IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ユポ・コーポレーションの特許一覧

特開2024-78350ハイブリッドロケット用グレイン及びその製造方法
<>
  • 特開-ハイブリッドロケット用グレイン及びその製造方法 図1
  • 特開-ハイブリッドロケット用グレイン及びその製造方法 図2
  • 特開-ハイブリッドロケット用グレイン及びその製造方法 図3
  • 特開-ハイブリッドロケット用グレイン及びその製造方法 図4
  • 特開-ハイブリッドロケット用グレイン及びその製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078350
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】ハイブリッドロケット用グレイン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C06D 5/00 20060101AFI20240603BHJP
   B32B 5/00 20060101ALI20240603BHJP
   F02K 9/14 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
C06D5/00 A
B32B5/00 Z
F02K9/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190858
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000122313
【氏名又は名称】株式会社ユポ・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】西尾 潤
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK03B
4F100AK54A
4F100BA08
4F100DC22A
4F100DC22B
4F100DC23A
4F100DC23B
4F100GB31
(57)【要約】
【課題】グレインを構成する樹脂の種類をできる限り少なく抑えながら、酸素含有率をグレインの中心から外周に向かって大きくする。
【解決手段】固体燃料シート10を長手方向(x軸方向)に複数層に亘って巻回することにより構成されたハイブリッドロケット用グレインであって、固体燃料シート10は、酸素を含有する第1の樹脂11と、この第1の樹脂11よりも酸素含有率の低い第2の樹脂12とが、固体燃料シート10の平面方向(xy面方向)及び/又は厚み方向(z軸方向)に組み合わされており、固体燃料シート10の後端10b側の後半部Rには、固体燃料シート10の前端10a側の前半部Fと比べて、質量比において第1の樹脂11が多く含まれる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体燃料シートを長手方向(x軸方向)に複数層に亘って巻回することにより構成されたハイブリッドロケット用グレインであって、
前記固体燃料シートは、少なくとも、酸素を含有する第1の樹脂と、前記第1の樹脂よりも酸素含有率の低い第2の樹脂とが、前記固体燃料シートの平面方向(xy面方向)及び/又は厚み方向(z軸方向)に組み合わされたものであり、
前記グレインの最内層に位置する前記固体燃料シートの先端を前端とし、前記グレインの最外層に位置する前記固体燃料シートの先端を後端とし、前記前端側の前記固体燃料シートの半部を前半部とし、前記後端側の前記固体燃料シートの半部を後半部とした場合に、前記後半部には前記前半部と比べて質量比において前記第1の樹脂が多く含まれる
グレイン。
【請求項2】
前記第1の樹脂は、ポリアセタール系樹脂又はポリエチレンオキシド系樹脂であり、
前記第2の樹脂は、ポリオレフィン系樹脂である
請求項1に記載のグレイン。
【請求項3】
前記固体燃料シートは、前記長手方向(x軸方向)に、前記第1の樹脂と前記第2の樹脂が交互に組み合わされている
請求項1又は請求項2に記載のグレイン。
【請求項4】
前記固体燃料シートは、さらに、前記固体燃料シートの短手方向(y軸方向)に、前記第1の樹脂と前記第2の樹脂が組み合わされている
請求項3に記載のグレイン。
【請求項5】
前記固体燃料シートは、前記厚み方向(z軸方向)に、前記第1の樹脂の層と前記第2の樹脂の層とが重ね合わされた部分を含む
請求項1又は請求項2に記載のグレイン。
【請求項6】
前記固体燃料シートは、前記長手方向(x軸方向)に前記第1の樹脂と前記第2の樹脂とが組み合わされた層が、前記厚み方向(z軸方向)に複数層に亘って重ね合わされている
請求項5に記載のグレイン。
【請求項7】
ハイブリッドロケット用グレインの製造方法であって、
固体燃料シートを長手方向(x軸方向)に複数層に亘って巻回する工程を含み、
前記固体燃料シートは、少なくとも、酸素を含有する第1の樹脂と、前記第1の樹脂よりも酸素含有率の低い第2の樹脂とが、前記固体燃料シートの平面方向(xy軸方向)及び/又は厚み方向(z軸方向)に組み合わされたものであり、
前記グレインの最内層に位置する前記固体燃料シートの先端を前端とし、前記グレインの最外層に位置する前記固体燃料シートの先端を後端とし、前記前端側の前記固体燃料シートの半部を前半部とし、前記後端側の前記固体燃料シートの半部を後半部とした場合に、前記後半部には前記前半部と比べて質量比において前記第1の樹脂が多く含まれる
