(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078294
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】マルチレベルインバータの制御装置、プログラム、及びマルチレベルインバータ
(51)【国際特許分類】
H02M 7/487 20070101AFI20240603BHJP
【FI】
H02M7/487
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190745
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100207859
【弁理士】
【氏名又は名称】塩谷 尚人
(72)【発明者】
【氏名】楠本 将大
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA02
5H770DA03
5H770DA34
5H770EA01
5H770EA19
5H770HA02Y
5H770HA02Z
5H770HA03W
5H770HA07Z
(57)【要約】
【課題】電気機器が並列接続されたコンデンサの電圧の大きな低下を抑制できるマルチレベルインバータの制御装置を提供する。
【解決手段】制御装置50は、インバータ30に適用され、第1コンデンサ21及び第2コンデンサ22の直列接続体から出力可能な電圧のうちいずれかの電圧を出力するように各スイッチSUH~SWL,QU~QWを制御する。第2コンデンサ22にDCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41が並列接続されている。制御装置50は、DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41への供給可能電流値が、DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41の要求電流値未満であるか否かを判定し、供給可能電流値が要求電流値未満であると判定した場合、供給可能電流値が要求電流値以上であると判定する場合よりも回転電機10の各相巻線13U~13Wに流す電流を大きくするように各スイッチSUH~SWL,QU~QWを制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列接続された複数のコンデンサ(21,22,71~74)と、
前記コンデンサと回転電機(10)の電機子巻線(13U~13W)とに電気的に接続されるスイッチ(SUH~SWL,QU~QW,Su1~Sw4,S1~S8)と、を備えるマルチレベルインバータ(30,70)に適用され、
複数の前記コンデンサの直列接続体から出力可能な複数の電圧のうちいずれかの電圧を出力するように前記スイッチを制御するマルチレベルインバータの制御装置(50)において、
複数の前記コンデンサの直列接続体は、電源(20)に並列接続可能とされており、
複数の前記コンデンサのうち一部のコンデンサである対象コンデンサに電気機器(40,41)が並列接続可能とされており、
前記電気機器への供給可能電流値が、前記電気機器の要求電流値未満であるか否かを判定する判定部と、
前記供給可能電流値が前記要求電流値未満であると判定された場合、前記供給可能電流値が前記要求電流値以上であると判定される場合よりも前記電機子巻線に流す電流を大きくするように前記スイッチを制御する制御部と、を備える、マルチレベルインバータの制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記要求電流値が大きいほど、前記電源から前記マルチレベルインバータ及び前記電機子巻線を介して前記対象コンデンサへと供給される電流値を大きくするように前記スイッチを制御する、請求項1に記載のマルチレベルインバータの制御装置。
【請求項3】
直列接続された複数のコンデンサ(21,22,71~74)と、
前記コンデンサと回転電機(10)の電機子巻線(13U~13W)とに電気的に接続されるスイッチ(SUH~SWL,QU~QW,Su1~Sw4,S1~S8)と、を備えるマルチレベルインバータ(30,70)に適用され、
複数の前記コンデンサの直列接続体から出力可能な複数の電圧のうちいずれかの電圧を出力するように前記スイッチを制御するマルチレベルインバータの制御装置(50)において、
複数の前記コンデンサの直列接続体は、電源(20)に並列接続可能とされており、
複数の前記コンデンサのうち一部のコンデンサである対象コンデンサに電気機器(40,41)が並列接続可能とされており、
前記電気機器の要求電流値が大きいほど、前記電源から前記マルチレベルインバータ及び前記電機子巻線を介して前記対象コンデンサへと供給される電流値を大きくするように前記スイッチを制御する制御部を備える、マルチレベルインバータの制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記供給可能電流値が前記要求電流値未満であると判定された場合、前記供給可能電流値が前記要求電流値以上であると判定される場合よりも前記電機子巻線に流すd軸電流値を大きくするように前記スイッチを制御する、請求項1又は2に記載のマルチレベルインバータの制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記供給可能電流値が前記要求電流値未満であると判定された場合、前記d軸電流値を大きくするように前記スイッチを制御するとともに、前記電機子巻線に流すd,q軸電流で定まる動作点が、前記供給可能電流値が前記要求電流値以上であると判定される場合における前記回転電機の等トルク曲線上になるように、前記スイッチを制御する、請求項4に記載のマルチレベルインバータの制御装置。
【請求項6】
前記マルチレベルインバータは、
前記コンデンサとして、第1コンデンサ(21)及び第2コンデンサ(22)を備えるとともに、
前記スイッチとして、前記電機子巻線を、前記第1コンデンサの正極側と、前記第1コンデンサの負極側及び前記第2コンデンサの正極側の間の中性点と、前記第2コンデンサの負極側とのうちいずれかに電気的に接続するスイッチ(SUH~SWL,QU~QW,Su1~Sw4)と、を備える3レベルインバータであり、
前記第1コンデンサ及び前記第2コンデンサの直列接続体から出力可能な3つの電圧のうちいずれかの電圧を出力するように前記スイッチを制御する、請求項1~3のいずれか1項に記載のマルチレベルインバータの制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記回転電機のロータ(11)を回転停止状態に維持する場合において前記供給可能電流値が前記要求電流値未満であると判定されたとき、前記電機子巻線にd軸電流を流しつつ、前記電機子巻線に流すq軸電流を0又は0付近の値とするように前記スイッチを制御する、請求項1又は2に記載のマルチレベルインバータの制御装置。
【請求項8】
前記マルチレベルインバータは、
前記コンデンサとして、第1コンデンサ(21)及び第2コンデンサ(22)を備えるとともに、
前記スイッチとして、
直列接続された上アームスイッチ(SUH~SWH)及び下アームスイッチ(SUL~SWL)と、
前記第1コンデンサの負極側及び前記第2コンデンサの正極側の間の中性点、及び前記電機子巻線の間に流れる電流の導通及び遮断を切り替えるクランプスイッチ(QU~QW)と、を相数分備える3レベルインバータであり、
前記制御装置は、前記第1コンデンサ及び前記第2コンデンサの直列接続体から出力可能な3つの電圧のうちいずれかの電圧を出力するように前記スイッチを制御し、
前記対象コンデンサは、前記第2コンデンサであり、
前記制御部は、前記回転電機の電気角に応じて定まる特定相における前記クランプスイッチをオンし、各相における下アームスイッチをオフするとともに、各相のうち前記特定相以外の相における上アームスイッチをオンオフすることにより、前記電機子巻線にd軸電流を流す、請求項7に記載のマルチレベルインバータの制御装置。
【請求項9】
前記マルチレベルインバータは、
前記コンデンサとして、第1コンデンサ(21)及び第2コンデンサ(22)を備えるとともに、
前記スイッチとして、
直列接続された上アームスイッチ(SUH~SWH)及び下アームスイッチ(SUL~SWL)と、
前記第1コンデンサの負極側及び前記第2コンデンサの正極側の間の中性点、及び前記電機子巻線の間に流れる電流の導通及び遮断を切り替えるクランプスイッチ(QU~QW)と、を相数分備える3レベルインバータであり、
前記制御装置は、前記第1コンデンサ及び前記第2コンデンサの直列接続体から出力可能な3つの電圧のうちいずれかの電圧を出力するように前記スイッチを制御し、
前記対象コンデンサは、前記第1コンデンサであり、
前記制御部は、前記回転電機の電気角に応じて定まる特定相における前記クランプスイッチをオンし、各相における上アームスイッチをオフすると共に、各相のうち前記特定相以外の相における下アームスイッチをオンオフすることにより、前記電機子巻線にd軸電流を流す、請求項7に記載のマルチレベルインバータの制御装置。
【請求項10】
直列接続された複数のコンデンサ(21,22,71~74)と、
