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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078303
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】RFeB系磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20240603BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20240603BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F7/02 E
H01F1/057 160
H01F1/057 170
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190762
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】595181210
【氏名又は名称】株式会社ダイドー電子
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉見 勇祐
(72)【発明者】
【氏名】森田 敏之
(72)【発明者】
【氏名】梶並 佳朋
(72)【発明者】
【氏名】中村 通秀
【テーマコード(参考)】
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
5E040AA04
5E040CA01
5E040HB11
5E040NN06
5E062CD04
5E062CG03
(57)【要約】
【課題】角型比の低下を抑えつつ保磁力を高くすることができるRFeB系焼結磁石又はRFeB系熱間塑性加工磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】希土類元素R、Fe及びBを含有するRFeB系焼結体又はRFeB系熱間塑性加工体から成る基材11Aを準備する基材準備工程と、重希土類元素RHのうちの1種又は複数種を含有するRH含有物から成る島状のRH含有体12Aを複数、前記基材の表面の所定領域内に、該所定領域の面積のうちの50%以上に接触し、且つ隣接するRH含有体同士の間に1mm以上であって該基材の要拡散距離以下の隙間を空けて配置するRH含有体接触工程と、前記RH含有体を接触させた前記基材を、該RH含有体内の重希土類元素RHが該基材の粒界を通して該基材内に拡散する所定温度に加熱する加熱工程とを有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素R、Fe及びBを含有するRFeB系焼結体又はRFeB系熱間塑性加工体から成る基材を準備する基材準備工程と、
重希土類元素RHのうちの1種又は複数種を含有するRH含有物から成る島状のRH含有体を複数、前記基材の表面の所定領域内に、該所定領域の面積のうちの50%以上に接触し、且つ隣接するRH含有体同士の間に1mm以上であって該基材の要拡散距離以下の隙間を空けて配置するRH含有体接触工程と、
前記RH含有体を接触させた前記基材を、該RH含有体内の重希土類元素RHが該基材の粒界を通して該基材内に拡散する所定温度に加熱する加熱工程と
を有することを特徴とするRFeB系磁石の製造方法。
【請求項2】
前記RH含有体接触工程において前記RH含有体を前記所定領域の面積のうちの80%以下に接触させることを特徴とする請求項1に記載のRFeB系磁石の製造方法。
【請求項3】
前記RH含有物が、重希土類元素RHのうちの1種又は複数種を含有する合金若しくは金属間化合物、又は重希土類元素RHの単体の金属の粉末を、液体である有機溶剤と混合して成るスラリー又は有機グリースと混合して成るペーストであることを特徴とする請求項1又は2に記載のRFeB系磁石の製造方法。
【請求項4】
