(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007828
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】中空構造体、軸受部材及び中空構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B28B 1/30 20060101AFI20240112BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20240112BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240112BHJP
C04B 35/587 20060101ALI20240112BHJP
C04B 35/569 20060101ALI20240112BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240112BHJP
F16C 19/16 20060101ALI20240112BHJP
F16C 33/32 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
B28B1/30
B33Y80/00
B33Y10/00
C04B35/587
C04B35/569
F16C19/06
F16C19/16
F16C33/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109177
(22)【出願日】2022-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】300068834
【氏名又は名称】新東ブイセラックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】浅野 憲啓
(72)【発明者】
【氏名】藤原 徳仁
【テーマコード(参考)】
3J701
4G052
【Fターム(参考)】
3J701AA03
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA03
3J701BA10
3J701EA43
3J701EA44
3J701FA51
3J701GA24
3J701GA28
4G052DA02
4G052DB12
4G052DC06
(57)【要約】
【課題】強度を確保しながら軽量化を図ることができる中空構造体、軸受部材及び中空構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】中空構造体(1)は、セラミックスから形成されている。中空構造体(1)は、本体部(10)と、補強部(20)と、を備えている。本体部(10)は、球状の外周面(11)を有し、内側に中空が形成されている。補強部(20)は、本体部(10)の内周面(12)に本体部(10)と一体に成形され、本体部(10)を補強する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスから形成された中空構造体であって、
球状の外周面を有し、内側に中空が形成された本体部と、
前記本体部の内周面に当該本体部と一体に成形され、前記本体部を補強する補強部と、
を備えていることを特徴とする中空構造体。
【請求項2】
前記補強部は、ラティス構造、ハニカム構造、及びリブ構造のいずれかの構造を有していることを特徴とする請求項1に記載の中空構造体。
【請求項3】
前記本体部の重心と、前記補強部の重心とが略一致していることを特徴とする請求項1に記載の中空構造体。
【請求項4】
前記補強部は、前記本体部の重心を通る少なくとも1つの切断面に対して、面対称の構造となっていることを特徴とする請求項1に記載の中空構造体。
【請求項5】
前記セラミックスは、窒化珪素又は炭化珪素を含むことを特徴とする請求項1に記載の中空構造体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の中空構造体を備えた軸受部材であって、
前記中空構造体は、前記軸受部材の転動体であることを特徴とする軸受部材。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載の中空構造体の製造方法であって、
3Dプリンタによって、前記本体部及び前記補強部を一体に成形することにより、前記中空構造体を製造することを特徴とする中空構造体の製造方法。
