(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078325
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】腸由来細胞においてCLEC7Aの発現を誘導するための組成物及びCLEC7Aを発現する腸由来細胞を取得する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20240603BHJP
C07H 3/06 20060101ALI20240603BHJP
A61K 31/702 20060101ALI20240603BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240603BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20240603BHJP
【FI】
C12N5/071 ZNA
C07H3/06
A61K31/702
C12N15/09 Z
C07K14/47
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190807
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】望月 和樹
(72)【発明者】
【氏名】石山 詩織
(72)【発明者】
【氏名】原澤 彩
【テーマコード(参考)】
4B065
4C057
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC14
4B065AC20
4B065BB17
4B065CA24
4B065CA44
4C057AA05
4C057BB04
4C086AA01
4C086AA10
4C086EA01
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA20
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA50
(57)【要約】
【課題】炎症性腸疾患は、現在、完治させる薬剤はなく、また、薬剤により寛解を維持することも難しく、患者のQOLを著しく低下させる。
【解決手段】本発明者らは、難消化性炭水化物(食物繊維やオリゴ糖)に分類されるフラクトオリゴ糖が腸由来細胞においてCLEC7Aの発現を誘導させることを明らかにした。本発明の目的は、フラクトオリゴ糖を含む、腸由来細胞においてCLEC7Aの発現を誘導するための組成物を提出することである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラクトオリゴ糖を含む、腸由来細胞においてCLEC7Aの発現を誘導するための組成物。
【請求項2】
前記腸由来細胞は、大腸由来細胞である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記大腸由来細胞は、大腸由来上皮様Caco-2細胞である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
腸由来細胞を提供する提供工程と、
前記腸由来細胞にフラクトオリゴ糖を添加する添加工程と、
を含む、CLEC7Aを発現する腸由来細胞を取得する方法。
【請求項5】
前記腸由来細胞におけるCLEC7Aの発現量は、前記添加工程において添加される前記フラクトオリゴ糖の濃度に応じて増加する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記腸由来細胞は、大腸由来細胞である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記大腸由来細胞は、大腸由来上皮様Caco-2細胞である、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸由来細胞においてCLEC7Aの発現を誘導するための組成物及びCLEC7Aを発現する腸由来細胞を取得する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患の有症率は年々増加している。これらの炎症性腸疾患は、腸下部(潰瘍性大腸炎)、腸全体(クローン病)の粘膜(最も内側の層)にびらんや潰瘍ができる炎症性疾患である。
【0003】
潰瘍性大腸炎は、自己免疫性疾患の一つであるが、その原因について未だ不明な点が多く、日本において指定難病に指定されている。また、潰瘍性大腸炎は、食生活、腸内細菌等の乱れによる免疫異常であるとも考えられている。
【0004】
近年において、潰瘍性大腸炎など腸の炎症が誘導される疾患の原因物質にCLEC7A(Dectin-1)やCLEC7Aが認識する真菌が発症と関連する強い因子であることが明らかとなってきた。CLEC7Aは、真菌の(1-3)-β-グルカンを認識し、炎症性サイトカインや抗菌ペプチドの分泌、免疫応答細胞の動員等を介して真菌を除去するものである。
【0005】
CLEC7Aは、真菌からヒトを防御するために必須なタンパク質である。近年、潰瘍性大腸炎の重症度には、CLEC7Aの多型が関連していること、CLEC7Aのノックアウトマウスでは、真菌に対する応答性が低下するとともに、潰瘍性大腸炎を誘導するデキストラン硫酸ナトリウム塩の添加により大腸炎が増悪することが明らかとなってきた(非特許文献1)。
