施形態で説明されている諸要素が発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0016】
本明細書に開示される一つの実施形態は、コイル部品の磁性基体に関する。この磁性基体は、複数の軟磁性金属粒子を含む。以下では、まず、図1から図3を参照して、一実施形態による磁性基体を備えるコイル部品1について説明し、その後に、図4ないし図7を参照して磁性基体の微細構造について説明する。
【0017】
図1は、コイル部品1を模式的に示す斜視図であり、図2は、コイル部品1の分解斜視図である。図3は、図1のI-I線に沿ってコイル部品1を切断したコイル部品1の模式的な断面図である。図2においては、説明の便宜のために、外部電極の図示が省略されている。
【0018】
図1から図3には、コイル部品1の例として、積層インダクタが示されている。図示されている積層インダクタは、本発明を適用可能なコイル部品1の一例であり、本発明は積層インダクタ以外の様々な種類のコイル部品に適用され得る。例えば、コイル部品1は、巻線型のコイル部品や平面コイルにも適用され得る。
【0019】
図示されているように、コイル部品1は、基体10と、基体10の内部に設けられたコイル導体25と、基体10の表面に設けられた外部電極21と、基体10の表面において外部電極21から離間した位置に設けられた外部電極22と、を備える。基体10は、磁性材料から構成された磁性基体である。基体10は、特許請求の範囲に記載されている「磁性基体」の例である。
【0020】
基体10は、多数の軟磁性金属粒子を含む。基体10に含まれる複数の軟磁性金属粒子の平均粒径は、例えば1μm~20μmの範囲とされる。基体10に含まれる軟磁性金属粒子の平均粒径は、基体10をその厚さ方向(T軸方向)に沿って切断して断面を露出させ、当該断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により10000倍から50000倍程度の倍率で撮影したSEM像において、画像解析により各軟磁性金属粒子の円相当径(ヘイウッド径)を求め、その各軟磁性金属粒子の円相当径の平均値を軟磁性金属粒子の平均粒径とすることができる。基体10に含まれる軟磁性金属粒子の平均粒径は、1μm~10μmであってもよく、2μm~8μmであってもよい。軟磁性金属粒子の平均粒径と、原料粉の平均粒径とは大きく異ならないため、原料粉の粒度分布をJIS Z 8825に従ってレーザ回折散乱法により測定し、このレーザ回折散乱法によって測定された体積基準の粒度分布のD50値を、基体10に含まれる軟磁性金属粒子の平均粒径としてもよい。
【0021】
外部電極21は、コイル導体25の一端と電気的に接続されており、外部電極22は、コイル導体25の他端と電気的に接続されている。
【0022】
コイル部品1は、実装基板2aに実装され得る。図示の実施形態において、実装基板2aには、ランド部3a、3bが設けられている。コイル部品1は、外部電極21とランド部3aとを接合し、また、外部電極22とランド部3bとを接続することで実装基板2aに実装される。本発明の一実施形態による回路基板2は、コイル部品1と、このコイル部品1が実装される実装基板2aと、を備える。回路基板2は、様々な電子機器に搭載され得る。回路基板2が搭載され得る電子機器には、スマートフォン、タブレット、ゲームコンソール、自動車の電装品、サーバ及びこれら以外の様々な電子機器が含まれる。
【0023】
コイル部品1は、インダクタ、トランス、フィルタ、リアクトル、インダクタアレイ、及びこれら以外の様々なコイル部品であってもよい。コイル部品1は、カップルドインダクタ、チョークコイル及びこれら以外の様々な磁気結合型コイル部品であってもよい。コイル部品1の用途は、本明細書で明示されるものには限定されない。
【0024】
コイル部品1がインダクタアレイや磁気結合型コイル部品の場合には、コイル導体25は、2つ以上の導体部から構成される。コイル導体25を構成する2つ以上の導体部は、基体10内において互いから電気的に絶縁されている。
【0025】
一実施形態において、基体10は、L軸方向における寸法(長さ寸法)がW軸方向における寸法(幅寸法)及びT軸方向における寸法(高さ寸法)よりも大きくなるように構成される。例えば、長さ寸法は、1.0mm~6.0mmの範囲にあり、幅寸法は0.5mm~4.5mmの範囲にあり、高さ寸法は0.5mm~4.5mmの範囲にある。基体10の寸法は、本明細書で具体的に説明される寸法には限定されない。本明細書において「直方体」又は「直方体形状」という場合には、数学的に厳密な意味での「直方体」のみを意味するものではない。基体10の寸法及び形状は、本明細書で明示されるものには限定されない。
【0026】
基体10は、第1主面10a、第2主面10b、第1端面10c、第2端面10d、第1側面10e、及び第2側面10fを有する。基体10は、これらの6つの面によってその外表面が画定されている。第1主面10aと第2主面10bとはそれぞれ基体10の高さ方向両端の面を成し、第1端面10cと第2端面10dとはそれぞれ基体10の長さ方向両端の面を成し、第1側面10eと第2側面10fとはそれぞれ基体10の幅方向両端の面を成している。図1に示されているように、基体10の上側にある第1主面10aは、本明細書において「上面」と呼ばれることがある。同様に、第2主面10bは、「下面」又は「底面」と呼ばれることがある。コイル部品1は、第2主面10bが実装基板2aと対向するように配置されるので、第2主面10bは、「実装面」と呼ばれることもある。上面10aと下面10bとの間は基体10の高さ寸法だけ離間しており、第1端面10cと第2端面10dとの間は基体10の長さ寸法だけ離間しており、第1側面10eと第2側面10fとの間は基体10の幅寸法だけ離間している。
【0027】
図2に示されているように、基体10は、本体層20と、本体層20の下面に設けられた下側カバー層19と、本体層20の上面に設けられた上側カバー層18と、を有する。上側カバー層18、下側カバー層19、及び本体層20は、基体10の構成要素である。
【0028】
本体層20は、磁性膜11~17を備える。本体層20においては、T軸方向のマイナス側からプラス側に向かって、磁性膜17、磁性膜16、磁性膜15、磁性膜14、磁性膜13、磁性膜12、磁性膜11の順に積層されている。
【0029】
磁性膜11~17の上面には、導体パターンC11~C17がそれぞれ形成されている。複数の導体パターンC11~C17の各々は、コイル軸Ax1(図3参照)に直交する平面(LW平面)内でコイル軸Ax1周りに延びている。導体パターンC11~C17は、例えば、導電性に優れた金属又は合金から成る導電性ペーストをスクリーン印刷法により印刷することにより形成される。この導電性ペーストの材料としては、Ag、Pd、Cu、Al又はこれらの合金を用いることができる。導電性ペーストは、Ag、Pd、Cu、Al又はこれらの合金等の導電性に優れた導電性材料から構成される導体粉をバインダー樹脂及び溶剤と混練して生成される。バインダー樹脂は、PVC樹脂、フェノール樹脂、前記以外のバインダー樹脂として公知の樹脂、又はこれらの混合物であってもよい。導体粉としてCu粉が用いられる場合には、脱脂時におけるCu粉の過剰な酸化を抑制するために、バインダー樹脂としてアクリル樹脂等の熱分解性樹脂が用いられてもよい。熱分解性樹脂は、酸素との燃焼反応によらずに分解される。熱分解性樹脂は、非酸素雰囲気(例えば、窒素雰囲気)においても、熱分解温度以上の温度まで昇温した場合に熱分解し、残渣が残らない。よって、バインダー樹脂として熱分解性樹脂を用いることにより、脱脂処理を非酸素雰囲気下で行うことができる。導電性ペースト用のアクリル樹脂として、例えば、(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、又はスチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を用いることができる。溶剤として、トルエン、エタノール、ターピネオール、又はこれらの混合物を用いることができる。導電性ペーストは、チクソ性を調整するための調整剤を含むことができる。導体パターンC11~C17は、これ以外の材料及び方法により形成されてもよい。導体パターンC11~C17、例えば、スパッタ法、インクジェット法、又はこれら以外の公知の方法で形成されてもよい。
【0030】
磁性膜11~磁性膜16の所定の位置には、ビアV1~V6がそれぞれ形成される。ビアV1~V6は、磁性膜11~磁性膜16の所定の位置に、磁性膜11~磁性膜16をT軸方向に貫く貫通孔を形成し、当該貫通孔に導電材料を埋め込むことにより形成される。導体パターンC11~C17の各々は、隣接する導体パターンとビアV1~V6を介して電気的に接続される。
【0031】
導体パターンC11のビアV1に接続されている端部と反対側の端部は、外部電極22に接続される。導体パターンC17のビアV6に接続されている端部と反対側の端部は、外部電極21に接続される。
【0032】
