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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078299
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】放熱部材、および放熱部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 7/06 20060101AFI20240603BHJP
   C22C 1/05 20230101ALI20240603BHJP
   B22F 7/00 20060101ALI20240603BHJP
   B22F 1/052 20220101ALI20240603BHJP
【FI】
B22F7/06 D
C22C1/05 P
B22F7/00 Z
B22F1/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190756
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】曽田 智恵子
(72)【発明者】
【氏名】岩山 功
(72)【発明者】
【氏名】山形 伸一
(72)【発明者】
【氏名】西水 貴洋
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AB07
4K018AC01
4K018AD17
4K018BA01
4K018BA03
4K018BA20
4K018BB04
4K018BC12
4K018BC32
4K018CA44
4K018DA19
4K018EA01
4K018JA01
4K018JA09
4K018KA70
(57)【要約】
【課題】複合材料からなる基材と基材の表面に設けられた金属層との密着性が高く、かつ、熱伝導率が高い放熱部材を提供する。
【解決手段】複合材料によって構成された基材と、前記基材の表面に設けられた金属層とを備え、前記基材は、複数の被覆ダイヤモンド粒子と、前記複数の被覆ダイヤモンド粒子を結合する結合相とを含み、前記被覆ダイヤモンド粒子は、ダイヤモンドからなるコアと、前記コアの表面を覆う炭化物層とを有し、前記結合相は、金属によって構成されており、前記金属層の表面に垂直な断面において、前記複数の被覆ダイヤモンド粒子のうち、粒径が80μm以上である第一粒子と前記金属層との第一界面における前記炭化物層の被覆率が80%以上であり、前記基材と前記金属層との境界領域中における銀と銅との合計含有量に対する銀の含有割合が98原子%以上であり、熱伝導率が780W/m・K以上である、放熱部材。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材料によって構成された基材と、
前記基材の表面に設けられた金属層とを備え、
前記基材は、
複数の被覆ダイヤモンド粒子と、
前記複数の被覆ダイヤモンド粒子を結合する結合相とを含み、
前記被覆ダイヤモンド粒子は、
ダイヤモンドからなるコアと、
前記コアの表面を覆う炭化物層とを有し、
前記結合相は、金属によって構成されており、
前記金属層の表面に垂直な断面において、前記複数の被覆ダイヤモンド粒子のうち、粒径が80μm以上である第一粒子と前記金属層との第一界面における前記炭化物層の被覆率が80%以上であり、
前記基材と前記金属層との境界領域中における銀と銅との合計含有量に対する銀の含有割合が98原子%以上であり、
熱伝導率が780W/m・K以上である、
放熱部材。
【請求項2】
前記炭化物層は、ジルコニウム、クロム、チタン、シリコン、タンタルおよびニオブからなる群より選択される少なくとも1つの第一元素を含む炭化物からなる、請求項1に記載の放熱部材。
【請求項3】
前記断面において、基準線と前記金属層の表面との間に前記第一元素が存在し、
前記基準線は、前記第一粒子の最も突出した位置を通り、かつ前記金属層の表面と平行な線分である、請求項2に記載の放熱部材。
【請求項4】
前記第一元素がチタンであり、
前記金属層の構成材料が銀であり、
前記結合相の構成材料が銀である、請求項2または請求項3に記載の放熱部材。
【請求項5】
前記境界領域中における前記第一元素の含有量は、前記境界領域の組成を100原子%として、1.2原子%未満である、請求項2または請求項3に記載の放熱部材。
【請求項6】
前記金属層の表面の算術平均粗さRaが2.0μm以下である、請求項1または請求項2に記載の放熱部材。
【請求項7】
前記金属層の厚さが3μm以上200μm以下である、請求項1または請求項2に記載の放熱部材。
【請求項8】
前記複数の被覆ダイヤモンド粒子は、粒径が80μm未満である第二粒子を含み、
前記断面において、前記第二粒子の間に挟まれる前記第一粒子の突出量が10μm以下である、請求項1または請求項2に記載の放熱部材。
【請求項9】
複合材料によって構成された基材を準備する工程と、
金属からなる第一粉末と、第一元素を含む第二粉末との混合粉末を前記基材の表面の上に供給する工程と、
前記基材および前記混合粉末を焼結する工程とを備え、
前記基材を準備する工程における前記複合材料は、
複数の被覆ダイヤモンド粒子と、前記複数の被覆ダイヤモンド粒子を結合する結合相とを含み、
前記複数の被覆ダイヤモンド粒子は、ダイヤモンドからなるコアと、前記コアを覆う炭化物層とを有し、
前記結合相は、金属によって構成されており、
前記複合材料の表面に位置する前記複数の被覆ダイヤモンド粒子は、前記コアが前記炭化物層から露出されている粒子を含み、
前記第一元素は、ジルコニウム、クロム、チタン、シリコン、タンタルおよびニオブからなる群より選択される少なくとも1つの元素である、
放熱部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放熱部材、および放熱部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1から特許文献3は、複合材料からなる基材と、基材の表面に設けられた金属層とを備える放熱部材を開示する。複合材料は、複数のダイヤモンド粒子と、複数のダイヤモンド粒子を結合する金属相とを含む。特許文献1には、被覆ダイヤモンド粒子を含む複合材料が開示されている。被覆ダイヤモンド粒子は、ダイヤモンド粒子の表面を覆う炭化物層を備える。金属相の構成材料は、例えば、銀または銀合金である。金属層は、例えば、基材の表面に金属材料が接合されることで形成される。金属材料は、例えば、金属粉末または金属箔である。特許文献1または特許文献2には、金属粉末を用いて金属層を形成する方法が開示されている。特許文献3には、金属箔を用いて金属層を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2016/035795号
【特許文献2】国際公開第2016/035796号
【特許文献3】国際公開第2020/084903号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
被覆ダイヤモンド粒子は、炭化物層を備えることで、金属との濡れ性が高い。そのため、被覆ダイヤモンド粒子は、ダイヤモンド粒子に比べて、金属との密着性に優れる。複合材料の製造過程で、複合材料の表面に異物が付着することがある。この異物は、例えば、複合材料を成形する成形型の内面に塗布される離型剤である。複合材料からなる基材の表面に異物が付着していると、基材と金属層の密着性が低下する。この密着性の低下は、金属層の表面に電子部品をろう付けする際に、金属層の剥離、または金属層の膨れの発生を招く。基材の表面に付着している異物を除去するため、複合材料の表面を研磨またはエッチングした場合、基材の表面から露出する被覆ダイヤモンド粒子の炭化物層も異物と一緒に除去される。基材の表面に金属層を形成する際、基材の表面に位置する被覆ダイヤモンド粒子の炭化物層が消失しているため、被覆ダイヤモンド粒子と金属層との濡れ性が悪い。その結果、基材と金属層との密着性が低下する。
【0005】
特許文献3に記載された方法によって金属層を形成した場合、基材と金属層との境界領域において熱伝導率が低下する場合がある。特許文献3に記載された金属層の形成方法は、基材の表面に金属箔をろう材によって接合することで、金属層を形成する。金属箔は、例えば銀箔である。ろう材は、例えば銀と銅との共晶合金である。基材と銀箔とをろう材によって接合した場合、基材と金属層との境界領域に、ろう材に含まれる銅が残存することがある。そのため、境界領域中における銀の含有割合が低下する。その結果、境界領域において熱伝導率が低下するおそれがある。
