(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078265
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】締結構造、ロケット、および、円筒部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
F02K 9/34 20060101AFI20240603BHJP
B64G 1/40 20060101ALI20240603BHJP
F16L 23/028 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
F02K9/34
B64G1/40 400
B64G1/40 200
F16L23/028
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190699
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】593166462
【氏名又は名称】サムテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(71)【出願人】
【識別番号】521238487
【氏名又は名称】株式会社MJOLNIR SPACEWORKS
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪口 善樹
(72)【発明者】
【氏名】バニョール ティボ
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 光紀
(72)【発明者】
【氏名】ビスコア トール
(72)【発明者】
【氏名】米倉 一男
(72)【発明者】
【氏名】笹山 容資
(72)【発明者】
【氏名】高梨 知広
【テーマコード(参考)】
3H016
【Fターム(参考)】
3H016AA03
3H016AB02
3H016AB08
3H016AC01
(57)【要約】
【課題】円筒部材を含む構造の製造プロセスを短縮する。
【解決手段】締結構造10は、外周部に径方向外側に延びるフランジ部43が設けられた円筒状のシームレスの円筒部材(エンジンケーシング4)と、フランジ部43における円筒部材の軸方向の一側の第1端面431と当接する第1部材(インジェクタプレート3)と、フランジ部43における軸方向の他側の第2端面432と当接する第2部材(環状部材11)と、第1部材と第2部材とを締結する締結機構12と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周部に径方向外側に延びるフランジ部が設けられた円筒状のシームレスの円筒部材と、
前記フランジ部における前記円筒部材の軸方向の一側の第1端面と当接する第1部材と、
前記フランジ部における前記軸方向の他側の第2端面と当接する第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材とを締結する締結機構と、
を備える、
締結構造。
【請求項2】
前記第1部材および前記第2部材の各々には、同軸上に配置された貫通孔がそれぞれ設けられ、
前記締結機構は、
前記第1部材の前記貫通孔、および、前記第2部材の前記貫通孔に挿通されるボルトと、
前記ボルトに螺合されるナットと、
を含む、
請求項1に記載の締結構造。
【請求項3】
前記第1部材には、前記第2部材側に突出する突出部が設けられ、
前記締結機構は、
前記第1部材の前記突出部の内周面に形成される雌ねじ部と、
前記第2部材の外周面に形成される雄ねじ部と、
を含み、
前記雌ねじ部と、前記雄ねじ部とは、互いに螺合される、
請求項1に記載の締結構造。
【請求項4】
前記フランジ部の前記第1端面は、前記第2端面よりも前記円筒部材の端部の開口に近く、
前記フランジ部と前記第1部材との間、前記フランジ部と前記第2部材との間、または、前記円筒部材の内周面と前記第1部材との間には、シール部材が設けられる、
請求項1から3のいずれか一項に記載の締結構造。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の前記締結構造を備え、
前記円筒部材として、固体燃料が収容されるエンジンケーシングを備える、
ロケット。
【請求項6】
円筒状の素管の端部の外径を前記素管の端部以外の部分の外径に対して拡径させる工程と、
前記素管の端部の外径を拡径させた後に、前記素管の端部を切削することによって、外周部に径方向外側に延びるフランジ部が設けられた円筒状のシームレスの円筒部材を形成する工程と、
を含む、
