(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078263
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】補正装置、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20240603BHJP
【FI】
A61B6/03 350F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190697
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100208605
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 龍一
(72)【発明者】
【氏名】太田 卓見
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093CA13
4C093EA07
4C093FC24
4C093FD03
4C093FD11
4C093FF09
(57)【要約】
【課題】二種類の管電圧で測定することなくアーティファクトが低減された物理的に妥当な補正画像を得ることができる補正装置、方法およびプログラムを提供する。
【解決手段】補正装置400は、実測された投影像を取得する投影像取得部410と、実測された投影像の取得時に照射されたX線のエネルギーである実測エネルギーとは異なる仮想エネルギーを設定する仮想エネルギー設定部420と、仮定された条件での仮想エネルギーのX線の照射時における投影像を算出し、デュアルエネルギー分解を行うデュアルエネルギー分解部460と、デュアルエネルギー分解で得られた仮補正画像を整合性指標で評価することで仮定された条件のうち最適な条件を特定する整合性指標評価部470と、最適な条件を用いたときの投影像を補正画像として生成する補正画像生成部480と、を備える
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CT画像のアーティファクトを補正する補正装置であって、
実測された投影像を取得する投影像取得部と、
前記実測された投影像の取得時に照射されたX線のエネルギーである実測エネルギーとは異なる仮想エネルギーを設定する仮想エネルギー設定部と、
前記仮想エネルギーのX線の照射時における仮定された条件での投影像を算出し、デュアルエネルギー分解を行うデュアルエネルギー分解部と、
前記デュアルエネルギー分解で得られた仮補正画像を整合性指標で評価することで前記仮定された条件のうち最適な条件を特定する整合性指標評価部と、
前記最適な条件を用いたときの投影像を補正画像として生成する補正画像生成部と、を備えることを特徴とする補正装置。
【請求項2】
前記整合性指標は、Helgason-Ludwig条件を満たす程度を示す指標であることを特徴とする請求項1記載の補正装置。
【請求項3】
前記仮想エネルギー設定部は、前記実測エネルギーより高く前記仮想エネルギーを設定することを特徴とする請求項1または請求項2記載の補正装置。
【請求項4】
前記仮想エネルギー設定部は、前記実測エネルギーとの差が所定値以上になるように前記仮想エネルギーを設定することを特徴とする請求項3記載の補正装置。
【請求項5】
前記デュアルエネルギー分解部は、前記仮想エネルギーのX線照射による投影像を算出する際に用いられる変換関数の関数形として多項式を用いることを特徴とする請求項1または請求項2記載の補正装置。
【請求項6】
前記デュアルエネルギー分解部は、前記実測された投影像を取得する際の測定条件に応じた線吸収係数モデルを用いることを特徴とする請求項1または請求項2記載の補正装置。
【請求項7】
前記整合性指標評価部は、前記仮定された条件のうち変換関数のパラメータの設定に粒子群最適化法を用いることを特徴とする請求項1または請求項2記載の補正装置。
【請求項8】
前記仮想エネルギー設定部は、受け付けたユーザからの入射X線分布の設定を用いることを特徴とする請求項1または請求項2記載の補正装置。
【請求項9】
CT画像のアーティファクトを補正する補正方法であって、
実測された投影像を取得するステップと、
前記実測された投影像の取得時に照射されたX線のエネルギーである実測エネルギーとは異なる仮想エネルギーを設定するステップと、
前記仮想エネルギーのX線の照射時における仮定された条件での投影像を算出し、デュアルエネルギー分解を行うステップと、