【0006】
本開示は、複合材料からなる基材と基材の表面に設けられた金属層との密着性が高く、かつ、熱伝導率が高い放熱部材を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の放熱部材は、
複合材料によって構成された基材と、
前記基材の表面に設けられた金属層とを備え、
前記基材は、
複数の被覆ダイヤモンド粒子と、
前記複数の被覆ダイヤモンド粒子を結合する結合相とを含み、
前記被覆ダイヤモンド粒子は、
ダイヤモンドからなるコアと、
前記コアの表面を覆う炭化物層とを有し、
前記結合相は、金属によって構成されており、
前記金属層の表面に垂直な断面において、前記複数の被覆ダイヤモンド粒子のうち、粒径が80μm以上である第一粒子と前記金属層との第一界面における前記炭化物層の被覆率が80%以上であり、
前記基材と前記金属層との境界領域中における銀と銅との合計含有量に対する銀の含有割合が98原子%以上であり、
熱伝導率が780W/m・K以上である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の放熱部材は、基材と金属層との密着性が高く、かつ、熱伝導率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係る放熱部材の概略断面図である。
図2図2は、実施形態に係る放熱部材における基材と金属層との界面近傍を拡大して示す概略断面図である。
図3図3は、実施形態に係る放熱部材における基材と金属層との界面近傍を拡大して示す概略断面図であって、第一粒子と金属層との第一界面を説明する図である。
図4図4は、実施形態に係る放熱部材における基材と金属層との界面近傍を拡大して示す概略断面図であって、基準線を説明する図である。
図5図5は、実施形態に係る放熱部材における基材と金属層との界面近傍を拡大して示す概略断面図であって、被覆ダイヤモンド粒子と金属層との第二界面を説明する図である。
図6図6は、試料No.1-7の放熱部材の断面において、被覆ダイヤモンド粒子と金属層との界面近傍を拡大したSEM像を示す図である。
図7図7は、図6に示すSEM像において、EDXによるチタンのマッピング分析の結果を示す図である。
図8図8は、図6に示すSEM像において、EDXによる炭素のマッピング分析の結果を示す図である。
図9図9は、図6に示すSEM像において、EDXによる銀のマッピング分析の結果を示す図である。
図10図10は、試料No.1-7の放熱部材の断面において、第一粒子と金属層との第一界面の一部を拡大したSEM像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0011】
(1)本開示の実施態様に係る放熱部材は、
複合材料によって構成された基材と、
前記基材の表面に設けられた金属層とを備え、
前記基材は、
複数の被覆ダイヤモンド粒子と、
前記複数の被覆ダイヤモンド粒子を結合する結合相とを含み、
前記被覆ダイヤモンド粒子は、
ダイヤモンドからなるコアと、
前記コアの表面を覆う炭化物層とを有し、
前記結合相は、金属によって構成されており、
前記金属層の表面に垂直な断面において、前記複数の被覆ダイヤモンド粒子のうち、粒径が80μm以上である第一粒子と前記金属層との第一界面における前記炭化物層の被覆率が80%以上であり、
前記基材と前記金属層との境界領域中における銀と銅との合計含有量に対する銀の含有割合が98原子%以上であり、
熱伝導率が780W/m・K以上である。
【0012】
本開示の放熱部材によれば、第一粒子と金属層との第一界面における炭化物層の被覆率が80%以上であることから、第一界面においてコアが露出している部分の割合が少ない。炭化物層の被覆率が80%以上であることで、第一粒子と金属層との濡れ性が高くなる。したがって、本開示の放熱部材は、基材と金属層との密着性が高い。基材と金属層との密着性が高いことで、放熱部材全体の熱伝導率が高い。
【0013】
基材と金属層との境界領域中における銀の含有割合が98原子%以上であることから、境界領域中における銀の含有割合が高い。銀は高い熱伝導率を有する。銀の含有割合が98原子%以上であることで、境界領域において熱伝導率の低下を抑制できる。したがって、本開示の放熱部材は高い熱伝導率を有する。本開示の放熱部材の熱伝導率は780W/m・K以上である。「基材と金属層との境界領域」の詳細は後述する。
【0014】
(2)上記(1)の放熱部材において、
前記炭化物層は、ジルコニウム、クロム、チタン、シリコン、タンタルおよびニオブからなる群より選択される少なくとも1つの第一元素を含む炭化物からなってもよい。
【0015】
第一元素の炭化物からなる炭化物層は、金属との密着性が高い。上記(2)の構成によれば、被覆ダイヤモンド粒子と金属との密着性が向上する結果、基材と金属層との密着性が高くなる。
【0016】
(3)上記(2)の放熱部材において、
前記断面において、基準線と前記金属層の表面との間に前記第一元素が存在してもよい。
前記基準線は、前記第一粒子の最も突出した位置を通り、かつ前記金属層の表面と平行な線分である。
【0017】
上記(3)の構成によれば、放熱部材の製造過程で、第一粒子と金属層との第一界面に炭化物層が形成され易い。
【0018】
(4)上記(2)または(3)の放熱部材において、
前記第一元素がチタンであってもよい。
前記金属層の構成材料が銀であってもよい。
前記結合相の構成材料が銀であってもよい。
【0019】
第一元素がチタンである場合、炭化物層はチタンの炭化物によって構成される。チタンの炭化物からなる炭化物層は、複合材料の製造過程で、ダイヤモンド粒子の表面に形成し易い。第一元素がチタンであることで、被覆ダイヤモンド粒子を含む複合材料を製造し易い。また、結合相の構成材料が銀であることで、基材の熱伝導率が高い。金属層の構成材料が銀であることで、金属層の熱伝導率が高い。その結果、放熱部材全体の熱伝導率が高くなる。
【0020】
(5)上記(1)から(4)のいずれかの放熱部材において、
前記境界領域中における前記第一元素の含有量は、前記境界領域の組成を100原子%として、1.2原子%未満であってもよい。
【0021】
境界領域中における第一元素の含有量が少ないほど、境界領域において熱伝導率の低下を抑制できる。上記(5)の構成によれば、放熱部材全体の熱伝導率が高くなる。
【0022】
(6)上記(1)から(5)のいずれかの放熱部材において、
前記金属層の表面の算術平均粗さRaが2.0μm以下であってもよい。
【0023】
上記(6)の構成によれば、金属層の表面に電子部品を接合し易い。
【0024】
(7)上記(1)から(6)のいずれかの放熱部材において、
前記金属層の厚さが3μm以上200μm以下であってもよい。
【0025】
金属層の厚さが3μm以上であることで、金属層の表面に電子部品を接合し易い。金属層の厚さが200μm以下であることで、放熱部材全体の熱伝導率の低下を抑制できる。
【0026】
(8)上記(1)から(7)のいずれかの放熱部材において、
前記複数の被覆ダイヤモンド粒子は、粒径が80μm未満である第二粒子を含み、
前記断面において、前記第二粒子の間に挟まれる前記第一粒子の突出量が10μm以下であってもよい。
【0027】
上記(8)の構成によれば、金属層の厚さを薄くし易い。
【0028】
(9)本開示の実施態様に係る放熱部材の製造方法は、
複合材料によって構成された基材を準備する工程と、
金属からなる第一粉末と、第一元素を含む第二粉末との混合粉末を前記基材の表面の上に供給する工程と、
前記基材および前記混合粉末を焼結する工程とを備え、
前記基材を準備する工程における前記複合材料は、
複数の被覆ダイヤモンド粒子と、前記複数の被覆ダイヤモンド粒子を結合する結合相とを含み、
前記複数の被覆ダイヤモンド粒子は、ダイヤモンドからなるコアと、前記コアを覆う炭化物層とを有し、
前記結合相は、金属によって構成されており、
前記複合材料の表面に位置する前記複数の被覆ダイヤモンド粒子は、前記コアが前記炭化物層から露出されている粒子を含み、