グレインの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッドロケット用のグレイン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ロケットエンジンの方式として、主に液体燃料ロケット、固体燃料ロケット、及びハイブリッドロケットの3種が知られている。ロケットが酸素濃度の低い空間で推力を得るためには、燃料とそれを燃焼させる酸化剤が必要となる。液体燃料ロケットは燃料と酸化剤が共に液体のものであり、固体燃料ロケットは燃料と酸化剤が共に個体のものであり、ハイブリッドロケットは燃料が固体で酸化剤が液体のものである。本願明細書では、この固体燃料製品を「グレイン」と呼ぶ。
【0003】
ハイブリッドロケット用のグレインには一又は複数の燃焼空間が形成されている。ハイブリッドロケットは、グレインの燃焼空間に液体酸化剤を供給してグレインを燃焼させ、その燃焼現象により発生したガスをノズルから噴射することによって推力を得ることができる。ハイブリッドロケットは、固体燃料と液体酸化剤が構造的に分離されているため、液体燃料ロケットや固体燃料ロケットに比べて製造が容易であるとともに、固体燃料と液体酸化剤の管理がし易いことから、安全性が高く燃焼の制御も容易であるというメリットがある。一方で、ハイブリッドロケットは、例えば液体燃料ロケットと比べて比推力(単位重量の推進剤を使って得られる推力の力積)が低く、推力が出にくいというデメリットがある。このように、ハイブリッドロケットは、製造が容易で安全性と管理性に優れている反面、推力が低いものであることから、例えば弾道飛行中にデータを測定する観測ロケットのエンジンとして用いられることが多い。
【0004】
上記のようにハイブリッドロケットには推力が低いというデメリットがあるが、これを補うための工夫としては、例えば特許文献1から特許文献3に開示されているように、主に樹脂からなる固体燃料自体を渦巻状に巻成するとともに各層の間に空隙を形成することが知られている。このように、渦巻状に巻成された固体燃料の層の間に空隙を設けることで、固体燃料の燃焼効率を高めることができ、大きな推力を発生させることが可能になるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭55-144494号公報
【特許文献2】特開昭55-144495号公報
【特許文献3】特開2022-87139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3には、ハイブリッドロケット用のグレインを、固体燃料を積層することによって構成し、固体燃料の各層の酸素含有率をグレインの中心から外周に向かって徐々に大きくすることが開示されている。具体的に説明すると、特許文献3のグレインは、例えばその中心から順に第1層、第2層、第3層、第4層に分けられ、各層の酸素含有率が第1層、第2層、第3層、及び第4層の順で大きくなるように構成されている。ハイブリッドロケットは、前述したとおり、グレインの中心の燃焼空間に液体酸化剤を供給してグレインを構成する固体燃料を燃焼させるものであることから、グレインの外周に向かうにつれて、液体酸化剤の供給量が低下するという課題がある。この点、特許文献3に開示されているように、グレインの外周に向かうにつれて酸素含有率を大きくすることで液体酸化剤の不足を補うことができる。
【0007】
ところで、特許文献3には、一例として第1層から第4層までの各層で酸素含有率を異ならせることが開示されているが、そのためには酸素含有率が異なる固体燃料、すなわち異なる種類の樹脂を少なくとも4つ用意する必要がある。また、固体燃料の層ごとに酸素含有率を変える場合、固体燃料の層の数が増えるにつれて樹脂の種類も増えるという問題もある。このようにグレインを構成する樹脂の種類が増えると、材料の調達コストが増加することから、グレイン全体の製造コストが嵩むという問題がある。一方で、前述した通り、グレインを構成する固体燃料の酸素含有率を中心から外周に向かって大きくすることで、外周近くの燃焼時における酸化剤不足を補って燃焼効率を高めるという効果が期待できることから、材料調達コストを抑えつつ、このような効果を実現したいという要望がある。
【0008】
そこで、本発明は、グレインを構成する樹脂の種類をできる限り少なく抑えながら、固体燃料の酸素含有率をグレインの中心から外周に向かって大きくできるようにすることを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者は、上記した従来技術の問題点を解決する手段について鋭意検討した結果、固体燃料シートを巻回してなるハイブリッドロケット用グレインを酸素含有率の異なる少なくとも2種の樹脂を組み合わせることによって構成し、グレインの中心付近と外周付近とで各樹脂の比率を変えるようにすることで、少なくとも2種の樹脂によって、酸素含有率をグレインの中心から外周に向かって大きくすることができるという知見を得た。そして、本発明者は、上記知見に基づけば従来技術の課題を解決できることに想到し、本発明を完成させた。具体的に説明すると、本発明は以下の構成又は工程を有する。
【0010】