前記デュアルエネルギー分解で得られた仮補正画像を整合性指標で評価することで前記仮定された条件のうち最適な条件を特定するステップと、
前記最適な条件を用いたときの投影像を補正画像として生成するステップと、を含むことを特徴とする補正方法。
【請求項10】
CT画像のアーティファクトを補正する補正プログラムであって、
実測された投影像を取得する処理と、
前記実測された投影像の取得時に照射されたX線のエネルギーである実測エネルギーとは異なる仮想エネルギーを設定する処理と、
前記仮想エネルギーのX線の照射時における仮定された条件での投影像を算出し、デュアルエネルギー分解を行う処理と、
前記デュアルエネルギー分解で得られた仮補正画像を整合性指標で評価することで前記仮定された条件のうち最適な条件を特定する処理と、
前記最適な条件を用いたときの投影像を補正画像として生成する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とする補正プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーティファクトを補正する補正装置、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
CT画像には、メタルアーティファクトのように強烈なアーティファクトが生じる場合がある。原因としては、測定に連続X線を用いながら再構成で単色X線を仮定していることによる不整合性(ビームハードニング)、金属に入射X線が大きく吸収されて検出器でほとんどX線が検出されない低カウント性、そして再構成の際に仮定していない散乱線の寄与が挙げられる。
【0003】
これらに対しては、従来、ハードまたはソフトによる対策がとられている。ハードによる対策には、測定に単色X線を用いる方法や散乱線を低減するために検出器の前にグリッドを置く方法がある。また、ソフトによる対策には、逐次法で再構成画像に仮定を入れながら再構成を行う方法がある。
【0004】
しかし、光電効果によるX線吸収以外の原因で散乱線が生じると、上記のような対策では、十分にアーティファクトを低減できないことがある。そこで高エネルギーと低エネルギーでそれぞれ測定した投影像から、投影像レベルで光電効果の成分とコンプトン散乱の成分に分けて分解演算する方法が採られることがある(特許文献1、2参照)。この方法は、デュアルエネルギー分解と呼ばれ、分離された投影像を用いることでアーティファクトを低減している。
【0005】
一方で、何らかの誤差要因のため整合性が崩れた投影像に対し、投影像の強度の合計は角度に依存しないという整合性条件が満たされるように強度分布を補正する方法が知られている(非特許文献1参照)。この整合性条件は、Helgason-Ludwig条件と呼ばれている。実測の投影像は様々な要因からこの線吸収係数に関する保存則を満足していないが、それを満足させるように補正関数のパラメータを決定する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-261942号公報
【特許文献2】特開2014-000409号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Tobias Wurfl, Nicole Maas, Frank Dennerlein, Andreas K. Maier, “A new calibration-free beam hardening reduction method for industrial CT”, 8th Conference on Industrial Computed Tomography, Wels, Austria (iCT 2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のようなデュアルエネルギー分解では、二種類の管電圧で試料にX線を照射し、実測の投影像を取得する必要がある。しかしながら、二種類の管電圧で測定するとなると、単に電圧を変えるだけではなく装置に対し十分なX線漏洩対策を施す必要があり、その導入は容易ではない。例えば、225kVの管電圧で測定しようとするとX線漏洩対策のためにハード面を強化しないといけない。
【0009】