前記第一元素は、ジルコニウム、クロム、チタン、シリコン、タンタルおよびニオブからなる群より選択される少なくとも1つの元素である。
【0029】
本開示の放熱部材の製造方法によれば、金属層の形成と同時に、コアが炭化物層から露出されている被覆ダイヤモンド粒子の表面に炭化物層を形成することができる。したがって、本開示の放熱部材の製造方法は、基材と金属層との密着性が高い放熱部材を製造できる。
【0030】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を参照して、本開示の実施形態に係る放熱部材の具体例を説明する。図中の同一符号は同一または相当部分を示す。
なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0031】
<放熱部材>
図1を参照して、実施形態に係る放熱部材1について説明する。放熱部材1は、複合材料10によって構成された基材2と、基材2の表面に設けられた金属層4とを備える。放熱部材1の形状およびサイズは、放熱部材1の用途などに応じて適宜選択できる。本例では、放熱部材1の形状は平板状である。図1は、放熱部材1の厚さ方向に切断した断面を示している。ここでいう厚さ方向は、放熱部材1の表面、即ち金属層4の表面に垂直な方向であって、金属層4から基材2に向かう方向である。
【0032】
(基材)
基材2は、複数の被覆ダイヤモンド粒子20と、複数の被覆ダイヤモンド粒子20を結合する結合相30とを含む。基材2の厚さは、例えば0.5mm以上5mm以下である。
【0033】
(被覆ダイヤモンド粒子)
被覆ダイヤモンド粒子20は、ダイヤモンドからなるコア21と、コア21の表面を覆う炭化物層22とを有する。図1では、被覆ダイヤモンド粒子20を模式的に誇張して示している。
【0034】
被覆ダイヤモンド粒子20の形状は、種々の形状をとり得る。図1では、被覆ダイヤモンド粒子20の断面形状が円形であるが、被覆ダイヤモンド粒子20の断面形状は多角形であってもよい。
【0035】
基材2における被覆ダイヤモンド粒子20の含有量は、例えば50体積%以上90体積%以下である。被覆ダイヤモンド粒子20の含有量が多いほど、基材2に含まれるダイヤモンドの体積割合が大きくなる。そのため、基材2の熱伝導率が高くなる。基材2の熱伝導率が高いほど、放熱部材1全体の熱伝導率が高くなる。被覆ダイヤモンド粒子20の含有量が50体積%以上である基材2は、高い熱伝導率を有する。一方で、被覆ダイヤモンド粒子20の含有量が多くなると、基材2に含まれる結合相30が少なくなる。被覆ダイヤモンド粒子20の含有量が90体積%以下であることで、結合相30によって被覆ダイヤモンド粒子20同士が結合され易い。
【0036】
被覆ダイヤモンド粒子20の粒径は、例えば1μm以上300μm以下である。被覆ダイヤモンド粒子20の含有量が同じであれば、被覆ダイヤモンド粒子20の粒径が大きいほど、基材2に含まれる被覆ダイヤモンド粒子20の数が少なくなる。被覆ダイヤモンド粒子20の粒界が少なくなるため、粒界熱抵抗が低下し、基材2の熱伝導率が高くなる。被覆ダイヤモンド粒子20の粒径が1μm以上300μm以下であることで、基材2の熱伝導率を高め易い。複数の被覆ダイヤモンド粒子20は、粒径が大きい粗大な粒子と粒径が小さい微細な粒子とを含んでいてもよい。複数の被覆ダイヤモンド粒子20は、粒径が80μm以上300μm以下である粗大な粒子のみで構成されていてもよい。複数の被覆ダイヤモンド粒子20は、粗大な粒子の他に、粒径が1μm以上80μm未満である微細な粒子を含んでいてもよい。この場合、粗大な粒子の間に微細な粒子が入り込むことによって、基材2に含まれる被覆ダイヤモンド粒子20の密度を高めることができる。
【0037】
被覆ダイヤモンド粒子20の粒径は、次のように測定する。基材2を厚さ方向に切断した断面をSEM(Scanning Electron Microscope)で観察する。観察視野内に存在する被覆ダイヤモンド粒子20を抽出する。被覆ダイヤモンド粒子20の断面積と等しい面積を有する円の直径を、被覆ダイヤモンド粒子20の粒径とみなす。観察視野のサイズは、被覆ダイヤモンド粒子20のサイズに応じて適宜設定する。例えば、1つの観察視野に被覆ダイヤモンド粒子20が10個以上入るように倍率を設定する。この倍率は、被覆ダイヤモンド粒子20が観察視野に20個以上入るように設定してもよい。
【0038】
(炭化物層)
炭化物層22は、炭化物によって構成されている。炭化物層22は、例えば、第一元素の炭化物からなる。第一元素は、ジルコニウム(Zr)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、シリコン(Si)、タンタル(Ta)およびニオブ(Nb)からなる群より選択される少なくとも1つの元素である。炭化物層22を構成する炭化物は、例えば、Zr、Cr、Ti、Si、TaおよびNbからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む炭化物である。第一元素がZrである場合、炭化物層22はZrの炭化物(ZrC)からなる。第一元素がCrである場合、炭化物層22はCrの炭化物(Cr)からなる。第一元素がTiである場合、炭化物層22はTiの炭化物(TiC)からなる。第一元素がSiである場合、炭化物層22はSiの炭化物(SiC)からなる。第一元素がTaである場合、炭化物層22はTaの炭化物(TaC)からなる。第一元素がNbである場合、炭化物層22はNbの炭化物(NbC)からなる。炭化物層22は、結合相30との濡れ性が高い。炭化物層22を有する被覆ダイヤモンド粒子20は、結合相30との密着性が高い。被覆ダイヤモンド粒子20と結合相30との界面に空隙が発生し難いので、基材2の熱伝導率が高くなる。本例では、炭化物層22がTiの炭化物(TiC)からなる。
【0039】
炭化物層22の厚さは、被覆ダイヤモンド粒子20と結合相30との濡れ性を高める効果を発揮できる限りにおいて、薄くてよい。炭化物層22は、ダイヤモンドからなるコア21に比較して熱伝導率が低い。炭化物層22の厚さが薄いほど、基材2の熱伝導率の低下を抑制できる。炭化物層22の厚さは、例えば5μm以下、3μm以下、1μm以下であってもよい。炭化物層22の厚さは、ナノメートルのオーダーであってもよい。炭化物層22の厚さの求め方については後述する。
【0040】
(結合相)
結合相30は、熱伝導率が高い金属によって構成されている。結合相30の構成材料は、例えば銀(Ag)である。Agの熱伝導率は高い。結合相30がAgによって構成されている場合、基材2の熱伝導率が高くなる。本例では、結合相30がAgによって構成されている。
【0041】
結合相30は、Ag以外の不純物を含んでいてもよい。不純物には、例えば、第一元素、銅(Cu)および不可避不純物が含まれる。結合相30におけるAgの含有量は、例えば98原子%以上である。結合相30中に含まれるAg以外の不純物の含有量は2原子%未満である。Agの含有量が多いほど、即ち不純物が少ないほど、結合相30の熱伝導率が高くなる。その結果、基材2の熱伝導率が高くなる。Agの含有量は、更に99原子%以上、99.5原子%以上でもよい。Agの含有量の上限は、例えば99.995原子%である。Agの含有量は、98原子%以上99.995原子%以下、99原子%以上99.995原子%以下、99.5原子%以上99.995原子%以下でもよい。
【0042】
(金属層)
金属層4は、基材2の表面の少なくとも一部を覆っていればよい。ここでいう基材2の表面は、基材2の厚さ方向に向かい合う2面のうちの少なくとも一方の面であり、側面を含まない。本例では、金属層4が基材2の表面の全部を覆うように設けられている。金属層4は、電子部品(図示せず)を放熱部材1に接合するために設けられている。電子部品は、例えば半導体素子である。電子部品の接合は、例えば、半田付けまたはろう付けによって行われる。金属層4は金属によって構成されているため、半田またはろう材との濡れ性が高い。放熱部材1は、金属層4の表面に電子部品を半田またはろう材によって強固に接合することができる。
【0043】
金属層4の構成材料は、例えばAgである。Agは、熱伝導率が高く、かつ、電子部品の接合に使用する半田またはろう材の融点よりも高い。金属層4がAgによって構成されている場合、金属層4の熱伝導率が高くなる。金属層4の熱伝導率が高いほど、放熱部材1全体の熱伝導率が高くなる。金属層4の構成材料が結合相30の構成材料と同じであると、金属層4と結合相30との接合強度を高めたり、耐熱性を高めたりすることができる。本例では、金属層4がAgによって構成されている。
