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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078253
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】ガス容器
(51)【国際特許分類】
   F17C 1/16 20060101AFI20240603BHJP
   F17C 1/06 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
F17C1/16
F17C1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190680
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 翔吾
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AA09
3E172AB01
3E172BA01
3E172BB03
3E172BC01
3E172BC04
3E172BD03
3E172CA12
3E172CA20
3E172DA36
3E172DA90
3E172FA01
3E172FA08
3E172FA10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】フィルム容器部を有し、フィルム容器部と口金との間を安定的にシールし得るガス容器を提供すること。
【解決手段】ガスバリア樹脂製であり内部空間を有するフィルム容器部2と、前記フィルム容器部2を外側から覆う補強部4と、前記フィルム容器部2より高剛性であり、前記フィルム容器部2に設けられている開口22に取り付けられて前記内部空間と外部とを連絡し、その周方向に延びる環状シール溝30を前記フィルム容器部2側の表面に有する口金3と、前記環状シール溝30に填め込まれ前記口金3と前記フィルム容器部2との間に介在する環状シール部材8と、前記環状シール部材8および前記フィルム容器部2よりも高剛性であり、前記補強部4と前記フィルム容器部2との間に介在し、前記環状シール部材8に対面して前記フィルム容器部2を前記環状シール部材8および前記口金3に向けて押さえ込む押さえ部材7と、を有する、ガス容器。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスバリア樹脂製であり内部空間を有するフィルム容器部と、
前記フィルム容器部を外側から覆う補強部と、
前記フィルム容器部より高剛性であり、前記フィルム容器部に設けられている開口に取り付けられて前記内部空間と外部とを連絡し、その周方向に延びる環状シール溝を前記フィルム容器部側の表面に有する口金と、
前記環状シール溝に填め込まれ前記口金と前記フィルム容器部との間に介在する環状シール部材と、
前記環状シール部材および前記フィルム容器部よりも高剛性であり、前記補強部と前記フィルム容器部との間に介在し、前記環状シール部材に対面して前記フィルム容器部を前記環状シール部材および前記口金に向けて押さえ込む押さえ部材と、を有する、ガス容器。
【請求項2】
前記フィルム容器部の厚さは6μm~600μmの範囲内である、請求項1に記載のガス容器。
【請求項3】
さらに、前記内部空間に収容されて充填ガスを吸蔵および放出する貯蔵材を有する、請求項1または請求項2に記載のガス容器。
【請求項4】
前記押さえ部材と前記口金とは互いに係合する、請求項1または請求項2に記載のガス容器。
【請求項5】
前記口金は、その周方向に延び前記環状シール溝に連絡する押さえ溝を前記フィルム容器部側の表面に有し、
前記押さえ部材の少なくとも一部は前記押さえ溝に填め込まれている、請求項1または請求項2に記載のガス容器。
【請求項6】