前記RH含有体接触工程において前記スラリー又は前記ペーストをインクジェット法又はスクリーン印刷法によって前記基材の表面の所定領域内に供給することにより前記RH含有体を形成することを特徴とする請求項3に記載のRFeB系磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類元素(以下、「R」とする)、鉄(Fe)及び硼素(B)を主な構成元素とするRFeB系焼結磁石又はRFeB系熱間塑性加工磁石の製造方法に関する。なお、RFeB系焼結磁石はRFeB系の原料粉末を磁界中で配向した後に焼結したものをいい、RFeB系熱間塑性加工磁石はRFeB系の原料粉末に対して熱間プレス加工を行った後に熱間塑性加工を行うことで結晶粒を配向した磁石をいう。
【背景技術】
【0002】
RFeB系焼結磁石は1982年に佐川眞人らによって見出されたものであり、残留磁束密度等の種々の磁気特性がそれまでの永久磁石よりも高いという特長を有する。初期のRFeB系焼結磁石は種々の磁気特性のうち保磁力が比較的低いという欠点を有していたが、その後、RFeB系焼結磁石の結晶粒の表面付近に、Dy、Tb及びHo(以下、これら3種の元素を「重希土類元素」と総称する。また、重希土類元素に「RH」との記号を付す。)のうちの1種又は複数種を存在させることによって保磁力を向上させることができることが見出された。これにより今日では、RFeB系焼結磁石は、ハイブリッド自動車や電気自動車等の自動車用モータや産業機械用モータ等の各種モータ、スピーカー、ヘッドホン、永久磁石式磁気共鳴診断装置等、様々な製品に使用されるようになった。
【0003】
重希土類元素RHは、RFeB系焼結磁石の結晶粒の表面付近に存在する限り、保磁力以外の磁気特性にほとんど影響(悪影響)を及ぼさないものの、結晶粒の内部に多く存在すると残留磁束密度を低下させてしまうという欠点を持つ。そこで従来より、粒界拡散法と呼ばれるRFeB系焼結磁石の製造方法が用いられている(例えば特許文献1)。粒界拡散法では、RFeB系磁石の原料粉末を焼結させた焼結体から成る基材を作製したうえで、重希土類元素RHを含有するRH含有物を基材の表面に付着させ、所定の温度範囲内(典型的には700~1000℃)の温度に加熱する。すると、RH含有物中の重希土類元素RHは、基材である焼結体の粒界を通って焼結体内に拡散してゆき、結晶粒の表面付近に侵入するが、結晶粒の内部にはほとんど侵入しない。これにより、重希土類元素RHが結晶粒の表面付近には十分に存在しつつ結晶粒の内部にはほとんど存在しないRFeB系焼結磁石が得られる。
【0004】
特許文献1では、重希土類元素RHを含有する合金粉末と有機溶剤を混合することにより作製されたスラリーをノズルから吐出させながら該ノズルを移動させてゆくこと(いわゆるインクジェット法)により、RH含有物を基材の表面に付着させている。この場合、スラリーの粘性が高いことから、スラリーをノズルから一定の速度(単位時間当たりの吐出量)で吐出させることが難しく、基材の表面にRH含有物を一様に付着させることは困難である。しかし、特許文献1によれば、実際には基材の表面にRH含有物を一様に付着させる必要はなく、例えばRH含有物を、隙間を空けつつ点状又は線状に付着させた場合であっても、その隙間が或る程度小さければ、同じ量のRH含有物を基材の表面に一様に付着させた場合と同程度の保磁力が得られる。
【0005】
特許文献1で挙げられた具体例では、略直方体(6つの面のうちの1つの面のみが凸曲面)の形状を有する基材(寸法の記載は無し)を複数個用意し、各基材の1つの面に、単位面積当たりのRH含有物の量が同じ値(16mg/cm2)となるように、平面視で円形の付着物を複数個、正方格子状又は千鳥状に配置し、900℃に加熱することにより粒界拡散処理が行われた。ここで付着物の大きさ及び間隔は、基材毎に異なる値に設定されている。比較対象として、塗布物を同じ量だけ1つの面の全体に均一に付着(以下、「均一付着」と呼ぶ)させ、900℃に加熱するという粒界拡散処理も行われた。その結果、付着物同士の隙間が0.1~0.6mmの範囲内にある場合には、均一付着の場合の保磁力(24.9kOe(1981kA/m))と同程度の保磁力(24.6~25.0kOe(1958~1989kA/m))が得られた。なお、付着物同士の隙間が2.9mm及び3.6mmである場合には、保磁力はそれぞれ21.0kOe(1671kA/m)及び16.2kOe(1289kA/m)という、均一付着の場合よりも低い値となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-078275号公報
