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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078292
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】燃料電池用水素循環ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 29/12 20060101AFI20240603BHJP
   F04C 18/18 20060101ALI20240603BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20240603BHJP
【FI】
F04C29/12 D
F04C18/18 A
H01M8/04 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190743
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】吉田 将也
(72)【発明者】
【氏名】正木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】福山 了介
(72)【発明者】
【氏名】城丸 勝俊
(72)【発明者】
【氏名】岩田 滉平
【テーマコード(参考)】
3H129
5H127
【Fターム(参考)】
3H129AA06
3H129AA18
3H129AB05
3H129BB37
3H129BB44
3H129CC17
3H129CC19
3H129CC22
5H127BA02
5H127BA28
5H127BA57
5H127EE18
(57)【要約】
【課題】ロータ室から軸受室に流れた水蒸気から生成される凝縮水に起因する軸受やシール部材の劣化を抑制できる燃料電池用水素循環ポンプを提供する。
【解決手段】ハウジング10は、回転軸21に取り付けられたロータ23を収容するロータ室11と、軸受51Aを収容する軸受室41Aとを有する。ロータ室11には水素ガスを吸入する吸入路33が接続され、ロータ室11と軸受51Aとの間には、回転軸21が貫通するシール部材61Aが設けられる。ハウジング10には、吸入路33又は吸入路33と連通状態にあるロータ室11の一部と軸受室41Aとを連通する連通路35が設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングにそれぞれ挿入され、軸受を介して回転可能に支持された一対の回転軸と、
前記回転軸にそれぞれ取り付けられ、互いに逆方向へ回転される一対の二葉まゆ形のロータと、を有し、
前記ハウジングには、一対の前記ロータを収容するロータ室と前記軸受を収容する軸受室とが設けられ、
前記ロータ室は、
水素ガスを吸入する吸入路と水素ガスを吐出する吐出路とが接続され、
前記回転軸の軸方向において、前記ロータの端面と所定の軸方向クリアランスを介して対向する一対のロータ室端面と、
前記回転軸の径方向において、一対の円弧面からなり、前記ロータの周面と所定の径方向クリアランスを介して対向するロータ室周面と、を有し、
前記ロータ室と前記軸受との間には、前記回転軸が貫通するシール部材が設けられ、
一対の前記ロータが回転することで、前記吸入路から吸入された水素ガスが、前記ロータ室周面に案内されて、前記吐出路へ吐出される燃料電池用水素循環ルーツポンプであって、
前記ハウジングには、前記軸受室と前記吸入路又は前記吸入路と連通状態にある前記ロータ室の一部とを連通する連通路が設けられていることを特徴とする燃料電池用水素循環ポンプ。
【請求項2】
前記連通路は、前記軸受室と前記吸入路とを連通し、前記吸入路は、前記軸受室よりも重力方向において下方に設けられている請求項1記載の燃料電池用水素循環ポンプ。
【請求項3】
前記ハウジングは、
一方の前記ロータ室端面にかけて前記ハウジングを貫通する前記吸入路と、
一方の前記ロータ室端面にかけて前記ハウジングを貫通し、一対の前記回転軸の一端部がそれぞれ挿入される一対の回転軸挿入孔と、
前記回転軸挿入孔を覆い、前記シール部材とともに前記軸受室を区画するカバー部材と、を有し、