前記押さえ溝の溝壁は、前記口金の軸方向に沿って延びる内側面と、前記内側面に対して前記口金の径方向外側に連続し前記径方向に延びる底面と、を有する断面L字状をなす、請求項5に記載のガス容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスなどのガスを貯蔵および放出するためのガス容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両や各種装置の燃料として、水素ガスや天然ガス等を用いる技術が提案されている。これらのガスを貯蔵および放出するためのガス容器についても盛んに検討がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に紹介されているように、一般的なガス容器は、内部空間を有する樹脂ライナーと、当該樹脂ライナーよりも高剛性であり当該樹脂ライナーに設けられている開口に取り付けられている口金と、を有する。口金は樹脂ライナーの内部空間と外部とを連絡し、ガスは当該口金を経て内部空間に出し入れされる。
【0004】
この種のガス容器においては、内部空間に貯蔵されたガスが樹脂ライナーと口金との隙間から外部に漏出することを抑制することが重要である。
【0005】
特許文献1には、樹脂ライナーのうち口金が装着される口金取付部を、加熱下で口金のフランジ部に向けて押圧することで、移動した口金取付部によって樹脂ライナーと口金との間をシールする技術が紹介されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-14069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、ガス容器の軽量化が課題になっている。
例えば車両に搭載され燃料ガスを収容するための車両用ガス容器であれば、軽量化することにより車両の燃費向上を実現できると考えられる。
【0008】
ガス容器を軽量化するためには、ガス容器のうち質量の大きい樹脂ライナーを軽量なものに置き換えることが有用と考えられる。
樹脂ライナーを軽量なものに置き換えるためには、樹脂ライナーにかえてガスバリア樹脂製の薄いフィルムで上記の収容空間を区画形成したもの(本明細書ではフィルム容器部と称する)を用いることが考えられる。
【0009】
ここで、フィルム容器部は一般的な樹脂ライナーに比べて厚さが薄く、また、フィルム容器部に用いるガスバリア樹脂は、一般的な樹脂ライナーに用いられているポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等とは物性が異なる。このため、一般的な樹脂ライナーと同じようなシールの仕方をフィルム容器部に適用すると、フィルム容器部と口金との間を安定的にシールすることが困難になる。フィルム容器部と口金との間でのシールが十分でなければ、内部空間に貯蔵されたガスがフィルム容器部と口金との隙間から外部に漏出する虞がある。
【0010】
したがって、フィルム容器部を用いたガス容器であって、当該フィルム容器部と口金との間を安定的にシールし得る技術が望まれている。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、フィルム容器部を有し、フィルム容器部と口金との間を安定的にシールし得るガス容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明のガス容器は、
ガスバリア樹脂製であり内部空間を有するフィルム容器部と、
前記フィルム容器部を外側から覆う補強部と、
前記フィルム容器部より高剛性であり、前記フィルム容器部に設けられている開口に取り付けられて前記内部空間と外部とを連絡し、その周方向に延びる環状シール溝を前記フィルム容器部側の表面に有する口金と、
前記環状シール溝に填め込まれ前記口金と前記フィルム容器部との間に介在する環状シール部材と、
前記環状シール部材および前記フィルム容器部よりも高剛性であり、前記補強部と前記フィルム容器部との間に介在し、前記環状シール部材に対面して前記フィルム容器部を前記環状シール部材および前記口金に向けて押さえ込む押さえ部材と、を有する、ガス容器である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のガス容器は、フィルム容器部を有し、フィルム容器部と口金との間を安定的にシールし得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1のガス容器を模式的に説明する説明図である。
図2】実施例1のガス容器を分解した様子を模式的に説明する説明図である。