上側カバー層18は、磁性材料から成る磁性膜18a~18dを備え、下側カバー層19は、磁性材料から成る磁性膜19a~19dを備える。本明細書においては、磁性膜18a~18d及び磁性膜19a~19dを総称して「カバー層磁性膜」と呼ぶことがある。また、基体10の構成要素は、複数の磁性膜が積層された積層構造を有するとは限らない。例えば、上側カバー層18は、複数の磁性膜18a~18dが積層された積層体ではなく、磁性材料から成型された成型体であってもよい。
【0033】
図3に示されているように、コイル導体25は、厚さ方向(T軸方向)に沿って延びるコイル軸Ax1の周りに巻回されている周回部25aと、周回部25aの一端から基体10の第1端面10cまで延伸する引出部25b1と、周回部25aの他端から基体10の第2端面10dまで延伸する引出部25b2と、を有する。導体パターンC11~C17及びビアV1~V6が、スパイラル状の周回部25aを形成する。すなわち、周回部25aは、導体パターンC11~C17及びビアV1~V6を有する。
【0034】
次に、図4を参照して、基体10の微細構造を説明する。図4は、図3に示されている断面の一部の領域を拡大して模式的に示す拡大断面図である。図4には、基体10に含まれる多数の軟磁性金属粒子のうちの2つの一部分が模式的に示されている。
【0035】
図4に示されているように、基体10に含まれる軟磁性金属粒子には、第1軟磁性金属粒子30aと、第2軟磁性金属粒子30bと、が含まれる。第1軟磁性金属粒子30aと第2軟磁性金属粒子30bとは隣接して配置されている。図4においては、第1軟磁性金属粒子30a及び第2軟磁性金属粒子30bの断面が、便宜上、円形に描かれている。基体10に含まれる軟磁性金属粒子は、円形以外の様々な断面形状を取り得る。基体10に含まれる軟磁性金属粒子は、Feを主成分とする。第1軟磁性金属粒子30a及び第2軟磁性金属粒子30bは、基体10に含まれる軟磁性金属粒子の例である。第1軟磁性金属粒子30a及び第2軟磁性金属粒子30bに関する説明は、基体10に含まれる第1軟磁性金属粒子30a又は第2軟磁性金属粒子30b以外の軟磁性金属粒子にも当てはまる。
【0036】
基体10に含まれる軟磁性金属粒子は、基体10が高い磁気飽和特性を有するように、95wt%以上の含有比率でFeを含むことが望ましい。基体10に含まれる軟磁性金属粒子に含まれるFeの含有比率は、コイル軸Axに沿って基体10を切断することで基体10の断面を露出させ、この断面においてエネルギー分散型X線分光(EDS)分析を行うことにより測定される。Feの含有比率の測定は、エネルギー分散型X線分光(EDS)検出器を搭載した走査型電子顕微鏡(SEM)により行うことができる。EDS検出器を搭載したSEMによるEDS分析は、SEM-EDS分析と呼ばれる。Feの含有比率は、例えば、株式会社日立ハイテク製の走査型電子顕微鏡SU7000及びアメテック株式会社製のエネルギー分散型X線分光検出器Octane Eliteを用い、加速電圧5kVで測定される。第1軟磁性金属粒子30aに含まれるFe以外の元素の含有比率も、Feの含有比率と同様にSEM-EDS分析により測定される。
【0037】
基体10に含まれる軟磁性金属粒子の各々の表面は、絶縁膜により被覆されている。このため、基体10に含まれている軟磁性金属粒子同士は、互いから電気的に絶縁される。例えば、第1軟磁性金属粒子30aの表面は、第1絶縁膜40aにより覆われており、第2軟磁性金属粒子30bの表面は、第2絶縁膜40bにより覆われている。第1絶縁膜40aは、第1軟磁性金属粒子30aの表面全体を覆っていることが望ましく、第2絶縁膜40bは、第2軟磁性金属粒子30bの表面全体を覆っていることが望ましい。基体10において、各軟磁性金属粒子は、隣接する軟磁性金属粒子と、それぞれの表面に設けられた絶縁膜を介して結合される。つまり、隣接する軟磁性金属粒子の各々の表面に設けられた絶縁膜同士が互いに結合しており、この絶縁膜同士の結合により、絶縁膜で覆われた軟磁性金属粒子同士が結合する。例えば、第1軟磁性金属粒子30aは、この第1軟磁性金属粒子30aに隣接する第2軟磁性金属粒子30bと、当該第1軟磁性金属粒子30aの表面に設けられた第1絶縁膜40a及び当該第2軟磁性金属粒子30bの表面に設けられた第2絶縁膜40bを介して結合される。
【0038】
基体10に含まれる軟磁性金属粒子は、例えば、軟磁性材料から成る原料粉を加熱することで得られる。詳しくは後述するように、基体10は、軟磁性材料からなる軟磁性金属粉を非晶質アルミナの微粒子と混合して混合粉を調製し、この混合粉を樹脂と混合して得られた混合樹脂組成物を加熱することで作製され得る。この基体10の製造プロセスにおける加熱処理により、原料粉に含まれている元素が原料粉の表面に拡散し、原料粉の表面で酸化されることにより、軟磁性金属粒子の表面に、原料粉に含まれる元素の酸化物及び非晶質アルミナに由来する非晶質のAl酸化物を含む絶縁膜が形成される。
【0039】
基体10に含まれる軟磁性金属粒子の原料粉は、Feを主成分とする。基体10に含まれる軟磁性金属粒子の原料粉は、Feに加えて、添加元素を含有することができる。。例えば、基体10に含まれる軟磁性金属粒子の原料粉は、Feに加えて、添加物として元素Aを含有する。
【0040】
元素Aは、Feよりも酸化しやすい元素である。元素Aは、Si、Ti、Al、Cr、Zr、Mnから成る群から選ばれる。元素Aは、酸素が存在する雰囲気中で原料粉に加熱処理を行う際に、Feよりも先に酸化されるので、加熱処理時にFeの酸化を抑制することができる。軟磁性金属粒子の原料粉は、Fe、元素A以外の元素を微量に含むことができる。軟磁性金属粒子の原料粉に微量に含まれ得る元素には、バナジウム(V)、亜鉛(Zn)、ボロン(B)、炭素(C)、及びニッケル(Ni)が含まれ得る。
【0041】
基体10に含まれる軟磁性金属粒子の表面に設けられる絶縁膜は、原料粉に含まれる元素の酸化物を含む。「基体10に含まれる軟磁性金属粒子の表面に設けられる絶縁膜」には、第1軟磁性金属粒子30aの表面に設けられる第1絶縁膜40a及び第2軟磁性金属粒子30bの表面に設けられる第2絶縁膜40bが含まれる。説明の便宜のために、基体10に含まれる軟磁性金属粒子の表面に設けられる絶縁膜を単に「絶縁膜」と呼ぶことがある。
【0042】
一実施形態において、絶縁膜の厚さは、隣接する軟磁性金属粒子間の距離と等しい。基体10の断面を所定の倍率(例えば、10000倍)で観察した観察視野に含まれる複数の軟磁性金属粒子のうち隣接するもの同士の距離の平均を、軟磁性金属粒子の表面に設けられる絶縁膜の厚さとすることができる。絶縁膜の厚さは、例えば、5~20nmである。絶縁膜の厚さは、軟磁性金属粒子の周方向に沿って一様でなくともよい。言い換えると、絶縁膜は、軟磁性金属粒子の周方向の異なる位置において、異なる厚さを有していても良い。絶縁膜が軟磁性金属粒子の周方向の位置によって異なる厚さを有する場合には、その異なる厚さの平均を絶縁膜の厚さとすることができる。絶縁膜のうち最も薄い部位の厚さは、5nmよりも薄くてもよい。絶縁膜のうち最も厚い部位の厚さは、20nmより厚くてもよい。絶縁膜が軟磁性金属粒子の周方向の位置に応じて異なる厚さを有する場合には、その最大の厚さは、最小の厚さの10倍よりも小さい。
【0043】
軟磁性金属粒子の表面を覆う絶縁膜について、図4を参照してさらに説明する。図4に示されているように、第1絶縁膜40aは、第1軟磁性金属粒子30aの表面の一部である第1表面領域31aを覆い非晶質のAl酸化物を主成分とする第1酸化物領域41と、第1軟磁性金属粒子30aの表面の一部である第2表面領域32aを覆い元素Aの酸化物を主成分として含む第2酸化物領域42aと、第1軟磁性金属粒子30aの表面の一部である第3表面領域33aを覆いSiの酸化物を主成分として含む第3酸化物領域43aと、を含む。図示の実施形態においては、第1酸化物領域41は、第1表面領域31aにおいて第1軟磁性金属粒子30aに接しているが、第1絶縁膜40a内において第1軟磁性金属粒子30aから離間した位置に設けられてもよい。第1酸化物領域41は、その一部が第1絶縁膜40a内に設けられ、残部が第1絶縁膜40aの外部まで延伸していてもよい。図4に示されている第1酸化物領域41は、基体10に含まれる非晶質のAl酸化物を主成分とする酸化物領域の例である。基体10は、第1酸化物領域41以外にも、非晶質のAl酸化物を主成分とする複数の酸化物領域を有することができる。基体10において、非晶質のAl酸化物を主成分とする酸化物領域は、複数の軟磁性金属粒子のうち隣接するもの同士の間に介在する。第1酸化物領域41は、基体10に含まれる非晶質のAl酸化物を主成分とする酸化物領域の例示であるから、本明細書における第1酸化物領域41に関する説明は、基体10に含まれる第1酸化物領域41以外の非晶質のAl酸化物を主成分とする酸化物領域にも当てはまる。
【0044】
第1軟磁性金属粒子30aの表面のうち、第3酸化物領域43aにより覆われる領域は、第3酸化物領域43aに覆われていない領域よりも小さい。つまり、第1軟磁性金属粒子30aの表面のうち第3酸化物領域43aにより覆われている領域の割合は、50%より少ない。これにより、第1軟磁性金属粒子30aの周囲に存在する第3酸化物領域43aの量を少なくすることができるので、第1軟磁性金属粒子30aを覆う酸化物の量を少なくできる。また、第1軟磁性金属粒子30aの表面のうち第2酸化物領域42aに覆われる領域は、第1酸化物領域41により覆われる領域よりも小さい。これにより、第1軟磁性金属粒子30aの周囲に存在する第2酸化物領域42aの量を少なくすることができるので、第1軟磁性金属粒子30aを覆う酸化物の量を少なくできる。