【請求項8】
前記3Dプリンタは、熱溶解積層法を用いたものであることを特徴とする請求項7に記載の中空構造体の製造方法。
【請求項9】
前記3Dプリンタを用いて、樹脂にセラミックスを混ぜた材料を積層することにより、前記本体部及び前記補強部を一体に成形する成形工程と、
前記成形工程にて成形された前記本体部及び前記補強部から、前記樹脂を取り除く脱脂工程と、
前記脱脂工程の後、前記本体部及び前記補強部を焼成する焼成工程と、
を含むことを特徴とする請求項8に記載の中空構造体の製造方法。
【請求項10】
セラミックスから形成された中空構造体の製造方法であって、
前記中空構造体は、内側に中空が形成された本体部と、前記本体部の内周面に当該本体部と一体に成形され、前記本体部を補強する補強部と、を有し、
3Dプリンタによって、前記本体部及び前記補強部を一体に成形することにより、前記中空構造体を製造することを特徴とする中空構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミックスから形成された中空構造体、軸受部材及び中空構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内部に中空部を有し、セラミックスから形成されたベアリングボールが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のベアリングボールでは、内部を中空とすることで、軽量化が図られている。しかしながら、内部が中空となっていることから、ベアリングボールの強度が弱いという課題がある。
【0005】
本開示の一態様は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、強度を確保しながら軽量化を図ることができる中空構造体、軸受部材及び中空構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するためになされた本開示の一態様に係る中空構造体は、セラミックスから形成された中空構造体であって、球状の外周面を有し、内側に中空が形成された本体部と、前記本体部の内周面に当該本体部と一体に成形され、前記本体部を補強する補強部と、を備えている。
【0007】
上記した構成によれば、本体部の内側が中空となっていると共に、本体部の内周面に一体に成形された補強部によって本体部が補強されているので、中空構造体の強度を確保しながら軽量化を図ることができる。
【0008】
本開示の一態様に係る中空構造体の製造方法は、セラミックスから形成された中空構造体の製造方法である。前記中空構造体は、内側に中空が形成された本体部と、前記本体部の内周面に当該本体部と一体に成形され、前記本体部を補強する補強部と、を有している。前記中空構造体の製造方法は、3Dプリンタによって、前記本体部及び前記補強部を一体に成形することにより、前記中空構造体を製造する。
【0009】
上記した中空構造体の製造方法によれば、3Dプリンタによって、中空構造体の本体部及び補強部を容易に一体成形することができる。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様の中空構造体によれば、強度を確保しながら軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の実施形態1に係る中空構造体の外観図である。
【
図2】
図1のII-II切断面線から見た中空構造体の内部構造を示す断面図である。
【
図3】実施形態1に係る中空構造体を製造する3Dプリンタの構成の一例を示す図である。
【
図4】実施形態1に係る3Dプリンタによる中空構造体の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【
図5】実施形態2に係る中空構造体の内部構造を示す
図2相当図である。
【
図6】実施形態3に係る中空構造体の内部構造を示す
図2相当図である。
【
図7】実施形態1に係る中空構造体を軸受部材に適用した例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔実施形態1〕
以下、本開示の実施形態1について、
図1~
図4を参照して説明する。
【0013】
[中空構造体の構成]
図1は、実施形態1に係る中空構造体1の外観図である。
図2は、
図1のII-II切断面線から見た中空構造体1の内部構造を示す断面図である。
