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特開2024-78518巡回点検システム、方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078518
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】巡回点検システム、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/10 20120101AFI20240604BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
G06Q50/10
G05B23/02 Z
G05B23/02 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190939
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菱沼 朋美
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 健司
【テーマコード(参考)】
3C223
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
3C223AA02
3C223AA21
3C223BA03
3C223BB02
3C223BB08
3C223BB09
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB01
3C223EB05
3C223EB07
3C223FF02
3C223FF03
3C223FF08
3C223FF12
3C223FF13
3C223FF14
3C223FF26
3C223FF33
3C223FF35
3C223FF42
3C223FF52
3C223GG01
3C223HH02
3C223HH03
3C223HH05
3C223HH08
3C223HH29
5L049CC60
5L050CC60
(57)【要約】
【課題】異常の発生源又はその位置を高精度に推定する巡回点検技術を提供することを目的とする。
【解決手段】巡回点検システム10は、巡回経路32を持つエリア29のマップデータ25を保持する保持部15と、エリア29において現場状態値を計測した検出器30の検出データ21を受信する受信部11と、エリア29における検出器30の位置を示す位置データ22を取得する取得部12と、巡回経路32において得られた検出データ21及び位置データ22のデータセット20を記録する記録部と、データセット20及びマップデータ25に基づかせ検出データ21に含まれる注目信号36の発生源35又はその位置を推定させる推定部17と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巡回経路を持つエリアのマップデータを保持する保持部と、
前記エリアにおいて現場状態値を計測した検出器の検出データを受信する受信部と、
前記エリアにおける前記検出器の位置を示す位置データを取得する取得部と、
前記巡回経路において得られた、前記検出データ及び前記位置データのデータセットを記録する記録部と、
前記データセット及び前記マップデータに基づかせ、前記検出データに含まれる注目信号の発生源又はその位置を推定させる推定部と、を備える巡回点検システム。
【請求項2】
請求項1に記載の巡回点検システムにおいて、
前記エリアにおける前記検出器の指向性を示す方位データを認識する認識部を備え、
前記方位データが前記データセットに同梱される巡回点検システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の巡回点検システムにおいて、
前記検出データに基づく分析結果を出力する分析部と、
前記巡回経路の前記位置データに対応させた前記分析結果及び前記方位データの少なくとも一方を表示する表示部を備える巡回点検システム。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の巡回点検システムにおいて、
前記検出器と一体的に支持されたカメラで撮影した撮影データが前記データセットに同梱される巡回点検システム。
【請求項5】
請求項4に記載の巡回点検システムにおいて、
前記カメラは360度カメラであり、
前記撮影データに前記方位データ及び前記発生源の少なくとも一方が表示される巡回点検システム。
【請求項6】
請求項4に記載の巡回点検システムにおいて、
前記撮影データから前記位置データを生成する生成部を、備え、
前記データセットに同梱される前記位置データは、前記撮影データから生成されたものである巡回点検システム。
【請求項7】
請求項2を引用する請求項6に記載の巡回点検システムにおいて、