円筒部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、締結構造、ロケット、および、円筒部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種装置または各種設備には、円筒状の部材である円筒部材に他の部材が接続されている構造が多く存在する。例えば、特許文献1には、固体燃料が収容されるエンジンケーシングを備えるハイブリッドロケットが開示されている。エンジンケーシングは、円筒状である。エンジンケーシングの端部には、酸化剤を供給するためのインジェクタプレート等の部材が接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の各種装置または各種設備における他の部材が接続される円筒部材では、溶接またはボルト締結等による繋ぎ目が存在することによって、製造プロセスが冗長になってしまうことがあった。例えば、溶接の弱点や欠陥を考慮して設計を行う必要が生じること等に起因して、円筒部材の製造プロセスが冗長になってしまう傾向があった。ゆえに、円筒部材を含む構造の製造プロセスが冗長になってしまうことがあった。
【0005】
本開示の目的は、円筒部材を含む構造の製造プロセスを短縮することが可能な締結構造、ロケット、および、円筒部材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の締結構造は、外周部に径方向外側に延びるフランジ部が設けられた円筒状のシームレスの円筒部材と、フランジ部における円筒部材の軸方向の一側の第1端面と当接する第1部材と、フランジ部における軸方向の他側の第2端面と当接する第2部材と、第1部材と第2部材とを締結する締結機構と、を備える。
【0007】
第1部材および第2部材の各々には、同軸上に配置された貫通孔がそれぞれ設けられ、締結機構は、第1部材の貫通孔、および、第2部材の貫通孔に挿通されるボルトと、ボルトに螺合されるナットと、を含んでもよい。
【0008】
第1部材には、第2部材側に突出する突出部が設けられ、締結機構は、第1部材の突出部の内周面に形成される雌ねじ部と、第2部材の外周面に形成される雄ねじ部と、を含み、雌ねじ部と、雄ねじ部とは、互いに螺合されてもよい。
【0009】
フランジ部の第1端面は、第2端面よりも円筒部材の端部の開口に近く、フランジ部と第1部材との間、フランジ部と第2部材との間、または、円筒部材の内周面と第1部材との間には、シール部材が設けられてもよい。
【0010】
上記課題を解決するために、本開示のロケットは、上記の締結構造を備え、円筒部材として、固体燃料が収容されるエンジンケーシングを備える。
【0011】
上記課題を解決するために、本開示の円筒部材の製造方法は、円筒状の素管の端部の外径を素管の端部以外の部分の外径に対して拡径させる工程と、素管の端部の外径を拡径させた後に、素管の端部を切削することによって、外周部に径方向外側に延びるフランジ部が設けられた円筒状のシームレスの円筒部材を形成する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、円筒部材を含む構造の製造プロセスを短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るロケットを示す模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係るエンジンケーシングを示す断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係るエンジンケーシングとインジェクタプレートとの接続部分を示す拡大断面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係るエンジンケーシングの素管のスピニング加工後の状態を示す模式図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係るエンジンケーシングの素管の切削加工後の状態を示す模式図である。
【
図6】
図6は、エンジンケーシングとインジェクタプレートとの接続部分の
図3の例と異なる例を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の一実施形態について説明する。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1は、本実施形態に係るロケット1を示す模式図である。ロケット1は、ハイブリッドロケットである。
図1に示すように、ロケット1は、酸化剤タンク2と、インジェクタプレート3と、エンジンケーシング4と、ノズル5とを備える。
【0016】
