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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007849
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】サツマイモの生産方法およびその利用
(51)【国際特許分類】
   A23B 7/00 20060101AFI20240112BHJP
   A23L 19/10 20160101ALI20240112BHJP
【FI】
A23B7/00
A23L19/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109208
(22)【出願日】2022-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】598096991
【氏名又は名称】学校法人東京農業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100179578
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100195062
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 涼子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 実花
(72)【発明者】
【氏名】馬場 正
【テーマコード(参考)】
4B016
4B169
【Fターム(参考)】
4B016LC06
4B016LG06
4B169AA04
4B169HA05
4B169KD10
(57)【要約】
【課題】サツマイモの低温障害を抑制しつつ、サツマイモの糖度低下を抑制できる技術を提供する。
【解決手段】サツマイモの生産方法は、収穫されたサツマイモの塊根を、1.0日以上2.5日以下、38℃以上43℃以下の温度で保管する第1工程と、第1工程後の塊根を、温度を低下させながら保管する第2工程と、第2工程後の塊根を、20日以上40日以下、3.0℃以上7.0℃以下の第2温度で保管する第3工程と、第3工程後の塊根の温度を、15℃以上に上昇させる第4工程と、を含み、第2工程は、8.0℃以上12℃以下の第1温度から第2温度まで段階的に温度を低下させる馴化工程を含み、馴化工程は、4.0日以上10日以下の期間に亘って、1日あたり0.5℃以上1.5℃以下の範囲で温度を低下させる工程である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サツマイモの生産方法であって、
収穫されたサツマイモの塊根を、1.0日以上2.5日以下、38℃以上43℃以下の温度で保管する第1工程と、
前記第1工程後の前記塊根を、温度を低下させながら保管する第2工程と、
前記第2工程後の前記塊根を、20日以上40日以下、3.0℃以上7.0℃以下の第2温度で保管する第3工程と、
前記第3工程後の前記塊根の温度を、15℃以上に上昇させる第4工程と、
を含み、
前記第2工程は、8.0℃以上12℃以下の第1温度から前記第2温度まで段階的に温度を低下させる馴化工程を含み、
前記馴化工程は、4.0日以上10日以下の期間に亘って、1日あたり0.5℃以上1.5℃以下の範囲で温度を低下させる工程である、
サツマイモの生産方法。
【請求項2】
請求項1に記載のサツマイモの生産方法において、
前記第2工程は、前記馴化工程の前に、前記塊根の温度を25℃以下に低下させる工程を含む、
サツマイモの生産方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のサツマイモの生産方法において、
前記第1温度は、9.0℃以上11℃以下である、
サツマイモの生産方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のサツマイモの生産方法において、
前記第2温度は、4.0℃以上6.0℃以下である、
サツマイモの生産方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のサツマイモの生産方法において、