前記生成部は、前記撮影データから前記方位データを生成し、
前記データセットに同梱される前記方位データは、前記撮影データから生成されたものである巡回点検システム。
【請求項8】
請求項2を引用する請求項4に記載の巡回点検システムにおいて、
前記指向性が別々の方位を向く複数の前記検出器がヘルメットに搭載されている巡回点検システム。
【請求項9】
請求項1又は請求項2に記載の巡回点検システムにおいて、
巡回員が発声した音声データが、前記検出データから抽出され、テキストデータに変換される巡回点検システム。
【請求項10】
巡回経路を持つエリアのマップデータを保持するステップと、
前記エリアにおいて現場状態値を計測した検出器の検出データを受信するステップと、
前記エリアにおける前記検出器の位置を示す位置データを取得するステップと、
前記巡回経路において得られた、前記検出データ及び前記位置データのデータセットを記録するステップと、
前記データセット及び前記マップデータに基づかせ、前記検出データに含まれる注目信号の発生源又はその位置を推定させるステップと、を含む巡回点検方法。
【請求項11】
コンピュータに、
巡回経路を持つエリアのマップデータを保持するステップ、
前記エリアにおいて現場状態値を計測した検出器の検出データを受信するステップ、
前記エリアにおける前記検出器の位置を示す位置データを取得するステップ、
前記巡回経路において得られた、前記検出データ及び前記位置データのデータセットを記録するステップ、
前記データセット及び前記マップデータに基づかせ、前記検出データに含まれる注目信号の発生源又はその位置を推定させるステップ、を実行させる巡回点検プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、異常を早期に検知するための巡回点検技術に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所やビルなどの現場における巡回点検では、巡回員が現場を巡回し、視覚や聴覚といった人の感覚(五感)と経験を活かして、設備の異常を早期に検知することを目指している。巡回点検においては、巡回員が感じた現場の変化の状況や場所の情報の記録が重要となる。また、設備故障や品質トラブルの予兆となる異常音は、聞き分け判定に、熟練者の過去の経験やノウハウが必要である。
【0003】
また近年、上述したような人間の感覚に頼っていた巡回点検の業務を、自動化・省力化・リモート化することが求められている。カメラや音響センサなどの検出器を、巡回員が所持して巡視点検を行うことや、ロボットやドローンなどの移動体に搭載して巡視点検を行うことが検討されている。そして、異音等の検出データに基づき設備故障や品質トラブルの予兆を判定する技能等のデジタル化を推進し、後継者不足が進むなか、いかにして技術継承するかが検討されている。
【0004】
具体的には、GPSで位置が把握されるカメラで、360度の撮影をした画像を解析し、さび等を検出して、電柱の設備点検を支援する巡回点検システムが公知となっている。さらに、カメラの撮影位置をGPSで把握し、カメラの角度情報をジャイロセンサで検知して、前回の点検と同じ位置・角度でカメラ撮影し、点検を支援する技術が公知となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6859891号公報
【特許文献2】特許第5334950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した公知技術は、カメラを利用した目視点検のみを代替するものであるとともに、GPSを利用して撮影位置を特定する技術であり、発電所やビルの内部における巡視点検には適用することができない。また、GPSが利用できる屋外においても、建物の影やGPSの信号が干渉する場所においては、精度よく位置情報を取得できない。
【0007】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、異常の発生源又はその位置を簡便に高精度で推定する巡回点検技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係る巡回点検システムにおいて、巡回経路を持つエリアのマップデータを保持する保持部と、前記エリアにおいて現場状態値を計測した検出器の検出データを受信する受信部と、前記エリアにおける前記検出器の位置を示す位置データを取得する取得部と、前記巡回経路において得られた前記検出データ及び前記位置データのデータセットを記録する記録部と、前記データセット及び前記マップデータに基づかせ前記検出データに含まれる注目信号の発生源又はその位置を推定させる推定部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態により、異常の発生源又はその位置を簡便に高精度で推定する巡回点検技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態に係る巡回点検システムを示すブロック図。
