(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078476
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】2重シールドティグ溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/29 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
B23K9/29 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190877
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】下新原 春菜
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001LB02
4E001LH04
4E001MD10
(57)【要約】
【課題】2重シールドティグ溶接方法において、母材の材質に応じてインナーガス及びアウターガスの流量を適正化して安定した溶接を行うこと。
【解決手段】インナーガス7を噴出させるインナーノズル4及びアウターガス9を噴出させるアウターノズル5を備えた溶接トーチWTを使用し、溶接電流Iwを通電して溶接する2重シールドティグ溶接方法において、炭素鋼溶接モード及びステンレス鋼溶接モードを備え、ステンレス鋼溶接モードが選択されたときは、炭素鋼溶接モードが選択されたときに比べて、アウターガス9とインナーガス7との流量差が小さくなるように設定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナーガスを噴出させるインナーノズル及びアウターガスを噴出させるアウターノズルを備えた溶接トーチを使用し、溶接電流を通電して溶接する2重シールドティグ溶接方法において、
炭素鋼溶接モード及びステンレス鋼溶接モードを備え、
前記ステンレス鋼溶接モードが選択されたときは、前記炭素鋼溶接モードが選択されたときに比べて、前記アウターガスと前記インナーガスとの流量差が小さくなるように設定する、
ことを特徴とする2重シールドティグ溶接方法。
【請求項2】
アルミニウム溶接モードをさらに備え、
前記アルミニウム溶接モードが選択されたときは、前記炭素鋼溶接モードが選択されたときに比べて前記流量差が大きくなるように設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の2重シールドティグ溶接方法。
【請求項3】
前記ステンレス鋼溶接モードが選択されたときは、前記流量差が4l/min以下になるように設定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の2重シールドティグ溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2重シールドティグ溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インナーガスを噴出させるインナーノズル及びアウターガスを噴出させるアウターノズルを備えた溶接トーチを使用し、溶接電流を通電して溶接する2重シールドティグ溶接方法が慣用されている(例えば、特許文献1参照)。インナーガス及びアウターガスとしては、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
2重シールドティグ溶接方法では、通常の1重シールドティグ溶接方法に比べて深い溶け込みを得ることができるために、厚板溶接及び高速溶接を効率的に行うことができる。しかし、インナーガス及びアウターガスの流量が母材の材質に応じて適正でない場合には、安定した深い溶け込みを得ることができない。
【0005】
そこで、本発明では、母材の材質に応じてインナーガス及びアウターガスの流量を適正化して安定した深い溶け込みを得ることができる2重シールドティグ溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
インナーガスを噴出させるインナーノズル及びアウターガスを噴出させるアウターノズルを備えた溶接トーチを使用し、溶接電流を通電して溶接する2重シールドティグ溶接方法において、
炭素鋼溶接モード及びステンレス鋼溶接モードを備え、
前記ステンレス鋼溶接モードが選択されたときは、前記炭素鋼溶接モードが選択されたときに比べて、前記アウターガスと前記インナーガスとの流量差が小さくなるように設定する、
ことを特徴とする2重シールドティグ溶接方法である。
【0007】
請求項2の発明は、
アルミニウム溶接モードをさらに備え、
前記アルミニウム溶接モードが選択されたときは、前記炭素鋼溶接モードが選択されたときに比べて前記流量差が大きくなるように設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の2重シールドティグ溶接方法である。
【0008】
請求項3の発明は、
前記ステンレス鋼溶接モードが選択されたときは、前記流量差が4l/min以下になるように設定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の2重シールドティグ溶接方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る2重シールドティグ溶接方法によれば、母材の材質に応じてインナーガス及びアウターガスの流量を適正化して安定した深い溶け込みを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態に係る2重シールドティグ溶接方法を実施するための溶接装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る2重シールドティグ溶接方法を実施するための溶接装置のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0013】
溶接トーチWTは、主に電極1、それを取り囲むインナーノズル4及びそれを取り囲むアウターノズル5を備えている。電極1には、タングステン電極等が使用される。例えば、インナーノズル4の内径は5mm、であり、アウターノズル5の内径は13mmである。
【0014】
起動スイッチONは、オン状態になるとHighレベルとなり、オフ状態になるとLowレベルになる起動信号Onを出力する。この起動スイッチONは、溶接トーチWTに設けられたトーチスイッチである。また、溶接ロボットを使用する場合には、図示しないロボット制御装置から起動信号Onが出力される場合もある。
