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特開2024-78384船舶の波浪応答推定方法、波浪応答推定プログラム、波浪応答推定システム、及び船舶
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078384
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】船舶の波浪応答推定方法、波浪応答推定プログラム、波浪応答推定システム、及び船舶
(51)【国際特許分類】
   B63B 79/15 20200101AFI20240603BHJP
   B63B 49/00 20060101ALI20240603BHJP
   B63B 79/00 20200101ALI20240603BHJP
   B63B 79/20 20200101ALI20240603BHJP
【FI】
B63B79/15
B63B49/00 Z
B63B79/00
B63B79/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111271
(22)【出願日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2022190686
(32)【優先日】2022-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡 正義
(72)【発明者】
【氏名】陳 曦
(57)【要約】
【課題】波浪追算による2次元波スペクトルデータ、又は2次元波スペクトルを関数モデルに近似して得られる短期海象のパラメータを利用して確率論的に船舶の波浪応答を推定する。
【解決手段】AISデータを含む船舶の航路情報を取得する航路情報取得ステップと、航路情報に基づいた波浪追算データを取得する波浪追算データ取得ステップと、航路情報と波浪追算データに基づいて波浪発現頻度確率モデルに適用し波浪発現確率を求め、波浪発現確率に基づいて短期海象を導出する短期海象導出ステップと、短期海象と、航路情報及び波浪追算データを波スペクトル確率モデルに適用し2次元波スペクトルを求める2次元波スペクトル導出ステップと、2次元波スペクトルと波浪を考慮した船舶の船速とに基づいて応答関数を導出する応答関数導出ステップと、応答関数を利用して波浪応答の短期予測を行う短期予測ステップを有する波浪応答推定方法とする。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の波浪応答を推定する方法であって、
AISデータを含む前記船舶の航路情報を取得する航路情報取得ステップと、
前記航路情報に基づいた波浪追算データを取得する波浪追算データ取得ステップと、
前記航路情報と前記波浪追算データに基づいて波浪発現頻度確率モデルに適用し波浪発現確率を求め、前記波浪発現確率に基づいて短期海象を導出する短期海象導出ステップと、
前記短期海象と、前記航路情報及び前記波浪追算データを波スペクトル確率モデルに適用し2次元波スペクトルを求める2次元波スペクトル導出ステップと、
前記2次元波スペクトルと波浪を考慮した前記船舶の船速とに基づいて応答関数を導出する応答関数導出ステップと、
前記応答関数を利用して前記波浪応答の短期予測を行う短期予測ステップを有することを特徴とする船舶の波浪応答推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の船舶の波浪応答推定方法であって、
前記波浪の形状パラメータの同時発生確率を考慮して求めた前記2次元波スペクトルを用いて、前記応答関数を導出することを特徴とする船舶の波浪応答推定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の船舶の波浪応答推定方法であって、
前記応答関数を利用した前記短期予測の結果を基に、前記波浪の形状パラメータの同時発生確率を考慮しない場合の前記短期予測の結果を修正する修正ステップを有することを特徴とする船舶の波浪応答推定方法。
【請求項4】
請求項1に記載の船舶の波浪応答推定方法であって、
前記短期海象と、前記航路情報及び前記波浪追算データを波浪中船速確率モデルに適用し、前記波浪を考慮した前記船速を導出する波浪中船速導出ステップを有することを特徴とする船舶の波浪応答推定方法。
【請求項5】
請求項1に記載の船舶の波浪応答推定方法であって、
前記短期海象導出ステップ、前記2次元波スペクトル導出ステップ、前記応答関数導出ステップ、及び前記短期予測ステップを所定回数Nk繰り返して、前記所定回数Nkの前記短期予測の結果を得ることを特徴とする船舶の波浪応答推定方法。
【請求項6】
請求項5に記載の船舶の波浪応答推定方法であって、
前記所定回数Nkの前記短期予測の前記結果に基づいて短期標準偏差の頻度分布を求め、前記短期標準偏差の頻度分布を前記波浪応答の長期予測に反映する長期予測ステップを有することを特徴とする船舶の波浪応答推定方法。
【請求項7】
請求項6に記載の船舶の波浪応答推定方法であって、
前記航路情報取得ステップ、前記波浪追算データ取得ステップ、前記短期海象導出ステップ、前記2次元波スペクトル導出ステップ、前記応答関数導出ステップ、前記短期予測ステップ、及び前記長期予測ステップを所定回数Ni回繰り返して、前記所定回数Niの前記長期予測の結果を得ることを特徴とする船舶の波浪応答推定方法。
【請求項8】
請求項7に記載の船舶の波浪応答推定方法であって、
前記所定回数Niの前記長期予測の前記結果に基づいて前記船舶の波浪応答の確率密度分布を求め長期最大期待値を導出する長期最大期待値導出ステップを有することを特徴とする船舶の波浪応答推定方法。
【請求項9】
請求項8に記載の船舶の波浪応答推定方法であって、
前記長期最大期待値の確率分布を求め前記船舶の最終強度及び疲労強度の少なくとも一方の長期に亘る信頼性を評価する信頼性評価ステップを有することを特徴とする船舶の波浪応答推定方法。
【請求項10】
コンピュータに、波浪応答の推定条件の入力を受け付けさせ、
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の船舶の波浪応答推定方法における航路情報取得ステップ、波浪追算データ取得ステップ、短期海象導出ステップ、2次元波スペクトル導出ステップ、応答関数導出ステップ、及び短期予測ステップを実行させ、前記波浪応答の推定した結果を出力させることを特徴とする船舶の波浪応答推定プログラム。
【請求項11】
前記コンピュータに、修正ステップを実行させることを特徴とする請求項3を引用する請求項10に記載の船舶の波浪応答推定プログラム。
【請求項12】
前記コンピュータに、波浪中船速導出ステップを実行させることを特徴とする請求項4を引用する請求項10に記載の船舶の波浪応答推定プログラム。
【請求項13】
前記コンピュータに、短期海象導出ステップ、2次元波スペクトル導出ステップ、応答関数導出ステップ、及び短期予測ステップを所定回数Nk繰り返して、前記所定回数Nkの短期予測の結果を得ることを特徴とする請求項5を引用する請求項10に記載の船舶の波浪応答推定プログラム。
【請求項14】
前記コンピュータに、長期予測ステップを実行させることを特徴とする請求項6引用する請求項10に記載の船舶の波浪応答推定プログラム。
【請求項15】
前記コンピュータに、前記航路情報取得ステップ、前記波浪追算データ取得ステップ、前記短期海象導出ステップ、前記2次元波スペクトル導出ステップ、前記応答関数導出ステップ、前記短期予測ステップ、及び長期予測ステップを所定回数Ni回繰り返して、前記所定回数Niの長期予測の結果を得ることを特徴とする請求項7を引用する請求項10に記載の船舶の波浪応答推定プログラム。
【請求項16】
前記コンピュータに、長期最大期待値導出ステップを実行させることを特徴とする請求項8を引用する請求項10に記載の船舶の波浪応答推定プログラム。
【請求項17】
前記コンピュータに、信頼性評価ステップを実行させることを特徴とする請求項9引用する請求項10に記載の船舶の波浪応答推定プログラム。
【請求項18】
波浪応答の推定条件を入力する条件入力手段と、推定した結果を出力する結果出力手段にアクセス可能なコンピュータを備え、
前記コンピュータに、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の船舶の波浪応答推定方法における少なくとも航路情報取得ステップ、波浪追算データ取得ステップ、短期海象導出ステップ、2次元波スペクトル導出ステップ、応答関数導出ステップ、及び短期予測ステップを実行させることを特徴とする船舶の波浪応答推定システム。