【0045】
元素AがAlの場合、第2酸化物領域42aに含まれるAl酸化物は、結晶質であってもよい。第1酸化物領域41が非晶質のAl酸化物を主成分として有すること及び第2酸化物領域42aが結晶質のAl酸化物を主成分として有することは、以下の手順で確認可能である。まず、エネルギー分散型X線分光(EDS)検出器を搭載した走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて、基体10の断面を観察する。この観察により得られる電子顕微鏡像のコントラスト(明度)の差異から、観察視野において絶縁膜を識別する。次に、観察領域のうち絶縁膜として識別された領域の組成をEDSによりZAF法で算出する。このEDS分析において、酸素及びAl元素を両方とも含む領域のうち、酸素以外の元素としてAl元素を最も多く(Al元素の原子割合(at%))含む領域がAl酸化物を主成分とする領域に該当すると判定される。次いで、観察領域の電子顕微鏡像にフーリエ変換を行って逆空間画像を得る。この逆空間画像においてAl酸化物を主成分とする領域に周期的な明暗が現れない場合に、当該領域のAl酸化物は、非晶質と判定される。逆に、逆空間画像においてAl酸化物を主成分とする領域に周期的な明暗が現れた場合に、当該領域のAl酸化物は、結晶質と判定される。Al酸化物を主成分とする領域のうち逆空間画像において周期的な明暗が現れない領域が第1酸化物領域41に該当し、Al酸化物を主成分とする領域のうち逆空間画像において周期的な明暗が現れる領域が第2酸化物領域42aに該当する。
【0046】
元素AがAlの場合、第2酸化物領域42aには、Al酸化物が主成分として含まれてもよい。第2酸化物領域42aは、酸素を除外した比率で表した場合に75at%よりも多い量のAl元素を含んでもよい。第1酸化物領域41は、酸素を除外した比率で表した場合に75at%以下のAl元素を含んでもよい。
【0047】
第1酸化物領域41は、Al酸化物に加えて、非晶質のSi酸化物、非晶質のCa酸化物、及び非晶質のMg酸化物から成る群より選択される少なくとも一つの非晶質の酸化物を含有してもよい。第1酸化物領域41に含有されるSi酸化物は、非晶質のシリカであってもよい。第1酸化物領域41に非晶質のシリカを含有させることにより、第1酸化物領域41の絶縁性をさらに向上させることができる。
【0048】
一実施形態において、第1酸化物領域41は、基体10の製造工程において軟磁性金属粒子の原料粉と混合された非晶質アルミナの微粒子に由来する。原料粉と混合される非晶質アルミナの微粒子は、高いアスペクト比を有する扁平な形状を有していてもよい。軟磁性金属粒子の原料粉と混合される非晶質アルミナの微粒子の粒径が当該原料粉の粒径と比較して小さい場合には、非晶質アルミナの微粒子は、原料粉の表面に付着しやすい。この原料粉の表面に付着した非晶質アルミナの微粒子が、基体10において、軟磁性金属粒子の表面の一部を覆う第1酸化物領域41となる。非晶質アルミナの微粒子の粒径が軟磁性金属粒子の原料粉と同程度かそれよりも大きい場合には、非晶質アルミナは、混合樹脂組成物において、原料粉から離れて存在しやすい。このような非晶質アルミナから形成される第1酸化物領域41は、基体10において、第1軟磁性金属粒子30aから離間した位置に存在しやすい。
【0049】
別の実施形態において、軟磁性金属粒子の原料粉を非晶質アルミナの微粒子の存在下で公知の手法(例えば、アトマイズ法)により生成することで、粒径が比較的小さな非晶質アルミナの微粒子を原料粉粒子の表面に付着させることができる。粒径が比較的大きな非晶質アルミナの微粒子は、原料粉粒子の表面に付着せず、単独の粒子として存在する。原料粉を構成する原料粉粒子の全てに非晶質アルミナの微粒子が付着するとは限らない。すなわち、非晶質アルミナの微粒子の存在下で原料粉を生成することにより、表面に非晶質アルミナの微粒子が付着した粒子と、表面に非晶質アルミナの微粒子が付着していない粒子と、比較的粒径の大きな非晶質アルミナの微粒子とが混合された原料粉が得られる。
【0050】
第1酸化物領域41に含まれるAl酸化物は、アルミナ(Al23)であることが望ましい。第1酸化物領域41及び第2酸化物領域42aに含まれるAl酸化物がアルミナである場合、第1酸化物領域41及び第2酸化物領域42aは、高い絶縁性を有する。第1酸化物領域41及び第2酸化物領域42aにアルミナ以外のアルミニウムの酸化物(例えば、酸化アルミニウム(II))が含有される可能性がある場合には、ラマン分光分析を行うことにより、第1酸化物領域41及び第2酸化物領域42aに主成分として含有されるAl酸化物が酸化アルミニウム(II)ではなくアルミナ(酸化アルミニウム(III))であることを決定してもよい。元素AがAlである場合には、第2酸化物領域42aに含まれるAl酸化物についても、本段落において第1酸化物領域41に含まれるAl酸化物について述べたことが当てはまる。
【0051】
第3酸化物領域43aに含まれるSiの酸化物は、シリカ(SiO2)であることが望ましい。EDS分析において第3酸化物領域43aに含まれる酸素以外の元素のうちSi元素の存在量(Si元素の原子割合(at%))が最も多い場合に、第3酸化物領域43aは、シリカを主成分として有するということができる。第3酸化物領域43aは、絶縁性のシリカを主成分とするため、高い絶縁性を有する。第3酸化物領域43aにシリカ以外のケイ素の酸化物(例えば、一酸化ケイ素)が含有される可能性がある場合には、ラマン分光分析を行うことにより、第3酸化物領域43aに主成分として含有される酸化物が一酸化ケイ素ではなくシリカ(二酸化ケイ素)であることを決定してもよい。
【0052】
絶縁膜は、原料粉に含有される元素の酸化物以外に当該元素の窒化物を含んでもよい。絶縁膜において酸化物が占める割合(質量基準)は、絶縁膜に占める窒化物の割合より多い。絶縁膜に含まれる窒化物には、窒化アルミニウム、窒化ケイ素が含まれ得る。絶縁膜に原料粉に含有される元素の窒化物を含めることにより、原料粉に含まれる元素の過剰な酸化が抑制される。一般に、窒化物よりも酸化物の方が高い硬度を有するため、絶縁膜に窒化物よりも酸化物が多く含まれることで、基体10の機械的強度を高めることができる。
【0053】
第1軟磁性金属粒子30aの表面は、第1表面領域31aと、第2表面領域32aと、第3表面領域33aとに区画される。図4に示されている実施形態では、第1軟磁性金属粒子30aの表面のうち第1表面領域31aが第1酸化物領域41によって覆われ、第2表面領域32aが第2酸化物領域42aによって覆われ、第3表面領域33aが第3酸化物領域43aによって覆われているので、第1軟磁性金属粒子30aの表面の全体が絶縁性の第2酸化物領域42a及び第3酸化物領域43aによって覆われている。第1酸化物領域41が第1軟磁性金属粒子30aと接しないように設けられる場合には、第1軟磁性金属粒子30aの表面には、第1表面領域31aに相当する領域が存在せず、第2表面領域32aと第3表面領域33aとに区画される。
【0054】
第2酸化物領域42aは、第1軟磁性金属粒子30aの第2表面領域32aだけでなく、第1酸化物領域41の外側の表面の少なくとも一部を覆うように形成されてもよい。第1酸化物領域41の外側の表面の少なくとも一部を第2酸化物領域42aによって覆うことにより、第1酸化物領域41の一部に欠陥が生じても、その欠陥が生じた部位を第2酸化物領域42aで覆うことにより、第1酸化物領域41に生じた欠陥を起点として絶縁破壊が生じることを防止できる。また、第2酸化物領域42aは、第3酸化物領域43aの外側の表面の少なくとも一部を覆うように形成されてもよい。第3酸化物領域43aの外側の表面を第2酸化物領域42aによって覆うことにより、第3酸化物領域43aの一部に欠陥が生じても、その欠陥が生じた部位を第2酸化物領域42aで覆うことにより、第3酸化物領域43aに生じた欠陥を起点として絶縁破壊が生じることを防止できる。図4に示されている態様では、第1酸化物領域41の外側の表面の全体及び第3酸化物領域43aの外側の表面の全体が第2酸化物領域42aによって覆われている。第3酸化物領域43aの外側の表面の全体を第2酸化物領域42aで覆うことにより、絶縁破壊をさらに抑制することができる。
【0055】
第2酸化物領域42aは、第3酸化物領域43aの外側の表面の一部のみを覆うように設けられてもよい。この場合、第1軟磁性金属粒子30aの表面に存在する第2酸化物領域42aの量を減らすことができる。よって、第2酸化物領域42aが第3酸化物領域43aの外側の表面の一部のみを覆うことにより、第2酸化物領域42aが第3酸化物領域43aの外側の表面の全体を覆う態様と比較して、基体10における軟磁性金属粒子の充填率を向上させることができる。
【0056】