図1及び
図2に示すように、中空構造体1は、球状の中空部材であり、本体部10と、補強部20とを備えている。
【0014】
図1に示すように、本体部10は、球状の外周面11を有し、内側に中空Hが形成されている。
図2に示すように、本体部10の内周面12には、補強部20が本体部10と一体に成形されている。補強部20は、本体部10を補強するための部材である。
【0015】
本体部10及び補強部20は、セラミックスから形成されている。当該セラミックスは、例えば、窒化珪素を主成分としている。窒化珪素を主成分とするセラミックスは、高い耐圧性及び高い強度を有する。なお、本体部10及び補強部20を形成するセラミックスは、窒化珪素の代わりに、炭化珪素を主成分としてもよい。但し、当該セラミックスは、窒化珪素及び炭化珪素を必ずしも含む必要はない。
【0016】
図2に示すように、補強部20は、ラティス構造を有している。ラティス構造は、複数の格子状のセル21が3次元的且つ周期的に積み上げられた構造である。補強部20は、複数のセル21によって本体部10の内周面12を支持することで、本体部10を補強する。
【0017】
セル21は、2本の支柱211及び節212から構成される。2本の支柱211と節212とは、
図2の紙面手前から見て十字状に連結されている。セル21の数が多くなれば多くなるほど、補強部20の補強強度は高くなる。
【0018】
また、セル21の支柱211の太さや長さ等を調節することにより、補強部20全体の重量を調整することが可能である。補強部20全体の重量を調整することにより、中空構造体1全体の重量を調整することができる。セル21の形状や数は、中空構造体1の用途に応じて、適宜変更可能である。
【0019】
補強部20の重心G2の位置は、本体部10の重心G1の位置と略一致している。ここで、略一致とは、本体部10の重心G1と、補強部20の重心G2との位置のずれが、中空構造体1の回転性能に悪影響を与えない程度の許容範囲内であることをいう。
【0020】
また、補強部20は、中空構造体1の回転性能を良くするために、本体部10の重心G1を通る切断面C1に対して面対称の構造とすることが好ましい。なお、補強部20は、重心Gを通る別の切断面、例えば切断面C1に垂直に交差する切断面に対して、面対称の構造であってもよく、重心Gを通る少なくとも1つの切断面に対して面対称の構造であればよい。また、補強部20は、切断面に対して面対称の構造でなくてもよい。
【0021】
[3Dプリンタの構成]
図3は、中空構造体1を造形する3Dプリンタ100の構成の一例を示す図である。3Dプリンタ100は、3次元形状の中空構造体1を造形する3次元積層造形装置である。3Dプリンタ100は、熱溶解積層(Fused Deposition Modeling:FDM(商標登録))法を用いて、中空構造体1を造形する。
【0022】
3Dプリンタ100は、プラットフォーム101と、駆動軸102と、ノズル103と、吐出ヘッド104と、ガイド部材105と、材料Mを供給するための材料供給部106と、供給管107とを備えている。
【0023】
プラットフォーム101は、材料Mにより形成される構造物を載置するための台である。駆動軸102は、図示しない制御装置により制御されることにより、プラットフォーム101をZ軸方向に移動させる。ノズル103は、吐出ヘッド104のZ軸の負方向側に配置され、溶解した材料Mをプラットフォーム101へ向けて吐出する。
【0024】
吐出ヘッド104は、制御装置により制御されることにより、ガイド部材105に沿って、ノズル103をX軸方向に移動させる。ガイド部材105は、制御装置により制御されることにより、Y軸方向に延びた一対のレール(図示省略)に沿って、Y軸方向に移動可能に構成されている。なお、プラットフォーム101を、X軸方向及びY軸方向に移動可能に構成してもよい。
【0025】
材料供給部106は、供給管107を介して、吐出ヘッド104へ細長い線状の材料Mを供給する。制御装置は、吐出ヘッド104に設けられたノズル103から、フィラメント状の材料Mを吐出させながら、ノズル103のX軸方向及びY軸方向の位置を制御することにより、プラットフォーム101上に所望の形状の構造物を成形する。
【0026】
[中空構造体の製造方法]
次に、中空構造体1の製造方法について、
図4のフローチャートを参照して説明する。
