(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078313
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】移動体測位システム及び移動体測位切替方法
(51)【国際特許分類】
G01S 19/48 20100101AFI20240603BHJP
G01C 21/28 20060101ALI20240603BHJP
B61L 25/02 20060101ALI20240603BHJP
G01S 19/50 20100101ALN20240603BHJP
【FI】
G01S19/48
G01C21/28
B61L25/02 G
G01S19/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190783
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大嶽 達哉
(72)【発明者】
【氏名】小林 広幸
(72)【発明者】
【氏名】行木 英明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 雄介
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 直人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 美彦
(72)【発明者】
【氏名】服部 陽平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 紀康
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 泰誠
【テーマコード(参考)】
2F129
5H161
5J062
【Fターム(参考)】
2F129AA03
2F129BB03
2F129BB04
2F129BB18
2F129BB33
2F129BB57
5H161AA01
5H161BB02
5H161DD01
5H161DD21
5H161FF07
5J062AA09
5J062BB01
5J062CC07
5J062CC13
5J062DD22
5J062DD23
5J062DD24
5J062FF01
5J062FF04
(57)【要約】
【課題】衛星測位装置の受信環境が不安定となりやすい場面における切替を制御し、より安定した位置精度を確保する。
【解決手段】実施形態の移動体測位システムは、移動体に搭載され、移動体の位置を測位する移動体測位システムであって、人工衛星からの測位用電波を受信し、移動体の第1位置を測位する第1衛星測位部と、人工衛星からの測位用電波を受信し、移動体の第2位置を測位する第2衛星測位部と、移動体の第3位置の自立測位を行う自立測位部と、第1衛星測位部あるいは第2衛星測位部の何れか一方により、移動体の位置を測位する単独測位モードと、第1衛星測位部及び第2衛星測位部により、移動体の位置を測位する相対測位モードと、自立測位部により移動体の位置を測位する自立測位モードと、を有し、何れかの測位モードを排他的に選択する制御部と、を備え、制御部は、自立測位モードと相対測位モードとの間では直接の遷移を禁止する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載され、前記移動体の位置を測位する移動体測位システムであって、
人工衛星からの測位用電波を受信し、前記移動体の第1位置を測位する第1衛星測位部と、
人工衛星からの測位用電波を受信し、前記移動体の第2位置を測位する第2衛星測位部と、
前記移動体の第3位置の自立測位を行う自立測位部と、
前記第1衛星測位部あるいは前記第2衛星測位部の何れか一方により、前記移動体の位置を測位する単独測位モードと、前記第1衛星測位部及び前記第2衛星測位部により、前記移動体の位置を測位する相対測位モードと、前記自立測位部により前記移動体の位置を測位する自立測位モードと、を有し、何れかの測位モードを排他的に選択する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記自立測位モードと前記相対測位モードとの間では直接の遷移を禁止する、
移動体測位システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記自立測位モードあるいは前記相対測位モードから他の測位モードに遷移させる際には、前記単独測位モードに遷移させる、
請求項1に記載の移動体測位システム。
【請求項3】
前記制御部は、切換元の測位モードにおける切換条件の少なくとも一部が成立し、かつ、切換先の測位モードの切換条件の全てが成立した場合に、測位モードへの切り替えを行う、
