(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078376
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】二酸化炭素の固定化方法
(51)【国際特許分類】
C01F 11/18 20060101AFI20240603BHJP
C04B 18/167 20230101ALI20240603BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
C01F11/18 C
C04B18/167
B01D53/14 210
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089148
(22)【出願日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2022190226
(32)【優先日】2022-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年6月3日に無機マテリアル学会第144回学術講演会(WEB開催)にて発表 令和4年6月2日に無機マテリアル学会第144回学術講演会の要旨集にて発表 令和4年9月7日に日本セラミックス協会関東支部第38回関東支部研究発表会にて発表 令和4年9月7日に日本セラミックス協会関東支部第38回関東支部研究発表会の講演要旨集にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年12月1日に日本大学理工学部学術講演会予稿集にて発表 令和4年11月29日に2022年度 材料技術研究協会討論会のプログラムにて発表 令和4年12月1日に日本大学理工学部学術講演会の講演にて発表 令和4年12月2日に2022年度 材料技術研究協会討論会のポスター発表にて発表 令和5年4月24日に第77回セメント技術大会の講演要旨 2023にて発表 令和5年5月19日に第77回セメント技術大会にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 芳行
(72)【発明者】
【氏名】桐野 裕介
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 彦次
(72)【発明者】
【氏名】内田 俊一郎
【テーマコード(参考)】
4D020
4G076
【Fターム(参考)】
4D020AA03
4D020BA02
4D020BA08
4D020BB05
4D020CB03
4D020CC05
4D020DA03
4D020DB07
4D020DB20
4G076AA16
4G076AB06
4G076AB28
4G076AB30
4G076BA34
4G076BC02
4G076BE11
4G076CA02
4G076CA15
4G076CA25
4G076CA29
4G076DA30
(57)【要約】
【課題】空気中から直接CO
2を取り込んでCO
2を固定化する方法、及びCO
2を固定化する際に生成される生成物を有効に利用可能なCO
2を固定化する方法を提供する。
【解決手段】本発明の方法は、空気中のCO
2を固定化する方法であって、Ca含有物と水とを反応槽(10)内で撹拌して、前記空気中のCO
2と反応させてCaCO
3を含む生成物を得る撹拌工程を備え、前記撹拌工程で生成される生成物に含まれるCaOに対するCO
2のモル比である炭酸化率が25%以上であり、且つ、前記炭酸化率の時間当たりの上昇率である炭酸化反応速度が10%/h以下であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気中のCO2を固定化する方法であって、
Ca含有物と水とを反応槽内で撹拌して、前記空気中のCO2と反応させてCaCO3を含む生成物を得る撹拌工程を備え、
前記撹拌工程で生成される生成物に含まれるCaOに対するCO2のモル比である炭酸化率が25%以上であり、且つ、前記炭酸化率の時間当たりの上昇率である炭酸化反応速度が10%/h以下である、CO2の固定化方法。
【請求項2】
前記生成物の平均アスペクト比は3以上である、請求項1に記載のCO2の固定化方法。
【請求項3】
前記Ca含有物のCaOの含有量は、30%以上80%以下であり、前記Ca含有物と撹拌する該Ca含有物に対する前記水の比率である液固比は、4以上200以下である、請求項1又は2に記載のCO2の固定化方法。
【請求項4】