前記コンデンサと回転電機(10)の電機子巻線(13U~13W)とに電気的に接続されるスイッチ(SUH~SWL,QU~QW,Su1~Sw4,S1~S8)と、
コンピュータ(50)と、を備えるマルチレベルインバータ(30,70)に適用され、
複数の前記コンデンサの直列接続体から出力可能な複数の電圧のうちいずれかの電圧を出力するように前記スイッチを制御する処理を前記コンピュータに実行させるプログラムにおいて、
複数の前記コンデンサの直列接続体は、電源(20)に並列接続可能とされており、
複数の前記コンデンサのうち一部のコンデンサである対象コンデンサに電気機器(40,41)が並列接続可能とされており、
前記電気機器への供給可能電流値が、前記電気機器の要求電流値未満であるか否かを判定する判定ステップと、
前記供給可能電流値が前記要求電流値未満であると判定された場合、前記供給可能電流値が前記要求電流値以上であると判定される場合よりも前記電機子巻線に流す電流を大きくするように前記スイッチを制御する制御ステップと、を前記コンピュータに実行させる、プログラム。
【請求項11】
直列接続された複数のコンデンサ(21,22,71~74)と、
前記コンデンサと回転電機(10)の電機子巻線(13U~13W)とに電気的に接続されるスイッチ(SUH~SWL,QU~QW,Su1~Sw4,S1~S8)と、
複数の前記コンデンサの直列接続体から出力可能な複数の電圧のうちいずれかの電圧を出力するように前記スイッチを制御する制御装置(50)と、を備えるマルチレベルインバータ(30,70)において、
複数の前記コンデンサの直列接続体は、電源(20)に並列接続可能とされており、
複数の前記コンデンサのうち一部のコンデンサである対象コンデンサに電気機器(40,41)が並列接続可能とされており、
前記制御装置は、
前記電気機器への供給可能電流値が、前記電気機器の要求電流値未満であるか否かを判定する判定部と、
前記供給可能電流値が前記要求電流値未満であると判定された場合、前記供給可能電流値が前記要求電流値以上であると判定される場合よりも前記電機子巻線に流す電流を大きくするように前記スイッチを制御する制御部と、を有する、マルチレベルインバータ。
【請求項12】
直列接続された複数のコンデンサ(21,22,71~74)と、
前記コンデンサと回転電機(10)の電機子巻線(13U~13W)とに電気的に接続されるスイッチ(SUH~SWL,QU~QW,Su1~Sw4,S1~S8)と、
複数の前記コンデンサの直列接続体から出力可能な複数の電圧のうちいずれかの電圧を出力するように前記スイッチを制御する制御装置(50)と、を備えるマルチレベルインバータ(30,70)において、
複数の前記コンデンサの直列接続体は、電源(20)に並列接続可能とされており、
複数の前記コンデンサのうち一部のコンデンサである対象コンデンサに電気機器(40,41)が並列接続可能とされており、
前記制御装置は、前記電気機器の要求電流値が大きいほど、前記電源から前記マルチレベルインバータ及び前記電機子巻線を介して前記対象コンデンサへと供給される電流値を大きくするように前記スイッチを制御する制御部を有する、マルチレベルインバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチレベルインバータの制御装置、プログラム、及びマルチレベルインバータに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制御装置として、例えば特許文献1には、3レベルインバータが有するスイッチをオンオフする制御装置が記載されている。3レベルインバータは、直列接続された第1コンデンサ及び第2コンデンサを備えている。制御装置は、スイッチに電気的に接続されている回転電機の電機子巻線に対して、第1コンデンサ及び第2コンデンサの直列接続体から出力可能な3種類のレベルの電位を出力するように、スイッチをオンオフする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
3レベルインバータにおける第1コンデンサ及び第2コンデンサの直列接続体に電源が並列接続され、第1コンデンサ及び第2コンデンサのいずれかに電気機器が並列接続されることがある。この場合、電源を電力供給源とした電気機器への供給電流値が電気機器の要求電流値を下回ると、電気機器が並列接続されているコンデンサの電圧が大きく低下し得る。その結果、電気機器を適正に動作させることができなくなり得る。
【0005】
なお、上述した課題は、3レベルインバータに限らず、3種類より多いレベルの電位を出力するマルチレベルインバータの場合も同様に生じる。
【0006】
本発明は、電気機器が並列接続されたコンデンサの電圧の大きな低下を抑制できるマルチレベルインバータの制御装置、プログラム、及びマルチレベルインバータを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の構成は、直列接続された複数のコンデンサと、
前記コンデンサと回転電機の電機子巻線とに電気的に接続されるスイッチと、を備えるマルチレベルインバータに適用され、
複数の前記コンデンサの直列接続体から出力可能な複数の電圧のうちいずれかの電圧を出力するように前記スイッチを制御するマルチレベルインバータの制御装置において、
複数の前記コンデンサの直列接続体は、電源に並列接続可能とされており、
複数の前記コンデンサのうち一部のコンデンサである対象コンデンサに電気機器が並列接続可能とされており、
前記電気機器への供給可能電流値が、前記電気機器の要求電流値未満であるか否かを判定する判定部と、
前記供給可能電流値が前記要求電流値未満であると判定された場合、前記供給可能電流値が前記要求電流値以上であると判定される場合よりも前記電機子巻線に流す電流を大きくするように前記スイッチを制御する制御部と、を備える、マルチレベルインバータの制御装置である。
【0008】
上記第1の構成では、複数のコンデンサの直列接続体が電源に並列接続され、複数のコンデンサのうち一部のコンデンサである対象コンデンサが電気機器に並列接続される。この場合、電源を電力供給源とした電気機器への供給電流値が電気機器の要求電流値を下回ると、対象コンデンサの電圧が低下する。対象コンデンサの電圧低下を抑制するためには、対象コンデンサに給電する必要がある。ここで、コンデンサの直流成分のインピーダンスは非常に大きい。このため、複数のコンデンサの直列接続体が電源に並列接続されているものの、電源からコンデンサに直接供給できる電力は非常に小さい、又は電源からコンデンサに直接電力供給できない。電源から対象コンデンサへと十分に電力を供給するためには、マルチレベルインバータが備えるスイッチの制御により、電源からインバータ及び電機子巻線を介して対象コンデンサに給電する必要がある。
【0009】
この点に鑑み、上記第1の構成の制御装置では、電気機器への供給可能電流値が電気機器の要求電流値未満であると判定された場合、供給可能電流値が要求電流値以上であると判定される場合よりも電機子巻線に流す電流を大きくするスイッチの制御が行われる。電機子巻線に流す電流値が大きくなると、対象コンデンサに供給可能な電流値も大きくなる。このため、対象コンデンサの電圧低下を抑制することができる。
【0010】
本発明の第2の構成は、直列接続された複数のコンデンサと、
前記コンデンサと回転電機の電機子巻線とに電気的に接続されるスイッチと、を備えるマルチレベルインバータに適用され、
複数の前記コンデンサの直列接続体から出力可能な複数の電圧のうちいずれかの電圧を出力するように前記スイッチを制御するマルチレベルインバータの制御装置において、
複数の前記コンデンサの直列接続体は、電源に並列接続可能とされており、
複数の前記コンデンサのうち一部のコンデンサである対象コンデンサに電気機器が並列接続可能とされており、
前記電気機器の要求電流値が大きいほど、前記電源から前記マルチレベルインバータ及び前記電機子巻線を介して前記対象コンデンサへと供給される電流値を大きくするように前記スイッチを制御する制御部と、を備える、マルチレベルインバータの制御装置である。
【0011】
上記第2の構成によれば、電気機器の要求電流値が大きいほど、電源からマルチレベルインバータ及び電機子巻線を介して対象コンデンサへと供給される電流値を増大するように、各スイッチが制御される。これにより、要求電流値の増加に伴い電気機器への供給電流値が増大させられるため、対象コンデンサの電圧低下を好適に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】各スイッチの操作信号を生成する制御のブロック図。
【
図5】制御装置が行う制御の手順を示すフローチャート。
【
図9】補機電流供給制御の一例を示すタイムチャート。
【
図10】比較例における制御の一例を示すタイムチャート。
【
図11】第2実施形態に係る補機電流供給制御の一例を示す図。
【
図13】その他の実施形態に係る制御システムの構成図。
【
図15】その他の実施形態に係る制御システムの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る制御装置を具体化した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態において制御装置は、電気自動車やハイブリッド自動車等の電動車両に搭載されている。
【0014】