エンジンケーシング4は、本開示の円筒部材の一例に相当する。エンジンケーシング4と他の部材との接続部分の構造が、本開示の締結構造の一例に相当する。ただし、後述するように、本開示の締結構造は、ハイブリッドロケット以外のロケットに利用されてもよく、ロケット以外の装置に利用されてもよい。
【0017】
酸化剤タンク2には、液体である酸化剤6が収容される。酸化剤6としては、例えば、液体酸素、過酸化水素、四酸化窒素、または、亜酸化窒素等が挙げられる。酸化剤タンク2は、インジェクタプレート3を介して、円筒状のエンジンケーシング4の一端部(
図1中の左端部)と接続されている。酸化剤タンク2に収容されている酸化剤6は、インジェクタプレート3に形成される噴射口(
図2の噴射口31を参照)からエンジンケーシング4内に噴射される。
【0018】
エンジンケーシング4には、固体燃料7が収容される。固体燃料7としては、例えば、末端水酸基ポリブタジエン(HTPB:Hydroxyl-Terminated Poly Butadiene)、または、HTPBにカーボンブラック(つまり、炭素の微粒子)を混和させたもの等が挙げられる。固体燃料7には、エンジンケーシング4の軸方向に延在する貫通孔8が形成されている。エンジンケーシング4内に酸化剤6が噴射されることによって、固体燃料7が燃焼する。具体的には、酸化剤6が固体燃料7の貫通孔8を流れることによって、貫通孔8の側壁で燃焼が行われ、燃焼ガスが発生する。
【0019】
エンジンケーシング4の他端部(
図1中の右端部)には、ノズル5が接続されている。エンジンケーシング4内で生じた燃焼ガスは、ノズル5から噴出される。それにより、ロケット1の推進力が得られる。
【0020】
以下、
図2および
図3を参照して、エンジンケーシング4およびその周囲の構成について、詳細に説明する。なお、以下では、エンジンケーシング4の軸方向、エンジンケーシング4の周方向、および、エンジンケーシング4の径方向を、単に軸方向、周方向および径方向とも呼ぶ。
【0021】
図2は、本実施形態に係るエンジンケーシング4を示す断面図である。エンジンケーシング4の形状は、円筒状である。エンジンケーシング4は、シームレスに形成される。つまり、エンジンケーシング4には、溶接またはボルト締結等による継ぎ目が存在しない。エンジンケーシング4は、後述するように、例えば、スピニング加工および切削加工によって形成される。
【0022】
図2に示すように、エンジンケーシング4の端部41(
図2中の左端部)には、インジェクタプレート3が接続されている。インジェクタプレート3は、円板形状を有する。端部41の開口411は、インジェクタプレート3によって覆われる。インジェクタプレート3の中央側には、噴射口31が形成されている。噴射口31の上流側には図示しないバルブが設けられる。このバルブが開かれることにより、噴射口31からエンジンケーシング4内に酸化剤6が噴射される。酸化剤6が固体燃料7の貫通孔8を流れることによって、固体燃料7が燃焼し、燃焼ガスが発生する。
【0023】
エンジンケーシング4の端部42(
図2中の右端部)には、ノズル5が接続されている。エンジンケーシング4の端部42は、端側に進むにつれて縮径している。ノズル5は、エンジンケーシング4から離れるにつれて拡径する円筒形状を有する。エンジンケーシング4内の空間は、端部42の開口412を介して、ノズル5内の空間と連通している。エンジンケーシング4内の空間のうち端部42よりも端部41側の部分に、固体燃料7が収容されている。端部41の径方向内側には、絞り部材9が収容されている。絞り部材9は、エンジンケーシング4と同軸上に配置される。絞り部材9は、略円筒形状を有する。絞り部材9の内径は、開口412に進むにつれて縮径した後に拡径している。固体燃料7の貫通孔8から排出された燃焼ガスは、絞り部材9によって加速されて、ノズル5に送られる。
【0024】
ここで、ロケット1では、エンジンケーシング4と他の部材とを接続するための構造として締結構造10が設けられる。締結構造10は、締結構造10Aと、締結構造10Bとを含む。締結構造10Aは、エンジンケーシング4とインジェクタプレート3とを接続するための構造である。締結構造10Bは、エンジンケーシング4とノズル5とを接続するための構造である。ただし、締結構造10は、インジェクタプレート3およびノズル5以外の部材(例えば、エンジンケーシング4とインジェクタプレート3またはノズル5とが他の部材を介して接続される場合における当該他の部材)とエンジンケーシング4とを接続するための構造であってもよい。また、軸方向に並ぶ複数のシームレスの円筒部材によってエンジンケーシング4が組み立てられる場合、締結構造10は、隣り合う円筒部材同士を接続するための構造であってもよい。この場合、隣り合う円筒部材のうちの一方が本開示に係る円筒部材の一例に相当し、隣り合う円筒部材のうちの他方が本開示に係る第1部材の一例に相当し得る。
