(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078306
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】半導体式ガス検知素子
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20240603BHJP
【FI】
G01N27/12 C
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190769
(22)【出願日】2022-11-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000190301
【氏名又は名称】新コスモス電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】猿丸 英理
(72)【発明者】
【氏名】大石 達也
(72)【発明者】
【氏名】三橋 弘和
【テーマコード(参考)】
2G046
【Fターム(参考)】
2G046AA23
2G046BA02
2G046BA04
2G046BA06
2G046FB02
2G046FE10
2G046FE15
2G046FE22
2G046FE34
2G046FE39
2G046FE46
(57)【要約】
【課題】干渉ガスの影響を抑制し、エチレンガスを選択的に高精度で検知することができる半導体式ガス検知素子を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の半導体式ガス検知素子1は、エチレンガスを検知するための半導体式ガス検知素子であって、酸化スズまたは酸化インジウムを主成分とし、タングステン酸化物およびモリブデン酸化物が添加された金属酸化物半導体により形成されるガス感応部2と、ガス感応部2を覆い、酸化スズと、酸化スズに保持されたクロム酸化物またはロジウム酸化物とを含む触媒層3とを備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンガスを検知するための半導体式ガス検知素子であって、
前記半導体式ガス検知素子が、
酸化スズまたは酸化インジウムを主成分とし、タングステン酸化物およびモリブデン酸化物が添加された金属酸化物半導体により形成されるガス感応部と、
前記ガス感応部を覆い、酸化スズと、酸化スズに保持されたクロム酸化物またはロジウム酸化物とを含む触媒層と
を備える、半導体式ガス検知素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体式ガス検知素子に関する。
【背景技術】
【0002】
青果物から分泌されるエチレンガスは、植物ホルモンの一種で、その青果物自体や、他の青果物の熟成を促す働きがある。青果物は、エチレンガスの存在により早く熟成する一方で、エチレンガス濃度が高すぎると、熟成しすぎて、劣化し、腐敗する。したがって、青果物の管理では、正確なエチレンガス濃度の管理が求められ、そのためにエチレンガス濃度をできるだけ正確に測定することが求められる。このようなエチレンガス濃度の測定には、たとえば特許文献1に開示されるような半導体式ガスセンサが用いられ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の半導体式ガスセンサは、エチレンガスに対する検知感度が高いものの、青果物を管理する環境で使用され得る水素やエタノールなどの干渉ガスに対する検知感度も比較的高い。半導体式ガスセンサは、このようにエチレンガスと、水素やエタノールなどの干渉ガスとが混在する環境では、その干渉ガスの影響を受けるために、エチレンガスを高精度で検知することが難しい。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みなされたもので、干渉ガスの影響を抑制し、エチレンガスを選択的に高精度で検知することができる半導体式ガス検知素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の半導体式ガス検知素子は、エチレンガスを検知するための半導体式ガス検知素子であって、前記半導体式ガス検知素子が、酸化スズまたは酸化インジウムを主成分とし、タングステン酸化物およびモリブデン酸化物が添加された金属酸化物半導体により形成されるガス感応部と、前記ガス感応部を覆い、酸化スズと、酸化スズに保持されたクロム酸化物またはロジウム酸化物とを含む触媒層とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、干渉ガスの影響を抑制し、エチレンガスを選択的に高精度で検知することができる半導体ガス検知素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る半導体式ガス検知素子の概略図である。
