(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078450
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】エレクトレットシート、エレクトレットシートの製造方法及び圧電センサ
(51)【国際特許分類】
H10N 30/30 20230101AFI20240603BHJP
C08J 9/36 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
H10N30/30
C08J9/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023200724
(22)【出願日】2023-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2022190579
(32)【優先日】2022-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 聖
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩造
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA17
4F074AA24
4F074AA98
4F074BA13
4F074BB25
4F074BB27
4F074CA29
4F074CC02Z
4F074CC06X
4F074CC53Z
4F074CD08
4F074DA02
4F074DA23
4F074DA47
(57)【要約】
【課題】高温環境下での耐久性に優れつつ、高い圧電性を備えるエレクトレットシート、該エレクトレットシートの製造方法及び該エレクトレットシートを用いた圧電センサを提供する。
【解決手段】合成樹脂を含み、JISK7131:1994に準拠した熱刺激電流測定におけるヘテロ電流が最小となる温度が100℃以上であり、前記ヘテロ電流の最小値が-40pA以下であるエレクトレットシート。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂を含み、
JISK7131:1994に準拠した熱刺激電流測定におけるヘテロ電流が最小となる温度が100℃以上であり、
前記ヘテロ電流の最小値が-40pA以下であるエレクトレットシート。
【請求項2】
合成樹脂を含み、
JISK7131:1994に準拠した熱刺激電流測定におけるヘテロ電流が最小となる温度が100℃以上であり、
前記ヘテロ電流の最小値が-50pA以下である、請求項1記載のエレクトレットシート。
【請求項3】
前記合成樹脂は合成樹脂発泡シートである、請求項1記載のエレクトレットシート。
【請求項4】
前記合成樹脂発泡シートは気泡膜が帯電している、請求項3記載のエレクトレットシート。
【請求項5】
体積固有抵抗値が1.0×1014Ω・cm以上である、請求項1、2、3又は4に記載のエレクトレットシート。
【請求項6】
前記合成樹脂はポリオレフィン系樹脂を含有する、請求項1、2、3又は4に記載のエレクトレットシート。
【請求項7】
前記合成樹脂はポリプロピレン系樹脂を含有する、請求項1、2、3又は4に記載のエレクトレットシート。
【請求項8】
無機微粒子を含まない、請求項1、2、3又は4に記載のエレクトレットシート。
【請求項9】
請求項1、2、3又は4記載のエレクトレットシートを含む圧電センサ。
【請求項10】
請求項1、2、3又は4記載のエレクトレットシートの製造方法であって、前記合成樹脂を帯電させる工程と、帯電した前記合成樹脂を養生する工程とを有するエレクトレットシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトレットシート、該エレクトレットシートの製造方法及び該エレクトレットシートを用いた圧電センサに関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトレットシートは絶縁性の高分子材料の内部に永久帯電を付与した材料である。エレクトレットシートとしては、合成樹脂を含み、気泡を形成している気泡膜及びこの近傍部を帯電させることによってセラミックスに匹敵する非常に高い圧電性を示すものが知られている。このような合成樹脂を含むエレクトレットシートは、その優れた感度を利用して音響ピックアップや各種圧力センサなどへの応用が提案されている。