【0025】
エンジンケーシング4の外周部には、径方向外側に延びるフランジ部43が形成されている。フランジ部43は、フランジ部43Aと、フランジ部43Bとを含む。フランジ部43Aは、エンジンケーシング4の端部41の先端に形成されている。フランジ部43Bは、エンジンケーシング4の端部42の先端に形成されている。
【0026】
締結構造10は、エンジンケーシング4と、第1部材(具体的には、インジェクタプレート3またはノズル5)と、第2部材(具体的には、環状部材11)と、締結機構12とを備える。第1部材は、フランジ部43におけるエンジンケーシング4の軸方向の一側の第1端面と当接する。第2部材は、フランジ部43におけるエンジンケーシング4の軸方向の他側の第2端面と当接する。つまり、フランジ部43は、第1部材および第2部材によって軸方向に挟持される。締結機構12は、第1部材と第2部材とを締結する。締結機構12は、ボルト121と、ナット122とを含む。
【0027】
締結構造10Aは、エンジンケーシング4と、インジェクタプレート3と、環状部材11Aと、締結機構12Aとを備える。インジェクタプレート3が、本開示の第1部材の一例に相当する。環状部材11Aが、本開示の第2部材の一例に相当する。締結機構12Aは、ボルト121Aと、ナット122Aとを含む。締結構造10Aでは、フランジ部43Aが、インジェクタプレート3および環状部材11Aによって軸方向に挟持される。
【0028】
締結構造10Bは、エンジンケーシング4と、ノズル5と、環状部材11Bと、締結機構12Bとを備える。ノズル5が、本開示の第1部材の一例に相当する。環状部材11Bが、本開示の第2部材の一例に相当する。締結機構12Bは、ボルト121Bと、ナット122Bとを含む。締結構造10Bでは、フランジ部43Bが、ノズル5(具体的には、ノズル5のうちのエンジンケーシング4側の端部に設けられるフランジ部51)および環状部材11Bによって軸方向に挟持される。
【0029】
ここで、
図3を参照して、締結構造10のうちの締結構造10Aの構成について、詳細に説明する。なお、締結構造10Bの構造は、締結構造10Aと同様であるので、説明を省略する。
【0030】
図3は、本実施形態に係るエンジンケーシング4とインジェクタプレート3との接続部分を示す拡大断面図である。
【0031】
フランジ部43Aは、第1端面431と、第2端面432とを有する。第1端面431は、フランジ部43Aにおける軸方向のインジェクタプレート3側の端面である。第2端面432は、フランジ部43Aにおける軸方向のインジェクタプレート3側と逆側の端面である。第1端面431は、第2端面432よりもエンジンケーシング4の端部41の開口411に近い。
【0032】
インジェクタプレート3は、上述したように、円板形状を有する。インジェクタプレート3は、エンジンケーシング4と同軸上に配置される。インジェクタプレート3の外径は、エンジンケーシング4のフランジ部43Aの外径よりも大きい。
【0033】
インジェクタプレート3のうちエンジンケーシング4側の面には、第1環状溝32が形成されている。第1環状溝32は、エンジンケーシング4と同軸上に配置される。第1環状溝32の底面32aには、第2環状溝33が形成されている。第2環状溝33は、第1環状溝32と同軸上に(つまり、エンジンケーシング4と同軸上に)配置される。第2環状溝33の径方向の幅は、第1環状溝32の径方向の幅よりも小さい。第1環状溝32の径方向の幅は、フランジ部43Aの径方向の幅よりも大きい。
【0034】
インジェクタプレート3の第1環状溝32の底面32aに、フランジ部43Aの第1端面431が当接する。このように、インジェクタプレート3は、フランジ部43Aの第1端面431と当接する。
【0035】
インジェクタプレート3の第2環状溝33には、環状のシール部材13が設けられる。シール部材13は、第2環状溝33の底面33aと、フランジ部43Aの第1端面431との間に設けられる。シール部材13は、第2環状溝33の底面33aと、フランジ部43Aの第1端面431とによって軸方向に挟持される。それにより、エンジンケーシング4とインジェクタプレート3との間が気密にシールされる。ゆえに、エンジンケーシング4とインジェクタプレート3との接続部分から外部にガスが漏れ流れることが抑制される。
【0036】
環状部材11Aは、エンジンケーシング4に対して径方向外側に設けられる。環状部材11Aは、エンジンケーシング4と同軸上に配置される。環状部材11Aの外径は、インジェクタプレート3の外径と略一致する。ただし、環状部材11Aの外径は、インジェクタプレート3の外径より大きくてもよく、小さくてもよい。環状部材11Aは、インジェクタプレート3に対してエンジンケーシング4側に配置される。
【0037】