図1に車両100の概略構成を示す平面図を示し、
図2に車両100に搭載されている制御システムの構成図を示す。
図1,2に示すように、車両100は、回転電機10、蓄電池20及びインバータ30を備えている。回転電機10は車載主機であり、そのロータ11が車両の駆動輪12と動力伝達可能とされている。本実施形態では、回転電機10は、3相の同期機であり、ステータ巻線として星形結線されたU相巻線13U、V相巻線13V、W相巻線13Wを備えている。各相巻線13U,13V,13Wは、電気角で120°ずつずれて配置されている。回転電機10は、例えば永久磁石同期機である。
【0015】
蓄電池20は、インバータ30を介して回転電機10に電気的に接続されている。蓄電池20は、回転電機10に駆動電力を供給する電源である。本実施形態では、蓄電池20は、例えば単電池としての電池セルの直列接続体として構成された組電池である。電池セルとしては、例えば、リチウムイオン電池等の2次電池を用いることができる。蓄電池20の端子電圧は、例えば600~800Vである。
【0016】
インバータ30は、蓄電池20から供給される直流電力をスイッチング制御により3相交流電力に変換し、変換した交流電力を回転電機10へと供給する電力変換回路である。インバータ30の蓄電池20側には、第1コンデンサ21と、第2コンデンサ22とが設けられている。第1コンデンサ21及び第2コンデンサ22は、直列接続されている。第1,第2コンデンサ21,22の直列接続体には、蓄電池20が並列接続されている。本実施形態では、第1コンデンサ21の静電容量と、第2コンデンサ22の静電容量とは同一の値とされている。なお、第1コンデンサ21及び第2コンデンサ22はインバータ30の外部に設けられてもよいし、インバータ30に内蔵されていてもよい。
【0017】
本実施形態において、インバータ30は、T型の3レベルインバータである。インバータ30は、上アームスイッチSUH,SVH,SWHと、下アームスイッチSUL,SVL,SWLとの直列接続体を3相分備えている。各スイッチSUH~SWLとして、電圧制御形の半導体スイッチング素子が用いられており、具体的にはNチャネルMOSFETが用いられている。このため、各スイッチSUH~SWLの高電位側端子はドレインであり、低電位側端子はソースである。各スイッチSUH,SVH,SWH,SUL,SVL,SWLは、対応するボディダイオードDUH,DVH,DWH,DUL,DVL,DWLを有している。
【0018】
U相上アームスイッチSUHのソースは、U相下アームスイッチSULのドレインに接続されている。U相上アームスイッチSUHとU相下アームスイッチSULとの接続点は、U相巻線13Uの第1端に接続されている。V相上アームスイッチSVHのソースは、V相下アームスイッチSVLのドレインに接続されている。V相上アームスイッチSVHとV相下アームスイッチSVLとの接続点は、V相巻線13Vの第1端に接続されている。W相上アームスイッチSWHのソースは、W相下アームスイッチSWLのドレインに接続されている。W相上アームスイッチSWHとW相下アームスイッチSWLとの接続点は、W相巻線13Wの第1端に接続されている。各相巻線13U,13V,13Wの第2端は互いに接続されている。
【0019】
各上アームスイッチSUH~SWHのドレインは、バスバー等の正極側母線31により接続されている。正極側母線31は、蓄電池20の正極端子及び第1コンデンサ21の第1端に接続されている。第1コンデンサ21の第2端は、中性点Oを介して第2コンデンサ22の第1端に接続されている。各下アームスイッチSUL~SWLのソースは、バスバー等の負極側母線32により接続されている。負極側母線32は、蓄電池20の負極端子及び第2コンデンサ22の第2端に接続されている。
【0020】
インバータ30は、双方向での電流の導通及び遮断を行うクランプスイッチQU,QV,QWを備えている。本実施形態では、各クランプスイッチQU~QWを構成するスイッチとして、電圧制御形の半導体スイッチング素子が用いられており、具体的にはNチャネルMOSFETが用いられている。各クランプスイッチQU~QWを構成する各スイッチは、対応するボディダイオードDU,DV,DWを有している。
【0021】
具体的には、U相を例に説明すると、U相クランプスイッチQUを構成する各スイッチは、互いのソースが接続されている。U相クランプスイッチQUを構成する各スイッチのうち、一方のドレインは、U相上アームスイッチSUHとU相下アームスイッチSULとの接続点に接続され、他方のドレインは、中性点Oに接続されている。U,V,W相クランプスイッチQU~QWは、オンされている場合に双方向の電流の流通を許容し、オフされている場合に双方向の電流の流通を阻止する。
【0022】
車両100は、「電気機器」としてのDCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41を備えている。DCDCコンバータ40は、蓄電池20の出力電圧を降圧して図示しない低圧バッテリ(例えば、12Vの補機バッテリ)に電力を供給するために駆動される。電動コンプレッサ41は、車室内空調装置を構成し、車載冷凍サイクルの冷媒を循環させるべく、蓄電池20から給電されて駆動される。なお、車両100は、DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41以外に、加熱ヒータ等の構成を「電気機器」として備えていてもよい。加熱ヒータは、例えば、暖房用のPTCヒータである。
【0023】
本実施形態では、第2コンデンサ22にDCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41が並列接続されている。具体的には、第2コンデンサ22にDCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41が並列接続可能となるように、中性点Oに中性点端子42aが設けられており、負極側母線32に負極側端子43aが設けられている。各端子42a,43aは、インバータ30の外部の電気機器と、インバータ30とを接続するための外部端子である。電動コンプレッサ41の正極側は、中性点配線42を介して中性点端子42aに接続されている。DCDCコンバータ40の正極側は、中性点配線42に接続されている。電動コンプレッサ41の負極側は、負極側配線43を介して負極側端子43aに接続されている。DCDCコンバータ40の負極側は、負極側配線43に接続されている。これにより、蓄電池20にDCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41が並列接続される場合に比べて、DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41に印加される電圧が低減される。なお、本実施形態において、第2コンデンサ22が「対象コンデンサ」に相当する。
【0024】
なお、
図1及び
図2では、中性点配線42から分岐して中性点OとDCDCコンバータ40の正極側とが接続される構成を示したが、これに限られない。例えば、中性点Oに接続可能とするコネクタをインバータ30に複数設け、DCDCコンバータ40の正極側及び電動コンプレッサ41の正極側それぞれを、コネクタに接続する構成としてもよい。また、
図1及び
図2では、負極側配線43から分岐して蓄電池20の負極端子とDCDCコンバータ40の負極側に接続される構成を示したが、これに限られない。例えば、蓄電池20の負極端子に接続可能とするコネクタを蓄電池20に複数設け、DCDCコンバータ40の負極側及び電動コンプレッサ41の負極側それぞれを、コネクタに接続する構成としてもよい。
【0025】
車両100は、制御装置50、相電流センサ51、回転角センサ52、補機電流センサ53及び電圧センサ54を備えている。相電流センサ51は、回転電機10に流れるU,V,W相電流Iuvwを検出する。なお、相電流センサ51は、3相の電流のうち少なくとも2相の電流を検出できればよい。回転角センサ52は、例えばレゾルバであり、回転電機10の電気角θeを検出する。補機電流センサ53は、DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41に流れる電流を検出する。本実施形態では、補機電流センサ53は、中性点配線42に流れる電流を検出する。電圧センサ54は、第2コンデンサ22の端子電圧を検出する。各センサ51,52,53,54の検出値は、制御装置50に入力される。なお、車両100は、第1コンデンサ21の端子電圧を検出する電圧センサを備えていてもよい。
【0026】
制御装置50は、マイコン(「コンピュータ」に相当)を主体として構成され、マイコンは、CPUを備えている。マイコンが提供する機能は、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェアおよびそれを実行するコンピュータ、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供することができる。例えば、マイコンがハードウェアである電子回路によって提供される場合、それは多数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路によって提供することができる。例えば、マイコンは、自身が備える記憶部としての非遷移的実体的記録媒体(non-transitory tangible storage medium)に格納されたプログラムを実行する。プログラムには、例えば、