また、単にHelgason-Ludwig条件のみが満たされるように補正を実行すると、再構成画像の強度が反転することがある。やみくもに複合的な誤差要因を一気に解消しようとすると、物理的に不適合な答えが選ばれるためと考えられる。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、二種類の管電圧で測定することなくアーティファクトが低減された物理的に妥当な補正画像を得ることができる補正装置、方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の補正装置は、CT画像のアーティファクトを補正する補正装置であって、実測された投影像を取得する投影像取得部と、前記実測された投影像の取得時に照射されたX線のエネルギーである実測エネルギーとは異なる仮想エネルギーを設定する仮想エネルギー設定部と、前記仮想エネルギーのX線の照射時における仮定された条件での投影像を算出し、デュアルエネルギー分解を行うデュアルエネルギー分解部と、前記デュアルエネルギー分解で得られた仮補正画像を整合性指標で評価することで前記仮定された条件のうち最適な条件を特定する整合性指標評価部と、前記最適な条件を用いたときの投影像を補正画像として生成する補正画像生成部と、を備えることを特徴としている。
【0012】
(2)また、上記(1)記載の補正装置において、前記整合性指標は、Helgason-Ludwig条件を満たす程度を示す指標であることを特徴としている。
【0013】
(3)また、上記(1)または(2)記載の補正装置において、前記仮想エネルギー設定部は、前記実測エネルギーより高く前記仮想エネルギーを設定することを特徴としている。
【0014】
(4)また、上記(3)記載の補正装置において、前記仮想エネルギー設定部は、前記実測エネルギーとの差が所定値以上になるように前記仮想エネルギーを設定することを特徴としている。
【0015】
(5)また、上記(1)から(4)のいずれかに記載の補正装置において、前記デュアルエネルギー分解部は、前記仮想エネルギーのX線照射による投影像を算出する際に用いられる変換関数の関数形として多項式を用いることを特徴としている。
【0016】
(6)また、上記(1)から(5)のいずれかに記載の補正装置において、前記デュアルエネルギー分解部は、前記実測された投影像を取得する際の測定条件に応じた線吸収係数モデルを用いることを特徴としている。
【0017】
(7)また、上記(1)から(6)のいずれかに記載の補正装置において、前記整合性指標評価部は、前記仮定された条件のうち変換関数のパラメータの設定に粒子群最適化法を用いることを特徴としている。
【0018】
(8)また、上記(1)から(7)のいずれかに記載の補正装置において、前記仮想エネルギー設定部は、受け付けたユーザからの入射X線分布の設定を用いることを特徴としている。
【0019】
(9)また、本発明の補正方法は、CT画像のアーティファクトを補正する補正方法であって、実測された投影像を取得するステップと、前記実測された投影像の取得時に照射されたX線のエネルギーである実測エネルギーとは異なる仮想エネルギーを設定するステップと、前記仮想エネルギーのX線の照射時における仮定された条件での投影像を算出し、デュアルエネルギー分解を行うステップと、前記デュアルエネルギー分解で得られた仮補正画像を整合性指標で評価することで前記仮定された条件のうち最適な条件を特定するステップと、前記最適な条件を用いたときの投影像を補正画像として生成するステップと、を含むことを特徴としている。
【0020】
(10)また、本発明の補正プログラムは、CT画像のアーティファクトを補正する補正プログラムであって、実測された投影像を取得する処理と、前記実測された投影像の取得時に照射されたX線のエネルギーである実測エネルギーとは異なる仮想エネルギーを設定する処理と、前記仮想エネルギーのX線の照射時における仮定された条件での投影像を算出し、デュアルエネルギー分解を行う処理と、前記デュアルエネルギー分解で得られた仮補正画像を整合性指標で評価することで前記仮定された条件のうち最適な条件を特定する処理と、前記最適な条件を用いたときの投影像を補正画像として生成する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】(a)、(b)それぞれデュアルエネルギー分解および角度kの投影における線吸収係数の積分を示す概略図である。
【
図2】本発明のシステムの構成を示す概略図である。
【
図3】本発明の処理装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の補正方法を示すフローチャートである。
【
図6】(a)、(b)それぞれ複合試料C1を撮影した際の補正前および補正後の投影像を用いた再構成画像である。
