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特開2024-78421フッ素化ポリマーコーティングを有する物体を生成する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078421
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】フッ素化ポリマーコーティングを有する物体を生成する方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 10/02 20060101AFI20240603BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240603BHJP
   B32B 37/00 20060101ALI20240603BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
D06M10/02 C
B32B27/30 D
B32B37/00
D06M15/643
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023192207
(22)【出願日】2023-11-10
(31)【優先権主張番号】22210166
(32)【優先日】2022-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】506161108
【氏名又は名称】シーファー アーゲー
【氏名又は名称原語表記】SEFAR AG
【住所又は居所原語表記】Hinterbissaustrasse 12 9410 Heiden Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100166523
【弁理士】
【氏名又は名称】西河 宏晃
(72)【発明者】
【氏名】モハマド モクブル ホサイン
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ エレンベルガー
(72)【発明者】
【氏名】カリム チャカリ
【テーマコード(参考)】
4F100
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4F100AK17
4F100AK17A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100DG11
4F100DG11B
4F100DG12
4F100DG12B
4F100DG13
4F100DG13B
4F100DG15
4F100DG15B
4F100EH66
4F100EH66A
4F100EJ42
4F100EJ85
4F100GB66
4L031AB31
4L031BA31
4L031CB05
4L031CB13
4L031DA19
4L033AB04
4L033AC03
4L033AC04
4L033CA59
(57)【要約】
【解決手段】 過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩を含まないフッ素化ポリマーコーティングを有する物体を生成する方法は、フッ素化前駆体モノマーのプラズマ重合によって、物体上にフッ素化ポリマーコーティングを蒸着する工程DFと、物体を、蒸着されたフッ素化ポリマーコーティング内またはそのコーティング上で過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩の形成を阻害する阻害ガスに曝露する工程IGとを含む。工程IGは工程DFの後に行われ、工程DFの開始から工程IGの終了まで、物体が、実質的に酸素不含雰囲気中で処理される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩を含まないフッ素化ポリマーコーティングを有する物体を生成する方法であって、
フッ素化前駆体モノマーのプラズマ重合によって、前記物体上に前記フッ素化ポリマーコーティングを蒸着する工程DFと、
前記物体を、蒸着された前記フッ素化ポリマーコーティング内または前記フッ素化ポリマーコーティング上で、過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩の形成を阻害する阻害ガスに曝露する工程IGと、
を含み、
前記工程IGは前記工程DFの後に行われ、
前記工程DFの開始から前記工程IGの終了まで、前記物体が、実質的に酸素不含雰囲気中で処理される、方法。
【請求項2】
前記工程IGにおいて、前記阻害ガスに前記物体を曝露している間に、プラズマが存在しないこと、前記工程DFのプラズマ出力の半分未満のプラズマ出力でのプラズマが存在すること、または前記工程DFのプラズマ出力に等しい最大プラズマ出力でのプラズマが存在することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
非フッ素化前駆体モノマーのプラズマ重合によって、前記物体上に非フッ素化ポリマーコーティングを蒸着する工程DNFをさらに含み、
前記工程DNFが、前記工程DFの前および/または後に行われることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程DFで前記フッ素化ポリマーコーティングを蒸着させるためのプラズマ蒸着プロセス、および/または前記工程DNFで前記非フッ素化ポリマーコーティングを蒸着するためのプラズマ蒸着プロセスが、低圧プラズマプロセス、および/または保護雰囲気下での大気圧プラズマプロセスであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程IGの前記阻害ガスが、水素、窒素、炭化水素、それらの混合物、および/またはこれらのガスのいずれかを含有するガス混合物であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記工程DFの前記フッ素化ポリマーコーティングが、パーフルオロカーボンまたは過フッ素化炭化水素を使用して行われることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記工程DNFにおける非フッ素化ポリマーコーティングが、オルガノシラン、シロキサンおよび/または炭素水素前駆体を使用して行われることを特徴とする請求項3から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
不活性ガスおよび/または反応性ガスを使用する大気圧または低圧プラズマによる、前記物体の前処理の工程PTをさらに含み、
前記工程PTが、好ましくは第1の工程として、工程DNFおよび/またはDFの前に行われることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記工程DF、PTおよび/またはDNFのプラズマ蒸着の間にコーティング済みの前記物体上に形成されるプラズマベースの反応性種を不活性化するために、前記工程DF、PTおよび/または工程DNFを行った後に、とりわけ、直接、前記工程IGを毎回実施することを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記工程DFにおいて、前記物体上に蒸着される前記フッ素化ポリマーコーティングが、厚さ5nm~300nmを有すること、および/または
