(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078346
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】裁断刃研磨機構を備える裁断機、および裁断機の裁断刃研磨方法
(51)【国際特許分類】
B24B 3/36 20060101AFI20240603BHJP
B24B 49/02 20060101ALI20240603BHJP
B24B 47/22 20060101ALI20240603BHJP
B26D 5/00 20060101ALI20240603BHJP
B26D 7/12 20060101ALI20240603BHJP
B26D 7/26 20060101ALI20240603BHJP
B26D 1/10 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
B24B3/36 A
B24B49/02 Z
B24B47/22
B26D5/00 F
B26D7/12
B26D7/26
B26D1/10
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190852
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100101638
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 峰太郎
(72)【発明者】
【氏名】名出 隆二
【テーマコード(参考)】
3C021
3C024
3C027
3C034
3C158
【Fターム(参考)】
3C021JA04
3C021JA09
3C024AA03
3C024AA07
3C027KK09
3C027KK11
3C034AA19
3C034CA04
3C034CB12
3C034DD20
3C158AA02
3C158AA18
3C158AA19
3C158AC02
3C158BA02
3C158BA07
3C158BB02
3C158BC02
3C158CA01
3C158CB03
3C158CB04
3C158DB01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】専用の昇降アクチュエーターの必要が無く、直立裁断刃の研磨範囲を拡大可能な、裁断刃研磨機構を備える裁断機、および裁断機の裁断刃研磨方法を提供する。
【解決手段】R軸ユニット4の原点位置と上位位置との切り替えは、制御装置10がZ軸移動手段7を制御して行われる。昇降機構6は、空気圧シリンダーなどであり、R軸ユニット4に取付けられて、往復動ユニット5を昇降させることができる。R軸ユニット4が原点位置と上位位置との間で切替えられても、規制手段9であるストッパーで、往復動ユニット5を規制位置に留め、相対的に裁断刃研磨機構8が上昇して、直立裁断刃2の研磨範囲が拡大する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート材を水平面上に載置する裁断テーブルと、水平面内で移動可能な裁断ヘッドとを備え、
裁断ヘッドは、
上下方向に延びる刃先縁で、裁断テーブル上に載置されたシート材を裁断する直立裁断刃と、
直立裁断刃の刃先縁の向きを、裁断テーブルの表面に垂直なR軸回りに変更可能なR軸ユニットと、
直立裁断刃を保持し、上下方向に往復動させることも可能な往復動ユニットと、
往復動ユニットを支持し、予め設定されるストロークの範囲で上昇または下降させることが可能な昇降機構と、
R軸ユニットおよび昇降機構を、上下のZ軸方向に移動させるZ軸移動手段と
を含み、
R軸ユニットは、裁断刃研磨機構を備え、
裁断刃研磨機構は、往復移動する直立裁断刃を研磨可能である、
裁断刃研磨機構を備える裁断機において、
裁断刃研磨機構による直立裁断刃の研磨時に、
昇降機構を制御し、往復動ユニットを昇降させ、
Z軸移動手段を制御し、R軸ユニットを、直立裁断刃がシート材から上方に抜ける位置として設定される原点位置と、原点位置よりも上方に設定される上位位置とに切替えて上昇させることが可能な制御装置と、