前記撹拌工程の前に、前記空気との接触が制限される環境下において、前記Ca含有物を前記水又はその一部と接触させる、請求項1又は2に記載のCO2の固定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素をCa含有物に固定化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地球温暖化防止のためにCO2排出量の削減が求められている。例えば、特許文献1には、アルカリ土類金属含有物質を利用してCO2を固定化する技術が開示されている。特許文献1に開示されている発明では、生コンクリート製造時の残渣であるセメント系スラッジと水との混合物に炭酸ガスを混入させてCO2を固定化する。また、CO2の固定化の際に生成された生成物は、コンクリート用材料の一部として再利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記発明におけるCO2は、供給される高濃度の炭酸ガスを用いている。そのため、高濃度の炭酸ガスが必要である。したがって、高濃度の炭酸ガスを継続して供給する必要があった。言い換えれば、上記発明では、空気中の低濃度のCO2をそのまま利用することはできなかった。また、空気中のCO2を直接取り込む工業的な方法(Direct Air Capture(DAC))は、近年開発が進んでいるものの、大型の新規設備の設置が想定されている。そのため、既存の設備の組み合わせにより、小規模なスケールでも可能なDAC技術は開発されていない。CO2の排出量を実質的にゼロにすることは極めて困難であることから、CO2の排出量に見合うCO2を大気中から取り除く方法の開発が望まれていた。
【0005】
また、CO2を固定化した生成物をコンクリート用材料の一部として再利用する点は開示されているものの、CO2が固定化された生成物を、より有効に利用する点については開示されていない。したがって、CO2の固定化で生成した炭酸塩鉱物の有効利用方法に関しても開発が望まれている。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、空気中から直接CO2を取り込んでCO2を固定化する方法、及びCO2を固定化する際に生成される生成物を有効に利用可能なCO2を固定化する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の空気中のCO2を固定化する方法は、Ca含有物と水とを反応槽内で撹拌して、前記空気中のCO2と反応させてCaCO3を含む生成物を得る撹拌工程を備え、前記撹拌工程で生成される生成物に含まれるCaOに対するCO2のモル比である炭酸化率が25%以上であり、且つ、前記炭酸化率の時間当たりの上昇率である炭酸化反応速度が10%/h以下であることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る方法によれば、空気中から直接CO2を取り込んでCaCO3に固定化することができる。その際、炭酸化反応速度を制限するので比較的アスペクト比の高い生成物を得ることができる。得られる生成物は、例えば、セメント用材料等として有効に利用可能である。
【0009】
また、本発明に係る方法においては、前記生成物の平均アスペクト比は3以上であり得る。
【0010】
これによれば、得られる生成物を、例えばコンクリートに添加することで、そのコンクリートの曲げ強度の増加を期待することができる。
【0011】
また、本発明に係る方法においては、前記Ca含有物のCaOの含有量は、30%以上80%以下であり、前記Ca含有物と撹拌する該Ca含有物に対する前記水の比率である液固比は、4以上200以下であり得る。
【0012】
これによれば、Ca含有物のCaの含有量や水との撹拌の際の液固比は、それぞれ最適な範囲を選択可能である。したがって、そのような最適な範囲の選択によって、より効率的に空気中のCO2を固定化することができる。
【0013】
また、本発明に係る方法においては、前記撹拌工程の前に、前記空気との接触が制限される環境下において、前記Ca含有物を前記水又はその一部と接触させるようにしてもよい。
【0014】
これによれば、Ca含有物を、空気中のCO2との反応前にあらかじめ水と接触させるので、そのような前処理によって、より効率的に空気中のCO2を固定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明を実施するための一実施形態であるCO
2固定化装置の概要図である。
【
図2】本発明の固定化処理の一例の初期段階における生成物を示す写真である。
【
