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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078268
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】移動機械用部材とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20240603BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240603BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20240603BHJP
   B32B 15/20 20060101ALI20240603BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20240603BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20240603BHJP
   B29C 70/12 20060101ALI20240603BHJP
   B29C 70/68 20060101ALI20240603BHJP
   B62D 29/04 20060101ALI20240603BHJP
   B29K 79/00 20060101ALN20240603BHJP
   B29K 105/12 20060101ALN20240603BHJP
【FI】
B29C45/14
B32B15/08 105Z
B32B15/088
B32B15/20
B32B27/20 Z
B32B27/34
B29C70/12
B29C70/68
B62D29/04 A
B29K79:00
B29K105:12
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190705
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】514080855
【氏名又は名称】合資会社アンドーコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 元成
(74)【代理人】
【識別番号】100168468
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 曜
(72)【発明者】
【氏名】安藤 直樹
【テーマコード(参考)】
3D203
4F100
4F205
4F206
【Fターム(参考)】
3D203AA01
3D203BB59
3D203BC02
3D203DA32
4F100AB10B
4F100AB31B
4F100AG00A
4F100AK47A
4F100AK48A
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100DG03A
4F100EH36A
4F100GB33
4F100JA11A
4F100JB16A
4F100JK02
4F100YY00A
4F205AA29
4F205AB25
4F205AD03
4F205AD08
4F205AD16
4F205AD26
4F205AG01
4F205AG03
4F205AH18
4F205HA12
4F205HA27
4F205HA34
4F205HA36
4F205HB01
4F205HB12
4F205HF05
4F205HT16
4F205HT26
4F206AA29
4F206AB25
4F206AD03
4F206AD08
4F206AD16
4F206AD26
4F206AD27
4F206AG01
4F206AG03
4F206AH18
4F206AH26
4F206JA07
4F206JB12
4F206JL02
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】自動車の天井屋根等に使用する金属・樹脂複合一体化物製の板状物であり、軽量化、省エネ、CO2削減、地球温暖化の動きに答えること。
【解決手段】
樹脂材として特定のポリアミド系樹脂組成物を使用し、一方でNMT型化学処理した各種Al合金の0.5~1.5mm厚の板材を適当に裁断した物を使って射出接合用金型内にインサートし、前記の樹脂組成物を射出して最終形状が曲面状含む板状の金属・樹脂の一体化複合体にする。樹脂材として同ポリアミド系樹脂組成物を使用し、一方でNMT型化学処理した各種Al合金の約5mm角で長さ100mm以上の角棒状物を数本使い簡単に組み上げて射出接合用金型内にインサートし、前記の樹脂組成物を射出して最終形状が直径15~20mm長さ50~150mmの丸棒状の樹脂成形物で覆われて中心に前記Al合金製角棒が沈み込んだ形の金属・樹脂の一体化複合体が出来る。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材として脂肪族ポリアミドを樹脂分中の50~90質量%、半芳香族ポリアミドを同50~10質量%含み、且つ、硝子短繊維を全体の30~35質量%含んだ結晶性熱可塑性樹脂組成物を使用し、
一方でNMT型化学処理したA5052、A5083、A6061、又はA2024Al合金の0.5~0.9mm厚の薄板材を適当な長方形に裁断した複数枚を使って射出接合用金型内にその各々のインサート場所を決めて配置し、
次いで金型を閉じて前記の結晶性熱可塑性樹脂組成物を射出し、その離型後の形状が基本的には厚さ2.5mm以上で且つ面積500cm以上の曲面状含む板状の樹脂成形物であって、その中の主にその外周部分に各々のAl合金薄板が面接合して複合一体化物となっており、その全体形状は図4に示す例に沿ったものであり、
且つ、この複合一体化物の使用域は自動車含む移動機械の天井屋根、フェンダー、ドア外面部、座席尻下部、座席背中部、等に使う板状部材であること、
を特徴とする金属・樹脂複合一体化物、及び、その使用法を提供する。
【請求項2】
樹脂材として脂肪族ポリアミドを樹脂分中の50~90質量%、半芳香族ポリアミドを同50~10質量%含み、且つ、硝子短繊維を全体の30~35質量%含んだ結晶性熱可塑性樹脂組成物を使用し、
一方でNMT型化学処理したA5052、A5083、A6061、又はA2024Al合金の1.0~1.5mm厚の長尺型板材を1枚以上使って射出接合用金型内に各々のインサート場所を決めて配置し、
次いで金型を閉じて前記の結晶性熱可塑性樹脂組成物を射出し、その形状が基本的には厚さ2.5mm以上で且つ面積400cm以上の板状樹脂成形物であって、その中の主にその中央部にAl合金製長尺型板が、又、複数枚の場合はそれらが長尺の方向に並列した形で面接合して複合一体化物となっており、その全体形状は図5~9に示す例に沿ったものであり、
且つ、この複合一体化物の使用域は自動車含む移動機械の天井屋根、フェンダー、ドア外面部、等に使う板状部材であること、
を特徴とする金属・樹脂複合一体化物、及び、その使用法を提供する。
【請求項3】
樹脂材として脂肪族ポリアミドを樹脂分中の50~90質量%、半芳香族ポリアミドを同50~10質量%含み、且つ、硝子短繊維を全体の30~35質量%含んだ結晶性熱可塑性樹脂組成物を使用し、
一方で、A5083、A6061、A2024のAl合金等から得た、又は鋳造用Al合金の押し出し加工で得た熱処理済の角棒材を機械加工して得た、約5mm角で長さ100mm以上の角棒状物をNMT型化学処理した物、を使って射出接合用金型内にそのインサート場所を決めて配置し、
次いで金型を閉じて前記の結晶性熱可塑性樹脂組成物を射出し、その形状が基本的には直径15~20mmで長さ50~150mmの丸棒状の樹脂成形物であって、その丸棒の中心部に前記のAl合金製角棒が沈み込んで中に含まれてしまった形でほぼ全面接合して複合一体化物となっており、その全体形状は図10に示す例に沿ったものであり、
且つ、この複合一体化物の使用域は自動車含む移動機械の運転席や客席含む座席部の柱部分に使う部材であること、
を特徴とする金属・樹脂複合一体化物、及び、その使用法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動機械用部材とその製造方法に関する。更に詳しくは、本発明の移動機械用部材とは、特定の高強度高耐熱性の熱可塑性樹脂組成物を使用した板状形状物を主構造材として用い且つアルミ合金製板状形状物を従構造材として用いるか、又は、アルミ合金製棒材を主構造材として用い且つ高強度高耐熱性の熱可塑性樹脂組成物使用の射出成形物を従構造材として用いて、各々の主構造材と従構造材とを射出接合技術にて強力に一体化した金属・樹脂複合一体物である。これらは、将来の自動車用の薄板鋼板に代わる一種の構造部材として採用されると予期した。それ故に、本発明による発明品は自動車産業に関係し、更に広くは移動機械製造業に関係する。
【背景技術】
【0002】
本発明の移動機械用部材は、軽量高強度の複合一体化物であり、従来、基本的に薄板鋼板が使用されて来た自動車の屋根、フェンダー、ドア、座席部、等をより軽量な代替物として登場させんと目論んだものである。地球温暖化問題に対処すべく自動車はエンジン車からハイブリッド車、燃料電池車、電動車、等へ変化することになるが、どの車種であろうとタイヤから電動機を含む駆動部や、水素ボンベ、燃料電池、2次電池などエネルギー伝達部や供給部、そしてこれらを支える鋼製シャーシー部、等の移動機械重要構造部に関しては現在の量産製造物及び現在開発済の量産手法と変わらぬものが採用されると見ている。即ち、米国のテスラ社(Tesla, Inc.)が生産販売中の鋳造用Al合金をシャーシー部にまで採用した電動乗用車は高級乗用車として世界の注目を浴びているが、日独大手自動車メーカーが目指す世界市場向けの汎用電動車としてはそのシャーシー部には高価過ぎるAl合金製の構造物を採用せず従来通りの鋼材が使用されるとみている。
【0003】
即ち、鋼材ほど優れた構造用素材はない。特殊鋼や薄板鋼板など機械物性に優れた物が大量供給される体制が整っており、且つ、鋼材はその溶接性が非常に優れている。その一方、Al合金は機械物性に優れた物が多種大量に供給される体制は整ってはいるが、供給物は板材や薄板材で、特殊形状押し出し材で強度の高いサッシ材用の中間物はL型鋼やH形鋼に似た直線棒状物である。曲げ加工も鋼材ほど自由度がなくその量産加工は易しくない。特に最大の弱点は溶接性の悪いことである。自動車シャーシー部は複雑形状である上に最高の機械物性が要る構造部であり、もしも溶接法を避けて板材棒材から組み立てるのであればその量産実用化はコスト面で困難を極める。
【0004】