前記馴化工程の期間は、4.5日以上7.0日以下である、
サツマイモの生産方法。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載のサツマイモの生産方法において、
前記馴化工程は、1日あたり0.8℃以上1.2℃以下の範囲で温度を低下させる工程である、
サツマイモの生産方法。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載のサツマイモの生産方法において、
前記第1工程の温度は、39℃以上41℃以下である、
サツマイモの生産方法。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載のサツマイモの生産方法において、
前記第1工程の期間は、1.5日以上2.5日以下である、
サツマイモの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、サツマイモの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サツマイモは、低温によって障害を受けやすい青果物であり、貯蔵適温が13℃程度であることが、従来から知られている。例えば、非特許文献1には、より低温でサツマイモを貯蔵することによって、デンプンの糖化を促進できる一方で、低温障害によって腐敗が発生することが記載されている。非特許文献2には、サツマイモを高温処理することによって、その後の低温貯蔵中における低温障害を抑制できることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】増田大祐ら,園学研,6(4):p.597-601(2007)
【非特許文献2】田之上隼雄ら,鹿児島農試研報,17号,p.59-69(1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献2の技術によれば、低温貯蔵中におけるサツマイモの低温障害を抑制できるものの、低温環境下から室温に戻した場合には、障害が増加するという問題があることを、本願発明者らは見出した。また、非特許文献2の技術を用いて高温処理を行うと、低温環境下から室温に戻した場合に、糖度が低下してしまうことを、本願発明者らは見出した。このように、従来の技術によっては、低温貯蔵によってサツマイモの糖度を上昇させることができても、障害の発生を抑制しつつ糖度低下を抑制しながら市場に流通させることが困難であった。したがって、サツマイモの低温障害の発生を抑制しつつ、低温貯蔵によって糖度を上昇させたサツマイモの糖度低下を抑制できる技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本発明の一形態によれば、サツマイモの生産方法が提供される。この生産方法は、収穫されたサツマイモの塊根を、1.0日以上2.5日以下、38℃以上43℃以下の温度で保管する第1工程と、前記第1工程後の前記塊根を、温度を低下させながら保管する第2工程と、前記第2工程後の前記塊根を、20日以上40日以下、3.0℃以上7.0℃以下の第2温度で保管する第3工程と、前記第3工程後の前記塊根の温度を、15℃以上に上昇させる第4工程と、を含み、前記第2工程は、8.0℃以上12℃以下の第1温度から前記第2温度まで段階的に温度を低下させる馴化工程を含み、前記馴化工程は、4.0日以上10日以下の期間に亘って、1日あたり0.5℃以上1.5℃以下の範囲で温度を低下させる工程である。この形態の生産方法によれば、低温障害の発生を抑制しつつ、低温貯蔵によって糖度を上昇させたサツマイモの糖度低下を抑制できる。
【0007】
(2)上記(1)に記載のサツマイモの生産方法において、前記第2工程は、前記馴化工程の前に、前記塊根の温度を25℃以下に低下させる工程を含んでいてもよい。この形態の生産方法によれば、馴化工程の初期において塊根の温度がばらつくことを抑制できる。
【0008】
(3)上記(1)または上記(2)に記載のサツマイモの生産方法において、前記第1温度は、9.0℃以上11℃以下であってもよい。この形態の生産方法によれば、低温障害の発生をより抑制できる。
【0009】