図3】本発明の固定化処理の一例の経過段階における生成物を示す写真である。
【
図4】本発明の固定化処理の他の例の初期段階における生成物を示す写真である。
【
図5】本発明の固定化処理の他の例の経過段階における生成物を示す写真である。
【
図6】
図1の試験装置における容器サイズと炭酸化率の相関を示すグラフである。
【
図7】
図1の試験装置における撹拌速度と炭酸化率の相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施の形態>
図1を参照しながら、本実施の形態であるCa含有物と水とを用いてCO
2を固定化する方法、及びそれに用いるCO
2固定化装置100を説明する。上記方法に用いられるCa含有物と水とを用いるCO
2固定化装置100は、反応槽10、及び反応槽10内のCa含有物と水とを撹拌する撹拌装置20を備える。なお、反応槽10の内部構造を理解しやすいように、
図1は、反応槽10の手前側の一部を削除した状態を示している。
【0017】
反応槽10には、Ca含有物と水とが投入されてスラリー40が生成される。反応槽10は、図示されないポンプによりCa含有物と水とが投入される供給配管11と、スラリー40を排出する排出配管12とが設けられている。供給配管11からは水のみを供給し、Ca含有物を反応槽10に投入して、反応槽10内で撹拌してもよい。反応槽10は、撹拌装置20でスラリー40を撹拌できるものであれば、何れの容器、又は設備を利用できる。反応槽10は、例えばビーカー等のガラス製、樹脂製、等の容器である。反応槽10の水平断面は、内径D1を有する円形である。反応槽10は、必要な処理量を勘案して、所望の大きさで形成可能である。反応槽10の内径D1は、例えば80mm~500mmである。反応槽10の容量は1L~5L、もしくはそれ以上である。
【0018】
反応槽10は、より大容量の設備として設けられた構造物であってもよい。反応槽10は、例えばコンクリート、金属等により所望の大きさで形成される。反応槽10は、設備として設けられる場合、反応槽10の内径D1は、例えば1m~10mである。また、反応槽10の容量は100L以上である。なお、反応槽10の水平断面形状は、円形断面以外でもよい。反応槽10は、例えば、水平断面の形状が矩形に形成され、対向する2組の辺のうち、何れかの対辺間の距離が最小内寸D1を有する反応槽10であってもよい。また、反応槽10内のスラリー40の液面高さHに対する反応槽10の直径(又は最小内寸)D1の比H/D1は、0.1以上5以下が好ましい。実施例23~24の前記比は、0.14である。また、前記比は、設備として設けられる場合を考慮して5以下とする。
【0019】
撹拌装置20は、CO2の固定化を効率よく行えるように、Ca含有物と水とを撹拌する装置である。撹拌装置20がスラリー40を効率的に撹拌するように、撹拌装置20は反応槽10のほぼ中央付近に配置されている。撹拌装置20は、所定回転数で回転可能な回転機21、回転機21により回転される回転軸22、及び回転軸22の下端に接続されている撹拌羽根23を有している。回転機21は、固定部材27で壁、保持器等に固定されている。回転機21は、例えば電動モータである。撹拌羽根23先端の速度は、撹拌が安全に維持できる範囲であれば早い方が好ましい。撹拌羽根23先端の速度Vは、V=撹拌羽根23の半径D2/2×角速度ωで求められる。
【0020】
撹拌羽根23は、外径D2を有する複数枚の羽根を有している。外径D2は、用いられる反応槽10の内径D1に応じて、適切に決定される。外径D2は、反応槽10の内径D1、又は最小内寸D1の20%以上80%以下である。撹拌羽根23の外径D2は、小型の反応槽10の場合、例えば20mm以上150mm以下である。また、撹拌羽根23の枚数は2枚~8枚である。また、撹拌羽根23の水深は、反応槽10に入れられるスラリー40の水深の50%以上、すなわち水深の中間位置か、それより深い位置となるように配置されている。撹拌羽根23が配置される水深は、固体成分が反応槽10の底に沈下した場合にも容易に上方にすくい上げられるように、可能な限り反応槽10の底面側に近づけて配置されることが望ましい。例えば、反応槽10に満たされたスラリー40の水深の少なくとも50%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上とすることが望ましい。
【0021】