【0044】
金属層4は、Ag以外の不純物を含んでいてもよい。不純物には、例えば、第一元素、銅(Cu)および不可避不純物が含まれる。金属層4におけるAgの含有量は、例えば98原子%以上である。金属層4中に含まれるAg以外の不純物の含有量は2原子%未満である。Agの含有量が多いほど、即ち不純物が少ないほど、金属層4の熱伝導率が高くなる。その結果、放熱部材1全体の熱伝導率が高くなる。Agの含有量は、更に99原子%以上、99.5原子%以上でもよい。Agの含有量の上限は、例えば99.995原子%である。Agの含有量は、98原子%以上99.995原子%以下、99原子%以上99.995原子%以下、99.5原子%以上99.995原子%以下でもよい。
【0045】
金属層4の表面の算術平均粗さRaは、例えば2.0μm以下である。金属層4の表面粗さが小さいほど、表面が平滑である。金属層4の表面が平滑であることで、金属層4の表面に電子部品を半田またはろう材によって接合し易い。また、金属層4の表面が平滑であれば、電子部品を金属層4に密着させ易い。その結果、電子部品の熱が放熱部材1に伝わり易い。金属層4の表面の算術平均粗さRaは、更に、1.5μm以下、1.0μm以下でもよい。金属層4の表面の算術平均粗さRaの下限は0.005μmである。金属層4の表面の算術平均粗さRaは、0.005μm以上2.0μm以下、0.005μm以上1.5μm以下、0.005μm以上1.0μ以下でもよい。算術平均粗さRaとは、JIS B 0601:2001に規定される算術平均粗さRaのことである。
【0046】
金属層4の厚さは、例えば3μm以上200μm以下である。金属層4の厚さが3μm以上であることで、半田またはろう材との濡れ性を高めることができる。金属層4の表面に電子部品を接合し易い。金属層4の厚さが薄いほど、電子部品の熱を基材2に伝え易い。金属層4の厚さが200μm以下であることで、放熱部材1全体の熱伝導率の低下を抑制できる。金属層4の厚さは、更に、5μm以上150μm以下、10μm以上100μm以下でもよい。
【0047】
金属層4の厚さは、次のように測定する。金属層4を厚さ方向に切断した断面をSEMで観察する。1つの観察視野内において、金属層4の表面に最も近い被覆ダイヤモンド粒子20を特定する。その被覆ダイヤモンド粒子20の輪郭のうち、金属層4の表面に最も近い点から金属層4の表面までの最短距離を測定する。5つ以上の異なる観察視野について、同様に最短距離の測定を行う。測定した最短距離の平均値を、金属層4の厚さとみなす。観察視野のサイズは、例えば、縦方向が400μm以上、横方向が600μm以上である。ここでいう縦方向とは、厚さ方向のことである。横方向とは、厚さ方向に直交する方向、即ち金属層4の表面に沿った方向のことである。観察倍率は、例えば100倍である。
【0048】
実施形態の放熱部材1は、被覆ダイヤモンド粒子20と金属層4との界面の少なくとも一部に炭化物層22が存在している点が特徴の一つである。この特徴を有する放熱部材1の詳細な説明に先立って、放熱部材1の製造方法を説明する。
【0049】
<放熱部材の製造方法>
実施形態の放熱部材1は、例えば、次の製造方法により製造することができる。放熱部材の製造方法は、基材を準備する第一工程と、基材の表面に金属層を形成する第二工程とを備える。
以下、各工程について詳しく説明する。
【0050】
(第一工程)
第一工程は、複合材料によって構成された基材を準備する工程である。複合材料は、複数の被覆ダイヤモンド粒子と、複数の被覆ダイヤモンド粒子を結合する結合相とを含む。複数の被覆ダイヤモンド粒子は、ダイヤモンドからなるコアと、コアを覆う炭化物層とを有する。結合相は、金属によって構成されている。複合材料の表面に位置する複数の被覆ダイヤモンド粒子は、コアが炭化物層から露出されている粒子を含む。
【0051】
準備する複合材料は、後述するように、金属層を形成する前に、基材の表面に研磨またはエッチングなどの表面処理を行って、製造過程で複合材料の表面に付着した異物を除去している。この表面処理によって、基材の表面に位置する被覆ダイヤモンド粒子の炭化物層が除去される。つまり、基材の表面に位置する被覆ダイヤモンド粒子は、コアが炭化物層から露出している。炭化物層が除去されているため、被覆ダイヤモンド粒子と金属層との界面には炭化物層が存在していない。実施形態の製造方法では、後述するように、炭化物層から露出されたコアの表面に炭化物層を形成する。
【0052】
準備する複合材料には、公知の複合材料を利用できる。複合材料は、特許文献1に記載されるような公知の製造方法により製造できる。複合材料の製造方法の一例を説明する。複合材料の製造方法は、次の工程A、工程B、工程C、および工程Dを備える。
【0053】
(工程A)
工程Aは、複合材料の原料を準備する工程である。原料は、ダイヤモンドの粉末と、第一元素を含む粉末と、金属の粉末である。ダイヤモンドの粉末は、複数のダイヤモンド粒子から構成される。ダイヤモンド粒子は、被覆ダイヤモンド粒子のコアを構成する。第一元素を含む粉末は、被覆ダイヤモンド粒子の炭化物層を構成する原料である。金属の粉末は、結合相を構成する原料である。
【0054】
(ダイヤモンドの粉末)
ダイヤモンドの粉末に含まれるダイヤモンド粒子の粒径は、例えば1μm以上300μm以下である。複合材料の原料におけるダイヤモンドの粉末の含有量は、例えば50体積%以上90体積%以下である。最終的に製造される複合材料に含まれる被覆ダイヤモンド粒子の粒径は、ダイヤモンドの粉末に含まれるダイヤモンド粒子の粒径と実質的に等しい。複合材料における被覆ダイヤモンド粒子の含有量は、複合材料の原料におけるダイヤモンドの粉末の含有量と実質的に等しい。ダイヤモンドの粉末は、粗大なダイヤモンド粒子と微細なダイヤモンド粒子とが混合されていてもよい。ダイヤモンドの粉末は、粒径が80μm以上300μm以下である粗大な粒子のみで構成されていてもよい。ダイヤモンドの粉末は、粗大な粒子の他に、粒径が1μm以上80μm未満である微細な粒子を含んでいてもよい。
【0055】
(第一元素を含む粉末)
第一元素を含む粉末は、第一元素の粉末であってもよいし、第一元素を含む化合物の粉末であってもよい。第一元素は、ダイヤモンドの粉末に含まれるダイヤモンド粒子の表面に炭化物層を形成する元素である。第一元素は、Zr、Cr、Ti、Si、TaおよびNbからなる群より選択される少なくとも1つである。第一元素を含む化合物は、例えば、硫化物、窒化物、水素化物、および硼化物からなる群より選択される少なくとも1つである。第一元素がZrである場合、ZrCからなる炭化物層が形成される。第一元素がCrである場合、Crからなる炭化物層が形成される。第一元素がTiである場合、TiCからなる炭化物層が形成される。第一元素がSiである場合、SiCからなる炭化物層が形成される。第一元素がTaである場合、TaCからなる炭化物層が形成される。第一元素がNbである場合、NbCからなる炭化物層が形成される。
【0056】
第一元素を含む粉末の含有量は、ダイヤモンド粒子の表面に炭化物層が形成されるように適宜選択するとよい。第一元素を含む粉末の含有量が少な過ぎると、炭化物層が十分に形成されないおそれがある。第一元素を含む粉末の含有量が多過ぎると、炭化物層が厚くなり過ぎるおそれがある。第一元素を含む粉末の含有量は、ダイヤモンドの粉末100質量部に対して、例えば0.1質量部以上5質量部以下である。
【0057】
(金属の粉末)
金属の粉末は、例えばAgからなる。最終的に製造される複合材料に含まれる結合相の含有量は、複合材料の原料における金属の粉末の含有量と実質的に等しい。
【0058】
(工程B)
工程Bは、複合材料の原料を成形型内に充填する工程である。この工程では、例えば、ダイヤモンドの粉末と第一元素を含む粉末と金属の粉末との混合粉末を成形型内に充填する。あるいは、ダイヤモンドの粉末と第一元素を含む粉末との混合粉末を成形型内に充填した後、混合粉末の上に金属の粉末を配置してもよい。あるいは、ダイヤモンドの粉末を成形型内に充填した後、ダイヤモンドの粉末の上に金属の粉末と第一元素を含む粉末との混合粉末を配置してもよい。
【0059】
(工程C)