【0006】
さらに、潰瘍性大腸炎患者では、特定の真菌群が増加することが報告されている(非特許文献2)。
【0007】
一方で、無菌環境においては、CLEC7Aの欠損は、炎症性サイトカインや抗菌ペプチドの減少等を介し、デキストラン硫酸ナトリウム塩を介した大腸炎が過剰発現を誘導するため、大腸炎の発症を促進するとの研究成果もある(非特許文献3)。
【0008】
ヒトにおいては、無菌環境で生存することは通常考えられず、常に真菌の脅威に晒されているため、適度なCLEC7Aの刺激が真菌感染やそれに伴う大腸炎の発症予防に有効であると考えられる。これらのことから、真菌がどのように腸細胞を障害し、潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患を誘導するか、また、治療標的タンパク質を探索するためには、異なるCLEC7Aの発現量を有する腸細胞において研究を進める必要がある。
【0009】
CLEC7Aの発現を増大させる方法には、(1-3)-β-グルカン自体を添加する方法がまず挙げられる。典型的な(1-3)-β-グルカンには酵母細胞壁より抽出されたザイモサンや、AgrobacteriumやAlcaligenesなどの細菌が発酵により培地中に産生されたものを抽出したカードランなどがある。ともに、腸上皮様培養細胞に添加するとCLEC7Aの発現が上昇する知見が得られている(非特許文献4)。
【0010】
また、高分子の(1-3)-β-グルカンは、CLEC7Aの過剰活性化を誘導するが、低分子の(1-3)-β-グルカンはCLEC7Aの活性を抑制することが報告されている(非特許文献5)。
【0011】
難消化性炭水化物の腸内細菌による代謝産物の短鎖脂肪酸である酪酸も大腸由来小腸様細胞Caco-2においてCLEC7Aの発現を上昇させることが報告されている(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Iliev I. D. et al., Science. 2012;336(6086):1314-7
【非特許文献2】Chehoud C. et al., Inflamm Bowel Dis. 2015;21(8):1948-56
【非特許文献3】Tang C. et al., Cell Host Microbe. 2015;18(2):183-97
【非特許文献4】Cohen-Kedar S. et al., Eur J Immunol. 2014 Dec;44(12):3729-40
【非特許文献5】Tang C. et al., Cell Host Microbe. 2015 Aug 12;18(2):183-97
【非特許文献6】Saegusa S. et al., FEMS Immunol Med Microbiol. 2004;41(3):227-35
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
非特許文献4が開示する通り、ザイモサンもカードランも腸上皮様培養細胞に添加するとCLEC7Aの発現が上昇するが、(1-3)-β-グルカン自体が真菌や酵母に対する毒性物質であるといった問題がある。そのため、真菌や酵母が存在しない中でCLEC7Aの発現が変動する状況は、真菌や酵母に曝露された時の腸障害や腸障害を予防又は改善する薬剤の探索には適さない。
【0014】
非特許文献5が開示する通り、(1-3)-β-グルカンの分子量において効果に差異があることから、生理的な条件下で (1-3)-β-グルカンを用いず、CLEC7Aを発現が変化する細胞の樹立が必要である。
【0015】
非特許文献6が開示する通り、酪酸も大腸由来小腸様細胞Caco-2においてCLEC7Aの発現を上昇させるが、酪酸の産生は、大腸など消化管下部に限定されるため、腸全体的にCLEC7Aを活性化させることに関して、その作用は限定的である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
炎症性腸疾患は、現在、完治させる薬剤はなく、また、薬剤により寛解を維持することも難しく、患者のQOLを著しく低下させる。そこで、本発明者らは、日常的に摂取可能な食品からCLEC7Aの発現を誘導する物質を探索した。その結果、本発明者らは、難消化性炭水化物(食物繊維やオリゴ糖)に分類されるフラクトオリゴ糖が腸由来細胞においてCLEC7Aの発現を誘導させることを明らかにして本発明は完成した。
【0017】
本発明の目的は、フラクトオリゴ糖を含む、腸由来細胞においてCLEC7Aの発現を誘導するための組成物を提出することである。
【0018】
本発明の組成物を用いることによって、難消化性オリゴ糖又はフラクトオリゴ糖の処置によって、(1-3)-β-グルカンや腸内細菌の代謝産物である短鎖脂肪酸を介さず、βグルカン受容体であるCLEC7Aの発現を腸由来細胞において誘導させることができる。これによって、CLCE7Aの発現が高い腸由来細胞(例えば、腸上皮様Caco-2細胞)が樹立できる。
【0019】
上記のようにCLEC7Aの発現変動は、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患の発症に関与すると考えられている。本発明により作成されたCLEC7Aを高発現する腸由来細胞は、炎症性腸疾患の発症機序の解明及び治療又は予防を可能とする医薬品及び食品因子の探索に用いることができる。