図4に示されている態様では、第1絶縁膜40aにおいて、Si酸化物を主成分とする第3酸化物領域43aが複数存在しており、これらの複数の第3酸化物領域43aが互いから離間して配置されている。つまり、Si酸化物が第1軟磁性金属粒子30aの表面の全体を覆うように層状に形成されるのではなく、第1軟磁性金属粒子30aの表面に、複数の第3酸化物領域43aに分割して形成される。例えば、原料粉が含有するSiの量を微量とすることにより、第1軟磁性金属粒子30aの表面に複数の第3酸化物領域43aを離散的に形成することができる。第1軟磁性金属粒子30aの表面に複数の第3酸化物領域43aを離散的に形成するための原料粉におけるSiの含有率は、例えば、3wt%以下である。原料粉におけるSiの含有率は、1~3wt%とすることができる。また、原料粉における元素Aの含有率をSiの含有率よりも少なくすることができる。例えば、原料粉における元素Aの含有率は、0.2~1wt%とされる。
【0057】
第1軟磁性金属粒子30aと隣接して配置されている第2軟磁性金属粒子30bの表面には、第2絶縁膜40bが設けられている。第2絶縁膜40bは、第1軟磁性金属粒子30aの表面の一部である第2表面領域32aを覆い結晶質のAl酸化物を主成分として含む第2酸化物領域42aと、第1軟磁性金属粒子30aの表面の一部である第3表面領域33aを覆いSiの酸化物を主成分として含む第3酸化物領域43aと、を含む。図示の実施形態では、第2絶縁膜40bには、非晶質のAl酸化物を主成分とする酸化物領域(第1絶縁膜40aの第1酸化物領域41に対応する領域)を有していない。別の実施形態においては、第2絶縁膜40bが、非晶質のAl酸化物を主成分とする酸化物領域を備えていてもよい。第2絶縁膜40bが非晶質のAl酸化物を主成分とする酸化物領域を備える場合には、第1酸化物領域41に関する説明は、第2絶縁膜40bに含まれる非晶質のAl酸化物を主成分とする酸化物領域にも当てはまる。第2酸化物領域42bは、第2酸化物領域42aと同様に元素Aの酸化物を主成分として含む。第2酸化物領域42aに関する上記の説明は、第2酸化物領域42bにも当てはまる。第3酸化物領域43bは、第3酸化物領域43aと同様にSiの酸化物を主成分として含む。第3酸化物領域43aに関する上記の説明は、第3酸化物領域43bにも当てはまる。
【0058】
図4においては、第1絶縁膜40aと第2絶縁膜40bとの間の境界が点線で示されているが、基体10の断面を観察した場合、第1絶縁膜40aと第2絶縁膜40bとの境界は、明瞭に視認できないことがある。第1軟磁性金属粒子30aと第2軟磁性金属粒子30bとの間の領域にある酸化物領域(例えば、Al酸化物を主成分とする酸化物領域やSi酸化物を主成分とする酸化物領域)は、第1絶縁膜40aに含まれるものであってもよいし、第2絶縁膜40bに含まれるものであってもよい。
【0059】
図4には、第1軟磁性金属粒子30aの幾何中心Ca及び第2軟磁性金属粒子30bの幾何中心Cb及びこの幾何中心Ca、Cbを通る仮想的な直線L1が示されている。また、図4には、幾何中心Ca、Cbを通る仮想的な直線L1と垂直に交わり、第1軟磁性金属粒子30aの表面からの距離と第2軟磁性金属粒子30bの表面からの距離とが等しい基準線RLが示されている。第1軟磁性金属粒子30aと基準線RLとの距離は、第1軟磁性金属粒子30aの表面の任意の点から基準線RLに下ろした垂線の長さのうち最も短い長さを意味する。同様に、第2軟磁性金属粒子30bと基準線RLとの距離は、第2軟磁性金属粒子30bの表面の任意の点から基準線RLに下ろした垂線の長さのうち最も短い長さを意味する。第2絶縁膜40bは、基準線RLに対して、第1絶縁膜40aと非対称に構成される。例えば、第1絶縁膜40aには、第1酸化物領域41が含まれているが、第2絶縁膜40bには、非晶質のAl酸化物を主成分とする酸化物領域が含まれていない。また、第2絶縁膜40bに含まれる第3酸化物領域43bは、基準線RLに対して、第1絶縁膜40aに含まれる第3酸化物領域43aと非対称な位置に配置されている。図4に示されている態様において直線L1に沿って第1軟磁性金属粒子30aの表面と第2軟磁性金属粒子30bの表面との間の領域を観察すると、第1軟磁性金属粒子30aの表面には、第1酸化物領域41及び第2酸化物領域42aが設けられているが、第2軟磁性金属粒子30bの表面には、第2酸化物領域42bのみが設けられている。このように、第1絶縁膜40aと第2絶縁膜40bとの基準線RLに対する非対称性は、直線L1に沿って第1絶縁膜40a及び第2絶縁膜40bを観察することで確認されてもよい。
【0060】
第1酸化物領域41は、第1軟磁性金属粒子30aと第2軟磁性金属粒子30bとの間に介在する。第1軟磁性金属粒子30aと第2軟磁性金属粒子30bとの間に第1酸化物領域41を介在させることにより、第1軟磁性金属粒子30aと第2軟磁性金属粒子30bとの結合強度を高めることができる。第1酸化物領域41は、従来の酸化物層のように第1軟磁性金属粒子30aの周囲を取り囲むのではなく(つまり、第1軟磁性金属粒子30aを取り囲む積層構造の酸化物層のうちの一つではなく)、第1軟磁性金属粒子30aの周りの周方向において、第1軟磁性金属粒子30aと第2軟磁性金属粒子30bとの間に局在している。従来は、絶縁膜の厚さを厚くすることにより軟磁性金属粒子同士の結合強度を強くする場合には、原料粉の加熱時間を長くするなどの製造工程における工夫により、軟磁性金属粒子を取り囲む酸化物層の膜厚を周方向において一様に厚くしていた。これに対して、第1酸化物領域41は、第1軟磁性金属粒子30aと第2軟磁性金属粒子30bとの間に局在している。このため、第1酸化物領域41による軟磁性金属粒子の充填率の低下は、第1軟磁性金属粒子30aと第2軟磁性金属粒子30bとを接続する絶縁膜の厚さ(第1絶縁膜40aの厚さと第2絶縁膜40bの厚さとの合計)の増加分だけ生じる。このため、第1酸化物領域41を設けることによる絶縁膜の量の増加は、従来の磁性基体において接合強度の強化のために周方向において一様に絶縁膜を厚くすることによる絶縁膜の量の増加よりも少ない。よって、第1酸化物領域41を設けることによる軟磁性金属粒子の充填率の減少は、従来の磁性基体において絶縁膜の膜厚を一様に厚くすることによる充填率の低下よりも抑制される。したがって、基体10においては、軟磁性金属粒子の充填率の低下を抑制しつつ、軟磁性金属粒子同士の結合強度を改善することができる。言い換えると、基体10においては、従来の磁性基体と比べて軟磁性金属粒子の充填率を高く維持したまま、軟磁性金属粒子同士の結合強度を改善することができる。
【0061】
第1酸化物領域41は、第1軟磁性金属粒子30aの表面のうち、第1軟磁性金属粒子30aと第2軟磁性金属粒子30bとが対向する領域に設けられることが望ましい。第1軟磁性金属粒子30aと第2軟磁性金属粒子30bとが対向する領域に第1酸化物領域41を設けることにより、第1軟磁性金属粒子30aと第2軟磁性金属粒子30bとの結合を強固にすることができる。
【0062】
第1酸化物領域41は、非晶質のAl酸化物を主成分とするため高い絶縁性を有する。このため、第1酸化物領域41を、第1軟磁性金属粒子30aの表面のうち第1軟磁性金属粒子30aと第2軟磁性金属粒子30bとが対向する領域に設けることにより、第1軟磁性金属粒子30aと第2軟磁性金属粒子30bとの間の絶縁性を向上させることができる。
【0063】
図4には、第1軟磁性金属粒子30aの幾何中心Caを通り、第2軟磁性金属粒子30bの外表面に接する2本の仮想線TL1、TL2が示されている。図4に示されている実施形態において、第1酸化物領域41は、第1軟磁性金属粒子30a及び第2軟磁性金属粒子30bを通る平面で切断した断面において、仮想線TL1とTL2とで挟まれる領域の全体に亘って、第1軟磁性金属粒子30aの表面に沿って延伸している。第1軟磁性金属粒子30aが、仮想線TL1とTL2とで挟まれる領域の全体に亘って第1軟磁性金属粒子30aの表面に沿って延伸することにより、基体10における軟磁性金属粒子の充填率の低下を抑制しつつ、第1軟磁性金属粒子30aと第2軟磁性金属粒子30bとの結合を強固にし、また、第1軟磁性金属粒子30aと第2軟磁性金属粒子30bとの間の絶縁性を向上させることができる。
【0064】
一実施形態において、第1軟磁性金属粒子30a及び第2軟磁性金属粒子30bを通る平面で基体10を切断した断面を所定の倍率で撮像した電子顕微鏡像において、第1酸化物領域41が占める面積は、当該観察視野の総面積の2%以下である。この電子顕微鏡像は、例えば、基体10の断面を10000倍の倍率で拡大して撮像することで得られる。基体10の断面に占める第1酸化物領域41の割合を2%以下とすることにより、第1酸化物領域41による軟磁性金属粒子の充填率の低下を抑制することができる。
【0065】