請求項1に記載の移動体測位システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記単独測位モードと、前記相対測位モードと、の間で測位モードを切り替える場合には、仰角所定の最小値とし、衛星電波の受信強度を所定の最小値として前記第1衛星測位部及び前記第2衛星測位部に衛星捕捉を行わせる、
請求項1に記載の移動体測位システム。
【請求項5】
人工衛星からの測位用電波を受信し、移動体の第1位置を測位する第1衛星測位部と、人工衛星からの測位用電波を受信し、前記移動体の第2位置を測位する第2衛星測位部と、前記移動体の第3位置の自立測位を行う自立測位部と、を有し、前記移動体に搭載され、前記移動体の位置を測位する移動体測位システムで実行される移動体測位切替方法であって、
前記第1衛星測位部あるいは前記第2衛星測位部の何れか一方により、前記移動体の位置を測位する単独測位モード、前記第1衛星測位部及び前記第2衛星測位部により、前記移動体の位置を測位する相対測位モード、前記自立測位部により前記移動体の位置を測位する自立測位モードを有し、何れかの測位モードを排他的に選択する過程と、
前記自立測位モードと前記相対測位モードとの間では直接の遷移を禁止する過程と、
を備えた移動体測位切替方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、移動体測位システム及び移動体測位切替方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両等の移動体において、当該移動体の位置を測位するための測位システムとして、GNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)等を用いた衛星測位装置及び加速度センサ、ジャイロセンサ等を用いた自立測位装置の双方を備えた測位システムが知られている。
衛星測位装置及び自立測位装置を備えた衛星測位システムにおいては、衛星測位装置において受信状態が悪くなると、自立測位装置に切り替え、再び受信状態が良くなった場合に再び衛星測位装置に切り替えることで位置計測精度を一定に保つようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術においては、衛星測位装置の受信環境が不安定となりやすい場面における切替頻度が増え、切替条件付近における不安定な状態では位置計測精度が低下しやすかった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、衛星測位装置の受信環境が不安定となりやすい場面における切替を制御し、より安定した位置精度を確保することが可能な移動体測位システム及び移動体測位切替方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の移動体測位システムは、移動体に搭載され、移動体の位置を測位する移動体測位システムであって、人工衛星からの測位用電波を受信し、移動体の第1位置を測位する第1衛星測位部と、人工衛星からの測位用電波を受信し、移動体の第2位置を測位する第2衛星測位部と、移動体の第3位置の自立測位を行う自立測位部と、第1衛星測位部あるいは第2衛星測位部の何れか一方により、移動体の位置を測位する単独測位モードと、第1衛星測位部及び第2衛星測位部により、移動体の位置を測位する相対測位モードと、自立測位部により移動体の位置を測位する自立測位モードと、を有し、何れかの測位モードを排他的に選択する制御部と、を備え、制御部は、自立測位モードと相対測位モードとの間では直接の遷移を禁止する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態の測位システムの概要構成ブロック図である。
【
図2】
図2は、実施形態の処理フローチャート(その1)である。
【
図3】
図3は、相対測位遷移条件を満たしているか否かの判断処理フローチャートである。
【
図4】
図4は、仰角≧30°とした場合の捕捉衛星数の一例の説明図である。
【
図5】
図5は、
図4と同じ時刻において、仰角≧20°とした場合の捕捉衛星数の一例の説明図である。
【
図6】
図6は、
図4と同じ時刻において、仰角≧5°とした場合の捕捉衛星数の一例の説明図である。
【
図7】
図7は、実施形態の処理フローチャート(その2)である。
【
図8】
図8は、実施形態の処理フローチャート(その3)である。
【
図10】
図10は、誤差過大状態の判断処理フローチャート(その1)である。
【
図11】
図11は、誤差過大状態の判断処理フローチャート(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、実施形態の測位システムの概要構成ブロック図である。