図3】実施例1のガス容器の軸方向断面を模式的に表す説明図である。
図4図3の要部拡大図である。
図5】実施例2のガス容器を分解した様子を模式的に説明する説明図である。
図6】実施例2のガス容器の軸方向断面を模式的に表す説明図である。
図7図6の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のガス容器は、内部空間を有するガスバリア樹脂製のフィルム容器部を有し、充填ガスを当該内部空間に収容するものである。
【0016】
フィルム容器部には開口が設けられ、当該開口にはフィルム容器部の外部と内部空間とを連絡する口金が取り付けられている。さらに、フィルム容器部は補強部によって外側から覆われている。
【0017】
本発明のガス容器における口金は、当該口金の周方向に延びる環状シール溝を、フィルム容器部側の表面に有する。さらに、当該環状シール溝には環状シール部材が填め込まれている。したがって、本発明のガス容器において、口金とフィルム容器部との間には、環状シール部材が介在する。
【0018】
本発明のガス容器においては、さらに、補強部とフィルム容器部との間に押さえ部材が介在する。当該押さえ部材は環状シール部材およびフィルム容器部よりも高剛性であり、環状シール部材に対面する位置にある。このため当該押さえ部材は、フィルム容器部を環状シール部材に向けて押さえ込み、ひいてはフィルム容器部および環状シール部材を口金に向けて安定的に押し当てる役割を担う。
【0019】
つまり本発明のガス容器において、各部材は、外部側から内部空間側に向けて、補強部、押さえ部材、フィルム容器部、環状シール部材、口金の順に配列する。
【0020】
補強部とフィルム容器部との間には押さえ部材が介在し、当該押さえ部材はフィルム容器部を介して環状シール部材を口金に向けて押し当てる。当該環状シール部材は、フィルム容器部と口金との間に介在して、両者をシールする。
このように、本発明のガス容器では、押さえ部材と環状シール部材との協働により、フィルム容器部と口金との間を安定的にシールすることが可能である。
【0021】
以下、本発明のガス容器をその構成要素毎に説明する。
なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x~y」は、下限x及び上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、並びに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで新たな数値範囲を構成し得る。更に、上記の何れかの数値範囲内から任意に選択した数値を新たな数値範囲の上限、下限の数値とすることができる。
また、以下、特に説明のない場合には、軸方向、径方向、周方向とは口金の軸方向、径方向、周方向を意味するものとする。
【0022】
本発明のガス容器に収容する充填ガスの種類は特に限定せず、ガス容器内における当該充填ガスの圧力もまた特に限定しないが、本発明のガス容器は、水素ガスや天然ガス等の可燃性ガスを高圧で充填する所謂耐圧容器として具現化するのが特に好適である。
【0023】
本発明のガス容器は、フィルム容器部、口金、環状シール部材、押さえ部材および補強部を有する。
【0024】
このうちフィルム容器部は、対象となる充填ガスを収容するための内部空間を有するものである。このようなフィルム容器部は、充填ガスと直接接触する部分であるために、ガスバリア樹脂を材料とする。
フィルム容器部に用いるガスバリア樹脂とは、収容対象である充填ガスを透過し難い、所謂ガスバリア性を有するポリマーを意味する。具体的には、当該ガスバリア樹脂の酸素透過係数(cc20μm/(m・24hrs・atm))は、20℃において、5以下、3以下、1以下、0.5以下または0.3以下であるのが好適である。なお、当該酸素透過係数は、厚さ20μmかつフィルム面積1mの当該ガスバリア樹脂を1気圧、24時間あたりに透過する酸素の量を意味する。
【0025】
当該ガスバリア樹脂としては、ガスバリア性に優れるエチレン・ビニルアルコール高重合体(EVOH)を用いるのが特に好適である。
【0026】
本発明のガス容器におけるフィルム容器部の内部空間には、充填ガスを吸蔵および放出する貯蔵材を収容しても良い。