工程Cは、成形型内に充填した複合材料の原料を加熱する工程である。この工程により、ダイヤモンドと金属とを複合化する。加熱温度は、金属の粉末の融点以上である。例えば、金属の粉末がAgからなる場合、加熱温度は、例えば980℃以上1200℃以下である。第一元素を含む粉末は、溶融した金属、例えばAgに溶解する。
【0060】
ダイヤモンドの粉末と第一元素を含む粉末とが加熱されることによって反応し、この反応によってダイヤモンド粒子の表面に炭化物層が形成される。例えば、第一元素がTiである場合、Tiは、ダイヤモンド粒子に接触すると、ダイヤモンド粒子を構成する炭素(C)と結合して、TiCを形成する。第一元素がZrである場合、ZrCが形成される。第一元素がCrである場合、Crが形成される。第一元素がSiである場合、SiCが形成される。第一元素がTaである場合、TaCが形成される。第一元素がNbである場合、NbCが形成される。第一元素の炭化物が形成されることによって、ダイヤモンド粒子の表面に炭化物層が形成される。その結果、ダイヤモンドからなるコアの表面に炭化物層を備える被覆ダイヤモンド粒子が形成される。炭化物層によってダイヤモンド粒子と金属との濡れ性が高くなり、溶融した金属がダイヤモンド粒子の間に溶浸される。
【0061】
複合材料の原料を加熱した後、冷却する。溶融した金属が凝固することにより、結合相が形成される。その結果、複数の被覆ダイヤモンド粒子が結合相によって結合された複合材料が製造される。第一元素の一部は、ダイヤモンド粒子と反応せず、結合相に残ることがある。
【0062】
(工程D)
工程Dは、複合材料の表面に付着している異物を除去する表面処理を行う工程である。例えば、複合材料の表面を研磨またはエッチングすることで、複合材料の表面に付着した異物を除去する。複合材料の表面には、製造過程において、異物が付着することがある。この異物は、例えば、成形型の内面に塗布された離型剤である。複合材料によって構成された基材の表面に異物が付着していると、後工程で、基材の表面に金属層を形成した際に基材と金属層との密着性が低下する。複合材料の表面に付着した異物を除去することによって、基材と金属層との密着性の低下を抑制できる。基材の表面を研磨またはエッチングすることによって、異物の除去と同時に、基材の表面の金属層が除去されたり、基材の表面から露出する被覆ダイヤモンド粒子の炭化物層が除去されたりする。そのため、上述した表面処理によって、基材の表面に位置する被覆ダイヤモンド粒子の炭化物層が除去される。つまり、表面処理後の複合材料では、複合材料の表面に位置する複数の被覆ダイヤモンド粒子は、コアが炭化物層から露出されていることになる。
【0063】
複合材料の表面の研磨は、砥石または研磨紙などの研磨材を用いることができる。ダイヤモンド砥粒を含有する研磨材によって複合材料の表面を研磨した場合、炭化物層だけでなく、ダイヤモンドからなるコアも研磨される。そのため、基材の表面に露出する被覆ダイヤモンド粒子の表面は平坦になる。複合材料の表面を研磨する場合、結合相と被覆ダイヤモンド粒子とが面一になるまで研磨してもよいし、結合相と被覆ダイヤモンド粒子とが面一になるまで研磨しなくてもよい。後者の場合、研磨に要する時間を短縮できる。複合材料の表面のエッチングは、酸またはアルカリのエッチング液を用いることができる。エッチング液の具体例は、シアン(CN)系エッチング液である。複合材料の表面をエッチングする場合、結合相から被覆ダイヤモンド粒子が大きく突出するようにして、金属層とのアンカー効果を有する凹凸が形成されるまで粗面化しなくてもよい。この場合、エッチングに要する時間を短縮できる。
【0064】
(第二工程)
第二工程は、基材の表面に金属層を形成する工程である。実施形態の製造方法では、金属層は金属の粉末から形成される。金属層の形成方法は、特許文献1または特許文献2に記載されるようなホットプレス法を利用できる。第二工程は、以下に示すように、E工程とF工程の2つの工程に大きく分けることができる。
【0065】
(E工程)
E工程は、金属層の原料を基材の表面に供給する工程である。本実施形態の製造方法では、金属層の原料である金属の粉末に、第一元素を含む粉末を混合している点が特徴の1つである。具体的には、E工程では、第一粉末と第二粉末との混合粉末を基材の表面に供給する。第一粉末は、金属からなる粉末である。第二粉末は、第一元素を含む粉末である。第一粉末は、金属層を構成する原料である。ここで、金属層の原料に第二粉末を混合している理由は、基材の表面に位置する複数の被覆ダイヤモンド粒子のうち、コアが炭化物層から露出されている粒子の表面に炭化物層を形成するためである。つまり、第二粉末は、炭化物層を構成する原料である。
【0066】
第一粉末は、例えばAgからなる。第一粉末を構成する金属粒子の平均粒子径は、例えば1μm以上300μm以下である。平均粒子径とは、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定した体積粒度分布における累積体積が50%となる粒径(D50)のことである。
【0067】
第二粉末は、複合材料の原料に用いられる第一元素を含む粉末と同じものを用いることができる。第二粉末は、第一元素の粉末であってもよいし、第一元素を含む化合物の粉末であってもよい。
【0068】
金属層の原料における第二粉末の含有量は、コアが炭化物層から露出されている被覆ダイヤモンド粒子の表面に炭化物層が形成されるように適宜選択するとよい。第二粉末の含有量が少な過ぎると、コアが露出されている粒子の表面に炭化物層が十分に形成されないおそれがある。第二粉末の含有量が多過ぎると、炭化物層が厚くなり過ぎるおそれがある。第二粉末の含有量は、第一粉末100質量部に対して、例えば0.05質量部以上3質量部以下である。
【0069】
金属層の原料を基材の表面に供給する際、混合粉末のみ供給してもよいし、金属層の原料を複数回に分けて供給してもよい。前者の場合、基材の表面に混合粉末を1層のみ配置する。後者の場合、基材の表面に混合粉末を供給した後、混合粉末の上に第一粉末を供給する。つまり、基材の表面に混合粉末からなる第一の層を配置した後、第一の層の表面に第一粉末からなる第二の層を配置してもよい。基材の表面に配置される第一の層が第二粉末を含む混合粉末によって構成されていれば、第二粉末に含まれる第一元素によって、コアが炭化物層から露出されている粒子の表面に炭化物層を形成することができる。
【0070】
F工程は、基材および金属層の原料を焼結する工程である。具体的には、F工程では、基材の表面に混合粉末が配置された状態で基材と混合粉末とを焼結することで、基材の表面に金属層を形成する。焼結温度は、例えば600℃以上900℃以下である。保持時間は、例えば20分以上180分以下である。焼結方法は、例えば、ホットプレス法を用いることができる。基材の表面に混合粉末をホットプレスすることで、混合粉末に含まれる第一粉末が流動して、基材の表面の凹凸に入り込む。これにより、基材の表面に金属層が密着し易い。また、第二粉末に含まれる第一元素が、基材の表面に位置する被覆ダイヤモンド粒子と接触する。炭化物層から露出しているコア表面の炭素と第一元素とが結合することによって、コアの表面に炭化物層が形成される。よって、金属層の形成と同時に、コアが炭化物層から露出されている被覆ダイヤモンド粒子の表面に炭化物層を形成することができる。第一元素の一部は、被覆ダイヤモンド粒子と反応せず、金属層に残ることがある。
【0071】
上述した製造方法によって、実施形態の放熱部材1を製造できる。放熱部材1は、基材2と金属層4との界面において、被覆ダイヤモンド粒子20における炭化物層22の被覆率が高い。以下、実施形態の放熱部材1の特徴点について、図2から図4を参照して説明する。
【0072】
図2から図4は、金属層4の表面に垂直な断面であって、基材2と金属層4との界面近傍を拡大して示している。図2から図4に示す基材2は、複合材料10からなる。本例では、基材2は、粒径が異なる複数の被覆ダイヤモンド粒子20を含んでいる。複数の被覆ダイヤモンド粒子20は、粒径が80μm以上である第一粒子20aと、粒径が80μm未満である第二粒子20bとからなる。複数の被覆ダイヤモンド粒子20は、第一粒子20aのみで構成されていてもよいし、本例のように、第一粒子20aと第二粒子20bとを含んでいてもよい。図2から図4では、第一粒子20aについてのみコア21および炭化物層22を図示している。第二粒子20bについては、コア21および炭化物層22の図示を省略している。図示していないが、第二粒子20bは、第一粒子20aと同様に、コア21および炭化物層22を有している。