【請求項19】
請求項18に記載の船舶の波浪応答推定システムであって、
AISデータを含む船舶の航路情報を取得する航路情報取得手段と、前記航路情報に基づいた波浪追算データを取得する波浪追算データ取得手段を備えることを特徴とする船舶の波浪応答推定システム。
【請求項20】
請求項18に記載の船舶の波浪応答推定システムであって、
前記コンピュータは、前記条件入力手段及び前記結果出力手段と情報通信網を利用して接続されていることを特徴とする波浪応答推定システム。
【請求項21】
請求項9に記載の船舶の波浪応答推定方法に基づいて長期に亘る信頼性が評価された船体を用いたことを特徴とする船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の波浪応答推定方法、波浪応答推定プログラム、波浪応答推定システム及びそれよって信頼性が評価された船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の航海性能や安全性を考慮して船体を設計するに当たり、波浪を受けたときの船舶の応答が勘案される。この波浪応答(船体応答)には、例えば、船舶の鉛直方向の加速度、波面に対する相対運動、船体外板に作用する水圧、積荷の慣性力で生じるタンク及びホールド内圧、船体の横断面に作用するせん断力、及び曲げモーメント等が含まれる(非特許文献1)。なお、非特許文献1は、波浪中の種々の船体応答を統計的に予測する方法である。また、既に知られている過去の気象データを用いて、船舶が航行する水域の波浪を位置と時間の2次元スペクトルとして求める波浪追算の技術も開示されている(非特許文献2)。
【0003】
また、船舶の位置データを含む船舶情報と波浪データを取得し、位置データに最も近い位置の波浪データを探索して船舶の遭遇波浪データを求め、遭遇波浪データを予め求めた船舶の波浪応答関数に適用し、船舶の波浪応答を推定する技術が開示されている(特許文献1)。これにより、船舶が実際に遭遇した波浪である遭遇波浪データに基づいて波浪応答が推定される。
【0004】
また、船舶の構造荷重を推定しこれを航行支援に利用する運転支援システムが開示されている(特許文献2)。当該システムは、海波運動を表示する環境検出手段を備える。検出された海波運動に基づいて、直接の波浪起振による船舶の構造荷重が推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-83125号公報
【特許文献2】特開2018-509327号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】福田淳一、「III.船体応答の統計的予測」、日本造船学会耐航性に関するシンポジウム、pp99-118、昭和44年7月3,4日
【非特許文献2】冨田宏、「波浪追算」、日本造船学会誌 第831号、pp42-47、平成10年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、船体強度設計に必要な波浪荷重推定においては、従来、波高、波周期、波向の有義波諸元が利用されていた。近年、波浪データの整備が進んだことにより、船舶が就航する実海域の波スペクトルを波周波数と波方向の2次元スペクトルの形で、かつ、任意の日時・地点で得られる様になった。そこで、波浪の2次元スペクトルのデータ用いて波浪荷重推定を行うことによって、波浪中の船体応答の推定精度を高めることが望まれている。本願発明は、2次元波スペクトルのデータを活用して確率論的に船舶の波浪応答を推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に対応する船舶の波浪応答推定方法は、船舶の波浪応答を推定する方法であって、AISデータを含む前記船舶の航路情報を取得する航路情報取得ステップと、前記航路情報に基づいた波浪追算データを取得する波浪追算データ取得ステップと、前記航路情報と前記波浪追算データに基づいて波浪発現頻度確率モデルに適用し波浪発現確率を求め、前記波浪発現確率に基づいて短期海象を導出する短期海象導出ステップと、前記短期海象と、前記航路情報及び前記波浪追算データを波スペクトル確率モデルに適用し2次元波スペクトルを求める2次元波スペクトル導出ステップと、前記2次元波スペクトルと波浪を考慮した前記船舶の船速とに基づいて応答関数を導出する応答関数導出ステップと、前記応答関数を利用して前記波浪応答の短期予測を行う短期予測ステップを有することを特徴とする。
【0009】
ここで、前記波浪の形状パラメータの同時発生確率を考慮して求めた前記2次元波スペクトルを用いて、前記応答関数を導出することが好適である。
【0010】
また、前記応答関数を利用した前記短期予測の結果を基に、前記波浪の形状パラメータの同時発生確率を考慮しない場合の前記短期予測の結果を修正する修正ステップを有することが好適である。
【0011】
また、前記短期海象と、前記航路情報及び前記波浪追算データを波浪中船速確率モデルに適用し、前記波浪を考慮した前記船速を導出する波浪中船速導出ステップを有することが好適である。
【0012】
また、前記短期海象導出ステップ、前記2次元波スペクトル導出ステップ、前記応答関数導出ステップ、及び前記短期予測ステップを所定回数Nk繰り返して、前記所定回数Nkの前記短期予測の結果を得ることが好適である。
【0013】
また、前記所定回数Nkの前記短期予測の前記結果に基づいて短期標準偏差の頻度分布を求め、前記短期標準偏差の頻度分布を前記波浪応答の長期予測に反映する長期予測ステップを有することが好適である。
【0014】
また、前記航路情報取得ステップ、前記波浪追算データ取得ステップ、前記短期海象導出ステップ、前記2次元波スペクトル導出ステップ、前記応答関数導出ステップ、前記短期予測ステップ、及び前記長期予測ステップを所定回数Ni回繰り返して、前記所定回数Niの前記長期予測の結果を得ることが好適である。
【0015】
また、前記所定回数Niの前記長期予測の前記結果に基づいて前記船舶の波浪応答の確率密度分布を求め長期最大期待値を導出する長期最大期待値導出ステップを有することが好適である。
【0016】
また、前記長期最大期待値の確率分布を求め前記船舶の最終強度及び疲労強度の少なくとも一方の長期に亘る信頼性を評価する信頼性評価ステップを有することが好適である。
【0017】
請求項10に対応する船舶の波浪応答推定プログラムは、コンピュータに、波浪応答の推定条件の入力を受け付けさせ、上記の船舶の波浪応答推定方法における航路情報取得ステップ、波浪追算データ取得ステップ、短期海象導出ステップ、2次元波スペクトル導出ステップ、応答関数導出ステップ、及び短期予測ステップを実行させ、前記波浪応答の推定した結果を出力させることを特徴とする。
【0018】
ここで、前記コンピュータに、修正ステップを実行させることが好適である。
【0019】
また、前記コンピュータに、波浪中船速導出ステップを実行させることが好適である。
【0020】
また、前記コンピュータに、短期海象導出ステップ、2次元波スペクトル導出ステップ、応答関数導出ステップ、及び短期予測ステップを所定回数Nk繰り返して、前記所定回数Nkの短期予測の結果を得ることが好適である。
【0021】
また、前記コンピュータに、長期予測ステップを実行させることが好適である。
【0022】
また、前記コンピュータに、前記航路情報取得ステップ、前記波浪追算データ取得ステップ、前記短期海象導出ステップ、前記2次元波スペクトル導出ステップ、前記応答関数導出ステップ、前記短期予測ステップ、及び長期予測ステップを所定回数Ni回繰り返して、前記所定回数Niの長期予測の結果を得ることが好適である。
【0023】
また、前記コンピュータに、長期最大期待値導出ステップを実行させることが好適である。
【0024】
また、前記コンピュータに、信頼性評価ステップを実行させることが好適である。
【0025】
請求項18に対応する船舶の波浪応答推定システムは、波浪応答の推定条件を入力する条件入力手段と、推定した結果を出力する結果出力手段にアクセス可能なコンピュータを備え、前記コンピュータに、上記の船舶の波浪応答推定方法における少なくとも航路情報取得ステップ、波浪追算データ取得ステップ、短期海象導出ステップ、2次元波スペクトル導出ステップ、応答関数導出ステップ、及び短期予測ステップを実行させることを特徴とする。
【0026】
ここで、AISデータを含む船舶の航路情報を取得する航路情報取得手段と、前記航路情報に基づいた波浪追算データを取得する波浪追算データ取得手段を備えることが好適である。