図4は、3Dプリンタ100による中空構造体1の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図4に示すように、中空構造体1の製造方法では、準備工程(S1)と、成形工程(S2)と、脱脂工程(S3)と、焼成工程(S4)と、加工工程(S5)とが順に行われる。以下、各工程について詳しく説明する。
【0027】
<準備工程>
準備工程S1では、まず、中空構造体1の製造者は、図示しないPC等の情報処理装置により、3次元CAD(Computer Aided Design)等を用いることで、中空構造体1を成形するために必要な3Dデータを作成する。続いて、製造者は、情報処理装置により専用のソフトウェアを用いて、作成した3Dデータを3Dプリンタ100用のファイル形式であるSTL(Stereo Lithography)形式のSTLデータに変換する。
【0028】
そして、製造者は、情報処理装置により専用のソフトウェアを用いることで、STLデータをスライスデータに変換する。スライスデータは、3Dデータを水平方向に複数の層にスライスした断面データである。情報処理装置は、変換したスライスデータ群を3Dプリンタ100に出力する。
【0029】
なお、3Dデータは、焼成工程S4における材料Mの収縮量や変位量等を考慮して設計されているものとする。また、
図1及び
図2に示される中空構造体1の外径D1、本体部10の肉厚t1、及び補強部20のセル21の数や外径d1等は、中空構造体1の用途や使用条件等に応じて、適宜設定可能であるとする。
【0030】
次に、製造者は、中空構造体1の製造に用いられる材料Mを準備する。材料Mは、樹脂に所定の割合でセラミックスを混ぜたものである。樹脂は、例えば熱可塑性樹脂から構成される。熱可塑性樹脂としては、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS:Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂、ポリ乳酸(PLA:Polylactic Acid)樹脂等を用いることができる。なお、材料Mに、ワックスや可塑剤等を添加してもよい。
【0031】
<成形工程>
次に、成形工程S2において、
図3に示すように、FDM法を用いた3Dプリンタ100では、所定温度で加熱されて溶解したフィラメント状の材料Mを、ノズル103からプラットフォーム101に吐出する。3Dプリンタ100は、材料Mをノズル103から吐出しつつ、入力されたスライスデータに基づいてノズル103のX軸方向及びY軸方向の位置を制御することにより、中空構造体1の1層分の成形を行う。
【0032】
ここで、1層分の成形とは、中空構造体1の3Dデータを、水平方向に複数層にスライスした1つのスライスデータに相当する部分の成形をいう。スライスデータには、対応する層を構成する本体部10及び/又は補強部20の断面データが含まれている。
【0033】
そして、3Dプリンタ100は、1層分の成形が完了すると、駆動軸102を制御することにより、プラットフォーム101を矢印Aに示されるZ軸の負方向に1層分移動させて、次の層の成形を行う。
【0034】
このように、3Dプリンタ100は、1層分ずつ各層を構成する本体部10及び/又は補強部20の成形を繰り返し、各層を積層していく。そうすることにより、3Dプリンタ100は、本体部10と補強部20とが一体に成形された中空構造体1を完成させる。
【0035】
なお、3Dプリンタ100による球状の中空構造体1の成形時においては、
図3に示すように、支持部材200によって中空構造体1が支持された状態で、ノズル103から材料Mを吐出することが好ましい。この場合、3Dプリンタ100により中空構造体1の成形を行う前に、ノズル103からサポート材Sを吐出することにより、プラットフォーム101の所定位置に、支持部材200を予め形成しておくものとする。
【0036】
サポート材Sとしては、材料Mと同一の材料を用いることが好ましいが、材料Mと異なる材料を用いてもよい。例えば、サポート材Sとして、ポリビニルアルコール(PVA:Polyvinyl Alcohol)等の水溶性の材料を使用することで、中空構造体1に力を与えることなく、支持部材200を除去することが可能である。また、支持部材200を、後で剥し易い形状に成形してもよい。例えば、支持部材200における材料Mとの当接面に、複数の凸部又は凹部を設けるようにしてもよい。
【0037】