本発明の第1の側面は、ハイブリッドロケット用のグレイン60に関する。本発明に係るグレイン60は、固体燃料シート10を長手方向(x軸方向)に複数層に亘って巻回することにより構成されたものである。このため、グレイン60は、略円柱形であり、その中心軸に沿って燃焼空間Sが形成されている。なお、本願明細書では、基本的に、固体燃料シート10を渦巻状に巻回したものを「グレイン60」と称し、渦巻状に巻回する前の状態のもの又は渦巻状から展開した後の状態のものを「固体燃料シート10」と称している。固体燃料シート10は、少なくとも、酸素を含有する第1の樹脂11と、この第1の樹脂11よりも酸素含有率の低い第2の樹脂12とを含む。第2の樹脂12は、第1の樹脂11よりも酸素含有率が低ければよく、酸素含有率はゼロであってもよい。固体燃料シート10は、第1の樹脂11と第2の樹脂12とが固体燃料シート10の平面方向(xy面方向)と厚み方向(z軸方向)の両方の方向又はいずれか一方の方向に組み合わされている。つまり、第1の樹脂11と第2の樹脂12は、固体燃料シート10の長手方向(x軸方向)に組み合わされていてもよいし、固体燃料シート10の短手方向(y軸方向)に組み合わされていてもよい。また、第1の樹脂11と第2の樹脂12は、固体燃料シート10の厚み方向(z軸方向)に組み合わされていてもよい。ここで、本願明細書において、グレイン60の最内層に位置する固体燃料シート10の先端を「前端10a」とし、グレイン60の最外層に位置する固体燃料シート10の先端を「後端10b」とし、前端10a側の固体燃料シート10の半部を「前半部F」とし、後端10b側の固体燃料シート10の半部を「後半部R」とする。この場合に、固体燃料シート10の後半部Rには前半部Fと比べて質量比において第1の樹脂11が多く含まれる。すなわち、前半部Fから切り出した第1の樹脂11の質量と後半部Rから切り出した第1の樹脂11の質量を比較すると、後者が前者を上回ることとなる。さらに、固体燃料シート10の前半部Fには後半部Rと比べて質量比において第2の樹脂12が多く含まれるようにするとよい。なお、固体燃料シート10の前半部F全体を第2の樹脂12とし、後半部R全体を第1の樹脂11とすることも可能である。また、固体燃料シート10は、第1の樹脂11と第2の樹脂12のみからなるものであってもよいし、本発明の効果を損なわない範囲で、これらの樹脂の他にこれらと酸素含有率の異なる他の種類の樹脂(第3の樹脂や第4の樹脂)や、公知の添加剤等樹脂以外の成分が含まれていてもよい。
【0011】
上記構成のように、本発明は、固体燃料シート10を巻回してなるグレイン60において、固体燃料として用いられる樹脂の組み合わせ方によって酸素含有率を調整することとしている。具体的には、巻回されたグレイン60の外周付近に相当する後半部Rには、グレイン60の中心付近に相当する前半部Fに比べて、酸素含有率の高い第1の樹脂11が多く組み込まれていることになる。これにより、酸素含有率の異なる2種類の樹脂を用意すれば、グレイン60の中心から外周に向かって酸素含有率を大きくすることができる。従って、グレイン60を構成する樹脂の種類をできる限り少なくすることが可能であり、グレイン60全体の製造コストを安価に抑えることができる。
【0012】
本発明に係るグレイン60において、第1の樹脂11は、ポリアセタール系樹脂又はポリエチレンオキシド系樹脂であることが好ましい。ポリアセタール系樹脂とポリエチレンオキシド系樹脂は、シート成形可能な樹脂の中でも酸素含有率が高いものであることから、第1の樹脂11としての用途に適している。特に、酸素含有率が50wt%以上となるポリアセタール系樹脂が好適である。また、第2の樹脂12は、ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂は、酸素を含有しないが、液体酸化剤を供給すれば良く燃焼する樹脂であることから、第2の樹脂12としての用途に適している。このように、本発明では、酸素含有率の高い樹脂を第1の樹脂11として利用し、酸素を含有しない樹脂を第2の樹脂12として利用することが好ましい。
【0013】
本発明に係るグレイン60において、固体燃料シート10は、その長手方向(x軸方向)に、第1の樹脂11と第2の樹脂12が交互に組み合わされていることが好ましい。特に、固体燃料シート10の前半部Fでは、第1の樹脂11と第2の樹脂12が交互に組み合わされ、酸素含有率の低い第2の樹脂12の含有量が多くなるようにするとよい。同様に、固体燃料シート10の後半部Rでも、第1の樹脂11と第2の樹脂12が交互に組み合わされ、酸素含有率の高い第1の樹脂11の含有量が多くなるようにするとよい。このように、シートの長手方向に第1の樹脂11と第2の樹脂12を交互に組み合わせることで、2種の樹脂のみを用いる場合でも、巻回されたグレイン60の中心付近と外周付近の酸素含有率をそれぞれ適切な値に調節しやすくなる。
【0014】
本発明に係るグレイン60において、固体燃料シート10は、その長手方向(x軸方向)に加えて、さらに、固体燃料シート10の短手方向(y軸方向)にも、第1の樹脂11と第2の樹脂12が組み合わされていてもよい。なお、固体燃料シート10の短手方向は、巻回されたグレイン60の中心軸方向に相当する。固体燃料シート10の短手方向にみたときに、第1の樹脂11と第2の樹脂12は交互に組み合わされていてもよいし、第1の樹脂11と第2の樹脂12とが一つずつ組み合わされていてもよい。このように、固体燃料シート10の短手方向にも第1の樹脂11と第2の樹脂12とを組み合わせることで、巻回されたグレイン60の中心軸方向の酸素含有率も調整できるようになる。