Z軸移動手段による移動でR軸ユニットが原点位置と上位位置との間で切替えられても、往復動ユニットを規制位置に留める規制手段とを、
含むことを特徴とする裁断刃研磨機構を備える裁断機。
【請求項2】
前記原点位置は、前記裁断テーブル上に載置されるシート材の厚みに対応して変更可能であり、
前記規制手段は、変更される原点位置に対応して、前記往復動ユニットの前記規制位置を変更可能である、
ことを特徴とする請求項1記載の裁断刃研磨機構を備える裁断機。
【請求項3】
前記シート材の厚みを検出する厚み検出手段を含み、
前記規制手段は、前記規制位置の変更を制御可能であり、
前記制御装置は、
厚み検出手段が検出するシート材の厚みに応じて、
前記Z軸移動手段での前記原点位置と前記上位位置との切替えが必要か否かを判断し、切替えが不要と判断されれば原点位置のみ設定し、切替えが必要と判断されれば原点位置および上位位置を設定し、
規制手段を制御し、前記往復動ユニットの規制位置を設定された原点位置に対応させる、
ことを特徴とする請求項2記載の裁断刃研磨機構を備える裁断機。
【請求項4】
前記上位位置は、前記裁断刃研磨機構による前記直立裁断刃の研磨範囲が前記原点位置での研磨範囲と部分的に重複するように設定され、
前記制御装置は、前記Z軸移動手段を制御し、原点位置と上位位置との間の昇降速度を、裁断刃研磨機構による研磨が重複する部分よりも重複しない部分で低速にする、
ことを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つい記載の裁断刃研磨機構を備える裁断機。
【請求項5】
シート材を水平面上に載置する裁断テーブルと、水平面内で移動可能な裁断ヘッドとを備え、
裁断ヘッドは、
上下方向に延びる刃先縁で、裁断テーブル上に載置されたシート材を裁断する直立裁断刃と、
直立裁断刃の刃先縁の向きを、裁断テーブルの表面に垂直なR軸回りに変更可能なR軸ユニットと、
直立裁断刃を保持し、上下方向に往復移動させることも可能な往復動ユニットと、
往復動ユニットを支持し、予め設定されるストロークの範囲で上昇または下降させることが可能な昇降機構と、
R軸ユニットおよび昇降機構を、上下のZ軸方向に移動させるZ軸移動手段と
を含み、
R軸ユニットは、裁断刃研磨機構を備え、
裁断刃研磨機構は、往復移動する直立裁断刃を研磨可能である、
裁断機の裁断刃研磨方法において、
昇降機構によって、往復動ユニットを上昇させ、
Z軸移動手段によって、R軸ユニットの位置を、直立裁断刃がシート材から上方に抜ける位置として設定される原点位置と、原点位置よりも上方に設定される上位位置とに切替え、
Z軸移動手段による移動でR軸ユニットが原点位置と上位位置との間で切替えられても、往復動ユニットの上昇を、規制位置に留めて直立裁断刃を裁断刃研磨機構で研磨する、
ことを特徴とする裁断機の裁断刃研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裁断刃の研磨が可能な裁断刃研磨機構を備える裁断機、および裁断機の裁断刃研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シート材の裁断に使用する裁断機は、シート材を載置する裁断テーブルと、裁断ヘッドとを有する。裁断ヘッドは、裁断テーブルの表面に沿って移動可能で、裁断テーブル上に載置されるシート材を裁断するための裁断刃を搭載する。裁断刃が上下動を繰り返しながらシート材に突き刺す状態で裁断する直立裁断刃の場合、裁断ヘッドは、裁断刃の往復動ユニットと裁断刃研磨機構も備える(たとえば、特許文献1、特許文献2参照)。裁断刃研磨機構は、上下方向のR軸回りに、直立裁断刃による裁断方向を変更させるR軸ユニットに内蔵される。
【0003】