なお、3Dプリンタ100によって、中空構造体1及び支持部材200の成形を同時に行ってもよい。この場合、3Dプリンタ100に、材料Mを吐出するノズル103とは別に、サポート材Sを吐出するノズルを設けることが好ましい。また、サポート材Sを吐出するノズルにより支持部材200の成形を行った後、ノズル103により中空構造体1の成形を行ってもよい。
【0038】
<脱脂工程>
図4に戻り、成形工程S2の後、脱脂工程S3において、中空構造体1をプラットフォーム101から取り外して、図示しない脱脂炉により500~600℃程度で中空構造体1を加熱することで、材料Mに含まれる樹脂を蒸散させる。これにより、中空構造体1を形成する材料Mから樹脂だけを取り除くことができる。
【0039】
なお、材料Mから樹脂が取り除かれると、材料Mの中には、取り除かれた樹脂が存在した箇所に空隙が生じる。この空隙を、以下の焼成工程S4にて除去する。
【0040】
<焼成工程>
焼成工程S4では、例えば窒化珪素を主成分とするセラミックスから形成された中空構造体1を製造する場合、図示しない焼成炉で、1700~1800℃程度で中空構造体1を焼成することによって、上述した本体部10及び補強部20を構成する材料Mの中にある空隙を除去する。焼成工程S4の後、本体部10及び補強部20を構成する材料Mの中から空隙がなくなることにより、中空構造体1は収縮して硬度が高くなる。
【0041】
<加工工程>
焼成工程S4の後、加工工程S5において、切削加工等によって中空構造体1から支持部材200を除去する。そして、支持部材200を除去した中空構造体1の表面を研磨する等の後処理を施す。以上により、中空構造体1が完成する。
【0042】
以上説明した中空構造体1によれば、内部に中空Hが形成された本体部10の内周面に、補強部20が一体に成形されているので、強度を確保しながら軽量化を図ることができる。特に、補強部20は、格子形状の複数のセル21が規則的に配列されたラティス構造を有しているので、中空構造体1の本体部10の強度を確実に向上させることができる。
【0043】
また、中空構造体1は、セラミックスから形成されているので、中空構造体1を錆び難くできると共に、中空構造体1の耐熱性及び耐久性を向上させることができる。
【0044】
また、本体部10の重心G1の位置と、補強部20の重心G2の位置とが略一致しているので、中空構造体1が偏心することがない。これにより、中空構造体1の回転性能を高めることができる。
【0045】
また、補強部20は、本体部10の重心G1を通る切断面C1に対して面対称の構造となっているので、本体部10の強度が周方向の位置に応じてばらつくことを抑えることができる。
【0046】
また、補強部20は、セル21の数が多い程、当該補強部20による本体部10の補強強度が高くなるように構成されているので、セル21の数を調節することにより、中空構造体1の強度を容易に変更することができる。例えば、セル21のサイズを小さくし、セル21の数を多くすることによって、補強部20による本体部10の補強強度を向上させることができる。
【0047】
また、中空構造体1を形成するセラミックスは、窒化珪素を主成分とするので、中空構造体1の耐摩耗性を高め、剛性を高くすることができる。更に、窒化珪素は、非磁性の絶縁体であるため、電食防止に高い効果を発揮できる。これにより、中空構造体1の耐久性及び耐荷重性を向上できる。また、窒化珪素の密度は、鋼の密度の半分以下であるので、中空構造体1の高速回転性能を向上させることが可能である。
【0048】
実施形態1の中空構造体1の製造方法によれば、熱溶解積層(FDM)法を用いた3Dプリンタ100によって、成形工程(S2)にて、本体部10及び補強部20を一体成形することで、中空構造体1を容易に造形することができる。
【0049】
特に、プレス加工等の従来の製造方法では、ラティス構造等の複雑な形状を有するセラミック製品の造形は困難であったが、FDM法を用いた3Dプリンタ100を用いることによって、ラティス構造を有する補強部20を本体部10と一体成形して、中空構造体1を容易に造形することを可能とした。
【0050】
また、3Dプリンタ100による中空構造体1の成形時においては、本体部10と同時に補強部20の成形が進められるので、成形途中の本体部10の内周面12を、成形途中の補強部20により支持することができる。このため、成形途中の本体部10の形状を、変形したり崩れたりすることなく、所望の形状に維持することができる。
【0051】