基体10においては、軟磁性金属粒子が、2種類の元素(すなわち、元素A及びSi)の酸化物を含む絶縁膜により覆われているので、基体10は絶縁性に優れたものとなる。一実施形態においては、軟磁性金属粒子が2種類の元素の酸化物を含む絶縁膜により覆われているので、基体10の耐電圧性を高めることができる。単一の種類の酸化物から構成される絶縁膜により高い耐電圧性を実現するためには、軟磁性金属粒子の表面全体が当該酸化物の層により覆われなければならない。しかしながら、基体10の製造工程において、原料粉の充填率が低下しないように原料粉の成型体を作製すると、この成型体を加熱する際に酸化される元素が十分に拡散されず、軟磁性金属粒子の表面の一部に当該元素の酸化物が薄く形成されることがある。この酸化物の厚みの薄い部分は、軟磁性金属粒子間に発生し易い。成型体の充填率や加熱条件によっては、軟磁性金属粒子の表面の一部が絶縁膜に覆われず、隣接する軟磁性金属粒子同士が直接接してしまい、磁性基体の耐電圧性が劣化してしまうこともある。本願の基体10においては、原料粉の成型体が高い充填率を有していても、絶縁被膜が2種類の元素の酸化物を含むので、軟磁性金属粒子の表面が2種類の元素の酸化物を含む絶縁膜で被覆されている。このため、軟磁性金属粒子の表面に一方の元素の酸化物により被覆されない領域があっても、当該領域を他方の元素の酸化物により被覆することができる。具体的には、基体10においては、第1軟磁性金属粒子30aの一部のみ(つまり、第2表面領域32aのみ)に第2酸化物領域42aが形成されているが、第1軟磁性金属粒子30aの表面の他の領域(つまり、第1表面領域31a)は、元素Aの酸化物を主成分とする第1酸化物領域41aにより覆われている。このため、第1軟磁性金属粒子30aの表面の一部が露出することによる耐電圧性の低下を抑制することができる。基体10に含まれる第1軟磁性金属粒子30a以外の軟磁性金属粒子も、2種類の元素(すなわち、元素A及びSi)の酸化物を含む絶縁膜により覆われているので、基体10の耐電圧性を高くすることができる。
【0066】
本願の基体10に含まれる軟磁性金属粒子の表面に設けられる絶縁膜(例えば、第1絶縁膜40a)と、従来の軟磁性金属粒子の表面に設けられる絶縁膜との違いについて説明する。従来、軟磁性金属粒子の表面を覆う絶縁膜が2種類以上の元素の酸化物を含む場合、その絶縁膜は、各元素の酸化物が層状に形成され、この層状に形成された酸化物層が積層された積層構造を有している。つまり、従来の磁性基体の絶縁膜は、軟磁性金属粒子の外表面の全体を第1の元素の酸化物を主成分とする第1酸化物層で覆い、その第1酸化物層の外表面の全体を第2の元素の酸化物を主成分とする第2酸化物層で覆っている。絶縁膜が積層構造を有する従来の磁性基体は、例えば、特開2021-158261号公報に記載されている。
【0067】
これに対して、本願の基体10においては、第1軟磁性金属粒子30aの表面のうちの第2表面領域32aが第2酸化物領域42aで覆われ、第1軟磁性金属粒子30aの第3表面領域33aが第2酸化物領域で覆われている。このため、本発明が適用される基体10においては、2以上の酸化物層が積層された絶縁膜を有する従来の磁性基体と比べて、基体10において絶縁膜が占める割合を小さくすることができる。その結果、基体10における軟磁性金属粒子の充填率を大きくすることができるので、2以上の酸化物層が積層された絶縁膜を有する従来の磁性基体に比べて磁気特性を改善することができる。また、第1酸化物領域41は、第1軟磁性金属粒子30aの周方向において、第1軟磁性金属粒子30aと第2軟磁性金属粒子30bとの間に局所的に介在しているので、第1酸化物領域41による軟磁性金属粒子の充填率の低下は、従来の磁性基体において酸化物層の膜厚を周方向において一様に厚くすることによる充填率の低下よりも抑制される。
【0068】
上述したように、基体10に含まれる軟磁性金属粒子の表面を覆う絶縁膜に含まれる酸化物は、軟磁性金属粒子の原料粉に含まれる元素に由来するものであってもよいが、別の実施形態においては、絶縁膜に含まれる酸化物は、軟磁性金属粒子の原料粉に由来するものでなくともよい。例えば、上述したように、第1酸化物領域41は、原料粉と混合された非晶質アルミナの微粒子に由来するものであってもよい。また、第2酸化物領域42aは、原料粉と混合された結晶質のアルミナ微粒子に由来するものであってもよい。また、第3酸化物領域43aに含まれるSi酸化物も、軟磁性金属粒子の原料粉に由来するものでなくともよい。例えば、TEOS(テトラエトキシシラン)、エタノール、及びアンモニア水を混合させた混合溶液に原料粉を含浸させ、この混合溶液を撹拌した後に乾燥することで、原料粉(軟磁性金属粒子)の表面にSiの酸化物(シリカ)を形成することができる。このようにして生成されるSiの酸化物は、非晶質であってもよい。これにより、軟磁性金属粒子の表面に、原料粉に含有されるSi元素に由来しないSiの酸化物を付着させることができる。第3酸化物領域43a、43bは、この軟磁性金属粒子の表面に形成されたシリカから構成されてもよい。
【0069】
軟磁性金属粒子の表面を覆う絶縁膜に含まれる元素Aの酸化物、Al酸化物、又はSi酸化物が原料粉に含まれる元素A、Al、又はSiに由来するものでない場合には、原料粉における元素A、Al、又はSiの含有比率をより少なくすることができる。絶縁膜(例えば、第2酸化物領域42a)に含まれる元素Aの酸化物が原料粉に含まれる元素Aに由来するものでない場合には、原料粉における元素Aの含有比率を0.2~1wt%とすることができる。絶縁膜に含まれるSi酸化物が原料粉に含まれるSiに由来するものでない場合には、原料粉におけるSiの含有比率は、1~3wt%とすることができる。原料粉におけるAlやSiの含有比率を下げることにより、原料粉におけるFeの含有比率を高めることができ、その結果、軟磁性金属粒子におけるFeの含有比率も高めることができる。
【0070】
次に、図5を参照して、本発明が適用される基体の別の実施形態について説明する。図5は、別の実施形態による基体110の断面の一部の領域を拡大して模式的に示す拡大断面図である。図5に示されている基体10は、絶縁膜が元素Cの酸化物を主成分とする第3酸化物領域を含む点で基体10と異なっている。図5に示されているように、基体110において、第1軟磁性金属粒子30aを覆う第1絶縁膜40aは、第2酸化物領域42a及び第3酸化物領域43aに加えて第4酸化物領域44aを有しており、第2軟磁性金属粒子30bを覆う第2絶縁膜40bは、第2酸化物領域42b及び第3酸化物領域43bに加えて第4酸化物領域44bを有している。第1絶縁膜40aには、互いから離間している複数の第4酸化物領域44aが含まれていてもよい。第2絶縁膜40bは、互いから離間している複数の第4酸化物領域44bが含まれていてもよい。
【0071】
第4酸化物領域44aは、第1軟磁性金属粒子30aの表面から離間した位置に形成されている。言い換えると、第4酸化物領域44aと第1軟磁性金属粒子30aの表面との間には、第2酸化物領域42a及び第3酸化物領域43aの少なくとも一方が介在している。図示の実施形態では、第4酸化物領域44aは、第3酸化物領域43aからも離間して配置されている。言い換えると、第4酸化物領域44aと第3酸化物領域43aとの間には、第2酸化物領域42aが介在している。第4酸化物領域44aは、第3酸化物領域43aと接するように形成されてもよい。
【0072】
第4酸化物領域44aは、第2酸化物領域42aよりも第1軟磁性金属粒子30aの径方向外側に設けられている。一実施形態において、複数の第4酸化物領域44aのうちの少なくとも一つは、第1軟磁性金属粒子30aの周りの周方向において、第2表面領域32aに対応する位置に設けられていてもよい。言い換えると、複数の第4酸化物領域44aのうちの少なくとも一つは、第2表面領域32aの径方向外側に設けられていてもよい。第1軟磁性金属粒子30aの周方向において第2表面領域32aに対応する領域には、第2酸化物領域42aが設けられており第3酸化物領域43aは設けられていない。他方、第1軟磁性金属粒子30aの周方向において第3表面領域33aに対応する領域には、第3酸化物領域43aが設けられており、さらにその径方向外側に第2酸化物領域42aが設けられている。このため、第2酸化物領域42aは、第1軟磁性金属粒子30aの周方向における第2表面領域32aに対応する位置において内側に向かって凹んでいる。一実施形態において、第4酸化物領域44aは、第1軟磁性金属粒子30aの周方向において第2表面領域32aに対応する位置にある第2酸化物領域42aの凹みに配置される。第2酸化物領域42aの凹みに第4酸化物領域44aを配置することにより、第1絶縁膜40aの膜厚を周方向において均一にすることができる。第1絶縁膜40aの一部が他の部位よりも薄い場合には、その膜厚が薄い部位から絶縁破壊が起こる可能性がある。第1絶縁膜40aの膜厚を周方向において均一にすることで、第1絶縁膜40aの膜厚が薄い部位から絶縁破壊が起こることを防止できる。第4酸化物領域44aが第2表面領域32aの径方向外側に設けられている場合には、第1軟磁性金属粒子30aの幾何中心Caと第2表面領域32aの径方向外側に設けられている第4酸化物領域44aとを結ぶ直線は、第2酸化物領域42aを通過するが、第3酸化物領域43aを通過しない。
【0073】