特許文献1や特許文献2のような裁断機は、直立裁断刃をシート材に突き刺す状態から上昇させてシート材を裁断しない待機状態とし、直立裁断刃を往復動ユニットで上下動させながら裁断刃研磨機構が砥石を直立裁断刃の刃部の側面に接触させて研磨する。また、シート材の積層厚を検出し、積層厚に応じて待機状態への上昇量を変更することも開示されている。特許文献1の裁断機は、裁断状態と待機状態との間の移行を、R軸ユニットおよび往復動ユニットを上下のZ軸方向に移動させるZ軸移動手段によって行う。特許文献2の裁断機は、特許文献1のようなZ軸移動手段を廃止し、R軸ユニットは一定の高さに保ち、往復動ユニットを昇降させる昇降アクチュエーターのみ用いる。昇降アクチュエーターによる往復動ユニットの上昇は、シート材の積層厚が小さいとき、切替えアクチュエーターで上昇ストッパーを作用させて規制し、裁断刃が無駄に上昇しないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-60686号公報
【特許文献2】特開2019-107756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および特許文献2の裁断刃研磨機構が直立裁断刃を研磨する範囲は、往復動ユニットと裁断刃研磨機構とによって、機構的に一定になる。ただし、特許文献2の
図5には、上昇ストッパーによる作用の切替えを利用して、研磨範囲を拡大する実施例が記載されている。また、段落0039には、「従来、このような範囲拡大は、…専用のアクチュエーターを設けて実現している。本実施例では、切替えアクチュエーター12で兼用させることができる。」と記載されている。ここで、「従来」は、本件の特許文献1などを示す。また「専用のアクチュエーター」は、本願の
図5で後述するような、R軸ユニットを昇降させて研磨範囲を切替えるために設けるものである。
【0006】
直立裁断刃で上下方向に延びる刃先縁の長さは、裁断可能なシート材の最大の積層厚に余裕代を加えたものとなる。積層厚が大きくなると裁断に必要な直立裁断刃も刃先縁の長さが長いものを使用しなければならず、必要な研磨範囲も増える。ただし、研磨範囲は、砥石の幅や往復動ユニットによる上下動のストロークによる制限も受ける。研磨範囲の制限で足りなくなる範囲に対しては、切替えによる研磨範囲の拡大が必要となる。しかしながら、特許文献2のような、昇降アクチュエーターによる往復動ユニットの昇降を利用する研磨範囲の拡大は、昇降の加速度や速度が一定となり、制御の自由度が無い。また、特許文献1での研磨範囲の拡大のためには、R軸ユニットを昇降させる専用のアクチュエーターが必要になる。
【0007】
本発明の目的は、制御の自由度を有して、R軸ユニットを昇降させるために専用のアクチュエーターを設ける必要が無く、直立裁断刃の研磨範囲を拡大可能な、裁断刃研磨機構を備える裁断機、および裁断機の裁断刃研磨方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、シート材を水平面上に載置する裁断テーブルと、水平面内で移動可能な裁断ヘッドとを備え、
裁断ヘッドは、
上下方向に延びる刃先縁で、裁断テーブル上に載置されたシート材を裁断する直立裁断刃と、
直立裁断刃の刃先縁の向きを、裁断テーブルの表面に垂直なR軸回りに変更可能なR軸ユニットと、
直立裁断刃を保持し、上下方向に往復動させることも可能な往復動ユニットと、
往復動ユニットを支持し、予め設定されるストロークの範囲で上昇または下降させることが可能な昇降機構と、
R軸ユニットおよび昇降機構を、上下のZ軸方向に移動させるZ軸移動手段と
を含み、
R軸ユニットは、裁断刃研磨機構を備え、
裁断刃研磨機構は、往復移動する直立裁断刃を研磨可能である、
裁断刃研磨機構を備える裁断機において、
裁断刃研磨機構による直立裁断刃の研磨時に、
昇降機構を制御し、往復動ユニットを昇降させ、
Z軸移動手段を制御し、R軸ユニットを、直立裁断刃がシート材から上方に抜ける位置として設定される原点位置と、原点位置よりも上方に設定される上位位置とに切替えて移動させることが可能な制御装置と、
Z軸移動手段による移動でR軸ユニットが原点位置と上位位置との間で切替えられても、往復動ユニットを規制位置に留める規制手段とを、
含むことを特徴とする裁断刃研磨機構を備える裁断機である。