【0015】
本発明に係るグレイン60において、固体燃料シート10は、その厚み方向(z軸方向)に、第1の樹脂11の層と第2の樹脂12の層とが重ね合わされた部分を含むこととしてもよい。このように、第1の樹脂11の層と第2の樹脂12の層を重ね合わせることによっても、固体燃料シート10の後半部Rにおける第1の樹脂11の含有量が、前半部Fにおける第1の樹脂11の含有量よりも多くなるように調節することができる。
【0016】
本発明に係るグレイン60において、固体燃料シート10は、その長手方向(x軸方向)に第1の樹脂11と第2の樹脂12とが組み合わされた層が、その厚み方向(z軸方向)に複数層に亘って重ね合わされていることとしてもよい。このようにすれば、例えば、第1の樹脂11と第2の樹脂12とが長手方向に組み合わされた層を予め複数用意し、これを積層することによって、グレイン60を構成する固体燃料シート10を製作することができる。この場合、固体燃料シート10の製作が比較的容易になる。
【0017】
本発明の第2の側面は、ハイブリッドロケット用グレイン60の製造方法である。この第2の側面に係る製造方法によれば、基本的に前述した第1の側面に係るグレイン60を製造することができる。第2の側面に係る製造方法は、固体燃料シート10を長手方向(x軸方向)に複数層に亘って巻回する工程を含む。このとき、固体燃料シート10は、少なくとも、酸素を含有する第1の樹脂11と、この第1の樹脂11よりも酸素含有率の低い第2の樹脂12とが、当該シートの平面方向(xy面方向)及び/又は厚み方向(z軸方向)に組み合わされたものである。この固体燃料シート10の後半部Rには、前半部Fと比べて質量比において第1の樹脂11が多く含まれる。また、固体燃料シート10の前半部Fには、後半部Rと比べて質量比において第2の樹脂12が多く含まれることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、グレインを構成する樹脂の種類をできる限り少なく抑えながら、固体燃料の酸素含有率をグレインの中心から外周に向かって大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、グレインを搭載したハイブリッドロケットの構造を模式的に示している。
図2図2は、巻回されたグレインの例を示している。
図3図3は、グレインを構成する固体燃料シートの長手方向の断面図の例であって、本発明の第1の実施形態を示している。
図4図4は、グレインを構成する固体燃料シートの平面図の例であって、本発明の第1の実施形態のバリエーションを示している。
図5図5は、グレインを構成する固体燃料シートの長手方向の断面図の例であって、本発明の第2の実施形態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は、以下に説明する形態に限定されるものではなく、以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜変更したものも含む。
なお、本願明細書において、「A~B」とは「A以上B以下」であることを意味する。
【0021】
図1は、ハイブリッドロケット100の主要な構成要素を示している。図1に示されるように、ハイブリッドロケット100は、グレイン60、モーターケース20、酸化剤タンク30、噴射ノズル40、及び火薬50を含む。グレイン60は、一般的に略円筒状に形成されており、その内部に燃焼空間Sが形成されている。モーターケース20は、グレイン60を収容するための容器であり、グレイン60燃焼時に発生する高圧ガスに耐え得る強度に設計されている。酸化剤タンク30は、液状酸化剤が充填された容器であり、モーターケース20の前端側に接続されており、グレイン60の燃焼空間S内に液状酸化剤を供給する。液状酸化剤の例は、液体酸素及び亜酸化窒素である。噴射ノズル40は、グレイン60の燃焼により発生したガスの噴射口として機能するものであり、モーターケース20の後端側に接続されている。火薬50は、グレイン60の燃焼空間S内に配置されている。
【0022】
ハイブリッドロケット100を打ち上げる際には、酸化剤タンク30内の液状酸化剤をグレイン60の燃焼空間Sに供給すると共に火薬50に着火する。これにより、火薬50を最初の熱源、液状酸化剤に含まれる酸素を支燃物として、グレイン60(可燃物)が燃焼を開始する。グレイン60が燃焼するとモーターケース20内にガスが発生し、モーターケース20内の圧力が所定以上となると燃焼ガスが噴射ノズル40から噴射される。これによりハイブリッドロケット100に推力が与えられる。グレイン60の燃焼は、燃焼空間Sが徐々に広がるように、中心から外周に向かって進行する。グレイン60が全て燃焼するか、酸化剤タンク30内の液状酸化剤がなくなると、グレイン60の燃焼は終了する。なお、酸化剤タンク30からグレイン60への液状酸化剤の供給を停止することによっても、グレイン60の燃焼を停止させることができる。
【0023】
本発明は、主に上記ハイブリッドロケット100内に含まれるグレイン60に関するものである。ただし、本発明の範囲をグレイン60を備えたハイブリッドロケット100に広げることも可能である。その場合、前述したモーターケース20、酸化剤タンク30、液体酸化剤、噴射ノズル40、及び火薬50についてはそれぞれ公知のものを採用できる。以下では、グレイン60について詳細に説明する。