図5等に示す処理のプログラムが含まれる。プログラムが実行されることにより、プログラムに対応する方法が実行される。記憶部は、例えば不揮発性メモリである。なお、記憶部に記憶されたプログラムは、例えば、インターネット等のネットワークを介して更新可能である。
【0027】
制御装置50は、インバータ30の各スイッチSUH~SWL,QU~QWをオンオフさせる駆動指令を生成する。制御装置50は、生成した駆動指令に基づいて、対応する各スイッチSUH~SWL,QU~QWをオンオフする。以下では、
図3を参照しつつ、制御装置50による各スイッチSUH~SWL,QU~QWの駆動指令を生成する処理について説明する。
【0028】
制御装置50は、指令値設定部60を備えている。指令値設定部60には、図示しない上位制御装置から出力される指令トルクTrq*が入力される。指令値設定部60は、指令トルクTrq*に基づいて、2相回転座標系(dq座標系)におけるd軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を設定する。本実施形態では、指令値設定部60は、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を、最小電流最大トルク制御(MTPA)により設定する。
【0029】
制御装置50は、3相変換部61を備えている。3相変換部61には、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*が入力される。3相変換部61は、電気角θeに基づいて、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を、3相固定座標系におけるU,V,W相指令電流Iuvw*に変換する。なお、電気角θeとしては、回転角センサ52の検出値が用いられるとよい。
【0030】
制御装置50は、偏差算出部62を備えている。偏差算出部62には、U,V,W相指令電流Iuvw*及びU,V,W相電流Iuvwが入力される。偏差算出部62は、U相指令電流からU相電流を減算した値として、U相電流偏差を算出する。偏差算出部62は、V相指令電流からV相電流を減算した値として、V相電流偏差を算出する。偏差算出部62は、W相指令電流からW相電流を減算した値として、W相電流偏差を算出する。なお、U,V,W相電流Iuvwとしては、相電流センサ51の検出値が用いられるとよい。
【0031】
制御装置50は、フィードバック制御部63を備えている。フィードバック制御部63には、U,V,W相電流偏差が入力される。フィードバック制御部63は、U,V,W相電流偏差に基づいて、U,V,W相電流IuvwをU,V,W相指令電流Iuvw*にフィードバック制御するための操作量として、U,V,W相指令電圧Vuvwを算出する。なお、上記フィードバック制御は、例えば比例積分制御とすればよい。
【0032】
制御装置50は、変調部64を備えている。変調部64には、U,V,W相指令電圧Vuvwが入力される。変調部64は、U,V,W相指令電圧Vuvwに基づいて、インバータ30の各スイッチSUH~SWL,QU~QWの操作信号を生成する。変調部64は、例えば、空間ベクトル変調制御又は三角波比較PWM制御により、各スイッチSUH~SWL,QU~QWの操作信号を生成するとよい。
【0033】
ところで、蓄電池20を電力供給源としたDCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41への供給電流値が、DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41の要求電流値を下回ると、第2コンデンサ22の電圧が大きく低下し得る。その結果、第2コンデンサ22の電圧がDCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41の動作可能な下限電圧を下回り、DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41を適正に動作させることができなくなり得る。
【0034】
第2コンデンサ22の電圧低下を抑制するためには、第2コンデンサ22に給電する必要がある。ここで、コンデンサの直流成分のインピーダンスは非常に大きい。このため、第1コンデンサ21及び第2コンデンサ22の直列接続体が蓄電池20に並列接続されているものの、蓄電池20から第2コンデンサ22に直接供給できる電力は非常に小さい、又は蓄電池20から第2コンデンサ22に直接電力供給できない。蓄電池20から第2コンデンサ22へと十分に電力を供給するためには、各スイッチSUH~SWL,QU~QWの制御により、蓄電池20からインバータ30及び各相巻線13U~13Wを介して第2コンデンサ22に給電する必要がある。
【0035】
この点に鑑み、本実施形態では、
図4に示すように、制御装置50は、DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41の要求電流値の合計値(以下、要求電流値In)が大きいほど、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*から定まる指令電流ベクトルIaの大きさを増大させる。この場合、指令電流ベクトルIaの大きさが増大されることに伴い、第2コンデンサ22へと供給される電流が大きくなるように各スイッチSUH~SWL,QU~QWが制御される。
【0036】
回転電機10の駆動条件によっては、指令電流ベクトルIaの大きさが小さい各スイッチSUH~SWL,QU~QWの制御が行われ、蓄電池20を電力供給源としたDCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41への供給電流が要求電流値Inを下回ることがある。例えば、車両100の車速が低い状況や回転電機10のトルクが低い状況等の走行負荷が小さい状況では、指令電流ベクトルIaの大きさが小さくなり、DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41への供給電流が減少する。この場合、上記供給電流が要求電流値Inを下回る可能性がある。そこで、本実施形態では、蓄電池20を電力供給源としたDCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41への供給電流が要求電流値Inを下回る可能性のある状況では、意図的に指令電流ベクトルIaの大きさを増大させる。
【0037】
図5に、制御装置50が行う制御の手順を示す。この制御は、例えば、所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0038】
ステップS10では、蓄電池20を電力供給源としたDCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41への供給可能電流値Isが、DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41の要求電流値In以上であるか否かを判定する。本実施形態では、供給可能電流値Isとして、相電流センサ51の検出値に基づいて算出された値が用いられ、要求電流値Inとして、補機電流センサ53の検出値に基づいて算出された値が用いられる。ステップS10において肯定判定した場合、ステップS11に進む。一方、ステップS10において否定判定した場合、ステップS12に進む。
【0039】
なお、供給可能電流値Isとして、相電流センサ51の検出値以外に基づいて算出された値を用いてもよい。例えば、指令トルクTrq*や回転角センサ52の検出値に基づいて算出された値を用いてもよい。また、要求電流値Inとして、補機電流センサ53の検出値以外に基づいて算出された値を用いてもよい。例えば、要求電流値Inとして、予め設定された設定値を用いてもよい。この場合、DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41のうち動作している電気機器が多いほど、要求電流値Inは高い値に可変設定されるとよい。
【0040】
ステップS11では、通常インバータ制御を行う。本実施形態では、通常インバータ制御において、指令トルクTrq*を入力として、最小電流最大トルク制御(MTPA)によりd軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を設定する。設定したd軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*をU,V,W相指令電流Iuvw*に変換すると共に、U,V,W相指令電流Iuvw*をU,V,W相電流Iuvwフィードバック制御するための操作量としてU,V,W相指令電圧Vuvwを算出する。U,V,W相指令電圧Vuvwに基づいて、インバータ30の各スイッチSUH~SWL,QU~QWの操作信号を生成する。これにより、回転電機10のトルクが指令トルクTrq*に制御される。
【0041】