【0015】
電流設定回路IRは、予め定めた電流設定信号Irを出力する。
【0016】
溶接モード選択回路MSは、溶接作業者によって母材の材質に応じて選択されるスイッチであり、炭素鋼溶接モードが選択されると1となり、ステンレス鋼溶接モードが選択されると2となり、アルミニウム溶接モードが選択されると3となる溶接モード信号Msを出力する。
【0017】
インナーガス流量設定回路FIRは、上記の電流設定信号Irを入力として電流設定信号Ir[A]を予め定めたインナーガス流量設定関数に入力して算出された値をインナーガス流量設定信号Fir[l/min]として出力する。インナーガス設定関数の例を以下に示す。
Fir=(Ir-75)/50+3.5 (1)式
但し、75≦Ir≦150の範囲であり、Ir<75の場合はIr=75と同一値であり、Ir>150の場合はIr=150と同一値である。
【0018】
インナーガス流量調整器CIは、慣用されているマスフローコントローラ等であり、上記の起動信号On及び上記のインナーガス流量設定信号Firを入力として、起動信号OnがHighレベルになると、インナーガスボンベ6からのインナーガス7の流量Fiをインナーガス流量設定信号Firによって定まる値に調整して噴出する。
【0019】
アウターガス流量設定回路FORは、上記のインナーガス流量設定信号Fir及び上記の溶接モード信号Msを入力として、両値を予め定めたアウターガス流量設定関数に入力して算出された値をアウターガス流量設定信号For[l/min]として出力する。アウターガス設定関数の例を以下に示す。
Ms=1(炭素鋼溶接モード)のときはFor=Fir+5 (21)式
Ms=2(ステンレス鋼溶接モード)のときはFor=Fir+(0~4) (22)式
Ms=3(アルミニウム溶接モード)のときはFor=Fir+7 (23)式
【0020】
アウターガス流量調整器COは、慣用されているマスフローコントローラ等であり、上記の起動信号On及び上記のアウターガス流量設定信号Forを入力として、起動信号OnがHighレベルになると、アウターガスボンベ8からのアウターガス9の流量Foをアウターガス流量設定信号Forによって定まる値に調整して噴出する。
【0021】
インナーノズル4の内側の通路をインナーガス7が流れる。また、インナーノズル4の外側とアウターノズル5の内側の通路をアウターガス9が流れる。インナーガス7及びアウターガス9にはアルゴン、ヘリウム等の不活性ガスが使用される。アーク3は、電極1が負極となり、母材2が正極となって発生する。
【0022】
溶接電源PSは、上記の起動信号On及び上記の電流設定信号Irを入力として、 起動信号OnがHighレベルになると、電極1と母材2との間に高周波高電圧を印加し、アーク3が発生すると電流設定信号Irによって設定された溶接電流Iwの出力を開始し、起動信号OnがLowレベルになると溶接電流Iwの出力を停止する。
【0023】
以下、溶接を開始するときの手順について説明する。
(1)溶接作業者は、母材の材質に応じて溶接モード選択回路MSの溶接モードを選択する。母材の材質が炭素鋼であるときは溶接モード信号Ms=1を選択し、ステンレス鋼であるときは溶接モード信号Ms=2を選択し、アルミニウムであるときは溶接モード信号Ms=3を選択する。
(2)母材の板厚及び継手形状に応じて電流設定回路IRによって電流設定信号Irを設定する。
(3)インナーガス流量設定回路FIRは、電流設定信号Irを入力とする(1)式のインナーガス流量設定関数によってインナーガス流量設定信号Firを出力する。
(4)アウターガス流量設定回路FORは、インナーガス流量設定信号Fir及び溶接モード信号Msを入力とする(21)式~(23)式のアウターガス流量設定関数によってアウターガス流量設定信号Forを出力する。
(5)起動回路ONをオン状態にすると、インナーガス流量調整器CIによってインナーガス流量設定信号Firによって設定された流量値のインナーガスが噴出し、アウターガス流量調整器COによってアウターガス流量設定信号Forによって設定された流量値のアウターガスが噴出する。
(6)溶接電源PSは、アークが発生すると溶接電流Iwを出力し、溶接が開始する。
【0024】
以下、本実施の形態の作用効果について説明する。
上述した本実施の形態によれば、炭素鋼溶接モード及びステンレス鋼溶接モードを備え、ステンレス鋼溶接モードが選択されたときは、炭素鋼溶接モードが選択されたときに比べて、アウターガスとインナーガスとの流量差が小さくなるように設定する。母材の材質がステンレス鋼であるときに、流量差を炭素鋼と同じ値にすると、溶け込みが浅くなる傾向がある。したがって、ステンレス鋼のときは、流量差を炭素鋼のときよりも小さくなるように設定する必要がある。このようにすると、ステンレス鋼のときに安定した深い溶け込みを得ることができる。
【0025】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、アルミニウム溶接モードをさらに備え、アルミニウム溶接モードが選択されたときは、炭素鋼溶接モードが選択されたときに比べて、アウターガスとインナーガスとの流量差が大きくなるように設定する。母材の材質がアルミニウムであるときに、流量差を炭素鋼と同じ値にすると、溶け込みが浅くなる傾向がある。したがって、アルミニウムのときは、流量差を炭素鋼のときよりも大きくなるように設定する必要がある。このようにすると、アルミニウムのときに安定した深い溶け込みを得ることができる。
【0026】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、ステンレス鋼溶接モードが選択されたときは、前記流量差が4l/min以下になるように設定する。母材の材質がステンレス鋼のときに、流量差を0~4l/minの範囲に設定すれば、安定した深い溶け込みを得ることができる。この範囲を外れると溶け込みは浅くなる。
【符号の説明】
【0027】
1 電極
2 母材
3 アーク
4 インナーノズル
5 アウターノズル
6 インナーガスボンベ
7 インナーガス
8 アウターガスボンベ
9 アウターガス
CI インナーガス流量調整器
CO アウターガス流量調整器
Fi インナーガス流量
FIR インナーガス流量設定回路
Fir インナーガス流量設定信号
Fo アウターガス流量
FOR アウターガス流量設定回路
For アウターガス流量設定信号
IR 電流設定回路
Ir 電流設定信号
Iw 溶接電流
MS 溶接モード選択回路
Ms 溶接モード信号
ON 起動回路
On 起動信号
PS 溶接電源
WT 溶接トーチ