前記連通路は、前記軸受室から前記吸入路の軸心方向に対して傾斜して延びている請求項2記載の燃料電池用水素循環ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池用水素循環ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の燃料電池用水素循環ポンプが開示されている。この燃料電池用水素循環ポンプは、ハウジングと、一対の回転軸と、一対の二葉まゆ形のロータとを備えている。一対の回転軸は、ハウジングにそれぞれ挿入され、軸受を介して回転可能に支持されている。一対のロータは、回転軸にそれぞれ取り付けられ、互いに逆方向へ回転される。
【0003】
ハウジングには、一対のロータを収容するロータ室と、軸受を収容する軸受室とが設けられている。ロータ室には、水素ガスを吸入する吸入路と、水素ガスを吐出する吐出路とが接続されている。ロータ室は、回転軸の軸方向において、ロータの端面と所定の軸方向クリアランスを介して対向する一対のロータ室端面と、回転軸の径方向において、一対の円弧面からなり、ロータの周面と所定の径方向クリアランスを介して対向するロータ室周面とを有している。ロータ室と軸受との間には、回転軸が貫通するシール部材が設けられている。
【0004】
この燃料電池用水素循環ポンプでは、一対のロータが回転することで、吸入路から吸入された水素ガスが、ロータ室周面の円弧面に案内されて、吐出路へ吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-167921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、燃料電池用水素循環ポンプによって循環される水素ガス中には、燃料電池における発電反応により生成した液水が含まれる。このため、燃料電池用水素循環ポンプにおいては、水素ガスと共に液水がロータ室に浸入する。ロータ室内はポンプ作動により昇温するので、加熱された液水から水蒸気が生成される。このとき、シール部材がオイルシールであれば、水蒸気の通過を比較的容易に阻止し得る。
【0007】
しかし、シール部材がドライ条件下で用いられる簡素な構造のものである場合、液水の通過は阻止し得るが、水蒸気の通過を阻止するのは極めて困難である。このため、シール部材を水蒸気が不可避的に通過してしまうことがある。その結果、ポンプ作動時にロータ室の吐出部の圧力が高くなると、軸受室との圧力差により、吐出部から軸受室へ水蒸気が流れることがある。
【0008】
軸受室内に水蒸気が存在すると、温度低下により凝縮水が生成されるので、軸受内のグリスの流出により軸受が劣化するおそれがある。軸受が劣化すれば、回転軸にフレッチングが発生し、フレッチングにより生じた異物がロータ室や燃料電池スタックに侵入して悪影響を及ぼすおそれもある。また、軸受室からシール部材に流れた凝縮水により、シール部材が膨潤して劣化するおそれもある。
【0009】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、ロータ室から軸受室に流れた水蒸気から生成される凝縮水に起因する軸受やシール部材の劣化を抑制できる燃料電池用水素循環ポンプを提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の燃料電池用水素循環ポンプは、ハウジングと、
前記ハウジングにそれぞれ挿入され、軸受を介して回転可能に支持された一対の回転軸と、
前記回転軸にそれぞれ取り付けられ、互いに逆方向へ回転される一対の二葉まゆ形のロータと、を有し、
前記ハウジングには、一対の前記ロータを収容するロータ室と前記軸受を収容する軸受室とが設けられ、
前記ロータ室は、
水素ガスを吸入する吸入路と水素ガスを吐出する吐出路とが接続され、
前記回転軸の軸方向において、前記ロータの端面と所定の軸方向クリアランスを介して対向する一対のロータ室端面と、
前記回転軸の径方向において、一対の円弧面からなり、前記ロータの周面と所定の径方向クリアランスを介して対向するロータ室周面と、を有し、
前記ロータ室と前記軸受との間には、前記回転軸が貫通するシール部材が設けられ、