なお、反応槽10には、撹拌装置20とともに、又は撹拌装置20の代わりに、スラリー40を反応槽10内で循環させる図示されない循環装置を設けることもできる。循環装置は、ポンプと、ポンプの入り口側及び出口側にそれぞれ接続された配管とを含んで構成される。ポンプの入り口側配管の先端は、反応槽10の底面、又は底面周辺に配置され、ポンプの出口側配管の先端は、反応槽10内のスラリー40の水深の中央、又はそれ以上に配置される。スラリー40に含まれる固体成分が反応槽10の底面、又は底面周辺に沈殿した場合でも、固体成分を含むスラリー40はポンプにより吸引され、反応槽10内の上部に循環される。この循環作用により、反応槽10内のスラリー40は撹拌される。すなわち、循環装置は、反応槽10内のスラリー40を撹拌する。循環装置を設けることにより、CO2の固定化がより効率よく行われる。
【0022】
水とともに反応槽10に投入されるCa含有物は、Caを含む種々の材料が利用可能である。Ca含有物とは、Caイオンを溶出し、炭酸と結合して、炭酸カルシウムを生成し得るものである。Ca含有物は、例えばCa(OH)2を含む。又は、Ca含有物は、CaO含有物を含む。Ca含有物は、例えば、生コンスラッジ、廃コンクリート、廃軽量気泡コンクリート(廃ALC)、等のコンクリート廃材が利用可能である。さらに、高炉スラグ、製鋼スラグ、製紙汚泥(焼却灰)、下水汚泥(焼却灰)、都市ごみ灰、流動床式バイオマス灰、流動床式石炭灰、塩素バイパスダスト等、アルカリ性でCaが溶出する物質も利用可能である。焼却された灰を用いる場合には、分級点10~1000μmでSi分を含む粗粒分の除去を行うことにより、効率の向上が期待できる。
【0023】
コンクリート廃材は、Ca含有物以外の骨材等を含んでいてもよい。コンクリート廃材は、CO2の固定化を効率的に行うために、図示しない粉砕機で細かく砕かれて投入される。又は、大きさ、材料等により材料を選別、例えばふるい分けをして、骨材等のCa含有物以外の材料を分離してもよい。何れの場合でも、原料のCa含有物を粉体にして投入することで、沈殿を抑制することができる。反応槽10にCa含有物とともに投入される水は、例えば工業用水である。
【0024】
Ca含有物はCaの割合が多い原料が望ましいが、Ca含有物におけるCaO含有量の割合が所定の範囲にあれば用いることができる。Ca含有物におけるCaO含有量の割合は、30%以上80%以下が好ましい。実施例1、等では、CaO含有量の割合は76%である。また、30%以下では、CO2の固定化処理の反応効率の低下、及びその低下を補うための反応槽大型化による設備投資費の増加が懸念される。
【0025】
水と、Ca含有物との混合比である液固比は、所定の範囲に設定される。液固比は、4以上200以下であることが好ましい。液固比は、さらに好ましくは10以上50以下である。液固比が4未満、すなわち固体分が相対的に多い状態では、スラリー40を排出するポンプの圧送性の低下、又は詰まりが生じる可能性がある。また、液固比が200以上、すなわち固体分が相対的に少ない状態では、水がCa含有物の量に対応する量より多く、反応槽10が大型になり、設備費用が増大する。したがって、液固比は上記範囲が好ましい。
【0026】
本実施の形態のCO2の固定化は、反応槽10内のスラリー40を撹拌して、スラリー40の表面に自然に接触する空気中のCO2を取り込むことで行われる。又は、CO2を含む空気は、送風装置30により連続的、又は所定間隔で反応槽10に圧送されてもよい。送風装置30は、空気を送るポンプ31、ポンプ31から送られた空気を反応槽10内に排出する拡散器32、及びポンプ31と拡散器32とをつなぐ配管33を有している。拡散器32が有する単位面積当たりの吹き出し口の数は所定数以上であることが好ましい。前記の単位面積当たりの吹き出し口の数を確保するために、拡散器32を中空の直方体として形成してもよい。中空の直方体形状の拡散器32は、反応槽10の上面をできるだけ覆う形状、例えば反応槽10の水平断面の面積の50%以上、好ましくは70%以上である。又は、拡散器32は、吹き出し口の数に相当する複数の配管を組み合わせて形成してもよい。又は、拡散器32は、水平方向に延びる配管の表面に多数の孔が開けられている1つ以上が組み合わされて形成された中空管でもよい。
【0027】
なお、1バッジのCO2固定化作業が終了したら、スラリー40は反応槽10から排出配管12を通して排出される。スラリー40はCO2が固定化されて生成されたCaCO3を含んでおり、排出されてそのまま、又は脱水されて乾燥してから、セメントやコンクリート、建材に混合して利用される。なお、CO2固定化処理後のスラリーに対して、分級点10~1000μmで不純物を含む粗粒分の除去を行うことにより、生成されたCaCO3の純度の向上が期待できる。スラリー40を排出後、CO2固定化処理を継続する場合は、再度、反応槽10にCa含有物と水とが投入されて、CO2固定化処理が継続される。なお、複数の槽を接続した連続式の設備等により実施してもよい。また、生成されたCaCO3の用途は限られるものではない。