前記工程DNFにおいて、前記物体上に蒸着される前記非フッ素化ポリマーコーティングが、厚さ30nm~700nmを有することを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
プラズマ出力が、前記工程DFおよび/または前記工程DNFの間、1cmの電極表面あたり1W未満、好ましくは1cmの電極表面あたり500mW未満、またはより好ましくは1cmの電極表面あたり200mW未満であることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記物体が、メッシュ織布、織布、編布、不織布、メルトブローン不織布、スパンボンド不織布、膜、コンポジット膜のポリマー材料、およびそれらの組合せを含むことを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記フッ素化ポリマーコーティングが、OEKO-TEXおよび/またはDIN CEN/TS15968:2010による規格100に準拠して、過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩を含まないことを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程が、以下:
1.工程PT
2.工程DNF
3.工程DF
4.工程IGおよび、場合により
5.再度、工程DNF
の順序で行われることを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の方法によって、物体上に形成された、過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩を含まないフッ素化ポリマーコーティングを含む、物体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩を含まないフッ素化ポリマーコーティングを有する物体を生成する方法に関する。
【0002】
さらに、本発明はまた、過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩を含まないフッ素化ポリマーコーティングを含む物体にも関する。
【背景技術】
【0003】
過フッ素化およびポリフッ素化アルキル物質のような人為的な有機化合物は、高懸念物質(SVHC)であり、様々な産業において使用されてきた、大きな一族である。文献には、1940年代以降、加工用添加物および界面活性剤として、これらを使用することが報告されている。これらの化合物は、難燃性、ならびに撥油性、防汚性、撥グリース性および撥水性を含めた特別な特性を有しており、こびりつかない調理器具、特別な衣服および繊維製品、防汚剤、金属メッキおよび消火用泡の製造に一般に使用されてきた。それらは、PFASの2つの群:パーフルオロアルキルスルホン酸(PFSA)およびパーフルオロカルボン酸(PFCA)に分類される。環境では自然には存在しないこれらの合成物質、およびその関連する塩を含めたPFASは、様々なタイプの水性環境において、様々な濃度で既に検出されている。ある種のPFASは、難分解性かつ生体内蓄積性があるので、上記のことはまったく驚くべきことではない。C8ベースのPFASは、EUでは、規制物質として既にリストアップされており、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)は、2009年に、難分解性有機汚染物質(POP)として分類されている。同様に、過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩を回避および禁止するための規制が存在するか、または予定されている。
【0004】
プラズマ重合またはプラズマ蒸着プロセスは、調節可能な官能基を有する物質を設計する多様な経路をもたらすので、盛んな研究領域である。プラズマポリマーは独自の特性があるため、調節可能な濡れ性、自浄性および非反射性のようなスマートコーティングによって、プラズマポリマーは、生体材料、薬物送達、接着、保護コーティング、マイクロ電子デバイス、油-水分離および薄層フィルム技術などの多様な用途に優れる。さらに、慣用的な湿式化学重合の使用は、非均一なコーティングなどのポリマーコーティングに有害作用をもたらすことがあり、溶媒による不純物は、溶媒が存在するために、コーティングの欠陥が生じる。このような問題を回避するため、プラズマ励起化学蒸着法(PECVD)は、ポリマーの迅速な、ピンホールのない架橋された乾式蒸着に好適な、液体形態またはガス形態のどちらかの前駆体を利用する重合方法である。
【0005】
プラズマ処理は、慣用的な重合に比べて、ポリマーの架橋度を改善することが知られている。このような完全に制御された重合法は、プラズマ重合中にプラズマエネルギーの支援により行われ、このプラズマエネルギーは、電子、イオンおよびラジカルを活性化するために使用される。プラズマ重合法のさらなる説明;蒸気形態にあるモノマー前駆体は、真空にされたプラズマ反応器にポンプ移送される。次に、エネルギーの投入により、グロー放電の間に励起電子が発生し、分子の遊離電子、イオン、ラジカルおよび励起分子への分解がもたらされる。後期段階では、これらのフリーラジカルおよび励起分子は、基材上で再結合、凝縮および重合し、これらのイオンおよび電子は、既に蒸着されたポリマーと架橋するか、またはこれとの化学結合を形成し、その結果、プラズマポリマーの特性が、前駆体だけではなく、蒸着パラメータによっても決定づけられる。過フッ素化前駆体から重合され、グロー放電(プラズマ蒸着)によって蒸着されたフィルムが、ますます幅広い関心を集めている。実際に、蒸着方法は、非常に特有なものであり、モノマーの選択およびプラズマ反応器条件により、表面質感および表面化学設計を含めた、溶媒不含であること、室温でのプロセスであること、蒸着フィルムの厚みの制御などの多数の利点を示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、フッ素化前駆体を使用するプラズマ蒸着プロセスにより処理された布地のような物体はやはり、十分な量の過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩を含む恐れがあることが見出されている。
【0007】
したがって、本発明の目的は、プラズマ蒸着プロセスによって蒸着された、過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩を含まないフッ素化ポリマーコーティングを有する物体を生成する方法を提供すること、ならびに過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩を含まないフッ素化ポリマーコーティングを含む物体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、この目的は、一方では、請求項1の特徴を有する方法によって、および請求項15の特徴を有する布地のような物体によって、実現される。
【0009】