それ故に、複雑形状の鋳造物を作り上げ、僅かに機械加工を加えて作り上げるしかなく、これがAl合金製シャーシー作りの克服困難な問題点だったのである。ただ、米テスラ社は新型の鋳造用Al合金組成を発明し、その合金使用の高圧鋳造法まで開発した。この鋳造物は、熱処理を加えることなく予期した機械物性が得られるとの情報もあり、このテスラ社のAl合金製シャーシー実用化技術は素晴らしい新技術であると見られる。但し、高圧鋳造した後に砂型である鋳造型は壊さねば鋳造物を分離できない。高速3Dプリンターで高速生産する鋳造型生産コストも当然加わる。それ故、現行の鋼材使用法よりかなりコスト高に成らざるを得ないはずである。それが1台7~8百万円という同社の電動車売価になったとの見方が多い。要するに、これらが、前記した様に将来の電動汎用車のシャーシー部は従来通り鋼材が使用されると予期される根拠である。
【0005】
一方、自動車材料が鋼材からAl合金に変わり大成功を収めたのは、ガソリン車のエンジンブロックであり、Al合金製エンジンは既に世界中で採用され、その軽量化による「省エネ」効果は大きい。但し、今回の大競争では元々電動車にエンジンはなく、現行の大自動車メーカーはエンジン製造部門、エンジン改良開発部門を廃止、又は、縮小せねばならぬ苦難に覆われている。軽量化の為にAl合金使用で全ての部材を転換して行きたいところだが、前記のシャーシー構造部は鋼材使用構造が生き残るだろうと述べたのに加えて、その他の部分、即ち、フェンダー、天井屋根、ドア、バックドア、座席、等でも鋼材構造をAl合金構造に切り替えるのは大きな軽量化は図れると予期されるものの意外と難しい。その理由は、Al合金板材はプレス成形が難しいことである。Al合金にはスプリングバック性がありプレス型通りの成形は容易でなく曲面化した板状部材は薄板鋼板のプレス成形品が使い易いのである。日本車では高級車でAl合金製のドアが一部で使われているがこの使用法が汎用車で広がる気配はない。安定生産が難しいものと見られている。
【0006】
日、独、米の大自動車メーカー群、そして電動車として間違いなく大市場と化す中国に出現した新興自動車メーカー群。それらの全てが汎用電動車の世界市場を目指しての大競争に突入する。日、独の自動車企業はその輸出競争力で自国の貿易黒字を支えて来たし自動車輸出は国家の経済力を支えて来たから正に国家同士の大競争でもある。同じことは国家経済主義国中国にも言える。ただ、電動車の製造技術は自動車企業が本来育てたものでなくモーターメーカー、2次電池メーカー、化学メーカーの技術開発力があってこそ獲得されたもの。要するに、今後生産販売される電動車は全てそのモーターと電池と必要な電子電気機械を他社からの供給受けて生産するのであり、出来上がった電動車自体は日、独、米、中ともに似たもの同士の車体になり易い。それ故、ライバル社の新型車を見つつ戦う強烈な生き残り新車競争になる。汎用電動車に関する世界大生き残り競争は2024~2025年で過激化し2030年には勝者が決まるとの予測が語られている。
【0007】
本発明者は、この電動車だけでなく燃料電池車、ハイブリッド車、そしてガソリン車含む2024年以降の世界自動車生産大競争に於いて、自動車産業専門家であっても思いつかぬ新視点を有している。即ち、車体構造部の内のシャーシーを除く全部分、即ち前記したフェンダー、ドア、バックドア、座席等に於いて現行の薄板鋼板構造物から本発明品が主役とする物、即ち、金属・熱可塑性樹脂の複合一体化材(基本的には板形状)が主役になり得るとの考えである。
【0008】
要するに、「地球環境問題」即ち「CO2削減」が全世界の大目標であるのは間違いないが、自動車メーカーとしてやるべき本道は「省エネ」でありエンジン有する自動車は全廃し全て電動車にすべきという単純な話ではないはずだ。エンジン車やハイブリッド車であっても使用される国や地域によっては使用禁止に出来ないしすべきでない。要するに車種に関わらず車体の軽量化が進めば実効性あるCO2削減となる。電動車を増やすのと同時に電源である火力発電の燃料を石炭や石油系から天然ガスに変え、もっと言えば原子炉冷却が絶対に止まることない安全な原発にして使用すべきことも含まれる。これは各国家が対応する技術力、投資戦略であって自動車メーカーとしてやることではない。自動車メーカーとして為すべきは、全て安価な電動車の大量生産技術開発に進めることが第一であり、加えて鋼材使用部をAl合金使用部材に代える努力をして軽量化を進め、自動車製造組立て企業として軽量化によるCO2削減が出来る様に努力すべきことである。
【0009】
そこで、本発明者が予期しているのは、Al合金板材自体をフェンダーやドア部材にするのではなく、Al合金と高性能樹脂とからなる複合一体化部材を曲面付の板材とし、その板材を取り付ける鋼材を使った枠構造は現技術をそのまま採用する全体構造を予期している。本発明者が良く分からないのは車体の具体的な組み立て方法である。即ち、Al合金板材を加えて強化した樹脂製の大面積厚板材の外周部とこれを支える鋼材製枠部分との接合方法には何を使えばよいのか。軽量なAl、Ti合金製のボルト、ナットかネジ締めを採用するのか、熱可塑性樹脂は接着剤との相性が悪いので樹脂側にAl合金薄板材を射出接合して枠材と接着したい側をAl合金面としエポキシ接着剤で接着する方法もある。どの接合方法が量産手法として好ましいのかが分からないのである。
【0010】
まあこれら組立の為の接合技術や接着技術は自動車メーカーが有する重要技術であり、最適法を探し出して欲しい。要するに、これら技術を加えて車重を10%程度は軽量化して欲しい。本発明を使用して全車種の自動車製造にて独自の10%以上の軽量化が出来るのは、自動車製造に於ける合理化を徹底して進め世界最高の輸出競争力を獲得して来た国内自動車メーカーであると本発明者は思っている。2024年から2030年まで続くとされる汎用車の世界大競争に本発明を利用して一歩進んだ自動車軽量化に成功した会社は必ず生き残り、2030年には勝者グループに入るはずと本発明者は確信している。
【0011】
本発明の元になる基礎技術は本発明者(安藤直樹)による射出接合技術、接着剤接合技術の発明群でありその大部分は既に日本国内外に公開されている。先ず本発明が特に関係する射出接合技術については特許文献1~17があり、それらの概要やその理屈について以下に述べる。一方、本発明者による接着剤接合技術「NAT(Nano adhesion technologyの略)」は自動車、航空機、ドローン等の軽量化に関係する金属材同士のエポキシ接着剤接合技術、そしてCFRP材と金属材のエポキシ接着剤接合技術であり、本発明で目的とする汎用車の軽量化促進技術には軽量化効果と素材価格のバランスが合わぬ故に直接的関係なく、理論的面の間接的関係(参考:非特許文献1)しかない。それ故にNATの詳細説明は省く。
【0012】
(射出接合技術について)
「NMT(Nano Molding Technologyの略)」とは、Al合金にNMT処理という化学処理を与えてその表面形状と化学物性を少なくとも10~100nm周期の超微細凹凸面で全面を覆った超微細凹凸面形状とし、且つ表面に水和ヒドラジンが化学吸着した物とし、用意する工程が要る。一方、射出接合用樹脂として高結晶性の熱可塑性樹脂(例えばPBT、PPS、ポリアミド系樹脂、PEEK含むPAEK系樹脂の何れか)を主成分とし、主成分樹脂とは異なる樹脂であり出来れば主成分樹脂と相溶性ある樹脂を従成分樹脂として用意し、更にこの2高分子間の相溶性が弱かった場合にはこれら2高分子間の相溶性が不完全であっても相溶の助けになる第3成分樹脂を加えて全樹脂成分としこれを溶融混合して樹脂成分とする。具体的には、全樹脂分100質量部には主成分樹脂70~90部、従成分樹脂30~10部、第3成分樹脂0~2部が含まれる。この他にフィラー又は強化材としてGF(硝子短繊維)や無機粉体を全体の0~35質量%加えて溶融混合し、射出成形用(射出接合用)の結晶性熱可塑性樹脂組成物とする。
【0013】
この複雑組成の樹脂組成物とした目的は、射出成形機の射出口から射出成形金型内に樹脂が射出され、溶融樹脂が金型内通路を冷やされながら通過して金型に予めインサートしておいた前記のNMT処理済みAl合金片に衝突し、流動状態から急停止する間の樹脂部の物理化学物性に好ましい大変化を起こすよう仕向けたことにある。端的に言えば、金型内の通路を進んで行く樹脂は溶融状態であるがその中の主成分樹脂はその液温が主成分樹脂の融点以下に冷やされる。要するに流動中の樹脂部は通路で冷やされるが液状を保った過冷却状態になっている。そして進行液が遂にインサートされたAl合金片にて道を塞がれ流動が急停止した瞬間に至る。即ち、大きな物理的衝撃を受けて過冷却状態が壊れ結晶化を開始する瞬間に至る。直ぐに微結晶を同時多発的に発生して先ず液状物としての粘度(液粘度)が急上昇する。インサート金属片表面に存在する超微細凹部の入口付近ではこの液粘度が急上昇して超微細凹部奥底まで樹脂は流れ込めなくなり更に結晶成長が進み樹脂固化に至る、というのが通常の進行プロセスなのである。
【0014】
要するに、本発明者が樹脂組成物に目論んだのは、溶融状態の樹脂が急冷され且つその流動が急停止という物理的衝撃を受けて過冷却状態が破れた直後に始まる結晶化の速度を主成分樹脂含率100%の通常時に比較して大きく下げる(結晶化速度を大きく抑制する)ことで樹脂組成物の液粘度の急上昇を抑え、樹脂組成物流れがインサートされていたAl合金上の超微細凹部の奥底まで流れ込めるようにする為である。主成分樹脂の結晶化速度はその高分子の形状や長さや分子内組成で異なるものの、全ての結晶性高分子で言えることは、不純物(異高分子)が少なからず混ざっていた場合には必ず遅くなるという経験則だった。それ故、金型内にインサートして於いたAl合金片に射出樹脂先端部が衝突し、樹脂分中の主成分樹脂の結晶化が始まるとしてもその結晶化速度が本発明者目論見通り遅くなっていれば前記の様にAl合金上の超微細凹部の奥底近くまで樹脂分が侵入してから既に同時多発的に生じていた多数の微結晶の成長が限界まで進んで固化し、Al合金片と射出成形した樹脂組成物部は強い接合状態になる。
【0015】
更には、インサートしたAl合金片の表面には予めアミン系分子(NMT処理では水和ヒドラジン)が化学吸着しており、これらアミン系分子が結晶化せんとする主成分樹脂(PBT、PPS、ポリアミド、他)等と衝突する。これら主成分樹脂は高温でアミン系分子と衝突すると必ず反応し高分子が千切れるなど分子運動が瞬間的に起き発熱して結晶化への動きが阻害される。この予めインサートしておく金属片にアミン系分子を化学吸着させておく意図は、射出する高結晶性熱可塑性樹脂に異高分子を混ぜ込んで溶融状態の樹脂が急冷された場合に起こる主成分樹脂の結晶化速度を抑制するのと同じ目的の為である。この2つの戦略により、NMT処理したAl合金片と射出接合用に調整した高結晶性熱可塑性樹脂を主成分に含む樹脂組成物との射出成形機を使用した射出接合操作はAl合金片と樹脂成形物間の強い一体化物の作成に成功することが出来る。
【0016】