図2】異音の発生源が存在するエリアの巡回経路を示すマップデータ。
図3】(A)放射線の発生源が存在するエリアの巡回経路を示すマップデータ、(B)エリアの空間線量率分布を示すマップデータ。
図4】第2実施形態に係る巡回点検システムを示すブロック図。
図5】(A)別々の指向性を持つ複数(二つ)の検出器を一体的に支持するカメラを搭載したヘルメットの正面図、(B)その上面図。
図6】第3実施形態に係る巡回点検システムを示すブロック図。
図7】(A)異音の検出データの分析結果である時間周波数分析のグラフ、(B)同・時系列波形のグラフ、(C)同・周波数分布のグラフ。
図8】(A)実施形態に係る巡回点検システムが適用されるエスカレータの側面図、(B)エスカレータの振動加速度又は角速度の分析結果である時間周波数分析及び時系列波形のグラフ、(C)異音の検出データの分析結果である時間周波数分析及び時系列波形のグラフ。
図9】第4実施形態に係る巡回点検システムを示すブロック図。
図10】(A)巡回経路に巡回員の発声位置を記したエリアのマップデータ、(B)検出データから抽出した音声データを変換したテキストデータを示すテーブル。
図11】(A)図7(B)を再掲した時系列波形のグラフ、(B)時系列波形の発声部分を周波数成分毎に分離した周波数分布のグラフ。
図12】(A)注目信号である異音の周波数成分を抽出した周波数分布のグラフ(図7(C)の再掲)、(B)異音以外の周波数成分を抽出した周波数分布のグラフ。
図13】実施形態に係る巡回点検方法の工程、及び巡回点検プログラムのアルゴリズムを説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1は本発明の第1実施形態に係る巡回点検システム10A(10)を示すブロック図である。図2は異音の発生源35が存在するエリア29aの巡回経路32を示すマップデータ25aである。
【0012】
このように巡回点検システム10は、巡回経路32を持つエリア29のマップデータ25を保持する保持部15と、エリア29において現場状態値を計測した検出器30の検出データ21を受信する受信部11と、エリア29における検出器30の位置を示す位置データ22を取得する取得部12と、巡回経路32において得られた検出データ21及び位置データ22のデータセット20を記録する記録部と、データセット20及びマップデータ25に基づかせ検出データ21に含まれる注目信号36の発生源35又はその位置を推定させる推定部17と、を備えている。
【0013】
さらに巡回点検システム10は、エリア29における検出器30の指向性31を示す方位データ23を認識する認識部13を備えている。そして、データセット20には、この方位データ23も同梱される。
【0014】
エリア29は、巡回員が定期的に巡回点検する発電プラントや工場が想定される。エリア29には、ポンプやモーター等の回転機器が設置されている。これら回転機器は、経時劣化により、異音を発生するようになる。予め定められた巡回経路32を巡ってこのような異音を早期に発見することで、回転機器が大きな故障に至ることを未然に防止し、簡単な修繕で回復させることができる。
【0015】
マップデータ25は、点検対象となる機器が設置されたエリア29において、検出器30の位置データ22及び方位データ23が特定できるよう二次元座標で表されている。保持部15は、そのようなマップデータ25を複数保持している。マップデータ25は、3次元情報を持つデータでもよく、水平面や垂直面の二次元座標での表示や三次元座標での表示でもよい。
【0016】
検出器30は、音響、放射線、温度等といったエリア29における現場状態値を、検出データ21として時系列に出力するものである。この検出器30は、巡回員に携行される場合の他に、ロボットやドローンなどの移動体に装着してもよい。つまり、巡回点検に伴う移動は、人員が実施する場合に限定されず、機械が実施する場合も含まれる。
【0017】
実施形態において検出器30は、指向性31を有する音響センサである場合を示している。その一方で、検出器30が指向性31を持たない場合は、方位データ23の認識部13が不要となる。この場合、データセット20には、検出器30の位置データ22のみが記録され、注目信号36が高感度に検出された位置データ22の近傍に発生源35が存在すると推定される。
【0018】