【0073】
(第一界面における炭化物層の被覆率) 放熱部材1は、複数の被覆ダイヤモンド粒子20のうち、第一粒子20aと金属層4との第一界面における炭化物層22の被覆率が80%以上である。第一界面とは、図3中の太い実線で示すように、第一粒子20aの輪郭のうち、第一粒子20aよりも金属層4の表面に近い位置に他の被覆ダイヤモンド粒子20が存在しない領域のことである。具体的には、金属層4の表面に近い被覆ダイヤモンド粒子20を抽出し、その被覆ダイヤモンド粒子20の中から第一粒子20aを特定する。放熱部材1の断面をその厚さ方向にみたとき、第一粒子20aの輪郭のうち、金属層4に面する部分であって、他の被覆ダイヤモンド粒子20と重ならない領域が、第一界面である。例えば、金属層4の表面に垂直な断面において、一つの第一粒子20aの左右の各々に第二粒子20bがあり、金属層4から見て、第二粒子20bが部分的に第一粒子20aと放熱部材1の厚さ方向に重なっていたとする。金属層4の表面に垂直な線分であって、各第二粒子20bの輪郭のうち、横方向に最も近い点を通る2つの線分を引く。横方向は、放熱部材1の厚さ方向に直交する方向、即ち金属層4の表面に平行な方向である。これら2つの線分の各々と第一粒子20aの輪郭との交点とを求める。第一粒子20aの表面に沿って両交点をつなぐ線分が第一界面である。一方、第一粒子20aの左右の各々に第二粒子20bが接した状態で配置されているが、各第二粒子20bが第一粒子20aと放熱部材1の厚さ方向に重なっていない場合、第一粒子20aと左の第二粒子20bとの接点と、第一粒子20aと右の第二粒子20bとの接点とを第一粒子20aの表面に沿ってつなぐ線分が第一界面である。被覆率は、第一界面の長さに対する、炭化物層22で覆われている第一界面の長さの割合である。
【0074】
被覆率は、次のように測定する。放熱部材1における金属層4の表面に垂直な断面のうち、基材2と金属層4との界面近傍をSEMで観察する。第一界面を有する第一粒子20aが1つの観察視野に3個以上入るように倍率を設定する。3個以上の各第一粒子20aについて、第一界面の長さを測定し、その長さの合計長Ltを求める。第一界面の長さは、上述した他の被覆ダイヤモンド粒子20と重ならない領域を第一粒子20aの輪郭に沿って測定した長さである。3個以上の各第一粒子20aについて、炭化物層22で覆われている第一界面の長さを測定し、その長さの合計長Lcを求める。被覆率は、(Lc/Lt)×100により求める。
【0075】
炭化物層22の有無は、EDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)、またはEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)によるマッピング分析を用いて調べることができる。炭化物層22は非常に薄いため、マッピング分析は、例えば700倍以上の倍率で行う。マッピング分析により、第一界面における第一元素の分布を確認する。マッピング分析の結果、ダイヤモンドの表面に第一元素が濃く分布している領域を炭化物層22とみなす。炭化物層22の厚さは、例えば10000倍以上の倍率で撮影したSEMの二次電子像において、第一元素が濃く分布している領域の厚さを5点以上測定した値の平均値とする。
【0076】
第一界面における炭化物層22の被覆率が80%以上であることで、第一粒子20aと金属層4との濡れ性が高くなる。そのため、第一粒子20aと金属層4との密着性が向上する。第一粒子20aと金属層4との界面に空隙が発生し難いので、放熱部材1全体の熱伝導率が高くなる。また、基材2から金属層4が剥離することを抑制できる。上記被覆率が高いほど、第一粒子20aと金属層4との密着性が向上する。上記被覆率は、更に85%以上、90%以上でもよい。上記被覆率の上限は100%である。上記被覆率は、80%以上100%以下、85%以上100%以下、90%以上100%以下でもよい。
【0077】
(放熱部材の熱伝導率)
放熱部材1の熱伝導率は、780W/m・K以上である。熱伝導率が高いほど放熱性に優れる。放熱部材1の熱伝導率は、更に800W/m・K以上、810W/m・K以上でもよい。熱伝導率の上限は、例えば1000W/m・Kである。熱伝導率は、780W/m・K以上1000W/m・K以下、800W/m・K以上1000W/m・K以下、810W/m・K以上1000W/m・K以下でもよい。熱伝導率は、後述する試験例1において説明する熱伝導率の測定に従って測定したものである。
【0078】
(境界領域中におけるAgの含有割合)
放熱部材1は、基材2と金属層4との境界領域中におけるAgの含有割合が98原子%以上である。境界領域中におけるAgの含有割合は、境界領域中におけるAgと銅(Cu)との合計含有量に対する原子比のことである。つまり、Agの含有割合は、AgとCuとの合計含有量を100原子%とした場合、その合計含有量に対するAgの含有量の割合を原子百分率で表した値である。境界領域中におけるCuの含有割合は2原子%未満である。境界領域中におけるAgの含有割合が高い、即ちCuの含有割合が低いほど、境界領域において熱伝導率の低下を抑制できる。その結果、放熱部材1全体の熱伝導率が高くなる。境界領域中におけるAgの含有割合は、更に99原子%以上でもよい。境界領域中にCuを含んでいなくてもよい。つまり、境界領域中におけるCuの含有割合は0原子%であってもよい。境界領域中におけるAgの含有割合の上限は100原子%である。境界領域中におけるAgの含有割合は、98原子%以上100原子%以下、99原子%以上99.999原子%以下でもよい。
【0079】
(境界領域中における第一元素の含有量)
境界領域中における第一元素の含有量は、境界領域の組成を100原子%として、1.2原子%未満であってもよい。境界領域中における第一元素が少ないほど、Agの含有量が多くなるため、境界領域において熱伝導率の低下を抑制できる。その結果、放熱部材1全体の熱伝導率が高くなる。境界領域中における第一元素の含有量は、更に1.1原子%以下、0.9原子%以下、0.7原子%以下でもよい。境界領域中における第一元素の含有量の下限は、例えば0.02原子%である。境界領域中における第一元素の含有量は、0.02原子%以上1.2原子%未満、0.03原子%以上1.1原子%以下でもよい。
【0080】
《境界領域》 基材2と金属層4との境界領域は、次のようにして求める。放熱部材1における金属層4の表面に垂直な断面のうち、基材2と金属層4との界面近傍をSEMで観察する。観察倍率は、例えば100倍以上である。観察視野内において、金属層4の表面に最も近い被覆ダイヤモンド粒子20を特定する。その被覆ダイヤモンド粒子20の輪郭のうち、金属層4の表面に最も近い点を求める。この点を通る金属層4の表面と平行な線分を基材2と金属層4との境界とみなす。この境界よりも金属層4の表面に近い領域であって、この境界から15μmまでの範囲を第一領域とする。この境界よりも金属層4の表面から離れた領域であって、この境界から15μmまでの範囲を第二領域とする。基材2と金属層4との境界領域は、第一領域と第二領域とを合わせた領域である。つまり、境界領域の厚さは30μmである。境界領域内に被覆ダイヤモンド粒子20が含まれていてもよい。なお、金属層4の厚さが15μm未満である場合、第一領域は、上記境界から金属層4の表面までの範囲である。つまり、第一領域は、金属層4の全体を含む。
【0081】
境界領域の組成は、EDXまたはEPMAによる組成分析によって求めることができる。境界領域の組成分析により、境界領域における元素の含有量を測定する。
【0082】
(金属層における第一元素の存在)
実施形態の放熱部材1は、金属層4の表面に垂直な断面において、図4に示す基準線Sと金属層4の表面との間に第一元素が存在してもよい。基準線Sは、図4に示すように、第一粒子20aの最も突出した位置を通り、かつ金属層4の表面と平行な線分である。基準線Sは、次のようにして求める。放熱部材1における金属層4の表面に垂直な断面のうち、基材2と金属層4との界面近傍をSEMで観察する。第一界面を有する第一粒子20aが1つの観察視野に3個以上入るように倍率を設定する。観察視野内に存在する第一粒子20aのうち、金属層4の表面に最も近い第一粒子20aを特定する。その第一粒子20aの輪郭のうち、金属層4の表面に最も近い点を求める。この点を通る金属層4の表面と平行な線分を基準線Sとする。第一元素の有無は、EDXまたはEPMAによるマッピング分析を用いて調べる。マッピング分析により、基準線Sと金属層4の表面との間における第一元素の分布を確認する。