【0027】
また、前記コンピュータは、前記条件入力手段及び前記結果出力手段と情報通信網を利用して接続されていることが好適である。
【0028】
船舶は、上記船舶の波浪応答推定方法に基づいて長期に亘る信頼性が評価された船体を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
請求項1に対応する船舶の波浪応答推定方法によれば、船舶の波浪応答を推定する方法であって、AISデータを含む前記船舶の航路情報を取得する航路情報取得ステップと、前記航路情報に基づいた波浪追算データを取得する波浪追算データ取得ステップと、前記航路情報と前記波浪追算データに基づいて波浪発現頻度確率モデルに適用し波浪発現確率を求め、前記波浪発現確率に基づいて短期海象を導出する短期海象導出ステップと、前記短期海象と、前記航路情報及び前記波浪追算データを波スペクトル確率モデルに適用し2次元波スペクトルを求める2次元波スペクトル導出ステップと、前記2次元波スペクトルと波浪を考慮した前記船舶の船速とに基づいて応答関数を導出する応答関数導出ステップと、前記応答関数を利用して前記波浪応答の短期予測を行う短期予測ステップを有することによって、2次元波スペクトル又は2次元波スペクトルを関数モデルに近似して得られる短期海象のパラメータを利用して確率論的に船舶の波浪応答を推定することができる。
【0030】
ここで、前記波浪の形状パラメータの同時発生確率を考慮して求めた前記2次元波スペクトルを用いて、前記応答関数を導出することによって、同時発生した波浪を考慮して船舶の波浪応答を推定することができる。
【0031】
また、前記応答関数を利用した前記短期予測の結果を基に、前記波浪の形状パラメータの同時発生確率を考慮しない場合の前記短期予測の結果を修正する修正ステップを有することによって、修正された短期予想の結果に応じた船舶の波浪応答を推定することができる。
【0032】
また、前記短期海象と、前記航路情報及び前記波浪追算データを波浪中船速確率モデルに適用し、前記波浪を考慮した前記船速を導出する波浪中船速導出ステップを有することによって、波浪中の船舶について船速を適切に求めて、船舶の波浪応答を推定することができる。
【0033】
また、前記短期海象導出ステップ、前記2次元波スペクトル導出ステップ、前記応答関数導出ステップ、及び前記短期予測ステップを所定回数Nk繰り返して、前記所定回数Nkの前記短期予測の結果を得ることによって、船舶の航路に沿った各海域での短期予想を行うことができ、短期海象における短期標準偏差の頻度分布を求めることに反映できる。
【0034】
また、前記所定回数Nkの前記短期予測の前記結果に基づいて短期標準偏差の頻度分布を求め、前記短期標準偏差の頻度分布を前記波浪応答の長期予測に反映する長期予測ステップを有することによって、縦曲げモーメントを含む船体応答の確率密度分布を求めることができる。
【0035】
また、前記航路情報取得ステップ、前記波浪追算データ取得ステップ、前記短期海象導出ステップ、前記2次元波スペクトル導出ステップ、前記応答関数導出ステップ、前記短期予測ステップ、及び前記長期予測ステップを所定回数Ni回繰り返して、前記所定回数Niの前記長期予測の結果を得ることによって、縦曲げモーメントを含む船体応答の確率密度分布に基づいて船舶に対して最大の負荷となる曲げモーメント等を求めることができる。
【0036】
また、前記所定回数Niの前記長期予測の前記結果に基づいて前記船舶の波浪応答の確率密度分布を求め長期最大期待値を導出する長期最大期待値導出ステップを有することによって、船舶に対して長期に亘る最大の負荷となる曲げモーメント等を求めることができる。
【0037】
また、前記長期最大期待値の確率分布を求め前記船舶の最終強度及び疲労強度の少なくとも一方の長期に亘る信頼性を評価する信頼性評価ステップを有することによって、船舶の長期に亘る信頼性を評価することができる。
【0038】
請求項10に対応する船舶の波浪応答推定プログラムによれば、コンピュータに、波浪応答の推定条件の入力を受け付けさせ、上記の船舶の波浪応答推定方法における航路情報取得ステップ、波浪追算データ取得ステップ、短期海象導出ステップ、2次元波スペクトル導出ステップ、応答関数導出ステップ、及び短期予測ステップを実行させ、前記波浪応答の推定した結果を出力させることによって、2次元波スペクトル又は2次元波スペクトルを関数モデルに近似して得られる短期海象のパラメータを利用して確率論的に船舶の波浪応答を推定することができる。
【0039】
ここで、前記コンピュータに、修正ステップを実行させることによって、同時発生した波浪を考慮して、修正された短期予想の結果に応じた船舶の波浪応答を推定することができる。
【0040】
ここで、前記コンピュータに、波浪中船速導出ステップを実行させることによって、波浪中の船舶について船速を適切に求めて、船舶の波浪応答を推定することができる。
【0041】
また、前記コンピュータに、短期海象導出ステップ、2次元波スペクトル導出ステップ、応答関数導出ステップ、及び短期予測ステップを所定回数Nk繰り返して、前記所定回数Nkの短期予測の結果を得ることによって、船舶の航路に沿った各海域での短期予想を行うことができ、短期海象における短期標準偏差の頻度分布を求めることに反映できる。
【0042】
また、前記コンピュータに、長期予測ステップを実行させることによって、縦曲げモーメントを含む船体応答の確率密度分布を求めることに反映できる。
【0043】
また、前記コンピュータに、前記航路情報取得ステップ、前記波浪追算データ取得ステップ、前記短期海象導出ステップ、前記2次元波スペクトル導出ステップ、前記応答関数導出ステップ、前記短期予測ステップ、及び長期予測ステップを所定回数Ni回繰り返して、前記所定回数Niの長期予測の結果を得ることによって、縦曲げモーメントを含む船体応答の確率密度分布に基づいて船舶に対して最大の負荷となる曲げモーメント等を求めることができる。
【0044】
また、前記コンピュータに、長期最大期待値導出ステップを実行させることによって、船舶に対して長期に亘る最大の負荷となる曲げモーメント等を求めることができる。
【0045】
また、前記コンピュータに、信頼性評価ステップを実行させることによって、船舶の長期に亘る信頼性を評価することができる。
【0046】
請求項18に対応する船舶の波浪応答推定システムは、波浪応答の推定条件を入力する条件入力手段と、推定した結果を出力する結果出力手段にアクセス可能なコンピュータを備え、前記コンピュータに、上記の船舶の波浪応答推定方法における少なくとも航路情報取得ステップ、波浪追算データ取得ステップ、短期海象導出ステップ、2次元波スペクトル導出ステップ、応答関数導出ステップ、及び短期予測ステップを実行させることによって、2次元波スペクトル又は2次元波スペクトルを関数モデルに近似して得られる短期海象のパラメータを利用して確率論的に船舶の波浪応答を推定することができる。
【0047】
ここで、AISデータを含む船舶の航路情報を取得する航路情報取得手段と、前記航路情報に基づいた波浪追算データを取得する波浪追算データ取得手段を備えることによって、AISデータ及び波浪追算データを用いて船舶の波浪応答を推定することができる。
【0048】
また、前記コンピュータは、前記条件入力手段及び前記結果出力手段と情報通信網を利用して接続されていることによって、情報通信網を介した船舶の波浪応答推定システムを構築することができる。
【0049】
船舶は、上記船舶の波浪応答推定方法に基づいて長期に亘る信頼性が評価された船体を用いたことによって、長期に亘る信頼性の高い船舶を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】本発明の実施の形態における船舶の波浪応答推定システムを例示するブロック図である。
図2】本発明の実施の形態におけるサービス提供機関が備えるコンピュータの構成を示す図である。
図3】航路情報データベースの記憶内容を説明する図である。
図4】北大西洋海域を対象とした波浪追算データのエリアの例を示す図である。
図5】波浪の2次元スペクトルの例を示す図である。
図6】本発明の実施の形態における船舶の波浪応答推定システムを例示するブロック図である。
図7】本発明の実施の形態における船舶の波浪応答推定システムを例示するブロック図である。
図8】本発明の実施の形態における船舶の波浪応答推定処理を示すフローチャートである。
図9】波浪の履歴データを例示する図である。
図10】方向波スペクトルを例示する図である。
図11】船速と波高の相関関係を例示する図である。
図12】船速確率モデルを例示する図である。