一対の前記ロータが回転することで、前記吸入路から吸入された水素ガスが、前記ロータ室周面に案内されて、前記吐出路へ吐出される燃料電池用水素循環ルーツポンプであって、
前記ハウジングには、前記軸受室と前記吸入路又は前記吸入路と連通状態にある前記ロータ室の一部とを連通する連通路が設けられていることを特徴とする。
【0011】
本発明の燃料電池用水素循環ポンプでは、燃料電池の発電反応により生成した液水が水素ガスと共にロータ室内に侵入する。ロータ室内はポンプ作動時に昇温するので、ロータ室の温度が沸点以上になれば、ロータ室内の液水が気化して水蒸気が生成される。
【0012】
そして、ポンプ作動時にロータ室の圧力が高くなると、軸受室との圧力差によりロータ室から軸受室へ向かおうとする水蒸気の流れが発生する。
【0013】
このとき、あらゆる条件下において、シール部材により水蒸気の通過を完全に阻止することは極めて困難である。特に、ドライ条件下で用いられる簡素な構造のシール部材の場合、水蒸気が不可避的に通過してしまうことがある。その結果、ポンプ作動時にロータ室の圧力が高くなると、軸受室との圧力差により、ロータ室から軸受室へ水蒸気が流れることがある。そうすると、軸受室の温度が沸点より低くなれば、軸受室内の水蒸気が液化して凝縮水が生成されることになる。
【0014】
この点、この燃料電池用水素循環ポンプでは、吸入路又は吸入路と連通状態にあるロータ室の一部と軸受室とが連通路により連通連通されている。吸入路又は吸入路と連通状態にあるロータ室の一部は、ポンプ作動時に軸受室よりも低圧になる。このため、軸受室内で生成した凝縮水は、連通路を介して、吸入路又は吸入路と連通状態にあるロータ室の一部に流出する。こうして凝縮水が軸受室に滞留せずに軸受室から流出すれば、軸受内のグリスが流出したり、シール部材が膨潤したりすることを抑制できる。
【0015】
したがって、本発明の燃料電池用水素循環ポンプは、ロータ室から軸受室に流れた水蒸気から生成される凝縮水に起因する軸受やシール部材の劣化を抑制できる。
【0016】
連通路は、軸受室と吸入路とを連通することが好ましい。そして、吸入路は、軸受室よりも重力方向において下方に設けられていることが好ましい。
【0017】
この場合、ポンプ非作動時であっても、重力の作用により、軸受室の凝縮水を吸入路に流出させることができる。
【0018】
ハウジングは、一方のロータ室端面にかけてハウジングを貫通する吸入路と、一方のロータ室端面にかけてハウジングを貫通し、一対の回転軸の一端部がそれぞれ挿入される一対の回転軸挿入孔と、回転軸挿入孔を覆い、シール部材とともに軸受室を区画するカバー部材と、を有することが好ましい。そして、連通路は、軸受室から吸入路の軸心方向に対して傾斜して延びていることが好ましい。
【0019】
この場合、ポンプ非作動時であっても、重力の作用により、軸受室の凝縮水を吸入路に流出させることができる。また、吸入路を流れる水素ガスに含まれる液水が、連通路を介して、軸受室へ流れ込むことを抑えることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の燃料電池用水素循環ポンプは、ロータ室から軸受室に流れた水蒸気から生成される凝縮水に起因する軸受や軸シールの劣化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施例1の燃料電池用水素循環ポンプを第1軸心O1及び第2軸心O2を通る水平面で切断した断面図である。
図2図2は、実施例1の燃料電池用水素循環ポンプに係り、図1のA-A線断面図である。
図3図3は、実施例1の燃料電池用水素循環ポンプに係り、第2回転軸及び第2軸受室等を示す図1の部分断面図である。
図4図4は、実施例1の燃料電池用水素循環ポンプに係り、後方から見た後面図である。
図5図5は、実施例1の燃料電池用水素循環ポンプに係り、図4のB-B線におけるエンドハウジングの部分断面図である。
図6図6は、実施例1の燃料電池用水素循環ポンプを含む燃料電池システムの構成図である。
図7図7は、実施例2の燃料電池用水素循環ポンプに係り、第1軸心O1を通る鉛直面で切断した第1回転軸、第1ロータ及び第1軸受室等を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した実施例1、2を図面を参照しつつ説明する。
【0023】