【特許文献2】特開2015-122517号公報
【特許文献3】特開2006-019521号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日置敬子、服部篤 著、「超急冷粉末を原料とした省Dy型Nd-Fe-B系熱間加工磁石の開発」、素形材 第52巻第8号第19~24頁、一般財団法人素形材センター、2011年8月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
モータ等に用いられる磁石では、高い保磁力のみならず、高い角型比(squareness ratio。「SQ」とも呼ばれる。)を有することが要求される(例えば特許文献2参照)。角型比は、縦軸を磁化J、横軸を磁界Hとするグラフ上で表される磁化曲線の第2象限において、磁化Jが最大値Jrから10%低下したときの磁界の絶対値Hkを、磁化Jが0となるときの磁界の値である保磁力Hcjで除した値、即ちSQ=Hk/Hcjで表される(図1参照)。図1(a)及び(b)にそれぞれ示した例では、いずれも保磁力Hcjは同じ値を有するが、(a)よりも(b)の方が、Hkが小さく、それゆれSQも小さい。(b)のようにSQが小さいと、たとえ保磁力Hcjが大きくとも、磁化Jに対して逆方向にHcjよりも弱い磁界が印加されたときに磁化Jが低下してしまい、十分な特性が得られない。このように保磁力Hcjが高いにも関わらずSQが低下するという原因の1つとして、焼結磁石内において重希土類元素RHの濃度分布に濃淡が生じ、部分的に保磁力Hcjが低くなることが考えられる。特許文献1にはSQ値が記載されていないが、同文献に記載の方法では重希土類元素RHの濃度分布に濃淡が生じ、それによってSQ値が低下してしまうおそれがある。
【0009】
ここまではRFeB系焼結磁石を例に説明したが、RFeB系熱間塑性加工磁石においても同様である。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、角型比の低下を抑えつつ保磁力を高くすることができるRFeB系焼結磁石又はRFeB系熱間塑性加工磁石の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明に係るRFeB系磁石の製造方法は、
希土類元素R、Fe及びBを含有するRFeB系焼結体又はRFeB系熱間塑性加工体から成る基材を準備する基材準備工程と、
重希土類元素RHのうちの1種又は複数種を含有するRH含有物から成る島状のRH含有体を複数、前記基材の表面の所定領域内に、該所定領域の面積のうちの50%以上に接触し、且つ隣接するRH含有体同士の間に1mm以上であって該基材の要拡散距離以下の隙間を空けて配置するRH含有体接触工程と、
前記RH含有体を接触させた前記基材を、該RH含有体内の重希土類元素RHが該基材の粒界を通して該基材内に拡散する所定温度に加熱する加熱工程と
を有することを特徴とする。
【0012】
本発明では、RH含有体接触工程において、基材の表面の所定領域内に、島状のRH含有体を複数接触させる。ここで「所定領域」は、基材が複数の平面及び/又は曲面を組み合わせた形状を有する場合にはそれら複数の面のうちの1つ又は複数の面の全体としてもよいし、1面又は複数面のそれぞれ一部としてもよく、さらにはそれら平面及び/又は曲面に限定することなく基材の表面の任意の領域としてもよい。例えば、基材の形状が直方体である場合には、該直方体の6つの面のうちの1つの面の全体や、対向する2つの面の全体を所定領域とすることができる。あるいは、1つ又は複数の面の一部のみを所定領域としてもよい。
【0013】
RH含有体は、所定領域内の基材の表面に接触していればよく、その接触の態様は問わない。例えば、重希土類元素RHのうちの1種又は複数種を含有する(以下、単に「重希土類元素RHを含有する」は「重希土類元素RHのうちの1種又は複数種を含有する」ことを意味する)合金若しくは金属間化合物、又は重希土類元素RHの単体)の金属(以下、これら3種を総称して「合金等」と呼ぶ)の粉末を液体である有機溶剤と混合して成るスラリーや、合金等の粉末をシリコーングリース等の有機グリースと混合して成るペーストを付着させることにより、基材の表面に接触させることができる。あるいは、合金等の粉末、箔又は塊を直接基材の表面に接触させてもよい。なお、重希土類元素RHを含有する合金又は金属間化合物は、重希土類元素RH以外の元素を合わせて含有していてもよい。