ステップS12では、補機電流供給制御を行う。補機電流供給制御は、通常インバータ制御よりも各相巻線13U~13Wに流す電流振幅を大きくするように、インバータ30の各スイッチSUH~SWL,QU~QWの操作信号を生成する制御である。本実施形態では、補機電流供給制御において、回転電機10のトルクを指令トルクTrq*に制御しつつ、指令電流ベクトルIaの大きさを、通常インバータ制御に比べて増大する。
【0042】
具体的には、補機電流供給制御において、各相巻線13U~13Wに流すd軸指令電流Id*を大きくすることにより、通常インバータ制御に比べて指令電流ベクトルIaの大きさを増大する。
図6に、通常インバータ制御における指令電流ベクトルIa1と、補機電流供給制御における指令電流ベクトルIa2,Ia3とを例示する。補機電流供給制御における指令電流ベクトルIa2,Ia3は、通常インバータ制御における指令電流ベクトルIa1に比べてd軸指令電流Id*が負側に増大されている。言い換えると、補機電流供給制御では、通常インバータ制御に比べて弱め界磁電流が大きくなるように、指令電流ベクトルIa2,Ia3が設定されている。これにより、補機電流供給制御における指令電流ベクトルIa2,Ia3の大きさが、通常インバータ制御における指令電流ベクトルIa1の大きさに比べて増大される。
【0043】
なお、補機電流供給制御において、先の
図4において説明したように、要求電流値Inが大きいほど、指令電流ベクトルIaの大きさを増大するとよい。例えば、
図6に示すように、補機電流供給制御における指令電流ベクトルを、要求電流値Inが小さい場合はIa2とし、要求電流値Inが大きい場合はIa2に比べてd軸指令電流Id*を負側に増大したIa3とするとよい。
【0044】
補機電流供給制御において、d軸指令電流Id*が増大させられると共に、各相巻線13U~13Wに流すd,q軸電流で定まる動作点が、通常インバータ制御における回転電機10の等トルク曲線上になるように、各スイッチSUH~SWL,QU~QWを制御するとよい。例えば、
図6に示すように、補機電流供給制御における指令電流ベクトルIa2,Ia3を、通常インバータ制御における指令電流ベクトルIa1の等トルク曲線A上に制御するとよい。
【0045】
補機電流供給制御において、回転電機10のロータ11を回転駆動させず、ロータ11を回転停止状態にする場合、各相巻線13U~13Wにd,q軸電流のうちd軸電流のみを流すように各スイッチSUH~SWL,QU~QWを制御するとよい。この場合、
図6に示すように、補機電流供給制御における指令電流ベクトルIbがd軸上に制御される。これにより、各相巻線13U~13Wに流れるq軸電流が0にされ、回転電機10のロータ11が回転することを抑制しつつ、各相巻線13U~13Wに流す電流を大きくできる。なお、補機電流供給制御における指令電流ベクトルIbを、ロータ11の回転駆動が許容される範囲内で、q軸電流が0以外の値になるように制御してもよい。
【0046】
制御装置50は、補機電流供給制御において、回転電機10のロータ11を回転停止状態にする場合、U,V,W相クランプスイッチQU,QV,QWのうち、回転電機10の電気角θeに応じて定まる特定相におけるクランプスイッチをオンし、各相における下アームスイッチSUL,SVL,SWLをオフすると共に、各相のうち特定相以外の相における上アームスイッチをオンオフすることにより、各相巻線13U~13Wにd軸電流を流す。
【0047】
図7及び
図8に、回転電機10のロータ11を回転停止状態にする場合における補機電流供給制御の一例を示す。ここでは、特定相がU相である場合について説明する。
【0048】
特定相がU相である場合、U相クランプスイッチQUがオンされ、V,W相クランプスイッチQV,QW、各相下アームスイッチSUL~SWL及びU相上アームスイッチSUHがオフされ、V,W相上アームスイッチSVH,SWHがオンオフされる。
【0049】
図7に、V,W相上アームスイッチSVH,SWHがオンされる場合の電流経路を示す。この場合、第1コンデンサ21、V,W相上アームスイッチSVH,SWL、各相巻線13U~13W、U相クランプスイッチQUを含む閉回路に電流が流れる。これにより、各相巻線13U,13V,13Wに磁気エネルギが蓄積される。
【0050】
図8に、V,W相上アームスイッチSVH,SWHがオフされる場合の電流経路を示す。この場合、第2コンデンサ22、DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41、V,W相下アームダイオードDVL,DWL、各相巻線13U~13W及びU相クランプスイッチQUを含む閉回路が形成され、各相巻線13U,13V,13Wに蓄積された磁気エネルギが放出されることにより電流が流れる。これにより、第2コンデンサ22、DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41が給電される。
【0051】
なお、特定相がV相である場合、V相クランプスイッチQVがオンされ、U,W相クランプスイッチQU,QW、各相下アームスイッチSUL~SWL及びV相上アームスイッチSVHがオフされ、U,W相上アームスイッチSUH,SWHがオンオフされる。特定相がW相である場合、W相クランプスイッチQWがオンされ、U,V相クランプスイッチQU,QV、各相下アームスイッチSUL~SWL及びW相上アームスイッチSWHがオフされ、U,V相上アームスイッチSUH,SVHがオンオフされる。
【0052】
特定相がU,V相である場合、U,V相クランプスイッチQU,QVがオンされ、W相クランプスイッチQW、各相下アームスイッチSUL~SWL及びU,V相上アームスイッチSUH,SVHがオフされ、W相上アームスイッチSWHがオンオフされる。特定相がV,W相である場合、V,W相クランプスイッチQV,QWがオンされ、U相クランプスイッチQU、各相下アームスイッチSUL~SWL及びV,W相上アームスイッチSVH,SWHがオフされ、U相上アームスイッチSUHがオンオフされる。特定相がU,W相である場合、U,W相クランプスイッチQU,QWがオンされ、V相クランプスイッチQV、各相下アームスイッチSUL~SWL及びU,W相上アームスイッチSUH,SWHがオフされ、V相上アームスイッチSVHがオンオフされる。
【0053】
特定相は、補機電流供給制御の実施中において、不変とは限らず、可変とされる場合もある。例えば、補機電流供給制御の1スイッチング周期のうち、半分の期間はU相が特定相となるように操作信号が生成され、残りの期間はU,V相が特定相となるように操作信号が生成される場合もある。補機電流供給制御の実施中において特定相が可変とされるのは、ロータ11の位置によっては、特定相がU相、V相、W相、U,V相、V,W相又はU,W相に固定されるように操作信号が生成されると、q軸電流が0にならない可能性があるためである。
【0054】
続いて、
図9に、補機電流供給制御における各波形の一例を示す。
図9において、(a)はU相巻線13Uに印加される電圧の推移を示し、(b)はV相巻線13Vに印加される電圧の推移を示し、(c)はW相巻線13Wに印加される電圧の推移を示し、(d)は、各相巻線13U~13Wに流れる電流の推移を示し、(e)は第2コンデンサ22の端子電圧の推移を示し、(f)はDCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41に流れる補機電流の推移を示す。なお、
図9において、(a)~(c)では、蓄電池20の負極端子を基準電位(0V)とした場合における各相電圧を示し、(d)では、実線にてU相巻線13Uに流れる電流を示し、破線にてV,W相巻線13V,13Wに流れる電流を示す。
【0055】
補機電流供給制御の実施により、各相巻線13U~13Wに流れる電流が大きくされ、第2コンデンサ22の端子電圧の大きな低下が抑制されている。ここで、第2コンデンサ22の端子電圧は、第1コンデンサ21及び第2コンデンサ22の直列接続体における端子電圧(例えば800V)の中央値Vo(例えば400V)を含む適正電圧範囲内に制御されることが好ましい。適正電圧範囲の上限電圧は、DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41への印加電圧の許容値に基づいて定められるとよく、適正電圧範囲の下限電圧は、DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41の動作可能な電圧に基づいて定められるとよい。なお、適正電圧範囲は、各スイッチSUH~SWL,QU~QWの耐圧に基づいて定められていてもよい。
【0056】
図10には、本実施形態とは異なり、比較例として、指令トルクTrq*が0である場合の通常インバータ制御の各波形を示す。
図10(a)~(f)は、
図9(a)~(f)に対応している。
【0057】
通常インバータ制御において指令トルクTrq*が0である場合、例えば、各相において同じ電圧を出力するように各スイッチSUH~SWL,QU~QWが同期してオンオフされ、各相巻線13U~13Wに流れる電流が0とされる。なお、
図10(a)~(c)では、各相クランプスイッチQU~QWと、各相下アームスイッチSUL~SWLとが交互にオンされる場合の各相電圧の推移を示している。
【0058】