本発明の好ましい実施形態は、個々の独立請求項に明記されている。
【0010】
本発明の方法によれば、工程DFでは、フッ素化前駆体モノマーのプラズマ重合によって、物体上にフッ素化ポリマーコーティングが蒸着される。さらに、工程IGでは、物体は、蒸着したフッ素化ポリマーコーティング内または蒸着したフッ素化ポリマーコーティング上において、過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩の形成を阻害する阻害ガスに曝露され、工程IGは工程DFの後に行われる。さらに、工程DFの開始から工程IGの終了まで、物体は、実質的に酸素不含雰囲気中で処理される。
【0011】
本発明の基本的な概念は、フッ素化ポリマーコーティングを生成するプラズマ蒸着プロセスの間に、プラズマ重合の間に生成するフリーラジカルおよびさらなる活性構成成分が、フッ素化重合および/またはフッ素化コーティングの間に酸素に接触すると、それらは過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩を形成する主要な開始剤になるということを発見した事実に帰結する。
【0012】
この形成に関する基礎的な原理は、以下となることが期待される。ラジカルは、中性ガス粒子、励起状態、イオン、電子およびUVなどの、他のプラズマ種に比べて、蒸着プロセス(ラジカル優勢のプラズマ)においてある役割を主に果たす。これらのラジカルは、モノマー分子とさらに反応することができるか、またはこれらのラジカルは互いに再結合して、コーティングを形成することができる。励起状態などの関連数の反応性中間体が依然として存在し、フリーラジカルなどは、物体が例えば、大気に曝露されると、酸素と反応し得る成長中の層に留まる。結果として、過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩が、コーティング中に形成され得る。
【0013】
しかし、本発明によれば、このプラズマプロセスの後に、フッ素化ポリマーコーティングのプラズマ蒸着のための工程DFにおいて処理される物体が、阻害ガスにより処理されると、望ましくない過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩の形成が低減され得、理想的には阻止され得ることが発見された。これに関して、DF工程の開始からIG工程が終了するまでの間の時間において、物体は、実質的に酸素不含の雰囲気中で処理され、その結果、望ましくない構成成分のいずれも発生し得ない。
【0014】
過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩の形成をなくす機能的プロセスは、以下に基づく:
第1に、フッ素化モノマーの重合は、酸素不含雰囲気中で、好ましくは真空中で行われるべきである。酸素化種またはガスの添加は、プラズマ重合中にフッ素化構成成分と直接、反応し、過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびに塩を形成する。これに関して、および本発明の説明に使用されるように、実質的に酸素不含雰囲気という用語は、通常の空気中の酸素のように、外部酸素が利用可能ではないことと理解され得る。ただし、物体自体の物質から放出され得る酸素ガスに起因した、処理チャンバ中に存在し得る少量の酸素には関係がない。
【0015】
第2に、過フッ素化およびポリフッ素化化合物の排除はまた、フッ素化コーティングの蒸着直後に行われる阻止工程に強く依存する。水素、窒素、炭化水素およびまたはそれらの混合物を使用する阻止工程の間の後処理は、上記の蒸着したコーティング中に形成される残留反応性中間体を不活性化することができ、こうして、連鎖、飽和などの化学的に不活なコーティングを生成することができる。
【0016】
工程IGにおいて、阻害ガスに物体を曝露している間、プラズマが存在しないこと、工程DFのプラズマ出力の半分未満のプラズマ出力でのプラズマが存在すること、または工程DFのプラズマ出力に等しい最大プラズマ出力でのプラズマが存在することが好ましい。先に説明した通り、過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩の形成をもたらすフリーラジカルおよび他の活性構成成分は、工程DFにおける過去のプラズマ蒸着の間に、プラズマによって供給されるエネルギーにより、少なくとも一部が生成される。過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩の生成をさらに回避するため、IG工程の間、可能なプラズマ出力未満を使用するのが有利である。
【0017】
実施形態では、非フッ素化前駆体モノマーのプラズマ重合によって、物体上に非フッ素化ポリマーコーティングを蒸着する、さらなる工程DNFが行われ、工程DNFは、工程DFの前および/または後に行われる。
【0018】
慣用的に、フッ素化ポリマーコーティングを蒸着する工程DFにおいて、長鎖分子、例えばC8フルオロカーボン(FC)化合物は、軍用の製剤からだけではなく、水、油、燃料、滑沢剤、クリーニング用溶媒および他の汚染物質などの日常物質からも物体を保護するためのコーティングにも使用された。しかし、長鎖分子は潜在的に毒性が高いため、世界中でその使用を制限または禁止する法律が制定されている。代替的なコーティングが開発されており、上市されている。特に、短鎖C6フッ素化学コーティングが、高い環境リスクなしに、慣用的なC8ベースのFCコーティングに性能が近い。
【0019】
C6 FCベースの使用は、微量のパーフルオロオクタン酸(PFOA)およびその塩を含有し、これらの物質の難分解性および生体内蓄積の可能性のために懸念が高まっているので、その使用は、依然として、地球環境への汚染をもたらす。さらに、2020年12月3日から発効されるREACH規制(EU/784/2020)は、PFOA閾値を25ppb(十億分率)未満に維持して許可している。したがって、健康面での理由から、これらの化学品を回避する傾向が一般にある。
【0020】
過フルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル物質(PFAS)のような、超短鎖C3~C1フルオロカーボン(FC)によってC6 FCを置き換える直接的な工程は、一見、有望な解決策のように思われる。しかし、これらの化合物は、原理的に、疎水性特徴および疎油性特徴をもたらす場合でさえも、布地としての物体表面にそれらを蒸着するためにプラズマナノコーティングを使用すると、問題が生じることが認められた。プラズマポリマーコーティングのプロセスの間の、PFASベースのC3~C1フルオロカーボン(FC)層の厚さは、先のC6~C8ベースのフルオロカーボン(FC)層に比べると、非常に薄い。したがって、とりわけ布地、例えば、織布にとりわけ設けられた層は不十分な層、したがって改善可能な疎水性特徴しかもたらさない。驚くべきことに、一層、薄い層でさえも、良好な疎油性特徴をもたらすことが認められた。
【0021】
非フッ素化ポリマーコーティングとしてのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)は、非毒性物質であり、加工中に有害物質が生成されないので、C6 FCの代用品として産業界で選択される1つである。ヘキサメチルジシロキサンの蒸気圧は好適なので、プラズマプロセスに前駆体モノマーとして、幅広く使用されている。純粋なHMDSOに由来する炭素に富むプラズマ重合HMDSO(pp-HMDSO)は、低い内部応力、良好な接着性および優れた疎水バリア性能などの有望な機械特性を示す。pp-HMDSOコーティングによって実現される耐水性は、有望であるが、疎油特性を何らもたらさない。
【0022】
したがって、この実施形態によれば、工程DNFにおいて、非フッ素化ポリマーコーティングと、C6、好ましくはC3~C1フルオロカーボンを使用する工程DFにおける従来のフッ素化ポリマーコーティングとを組み合わせて使用することが提案される。これによって、2つの工程の順序は、任意とすることができるが、DNF工程がDF工程の前に行われることが好ましい。
【0023】
工程DFにおけるフッ素化ポリマーコーティングを蒸着させるためのプラズマ蒸着プロセス、および/または工程DNFにおける非フッ素化ポリマーコーティングを蒸着するためのプラズマ蒸着プロセスは、低圧プラズマプロセス、および/または保護雰囲気下での大気圧プラズマプロセスであることが好ましい。
【0024】
低圧プラズマコーティング技術は、プラズマ励起化学蒸着(PECVD)法としても知られている。この技術には、コールドプラズマが使用される。したがって、この技術は、モノフィラメントメッシュ、コンポジット膜などの、感熱性ポリマー物質にとって好適である。PECVDを使用すると、ネットワークに組み込まれた官能基を有する高架橋ポリマーネットワークを蒸着させることができ、こうして、修飾表面の非常に長期の安定性を得ることができる。フッ素化コーティングは、PFASに分解しない。
【0025】
工程IGにおける阻害ガスは、水素、窒素、炭化水素、それらの混合物、および/または上記のガスのいずれかを含有するガス混合物であることが好ましい。これらのガスまたはそれらの混合物は、驚くべきことに、フリーラジカル、ならびに過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩の形成をもたらす、さらなる活性な構成成分を阻害するのに有効であることが発見された。
【0026】
阻害工程は、過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩をなくすために重要な役割を果たすことが示されている。阻害プロセスは、フッ素蒸着プロセスの直後に、物体を大気中に持ち出すことなく、真空チャンバ内で、水素、窒素および炭酸水素ガスを使用して、フッ素化コーティング表面に行うことができる。フリーラジカル、酸素化種、荷電粒子などは、フッ素化前駆体のプラズマ重合の間に、表面で形成される。阻害工程は、そのような反応性構成成分を中和し、こうして、過フッ素化化合物およびポリフッ素化化合物は、コーティング済み物体が阻害ガスに曝露されると、効果的に除去される。阻害工程は、過フルオロアルキル誘導体およびポリフルオロアルキル誘導体の量を劇的に低減することを示すので、上記のことは、表1に示されている数によって強調される。
【0027】
【表1】
【0028】
過フッ素化物質およびポリフッ素化物質の濃度を低下させるため、様々な蒸着条件を使用することができる。工程パラメータ、とりわけプラズマ出力に応じて、PFC化合物は様々になる。エネルギー投入量が多いほど、高いプラズマ解離/フラグメント化をもたらし、エネルギーがより高いイオン衝撃のために、成長中のフィルムにおいてPFC化合物の生成量が一層多くなる一因となる。一方、非常に少ないエネルギー投入量で、良好な撥油性を得ることは難題である。本発明によれば、PFC化合物を持たせることなく好適なコーティング特徴を得るために、プラズマ出力が、工程DFおよび/または工程DNFの間、1cmの電極表面あたり1W未満、好ましくは1cmの電極表面あたり500mW未満、またはより好ましくは1cmの電極表面あたり200mW未満であることが必要、であることが見出された。
【0029】
【表2】
【0030】
工程DFにおけるフッ素化ポリマーコーティングは、過フルオロカーボンまたは過フッ素化炭化水素を使用して行われてもよく、かつ/または工程DNFにおける非フッ素化ポリマーマコーティングは、オルガノシラン、シロキサンおよび/または炭素水素前駆体を使用して行われてもよい。
【0031】
一実施形態では、本方法は、不活性ガスおよび/または反応性ガスを使用する大気圧または低圧プラズマによる、物体の前処理の追加工程PTを含んでもよく、工程PTは、好ましくは第1の工程として、工程DNFおよび/またはDFの前に行われる。PT工程は、処理される物体の表面を清浄するために行われ得、その結果、膜の蒸着を一層効率よく実現することができる。これに関して、PT工程は、DNF工程およびDF工程の前の第1の工程として好ましくは行われ得る。しかし、処理されるまさに物体に基づいて、DNF工程および/またはDF工程の前に、毎回、PT工程を行うことがやはり有利となり得る。
【0032】
他の工程のすべてを行った後、とりわけ、異なる複数の工程と工程の間に酸素が存在しない場合、工程IGを1回だけ行えば十分である。しかし、前述の工程DF、PTおよび/またはDNFのプラズマ蒸着の間にコーティング済みの物体上に形成されるプラズマベースの反応性物質、粒子または構成成分を不活性化するために、工程DF、PTおよび/または工程DNFを行った直後に、IG工程を毎回実施することが有利である。このように、望ましくない物質の阻害が改善される。同様に、前のコーティング工程のフリーラジカルおよび他の活性物質は、後のコーティング工程ではコーティングされず、前後のコーティング工程の間に阻害されるからである。
【0033】
工程DFにおいて蒸着される使用物質に応じて、この物体上に蒸着されるフッ素化ポリマーコーティングは、厚さ5nm~300nmを有してもよく、および/または工程DNFにおいて、物体上に蒸着される非フッ素化ポリマーコーティングは、厚さ30nm~700nmを有してもよい。一般に、工程DFおよびDNFにおける蒸着は、物体の表面特性の改善をもたらすはずである。詳細には、疎水性および/もしくは疎油性コーティングまたは表面特性を有する物体を提供することが目的である。すなわち、非フッ素化ポリマーコーティングは、フッ素化ポリマーコーティングのような良好な特性を実現することはなく、したがって、非フッ素化ポリマーコーティングのコーティング厚さは、フッ素化ポリマーコーティングの厚さよりも厚いことが有利である。
【0034】
原理的に、蒸着工程DFおよび/またはDNFの間に、プラズマ出力には上限値も下限値もない。しかし、プラズマ出力は、工程DFおよび/または工程DNFの間、1cmの電極表面あたり1W未満、好ましくは1cmの電極表面あたり500mW未満、またはより好ましくは1cmの電極表面あたり200mW未満であることが好ましい。これは、より高いエネルギーによって改善されるポリマーの十分な蒸着と、過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩をもたらす、望ましくない構成成分の生成との間に、良好な妥協点があるように思われる。
【0035】
