(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078470
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】ハイドロボール及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A01G 24/15 20180101AFI20240604BHJP
A01G 24/42 20180101ALI20240604BHJP
【FI】
A01G24/15
A01G24/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190865
(22)【出願日】2022-11-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行日 令和4年2月20日,「令和3年度土木学会西部支部研究発表会講演概要集」(CD-ROM),第695-696頁,公益社団法人土木学会西部支部 〔刊行物等〕開催日 令和4年3月5日,学会名「令和3年度土木学会西部支部研究発表会」,Web会議システムZOOMを使用したリアルタイムでの発表
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(71)【出願人】
【識別番号】522293456
【氏名又は名称】有限会社南建興業
(74)【代理人】
【識別番号】100189854
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 明美
(72)【発明者】
【氏名】木之下 広幸
(72)【発明者】
【氏名】霧村 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】安井 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】南曲 誠
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022BA04
2B022BB01
(57)【要約】
【課題】製造が簡便であり、良好な保水性を有し、植物の生育を阻害しないハイドロボールを提供する。
【解決手段】吸水率が18%以上であり、一般生菌が存在しない焼成軽石を用いた。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水率が18%以上であり、一般生菌が存在しない焼成軽石を用いたことを特徴とするハイドロボール。
【請求項2】
前記焼成軽石のビッカース硬さが33HVから476HVであることを特徴とする請求項1に記載のハイドロボール。
【請求項3】
前記焼成軽石の密度が1.15g/cm3から2.05g/cm3であることを特徴とする請求項2に記載のハイドロボール。
【請求項4】
前記焼成軽石は焼成ボラであることを特徴とする請求項3に記載のハイドロボール。
【請求項5】
前記焼成軽石はアロフェンを含有しないことを特徴とする請求項4に記載のハイドロボール。
【請求項6】
軽石を600℃以上1100℃以下で30分以上焼成することを特徴とするハイドロボールの製造方法。
【請求項7】
前記軽石はボラであってアロフェンを含有しないことを特徴とする請求項6に記載のハイドロボールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の栽培に用いられるハイドロボール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、室内での観葉植物等の栽培に、ハイドロボールが用いられている。ハイドロボールは、球状に成形した粘土を高温で焼成し発泡させた多孔質材であることから、優れた保水性を有している。
【0003】
