(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078469
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】レーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/066 20140101AFI20240604BHJP
H05K 3/00 20060101ALN20240604BHJP
【FI】
B23K26/066
H05K3/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190863
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000233332
【氏名又は名称】ビアメカニクス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】江村 元
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD11
4E168CB04
4E168EA11
4E168EA15
4E168EA19
4E168JB01
4E168KA08
(57)【要約】
【課題】回転アパーチャを正確に原点復帰させることにより、加工精度の低下を防止することができるレーザ加工装置を提供すること。
【解決手段】レーザ光を発振するレーザ発振器と、前記レーザ光のビーム径を整形するための開口部が形成された回転アパーチャと、前記回転アパーチャを回転動作させるアパーチャ駆動部と、前記アパーチャ駆動部を制御するアパーチャ制御部と、前記アパーチャ制御部を制御する上位制御部と、を有し、前記アパーチャ制御部が予め前記回転アパーチャの原点復帰シーケンスを記憶しているレーザ加工装置において、前記原点復帰シーケンスでは原点復帰が正確に行えない場合に、前記上位制御部が、前記アパーチャ制御部に対して、前記原点復帰シーケンスとは異なった原点復帰動作を指令し、前記回転アパーチャの原点復帰を行う。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を発振するレーザ発振器と、
前記レーザ光のビーム径を整形するための開口部が形成された回転アパーチャと、
前記回転アパーチャを回転動作させるアパーチャ駆動部と、
前記アパーチャ駆動部を制御するアパーチャ制御部と、
前記アパーチャ制御部を制御する上位制御部と、を有し、
前記アパーチャ制御部が予め前記回転アパーチャの原点復帰シーケンスを記憶しているレーザ加工装置において、
前記原点復帰シーケンスでは原点復帰が正確に行えない場合に、前記上位制御部が、前記アパーチャ制御部に対して、前記原点復帰シーケンスとは異なった原点復帰動作を指令し、前記回転アパーチャの原点復帰を行う、
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
前記上位制御部が指令する前記原点復帰シーケンスとは異なった原点復帰動作が、原点検知センサが原点ドグを検知するまで前記回転アパーチャを一方向へ高速回転させた後、他方向へ所定量回転させて停止し、再度一方向へ低速回転させて前記原点検知センサが前記原点ドグを検知した位置を原点とするものであって、
前記低速回転させて前記原点検知センサが前記原点ドグを検知するときに、前記回転アパーチャの残留振動が減衰しきっている、
ことを特徴とする、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記回転アパーチャを他方向へ所定量回転させて停止した後、再度一方向へ低速回転させる前に所定の待機時間を設ける、
ことを特徴とする、請求項2に記載のレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば被加工物であるプリント基板に穴あけを行うレーザ加工装置に関するものであり、特に回転アパーチャを備えるレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工装置においては、例えば特許文献1や2に開示されるように、レーザ光のビーム径を成型するために、回転アパーチャ(マスク)を備えたものが知られている。
【0003】
図1は、従来の回転アパーチャを備えるレーザ加工装置の概略ブロック図である。図を用いて、従来の回転アパーチャを備えるレーザ加工装置について説明する。