【0003】
エレクトレットシートとして、特許文献1には、塩素化ポリオレフィンが付与されているシートであって、かつ、該シートが1×10-10クーロン/cm2以上の表面電荷密度を有するエレクトレットシートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、特許文献1のようなエレクトレットシートは、高温環境下又は経時で出力が低下していく、つまり、耐久性が低下することがあった。
【0006】
本発明は、高温環境下での耐久性に優れつつ、高い圧電性を備えるエレクトレットシート、該エレクトレットシートの製造方法及び該エレクトレットシートを用いた圧電センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、エレクトレットシートの耐久性を向上させるため、所定温度、時間で養生し、不安定な帯電状態を安定化させる方法を考案した。しかし、このような養生を行うと耐久性は向上するものの、出力が低下し、圧電性が低下してしまうことがあった。上記課題に鑑み本発明者は、エレクトレットシートの圧電性には、エレクトレットシートが保持する電荷およびエレクトレットシートの分極状態の双方が関与すること、特に分極状態の安定化が耐久性および圧電性の向上に大きく関与することを見出した。本発明者はこの知見に基づいて更に研究を進めた結果、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、以下の1~10の開示から構成される。以下、本発明について詳述する。
[開示1]
合成樹脂を含み、
JISK7131:1994に準拠した熱刺激電流測定におけるヘテロ電流が最小となる温度が100℃以上であり、
前記ヘテロ電流の最小値が-40pA以下であるエレクトレットシート。
[開示2]
合成樹脂を含み、
JISK7131:1994に準拠した熱刺激電流測定におけるヘテロ電流が最小となる温度が100℃以上であり、
前記ヘテロ電流の最小値が-50pA以下である、開示1に記載のエレクトレットシート。
[開示3]
前記合成樹脂は合成樹脂発泡シートである、開示1又は2に記載のエレクトレットシート。
[開示4]
前記合成樹脂発泡シートは気泡膜が帯電している、開示3に記載のエレクトレットシート。
[開示5]
体積固有抵抗値が1.0×1014Ω・cm以上である、開示1~4のいずれかに記載のエレクト
レットシート。
[開示6]
前記合成樹脂はポリオレフィン系樹脂を含有する、開示1~5のいずれかに記載のエレクトレットシート。
[開示7]
前記合成樹脂はポリプロピレン系樹脂を含有する、開示1~5のいずれかに記載のエレクトレットシート。
[開示8]
無機微粒子を含まない、開示1~7のいずれかに記載のエレクトレットシート。
[開示9]
開示1~8のいずれかに記載のエレクトレットシートを含む、圧電センサ。
[開示10]
開示1~8のいずれかに記載のエレクトレットシートの製造方法であって、前記合成樹脂を帯電させる工程と、帯電した前記合成樹脂を養生する工程とを有する、エレクトレットシートの製造方法。
【0009】
本発明のエレクトレットシートは、合成樹脂を含む。
上記合成樹脂は電荷を注入して帯電させることで、エレクトレットとしての性質を示す。尚、本発明において「帯電」とは電荷を保持している状態及び/又は分極している状態のことを示す。上記合成樹脂は、エレクトレット化できる程度の絶縁性を有していれば特に限定されないが、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリ乳酸、液晶樹脂などが挙げられる。なかでも、エレクトレットシートとした際の電荷保持の安定性および分極状態の安定性の観点からポリオレフィン系樹脂を含有することが好ましく、ポリプロピレン系樹脂を含有することがより好ましい。上記合成樹脂は、単独の樹脂からなっていてもよく複数の樹脂からなっていてもよい。なお、上記合成樹脂はシート状に成型された合成樹脂シートである。
【0010】