第4酸化物領域44aと同様に、第4酸化物領域44bは、第2軟磁性金属粒子30bの表面から離間した位置に形成されている。また、第4酸化物領域44bは、第3酸化物領域43bから離間して配置されてもよい。第4酸化物領域44bは、第3酸化物領域43bと接するように形成されてもよい。さらに、第4酸化物領域44bは、第2軟磁性金属粒子30bの周方向において第2表面領域32bに対応する位置にある第2酸化物領域42bの凹みに配置されてもよい。
【0074】
第4酸化物領域44a~44cは、Fe及びCrの酸化物を含む。一実施形態において、第4酸化物領域44a~44cは、クロマイト(FeCr24)を主成分として有する。Fe基の軟磁性金属粒子を覆う絶縁膜にFeを含む酸化物が形成される場合、そのFeの酸化物は、ヘマタイト(Fe23)やマグネタイト(Fe34)として存在することがある。軟磁性金属粒子間に非磁性のヘマタイトと強磁性のマグネタイトとが混在すると、マグネタイトが存在する領域において局所的な磁気飽和が起こりやすくなる。Feを含む第4酸化物領域44aの主成分を非磁性のクロマイトとすることにより、軟磁性金属粒子間における磁束の均一性を向上させることができ、その結果、軟磁性金属粒子間において局所的な磁気飽和の発生を抑制することができる。これにより、基体110では、マグネタイトを多く含む磁性基体と比較して、磁気飽和特性が向上する。
【0075】
絶縁膜に含有される第4酸化物領域44a~44cは、クロマイト(FeCr24)、ヘマタイト(Fe23)、及びマグネタイト(Fe34)をそれぞれ含み得る。一実施形態において、第4酸化物領域44a~44cの各々においては、前記の酸化物の合計(クロマイト、ヘマタイト、マグネタイトの合計)に占めるクロマイトの含有割合が50%以上であってもよい。非磁性のクロマイトの含有割合を50%以上とすることにより、強磁性の酸化物(例えば、マグネタイト)が多く含まれる場合と比較して、絶縁膜の比透磁率を小さくすることができ、基体110の磁気飽和特性を向上させることができる。別の実施形態においては、前記の酸化物の合計に占めるクロマイトの含有割合とヘマタイトの含有割合との合計が80%以上であってもよい。非磁性のクロマイトとヘマタイトの含有割合の合計を80%以上とすることにより、強磁性の酸化物(例えば、マグネタイト)が多く含まれる場合と比較して、絶縁膜の比透磁率を小さくすることができ、基体110の磁気飽和特性を向上させることができる。
【0076】
次に、図6を参照して、本発明が適用される基体の別の実施形態について説明する。図6は、本発明の別の実施形態による基体210の断面の一部の領域を拡大して模式的に示す拡大断面図である。図6に示されている基体210の断面は、3つの軟磁性金属粒子の境界付近を拡大して示している。図示されているように、基体210は、第1軟磁性金属粒子30a、第2軟磁性金属粒子30b、及び第3軟磁性金属粒子30cを有する。第1軟磁性金属粒子30a、第2軟磁性金属粒子30b、及び第3軟磁性金属粒子30cは、互いに隣接して配置されている。上述のように、第1軟磁性金属粒子30aは第1絶縁膜40aにより覆われ、第2軟磁性金属粒子30bは第2絶縁膜40bにより覆われている。これと同様に、第3軟磁性金属粒子30cは、第3絶縁膜40cにより覆われている。第3絶縁膜40cは、第1絶縁膜40a及び第2絶縁膜40bと同様に構成される。すなわち、第3絶縁膜40cは、第3軟磁性金属粒子30cの表面の一部である第2表面領域32cを覆い元素Aの酸化物を主成分として含む第2酸化物領域42cと、第3軟磁性金属粒子30cの表面の一部である第3表面領域33cを覆いSiの酸化物を主成分として含む第2酸化物領域43cと、第3軟磁性金属粒子30cの表面から離間して配置されており元素Cの酸化物を主成分とする第4酸化物領域44cと、を含む。第4酸化物領域44cの主成分は、第4酸化物領域44a、44bと同様に、クロマイトであってもよい。
【0077】
基体210において、軟磁性金属粒子の間に、絶縁膜で埋められていない空隙が存在する。例えば、図6に示されているように、基体210において、第1軟磁性金属粒子30aと第2軟磁性金属粒子30bと第3軟磁性金属粒子30cとの間には、空隙G1が存在している。空隙G1の少なくとも一部は、Crの酸化物を主成分とする第4酸化物領域44dによって画定される。言い換えると、第4酸化物領域44dは、軟磁性金属粒子の間に存在する空隙に臨む位置に配置される。第4酸化物領域44dの主成分は、第4酸化物領域44a~44cと同様に、クロマイトであってもよい。また、図示のように、空隙G1の少なくとも一部は、第1酸化物領域41によって画定されてもよい。図示の例では、空隙G1は、第1酸化物領域41、第4酸化物領域44d及び第2酸化物領域42a~42cによって画定されている。
【0078】
基体210においては、軟磁性金属粒子の間に存在する空隙の一部が第1酸化物領域41及び第4酸化物領域44dによって埋められているので、第1酸化物領域41及び第4酸化物領域44dが存在しない場合と比べて、基体210の機械的強度を向上させることができる。
【0079】
次に、図7を参照して、本発明が適用される基体の別の実施形態について説明する。図7は、別の実施形態による基体310の断面の一部の領域を拡大して模式的に示す拡大断面図である。図7は、基体310の断面を、図4図6と比べて低倍率で拡大して示している。このため、図7には、10個以上の軟磁性金属粒子が示されている。基体310に含まれる軟磁性金属粒子の各々の表面には、絶縁膜が設けられる。図7においては、図示の簡潔さのために、絶縁膜の図示は省略されている。
【0080】
図7に示されているように、基体310に含まれる複数の軟磁性金属粒子には、軟磁性金属粒子130a~130hが含まれる。この軟磁性金属粒子130a~130hの間の領域には、第1酸化物領域141が設けられている。第1酸化物領域141は、第1酸化物領域41と同様に、非晶質のAl酸化物を主成分とする。第1酸化物領域141は、基体310に含まれる複数の軟磁性金属粒子のいずれからも離間している。第1酸化物領域141は、図示されているように、その断面が高いアスペクト比を有する。第1酸化物領域141は、第1面141aと、第1面141aに対向する第2面141bと、を有しており、この第1面141aと第2面141bとにより、断面の外縁が画定されている。
【0081】
第1酸化物領域141は、第1面141aが複数の軟磁性金属粒子と対向し、また、第2面141bも複数の軟磁性金属粒子と対向するように、基体310内に設けられている。図7に示されている実施形態では、第1酸化物領域141の第1面141aは、軟磁性金属粒子130a、軟磁性金属粒子130c、及び軟磁性金属粒子130eとそれぞれ対向しており、第2面141bは、軟磁性金属粒子130b、軟磁性金属粒子130d、軟磁性金属粒子130f、軟磁性金属粒子130g、及び軟磁性金属粒子130hとそれぞれ対向している。このため、第1酸化物領域141は、軟磁性金属粒子130aと軟磁性金属粒子130bとの間、軟磁性金属粒子130cと軟磁性金属粒子130d及び軟磁性金属粒子130fとの間、軟磁性金属粒子130eと軟磁性金属粒子130g及び軟磁性金属粒子130hとの間をそれぞれ通って延伸している。
【0082】
基体310は、軟磁性金属粒子の原料粉に非晶質アルミナの微粒子を混合して混合粉を調製し、この混合粉を樹脂と混合して得られる混合樹脂組成物を圧縮して成型体を作製し、この成型体を加熱することで作製され得る。軟磁性金属粒子の原料粉と混合される非晶質アルミナの微粒子は、高いアスペクト比を有する扁平な形状に加工されていてもよい。第1酸化物領域141の原料となる非晶質アルミナの微粒子の粒径は、第1酸化物領域41の原料となる非晶質アルミナの微粒子の粒径よりも大きくてもよい。この大きな粒径を有し扁平な形状に形成された非晶質アルミナの微粒子は、成型体において、一組の原料粉の粒子の間だけでなく、複数の組の原料粉の粒子の間に介在するように配置される。この非晶質アルミナの微粒子が、基体310において、第1酸化物領域141となる。
【0083】
基体310においては、第1酸化物領域141が、軟磁性金属粒子130aと軟磁性金属粒子130bとの間、軟磁性金属粒子130cと軟磁性金属粒子130d及び軟磁性金属粒子130fとの間、並びに軟磁性金属粒子130eと軟磁性金属粒子130g及び軟磁性金属粒子130hとの間にそれぞれ介在しているので、これらの軟磁性金属粒子の結合を強めることができる。
【0084】
次に図8を参照して、コイル部品1の製造方法の一例について説明する。コイル部品1を製造する過程で基体10が作製されるので、基体10の製造方法についても図8を参照して説明される。図8は、本発明の一実施形態によるコイル部品1の製造方法を示すフロー図である。以下の説明では、コイル部品1がシート積層法により製造されることを想定している。コイル部品1は、シート積層法以外の公知の方法で作製されてもよい。例えば、コイル部品1は、印刷積層法、薄膜プロセス法、又はスラリービルド法などの積層法により作製され得る。
【0085】