本当にその様に上手く射出接合が完全成功にまで進んだか、それを測る手法として図1図2形状の射出接合物を作成し、それぞれのせん断接合強度、引張り接合強度を測定し多くのデータを得て判断すること、又、得た図1形状物を種々の環境下に長く、例えば常温環境下では春夏秋冬の1年、そして5年、10年、15年、実際にはあり得ない超厳しい環境下に置く場合は1000~8000時間置く等の耐久試験を行ってそのせん断接合強度がどの様に低下するか頑張るかを見て得た接合が完全接合に近いか否かを見ることになる。その結果も含めて「NMT」は移動機械用の部品部材作り基本技術として本特許出願時点(2022年末)にては十分過ぎる成果を得ていた。
【0017】
「新NMT(New Nano Molding Technologyの略)」とは、Al合金含む全金属、金属合金に新NMT処理という化学処理を与えてその表面形状を0.8~10μm周期の微細凹凸面があるものとし、更に適切な化学処理を加えてその微細凹凸面上に10~100nm周期の超微細凹凸面が乗っている2重の複雑重なり面で全面を覆った超微細凹凸面形状をした物として用意する工程が要る。その一方で用意する射出接合用の樹脂組成物としては前記したNMTにて使用する樹脂組成物と全く同じモノを使う。新NMT法にはNMTであったアミン系分子を金属合金片の化学吸着する処理工程は含まれていない。その理由はアミン系分子の吸着反応自体がAl合金以外には上手く行かないからである。それ故に図1に示す様な金属片と結晶性熱可塑性樹脂組成物間で得た射出接合物でのせん断接合強度で新NMT品は必ずNMT品に較べて劣った。しかしながら非アルミ金属であるステンレス鋼や銅やTi合金の一部ではその表面処理法(新NMT処理法)が非常に上手く行った場合に且つ射出樹脂との相性が良ければ得られる射出接合物のせん断接合強度は満足できるレベルの高強度、即ち射出樹脂がPBT系樹脂やPPS系樹脂では40MPa程度、射出樹脂が特殊ナイロン系樹脂では55~60MPaになり各種Al合金使用時のNMTによる射出接合物に肉薄した。
【0018】
「SNMT(Special Nano Molding Technologyの略)」とは、Al合金含む全金属やその金属合金に最新の新NMT処理を与えてその表面形状を20~50μm周期の粗面化したものとし、その粗面上に更に0.8~10μm周期の微細凹凸面があるものとし、更に適切な化学処理を加えてその微細凹凸面上に10~100nm周期の超微細凹凸面が乗っている2重3重の複雑重なり面で全面を覆った超微細凹凸面形状をした物として用意する工程が先ず要る。それに加えて、アミン系分子やアミン系分子塩の水溶液に長く浸漬してこれらを物理吸着させ、その水溶液から引き上げた後にごくごく薄くしたアミン系分子やアミン系分子塩の希薄水溶液を用いて水洗し、熱風乾燥する。要するにAl合金以外の金属材はアミン系化合物と化学吸着しないからNMTは使えないのだが、全ての金属や金属合金はやや高濃度にしたアミン系化合物の水溶液に長時間浸漬すれば物理吸着させられると予期し、やや強引な処理法を思い付き試行錯誤した。その結果、非アルミ金属やその合金で良い結果を示す系があった。 ただ非アルミ金属である銅は、アミン系化合物が元々化学吸着することはなく、酸素存在下ではアミン系化合物と反応まで進む(正しくは銅表面に生じる酸化銅薄膜と反応し亜硝酸銅化してしまう)。それ故に、非アルミ金属材ではNMTが使えず、勿論、SNMTも悪結果を与える。添え故に細かく言えば、非アルミ金属の内で銅や銅合金以外の金属でSNMTの方が新NMTより高い射出接合力を示す系が発見できたという意味である。
【0019】
具体例は特許文献16に示したが、Ti合金やステンレス鋼の一部にて射出接合用のPPS系樹脂、ポリアミド系樹脂使用時にせん断接合強度として40MPaや55~60MPaという各樹脂有する最高接合強度値が安定して得られることを発見し驚いたのである。物理吸着させる目的で使用したアミン系分子はトリエタノールアミンでありこれは上手く行くことが多かった。又、EDTAの4Na塩で金属合金種を選べば驚く高射出接合力を示すことがTi合金で存在した。要するに、特殊ケース用として新射出接合技術にSNMTとして加えた。この技術の詳細は特許文献16に記載した。
【0020】
(射出接合技術の応用技術など)
「NMT」「新NMT」「SNMT」は、射出接合技術の基礎技術である。これら基礎技術を実用技術にする上で、特に、移動機械用の実用技術とする上で必要な開発技術が多々あった。簡単に言えば、射出接合力の耐久性に優れている点である。一は対湿熱耐久性であり、射出接合物が高温高湿な環境に数千時間置かれれば必ずせん断接合強度は低下すると予想した。ただし、もしも金属合金片と樹脂成形物の接合面部の微細構造が水分子や酸素分子の侵入や侵入して集まり数千数万個の分子集団をつくる水遊び場も存在しない言わば完全接合物であるなら金属材側の表面層に錆び(金属水酸化物)層を生じることなく、射出接合物になった後に千時間数万時間経過しても接合部構造に変化なく、射出接合物に於けるせん断接合強度、引張り接合強度は変化しないという可能性も予期した。即ち、金属・樹脂間の図1形状の射出接合物を85℃85%湿度の高温高湿下に3000~8000時間置いてから常温環境に戻した上で、せん断接合強度の測定等を多く繰り返してその耐久性を調べた結果、殆ど初期値から低下がない物が多く見つかっている。それらについては恐らく完全接合操作が行われたものと解釈し、基本的に接合面成す金属材表面層と樹脂材表面層の微細凹凸組み合わせ形状、その微細構造に持続性があって、水分子や酸素分子の侵入による金属材側の錆び(金属水酸化物)発生や樹脂側の加水分解による劣化が殆ど起きなかったものと思われる。
【0021】
(完全接合イメージとガス封止性)
前記の様に完全接合操作が感じられた物については、金属片表面に化学操作で作った10~100nm周期の超微細凹凸面の凹部底まで射出接合操作で樹脂分が侵入し固化したと理解し、この接合面を水分子、酸素分子、窒素分子だけでなく水素分子、Heガスでも通過困難になっていると予期し、A5052Al合金とPPS系樹脂「SGX120(東ソー社)」の射出接合面でのHeガスによる加圧ガス漏れ試験を行い封止度がゴム製Oリング封止よりも数百倍優れていることを確認した。同じく、C1100銅とPPS系樹脂「SGX120(東ソー社)」の射出接合面でのHeガスによる加圧漏れ試験を行い封止度がゴム製Oリング封止より数十倍優れていることも確認した(特許文献8)。
【0022】
この前記2つのガス封止技術は、Al合金と銅の2種を電極引き出し材として使用し、電池箱としてPPS系樹脂を使用する現LIB(Liイオン電池)での電極液への水分子侵入を完全防止する技術として利用されているレベルを遥かに超える。現行製品はゴム製Oリング封止であり5年のLIB実用使用に十分な性能があるとして、本発明者が勧める前記の完全封止法は実採用に至っていない。だがもしも完全封止技術でLIB寿命が10年以上になるならLi資源の消費速度を半減することになる。本発明者は是非これに気付いて欲しいのだが現時点では電動車の急増に備えて電気機械、電池メーカー等はLIB製造工場の大増設中であり、一方で商社は中露以外のLi資源国へのアプローチを進めており、LIB電池箱の完全封止技術に歓心を示すには至っていない。これは残念なことである。
【0023】
何れにしてもNMT、新NMT、そしてSNMTは金属片と樹脂成形物を完全接合物にまで高め得る技術である。要するにNMT、新NMT、SNMTのどの技術であっても最も理想的に射出接合して図1形状のせん断接合強度測定用の試料とし試験でPPS系樹脂使用時は40MPa、ポリアミド系樹脂使用時は55MPa示す様な場合、上記と同じ様なガス封止性を示すと思っている。何故ならこれが完全接合に近いと思っているからである。それ故にガス封止性が非常に高い射出接合物に於いても主成分樹脂自体に加水分解性がなければ基本的に高温高湿試験において耐久性があるはずである。
【0024】
(金属材と樹脂材は基本的に線膨張率に大差あるがその対応策は)
金属材と熱可塑性樹脂材とを前記した射出接合技術で接合し理想的な射出接合物が作成できたとしてその実用品形状は図1図2の様な単純形状ではない。更にその使用環境だが、移動機械用途、例えば自動車の部品部材であれば日本国内だけでも冬季北海道東中部の-30℃、夏季本州内陸部の40℃がある。輸出されアラスカ、シベリアで使われるなら冬季-50℃、エチオピア岩塩地帯の+50℃もある。加えて自動車は気温だけでなくエンジンや電動機、そしてライト等の発熱装置を有しており、更には陽光に曝されるフェンダー、ドア等の外装部は無風の停車時にはその使用場所により陽光時の数時間だが100℃近くになろう。要するに、金属材と樹脂成形物材とは自ら有する線膨張率が異なるので一旦出来上がった射出接合物が常温付近での耐久試験でOKであるとしてもそれだけでは不十分である。本発明者は、金属材と樹脂(射出成形物)材間の線膨張率差を勘案して、その一体化接合構造が少なくとも+150℃と-50℃の繰り返し3千サイクルの温度衝撃で全く影響を受けない接合構造、接合形状についても研究し実験してその基本技術を明らかにしている(特許文献14)。
【0025】
(金属材樹脂材間の完全接合と一体化複合体の線膨張率の関係)
物理化学に関するが、一例は、金属薄板材と厚板状樹脂材の射出成形物が板面同士の射出接合で一体化し厚板状複合材にした場合の複合材の線膨張率がどうなるかという点がある。端的に言えば、樹脂材にはGF(硝子短繊維)が例えば30~35質量%も含まれていて結構硬く引張強度も高く丈夫であり融点は250℃くらいある樹脂材(例えばGF含量33.3質量%含む特殊ポリアミド組成物「CM3506G50(東レ株式会社(本社:日本国東京都)製)」)があり樹脂板厚さを5mmにした45mm×18mmの長方形厚板形状の射出成形品である。この時の金属片は射出接合用化学処理して得たSUS304ステンレス鋼で45mm×18mmの長方形で厚さ0.28mmの薄板であった。この2材が最高度の射出接合技術で(完全接合に近い形で)面接合して複合板にされた場合を述べている。樹脂成形物自体が有する線膨張率は(3~3.5)×10-5-1とみられ、SUS304鋼自体の線膨張率は1.6×10-5-1であるからその差はかなり大きい。
【0026】
この場合、射出接合技術で得た厚さ5.3mmの特殊鋼・樹脂の複合厚板の板面に於ける線膨張率は約3×10-5-1に近くその一体化物の線膨張率は樹脂材値に近いことが分かった。この場合、金属材も樹脂材も剛性が強く、縦弾性率と厚さの積を厚さ含めての縦弾性率として金属材と樹脂材を比較して今回の様に樹脂材側が明らかに金属材側に勝る場合にあたる。即ち、複合材の線膨張率は樹脂材の固有値に従い、金属材の線膨張率は相手に従属して自らの値は消えてしまう。勿論これは両材間の接合力が55MPa程度の強烈な強さあってのことである。出来上がった複合板は、結局は樹脂厚板にステンレスメッキした様な物になり単独の薄板鋼板物より軽量化できる。
【0027】