【
図2】ガス濃度の変化に対する半導体式ガス検知素子の素子出力の変化を示す図であり、(a)は、触媒層にクロム酸化物が添加された半導体式ガス検知素子に対する結果で、(b)は、触媒層にロジウム酸化物が添加された半導体式ガス検知素子に対する結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態に係る半導体式ガス検知素子を説明する。ただし、以下に示す実施形態は一例であり、本発明の半導体式ガス検知素子は、以下の例に限定されることはない。
【0010】
本実施形態の半導体式ガス検知素子1は、たとえば大気などの環境雰囲気において、環境雰囲気に含まれるエチレンガスを検知するために用いられる。半導体式ガス検知素子1は、
図1に示されるように、金属酸化物半導体により形成されるガス感応部2と、ガス感応部2を覆う触媒層3とを備えている。半導体式ガス検知素子1は、環境雰囲気中にエチレンガスが存在するときにガス感応部2の抵抗値(または電気伝導度)が変化することを利用して、環境雰囲気におけるエチレンガスを検知する。
【0011】
半導体式ガス検知素子1は、ガス感応部2の抵抗値の変化を検出するために、本実施形態では、
図1に示されるように、ガス感応部2によって覆われるコイル状の貴金属線4を備えている。貴金属線4は、ガス感応部2の抵抗値の変化を検出するための電極として機能するとともに、ガス感応部2および触媒層3を加熱するための加熱部としても機能する。ガス感応部2および触媒層3の加熱温度は、エチレンガスの検知に適した温度であればよく、特に限定されることはないが、たとえば300~500℃、好ましくは350~450℃、さらに好ましくは370~420℃に設定することができる。半導体式ガス検知素子1は、コイル状の貴金属線4を備えることで、いわゆるコイル型(または熱線型、2端子型)の半導体式ガス検知素子として構成される。貴金属線4は、特に限定されることはなく、コイル型の半導体式ガス検知素子において一般的に用いられる材質、線径、コイル径、コイル巻数のものが用いられる。なお、半導体式ガス検知素子1は、コイル型に限定されることはなく、MEMS型または基板型など他のタイプの半導体式ガス検知素子であってもよい。また、半導体式ガス検知素子1は、本実施形態では1つの部材(貴金属線4)により構成された電極および加熱部を備えているが、それぞれ別々の部材により別々に構成された電極および加熱部を備えていてもよい。
【0012】
半導体式ガス検知素子1は、ガス感応部2の抵抗値の変化を検出するために、たとえば、電極(貴金属線4)を介して公知のブリッジ回路(図示せず)に組み込まれる。ブリッジ回路は、半導体式ガス検知素子1における抵抗値の変化によって生じる回路内の電位差の変化を電位差計によって測定して、その電位差の変化をエチレンガスの検知信号として出力する。ただし、半導体式ガス検知素子1は、ガス感応部2の抵抗値の変化を検出することができれば、ブリッジ回路に限定されることはなく、ブリッジ回路とは異なる回路に組み込まれて使用されてもよい。
【0013】
ガス感応部2は、酸化スズ(SnO2など)または酸化インジウム(In2O3など)を主成分とする金属酸化物半導体により形成され、環境雰囲気中にエチレンガスが存在すると抵抗値が変化する部位である。ガス感応部2の抵抗値の変化は、エチレンガスが、ガス感応部2の表面に吸着した酸素と反応することにより生じると考えられる。ガス感応部2は、電気抵抗を調整するために、ドナーとしてアンチモンやセリウムなどの金属元素が添加されていてもよい。ガス感応部2は、酸化スズまたは酸化インジウムを主成分として形成することができればよく、その形成方法は特に限定されない。ガス感応部2は、たとえば、酸化スズまたは酸化インジウムの微粉体をエチレングリコールなどの分散媒体に混ぜてペースト状にしたものを塗布対象(本実施形態では、貴金属線4)に塗布して焼結することにより形成することができる。なお、「主成分」とは、ガス感応部2を構成する成分のうち主な成分を意味し、たとえば、ガス感応部2の中で50モル%よりも多く含む成分のことを意味する。
【0014】