このような技術として、例えば、特許文献1に示されるような無機粒体が開発されている。特許文献1に示される無機粒体は、押出機によって紐状に押し出された土壌と水との混練物をカッターで切断することでペレットに成形し、該ペレットを造粒機で粒体にする際に無機粉末を振りかけ、該粒体中の土壌の粒子が半融着状態になるような温度で焼成を行うことにより得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4243215号公報(第2頁~第3頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示される無機粒体は、粒径が略均一で形状が略球状であることから、均一な透水性、通気性が得られる点、及び、形状が略球状であることから、作業中に無機粒体相互がこすれて粉塵が発生しにくい点で有効である。
【0006】
しかしながら、上記の無機粒体にあっては、粒体の製造に、押出機、カッター、造粒機を用い、さらに、造粒された粒体相互の粘着を防ぎ、粒体の略球状形状を維持するため、無機粉末を用いることから、無機粒体の製造作業が煩雑になるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、焼成軽石に着眼することで、製造が簡便であり、良好な保水性を有し、植物の生育を阻害しないハイドロボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明のハイドロボールは、
吸水率が18%以上であり、一般生菌が存在しない焼成軽石を用いたことを特徴としている。
この特徴によれば、すでに粒状である軽石を用いることにより成形加工する手間が軽減されるため、ハイドロボールの製造を簡便に行うことができる。また、十分な吸水率を有する焼成軽石を用いることにより、良好な保水性を有するハイドロボールを提供することができる。さらに、高温で焼成された軽石には一般生菌が存在しないため、植物の生育を阻害しないハイドロボールを提供することができる。
【0009】
前記焼成軽石のビッカース硬さが33HVから476HVであることを特徴としている。
この特徴によれば、焼成による焼締まり(焼結と収縮)により組織の結合強度(硬さ)が増加した焼成軽石をハイドロボールに用いることにより、つぶれにくく、水に溶けにくいハイドロボールを提供することができる。
【0010】
前記焼成軽石の密度が1.15g/cm3から2.05g/cm3であることを特徴としている。
この特徴によれば、密度の低い焼成軽石をハイドロボールに用いることにより、軽量で取り扱い性の高いハイドロボールを提供することができる。また、焼成軽石の密度は水の密度よりも高いため、底に穴のない植木鉢や容器に充填後注水されても、水に浮かないハイドロボールを提供することができる。
【0011】
前記焼成軽石は焼成ボラであることを特徴としている。
この特徴によれば、南九州地域で豊富に産出されるボラを原料として用いることにより、ハイドロボールを量産することができる。
【0012】
前記焼成軽石はアロフェンを含有しないことを特徴としている。
この特徴によれば、植物に必須の養分であるリンを吸着する性質を有するアロフェンを実質的に含有していない焼成軽石を用いることにより、植物の生育を阻害しないハイドロボールを提供することができる。
【0013】
軽石を600℃以上1100℃以下で30分以上焼成することを特徴としている。
この特徴によれば、すでに粒状である軽石を用いることにより成形加工する手間が軽減されるため、ハイドロボールの製造を簡便に行うことができる。また、十分な吸水率を有する焼成軽石を用いることにより、良好な保水性を有するハイドロボールを提供することができる。
【0014】
前記軽石はボラであってアロフェンを含有しないことを特徴としている。
この特徴によれば、ボラにはアロフェンが実質的に存在せず、アロフェンを取り除く工程が不要で製造を簡素化できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例1における採掘可能なボラのサイズを示す図である。
【
図2】実施例1における焼成ボラの焼成温度と密度との関係を示すグラフである。
【
図3】実施例1における焼成ボラの焼成温度とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
【
図4】実施例1における焼成ボラを用いた浸漬水の沸騰試験における濁りの様相を焼成温度毎に示す図である。
【
図5】実施例1における焼成ボラの焼成温度と吸水率との関係を示すグラフである。