図13】本発明の実施の形態における波浪応答推定を利用した船体の設計方法を示すフローチャートである。
図14】波浪のピークを判別する概念図である。
図15】方向波スペクトルを例示する図である。
図16】本発明の実施の形態における船舶の波浪応答推定処理の変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
[船舶の波浪応答推定システム]
図1には、本実施形態に係る船舶の波浪応答推定システム100が例示される。船舶の波浪応答推定システム100は、船舶102、サービス提供機関104、航路情報データベース106、波浪追算データベース108及びユーザ端末110を含んで構成される。船舶102、サービス提供機関104、航路情報データベース106、波浪追算データベース108及びユーザ端末110は、情報通信網112を介して互いに情報の通信が可能に接続される。
【0052】
船舶の波浪応答推定システム100では、ユーザ端末110からの条件入力を受けて、サービス提供機関104への条件の送信に基づいて船舶の波浪応答推定処理が実行される。サービス提供機関104で求められた処理結果はユーザ端末110へ送信され、ユーザ端末110において処理結果が出力される。すなわち、ユーザ端末110を含めて船舶102、サービス提供機関104、航路情報データベース106、波浪追算データベース108及びユーザ端末110の連系利用が行われる。
【0053】
船舶102は、航行に関する情報を航路情報データベース106に蓄積するためのものであるが、本実施形態に係る船舶の波浪応答推定システム100の波浪応答推定の対象となる船舶であってもよい。船舶102は、単数であってもよいし、複数であってもよい。船舶102の航行に関する情報は、航路情報データベース106に集約され、サービス提供機関104やユーザ端末110へ提供される。船舶102は、後述する航路情報データベース106へ提供されるAISデータを取得するためのモニタリングシステムを備える。
【0054】
サービス提供機関104は、波浪応答推定対象の船舶の波浪に対する応答推定を行うサービスを提供する機関である。サービス提供機関104には、波浪応答推定を行うためのコンピュータ200を備える。
【0055】
なお、波浪応答推定対象の船舶とは、船体構造の最終強度や疲労強度を評価したい船舶、設計検討中の船舶、航行中の船舶102を含む特定の船舶を指す。以下、便宜上、波浪応答推定対象の船舶を、船舶102をもって代表して説明する。
【0056】
コンピュータ200は、図2に示すように、処理部40、記憶部42、入力手段44、出力手段46及び情報提供手段48を含んで構成される。処理部40は、CPU等の演算処理を行う手段を含む。処理部40は、記憶部42に記憶されている波浪応答推定プログラムを実行することによって船舶102の波浪に対する応答推定処理を行う。記憶部42は、半導体メモリ、ハードディスク等の記憶手段を含む。記憶部42は、処理部40とアクセス可能に接続され、波浪応答推定プログラム、波浪応答推定処理に必要な各種の情報を記憶する。入力手段44は、コンピュータ200に情報を入力する手段を含む。入力手段44は、例えば、サービス提供機関104のユーザからの入力を受けるキーボード等を備える。出力手段46は、コンピュータ200から情報を出力する手段を含む。出力手段46は、例えば、サービス提供機関104のユーザから入力情報を受け付けるためのユーザインターフェース画面(UI)等やコンピュータ200での処理結果を出力する手段を含む。出力手段46は、例えば、サービス提供機関104のユーザに対して画像を呈示するディスプレイを備える。情報提供手段48は、情報通信網112を介して、航路情報データベース106、波浪追算データベース108及びユーザ端末110や他の情報通信機器と情報をやり取りするためのインターフェースを含んで構成される。情報提供手段48による通信は有線及び無線を問わない。
【0057】
コンピュータ200は、波浪応答推定プログラムを実行することによって後述する波浪応答推定処理を行う。これによって、コンピュータ200は、航路情報取得手段10、波浪追算データ取得手段12、航路情報取得部14、波浪追算データ取得部16、波浪発現頻度確率モデル構築部18、短期海象導出部20、波スペクトルモデル構築部(2次元波スペクトル導出部)22、波浪中船速確率モデル構築部24、応答関数導出部26、短期予測部28及び長期予測部30として機能する。なお、波浪発現頻度確率モデル構築部18、波スペクトルモデル構築部(2次元波スペクトル導出部)22、波浪中船速確率モデル構築部24については、予め各モデルを構築し、例えば、記憶部42に記憶させておいて、各モデル構築部でその機能を果たすことでも代替できる。また、予めモデルを構築しておくことは、波浪発現頻度確率モデル構築部18、波スペクトルモデル構築部(2次元波スペクトル導出部)22、波浪中船速確率モデル構築部24のすべてであってもよいし、任意の組み合わせ、又はいずれか一つであってもよい。
【0058】
航路情報データベース106は、船舶102の航路に関する情報を記憶したデータベースである。船舶102の航路に関する情報としてAIS(自動船舶識別装置、Automatic Identification System)データが挙げられる。AISデータには、静的情報、動的情報、航海関係情報及び安全関係通信文が含まれる。静的情報には、船舶102のID(船ID)である船舶102のIMO番号、信号符字及び船名、船舶102の長さ(船長)、船舶102の幅、船舶102の種類(船種)、及び、船舶102が備える測位システムアンテナ位置が含まれる。動的情報には、船舶102の位置(緯度、経度)、UTC(Universal Time Coordinated)時刻、航海針路(対地進路)、対地速力、船首方位、回頭率、傾き角、ピッチ及びロール等が含まれる。航海関係情報には、船舶102の喫水、危険な積載物、仕向港、入港予定日(ETA、Estimated Time of Arrival)及び航海計画等が含まれる。安全関係通信文には、例えば操船支援時等における、航海情報や気象、海象情報または警報を含んだ通信文が含まれる。航路情報データベース106には、波浪応答推定を行う海域(評価対象海域)を通過する船舶102のAISデータが記憶される。例えば、船舶102毎に割り当てられた船IDに関連付けてAISデータが時系列に記憶される。
【0059】
波浪応答の推定に当たり、時系列データが用いられる。例えば、上記エリアを航行する全船舶のAISデータが1時間刻みで取得され航路情報データベース106に記憶される。例えば、船舶の寿命は一般的に25年とされていることから、評価対象海域における25年間分のAISデータを航路情報データベース106に記憶させてもよい。図3には航路情報データベース106に記憶されたAISデータに基づいた船舶の位置情報を含む船舶情報の具体例が列挙されている。すなわち航路情報データベース106には、船ID、船種、船長さ、時刻、経度、緯度、進路、船速、向かい角等の時系列データが記憶される。なお、航路情報データベース106の情報は、船種や船長、また季節等に基づいて分類された航路情報、予め登録した自船や姉妹船の航路情報等であってもよい。
【0060】
波浪追算データベース108には、波浪応答推定対象の船舶102が航行する海域における波浪追算データが記憶されている。波浪追算データは、船舶102が航行する海域における過去の気象データを用いて当該海域の波浪を位置と時間の2次元スペクトルとして求める波浪追算を行うことによって得られる。波浪追算データとして、例えば、日本気象協会の全球波浪推算データベースに含まれる波浪追算による波スペクトルデータを使用することができる。図4は、北大西洋海域を対象とした波浪追算データのエリアの例を示す。図4は、北緯40°~60°及び西経10°~60°の範囲と北緯40°~45°及び西経60°~70°の範囲であり、当該エリアを1°毎(100km毎に対応)の1081地点に分割して各地点について波浪追算データを算出したことを示す。すなわち、波浪追算データベース108には、波浪応答推定処理の対象である海域の各地点について波浪追算によって得られた各時刻の波浪の2次元スペクトルが記憶される。例えば、一般社団法人日本気象協会の全球波浪推算データベースによれば、エリア毎に波高、周期、波向、風向、風速のデータが1時間刻みでデータ化されている。
【0061】
ここで、波浪の2次元スペクトルとは、波浪推算データベースに記憶された波スペクトルを意味する。波浪の2次元スペクトルは、波浪の発達・減衰及び伝搬等から計算され、波浪の波周波数と波方向の組み合わせに対する素性波のエネルギー分布で表される。波向は、北から南へ進む波を0度、東から西へ進む波を90度と定義する。図5は、波浪の2次元スペクトルの例を示す。