エリア29を移動する検出器30から出力された検出データ21は、無線信号に変換されて、エリア29の内側又は外側に設置された受信部11で受信される。またエリア29における検出器30の位置データ22及び方位データ23は、検出器30に設けられたカメラの映像や赤外線センサLiDARを利用したSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術を用いた自己位置推定技術やGPS等の位置測位技術や、検出器30に設けられた加速度センサやジャイロセンサ等を活用して取得できる。しかし本実施形態において、位置データ22及び方位データ23の取得・認識方法は、特に限定されない。
【0019】
巡回経路32から得られた検出データ21、位置データ22及び方位データ23は、時間情報に基づき相互に関連付けられたデータセット20を成し、記録部16に記録される。このようなデータセット20は、エリア29を巡回中の検出器30からリアルタイムで記録される場合の他に、エリア29の巡回の終了後に検出器30から纏めて記録する場合もある。
【0020】
発生源35で発生した異音は、発生源35を中心に放射状に伝播し、壁面等の物体に吸収又は反射されながら減衰していく。さらに異音は空間において直進性を持つために、指向性31を持つ検出器30の検出感度は、その位置及び方位に依存する。このため、時間情報をキーとして検出データ21、位置データ22及び方位データ23を組み合わせたデータセット20より、エリア29における異音の発生源35の位置を推定することができる。指向性を持たない検出器30の場合は、異音が高感度に検出された位置データ22の近傍に発生源35が存在すると推定される。
【0021】
異常状態にあるポンプやモーター等の回転機器が発生する異音は、正常状態の正常音と比較して音響特徴量が相違する。異音の音響特徴量を持つ注目信号36を検出データ21から識別し、その検出感度、位置データ22及び方位データ23から、その発生源35を推定することができる。
【0022】
推定部17は、位置データ22及び方位データ23に基づいて、検出器30の位置の移動軌跡及び指向性31の方位が描画されたマップデータ25aを表示部19に表示する。さらに推定部17は、検出データ21の特徴量を分析することで注目信号36を抽出し、発生源35の位置をマップデータ25aに明示(マーク)する。このような注目信号36の抽出及び発生源35の明示は、表示部19及びヒューマンインターフェース28を介するオペレータ作業を伴ってマニュアルで推定される場合の他に、閾値判定や機械学習によって自動的に(オートで)推定される場合もある。
【0023】
図3(A)は放射線の発生源(図示略)が存在するエリア29bの巡回経路32を示すマップデータ25bである。図3(B)はエリア29bの空間線量率分布を示すマップデータ25cである。
【0024】
原子力発電所では、放射線の空間線量率分布の作成に本実施形態を適用できる。この場合の検出器30は線量計である。従来では、作業者が現場を巡回し、数か所の放射線量を定点記録していた。本実施形態の適用により、移動中も位置、方位及び線量を記録できるため、より高精度で高分解能の放射線分布を把握できる。さらに、後述する第2実施形態のようにカメラ37により現場の撮影データ26も取得することで、放射線量が高い場所を確認すると同時に、現場の状況も具体的に確認できる。
【0025】
(第2実施形態)
次に図4及び図5を参照して本発明における第2実施形態について説明する。図4は第2実施形態に係る巡回点検システム10B(10)を示すブロック図である。図5(A)は別々の指向性31(31a,31b)を持つ複数(二つ)の検出器30(30a,30b)を一体的に支持するカメラ37を搭載したヘルメット38の正面図である。図5(B)はその上面図である。
【0026】
図4に示すように第2実施形態の巡回点検システム10Bは、上述した第1実施形態(図1)の構成に、データセット20に同梱される位置データ22及び方位データ23を撮影データ26から生成する生成部27を追加した構成をとる。さらに受信部11は、指向性31(31a,31b)が別々の方位を向く検出データ21(21a,21b)を受信する。なお、図4において図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0027】
巡回経路32の位置データ22及び方位データ23に関連付けて撮影データ26を表示させ、発生源35の位置や種別を映像から確認することが検討される。また、GPS等による取得が困難な場合に、撮影データ26から位置データ22及び方位データ23を生成する。
【0028】
その具体的方法は、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術を利用するものであり、撮影データ26において周囲とのコントラストが際立っている特徴点を抽出し二次元点群像を形成する。巡回ルートに沿って移動した場合、移動に伴い映像が変化し特徴点も移動していく。特徴点の移動を三次元的に追跡していくと、エリア29の空間の三次元点群像と検出器30の位置データ22を同時に求めることができる。また、カメラの画像と点群像の位置関係から方位データ23も求めることができる。なお、以上の処理は、処理を始めた時点からの相対的な位置および方位となるため、マップデータ25との位置合わせを行うことで、エリア29に対応した位置データ22及び方位データ23を生成することができる。