測位システム10は、鉄道車両TRに搭載され、第1衛星測位部21と、第2衛星測位部22と、自立測位部23と、位置計測演算処理部24と、を備えている。
【0009】
第1衛星測位部21は、例えば、GNSS(Global Navigation Satellite System)を構成し、測位用衛星からの測位用電波を受信して鉄道車両TRの測位(衛星測位)を行い、第1衛星測位結果データDP1を位置計測演算処理部24に出力する。
【0010】
第2衛星測位部22は、例えば、GNSSを構成し、第1衛星測位部21に対して所定距離離間して配置され、測位用衛星からの測位用電波を受信して鉄道車両TRの測位(衛星測位)を行い、第2衛星測位結果データDP2を位置計測演算処理部24に出力する。
【0011】
ここで、GNSSは、米国のGPS、日本の準天頂衛星(QZSS)、ロシアのGLONASS(GLO)、欧州連合のGalileo(GAL)、中国のBeidou(BDS)等の衛星測位システムの総称である。
したがって、第1衛星測位部21及び第2衛星測位部22を構成している受信機は、それらの衛星測位システムのいずれであっても測位が可能に構成されている。
【0012】
自立測位部23は、例えば、加速度センサ、ジャイロセンサ等の自立型センサを備え、自立的に鉄道車両TRの測位(自立測位)を行い、自立測位結果データDSを位置計測演算処理部24に出力する。
【0013】
位置計測演算処理部24は、制御部として機能しており、第1衛星測位結果データ、第2衛星測位結果データ及び自立測位結果データに基づいて、鉄道車両TRの位置を算出して位置情報データとして出力する。
【0014】
上記構成において、測位システム10は、第1衛星測位部21及び第2衛星測位部22の測位状態に基づいて、第1衛星測位部21の測位結果あるいは第2衛星測位部22の測位結果の何れか一方に基づいて測位を行う単独測位(モード)と、第1衛星測位部21の測位結果及び第2衛星測位部22の測位結果に基づいて測位を行う相対測位(モード)と、自立測位部23の測位結果に基づいて測位を行う自立測位(モード)と、いう3つの測位モードを備えている。
【0015】
単独測位(モード)は、GNSS衛星から送信される衛星の位置や時刻などの情報を1台の受信機で受信し、当該受信機により得られた情報に基づいて測位を行う。
単独測位においては、位置のわかっているGNSS衛星を動く基準点として、4個以上の衛星から観測点の位置を決定する。主に、移動体の測位に利用されている。
【0016】
相対測位(モード)は、2台以上の受信機を使い、同時に4個以上の同じGNSS衛星から受信する。
GNSS衛星の位置を基準とし、GNSS衛星からの電波信号がそれぞれの受信機に到達する時間差を測定して、2点間の相対的な位置関係を求め、一方の位置を決定する。主に、測量に利用されている。
【0017】
自立測位(モード)は、ジャイロセンサ、加速度センサ、速度発電機(TG)等の各種センサからの情報と合わせて演算処理することにより、GNSS単独では測位を続けることが難しい環境下でも、高い精度で観測点の位置を決定する。
【0018】
この場合において、測位精度は、一般的に、相対測位(モード)が一番高く、次に単独測位(モード)が高く、自立測位(モード)がもっとも低い。
一方、測位可能条件は、相対測位が一番厳しく、次に単独測位となり、自立測位がもっとも容易である。
【0019】
ところで、測位モードを切り替えた場合、安定して切替先の測位モードを維持するためには、測位可能条件を満たすだけでなく、切替先の切替条件を容易に満たすとともに、切替元の切替条件に余裕がある状態で切替を行うことが切替頻度を抑制するとともに安定した測位を継続するためには望まれる。
【0020】
このため、本実施形態においては、自立測位(モード)と相対測位(モード)との間では直接の遷移を禁止し、一旦単独測位(モード)に遷移させる構成を採っている。
また、単独測位(モード)あるいは相対測位(モード)に切り替える場合には、それに先だって、仰角と、捕捉対象を判断するための衛星の受信強度と、を最低値に設定し、捕捉対象となる衛星数を増やして捕捉するようにしている。
【0021】
また、切替頻度を下げるために、切替元の測位モードにおいては、切替条件の一部を満たせば、切替可能とするとともに、切替先の測位モードにおいては、切替後に安定して測位を継続させるように、切換条件を全て(あるいは、より多くの切換条件)満たす場合にのみ切替可能とするようにしている。
【0022】
この結果、切替元の測位モードで測位が安定している段階で、より安定した切替先の測位モードに遷移させることができるので、再び切替が必要となる状態に至るには時間を要するので、切替頻度を抑制することができるのである。