(4)上記(1)から上記(3)までのいずれか一項に記載のサツマイモの生産方法において、前記第2温度は、4.0℃以上6.0℃以下であってもよい。この形態の生産方法によれば、サツマイモの糖度をより上昇させることができる。
【0010】
(5)上記(1)から上記(4)までのいずれか一項に記載のサツマイモの生産方法において、前記馴化工程の期間は、4.5日以上7.0日以下であってもよい。この形態の生産方法によれば、低温障害の発生をより抑制することができる。
【0011】
(6)上記(1)から上記(5)までのいずれか一項に記載のサツマイモの生産方法において、前記馴化工程は、1日あたり0.8℃以上1.2℃以下の範囲で温度を低下させる工程であってもよい。この形態の生産方法によれば、低温障害の発生をより抑制することができる。
【0012】
(7)上記(1)から上記(6)までのいずれか一項に記載のサツマイモの生産方法において、前記第1工程の温度は、39℃以上41℃以下であってもよい。この形態の生産方法によれば、低温障害の発生をより抑制することができる。
【0013】
(8)上記(1)から上記(7)までのいずれか一項に記載のサツマイモの生産方法において、前記第1工程の期間は、1.5日以上2.5日以下であってもよい。この形態の生産方法によれば、低温障害の発生をより抑制することができる。
【0014】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能である。例えば、サツマイモの糖度を向上させる方法、サツマイモの糖度を維持する方法、サツマイモの低温障害を抑制する方法、サツマイモの保管方法、サツマイモの処理方法、サツマイモの保管システム、サツマイモの処理システム、加工サツマイモの生産方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】サツマイモの生産方法の手順を示す工程図。
図2】実験1におけるBrixの測定結果を示す説明図。
図3】実験2におけるBrixの測定結果を示す説明図。
図4】実験3における生イモのBrixの測定結果を示す説明図。
図5】実験3における加熱イモのBrixの測定結果を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.実施形態
図1は、本発明の一実施形態としてのサツマイモの生産方法の手順を示す工程図である。本実施形態におけるサツマイモの生産方法(以下、単に「生産方法」とも呼ぶ)は、収穫されたサツマイモの塊根を、1.0日以上2.5日以下、38℃以上43℃以下の温度で保管する第1工程と、第1工程後の塊根を、温度を低下させながら保管する第2工程と、第2工程後の塊根を、20日以上40日以下、3.0℃以上7.0℃以下の第2温度で保管する第3工程と、第3工程後の塊根の温度を、15℃以上に上昇させる第4工程と、を含む。第2工程は、8.0℃以上12℃以下の第1温度から第2温度まで段階的に温度を低下させる馴化工程を含む。馴化工程は、4.0日以上10日以下の期間に亘って、1日あたり0.5℃以上1.5℃以下の範囲で温度を低下させる工程である。
【0017】
本生産方法は、例えば、空間の温度を制御することが可能な設備等を用いて実施することができる。より具体的には、例えば、倉庫やインキュベーター等の非移動体の設備や、車両や船舶等の移動体の設備を用いて実施することができる。なお、本生産方法における工程の一部を、特別な設備を用いずに、その温度範囲に保たれた空間にサツマイモ塊根を保持することによって実施してもよい。
【0018】
本実施形態の生産方法において用いるサツマイモの品種は、特に限定されないが、例えば、高系14号(なると金時)等が挙げられる。本生産方法によれば、低温保管によって糖度を上昇させたサツマイモの糖度が、流通時等に低下してしまうことを抑制できる。このため、なると金時のような比較的糖度が高くないような品種に特に好適に用いることができる。
【0019】
第1工程では、収穫されたサツマイモの塊根を、1.0日以上2.5日以下、38℃以上43℃以下の温度で保管する(工程P10)。以下の説明では、第1工程の実施を、「高温処理」とも呼ぶ。第1工程における温度は、低温障害の発生をより抑制する観点から、39℃以上41℃以下であることが好ましい。第1工程の期間は、低温障害の発生をより抑制する観点から、1.5日以上2.5日以下であることが好ましい。