【0027】
貯蔵材は、充填ガスを吸蔵および放出すればよく、当該貯蔵材としては本発明のガス容器に貯蔵すべき充填ガスの種類に応じたものを適宜適切に選択すれば良い。
【0028】
例えば充填ガスが水素である場合、貯蔵材としては、気相法炭素繊維(所謂カーボンナノチューブ)や、カーボンブラック、活性炭等の多孔性の炭素材料を用いるのが好適である。また例えば、これらの多孔性炭素材料をKOHやNaOH、LiOH等のアルカリ塩とともに不活性ガス雰囲気下で賦活処理したものを、貯蔵材として用いるのも好ましい。
その他、多孔性の金属錯体(所謂MOF)、ゼオライト、水素吸蔵合金、金属水素化物等を貯蔵材として使用するのも好適である。
【0029】
貯蔵材は種々の形状をなし得る。貯蔵材の充填ガス吸蔵放出性能を充分に引き出すためには、充填ガスに対する貯蔵材の接触面積を大きくするのが好ましく、比表面積の大きな一次粒子および/または二次粒子の貯蔵材を使用するのが好適である。なお、当該一次粒子や二次粒子とはその形状を限定するものではなく、貯蔵材は短繊維状や長繊維状であっても良い。
【0030】
本発明のガス容器が貯蔵材を有する場合には、薄いフィルム容器部を貯蔵材によって内側から支えることができ、これにより、口金とフィルム容器部とのシール性向上や、フィルム容器部の耐久性向上に寄与することが可能である。
【0031】
貯蔵材ひいては本発明のガス容器の取り扱い性を考慮すると、当該一次粒子および/または二次粒子の貯蔵材を架橋剤により架橋するか、またはバインダにて結着して、ペレット状にするのが好適である。
【0032】
ペレットの形状は特に限定しないが、上記したようにフィルム容器部を内側から支持することを考慮すると、当該ペレットを収容する収容空間に沿った形状であるのが特に好適である。
【0033】
なお、本発明のガス容器が後述するシャフト部材を有する場合には、貯蔵材のペレットは収容空間に沿った形状でありかつ当該シャフト部材を避けた形状であれば良い。
【0034】
フィルム容器部の厚さは特に限定しないが、ガス容器の軽量化を実現するためには薄い方が好ましい。フィルム容器部の好適な厚さとしては、600mm以下または400μm以下を例示でき、このうち6μm~600μmの範囲内または6μm~400μmの範囲内であるのが特に好適である。なお、本明細書でいうフィルム容器部の厚さとは、フィルム容器部のうち後述する開口の周縁部以外の部分、換言すると当該フィルム容器部のうちその軸方向に延びる部分の厚さのうち最も薄い部分の厚さを意味する。
参考までに、一般的な樹脂ライナーの厚さは1mm~10mm程度である。
【0035】
フィルム容器部は、内部空間を有するものであれば良く、その全体が一体成形されたものであっても良いし、2以上の分体が接合され一体化されたものであっても良い。当該分体同士の接合方法は特に限定されず、例えば接着や溶着等の一般的な接合方法のなかから、ガス容器の用途に応じて適宜適切に選択すれば良い。
【0036】
ここで、フィルム容器部は上記したとおり口金を取り付けるための開口を有する。本発明のガス容器が耐圧容器であれば、当該開口は、フィルム容器部の軸方向の一端部または両端部に設けるのが好ましく、さらに、フィルム容器部はその軸方向の両端側で対称な形状であるのが好適である。
フィルム容器部の形状は特に限定しないが、上記したことを勘案すると、内部空間を形成できかつ開口を有する有底または無底の筒状であるのが好適である。加えて、フィルム容器部は、例えば円筒状や正多角形筒状等の、充填ガスに因る内圧を均一に分散し得る形状を有するのが特に好適である。
【0037】
フィルム容器部は後述する口金に一体成形しても良いし、口金とは別体で形成しても良い。
例えば、予め形成した口金をインサートとして、フィルム容器部をインサート成形しても良い。または、予め形成したフィルム容器部に口金を挿入することで、口金をフィルム容器部に取り付けても良い。既述した分体についても同様である。
【0038】
本発明のガス容器は補強部を有する。補強部は、ガス容器のうちフィルム容器部を外側から覆う部分であり、補強部を有する本発明のガス容器は、耐圧容器として好適に使用される。
補強部はフィルム容器部を補強する都合上、当該フィルム容器部よりも高剛性であるのが好ましく、補強部の厚さは少なくとも軸方向先側端部においてはフィルム容器部の厚さよりも厚いのが好適である。