【0020】
また、腸の慢性炎症は、脂肪肝及び2型糖尿病等の代謝性疾患とも関連するため、代謝性疾患の治療又は予防を可能とする医薬品及び食品因子の探索に用いることができる。
【0021】
上記腸由来細胞は、大腸由来細胞であってもよい。また、上記大腸由来細胞は、大腸由来上皮様Caco-2細胞であってもよい。
【0022】
また、本発明の別の目的は、腸由来細胞を提供する提供工程と、上記腸由来細胞にフラクトオリゴ糖を添加する添加工程と、を含む、CLEC7Aを発現する腸由来細胞を取得する方法を提供することである。
【0023】
本発明の方法を用いることによって、CLCE7Aの発現が高い腸由来細胞を樹立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、ヒト大腸由来上皮様細胞であるCaco-2細胞におけるCLEC7AのmRNAおよびタンパク質を発現させる方法を模式的に示している。
【
図2】
図2は、Caco-2細胞へのフラクトオリゴ糖(F0:なし、F5:5%、F10:10%)添加におけるβグルカン受容体CLEC7A遺伝子発現量に関するグラフを示している。
【
図3】
図3は、Caco-2細胞へのフラクトオリゴ糖(F0:なし、F5:5%、F10:10%)添加におけるβグルカン受容体CLEC7Aタンパク質発現量に関するグラフを示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
定義
便宜上、本願で使用される特定の用語は、ここに集めている。別途規定されない限り、本願で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。文脈で別途明記されない限り、単数形「a」、「an」及び「the」は複数の言及を含む。
【0026】
本発明で示す数値範囲及びパラメーターは、近似値であるが、特定の実施例に示されている数値は可能な限り正確に記載している。しかしながら、いずれの数値も本質的に、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を含んでいる。また、本明細書で使用する「約」という用語は、一般に、所与の値又は範囲の10%、5%、1%又は0.5%以内を意味する。或いは、用語「約」は、当業者が考慮する場合、許容可能な標準誤差内にあることを意味する。
【0027】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、例示であって、本発明の範囲は、以下の実施形態で示すものに限定されない。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑をさけるために、摘示説明を省略する。
【0028】
組成物
本実施形態にかかる組成物は、フラクトオリゴ糖を含む、腸由来細胞においてCLEC7Aの発現を誘導するための組成物である。
【0029】
本実施形態にかかる組成物は、腸由来細胞においてCLEC7A(Dectin-1)(配列番号1)の発現を誘導することができる。CLEC7Aは、腸上皮細胞表皮に存在するβグルカン受容体であり、真菌の(1-3)-β-グルカンを認識し、炎症性サイトカインや抗菌ペプチドの分泌、免疫応答細胞の動員等を介して真菌を除去する。潰瘍性大腸炎など腸の炎症が誘導される疾患の原因物質と考えられている。
【0030】
本実施形態にかかるフラクトオリゴ糖は、主に1から3分子のフルクトース分子がβ-(2,1)結合によりショ糖と結合した糖(オリゴ糖)の混合物である。1分子のフルクトースがショ糖と結合したオリゴ糖はケストースと称され、2分子のフルクトースがショ糖と結合したオリゴ糖はニストースと称され、3分子のフルクトースがショ糖と結合したオリゴ糖はフラクトシルニストースと称される。
【0031】
本実施形態にかかるフラクトオリゴ糖は、腸由来細胞を含む環境(例えば、培地)に対して終濃度が10、20、30、40、50、60、70、80、90又は100 mg/mL以上となるように添加又は処理されてもよい。ある実施形態において腸由来細胞におけるCLEC7Aの発現量は、添加されるフラクトオリゴ糖の濃度(終濃度)に応じて増加する。
【0032】
ある実施形態において、腸由来細胞は、大腸由来細胞であってもよい。ある実施形態において、大腸由来細胞は、大腸由来上皮様Caco-2細胞(ヒト結腸癌由来細胞)であってもよい。
【0033】
本実施形態にかかる「CLEC7Aの発現を誘導する」は、本組成物を添加した腸由来細胞におけるCLEC7AのmRNA又はタンパク質の発現量が、本組成物を添加していない腸由来細胞(対照細胞)のその発現量と比較して、統計学的に有意に増加していることを意味する。
【0034】
ある実施形態において、「CLEC7Aの発現を誘導する」は、本組成物を添加した腸由来細胞におけるCLEC7AのmRNAの発現量が、本組成物を添加していない腸由来細胞(対照細胞)のその発現量と比較して、20、25、30、35、又は40倍以上増加していることを意味する。
【0035】