【0014】
RH含有体の形状は、平面視で円形や正方形等の点状であってもよいし、線状(帯状)であってもよい。隣接するRH含有体は、所定の大きさの隙間を空けて配置する。この隙間の大きさは、1mm以上、且つ要拡散距離以下とする。ここで要拡散距離は、所定領域内の各点から基材の表面に垂直な線である垂線上にある基材内の全体に亘って重希土類元素RHを拡散させる際に最長となる拡散距離をいう。例えば直方体の基材のうちの1つの面の全体を所定領域とする場合には、要拡散距離は厚さと同じ距離となる。また、直方体の基材のうち対向する2つの面の全体を所定領域とする場合には、重希土類元素RHが該2つの面から厚さの半分だけ拡散することで厚さ方向の全体に行き亘るため、要拡散距離は厚さの半分とすればよい。
【0015】
このように前記隙間の大きさを1mm以上且つ要拡散距離以下とすることにより、加熱工程の初期の段階において、基材内における重希土類元素RHの濃度に、位置毎の相違である濃度勾配が生じる。このような濃度勾配が生じることにより、濃度の高い領域から低い領域への重希土類元素RHの拡散が促進される。その結果、最終的に、同量のRH含有体を所定領域に均一に接触させた場合よりも、重希土類元素RHを基材内に均一に近い状態で拡散することができ、重希土類元素RHの濃度分布を均一に近くすることができる。これにより、角型比の低下を抑えつつ保磁力の高いRFeB系焼結磁石又はRFeB系熱間塑性加工磁石を得ることができる。
【0016】
なお、隙間が1mm未満であると加熱工程の初期段階で基材内の塗布面方向に重希土類元素RHの濃度勾配を十分に形成することができない。また、隙間が要拡散距離を超えると、重希土類元素RHを基材の全体に十分に行き亘らせることができず、最終的に基材内の重希土類元素RHが不均一になってしまう。そのため、本発明では隙間の大きさを1mm以上且つ要拡散距離以下とする。
【0017】
また、所定領域の面積のうちの50%未満にしかRH含有体を接触させなかった場合には、重希土類元素RHを十分に基材内に拡散させることができない。そのため、RH含有体は所定領域の面積のうちの50%以上に接触させるようにする。なお、RH含有体を付着させる面積の上限は主に前記隙間の大きさにより定まるが、該面積は80%以下とすることが好ましい。
【0018】
加熱工程における温度(前記所定温度)は、通常の粒界拡散処理の加熱工程と同様の温度とすればよく、典型的には700~1000℃の範囲内の温度とすればよい。但し、前記所定温度はこの範囲内には限定されず、RH含有体内の重希土類元素RHが基材の粒界を通して基材内に拡散する温度であればよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る製造方法により、角型比の低下を抑えつつ、高い保磁力を有するRFeB系焼結磁石又はRFeB系熱間塑性加工磁石を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】磁化曲線の一例を示す図(a)、及び保磁力Hcjが(a)と同じ値であって角型比SQが(a)よりも低い磁化曲線の例を示す図(b)。
図2】本発明に係るRFeB系磁石製造方法の実施形態で用いる基材の形状の例を示す図であって、直方体のもの(a)、直方体を弓形に湾曲させた形状のもの(b)、及び直方体の6つの面のうちの1面を凸の弓形の曲面に変更した形状のもの(c)を示す斜視図。
図3】本実施形態のRFeB系磁石製造方法において基材の表面の所定領域に接触させた島状のRH含有体の形状及び配置の例を示す図であって、線状のRH含有体を平行に配置したもの(a)、正方形のRH含有体を正方格子状に配置したもの(b)、及び円形のRH含有体を正方格子状に配置したもの(c)を示す平面図。
図4】本実施形態のRFeB系磁石製造方法において要拡散距離を説明するための図であって、直方体の基材における1つの面を所定領域とした場合(a)、及び直方体の基材における対向する2つの面を所定領域とした場合(b)について示す縦断面図。