【0023】
次に実施形態の動作を説明する。
図2は、実施形態の処理フローチャート(その1)である。
まず、起動時(電源投入時)に前回の測位が単独測位である場合について説明する。
なお、この場合において、前回の測位が相対測位であった場合も前回の測位が単独測位である場合として扱うものとする。これは、起動時には、衛星配置等も変わっている虞が多いので、確実に測位を開始するためである。
起動時(電源投入時)に前回の測位が単独測位であった場合には、単独測位を維持する(ステップS11)。
単独測位中に、単独測位における誤差過大状態が生じているか否かを判断する(ステップS12)。
より詳細には、例えば、単独測位状態において、以下の(1)~(4)の自立測位遷移条件のうち二つ以上満たされた場合には、誤差過大状態となっているので、自立測位遷移条件のうち二つ以上満たされたか否かを判断する。なお、以下の説明において判断基準として用いている具体的な数値は、理解の容易のために記載したものであり、適宜設定することが可能である。
(1)推定距離誤差ΔL>0.05m)
(2)PACC 3D>0.5m
(3)PACC 3D%>2%
(4)測位に使用した衛星数<15基
なお、遷移を行う条件数及び設定値は、適宜変更することが可能である。
【0024】
ステップS12の判断において、自立測位遷移条件のうち満たされたのが一つ以下である場合には(ステップS12;No)、誤差過大状態には至っていないので、単独測位を継続する(ステップS13)。
【0025】
次に単独測位中に以下の(1)~(3)の相対測位遷移条件が成立、すなわち、相対測位遷移条件が全て満たされたか否かを判断する(ステップS14)。
(1)受信機が移動基地局モード(moving base mode)で動作中
ここで、移動基地局モードとは、二つの移動する受信機の相対位置を
同時刻に測位する受信機の動作モードであり、相対測位の前提となる受
信機の動作モードである。
(2)測位に使用した衛星の平均受信強度≧40dBHz
(3)全捕捉衛星数≧30基
なお、遷移を行う条件数及び設定値は、適宜変更することが可能である。
【0026】
ここで、ステップS14における相対測位遷移条件を満たしているか否かの判断処理について詳細に説明する。
図3は、相対測位遷移条件を満たしているか否かの判断処理フローチャートである。
まず、受信機が移動基地局モード(moving base mode)で動作しているか否かの動作状態情報を取得する(ステップS21)。
【0027】
つづいて、ステップS21で取得した動作状態情報に基づいて受信機が移動基地局モード(moving base mode)で動作しているか否かを判断する(ステップS22)。
ステップS22の判断において、受信機が移動基地局モードで動作していない場合には(ステップS22;No)、相対測位遷移条件が全て満たされた状態ではないと判断し(ステップS23)、ステップS14における判断処理を終了する。
【0028】
ステップS22の判断において、受信機が移動基地局モードで動作している場合には(ステップS22;Yes)、測位に使用した衛星の平均受信強度が40dBHz以上であるか否かを判断する(ステップS24)。
【0029】
ステップS24の判断において、測位に使用した衛星の平均受信強度が40dBHz未満である場合には(ステップS24;No)、相対測位遷移条件が全て満たされた状態ではない、すなわち相対測位遷移条件不備と判断し(ステップS23)、ステップS14における判断処理を終了する。
【0030】
ステップS24の判断において、測位に使用した衛星の平均受信強度が40dBHz以上である場合には(ステップS24;Yes)、全捕捉衛星数が30基以上であるか否かを判断する(ステップS25)。
【0031】
ステップS25の判断において、全捕捉衛星数が30基未満である場合には(ステップS25;No)、相対測位遷移条件が全て満たされた状態ではない、すなわち相対測位遷移条件不備と判断し(ステップS23)、ステップS14における判断処理を終了する。
【0032】
ステップS25の判断において、全捕捉衛星数が30基以上である場合には(ステップS25;Yes)、相対測位遷移条件が全て満たされた状態、すなわち相対測位遷移条件完備であると判断し(ステップS26)、ステップS14における判断処理を終了する。
【0033】
これらの結果、ステップS24の判断において、相対測位遷移条件が全て満たされていない場合、すなわち、相対測位遷移条件が不備である場合には(ステップS24;No)、処理を再びステップS13に移行し、単独測位を維持する。
【0034】
ステップS24の判断において、相対測位遷移条件が完備されていると判断された場合には(ステップS24;Yes)、単独測位から相対測位への切替を開始し(ステップS15)、処理をステップS31(