(実施例1)
図1に示すように、実施例1の燃料電池用水素循環ポンプ(以下、単に水素循環ポンプという)100は、ハウジング10を備えている。ハウジング10は、ロータハウジング1、エンドハウジング3、ギヤハウジング5、モータハウジング7及びエンドカバー9を有している。
【0024】
本実施例では、図1図5に示す実線矢印によって、水素循環ポンプ100の前後方向、左右方向及び上下方向を規定している。なお、これらの方向は説明の便宜のための一例であり、水素循環ポンプ100は搭載される車両に応じて、自己の姿勢を適宜変更可能である。ただし、本実施例の水素循環ポンプ100は、後述するように、吸入部11Aがロータ室11の下方に位置し、吐出部11Bがロータ室11の上方に位置する姿勢で、車両に搭載される。
【0025】
なお、図1は、水素循環ポンプ100を第1軸心O1及び第2軸心O2を通る水平面で切断した断面図であり、図3はその部分断面図である。
【0026】
ロータハウジング1とエンドハウジング3とギヤハウジング5とが複数本のボルト91によって接合され、ギヤハウジング5とモータハウジング7とが複数本のボルト93よって接合されている。エンドカバー9は、後述する第1軸受室41A及び第2軸受室42Aを塞ぐように、複数本のボルト95によってエンドハウジング3に接合されている。
【0027】
ロータハウジング1とエンドハウジング3との間にはOリング2が設けられており、ロータハウジング1とギヤハウジング5との間にはOリング4が設けられている。エンドハウジング3とエンドカバー9との間には、後述する第1軸受室41A周りにOリング6が設けられており、後述する第2軸受室42A周りにOリング8が設けられている。
【0028】
ロータハウジング1及びエンドハウジング3によって、ロータ室11が形成されている。図2に示すように、ロータ室11は、水素循環ポンプ100の前後方向から見てまゆ形である。すなわち、ロータ室11は、前後方向に延びる第1、第2軸心O1、O2を中心とする一対の円形71、72からなるロータ室周面70を有している。ロータ室周面70は、後述する第1ロータ23、第2ロータ24の周面と所定の径方向クリアランスを介して対向する。第1軸心O1と、第2軸心O2とは、平行であり、かつ、水平方向に並んでいる。
【0029】
ロータハウジング1及びギヤハウジング5によりギヤ室17が形成され、ギヤハウジング5及びモータハウジング7によりモータ室19が形成されている。
【0030】
エンドハウジング3、ロータハウジング1、ギヤハウジング5には、第1軸受室41A、41B、41Cが形成されている。第1軸受室41A、41B、41Cは、第1軸心O1を中心とする円柱状の内部空間を有している。また、エンドハウジング3、ロータハウジング1、ギヤハウジング5、モータハウジング7には、第2軸受室42A、42B、42C、42Dが形成されている。第2軸受室42A、42B、42C、42Dは、第2軸心O2を中心とする円柱状の内部空間を有している。
【0031】
図4に示すように、エンドハウジング3には、吸入口31と、吐出口32とが形成されている。吸入口31及び吐出口32は、エンドハウジング3の後面に開口している。吸入口31及び吐出口32は、エンドハウジング3において左右方向の中央に位置している。吸入口31は、第1軸受室41A、第2軸受室42A及びエンドカバー9よりも下方に位置している。吐出口32は、第1軸受室41A、第2軸受室42A及びエンドカバー9よりも上方に位置している。
【0032】
また、エンドハウジング3には、吸入路33と、吐出路34とが形成されている。吸入路33及び吐出路34は、前後方向に水平に延びている。すなわち、吸入路33の中心を通る吸入路33の軸心及び吐出路34の中心を通る吐出路33の軸心は、前後方向に平行に延びている。図2に示すように、吸入路33の前端はロータ室11の後述する吸入部11Aに接続し、吸入路33の後端は吸入口31に接続している。これにより、吸入口31とロータ室11の吸入部11Aとが吸入路33によって連通されている。この吸入路33は、第1軸受室41A及び第2軸受室42Aよりも鉛直方向において低い位置に在る。すなわち、吸入路33は、第1軸受室41A及び第2軸受室42Aよりも重力方向において下方に設けられている。吐出路34の前端はロータ室11の後述する吐出部11Bに接続し、吐出路34の後端は吐出口32に接続している。これにより、吐出口32とロータ室11の吐出部11Bとが吐出路34によって連通されている。