図5】実施例、比較例及び参考例における隙間の大きさと保磁力角型比積Hcj・SQの関係を求めた実験結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図2図5を用いて、本発明に係るRFeB系磁石の製造方法の実施形態を説明する。
【0022】
(1) 本発明に係るRFeB系磁石の製造方法の実施形態
(1-1) 基材及び基材準備工程
本実施形態のRFeB系磁石の製造方法において、基材には、希土類元素R(典型的には軽希土類元素であるNd又は/及びPr)、Fe並びにBを含有するRFeB系焼結体又はRFeB系熱間塑性加工体を用いる。このうちRFeB系焼結体は、原料のRFeB系合金粉末を磁界により配向させながらプレス成形を行った後に焼結するプレス法で作製してもよいし、特許文献3に記載のようにRFeB系合金粉末をプレス成形することなくモールド中で磁界により配向させたうえでそのまま焼結するPLP(Press-less process)法で作製してもよい。保磁力をより高くすることができるという点、及び機械加工をすることなく複雑な形状のRFeB系焼結磁石体を作製することができるという点で、PLP法の方が好ましい。RFeB系熱間塑性加工磁石体は、非特許文献1に記載の方法で作製することができる。
【0023】
RとFeとBの組成比は、典型的には原子比で2:14:1であるが、この比から多少ずれていてもよい。また、R、Fe及びB以外の元素が添加されていてもよい。例えば、Feの一部がCo及び/又はNiに置換されていてもよいし、Cu, Al, Ga等の添加元素を含んでいてもよい。また、C、N、Oといった不可避的不純物を含有することも許容される。
【0024】
基材の形状は特に問わない。例えば、図2(a)に示すように直方体の基材11A、(b)に示すように直方体を弓形に湾曲させた形状の基材11B、(c)に示すように直方体の6つの面のうちの1面を凸の弓形の曲面に変更した形状の基材11C等を用いることができる。
【0025】
(1-2) RH含有物接触工程
RH含有体接触工程では、重希土類元素RHを含有する(前述の通り、重希土類元素RHを1種又は複数含有する)RH含有物を用いる。RH含有物には、例えば以下のものを用いることができる。まず、重希土類元素RHを含有する粉末であるRH含有粉末とシリコーングリース等のグリースに混合したRH含有ペーストや、RH含有粉末と液体の有機溶剤を混合したRH含有スラリーが挙げられる。ここでRH含有粉末は、重希土類元素RHを含有する合金等(前述の通り、重希土類元素RHを含有する合金若しくは金属間化合物、又は重希土類元素RHの単体)を粉砕することにより作製される。あるいは、重希土類元素RHを含有する合金等を単独でRH含有物として用いてもよい。
【0026】
RH含有体接触工程では、このようなRH含有物から成り島状の形状を有するRH含有体を、基材の表面の所定領域内に接触させる。RH含有物がRH含有ペーストやRH含有スラリーである場合には、それらを基材の表面に付着させる。また、重希土類元素RHを含有する合金等を単独でRH含有物とする場合には、合金等から成る粉末、箔、塊等を基材の表面に載置することにより接触させる。
【0027】
基材の表面の所定領域は任意に設定することができる。例えば、図2(a)~(c)に示した6つの面(平面又は曲面)を有する基材では、それら6つの面のうちの1又は複数の面の全体を所定領域としてもよいし、それら1又は複数の面の一部のみを(部分的に)所定領域としてもよい。
【0028】
基材の表面に接触させた状態でのRH含有体の形状は島状とする。例えば、図3(a)に示すように線状(帯状)の形状を有するRH含有体12Aを用いてもよいし、(b), (c)に示すように点状の形状を有するRH含有体12B、12Cを用いてもよい。点状のRH含有体の形状は、RH含有体12Bでは正方形、RH含有体12Cでは円形としたが、これらの例には限定されない。また、図3(b), (c)ではRH含有体12B、12Cを正方格子状に配置した例を示したが、三角格子状等の他の配置としてもよい。
【0029】
RH含有体は、所定領域の面積のうちの50%以上に接触するように、隣接するRH含有体同士の間に所定の隙間を空けて配置する。なお、RH含有体が接触する面積が所定領域の面積のうちの50%を下回ると、後述の加熱工程において重希土類元素RHを十分に基材内に拡散させることができない。隣接するRH含有体同士の間の隙間の大きさは、1mm以上、且つ以下に述べる要拡散距離以下とする。