図7参照)に移行する。
【0035】
この場合において、単独測位から相対測位に切替え後、仰角などが絞られた状態のため、衛星を捕捉できなくなる虞がある。そのため、切替直後は、仰角と捕捉対象を判断するための衛星の受信強度を最低値に設定し、捕捉対象となる衛星数を増やして捕捉するようにする。
【0036】
ここで、仰角と捕捉衛星数の関係の一例について説明する。
図4は、仰角≧30°とした場合の捕捉衛星数の一例の説明図である。
GNSS測位システムにおいては、受信機は、GPS及びQZSS用、GLO用、GAL用及びBDS用を備えているので、
図4においては、GPS及びQZSSの場合、GLOの場合、GALの場合及びBDSの場合のそれぞれについて示している。
【0037】
図4に示すように、GPS及びQZSS用受信機においては、GPS測位システムにおける捕捉衛星数=5基、QZSS測位システムにおける捕捉衛星数=2基の合計7基となっている。
【0038】
この場合において、HDOP(horizontal dilution of precision:水平精度低下率)=1.51、VDOP(vertical dilution of precision:垂直精度低下率)=2.60となっている。
また、衛星は、均等に配置されているが、捕捉衛星数が少なく、測位にはやや適さない状態(△)となっている。
【0039】
また、
図4に示すように、GLO用受信機においては、GLO測位システムにおける捕捉衛星数=4基となっている。
この場合において、HDOP=18.44、VDOP=45.7となっている。
したがって、精度低下率が大きくなっており、捕捉衛星数が少なく、測位には適さない状態(×)となっている。
【0040】
また、
図4に示すように、GAL用受信機においては、GAL測位システムにおける捕捉衛星数=4基となっている。
この場合において、HDOP=2.53、VDOP=13.4となっている。
したがって、精度低下率も大きくなっており、捕捉衛星数が少なく、測位には適さない状態(×)となっている。
【0041】
また、
図4に示すように、BDS用受信機においては、BDS測位システムにおける捕捉衛星数=13基となっている。
【0042】
この場合において、HDOP=1.12、VDOP=2.21となっており、精度低下率も小さく、衛星配置は、南西より配置となっているが、捕捉衛星数が多く、測位には適した状態(○)となっている。
【0043】
図5は、
図4と同じ時刻において、仰角≧20°とした場合の捕捉衛星数の一例の説明図である。
図5に示すように、GPS及びQZSS用受信機においては、GPS測位システムにおける捕捉衛星数=8基、QZSS測位システムにおける捕捉衛星数=3基の合計11基となっている。
【0044】
この場合において、HDOP=0.95、VDOP=1.44となっている。
また、衛星は、均等に配置されているが、捕捉衛星数が少なく、測位には適した状態(○)となっている。
【0045】
また、
図5に示すように、GLO用受信機においては、GLO測位システムにおける捕捉衛星数=5基となっている。
この場合において、HDOP=1.83、VDOP=3.55となっており、精度低下率は小さいが、捕捉衛星数が少なく不足しており、測位には適さない状態(×)となっている。
【0046】
また、
図5に示すように、GAL用受信機においては、GAL測位システムにおける捕捉衛星数=4基となっている。
この場合において、HDOP=2.53、VDOP=13.4となっており、精度低下率もやや大きくなっており、捕捉衛星数が少なく、測位には適さない状態(×)となっている。
【0047】
また、
図5に示すように、BDS用受信機においては、BDS測位システムにおける捕捉衛星数=17基となっている。
この場合において、HDOP=0.82、VDOP=1.29となっており、精度低下率も小さく、衛星配置は、南西より配置となっているが、捕捉衛星数が多く、測位にはより適した状態(◎)となっている。
【0048】
図6は、
図4と同じ時刻において、仰角≧5°とした場合の捕捉衛星数の一例の説明図である。
図6に示すように、GPS及びQZSS用受信機においては、GPS測位システムにおける捕捉衛星数=12基、QZSS測位システムにおける捕捉衛星数=4基の合計16基となっている。
この場合において、HDOP=0.66、VDOP=0.91となっており、精度低下率も小さく、衛星は、均等に配置され、測位にはより適した状態(◎)となっている。
【0049】
また、
図6に示すように、GLO用受信機においては、GLO測位システムにおける捕捉衛星数=8基となっている。