ある実施形態において、「CLEC7Aの発現を誘導する」は、本組成物を添加した腸由来細胞におけるCLEC7Aのタンパク質の発現量が、本組成物を添加していない腸由来細胞(対照細胞)のその発現量と比較して、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2倍以上増加していることを意味する。
【0036】
本実施形態にかかる組成物は、担体又は添加剤を適宜配合することができる。配合できる担体又は添加剤は特に制限されないが、例えば水、生理食塩水、緩衝剤(例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液等)、安定剤(例えばヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコール等)、保存剤(例えばベンジルアルコール、フェノール等)、酸化防止剤、等張液(例えばD-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウムなど)、溶解補助剤(例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等))、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50等)、その他の水性溶媒、水性又は油性基剤等の各種担体、賦形剤、結合剤、pH調整剤が挙げられる。
【0037】
CLEC7Aを発現する腸由来細胞を取得する方法
本実施形態にかかるCLEC7Aを発現する腸由来細胞を取得する方法は、腸由来細胞を提供する提供工程と、上記腸由来細胞にフラクトオリゴ糖を添加する添加工程と、を含む。
【0038】
本実施形態にかかる提供工程は、提供工程の後工程に進むことができる状態を作り出す工程を意味し、通常は、フラクトオリゴ糖が添加されていない培地に腸由来細胞が播種されている状態を作り出す工程を意味する。
【0039】
ある実施形態においては、提供工程は、フラクトオリゴ糖が添加されていない腸由来細胞を準備する準備工程を含んでいてもよい。ある実施形態において、準備工程は、腸由来細胞を培地に播種する播種工程を含んでいてもよい。別の実施形態において、準備工程は、上記播種工程と、腸由来細胞を特定の条件(例えば、コンフルエント)に到達するまで培養する前培養工程と、を含んでいてもよい。準備工程は、腸由来細胞を培養するための培地を作成する培地作成工程を含んでいてもよい。
【0040】
本実施形態にかかる添加工程において、腸由来細胞にフラクトオリゴ糖が添加される。フラクトオリゴ糖は、通常、腸由来細胞を含む培地に添加される。フラクトオリゴ糖の添加は、単回添加であってもよく、複数回の分割添加であってもよい。ある実施形態において、腸由来細胞におけるCLEC7Aの発現量は、添加工程において添加される前記フラクトオリゴ糖の濃度(終濃度)に応じて増加する。
【0041】
本実施形態にかかるCLEC7Aを発現する腸由来細胞を取得する方法は、腸由来細胞におけるCLEC7Aの発現を誘導する誘導工程を更に含んでいてもよい。誘導工程において、CLEC7AのmRNA又はタンパク質の発現量が必要な水準に達するまで腸由来細胞を培養してもよい。ある実施形態において、誘導工程は、腸由来細胞にフラクトオリゴ糖を添加した少なくとも1、2、3、4、5、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、30、35、40又は48時間後まで、腸由来細胞におけるCLEC7Aの発現を誘導する工程であってもよい。
【0042】
本実施形態にかかるCLEC7Aを発現する腸由来細胞を取得する方法は、腸由来細胞におけるCLEC7Aの発現を判定する判定工程を更に含んでいてもよい。CLEC7Aの発現は、CLEC7AのmRNA又はタンパク質の発現を測定することにより判定することができる。
【0043】
本実施形態にかかるCLEC7Aを発現する腸由来細胞を取得する方法は、CLEC7Aの発現が誘導された腸由来細胞を回収する回収工程を更に含んでいてもよい。細胞の回収は、当業者にとって周知の手段で実施することができる。ある実施形態において、回収工程は、培地に含まれる細胞を遠心分離する分離工程と、上清を除去する除去工程を含んでいてもよい。回収工程は、上清除去後に細胞洗浄液(例えば、培地及び緩衝液)で細胞を洗浄する洗浄工程を更に含んでいてもよい。
【0044】
本実施形態にかかるCLEC7Aを発現する腸由来細胞を取得する方法は、回収工程を実施せずに、CLEC7Aの発現が誘導された腸由来細胞を利用する工程を実施してもよい。
【実施例0045】
図1は、ヒト大腸由来上皮様細胞であるCaco-2細胞におけるCLEC7AのmRNAおよびタンパク質を発現させる方法を模式的に示している。Caco-2細胞を、10%胎児牛血清入りのDMEM培地(SIGMA-ALDRICH社製、#D6429)で37℃、5%CO2条件下において培養した。Caco-2細胞がコンフルエントに到達してから10日後に、フラクトオリゴ糖(商品名:メイオリゴp(顆粒)、株式会社明治)を所定濃度(終濃度:0, 50, 100 mg/mL)となるように培地に添加した。添加後24時間でCaco-2細胞を回収し、CLEC7AのmRNA及びタンパク質発現を測定した。
【0046】
測定方法は、mRNAはqRT-PCRで、タンパク質はウェスタンブロッティングを用いて下記のように行った。