(金属材樹脂材間の完全接合と一体化複合体の線膨張率の関係、その2)
一方、樹脂材に上記と同じ特殊ポリアミド組成物「CM3506G50」を使い樹脂板厚さを1.5mmにした射出成形品を予定し、片方の金属はA5052Al合金製で厚さ0.75mm薄板2枚だとする。この全3材が射出金型内にAl合金薄板2枚をインサートしておいた後にその2枚の中間部に前記樹脂を射出接合させるべく射出し、最高度の射出接合技術で(完全接合に近い形で)3枚が全面接合して厚さ3mmの3層複合型一体化厚板にされた場合、その得られた板状複合体の線膨張率はどうなるか。樹脂成形物自体の線膨張率は(3~3.5)×10-5-1、A5052Al合金自体の線膨張率は2.4×10-5-1であるから互いの線膨張率差は結構小さい場合に当たる。このような場合、樹脂側が譲って線膨張率2.5×10-5-1に近い数値になると思われる。
【0028】
数式を示して理論立てるのは物理学者の仕事だが本発明者は技術者であり実用品に仕立て上げれば十分仕事を為したことになる。実際、理論化するには33.3重量%のGF含む特殊ポリアミド系樹脂組成物「CM3506G50」の厚さ1.5mmの板状成形物を射出成形し、得た板状物を使って種々の方向線に関して温度変化でその長さ変化を精密測定しなければならぬ。実はこの測定が意外と難しい。樹脂射出をピンゲートで何処からしたか、ピンゲートではなく側面から流し込むサイドゲートを使ったか、等で線膨張率はその測定線の方向や場所で変わることを知り、データ整理にもっと複雑な理論が要ると思うようになる。更に言えば、樹脂中に平均33.3重量%という多量のGFが含まれていることで最も簡単な長方形板状の射出成形物を短辺部の側面から樹脂を流し込んで作ったサンプルでの測定でも大きな変化のあることも知る。
【0029】
例えば、長辺と並行な線を使いその線膨張率を測定すると「CM3506G50」の購入年の違いで3.2×10-5-1~3.8×10-5-1でバラついた。GF自身も組成使用率25%以上と大きいとその繊維太さや繊維長さ、更にはその短繊維製造条件の僅かな違いで射出成形品に於ける線膨張率にバラツキが生じる。そのことを考えた場合、樹脂「CM3506G50」様に大量のGFを加えているにも関わらず樹脂メーカー(東レ株式会社)は製品カタログで「この樹脂成形品は大量のGFが含まれているにも拘わらず表面にGF繊維先端が浮き出ることなく指接触感がスムースで綺麗な成形品になります」と謡っている。これは一般には無機粉体等のフィラーを35%程まで含有した非晶性熱可塑性樹脂を射出成形や押し出し成形して得た成形品の特徴で、その表面から10μm程度深さまでの表層部に加えていた固形フィラーがごく僅かしか存在しないという事実を述べたものである。
【0030】
この様な熱可塑性樹脂の成形物表面薄層には固体粉体や強化短繊維などの所謂フィラーが殆ど含まれていないことにつき「スキン層がある」と樹脂加工技術者は述べている。上記の例では10μm厚程度のスキン層があるという表現になる。しかし樹脂「CM3506G50」には全体の33.3重量%のも大量のフィラーが加えられた高結晶性熱可塑性樹脂が主体であり、一般論で言えばその成形品はフィラーGFの先端部が露出した箇所が必ず生じるはずで、それ故、その射出成形品は指接触感がスムースで綺麗な成形品になることはまずない。しかしポリアミド系樹脂「CM3506G50」の成形品の表層は鏡面の様に綺麗で金型の仕上がりがそのまま実現される。何故にそのようになるかと言えば、この樹脂組成物に含まれる樹脂組成物が非常に急冷時の結晶化速度が遅い結晶性樹脂になっており、結果的に非晶性樹脂の射出成形品に似てしまったことによる。
【0031】
その詳細な説明は、ポリアミド系樹脂「CM3506G50」の中のポリアミド系樹脂とはどの様なポリアミド樹脂なのかとの樹脂組成物自体の詳細に関係する。この点、雑駁に言えば急冷時の結晶化速度が非常に速いPA6(6ナイロン)やPA66(66ナイロン)等の脂肪族ナイロンと急冷時の結晶化速度が異常なほど遅いPA6I(ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸の交互共重合物)やPA6T(ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸の交互共重合物)等の半芳香族ナイロンとを適当な比率で混ぜた組成物がここで言うポリアミド系樹脂の正体である。その様な複数のポリアミドの混合物にすることで、急冷時の結晶化速度がやや遅いという射出接合性ある樹脂レベルに調整されていること、このこと自体が通常の射出成形物製造時の金型転写性向上と同じ作用をしていることになる。
【0032】
即ち、金型内にインサートされたNMT処理や新NMT処理やSNMT処理済の金属材があった場合、射出された「CM3506G50」は金属材表面の超微細凹部の奥底まで侵入した後に結晶化が完結して最高度の金属・樹脂の接合一体化物を生むし、同じく通常の射出成形を行った場合には明確にスキン層が出来易く金型の磨き作業の出来が良く鏡面加工までされた金型であれば得た成形品はその転写性がよいので鏡面性ある綺麗な成形品になる。再度言えば、乱流状態で金型内通路を進んで冷やされ融点以下の液温ではあるが結晶化は始まらず過冷却状態だった樹脂流れが通路止めで急停止しその物理的衝撃で結晶化が開始したとして、最も早く冷える最先端表面部では高分子同士が集まって液粘度が上昇し始める。
【0033】
その場合、結晶化とは液状の高分子同士が整列化を始めること自体を表しているので整列集合することになり、それ故に高分子群の中に平均的に分散していたGFや無機粉体等のフィラー達はゆっくりとした結晶化なら後方に追い出される。この高分子結晶化というエントロピー的な物理化学的変化がスキン層を生む理由ではあるが、結晶化速度が非常に速いと大きな粉体や1mm程の長さあるGF短繊維は樹脂部結晶化の速度に較べて逃げ出す速度が追い付かず結果的にスキン層厚は薄くなりその成形品にGF端部が僅かに露出したスムースでない表面形状になり易い。又、非晶性樹脂の射出成形品では液温の温度低下に従って液粘度が上昇するので言わば樹脂の固化速度はずっと遅く、高分子は熱運動レベルを下げてその高分子同士の分子間力で集まり縺れるようにしてゆっくり液粘度を上げ固化に向かう。そこで分散していたフィラーは集合する高分子群から追い出されるが、高分子同士の集合速度が遅い(結晶化速度より遅いのが普通故に)のでそれに応じてゆっくりとフィラー類は押し出され結果的に明確なスキン層が形成される。
【0034】
結局、非常に面白いことに射出成形で得たチト特殊なポリアミド系樹脂「CM3506G50」の板状物、棒状物、その他の形状物は、GF33%以上含むのでその成形品はやや硬質で剛性もありながら、大量のGF含有樹脂にした場合に起り易い射出成形時の転写性や寸法性の悪さが全く感じられない極めて特殊な樹脂材となっている。要するに、この樹脂の射出成形品は綺麗で寸法性良く且つやや硬質な物となるので構造材として使用できそうな用途に使える材料だと本発明者は思ったわけである。そしてCF含率33%以上もあるのにNMT、新NMT、SNMTの射出接合技術に適合している樹脂であるから、金属との複合材として用いれば、その使用場所によっては鋼材に代えて使用できると思ったのである。
【0035】
(金属材・樹脂材の一体化複合体の線膨張率は一本化なるかの疑問)
この背景となる理論を考える。先ず「CM3506G50」樹脂自体の線膨張率に関してだが、GF原料である硝子自体の線膨張率は(0.6~0.7)×10-5-1である。当然GF自身の線膨張率は同じである。一方の樹脂成分自身の線膨張率はそれが非晶性樹脂であれば(5~6)×10-5-1程度、結晶性樹脂であれば10×10-5-1近くであることはよく知られていることであり、ここでは高結晶性樹脂が使用されているので樹脂自体では10×10-5-1に近いと思われる。ただ実際にはGF33.3%も含まれておりフィラーが多いほど下がる線膨張率は前記した様に(3~3.5)×10-5-1になった。一方の金属材だが全てのAl合金は2.4×10-5-1程度、SUS304鋼は1.6×10-5-1程度、SUS430鋼や一般鋼材は1.1×10-5-1程度、TiやTi合金は0.8×10-5-1程度である。
【0036】
この様に金属は全て樹脂材より線膨張率が小さく、例え金属材と樹脂材を射出接合技術により常温付近で完全接合した一体化物が出来たとしても、環境温度が上がっても下がっても接合面を挟む両材間には長さの違いが本来は生じるわけだから接着面付近の両材にせん断的内部応力が必ず発生する。ただ上記した「CM3506G50」樹脂の成形品に於ける線膨張率だが、その中の樹脂成分だけを見ると10×10-5-1近い線膨張率が、本来なら線膨張率(0.6~0.7)×10-5-1であるGFが多く混ざることで3×10-5-1近い線膨張率に下がっている。これは樹脂材自体が基本的に軟性であり硬く線膨張率の低い素材が混ざるとその素材の機械物性に容易に引っ張られることを示す。
【0037】
それ故に、射出接合技術で接合した金属材と樹脂材の一体化物、例えば図1形状の接合物でそのせん断接合強度が40~60MPaを示す様な強力な接合力を示す組合せであれば、金属材が直径10mmの円棒であってGF含む樹脂材がその周りを囲む内径10mm、外径15mmの厚板カバー材という組合せの複合円棒板にした製品なら意外と線膨張率差による問題は生じない気がする。例えば+150℃に上がった場合だが樹脂側の線膨張率は金属側より大きいので樹脂側は伸びて中央の金属円棒から剥がれようとするように思われるが、樹脂分自体は本来線膨張率が非常に大きいので剥がれようとしているのは常温条件でも同じであった。この剥がれようとの樹脂分の内部応力を常に抑え込んでいたのは大量のGF群であった。
【0038】
GF自体は、線膨張率0.6×10-5-1程度でありむしろ金属材より小さい。従ってこのような複合体形状の場合、軟質の樹脂分を線膨張率低く硬質であるGF群と中心にある金属棒の両者が引き止めているという見方に代えれば線膨張率差による2材間の自己的な破壊や破断は意外と起こり難いと思われた。何しろ、全ては金属部と樹脂部間の接合構造が完全接合構造に近く、正しく射出接合技術が行われていること、これが条件である。それ故に、金属側がAl合金であれば線膨張率は2.3×10-5-1程度であり、樹脂組成物がGF33.3%含む射出接合用樹脂、例えば「CM3506G50」の様な樹脂であれば恐らく樹脂組成物の射出接合物の線膨張率は(3~4)×10-5-1になるから、まあ金属材と樹脂材間の線膨張率差は小さいと言えるので上記の様な厚肉同士の一体化物も温度衝撃サイクル試験に耐え得ると思われる。要するにこのような場合、2材の線膨張率差は消えてAl合金の(2.4~2.5)×10-5-1に一本化され温度変化で2材が分離することはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0039】