この場合において、HDOP=0.96、VDOP=2.46となっており、精度低下率は小さく、天頂方向に空きがあり、測位には適した状態(○)となっている。
【0050】
また、
図6に示すように、GAL用受信機においては、GAL測位システムにおける捕捉衛星数=8基となっている。
この場合において、HDOP=0.93、VDOP=1.30となっており、精度低下率も小さく、均等配置となっているが、捕捉衛星数が少ないため、測位には適した状態(○)にとどまっている。
【0051】
また、
図6に示すように、BDS用受信機においては、BDS測位システムにおける捕捉衛星数=20基となっている。
この場合において、HDOP=0.67、VDOP=1.02となっており、精度低下率も小さく、衛星配置は、南西より配置となっているが、捕捉衛星数が多く、測位にはより適した状態(◎)となっている。
【0052】
以上の説明のように、衛星配置が同じ状態であっても、測位精度向上のために仰角を大きくし、衛星捕捉範囲を絞った状態としてしまうと、衛星が捕捉できなくなり、かえって測位精度が低下する虞があることがわかる。
したがって、測位モードの切替直後は、仰角をより小さくして最低値に設定し、衛星数を多く捕捉できるようにするのが望ましい。
【0053】
図7は、実施形態の処理フローチャート(その2)である。
単独測位から相対測位への切替を開始し(ステップS15)、相対測位継続状態に至ると(ステップS31)、再び相対測位遷移条件が完備されているか否かを判断する(ステップS32)。
ステップS32の判断において、再び相対測位遷移条件が完備されていると判断された場合には(ステップS32;Yes)、処理を再びステップS31に移行して相対測位継続状態を維持する。
ステップS32の判断において、相対測位遷移条件が不備であると判断された場合には(ステップS32;No)、相対測位から単独測位に切り替える(ステップS33)。
そして、単独測位中に、単独測位における誤差過大状態が生じているか否かを判断する(ステップS34)。
ステップS34の判断において、単独測位中に、単独測位における誤差過大状態が生じていない場合には(ステップS34;No)、単独測位を維持するとともに、処理を再びステップS32に移行して上述した処理を行う。
ステップS34の判断において、単独測位中に、単独測位における誤差過大状態が生じた場合には(ステップS34;Yes)、単独測位から自立測位に切り替え(ステップS35)、処理をステップS41(
図8参照)に移行する。
【0054】
図8は、実施形態の処理フローチャート(その3)である。
一方、
図2のステップS12の判断において、自立測位遷移条件のうち二つ以上満たされた場合には(ステップS22;Yes)、自立測位において誤差過大状態に至ったということなので、単独測位から自立測位への切替を開始し(ステップS16)、自立測位に遷移し、
図8の処理に移行して、自立測位を継続する(ステップS41)。
【0055】
自立測位中に、自立測位における誤差過大状態が生じているか否かを判断する(ステップS42)。
より詳細には、例えば、自立測位状態において、以下の(1)~(4)の自立測位遷移条件のうち二つ以上満たされた場合には、誤差過大状態となっているので、自立測位遷移条件のうち二つ以上満たされたか否かを判断する。
(1)推定距離誤差(ΔL)≦0.05m
(2)PACC 3D≦0.5m
(3)PACC 3D%≦2%
(41)測位に使用した衛星数≧15基
なお、遷移を行う条件数及び設定値は、適宜変更することが可能である。
【0056】
ステップS42の判断において、誤差過大状態ではない場合には(ステップS42;No)、処理を再びステップS41に移行して、自立測位を継続する。
ステップS42の判断において、誤差過大状態である場合には(ステップS42;Yes)、自立測位の継続は好ましくないので、自立測位から単独測位に切り替える(ステップS43)。
【0057】
さらに単独測位中に相対測位遷移条件が完備されたか否かを判断する(ステップS44)。この場合の判断基準は、上述したステップS14の場合と同じである。
【0058】
ステップS44の判断において、相対測位遷移条件が完備されていない場合には(ステップS44;No)、再び処理をステップS42に移行して、単独測位状態を維持し、叙述した処理を行う。
【0059】
ステップS44の判断において、相対測位遷移条件が完備されている場合には(ステップS44;Yes)、単独測位から相対測位に切り替え(ステップS45)、処理を再び
図7のステップS31に移行して、以下、上述した処理を行う。
【0060】
次に、再び
図2の説明に戻り、起動時(電源投入時)に前回の測位が自立測位である場合について説明する。
起動時(電源投入時)に前回の測位が自立測位であった場合には、自立測位を開始し(ステップS17)、処理を