【
図7】Helgason-Ludwig整合性条件のみによる補正後の投影像を用いた再構成画像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0023】
[原理]
CT装置は、あらゆる角度からコーン状または平行ビームのX線を試料に照射し、検出器によりX線の吸収係数の分布、すなわち投影像を取得する。あらゆる角度からX線を照射するために、CT装置は、固定されたX線源および検出器に対して、試料台を回転させるか、X線源と検出器が一体となったガントリを回転させるように構成されている。
【0024】
このようにガントリの回転により様々な角度から投影を行い得られた試料の投影像の濃淡で試料の線吸収係数fの分布を推測できる。そして、2次元的な投影像から3次元的な線吸収係数分布を求める。これを再構成という。再構成は、基本的には投影像の逆投影により行う。X線を試料に照射した際に、光電効果以外の原因で散乱線が生じると再構成画像におけるアーティファクトの原因になる。このアーティファクトを低減するために、まず検出器で検出される強度分布を考える。
【0025】
連続X線をN本の有限個の単色X線の集まりであると仮定すると、入射X線強度は、各単色X線の強度Db(b=1,2,…,N)を積算した強度に置き換えられる。また、X線の透過距離とX線の減衰の非線形性は、各単色X線の減衰を全エネルギーで足し合わせることで表される。各検出器ピクセルで検出される強度Iは、物質によって減衰された各単色X線の強度の総和として以下の式(1)で表される。
【0026】
【0027】
X線の強度減衰を光電効果とコンプトン散乱によると仮定すると、各検出器の座標(角度を含む)において、式(2)のように2つの線積分を用いた複合式が得られる。これらの線積分の値は、ある基準エネルギーE0の線吸収係数の分布および密度分布の投影に対応する。光電効果とコンプトン散乱のエネルギー依存性はそれぞれ冪因子とKlein仁科因子で表現される。これらの投影を取り出せれば、補正されたものとして取り扱える。
【0028】
【0029】
高エネルギーと低エネルギーの二種類の管電圧で得られる強度が分かれば、式(3)、(4)のように2つの未知数を含む2つの方程式が立てられる。この連立方程式を解くことで、散乱の効果で分解された投影像が得られる。これがデュアルエネルギー分解である。
【0030】
【0031】
式(3)を単純化して表したものが式(4)である。これは線積分値が未知数の非線形連立方程式であり、多変数のニュートン法を用いて解ける。
図1(a)は、デュアルエネルギー分解の概略図を示している。
図1(a)に示すデュアルエネルギー分解は、低エネルギーの管電圧で測定された強度分布の入力に対して光電効果のみまたはコンプトン効果のみによる強度分布を出力できる。
【0032】
【0033】
本発明では、二種類の管電圧で得られる強度のうちの一方を実測で取得しておき、パラメータaを含む変換関数G(例えば式(5))に代入することで他方を算出する。ただし、パラメータaは一個の値ではなく、ベクトルのように複数の値の組a=(a1,…,an)を意味する。ここでは、ILowは実測の投影像、IHighは仮想的な投影像として取り扱っているが、逆であってもよい。
【0034】
【0035】
上記の式(4)、(5)を用いることで例えば光電効果という一つの強度減衰の要因のみによる仮の投影像が得られる。計算による投影像を用いてデュアルエネルギー分解を行うため、この方法は擬デュアルエネルギー分解とも呼ばれるべきものである。複数のパラメータaに対しては、複数の仮の投影像が得られる。そして、それぞれの仮の投影像の整合性指標を計算し、最も整合性条件の適合度の高いときのパラメータaが決まる。なお、式(5)に代えて式(5)の強度Iを対数変換して得られた値Pを用いた式(6)を用いてもよい。
【0036】
【0037】
もし試料が測定視野内に入っていて、余計な誤差要因がなく、X線の吸収が理想的に行われたとすると、投影像の強度の合計は角度に依存しないはずである。これを整合性と呼ぶ。検出器で検出される強度は、検出位置と線源とを結ぶ直線上の線吸収係数の線積分と等価である。この値を検出器座標sで積分することで、試料の線吸収係数の総和が求まる。測定がコーンビーム法で行われる場合、中央断面Z=0だけに範囲が限定される。しかし、実際は何らかの誤差要因のために、整合性が崩れる。そこで、投影像の整合性条件が満たされる程度の高い変換関数を決定することで尤もらしい投影像が得られる。