【0004】
図1において、1はテーブル、2は当該テーブル上に載置された被加工物であるプリント基板、3はレーザ光を発振するレーザ発振器、4は回転アパーチャユニットである。回転アパーチャユニット4は、詳しくは後述するが、レーザ発振器3から出射されるレーザ光のビーム径を成型するための複数の開口部を有する回転アパーチャ41、回転アパーチャ41を回転させるモータ(アパーチャ駆動部)44、回転アパーチャ41の原点復帰に用いられる原点検知センサ46を含んでいる。5は、回転アパーチャ41の開口部を通過したレーザ光を、加工方向と非加工方向の二通りに分岐させる音響光学変調器(以下、AOMという)、6は前記AOM5において加工方向へ分岐されたレーザ光を2次元方向に走査するガルバノスキャナ、7はガルバノスキャナ6からのレーザ光をプリント基板2の穴あけ位置に照射する集光レンズ(fθレンズ)、8はAOM5において非加工方向へ分岐されたレーザ光を吸収するダンパである。
【0005】
10はレーザ発振器3でのレーザ光の発振と減衰を指令するレーザ発振制御部、11はモータ44の駆動動作を制御することにより回転アパーチャ41を回転させるアパーチャ制御部であり、回転アパーチャ41の位置決めを行う市販の位置決めユニット14及び図示を省略するアンプ等を含んでいる。位置決めユニット14は、回転アパーチャ41の後述する原点復帰動作のシーケンスを予め記憶した記憶部を備えており、当該シーケンスを記憶した状態で市販されているものが用いられている。
【0006】
12はAOM5の動作を制御するためのAOM制御部、13はガルバノスキャナ6の動作を制御するためのガルバノ制御部である。15はレーザ加工装置の各部の制御及び装置全体の動作を制御するための全体制御部であり、例えばプログラム制御の処理装置によって実現されるものであって、内部に種々の情報を記憶する記憶部を有している。全体制御部15はここで説明するもの以外にも制御機能を有し、図示されていないブロックにも接続されている。
【0007】
図2は回転アパーチャユニットの概略ブロック図である。
図2において、41は円板形をした回転アパーチャであり、回転軸42を中心とした円周上に直径の異なる複数の開口部43(a)~(d)が配置されている。回転アパーチャ41は回転軸42においてモータ44と接続されており、回転可能となっている。モータ44は、図示を省略するアンプ、位置決めユニット14を介してアパーチャ制御部11と接続されている。回転アパーチャユニット4は、図示を省略する支持基台を介して、レーザ加工装置に設置されている。アパーチャ制御部11は、全体制御部15の指令に従い、開口部43(a)~(d)のいずれかの開口部の中心がレーザ光軸45と一致するよう、位置決めユニット14を介してモータ44を駆動制御する。アパーチャ制御部11は、その他にも、全体制御部15の指令に従い、回転アパーチャ41が種々の回転動作をするよう、モータ44を駆動制御する。46は光センサ等の原点検知センサであって、位置決めユニット14を介してアパーチャ制御部11に接続されている。47は回転アパーチャ41の原点位置に設けられた原点ドグである。
【0008】
ここで、回転アパーチャ41は、回転方向と負荷方向が一致しているため、回転による脱調や振動現象が生じやすいことが知られている。特に回転アパーチャの位置を原点復帰させる際には、原点検知センサ46が原点ドグ47を検知したタイミングで回転を急停止させるため、高速で回転させた場合には正確な原点位置で停止できない場合がある。そこで正確に停止できる低速で回転させて原点復帰を行えばよいが、原点ドグ47が原点センサ46から離れた位置にある場合には、原点ドグ47を検知するまでに時間を要する。そこで従来は、時間短縮のため、以下のようにして原点復帰を行っていた。
【0009】
図3は従来の原点復帰動作を説明するグラフである。
図3に示すように、まず原点センサ46が原点ドグ47を検知するまで、回転アパーチャ41を一方向へ高速回転させる。そして、検知した位置を仮原点として、仮原点から他方向(逆方向)へ所定の若干量(以下、後退量ともいう)後退するように高速回転させた後、再度一方向へ低速回転させ、原点センサ46が原点ドグ47を再検知した位置で停止させることにより、原点復帰を行っていた。なお、この原点復帰動作のシーケンス(以下、「原点復帰シーケンス」という)は、予め位置決めユニットに記憶されており、全体制御部16がアパーチャ制御部11に対して、位置決めユニット14に記憶された原点復帰シーケンスに従って原点復帰を行うよう指令を出していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002-120080号公報