上記ポリエチレン系樹脂としては、例えば、エチレン単独重合体、又は、エチレン成分を50質量%を超えて含有するエチレンと少なくとも1種の炭素数が3~20のα-オレフィンとの共重合体が挙げられる。エチレン単独重合体としては、高圧下でラジカル重合させた低密度ポリエチレン(LDPE)、中低圧で触媒存在下で重合させた中低圧法高密度ポリエチレン(HDPE)などが挙げられる。エチレンとα-オレフィンを共重合させることで直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を得ることができ、α-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどが挙げられ、なかでも炭素数が4~10のα-オレフィンが好ましい。なお、直鎖状低密度ポリエチレン中におけるα-オレフィンの含有量は通常、1~15重量%である。
【0011】
上記ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン成分を50重量%より多く含有していれば、特に限定されず、例えば、プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)、プロピレンと少なくとも1種のプロピレン以外の炭素数が20以下のオレフィンとの共重合体などが挙げられる。なお、ポリプロピレン系樹脂は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。また、プロピレンと少なくとも1種のプロピレン以外の炭素数が20以下のオレフィンとの共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体の何れであってもよい。
【0012】
上記炭素数が20以下のオレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。
【0013】
上記合成樹脂は、多官能モノマーを用いて架橋されていることが好ましい。多官能モノマーを用いることによって、合成樹脂の架橋効率を向上させることができるため、微弱な応力下においても優れた圧電性を発揮することができる。
【0014】
上記多官能モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメリット酸トリアリルエステル、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、シアノエチルアクリレート、ビス(4-アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパンなどが挙げられる。なかでも、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレートが好ましい。なお、(メタ)アクリレートは、メタクリレート又はアクリレートを意味する。
【0015】
上記多官能モノマーの含有量は、合成樹脂100重量部に対して0.1重量部以上10重量部以下が好ましく、0.5重量部以上8重量部以下がより好ましい。多官能モノマーの量が0.1重量部以上であることで、合成樹脂の架橋効率をより向上させることができる。多官能モノマーの量が10重量部以下であることで、より微弱な応力下においても優れた圧電性を発揮することができる。
【0016】
上記合成樹脂は、合成樹脂の電荷保持力を向上させることができることから、延伸されていることが好ましい。合成樹脂の延伸方法としては、例えば、(1)合成樹脂の長さ方向(押出方向)又は幅方向(押出方向に直交する方向)に延伸を行う一軸延伸法、(2)合成樹脂の長さ方向(押出方向)及び幅方向(押出方向に直交する方向)の双方向に延伸を行う二軸延伸法、(3)合成樹脂の幅方向(押出方向に直交する方向)を固定した状態で長さ方向(押出方向)に延伸を行う延伸法、及び(4)合成樹脂の長さ方向(押出方向)を固定した状態で幅方向(押出方向に直交する方向)に延伸を行う延伸法などが挙げられる。
【0017】
上記合成樹脂は、合成樹脂発泡シートであることが好ましい。
上記合成樹脂が合成樹脂発泡シートである、つまり、上記合成樹脂が発泡体であることで、圧電性をより高めることができる。また、合成樹脂発泡シートの発泡倍率を調節することで、後述するヘテロ電流が最小となる温度及びヘテロ電流の最小値を本発明の範囲に調整しやすくすることができる。
【0018】
なお、ここで発泡倍率とは、下記の要領で測定された見かけ密度の逆数の値をいう。
合成樹脂発泡シートから一辺10cmの平面正方形状に切り出して試験片を作製する。合成樹脂発泡シートの厚みをJIS K7222(2005)「発泡プラスチック及びゴム―見掛け密度の求め方」に準拠して測定する。試験片の任意の5カ所について厚みを測定し、5カ所の厚みの相加平均値を試験片の厚みとする。得られた試験片の厚みを用いて試験片の見掛け体積(cm3)を算出する。試験片の質量を電子天秤を用いて測定する。試験片の見掛け体積(cm3)を試験片の質量(g)で除した値を合成樹脂発泡シートの見かけ密度とする。なお、試験片の質量を測定するための電子天秤としては、例えば、アズワン社から商品名「校正分銅内蔵精密電子天秤」にて市販されている電子天秤又はその同等品が挙げられる。