【0030】
要拡散距離は、所定領域内の各点から基材の表面に垂直である垂線上にある基材内の全体に亘って重希土類元素RHを拡散させる際に最長となる拡散距離をいう。具体的には、所定領域内の各点から基材の表面に垂直に引いた垂線が所定領域外の基材の表面と交差する点又は所定領域内の他の点から基材の表面に垂直に引いた垂線と交差する点までの距離を取り、前記各点で得られた当該距離のうちの最長のものを要拡散距離とする。また、互いに平行な2つの面にそれぞれ対向するように設けられた同一形状の領域を所定領域とする場合には、一方の面にある所定領域内の各点から基材の表面に垂直に引いた垂線は、その点に対向する他方の面の所定領域内の点から基材の表面に垂直に引いた垂線と一致する。この場合には両者の面からそれぞれ半分の距離だけ拡散すれば当該垂線上の全体に重希土類元素RHが行き亘るため、要拡散距離は当該垂線の半分の長さとすればよい。
【0031】
例えば、図4(a)に示すように、直方体の基材11Aのうちの1つの表面13Aの全面を所定領域14Aとする場合には、所定領域14A内の各点から表面13Aに垂直に引かれた垂線15Aはいずれも、表面13Aに対向する表面13Bと交差することから、要拡散距離は表面13Aと表面13Bの距離であって、基材11Aの厚さtと同じ長さとなる。
【0032】
別の例として、図4(b)に示すように、直方体の基材11Aの対向する2つの表面13A及び13Bのそれぞれ全面を所定領域14Bとする場合には、所定領域14Bの一部である一方の表面13A内の各点から表面13Aに垂直に引かれた垂線15Bはいずれも、その点に対向する他方の表面13B(これも所定領域14Bの一部)内の点から表面13Bに垂直に引かれた線と一致する。この場合には、垂線15Bの半分の長さであって、基材11Aの厚さtの半分t/2と同じ長さとなる。
【0033】
隣接するRH含有体同士の間の隙間16の大きさは、図3(a)に示した例のように複数の線状(帯状)のRH含有体12Aを平行に配置した場合には、RH含有体12Aの無い帯状部分の幅で規定される。図3(b)や(c)に示した例のように点状のRH含有体12B、12Cを正方格子状に配置した場合には、隙間16の大きさは、それらRH含有体12B、12Cを配置した平面内でRH含有体12B、12Cの無い領域(図3(b), (c)中の白色の領域)のうち、RH含有体12B、12Cとの距離が最も遠い点を含む線分の長さで定義した。図3(b), (c)の例では、隙間16は対角線状に隣接する2個のRH含有体12B、12Cの隙間で規定し、この対角線の中点が「RH含有体12B、12Cとの距離が最も遠い点」に該当する。
【0034】
隙間16の大きさが1mmを下回ると、次に述べる加熱工程の初期段階で基材内に重希土類元素RHの濃度勾配を十分に形成することができない。このような濃度勾配の意義については後述する。また、隙間が要拡散距離を超えると、重希土類元素RHを基材の全体に十分に行き亘らせることができない。そのため、本実施形態では、隣接するRH含有体同士の間の隙間の大きさを1mm以上且つ要拡散距離以下とする。
【0035】
RH含有ペーストやRH含有スラリーを基材表面に付着(接触)させる方法には、インクジェット法やスクリーン印刷法等を用いることができる。その際、これらインクジェット法やスクリーン印刷法等を用いて直接島状の形状のRH含有体を形成してもよいし、基材表面の島を形成する部分以外にマスクを施したうえで、その上からマスクを含む全面にRH含有ペーストやRH含有スラリーを供給する(その後、マスクを除去する)ようにしてもよい。重希土類元素RHを含有する粉末、箔、塊等を基材の表面に載置することで基材表面に接触させる場合には、それらを単に載置するだけでもよいが、それらを載置した基材表面を、加熱工程における後述の加熱温度に対する耐熱性を有する部材で押さえることによって粉末、箔、塊等が移動することを防止するようにするとよい。
【0036】
(1-3) 加熱工程
以上のように基板表面の所定領域にRH含有体を付着させた基材を、RH含有体内の重希土類元素RHが該基材の粒界を通して該基材内に拡散する所定温度に加熱する(加熱工程)。このように重希土類元素RHを基材内に拡散させるためには、例えば加熱温度を700~1000℃の範囲内とするとよい。