各相巻線13U~13Wに流れる電流が0となる状況では、蓄電池20からインバータ30及び各相巻線13U~13Wを介して第2コンデンサ22に給電されないため、第2コンデンサ22の端子電圧の電圧低下が生じる。その結果、DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41に電流を供給できなくなる可能性が生じる。
【0059】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0060】
蓄電池20を電力供給源としたDCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41への供給可能電流値IsがDCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41の要求電流値In未満であると判定された場合、供給可能電流値Isが要求電流値In以上であると判定される場合よりも各相巻線13U~13Wに流す電流を大きくする各スイッチSUH~SWL,QU~QWの制御が行われる。各相巻線13U~13Wに流す電流値が大きくなると、例えば1電気角周期において第2コンデンサ22に電流が供給される期間が長くなり、第2コンデンサ22に供給可能な電流値も大きくなる。このため、本実施形態によれば、第2コンデンサ22の電圧低下を抑制することができる。
【0061】
DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41の要求電流値Inが大きいほど、指令電流ベクトルIaの大きさが増大させられる。この場合、指令電流ベクトルIaの大きさが増大させられることに伴い、第2コンデンサ22へと供給される電流が大きくなるように各スイッチSUH~SWL,QU~QWが制御される。これにより、要求電流値Inの増加に伴いDCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41への供給電流値が増大させられるため、第2コンデンサ22の電圧低下を好適に抑制できる。
【0062】
供給可能電流値Isが要求電流値In未満であると判定された場合、供給可能電流値Isが要求電流値In以上であると判定される場合よりも各相巻線13U~13Wに流すd軸電流値を大きくするように各スイッチSUH~SWL,QU~QWが制御される。これにより、d軸電流を意図的に増加させてDCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41への供給電流値を増加させることができる。また、d軸電流値の増大によりトルクの生成に寄与しない無効電流が増大するため、ロータ11の実際のトルクが指令トルクTrq*から大きくずれることを抑制することが可能となる。
【0063】
d軸電流値を大きくするように各スイッチSUH~SWL,QU~QWが制御されると共に、各相巻線13U~13Wに流すd,q軸電流で定まる動作点が、供給可能電流値Isが要求電流値In以上であると判定される場合における回転電機10の等トルク曲線上になるように、各スイッチSUH~SWL,QU~QWが制御される。これにより、第2コンデンサ22の電圧低下を抑制しつつ、回転電機10のトルク変動を抑制でき、車両100のユーザに違和感を与えることを抑制できる。
【0064】
車両100の停車時は回転電機10のロータ11を回転させないため、各相巻線13U~13Wに流せる電流値が小さい。そこで、ロータ11を回転駆動させない場合における補機電流供給制御においてd軸電流が流れるようにすることにより、電流ベクトルを増加させ、各相巻線13U~13Wに流せる電流値を大きくした。その結果、第2コンデンサ22に供給可能な電力を停車時においても確保することができる。
【0065】
ロータ11を回転停止状態に維持する場合における補機電流供給制御においてq軸電流を0とした。これにより、ロータ11の回転が抑制され、車両100の停車状態を保持でき、車両100のユーザに違和感を与えることを抑制できる。
【0066】
<第2実施形態>
以下、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、第2コンデンサ22に代えて、第1コンデンサ21(「対象コンデンサ」に相当)にDCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41が並列接続されている。
【0067】
第1コンデンサ21にDCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41が並列接続されている場合、蓄電池20を電力供給源としたDCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41への供給電流値が、DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41の要求電流値Inを下回ると、第1コンデンサ21の電圧が大きく低下し得る。その結果、DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41を適正に動作させることができなくなり得る。
【0068】
そこで、本実施形態では、制御装置50は、各スイッチSUH~SWL,QU~QWの制御により、蓄電池20からインバータ30及び各相巻線13U~13Wを介して第1コンデンサ21を給電する。この際、制御装置50は、先の
図4に示したように、DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41の要求電流値Inが大きいほど、指令電流ベクトルIaの大きさを増大させるとよい。制御装置50は、先の
図5,6で説明したように、供給可能電流値Isが要求電流値In未満であると判定した場合、補機電流供給制御を行うとよい。
【0069】
本実施形態では、制御装置50は、補機電流供給制御において、回転電機10のロータ11を回転停止状態に維持する場合、回転電機10の電気角θeに応じて定まる特定相におけるクランプスイッチをオンし、各相における上アームスイッチをオフすると共に、各相のうち特定相以外の相における下アームスイッチをオンオフすることにより、各相巻線13U~13Wにd軸電流を流す。
【0070】
図11及び
図12に、ロータ11を回転停止状態にする場合における補機電流供給制御の一例を示す。ここでは、第1コンデンサ21にDCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41が並列接続可能となるように、正極側母線31に正極側端子44aが設けられている。正極側端子44aは、インバータ30の外部の電気機器と、インバータ30とを接続するための外部端子である。電動コンプレッサ41の正極側は、正極側配線44を介して正極側端子44aに接続されている。DCDCコンバータ40の正極側は、正極側配線44に接続されている。電動コンプレッサ41の負極側は、中性点配線42を介して中性点端子42aに接続されている。DCDCコンバータ40の負極側は、中性点配線42に接続されている。以下では、特定相がU相である場合について説明する。
【0071】
特定相がU相である場合、U相クランプスイッチQUがオンされ、V,W相クランプスイッチQV,QW、各相上アームスイッチSUH~SWH及びU相下アームスイッチSULがオフされ、V,W相下アームスイッチSVL,SWLがオンオフされる。
【0072】
図11に、V,W相下アームスイッチSVL,SWLがオンされる場合の電流経路を示す。この場合、第2コンデンサ22、U相クランプスイッチQU、各相巻線13U~13W、V,W相下アームスイッチSVL,SWLを含む閉回路に電流が流れる。これにより、各相巻線13U,13V,13Wに磁気エネルギが蓄積される。
【0073】
図12に、V,W相下アームスイッチSVL,SWLがオフされる場合の電流経路を示す。この場合、第1コンデンサ21、DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41、U相クランプスイッチQU、各相巻線13U~13W、V,W相上アームダイオードDVH,DWHを含む閉回路が形成され、各相巻線13U,13V,13Wに蓄積された磁気エネルギが放出されることにより電流が流れる。これにより、第1コンデンサ21、DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41が給電される。
【0074】
なお、特定相がV相である場合、V相クランプスイッチQVがオンされ、U,W相クランプスイッチQU,QW、各相上アームスイッチSUH~SWH及びV相下アームスイッチSVLがオフされ、U,W相下アームスイッチSUL,SWLがオンオフされる。特定相がW相である場合、W相クランプスイッチQWがオンされ、U,V相クランプスイッチQU,QV、各相上アームスイッチSUH~SWH及びW相下アームスイッチSWLがオフされ、U,V相下アームスイッチSUL,SVLがオンオフされる。
【0075】