【0039】
補強部は、一般的な耐圧容器同様に、樹脂を含浸した高強度繊維(所謂FRP)で構成すれば良い。高強度繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等を採用すれば良く、当該高強度繊維に含浸される樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を採用すれば良い。
【0040】
補強部を形成する方法としては一般的な方法を採用すれば良く、例えば、樹脂材料を含浸させた高強度繊維をフィルム容器部に対して巻回してヘリカル層やフープ層を形成し、さらに、樹脂材料を加熱硬化させる方法を採用し得る。または、樹脂および高強度繊維を材料とする当該ヘリカル層やフープ層をシート状に形成したものを、フィルム容器部に貼り付け、さらに、樹脂材料を加熱硬化させる方法を採用することも可能である。
【0041】
なお、補強部を形成するタイミングは、フィルム容器部に後述する口金を取り付け、さらに、環状シール部材および押さえ部材を取り付けた後であるのが好適である。こうすることで、補強部を形成する際に高強度繊維に与えられる張力によって、フィルム容器部をその径方向内側にすなわち口金に向けて押さえ込むことが可能である。そして、当該補強部に由来する押圧力によってフィルム容器部と口金との間で環状シール部材を弾性変形させ、その弾性復元力によりフィルム容器部と口金とのシール性を高めることが可能である。
【0042】
さらに、本発明のガス容器が貯蔵材を有する場合には、フィルム容器部に貯蔵材を収容した状態で、補強部を形成するのが好適である。こうすることで、薄いフィルム容器部を貯蔵材によって内側から支持しつつ上記した補強部に由来する押圧力をフィルム容器部、弾性シール部および口金に作用させることができ、フィルム容器部と口金とのシール性をより高めたり、フィルム容器部と口金とを安定的にシールしたりすることが可能である。
【0043】
口金は、既述したとおり、フィルム容器部に設けられた内部空間とフィルム容器部の外部とを連絡し、充填ガスの出入り口として機能する。
【0044】
口金の材料もまた特に限定しないが、口金にはフィルム容器部よりも高い剛性が要求される。このため、当該口金用の材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金又はステンレススチール等の金属材料を選択するのが特に好適である。
【0045】
口金は、環状シール部材が填め込まれる環状シール溝を有する。
環状シール溝は、口金の周方向に延びる環状をなし、口金のうちフィルム容器部側の表面に設けられている。
換言すると、当該環状シール溝は、口金のうちフィルム容器部側の表面に開口するともいい得る。
【0046】
環状シール溝の形状については、上記した要件を具備し、ならびに、環状シール部材を収容可能および環状シール部材がシール機能を発揮し得る形状であれば良い。具体的には、環状シール溝の溝深さは、環状シール部材の高さ(換言すると環状シール部材の軸方向長さ)よりも浅いのが好適である。
【0047】
口金には、必要に応じて、後述する押さえ部材を収容するための押さえ溝を設けても良い。押さえ溝の形状については追って詳説する。
【0048】
環状シール溝に填め込まれる環状シール部材は、口金とフィルム容器部との間に介在するものであり、これらをシールする機能を担う。環状シール部材の材料としては、弾性変形可能な弾性材料、例えばゴム等を選択すれば良く、具体的には、エチレンプロピレンゴム(EPDM)等の各種ゴムやその他のエラストマー等を好ましく用いることができる。
【0049】
本発明のガス容器は、さらに、押さえ部材を有する。押さえ部材は、補強部とフィルム容器部との間に介在する部材であり、既述したように、環状シール部材に対面してフィルム容器部および環状シール部材を口金に向けて押し当てる役割を担う。このため押さえ部材には、環状シール部材およびフィルム容器部よりも高剛性であることが要求される。
【0050】