まず、ステップS1において、磁性体シートが作製される。磁性体シートは、軟磁性金属粒子の原料となる軟磁性金属粉(原料粉)を非晶質アルミナの微粒子と混合して混合粉を調製し、この混合粉をバインダー樹脂及び溶剤と混練して得られる磁性材ペーストから生成される。この原料粉は、軟磁性金属材料から成る。原料粉は、Fe、元素A、及びSiを含む。原料粉は、元素A及びSi以外の添加元素を含むことができる。以下の製造方法の説明においては、説明の分かりやすさのために、原料粉が、Fe、Al、Si、及びCrを含有することを想定する。原料粉は、95wt%以上のFeを含有する。原料粉におけるFe以外の添加元素の含有比率は、合計で5wt%以下とされる。原料粉は、0.2~1wt%のAlを含有することができる。原料粉は、1~3wt%のSiを含有することができる。原料粉は、0.5~1.5wt%のCrを含有することができる。原料粉におけるSiの含有率は、Alの含有率よりも高くてもよい。
【0086】
磁性材ペースト用のバインダー樹脂は、例えば、アクリル樹脂である。磁性材ペースト用のバインダー樹脂は、PVB樹脂、フェノール樹脂、前記以外のバインダー樹脂として公知の樹脂、又はこれらの混合物であってもよい。溶剤は、例えば、トルエンである。この磁性材ペーストは、ドクターブレード法又はこれ以外の一般的な方法にてプラスチック製のベースフィルムの表面に塗布される。このベースフィルムの表面に塗布された磁性材ペーストを乾燥させることでシート状の成型体が得られる。このシート状の成型体を型内で10~100MPa程度の成型圧力で加圧成型することにより磁性体シートが複数作製される。
【0087】
次に、ステップS2において、ステップS1で準備された複数の磁性体シートの一部に導電性ペーストが塗布される。導電性ペーストは、Ag、Pd、Cu、Al又はこれらの合金等の導電性に優れた導電性材料から構成される導体粉をバインダー樹脂及び溶剤と混練して生成される。導電性ペースト用のバインダー樹脂は、磁性材ペースト用のバインダー樹脂と同じ種類の樹脂であってもよい。導電性ペースト用のバインダー樹脂及び磁性材ペースト用のバインダー樹脂はいずれもアクリル樹脂であってもよい。
【0088】
磁性体シートに導電性ペーストを塗布することにより、当該磁性体シートに、焼成後に導体パターンC11~C17となる未焼成導体パターンが形成される。磁性体シートの一部には積層方向に貫通する貫通孔が形成される。貫通孔を有する磁性体シートに導電性ペーストが塗布されるときには、貫通孔内にも導電性ペーストが埋め込まれる。このようにして、磁性体シートの貫通孔内に焼成後にビアV1~V5となる未焼成ビアが形成される。導電性ペーストは、例えば、スクリーン印刷法により磁性体シートに塗布される。
【0089】
次に、ステップS3において、ステップS1で作製された磁性体シートを積層することで、上側カバー層18となる上部積層体、本体層20となる中間積層体、及び下側カバー層19となる下部積層体を作製する。上部積層体及び下部積層体はそれぞれ、ステップS1で準備された磁性体シートのうち未焼成導体パターンが形成されていないものを4枚積層することによって形成される。上部積層体の4枚の磁性体シートは、完成品であるコイル部品1において磁性膜18a~18dとなり、下部積層体の4枚の磁性体シートは、完成品であるコイル部品1において磁性膜19a~19dとなる。中間積層体は、未焼成導体パターンが形成された磁性体シート7枚を所定の順序で積層することにより形成される。中間積層体の7枚の磁性体シートは、完成品であるコイル部品1において磁性膜11~17となる。上記のように作製された中間積層体を上下から上部積層体及び下部積層体で挟み込み、この上部積層体及び下部積層体を中間積層体に熱圧着して本体積層体を得る。次に、ダイシング機やレーザ加工機などの切断機を用いて当該本体積層体を所望のサイズに個片化することでチップ積層体が得られる。チップ積層体は、加熱処理後に基体10となる素体及び加熱処理後にコイル導体25となる未焼成導体パターンを含む成型体の例である。加熱処理後に基体10となる素体及び加熱処理後にコイル導体25となる未焼成導体パターンを含む成型体は、シート積層法以外の方法で作製されてもよい。
【0090】
ステップS3において作製される成型体において、原料粉の充填率は、85%以上となる。成型体における原料粉の充填率は、バインダー樹脂の種類、原料分の粒径、及びこれら以外のパラメータに応じて磁性体シートを成型する際の成型圧力を調整することにより実現される。成型体における原料粉の充填率は、成型体の断面のSEM像において、その観察視野の全面積に対する原料粉が占める面積の比を百分率で表したものとすることができる。
【0091】
次に、ステップS4において、ステップS3で作製された成型体に対して脱脂処理が行われる。磁性材ペースト及び導電性ペーストのバインダー樹脂として熱分解性樹脂が用いられる場合には、成型体に対する脱脂処理は、窒素雰囲気等の非酸素雰囲気下で行うことができる。脱脂処理を非酸素雰囲気下で行うことにより、脱脂処理において原料粉に含まれるFeが酸化されることを防止できる。脱脂処理は、磁性材ペースト用のバインダー樹脂の熱分解開始温度よりも高い温度で行われる。磁性材ペースト用のバインダー樹脂としてアクリル樹脂が用いられる場合には、脱脂は、アクリル樹脂の熱分解開始温度よりも高い温度、例えば300℃~500℃で行われる。脱脂処理により、成型体に含まれる熱分解性樹脂が分解されるので、脱脂処理の完了後の成型体には、熱分解性樹脂は残存しない。導電性ペースト用のバインダー樹脂を磁性材ペースト用のバインダー樹脂と同じ熱分解性樹脂とすることにより、ステップS4の脱脂処理において、未焼成導体パターンに含まれる熱分解性樹脂も熱分解される。このように、ステップS4においては、成型体を構成する磁性体シート及び未焼成導体パターンの両方が脱脂される。
【0092】
次に、ステップS5において、脱脂された成型体に対して第1加熱処理が施される。第1加熱処理は、5~600ppmの範囲の酸素を含有する低酸素濃度雰囲気において、500℃~800℃の第1加熱温度で行われる。原料粉を500℃~800℃で加熱することにより、各原料粉においてAl及びSiが熱拡散により表面付近に拡散し、雰囲気中の酸素と結合する。原料粉がCrを含む場合には、Crも原料粉の表面付近に拡散する。第1加熱処理においては、各原料粉の表面に移動した添加元素のうち、酸化されやすいAl及びSiの酸化物が生成される。第1加熱処理により、加熱された原料粉の表面に、図4ないし図6に示されているように、Alの酸化物を主成分とする酸化物領域(例えば、第1酸化物領域41)a及びSiの酸化物を主成分とする酸化物領域(例えば、第3酸化物領域43a)が形成される。第1加熱処理が行われる第1加熱時間は、1時間~6時間の間とすることができる。第1加熱時間は、例えば、1時間とすることができる。第1加熱処理においては、Al及びSiに比べて酸化しにくいFeも僅かに酸化する可能性がある。第1加熱処理は、低酸素濃度雰囲気において行われるため、Feが酸化される場合、Feの酸化物としては、ヘマタイト(Fe23)に比べてマグネタイト(Fe34)の方が多く生成される。第1加熱処理において、Feの酸化物は、第2酸化物領域42a及び第3酸化物領域43aよりも径方向外側に生成される。
【0093】
次に、ステップS6において、第1加熱処理で加熱された後の成型体に対して、第1加熱処理における酸素濃度よりも高い酸素濃度で第2加熱処理が施される。第2加熱処理は、600ppmより大きく3000ppm以下の低酸素雰囲気で行われてもよい。第2加熱処理は、第1加熱処理よりも高い酸素濃度で行われるため、Si及びAlの酸化がさらに進む。原料粉がCrを含む場合には、第2加熱処理の間に、第1加熱処理において生成されたマグネタイトがCrと結合し、クロマイト(FeCr24)が生成される。上述したように、成型体における原料粉の充填率は、85%以上と高いため、原料粉の表面への過剰な酸素の供給が抑制される。このため、第2加熱処理において、原料粉の表面付近においてマグネタイト及びCr元素が存在する領域では、ヘマタイト(Fe23)や酸化クロム(III)よりも、クロマイト(FeCr24)が生成されやすい。
【0094】
このように、原料粉にCrが含まれる場合には、第2加熱処理により、第2酸化物領域42a又は第3酸化物領域43aの径方向外側に、クロマイトを主成分とする酸化物領域(例えば、第4酸化物領域44a)が生成される。原料粉にCrが含まれない場合には、クロマイトは生成されない。
【0095】
第2加熱処理においては、原料粉の酸化に加えて、未焼結導体パターン中の導体粉の焼結も起こる。未焼結導体パターン中の導体粉が焼結することで、コイル導体25が得られる。導体粉として銅粉が用いられる場合には、銅結晶が緻密に焼結し、コイル導体25となる。
【0096】
第2加熱処理は、第2加熱温度で、第2加熱時間だけ行われる。第2加熱温度及び第2加熱時間は、原料粉の表面に絶縁性確保のために十分な膜厚を有する絶縁膜が形成されるように定められる。第2加熱温度は、例えば、500℃から800℃の間の温度とすることができる。第2加熱温度が高いほど酸化の進行が速いため、第2加熱時間は、第2加熱温度によって変わる。第2加熱温度が500℃の場合には、第2加熱時間は、1時間から6時間の間とすることができる。第2加熱温度が800℃の場合には、第2加熱時間は、30分から1時間の間とすることができる。
【0097】
