(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078491
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】ミシン
(51)【国際特許分類】
D05B 55/14 20060101AFI20240604BHJP
D05B 57/04 20060101ALI20240604BHJP
D05B 73/08 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
D05B55/14 A
D05B57/04
D05B73/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190899
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000113229
【氏名又は名称】株式会社PEGASUS
(72)【発明者】
【氏名】向井 裕親
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150AA05
3B150AA11
3B150DB01
3B150DC03
3B150DF04
3B150GA02
(57)【要約】
【課題】
従来の縫い目よりもデザイン性に富んだ環縫い目を施すことができるミシンを提供する
【解決手段】
アームに上下動可能に支持される針棒と、針棒の下方に位置すると共にベッドの上面に設けられる針板と、針棒の下端に取り付けられると共に針板の針落ちを貫通して上下動する2本の針と、ベッド内の針板の下方に配置されると共に剣先部が針に設けられたえぐり部近傍を通過して該えぐり部に形成される針糸ループを補足するルーパとを備え、針とルーパの協働によって環縫い目を形成するミシンにおいて、針板の上面において針棒を軸回りに回動させる針棒回動機構を備え、前記2本の針は各針のえぐり部が互いに外向き又は内向きとなるように配置され、各針と個別に協働する2つのルーパとを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アームに上下動可能に支持される針棒と、針棒の下方に位置すると共にベッドの上面に設けられる針板と、針棒の下端に取り付けられると共に針板の針落ちを貫通して上下動する2本の針と、ベッド内の針板の下方に配置されると共に剣先部が針に設けられたえぐり部近傍を通過して該えぐり部に形成される針糸ループを補足するルーパとを備え、針とルーパの協働によって環縫い目を形成するミシンにおいて、針板の上面において針棒を軸回りに回動させる針棒回動機構を備え、前記2本の針は各針のえぐり部が互いに外向き又は内向きとなるように配置され、各針と個別に協働する2つのルーパとを備えることを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記ルーパは被縫製物の送り方向に沿って揺動する揺動ルーパであって、ルーパに挿通される下糸と針に挿通される針糸との係合によって二重環縫い目を形成する、請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記ルーパは被縫製物の送り方向と直交する軸線回りに回転する回転ルーパであって、針に挿通される針糸によって単環縫い目を形成する、請求項1に記載のミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被縫製物に環縫い目を施すためのミシンに関する。
本発明において、前後左右とはミシンを正面から見たときの前後左右方向をいう。また上下とはミシンの上下方向をいう。
【背景技術】
【0002】
この種のミシンとして、ミシンのフレームの一部にポストベッド部を設けたポストベッドミシンが従来より知られている(例えば、特許文献1参照。)。
アーム先端の下部より針棒の一部が下方に突出しており、針棒の下端に複数の針が取り付けられている。針棒の下方に針板が配置され、針板は柱状のポストベッド部の上面に取り付けられている。針棒は上下に摺動可能にアームに支持されており、針は針板の針落ちを貫通して上下動する。針には針糸が挿通されており、針が下死点から上方に移動する際に針の背面(後面)に設けられたえぐり部分において針糸ループを形成する。
【0003】
ポストベッド部の内部にルーパが配置されており、ルーパはその先端(剣先部)が針の上昇時には針の背面を通過して針糸ループを補足する。また、ルーパは針の降下時には針の前面を通過してルーパから被縫製物に連なるルーパ糸とルーパとの間に針が通過する。
上述のように針とルーパが協働することによって針糸とルーパ糸(下糸)とが係合して、公知の二重環縫い目が形成される。
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したポストベッドミシンは、自動車のシートやインパネなどの内装を縫製するのにも用いられる。自動車の内装の縫製には従来本縫い目を施すための本縫いミシンがよく用いられていたが、上述した二重環縫い目などの環縫い目を施すための環縫いミシンはボビンを用いないため、糸の巻き取り量が比較的小さいボビンの交換が不要で、長尺な被縫製物が多い自動車の内装の縫製に適している。
また、環縫い目は本縫い目と比較して1針ごとのステッチが被縫製物の送り方向に対してより平行に並ぶので見栄えが良い。