【0020】
第2工程では、第1工程後の塊根を、温度を低下させながら保管する(工程P20)。第2工程は、馴化工程(工程P24)を含む。馴化工程は、4.0日以上10日以下の期間に亘って、1日あたり0.5℃以上1.5℃以下の範囲で温度を低下させることにより、第1温度から第2温度まで段階的に温度を低下させる。ここで、第1の温度は、8.0℃以上12℃以下であり、第2の温度は、3.0℃以上7.0℃以下である。馴化工程についての詳細な説明は、後述する。以下の説明では、馴化工程の実施を「段階的コンディショニング処理」とも呼ぶ。
【0021】
第2工程は、馴化工程の前に、サツマイモ塊根の温度を25℃以下に低下させる工程(工程P22)を含んでいてもよい。サツマイモ塊根の温度を25℃以下に低下させる工程を含むことによって、馴化工程の初期において塊根の温度がばらつくことを抑制できる。なお、サツマイモ塊根の温度を25℃以下に低下させる工程は、省略されてもよい。
【0022】
馴化工程の期間は、低温障害の発生をより抑制する観点から、4.5日以上7.0日以下であることが好ましい。馴化工程では、低温障害の発生をより抑制する観点から、1日あたり0.8℃以上1.2℃以下の範囲で、第1温度から第2温度まで段階的に温度を低下させることが好ましい。また、第1温度は、低温障害の発生をより抑制する観点から、9.0℃以上11℃以下であることが好ましい。また、第2温度は、サツマイモの糖度をより上昇させる観点から、4.0℃以上6.0℃以下であることが好ましい。
【0023】
第3工程では、第2工程後の塊根を、20日以上40日以下、第2温度で保管する(工程P30)。以下の説明では、第3工程の実施を「低温貯蔵」とも呼ぶ。第3工程を実施することによって、サツマイモの糖度を上昇させることができると考えられる。第3工程は、サツマイモの糖度を上昇させつつ、出荷までに要する時間が過度に長くなることを抑制する観点から、25日以上35日以下であることが好ましい。
【0024】
第4工程では、第3工程後の塊根の温度を、15℃以上に上昇させる(工程P40)。第4工程における温度としては、サツマイモ出荷後の流通時の温度が想定され、例えば、室温程度の任意の温度であってもよい。第4工程の期間は、特に限定されないが、例えば、1日以上の任意の期間であってもよい。第4工程は、サツマイモ出荷後の流通工程において実現されてもよい。
【0025】
本願発明者らは、サツマイモを上記条件下で保管することにより、サツマイモを低温環境下から室温に戻した場合においても、低温障害が発生することを抑制しつつ糖度を維持できることを見出し、本発明に至った。第3工程(低温貯蔵)を行う前に、第1工程(高温処理)と馴化工程(段階的コンディショニング処理)とをこの順番で行うことにより、第4工程後においても、低温障害の発生を抑制しつつ糖度を維持することができる。なお、サツマイモの低温障害としては、例えば、腐敗、褐変、軟化、す入り等が挙げられる。
【0026】
上記効果を奏するメカニズムは、定かではない。しかしながら、推定メカニズムとしては、第1工程(高温処理)によって、サツマイモ塊根においてコルク層の形成が促進されて、傷口からの腐敗が抑制される可能性が考えられる。一般に、サツマイモの主な病原である青かび病の菌糸は40~45℃で死滅し、また、軟腐病を引き起こすRhizopus菌類は35℃以上で生育不能になることが知られている。このことから、40℃程度の高温処理は、一般的なキュアリング処理温度である30~35℃と比較して、静菌効果が大きいと考えられる。高温処理と段階的コンディショニング処理とを組み合わせて行うことにより、高温処理後すぐに低温貯蔵する方法、すなわち第2工程が省略された方法と比較して、コルク層の形成がより促進され、腐敗発生や重量減少の抑制効果が高まると推察される。
【0027】
一般に、サツマイモは、トマトやナスのような青果物と比較して、貯蔵適温が高いことが知られている。換言すると、サツマイモは、トマトやナスのような青果物と比較して、低温感受性が高いといえる。果実は、pHが低く、また、栽培中の土壌と可食部との接触度合いが低いのに対して、サツマイモは、土中で栽培されるため付着する微生物数が多く、また、収穫作業中に傷がつきやすいという特徴がある。このような理由から、他の青果物における貯蔵方法を、サツマイモにそのまま適用することは適切ではない。