環状部材11Aの内周縁部のうちインジェクタプレート3側には、環状溝111が形成されている。環状溝111の底面111aに、フランジ部43Aの第2端面432が当接する。このように、環状部材11Aは、フランジ部43Aの第2端面432と当接する。
【0038】
ここで、エンジンケーシング4よりも径方向外側において、インジェクタプレート3と環状部材11Aとは軸方向に対向している。インジェクタプレート3のうち、エンジンケーシング4よりも径方向外側の部分には、貫通孔34が形成されている。貫通孔34は、インジェクタプレート3を軸方向に貫通する。例えば、複数の貫通孔34が、周方向に間隔を空けて設けられている。環状部材11Aには、貫通孔112が形成されている。貫通孔112は、環状部材11Aを軸方向に貫通する。例えば、複数の貫通孔112が、周方向に間隔を空けて設けられている。各貫通孔34と各貫通孔112とが、同軸上に配置されている。このように、インジェクタプレート3および環状部材11Aの各々には、同軸上に配置された貫通孔(つまり、貫通孔34および貫通孔112)がそれぞれ設けられている。
【0039】
締結機構12Aは、上述したように、ボルト121Aと、ナット122Aとを含む。ボルト121Aは、貫通孔34および貫通孔112に挿通される。ボルト121Aの先端部にナット122Aが螺合される。それにより、インジェクタプレート3と環状部材11Aとが、締結機構12Aによって軸方向に締結される。ゆえに、フランジ部43Aが、インジェクタプレート3および環状部材11Aによって軸方向に挟持される。
【0040】
以上説明したように、本実施形態に係る締結構造10Aは、シームレスの円筒部材であるエンジンケーシング4を備える。さらに、締結構造10Aでは、エンジンケーシング4のフランジ部43Aの第1端面431と当接するインジェクタプレート3と、エンジンケーシング4のフランジ部43Aの第2端面432と当接する環状部材11Aとが、締結機構12Aによって締結される。それにより、エンジンケーシング4とインジェクタプレート3とが簡素な構造によって接続される。ここで、エンジンケーシング4に溶接またはボルト締結等による繋ぎ目が存在する場合には、溶接の弱点や欠陥を考慮して設計を行う必要が生じること、または、エンジンケーシング4の溶接個所を点検する必要が生じること等に起因して、エンジンケーシング4を含む構造の製造プロセスが冗長になってしまう傾向があった。一方、本実施形態に係る締結構造10Aによれば、エンジンケーシング4がシームレスであり、かつ、エンジンケーシング4とインジェクタプレート3とが簡素な構造によって接続されるので、溶接の弱点や欠陥を考慮した設計、および、溶接個所の点検プロセスを排除することができ、製造プロセスが短縮される。それにより、エンジンケーシング4を含む構造の調達期間、製造コストおよび点検コストを低減することもできる。さらに、エンジンケーシング4に溶接またはボルト締結等による繋ぎ目が存在する場合と比べて、エンジンケーシング4を含む構造を軽量化することができる。さらに、安全性を高めることができる。
【0041】
上記の例では、エンジンケーシング4のフランジ部43Aの第1端面431と第1部材であるインジェクタプレート3との間に、シール部材13が設けられている。ただし、シール部材13の配置は、上記の例に限定されない。
【0042】
例えば、エンジンケーシング4のフランジ部43Aの外周面と第1部材であるインジェクタプレート3との間に、シール部材13が設けられてもよい。エンジンケーシング4のフランジ部43Aの外周面と第2部材である環状部材11Aとの間に、シール部材13が設けられてもよい。エンジンケーシング4のフランジ部43Aの第2端面432と第2部材である環状部材11Aとの間に、シール部材13が設けられてもよい。エンジンケーシング4の内周面(具体的には、エンジンケーシング4のうちフランジ部43Aが設けられる部分の内周面)と第1部材であるインジェクタプレート3との間に、シール部材13が設けられてもよい。
【0043】
上記のように、フランジ部43Aと第1部材であるインジェクタプレート3との間、フランジ部43Aと第2部材である環状部材11Aとの間、または、エンジンケーシング4の内周面と第1部材であるインジェクタプレート3との間に、シール部材13が設けられ得る。なお、フランジ部43Bと第1部材であるノズル5との間、フランジ部43Bと第2部材である環状部材11Bとの間、または、エンジンケーシング4の内周面(具体的には、エンジンケーシング4のうちフランジ部43Bが設けられる部分の内周面)と第1部材であるノズル5との間に、シール部材13が設けられてもよい。ただし、シール部材13は必須の構成ではなく、シール部材13が設けられていなくてもよい。
【0044】
ここで、
図4および