【特許文献1】特開2004-050488(NMT PBT)
【特許文献2】特開2007-050630(NMT PPS)
【特許文献3】特開2007-182071(NMT ナイロン)
【特許文献4】特開2010‐064498(NMT PPS 陽極酸化)
【特許文献5】WO2021/070654(NMT2)
【特許文献6】WO2008/281933(新NMT SUS)
【特許文献7】WO2008/047811(新NMT 銅)
【特許文献8】特開2017-132243(新NMT 銅 封止 LIB)
【特許文献9】WO2008/078714(新NMT Ti)
【特許文献10】特開2010‐064397(新NMT Ti合金)
【特許文献11】WO2009/011398(新NMT 鋼)
【特許文献12】特開2018-111277(NMT PEEK)
【特許文献13】特開2017-132243(新NMT 銅 ウイスカ)
【特許文献14】特開2019-217704(NMT 射出接合品の形)
【特許文献15】特開2022-071227(NMT 半芳香族ポリアミド)
【特許文献16】特開2021-095385(SNMT)
【特許文献17】特開2020-100248(新NMT 銅 LIB 粘り性)
【非特許文献】
【0040】
【非特許文献1】「アルミとCFRPを積層した高比強度の複合材;大成プラスと東レが共同開発中」日経クロステック 機械要素技術展2009,06,24
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0041】
本発明者が目指したのは2023、4年から始まるとみている世界中を巻き込む自動車製造販売大競争に日本の自動車メーカーが勝ち抜く方法、手段として本発明者から見れば自動車部材、即ち、屋根板、フェンダー、ドア、バックドア、前後座席等の部材、まあ言えば鋼製シャーシーやその上に乗せるメイン構造部でない部分に於いて現行の鋼材と薄板鋼板も構造物から高結晶性熱可塑性樹脂組成物使った金属・樹脂の複合一体化物製の形状化済み板材を使った立体構造に代えて行くことを意図している。この件は前記した特許文献1~17で公知状態にあり、本発明者からすれば、国内自動車メーカー、同自動車部材メーカーの技術者戦略企画者等多数の方々に既に伝えた事柄だが、残念ながら良くは気付かれていない故に本発明としたのである。
【0042】
似た非鉄金属構造材や樹脂製構造材への素材変更の考えは半世紀前から検討はされており、米国でシャーシー部以外の数か所に硝子長繊維と不飽和ポリエステル樹脂使ってFRP化した板状物を設置したスポーティーカー「ムスタング(フォード・モーター・カンパニー(本社米国ミシガン州ディアポーン)製)」が作られこの車は大人気を得た。車体軽量化の意図はなかったが、樹脂材を比較的大きな自動車部材に使用し人気得たのは確かであり歴史的には樹脂材を少なくとも構造的部位に使った最初とみられる。又、石油化学の進歩でABS樹脂の射出成形物が運転席前メーター板に取り付けられ構造材以外ではABS樹脂の使用が始まった。
【0043】
ただ、ABS樹脂は喫煙時のライター炎で着火するとそのまま燃焼が進むという問題点がその後発覚し、対策として難燃性ABSへの開発が進み、更に耐熱性も加えられてヘッドライトやバックライトのカバー材に使われた。この難燃性ABS樹脂の動きが出た頃、米GE社が添加剤なしでも難燃性であるPOM(poly oxy-methylene)樹脂を開発しその量産方法も確立した。同社はこのPOMが既にABS樹脂使用中の家電品から販路を奪うだけでなく、大きく用途域を広げて一軒家から自動車までその構造材として使える画期的な新樹脂だと判断し、POM製住宅のイメージでPOM製の屋根材、外壁材を試作し、POM製の自動車部材(フェンダー、ドア、)使った試作車も作り世間に問うた。
【0044】
この影響を受け、難燃性ある熱可塑性樹脂使用の射出成形品でフェンダーを作りこれを採用した2種の小型乗用車が日本で製造販売された。本発明者自身、当時、その自動車生産工場を見学し樹脂製フェンダーを取り付け作業中の作業者と言葉を交わした。彼曰く「冬場で一致していた取り付け穴位置が夏場になったら大きくずれ出して調整が面倒になった。この作業は意外と時間食うので嫌いです」と話した。位置ズレ発生の理由は鋼材部に樹脂板を取り付ける場合に環境温度が変化すれば互いの線膨張率が大きく違うので当然起こることであり、それを予期しての対策が不十分だったせいだ。ただ、この追加作業で自動車生産効率が僅か悪化したせいとは思わぬが、この2車種に関しその後継車は現れなかった。又、同時期、GE社発明のPOM樹脂の採用が進んだのはプリンターやコピー機などオフィス家電だけとなり、住宅材や自動車部材などがPOM製品になることはなかった。
【0045】
この様な自動車構造材の内のシャーシー部以外の物につき、過去のあまり上手く行かなかった樹脂材の歴史がある。それ故に、目前の電動車化でその対応に精いっぱいの自動車メーカー技術幹部は、当社(大成プラス社)の開発技術である射出接合技術による金属・熱可塑性樹の一体化複合体の優れた物性についてその情報を得たとしても、過去の失敗話に似た様なことになると感じ、前向きに自動車用途につき本発明者、又は当社(大成プラス社)との共同研究を開始しようとしなかった。別の言い方をすれば前記の特許文献1~17は全て基礎技術であり、その具体的な量産化技術は自動車メーカー、自動車部品メーカーが主になって開発獲得し、そして自動車メーカーや自動車部品メーカーが新特許として出願し獲得すべきものと本発明者(安藤直樹)は思っていたからである。そこで本発明者は戦略を一転させた。
【0046】
即ち、この本発明は、その自動車用部品の形状まで書き込んでその実用化方法の例を示そうとした。本来は自動車メーカー又は自動車部材メーカーが開発すべき領域まで、全く組立作業やその手法研究などやったことがない石油化学企業の技術担当だった本発明者が、自動車部品製造工場である現場を予想し、部材構造は図化して説明し、これを他材とどう繋ぐか、設計者ならどの手法で固定するか等も考えてみた。その様な中身含む一種の用途発明を本発明にしたのである。実際、内容自体は本発明者が行った射出接合技術発明の羅列に過ぎないが、それを用途発明にして具体的な自動車製造法の中に含み込ませようとした戦略の実行、これが「本発明者が解決しようとする課題」そのものであり、これを本発明の出願と開示で実行したものである。
【課題を解決するための手段】
【0047】
本発明1は、樹脂材として脂肪族ポリアミドを樹脂分中の50~90質量%、半芳香族ポリアミドを同50~10質量%含み、且つ、硝子短繊維を全体の30~35質量%含んだ結晶性熱可塑性樹脂組成物を使用し、
一方でNMT型化学処理したA5052、A5083、A6061、又はA2024Al合金の0.5~0.9mm厚の薄板材を適当な長方形に裁断した複数枚を使って射出接合用金型内にその各々のインサート場所を決めて配置し、
次いで金型を閉じて前記結晶性熱可塑性樹脂組成物を射出し、その離型後の形状が基本的には厚さ2.5mm以上で且つ面積500cm以上の曲面状含む板状の樹脂成形物であって、その中の主にその外周部分に各々のAl合金薄板が面接合して複合一体化物となっており、その全体形状は図4に示す例に沿ったものであり、且つ、
この複合一体化物の使用域は自動車含む移動機械の天井屋根、フェンダー、ドア外面部、座席尻下部、座席背中部、等に使う板状部材であること、
を特徴とする金属・樹脂複合一体化物、及び、その使用法。
【0048】
本発明2は、樹脂材として脂肪族ポリアミドを樹脂分中の50~90質量%、半芳香族ポリアミドを同50~10質量%含み、且つ、硝子短繊維を全体の30~35質量%含んだ結晶性熱可塑性樹脂組成物を使用し、
一方でNMT型化学処理したA5052、A5083、A6061、又はA2024Al合金の1.0~1.5mm厚の長尺型板材を1枚以上使って射出接合用金型内に各々のインサート場所を決めて配置し、
次いで金型を閉じて前記結晶性熱可塑性樹脂組成物を射出し、その形状が基本的には厚さ2.5mm以上で且つ面積400cm以上の板状樹脂成形物であって、その中の主にその中央部にAl合金製長尺型板が、又、複数枚の場合はそれらが長尺の方向に並列した形で面接合して複合一体化物となっており、その全体形状は図5~9に示す例に沿ったものであり、且つ、
この複合一体化物の使用域は自動車含む移動機械の天井屋根、フェンダー、ドア外面部、等に使う板状部材であること、
を特徴とする金属・樹脂複合一体化物、及び、その使用法。
【0049】
本発明3は、樹脂材として脂肪族ポリアミドを樹脂分中の50~90質量%、半芳香族ポリアミドを同50~10質量%含み、且つ、硝子短繊維を全体の30~35質量%含んだ結晶性熱可塑性樹脂組成物を使用し、
一方で、A5083、A6061、A2024のAl合金等から得た、又は鋳造用Al合金の押し出し加工で得た熱処理済の角棒材を機械加工して得た、約5mm角で長さ100mm以上の角棒状物をNMT型化学処理した物、を使って射出接合用金型内にそのインサート場所を決めて配置し、
次いで金型を閉じて前記の結晶性熱可塑性樹脂組成物を射出し、その形状が基本的には直径15~20mmで長さ50~150mmの丸棒状の樹脂成形物であって、その丸棒の中心部に前記のAl合金製角棒が沈み込んで中に含まれてしまった形でほぼ全面接合して複合一体化物となっており、その全体形状は図10に示す例に沿ったものであり、且つ、
この複合一体化物の使用域は自動車含む移動機械の運転席や客席含む座席部の柱部分に使う部材であること、
を特徴とする金属・樹脂複合一体化物、及び、その使用法。
【0050】
(本発明を実施する上で重要な高結晶性熱可塑性樹脂組成物)
この樹脂種を手に入れたことは、射出接合技術の開発中に得た正に最大の発見であった。即ち、特許文献3(特開2007-182071)と特許文献15(特開2022-071227)によるが、樹脂分として半芳香族ポリアミド成分が10%以上含まれ、且つ、その他はPA6及びPA66の脂肪族ポリアミド成分が主体の脂肪族ポリアミド成分からなっており、その樹脂分100質量部に対しGFを50質量部加えた樹脂組成物が使える高結晶性熱可塑性樹脂組成物になっていることである。
【0051】
その樹脂組成物の代表的な樹脂が「CM3506G50(東レ株式会社(本社:日本国東京都)製)」であり、この樹脂組成物は百種に近い結晶性熱可塑性樹脂組成物と、やはり百種以上の一般入手可能な金属合金のNMT、新NMT、又はSNMTという射出接合技術に基づく化学処理法での処理金属片との3百種以上の組み合わせて得た図1形状の射出接合物のせん断接合強度データから55MPaを超えることもあるという驚く強烈な高値が得られたことで注目したことから始まった。その後、射出接合物の接合力の経時耐久性、高温高湿環境での耐久性、厳しい高温低温間の温度衝撃3千サイクル耐久試験、等に優れていることも確認し、更にはその様な耐久試験に何故に強いかという物理化学的考察でも納得できる故に選んだ樹脂組成物であった。