【0028】
以上説明した本実施形態におけるサツマイモの生産方法によれば、第4工程後においても、低温障害の発生を抑制しつつ糖度を維持できる。この結果、品質の低下を抑制しつつ、サツマイモの糖度を上昇させることができるので、サツマイモの商品価値を高めることができる。また、比較的短い期間でサツマイモの糖度を上昇させることができ、また、上昇した糖度の低下を抑制できるため、出荷までのリードタイムを短くできる。したがって、本生産方法によれば、糖度を上昇させたサツマイモを、市場に安定的に流通させることができる。なお、本生産方法によって生産されたサツマイモを、加工サツマイモと呼ぶこともできる。
【0029】
B.実施例
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
(1)実験材料
サツマイモの塊根として、徳島県産の「なると金時」のMサイズを使用した。収穫されたサツマイモの塊根を東京農業大学へ輸送した後、以下に示す実験1~3を行った。実験1は、塊根に砂が付着した状態で実施し、実験2および実験3は、実際の流通と同じように塊根を洗った状態で実施した。サツマイモ塊根を段ボール箱に入れ、後述する温度条件下で貯蔵した。貯蔵中および棚もち試験中における塊根の乾燥を防ぐために、厚み0.024mm、容量45Lのポリエチレン製の袋で段ボール箱を覆った。この袋としては、直径6mmのパンチ穴を100個程度開けたものを使用した。
【0031】
(2)実験方法
<実験1>
サツマイモ塊根を入れた段ボール箱を、それぞれ13℃、10℃、5℃の温度条件下で貯蔵した。貯蔵15日後および貯蔵30日後に、Brix値を測定した。Brixの測定には、各区3本の生イモを用いた。サツマイモ塊根を、上部、中央部、下部に3分割し、そのうちの中央部を試料とした。プラスチック製のおろし器の細目を用いてすりおろした試料5gに、2倍量の純水10mlを加え、乳鉢で磨砕した液を、ガーゼを用いてろ過し、デジタル糖度計(株式会社アタゴ製、PAL-1)を用いて測定した。また、障害発生について、貯蔵30日後に各区5本を調査した。障害の発生しなかった塊根の割合を、健全塊根率として算出した。
【0032】
<実験2>
サツマイモ塊根を入れた段ボール箱を30日間、それぞれ13℃および5℃の温度条件下で貯蔵した。また、5℃で貯蔵する前に高温処理を行う高温処理(HS)区も設けた。HS区では、40℃に設定したインキュベーター内で2日間処理を行い、その後、室温まで放冷した後に、5℃で貯蔵した。貯蔵後、各試験区15本のサツマイモ塊根のうち10本のサツマイモ塊根に対し、棚もち試験を行った。棚もち試験は、20日間、20℃の温度条件下で実施した。
【0033】
実験開始前(Before storage)、貯蔵30日後(After storage)、および棚もち試験後(After shelf-life)に、Brix値を測定した。Brixの測定は、実験1と同様の方法で実施した。また、障害発生の調査として、腐敗、軟化、褐変、す入りの有無について調査した。障害発生は、貯蔵30日後に各区5本を調査し、棚もち試験後に10本調査した。1つの塊根に複数の障害が発生している場合も、それぞれの障害ごとに発生の有無を評価した。障害の発生しなかった塊根の割合を、健全塊根率として算出した。
【0034】
<実験3>
実験3における各試験区の処理(Treatment)の条件を、以下の表1に示す。サツマイモ塊根を入れた段ボール箱を、30日間、それぞれ13℃および5℃の貯蔵温度(Storage temperature)で貯蔵した。また、5℃で貯蔵する前に、前処理(Treatment before storage)として高温処理を行う高温処理(HS)区も設けた。HS区は、実験2と同様の条件で行った。また、5℃で貯蔵する前に、前処理としてコンディショニング処理(CD)を行う試験区を設けた。より具体的には、5℃で貯蔵する前に、10℃で5日間保管するCD1区と、10℃から6℃まで1日1℃ずつ段階的に温度を低下させて保管するCD2区とをそれぞれ設けた。また、実験2と同様の高温処理後、放冷した塊根に、CD1区と同様のコンディショニング処理を行うHS+CD1区を設けた。また、実験2と同様の高温処理後、室温まで放冷した塊根に、CD2区と同様のコンディショニング処理を行うHS+CD2区を設けた。前処理終了後、5℃で30日間貯蔵した。貯蔵後、各試験区25本のサツマイモ塊根のうち15本のサツマイモ塊根に対し、棚もち試験を行った。棚もち試験は、20日間、20℃の温度条件下で実施した。
