(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078308
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】射出成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/77 20060101AFI20240603BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20240603BHJP
B29C 70/42 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
B29C45/77
B29C45/00
B29C70/42
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190771
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】中村 鷹彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】横井 弘忠
【テーマコード(参考)】
4F205
4F206
【Fターム(参考)】
4F205AA11
4F205AB25
4F205AF02
4F205AR08
4F205HA12
4F205HA34
4F205HA36
4F205HB01
4F205HK19
4F206AA11
4F206AB11
4F206AB25
4F206AF02
4F206AF08
4F206AR08
4F206JA07
4F206JL02
4F206JM04
4F206JN13
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】繊維を含む樹脂を用いて簡易な構成で濃淡模様を発現できる射出成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】シリンダ内の複合材料を金型内に射出する射出工程を備え、前記複合材料は、樹脂中に複数の繊維が分散されており、前記射出工程では、前記複合材料を相対的に速い速度と遅い速度とで多段階に射出する、射出成形品の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内の複合材料を金型内に射出する射出工程を備え、
前記複合材料は、樹脂中に複数の繊維が分散されており、
前記射出工程では、前記複合材料を相対的に速い速度と遅い速度とで多段階に射出する、
射出成形品の製造方法。
【請求項2】
前記射出工程では、前記複合材料を相対的に速い速度と遅い速度とで交互に繰り返して射出する、請求項1に記載の射出成形品の製造方法。
【請求項3】
前記射出工程では、前記複合材料を漸次的に速くまたは漸次的に遅くなるように射出する、請求項1に記載の射出成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、セルロース系繊維複合樹脂の射出成型品を製造する方法が開示されている。この方法では、着色剤またはセルロース系繊維を含む樹脂製インサートピースをランナー部に予め配置し、金型のキャビティにセルロース系繊維複合樹脂を射出している。成形機から射出されたセルロース系繊維複合樹脂は、ランナー部を通ってキャビティに流れ込む。その際、ランナー部に配置された樹脂製インサートピースの一部が、流動しているセルロース系繊維複合樹脂の熱または樹脂とのせん断力によるせん断発熱により溶融する。樹脂製インサートピースの一部が溶融すると、樹脂製インサートピースに含まれる着色剤が流出する、または樹脂製インサートピースに含まれるセルロース系繊維が溶融の際に褐色化する。特許文献1の技術では、着色剤の流出またはセルロース系繊維の褐色化によって、成形機から射出されたセルロース系繊維複合樹脂とは異なる濃色をランダムに射出成形品に流入させ、木目模様を発現させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、着色剤またはセルロース系繊維を含む樹脂製インサートピースを準備する必要があり、部品点数が増加する。特許文献1の技術では、上記樹脂製インサートピースをランナー部に予め配置する工程が必要であり、工程数が増加する。
【0005】