【0062】
ユーザ端末110は、サービス提供機関104へ波浪応答推定対象の船舶102の波浪応答推定処理を行うための情報を入力及び送信するための端末である。ユーザ端末110は、一般的なコンピュータとすることができる。船舶102の波浪応答推定処理を実行しようとするユーザは、ユーザ端末110に設けられた条件入力手段を用いて船舶102の波浪応答推定処理を行うための条件を入力する。ユーザ端末110は、条件の入力を受け付けると、情報通信網112を介して当該条件をサービス提供機関104へ送信する。サービス提供機関104は、当該条件を受信すると、当該条件に応じて船舶102の波浪応答推定処理を行い、情報通信網112を介して処理結果をユーザ端末110へ送信する。ユーザ端末110は、処理結果を受信すると、結果出力手段を用いてユーザに処理結果を提示する。なお、ユーザ端末110を船舶102に搭載し、船上で条件を入力し波浪応答推定の処理結果を利用することも可能である。
【0063】
なお、船舶の波浪応答推定システム100は、図6に示すように、ユーザ端末110がサービス提供機関104の機能を兼ねる構成としてもよい。当該構成では、ユーザ端末110の入力手段44によってサービス提供機関104のコンピュータ200に条件が直接入力され、処理結果が直接出力される。すなわち、船舶102、サービス提供機関104のコンピュータ200、航路情報データベース106及び波浪追算データベース108の連系-単独利用が行われる。また、ユーザ端末110を船舶102に搭載し、船上で条件を入力し波浪応答推定の処理結果を利用することも可能である。
【0064】
また、船舶の波浪応答推定システム100は、図7に示すように、波浪応答推定プログラムを装備したユーザ端末110がサービス提供機関104の機能を兼ねて単独で機能するようにしてもよい。当該構成では、ユーザ端末110は、航路情報データベース106及び波浪追算データベース108から必要な情報を直接取得して船舶102の波浪応答推定処理を行う。また、波浪応答推定プログラムを装備したユーザ端末110を船舶102に搭載して用いることもできる。
【0065】
[船舶の波浪応答推定処理]
図8は、船舶の波浪応答推定システム100を用いた船舶102の波浪応答推定処理を示すフローチャートである。以下、図8のフローチャートを参照しつつ、船舶102の波浪応答推定処理について説明する。
【0066】
ステップS10では、条件の入力が行われる。ユーザは、ユーザ端末110の条件入力手段を用いて、船舶102の波浪応答推定処理に必要な条件を入力する。入力される条件は、海域、エリア、航路条件、波浪応答推定対象の船舶の船体条件、船上利用の場合の船舶102を特定する情報(船ID)、繰り返しの所定回数、波浪応答推定処理を行う期間等である。入力された条件は、情報通信網112を介してサービス提供機関104へ送信される。サービス提供機関104のコンピュータ200は、入力手段44及び情報提供手段48を介して当該条件を取得する。波浪応答推定対象の船舶102の航路情報は入力された海域と航路条件に基づいて、航路情報データベース106から類似した航路が選択される。
【0067】
ステップS10の処理が終了すると、波浪応答推定対象の船舶102の波浪応答推定処理の長期推定に用いられるカウンタiが1に設定される。カウンタiは、波浪応答推定処理の対象である船舶102の航路IDに該当する。すなわち、カウンタiは、船舶102の波浪応答推定処理における長期分布及び長期最大期待値を求めるための航路の数Niをカウントするために用いられる。
【0068】
ステップS12では、航路情報の取得処理が行われる。当該ステップにおける処理によって、サービス提供機関104は、航路情報取得手段10及び航路情報取得部14として機能する。サービス提供機関104は、ステップS10において受信した情報(船体条件又は船ID)で特定される船舶102について、波浪応答推定処理を行う期間中にカウンタiで特定される航路IDに該当する当該船舶102が航行する航路情報を航路情報データベース106から取得する。なお、当該ステップにおいて、船舶102の航路情報に加えて、AISデータに含まれる他の情報を取得してもよい。
【0069】
ステップS14では、波浪追算データの取得処理が行われる。当該ステップにおける処理によって、サービス提供機関104及びコンピュータ200は、波浪追算データ取得手段12及び波浪追算データ取得部16として機能する。サービス提供機関104は、ステップS12において取得した航路情報で特定される船舶102の航路に対応した海域における波浪追算データを波浪追算データベース108から取得する。波浪追算データには、例えば、時刻、経度、緯度、有義波高、有義周期、波向きが含まれる。このとき、ステップS12において取得したAISデータの位置(緯度、経度)及び時刻に最も近い波浪追算データを取得することが好適である。
【0070】
ステップS14における処理が終了すると、船舶102の波浪応答推定処理の短期推定に用いられるカウンタkが1に設定される。カウンタkは、波浪応答推定処理における海象IDに該当する。すなわち、カウンタkは、船舶102の波浪応答推定処理において、カウンタiで特定される一回の航路について短期標準偏差を求めるための短期海象の数Nkをカウントするために用いられる。以下に説明する短期海象に対する船舶102の応答の短期予想は、航路を示すカウンタiと海象を示すカウンタkの組み合わせ毎に行われる。
【0071】
なお、波浪追算データの時間刻み毎の海象を短期海象と呼ぶ。短期海象は海洋波(風波)の統計的性質が一定で同じような海面状態が持続する時間における海象の状態を指す。短期海象は、有義波高、平均波周期(または有義波周期)、及び場合によって波向きの3種類のデータの組合せで表される。一般に、短期海象の持続時間は1~2時間と考えられており、出会い波で約1000波に相当する。一般的な船舶の寿命は25年であり、その間に船舶が遭遇する短期海象の数は約100,000回である。したがって、短期海象の数Nkは、例えば100,000回に設定される。
【0072】
ステップS16では、波浪発現頻度確率モデルの構築が行われる。当該ステップにおける処理によって、サービス提供機関104は、波浪発現頻度確率モデル構築部18として機能する。波浪発現頻度確率モデルは、数式(1)及び数式(2)に示すように、短期海象の有義波高Hの発生確率P(H)及び短期海象の有義波高Hの条件下において平均波周期Tの発生確率P(T|H)を求めるモデルである。
【数1】
【数2】
ここで、P(H)は、有義波高Hの発生確率(=ワイブル分布)であり、P(T|H):有義波高Hの条件での平均波周期の発生確率(=対数正規分布)である。また、各種パラメータについて、βは有義波高のワイブル分布の形状パラメータ(正規分布と仮定)、αは有義波高のワイブル分布の尺度パラメータ(正規分布と仮定)、γは有義波高のワイブル分布の位置パラメータ(正規分布と仮定)、a1,a2,a3はそれぞれ波周期の平均値を表すパラメータ(正規分布と仮定)、及びb1,b2,b3はそれぞれ波周期の標準偏差を表すパラメータ(正規分布と仮定)である。また、E(x)はxの平均値、及びStd(x)はxの標準偏差を示す。
【0073】
図9は、船舶102が航行する海域において船舶が過去に遭遇した波浪の履歴データの例を示す。波浪の履歴データは、図9に示すように、短期海象の解析の対象としている海域において船舶が過去に遭遇した波浪の波高及び平均波周期の頻度を示す。このような波浪の履歴データは、各海域を航行した船舶の数だけ蓄積されている。波浪発現頻度確率モデル構築部18は、船舶102が航行する海域において船舶が過去に遭遇した波浪の履歴に合致するように数式(1)及び数式(2)に含まれる各種のパラメータをフィッティングする。これによって、波浪発現頻度確率モデルが構築される。
【0074】
なお、ステップS16における波浪発現頻度確率モデルの構築は、予め構築した波浪発現頻度確率モデルをステップS16で適用することであってもよい。
【0075】
ステップS18では、波浪発現頻度確率モデルを用いて短期海象の導出処理が行われる。当該ステップにおける処理によって、サービス提供機関104は、短期海象導出部20として機能する。サービス提供機関104は、波浪発現頻度確率モデルに対してステップS14において取得した波浪追算データを適用して船舶102が航行する海域について発生する確率が高い有義波高及び平均波周期を短期海象として導出する。具体的には、航路IDを示すカウンタi及び波浪応答推定処理における海象IDを示すカウンタkの組み合わせ毎に短期海象[Hik,Tik]を導出する。