【0035】
【表1】
【0036】
実験開始前(Before storage)、貯蔵30日後(After storage)、および棚もち試験後(After shelf-life)に、サツマイモ塊根の重量を測定し、重量減少率を算出した。重量減少率は、実験開始前と、貯蔵直後または棚もち試験後との重量の差異を、実験開始前の重量で割った値を百分率で表すことにより算出した。また、実験開始前、貯蔵30日後、および棚もち試験後に、Brix値を測定した。Brixの測定は、実験1と同様の方法によって実施し、測定対象として、生イモと加熱イモとを用いた。より具体的には、各区3本のサツマイモ塊根を、上部、中央部、下部に3分割し、そのうちの中央部を用い、中央部を縦に2分割して、一方は生イモのまま試料とし、他方は加熱した試料とした。加熱は、以下の方法により行った。サツマイモを純粋で濡らしたキッチンペーパーで包み、その上から食品用ラップフィルムで包んだものを、300Wの電子レンジで1gあたり3秒加熱し、細断した。また、実験2と同様の方法によって、障害発生の調査を行った。障害発生は、貯蔵30日後に各区10本を調査し、棚もち試験後に15本調査した。
【0037】
(3)実験結果
<実験1>
図2は、実験1におけるBrixの測定結果を示す説明図である。図2において、「a」および「b」で示される互いに異なる小文字の符号は、保存温度の違いに関しテューキー検定において5%水準で有意差が認められたことを示し、「A」および「B」で示される互いに異なる大文字の符号は、保存期間の違いに関しテューキー検定において5%水準で有意差が認められたことを示す。また、図2におけるバーは、標準誤差を示す。
【0038】
貯蔵15日後(After 15 days)のBrix値は、13℃、10℃、5℃のいずれの試験区においても、同等の値であり、有意差は認められなかった。これに対し、貯蔵30日後(After 30 days)のBrix値は、13℃で貯蔵した試験区と比較して、5℃で貯蔵した試験区では有意に上昇していた。しかしながら、5℃で30日貯蔵すると、60%の塊根において腐敗等の障害の発生が認められた(図表省略)。
【0039】
<実験2>
図3は、実験2におけるBrixの測定結果を示す説明図である。図3において「a」および「b」で示される互いに異なる小文字の符号は、低温貯蔵後の各試験区のデータ間で、テューキー検定において5%水準で有意差が認められたことを示す。図3において「A」および「B」で示される互いに異なる大文字の符号は、各試験区に関し、低温貯蔵後と棚もち試験後とのデータ間で、テューキー検定において5%水準で有意差が認められたことを示す。また、図3におけるバーは、標準誤差を示す。また、図3において、「*」は、各試験区に関し、低温貯蔵後と棚もち試験後とのデータ間で、t検定において5%水準で有意差が認められたことを示す。また、「n.s.」は、各試験区に関し、低温貯蔵後と棚もち試験後とのデータ間で、t検定において5%水準で有意差が認められなかったことを示す。
【0040】
Brix値は、貯蔵前には平均8.9%だったのに対し、13℃で貯蔵した試験区では、貯蔵30日後および棚もち試験後の両方において、平均8.0%以下だった。5℃で貯蔵した試験区における貯蔵30日後のBrix値は、高温処理の有無に関わらず平均12%程度であり、13℃で貯蔵した試験区と比較して高かった。高温処理を行わなかった試験区では、棚もち試験後のBrixが大きく低下した。これに対し、高温処理を行った試験区では、棚もち試験後も、棚もち試験前、すなわち貯蔵30日後のBrix値を維持していた。
【0041】
実験2における障害発生の調査結果を、以下の表2に示す。表2では、各試験区について、貯蔵30日後(After storage)と棚もち試験後(After shelf-life)とにおける、健全塊根率(Healthy roots(%))と障害の種類ごとの発生率(Deteriorated roots(%))とがそれぞれ示されている。障害の種類としては、腐敗(Decay)、軟化(Softning)、褐変(Browning)、す入り(Cracking)が示されている。表2において、「a」および「b」で示される互いに異なる符号は、試験区間でカイ二乗検定において5%水準で有意差が認められたことを示す。