特定相がU,V相である場合、U,V相クランプスイッチQU,QVがオンされ、W相クランプスイッチQW、各相上アームスイッチSUH~SWH及びU,V相下アームスイッチSUL,SVLがオフされ、W相下アームスイッチSWLがオンオフされる。特定相がV,W相である場合、V,W相クランプスイッチQV,QWがオンされ、U相クランプスイッチQU、各相上アームスイッチSUH~SWH及びV,W相下アームスイッチSVL,SWLがオフされ、U相下アームスイッチSULがオンオフされる。特定相がU,W相である場合、U,W相クランプスイッチQU,QWがオンされ、V相クランプスイッチQV、各相上アームスイッチSUH~SWH及びU,W相下アームスイッチSUL,SWLがオフされ、V相下アームスイッチSVLがオンオフされる。
【0076】
なお、第1実施形態と同様に、特定相は、補機電流供給制御の実施中において、不変とは限らず、可変とされてもよい。
【0077】
<その他の実施形態>
上記実施形態を例えば次のように変更してもよい。
【0078】
・制御装置50は、補機電流供給制御のフィードバック制御において、指令電流ベクトルを周期的に変化させるように設定してもよい。この場合、例えば、制御装置50は、補機電流供給制御において、指令電流ベクトルとして、先の
図6に示したIa2とIa3とを交互に設定するとよい。
【0079】
・インバータ30は、T型の3レベルインバータに限らず、例えば中性点クランプ型の3レベルインバータであってもよい。
図13に示すように、インバータ30は、U相第1~第4スイッチSu1~Su4、V相第1~第4スイッチSv1~Sv4、W相第1~第4スイッチSw1~Sw4及び第1~第6クランプダイオードDc1~Dc6を備えている。本実施形態では、各スイッチSu1~Su4,Sv1~Sv4、Sw1~Sw4として、電圧制御形の半導体スイッチング素子を用いており、より具体的にはIGBTを用いている。この場合、スイッチSu1~Su4,Sv1~Sv4、Sw1~Sw4の高電位側端子がコレクタであり、低電位側端子がエミッタである。なお、
図13において、先の
図2に示した構成と同一の構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0080】
U相第1~第4スイッチSu1~Su4は、エミッタとコレクタとが接続される形で直列接続されている。U相第1スイッチSu1のコレクタには、正極側母線31を介して蓄電池20の正極端子が接続され、U相第4スイッチSu4のエミッタには、負極側母線32を介して蓄電池20の負極端子が接続されている。U相第2スイッチSu2とU相第3スイッチSu3との接続点は、回転電機10のU相巻線13Uの第1端に接続されている。また、U相第1スイッチSu1とU相第2スイッチSu2との接続点には、第1クランプダイオードDc1のカソードが接続され、第1クランプダイオードDc1のアノードには、第2クランプダイオードDc2のカソードが接続されている。第2クランプダイオードDc2のアノードには、U相第3スイッチSu3とU相第4スイッチSu4との接続点が接続されている。なお、U相の各スイッチSu1,Su2,Su3,Su4には、フリーホイールダイオードDu1,Du2,Du3,Du4が逆並列に接続されている。
【0081】
V相第1~第4スイッチSv1~Sv4は、エミッタとコレクタとが接続される形で直列接続されている。V相第1スイッチSv1のコレクタには、正極側母線31を介して蓄電池20の正極端子が接続され、V相第4スイッチSv4のエミッタには、負極側母線32を介して蓄電池20の負極端子が接続されている。V相第2スイッチSv2とV相第3スイッチSv3との接続点は、回転電機10のV相巻線13Vの第1端に接続されている。また、V相第1スイッチSv1とV相第2スイッチSv2との接続点には、第3クランプダイオードDc3のカソードが接続され、第3クランプダイオードDc3のアノードには、第4クランプダイオードDc4のカソードが接続されている。第4クランプダイオードDc4のアノードには、V相第3スイッチSv3とV相第4スイッチSv4との接続点が接続されている。なお、V相の各スイッチSv1,Sv2,Sv3,Sv4には、フリーホイールダイオードDv1,Dv2,Dv3,Dv4が逆並列に接続されている。
【0082】
W相第1~第4スイッチSw1~Sw4は、エミッタとコレクタとが接続される形で直列接続されている。W相第1スイッチSw1のコレクタには、正極側母線31を介して蓄電池20の正極端子が接続され、W相第4スイッチSw4のエミッタには、負極側母線32を介して蓄電池20の負極端子が接続されている。W相第2スイッチSw2とW相第3スイッチSw3との接続点は、回転電機10のW相巻線13Wの第1端に接続されている。また、W相第1スイッチSw1とW相第2スイッチSw2との接続点には、第5クランプダイオードDc5のカソードが接続され、第5クランプダイオードDc5のアノードには、第6クランプダイオードDc6のカソードが接続されている。第6クランプダイオードDc6のアノードには、W相第3スイッチSw3とW相第4スイッチSw4との接続点が接続されている。なお、W相の各スイッチSw1,Sw2,Sw3,Sw4には、フリーホイールダイオードDw1,Dw2,Dw3,Dw4が逆並列に接続されている。
【0083】
第1クランプダイオードDc1及び第2クランプダイオードDc2の接続点、第3クランプダイオードDc3及び第4クランプダイオードDc4の接続点、並びに第5クランプダイオードDc5及び第6クランプダイオードDc6の接続点には、中性点Oが接続されている。
【0084】
なお、制御装置50は、第1実施形態と同様に、DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41の要求電流値Inが大きいほど、指令電流ベクトルIaの大きさを増大するように、各スイッチSu1~Su4,Sv1~Sv4、Sw1~Sw4を制御するとよい。制御装置50は、第1実施形態と同様に、供給可能電流値Isが要求電流値In未満であると判定された場合、補機電流供給制御を行うとよい。
【0085】
・蓄電池20、インバータ30、DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41の接続態様を変更してもよい。例えば、
図14に示すように、中性点配線42を介してインバータ30の中性点OとDCDCコンバータ40とが接続され、負極側配線43を介して負極側母線32とDCDCコンバータ40とが接続されている構成において、電動コンプレッサ41は、DCDCコンバータ40に接続されていてもよい。この場合、DCDCコンバータ40には、中性点配線42に接続可能とするコネクタと負極側配線43に接続可能とするコネクタとが設けられており、電動コンプレッサ41をDCDCコンバータ40に接続可能に構成するとよい。
【0086】
・インバータとしては、4レベル以上のマルチレベルインバータであってもよい。
図15には、5レベルインバータ70のうち、U相アームのみを示している。なお、
図15において、制御装置の図示を省略し、先の
図2に示した構成と同一の構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0087】
インバータ70は、第1~第8スイッチS1~S8と、第1~第4コンデンサ71~74とを備えている。本実施形態では、各スイッチS1~S8としてIGBTを用いている。各スイッチS1,S2,S3,S4,S5,S6,S7,S8には、各フリーホイールダイオードD1,D2,D3,D4,D5,D6,D7,D8が逆並列に接続されている。
【0088】
第1~第4スイッチS1~S4は、エミッタとコレクタとが接続される形で直列接続されている。第1~第4スイッチS1~S4の直列接続体には、第1~第4コンデンサ71~74の直列接続体が並列接続されている。第1~第4コンデンサ71~74の直列接続体には、蓄電池20が並列接続されている。具体的には、蓄電池20の正極端子、第1スイッチS1のコレクタ及び第1コンデンサ71の正極側端子は、バスバー等の正極側母線75により接続されている。蓄電池20の負極端子、第4スイッチS4のエミッタ及び第4コンデンサ74の負極側端子は、バスバー等の負極側母線76により接続されている。
【0089】
第1スイッチS1と第2スイッチS2との接続点には、第5スイッチS5のコレクタが接続されている。第5スイッチS5のエミッタには、第6スイッチS6のコレクタが接続されている。第6スイッチS6のエミッタには、第3スイッチS3と第4スイッチS4との接続点が接続されている。第5スイッチS5と第6スイッチS6との接続点には、図示しないU相巻線13Uの第1端が接続されている。
【0090】
第7スイッチS7を構成する各スイッチは、互いのエミッタが接続されている。第7スイッチS7を構成する各スイッチのうち、一方のコレクタは、第1スイッチS1と第2スイッチS2との接続点に接続され、他方のコレクタは、第1コンデンサ71と第2コンデンサ72との接続点に接続されている。第8スイッチS8を構成する各スイッチは、互いのエミッタが接続されている。第8スイッチS8を構成する各スイッチのうち、一方のコレクタは、第3スイッチS3と第4スイッチS4との接続点に接続され、他方のコレクタは、第3コンデンサ73と第4コンデンサ74との接続点に接続されている。第2スイッチS2と第3スイッチS3との接続点は、第2コンデンサ72と第3コンデンサ73との接続点に接続されている。
【0091】