【0038】
整合性指標としては、例えば式(7)に示すようなHelgason-Ludwig整合性条件への指標NRMSD(Normalized Root Mean Square Deviation)を用いることができる。
図1(b)は、角度kの投影における線吸収係数の積分を示す概略図である。Φ
PDEは投影像を補正された投影像に変換する関数である。投影像の積分(断面に含まれる線吸収係数の総和)が不変量に近くなるほどNRMSDはゼロに近づく。
【0039】
【0040】
Mkは角度kの実測の投影像を擬デュアルエネルギー分解した投影像をCU方向に積分したものである。実際は、二次元検出器で測定するため、その場合はCV方向に関しては中央部分だけ用いる。Averagej(Mj)というのは、積分を角度に関して平均をとったものであり、jは外側のkとは独立である。なお、CV方向は、回転軸と平行な方向であり、CU方向は検出器上でそれに垂直な方向である。
【0041】
最も整合性条件への適合度の高いパラメータaが決まったら、このときに仮定していた条件を最適な補正条件として採用し、その条件で投影像を算出する。そして、補正された一連の投影像をもとに再構成画像を生成する。このようにして、アーティファクトが低減され、かつ物理的に妥当な補正画像を得ることができる。
【0042】
[全体のシステム]
図2は、システム100の構成を示す概略図である。システム100は、CT装置200、処理装置300、入力装置510および出力装置520を含んでいる。処理装置300は、補正装置400を備え、CT装置200に接続されている。
【0043】
図2に示すように、CT装置200は、X線源260および検出器270に対し試料を回転可能に構成される。CT装置200は、これに限定されることはなく、X線源と検出器が一体となったガントリを回転させる構成でもよい。また、CT装置200は、平行ビームを使用する装置およびコーンビームを使用する装置もいずれであってもよい。
【0044】
処理装置300は、CT装置200に接続され、CT装置200の制御および取得されたデータの処理を行う。補正装置400は、投影像の補正を行う。処理装置300は、PC端末であってもよいし、クラウド上のサーバであってもよい。入力装置510は、例えばキーボード、マウスであり、処理装置300への入力を行う。出力装置520は、例えばディスプレイであり、投影像などを表示する。
【0045】
なお、
図2に示すように、補正装置400は処理装置300に含まれる一部の機能として構成されてもよいし、補正装置400と処理装置300は一体的なものとして構成されてもよい。なお、補正装置400を処理装置300とは別の構成要素として設けてもよい。
【0046】
[CT装置]
図2に示すように、CT装置200は、回転制御ユニット210、試料台250、X線源260、検出器270および駆動部280を備えている。X線源260と検出器270の間に設置された、試料台250を回転させてX線CT撮影を行う。なお、X線源260および検出器270は、ガントリ(図示しない)に設置し、試料台250に固定された試料に対しガントリを回転させてもよい。
【0047】
CT装置200は、処理装置300により指示されたタイミングで試料台250を駆動し、試料の投影像を取得する。測定データは、処理装置300に送信される。CT装置200は、半導体デバイス等の精密な工業製品に用いることに適しているが、産業用装置のみならず動物用装置にも適用できる。
【0048】
X線源260は、X線を検出器270に向けて照射する。検出器270は、X線を受ける受光面を有し、多数のピクセルにより試料を透過したX線の強度分布を測定できる。回転制御ユニット210は、駆動部280によりCT撮影時に設定された速度で試料台250を回転させる。
【0049】
[処理装置]
図3は、処理装置300の構成を示すブロック図である。処理装置300は、CPU(Central Processing Unit/中央演算処理装置)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、メモリをバスに接続してなるコンピュータによって構成されている。処理装置300は、CT装置200に接続され情報を受け取る。
【0050】
処理装置300は、測定データ記憶部310、装置情報記憶部320、再構成部330、および出力制御部340を備える。各部は、制御バスLにより情報を送受できる。処理装置300は、その一部に補正装置400を含んでいる。入力装置510および出力装置520は適宜のインターフェースを介してCPUに接続されている。