【0019】
上記合成樹脂発泡シートの発泡倍率は、後述するヘテロ電流が最小となる温度及びヘテロ電流の最小値が本発明の範囲となるように他の条件も勘案した上で適宜調節されるが、例えば、3倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましく、8倍以上であることが更により好ましく、40倍以下であることが好ましく、30倍以下であることがより好ましく、20倍以下であることが更により好ましい。上記範囲の発泡倍率とすることで、後述するヘテロ電流が最小となる温度及びヘテロ電流の最小値を本発明の範囲に調整しやすくすることができるとともに、エレクトレットシートとした際の柔軟性が向上し、圧力に対する変形度合いが大きくなることから、圧電性をより高めることができる。また、上記範囲の発泡倍率とすることで、エレクトレットシートとした際の機械的強度が向上し、圧縮永久歪みが小さくなることから、圧電性をより長期間維持することができる。
【0020】
上記合成樹脂発泡シートを製造する方法は特に限定されず、例えば、合成樹脂、熱分解型発泡剤及び必要に応じて多官能モノマーを押出機に供給して熱分解型発泡剤の分解温度未満の温度にて溶融混練し押出機に取り付けたTダイから発泡性合成樹脂シートを押出し、この発泡性合成樹脂シートを必要に応じて架橋した上で、発泡性合成樹脂シートを熱分解型発泡剤の分解温度以上に加熱して発泡させて合成樹脂発泡シートとする方法が挙げられる。
【0021】
上記熱分解型発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、トルエンスルホニルヒドラジド、4,4-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)等が挙げられる。
【0022】
上記合成樹脂発泡シートは、気泡膜が帯電していることが好ましい。
無機微粒子等の帯電した物質を合成樹脂発泡シートに配合するのではなく、上記合成樹脂発泡シート自体が帯電していることで、圧電性をより高めることができる。
【0023】
上記合成樹脂の厚み(エレクトレットシートが合成樹脂のシートのみから構成される場合は本発明のエレクトレットシートの厚み)については特に限定されないが、30μm以上250μm以下が好ましく、50μm以上200μm以下がより好ましい。合成樹脂の厚みが10μm以上であると、合成樹脂発泡シートとしたときに厚み方向の気泡数を確保することができることから、エレクトレットシートとした際の圧電性をより向上させることができる。合成樹脂の厚みが250μm以下であると、エレクトレットシートの気泡壁を分極状態で効果的に帯電させることができることから、エレクトレットシートとした際の圧電性の安定性をより向上させることができる。合成樹脂の厚みを制御する方法は特に限定されず、上述の延伸する方法や、シート状の合成樹脂の厚み方向と垂直な方向にスライスする方法等が挙げられる。
【0024】
上記合成樹脂は、JIS K6911に準拠して印加電圧500Vにて電圧印加1分後の体積固有抵抗値(以下、単に「体積固有抵抗値」という)が1.0×1010Ω・cm以上であることが好ましい。合成樹脂の体積固有抵抗値が上記範囲であることで、得られるエレクトレットシートにより優れた圧電性を付与することができる。上記合成樹脂の体積固有抵抗値は、1.0×1012Ω・cm以上が好ましく、1.0×1014Ω・cm以上がより好ましい。上記合成樹脂の体積固有抵抗値の上限は特に限定されないが、通常1.0×1020Ω・cm未満である。
なお、上記体積固有抵抗値は、具体的にはJIS K6911に準拠して以下の手順で測定を行う。
まず、直径約100mmの試験片を準備し、厚みを測定する。試験片の厚みはマイクロメータで0.01mmまで正確に測定する。次いで、得られた試験片を裏面電極上に載置して10分間放置した後、試験片上に表面電極を載置することで表面電極と裏面電極の間に試験片を挟む。その後、電圧計および電流計を接続し電極間に直流電圧500Vを1分間印加する。電圧計および電流計の数値を読み取り、下記式(1)より体積抵抗値(Ω)を算出し、得られた体積抵抗値を用いて下記式(2)より体積固有抵抗値(Ω・cm)を算出する。なお、試験環境は20±2℃、65%RHとする。