押さえ部材は、口金に固定されていても良いし、口金に固定されていなくても良い。口金に対する押さえ部材の固定方法としては、例えば、押さえ部材と口金とに互いに係合する係合構造を設ける方法を採用するのが好適である。より具体的には、押さえ部材にねじ溝を設け、口金には押さえ部材のねじ溝に螺合するねじ溝を設けるのが好ましい。その他、ボルト締結や接着、溶着等の方法を採用しても良い。
【0051】
なお、押さえ部材が口金に固定されない場合にも、既述した補強部に由来する押圧力によって押さえ部材が口金に向けて押圧される。したがって、この場合にも押さえ部材は、フィルム容器部および環状シール部材を口金に向けて押さえ込むことができる。
【0052】
既述したように、口金には押さえ部材を収容するための押さえ溝を設けても良い。押さえ部材が環状シール部材に対面しかつ補強部とフィルム容器部との間に介在する都合上、押さえ溝は、環状シール部材を収容する環状シール溝に連絡し、かつ、当該押さえ溝にはフィルム容器部の一部が入り込む。したがって、押さえ溝は口金のうちフィルム容器部側の表面に設けられ、当該フィルム容器部側の表面に開口する。
押さえ部材は、その全体が押さえ溝に填め込まれても良いし、一部が補強部側に露出していても良い。
【0053】
押さえ溝の形状は上記した要件を満たせば良く、その余については特に限定しない。例えば押さえ溝の溝壁は、口金の軸方向に沿って延びる内側面と、当該内側面に対して口金の径方向外側に連続し当該径方向に延びる底面と、を有する断面略L字状をなしても良い。また、例えば押さえ溝の溝壁は、上記の内側面および底面に加えて、当該底面に対して口金の径方向外側に連続し口金の軸方向に延びる外側面と、を有する断面略U字状をなしても良い。
【0054】
ここで、既述したように、押さえ溝にはフィルム容器部の一部が入り込む。フィルム容器部と押さえ部材、環状シール部材の機能を考慮すると、フィルム容器部は、押さえ溝のうち径方向外側の端部から少なくとも環状シール部材に対向する位置にまで存在するのが好適である。
【0055】
したがって、押さえ溝のうち底面よりも径方向外側の部分は、フィルム容器部の入り込み易い形状、具体的には、底面に対して緩やかに傾斜するか、または当該底面よりも径方向外側の部分は無いのが好適である。
【0056】
より具体的には、押さえ溝の溝壁は、既述した内側面および底面を有し外側面を有さない断面略L字状をなすか、または、既述した内側面、底面および外側面を有する断面略U字状をなしかつ当該外側面と底面とのなす角が60°以下であるのが特に好適である。
【0057】
以下、具体例を挙げて本発明のガス容器を説明する。
【0058】
(実施例1)
実施例1のガス容器は、車両に搭載され、充填ガスの一種である水素ガスを貯蔵および放出するため耐圧容器である。
実施例1のガス容器を模式的に説明する説明図を図1に示す。実施例1のガス容器を分解した様子を模式的に説明する説明図を図2に示す。実施例1のガス容器の軸方向断面を模式的に表す説明図を図3に示す。図3の要部拡大図を図4に示す。
以下、軸方向、径方向とは各図に示す方向を指すものとする。また、軸方向先側、軸方向中央側とは、図1に示す軸方向先側、軸方向中央側を意味する。
【0059】
図1図3に示すように、実施例1のガス容器1は、フィルム容器部2、2つの口金3、補強部4、2つの貯蔵材5、2つの環状シール部材8、2つの押さえ部材7、および、2つのシャフト部材6を有する。
【0060】
フィルム容器部2は、厚さ130μmのEVOH製であり、軸方向の両端部が縮径した略円筒状をなす。
【0061】
図2および図3に示すように、フィルム容器部2は有底の略円筒状をなし、図3に示すように、当該フィルム容器部2の内部には内部空間29が形成されている。
【0062】
フィルム容器部2における軸方向の両端部はドーム状をなし、その中心部分は開口している。当該開口22には金属製の口金3が取り付けられている。
【0063】
より詳しくは、口金3のうち軸方向先側の表面には、口金3の周方向全周にわたって延びる環状シール溝30が設けられている。当該環状シール溝30は軸方向先側に向けて開口している。
【0064】
口金3のうち環状シール溝30よりもさらに軸方向先側の部分には、さらに、口金3の周方向全周にわたって延びる押さえ溝35が設けられている。押さえ溝35は環状シール溝30よりもやや幅の広いリング溝状をなす。
【0065】