また、FDM法を用いた3Dプリンタ100を用いた中空構造体1の製造方法によれば、成形工程(S2)の後、脱脂工程(S3)にて、所定の温度で中空構造体1を加熱することにより、樹脂にセラミックスを混ぜた材料Mにより成形された本体部10及び補強部20から、樹脂だけを容易に取り除くことができる。
【0052】
一方、光造形法を用いた3Dプリンタでは、球状の中空構造体1を成形した後、中空構造体1の内部から造形材料を取り除くことが難しく、造形材料を取り除くには中空構造体1に孔を開ける必要がある。これに対して、FDM法を用いた3Dプリンタ100では、中空構造体1に孔を開けることなく、脱脂を行うことが可能である。
【0053】
更に、焼成工程(S4)にて、本体部10及び補強部20を焼成することで、中空構造体1を収縮させることによって、脱脂工程S3にて生じた材料Mの中の空隙を、材料Mの中から良好に除去することができる。これにより、高密度のセラミックスからなる品質の高い中空構造体1を製造することができる。
【0054】
〔実施形態2〕
次に、本開示の実施形態2の中空構造体1Aについて、
図5を参照して説明する。
図5は、実施形態2に係る中空構造体1Aの内部構造を示す
図2相当図である。なお、説明の便宜上、上記実施形態1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0055】
図5に示すように、実施形態2の中空構造体1Aは、本体部10Aと、補強部20Aとを備えている。補強部20Aは、ハニカム構造を有している。このハニカム構造は、複数の六角柱状のセル21Aが規則的に配列された構造となっている。
【0056】
補強部20Aの重心G2Aの位置は、本体部10Aの重心G1Aの位置と略一致している。また、補強部20Aは、本体部10Aの重心G1Aを通る切断面C2に対して、面対称の構造となっていることが好ましい。
【0057】
実施形態2においても、実施形態1の中空構造体1の製造方法と同様に、FDM法を用いた3Dプリンタ100を用いて、中空構造体1Aを造形する。なお、中空構造体1Aの外径D2、本体部10Aの肉厚t2、及び補強部20Aのセル21Aの数や外径d2等は、中空構造体1Aの用途に応じて適宜変更可能である。
【0058】
以上説明した中空構造体1Aによっても、実施形態1の中空構造体1と同様の効果を得ることができる。すなわち、補強部20Aによって、中空構造体1Aの本体部10Aの強度を向上させることができると共に、補強部20Aがハニカム構造となっているので、中空構造体1Aの軽量化を図ることができる。
【0059】
特に、実施形態2の中空構造体1Aでは、補強部20Aは、複数の六角柱状のセル21Aが規則的に配列されたハニカム構造からなるので、各セル21Aにおける隙間の体積が多くなり、補強部20A全体の重量を軽量にできる。このため、実施形態1の中空構造体1よりも、中空構造体1A全体の重量を軽量化できる。
【0060】
また、補強部20Aは、複数の六角柱状のセル21Aが敷き詰められたハニカム構造であることから、外部からの衝撃を分散させ易くできるため、中空構造体1Aの衝撃吸収性を向上させることができる。
【0061】
〔実施形態3〕
次に、本開示の実施形態3の中空構造体1Bについて、
図6を参照して説明する。
図6は、実施形態3に係る中空構造体1Bの内部構造を示す
図2相当図である。なお、説明の便宜上、上記実施形態1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0062】
図6に示すように、実施形態3の中空構造体1Bは、本体部10Bと、補強部20Bとを備えている。補強部20Bは、複数の三角柱状のセル21Bが規則的に配列されたハニカム構造を有している。
【0063】
補強部20Bの重心G2Bの位置は、本体部10Bの重心G1Bの位置と略一致している。また、補強部20Bは、本体部10Bの重心G1Bを通る切断面C3に対して面対称の構造となっていることが好ましい。
【0064】
実施形態3においても、実施形態1の中空構造体1の製造方法と同様に、FDM法を用いた3Dプリンタ100を用いて、中空構造体1Bを造形する。なお、中空構造体1Bの外径D3、本体部10Bの肉厚t3、及び補強部20Bのセル21Bの数や外径d3等は、中空構造体1Bの用途に応じて適宜変更可能である。
【0065】
以上説明した中空構造体1Bによっても、実施形態1の中空構造体1と同様の効果を得ることができる。すなわち、補強部20Bによって、中空構造体1Bの本体部10Bの強度を向上できると共に、補強部20Bがハニカム構造となっているので、中空構造体1Bの軽量化を図ることができる。