【0024】
図2は、本発明に係るグレイン60を、その中心に設けられた燃焼空間Sを覗き込むように平面視したものである。図2に示されるように、グレイン60は、固体燃料からなる長尺のシートを渦巻状に巻回したものである。このため、グレイン60は、略円柱状に形成され、その中心に燃焼空間Sが設けられている。このグレイン60を展開すると1枚の平面状の固体燃料シート10となる。展開された固体燃料シート10は、互いに直交する長手方向、短手方向、及び厚み方向を有する3次元の形状となる。本願の図面では、展開された固体燃料シート10の長手方向をx軸で示し、短手方向をy軸で示し、厚み方向をz軸で示している(図3図4図5参照)。つまり、グレイン60を構成する固体燃料シート10は、x軸及びy軸で表される平面がz軸方向に厚みを持ったものであるといえる。
【0025】
図2に示されるように、グレイン60を構成する固体燃料シート10は、その長手方向に2つの端部を持つ。本願明細書では、固体燃料シート10の端部のうち、グレイン60の最内層に位置する端部を「前端10a」といい、グレイン60の最外層に位置する端部を「後端10b」という。
【0026】
固体燃料シート10の厚みは、適宜調整することが可能である。固体燃料の各層の厚みは、例えば0.1mm以上であることが好ましく、0.25mm以上、0.5mm以上、又は1mm以上であってもよい。また、固体燃料シート10の厚みの上限は、200mm以下であることが好ましく、150mm以下、20mm以下、15mm以下、5mm以下又は3mm以下であってもよい。特に、固体燃料シート10の厚みは、当該シートが破れることを防止しつつ渦巻状に巻回しやすくする観点から、0.25mm以上、5mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましい。また、図2に示した実施形態では、グレイン60を構成する固体燃料シート10の巻き数は3層又は4層となっているが、この巻き数は、固体燃料シート10の厚みや、グレイン60のサイズ、あるいはそれを搭載するハイブリッドロケット100のサイズに応じて適宜調整することができる。固体燃料シート10の巻き数に特に制限はないが、例えば3層以上とすることが好ましい。
【0027】
図3は、グレイン60の第1の実施形態に関し、平面状に展開された固体燃料シート10の長手方向(x軸方向)の断面構造を模式的に表したものである。図3に示されるように、展開状態の固体燃料シート10は、グレイン60の最内層に位置する前端10aから、グレイン60の最外層に位置する後端10bまでの長さを有する。この固体燃料シート10全体の長さを観念的に2等分したときに、前端10a側の固体燃料シート10の半部を「前半部F」といい、後端10b側の固体燃料シート10の半部を「後半部R」という。さらに、図3に示された例において、固体燃料シート10の前半部Fと後半部Rは、固体燃料シート10の長手方向に観念的に4等分されている。この場合に、前半部Fは、前端10aに近い順に、前半第1部F1、前半第2部F2、前半第3部F3、及び前半第4部F4に区分けされる。また、後半部Rも、前端10aに近い順に、後半第1部R1、後半第2部R2、後半第3部R3、及び後半第4部R4に区分けされる。
【0028】
図3に示された実施形態において、固体燃料シート10は、第1の樹脂11と第2の樹脂12という2種の可燃性樹脂を組み合わせることによって構成されている。第1の樹脂11は、構成分子中に酸素原子を有する樹脂であり、第2の樹脂12は、酸素含有率が第1の樹脂11よりも低い樹脂である。第2の樹脂12としては、構成分子中に酸素原子を含有しない樹脂を採用することも可能である。なお、ここにいう「酸素含有率」とは、樹脂中に含まれる酸素原子の含有率を質量%で表した値である。本発明では、第1の樹脂11と第2の樹脂12とが互いに分離又は切り離しできるように組み合わされていることを想定している。
【0029】
図3に示した実施形態において、固体燃料シート10は、その長手方向に、第1の樹脂11と第2の樹脂12とを交互に突き合わせるようにして構成されている。すなわち、固体燃料シート10を長手方向に見たときに、第1の樹脂11の間に第2の樹脂12が介在し、第2の樹脂12の間にも第1の樹脂11が介在することとなる。第1の樹脂11と第2の樹脂12とを突き合わせる方法は特に制限されないが、例えば、第1の樹脂11と第2の樹脂12の間に樹脂用の接着剤を塗布し、この接着剤によって第1の樹脂11と第2の樹脂12を接合することとしてもよい。また、第1の樹脂11と第2の樹脂12の両方又はどちらか一方の樹脂を溶融させ、その溶融状態において第1の樹脂11と第2の樹脂12を突き合わせた後、樹脂を固化させることにより第1の樹脂11と第2の樹脂12を融着することとしてもよい。また、より単純には、第1の樹脂11と第2の樹脂12とを突き合わせた後に、その接触部分に可燃性の粘着テープを巻き付けることによって第1の樹脂11と第2の樹脂12を接合することも可能である。このようにして、第1の樹脂11と第2の樹脂12とを繋ぎ合わせて一枚の固体燃料シート10を製作する。
【0030】