【0009】
また本発明で、前記原点位置は、前記裁断テーブル上に載置されるシート材の厚みに対応して変更可能であり、
前記規制手段は、変更される原点位置に対応して、前記往復動ユニットの前記規制位置を変更可能である、
ことを特徴とする。
【0010】
また本発明は、前記シート材の厚みを検出する厚み検出手段を含み、
前記規制手段は、前記規制位置の変更を制御可能であり、
前記制御装置は、
厚み検出手段が検出するシート材の厚みに応じて、
前記Z軸移動手段での前記原点位置と前記上位位置との切替えが必要か否かを判断し、切替えが不要と判断されれば原点位置のみ設定し、切替えが必要と判断されれば原点位置および上位位置を設定し、
規制手段を制御し、前記往復動ユニットの規制位置を設定された原点位置に対応させる、
ことを特徴とする。
【0011】
また本発明で、前記上位位置は、前記裁断刃研磨機構による前記直立裁断刃の研磨範囲が前記原点位置での研磨範囲と部分的に重複するように設定され、
前記制御装置は、前記Z軸移動手段を制御し、原点位置と上位位置との間の移動速度を、裁断刃研磨機構による研磨が重複する部分よりも重複しない部分で低速になるように調整する、
ことを特徴とする。
【0012】
さらに本発明は、シート材を水平面上に載置する裁断テーブルと、水平面内で移動可能な裁断ヘッドとを備え、
裁断ヘッドは、
上下方向に延びる刃先縁で、裁断テーブル上に載置されたシート材を裁断する直立裁断刃と、
直立裁断刃の刃先縁の向きを、裁断テーブルの表面に垂直なR軸回りに変更可能なR軸ユニットと、
直立裁断刃を保持し、上下方向に往復移動させることも可能な往復動ユニットと、
往復動ユニットを支持し、予め設定されるストロークの範囲で上昇または下降させることが可能な昇降機構と、
R軸ユニットおよび昇降機構を、上下のZ軸方向に移動させるZ軸移動手段と
を含み、
R軸ユニットは、裁断刃研磨機構を備え、
裁断刃研磨機構は、往復移動する直立裁断刃を研磨可能である、
裁断機の裁断刃研磨方法において、
昇降機構によって、往復動ユニットを上昇させ、
Z軸移動手段によって、R軸ユニットの位置を、直立裁断刃がシート材から上方に抜ける位置として設定される原点位置と、原点位置よりも上方に設定される上位位置とに切替え、
Z軸移動手段による移動でR軸ユニットが原点位置と上位位置との間で切替えられても、往復動ユニットを、規制位置に留めて直立裁断刃を裁断刃研磨機構で研磨する、
ことを特徴とする裁断機の裁断刃研磨方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、Z軸移動手段による移動でR軸ユニットを原点位置と上位位置との間で切替えても、往復動ユニットの位置を、規制手段で規制位置に留める。往復動ユニットの規制位置から垂下する直立裁断刃の研磨範囲は、裁断刃研磨機構を備えるR軸ユニットの相対的な移動で拡大することができる。研磨範囲の拡大に、R軸ユニットを昇降させる専用の昇降アクチュエーターを使用する必要が無く、Z軸移動手段による移動なので、制御の自由度も増大させることができる。
【0014】
また本発明によれば、原点位置をシート材の厚みに応じて適切となるように設定しても、規制手段による往復動ユニットへの規制位置を変更することで、直立裁断刃を変更した研磨範囲で効率良く研磨することができる。
【0015】
また本発明によれば、シート材の厚みを検出し、厚みに応じて、原点位置と上位位置との切り替えでの直立裁断刃の研磨範囲の拡大が必要か否かを判断し、厚みに応じて適切な研磨範囲での研磨を行うことができる。
【0016】
また本発明によれば、研磨範囲拡大のためのZ軸移動手段によるR軸ユニットの移動で、直立裁断刃の研磨範囲に研磨の重複部分が生じる。移動の際に、重複部分よりも重複しない部分の移動速度を低速にするので、重複研磨によって削られ過ぎないように調整することができる。
【0017】