本物体は、メッシュ織布、織布、編布、不織布、メルトブローン不織布、スパンボンド不織布、膜、コンポジット膜のポリマー材料、およびそれらの組合せを含むことが好ましい。織材料が使用される場合、とりわけモノフィラメント糸が好ましい。
【0036】
詳細には、本物体は、以下の物質のうちの1つもしくは複数、またはそれらの組合せ:ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサメチレンアジポアミド(PA6.6)、ポリドデカンアミド(PA12)、ポリプロピレン(PP)、ポリカプロアミド(PA6)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エチレンモノクロロトリフルオロエチレン(E-CTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリエチレン(PE)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリスルホン(PS)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、キトサン(CH)、ポリビニルブチラール(PVB)、臭化1-ドデシルトリメチルアンモニウム(DTAB)、クロルヘキシジン(CHX)、臭化ベンジルトリメチルアンモニウム(BTAB)、ポリアクリレート、ポリエチレン(PE)、高密度PE、フッ化エチレンプロピレン(FEP)、二成分(PA6/PA12)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、パーフルオロアルコキシ(PFA)、ポリアクリロニトリル(アクリル繊維)(PAN)、二成分、PET難燃剤(PET/PBT)、ポリウンデカンアミド(PA11)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリヘキサメチレンセバシンアミド(PA6.10)、アラミド(AR)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド炭素繊維(PA/CF)、ポリエステル炭素繊維(PET/CF)、ポリエステルステープル繊維/金属繊維(PET/MT)、炭素繊維(CF)、銅(CU)、ポリイミド(P84)、銅/銀(CU/AG)、ポリカーボネート(PC)、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリウレタン(PU)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリラクチド(PLA)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、ポリ塩化ビニル(PVC)、セルロース、酢酸セルロース(CA)、ポリプロピレン(PP)、PVA/シリカ、PAN/TiO、PETFEポリエーテルイミド(PEI)、ポリアニリン、ポリ(エチレンナフタレート)、スチレンブタジエン系ゴム、ポリスチレン、ポリ(ビニルブチレン)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)から作製され得る、および/またはこれらを含むことができる。
【0037】
任意の製造プロセスにおいて形成されるいずれの物体も、ある特定の物質を100%含まないことはあり得ないことが理解され得る。したがって、本発明によれば、フッ素化コーティングは、OEKO-TEXおよび/またはDIN CEN/TS15968:2010による規格100に準拠して、過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩を含まないと理解されるべきである。
【0038】
原理的に、先に説明した工程PT、DNF、DFおよびIGは、任意の順序のいずれかで行うことができ、いくつかの工程を1回超で行うことが可能である。好ましい一実施形態では、工程は、以下:工程PT、工程DNF、工程DF、工程IGおよび、場合により、再度、工程DNF、の順序で行われる。先に規定した順序での工程によって、疎油性および疎水性コーティングが設けられることになる物体の処理は、優れた結果をもたらすことが認識される。
【発明の効果】
【0039】
本発明に基づくと、物体上に形成された、過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩を含まないフッ素化ポリマーコーティングを含む、物体を生成することが可能である。この物体は、例えば、携帯機器における保護性通気孔として、多数の用途:音響通気孔、換気フィルター、燃料ろ過、水分離、衣類、梱包、建物および電子シール/回路基板、靴、創傷被覆材またはフェイシャルマスク用のフィルターとして使用することができる。本発明は、携帯電話、ポータブルメディアプレーヤー、高忠実度機器、タブレット、ラップトップ、あらゆる種類のポータブルデバイス、およびテレビなどの電子機器または電気機器をさらに対象とする。本発明による物体は、輸液/輸血/血液フィルター、マットレス(matrass)、枕、羽毛布団、寝具、(電気)機器(室内および/または室外)用換気フィルター、(外科用)マスク、(外科用)コート、静脈内インラインフィルターセット、特に医療用装具における加圧ろ過装置などのヘルスケアにおける多様な換気用途、室内換気および産業用途の換気バリア媒体に使用することができる。
【0040】
本発明は、以下に示す、添付の図面に概略的に例示されている好ましい例示的な実施形態によってさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】物体表面の様々な蒸着フィルムの例示を含めた、本発明の方法の概略フローチャートの組合せを示す図である。
図2】ポリマー製コンポジット布地を生成する方法の概略図である。
図3】DF/DNFコーティング物品、およびC6コーティング物品の接触角の比較を示す略図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図1の左側に、本発明によるいくつかの工程を含む、概略フロー図が示されている。図1の右側は、物体表面の蒸着された層を例示する。
【0043】
この実施形態によれば、最初に、工程PTが行われる。この工程では、異なる次の層を表面に蒸着させる基材とするために、物体の表面のプラズマ前処理が行われる。プラズマ処理は、好ましくは低圧雰囲気の密閉チャンバ内で行われる。この処理の目的は、次のポリマーを良好に蒸着するよう、基材または物体の表面を清浄することである。プラズマ処理により、使用した出力に応じて、基材の表面を粗面化することも可能であり、その結果、次の層を、一層良好に接着することができる。時として、この粗面化は、基材の物質内部への微小な溝の生成と見なされる。
【0044】
PT工程後、DNF工程を行い、物体表面に非フッ素化ポリマーコーティングを蒸着する。好ましくは、コーティングされる物体は、全処理プロセスの間、低圧または真空のチャンバ内に維持される。
【0045】
非フッ素化ポリマーコーティングは、オルガノシラン(トリメチルシランなど)、シロキサン(ヘキサメチルジシロキサン、テトラメチルシランなど)、炭化水素(メタン、エタン、アセチレンなど)、およびそれらの混合物に基づいて行うことができる。
【0046】
図1の右側において見ることができるように、工程PTの清浄後、最初の蒸着層DNFが、基材表面に施される。