【0042】
【表2】
【0043】
13℃で貯蔵した試験区では、貯蔵30日後の時点で、全ての塊根に腐敗が発生しており、健全塊根率が0%だった。5℃で貯蔵した試験区のうち、高温処理を行わなかった試験区では、貯蔵30日後における健全塊根率が20%だったが、高温処理を行った試験区(HS区)では、腐敗の発生が抑制されて貯蔵30日後における健全塊根率が60%だった。高温処理を行った試験区(HS区)においても、棚もち試験後の健全塊根率は、10%まで低下した。棚もち試験後の塊根では、棚もち試験前の塊根では認められなかったような軟化や褐変が発生しており、す入りも増加した。
【0044】
図3および表2の結果から、以下のことがわかった。すなわち、5℃で30日間貯蔵を行うことにより、貯蔵前と比較してBrix値の上昇が認められ(5℃区、HS区)、低温貯蔵によって早期の糖化促進が可能であることが示された。しかしながら、低温貯蔵を行うことによって、多くの塊根に障害が発生した(5℃区)。低温貯蔵前に高温処理を行うと、低温貯蔵30日後および棚もち試験後ともに、腐敗が抑制されたが、軟化や褐変、す入りの発生が助長される場合があった(HS区)。このように、低温貯蔵前の高温処理だけでは、安定した障害軽減効果が認められなかった。
【0045】
<実験3>
実験3における重量減少率の結果を、以下の表3に示す。表3では、各試験区について、貯蔵30日後(After storage)と棚もち試験後(After shelf-life)とにおける重量減少率(Weight loss(%))がそれぞれ示されている。なお、重量減少率の数値には、標準誤差があわせて示されている。表3において、「a」~「c」で示される互いに異なる符号は、試験区間でテューキー検定において5%水準で有意差が認められたことを示す。
【0046】
【表3】
【0047】
高温処理やコンディショニング処理を行わなかった試験区では、13℃で貯蔵するよりも5℃で貯蔵する方が、重量減少率が低かった。高温処理またはコンディショニング処理を単独で行った試験区(HS区、CD1区、CD2区)では、前処理を行わずに5℃で貯蔵した試験区(5℃区)と同程度の重量減少率だった。これに対し、高温処理と10℃で5日間保管するコンディショニング処理とを組み合わせて行った試験区(HS+CD1区)における重量減少率の平均値は、3.80%であり、比較的高い値を示した。また、全ての試験区において、重量減少率は、貯蔵30日後に比べて棚もち試験後に上昇する傾向にあった。棚もち試験後の重量減少率は、高温処理とコンディショニング処理とを組み合わせて行った試験区(HS+CD1区、HS+CD2区)では、前処理を行わずに5℃で貯蔵した試験区と同程度だった。これに対し、高温処理を行わずにコンディショニング処理を行った試験区(CD1区、CD2区)における棚もち試験後の重量減少率の平均値は、比較的高く、9%を超える値だった。
【0048】
図4は、実験3における生イモのBrixの測定結果を示す説明図である。図5は、実験3における加熱イモのBrixの測定結果を示す説明図である。図4および図5において「a」~「c」で示される互いに異なる小文字の符号は、低温貯蔵後の各試験区のデータ間で、テューキー検定において5%水準で有意差が認められたことを示す。図4および図5において「A」~「E」で示される互いに異なる大文字の符号は、各試験区に関し、低温貯蔵後と棚もち試験後とのデータ間で、テューキー検定において5%水準で有意差が認められたことを示す。また、図4および図5におけるバーは、標準誤差を示す。また、図4および図5において、「**」および「*」は、各試験区に関し、低温貯蔵後と棚もち試験後とのデータ間で、t検定において5%水準および1%水準で有意差が認められたことを示す。また、「n.s.」は、各試験区に関し、低温貯蔵後と棚もち試験後とのデータ間で、t検定において有意差が認められなかったことを示す。
【0049】