図3および図4に示すように、環状シール溝30と押さえ溝35とは軸方向において互いに連絡する二重の溝状をなす。換言すると、環状シール溝30は押さえ溝35の溝壁のうち図4に示す底面35bに設けられ、当該底面35bに開口する。
【0066】
押さえ溝35の溝壁は、口金3の軸方向に沿って延びる内側面35iと、当該内側面35iに対して口金3の径方向外側に連続し当該径方向に延びる底面35bと、当該底面35bに対して口金3の径方向外側に連続し口金3の軸方向に沿って延びる外側面35oと、を有する断面略U字状をなす。
環状シール溝30の溝壁もまた同様の断面略U字状をなす。
【0067】
環状シール溝30には環状シール部材8が填め込まれている。環状シール部材8は、EPDM製であり環状をなす弾性体である。環状シール部材8は所謂Oリングである。圧縮されていない自然状態において、環状シール部材8における軸方向先側の端部は環状シール溝30の軸方向先側、すなわち、押さえ溝35側に露出する。
【0068】
押さえ溝35には押さえ部材7が填め込まれている。押さえ部材7は口金3と同材からなる。
【0069】
図4に示すように、押さえ部材7は押さえ溝35に対応する略環状をなし、その内周面7iには、ねじ溝が設けられている。押さえ溝35の内側面35iにもまた、当該ねじ溝に対応するねじ溝が設けられている。ねじ溝同士を螺合させつつ押さえ部材7を押さえ溝35に填め込むことで、押さえ部材7が口金3に固定される。
【0070】
なお、押さえ部材7の軸方向先側端部には軸方向に延びる差し込み凹部79が設けられている。当該差し込み凹部79には図略の取り付け治具が挿し込まれ、当該差し込み治具を押さえ部材7の周方向に回転させることによって、押さえ部材7をその周方向に回転させ、ねじ溝同士を螺合させつつ押さえ部材7を押さえ溝35に填め込むことができる。
【0071】
フィルム容器部2における開口22の周縁部は、押さえ溝35に入り込んでいる。具体的には、フィルム容器部2は押さえ溝35の外側面35oおよび底面35bを覆っている。
【0072】
押さえ部材7は、フィルム容器部2が入り込んだ押さえ溝35に填め込まれている。したがってフィルム容器部2は押さえ部材7と環状シール部材8とにより挟まれる。また、環状シール部材8は、口金3とフィルム容器部2との間に介在する。
【0073】
図2および図3に示すように、2つの口金3には、各々、シャフト部材6が取り付けられている。
2つのシャフト部材6は口金3から軸方向中央部側に向けて延び、その端部で互いに嵌合している。シャフト部材6は筒状をなし、当該シャフト部材6の内部は口金3の内部に連絡するガスの流通路となっている。各シャフト部材6は口金3と同じ金属製であり、その内外を連絡する貫通孔(図略)を複数有する。
【0074】
各シャフト部材6には各々対応する貯蔵材5が挿通されている。
図2に示すように、2つの貯蔵材5は略同形状のペレット状である。具体的には、各貯蔵材5の外形は、フィルム容器部2の内部空間29に沿った形状である。
各貯蔵材5は、各々対応するシャフト部材6の外形に沿った形状の中空部51を有する。このため各貯蔵材5は略筒状をなす。
【0075】
各々貯蔵材5が挿通されたシャフト部材6同士が互いに嵌合することにより、2つの口金3が相対的に固定される。これにより、実施例1のガス容器1の形状は安定的に維持される。
【0076】
貯蔵材5およびシャフト部材6は、フィルム容器部2の内部空間29に収容されている。口金3の一部もまたフィルム容器部2の内部空間29に収容されている。
フィルム容器部2は、FPR製の補強部4によって外側から覆われている。したがって、ガス容器1を構成する各部材は、外部側から内部空間29側に向けて、補強部4、押さえ部材7、フィルム容器部2、環状シール部材8および口金3の順に配列している。
【0077】
以下、実施例1のガス容器1を製造する方法を説明する。
【0078】
先ず、各口金3に各々シャフト部材6を取り付け、当該シャフト部材6を貯蔵材5に挿通した。そして、2つのシャフト部材6を嵌合させ、さらに、口金3の環状シール溝30に環状シール部材8を填め込んだ。これにより、口金3、シャフト部材6、貯蔵材5および環状シール部材8の一体品を得た。
【0079】
EVOHを材料とし、筒状をなすフィルム容器部2を構成する円筒状の容器部材(図略)を射出成形した。そして、当該容器部材を上記の一体品に外装し、加熱することで、容器部材を熱収縮させた。これにより、貯蔵材5および口金3に沿った形状のフィルム容器部2が得られた。