【0037】
この加熱工程の初期の段階では、前記所定領域が設定された基材の表面からわずかに基材内側に、RH含有体内の重希土類元素RHが侵入する。その際、RH含有体が所定の隙間を空けて配置されていることから、当該基材内では表面に平行な方向に重希土類元素RHの濃度勾配が形成される。具体的には、基材表面のうちRH含有体が存在する範囲に面する位置よりも、隙間に面する位置の方が、重希土類元素RHの濃度が小さくなる。このような濃度勾配が存在すると、重希土類元素RHがその濃度の高い方から低い方に向かう拡散が促進される。そうすると、加熱を開始してから時間が経過すると共に濃度勾配の大きさが小さくなってゆき、最終的には、重希土類元素RHが均一に近い状態で基材内に拡散する。それに対して、本実施形態とは異なり、本実施形態の場合と同量のRH含有体を所定領域に均一に接触させた場合には、加熱工程の初期の段階における基材内での重希土類元素RHの濃度勾配が小さいため、濃度の高い方から低い方への拡散の促進作用が弱くなる。その結果、このような均一接触の場合よりも本実施形態のようにRH含有体同士の間に所定の大きさの隙間を設けた方が却って、重希土類元素RHの濃度分布が近くなり、角型比の低下を抑えつつ保磁力の高いRFeB系焼結磁石又はRFeB系熱間塑性加工磁石を得ることができる。
【0038】
(2) 本実施形態の方法で製造したRFeB系磁石の磁気特性
次に、本実施形態のRFeB系磁石の製造方法によりRFeB系磁石を作製し、得られたRFeB系磁石の磁気特性を測定する実験を行った結果を示す。この実験では、基材には希土類元素であるNd、Fe及びBを含有する(重希土類元素RHは含有せず)、直方体のRFeB系焼結磁石体を用いた。RFeB系焼結磁石体は、直方体の寸法が縦25mm、横45mmであって、厚さが異なる3種類(7.8mm、5.8mm、3.5mm)のものを用意した。
【0039】
RH含有物には、以下の3種類のものを用意した。第1のRH含有物は、TbとCuとAlの合金であるTbCuAl合金をストリップキャスト法により作製し、このTbCuAl合金を粉砕することにより得られたTbCuAl合金粉末をシリコーングリースと混合したもの(「TbCuAlペースト」と呼ぶ)である。ここでTbCuAl合金におけるTbの含有率は46.00原子%(74.53質量%)、Cuの含有率は30.00原子%(19.01質量%)、Alの含有率は24.00原子%(6.46質量%)とした。第2のRH含有物は、単体のTb金属を粉砕することにより得られたTb粉末をシリコーングリースと混合したもの(「Tbペースト」と呼ぶ)である。第3のRH含有物は、単体のTbから成る金属箔(「Tb箔」と呼ぶ)である。
【0040】
これらRH含有物から成る線状のRH含有体を基材の表面に付着(接触)させた(図3(a)参照)。本実験では、所定領域は厚さ方向に対向する2つの面のうちの一方(1つの面)又は両方(2つの面)の全面とした。後述の表1では前者を「片面」、後者を「両面」と記載している。RH含有物を付着させる量は、1個の試料につき、基材の重量に対するRH含有体中の重希土類元素RHの重量の比(「RH重量比」とする)が片面あたり0.50%(両面の場合は合計で1.00%)とした。加熱工程における加熱温度を915℃とし、加熱時間は10時間又は20時間(試料毎に後掲の表1に示す)とした。
【0041】
得られた試料につき、自動車用モータの使用時における典型的な温度である120℃の条件下で、磁気特性として残留磁束密度Br、保磁力Hcj、及び角型比SQを測定した。併せて、得られた保磁力Hcj及び角型比SQの積の値であるHcj・SQ(「保磁力角型比積」と呼ぶ)を求めた。保磁力Hcj及び角型比SQの値の双方が高い値を有する場合に、保磁力角型比積Hcj・SQの値は高くなる。仮に、角型比SQの値が小さければ、たとえ保磁力Hcjの値が大きくとも、保磁力角型比積Hcj・SQの値は小さくなる。同様に、保磁力Hcjの値が小さければ、たとえ角型比SQの値が大きくとも、保磁力角型比積Hcj・SQの値は小さくなる。
【0042】