【0028】
空気中のCO2と反応させてCaCO3を含む生成物を得るための、その処理時間としては、10~300時間であることが好ましく、反応時間は、更に好ましくは12~200時間である。
【0029】
本発明において任意に選択される1つの態様においては、上記のように反応槽10に投入して空気中のCO2との反応を開始する前に、その空気との接触が制限される環境下において、使用する水の全量、又はその一部の量とあらかじめ接触させておくようにしてもよい。これにより、CO2を含む空気との反応を開始した際、より効率的に空気中のCO2を固定化することができる。CO2を含む空気の接触が制限される環境とは、例えば密閉されたタンク、グローブボックス等、空気との接触がない、又は少ないものであればよい。なお、この場合、CO2を高濃度に含む排ガス等との接触も制限すべきことはもちろんである。水と、Ca含有物との混合比である液固比は、所定の範囲に設定される。液固比は、0.3以上200以下であることが好ましい。液固比は、より好ましくは0.4以上50以下である。また、前処理にかかる処理時間は特に制限はないが、72時間以内であることが好ましく、より好ましくは1時間~48時間である。前処理の時間を長くとりすぎると、その前処理工程を含めたCO2固定化効率が低下する場合がある。
【0030】
本発明において、炭酸化率、及び炭酸化反応速度は、以下のとおりである。
炭酸化率(%)={生成物に含まれるCO2のモル数/生成物に含まれるCaOのモル数}×100
炭酸化反応速度(%/h)=(処理時間tにおける炭酸化率-処理時間0における炭酸化率)/t
CO2量(mol/g)は、示差熱熱重量同時測定装置により測定した。示差熱熱重量同時測定装置は、セイコーインスツルメント株式会社製TG-DTA6300を用い、温度範囲は室温~1000℃、昇温速度は20℃/min、雰囲気はN2として測定を行い、550℃から900℃の減量値をCO2量とした。また、CaO量(mol/g)は、JIS R5204により測定した。
【0031】
平均アスペクト比は、各試料の二次電子像から、無作為に抽出した炭酸カルシウム粒子の長辺と短辺の比を複数取得して、平均値を算出した。各試料の二次電子像は、日立製作所製電界放射形走査電子顕微鏡S-4100を用いて取得した。なお、試料は、試料台にカーボンテープを用いて貼り付け、日立製作所製イオンスパッタ装置E-1030により表面に金を蒸着して、試料に導電性を持たせてから測定した。生成された炭酸カルシウム(CaCO3)の多形の同定は、粉末X線回折法によって行った。分析装置はD8ADVANCE A25(Bruker社製)を用い、分析条件はX線源:CuKα,管電圧:40kV,管電流:40mA,走査範囲:2θ=5-65°とした。
【0032】
[試験結果]
表1~表3、並びに表4~表6を参照して、CO2固定化装置100によりCO2固定化処理を行った試験結果を説明する。試験では、原料であるCa含有物の差異、液固比の差異、反応槽の差異、処理時間の差異、水との前処理の有無(前処理時間の差異)、及び生成物の差異などによる影響を調べた。そのために、例えば、処理時間、反応槽サイズ、撹拌速度、Ca含有物の種類など、各特性値を違えて試験した。Ca含有物について、実施例1~17はCa(OH)2、実施例21~22はスラッジ、実施例23~28はセメントを用いた。また、比較例31~36はCa(OH)2、比較例41はスラッジ、比較例42はセメントを用いた。なお、実施例17はCa(OH)2を原料とし、スラリー40中に空気を吹き込みながら撹拌した試験結果であり、実施例25~28は、窒素ガスを充填して空気との接触を制限したグローブボックス内で水/固体比10であらかじめCa含有物(セメント)と水とを撹拌し、0~168時間接触させる前処理を行ってから、そのグローブボックスから取り出し、空気中のCO2との反応を開始させたときの試験結果であり、比較例43はスラッジを原料とし、スラリー40中にCO2を吹き込みながら撹拌した試験結果である。また、表の縦軸は実施例、及び比較例を示し、横軸は、原料、反応槽、及び処理時間(水との接触を行う場合は、その前処理時間)と生成物について、表1~表3、並びに表4~表6に分けてそれぞれまとめた。表7は、試験に用いた試料の化学組成を示している。スラッジ1は、実施例21、22、及び比較例41で用いたスラッジの化学組成である。スラッジ2は、比較例43で用いたスラッジの化学組成である。上記化学組成の測定は、JIS R5204により行った。