本発明の目的の一つは、繊維を含む樹脂を用いて簡易な構成で濃淡模様を発現できる射出成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の一態様に係る射出成形品の製造方法は、シリンダ内の複合材料を金型内に射出する射出工程を備え、前記複合材料は、樹脂中に複数の繊維が分散されており、前記射出工程では、前記複合材料を相対的に速い速度と遅い速度とで多段階に射出する。
【0007】
(2)上記射出成形品の製造方法において、前記射出工程では、前記複合材料を相対的に速い速度と遅い速度とで交互に繰り返して射出してもよい。
【0008】
(3)上記射出成形品の製造方法において、前記射出工程では、前記複合材料を漸次的に速くまたは漸次的に遅くなるように射出してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の射出成形品の製造方法は、射出速度の差によって、繊維を含む樹脂を用いて濃淡模様を発現できる。複合材料を速い速度で射出すると、せん断発熱が比較的高くなり、シリンダ内で繊維が焦げ易い。せん断発熱は、繊維同士の摩擦、または繊維と樹脂との摩擦に伴うせん断応力によって生じる。複合材料を遅い速度で射出すると、せん断発熱が比較的低くなり、シリンダ内で繊維が焦げ難い。繊維の焦げ具合が大きいほど濃い色を発現でき、繊維の焦げ具合が少ないほど淡い色を発現できる。この繊維の焦げ具合によって、射出成形品に濃淡模様を発現できる。
【0010】
上記(2)のように、複合材料を相対的に速い速度と遅い速度とで交互に繰り返して射出すると、濃い色と淡い色とが交互になった木目模様または縞模様を発現できる。上記(3)のように、複合材料を漸次的に速くなるように射出すると、淡い色から濃い色に順に変化するグラデーション模様を発現できる。複合材料を漸次的に遅くなるように射出すると、濃い色から淡い色に順に変化するグラデーション模様を発現できる。
【0011】
本発明の射出成形品の製造方法は、射出速度の差によって濃淡模様を発現しているため、既存の成形機に簡易な改変を施して利用きる。そのため、本発明の射出成形品の製造方法は、着色剤またはセルロース系繊維を含む樹脂製インサートピースを成形機と金型との間に予め配置する場合に比較して、コストが上昇したり、生産性が低下したりすることが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態の射出成形品の製造方法を説明する概略構成図である。
【
図2】
図2は、実施形態の射出成形品の製造方法の一例を説明するグラフの図である。
【
図3】
図3は、
図2に示すグラフを基に製造された射出成形品の一例を示す説明図である。
【
図4】
図4は、実施形態の射出成形品の製造方法の別の一例を説明するグラフの図である。
【
図5】
図5は、
図4に示すグラフを基に製造された射出成形品の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の射出成形品の製造方法の具体例を、図面を参照して説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。各図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張または簡略化して示す場合がある。図面における各部の寸法比も実際と異なる場合がある。
【0014】
<全体構成>
実施形態の射出成形品の製造方法は、
図1に示す成形機1を用いて、シリンダ2内の複合材料8を金型7内に射出する射出工程を備える。実施形態の射出成形品の製造方法の特徴の一つは、射出工程では、複合材料8を相対的に速い速度と遅い速度とで多段階に射出することにある。射出速度の差によって、
図3および
図5に示すように、射出成形品9の表面9fに濃淡模様90を発現させている。以下では、まず射出成形品の製造方法に用いる成形機1および複合材料8について説明し、その後に射出成形品の製造方法について説明する。
【0015】
<成形機>
成形機1は、