図5を参照して、エンジンケーシング4の製造方法について説明する。なお、以下では、エンジンケーシング4のフランジ部43のうちフランジ部43Aの加工方法のみについて言及する。フランジ部43Bの加工方法は、フランジ部43Aの加工方法と同様であるので、説明を省略する。
【0045】
上述したように、エンジンケーシング4の製造方法では、エンジンケーシング4は、例えば、スピニング加工および切削加工によって形成される。エンジンケーシング4が形成された後に、第1部材(具体的には、インジェクタプレート3)および第2部材(具体的には、環状部材11A)が、締結機構12Aによってエンジンケーシング4に取り付けられる。
【0046】
図4は、本実施形態に係るエンジンケーシング4の素管20のスピニング加工後の状態を示す模式図である。エンジンケーシング4の素管20は、円筒状である。素管20は、例えば、フローフォーミングによって形成される。このような素管20に対してスピニング加工が行われる。素管20のスピニング加工では、素管20を回転させた状態で、素管20に対して径方向外側から工具を押し付けることによって、素管20を変形させる。その他の加工方法として、固定された素管20に回転する工具を押し付ける方法が用いられてもよい。つまり、素管20と工具が相対的に回転していればよい。具体的には、
図4に示すように、素管20のスピニング加工では、素管20の端部21の外径を素管20の端部21以外の部分の外径に対して拡径させる。端部21の外径を拡径させる際、端部21と素管20の厚さ比によって、素管20の肉厚が顕著に薄くなり得る。
図4の例では、端部21の外周面に、軸方向延在部21aと、傾斜部21bとが端側からこの順に並ぶように形成される。なお、軸方向延在部21aと傾斜部21bのどちらが先に形成されてもよい。軸方向延在部21aは、素管20の軸方向に延在する。傾斜部21bは、素管20の端側に進むにつれて拡径する。なお、
図4の例のように、スピニング加工によって、素管20の端部21以外の部分に段差部22(つまり、外径が変化する部分)が形成されてもよい。
【0047】
図5は、本実施形態に係るエンジンケーシング4の素管20の切削加工後の状態を示す模式図である。切削加工は、スピニング加工の後に行われる。
図5に示すように、素管20の切削加工では、素管20の端部21の軸方向延在部21a、傾斜部21bおよび端面21cが切削されることによって、フランジ部43Aが形成される。具体的には、素管20の端部21の傾斜部21bが切削されることによって、フランジ部43Aの第2端面432が形成される。素管20の端部21の端面21cが切削されることによって、フランジ部43Aの第1端面431が形成される。それにより、フランジ部43Aが設けられた円筒状のシームレスのエンジンケーシング4が形成される。
【0048】
エンジンケーシング4が形成された後に、フランジ部43Aの第1端面431にインジェクタプレート3を当接させる工程が行われる。また、フランジ部43Aの第2端面432に環状部材11Aを当接させる工程が行われる。また、インジェクタプレート3と環状部材11Aとを締結機構12Aにより締結する工程が行われる。それにより、エンジンケーシング4にインジェクタプレート3が接続される。
【0049】
以上説明したように、エンジンケーシング4の製造方法は、円筒状の素管20の端部21の外径を素管20の端部21以外の部分の外径に対して拡径させる工程を含む。さらに、エンジンケーシング4の製造方法は、素管20の端部21の外径を拡径させた後に、素管20の端部21を切削することによって、外周部に径方向外側に延びるフランジ部43Aが設けられた円筒状のシームレスの円筒部材であるエンジンケーシング4を形成する工程を含む。それにより、シームレスのエンジンケーシング4を形成することが適切に実現される。ゆえに、エンジンケーシング4を含む構造の製造プロセスが短縮される。それにより、エンジンケーシング4を含む構造の調達期間、製造コストおよび点検コストを低減することができる。さらに、エンジンケーシング4を含む構造を軽量化し、安全性を高めることができる。
【0050】
なお、実際には、上記で説明したエンジンケーシング4の製造方法に対して、熱処理等の種々の工程が追加され得る。また、上記で説明したエンジンケーシング4の製造方法では、素管20がフローフォーミングによって用意される。ただし、素管20はスピニング加工によって用意されてもよい。また、上記で説明したエンジンケーシング4の製造方法では、素管20の端部21の外径がスピニング加工によって素管20の端部21以外の部分の外径に対して拡径される。ただし、素管20の端部21の外径がフローフォーミングによって素管20の端部21以外の部分の外径に対して拡径されてもよい。
【0051】