Ω(R)=電圧(V)/電流(A) (1)
ρv=πd2Rv/4t (2)
ρv:体積固有抵抗値(Ω・cm)
d:表面電極の内円の外径(cm)
t:試験片の厚さ(cm)
Rv:体積抵抗値(MΩ)
【0025】
本発明のエレクトレットシートは、無機微粒子を含まないことが好ましい。
本発明のエレクトレットシートが電荷を帯びた無機微粒子を配合することで帯電するのでなく、上記合成樹脂自体が帯電していることで、圧電性等の性能をより向上させることができる。
【0026】
本発明のエレクトレットシートは、JISK7131:1994に準拠した熱刺激電流測定におけるヘテロ電流が最小となる温度が100℃以上であり、上記ヘテロ電流の最小値が-40pA以下である。
また、本発明のエレクトレットシートは、JISK7131:1994に準拠した熱刺激電流測定におけるヘテロ電流が最小となる温度が100℃以上であり、上記ヘテロ電流の最小値が-50pA以下であることが好ましい。
熱刺激電流測定とは、試料を加熱した際に生じる電流を測定することで、試料内の基礎物性を評価することができる測定である。エレクトレットシートに熱刺激電流測定を行ったときのヘテロ電流が最小となる温度とヘテロ電流の最小値が上記範囲であることで、電荷保持安定性と高い圧電性を両立することができ、優れた高温環境下での耐久性を発揮することができる。
なお、具体的にはJIS K7131に準拠して以下の手順で測定を行う。
まず、エレクトレットシートを直径5cmの円状に切り出しての試験片を得る。次いで、得られた試験片を23℃、相対湿度50%において48時間以上静置して温度を下げた後、恒温槽内に上部電極及び下部電極を備える試験片容器の下部電極上に得られた試験片を載せ、試験片の両面に対向するように上部電極を接触させる。続いて、試験片の表面に付いている不要な電荷を取り去るために両電極を短絡させる。その後、10℃/分の速度で昇温し、検出機(デジタル超高抵抗/微小電流計8340A、ADC社製又は同等品)を用いて昇温中の熱刺激電流を読み取り記録する。なお、昇温の最高温度は,試験片の形状が変化を起こさない程度とする。
【0027】
ここで、本願発明のエレクトレットシートに熱刺激電流測定を行った結果の一例を
図1に示す。
図1に示すように、熱刺激電流測定の結果は、温度に対する電流値をプロットした形で得られ、エレクトレットシートに対して測定を行うと、電流値がマイナスの範囲とプラスの範囲にピークを有するプロットが得られる。その内、電流値がマイナスの電流をヘテロ電流、プラスの電流をホモ電流という。ヘテロ電流が生じる領域はエレクトレットシートの分極状態に起因する電流が支配的であることを示し、ホモ電流が生じる領域はエレクトレットシートが保持する電荷に起因する電流が支配的であることを示している。本発明では、ヘテロ電流の最小となる温度とヘテロ電流の最小値(ピークでの値)を特定の範囲とすることで、電荷保持安定性と高い圧電性を両立することができる。
【0028】
電荷保持安定性と圧電性をより高いレベルで両立する観点から、上記ヘテロ電流の最小となる温度は、100℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることが更に好ましい。上記ヘテロ電流の最小となる温度の上限は特に限定されないが、通常200℃以下である。また、同様の観点より、上記ヘテロ電流の最小値は-40pA以下であることがより好ましく、-50pA以下であることが更に好ましく、-60pA以下であることが特に好ましい。上記ヘテロ電流の最小値の下限は特に限定されないが、通常-200pA以上であり、-150pA以上であることが好ましい。なおここで、上記ヘテロ電流の最小値の上限は当該数値より絶対値が大きくなる範囲を表している。
【0029】
上記ヘテロ電流の最小となる温度とヘテロ電流の最小値は様々な方法で調節することができる。具体的には例えば、エレクトレットシートを養生することが挙げられる。その他にも、ヘテロ電流が最小となる温度とヘテロ電流の最小値例えば、上記合成樹脂に電荷を注入する際の電圧印加量、電圧印加距離及び電圧印加速度、電圧印加回数、上記合成樹脂の厚み、上記合成樹脂が合成樹脂発泡シートである場合は発泡倍率を調節する方法、電荷注入後の養生の温度及び時間を調節する方法によっても調節することができる。