【0033】
さらに、図4及び図5に示すように、エンドハウジング3には、第1連通路35と、第2連通路36とが形成されている。第1連通路35及び第2連通路36は、本発明における「連通路」の一例である。第1連通路35の上端は第1軸受室41Aの後端近くに接続し、第1連通路35の下端は吸入路33に接続している。第1連通路35は、第1軸受室41Aと吸入路33とを連通している。同様に、第2連通路36の上端は第2軸受室42Aの後端近くに接続し、第2連通路36の下端は吸入路33に接続している。第2連通路36は、第2軸受室42Aと吸入路33とを連通している。
【0034】
ここに、図5において、吸入路33における水素ガスの流れ方向を矢印Fで示す。第1連通路35は、第1軸受室41Aから吸入路33の軸心方向に対して傾斜して延びている。言い換えれば、第1連通路35は、吸入路33における水素ガスの流れ方向Fの下流側に向かうに連れて鉛直方向下方側に傾斜している。同様に、第2連通路36は、第2軸受室42Aから吸入路33の軸心方向に対して傾斜して延びている。言い換えれば、第2連通路36は、吸入路33における水素ガスの流れ方向Fの下流側に向かうに連れて鉛直方向下方側に傾斜している。
【0035】
ロータハウジング1、エンドハウジング3及びギヤハウジング5には、第1軸孔13と、2軸孔15とが形成されている。ロータハウジング1を前後方向に貫通する第1軸孔13の前端はギヤハウジング5により閉塞され、第1軸孔13の後端は第1軸受室41Aまで延びている。第1軸孔13により、ロータ室11はギヤ室17に連通するとともに第1軸受室41Aに連通している。ロータハウジング1を前後方向に貫通する第2軸孔15の前端はギヤハウジング5を貫通してモータ室19まで延びており、第2軸孔15の後端は第2軸受室42Aまで延びている。第2軸孔15により、ロータ室11はギヤ室17とモータ室19とに連通するとともに第2軸受室42Aに連通している。
【0036】
第1軸受室41A、41B、41Cには、第1軸受51A、51B、51Cがそれぞれ配設されている。第1軸孔13には、第1軸受51A、51B、51Cを介して第1回転軸21が回転可能に設けられている。第1回転軸21は、ロータ室11の後側において第1軸受51Aに支持されるとともに、ロータ室11の前側において第1軸受51Bに支持されており、所謂両持ちの状態でエンドハウジング3及びロータハウジング1等に支持されている。
【0037】
第2軸受室42A、42B、42C、42Dには、第2軸受52A、52B、52C、52Dがそれぞれ配設されている。第2軸孔15には、第2軸受52A、52B、52C、52Dを介して第2回転軸22が回転可能に設けられている。第2回転軸22は、ロータ室11の後側において第2軸受52Aに支持されるとともに、ロータ室11の前側において第2軸受52Bに支持されており、所謂両持ちの状態でエンドハウジング3及びロータハウジング1等に支持されている。
【0038】
ロータ室11と第1軸受51Aとの間には、第1回転軸21が貫通する第1軸シール61Aが設けられている。ロータ室11と第1軸受室41Aとの間には、第1回転軸21が貫通する第1軸シール61Aが設けられている。すなわち、エンドハウジング3に形成された第1軸受室41Aよりもロータ室11側における第1軸孔13には、第1回転軸21とエンドハウジング3との間をシールする第1軸シール61Aが配設されている。第1軸シール61Aは、本発明における「シール部材」の一例である。第1軸シール61Aは、ドライ条件下で用いられるいわゆるリップシールよりなる。ロータハウジング1に形成された第1軸受室41Bよりもロータ室11側における第1軸孔13には、第1回転軸21とロータハウジング1との間をシールする第1軸シール61Bが配設されている。第1シール61Bはオイルシールよりなる。
【0039】