ガス感応部2は、酸化スズまたは酸化インジウムを主成分とする金属酸化物半導体にタングステン酸化物(WO3など)およびモリブデン酸化物(MoO3など)が添加されて形成される。ガス感応部2は、タングステン酸化物およびモリブデン酸化物が添加されることで、エチレンガスに対する検知感度が向上する。これは、タングステン酸化物およびモリブデン酸化物の添加によってガス感応部2の酸化活性が変化することによるものと考えられる。タングステン酸化物の添加量は、特に限定されることはないが、ガス感応部2中の主成分である酸化スズまたは酸化インジウムならびにタングステン酸化物およびモリブデン酸化物の中での総金属成分(スズまたはインジウム、ならびにタングステンおよびモリブデン)中のタングステン(金属成分)の含有量として、0.1~5モル%であることが好ましく、0.2~2モル%であることがさらに好ましく、0.5~2モル%であることがよりさらに好ましい。また、モリブデン酸化物の添加量は、特に限定されることはないが、ガス感応部2中の主成分である酸化スズまたは酸化インジウムならびにタングステン酸化物およびモリブデン酸化物の中での総金属成分(スズまたはインジウム、ならびにタングステンおよびモリブデン)中のモリブデン(金属成分)の含有量として、0.005~5モル%の範囲で設定することができ、特に0.01~2モル%であることが好ましく、0.05~1モル%であることがさらに好ましく、0.1~0.5モル%であることがよりさらに好ましい。
【0015】
ガス感応部2において、酸化スズまたは酸化インジウムを主成分とする金属酸化物半導体にタングステン酸化物およびモリブデン酸化物が添加されていればよく、タングステン酸化物およびモリブデン酸化物の添加方法は特に限定されない。タングステン酸化物は、たとえば、酸化スズまたは酸化インジウムの微粉体とタングステン酸化物の微粉体との混合物を分散媒体に混ぜてペースト状にしたものを塗布対象(本実施形態では、貴金属線4)に塗布して焼結することにより、酸化スズまたは酸化インジウムを主成分とする金属酸化物半導体に添加することができる。また、モリブデン酸化物は、たとえば、タングステン酸化物を含んで焼結された金属酸化物半導体に、モリブデン酸アンモニウム水溶液などのモリブデン系水溶液を含浸させて加熱分解処理を行なうことにより、酸化スズまたは酸化インジウムを主成分とする金属酸化物半導体に添加することができる。
【0016】
触媒層3は、ガス感応部2を部分的または全体的に覆うことで、水素やエタノールなどの干渉ガスに対するガス感応部2の検知感度を低下させる層である。干渉ガスは、半導体式ガス検知素子1の検知の対象ではないものの、半導体式ガス検知素子1によって不可避的に検知され得るガスである。触媒層3が干渉ガスに対するガス感応部2の検知感度を低下させるのは、触媒層3の触媒作用によって干渉ガスが燃焼し、干渉ガスが触媒層3を越えてガス感応部2の表面に到達するのが抑制されるからであると考えられる。触媒層3は、干渉ガスに対するガス感応部2の検知感度を低下させるという目的のために、酸化スズ(SnO2など)と、酸化スズに保持されたクロム酸化物(Cr2O3など)またはロジウム酸化物(Rh2O3など)とを含む。酸化スズとクロム酸化物またはロジウム酸化物とを含むことにより触媒層3が干渉ガスに対するガス感応部2の検知感度を低下させるのは、酸化スズが、高い酸化活性を有しており、干渉ガスを効果的に燃焼除去することができるとともに、クロム酸化物またはロジウム酸化物が、エチレンガスに対して選択的に干渉ガスを燃焼除去することができることによるものと考えられる。
【0017】
触媒層3は、酸化スズにクロム酸化物またはロジウム酸化物が保持されることで形成されていればよく、その組成は特に限定されない。たとえば、触媒層3は、50モル%を超える主成分として酸化スズを含み、主成分である酸化スズにクロム酸化物またはロジウム酸化物が保持されて形成される。触媒層3の酸化スズは、ガス感応部2の金属酸化物半導体とは異なり、ドナーとしてのアンチモンやセリウムなどの金属元素が添加されないことが好ましい。触媒層3にクロム酸化物が添加される場合のクロム酸化物の含有量は、特に限定されることはないが、触媒層3中の主成分である酸化スズおよびクロム酸化物の中での総金属成分(スズおよびクロム)中のクロム(金属成分)の含有量として、干渉ガスに対するエチレンガスの選択性を高めるという観点から、0.5モル%以上が好ましく、1モル%以上がさらに好ましく、エチレンガスに対して高い検知感度を得るという観点から、2モル%以下であることが好ましく、1モル%以下であることがさらに好ましい。また、触媒層3にロジウム酸化物が添加される場合のロジウム酸化物の添加量は、特に限定されることはないが、触媒層3中の主成分である酸化スズおよびロジウム酸化物の中での総金属成分(スズおよびロジウム)中のロジウム(金属成分)の含有量として、干渉ガスに対するエチレンガスの選択性を高めるという観点から、0.02モル%以上が好ましく、0.05モル%以上がさらに好ましく、エチレンガスに対して高い検知感度を得るという観点から、0.1モル%以下であることが好ましく、0.05モル%以下であることがさらに好ましい。
【0018】
触媒層3は、酸化スズにクロム酸化物またはロジウム酸化物が保持されることで形成されていればよく、その形成方法は特に限定されない。触媒層3は、たとえば、クロム酸化物またはロジウム酸化物が添加された酸化スズの微粉体を分散媒体に混ぜてペースト状にしたものを、ガス感応部2の表面に塗布したあと、加熱により焼結させて形成することができる。