さらに本発明によれば、R軸ユニットを昇降させる専用の昇降アクチュエーターを使用しないでも、裁断刃研磨機構を備えるR軸ユニットのZ軸移動手段による移動で直立裁断刃の研磨範囲を拡大して研磨することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例である裁断機1で直立裁断刃2の研磨範囲を拡大するための原点位置と上位位置との切り替えを模式的に示すブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1の実施例で、シート材20の積層厚に応じた原点位置の変更を含む裁断ヘッド3の簡略化した断面図である。
【
図3】
図3は、直立裁断刃2の研磨範囲に研磨の重複部分が生じる理由を説明する部分的な正面図である。
【
図4】
図4は、
図1の実施例での制御動作を概略的に示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、
図1に対する従来例を模式的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、
図1から
図4は、本発明の一実施例である裁断機1の構成と動作とを示す。また
図5は、
図1に関連する従来例を示す。各図で対応する部分は,同一の参照符を付して示し、重複する説明を省略する場合がある。また説明の便宜上、説明対象の図には記載されていない部分について、他の図に記載される参照符を付して言及する場合がある。
【実施例0020】
図1は、本発明の一実施例である裁断機1の構成および直立裁断刃2の研磨に関する動作を模式的に示す。シート材の裁断に使用する裁断機1は、シート材を載置する裁断テーブルと、裁断ヘッド3とを有するけれども、本図ではシート材および裁断テーブルの図示を省略する。また、裁断ヘッド3は、内部の一部のみ示す。裁断ヘッド3は、裁断テーブルの表面に沿う水平なX軸およびY軸の二次元方向に移動可能で、裁断テーブル上に載置されるシート材を裁断するための直立裁断刃2を搭載する。直立裁断刃2は、下端となる刃先をシート材に突き刺し、図では刃先から上方の右側に続く刃先縁をシート材に接触させ、上下動を繰り返しながら、シート材を裁断する。裁断ヘッド3は、R軸ユニット4および往復動ユニット5も備える。裁断ヘッド3の下部に設けられるR軸ユニット4は、裁断テーブルの表面に垂直なR軸回りに直立裁断刃2の刃先縁の向きを変え、裁断する方向を変える。裁断ヘッド3の上部に設けられる往復動ユニット5は、直立裁断刃2の上部を保持して、刃先から刃先縁に続く刃渡り部分を垂下させ、直立裁断刃2を上下に往復動させる。裁断ヘッド3には、R軸ユニット4に対して往復動ユニット5を上昇させて、直立裁断刃2によるシート材の裁断を行わない待機状態と、往復動ユニット5を下降させて、裁断が可能な状態にすることを切り替える昇降機構6が備えられる。昇降機構6は、往復動ユニット5を支持し、予め設定されるストロークの範囲で上昇または下降させることが可能である。裁断ヘッド3は、昇降機構6とR軸ユニット4とを、裁断テーブルに対する上下のZ軸方向に移動させるZ軸移動手段7と、待機状態で直立裁断刃2を研磨するための裁断刃研磨機構8とを備える。裁断刃研磨機構8による直立裁断刃2の研磨は、往復動ユニット5で直立裁断刃2を上下動させながら行う。また、裁断ヘッド3は、研磨範囲の拡大のための規制手段9を備える。裁断機1は、裁断や研磨の制御を行う制御装置10を有する。裁断ヘッド3の下部には、シート材の表面に載置可能な生地押え11が設けられる。
【0021】
裁断刃研磨機構8は、R軸ユニット4に内蔵され、直立裁断刃2の刃先縁から側面にかけて傾斜している面に接触させて研磨する砥石を備える。研磨によって、刃先縁の切れ味が回復するけれども、刃先縁からの歯幅は短くなる。砥石は、円筒状の外周で研磨するドラム式、円盤状の表面で研磨するディスク式、周回するベルトの表面で研磨するベルト式などを使用することができる。これらの砥石は、直立裁断刃2に接触する範囲を研磨するので、往復動ユニット5で直立裁断刃2を上下動させながら研磨しても、一定の範囲しか研磨することができない。
【0022】
本実施例では、研磨範囲を拡大するために、研磨時のR軸ユニット4の位置を、
図1(a)に示す原点位置と、