ロータ室11と第2軸受52Aとの間には、第2回転軸22が貫通する第2軸シール62Aが設けられている。ロータ室11と第2軸受室42Aとの間には、第2回転軸22が貫通する第2軸シール62Aが設けられている。すなわち、エンドハウジング3に形成された第2軸受室42Aよりもロータ室11側における第2軸孔15には、第2回転軸22とエンドハウジング3との間をシールする第2軸シール62Aが配設されている。第2軸シール62Aは、本発明における「シール部材」の一例である。第2軸シール62Aは、ドライ条件下で用いられるいわゆるリップシールよりなる。ロータハウジング1に形成された第2軸受室42Bよりもロータ室11側における第2軸孔15には、第2回転軸22とロータハウジング1との間をシールする第2軸シール62Bが配設されている。第2シール62Bはオイルシールよりなる。ギヤハウジング5に形成された第2軸受室42Cよりもモータ室19側における第2軸孔15には、第2回転軸21とギヤハウジング5との間をシールする第2軸シール62Cが配設されている。第2軸シール62Cはオイルシールよりなる。
【0040】
ロータ室11内では、第1回転軸21に第1ロータ23が一体回転可能に固定され、第2回転軸22に第2ロータ24が一体回転可能に固定されている。第1ロータ23、第2ロータ24は、図2に示すように、互いに噛み合う山歯23A、24A及び谷歯23B、24Bを有する二葉まゆ形のものである。山歯23A、24Aには軽量化のための中空部23C、24Cが形成されている。
【0041】
ロータ室11を区画するロータハウジング1の後面1Aは、第1回転軸21の軸方向において、第1ロータ23及び第2ロータ24の前端面と所定の軸方向クリアランスを介して対向する。同様に、ロータ室11を区画するエンドハウジング3の前面3Aは、第1回転軸21の軸方向において、第1ロータ23及び第2ロータ24の後端面と所定の軸方向クリアランスを介して対向する。エンドハウジング3の前面3A及びロータハウジング1の後面1Aは、本発明における「ロータ室端面」の一例である。
【0042】
図2に示すように、第1ロータ23及び第2ロータ24によるポンプ作動時に、ロータ室11には、第1ロータ23又は第2ロータ24の下面とロータ室11のロータ室周面70との間に吸入部11Aが形成されるとともに、第1ロータ23又は第2ロータ24の上面とロータ室11のロータ室周面70との間に吐出部11Bが形成される。吸入部11Aは、ロータ室11内の下方に位置し、吐出部11Bはロータ室11内の上方に位置する。
【0043】
ギヤ室17内では、第1回転軸21に第1ギヤ81が固定され、第2回転軸22に第2ギヤ82が固定されている。第1ギヤ81及び第2ギヤ82は互いに噛み合っている。ギア室17内にはオイルが貯留されている。第1回転軸21は、ロータ室11からギヤ室17を経てモータ室19内まで延びている。モータ室19内では、モータハウジング7にステータ73が固定され、第2回転軸22にモータロータ75が固定されている。ステータ73に巻回されたコイルには、図示しないハーネスにより電流が供給されるようになっている。
【0044】
この水素循環ポンプ100は、図6に示すように、燃料電池車に搭載される燃料電池システムに用いられる。燃料電池システムは、水素循環ポンプ100と、燃料電池101と、エアーコンプレッサ102と、加湿器103と、水素タンク104とを備えている。
【0045】
エアーコンプレッサ102と加湿器103と燃料電池101とは空気供給管105、106によって直列的に接続され、空気を加湿して燃料電池101に供給できるようになっている。水素タンク104と燃料電池101とは水素供給管107によって接続され、新規な水素ガスを燃料電池101に供給できるようになっている。燃料電池101では、空気中の酸素と水素とが反応し、発電が行なわれる。
【0046】
燃料電池101には、反応しなかった水素を含む水素オフガスを移送する吸入管108が接続される。燃料電池101に一端が接続される吸入管108の他端が水素循環ポンプ100の吸入口31に接続される。また、水素タンク104と燃料電池101とを接続する水素供給管107に一端が接続される供給管109の他端が水素循環ポンプ100の吐出口32に接続される。
【0047】