【
図6】(a)実施例1における未焼成ボラの細孔直径分布を示すグラフ、(b)実施例1における焼成温度800℃の焼成ボラの細孔直径分布を示すグラフである。
【
図7】実施例1における振盪抽出液中の一般生菌数を培地素材毎に示すグラフである。
【
図8】(a)実施例1におけるシマトネリコが植えられた生育用容器を示す斜視図、(b)実施例1におけるシマトネリコが植えられた生育用容器を示す断面図である。
【
図9】実施例1における焼成ボラをハイドロボールとして用いた場合の焼成温度毎のシマトネリコの生育状況を示す図である。
【
図10】実施例1におけるコマツナの種が播種された育苗用セルトレイとバットを示す斜視図である。
【
図11】実施例1における播種14日後の地上部生体重を培地素材毎に示すグラフである。
【
図12】実施例1における焼成ボラを培地として用いたコマツナの育苗の様子を示す図である。
【
図13】実施例1におけるリン酸吸着試験の方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係るハイドロボール及びその製造を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0017】
実施例1に係るハイドロボール及びその製造につき、
図1から
図12を参照して説明する。本実施例に係るハイドロボールは多孔質の粒体であり、ボラを焼成することで得られる。また、焼成温度が高くなるにしたがって、焼成ボラは赤みを帯びた色合いが増してくる。ハイドロボールの原料となるボラは、南九州地域で豊富に産出される多孔質の軽石であり、水分や養分を適度に吸収する性質や良好な排水性を有している。
【0018】
次に、ハイドロボールの製造方法について説明する。本実施例に係るハイドロボールの製造には、宮崎県都城地区産出のボラを用いた。ボラの成分組成比の一例を表1に示す。なお、成分組成比は、島津製作所社製エネルギー分散型蛍光X線分析装置EDX-720を用いて、JIS K0119:2008により分析した。
【0019】
【0020】
表1に示されるように、未焼成のボラにおける主な成分組成比は、SiO2が67.2%,Al2O3が20.1%,Fe2O3が5.0%,CaOが3.19%,K2Oが2.98%である。
【0021】
次に、篩を用いてボラの分級を行った。
図1に示されるように、ボラは幅広い粒径のものが採掘可能であり、1号(粒径0~4mm),2号(粒径4~7mm),3号(粒径7~12mm),4号(粒径12~16mm),5号(粒径16~26mm),特大(粒径26mm以上)に分級される。これらの粒径のボラを焼成することにより、栽培される植物の根の大きさに最適な各種の粒径のハイドロボールを製造することができる。
【0022】
次に分級されたボラの焼成を行った。焼成には共栄電気炉製作所製焼成装置KY-4Nを用い、1時間当たり100℃のペースでボラを焼成温度まで昇温させた後、少なくとも30分以上保持させる。本実施例では、焼成温度まで昇温後60分間保持した。焼成温度は、600℃,700℃,800℃,900℃,1000℃,1100℃,1150℃である。
【0023】
次に、焼成ボラの密度について説明する。密度の測定は、焼成温度900℃,1000℃,1100℃の焼成ボラ、および、比較のための未焼成ボラについて行った。焼成ボラおよび未焼成ボラの密度を、表2および
図2にそれぞれ示す。
【0024】
【0025】
表2および
図2に示されるように、焼成温度900℃の焼成ボラの密度は1.15g/cm
3であり、未焼成ボラの密度1.44g/cm
3より低い。これは、焼成による焼締まりがまだ十分に進んでいない一方、焼成前のボラに含まれていた水分が焼成により蒸発すると共に、有機成分が気化するためと考えられる。
【0026】
表2および
図2に示されるように、焼成温度が1000℃,1100℃と上昇するにしたがい、焼成ボラの密度はそれぞれ、1.77g/cm
3,2.05g/cm
3と高くなる。これは、焼成温度が上昇するにしたがい、焼成ボラの焼締まりが進むためである。
【0027】