ここで、グレイン60を構成するための固体燃料シート10は、前半部Fと後半部Rとで第1の樹脂11と第2の樹脂12の含有量が異なる。具体的には、酸素含有樹脂である第1の樹脂11は、質量比において前半部Fよりも後半部Rに多く含まれている。例えば、前半部Fに含まれる第1の樹脂11の総質量に対して、後半部Rに含まれる第1の樹脂11の総質量は、1.1倍以上であればよく、1.5倍又は1.8倍以上であることが好ましい。特に、後半部Rに含まれる第1の樹脂11の総質量は、前半部Fに対して、2倍以上であることが好ましく、2.5倍又は3倍以上であってもよい。なお、後半部Rに含まれる第1の樹脂11の総質量の上限については特に制限はないが、例えば前半部Fに含まれる第1の樹脂11の総質量に対して、20倍以下又は15倍以下とすればよい。
【0031】
また、固体燃料シート10の後半部Rを構成する燃料用樹脂全体の質量を100%とした場合に、この後半部Rに含まれる第1の樹脂11(酸素含有樹脂)の総質量は、55~95%であることが好ましく、60~93%又は65~93%であってもよく、70~90%であることが特に好ましい。なお、後半部Rの残余は第2の樹脂12である。一方で、固体燃料シート10の前半部Fを構成する燃料用樹脂全体の質量を100%とした場合に、この前半部Fに含まれる第1の樹脂11(酸素含有樹脂)の総質量は、5~45%であることが好ましく、7~40%又は7~35%であってもよく、10~30%であることが特に好ましい。なお、前半部Fの残余は第2の樹脂12である。
【0032】
より細かく分析すると、第1の樹脂11の含有量は、固体燃料シート10の前端10aから後端10bに向かって徐々に増加することが好ましい。前述したとおり、図3に示した例では、固体燃料シート10の前半部Fは、前端10aから近い順に前半第1部F1~前半第4部F4の4つに等分されており、固体燃料シート10の後半部Rも、前端10aから近い順に後半第1部R1~後半第4部R4の4つに等分されている。この場合に、各部分F1~F4,R1~R4に含まれる第1の樹脂11の質量は、F1<F2<F3<F4<R1<R2<R3<R4となるように、前端10aから後端10bに向かって増加することが最も好ましい。
【0033】
ただし、全体的な傾向として前端10aから後端10bに向かって第1の樹脂11の含有量が増加していれば本発明の効果を奏することは可能であり、例えば部分的に前半第3部F3の方が前半第2部F2よりも第1の樹脂11の含有量が多くなるといったように、部分的な逆転現象が生じていても大きな問題にはならない。このため、例えば、少なくとも、後半第1部R1~後半第4部R4の各部は、それぞれ、前半第1部F1~前半第4部F4のうちの最も第1の樹脂11の含有量が少ない部位と比較して、質量比において第1の樹脂11の含有量が多くなっていればよいといえる。あるいは、前半第1部F1~前半第4部F4に含まれる第1の樹脂11の質量の平均値と、後半第1部R1~後半第4部R4に含まれる第1の樹脂11の質量の平均値とを比較したときに、後者が前者を上回っていればよいともいえる。さらに具体的には、第1の樹脂11の質量は、前半第1部F1と前半第2部F2の平均値、前半第2部F2と前半第3部F3の平均値、後半第1部R1と後半第2部R2の平均値、後半第3部R3と後半第4部R4の平均値は、(F1+F2)/2≦(F3+F4)/2<(R1+R2)/2≦(R3+R4)/2の関係性を満たせばよい。このように、酸素含有樹脂である第1の樹脂11の含有量は、前端10aから後端10bに向かって増加する傾向にあればよい。
【0034】
酸素原子を含有する第1の樹脂11としては、固体燃料として機能する燃焼性を有するとともに、シート状に成形可能な熱可塑性を有するものを採用する必要がある。このような第1の樹脂11の例は、ポリアセタール系樹脂、ポリエチレンオキシド系樹脂、ポリエチレングリコール系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ナイロン-6,6、及びエポキシ樹脂であり、これらを併用することもできる。なかでも、第1の樹脂11としては、酸素含有率の高いポリアセタール系樹脂若しくはポリエチレンオキシド系樹脂を採用することが好ましく、又はこれらを併用することとしてもよい。ポリアセタールの酸素含有率は約53.3wt%であり、ポリエチレンオキシドの酸素含有率は約36.3wt%である。ポリアセタール系樹脂としては、ホルムアルデヒド又はトリオキサンを主原料として重合反応により得られるホモポリマーであってもよく、オキシメチレン単位とオキシメチレン単位以外の構成単位からなるコポリマー、すなわちブロックコポリマー、ターポリマー、グラフトポリマー、架橋ポリマーのいずれであってもよい。また、ポリエチレンオキシド系樹脂としては、エチレンオキシドのみによって構成される樹脂であってもよいし、エチレンオキシドと他のオキシド化合物(例えば、プロピレンオキシド)とがランダム共重合してなるエチレンオキシド・プロピレンオキシドランダム共重合体などであってもよい。なお、樹脂の酸素含有率は、公知の元素分析法で求めることができる。元素分析法としては例えば1050℃、ヘリウムキャリア中の無酸素状態下で試料(樹脂)を燃焼させ、発生した一酸化窒素を定量する方法が挙げられる。
【0035】