【0076】
ステップS20では、波スペクトル確率モデルの構築が行われる。当該ステップにおける処理によって、サービス提供機関104は、波スペクトルモデル構築部22として機能する。波スペクトル確率モデルは、数式(3)に示すように、波周波数ωの関数である波周波数スペクトルS(ω)で表される。また、波の方向分散D(δ)は、数式(4)で表される。
【数3】
【数4】
ここで、jは、フィッティングする方向波スペクトルに含まれる山の数(山の数は最大j=3と仮定)、ωは、波周波数ωのピーク周波数(ω=2π/T,T:ピーク周期(≒1.4T))、λは、スペクトルの集中度、Hは、フィッティングする方向波スペクトルに含まれる山jの有義波高(正規分布と仮定)、ωpj:フィッティングする方向波スペクトルに含まれる山jのピーク周波数(正規分布と仮定)、λは、フィッティングする方向波スペクトルに含まれる山jの集中度(正規分布と仮定)、Γ(*)は、ガンマ関数、δは、短期海象を形成する素性波の進行方向と波の平均方向とのなす角、sは、波方向の集中度パラメータ、sは、フィッティングする方向波スペクトルに含まれる山jの波方向の集中度(正規分布と仮定)である。なお、本実施の形態では、フィッティングする方向波スペクトルに含まれる各山の平均方向θ及びθの間の偏角はランダムに設定する。
【0077】
図10は、波浪の方向波スペクトルの例を示す。方向波スペクトルは、短期海象の数だけ蓄積されている。波スペクトルモデル構築部22は、船舶102が航行する海域における方向波スペクトルに合致するように数式(3)及び数式(4)に含まれる各種のパラメータをフィッティングする。これによって、波周波数スペクトルS(ω)で表される波スペクトル確率モデルが構築される。
【0078】
なお、ステップS20における波スペクトル確率モデルの構築は、予め構築した波スペクトル確率モデルをステップS20で適用することであってもよい。
【0079】
ステップS22では、波浪中船速確率モデルの構築が行われる。当該ステップにおける処理によって、サービス提供機関104は、波浪中船速確率モデル構築部24として機能する。図11は、過去に実測された波浪の波高Hに対する船速の関係を頻度で示した図である。また、図12は、船舶102が航行する際の波浪の波高に対する船速の関係を速度の平均値を定式化したモデルを示す。図12では、船舶102の針路と波の平均進行方向のなす角χが0°~180°の範囲を30°毎にモデル化した例を示している。180°が正面向かい波を示し、0°が真追い波を示す。当該波浪中船速確率モデルを適用して、波浪の有義波高Hikに対応する船舶102の船速Vikを決定することができる。
【0080】
なお、ステップS22における波浪中船速確率モデルの構築は、予め構築した波浪中船速確率モデルをステップS22で適用することであってもよい。
【0081】
ステップS24では、船速が決定される。ステップS18において導出された短期海象の有義波高Hikを波浪中船速確率モデルに当て嵌めることによって船舶102の船速Vikを導出する。
【0082】
ステップS26では、船舶102の波浪中の応答関数を導出する処理が行われる。当該ステップにおける処理によって、サービス提供機関104は、応答関数導出部26として機能する。応答関数A(ω,χ-δ|Frik)は、船舶102の船体に対する縦曲げモーメントを有義波高H、船長L、船幅B、重力加速度g及び流体密度ρで無次元化した値である。なお、χは、船舶102の針路と波の平均進行方向のなす角である。また、Frikは、フルード数であり、Frik=Vik/√(gL)で求められる。
【0083】
なお、波浪応答(船体応答)には、曲げモーメント以外にも例えば、船舶の鉛直方向の加速度、波面に対する相対運動、船体外板に作用する水圧、積荷の慣性力で生じるタンク及びホールド内圧、船体の横断面に作用するせん断力等が含まれるところ、応答関数は、対象となる波浪応答に応じて適宜設定できる。
【0084】
ステップS28では、船舶102の波浪に対する応答の短期予測が行われる。当該ステップにおける処理によって、サービス提供機関104は、短期予測部28の一部として機能する。ステップS26で求められた応答関数A(ω,χ-δ|Frik)に基づいて船舶102の遭遇波浪への波浪応答(短期海象波浪応答)を推定する処理が行われる。例えば、船舶102の操船パターンの分析、作用荷重の統計処理、船舶102の疲労被害推定等を行う。
【0085】
ステップS30では、短期予測に基づいて短期海象における縦曲げモーメントの標準偏差を求める処理が行われる。当該ステップにおける処理によって、サービス提供機関104は、短期予測部28の一部として機能する。短期海象での応答標準偏差R(χ)は、一般的に数式(5)によって求めることができる。
【数5】
【0086】
数式(5)に、ステップS28までに求めた応答関数A(ω,χ-δ|Frik)、波周波数スペクトルS(ω)及び波の方向分散D(δ)を導入することによって船舶102に対する縦曲げモーメントの応答標準偏差Rik(χ)を求めることができる。
【0087】
なお、短期海象における船舶102への縦曲げモーメントの応答標準偏差Rik(χ)が求められれば、短期海象における船舶102の応答振幅の分布が求められる。一般には、応答振幅の確率分布はレイリー分布で近似できることが知られている。また、短期海象での応答振幅がある値を超過する確率は、応答標準偏差Rik(χ)を用いて求めることができる。
【0088】
ステップS32では、カウンタkが短期標準偏差を求めるための短期海象の数Nkに到達したか否かが判定される。カウンタkが短期海象の数Nk以上であればステップS34に処理を移行させ、短期海象の数Nk未満であればステップS18に処理を戻して、次の短期海象について船舶102に対する縦曲げモーメントの応答標準偏差Rik(χ)を求める処理を繰り返す。
【0089】
ステップS34では、船舶102に対する長期的な波浪応答推定が行われる。当該ステップにおける処理によって、サービス提供機関104は、長期予測部30の一部として機能する。例えば、ステップS28で行われた短期予測に基づいて、作用荷重の統計処理や船舶102の疲労被害推定を通して、船舶102が受ける波浪応答の長期頻度分布が推定できる。この推定に基づけば、船舶102がその生涯で出会う最大波高等の推定が可能となり、最大波高に基づいて設計荷重を定める等、合理的な設計荷重を定めることができる。
【0090】
ステップS36では、船舶102の針路と波の平均進行方向のなす角χに対する縦曲げモーメントの確率密度分布P(χ)を求める処理が行われる。当該ステップにおける処理によって、サービス提供機関104は、長期予測部30の一部として機能する。ステップS28において、航路を示すカウンタi及び短期海象を示すカウンタkの組み合わせ毎について求められた船舶102に対する縦曲げモーメントの応答標準偏差Rik(χ)を蓄積することによって船舶102の針路と波の平均進行方向のなす角χに対する縦曲げモーメントの確率密度分布P(χ)が得られる。縦曲げモーメントの確率密度分布P(χ)は航路を示すカウンタi毎に得られる。
【0091】
ステップS38では、長期最大期待値を求める処理が行われる。当該ステップにおける処理によって、サービス提供機関104は、長期予測部30の一部として機能する。航路を示すカウンタi毎に求められた船舶102に対する縦曲げモーメントの確率密度分布P(χ)に基づいて船舶102に対して最大の負荷となる曲げモーメントMを求める。すなわち、1つの航路の航行において短期海象の最悪海象の中でも船舶102において最も過酷であった海象(最悪海象の中でも特に最悪な海象)における波浪応答が曲げモーメントMとして得られる。
【0092】
ステップS40では、カウンタiが船舶102の航路数Niに到達したか否かが判定される。カウンタiが航路数Ni以上であればステップS42に処理を移行させ、航路数Ni未満であればステップS12に処理を戻して、次の航路について船舶102に対して最大の負荷となる曲げモーメントMを求める処理を繰り返す。
【0093】