【0083】
基準線Sと金属層4の表面との間に第一元素が存在するということは、上述した製造方法で説明したように、金属からなる第一粉末と第一元素を含む第二粉末との混合粉末が金属層4の原料に用いられていたことを示している。金属層4の原料に第一元素が含まれていたことから、第一粒子20aと金属層4との第一界面における炭化物層22の被覆率が高くなる。
【0084】
(第一粒子の突出量) 実施形態の放熱部材1は、金属層4の表面に垂直な断面において、第二粒子20bの間に挟まれる第一粒子20aの突出量が10μm以下であってもよい。第一粒子20aの突出量とは、金属層4の表面に近い第一粒子20aの最も突出した位置と、その第一粒子20aと横方向に隣り合う第二粒子20bの最も突出した位置との差である。横方向は、金属層4の表面に平行な方向である。突出量は、次のようにして求める。放熱部材1における金属層4の表面に垂直な断面のうち、基材2と金属層4との界面近傍をSEMで観察する。第一界面を有する第一粒子20aが1つの観察視野に3個以上入るように倍率を設定する。金属層4の表面に近い被覆ダイヤモンド粒子20を抽出し、第二界面を求める。第二界面とは、図5中の点線で示すように、被覆ダイヤモンド粒子20と金属層4との界面のことである。第二界面は、次のようにして求める。各第二粒子20bの輪郭のうち、金属層4の表面に最も近い点を求める。以下、この点を最高点という。隣り合う第二粒子20b同士の最高点を結ぶ。第二粒子20bが第一粒子20aと隣り合う場合、第二粒子20bの最高点と第一粒子20aの第一界面との最短距離を結ぶ。第二界面には、第一界面が含まれる。第二粒子20bの間に挟まれる第一粒子20aを特定する。その第一粒子20aの輪郭のうち、金属層4の表面に最も近い最高点を求める。また、その第一粒子20aと隣り合う第二粒子20bの最高点を求める。放熱部材1の断面をその厚さ方向にみたとき、第二粒子20bの最高点から第一粒子20aの最高点までの差を第一粒子20aの突出量とする。例えば、一つの第一粒子20aの左右の各々に第二粒子20bがある場合、各第二粒子20bの最高点から第一粒子20aの最高点までの差をそれぞれ求める。2つの差のうち、大きい方の差を第一粒子20aの突出量とする。ここでいう第一粒子20aの突出量が10μm以下とは、観察視野内の全ての第一粒子20aの突出量が10μm以下であることを意味する。
【0085】
第二界面は、金属層4を形成する前の基材2の表面をおおよそ表していると考えられる。第一粒子20aの突出量が小さいほど、基材2の表面粗さが小さい、即ち基材2の表面が平坦であったといえる。第一粒子20aの突出量が10μm以下であることで、金属層4の厚さを薄くすることできる。第一粒子20aの突出量は、更に5μm以下であってもよい。
【0086】
[試験例1]
複合材料によって構成された基材の表面に金属層を備える放熱部材の試料を作製した。作製した放熱部材の試料の評価を行った。
【0087】
複合材料によって構成された基材を準備した。基材は、特許文献1に記載された複合材料の製造方法によって作製した。複合材料の原料に用いたダイヤモンド粉末は、特許文献1に記載された試験例2と同様に、平均粒子径が小さい微粒粉末と平均粒子径が大きい粗粒粉末とが混合された微粗混合粉末である。
【0088】
作製した複合材料は、複数の被覆ダイヤモンド粒子が結合相によって結合されたものである。この複合材料は、粒径が異なる複数の被覆ダイヤモンド粒子を含んでいる。複数の被覆ダイヤモンド粒子は、粒径が80μm以上である第一粒子と、粒径が80μm未満である第二粒子とからなる。被覆ダイヤモンド粒子は、ダイヤモンドからなるコアの表面に炭化物層を有する。炭化物層はTiCからなる。結合相はAgからなる。複合材料の形状は平板である。
【0089】
複合材料によって構成された基材の表面に表面処理を行って、複合材料の表面に付着している異物を除去した。表面処理の方法は、研磨またはエッチングである。表1および表2に示す試料No.1-1から試料No.1-12、および試料No.1-21は、基材の表面を研磨した。試料No.1-13、および試料No.1-22は、基材の表面をエッチングした。試料No.1-20は、表面処理を行っていない。表1に示すように、試料No.1-1から試料No.1-8、試料No.1-10、試料No.1-12、および試料No.1-21では、研磨紙を用いて研磨した。研磨紙の砥粒の材質は、炭化ケイ素(SiC)である。試料No.1-9および試料No.1-11では、砥石を用いて研磨した。砥石は、ダイヤモンド砥粒を含有するダイヤモンド砥石である。試料No.1-13および試料No.1-22では、CN系エッチング液を用いてエッチングした。
【0090】
次に、基材の表面に金属層を形成して、放熱部材を作製した。試料No.1-1から試料No.1-13、および試料No.1-20から試料No.1-22では、金属層の原料にAgの粉末を用いた。金属層は、次のように形成した。Agの粉末と、第一元素の粉末とを用意した。試料No.1-1から1-13では、Agの粉末と第一元素の粉末との混合粉末を金属層の原料に用いた。第一元素の種類は試料によって異なる。試料No.1-1から試料No.1-3、および試料No.1-9から試料No.1-13では、第一元素はTiである。試料No.1-4では、第一元素はZrである。試料No.1-5では、第一元素はCrである。試料No.1-6では、第一元素はSiである。試料No.1-7では、第一元素はTaである。試料No.1-8では、第一元素の粉末はNbである。混合粉末における第一元素の粉末の含有量は試料によって異なる。各試料での第一元素の種類と、第一元素の粉末の含有量を表1に示す。第一元素の粉末の含有量はAgの粉末100質量部に対する質量部で表す。試料No.1-1から試料No.1-13では、基材の表面に混合粉末からなる第一の層を配置した後、第一の層の表面にAgの粉末からなる第二の層を配置した。その状態で800℃で180分間焼結することで、基材の表面に金属層を形成した。金属層の平均厚さは50μmから100μmである。
【0091】
試料No.1-20から試料No.1-22では、Agの粉末のみ金属層の原料に用いた。試料No.1-20から試料No.1-22では、基材の表面にAgの粉末を配置した状態で焼結した。つまり、試料No.1-1から試料No.1-13では、混合粉末からなる第一の層とAgの粉末からなる第二の層との2層であるのに対し、試料No.1-20から試料No.1-22では、Agの粉末のみからなる1層である。
【0092】
更に、特許文献3に記載された方法によって金属層を形成した放熱部材を作製した。試料No.1-31から試料No.1-33では、特許文献3に記載された試験例1と同様に、金属層の原料にAg箔を用いた。試料No.1-31から試料No.1-33は、基材の表面にAg箔をろう材によって接合して、金属層を形成した。金属層の平均厚さは約50μmである。具体的には、基材の表面にろう材を配置し、ろう材の上にAg箔を配置した状態で、ろう材の融点以上まで加熱した。Ag箔は純銀からなる。Ag箔の厚さは50μmである。ろう材は、AgとCuとの共晶合金をベースとするシート材である。ろう材の組成は、Cuを30質量%、Tiを1.5質量%含有するAg合金である。試料No.1-31から試料No.1-33において、ろう材による接合条件は、試料ごとに加熱温度および加熱時間の少なくとも一方が異なる。試料No.1-31から試料No.1-33では、砥石を用いて基材の表面を研磨した。試料No.1-31から試料No.1-33において、表1に示す「第一元素の含有量」は、ろう材におけるTiの含有量を示している。Tiの含有量は、ろう材全体を100質量部とする。
【0093】
(炭化物層の被覆率および厚さ)
作製した放熱部材の試料について、金属層の表面に垂直な断面をSEM-EDXにより観察した。複数の被覆ダイヤモンド粒子のうち、第一粒子と金属層との第一界面における炭化物層の被覆率を求めた。また、第一界面における炭化物層の厚さを求めた。第一界面における炭化物層の被覆率および厚さを表1に示す。
【0094】
(金属層の密着性の評価)