ここで、焼成ボラ以外の物質の密度についてみると、例えば、レンガは約2.2g/cm3,花崗岩は約2.6g/cm3である。これらと比較して、焼成温度900℃,1000℃,1100℃の焼成ボラは密度が低いことがわかる。このことから、焼成温度900~1100℃の焼成ボラは、軽量で取り扱い性に優れたハイドロボールとして好適である。
【0028】
次に、焼成ボラのビッカース硬さについて説明する。ビッカース硬さの測定は、焼成温度600℃,700℃,800℃,900℃,1000℃,1100℃の焼成ボラ、および、比較のための未焼成ボラについて行った。焼成ボラおよび未焼成ボラのビッカース硬さを、表2および
図3にそれぞれ示す。
【0029】
表2および
図3に示されるように、ボラのビッカース硬さは、未焼成では14HV,焼成温度800℃では16HV,焼成温度900℃では33HV,焼成温度1000℃では171HV,焼成温度1100℃では476HVである。すなわち、未焼成から焼成温度800℃まではビッカース硬さにはほとんど変化が見られないものの、焼成温度800℃から900℃にかけては緩やかな上昇が見られ、さらに焼成温度900℃から1100℃にかけては急激な上昇がみられる。これは、焼成温度800℃から焼成ボラの焼締まりが始まり、焼成温度が高くなるにつれ焼締まりが進み、ボラの組織の結合強度(硬さ)が増加するためである。
【0030】
ここで、焼成ボラ以外の物質のビッカース硬さについてみると、例えば、銀は平均25HV,モルタルは平均45HV,ステンレスは平均187HV,強化ガラスは平均640HVである。これらと比較して、焼成温度900~1100℃の焼成ボラは、十分な硬さを有していることがわかる。このことから、焼成温度900~1100℃の焼成ボラは、作業中につぶれにくく、作業者の手を汚しにくいハイドロボールとして好適である。
【0031】
次に、焼成ボラを用いた浸漬水の沸騰試験について説明する。まず、ビーカーに150ccの水を入れ加熱し沸騰させる。次に10gの焼成ボラをビーカーの沸騰水中に浸漬し、加熱を続けながら沸騰状態を3時間保持する。その後加熱を終了し、すぐに各ビーカー中の浸漬水の濁りの様相を観察する。
【0032】
沸騰試験は、焼成温度600℃,700℃,800℃,900℃,1000℃,1100℃の焼成ボラ、および、比較のための未焼成ボラについて行った。また、各焼成ボラおよび未焼成ボラの粒径は、7~12mmのものを用いた。
【0033】
表2および
図4に示されるように、未焼成ボラ、および、焼成温度600℃,700℃,800℃,900℃の焼成ボラの浸漬水には濁りが見られるが、焼成温度1000℃,1100℃の焼成ボラの浸漬水には殆ど濁りがないことが確認できる。これは、焼成温度が高くなるにつれボラの焼締まりが進み、ボラの硬度が増加するため、焼成ボラが水に溶けにくくなるためである。このことから、焼成温度1000~1100℃の焼成ボラは、水に溶けにくく、作業者の手を汚しにくいハイドロボールとして好適である。
【0034】
次に、焼成ボラの吸水率について説明する。吸水率の測定は、焼成温度600℃,700℃,800℃,900℃,1000℃,1100℃の焼成ボラ、および、比較のための未焼成ボラについて行った。焼成ボラおよび未焼成ボラの吸水率を表2および
図5にそれぞれ示す。
【0035】
表2および
図5に示されるように、ボラの吸水率は、未焼成では120%,焼成温度600℃では110%,焼成温度700℃では106%,焼成温度800℃では105%,焼成温度900℃では100%,焼成温度1000℃では32%,焼成温度1100℃では15%である。すなわち、焼成温度600℃から800℃にかけては吸水率に大きな変化はないものの、焼成温度800℃から900℃にかけては吸水率に緩やかな下降が見られ、さらに900℃から1100℃にかけては急激な下降がみられる。これは、焼成温度600℃から800℃にかけては焼成ボラの細孔の大きさに大きな変化はないが、焼成温度800℃から始まる焼成ボラの焼締まりにより焼成ボラに含まれる細孔が閉塞し始め、900℃からは細孔の閉塞が急激に進むためであると考えられる。
【0036】
次に、焼成ボラの細孔直径分布について説明する。細孔直径分布の分析は、焼成温度800℃の焼成ボラ、および、比較のための未焼成ボラについて、MicrotracBEL社製BELSORP-maxを用いたガス吸着法(JIS Z8831-2:2001)により行った。焼成ボラおよび未焼成ボラの細孔直径分布を