ステップS42では、船舶102の信頼性評価が行われる。ステップS40までの処理によって、航路を示すカウンタi毎に船舶102に対する最大負荷の曲げモーメントMが求められる。すべての航路について最大負荷の曲げモーメントMを蓄積することによって最大負荷の曲げモーメントMの確率分布が得られる。また、一般に船が生涯は約25年であり、その間に出会う波の数は10回に近いことが知られており、長期超過確率Q(Q=10-8)での船舶102に掛かる最大曲モーメントMの値を求めることができる。上記処理に応じて、船舶102に対する長期に亘る信頼性を評価する。例えば、船舶102に対して最大の曲げモーメントに対する最終強度や疲労強度の許容値が定められている場合、船舶102に対する最大負荷の曲げモーメントMが当該許容値を超えてしまっているか否かを判定する。ただし、船舶102の信頼性の評価方法は、これに限定されるものではなく、上記処理において得られた結果に基づいて船舶102の信頼性を評価するものであればよい。
【0094】
ステップS44では、処理結果の出力が行われる。当該ステップにおける処理は、サービス提供機関104の出力手段46によって行われる。また、情報提供手段48及び情報通信網112を介して、ユーザ端末110へ処理結果を送信し、ユーザ端末110の結果出力手段によって処理結果を出力するようにしてもよい。処理結果は、船舶102に対する信頼性評価の結果のみならず、ステップS28で得られた短期予測、ステップS30で得られた短期海象での応答標準偏差R(χ)、ステップS34で得られた長期予測、ステップS36で得られた船舶102に対する縦曲げモーメントの確率密度分布P(χ)、ステップS38で得られた船舶102に対して最大の負荷となる曲げモーメントM等を出力するようにしてもよい。
【0095】
[波浪応答推定を利用した船体の設計方法]
以下、上記波浪応答推定を利用して船舶102の船体の設計方法について説明する。図13は、本発明の実施の形態における船体の設計方法を示すフローチャートである。
【0096】
ステップS50では、船舶102の設計条件の設定が行われる。ユーザは、船舶102が満たすべきサイズ、構造、出力、材料等の基本設計条件に加えて、船舶102が満たすべき最終強度や疲労強度等の構造的な強度の条件を入力する。
【0097】
ステップS52では、船舶102の船体の設計が行われる。ステップS50において設定された設計条件に基づいて船体の設計が行われる。船体の設計は、従来の設計装置及び設計方法を適用して行うことができる。
【0098】
ステップS54では、船舶102の波浪応答推定処理が行われる。ステップS52において設計された船舶102に対して本発明の実施の形態における上記波浪応答推定処理を適用することによって波浪応答特性を求める。
【0099】
ステップS56では、船舶102の信頼性評価が行われる。ステップS54において得られた船舶102に対する波浪応答について船舶102の設計基準を満たすか否かについて信頼性を評価する。信頼性の評価は、上記のように、例えば船舶102に対する最大負荷の曲げモーメントMが最終強度や疲労強度の許容値を超えているか否かを判定するものとすればよい。ただし、船舶102の信頼性の評価方法は、これに限定されるものではない。
【0100】
ステップS58では、船舶102の設計基準が満たされているか否かが判定される。ステップS56における信頼性の評価に基づいて船舶102の設計基準が満たされていればステップS60に処理を移行させ、設計基準が満たされていなければステップS52に処理を戻して、船舶102の船体の設計をやり直す。
【0101】
このとき、船舶102の船体の設計だけでは船舶102の設計基準が満たされないと判断される場合、ステップS50に処理を戻して、設計条件の設定からやり直すようにしてもよい。
【0102】
ステップS60では、船舶102の船体の製造処理が行われる。ステップS58において設計条件を満たすと判断された場合、ステップS52において行われた船体の設計は妥当であるといえるので、当該設計に基づいて船舶102の詳細設計を行い、船体を製造する。
【0103】
以上のように、本発明の実施の形態によれば、2次元波スペクトルのデータを活用して、波浪中の船体応答の推定精度の向上を図るとともに、船体応答の確率分布を用いて、構造信頼性に基づく船体設計が可能になる。また、ビッグデータ分析によって、就航中の船舶が実際に受けた荷重や実際に生じた応答を知ることができ、設計や設計規則を見直すことができる。設計改善による船体軽量化によって、GHG削減や鋼材資源の使用量を削減できる。また、波浪応答(船体応答)を推定し、船舶にとって有利な航路を選択することや有利な航行条件を設定すること等にも役立てることができる。
【0104】
[形状パラメータの同時発生確率を考慮した波浪発現頻度確率モデル]
上記波浪発現頻度確率モデルの構築では、波浪の形状パラメータの同時発生確率を考慮せず短期海象の有義波高Hの発生確率P(H)及び短期海象の有義波高Hの条件下において平均波周期Tの発生確率P(T|H)を求めるモデルとした。以下、波浪の形状パラメータの同時発生確率を考慮した波浪発現頻度確率モデルを適用した処理について説明する。
【0105】
波浪の形状パラメータの同時発生確率を考慮した波浪発現頻度確率モデルを適用する場合も図8に示したフローチャートと同様のフローで処理が行われる。そこで、図8のフローチャートを参照して、波浪の形状パラメータの同時発生確率を考慮した波浪発現頻度確率モデルの構築及びそれを用いた短期予測について説明する。以下に説明するステップ以外のステップにおける処理は、上記船舶の波浪応答推定システム100を用いた船舶102の波浪応答推定処理と同様である。
【0106】
ステップS16では、波浪発現頻度確率モデルの構築が行われる。波浪発現頻度確率モデルは、数式(1)及び数式(2)に示すように、短期海象の有義波高Hの発生確率P(H)及び短期海象の有義波高Hの条件下において平均波周期Tの発生確率P(T|H)を求めるモデルである。このとき、有義波高H、平均波周期Tのみならず、スペクトルの集中度λ、波方向の集中度パラメータs、フィッティングする方向波スペクトルに含まれる山の数j(山の数は最大j=3と仮定)、波高依存φをパラメータとするモデルとする。すなわち、スペクトルの集中度λ及び波方向の集中度パラメータsは、固定値とせず、波の同時性を含む確率分布に基づいて実値(変動値)とする。
【0107】
なお、ステップS16における波浪発現頻度確率モデルの構築は、予め構築した波浪発現頻度確率モデルをステップS16で適用することであってもよい。
【0108】
ステップS18では、波浪発現頻度確率モデルを用いて短期海象の導出処理が行われる。サービス提供機関104は、波浪発現頻度確率モデルに対してステップS14において取得した波浪追算データを適用して船舶102が航行する海域について発生する確率が高い有義波高及び平均波周期を短期海象として導出する。具体的には、航路IDを示すカウンタi及び波浪応答推定処理における海象IDを示すカウンタkの組み合わせ毎に短期海象[Hik,Tik,λik,sik,φik]として、有義波高H、平均波周期Tのみならず、スペクトルの集中度λ、波方向の集中度パラメータs、波高依存φを短期海象として導出する。
【0109】
なお、有義波高Hは、波浪のスペクトルの集中度λ、波方向の集中度パラメータsに対して影響を受けることが把握されている。有義波高Hが高くなると、波浪のスペクトルの集中度λが大きくなる。また、有義波高Hが高くなると、波方向の集中度パラメータsは小さくなり、エネルギーが広く分布する傾向を示す。すなわち、有義波高Hが高くなるにつれて、周波数スペクトルのエネルギーは集中するが、波方向に関してはエネルギーは分散する傾向を示す。また、周波数スペクトルのピーク形状パラメータである波浪のスペクトルの集中度λと波浪の方向分散の形状パラメータである波方向の集中度パラメータsは、確率的な評価において互いに独立であるとみなしてもよいと考えられる。
【0110】
ステップS20では、波スペクトル確率モデルの構築が行われる。当該ステップにおける処理によって、サービス提供機関104は、波スペクトルモデル構築部(2次元波スペクトル導出部)22として機能する。波スペクトル確率モデルは、数式(3)に示すように、波周波数ωの関数である波周波数スペクトルS(ω)で表される。また、波の方向分散D(δ)は、数式(4)で表される。
【0111】
ここで、波浪追算による2次元波スペクトルを、数式(3)の波スペクトル及び数式(4)の方向分布の関数に近似して、2次元波スペクトルを表現するためのパラメータを取得する。2次元波スペクトルのピーク数をカウントするため、ピークに対して以下の3つの条件を設けて判別することができる。図14は、ピークを判別する概念図である。
(条件1)ピーク値間の谷の深さ(C/P)
(条件2)ピーク波向の偏差(Δθ又はΔω)
(条件3)ピーク値の比率(P/P
【0112】
数式(6)により、波浪追算による2次元波スペクトルの有義波高を求める。ただし、Rは、標準偏差である。
【数6】
【0113】