図1(b)に示す上位位置とに切替えて、それぞれ研磨を行う。原点位置は、直立裁断刃2がシート材から上方に抜ける位置として設定される。原点位置で直立裁断刃2は、往復動ユニット5による上下動を繰り返しても、刃先がシート材に突き刺さない高さまで退避している。原点位置では、シート材の表面から離れるように、生地押え11も上昇させることが好ましい。上位位置は、R軸ユニット4の原点位置に対し、研磨範囲を拡大するために設定する。この切替えは、制御装置10がZ軸移動手段7を制御して行われる。Z軸移動手段7は、裁断ヘッド3のフレームに備えられ、摺動板7aと、ボールねじ機構7bと、モーター7cとを含む。摺動板7aは、R軸ユニット4を支持し、上下方向に摺動するように、裁断ヘッド3のフレームに備えられる案内機構で案内される。ただし、案内機構の図示は省略している。ボールねじ機構7bは、摺動板7aを昇降駆動する。モーター7cは、ボールねじ機構7bのボールねじを回転駆動する。昇降機構6は、空気圧シリンダーなどであり、R軸ユニット4に取付けられて、往復動ユニット5を昇降させることができる。ただし、昇降機構6は、摺動板7aに取付けてもよい。Z軸移動手段7によって、R軸ユニット4の位置を、原点位置と、原点位置よりも上方に設定される上位位置とに切替えても、規制手段9であるストッパーで、往復動ユニット5は規制位置に留められ、相対的に裁断刃研磨機構8が上昇して、直立裁断刃2の研磨範囲が拡大する。
【0023】
図2は、
図1の裁断機1で、シート材20の積層厚に応じた原点位置の変更を含む動作を、直立裁断刃2、R軸ユニット4、往復動ユニット5、裁断刃研磨機構8および生地押え11で示し、他の構成の図示は省略する。裁断の対象となるシート材20は、裁断機1の裁断テーブル12上に載置される。裁断テーブル12の表面は、水平で、弾性があるブラシで形成され、裁断時に直立裁断刃2が進入してもブラシが部分的に倒れて、ブラシは切断され難い。シート材20は、布帛や産業資材など、各種の材料を使用することができ、複数枚を積層して裁断することで効率を向上させることができる。
【0024】
図2(a)は、シート材20を最大限の積層厚taで積層している状態を示す。この積層厚taのシート材20を裁断する直立裁断刃2は、往復動ユニット5による往復動でもシート材20から刃先と刃先縁との間が外れない刃渡りを有していることが必要である。R軸ユニット4の原点位置は、積層厚taのシート材20が裁断可能なように、Z軸移動手段7で、積層厚taに余裕代を加えた高さに設定する。Z軸移動手段7によるR軸ユニット4の上位位置への切り替えで、この直立裁断刃2の刃渡りの研磨に必要な研磨範囲を、拡大した研磨範囲に収める。
図2(b)は、積層厚taの60%程度となる積層厚tbでR軸ユニット4に設定する原点位置を示す。この積層厚tbを裁断する直立裁断刃2の研磨範囲は、積層厚taの場合よりも小さくして、原点位置から上位位置へのZ軸移動手段7によるリフト量を短くして、切り替え時間の短縮を図ることができる。原点位置の変更に伴い、規制手段9による規制位置も変更する。規制位置の変更が可能な規制手段9には、出没量を多段階または無段階で制御可能なストッパーを用いたり、手動で交換可能な出没量が異なるストッパーを用いたりすることができる。規制位置が一個所であれば、規制手段として、単一のストッパーを用いればよい。
図2(c)は、積層厚tcに対応する研磨が原点位置と上位位置とを切り替えなくても可能な場合を示す。積層厚tcは、原点位置での研磨範囲内に収まるので、研磨範囲の拡大の必要がない。この場合は、上位位置は設定しないで、原点位置のみで研磨する。不必要な範囲の研磨もしないので、砥石の寿命も延ばすことができる。
【0025】
図3は、直立裁断刃2の研磨範囲に研磨の重複部分が生じる理由を示す。
図3(a)および