図1に示すように、シリンダ2、ホッパー3、ヒータ4、およびスクリュー5を備える。シリンダ2内には、複合材料8が充填される。シリンダ2の前方には、金型7内に複合材料8を射出するためのノズル20が設けられている。複合材料8は、ホッパー3からシリンダ2内に投入される。シリンダ2の外周にはヒータ4が配置されている。このヒータ4によって、シリンダ2内の複合材料8は加熱される。加熱温度は、複合材料8に含まれる樹脂80の融点による。スクリュー5は、シリンダ2内で回転動作と往復動作とを行う。スクリュー5の回転によって、複合材料8はスクリュー5の溝に沿ってシリンダ2の前方に送られる。このとき、複合材料8は、ヒータ4からの熱で溶融する。溶融された複合材料8がシリンダ2の前方に送られると同時に、スクリュー5は後方へ移動する。所定量の溶融された複合材料8がシリンダ2の前方に溜まったら、スクリュー5をシリンダ2の前方に向かって押し込むことで、上記複合材料8がノズル20から金型7のキャビティ70に射出される。スクリュー5は、シリンダ2の前方に向かって押し込まれる際は回転しない。スクリュー5の回転および往復は、モータ6で動作される。モータ6は、例えばサーボモータである。モータ6がサーボモータであれば、油圧シリンダでスクリュー5が往復動作する場合に比較して、スクリュー5の往復動作を微小に制御できる。
【0016】
成形機1では、ホッパー3からシリンダ2へ複合材料8を投入、スクリュー5の回転によって樹脂80を溶融、スクリュー5の後退によってシリンダ2の前方へ複合材料8を充填、スクリュー5を前方に向かって押し込んで射出するという一連の動作が繰り返し行われる。本例の成形機1では、スクリュー5を前方に向かって押し込む速度、つまりスクリュー5の移動速度が多段階に制御される。言い換えると、射出開始から射出完了までの動作ごとにスクリュー5の移動速度が可変に制御される。
【0017】
金型7は、作製する射出成形品9の形状に対応したキャビティ70を有する。キャビティ70に射出された複合材料8は、金型7内で冷却される。この冷却によって、複合材料8が固化されて射出成形品9となる。複合材料8がキャビティ70内に流れ込むと、金型7の内面に接したところから冷却され即座に固化し膜のような状態、いわゆるスキン層が形成される。スキン層は、金型7のゲート71に近い領域から順に形成される。このスキン層は、
図3および
図5に示す射出成形品9の表面9fを構成する。
【0018】
<複合材料>
複合材料8は、樹脂80中に複数の繊維81が分散されている。樹脂80は、例えばポリプロピレン(PP)である。各繊維81は植物繊維である。各繊維81が植物繊維であれば、各繊維81が速い射出速度で焦げ易い。射出速度と繊維81の焦げについては後述する。各繊維81は、例えばセルロース系繊維である。各繊維81は、例えばホワイトアッシュ、パーム、またはもみ殻である。複数の繊維81は、同じ種類の複数の繊維81で構成されていてもよいし、異なる種類の複数の繊維81の組み合わせで構成されていてもよい。
【0019】
複合材料8における複数の繊維81の含有量は、例えば40質量%以上70質量%以下である。上記含有量は、複合材料8全体を100質量%としたときの割合である。上記含有量が40質量%以上であると、射出成形品9の表面9fに後述する濃淡模様90を発現させ易い。上記含有量が70質量%以下であると、相対的に樹脂80の含有量が多くなり、射出成形し易い。上記含有量は、45質量%以上65質量%以下、または50質量%以上65質量%以下であってもよい。
【0020】
<射出成形品の製造方法>
射出成形品の製造方法では、シリンダ2内の複合材料8を金型7内に射出する射出工程において、複合材料8を相対的に速い速度と遅い速度とで多段階に射出している。この多段階の射出は、成形機1のスクリュー5を前方に向かって押し込む速度、つまりスクリュー5の移動速度を多段階に制御することで行っている。上記速度を射出速度と呼ぶ。
【0021】
シリンダ2内でスクリュー5が往復動作すると、シリンダ2内で繊維81同士の摩擦、または繊維81と樹脂80との摩擦に伴うせん断応力によってせん断発熱が生じる。ヒータ4からの熱に加えて、上記せん断発熱が生じると、その温度によってはシリンダ2内で繊維81が焦げる。速い射出速度では、せん断発熱が比較的高くなり、シリンダ2内で繊維81が焦げ易い。遅い射出速度では、せん断発熱が比較的低くなり、シリンダ2内で繊維81が焦げ難い。シリンダ2内での繊維81の焦げ具合によって、シリンダ2のノズル20から射出された複合材料8の色味が変わる。この色味は、シリンダ2内におけるノズル20付近でほぼ決まる。
【0022】
多段階の射出の回数、つまり射出速度を変化させる回数は、例えば5回以上である。上記回数が5回以上であれば、後述する濃淡模様90が発現される。濃淡の変化回数を多くするには、多段階の射出の回数を多くするほどよい。上記回数は、所望の濃淡模様90に対応して適宜選択できる。上記回数は、10回以上、または15回以上であってもよい。
【0023】
射出工程では、
図2に示すように、相対的に速い射出速度と遅い射出速度とを交互に繰り返してもよい。つまり、射出工程では、射出速度をパルス状に変化させてもよい。