図8のステップS41に移行し、自立測位を継続する(ステップS41)。
以下、上述したステップS42からステップS44の処理を行うこととなる。
【0061】
以上の説明のように、実施形態の測位装置によれば、単独測位及び自立計測に加え、相対測位の何れかの測位方法(測位モード)で測位を行うに際し、切替条件付近になっているかを監視し、より安定する測位方法に早めに切り替え、切替頻度を抑制することで処理負荷を低減し、不安定な状況による位置計測精度の低下を抑制できる。
【0062】
すなわち、人工衛星からの測位用電波の受信環境が不安定となりやすい場面における切り替え頻度を制御し、より安定した位置計測精度を確保することができる。
【0063】
次に単独測位あるいは相対測位における誤差過大状態の判断処理について、より詳細に説明する。
図9は、測位状態の概念説明図である。
図9において、測位位置PS0は、前回の測位時における測位位置であり、測位位置PS1は今回の測位時における真の測位位置である。
また測位位置PSeは、誤差過大状態において得られた測位位置である。
【0064】
また、前回の測位位置PS0から真の測位位置PS1に至るベクトル長さをL1で表し、前回の測位位置PS0から誤差過大状態において得られた測位位置PSeに至る長さ(移動長さ、移動距離)をL2で表すものとする。
上記状態において、誤差過大状態の判断処理について説明する。
【0065】
図10は、誤差過大状態の判断処理フローチャート(その1)である。
まず、所定数のGNSSデータを取得し、一時的に格納する(ステップS51)。
例えば、0.1s毎にGNSSデータを取得している場合には、例えば、1秒分の10個のGNSSデータを格納する。
【0066】
つづいて、所定数(上述の例の場合、10個)のGNSSデータを取得きたか否かを判断する(ステップS52)。
ステップS52の判断において、未だ所定数のGNSSデータが取得できていない場合には(ステップS52;No)、処理を再びステップS51に移行する。
ステップS52の判断において、所定数のGNSSデータを取得できた場合には(ステップS52;Yes)、最後に取得したGNSSデータとその直前に取得したGNSSデータ(上述の例の場合、0.1s前に取得したGNSSデータ)のECEF(地心地球固定座標系)における座標差(X,Y)から、ベクトル長さL2を求める(ステップS53)。
【0067】
GNSSの速度データ(列車速度データ)Speed[m/s]を取得する(ステップS54)。
列車速度Speedと測位時間間隔(上述の例の場合、0.1s=100ms)とに基づいて鉄道車両の移動長さ(移動距離)L1を算出する(ステップS55)。
【0068】
より具体的には、次式となる。
移動長さL1[m]=Speed[m/s]×0.1[s]
移動長さL1とベクトル長さL2の差分dLを算出する(ステップS56)。
より具体的には、
図9に示した様に、次式となる。
差分dL=L2-L1
【0069】
次に差分が所定の第1閾値よりも大きい場合、すなわち、測位した距離と、実際の距離との距離誤差が許容できないほど大きい場合には、第1フラグFLG1=“1”とする(ステップS57)。
つづいて現在の3次元位置精度PACC 3Dを取得する(ステップS58)。
【0070】
この場合において、3次元位置精度PACC 3Dは、水平位置精度をhACCとし、垂直位置精度をvACCとした場合に、次式により表される。
PACC 3D=√(hACC2+vACC2)
【0071】
取得した現在の3次元位置精度PACC 3Dが所定の第2閾値よりも大きい場合、すなわち、3次元位置精度PACC 3Dの精度が所定の値よりも低い場合には、第2フラグFLG2=“1”とする(ステップS59)。
【0072】
つづいて取得した所定数のGNSSデータに対応する3次元位置精度PACC 3Dの所定時間(以下の例では、-900ms~-100msの期間の9サンプル分)の平均値PACC 3Daveを算出する(ステップS60)。
【0073】
【数1】
そして現在の3次元位置精度PACC 3Dの変化率ratio PACC 3Dを算出する(ステップS61)。
すなわち、
【0074】
【0075】
算出された現在の3次元位置精度PACC 3Dの変化率ratio PACC 3Dが所定の第3閾値よりも大きい場合には、第3フラグFLG3=“1”とする(ステップS62)。
【0076】
図11は、誤差過大状態の判断処理フローチャート(その2)である。
つづいて現在の測位に使用した衛星数を取得する(ステップS63)。
取得した衛星数が所定の第4閾値よりも小さい場合には、第4フラグFLG4=“1”とする(ステップS64)。
【0077】
さらに第1フラグFLG1~第4フラグFLG4のうち“1”となっているフラグ数をカウントする(ステップS65)。