【特許文献2】特開2015-188890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、予め位置決めユニット14に記憶された原点復帰シーケンスでは、使用する回転アパーチャの種類や駆動系の負荷、高速回転時の速度の設定値等によっては、回転方向の切換時や、高速を低速に切り替えたときの振動が大きく、低速で原点ドグ47を再検知するときにもその残留振動が減衰しきらず、振動により原点センサ46が原点ドグ47を誤検知し正確に原点復帰できない場合があった。かかる場合、開口部の位置決め精度が悪くなり、開口部の中心とレーザ光軸の位置とがずれてビームのケラレ等が発生し、焦点位置でのレーザパワーやビームモードが変化し、加工精度が低下することがあった。
【0012】
ここで、予め記憶された原点復帰シーケンスの回転速度や後退量等を調整することにより、正確に原点復帰させることも考えられる。しかし、位置決めユニットは原点復帰シーケンスを予め記憶した状態で市販されているため、購入後に当該シーケンスを調整することは困難となっていた。
【0013】
そこで本発明は、上記従来技術における課題を解決し、回転アパーチャを正確に原点復帰させることができるレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は、レーザ光を発振するレーザ発振器と、前記レーザ光のビーム径を整形するための開口部が形成された回転アパーチャと、前記回転アパーチャを回転動作させるアパーチャ駆動部と、前記アパーチャ駆動部を制御するアパーチャ制御部と、前記アパーチャ制御部を制御する上位制御部と、を有し、前記アパーチャ制御部が予め前記回転アパーチャの原点復帰シーケンスを記憶しているレーザ加工装置において、前記原点復帰シーケンスでは原点復帰が正確に行えない場合に、前記上位制御部が、前記アパーチャ制御部に対して、前記原点復帰シーケンスとは異なった原点復帰動作を指令し、前記回転アパーチャの原点復帰を行う、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、回転アパーチャの原点復帰を正確に行うことができ、加工精度の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】従来の回転アパーチャを備えるレーザ加工装置の概略ブロック図である。
【
図2】従来の回転アパーチャユニットの概略ブロック図である。
【
図3】従来の原点復帰動作を説明するグラフである。
【
図4】本発明の一実施例における、レーザ加工装置の概略ブロック図である。
【
図5】本発明の一実施例における、記憶された原点復帰シーケンスによらない原点復帰動作を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施例について、図を用いて説明する。なお、従来技術として説明した内容と同一の部分については、説明を省略する。
【0018】
図4は、本発明の一実施例における、レーザ加工装置の概略ブロック図である。
図4に示すように、本実施例においては、アパーチャ制御部11に対して回転アパーチャ41の原点復帰動作に関する指令を出す、原点復帰制御部16を有する。原点復帰制御部16は、回転アパーチャ41の原点復帰を、位置決めユニット14に記憶された原点復帰シーケンスにより行うか否かを判断する復帰動作判断部17を含んでいる。復帰動作判断部17は、例えばレーザ加工装置の製造段階において、位置決めユニット14に記憶された原点復帰シーケンスにて試験的に原点復帰を行い、原点復帰が正確に行えた場合には原点復帰を当該シーケンスにより行うと判断し、原点復帰が正確に行えない場合には当該シーケンスにより行わないと判断するよう、予め設定しておく。
【0019】
次に、本発明の一実施例におけるレーザ加工装置における、回転アパーチャの原点復帰方法を説明する。全体制御部15は、回転アパーチャ41の原点復帰が必要となった場合、原点復帰制御部16に対して、原点復帰を行うよう指令を出す。原点復帰制御部16は、復帰動作判断部17において、原点復帰を位置決めユニット14に記憶された原点復帰シーケンスにより行うか否かを判断する。