【0066】
特に、実施形態3の中空構造体1Bでは、補強部20Bは、複数の三角柱状のセル21Bが規則的に配列されたハニカム構造からなるので、実施形態1の補強部20のように複雑なラティス構造を形成する必要がない。このため、実施形態3では、実施形態1の中空構造体1のように、3Dプリンタ100によりノズル103の位置を複雑に制御しなくてもよく、中空構造体1Bを容易に成形できる。
【0067】
また、実施形態3の補強部20Bは、複数の三角柱状のセル21Bが敷き詰められたハニカム構造であることから、複数の六角柱状のセル21Aが敷き詰められたハニカム構造からなる実施形態2の補強部20Aよりも、中空構造体1Bの強度を向上させることが可能である。
【0068】
〔その他の実施形態〕
上記した実施形態1~3の補強部20、20A、20Bは、ラティス構造又はハニカム構造を有しているものとしたが、これに限定されない。例えば、補強部は、リブ構造を有しているものであってもよい。この場合、中空構造体1の本体部10の内周面12に、複数のリブを突設することで、本体部10を補強する構成とすればよい。
【0069】
また、実施形態2,3の補強部20A、20Bは、六角柱状のセル21又は三角柱状のセル21Bを複数配列したハニカム構造であるとしたが、これに限定されない。例えば、補強部は、四角柱状や八角柱状のセルが複数配列されたハニカム構造を有していてもよい。
【0070】
また、上記した実施形態1~3では、3Dプリンタ100は、制御装置により駆動軸102、吐出ヘッド104及びガイド部材105を制御することにより、ノズル103の位置を移動させるものとしたが、これに限定されない。例えば、多関節ロボットからなるマニピュレータによって、ノズル103の位置を移動させるようにしてもよい。
【0071】
また、上記した実施形態1~3では、3Dプリンタ100によって、球状の中空構造体1、1A、1Bを造形するものとしたが、これに限らず、例えば、セラミックスから形成された矩形箱状の中空構造体を造形してもよい。
【0072】
〔中空構造体の適用例〕
次に、上記した中空構造体1の適用例について、
図7を参照して説明する。
図7は、実施形態1に係る中空構造体1を軸受部材に適用した例を示す断面図である。
図7に示すように、中空構造体1は、軸受部材であるベアリング50の転動体、即ちベアリングボールとして用いることができる。ベアリング50は、例えば、風力発電機用の軸受部材に適用される。
【0073】
ベアリング50は、回転する軸60を支持するための部材である。ベアリング50は、深溝玉軸受、及びアンギュラ玉軸受等の転がり軸受である。ベアリング50は、外輪51と、内輪52と、球である中空構造体1と、図示しない保持器とを備えて構成されている。
【0074】
複数の中空構造体1は、外輪51の軌道面511と、内輪52の軌道面521との間に配置されている。保持器は、複数の中空構造体1を、周方向に間隔をあけて保持している。
【0075】
以上説明した中空構造体1を備えたベアリング50によれば、中空構造体1の強度を確保しながら軽量化を図ることができるので、ベアリングボールである中空構造体1の耐久性を向上させながら、中空構造体1の高速回転性能を向上させることができる。
【0076】
また、中空構造体1の本体部10の重心G1の位置と、補強部20の重心G2の位置とが略一致しているので、中空構造体1が偏心することがない。これにより、ベアリングボールの回転性能をより高めることができる。
【0077】
なお、上記した適用例では、実施形態1の中空構造体1をベアリング50の転動体に適用した場合について説明したが、実施形態2の中空構造体1A、及び、実施形態3の中空構造体1Bをベアリング50の転動体に適用してもよい。
【0078】
また、上記した適用例では、中空構造体1を備えたベアリング50を、風力発電機用の軸受部材に適用するものとしたが、これに限定されない。他にも、例えば、航空機部品や電気自動車部品に用いられる部材に、中空構造体1を適用してもよい。
【0079】
本開示は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0080】
1、1A、1B 中空構造体
10、10A、10B 本体部
20、20A、20B 補強部
11 外周面
12 内周面
21、21A、21B セル
50 ベアリング
100 3Dプリンタ
G1、G1A、G1B、G2、G2A、G2B 重心
H 中空
S2 成形工程
S3 脱脂工程
S4 焼成工程