ここに、燃料電池101における発電反応により液水が生成される。このため、水素オフガスを移送する吸入管108から水素循環ポンプ100の吸入口31に導入される水素ガス中には液水が含まれる。吸入口31から導入された水素ガスは、吸入33内を流れてロータ室11内の吸入部11Aに導入される。その結果、ロータ室11内に水素ガスと共に液水が侵入する。ロータ室11内は第1ロータ23及び第2ロータ24のポンプ作動により昇温するので、ロータ室11の温度が沸点以上になれば、ロータ室11内の液水が気化して水蒸気が生成される。
【0048】
そして、ポンプ作動時には、供給管109及び水素供給管107を介して燃料電池101に水素ガスを圧送する側であるロータ室11の吐出部11B及び吐出路34は、吸入管108を介して水素ガスが導入される吸入路33及び吸入部11Aよりも圧力が高くなる。ロータ室11の吐出部11Bが第1軸受室41A及び第2軸受室42Aよりも高圧になれば、その圧力差により、ロータ室11の吐出部11Bから第1軸受室41A、41B及び第2軸受室42A、42Bへ向かおうとする水蒸気の流れが発生する。
【0049】
ギヤハウジング5に設けられた第1軸シール61B及び第2軸シール62Bは、オイルシールであるため、水蒸気の通過を阻止する。このため、ロータ室11の吐出部11Bから第1軸受室41B及び第2軸受室42Bへ水蒸気が流れることはない。一方、エンドハウジング3に設けられた第1軸シール61A及び第2軸シール62Aは、ドライ条件下で用いられる簡素なリップシールであるため、水蒸気の通過を阻止し得ず、水蒸気の通過を不可避的に許容してしまう。そのため、ポンプ作動時にロータ室11の吐出部11Bの圧力が高くなると、第1軸受室41A及び第2軸受室42Aとの圧力差により、吐出部11Bから第1軸受室41A及び第2軸受室42Aへ水蒸気が流れることがある。そうすると、第1軸受室41A及び第2軸受室42Aの温度が沸点より低くなれば、第1軸受室41A及び第2軸受室42A内の水蒸気が液化して凝縮水が生成されることになる。
【0050】
この点、この水素循環ポンプ100では、第1軸受室41Aと吸入路33とが第1連通路35により連通され、第2軸受室42Aと吸入路33とが第2連通路36により連通されている。第1軸受室41A及び第2軸受室42A内にはロータロータ室11の吐出部11Bから水蒸気が流入していることから、吸入路33の圧力は第1軸受室41A及び第2軸受室42Aの圧力よりも低い。このため、第1軸受室41A内で生成した凝縮水は、第1連通路35を介して、第1軸受室41Aよりも低圧の吸入路33に流出する。同様に、第2軸受室42A内で生成した凝縮水は、第2連通路36を介して、第2軸受室42Aよりも低圧の吸入路33に流出する。こうして第1軸受室41A及び第2軸受室42Aから吸入路33に凝縮水が滞留せずに流出すれば、第1軸受51A及び第2軸受52Aのグリスが流出したり、第1軸シール61A及び第2軸シール62Aのシール材が膨潤したりすることを抑制できる。
【0051】
したがって、実施例1の燃料電池用水素循環ポンプ100は、ロータ室11の吐出部11Bから第1軸受室41A及び第2軸受室42Aに流れた水蒸気から生成される凝縮水に起因する第1軸受51A及び第2軸受52Aや第1軸シール61A及び第2軸シール62Aの劣化を抑制できる。この結果、第1回転軸21及び第2回転軸22を両持ち状態で支持することができ、片持ち状態で支持する構造よりも燃料電池用水素循環ポンプ100の容量を増加させることができる。
【0052】
また、この水素循環ポンプ100では、吸入路33が第1軸受室41A及び第2軸受室42Aよりも鉛直方向において低い位置に在る。このため、水素循環ポンプ100の非作動時であっても、重力の作用により、第1軸受室41A及び第2軸受室42Aの凝縮水を、第1連通路35及び第2連通路36を介して吸入路33に流出させることができる。
【0053】
しかも、第1連通路35及び第2連通路36は、それぞれ第1軸受室41A及び第2軸受室42Aから吸入路33の軸心方向に対して傾斜して延びており、吸入路33における水素ガスの流れ方向Fの下流側に向かうに連れて鉛直方向下方側に傾斜している。このため、吸入路33を流れる水素ガスに含まれる液水が、第1連通路35及び第2連通路36を介して、第1軸受室41A及び第2軸受室42Aへ流れることを抑えることができる。
【0054】
(実施例2)