図3(b)は、上位位置および原点位置での研磨範囲ga,gbをそれぞれ示す。裁断刃研磨機構8は、たとえば二段の砥石18,19で直立裁断刃2を研磨する。直立裁断刃2は、往復動ユニット5で、上下に往復動し、その内の上限を左、下限を右に並べて示す。上段の砥石18による研磨範囲を上側の二点鎖線、下段の砥石19による研磨範囲を下側の二点鎖線でそれぞれ示す。それぞれの研磨範囲は、往復動ユニット5による往復動のストロークと、砥石18,19の幅との和になる。研磨範囲には、重複部分da,dbを生じるようにしておく。重複部分da,dbが生じないと、それぞれの砥石18,19の研磨範囲間が研磨されない部分となり、研磨むらが生じてしまう。重複部分da,dbを設けると、重複部分da,dbの研磨量が多くなってしまうおそれがある。砥石を三段以上設ける場合も、重複部分を生じるようにしておく必要がある。ただし、複数段の砥石を使用するために生じさせる重複部分da,dbの幅が砥石18,19の幅よりも小さければ、研磨むらはあまり進行しないことが期待される。
【0026】
図3(c)は、上位位置および原点位置の切替えで、研磨範囲を拡大した研磨範囲gcを示す。拡大した研磨範囲gcには、上位位置での研磨範囲gaの下部と、原点位置での研磨範囲gbの上部との部分的な重複部分dcが含まれる。この重複部分dcは、研磨されない部分を生じさせないために必要であり、
図2(b)のように、原点位置から上位位置までのリフト量を短くして、研磨範囲を小さくすると大きくなってしまう。砥石が一段の場合でも、重複部分dcは設ける必要がある。
図1に示す制御装置10は、Z軸移動手段7を制御し、原点位置と上位位置との間の移動速度を、裁断刃研磨機構8による研磨が重複する部分よりも重複しない部分で低速にするので、重複研磨によって削られ過ぎないように調整することができる。
【0027】
図4は、
図1の制御装置10の制御動作を概略的に示す。制御を開始すると、ステップs1でシート材20の積層厚を検出する。積層厚の検出は、たとえば特許文献1と同様に、生地押え11を、シート材20の表面に接触させ、裁断テーブル12の表面からの高さとして算出して、厚み検出手段として用いることができる。厚み検出は、センサーを設けて行ってもよい。ステップs2では、検出された積層厚に基づき、研磨の原点位置を設定する。原点位置は、たとえばシート材20の表面から,一定以上離れた高さとして設定する。ステップs3では、シート材20の積層厚に基づき、上位位置を設定して研磨範囲を拡大することが必要か否かを判断する。必要と判断するときは、ステップs4で上位位置を設定し、研磨時は、ステップs5で原点位置での研磨を行い、ステップs6では上位位置へ移動しながら研磨を行う。移動の際に、
図3(c)に示す重複位置dcに対する速度調整を行う。続くステップs7では、上位位置での研磨を行う。ステップs3で上位位置の設定が必要でないと判断するときは、研磨時はステップs8での原点位置での研磨のみを行う。ステップs7またはステップs8での研磨が終了すると、直立裁断刃2の研磨に対する制御を終了する。シート材20の裁断中に、研磨を繰り返す場合は、上位位置の設定が必要か否かを記憶しておき、ステップs3以下の制御を行えばよい。また、積層厚を検出しないでも、シート材20の積層厚はたとえば定規を当てるなどの方法で知ることができるので、切り替えの必要性を判断して、判断結果を制御装置10に入力して、制御装置10にステップs3以下の制御を行わせることもできる。なお、ステップS4の原点位置での研磨と、ステップs7での上位位置の研磨との順序は、入れ替えてもよい。また、原点位置と上位位置との切替えは、一回だけでなく、複数回繰り返してもよい。
【0028】
図5は、
図1に対する従来例となる裁断機31を模式的に示す。裁断機31は、特許文献2に記載されている専用の昇降アクチュエーターとなる空気圧シリンダー32で、R軸ユニット4を昇降させ、
図5(a)の原点位置と、
図5(b)の上位位置とを切り替える。また、Z軸移動手段7を用いるので、シート材の積層厚に応じて原点位置を調整することもできる。ただし、研磨範囲拡大のために、専用の昇降アクチュエーターとなる空気圧シリンダー32を設ける必要がある。
図1の実施例では、Z軸移動手段7で、特許文献1のような積層厚に応じた待機状態への上昇量の変更の機能と、研磨範囲の拡大の機能とを兼用して、専用の昇降アクチュエーターを不要にして、制御の自由度も増大させることができる。