図4に示すように、貯蔵30日後における生イモのBrix値は、5℃で貯蔵した全ての試験区において平均9.3%以上であり、13℃で貯蔵した試験区(13℃区)に比べて優位に高かった。棚もち試験後における生イモのBrix値は、半数以上の試験区において、貯蔵30日後と比べて低下する傾向が認められた。一方、13℃で貯蔵した試験区(13℃区)高温処理を単独で行った試験区(HS区)、高温処理と10℃から6℃まで1日1℃ずつ段階的に温度を低下させて保管するコンディショニング処理とを組み合わせて行った試験区(HS+CD2区)における生イモのBrix値は、棚もち試験後においても、棚もち試験前、すなわち貯蔵30日後と同程度の値を保持していた。棚もち試験後のBrix値は、HS+CD2区で最も高く、貯蔵前の値に比べて約2.7倍上昇した。
【0050】
図5に示すように、加熱イモのBrix値は、貯蔵30日後の13℃区で8.7%であり、貯蔵前の8.4%に対してほとんど変化しなかった。貯蔵30日後のBrix値は、5℃で貯蔵した全ての試験区において13℃区よりも高い値を示した。棚もち試験後のBrix値は、半数以上の試験区において、貯蔵30日後と比べて低下する傾向が認められた。一方、前処理を行わずに5℃で貯蔵した試験区(5℃区)、高温処理を単独で行った試験区(HS区)、高温処理と10℃から6℃まで1日1℃ずつ段階的に温度を低下させて保管するコンディショニング処理とを組み合わせて行った試験区(HS+CD2区)における加熱イモのBrix値は、棚もち試験後においても、棚もち試験前、すなわち貯蔵30日後と同程度の値を保持していた。
【0051】
実験3における障害発生の調査結果を、以下の表4に示す。表4では、各試験区について、貯蔵30日後と棚もち試験後とにおける、健全塊根率と障害の種類ごとの発生率とがそれぞれ示されている。表4において、「a」~「d」で示される互いに異なる符号は、試験区間でカイ二乗検定において5%水準で有意差が認められたことを示す。
【0052】
【表4】
【0053】
貯蔵30日後の健全塊根率は、13℃区において最も低く、10%だった。13℃区では、褐変の発生率が最も高かった。5℃区における貯蔵30日後の健全塊根率は、60%だった。高温処理およびコンディショニング処理を単独または組み合わせて行った試験区における貯蔵30日後の健全塊根率は、70%以上だった。棚もち試験後は、貯蔵30日後と比較して、ほとんどの試験区において腐敗、軟化、褐変の発生が増加した。前処理を行わずに5℃で貯蔵した試験区(5℃区)における棚もち試験後の健全塊根率は、27%であり、主な障害が腐敗や褐変だった。HS区における棚もち試験後の健全塊根率は、67%であり、5℃区の健全塊根率と比較して2倍程度高かった。これに対し、CD1区およびCD2区では、腐敗、軟化、褐変の発生が多く認められ、健全塊根率は7%以下だった。このように、低温貯蔵前にコンディショニング処理を行うことによって、低温貯蔵30日後の時点では障害の発生が抑制されていたが、その後の棚もち試験中に腐敗と褐変の発生が急増し、健全塊根率が著しく低下することがわかった。高温処置とコンディショニング処理とを組み合わせて行った試験区(HS+CD1区、HS+CD2区)では、棚もち試験後においても障害発生が抑制されており、高い健全塊根率が示された。特に、HS+CD2区では、棚もち試験後における腐敗や軟化の発生が0%であり、健全塊根率が80%だった。
【0054】
図4および図5、表3および表4の結果から、以下のことがわかった。高温処理とコンディショニング処理とを組み合わせて行った試験区(HS+CD1区、HS+CD2区)では、低温貯蔵後だけでなく、棚もち試験後も障害発生が抑制され、HS+CD2区においては障害発生が特に抑制されていた。また、低温貯蔵によって、生イモおよび加熱イモのBrix値が有意に上昇し、その後の棚もち試験によって、CD1区、CD2区、HS+CD1区では糖度低下が認められたが、HS+CD2区では、棚もち試験後も糖度が維持されていた。これらの結果から、高温処理と、段階的に温度を低下させて保管するコンディショニング処理とを組み合わせて行うことにより、低温貯蔵後に室温に戻した場合においても、障害の発生を抑制でき、かつ、糖度低下を抑制できることが示された。
【0055】
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5