図6(a),(b)にそれぞれ示す。
【0037】
図6(a)に示されるように、未焼成ボラの細孔は直径1~100nmに分布しており、特に、直径10~100nmに多く分布している。また、
図6(b)に示されるように、焼成温度800℃の焼成ボラの細孔も直径1~100nmに分布しており、特に、直径10~100nmに多く分布している。このことから、未焼成から焼成温度800℃のボラは、組織の内部に多くの細孔を含んでいるため吸水率が高いことがわかる。
【0038】
次に、焼成ボラの振盪抽出液中の一般生菌数について説明する。一般生菌数の測定は、焼成温度700℃の焼成ボラ、比較のための未焼成ボラ、その他の培地としてロックウール、ピートモスpH6.5,ピートモスpH4.0,ハイドロボール、ハイドロコーン、パーライト、黒土焼土について行った。焼成温度700℃の焼成ボラおよび未焼成ボラの振盪抽出液中の一般生菌数を表2に、焼成温度700℃の焼成ボラ、未焼成ボラ、その他の培地の振盪抽出液中の一般生菌数を示すグラフを
図7に示す。
【0039】
表2および
図7に示されるように、未焼成ボラの一般生菌数は467CFU/gであり、ロックウール(不検出)、ハイドロボール(17CFU/g)、ハイドロコーン(不検出)、パーライト(333CFU/g)よりは多いものの、黒土焼土(1616CFU/g)、ピートモスpH4.0(1333CFU/g)、ピートモスpH6.5(1071CFU/g)よりは少なかった。一方、焼成温度700℃の焼成ボラの一般生菌数は、検出されなかった。これは、ボラが高温で焼成されることにより一般生菌が死滅したためである。このことから、焼成温度700℃以上の焼成ボラは、衛生的なハイドロボールとして好適である。
【0040】
次に、焼成ボラを用いたハイドロボールによるシマトネリコの生育について説明する。シマトネリコは、東南アジアを原産地とする常緑樹であり、主に観葉植物として用いられている。ハイドロボールには、焼成温度800℃,900℃,1000℃,1100℃,1150℃の焼成ボラをそれぞれ用いた。また、シマトネリコの生育は、水のみで行い、液肥等は使用しなかった。
【0041】
図8(a),(b)に示されるように、シマトネリコの生育には、焼成ボラを用いたハイドロボール1と、生育用容器2とが、主に用いられる。生育用容器2は、外鉢3とその内部に収容される内鉢4とから構成される二重構造となっている。外鉢3は、垂直な側壁部31と、底の部分を閉塞する底部32とから構成されている。本実施例では外鉢3として、汎用のガラス製ビーカーを用いた。内鉢4は、下部から上部にかけて拡がったテーパ筒状の側壁部41と、底の部分を閉塞する底部42と、底部42に設けられる流入孔43とから構成されている。本実施例では、内鉢4として、透明の樹脂製コップを用いた。また、底部42には、直径2mm程度の流入孔43を3つ設けた。
【0042】
次に、外鉢3の内部に適量の水Wを溜める。次に、ハイドロボール1が充填されシマトネリコPが植えられた内鉢4を外鉢3の内部に収容すると、内鉢4の底部42に設けられた流入孔43から内鉢4の内部に水Wが流入し、内鉢4の内部のハイドロボール1に吸収されると共に、内鉢4と外鉢3との間にも水Wが溜まった状態になる。この時、外鉢3の側壁部31は透明であるため、外鉢3の内部の水Wの水位を監視することができる。
【0043】
表2および
図9に示されるように、焼成温度800℃,900℃,1000℃,1100℃,1150℃の焼成ボラをそれぞれハイドロボールとして用いた場合、シマトネリコが生育することが確認された。その中でも特に、焼成温度800℃,900℃,1000℃,1100℃の焼成ボラをハイドロボールとして用いた場合、シマトネリコは1年以上生育することが確認された。これは、焼成温度が800℃,900℃,1000℃,1100℃の焼成ボラは焼締まりによる細孔の閉塞があるものの十分な吸水効果がある一方、焼成温度1150℃の焼成ボラは焼締まりによる細孔の閉塞が進みすぎ吸水効果が低減するためであると考えられる。このことから、焼成温度が800℃~1100℃の焼成ボラは、十分な吸水効果を有するハイドロボールとして好適である。