【0030】
更に、ヘテロ電流の最小となる温度及びヘテロ電流の最小値は、具体的には次の方法で調整することができる。
ここで、
図2に電荷注入条件を穏やかな条件、適正条件、過激な条件としてそれぞれ製造したエレクトレットシートに熱刺激電流測定を行った結果の一例を示したグラフを示した。まず任意の条件で合成樹脂への電荷注入および養生を行い、熱刺激電流測定を行う。その結果、ヘテロ電流のピークが無い場合(
図2の穏やかな条件のグラフ)は、電荷注入条件が穏やかであり、合成樹脂の分極が不十分な状態であることが示唆される。そのため、電荷注入条件をより過激な条件とすることで合成樹脂が分極しやすくなり、上記ヘテロ電流が最小となる温度と最小値(
図2の適正条件のグラフ)に調節しやすくなる。一方で、ヘテロ電流の最小値が-40pAより大きくなる場合や、ヘテロ電流が最小値となる温度が100℃未満の場合(
図2の過激な条件のグラフ)は、電荷注入条件が過激であり、分極状態由来の電流ではなく、合成樹脂が保持する電荷由来の電流が支配的となっていることが示唆される。そのため、より穏やかな電荷注入条件とすることで、分極状態由来の電流が大きくなりやすく、上記ヘテロ電流が最小となる温度とヘテロ電流の最小値に調節しやすくなる。
上記過激な電荷注入条件とは、例えば、電圧印加量を高くすること、電圧印加距離を短くすること、電圧印加速度を遅くすること、上記合成樹脂の厚みを薄くすること、発泡倍率を高くすることが挙げられる。上記穏やかな電荷注入条件とは、例えば、電圧印加量を低くすること、電圧印加距離を長くすること、電圧印加速度を速くすること、電圧印加回数を少なくすること、上記合成樹脂の厚みを厚くすること、発泡倍率を低くすることが挙げられる。更に具体的には、上記条件は後述の数値範囲で制御することが好ましい。
【0031】
本発明のエレクトレットシートは、上記体積固有抵抗値が1.0×1014Ω・cm以上であることが好ましい。
エレクトレットシートの体積固有抵抗値が1.0×1014Ω・cm以上であると、高温雰囲気下における圧電性の保持性をより高めることができる。上記エレクトレットシートの体積固有抵抗値は、1.0×1015Ω・cm以上であることがより好ましく、1.0×1016Ω・cm以上であることが更に好ましい。上記エレクトレットシートの体積固有抵抗値の上限は特に限定されないが、通常1.0×1020Ω・cm未満である。なお、上記エレクトレットシートの体積固有抵抗値の測定方法は、上記合成樹脂の体積固有抵抗値の測定方法と同様である。
【0032】
本発明のエレクトレットシートの製造方法は、上記ヘテロ電流が最小となる温度とヘテロ電流の最小値を満たすことができれば特に限定されないが、例えば、シート状の上記合成樹脂を帯電させた後に養生することで製造することができる。
このような本発明のエレクトレットシートの製造方法であって、前記合成樹脂を帯電させる工程と、帯電した前記合成樹脂を養生する工程とを有する、エレクトレットシートの製造方法もまた、本発明の1つである。
【0033】
本発明のエレクトレットシートの製造方法は、まず上記合成樹脂を帯電させる工程を行う。
上記合成樹脂を帯電させることで、上記合成樹脂をエレクトレットとすることができる。なお、本発明のエレクトレットシートはシート状であるが、上記合成樹脂をシートにする方法や、上記合成樹脂が合成樹脂発泡シートである場合上記合成樹脂を合成樹脂発泡シートとする方法については、従来公知の方法を用いることができる。
【0034】
上記ヘテロ電流が最小となる温度とヘテロ電流の最小値を満たすための上記電圧印加量(印加電圧)、電圧印加距離及び電圧印加速度は、他の条件によって変動するが、一例として上記電圧印加量は-30kV以上であることが好ましく、-20kV以上であることがより好ましく、-10kV以下であることが好ましく、-12kV以下であることがより好ましい。また、上記電圧印加距離は、30mm以上であることが好ましく、40mm以上であることがより好ましく、100mm以下であることが好ましく、70mm以下であることがより好ましく、上記電圧印加速度は、50mm/s以上であることが好ましく、70mm/s以上であることがより好ましく、500mm/s以下であることが好ましく、400mm/s以下であることがより好ましい。
【0035】
本発明のエレクトレットシートの製造方法は、次いで、帯電した上記合成樹脂を養生する工程を行う。