【0047】
DNF工程の後に、工程DFが実行され、ここで、フッ素化ポリマーコーティングが、前のDNF層表面に蒸着される。非常に単純に図1の右側だけに示されている、これらの2層を組み合わせるために、基材の表面全体を確実に、コーティングすることができる。通常、層の蒸着は、このように一定ではないことがある。
【0048】
DF工程のフッ素化ポリマーコーティングは、超短鎖パーフルオロカーボン(ヘキサフルオロプロペン、オクタフルオロプロペン、トリフルオロプロペン、ペンタフルオロプロペンなど)、フッ素系界面活性剤、C1/C2/C3の二フッ化炭素ベースのアクリルモノマー、フッ素化アクリレート(パーフルオロジメチルシクロヘキサン)に基づいて行うことができる。
【0049】
DF工程の後に、工程IGが実行され、ここで、先に二重コーティングされた基材、したがって、2種のコーティングが、阻害ガスに曝露される。この曝露の目的は、過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩の形成を阻害することであり、コーティング済み物体を酸素と接触するようにすべきである。
【0050】
すなわち、水素、窒素、炭化水素およびまたはそれらの混合物を使用する阻止工程の間の後処理は、上記の蒸着したコーティング中に形成される残留反応性中間体を不活性化することができ、こうして、連鎖、飽和などによる化学的不活性コーティングを生成することができる。
【0051】
本発明によれば、工程IGが行われるまで、処理されたコーティング済み物体は、実質的に酸素不含雰囲気中で取り扱われるのが必須となり得る。本発明によれば、これは、ある意味では、処理および蒸着のすべてが、真空雰囲気、低圧雰囲気、または空気中に存在する外部酸素を含まない雰囲気を有するチャンバ内で行われることが理解され得る。チャンバ内が真空である場合、基材に由来する酸素化物質を含む水蒸気の脱ガスが起こることがあり、したがって、100%酸素不含雰囲気を達成することは困難である。しかし、これらの少量の酸素化物質は、負の影響を何ら及ぼすことはなく、過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩の形成を阻害する。
【0052】
工程IGを実行した後、原理的に、コーティングされた物体を使用することができるか、またはさらなる加工のために送られる。
【0053】
しかし、この実施形態では、物体の特徴をさらに改善するため、追加のDNF工程を見越して、さらなるコーティングを設ける。これに関連して、この工程の間に非フッ素化ポリマーを使用するために、酸素と組み合わせて過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩をもたらす恐れのある、重要なラジカルおよび活性物質の生成は起こらず、その結果、この工程は、酸素を含む大気圧下でも行われ得ることを強調することができる。
【0054】
単純にして図1の右側に見ることができる通り、この方法でコーティングされる物体には、2つの非フッ素化ポリマーコーティングによってはさまれた、フッ素化ポリマーコーティングが設けられている。
【0055】
一般に、コーティングされる物体は、任意の種類とすることができる。好ましくは、本発明の方法は、1つまたは複数の担体層および1つまたは複数の膜から作製されたコンポジット膜をコーティングするために使用される。この場合のさらなる例を以下の図に説明する。
【0056】
図2のスキームは、担体層を含むコンポジットのようなポリマー製布地の製造プロセスの例を示している。収集基材(上の図)であって、この表面にエレクトロスピニング膜が形成されている収集基材(最初の生成工程)が示されている。エレクトロスピニング膜は、一般に公知の概念に準拠して形成され、以下にさらに記載されている。
【0057】
第2の工程では、形成された膜は、担体層に移されて結合され(結合1)、エレクトロスピニング膜が形成された元の収集基材は、場合により除去される(収集基材の除去)。図示されている通り、担体層は、メッシュまたは布地とすることができる。
【0058】
場合により、第2の外側層との第2の結合(結合2)が行われ、その後に任意のカレンダー加工プロセスを行うことができる。したがって、エレクトロスピニング膜は、2つの同じ層または異なる層の間に、場合により配置されて、サンドイッチ構造を形成することができる。第2の外側層は、例えば、メッシュ、ライニングまたは不織材料として設けることができる。最後に、本発明のプラズマコーティングは、少なくとも1つの担体層および膜に施される。
【0059】
疎水性特徴のみを実現する第1の層、ならびに疎水性特徴および疎油性特徴を実現する次の層が、蒸着されてもよい。第1の層は、pp-HMDSO、フッ素ドープしたHMDSO、DLCまたはフッ素ドープしたDLC層とすることができる。さらに外側の層は、1個だけ、2個または3個のC原子を含むPFASに基づく層、および/またはPFPEに基づく層であってもよい。
【0060】
エレクトロスピニング
ナノファイバーウェブを作製する方法が、WO2006/131081、WO2008/106903に例示されている。
【0061】
手短に述べると、エレクトロスピニングプロセスでは、高電圧を使用して、ピペットから、ポリマー溶液または溶融物の荷電を帯びたジェットを生成させる。溶液のジェットは、収集用スクリーンに到達する前に、揮発するかまたは固化し、小さな繊維の相互結合ウェブとして収集される。電極の一方は、スピニング溶液/溶融物内に置かれており、もう一方の電極は、コレクタに取り付けられている。大部分の場合、コレクタは、単に接地されている。その表面張力によって保持される流体溶液を含むキャピラリー管の末端に、電場がかけられる。これによって、液体の表面に帯電が誘導される。相互電荷反発および対電極への表面電荷の収縮により、表面張力に直接、対向する力が生じる。電場の強度が強くなるにつれて、キャピラリー管の先端部の流体の半球表面が伸長して、テイラーコーンとして知られている円錐形状を形成する。電場をさらに高くすると、反発静電力が表面張力に打ち勝つ臨界値に到達し、流体の荷電ジェットがテイラーコーンの先端部から噴出される。放たれたポリマー溶液のジェットは、不安定過程および伸長過程を受け、これによって、ジェットは、非常に長くかつ薄くなることが可能となる。その間に、溶媒は蒸発し、荷電したポリマー繊維が後に残る。溶融物の場合、放たれたジェットは、空気中を移動する場合、固化する。
【0062】
ボンディング方法
様々なボンディング技術が利用可能である。ホットメルトグラビア積層加工技術、超音波ボンディング技術、ディップボンディング技術、UFDファイバースプレー技術(ホットメルト)およびスパンウェブボンディング技術を挙げることができる。
【0063】
ホットメルトグラビア積層加工技術は、インラインプロセス向けに工業的に確立されている。したがって、2つの工程のボンディングを、「サンドイッチ」タイプの膜に対して、1本のラインで行うことも可能である。多目的ホットメルト積層およびコーティングシステムを使用するものであり、このシステムは、ドットコーティング用のグラビア印刷ローラ、リボルバー吐出ヘッド(ポジ/ポジまたはネガ/ネガ)および塗布用ローラおよびラミネートローラおよび逆圧ローラからなる。