また、酸素含有率の低い第2の樹脂12としては、第1の樹脂11と同様に、固体燃料として機能する燃焼性を有するとともに、シート状に成形可能な熱可塑性を有するものを採用する必要がある。第2の樹脂12としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びエチレン・プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。なお、ポリエチレンとポリプロピレン等、複数のポリオレフィン系樹脂を併用してもよい。ポリオレフィン系樹脂は、その構成分子中に酸素原子を含有しないため、前述した第1の樹脂11との酸素含有率の差を大きくすることができる。これにより、ポリオレフィン系樹脂を前述した第1の樹脂11と組み合わせてもちいることで、グレイン60の酸素含有率を調整することが容易になる。その他、第2の樹脂12としては、第1の樹脂11よりも酸素含有率が低くなることを条件に、例えば、末端水酸基ポリブタジエン及び末端カルボキシル基ポリブタジエン等のポリブタジエン系樹脂; ポリエステル型ポリウレタン及びポリエーテル型ポリウレタン等のポリウレタン系樹脂; ポリ乳酸及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂; アクリロニトリルホモポリマー及びアクリロニトリルコポリマー等のポリアクリロニトリル系樹脂; ポリ塩化ビニル樹脂; ポリイソブチレン; ポリメチルメタクリレート等のポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂; ポリエチレングリコール系樹脂; ポリエチレンテレフタレート系樹脂; ポリメチルメタクリレート系樹脂; ポリカーボネート系樹脂; ナイロン-6,6; エポキシ樹脂などを用いることも可能である。
【0036】
このように前端10aから後端10bにかけて第1の樹脂11の含有量が増加する傾向にある固体燃料シート10を渦巻状に巻回することによって、略円筒状のグレイン60が作製される。このようにして作製されたグレイン60は、その中心から外周に向かうにつれて固体燃料の酸素含有率が大きくなる。ハイブリッドロケットは、グレイン60の中心の燃焼空間Sに液体酸化剤を供給して固体燃料を燃焼させるものであるため、グレイン60の外周に向かうにつれて液体酸化剤の供給量が低下するという課題があるが、グレイン60の中心から外周に向かうにつれて固体燃料の酸素含有率を大きくすることで、液体酸化剤の不足を補うことができる。そして、本発明によれば、このような効果を持つ構造を、少なくとも2種の酸素含有率の異なる樹脂によって実現することができる。
【0037】
図4は、図3に示した実施形態における固体燃料シート10のバリエーションを示している。図4(a)に示した例では、第1の樹脂11及び第2の樹脂12が、それぞれ、固体燃料シート10の短手方向(y軸方向)全域に亘って延在する帯状をなしている。このような短手方向全域に延びる帯状の第1の樹脂11と第2の樹脂12とが、長手方向(x軸方向)に交互に組み合わされることで、長尺の固体燃料シート10が形成される。固体燃料シート10の短手方向(y軸方向)は、当該シートを巻回して円筒状のグレイン60としたときに、そのグレイン60の中心軸方向と平行になる。従って、図4(a)に示した例によれば、グレイン60の中心軸方向において固体燃料の燃焼性能を均質化することができる。
【0038】
図4(b)に示した例では、第1の樹脂11と第2の樹脂12のそれぞれが、固体燃料シート10の長手方向(x軸方向)と短手方向(y軸方向)に分離可能なピースで構成されている。第1の樹脂11と第2の樹脂12の各ピースを組み合わせることで、ジグソーパズルのように、固体燃料シート10を作製することができる。各ピースは、第1の樹脂11と第2の樹脂12のいずれかで構成されており、他のピースと嵌合するための凹部及び/又は凸部を有する。各ピースの大きさや凹凸の形状は規格化されており、ある程度自由に他のピースと繋ぎ合わせることができる。これにより、固体燃料シート10内において第1の樹脂11を自由に配置することができるため、固体燃料シート10の酸素含有率の調整の自由度が向上する。また、固体燃料シート10内における第1の樹脂11の配置の変更も容易になることから、固体燃料シート10の酸素含有率の調整の柔軟性が向上する。
【0039】
また、図4(b)に示した例によれば、固体燃料シート10の長手方向(x軸方向)だけでなく、当該シートの短手方向(y軸方向)においても、固体燃料シート10の酸素含有率を変化させることができる。すなわち、図4(a)に示した例と比較すると理解し易いが、図4(a)に示した例では、固体燃料シート10の長手方向(x軸方向)に見ると第1の樹脂11と第2の樹脂12の両方が並んでいることから長手方向に酸素含有率が変化することになるが、固体燃料シート10の短手方向(y軸方向)に見ると第1の樹脂11と第2の樹脂12のいずれかしか存在しないことから短手方向の酸素含有率はほぼ均一である。一方で、図4(b)に示した例によれば、第1の樹脂11のピースの配置によっては、固体燃料シート10の短手方向(y軸方向)にも第1の樹脂11と第2の樹脂12の両方が並ぶように配置できるため、この短手方向においても酸素含有率を変化させることができる。従って、グレイン60の用途に応じて、固体燃料シート10の長手方向及び短手方向の酸素含有率を自由に調整できる。
【0040】