上記合成樹脂を帯電させた後に養生を行うことで、不安定な電荷が除去されてヘテロ電流の最小値が低下しやすくなる。また、分極状態が安定化されてヘテロ電流が最小値となる温度が高くなる。その結果、高温環境下においてもより高い圧電性を保持することができる。また、養生温度と時間を調節することで、上記ヘテロ電流のピーク温度及び最小値を本発明の範囲に調整しやすくすることができる。従来のエレクトレットシートでは、養生を行い電荷保持の安定性や分極状態の安定性(高温環境下の耐久性)を高めていたが、養生を行うと出力が小さくなり圧電性が低下する傾向があったため、電荷保持安定性と圧電性を両立することが困難だった。本発明では上記ヘテロ電流が最小となる温度とヘテロ電流の最小値が特定範囲となるように製造条件を調節することで、高温環境下での耐久性を高めても高い圧電性能を発揮することができる。
なお、ここで養生とは、一定の温度で一定時間静置する操作のことを指す。養生の方法は特に限定されないが、例えば、エレクトレットシートをアルミニウム箔等の導電性の材料で包んだ状態で一定の温度で一定時間静置することが挙げられる。
【0036】
上記のようにヘテロ電流が最小となる温度とヘテロ電流の最小値を満たすための養生温度と時間は他の条件によって変動するが、一例として上記養生温度は40℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、120℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましい。また、上記養生時間は0.5時間以上であることが好ましく、2時間以上であることがより好ましく、48時間以下であることが好ましく、24時間以下であることがより好ましい。
【0037】
本発明のエレクトレットシートの用途は特に限定されないが、高温環境下での耐久性に優れつつ、高い圧電性を備えていることから、圧電センサに好適に用いることができる。このような本発明のエレクトレットシートを含む圧電センサもまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、高温環境下での耐久性に優れつつ、高い圧電性を備えるエレクトレットシート、該エレクトレットシートの製造方法及び該エレクトレットシートを用いた圧電センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】エレクトレットシートに熱刺激電流測定を行った結果の一例を示したグラフである。
【
図2】電荷注入条件を穏やかな条件、適正条件、過激な条件としてそれぞれ製造したエレクトレットシートに熱刺激電流測定を行った結果の一例を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
(1)合成樹脂の製造
ポリプロピレン系樹脂(ウィンテックWFW4、日本ポリプロ社製、表中ではPP)90重量部、ポリエチレン系樹脂(モアテック0238CN、プライムポリマー社製、表中ではPE)10重量部、アクリル系モノマー(TND-46U、共栄社化学社製)3.3重量部、アゾジカルボンアミド(3245I、大塚化学社製)5.5重量部、フェノール系酸化防止剤(SB-1018RG、ADEKA社製)1.3重量部を押出機に供給して溶融混練してTダイからシート状に押出し、厚みが500μmである合成樹脂を得た。合成樹脂を一辺が30cmの平面正方形状に切り出した。
【0042】
得られた合成樹脂を雰囲気温度25℃にて48時間静置した。得られた合成樹脂の両面に電子線を加速電圧500kV及び強度25kGyの条件にて照射し、合成樹脂を構成しているポリオレフィン系樹脂を架橋した。架橋させた合成樹脂を250℃に加熱して合成樹脂を発泡させて厚み1.1mmの合成樹脂の発泡体を得た。得られた発泡体をスライス装置を用いて、厚み550μmにスライスした。スライスされた発泡体をその表面温度が130℃に維持された状態で自動一軸延伸装置(井元製作所社製、IMC-18C6型)を用いて厚み140μmになるまで押出方向に対して直交する方向に延伸速度300mm/minにて一軸延伸して合成樹脂発泡シートを得た。得られた合成樹脂発泡シートについてJIS K7222(2005)「発泡プラスチック及びゴム―見掛け密度の求め方」に準拠し、具体的には上記の測定方法を用いて測定した見かけ密度の逆数を算出することで発泡倍率を算出した。
【0043】
(2)エレクトレットシートの製造