【0019】
以上に示したように、本実施形態の半導体式ガス検知素子1は、酸化スズまたは酸化インジウムを主成分とし、タングステン酸化物およびモリブデン酸化物が添加された金属酸化物半導体により形成されるガス感応部2を備えることで、エチレンガスに対して高い検知感度を得ることができる。そして、本実施形態の半導体式ガス検知素子1は、ガス感応部2を覆い、酸化スズと、酸化スズに保持されたクロム酸化物またはロジウム酸化物とを含む触媒層3を備えることで、水素やエタノールなどの干渉ガスに対するガス感応部2の検知感度を低下させることができる。したがって、本実施形態の半導体式ガス検知素子1は、干渉ガスの影響を抑制し、エチレンガスを選択的に高精度で検知することができる。
【実施例0020】
以下において、実施例をもとに本実施形態の半導体式ガス検知素子の優れた効果を説明する。ただし、本発明の半導体式ガス検知素子は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0021】
(半導体式ガス検知素子)
半導体式ガス検知素子として、
図1に示される半導体式ガス検知素子を作製した。半導体式ガス検知素子のガス感応部および触媒層は、以下の要領で形成した。
【0022】
ガス感応部は、アンチモンをドープして所定の電導度を得た酸化スズの微粉体とタングステン酸化物の微粉体との混合物を分散媒体(エチレングリコール)に混ぜてペースト状にしたものを白金コイル(貴金属線)の周りに塗布して600℃で1時間加熱することで焼結させることにより直径が約0.4mmの略球形状に形成した。さらに、タングステン酸化物を含んで略球形状に形成した酸化スズに、モリブデン酸アンモニウム水溶液の液滴を含浸させ、600℃で1時間、加熱分解処理を行い、モリブデン酸化物を添加した。
【0023】
触媒層は、クロム酸化物またはロジウム酸化物を添加した酸化スズの微粉体を分散媒体に混ぜてペースト状にしたものをガス感応部の表面の全周に塗布したあと、600℃で1時間加熱することで焼結させることにより、触媒層を含むガス感応部の直径が約0.6mmの略球形状になるように形成した。なお、触媒層の酸化スズには、ドナーとしてのアンチモンやセリウムなどの金属元素は添加されていない。
【0024】
(ガス濃度の変化に対する半導体式ガス検知素子の素子出力の変化)
半導体式ガス検知素子をブリッジ回路に組み込んで、検知対象ガスであるエチレンガス(以下では、単に「エチレン」という)、ならびに干渉ガスであるエタノールおよび水素がそれぞれ大気中に含まれるそれぞれの環境において、半導体式ガス検知素子の素子出力(ブリッジ回路内の電位差の変化)を測定した。半導体式ガス検知素子の温度は、貴金属線に所定量の電流を流すことにより、400℃とした。ガス感応部におけるタングステン酸化物およびモリブデン酸化物の添加量はそれぞれ、ガス感応部中の酸化スズならびにタングステン酸化物およびモリブデン酸化物の中での総金属成分(スズならびにタングステンおよびモリブデン)中のタングステンおよびモリブデンの含有量として1モル%および0.2モル%とした。また、触媒層にクロム酸化物を添加する場合、触媒層におけるクロム酸化物の添加量は、触媒層中の酸化スズおよびクロム酸化物の中での総金属成分(スズおよびクロム)中のクロムの含有量として1モル%とし、触媒層にロジウム酸化物を添加する場合、触媒層におけるロジウム酸化物の添加量は、触媒層中の酸化スズおよびロジウム酸化物の中での総金属成分(スズおよびロジウム)中のロジウムの含有量として0.05モル%とした。
【0025】
図2(a)および
図2(b)は、エチレン、エタノールおよび水素のそれぞれの濃度の変化に対する半導体式ガス検知素子の素子出力の変化を示している。
図2(a)は、触媒層に金属成分として1モル%のクロム酸化物が添加された半導体式ガス検知素子に対する結果で、
図2(b)は、触媒層に金属成分として0.05モル%のロジウム酸化物が添加された半導体式ガス検知素子に対する結果である。
図2(a)および
図2(b)のいずれにおいても、エチレン、エタノールおよび水素のそれぞれの濃度の増加にともなって、半導体式ガス検知素子の素子出力が増加している。また、エチレン、エタノールおよび水素が互いに同じ濃度の場合、検知対象ガスであるエチレンに対する素子出力が、干渉ガスであるエタノールおよび水素に対する素子出力よりも非常に大きい。この結果から、半導体式ガス検知素子は、タングステン酸化物およびモリブデン酸化物を含む酸化スズにより形成されたガス感応部と、ガス感応部を覆い、クロム酸化物またはロジウム酸化物が保持された酸化スズにより形成された触媒層とを備えることで、水素やエタノールなどの干渉ガスの影響を抑制し、検知対象ガスであるエチレンガスを選択的に高精度で検知することができることが分かる。