【0052】
要するに、GFが大量に含まれ且つ射出成形物にした場合に数mm厚の板材にすれば檜板材に近い強度を有する上にその表面は鏡面感あるモノにも艶消し感あるモノに出来る。ただ薄板鋼板や硬質木板材と比較すればその硬度が低い故に剛性が劣ること、ラワン材と比較しても剛性が劣るのが弱点である。故に大面積の板材とした場合、曲げ剛性の弱さが自動車外板部に用いたときにやや問題かと思われた。逆に言えば、小面積の板材として用いた場合は外板材として十分使用に耐える物である。その好物性を生んだ元は大量のGFを含んでいること、そして急冷時の結晶化速度がかなり低く、それ故にその射出成形物は明確なスキン層を有しており、且つ、超微細凹凸面化処理した金属片とは強く射出接合する能力が備わっているがある。この特徴が正に明確にある樹脂「CM3506G50(東レ株式会社製)」を大成プラス株式会社と東レ株式会社の共同研究(特許文献2)で早い時期に見つけ出し、更にNMT処理法の改良やSNMTも得てこの樹脂が有している最高の射出接合力の55~60MPaを得た(特許文献15)のは大きい。
【0053】
ポリアミド系樹脂組成物「CM3506G50」の物理化学物性の面白さと不思議さは、33.3質量%ものCF(硝子短繊維)を含有しながらも綺麗な射出成形品を与えることである。これはCF含まぬスキン層をその射出成形物が持っていることを示しており、そのことは金属材との射出接合用樹脂として最適であることも示している。そして最新の射出接合技術、即ち最新のNMT、新NMT、SNMTで良い射出接合物が得られた場合に55MPaもの強烈な接合力(せん断接合強度)を生む理由は、高いGF含有率の結晶化した熱可塑性樹脂の伸び変形が引張り強度/歪の関係示すグラフ上で言えば原点から始まる直線部から引張り強度55MPa付近で外れて塑性変形域に入り、樹脂部伸びが急上昇して接合面の樹脂側根本付近で同時多発的な壊れが起きて一挙破断に至るからである。
【0054】
要するに、樹脂部の引張り変形に於ける可逆変形域の上限値が55MPa付近であると見られ、この高い接合力を与えている元は含量33.3%のGFにあることが分かる。この高いGF含量が樹脂組成物の低線膨張率約3×10-5-1も与えており、この数値がAl合金の線膨張率2.4×10-5-1に近いことも本発明品の温度変化に対する安定さを支えていることになる。GF含量を更に増やして35%や38%にすればどうなるか見てみたいが、それは本発明が自動車メーカー含めて本格検討に入れば、例えば東レ株式会社等の樹脂メーカーが追加の総合検討をすれば良い。前項で説明した様に、大量のGFを含有した熱可塑性樹脂組成物と金属片がNMT等の射出接合技術で強烈に射出接合した場合、両者の線膨張率差がそんなに離れていなければ熱可塑性樹脂組成物自体の線膨張率は金属片の線膨張率値に近づくのを知っている。
【0055】
要するに、樹脂成分だけのことを考えると元々10×10-5-1近い線膨張率だったモノが線膨張率0.6×10-5-1であったGFが大量に且つ近々に存在しているために3×10-5-1まで下がったわけで元々柔らかく柔軟な樹脂部は硬いGFに大きく影響を受けたわけである。それ故に、熱可塑性樹脂組成物が強く線膨張率2.4×10-5-1のAl合金と完全接合する形で接合したら、元々は自己の線膨張率を強く主張しない樹脂分はGFに次いでAl合金の線膨張率も受け入れて2.4×10-5-1まで下がるはずだという意味である。少なくともAl合金厚板と「CM3506G50」使用の樹脂製厚板が強く最善の射出接合技術で面接着し1枚の一体化複合材の厚板になった場合、温度差が150℃位の温度衝撃サイクル試験では樹脂組成物と金属片が互いに自己主張して2材間で自己破断することはない。
【0056】
(本発明を実施する上で重要なのは車体組み立て方法)
本発明の移動機械用部材を自動車の屋根部、フェンダー、ドア外面部、座席尻下部、座席背中部、等に使用するとして本発明者に分からないのは本発明品を使い自動車に仕上げる具体的な組み立て技術、組立方法である。過去に自動車会社で見学させて頂いた車体に樹脂製フェンダーを取り付けている工程では、前記した様に「夏場になって穴のズレが大きくなり苦心している」と言われたのでビス止めか、引っ掛け止めかと思ったものだが作業そのものは見せて貰えず分からなかった。単純ビス止めでなければ、フェンダー外周部自体がはめ込む形になっておりはめ込んだ後に何処か数点にてビス止めするのかもしれない。接着剤使用もされているのだろうか。何れにしてもその様な最終結合方法を選び出し、試験実施して纏め上げるのが自動車メーカーの専門技術だと思い、それを助ける手法がないかと考えたがこれは現場を知った技術者でないと無理であり、正に歴史ある自動車メーカーの仕事であると思いたった。
【0057】
但し、この「CM3506G50」樹脂、又は、更にGF形状(短繊維長さ)や樹脂組成物全体に対する含量を調整した改良樹脂組成物を使用した場合に於いて、射出接合物の外周部にA5052Al合金の1mmの厚板片でも配置しておけばその部分はAl合金と高強度樹脂の複合板になるので、鋼材枠部とのビス締め込みを固定はしっかりしたモノになると思う。この様な本発明品は図4、5、7に示した。
【0058】
(本発明で具体的に使用した射出接合技術)
射出樹脂に「CM3506G50」又は、脂肪族ポリアミドを樹脂分中の50~90質量%、半芳香族ポリアミドを同50~10質量%含み、且つ、硝子短繊維を全体の30~35質量%含んだ結晶性熱可塑性樹脂組成物という組成条件から選び出した他のポリアミド系樹脂組成物を使用するとして、一方の金属や金属合金はNMT、新NMT、又はSNMT型の化学処理をするのだが、これら化学処理法は当初の手法から現在に至るまで改善されていて実務に於いては年々変化していた。最も明快なのはNMT処理法であって、その処理法の名称が以下の様に変化し、具体的にどのレベルのNMT処理をしたのかが分かるようにしている。即ち、NMT処理→NMT2処理→NMT5処理→NMT7処理→NMT8処理、という順である。よく使用されるJISのAl合金種には20種程度あるが、最初のNMT処理法はその全てにつき同処理法だったのが、NMT2処理法以降はそのAl合金種により各々異なった処理法となった。本発明で用いているAl合金処理法はNMT5かNMT8処理法である。
【0059】
新NMT処理法は非アルミ金属材に対するその各々の金属及び金属合金片に対する処理法であり、当然だが開発当初から各金属や合金に対する具体的処理法は全く異なる。勿論、新しい処理法ほど改善されており社内(大成プラス社)では記録表があるが、その具体的処理法に名称は付けていない。更に言えば、SNMT処理法についても各金属、金属合金種毎に改良はされているがその名称は付けていない。本発明本文中の実施例の中で数種のAl合金についてその化学処理法のその詳細開示をした。
【0060】
(射出接合操作とアニール処理について)
射出接合用の金型を作成し、開いた金型に表面処理済の金属片をインサートし、金型を閉めて樹脂射出をするだけのことで、射出接合操作は射出成形操作と同じであり特別に説明すべき技術等はない。ただ、敢えて言えば、金型温度と保圧時間がある。金型温度は、樹脂メーカーが指示している温度範囲があるが基本的には高め設定とする。具体的には「CM3506G50」使用時には金型温度として140℃付近が好ましい。インサート物が1kg以上ある大きい場合にはそれをインサートして金型を閉めてから直ちに射出操作に移るのではなく、30~90秒待ってインサート物温度が金型温度にほぼ等しくなった頃を見計らって射出操作に入る必要がある。その理由は金型温度の設定と同理由である。そしてその後の保圧時間だが「CM3506G50」は急冷時の結晶化速度が遅い模様なので射出開始から保圧終了までを30秒程度にした方がよいと思われた。
【0061】
勿論、得た射出接合物はそのまま放冷して最終品とするのではなく、数時間以内に150~170℃×1時間の加熱処理(アニール処理)をして樹脂結晶化を十分に進めた上で射出接合工程の全工程を終える。前項では樹脂射出から保圧終了までの時間を30秒近くにして射出接合物を得るべきとしたが、アニール処理をするのはその様にした後の射出接合物である。
【0062】
(せん断接合強度の測定)
ISO19095に射出接合物に於ける金属部と樹脂成形物間のせん断接合強度(tensile lap-shear strength)、引張り接合強度(tensile strength)の測定法の記載があり、これによると図1形状物を引張り試験機で引張り破断してそのせん断接合強度を測定する手法、及び、図2形状物を引張り試験機で引張り破断してその引張り接合強度を測定する手法が記載されている。この図1形状物使うせん断接合強度の測定法は本発明者等が特許文献1~17の全てで使用したものであり、図2形状物使う引張り接合強度の測定法は本発明者等が種々経過の上で2015年頃から使用し始めたものである。何れも従来の接着力や接合力の測定法とされたJISK6849や6850に規定された手法では測定できず、新たに新規定を当社(大成プラス社)が提案し、日本政府機関での検討、そしてISO関係の各国政府機関の検討を経てISO19095として認められた。
【0063】
(温度衝撃サイクル試験に耐える射出接合物)
自動車は世界中で使用される。アラスカでも熱帯砂漠地域でも使用され、温度域は-50℃~+50℃に渡る。更に言えば、エンジン周辺やライト廻り部品では夏冬関係なしに駆動時+150℃まで達することがあるし、室内では寒冷地でも駆動時は+30℃に達しよう。最もきつい温度衝撃サイクルはアラスカ、ロシア、北欧での冬季でありエンジン車のエンジン周辺部品では-50℃/+150℃の温度衝撃3百サイクル/年程度と思われた。それ故、自動車用の耐久試験として10年使用を予期して-50℃/+150℃の温度衝撃3千サイクル試験が使用されていると理解した。本発明品もこの温度衝撃(千~3千)サイクル試験で評価した。
【0064】
この-50℃/+150℃温度衝撃3千サイクル試験を最初に行ったのは本発明品とは違うPPS系樹脂「SGX120(東ソー株式会社(本社:日本国東京都)製)」と各種金属片の射出接合物であり全てせん断接合強度40~42MPa示す物、まあ本発明者の理解で「完全接合物」とする物であった。そしてその図1形状物を作成することから開始した。本発明品は特殊ポリアミド系樹脂組成物「CM3506G50」を使用しており得られる金属との射出接合物のせん断接合強度は55MPa付近になるので、この「SGX120」による射出接合物のせん断接合強度の約40MPaでは低い様に思われる。ただ双方ともに完全接合物であるならその接合力は樹脂組成物中にどれだけ強化繊維のGFが含まれているかで変わるわけでGF含量約20%の「SGX120」とGF含量約33%の「CM3506G50」ではせん断接合強度にこれ位の差が出る。要するに引張り試験で完全接合物がせん断破断する理由は、その強度を越すと2材の何れかで剛性変形(可逆的変形)が出来なくなり可塑性(不可逆変形)に移行するので当然だが可塑的変形した方の材料の接合面付近で小破壊が起きて即その周辺で応力集中が起きて全破断に至る。