【0006】
上述した自動車の内装の縫製について、近年は被縫製物を縫い合わせるのではなくデザインの一つとして、被縫製物に縫い目を施すことが増えてきている。
本発明の目的は、従来の縫い目よりもデザイン性に富んだ環縫い目を施すことができるミシンを提供することにある。
【0007】
上記目的を達成する為に、請求項1の発明は、アームに上下動可能に支持される針棒と、針棒の下方に位置すると共にベッドの上面に設けられる針板と、針棒の下端に取り付けられると共に針板の針落ちを貫通して上下動する2本の針と、ベッド内の針板の下方に配置されると共に剣先部が針に設けられたえぐり部近傍を通過して該えぐり部に形成される針糸ループを補足するルーパとを備え、針とルーパの協働によって環縫い目を形成するミシンにおいて、針板の上面において針棒を軸回りに回動させる針棒回動機構を備え、前記2本の針は各針のえぐり部が互いに外向き又は内向きとなるように配置され、各針と個別に協働する2つのルーパとを備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1のミシンにおいて前記ルーパは被縫製物の送り方向に沿って揺動する揺動ルーパであって、ルーパに挿通される下糸と針に挿通される針糸との係合によって二重環縫い目を形成することを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1のミシンにおいて前記ルーパは被縫製物の送り方向と直交する軸線回りに回転する回転ルーパであって、針に挿通される針糸によって単環縫い目を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、針棒回動機構によって針棒を回動させることで、2本の針の位置を任意に入れ替えることが可能となる。このような針棒の回動操作によって針糸のステッチ列を任意に交差させた装飾性に富む環縫い目を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】本発明に係るミシンの針落ち付近を示す左側面図。
【
図3】針棒が基準位置にあるときの針落ち付近をミシン正面から見た部分概略図。
【
図4】針棒が基準位置から180°回転させた位置(反転位置)にあるときの針落ち付近をミシン正面から見た部分概略図。
【
図5】本発明に係るミシンによって形成される縫い目を示す概略図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明に係るミシン1について説明する。
ミシン1は主にアーム2とベッド3によって構成されている。アーム2とベッド3は各々の長手方向が互いに平行になるようにして上下に配置されており、かつ互いの右側にて連接されている。
ベッド3の左部にポスト部4が、ベッド3の上面から上方に立脚して設けられている。ポスト部4の上面には針板5が取り付けられている。
【0013】
アーム2左部の下端から針棒8が下方に突出して配置されている。針棒8は上下動可能にアーム2に支持されていると共に、図示しない針棒前後動機構によって前後動可能にされている。
針棒8の下端には2本の針11,12が針留め9を介して取り付けられている。針11,12は後述する針棒の基準位置において針11が左側、針12が右側となるよう左右方向に沿って配置されている。針11,12は針棒8の上下動に伴って針板5の図示しない針落ちを貫通して上下動する。針11,12は針棒8の軸線に対して対象となるよう配置されている。
【0014】
針棒8の後方には中押え棒15が配置されている。中押え棒15は上下動可能にアーム2に支持されている。中押え棒15の下端に中押え16が固定されており、中押え16は針板上方に配置されている。
中押え棒15の後方に可動押え棒13が配置されている。可動押え棒13は上下動可能にアーム2に支持されていると共に図示しない可動押え前後機構によって前後動可能にされている。可動押え棒13の下端に可動押え14が固定されており、可動押え14の下部は針板5の上方に位置している。
中押え棒15と可動押え棒13の上下動は互いに位相が逆になっており、中押え16と可動押え14のいずれがが図示しない被縫製物を常に針板5に押し付けるようにされている。
【0015】
針板5の下方、ベッド4内に送り歯10が配置されている。送り歯10は図示しない送り機構によって針板5の図示しない送り歯溝から上下に出没しつつ前後動する。そして送り歯10が針板5の上面から露出しているとき送り歯10は後方に移動し、被縫製物を後方(送り方向F)に向けて搬送する。
送り歯10が被縫製物を生地送り方向Fに搬送するとき、針11,12は下降して被縫製物および針板5の針落ちを貫通し、可動押え14は下降して被縫製物を針板5に押し付けている。そして送り歯10の後方移動に同調して針11,12および可動押え14も後方に移動する。
【0016】
針棒8は図示しない針棒回動機構に連結され、軸回りのR方向に任意に回動可能となっている。
図3は針棒8が基準位置にあるときの針落ち付近をミシン1正面から見た部分概略図である。2本の針11、12は、針11が左側、針12が右側となるよう配置されると共に、針11の下部に形成されたえぐり部11aと針12の下部に形成されたえぐり部12aとが互いに外向きとなるように配置されている。