【0064】
グラビア印刷ローラは、接着剤を用いるドットコーティングに使用され、これによって、2種の異なるPUベースの反応性接着剤(1つは、PU eスピニング膜用であり、もう一方は、PA6膜用である)を使用することができる。高い結合強度は、約15~25%の透気損失によって得ることができる。接着剤は、膜の最終用途の間の問題(適合性、物理的および化学的適性、医療グレートおよび食品グレードなど)を回避するように注意深く、選択されなければならない。物質の硬化が、接着剤のために観察される。
【0065】
エレクトロスピニングプロセスの前に、担体を前処理するため、ディップボンディング技術(化学的ボンディング)を使用することができ、これは、時として、好ましい。同様に、結合のための追加のプロセス工程をなくすことができ、これが主な利点である。次に、2つの層の積層を第2の結合、例えば、ホットメルト、スパン-ウェブ、UFDなどに使用して、多層通気孔を形成することができる。
【0066】
UFDは、ファイバースプレー技術であり、ホットメルト接着アプリケータに対する最も進歩した技術である。ラミネートプレート技術(LPT)を適用し、接着剤のフィラメントより糸を生成する。加熱空気を使用して、それらのより糸を伸長し、ランダムパターンまたは秩序あるパターンで、これらのより糸を横にする。多くの場合、UFD技術を使用することによって、接着剤を高精度に塗布することによって、結合強度または耐久性に悪影響を及ぼすことなく、接着剤の使用量を20~50%削減することができる。非接触モードが利用可能であり、これによって、積層加工中にe-スパン繊維が損傷する可能性が低くなる。UFD技術は、ホットメルトグラビア印刷積層加工よりも清浄なプロセスである。
【0067】
スパンウェブボンディング技術は、閉鎖表面を有するフィルムよりもむしろ三次元構造をもたらす。開放構造であることにより、得られた積層は、一層、可撓性で高い透気性になる。ウェブは、様々な物質、コポリアミド、コポリエステル、コポリオレフィン、ポリウレタンなどから作製される。スパンウェブ技術は、非常に単純なプロセスである。積層加工中の考慮すべき3つの主要なパラメータは、温度、圧力および時間である。
【0068】
カレンダー加工
カレンダー加工は、布地、メッシュ、ラミネート通気孔などの材料表面に使用されて、一層滑らか、かつ一層薄い材料を得、これによって、この材料は、高温および高圧で、ローラ間またはローラの下を通過する。細孔のサイズおよび形状は、カレンダー加工条件に応じて影響を受け得る。
【0069】
プラズPECVD
繊維製品または他の物質のプラズマ処理が、撥水性および撥油性のようなそれらの表面特性を改善するために、繊維製品の仕上げ加工として、すなわち、工業繊維製品および医療繊維製品に対して、ならびにコンポジット材料に対して施され得る。これは、他の物質および小型物体にも可能である。従来の湿式化学繊維製品の仕上げに比べ、プラズマ技術は、環境問題に関して、利点を示す。PECVD処理の場合、例えば、接着特徴の改善、親水性の増大、表面への特別の官能基の導入、または表面幾何形状の修飾を得ることができる。
【0070】
プラズマ重合またはPECVDとして一般に知られている、プラズマ蒸着では、非常に薄いポリマー層(ナノスケール)を基材表面に蒸着することができる。層は、有機前駆体ガスの重合により形成され、これは、基材表面で直接、重合される。従来の重合とは対照的に、プラズマ重合は、その反応性を制限しない、各モノマーガスまたは蒸気を使用することができる。プラズマポリマーは、分岐状のランダムな末端鎖および高い架橋度を有する、非従来的な重合挙動を示す。
【0071】
プラズマポリマーのバルク構造は、完全に不規則であり、従来のポリマーのバルク構造とは大きく異なる。プラズマポリマーコーティング(ナノ薄膜)は、体積あたりの官能基の密度が高いこと、架橋性かつ分岐状のプラズマポリマーネットワークが高度であること、ナノメートル厚さのコーティングであること、基材へのコーティングの接着性が高いこと、および基材のバルク特性が不変である点が、従来のポリマーとは異なり、基材は、ポリマー製布地とすることができる。
【0072】
プラズマ処理は、布地の場合、ロールツーロールシステムにおいて、複数のローラおよび/またはエクスパンダを有するプラズマチャンバ内で行うことができ、このシステムは、好ましくは約13MHz~14MHz、好ましくは約13.5MHzのラジオ波で、または直流電流(DC)電源で作動することができる。先に説明した好ましいすべての工程DF、DNF、PTおよびIGは、このプラズマチャンバ内で行われる。
【0073】
性能実施例
以下に、C3フッ素化化学品に基づいた、DFコーティングを含む、本発明によりコーティングされる布地の性能および特性を示す。
【実施例0074】
4種の液体の接触角を、2つの異なる物品上でDIN55660-2に準拠して測定し、一方の物品は、C3ベースのコーティング(DF)、DNFコーティング剤およびIG工程を組み合わせてコーティングされており、もう一方は、C6ベースのFCコーティング(ベンチマーク)でコーティングされている。図3において分かる通り、類似の疎水性および疎油性が、C6ベースのコーティングに比べて、超短鎖の環境に優しいC3ベースのコーティング(DF)を用いた場合でさえも実現された。さらに、物品3A07-0019-115-XXの場合の接触角のわずかな増大が、物品3A07-0025-158-XXと比べて見出された。これは、以下の通り説明することができ、布地の密度が高いほど(メッシュ開口部がより小さい)、および3A07-0019-115-XXのフィラメントが微細であるほど、優れた反発作用に寄与する。
【実施例0075】
プラズマコーティング(DN、DNFおよびIG工程)が、確実に、基材と十分に接着するために、内部洗浄試験を40℃の温度で、47分間行う。表3により、コーティングの高い耐洗浄性があることが明らかである。DIN55660-2に準拠して測定した3種の液体を用いる接触角に、わずかな低下があり、物体への高いコーティング接着があることを実証する。洗浄後の物体の撥油性もまた、8種の異なる液状油を使用して、AATCC118に準拠して評価し、結果は、洗浄後に、撥油性に変化を示さない。したがって、本発明に基づいて、優れた疎水性特徴および疎油性特徴を有するポリマー製布地表面にロバストかつ信頼性の高いコーティングを得ることが可能である。
【0076】
【表3】
【実施例0077】
水の分離効率を評価するため、DNFおよびDFコーティングしたポリエステル物品に対して、ISO/TS16332規格に準拠して試験を行う。表4において、C6ベースのコーティング(ベンチマーク)に比べ、C3ベースの環境的に優しいコーティングを用いた場合でさえも、90%を超える水分離効率という同等の結果が得られたことが分かり得る。
【0078】
【表4】
【0079】
性能試験の他に、同様に、本発明によりコーティングされた布地の内毒素および血液適合性試験を行った。
【0080】
内毒素試験は、医療的用途の製品の可能性を判定するために行う。内毒素の限度は、薬局方(EP10、2020年1月および米国薬局方42、2019年5月01日<85>)に準拠して計算する。DFおよびDNFをコーティングした物品のどちらも、内毒素を限度未満で含有し、この試験に合格した。
【0081】