上記では、第1部材(具体的には、インジェクタプレート3またはノズル5)と、第2部材(具体的には、環状部材11)とが、ボルト121およびナット122とを含む締結機構12によって締結される例を説明した。ただし、第1部材と第2部材とは互いに螺合されることによって締結されてもよい。以下、このような例について、
図6を参照して説明する。
【0052】
図6は、エンジンケーシング4とインジェクタプレート3-1との接続部分の
図3の例と異なる例を示す拡大断面図である。
図6の例では、エンジンケーシング4とインジェクタプレート3-1とを接続するための構造として、締結構造10A-1が用いられる。なお、エンジンケーシング4とノズル5とを接続するための構造として、締結構造10A-1と同様の構造が用いられてもよい。
【0053】
締結構造10A-1は、エンジンケーシング4と、第1部材としてのインジェクタプレート3-1と、第2部材としての環状部材11A-1と、締結機構12A-1とを備える。
図6に示すように、インジェクタプレート3-1の径方向外側の端部には、環状部材11A-1側に突出する突出部35が設けられる。突出部35の内周面は、環状部材11A-1の外周面と対向する。突出部35の内周面には、雌ねじ部36が形成されている。環状部材11A-1の外周面には、雄ねじ部113が形成されている。締結機構12A-1は、インジェクタプレート3-1の雌ねじ部36と、環状部材11A-1の雄ねじ部113とを含む。締結構造10A-1では、インジェクタプレート3-1の雌ねじ部36と、環状部材11A-1の雄ねじ部113とが互いに螺合されることによって、インジェクタプレート3-1と環状部材11A-1が締結される。
【0054】
以上、添付図面を参照しながら本開示の実施形態について説明したが、本開示はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0055】
上記では、本開示の円筒部材が、ハイブリッドロケットであるロケット1のエンジンケーシング4であり、本開示の締結構造が、エンジンケーシング4と他の部材(インジェクタプレート3またはノズル5)との接続部分の構造(つまり、締結構造10A、10B)である例を説明した。ただし、本開示の締結構造は、ハイブリッドロケット以外のロケットに利用されてもよい。例えば、本開示の円筒部材が、固体の酸化剤が混錬されている固体の燃料を備える固体ロケットのエンジンケーシングであり、本開示の締結構造が、当該エンジンケーシングと他の部材との接続部分の構造であってもよい。また、本開示の締結構造は、ロケット以外の装置(例えば、車両等)に利用されてもよい。
【0056】
ただし、本開示の締結構造が用いられるロケットのサイズが小さいほど、本開示が有効に活用される。ロケットのサイズによらずに構成機器の最小サイズはあまり変わらない。ゆえに、大型のロケットでは、小型または中型のロケットと比べて、ロケット全体におけるエンジンケーシングの重量の割合が小さくなる。一方、小型または中型のロケットでは、大型のロケットと比べて、ロケット全体におけるエンジンケーシングの重量の割合が大きくなる。よって、小型または中型のロケットでは、エンジンケーシングの軽量化がより望まれている。
【0057】
上記では、第1部材(具体的には、インジェクタプレート3またはノズル5)が、フランジ部43の近傍(つまり、エンジンケーシング4との接続部分)において、一体的に形成される例を説明した。ただし、第1部材は、フランジ部43の近傍において、複数の部材によって形成されてもよい。例えば、第1部材のうちフランジ部43の第1端面431に対向する部分と、第1部材のうち第2部材(具体的には、環状部材11)に対向する部分とが、別々の部材によってそれぞれ形成されてもよい。また、第2部材も、第1部材と同様に、複数の部材によって形成されてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 ロケット
3 インジェクタプレート(第1部材)
3-1 インジェクタプレート(第1部材)
4 エンジンケーシング(円筒部材)
5 ノズル(第1部材)
7 固体燃料
10 締結構造
10A 締結構造
10A-1 締結構造
10B 締結構造
11 環状部材(第2部材)
11A 環状部材(第2部材)
11A-1 環状部材(第2部材)
11B 環状部材(第2部材)
12 締結機構
12A 締結機構
12A-1 締結機構
12B 締結機構
13 シール部材
20 素管
21 端部
34 貫通孔
35 突出部
36 雌ねじ部
43 フランジ部
43A フランジ部
43B フランジ部
112 貫通孔
113 雄ねじ部
121 ボルト
121A ボルト
121B ボルト
122 ナット
122A ナット
122B ナット
411 開口
412 開口
431 第1端面
432 第2端面