得られた試料の作製条件、及び磁気特性の測定結果を表1に示す。表1中、実施例1~16は本実施形態の要件を満たす方法で作製された試料を、参考例1~4は基材の1面又は対向する2面の全体にRH含有物を均一に付着させたもの(従って、本実施形態の要件を満たさない方法で作製された試料)、比較例1~9は、本実施形態の要件のうち「所定領域の面積のうちの50%以上に接触」(面積比)又は/及び「1mm以上であって該基材の要拡散距離以下の隙間」を満たさない方法で作製された試料である。なお、参考例1と実施例1~8及び比較例1~7は要拡散距離が共通している。同様に、参考例2と実施例9~11及び比較例8,9、参考例3と実施例12~14、参考例4と実施例15,16は、それぞれ要拡散距離が共通している。
【表1】
【0043】
これらの実験結果より、面積比が50%以上であって隙間が1mm以上且つ要拡散距離以下である実施例1~16の試料はいずれも、参考例1~4のうちそれらと同じ要拡散距離を有する試料(例えば実施例1~8では参考例1)よりも保磁力角型比積Hcj・SQの値が有意に大きくなっている。それに対して比較例1~9の試料では、それらと同じ要拡散距離を有する参考例との間で保磁力角型比積Hcj・SQの値に有意な差が見られないか、又は参考例よりも保磁力角型比積Hcj・SQの値が小さい。これら比較例1~9のうち、比較例1~5、8、9では、隙間が1mm未満又は要拡散距離よりも大きくなっている。また、比較例6、7では、隙間は要拡散距離よりも小さいものの、面積比が50%未満となっている。
【0044】
図5のグラフには、厚さ7.8mmの基材の両面(要拡散距離3.9mm)に面積比50%でRH含有物を付着させた例である実施例5~8及び比較例4、5の試料における保磁力角型比積Hcj・SQの値、参考例1の試料のHcj・SQの値(同グラフに三角印で示したデータ)と共に示す。このグラフより、保磁力角型比積Hcj・SQの値は、実施例5~8では参考例1よりも大きいのに対して比較例4、5では小さいことがわかる。
【0045】
また、参考例5として、実施例1~8及び参考例1と同じ厚さを有する基材の厚さ方向の両面に、RH重量比が0.55%と(すなわち、表1に示した各例よりも10%多く)なるようにTbCuAlペーストを付着させたうえで、実施例1~8及び参考例1と同じ条件で加熱した試料を作製した。参考例5の試料の磁気特性は、残留磁束密度Brが1.250T(12.50kG)、保磁力Hcjが1079kA/m(13.56kOe)、角型比SQが94.98%、保磁力角型比積Hcj・SQが1025(CGS単位系では12.66)であった。参考例5と実施例4(隙間2mm)を対比すると、実施例4の方が参考例5よりもRH重量比が小さいにも関わらず保磁力角型比積Hcj・SQが大きくなっている。この結果は、本実施形態の方法において隙間の大きさを適切に設定することにより、重希土類元素RHの消費量を抑えつつ保磁力角型比積Hcj・SQの値が大きいRFeB系磁石を得ることができることを示している。
【0046】
実施例12~14ではRH含有体を基材の片面にのみ付着(接触)させたが、これらの場合にも、RH含有体を基材の片面全体に均一に付着(接触)させた参考例3よりも保磁力角型比積Hcj・SQの値が大きくなることが確認された。
【0047】
また、単体のTbを含有するTbペーストを用いた実施例15においても、同様のTbペーストを同様の所定範囲内(基材の厚さ方向の両面)に付着(接触)させた参考例4よりも保磁力角型比積Hcj・SQの値が大きくなることが確認された。
【0048】
単体のTbから成るTb箔をで所定範囲内(基材の厚さ方向の両面)に接触させた実施例16は、Tbペーストを同様の隙間及び面積比で同様の所定範囲内に付着(接触)させた実施例15と同程度の保磁力角型比積Hcj・SQの値が得られた。このことは、RH付着物は、基材の表面に接触させることができるものであればよく、RHペーストには限定されないことを示している。
【0049】
以上、本発明に係るRFeB系磁石の製造方法の実施形態を説明したが、言うまでもなく、本発明はそれら実施形態には限定されず種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0050】
11A、11B、11C…基材
12A、12B、12C…RH含有体
13A、13B…基材の表面
14A、14B…所定領域
15A、15B…基材の表面に対する垂線
16…隙間
図1
図2
図3
図4
図5