血液に接触する物質の血液適合性はまた、医療的用途の場合の最も重要な診断基準の1つである。新規に開発したコーティング物質と血液との間の相互作用を、ISO10993-4およびISO10993-12に準拠して広範囲に分析し、適用時の血液構成成分の活性化および破壊を防止する。コーティングされた物品の血液適合性分析を以下の表5に要約し、すべてのコーティング物品がこの試験に合格した。
【0082】
【表5】
【0083】
医療的用途における生体適合性要件を満たすため、ISO10993-5に準拠して、DNFおよびDFコーティングしたポリエステル物品に対して、細胞毒性試験を行い、コーティングした物品が、どの程度、損傷し得るか、またはヒト(humane)細胞の死亡をどの程度、引き起こすことさえあるかを判定する。細胞形態および細胞生存率の光学的評価が、表6に提示されている。コーティングは、ほとんど、細胞成長を阻害しないことが判明した。コーティングに対する細胞生存率もまた、非常に良好であり、したがって、コーティングは、ISO10993-5の要件を満たす。
【0084】
【表6】
【0085】
本発明に基づくと、プラズマ蒸着プロセスによって蒸着された、過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩を含まないフッ素化ポリマーコーティングを有する物体を生成する方法を提供すること、ならびに過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩を含まないフッ素化ポリマーコーティングを含む物体を提供することが可能である。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2024-02-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩を含まないフッ素化ポリマーコーティングを有する物体を生成する方法であって、
フッ素化前駆体モノマーのプラズマ重合によって、前記物体上に前記フッ素化ポリマーコーティングを蒸着する工程DFと、
前記物体を、蒸着された前記フッ素化ポリマーコーティング内または前記フッ素化ポリマーコーティング上で、過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩の形成を阻害する阻害ガスに曝露する工程IGと、
を含み、
前記工程IGは前記工程DFの後に行われ、
前記工程DFの開始から前記工程IGの終了まで、前記物体が、実質的に酸素不含雰囲気中で処理される、方法。
【請求項2】
前記工程IGにおいて、前記阻害ガスに前記物体を曝露している間に、プラズマが存在しないこと、前記工程DFのプラズマ出力の半分未満のプラズマ出力でのプラズマが存在すること、または前記工程DFのプラズマ出力に等しい最大プラズマ出力でのプラズマが存在することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
非フッ素化前駆体モノマーのプラズマ重合によって、前記物体上に非フッ素化ポリマーコーティングを蒸着する工程DNFをさらに含み、
前記工程DNFが、前記工程DFの前および/または後に行われることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記工程DFで前記フッ素化ポリマーコーティングを蒸着させるためのプラズマ蒸着プロセス、および/または前記工程DNFで前記非フッ素化ポリマーコーティングを蒸着するためのプラズマ蒸着プロセスが、低圧プラズマプロセス、および/または保護雰囲気下での大気圧プラズマプロセスであることを特徴とする請求項1または3に記載の方法。
【請求項5】
前記工程IGの前記阻害ガスが、水素、窒素、炭化水素、それらの混合物、および/またはこれらのガスのいずれかを含有するガス混合物であることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記工程DFの前記フッ素化ポリマーコーティングが、パーフルオロカーボンまたは過フッ素化炭化水素を使用して行われることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記工程DNFにおける非フッ素化ポリマーコーティングが、オルガノシラン、シロキサンおよび/または炭素水素前駆体を使用して行われることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項8】
不活性ガスおよび/または反応性ガスを使用する大気圧または低圧プラズマによる、前記物体の前処理の工程PTをさらに含み、
前記工程PTが、好ましくは第1の工程として、工程DNFおよび/またはDFの前に行われることを特徴とする請求項1または3に記載の方法。
【請求項9】
前記工程DF、PTおよび/またはDNFのプラズマ蒸着の間にコーティング済みの前記物体上に形成されるプラズマベースの反応性種を不活性化するために、前記工程DF、PTおよび/または工程DNFを行った後に、とりわけ、直接、前記工程IGを毎回実施
することを特徴とする請求項1、3または8に記載の方法。
【請求項10】
前記工程DFにおいて、前記物体上に蒸着される前記フッ素化ポリマーコーティングが、厚さ5nm~300nmを有すること、および/または
前記工程DNFにおいて、前記物体上に蒸着される前記非フッ素化ポリマーコーティングが、厚さ30nm~700nmを有することを特徴とする請求項1または3に記載の方法。
【請求項11】
プラズマ出力が、前記工程DFおよび/または前記工程DNFの間、1cm2の電極表面あたり1W未満、好ましくは1cm2の電極表面あたり500mW未満、またはより好ましくは1cm2の電極表面あたり200mW未満であることを特徴とする請求項1または3に記載の方法。
【請求項12】
前記物体が、メッシュ織布、織布、編布、不織布、メルトブローン不織布、スパンボンド不織布、膜、コンポジット膜のポリマー材料、およびそれらの組合せを含むことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項13】
前記フッ素化ポリマーコーティングが、OEKO-TEXおよび/またはDIN CEN/TS15968:2010による規格100に準拠して、過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩を含まないことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項14】
非フッ素化前駆体モノマーのプラズマ重合によって、前記物体上に非フッ素化ポリマーコーティングを蒸着する工程DNFと、
不活性ガスおよび/または反応性ガスを使用する大気圧または低圧プラズマによる、前記物体の前処理の工程PTと、
をさらに含み、
工程が、以下:
1.工程PT
2.工程DNF
3.工程DF
4.工程IGおよび、場合により
5.再度、工程DNF
の順序で行われることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項15】
請求項に記載の方法によって、物体上に形成された、過フッ素化酸およびポリフッ素化酸、ならびにそれらの塩を含まないフッ素化ポリマーコーティングを含む、物体。
【外国語明細書】