【0065】
金属材は樹脂材よりも一般的には硬いから、破断に至るのは樹脂材側であり、それ故に射出接合物の金属側がAl合金でも鋼材でも銅でもTi合金でも完全接合物なら「SGX120」使用で約40MPa、「CM3506G50」使用物で55MPaを示して破断するのである。この予期に全く当たらない射出接合物もあり、それは金属がA1050Al合金の様に合金と言うよりは純金属に近い軟質金属材の場合である。引張り試験機で樹脂材より先に剛性変形から組成変形に変わり得る金属材を使った射出接合物の場合にあたる。金属がA1085、A1080、A1050等のAl合金を使用して「SGX120」や「CM3506G50」と完全接合した射出接合物の場合、せん断接合強度は35~38MPaとなり40MPa以上のせん断接合強度は観察されない。金属側の塑性変形がこの引張り強度で始まるからである。
【0066】
元に戻る。以下は特許文献14に記載したことであるが再度紹介する。先ずは、樹脂にPPS系樹脂組成物「SGX120」を使用した図1形状の射出接合物を30個ほど作成することから始める。次いで、図1形状物の樹脂部を機械研磨して樹脂部の厚さ(当初は3mm厚)の物の接合面上の樹脂部の厚さを研磨して削り取り、厚さ2mmの物、更に削り取り厚さ1mmにした物を作った。要するに図1形状の物を10個残し、樹脂部上だけ厚さ2mmにした物を10個作り、更に樹脂部上だけ厚さ1mmにした物を10個作った。その上で、全30個を錆止め塗料で塗装し100℃で焼き付けた。そして-50℃/+150℃の温度衝撃2千サイクル試験にかけ、更に常温下に1週間放置した上で接合面を破断した。
【0067】
ISO19096記載の方法を使って引張り試験機で破断しせん断接合強度が求められるのは樹脂部厚さ3mmの物だけで、他は、引張り試験機で接合部を壊せなかったのでニッパー等の工具で破断した。その評価方法だが、図1形状物はせん断接合強度が出るから直ぐ分かるが、それ以外は得た金属片の接合面跡を観察して評価した。即ち、射出接合に使用した樹脂「SGX120」はカーボンブラックで黒色化されているので、破断後の金属側接合面跡には着色樹脂紛が付着している。樹脂付着がない部分は温度衝撃試験によって接合力が下がって金属面上の微細凹部から樹脂部が引き抜かれた部分であるからその部分があれば黒色樹脂付着はなく接合力がゼロになった箇所である。そう理解すれば温度衝撃で接合力が失われた箇所、接合力を保った箇所が理解できる。
【0068】
この2千サイクル温度衝撃試験は、金属材が厚さ3~6mm(鋼材や硬質のAl合金では3mm厚以上、軟質のAl合金なら4.5~6mm厚)の図1形状物で行い、温度衝撃を多数与えると2材の線膨張率差がそのまま接合面部を痛めるようになる。接合面部が痛み難いのは、樹脂部厚さを薄くして伸び縮みを柔軟にさせた試料である。実際、樹脂部厚さ3mmの試料(図1形状物そのままの射出接合物)ではせん断接合強度が大小あるもが全てで低下し、両材が厚く丈夫だと温度衝撃の繰り返しで完全接合面が明らかに縮小した。その逆に樹脂部1mm厚の試料ではAl合金では全く無傷、SUS304鋼では接着面跡の1又は1、2隅でごく僅かに剥がれらしき箇所が、Ti合金では接着面跡の2隅で僅かに剥がれが観察された。樹脂部厚さ2mm厚の試料では、厚さ3mmの物と厚さ1mmの物との中間という感じで接合面跡の2隅及び4隅の何処かに剥がれの大小が観察された。結論として、もしも金属材がAl合金であればそれが厚肉であっても樹脂部の厚さを1mm厚程度にすれば温度衝撃に強いこと、そしてその逆説だが樹脂部が3mm厚あるような樹脂部であれば金属片を薄くすることで温度衝撃にその完全接着物は耐え得ることが分かった。
【0069】
ここで再び「CM3506G50」を使った射出接合物に戻るが、A5052Al合金やA5082Al合金、そしてA6061Al合金の厚板材と「CM3506G50」材とで図1形状の射出接合物を作った場合、その射出接合物を-50℃/+150℃の温度衝撃数千サイクル試験に投入し、そして金属・樹脂間の接合力を調べた場合、前項の樹脂が「SGX120」の場合と同じ様に最も広い接合面積を占める樹脂部の厚さが1mmなら全く温度衝撃に悪影響受けず、その厳しい温度衝撃数千サイクル試験に耐える射出接合物の設計方針も特許文献14添付図に描かれたモノと同じで良いのかという意味である。勿論だが使用する樹脂種が違うしその樹脂組成物の物性も異なるのに射出接合物の樹脂部厚さが1mm厚と薄ければ同じ温度衝撃高サイクル試験に耐えるだろうとの無責任な結論出しはすべきでない。
【0070】
しかしながら、樹脂材が「SGX120」から「CM3506G50」に代えて全く同じ実験法で結果を得るのであれば余りにも無駄が多い。そこで結論として、「SGX120」を使った試験実験で、金属材が(線膨張率が2.4×10-5-1の)Al合金であればそれが厚肉であっても樹脂部の厚さを薄く1mm厚程度にすれば温度衝撃に平気であること、そしてその逆説だが樹脂部が3mm厚あるような樹脂部であれば逆に金属片を薄くすることで温度衝撃にその完全接着物は耐え得ることが分かっているのだから、「SGX120」を「CM3506G50」に取り換えて文章を直す箇所は、「その射出接合物に於いて金属材がAl合金であればそれが厚肉であっても樹脂部の厚さを薄く1mm厚にすれば温度衝撃に平気である」の1mm厚の部分であり、この部分が1.2mmなのか1、0mmなのか0.8mmなのかである。これなら図1形状物を沢山作っての厄介な実験を再び実施してから結論を得るのではなく、最初から最終品用の金型を作り、例の箇所が1.2mm,1.0mm,0.8mm厚の何れの最終射出接合品も作れる様に金型作成し、最終品形状3種について数個単位で射出接合し、これら全部を温度衝撃数千サイクル試験にかければ一挙に使用可能品が見つかる。何しろ射出接合技術の良いところは金型を入れ子にしてスペーサーを出し入れすることで容易に形状が変えられる。理屈が分かれば検査や試験も簡略化できる。
【発明の効果】
【0071】
本発明を公開する意図は、広く言えば移動機械、先ずは汎用車の駆動システムやシャーシー部以外の屋根部、フェンダー部、ドア外面部、座席尻下部、座席背中部、等に関し、現在の薄板鋼板使用構造物から樹脂を主構造として金属材をその補助構造材とした考えの金属・樹脂の一体化複合板に転換すること、そして、この鋼材構造から金属・樹脂一体化複合体使う構造への転換があれば車体の10%以上の軽量化に進み「CO2削減」に最も明確に働くことを関係する技術者に伝えることである。幸運にも本発明者と東レ株式会社の研究所の共研で得た特殊ポリアミド系樹脂組成物「CM3506G50」が金属類、特にAl合金との日本国で開発された射出接合技術の最新技術を使うことにより55MPaという最高のせん断接合技術示す射出接合物の製造成功がキー技術となった本発明であり、素材技術に関係する技術者学識者には分かり易い発明になったからである。自動車を軽量化すべく、鋼材からAl合金化に苦戦し、今では汎用車の全Al合金化を諦めてしまった多くの自動車製造技術者関係者に対し、全く新しい樹脂化手法が残っていることに気付くと思われる。これが本発明の最大の効果であると本発明者は思っている。
【0072】
更に言えば、本発明が採用される方向に進めば、樹脂「CM3506G50」に頼った本発明もその樹脂性能の更なる改良研究に進めることが出来る。例えば、GFの含有率だが、射出接合能力を下げなければGF含量33.3%を36%、40%に増やした物も本発明品としての実証試験をして最終製品の諸処の性能が悪化しなければ射出接合力が60MPa以上となる組成物に仕上げたい。更には、明確な難燃性を確保すべく適切な難燃剤を添加して衝突事故による発火時の火災拡大を防ぎたい。実は衝突事故で電池のLIB収納箱が損傷受けて発火事故に至る可能性があり、それ故に世界に大量販売目指す汎用電動車ならLIB収納箱は鋼製の丈夫な物にすべきと多くの技術者は思っているし何れルール化されると思っている。その場合には車重が拡大するのでその車重拡大を消す為にも本発明は寄与できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0073】
図1図1は、ISO19095記載の金属樹脂接合一体化物に於ける金属部と樹 脂部間のせん断接合強度を測定する目的の射出接合物の形状図である。
図2図2は、ISO19095記載の金属樹脂接合一体化物に於ける金属部と樹 脂部間の引張り接合強度を測定する目的の射出接合物の形状図である。
図3図3は、ISO19095記載の金属樹脂接合一体化物に於けるせん断接合 強度を測定する時に使用する補助治具の形状図である。
図4図4(a)~(b)は、金属材として改良型NMT処理したAl合金板材複 数枚を射出接合用金型にインサートし、特定のポリアミド系樹脂組成物を射 出して得た射出接合物の姿を模式化して描いた図である。
図5図5(a)~(b)は、金属材として改良型NMT処理したAl合金板材複 数枚を射出接合用金型にインサートし、特定のポリアミド系樹脂組成物を射 出して得た射出接合物の姿を模式化して描いた図である。
図6図6(a),(b)は、金属材として改良型NMT処理したAl合金板材複 数枚を射出接合用金型にインサートし、特定のポリアミド系樹脂組成物を射 出して得た射出接合物の姿を模式化して描いた図である。
図7図7(a),(b)は、金属材として改良型NMT処理したAl合金板材複 数枚を射出接合用金型にインサートし、特定のポリアミド系樹脂組成物を射 出して得た射出接合物の姿を模式化して描いた図である。
図8図8(a),(b)は、金属材として改良型NMT処理したAl合金板材複 数枚を射出接合用金型にインサートし、特定のポリアミド系樹脂組成物を射 出して得た射出接合物の姿を模式化して描いた図である。
図9図9は、金属材として改良型NMT処理したAl合金板材複数枚を射出接合 用金型にインサートし、特定のポリアミド系樹脂組成物を射出して得た射出 接合物の姿を模式化して描いた図である。
図10図10は、金属材として改良型NMT処理したAl合金からなる棒材を数 本組付けて射出接合用金型にインサートし、特定のポリアミド系樹脂組成 物を射出して得た全体を樹脂部が覆った形の射出接合物の姿を模式化して 描いた図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0074】
以下、本発明の実験例を詳記し、実験例より得られた射出接合物の評価・測定方法を示す。
(a)接合強度の測定
引張り試験機で射出接合物(図1図2)を引張り破断するときの破断力を接合強度(せん断接合強度、引張り接合強度)とした。但し、せん断接合強度の測定では図3に示した補助治具を使用した。使用した引張り試験機は、「AG-500N/1kN(島津製作所)」を使用し、引っ張り速度10mm/分で測定した。この測定法はISO19095に依る。