図4(c)に示した例では、第1の樹脂11及び第2の樹脂12が、それぞれ、固体燃料シート10の長手方向(x軸方向)全域に亘って延在している。このとき、第1の樹脂11は、固体燃料シート10の前端10aから後端10bに向かって徐々に横幅(y軸方向の長さ)が広がっていく。その反面、第2の樹脂12は、固体燃料シート10の前端10aから後端10bに向かって徐々に横幅(y軸方向の長さ)が狭くなっていく。その結果、固体燃料シート10全体で見たときに、第1の樹脂11の含有量は、固体燃料シート10の前端10aから後端10bに向かって徐々に増加することになる。このような構成によっても、固体燃料シート10の後半部Rに前半部Fと比べて質量比において第1の樹脂11が多く含ませることが可能である。
【0041】
図5は、グレイン60の第2の実施形態に関し、平面状に展開された固体燃料シート10の長手方向(x軸方向)の断面構造を模式的に表したものである。図5に示した第2の実施形態においても、展開状態の固体燃料シート10は、前述した第1の実施形態(図3参照)と同様に、前端10aから後端10bまでの長さを有し、その長手方向に前半部Fと後半部Rとに観念的に2等分され、さらに前半部Fと後半部Rはそれぞれ4つの部位F1~F4,R1~R4に区分されている。第2の実施形態については、第1の実施形態と同じ事項については説明を割愛し、第1の実施形態と異なる事項を中心に説明を行う。
【0042】
第2の実施形態は、前述した第1の実施形態とは異なり、固体燃料シート10が厚み方向(z軸方向)に複数の層に分かれている。図5に示した例では、固体燃料シート10は、第1層Z1、第2層Z2、第3層Z3、及び第4層Z4の4層で構成されている。ただし、固体燃料シート10を構成する層の数は、4層に限定されず、2層や3層であってもよいし、5層以上であってもよい。
【0043】
図5に示した例において、第1層Z1、第2層Z2、及び第3層Z3は、それぞれ、固体燃料シート10の長手方向(x軸方向)に第1の樹脂11と第2の樹脂12とを突き合わすことによってシート状に構成されている。各層において第1の樹脂11と第2の樹脂12を接合する方法は、前述した第1の実施形態と同様であり、接着剤や、樹脂の融着、粘着テープなどを利用することができる。
【0044】
ここで、第1層Z1から第3層Z3は、長手方向(x軸方向)全体に占める第1の樹脂11と第2の樹脂12の長さの割合がそれぞれ異なっている。具体的には、第1層Z1では、第2の樹脂12が、固体燃料シート10の前半第1部F1(前端10a)から後半第2部R2まで延在しており、第1の樹脂11は、残りの後半第3部R3から後半第4部R4(後端10b)までのみとなる。このため、第1層Z1は、長手方向における半分以上の領域が第2の樹脂12となっている。また、第2層Z2では、第2の樹脂12が、固体燃料シート10の前半第1部F1(前端10a)から前半第4部F4まで延在しており、第1の樹脂11が、残りの後半第1部R1から後半第4部R4(後端10b)まで延在している。このように、第2層Z2では、長手方向において第1の樹脂11と第2の樹脂12が同じ長さとなっている。さらに、第3層Z3では、第2の樹脂12は、固体燃料シート10の前半第1部F1(前端10a)から前半第2部F2までのみとなり、第1の樹脂11が、残りの前半第3部F3から後半第4部R4(後端10b)まで延在している。このため、第3層Z3は、長手方向における半分以上の領域が第1の樹脂11となっている。加えて、第4層Z4は、長手方向全域に亘って第2の樹脂12のみから構成されており、第1の樹脂11は組み合わされていない。
【0045】
従って、これらの第1層Z1から第4層Z4を厚み方向に積層すると、第1の樹脂11の含有量が、固体燃料シート10の前端10aから後端10bに向かって徐々に増加することとなる。すなわち、図5の示した例では、固体燃料シート10の前半第1部F1と前半第2部F2には、第1の樹脂11は存在しない。前半第3部F3と前半第4部F4には、第1の樹脂11が第3層Z3の1層分のみ存在する。後半第1部R1と後半第2部R2には、第1の樹脂11が第2層Z2と第3層Z3の2層分存在する。後半第3部R3と後半第3部R3には、第1の樹脂11が第1層Z1から第3層Z3の3層分存在する。このように固体燃料シート10を層構造とし、各層における第1の樹脂11と第2の樹脂12の割合を異ならせることで、第1の樹脂11の含有量が前端10aから後端10bに向かって段々と増加するように調整することが可能である。
【0046】
なお、図示は省略するが、第2の実施形態においても、前述した第1の実施形態と同様に、固体燃料シート10の各層Z1~Z4は、固体燃料シート10の長手方向(x軸方向)だけでなく、固体燃料シート10の短手方向(y軸方向)にも、第1の樹脂11と第2の樹脂12が組み合わされていてもよい。この場合、固体燃料シート10の各層Z1~Z4の構造は、例えば図4(b)や図4(c)に示した例に倣ったものとすればよい。
【0047】
以上、本願明細書では、本発明の内容を表現するために、図面を参照しながら本発明の実施形態の説明を行った。ただし、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本願明細書に記載された事項に基づいて当業者が自明な変更形態や改良形態を包含するものである。
【符号の説明】
【0048】
10…固体燃料シート
10a…前端
10b…後端
11…第1の樹脂
12…第1の樹脂
F…前半部
R…後半部
20…モーターケース
30…酸化剤タンク
40…噴射ノズル
50…火薬
60…グレイン
100…ハイブリッドロケット
S…燃焼空間
図1
図2
図3
図4
図5