【0051】
測定データ記憶部310は、CT装置200から取得した測定データを記憶する。測定データには、回転角度情報とそれに対応する投影像が含まれる。装置情報記憶部320は、CT装置200から取得した装置情報を記憶する。装置情報には、装置名、ビーム形状、測定時のジオメトリ、スキャン方式等が含まれる。再構成部330は、対象となる一連の投影像からCT画像を再構成する。出力制御部340は、再構成したCT画像を出力装置520に表示させる。これにより、補正後のCT画像をユーザが確認することができる。また、ユーザがCT画像に基づいて処理装置、補正装置等に指示または指定をすることもできる。
【0052】
[補正装置]
補正装置400は、処理装置300の一部として、CPU、ROM、RAMおよびメモリを備えたコンピュータによって構成されている。補正装置400は、CT装置200に直接接続されてもよいし、処理装置を介してCT装置200に接続されてもよい。また、補正装置400は、CT装置から情報を受け取ってもよいし、処理装置300から情報を受け取ってもよい。
【0053】
補正装置400は、投影像取得部410、仮想エネルギー設定部420、入射X線分布設定部430、線吸収係数モデル設定部440、変換関数モデル設定部450、デュアルエネルギー分解部460、整合性指標評価部470および補正画像生成部480を備える。各部は、制御バスLにより情報を送受できる。なお、補正装置400と処理装置300が別の構成である場合、入力装置510および出力装置520は適宜のインターフェースを介して補正装置400のCPUにも接続されている。この場合、入力装置510および出力装置520は、処理装置300に接続されるものとは異なっていてもよい。
【0054】
投影像取得部410は、測定データ記憶部310から補正対象として実測された投影像を取得する。一度のCTスキャンにより得られた一連の投影像が補正対象である。特に、投影像に強烈なアーティファクトがある場合に効果的である。一連の投影像に対し、一枚ごとに最適の補正条件を求めてもよいし、代表の投影像に対して最適の補正条件を求めて他の投影像にも適用することとしてもよい。
【0055】
仮想エネルギー設定部420は、実測エネルギーとは異なる仮想エネルギーを設定する。実測エネルギーとは、実測された投影像の取得時に照射されたX線のエネルギーである。仮想エネルギーとは、実測エネルギーとは異なる仮想されたエネルギーである。例えば、実測エネルギーが100kVのときに仮想エネルギーとして200kVを設定する。
【0056】
仮想エネルギーは、実測エネルギーより高く設定することが好ましい。これにより、構成上の限界により高いエネルギーが使えない装置でもデュアルエネルギー分解を用いてアーティファクトを低減する補正ができる。また、実測エネルギーとの差が所定値以上になるように仮想エネルギーを設定することが好ましい。所定値としては、例えば60kVが挙げられる。十分な差を設けることにより、最適化の際に安定な解を得ることができ、補正の計算が容易になる。なお、原理的には仮想エネルギーを実測エネルギーよりも小さく設定することも可能である。
【0057】
入射X線分布設定部430は、仮想エネルギーのX線を照射する際の入射X線分布を設定する。入射X線分布設定部430は、受け付けたユーザからの入射X線分布の設定を用いることが好ましい。これにより、測定条件に応じた解析が可能になり、最適な補正画像を得ることができる。なお、実測エネルギーの入射X線分布は、測定時の管電圧とフィルタ条件で自動的に決定される。
【0058】
線吸収係数モデル設定部440は、デュアルエネルギー分解に用いる線吸収係数モデルを設定する。基本的に、光電効果およびコンプトン散乱のモデルでよいが、応用対象や測定条件に応じてレイリー散乱のモデル等を用いてもよい。実測された投影像を取得する際の測定条件に応じて、デュアルエネルギー分解に用いる線吸収係数の関数形を設定できる。例えば、試料に軟組織と骨のような二種類の物質しか含まれていない場合、各物質の線吸収係数のエネルギー依存性を使ってモデルを設定できる。このように特殊な条件でもそれ適したモデルを用いて、状況に応じた解析ができる。
【0059】