【0075】
[実験例1]A5052Al合金のNMT8処理
市販のAl合金(A5052)板材から、大きさ18mm×45mm×1.5mmの長方形片を機械加工にて多数得た。槽にアルミニウム用脱脂剤「NA-6」10%を含む水溶液を60℃とし、前記アルミニウム合金片を5分間浸漬して水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に、別の槽に40℃とした10%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに合金片を1分間浸漬して水洗した。次に、別の槽に40℃とした1%濃度の水和塩化アルミニウムと5%濃度の塩酸を含む水溶液を用意し、これに合金片を6分間浸漬して水洗した。次に、別の槽に40℃とした2%濃度の1水素2弗化アンモニウムと10%濃度の硫酸を含む水溶液を用意し、これに合金片を4分間浸漬して水洗した。
【0076】
次に、別の槽に40℃とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに合金片を1分間浸漬し、次に、別の槽に40℃の3%濃度の硝酸水溶液に1.5分間浸漬し水洗した。次に、別の槽に60℃とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意してこれに1分間浸漬し、次に、別の槽に33℃とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液に6分浸漬し水洗した。次に0.5%濃度の過酸化水素水に1分浸漬し、0.2%濃度にしたトリエタノールアミン水溶液を用意し、前記合金片を5分浸漬し、そして水洗はするのだが、純水を使用しての水洗ではなく、25ppm濃度のトリエタノールアミン水溶液で水洗し、得た合金片を、67℃に設定した温風乾燥機に15分間入れて乾燥し、アルミ箔で包んで保管した。
【0077】
[実験例2]A6061Al合金のNMT8処理
18mm×45mm×1.5mmのA6061Al合金片を得た。次いで槽にアルミニウム用脱脂剤「NA-6」10%を含む水溶液を60℃とし、前記アルミニウム合金片を5分間浸漬して水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に、別の槽に40℃とした10%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに合金片を1分間浸漬して水洗した。次に、別の槽に40℃とした1%濃度の水和塩化アルミニウムと5%濃度の塩酸を含む水溶液を用意し、これに合金片を1分間浸漬して水洗した。次に、別の槽に40℃とした2%濃度の1水素2弗化アンモニウムと10%濃度の硫酸を含む水溶液を用意し、これに合金片を1分間浸漬して水洗した。
【0078】
次に、別の槽に40℃とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに合金片を2分間浸漬し、次に、別の槽に40℃の3%濃度の硝酸水溶液に1.5分間浸漬し水洗した。次に、別の槽に60℃とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意してこれに1分間浸漬し、次に、別の槽に33℃とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液に4.5分浸漬し水洗した。次に0.5%濃度の過酸化水素水に1分浸漬し、0.2%濃度にしたトリエタノールアミン水溶液を用意し、前記合金片を5分浸漬し、そして水洗はするのだが、純水を使用しての水洗ではなく、25ppm濃度のトリエタノールアミン水溶液で水洗し、得た合金片を、67℃に設定した温風乾燥機に15分間入れて乾燥し、アルミ箔で包んで保管した。
【0079】
[実験例3]A2024Al合金のNMT8処理
18mm×45mm×1.5mmのA2024Al合金片を得た。次いで槽にアルミニウム用脱脂剤「NA-6」10%を含む水溶液を60℃とし、前記アルミニウム合金片を5分間浸漬して水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に、別の槽に40℃とした10%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに合金片を1分間浸漬して水洗した。次に、別の槽に40℃とした1%濃度の水和塩化アルミニウムと5%濃度の塩酸を含む水溶液を用意し、これに合金片を1分間浸漬して水洗した。次に、別の槽に40℃とした2%濃度の1水素2弗化アンモニウムと10%濃度の硫酸を含む水溶液を用意し、これに合金片を3分間浸漬して水洗した。
【0080】
次に、別の槽に40℃とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに合金片を2分間浸漬し、次に、別の槽に40℃の3%濃度の硝酸水溶液に2.5分間浸漬し水洗した。次に、別の槽に60℃とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意してこれに1分間浸漬し、次に、別の槽に33℃とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液に3分浸漬し水洗した。次に0.5%濃度の過酸化水素水に1分浸漬し、0.2%濃度にしたトリエタノールアミン水溶液を用意し、前記合金片を4分浸漬し、そして水洗はするのだが、純水を使用しての水洗ではなく、25ppm濃度のトリエタノールアミン水溶液で水洗し、得た合金片を、67℃に設定した温風乾燥機に15分間入れて乾燥し、アルミ箔で包んで保管した。
【0081】
[実験例4]ADC12Al合金のNMT5処理
18mm×45mm×1.5mmのADC12Al合金片を関連会社に発注し多数得た。次いで槽にアルミニウム用脱脂剤「NA-6」10%を含む水溶液を60℃とし、前記アルミニウム合金片を5分間浸漬して水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に、別の槽に40℃とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに合金片を4分間浸漬し、次に、別の槽に40℃の3%濃度の硝酸水溶液に2分間浸漬し水洗した。次いで超音波発振端付きの水槽に5分浸漬して洗浄した。次に、別の槽に60℃とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意してこれに1分間浸漬し、次いで超音波発振端付きの水槽に5分浸漬して再度洗浄し、次に、別の槽に33℃とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液に1分浸漬し水洗し、次いで超音波発振端付きの水槽に5分浸漬して再度洗浄した。得た合金片を、67℃に設定した温風乾燥機に15分間入れて乾燥し、アルミ箔で包んで保管した。
【0082】
[実験例5]射出接合物の作成と接合力測定
実験例1~4で得た表面処理済み各種Al合金片を射出成形金型にインサートし、射出接合用ポリアミド系樹脂「CM3506G50」を射出し、図1形状の射出接合品を得た。この時の射出温度は300℃、金型温度は140℃とした。得られた射出接合物は170℃とした熱風乾燥機内に1時間置いてアニールした。得た射出接合物の23℃でのせん断接合強度を表1に記載した。測定法はISO19095に従い図1形状の射出接合物を補助治具図3に収納して23℃下で引張り試験機にかけた結果であり、各3個の平均値である。
【0083】
【表1】
【得られる射出接合物の形状例とその特徴】
【0084】
[形状例1]乗用車天井部用板形状材の形状例
図4に示すものは、全体は厚さ2.5mm以上の樹脂製の曲面付き平板形状であって、鋼材製又は押し出し加工による鋳造型Al合金製の枠材で構成する車室構造枠にこの図4形状の天井板材がきっちりと位置決め出来る様にその外周部にAl合金製の長尺型の板片複数枚が配置された形で射出接合用金型内に配置されそのまま射出接合物とした物である。Al合金小片の肉厚は0.5~0,8mmあり金属枠とのネジ止めはある程度数を増やせば十分丈夫で可能と思われる。その他の接着法や、粘着方+ビス止め法、なども樹脂材単独部よりAl合金との複層材になっている方が良いはずである。
【0085】
[形状例2]乗用車天井部用板形状材の形状例
図5に示すものは、これは形状例1に加えて室内構造をより丈夫にせんとしたもので、天井板に背骨材を2本使ったものである。室内が高い、所謂SUVの量産車では悪路に耐えるべく背骨部強化の為のAl合金部もA6061やA2024Al合金製の1mmの厚板の接断加工品を使えるのではないか。
【0086】
[形状例3]側面フェンダー用の形状例
図6に示すものは、全体は厚さ2.5mm以上の樹脂製の曲面付き平板形状であって、車体先頭部側面の形状維持を保つため、長さ方向に1.5mm厚の丈夫なAl合金長尺型平板が接合してある。乗用車ならここまで必要ないと思うがSUVならこれは好ましいだろう。
【0087】
[形状例4]側面ドア用の形状例
図7に示すものは、全体は厚さ2.5mm以上の樹脂製の曲面付き平板形状であって、ドア構造自体は鋼製枠構造に図7形状のドア板が取り付けられたものを想定している。鋼製枠にドア板が固定され、ドア開け閉め時も形状ズレが生じぬ様に1.5mm厚のAl合金板材がドア板回転根本部に配置されている。ドア取っ手部の周辺も強化している。
【0088】
[形状例5]座席背板の形状例
図8に示すものは、全体は厚さ3mmの樹脂製の僅かな曲面付き平板形状であり、その中央部に強化用の大きな1.5mm厚の長方形Al合金板を配置した。1.5mm厚のAl合金板まで使う必要はないと思うが、200kg体重の大きな人も乗り、全力で緊急ブレーキを踏むこともありこの設定はそれなりの実験をして決めるべきだろう。
【0089】
[形状例6]座席尻板の形状例
図9に示すものは、全体は厚さ3mmの樹脂製の平板形状であり、その平板の上部に1mm厚の長方形Al合金板が重なった構造である。
【0090】
[形状例5]
図10に示すものは、その構造形状はAl合金の角棒3本が組立された構造で芯にして、それを樹脂が全体カバーした基本的にはAl合金が隠された形状物である。即ち、A5083、A6061、A2024の展伸用Al合金から得たか、又は、鋳造用Al合金押し出し加工品である角棒材を縦に切断加工して得て、約5mm角で長さ100mm以上の角棒状物を得た上でNMT型化学処理した物を使い、その3本を組んで射出接合用金型内にインサートし、そのまま樹脂を射出接合した物である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10