【0020】
復帰動作判断部17が記憶された原点復帰シーケンスにより行うと判断した場合、原点復帰制御部16はアパーチャ制御部11に対して、位置決めユニット14に記憶された原点復帰シーケンスに従って原点復帰を行うよう指令を出し、従来と同様にして原点復帰を完了させる。一方、復帰動作判断部17が記憶された原点復帰シーケンスにより行わないと判断した場合、原点復帰制御部16はアパーチャ制御部11に対して、以下のように回転アパーチャ41を動作させるよう指令を出し、原点復帰を行う。
【0021】
図5は、本発明の一実施例における、記憶された原点復帰シーケンスによらない原点復帰動作を説明するグラフである。まず、原点検知センサ46が原点ドグ47を検知するまで、回転アパーチャ41を一方向に高速回転させる。次いで、原点ドグ47を検知した位置を仮原点とし、仮原点から所定の若干量後退させるように、他方向へ高速回転させて停止させる。そして、停止させてから待機時間ΔTが経過したときに、回転アパーチャ41を再度一方向に低速回転させ、原点検知センサ46が原点ドグ47を再検知した位置で停止させ、原点復帰を完了させる。
【0022】
ここで、待機時間ΔTは以下のようにして予め求めておく。まず、回転アパーチャ41が高速回転で所定の若干量後退して停止した時点から、回転アパーチャ41の残留振動が減衰しきるまでの時間T1を実験などにより計測する。次に、回転アパーチャ41を低速で、後退量から更に若干量を減じた量分回転させるのに必要な時間T2を求める。そして、T1からT2を減じて得られる時間をΔTとする。なお、T2を求める際に後退量から減じる若干量は、例えば、仮原点と正確な原点位置とのずれ量として考えられる最大値とすることができる。
【0023】
このようにして求められたΔT時間分待機させることで、残留振動が減衰しきった後のタイミングで原点ドグを再検知できるため、正確に原点復帰を行うことが可能となる。
【0024】
本実施例では、原点ドグを再検知する際に残留振動が減衰しきっているよう、低速回転を開始する前に待機時間を設けるものとした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば、待機時間を設けずに、低速よりもさらに遅い速度で回転させることにより、残留振動が減衰しきったタイミングで原点ドグを再検知するようにしてもよい。また、同様に待機時間を設けずに、後退量を増やすことで、残留振動が減衰しきったタイミングで再検知するようにしてもよい。
【0025】
上記のように、本発明によれば、予め位置決めユニット14に記憶された原点復帰シーケンスでは正確に原点復帰できない場合には、回転アパーチャ41の残留振動が減衰しきるタイミングで原点検知センサ46が原点ドグ47を検知することとなるように、アパーチャ制御部11の上位制御部である原点復帰制御部16が指令するので、正確な原点復帰を行うことができる。
【0026】
また、本発明によれば、位置決めユニット14に記憶された原点復帰シーケンスによって正確に原点復帰できる場合には、従来通り当該シーケンスに従って原点復帰を行わせることができる。このように、従来通り記憶された原点復帰シーケンスに従わせれば、待機時間等を算出するために実験を行う手間を省くことができる。なお、この場合であっても、経年変化により原点復帰が不正確となることが考えられるが、不正確になった時点で、復帰動作判断部17が原点復帰動作を原点復帰シーケンスにより行わないと判断するように設定を変更すれば、その後も正確な原点復帰を行うことができる。
【0027】
さらに従来は、市販の位置決めユニットを選択する際には、使用する回転アパーチャを一定の正確性をもって原点復帰できる原点復帰シーケンスを記憶していることが要件となっていたが、本発明によればこの要件を緩和でき、位置決めユニットの選択の幅を広げることができる。
【符号の説明】
【0028】
1:テーブル、2:プリント基板(被加工物)、3:レーザ発振器、4:回転アパーチャユニット、41:回転アパーチャ、42:回転軸、43(a)~(d):開口部、44:モータ(回転駆動部)、45:レーザ光軸、46:原点検知センサ、47:原点ドグ、5:AOM、6:ガルバノスキャナ、7:集光レンズ、8:ダンパ、10:レーザ発振制御部、11:アパーチャ制御部、12:AOM制御部、13:ガルバノ制御部、14:位置決めユニット、15:全体制御部、16:原点復帰制御部、17:復帰動作判断部