【0033】
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【0034】
試験の手順は、次のとおりである。反応槽10に、予め細粒化したCa含有物と水とを投入した。Ca含有物は、スラッジ、セメント、及びCa(OH)2を準備した。反応槽10に両者を投入した直後から、撹拌装置20によりスラリー40の撹拌を開始し、連続的に所定時間撹拌した。Ca(OH)2は、スラッジ、及びセメントに比べて、不純物の混入がなく、安定した反応結果が得られると思われる。
【0035】
図2~5を参照して、生成物の拡大写真を説明する。
図2及び3は、Ca含有物をCa(OH)
2としてCO
2固定化処理を行った時の生成物を示している。
図2は、実施例5の試験における処理時間1時間後の生成物の拡大写真である。
図3は、実施例6の試験における処理時間183時間後の生成物の拡大写真である。
図2のCO
2固定化処理開始直後では、団塊状の結晶が多く、針状の結晶はほとんど形成されていない。これに対し、
図3の処理時間183時間後では、アスペクト比が高い針状の結晶が多く形成されている。本試験により生成された結晶は、カルサイト、及びアラゴナイトを含んでいる。
図4及び5は、Ca含有物をセメントとしてCO
2固定化処理を行った時の生成物である。
図4は、実施例23の試験における処理時間46時間後の生成物の拡大写真である。
図5は、実施例24の試験における処理時間258時間後の生成物の拡大写真である。
図4では、針状の結晶が形成されている。
図5の処理時間258時間後では、針状の結晶がより太く形成されている。本試験により生成された結晶は、カルサイト、及びアラゴナイトを含んでいる。
【0036】
本発明のCO2固定化処理では、時間をかけて空気中のCO2を反応させることで、アスペクト比の高いCaCO3を生成することができる。通常生成する菱面体のカルサイトと比較して、アスペクト比が高いCaCO3が生成できることにより、CaCO3を含む生成物を生コンクリートへ添加した場合、又は脱水ケーキを製造してコンクリートに添加した場合に、コンクリートの曲げ強度の増加が期待できる。
【0037】
試験結果に関する考察は以下のとおりである。
【0038】
(1)処理時間と炭酸化率との相関について
実施例1と2、実施例3と4、等の処理時間のみが異なる実施例同士を比較すると、今回の試験の処理時間の範囲では、処理時間が長い方がより炭酸化率、すなわちCO2の固定量が増加した。したがって、高いCO2の固定量とするには、可能な範囲で処理時間を長くすることが好ましいと思われる。
【0039】
(2)反応槽サイズと炭酸化率との相関について
図6を参照して、反応槽サイズと炭酸化率との相関を説明する。容器サイズが異なる実施例5~6(容器小)、実施例9~10(容器中)、及び実施例11~12(容器大)の試験結果を比較すると、同じ処理時間でも容器は大きい方が炭酸化率は高かった。空気とより大きな接触面積を有する方が、スラリー40の表面から空気中のCO
2を、より取り込み易いと思われる。したがって、所定時間で高いCO
2の固定量とするには、大きな反応槽を設けることが好ましいと思われる。
【0040】
(3)撹拌速度と炭酸化率との相関について
図7を参照して、撹拌速度と炭酸化率との相関を説明する。実施例1~2(撹拌速度200rpm)、実施例3~4(撹拌速度250rpm)、実施例5~6(撹拌速度300rpm)、及び実施例7~8(撹拌速度400rpm)の試験結果を比較すると、同じ処理時間でも撹拌速度が速い方が炭酸化率は高かった。早く撹拌することで、空気とより接触して、スラリー40の表面から空気中のCO
2をより取り込み易いためと思われる。したがって、所定時間で高いCO
2の固定量とするには、撹拌速度を大きくすることが好ましいと思われる。又は、撹拌速度に替えて撹拌羽根23の先端速度を目標管理特性としてもよい。前記先端速度は、撹拌速度と比例する値であるから、大きい値ほど好ましい。CO
2固定化装置100を大型化した場合には、より直接的に炭酸化反応速度に対応する前記先端速度を目標管理特性とする方が好ましい。
【0041】
(4)水との接触による前処理時間と炭酸化率、炭酸化反応速度との相関について