【0047】
総RNA抽出はChomcynskiらの方法に従った(Anal. Biochem. 1987;162:156-159.)。cDNAの合成は、1500 ngのTotal RNAを鋳型とし、Random primer (Takarabio, Shiga, Japan)、逆転写酵素Super Script III RT(Invitrogen, Waltham, MA)を用いて行った。Light cycler 480 SYBR I Green Master と合成したcDNAを用いて、Light cycler System (Roche Diagnostics, Basal, Switzerland) によってPCRを行った。PCRに用いた各遺伝子特異的なプライマーの塩基配列は、gttttgccatgttgaccaagc(配列番号2)及びtggctcacatctgtaatccca(配列番号3)である。
【0048】
定量的リアルタイムPCR後、付属のソフトウェアを使用し、各サンプルの対数的に上昇するサイクル数を算出した。算出したそれぞれの値はnサイクルの反応で2n倍のmRNA発現量の違いであるとするDelta Delta Ct法(Methods. 2001;25:402-408.)を用い、各遺伝子の発現量を換算した。また、目的のmRNA発現量を補正するため、内部標準としてTBP(TATA-binding protein)を定量的リアルタイムPCR法にて同様に解析した。PCRに用いたTBP遺伝子特異的なプライマーの塩基配列は、gctggcccatagtgatcttt(配列番号4)及び
cttcacacgccaagaaacagt(配列番号5)である。目的とする遺伝子のmRNA発現量と対応するTBP発現量値の比を計算し、発現量の相対値を求めた。
【0049】
タンパク質濃度測定、Western blot解析の詳細は、以前我々が行った方法を用いた(Biochem Biophys Rep. 27:101029. 2021.)。簡単に、RIPAで溶解した組織サンプルをローリー法(J. Biol. Chem. 193:265-275. 1951.)を使用してタンパク質濃度を測定した。その後、30μgのタンパク質を含むサンプルを 65 ℃で20分間熱変性させ、SDS-PAGEで12% sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gelを用いて分離した。
【0050】
次に、分離されたタンパク質を、80 VのTris/Glycin transfer bufferで90分間、PVDFメンブレン(Immobilon-P, EMD Millipore Corporation, Billerica, MA, USA)にウェット式で転写した。PVDFメンブレンをCan Get Signal(登録商標) Immunoreaction Enhancer Solution(NKB-101, TOYOBO CO., Ltd. Biotech support department, 大阪, 日本)で2時間室温ブロックした。PVDFメンブレンを一次抗体であるCLEC7A (1:2000; LifeSpan BioSciences, Inc., #203759, seattle, WA)を含む溶液中で1時間室温で振とうした。次いで、PVDFメンブレンを二次抗体であるビオチン化抗ウサギIgG抗体 (1:2000; #3711, GE Healthcare, Little Chalfont, U.K.)を含む溶液中で、続いて、三次抗体である西洋ワサビペルオキシダーゼ結合抗ビオチン抗体 (1:2000; #7075、Cell Signaling Technology)を含む溶液中でそれぞれ1時間ずつ室温で振とうを行った。上記抗体を含む溶液として、Can Get Signal(登録商標) Immunoreaction Enhancer Solutionを用いて行った。
【0051】
標的タンパクのバンド検出は光学発光試薬「Western Lightning(登録商標) ECL Pro (PerkinElmer, Waltham, MA, USA)」を使用し、ChemidocTM Universal Hood II (Bio-Rad Laboratories, Inc., Hercules, CA, USA.)で可視化した。得られたシグナルは各群の総タンパク量の値で補正した。総タンパクは、20%メタノールおよび10%酢酸中の0.125%クマシーブリリアントブルー(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)で染色して定量されたものを使用した。
【0052】
統計学的解析は対照群および添加群間にてStudent's t-Testを実施した。異なる文字(a及びb)は、統計学的に有意差があることを示す(有意水準5%未満(P<0.05))。結果を
図2及び3に示す。
【0053】
図2及び3は、それぞれ、Caco-2細胞へのフラクトオリゴ糖(F0:なし、F5:5%、F10:10%)添加におけるβグルカン受容体CLEC7A遺伝子発現量及びタンパク質発現量に関するグラフを示している(平均値±標準誤差、p<0.05)。CLEC7A遺伝子発現量及びタンパク質発現量は、対照(F0)と比較してF5、さらにF10において濃度依存的に多かった。