【0044】
次に、焼成ボラを用いたハイドロボールによるコマツナの育苗について説明する。
図10に示されるように、コマツナの育苗は、ハイドロボール10を充填した育苗用セルトレイ5をバット6の内部に載置し、ハイドロボール10上にコマツナの種Sを播種した後、水Wをハイドロボール10の表面に散布することにより行った。
【0045】
ハイドロボール10には、焼成温度700℃,900℃,1100℃の焼成ボラを用いた。また、比較のため、未焼成ボラ、黒土焼土、ウレタンをそれぞれ培地としてコマツナを育苗した(図示略)。
【0046】
表2および
図11に示されるように、焼成ボラをハイドロボールとして用いた場合のコマツナの播種14日後の地上部生体重は、焼成温度1100℃では1216mg/plant,焼成温度900℃では1201mg/plant,焼成温度700℃では1530mg/plant(
図12参照)であった。また、比較のための培地を用いた場合のコマツナの播種14日後の地上部生体重は、未焼成ボラでは1336mg/plant,黒土焼土では981mg/plant,ウレタンでは1243mg/plantであった。
【0047】
すなわち、焼成ボラを用いたハイドロボールによるコマツナの生育状況は、未焼成ボラ、黒土焼土、ウレタンを培地として生育した場合と同等であることから、ボラを焼成することによるコマツナの生育への悪影響はないと考えられる。このことから、焼成温度が700℃~1100℃の焼成ボラは、植物の生育を阻害しないハイドロボールとして好適である。
【0048】
次に、焼成ボラにおけるアロフェンの有無について説明する。アロフェンとは、アモルファスまたは結晶化度の低い水和アルミニウム珪酸塩でできた粘土準鉱物で、火山ガラスや長石が風化または熱水作用により変質したものである。アロフェンは、植物に必須の養分であるリンを多量に吸着する性質を有している。そのため、例えば、赤玉土や鹿沼土といったアロフェンを含む培土をハイドロボールとして用いることは、植物の生育を阻害するため、適していない。
【0049】
本実施例で用いられたボラの化学成分を、ボラの採取地である宮崎県都城地区と同地域で採取された、イモゴライト及びアロフェンを主成分とするアカホヤ、及び、クロライトを主成分とする緑泥石粘土(山之口粘土)の化学成分(表1参照)と比較し検討した。イモゴライト或いはアロフェンを主成分とするアカホヤは、アルミナ及び酸化鉄成分の組成が高い特徴があり、そのため、水溶液中の活性化Alイオン、或いはFeイオン濃度が高く、リン酸吸着性能を有する。ボラのアルミナ及び酸化鉄成分の組成は緑泥石粘土と同等であり、アロフェンやイモゴライトの組成とは明らかに異なる。このことから、本発明のボラは、アルミナと酸化鉄の成分の和が20~35質量%、より好ましくは22~29質量%である。
【0050】
また、ボラのリン酸吸着性能について検討するため、800℃で焼成した粒径4~7mmのボラについて、リン酸吸着試験を行った(
図13)ところ、試験に用いた焼成ボラには、リン酸吸着性能は全く認められなかった(表3参照、攪拌試験後の水溶液のリン濃度は400ppmで変化なし)であった。この結果から、ボラはいわゆるアロフェン類を実質的に含まないと考えられる。
【0051】
【0052】
なお、リン酸吸着試験は、400ppmの リン酸二水素カリウム(KH2PO4)50mLに、800℃で焼成した粒径4~7mmのボラ8gを投入し、撹拌機(東京理科器械株式会社製、EYELA ZZ-1010, 東京理科器械株式会社)を用いて300rpmの速度で30分間撹拌した。そして、撹拌前後の水溶液のリン濃度を測定することによって行った。リン濃度の測定には、ICP発光分析装置(島津製作所製,ICPS-8100)を用いた。
【0053】
このことから、焼成ボラを用いたハイドロボールは、植物の生育を阻害しないハイドロボールとして好適である。
【0054】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0055】
例えば、前記実施例では、篩により分級したボラを焼成したが、これに限らず、様々な粒径のボラを焼成した後、篩により分級してもよい。