変換関数モデル設定部450は、実測時の強度分布をX線照射の推測時における強度分布に変換する変換関数モデルを設定する。変換関数の関数形としては、多項式を用いることが好ましい。これにより、計算が容易になり物理的に妥当な補正結果が得られる。多項式以外には、一次関数および指数関数で構成された、正の係数を有する関数を用いることもできる。変換関数におけるパラメータは仮定され、算出された仮補正画像の整合性により評価される。なお、各設定部は、ユーザの指示に応じて設定を行ってもよいが、自動で行ってもよい。また、状況に応じて設定してもよいし、事前に決まったものに設定してもよい。
【0060】
デュアルエネルギー分解部460は、仮想エネルギーのX線照射時における仮定された条件での投影像を算出する。その際には、変換関数のパラメータを仮定する。そして、変換関数で算出された強度分布を用いてデュアルエネルギー分解を行い、仮補正画像として仮定された条件における強度分布を算出する。
【0061】
整合性指標評価部470は、得られた仮補正画像を整合性指標で評価することで最適な条件を特定する。整合性指標で評価するとは、得られた仮補正画像の整合性指標を計算し、最も整合性条件の適合度の高いときのパラメータaを決めることである。整合性指標は、Helgason-Ludwig条件を満たす程度を示す指標であることが好ましい。これにより、仮定した条件で生成した仮補正画像のうち物理的に妥当な補正画像を得ることができる。
【0062】
変換関数のパラメータの設定には、粒子群最適化法を用いることが好ましい。粒子群最適化法は、粒子の位置を解の候補とし、各粒子は自分の最適な位置と群全体の最適な位置を保持しつつ、粒子の位置を更新していく方法である。これにより、局所解に陥らずに全体で最適な解を選び、最適な補正画像を得ることができる。最適化の方法として、勾配法およびシンプレックス法を用いることもできる。
【0063】
補正画像生成部480は、最適な条件を用いたときの投影像を補正画像として生成する。最適な条件が得られたときに、その条件で検出面全体の投影像を生成することが好ましい。すでに生成した仮補正画像を流用できる場合には流用してもよい。このようにして、二種類の管電圧で測定することなくアーティファクトが低減された物理的に妥当な補正画像を得ることができる。
【0064】
[測定方法]
CT装置200に試料を設置し、所定の条件で回転軸の移動とX線の投影を繰り返すことで、X線を試料に照射しつつ投影像を取得する。CT装置200は、スキャン方式のような装置情報および取得された投影像を測定データとして処理装置300または補正装置400に送信する。測定後の数値的な演算によって仮想的に高エネルギーの投影像を作り出すため、この測定は一種類の電圧で行えば十分である。
【0065】
[補正方法]
図4は、補正方法を示すフローチャートである。まず、測定データのうち補正対象となる投影像のデータを取得する(ステップS1)。そして、実測のエネルギーとは異なる仮想エネルギーを設定するとともに入射X線の強度分布を設定し(ステップS2)、線吸収係数のモデルを設定する(ステップS3)。このようにして、仮想エネルギー入射X線分布、線吸収係数のモデル等を事前に設定する。また、実測のエネルギーにおける強度分布を異なるエネルギーにおける強度分布に変換する変換関数モデルを取得する(ステップS4)。
【0066】
取得された変換関数モデルのパラメータaを設定し(ステップS5)、実測の投影データを撮像した際の強度分布からデュアルエネルギー分解を実行して連立方程式を解く。その結果、解として仮想エネルギーにおける強度分布を得る(ステップS6)。例えばパラメータa=(a1,…,an)は、a1=1でそれ以外のanはほぼゼロという初期設定からスタートできる。
【0067】
次に、得られた強度分布の整合性指標を計算して(ステップS7)、繰り返し条件が満たされるか否かを判定する(ステップS8)。繰り返し条件が満たされない場合には、ステップS5に戻る。一方、繰り返し条件が満たされた場合には、ステップS9へ進む。このようにしてパラメータaを変えてステップS5~S7を繰り返すことで、複数のパラメータaに対する整合性指標が算出される。算出された整合性指標は、ユーザに対し表示されることが好ましい。繰り返し条件としては、例えば整合性指標が収束していそうか否かを判断基準とし、閾値で判断する。変換関数ごとに異なる収束の閾値を設定してもよい。なお、
図4に示す例では、繰り返し処理を用いているが、並列処理で一度に解を求めてもよい。
【0068】
得られた整合性指標を評価し、最適なパラメータaを決定し(ステップS9)、最適なパラメータaに対する強度分布を補正後の投影像として得る(ステップS10)。なお、この最適化には、一時的に複数組のパラメータを定めておいて、反復計算の中でそれらのパラメータを更新する粒子群最適化の方法を用いることが好ましい。