数式(7)にしたがい、波浪追算による方向分布関数Gを求める。
【数7】
【0114】
Hindcast(θ)において極大値P及び極小値T、これらが発生する波向きθ 、θ 及び極大値間(ピーク間)の谷の深さCをそれぞれ求める。
【数8】
【0115】
条件1として、C/P<Dのとき、ピークiは有意ではないと判断してピークとして処理しない。
【0116】
残ったピークが複数のとき、条件2として、ピーク間の偏差を数式(9)で求める。そして、Δθ<Dのとき、G(θ )とG(θi+1 )の小さい方はピークとして処理しない。
【数9】
【0117】
さらに残ったピークが複数のとき、条件3として、G(θi+1 )/G(θ )>D(ただし、G(θi+1 )>G(θ )とする)が成り立つとき、G(θ )はピークとして処理しない。
【0118】
代表波向をθ(i=1~N)とするシングルピーク方向分布GHindcast(θ|θ)を数式(10)で近似して、分散パラメータs(i=1~N)及びG(θ|θ,s)を得る。ここで、分散パラメータsの周波数依存性はないものとした。
【数10】
【0119】
マルチピークの方向分布G(θ)は、数式(11)に示すように、シングルピークスペクトルG(θ|θ,s)の和で表すことができる。
【数11】
【0120】
続いて、波浪追算による2次元波スペクトルから代表波向θ(i=1~N)での周波数スペクトルSHindcast(ω|θ)を抽出する。周波数スペクトルSHindcast(ω|θ)に対しても、GHindcast(θ)と同様に処理を適用して、周波数スペクトルSHindcast(ω|θ)のピーク数M及びピーク周波数ωpij(j=1~M)を求める。
【0121】
周波数スペクトルSHindcast(ω|θ)を数式(3)に近似して、S(ω|λ,θ)(i=1~N)を得る。ここで、数式(3)においてj=Mとする。そして、数式(12)により、2次元波スペクトル算式を求める。
【数12】
【0122】
数式(6)にしたがい、2次元波スペクトルS(ω,θ|λ,s)の有義波高Hを算出する。ここで、H=HHindcastとなるように波スペクトルS(ω,θ|λ,s)を補正する。具体的には、数式(3)のパラメータHを補正する。以上のように、波スペクトルのピークの数L、各ピークに応じたH,ωp、θ、λ、s(k=1~L)、及びこれらのパラメータを用いて2次元波スペクトルS(ω,θ|λ,s)を求めることができる。これによって、2次元波スペクトルS(ω,θ|λ,s)で表される波スペクトル確率モデルが構築される。
【0123】
なお、ステップS20における波スペクトル確率モデルの構築は、予め構築した波スペクトル確率モデルをステップS20で適用することであってもよい。
【0124】
図15(a)は、波向に依存しない波スペクトルの例を示す。また、図15(b)は、波向に依存している波スペクトルの例を示す。図15において、横軸は波周波数ω、縦軸は波向θを示している。また、図15(b)では、波スペクトルのピークが連なる方向φも図示している。
【0125】
ステップS22では、波浪中船速確率モデルの構築が行われる。当該ステップにおける処理によって、サービス提供機関104は、波浪中船速確率モデル構築部24として機能する。このとき、2次元波スペクトルS(ω,θ|λ,s)を適用して補正された有義波高Hを適用して、波浪の有義波高Hikに対応する船舶102の船速Vikを決定する波浪中船速確率モデルとする。
【0126】
なお、ステップS22における波浪中船速確率モデルの構築は、予め構築した波浪中船速確率モデルをステップS22で適用することであってもよい。
【0127】
ステップS24では、船速が決定される。ステップS18において導出され、補正された短期海象の有義波高Hikを波浪中船速確率モデルに当て嵌めることによって船舶102の船速Vikを導出する。
【0128】
ステップS26では、船舶102の波浪中の応答関数を導出する処理が行われる。応答関数A(ω,χ-δ|Frik)は、船舶102の船体に対する縦曲げモーメントを有義波高H、船長L、船幅B、重力加速度g及び流体密度ρで無次元化した値である。なお、χは、船舶102の針路と波の平均進行方向のなす角である。また、Frikは、フルード数であり、Frik=Vik/√(gL)で求められる。
【0129】
ステップS28では、船舶102の波浪に対する応答の短期予測が行われる。当該ステップにおける処理によって、サービス提供機関104は、短期予測部28の一部として機能する。ステップS26で求められた応答関数A(ω,χ-δ|Frik)に基づいて船舶102の遭遇波浪への波浪応答(短期海象波浪応答)を推定する処理が行われる。例えば、船舶102の操船パターンの分析、作用荷重の統計処理、船舶102の疲労被害推定等を行う。
【0130】
ステップS30以降の処理は、上記実施の形態と同様に行われる。以上のように、形状パラメータの同時発生確率を考慮した波浪発現頻度確率モデルを適用して船舶102の波浪応答推定を行うことができる。
【0131】
[変形例]
図16に、有義波高H、平均波周期Tの確率及び波浪の形状パラメータλ,s,φの確率の同時発生確率を考慮した船舶102の波浪応答推定処理の変形例のフローチャートを示す。基本的なフローは、上記実施の形態に基づく。
【0132】
波浪の形状パラメータλ,s,φの組み合わせに対する短期予想値への影響を予め調べて、波浪の形状パラメータλ,s,φの組み合わせ毎に短期予想値を補正するための波浪の形状パラメータを考慮した補正係数をチャートや補正データとして記憶部42やデータベースに記憶させる。例えば、有義波高H、平均波周期Tの確率及び波浪の形状パラメータλ,s,φの確率の同時発生確率を考慮しない場合の短期予想値と、有義波高H、平均波周期Tの確率及び波浪の形状パラメータλ,s,φの確率の同時発生確率を考慮した場合の短期予想値との計算のケースを積み重ねて傾向分析を行い、これらの比から補正係数を予め求めて、簡易法のチャートとして記憶させたりデータベースとして構築しておくことができる。また、有義波高H、平均波周期Tの確率及び波浪の形状パラメータλ,s,φの確率の同時発生確率を考慮しない場合の短期予想値と、有義波高H、平均波周期Tの確率及び波浪の形状パラメータλ,s,φの確率の同時発生確率を考慮した場合の短期予想値との計算のケースを積み重ねた傾向分析に当たっては、同時発生確率を考慮しない場合の短期予想値を先ず算出し、続いて同時発生確率を考慮した場合の短期予想値を算出し、比や差を求めてこれを積み重ねる方法、また、複数の入力する条件を準備し、同時発生確率を考慮しない場合の複数の短期予想値をまとめて算出し、同時発生確率を考慮した場合の複数の短期予測値をまとめて算出し、両者を対応させて比や差を求めてこれを積み重ねる方法等、各種の方法が採用できる。
【0133】
本変形例では、ステップS16~S28において、上記実施の形態と同様に、有義波高H、平均波周期Tの確率及び波浪の形状パラメータλ,s,φの確率の同時発生確率を考慮しない短期予測値を求める。そのうえで、予め求めておいた補正係数を当該短期予想値に乗算することで、有義波高H、平均波周期Tの確率及び波浪の形状パラメータλ,s,φの確率の同時発生確率を考慮した場合の短期予想値を求める。
【0134】
ステップS30以降の処理は、上記実施の形態と同様に行われる。以上のように、有義波高H、平均波周期Tの確率及び波浪の形状パラメータλ,s,φの確率の同時発生確率を考慮して船舶102の波浪応答推定を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明によれば、2次元波スペクトルのデータ又は2次元波スペクトルを関数モデルに近似して得られる短期海象のパラメータを利用して船舶の波浪応答を推定し、これにより、波浪中の船体応答の推定に基づく船体設計や航路選択、また船舶の寿命判断等を実現することができる。
【符号の説明】
【0136】
10 航路情報取得手段、12 波浪追算データ取得手段、14 航路情報取得部、16 波浪追算データ取得部、18 波浪発現頻度確率モデル構築部、20 短期海象導出部、22 波スペクトルモデル構築部(2次元波スペクトル導出部)、24 波浪中船速確率モデル構築部、26 応答関数導出部、28 短期予測部、30 長期予測部、40 処理部、42 記憶部、44 入力手段、46 出力手段、48 情報提供手段、100 波浪応答推定システム、102 船舶、104 サービス提供機関、106 航路情報データベース、108 波浪追算データベース、110 ユーザ端末、112 情報通信網。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図16