表5を参照して、前処理時間と炭酸化率との相関を説明する。空気中のCO2との反応前にCa含有物をあらかじめ水と接触させる時間(前処理時間)が異なる実施例25~28の試験結果を比較すると、前処理時間が長い方が炭酸化率、炭酸化反応速度の両者とも高かった。あらかじめCa含有物と水を接触させることで、Ca含有物内のCaOが水と反応し、Ca(OH)2が生成され、撹拌工程における空気中のCO2との反応性が高くなったためと考えられる。したがって、反応槽における所定時間で高いCO2固定量とするには、反応前にCa含有物をあらかじめ水と接触させることが好ましいと考えられた。ただし、前処理時間を長くとりすぎた場合、前処理工程を含めたCO2固定効率が低下する傾向がみられた。
【0042】
試験結果に基づいて、CO2の固定化に関する関連特性値の目標値を策定した。表3を参照して、炭酸化率、すなわちCO2の固定化の目標値を説明する。本発明のCO2固定化処理を行うことにより、CO2固定化処理前の原料の炭酸化率に比べて、CO2固定化処理後に生成される生成物の炭酸化率は向上する。例えば、処理後の炭酸化率について、実施例1~17(原料はCa(OH)2)では31.2%~96.5%、実施例21と22(原料はスラッジ)では52.8%~65.5%、実施例23~28(原料はセメント)では38.2%~70.0%である。このとおり、本発明のCO2固定化処理は、Ca含有物にCO2を固定化することができる。本試験結果より、本発明のCO2固定化処理による生成物の炭酸化率の目標の目安は、25%以上とする。好ましくは、炭酸化率は30%以上、より好ましくは、炭酸化率は40%以上である。なお、炭酸化率は望大特性であるが、今回の結果より、炭酸化率の現実的な上限値は、実施例6の結果にみられるように97%程度であると考える。
【0043】
本発明かかる方法においては、反応槽10におけるスラリー40の表面周辺の空気との接触が活発に行われるほど、炭酸化率が高くなる。CO2固定化の実施条件のうち、スラリー40の空気との接触度合いに関わる影響因子としては、反応槽サイズ、撹拌速度、処理時間、等を挙げられる。炭酸化率は、原料のCaOの量で決定される限界値に到達するまで、それぞれの特性値に比例して増加すると考えられる。例えば、炭酸化率25%以上に到達している実施例1~28では、生成されるCaCO3のアスペクト比も3以上と高くなっている。比較例31~42では、炭酸化率は25%未満であるとともに、生成されるCaCO3のアスペクト比は、1.2~1.4と実施例1~24に対して大幅に低くなっている。実施例1~28は、比較例31~42に対し、生成されるCaCO3のアスペクト比に関して、明らかな有意差があると考える。一方、CO2ガスと反応させることによって炭酸化反応速度を高めた比較例43では、炭酸化率が高いにも関わらず、生成されるCaCO3のアスペクト比は小さい。そのため、空気中のCO2と反応させることにより炭酸化反応速度を所定の値以下、例えば10%/h以下にすることによって、CaCO3として高いアスペクト比のものが得られると考えられる。なお、炭酸化反応速度の所望範囲について、試験結果と効率とを勘案して、0.1~8(%/h)が好ましく、0.2~6(%/h)がより好ましい。炭酸化反応速度は、例えば、CO2固定化を開始後、1晩経過後の約12時間経過後に所定の炭酸化率に達する炭酸化反応速度であれば好都合であり、1つの選択肢である。また、上述したように、Ca含有物を、空気中のCO2との反応前にあらかじめ水と接触させる前処理によって、より効率的に空気中のCO2を固定化することができる。よって、例えば密閉されたタンク、グローブボックス等にて空気との接触がないか、又は少ない環境下に、数時間~数日間、使用する水の全量、又はその一部の量で接触させた後、空気中のCO2との反応を開始してもよい。ただし、前処理時間を長くとりすぎた場合、前処理工程を含めたCO2固定効率が低下する傾向がみられた。よって、空気との接触が制限された環境下において水と接触させる、その前処理時間は、制限されないが、例えば3日72時間以内であることが好ましい。Ca含有物と水と接触させる方法として、例えば密閉されたタンク、グローブボックス等にて撹拌する方法などが挙げられる。これによれば、積極的に空気と接触させるための複雑な装置や空気との接触面積の大きい装置を必要しないため、設備費用の増大を抑制しうる。
【0044】
本発明によれば、空気中から直接CO2を取り込んでCO2を固定化する方法、及びCO2を固定化する際に生成される生成物を有効に利用可能なCO2を固定化する方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0045】
10 反応槽、20 撹拌装置、21 回転機、23 撹拌羽根、30 送風装置、 31 ポンプ、40 スラリー。