作製した放熱部材の試料について、基材と金属層との密着性を評価した。密着性は、加熱試験を行い、金属層の剥離または金属層の膨れの有無を調べることで評価した。具体的には、水素雰囲気中で、放熱部材を780℃で20分間保持した後、金属層の剥離または金属層の膨れの有無を目視で確認する。密着性の評価は、金属層の剥離または金属層の膨れが無い場合を「A」、有る場合を「B」とする。その結果を表1および表2に示す。
【0095】
(熱伝導率の測定)
また、加熱試験後、放熱部材の熱伝導率を測定した。熱伝導率の測定は、レーザーフラッシュ式熱伝導率測定装置を用いて室温で測定した。その結果を表1および表2に示す。
【0096】
(境界領域の組成)
作製した放熱部材の試料について、基材と金属層との境界領域の組成を分析した。境界領域の組成の分析は、以下のように境界領域から測定領域を設定し、測定領域について行った。金属層の表面に垂直な断面のうち、基材と金属層との界面近傍をSEM-EDXにより観察する。観察視野内における境界領域のうち、短辺が30μmで、かつ長辺が300μmの長方形の領域を測定領域とする。測定領域の短辺の長さは、測定領域における縦方向の長さである。測定領域の短辺の長さは境界領域の厚さに等しい。測定領域の長辺の長さは、金属層4の表面に沿った長さである。つまり、測定領域の長辺の長さは、測定領域における横方向の長さである。この測定領域における組成をEDXによって分析する。
【0097】
境界領域の組成の分析は、各試料について、5つの異なる測定領域における元素の含有量をEDXによってそれぞれ測定した。元素の含有量は、境界領域の組成を100原子%とした値である。具体的には、元素の含有量は、検出された全ての元素の原子数の合計を100原子%として、原子百分率で表した値である。境界領域における元素の含有量は、各測定領域における元素の含有量の平均値である。ここでは、境界領域におけるAgの含有量、Cuの含有量、および第一元素の含有量を求めた。また、AgとCuとの合計含有量に対するAgの含有割合を求めた。その結果を表2に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
試料No.1-1から試料No.1-13はいずれも密着性の評価がAであった。試料No.1-20から試料No.1-22は密着性の評価がBであった。また、試料No.1-1から試料No.1-13はいずれも加熱試験後の熱伝導率が780W/m・K以上であり、試料No.1-20から試料No.1-22よりも高い熱伝導率を有していた。
【0101】
試料No.1-31から試料No.1-33はいずれも密着性の評価がAであった。しかしながら、試料No.1-31から試料No.1-33は熱伝導率が680W/m・K以下であった。試料No.1-31から試料No.1-33の熱伝導率は、試料No.1-9および試料No.1-11の熱伝導率よりも低い。試料No.1-31から試料No.1-33は、試料No.1-9および試料No.1-11と同じように、基材を砥石によって表面処理したものである。試料No.1-31から試料No.1-33の熱伝導率が低下した理由は、境界領域中にCuを含んでいることが原因と考えられる。試料No.1-31から試料No.1-33では、境界領域中におけるAgの含有割合が92原子%未満であり、境界領域中におけるAgの含有割合が低い。そのため、試料No.1-31から試料No.1-33では、境界領域において熱伝導率が低下したものと考えられる。
【0102】
これに対し、試料No.1-1から試料No.1-13は、境界領域中にCuを含んでいない。試料No.1-1から試料No.1-13では、境界領域中におけるAgの含有割合が98原子%以上である。このような境界領域を有することで、境界領域において熱伝導率の低下が抑制されたものと考えられる。更に、試料No.1-1から試料No.1-13では、境界領域中における第一元素の含有量が0.7原子%以下である。これらの試料はいずれも、境界領域中における第一元素の含有量が1.2原子%未満を満たす。
【0103】
試料No.1-1から試料No.1-13ではいずれも、第一界面における炭化物層の被覆率が80%以上である。具体的には、これらの試料における炭化物層の被覆率はいずれも85%以上であった。試料No.1-2から試料No.1-13では、炭化物層の被覆率が概ね100%であった。また、EDXによるマッピング分析により、基準線と金属層の表面との間に第一元素が存在しているか調べた。その結果、試料No.1-1からNo.1-13ではいずれも、基準線と金属層の表面との間に第一元素が存在していた。さらに、第二粒子の間に挟まれる第一粒子の突出量を調べた。基材を研磨紙によって表面処理した試料No.1-1から試料No.1-8、試料No.1-10、および試料No.1-12では、第一粒子の突出量が30μm程度であった。基材を砥石によって表面処理した試料No.1-9および試料No.1-11では、第一粒子の突出量が5μm程度であった。基材の表面をエッチングした試料No.1-13では、第一粒子の突出量が30μmであった。試料No.1-31から試料No.1-33についても、第一粒子の突出量を調べた。基材を砥石によって表面処理した試料No.1-31から試料No.1-33では、第一粒子の突出量が5μm程度であった。
【0104】
試料No.1-1から試料No.1-13について、金属層の表面粗さを測定した。試料No.1-1から試料No.1-13ではいずれも、金属層の表面の算術平均粗さRaが0.1μm以下であった。
【0105】
試料No.1-20から試料No.1-22について、放熱部材の断面をSEM-EDXにより観察した。試料No.1-20では、第一粒子の表面が炭化物層で覆われているが、第一粒子と金属層との第一界面に異物が存在していることが認められた。この異物は、成形型の離型剤と考えられる。試料No.1-21および試料No.1-22では、第一粒子と金属層との第一界面に炭化物層が存在しておらず、コアが炭化物層から露出していた。つまり、第一界面における炭化物層の被覆率が0であった。試料No.1-21および試料No.1-22ではいずれも、基準線と金属層の表面との間に第一元素が存在していなかった。基材の表面処理を行っていない試料No.1-20では、第一粒子の突出量が20μmであった。試料No.1-21および試料No.1-22では、第一粒子の突出量が30μmであった。
【0106】
図6は、試料No.1-12の放熱部材の断面のうち、被覆ダイヤモンド粒子と金属層との界面近傍を拡大したSEM像を示している。SEM像の倍率は700倍である。図6において、黒色の部分が被覆ダイヤモンド粒子のコアであり、灰色の部分が金属であることを示している。図7から図9は、図6に示すSEM像において、被覆ダイヤモンド粒子と金属層との界面近傍をEDXによりマッピング分析した結果を示している。図7は、Tiのみをマッピングしたものである。図7において、明るい部分はTiが存在していることを表す。図8は、Cのみをマッピングしたものである。図8において、灰色の部分がCである。図9は、Agのみをマッピングしたものである。図9において、灰色の部分がAgである。図6に示すSEM像と図7に示すTiのマッピング像から、試料No.1-12では、被覆ダイヤモンド粒子のコアの表面にTiが濃く分布していることが分かる。コアの表面におけるTiが濃く分布している領域がTiCからなる炭化物層と考えられる。また、被覆ダイヤモンド粒子から離れた位置にTiが点在していることから、金属層中にTiが分布していることが分かる。
【0107】
図10は、試料No.1-12の放熱部材の断面のうち、第一粒子と金属層との第一界面の一部を拡大したSEM像を示している。SEM像の倍率は10000倍である。図10において、多角形状の黒い部分が第一粒子20aのコア21であり、コア21の表面を覆う濃い灰色の部分が炭化物層22である。薄い灰色の領域が金属層4である。図10に示すように、試料No.1-12では、第一粒子20aと金属層4との第一界面に炭化物層22が存在していることが分かる。
【符号の説明】
【0108】
1 放熱部材
2 基材
4 金属層
10 複合材料
20 被覆ダイヤモンド粒子
20a 第一粒子、20b 第二粒子
21 コア、 22 炭化物層
30 結合相
S 基準線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10