【0026】
(触媒層へのクロム酸化物またはロジウム酸化物の添加の影響)
触媒層へのクロム酸化物またはロジウム酸化物の添加量の異なる半導体式ガス検知素子をブリッジ回路に組み込んで、エチレン、水素およびエタノールがそれぞれ10ppm、100ppm、100ppmだけ大気中に含まれるそれぞれの環境において、半導体式ガス検知素子の素子出力を測定した。半導体式ガス検知素子の温度は、貴金属線に所定量の電流を流すことにより、400℃とした。ガス感応部におけるタングステン酸化物およびモリブデン酸化物の添加量はそれぞれ、ガス感応部中の酸化スズならびにタングステン酸化物およびモリブデン酸化物の中での総金属成分(スズならびにタングステンおよびモリブデン)中のタングステンおよびモリブデンの含有量として1モル%および0.2モル%とした。触媒層にクロム酸化物を添加する場合、クロム酸化物の添加量は、触媒層中の酸化スズおよびクロム酸化物の中での総金属成分(スズおよびクロム)中のクロムの含有量として0.2~2モル%とし、触媒層にロジウム酸化物を添加する場合、触媒層におけるロジウム酸化物の添加量は、触媒層中の酸化スズおよびロジウム酸化物の中での総金属成分(スズおよびロジウム)中のロジウムの含有量として0.02~0.2モル%とした。比較例として、クロム酸化物およびロジウム酸化物を含まない触媒層を備える半導体式ガス検知素子と、触媒層を備えない半導体式ガス検知素子を用いた。
【0027】
表1は、クロム酸化物の添加量(クロム含有量)の変化に対する半導体式ガス検知素子の素子出力(エチレン10ppm)および素子出力比(水素100ppm/エチレン10ppm、エタノール100ppm/エチレン10ppm)の変化を示している。表1において、エチレン10ppmから得られた半導体式ガス検知素子の素子出力は、触媒層を設けることにより減少し、触媒層中のクロム酸化物の添加量(クロム含有量)の増加にともなって減少している。しかし、素子出力が50mVを超えると、検知対象ガスであるエチレンを精度よく検知するために十分な感度ということができるが、その観点から、表1のクロム酸化物の添加量(クロム含有量)の範囲内では、十分な感度が得られていることが分かる。その中でも、クロム酸化物の添加量は、クロム含有量として、2モル%以下であることが好ましく、1モル%以下であることがさらに好ましいことが分かる。また、半導体式ガス検知素子の素子出力比(水素100ppm/エチレン10ppm、エタノール100ppm/エチレン10ppm)は、触媒層を設けることにより減少し、触媒層中のクロム酸化物の添加量(クロム含有量)の増加にともなって減少している。素子出力比(水素100ppm/エチレン10ppm、エタノール100ppm/エチレン10ppm)が1よりも小さくなると、干渉ガスである水素およびエタノールの影響を抑えて、検知対象ガスであるエチレンを精度よく検知するために十分な選択性があるということができるが、その観点から、クロム酸化物の添加量は、クロム含有量として、0.5モル%以上であることが好ましく、1モル%以上であることがさらに好ましいことが分かる。
【0028】
【0029】
表2は、ロジウム酸化物の添加量(ロジウム含有量)の変化に対する半導体式ガス検知素子の素子出力(エチレン10ppm)および素子出力比(水素100ppm/エチレン10ppm、エタノール100ppm/エチレン10ppm)の変化を示している。表2において、エチレン10ppmから得られた半導体式ガス検知素子の素子出力は、触媒層を設けることにより減少し、触媒層中のロジウム酸化物の添加量(ロジウム含有量)の増加にともなって減少している。素子出力が50mVを超えると、検知対象ガスであるエチレンを精度よく検知するために十分な感度ということができるが、その観点から、ロジウム酸化物の添加量は、ロジウム含有量として、0.1モル%以下であることが好ましく、0.05モル%以下であることがさらに好ましいことが分かる。また、半導体式ガス検知素子の素子出力比(水素100ppm/エチレン10ppm、エタノール100ppm/エチレン10ppm)は、触媒層を設けることにより減少し、触媒層中のロジウム酸化物の添加量(ロジウム含有量)の増加にともなって減少している。素子出力比(水素100ppm/エチレン10ppm、エタノール100ppm/エチレン10ppm)が1よりも小さくなると、干渉ガスである水素およびエタノールの影響を抑えて、検知対象ガスであるエチレンを精度よく検知するために十分な選択性があるということができるが、その観点から、ロジウム酸化物の添加量は、ロジウム含有量として、0.02モル%以上であることが好ましく、0.05モル%以上であることがさらに好ましいことが分かる。
【0030】