実施例2の燃料電池用水素循環ポンプ110は、図7に示すように、実施例1の水素循環ポンプ100において、第1連通路350の上端を第1軸受室41Aの後端近くに接続し、第1連通路350の下端をロータ室11内の吸入部11Aの下端近くに接続している。これにより、第1連通路350によって、第1軸受室41Aとロータ室11の吸入部11Aとが連通されている。
【0055】
同様に、図示は省略するが、第2連通路の上端を第2軸受室42Aに後端近くに接続し、第2連通路の下端をロータ室11の吸入部11Aの下端近くに接続している。これにより、第2連通路によって、第2軸受室42Aとロータ室11の吸入部11Aとが連通されている。
【0056】
この燃料電池用水素循環ポンプ110では、ポンプ作動時に、第1軸受室41Aとロータ室11の吸入部11Aとの圧力差により、第1軸受室41Aの凝縮水を第1連通路350を介して吸入部11Aに流出させることができる。同様に、第2軸受室42Aとロータ室11の吸入部11Aとの圧力差により、第2軸受室41Aの凝縮水を第2連通路を介して吸入部11Aに流出させることができる。
【0057】
また、第1軸受室41Aと吸入部11Aとを連通する第1連通路350の下端は、第1軸受室41Aよりも低い吸入部11Aの下端近くに接続している。同様に、第2軸受室42Aと吸入部11Aとを連通する第2連通路の下端は、第2軸受室42Aよりも低い吸入部11Aの下端近くに接続している。このため、燃料電池用水素循環ポンプ110の非作動時であっても、重力の作用により、第1軸受室41A及び第2軸受室42Aの凝縮水を第1連通路350及び第2連通路を介して吸入部11Aに流出させることができる。
【0058】
この燃料電池用水素循環ポンプ110における他の構成及び作用は実施例1の水素循環ポンプ100と同様であり、同一の構成については同一の符号を付して構成に関する詳細な説明を省略する。
【0059】
以上において、本発明を実施例1、2に即して説明したが、本発明は上記実施例1、2に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0060】
例えば、実施例1、2では、両持ち状態で支持された回転軸の一端側に配置された一方の軸受室に連通路を設けている。しかし、これに限らず、ロータ室を間に挟んで回転軸の一端側及び他端側に配置された両軸シールが水蒸気の通過を不可避的に許容してしまうものである場合は、回転軸の一端側及び他端側に配置された両軸受室の双方において、軸受室と吸入路等とを連通する連通路を設けてもよい。
【0061】
実施例2では、吸入口31、吸入路33及びロータ室11の吸入部11Aが第1回転軸21よりも下方に位置するとともに、吐出口32、吐出路34及びロータ室11の吐出部11Bが第1回転軸21よりも上方に位置している。しかし、これとは逆に、実施例2において、吸入口31、吸入路33及びロータ室11の吸入部11Aが第1回転軸21よりも上方に位置するとともに、吐出口32、吐出路34及びロータ室11の吐出部11Bが第1回転軸21より下方に位置していてもよい。
【0062】
実施例2では、吸入口31、吸入路33、吐出口32及び吐出路34をエンドハウジング3に設けている。しかし、これに限らず、実施例2において、吸入口31、吸入路33、吐出口32及び吐出路34をロータハウジング1に設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は燃料電池自動車に利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
1…ロータハウジング
1A…後面(ロータ室端面)
3…エンドハウジング
3A…前面(ロータ室端面)
10…ハウジング
11…ロータ室
11A…吸入部
11B…吐出部
13…第1回転軸挿入孔
15…第2回転軸挿入孔
21…第1回転軸(回転軸)
22…第2回転軸(回転軸)
23…第1ロータ
24…第2ロータ
33…吸入路
34…吐出路
35、350…第1連通路(連通路)
36…第2連通路(連通路)
41A…第1軸受室(軸受室)
42A…第2軸受室(軸受室)
51A…第1軸受(軸受)
52A…第2軸受(軸受)
61A…第1軸シール(シール部材)
62A…第2軸シール(シール部材)
70…ロータ室周面
71、72…円弧面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7