そして、カウントしたフラグ数が所定のカウント閾値以上となっているか否かを判断する(ステップS66)。すなわち、GNSS測位に適していない状態となっているか否かを判断する。
【0078】
ステップS66の判断において、カウントしたフラグ数が所定のカウント閾値未満となっている場合には(ステップS66;No)、所定時間前(
図11の例では、100ms前)には、GNSS測位(単独測位)を行っていたか否かを判断する(ステップS67)。
ステップS67の判断において、所定時間前には、GNSS測位(単独測位)を行っていた場合には、GNSS測位(単独測位)を維持し、処理を再びステップS51(
図10参照)に移行し、上述した処理を繰り返す。
ステップS67の判断において、所定時間前には、GNSS測位(単独測位)を行っていない場合には(ステップS67;No)、すなわち、所定時間前には、自立測位を行っていた場合には、自立測位からGNSS測位(単独測位)に切り替える(ステップS68)。
【0079】
また、ステップS66の判断において、カウントしたフラグ数が所定のカウント閾値以上となっている場合には(ステップS66;Yes)、すなわち、GNSS測位に適していない状態となっている場合には、受信機の動作モードがfixモード以外のモードとなっているか否かを判断する(ステップS69)。
【0080】
ステップS69の判断において、受信機の動作モードがfixモード以外のモードとなっていない場合、すなわち、受信機の動作モードがfixモードである場合には、カウントしたフラグ数が所定の閾値以上となったのが2回連続したか否かを判断する(ステップS70)。すなわち、たまたまGNSS測位に適していない状態となっているのか、あるいは、実際にGNSS測位に適していない状態となっているのかを判断する。
【0081】
ステップS70の判断において、カウントしたフラグ数が所定の閾値以上となったのが1回目である場合には(ステップS70;No)、処理を再びステップS51(
図10参照)に移行し、上述した処理を繰り返す。
ステップSの判断において、カウントしたフラグ数が所定の閾値以上となったのが2回連続した場合には、実際にGNSS測位に適していない状態となっているので、自立測位に切り替える。
【0082】
以上の説明のように、本実施形態の誤差過大状態の誤差過大状態の判断処理によれば、現在測位を行っている測位モードに応じて測位モードを切り替えるべきか否か及び切り替えるとしたならばいずれの測位モードに切り替えるのがより好ましいかを確実に判断でき、実効的に切替頻度を抑制することで処理負荷を低減し、不安定な状況による位置計測精度の低下を抑制できる。したがって、処理負荷を低減しつつ、より安定した位置計測精度を確保することができる。
【0083】
本実施形態の位置計測演算処理部は、制御部として機能しており、CPUなどの制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAMなどの記憶装置と、HDD、SSDなどの外部記憶装置と、を備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成となっている。
【0084】
本実施形態の位置計測演算処理部で実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルで、USBメモリ、SSD(Solid State Drive)等の半導体記憶装置、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供される。
【0085】
また、本実施形態の位置計測演算処理部で実行されるプログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成しても良い。また、本実施形態の位置計測演算処理部で実行されるプログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成しても良い。
また、本実施形態のプログラムを、ROM等に予め組み込んで提供するように構成してもよい。
【0086】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0087】
10 測位システム
21 第1衛星測位部
22 第2衛星測位部
23 自立測位部
24 位置計測演算処理部(制御部)
DP1 第1衛星測位結果データ
DP2 第2衛星測位結果データ
DS 自立測位結果データ
FLG1 第1フラグ
FLG2 第2フラグ
FLG3 第3フラグ
FLG4 第4フラグ
L1 移動長さ
L2 ベクトル長さ
PS0、PS1、PSe 測位位置
Speed 列車速度
TR 鉄道車両
dL 差分