得られた厚み140μmの合成樹脂発泡シートの第一の面に、アースされた平板電極を密着状態に重ね合わせ、合成樹脂発泡シートの第二の面側(スライスされた面側)に帯電付与装置(シムコジャパン社製、ECM-30N)を用いて、印加電圧-16.5kV、印加距離45mm及び印加速度318mm/sの条件下にてコロナ放電を発生させた。コロナ放電により、空気分子をイオン化させて、針状電極の極性により発生した空気イオンを反発させて合成樹脂発泡シートに直流電界を加えて電荷を注入し、合成樹脂発泡シートを全体的に帯電させた。その後、帯電された合成樹脂発泡シートをアルミニウム箔に包み、80℃、4時間の養生を行うことでエレクトレットシートを得た。
【0044】
(実施例2~6、比較例1~12)
合成樹脂発泡シートの厚みと発泡倍率、帯電の条件、帯電させた後の養生の有無を表1、2の通りとした以外は実施例1と同様にしてエレクトレットシートを得た。
【0045】
<物性>
実施例及び比較例で得たエレクトレットシートについて、以下の測定を行った。結果を表1、2に示した。各測定は、アルミニウム箔からエレクトレットシートを取り出した後に行った。
【0046】
(ヘテロ電流が最小値となる温度及びヘテロ電流最小値の測定)
JISK7131:1994に準拠した熱刺激電流測定を行い、ヘテロ電流が最小値となる温度及びヘテロ電流最小値を測定した。具体的には以下の測定を行った。
得られたエレクトレットシートを直径5cmの円状に切り出して試験片を得た。次いで、得られた試験片を23℃、相対湿度50%において48時間以上静置して温度を下げた後、恒温槽(ST-110、エスペック社製)内に設置した下部電極上に試験片を載せ、試験片の両面に対向するように上部電極を接触させた。続いて、試験片の表面に付いている不要な電荷を取り去るために両電極を短絡させた。その後、昇温速度を10℃/minに設定し、検出機(デジタル超高抵抗/微小電流計8340A、ADC社製)を用いて昇温中の熱刺激電流測定を行い、へテロ電流が最小となる温度及びヘテロ電流の最小値を測定した。なお、ヘテロ電流が生じていないものはピーク無とした。
【0047】
(体積固有抵抗値の測定)
エレクトレットシートを直径100mmの円形に切り出して試験片を作製した。作製した試験片の厚みをマイクロメータで0.01mmまで正確に測定した。次いで、得られた試験片を裏面電極上に載置して10分間放置した後、試験片上に表面電極を載置した。その後、検出機(デジタル超高抵抗/微小電流計8340A、ADC社製)、及び温度制御可能な測定用電極(レジスティビティチェンバ12708、ADC社製)を用いて、下記式(1)より電極間に500V電圧を印加してから1分後の抵抗値(R[Ω])を測定した。得られた結果から、体積固有抵抗値(ρ[Ω・cm])を下記式(2)に基づいて算出した。なお、測定は20℃、相対湿度65%下で行った。また、測定時において表裏電極によって試験片に加わる荷重は5kPa以下となるようにした。
Ω(R)=電圧(V)/電流(A) (1)
ρ=(π×d2/4t)×R (2)
ρ:エレクトレットシートの体積抵抗率(Ω・cm)
π:円周率(3.14)
d:表面電極の直径(5cm)
t:試験片の厚み(0.01cm)
R:抵抗値(Ω)
【0048】
<評価>
実施例及び比較例で得たエレクトレットシートについて、以下の方法により評価を行った。各評価は、アルミニウム箔からエレクトレットシートを取り出した後に行った。結果を表1、2に示した。
【0049】
(圧電性の評価)
得られたエレクトレットシートから一辺10cmの平面正方形状の試験片を切り出した。試験体に加振機を用いて、荷重Fが1N、動的荷重が1.5N、周波数が1Hzの条件下にて押圧力を加え、その時に発生する電荷Q(クーロン)をPiezo leader(リードテクノ社製)を用いて圧電定数d33(電荷量)を計測し、圧電性の評価とした。
【0050】
(耐熱性の評価)
上記圧電性の評価で得られた試験体に70℃24時間の加熱処理を行い、加熱処理後1時間常温に静置した。その後、圧電性の評価と同様の方法でd33を測定した。圧電性の評価におけるd33(常温でのd33)を100%としたときの加熱処理後のd33の割合を算出することで、耐熱性を評価した。
【0051】
【0052】
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、高温環境下での耐久性に優れつつ、高い圧電性を備えるエレクトレットシート、該エレクトレットシートの製造方法及び該エレクトレットシートを用いた圧電センサを提供することができる。