本実施形態では、「対象コンデンサ」としての第4コンデンサ74にDCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41が並列接続されている。具体的には、電動コンプレッサ41の正極側は、中性点配線42を介して第3コンデンサ73と第4コンデンサ74との接続点に接続され、電動コンプレッサ41の負極側は、負極側配線43を介して負極側母線76に接続されている。DCDCコンバータ40の正極側は中性点配線42に接続され、DCDCコンバータ40の負極側は負極側配線43に接続されている。この場合、制御装置は、第4コンデンサ74の電圧が大きく低下し得ることに鑑みて、各スイッチS1~S8の制御を行うとよい。
【0092】
なお、第1~第4コンデンサ71~74のうち第4コンデンサ74以外のコンデンサにDCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41が並列接続されてもよい。また、第1~第4コンデンサ71~74のうちいずれか2つ又は3つを含むコンデンサの直列接続体に、DCDCコンバータ40及び電動コンプレッサ41が並列接続されてもよい。
【0093】
・第1実施形態及び第2実施形態において、各相クランプスイッチとしては、互いのソースが接続されることに代えて、互いのドレインが接続されていてもよい。この場合、例えば、U相クランプスイッチQUを構成する各スイッチのうち、一方のソースは、U相上アームスイッチSUHとU相下アームスイッチSULとの接続点に接続され、他方のソースは、中性点Oに接続されればよい。
【0094】
・第1実施形態において、インバータ30を構成する半導体スイッチとしては、NチャネルMOSFETに限らず、例えば、IGBTであってもよい。また、先の
図13及び
図15に示した構成において、インバータを構成する半導体スイッチとしては、IGBTに限らず、NチャネルMOSFETであってもよい。
【0095】
・回転電機としては、各相の巻線が星形結線されるものに限らず、Δ結線されるものであってもよい。また、回転電機及びインバータとしては、3相のものに限らず、2相のもの、又は4相以上のものであってもよい。
【0096】
・インバータ、回転電機及び制御装置の搭載先としては、車両に限られず、例えば航空機又は船舶等の移動体であってもよい。移動体が航空機の場合、回転電機は航空機の飛行動力源となり、移動体が船舶の場合、回転電機は船舶の航行動力源となる。また、インバータ、回転電機及び制御装置の搭載先としては、移動体に限られない。
【0097】
・本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0098】
・以下、上述した各実施形態から抽出される特徴的な構成を記載する。
[構成1]
直列接続された複数のコンデンサ(21,22,71~74)と、
前記コンデンサと回転電機(10)の電機子巻線(13U~13W)とに電気的に接続されるスイッチ(SUH~SWL,QU~QW,Su1~Sw4,S1~S8)と、を備えるマルチレベルインバータ(30,70)に適用され、
複数の前記コンデンサの直列接続体から出力可能な複数の電圧のうちいずれかの電圧を出力するように前記スイッチを制御するマルチレベルインバータの制御装置(50)において、
複数の前記コンデンサの直列接続体は、電源(20)に並列接続可能とされており、
複数の前記コンデンサのうち一部のコンデンサである対象コンデンサに電気機器(40,41)が並列接続可能とされており、
前記電気機器への供給可能電流値が、前記電気機器の要求電流値未満であるか否かを判定する判定部と、
前記供給可能電流値が前記要求電流値未満であると判定された場合、前記供給可能電流値が前記要求電流値以上であると判定される場合よりも前記電機子巻線に流す電流を大きくするように前記スイッチを制御する制御部と、を備える、マルチレベルインバータの制御装置。
[構成2]
前記制御部は、前記要求電流値が大きいほど、前記電源から前記マルチレベルインバータ及び前記電機子巻線を介して前記対象コンデンサへと供給される電流値を大きくするように前記スイッチを制御する、構成1に記載のマルチレベルインバータの制御装置。
[構成3]
直列接続された複数のコンデンサ(21,22,71~74)と、
前記コンデンサと回転電機(10)の電機子巻線(13U~13W)とに電気的に接続されるスイッチ(SUH~SWL,QU~QW,Su1~Sw4,S1~S8)と、を備えるマルチレベルインバータ(30,70)に適用され、
複数の前記コンデンサの直列接続体から出力可能な複数の電圧のうちいずれかの電圧を出力するように前記スイッチを制御するマルチレベルインバータの制御装置(50)において、
複数の前記コンデンサの直列接続体は、電源(20)に並列接続可能とされており、
複数の前記コンデンサのうち一部のコンデンサである対象コンデンサに電気機器(40,41)が並列接続可能とされており、
前記電気機器の要求電流値が大きいほど、前記電源から前記マルチレベルインバータ及び前記電機子巻線を介して前記対象コンデンサへと供給される電流値を大きくするように前記スイッチを制御する制御部を備える、マルチレベルインバータの制御装置。
[構成4]
前記制御部は、前記供給可能電流値が前記要求電流値未満であると判定された場合、前記供給可能電流値が前記要求電流値以上であると判定される場合よりも前記電機子巻線に流すd軸電流値を大きくするように前記スイッチを制御する、構成1又は2に記載のマルチレベルインバータの制御装置。
[構成5]
前記制御部は、前記供給可能電流値が前記要求電流値未満であると判定された場合、前記d軸電流値を大きくするように前記スイッチを制御するとともに、前記電機子巻線に流すd,q軸電流で定まる動作点が、前記供給可能電流値が前記要求電流値以上であると判定される場合における前記回転電機の等トルク曲線上になるように、前記スイッチを制御する、構成4に記載のマルチレベルインバータの制御装置。
[構成6]
前記マルチレベルインバータは、
前記コンデンサとして、第1コンデンサ(21)及び第2コンデンサ(22)を備えるとともに、
前記スイッチとして、前記電機子巻線を、前記第1コンデンサの正極側と、前記第1コンデンサの負極側及び前記第2コンデンサの正極側の間の中性点と、前記第2コンデンサの負極側とのうちいずれかに電気的に接続するスイッチ(SUH~SWL,QU~QW,Su1~Sw4)と、を備える3レベルインバータであり、
前記第1コンデンサ及び前記第2コンデンサの直列接続体から出力可能な3つの電圧のうちいずれかの電圧を出力するように前記スイッチを制御する、構成1~5のいずれか1つに記載のマルチレベルインバータの制御装置。
[構成7]
前記制御部は、前記回転電機のロータ(11)を回転停止状態に維持する場合において前記供給可能電流値が前記要求電流値未満であると判定されたとき、前記電機子巻線にd軸電流を流しつつ、前記電機子巻線に流すq軸電流を0又は0付近の値とするように前記スイッチを制御する、構成1,2,4,5のいずれか1つに記載のマルチレベルインバータの制御装置。
[構成8]
前記マルチレベルインバータは、
前記コンデンサとして、第1コンデンサ(21)及び第2コンデンサ(22)を備えるとともに、
前記スイッチとして、
直列接続された上アームスイッチ(SUH~SWH)及び下アームスイッチ(SUL~SWL)と、
前記第1コンデンサの負極側及び前記第2コンデンサの正極側の間の中性点、及び前記電機子巻線の間に流れる電流の導通及び遮断を切り替えるクランプスイッチ(QU~QW)と、を相数分備える3レベルインバータであり、
前記制御装置は、前記第1コンデンサ及び前記第2コンデンサの直列接続体から出力可能な3つの電圧のうちいずれかの電圧を出力するように前記スイッチを制御し、
前記対象コンデンサは、前記第2コンデンサであり、
前記制御部は、前記回転電機の電気角に応じて定まる特定相における前記クランプスイッチをオンし、各相における下アームスイッチをオフするとともに、各相のうち前記特定相以外の相における上アームスイッチをオンオフすることにより、前記電機子巻線にd軸電流を流す、構成7に記載のマルチレベルインバータの制御装置。
[構成9]
前記マルチレベルインバータは、
前記コンデンサとして、第1コンデンサ(21)及び第2コンデンサ(22)を備えるとともに、
前記スイッチとして、
直列接続された上アームスイッチ(SUH~SWH)及び下アームスイッチ(SUL~SWL)と、
前記第1コンデンサの負極側及び前記第2コンデンサの正極側の間の中性点、及び前記電機子巻線の間に流れる電流の導通及び遮断を切り替えるクランプスイッチ(QU~QW)と、を相数分備える3レベルインバータであり、
前記制御装置は、前記第1コンデンサ及び前記第2コンデンサの直列接続体から出力可能な3つの電圧のうちいずれかの電圧を出力するように前記スイッチを制御し、
前記対象コンデンサは、前記第1コンデンサであり、
前記制御部は、前記回転電機の電気角に応じて定まる特定相における前記クランプスイッチをオンし、各相における上アームスイッチをオフすると共に、各相のうち前記特定相以外の相における下アームスイッチをオンオフすることにより、前記電機子巻線にd軸電流を流す、構成7に記載のマルチレベルインバータの制御装置。
【符号の説明】
【0099】
10…回転電機、13U~13W…U~W相巻線、20…蓄電池、21,22…第1,第2コンデンサ、30…インバータ、40…DCDCコンバータ、41…電動コンプレッサ、50…制御装置、SUH~SWH…U~W相上アームスイッチ、SUL~SWL…U~W相下アームスイッチ、QU~QW…U~W相クランプスイッチ。