【0069】
整合性指標によって最適なパラメータaが決まったら、得られた投影像により再構成を実行する(ステップS11)。検出器の一部領域で整合性指標が計算されている場合には、繰り返し処理の後、全領域で擬デュアルエネルギー分解を行う。
【0070】
[GUI]
補正装置400は、入力装置510および出力装置520を介してユーザとの間でやり取りが可能である。ユーザは、出力装置520に表示されたGUIをもとに情報を認識し、入力操作を行うことができる。
図5は、GUIの一例を示す概略図である。
【0071】
図5に示すGUIの基本画面600では、投影像描画領域が示されるとともに、データ読み込み、分布設定、変換関数の設定、補正実行および再構成実行のボタンが示されている。投影像描画領域には、枠内に検出面上の投影像が表示され、補正後には補正された投影像が表示される。
【0072】
データ読み込みのボタンがクリックされると、例えば蓄積された複数の測定データが提示され、補正対象の候補となるデータが選択可能に表示される。ユーザは、測定データを選択することで、補正対象を決めることができる。
【0073】
分布設定のボタンがクリックされると、補正処理に用いられる入射X線分布を提示するウインドウ610がポップアップされる。ユーザは、提示された入射X線分布を確認し、必要に応じてそれを調整した上でOKをクリックし入射X線分布を確定できる。例えば、
図5に示す例では、ボックスに管電圧およびフィルタの情報を入力できるように設計されている。初期設定で、実測の管電圧より高い電圧と、フィルタ条件から決まる入射X線分布が表示されるようにしてもよい。数値の入力に代えて、グラフの点をユーザが動かせるように設計されていてもよい。
【0074】
変換関数の設定のボタンがクリックされると、関数形とパラメータを提示するウインドウ620がポップアップされる。ユーザは、提示された関数形とそのパラメータを確認し、必要に応じてそれらを調整した上でOKをクリックし関数形とそのパラメータを確定できる。なお、パラメータは、入力せずにあらかじめ用意されたものを用いることもできる。
【0075】
補正実行のボタンがクリックされると、補正処理を実行し、繰り返し回数またはパラメータに対する整合性指標のグラフを示すウインドウ630がポップアップされる。このグラフは、補正の進捗を表す。ユーザは、繰り返し処理が収束しているか、や最適なパラメータが妥当か否かを確認できる。繰り返し処理が収束したら、投影像描画領域に、補正後の投影像が表示される。さらに再構成実行のボタンがクリックされると、補正後の一連の投影像を用いて再構成画像が生成され、画面に表示される。
【0076】
[実施例]
実際に、木材に二種類(AlおよびFe)の金属二本ずつ合計4本が挿入された複合試料C1の投影像を補正した。
図6(a)、(b)は、それぞれ複合試料C1を撮影した際の補正前および補正後の投影像を用いた再構成画像である。
【0077】
図6(a)に示すように補正前の投影像では、金属間に激しい黒いストリークが生じていることが分かる。一方、
図6(b)に示すように補正後の投影像を用いた再構成画像では、ストリークが低減され、木材の中央付近に空いている複数の穴まで容易に識別できる。
【0078】
[比較例]
複合試料C1について、Helgason-Ludwig整合性条件だけを用いて投影像を補正した。
図7は、Helgason-Ludwig整合性条件のみによる補正後の投影像を用いた再構成画像である。
図7に示す投影像では、Al部分に線吸収係数が木材より小さい領域が生じている。また、木材の中央にある穴が見えなくなっている。このように、
図6(b)に示す本発明の補正後の投影像を用いた再構成画像と比較して補正が十分でないことが分かる。
【符号の説明】
【0079】
100 システム
200 CT装置
210 回転制御ユニット
250 試料台
260 X線源
270 検出器
280 駆動部
300 処理装置
310 測定データ記憶部
320 装置情報記憶部
330 再構成部
340 出力制御部
400 補正装置
410 投影像取得部
420 仮想エネルギー設定部
430 入射X線分布設定部
440 線吸収係数モデル設定部
450 変換関数モデル設定部
460 デュアルエネルギー分解部
470 整合性指標評価部
480 補正画像生成部
L 制御バス
510 入力装置
520 出力装置
600 基本画面
610~630 提示画面(ウインドウ)
C1 複合試料
a パラメータ
Db 各単色X線の入射強度分布
G 変換関数
NRMSD 指標