このように、第1加熱処理及び第2加熱処理により、成型体に含まれる原料粉が酸化されることで、原料粉から表面が絶縁膜により覆われた軟磁性金属粒子が生成される。原料粉にCrが含まれない場合には、例えば図4に示されているように、第1絶縁膜40aにより被覆された第1軟磁性金属粒子30a及び第2絶縁膜40bにより被覆された第2軟磁性金属粒子30bが生成される。原料粉にCrが含まれる場合には、図5又は図6に示されているように、クロマイトを主成分とする第4酸化物領域44aを含むように第1絶縁膜40aが生成され、また、クロマイトを主成分とする第4酸化物領域44bを含むように及び第2絶縁膜40bが生成される。第2加熱処理により、隣接する軟磁性金属粒子同士は、互いの表面に形成された絶縁膜を介して結合される。このようにして、軟磁性金属粒子が結合した基体10、110、又は210が得られる。
【0098】
第1加熱処理及び第2加熱処理を経ても、原料粉と混合された非晶質アルミナは結晶質に変化しない。よって、原料粉と混合された非晶質アルミナが、基体10又は基体110、210において、第1酸化物領域41となる。非晶質アルミナのアルミナ結合を切断するための活性化エネルギーは高いため、第1加熱処理及び第2加熱処理が行われる900℃以下の温度では、非晶質アルミナの微粒子に含まれるアルミナの結合は切断されないので、図8の製造方法において非晶質アルミナの結晶化は起こらない。
【0099】
原料粉においてSiの含有率よりAlの含有率を少なくすることにより、第1加熱処理及び第2加熱処理において、原料粉に含まれるAlがほぼ全て酸化されても、Al酸化物を主成分とする第2酸化物領域42aの厚さを薄くすることができる。原料粉におけるAlの含有率を少なくすることにより軟磁性金属粒子の表面の一部が第2酸化物領域42aにより覆われない場合には、軟磁性金属粒子の表面のうち第2酸化物領域42aにより覆われない領域は、Siの酸化物を主成分として含む第3酸化物領域43aによって覆われる。よって、軟磁性金属粒子間の絶縁性を保ったまま、各軟磁性金属粒子の表面に設けられる絶縁膜の厚さを薄くすることができる。
【0100】
次に、ステップS7において、ステップS6で得られた基体10表面に外部電極21及び外部電極22を形成する。外部電極21は、コイル導体25の一端に接続され、外部電極22は、コイル導体25の他端と接続される。外部電極21、22の形成前に、第2加熱処理後の成型体を樹脂に含浸させてもよい。成型体は、例えば、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂に含浸される。これにより、基体10内の軟磁性金属粒子の隙間に樹脂が浸透する。そして、基体10に含浸した樹脂を硬化させることにより、基体10の機械的強度を向上させることができる。
【0101】
以上の工程により、コイル部品1が作製される。
【0102】
基体310も、図8に示されている製造方法に従って製造され得る。基体310を生成する場合には、原料粉に扁平な形状を有する非晶質アルミナが混合される。非晶質アルミナが扁平な形状を有する以外は、基体310を製造するための工程は、基体10、110、210の製造のための工程と共通している。
【0103】
次に、図9を参照して、コイル部品1の製造方法の別の態様について説明する。図9に示されている製造方法は、磁性体シートの作製前に、原料粉に予備加熱を行い、この予備加熱により原料粉の表面にSiの酸化物を生成する点で、図8に示されている製造方法と異なっている。
【0104】
図9に示されているように、まず、ステップS21において、軟磁性金属粒子の原料となる原料粉を準備し、この原料粉に対して予備加熱を行う。予備加熱は、500℃より低い温度で、6~15時間行われる。この予備加熱により、原料粉の表面にSiの酸化物が離散的に生成される。この表面にSiの酸化物が離散的に形成された原料粉を用いて、図8と同様にステップS1~S3の工程が行われ、磁性体シートが積層された成型体が作製される。この成型体に対して、ステップS4において、脱脂が行われる。
【0105】
次に、ステップS22において、脱脂された成型体に対して加熱処理が行われる。ステップS22における加熱処理は、図8のステップS6における第2加熱処理と同じ条件で行われる。この第2加熱処理により、成型体に含まれる原料粉の元素A(例えば、Al)が酸化されて元素Aの酸化物が生成されることで、原料粉から表面が絶縁膜により覆われた軟磁性金属粒子が生成される。ステップS22における加熱処理により、隣接する軟磁性金属粒子同士は、互いの表面に形成された絶縁膜を介して結合される。このようにして、軟磁性金属粒子が結合した基体10が得られる。
【0106】
次に、ステップS7において、ステップS22で得られた基体10の表面に外部電極21及び外部電極22を形成する。以上の工程により、コイル部品1が作製される。
【0107】
前述の様々な実施形態で説明された各構成要素の寸法、材料及び配置は、それぞれ、各実施形態で明示的に説明されたものに限定されず、当該各構成要素は、本発明の範囲に含まれ得る任意の寸法、材料及び配置を有するように変形することができる。
【0108】
本明細書において明示的に説明していない構成要素を、上述の各実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【0109】
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数、順序、もしくはその内容を限定するものではない。また、構成要素の識別のための番号は文脈毎に用いられ、一つの文脈で用いた番号が、他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。
【0110】
本明細書では、以下の技術も開示される。
[付記1]
各々がFeを含有する複数の軟磁性金属粒子と、
前記複数の軟磁性金属粒子の各々の表面を覆う複数の絶縁膜と、
を備え、
前記複数の軟磁性金属粒子は、第1軟磁性金属粒子を含み、
前記複数の絶縁膜は、前記第1軟磁性金属粒子の表面を覆う第1絶縁膜を含み、
前記第1絶縁膜は、前記第1軟磁性金属粒子に隣接する第2軟磁性金属粒子と前記第1軟磁性金属粒子との間に介在しており、非晶質のAl酸化物を主成分として含む第1酸化物領域と、前記第1軟磁性金属粒子の表面の一部を覆い、元素AのAl酸化物を主成分として含む第2酸化物領域と、を含む、
磁性基体。
[付記2]
前記第1酸化物領域は、前記第1軟磁性金属粒子の表面の一部である第1表面領域を覆い、
前記第2酸化物領域は、前記第1軟磁性金属粒子の前記第1表面領域とは異なる第2表面領域を覆っている、
[付記1]に記載の磁性基体。
[付記3]
前記複数の軟磁性金属粒子は、前記第1軟磁性金属粒子に隣接する第3軟磁性金属粒子と、前記第2軟磁性金属粒子及び前記第3軟磁性金属粒子に隣接する第4軟磁性金属磁性粒子と、をさらに含み、
前記第1酸化物領域は、前記第1軟磁性金属粒子と前記第2軟磁性金属粒子との間及び前記第3軟磁性金属粒子と前記第4軟磁性金属磁性粒子との間に介在している、
[付記1]又は[付記2]に記載の磁性基体。
[付記4]
前記第1軟磁性金属粒子を通る平面で前記磁性基体を切断した断面において、前記第1酸化物領域が占める面積は、前記断面の総面積の2%以下である、
[付記1]から[付記3]のいずれか一つに記載の磁性基体。
[付記5]
前記第1酸化物領域は、非晶質のSi酸化物、非晶質のCa酸化物、及び非晶質のMg酸化物から成る群より選択される少なくとも一つの酸化物をさらに含有する、
[付記1]から[付記4]のいずれか一つに記載の磁性基体。
[付記6]
前記第1絶縁膜は、前記軟磁性金属粒子の前記第1表面領域及び前記第2表面領域とは異なる第3表面領域を覆いSiの酸化物を主成分として含む第3酸化物領域をさらに含む、
[付記1]から[付記5]のいずれか一つに記載の磁性基体。
[付記7]
前記第1絶縁膜は、FeCr24を含有する第4酸化物領域をさらに含む、
[付記1]から[付記6]のいずれか一つに記載の磁性基体。
[付記8]
前記複数の軟磁性金属粒子の各々におけるFeの含有率は、95wt%以上である、
[付記1]から[付記7]のいずれか一つに記載の磁性基体。
[付記9]
前記元素Aは、Feよりも酸化しやすい元素である、
[付記1]から[付記7]のいずれか一つに記載の磁性基体。
[付記10]
[付記1]から[付記9]のいずれか一つに記載の磁性基体と、
前記磁性基体に備えられるコイル導体と、
を備えるコイル部品。
[付記11]
[付記10]に記載のコイル部品を含む、回路基板。
[付記12]
[付記11]に記載の回路基板を含む、電子機器。
【符号の説明】
【0111】
1 コイル部品
10、110、210、310 基体(磁性基体)
21、22 外部電極
30a 第1軟磁性金属粒子
30b 第2軟磁性金属粒子
30c 第3軟磁性金属粒子
40a、40b、40c 絶縁膜
41a、41b、41c、141 第1酸化物領域
42a、42b、42c 第2酸化物領域
43a、43b、43c 第3酸化物領域
44a、44b、44c、44d 第4酸化物領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9