図2に示すグラフにおいて、横軸は時間であり、縦軸は射出速度である。射出速度の単位はmm/secである。例えば、速い射出速度は80mm/sec以上であり、遅い射出速度は40mm/sec以下である。この場合、速い射出速度と遅い射出速度との差は、40mm/sec以上である。速い射出速度が100mm/sec以上であり、遅い射出速度が40mm/sec以下であってもよい。この場合、速い射出速度と遅い射出速度との差は、60mm/sec以上である。上記差が60mm/sec以上であれば、後述する濃淡模様90の濃い領域91と淡い領域92との差が目視で分かり易い。速い射出速度が100mm/sec以上であり、遅い射出速度が20mm/sec以下であってもよい。この場合、速い射出速度と遅い射出速度との差は、80mm/sec以上である。速い射出速度と遅い射出速度との差は、例えば100mm/sec以下である。上記差が100mm/sec以下であれば、スクリュー5の応答性が向上し易い。遅い射出速度に対する速い射出速度の比率は、例えば3倍以上である。
【0024】
本例では、一定の速い射出速度Aと一定の遅い射出速度Bとを繰り返している。この場合、射出成形品9の表面9fには、
図3に示すように、濃い領域91と淡い領域92とが交互に繰り返される濃淡模様90が形成される。射出成形を行うと、射出成形品9には、金型7のゲート71に対応して図示しないゲート痕が形成される。このゲート痕を中心に、射出速度に対応した濃淡模様90が形成される。本例では、
図2に示すように、速い射出速度Aから始めて、その後、遅い射出速度Bと速い射出速度Aとを交互に繰り返している。よって、本例では、射出成形品9の表面9fには、
図3に示すように、ゲート痕を中心に濃い領域91が形成され、その後、薄い領域92と濃い領域91とが交互に形成されている。遅い射出速度Bから始めて、その後、速い射出速度Aと遅い射出速度Bとを交互に繰り返してもよい。その場合、ゲート痕を中心に淡い領域92が形成され、その後、射出成形品9の表面9fには、濃い領域91と淡い領域92とが交互に形成される。このように、相対的に速い射出速度Aと遅い射出速度Bとを交互に繰り返すと、濃淡模様90として木目模様が形成される。
【0025】
射出速度の変化は、異なる速い射出速度を組み合わせてもよいし、異なる遅い射出速度を組み合わせてもよい。例えば、速い射出速度A1と速い射出速度A2と遅い射出速度B1と遅い射出速度B2とを順に行うセットを繰り返してもよい。
【0026】
射出工程では、
図4に示すように、射出速度を漸次的に遅くしてもよい。つまり、射出工程では、射出速度を階段状に変化させてもよい。
図4に示すグラフの横軸および縦軸は、
図2に示すグラフと同じである。射出速度を漸次的に遅くすると、射出成形品9の表面9fには、
図5に示すように、図示しないゲート痕を中心に濃い領域91から淡い領域92までグラデーションになった濃淡模様90が形成される。射出速度を漸次的に速くしてもよい。その場合、射出成形品9の表面9fには、図示しないゲート痕を中心に淡い領域92から濃い領域91までグラデーションになった濃淡模様90が形成される。このグラデーションの階調を多くするには、多段階の射出の回数を多くするほどよい。この多段階の射出の回数が5回以上、10回以上、または15回以上である。
【0027】
射出速度の変化量は、例えば5mm/sec以上40mm/sec以下である。射出速度の変化量は、多段階における各段階の射出速度の変化量である。上記変化量が5mm/sec以上であれば、濃淡模様90のグラデーションが目視で分かり易い。上記変化量が40mm/sec以下であれば、スクリュー5の応答性が向上し易い。上記変化量は、10mm/sec以上20mm/sec以下であってもよい。
【0028】
各射出速度における射出時間は、例えば0.2sec以上1.0sec以下である。各射出速度における射出時間が0.2sec以上であれば、射出速度の制御を行い易い。各射出速度における射出時間が1.0sec以下であれば、比較的細かい濃淡模様90を形成し易い。各射出速度における射出時間は、0.5sec以下であってもよい。
【0029】
本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0030】
1 成形機
2 シリンダ
20 ノズル
3 ホッパー
4 ヒータ
5 スクリュー
6 モータ
7 金型
70 キャビティ
71 ゲート
8 複合材料
80 樹脂
81 繊維
9 射出成形品
9f 表面
90 濃淡模様
91 濃い領域
92 淡い領域