針11,12には針糸19,21が夫々挿通されており、針11,12が下死点から上昇する際に各えぐり部11a,12aにおいて針糸ループが夫々形成される。
【0017】
針板5の下方、ポスト部4内に2つのルーパ17,18が左右に並んで配置されている。ルーパ17,18は揺動ルーパであって、夫々の上部には前後方向に伸びる剣先部17a,18aが夫々設けられている。また、ルーパ17,18は図示しないルーパ駆動機構に連結されており、各剣先部17a,18aが略前後方向に揺動するようになっている。
図3に示すように、針棒8が基準位置にあるときにはルーパ17の剣先部17aが針11のえぐり部11aの左側近傍を、ルーパ18の剣先部18aが針12のえぐり部の右側近傍を夫々通過するようにルーパ17,18は配置されている。
ルーパ17の剣先部17aには下糸20が、ルーパ18の剣先部18aには下糸22が夫々挿通されている。針11,12が下死点から上昇する際に針11のえぐり部11aに形成された針糸19の針糸ループをルーパ17の剣先部17aが補足し、針12のえぐり部12aに形成された針糸21の針糸ループをルーパ18の剣先部が補足する。次いで針11,12が上死点に達した後再び下降して針落ちを貫通する際には、図示しないリテーナ機構によってルーパ17の剣先部17aから被縫製物に連なる下糸20が針11よりも右側に寄せられ、ルーパ18の剣先部18aから被縫製物に連なる下糸22が針12よりも左に寄せられる。そして針11はルーパ17と下糸20との間に、針12はルーパ18と下糸22との間に落ちる。上述した各針と各ルーパの協働により針糸19と下糸20が、針糸21と下糸22が夫々係合して二重環縫い目を形成する。
【0018】
図4に示すように、針棒回動機構によって針棒8を基準位置から180°回転させて針棒8を反転位置とすると、針11,12の位置が入れ替わる。そして針11はルーパ18と、針12はルーパ17と協働し、針糸19と下糸20が、針糸21と下糸22が夫々係合して二重環縫い目を形成する。
上述のように針棒8を基準位置から反転位置に回転させて1針分縫製すると、左側にあった針糸19が右方に斜めに渡り、右側にあった針糸21が左方に斜めに渡って、被縫製物の表面にX字形状の縫い目が形成される。針棒8を反転位置から基準位置に回転させて1針縫製する場合も同様にX字形状の縫い目が形成され、針糸19は左側のステッチ列に、針糸21は右側のステッチ列に夫々戻る。
【0019】
以上説明した本発明に係るミシン1によって縫製した二重環縫い目Sの概略を
図5に示す。
図5(a)(b)のいずれの縫い目Sもミシン1を9針分駆動させて形成したもので、縫製は各針の上死点から開始されるため、最初の3針分のステッチ(
図5の紙面において上から3個分の針糸ステッチ列)は実際は4針分の縫製動作がなされている。
図5(a)に示す縫い目Sについて、最初の3針分のステッチは針棒8が基準位置にある状態で縫製されており、この部分は従来公知の二重環縫い目と同様であり針糸19が左側に、針糸21が右側に配列されている。続く1針分の縫製に際し、針11,12が針板5上面より上に位置する状態で針棒8を上から見て時計回りに180°回転させて反転位置としてから針11,12を降下させると、上述したように針糸19と針糸21がX字形状に交差した縫い目が形成され、針糸19は2列のステッチ列のうち右側に、針糸21は左側に夫々移る。次いで針棒8を上から見て反時計回りに回転させて基準位置に戻して1針分、更に針棒8を上から見て時計回りに回転させて反転位置にして1針分縫製すると、X字形状の縫い目が2つ連続して形成される。次いで針棒8を回動させずに2針分縫製すると2列の平行な針糸ステッチ列が形成される(
図5の紙面で下から2個分の針糸ステッチ列)。この2針分のステッチ列に関しては針糸19が右側に、針糸21が左側に配列される。
【0020】
図5(b)に示す縫い目Sは、
図5(a)に示す縫い目Sの縫製過程において6針目の縫製時に針棒8を回転させずに形成したものである。このように縫製すれば前後のステッチと併せて6角形状の縫い目を形成することができる。
なお、
図5(a),(b)とも被縫製物の表面に形成された縫い目形状であるが、被縫製物の裏面については左側に下糸20,右側に下糸22が互いに平行に連なるステッチ列を形成しており、見た目には従来公知の二重環縫い目とよく似ている。
【0021】
なお、針棒回動機構によって針棒8を回動させる際や被縫製物に縫い目を形成させる際に、針糸調子器6や下糸調子器7による各針糸や下糸にかかる張力を適宜調整することによって、より綺麗で見栄えの良い二重環縫い目を形成することが可能となる。
さらに送り歯10の前後の揺動量を変化させることによって、より多彩な縫い目形状を得ることができる。
【0022】
また、本実施例においてミシン1は二重環縫い目を形成するミシンとしたが、本発明は単環縫いミシンにも適用できる。この場合はルーパ17,18は回転ルーパが適用され、糸は2本の針糸のみが用いられる。縫い目の様態について、被縫製物の表面は
図5(a)、(b)に例示したものと同様であり、裏面は2本の針糸による平行なステッチ列が形成される。
【符号の説明】
【0023】
1 ミシン
2 アーム
6 ベッド
4 ポスト部
5 針板
8 針棒
11 針
11a えぐり部
12 針
12a えぐり部
17 ルーパ
17a 剣先部
18 ルーパ
18a 剣先部
19 針糸
20 下糸
21 針糸
22 下糸