【0080】
フィルム容器部2のうち開口22の周縁部を口金3の押さえ溝35に挿し込みつつ、当該押さえ溝35に押さえ部材7を嵌め込んだ。これにより、押さえ部材7と口金3および環状シール部材8とでフィルム容器部2を挟みつつ、口金3に押さえ部材7を固定した。
【0081】
上記のようにして得られた、口金3、シャフト部材6、貯蔵材5、環状シール部材8、フィルム容器部2および押さえ部材7の一体品のうち、フィルム容器部2および口金3の外側に、FRP製の補強部4を形成して、実施例1のガス容器1を得た。
【0082】
実施例1のガス容器1において、フィルム容器部2の内部空間29には、貯蔵材5が収容されている。実施例1のガス容器1に注入されたガスは、口金3を経てシャフト部材6に流入し、当該シャフト部材6の貫通孔(図略)を経て内部空間29に進み、当該内部空間29に収容されている貯蔵材5に貯蔵される。
【0083】
実施例1のガス容器1では、口金3とフィルム容器部2との間に、環状シール部材8が介在している。さらに、補強部4とフィルム容器部2との間には押さえ部材7が介在している。
【0084】
このような実施例1のガス容器1では、当該押さえ部材7がフィルム容器部2を環状シール部材8に向けて押さえ込み、ひいては、フィルム容器部2および環状シール部材8を口金3に向けて安定的に押し当てることで、環状シール部材8によりフィルム容器部2と口金3との間が安定的にシールされる。
換言すると、押さえ部材7は、環状シール部材8に作用する面圧を一定にする機能を有し、これにより、環状シール部材8によるフィルム容器部2と口金3との間の安定的なシールが実現するともいい得る。
【0085】
(実施例2)
実施例2のガス容器1は、押さえ部材7および押さえ溝35の形状において実施例1のガス容器1と大きく相違し、その余においては実施例1のガス容器1と概略同じものである。したがって、以下、実施例1との相違点を中心として実施例2のガス容器1を説明する。
【0086】
実施例2のガス容器1を分解した様子を模式的に説明する説明図を図5に示す。実施例2のガス容器1の軸方向断面を模式的に表す説明図を図6に示す。図6の要部拡大図を図7に示す。
【0087】
図5図7に示すように、実施例2のガス容器1における押さえ部材7は、軸方向先側に向けて縮径する略ドーム状をなす。押さえ部材7における内周面にはねじ溝が設けられている。
【0088】
口金3に設けられている押さえ溝35の溝壁は、口金3の軸方向に沿って延びる内側面35iと、当該内側面35iに対して口金3の径方向外側に連続し当該径方向に延びる底面35bとを有し、外側面35oを有さない、断面略L字状をなす。
【0089】
実施例2のガス容器1においても、フィルム容器部2における開口22の周縁部は、押さえ溝35に入り込んでいる。
【0090】
ここで、実施例2のガス容器1における押さえ溝35の溝壁は、外側面35oを有さない断面略L字状をなす。
このため、フィルム容器部2は押さえ溝35に入り込み易く、当該押さえ溝35の内部で座屈等の変形もし難い。このため、実施例2のガス容器1は容易に製造することが可能である。また、押さえ溝35の内部でのフィルム容器部2の変形等を抑制できることにより、フィルム容器部2と口金3との間のシール性をより向上させることが可能である。
【0091】
以上本発明を説明してきたが、本発明は、上述した実施形態等に限定されるものではなく、当該実施形態等に記載した要素を適宜抽出し組み合わせて実施することや、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。
また、本発明の明細書は、出願当初における各請求項の引用関係に止まらず各請求項に記載された事項を適宜組み合わせた技術思想を開示するものである。
【符号の説明】
【0092】
1:ガス容器
2:フィルム容器部
22:開口
29:内部空間
3:口金
30:環状シール溝
35:押さえ溝
35i:内側面
35b:底面
4:補強部
5:貯蔵材
7:押さえ部材
8:環状シール部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7