【0029】
図5に示すように、検出器30(30a,30b)は、カメラ37に一体的に支持され、ヘルメット38に搭載されている。このカメラ37には、360度の全方位を撮影できる魚眼レンズ33が用いられている。しかし、これに限定されることはなく、単方位カメラを機械回転させて全方位カメラとすることもできる。そして、このカメラ37が撮影した撮影データ26は、データセット20に同梱される。
【0030】
ここで、カメラ37と検出器30(30a、30b)が別れた構成例を示しているが、カメラ37が音響センサを有する動画撮影機能を有する一体構造でもよい。撮影データ26と音響データ(検出データ21)は1つの動画データとして保存される場合は、動画データ中の撮影データ26から位置データ22及び方位データ23を生成し、同時に動画データ中の音響データ(検出データ21)を抽出して記録部16に格納する。このようなカメラ37を使用する場合は、ひとつの動画データから位置データ22、方位データ23及び検出データ21を抽出するため、時刻同期を行う必要がない。
【0031】
そして撮影データ26の映像中心34(レンズ33の光軸34)に基づいて、検出器30が持つ指向性31の方位データ23が得られる。そして、撮影データ26の映像に、検出器30の方位データ23を同期してマークすることができる。そしてこの映像に、異音(注目信号36)の推定される発生源35もマークすることができる。なお、発生源35のマークは、撮影データ26の映像、マップデータ25の二次元座標に限定されず、エリア29の空間を表す三次元座標にもすることができる。
【0032】
図5(B)に示すように、実施形態では、カメラ37のレンズ33の光軸34に対し、90度回転させた方向に指向性31(31a,31b)を持つようマイク(検出器30(30a,30b))が一体的に支持されている。しかし、レンズ33の光軸34とマイク(検出器30)の指向性31とが成す角度について特に限定はない。
【0033】
(第3実施形態)
次に図6から図8を参照して本発明における第3実施形態について説明する。図6は第3実施形態に係る巡回点検システム10C(10)を示すブロック図である。図7(A)は異音の検出データ21の分析結果40である時間周波数分析40aのグラフである。図7(B)は同・時系列波形40bのグラフである。図7(C)は同・周波数分布40cのグラフである。
【0034】
図6に示すように、第3実施形態の巡回点検システム10Cは、上述した第1実施形態(図1)又は第2実施形態(図4)の構成に、検出データ21の分析結果40(40a,40b,40c)を出力する分析部18を追加した構成をとる。さらに表示部19は、巡回経路32の位置データ22に対応させた分析結果40を表示する。なお、図6において図1又は図4と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0035】
図7(A)(B)(C)の横軸は、巡回経路32(図2)をスタートしてからゴールするまでの時間に対応しており、その縦軸はそれぞれの位置データ22から観測された検出データ21の音響特徴量を示している。そして、図7(C)は、発生源35から伝播する回転機器の異音の音響特徴量(500Hzの周波数成分の強度)を持つ注目信号36に該当する。
【0036】
また図7に破線で示すインデックス41は、巡回経路32(図2)における検出器30の位置データ22に対応している。このように、検出器30が存在している巡回経路32(図2)の位置データ22及び分析結果40のインデックス41は、互いに連動する。そして、検出器30の位置データ22を指定し、対応するように分析結果40のインデックス41を移動させたり、その逆に、分析結果40のインデックス41を指定して、対応するように検出器30の位置データ22を移動させたりすることができる。このような操作を通じて、エリア29における波動の発生源35の位置をマニュアルで推定する場合も、その精度を高めることができる。
【0037】
ここでは、異音の音響特徴量を500Hzの周波数成分としているが、通常確認されていない周波数成分が確認された場合の発生場所の特定や、現場にある回転機器の異常に伴い発生する周波数成分とすることで、検出した周波数成分から異常の原因を特定することが可能となる。また、周波数成分ではなく、音響の強度レベルから位置を推定してもよい。
【0038】
図8(A)は実施形態に係る巡回点検システム10が適用されるエスカレータの側面図である。図8(B)はエスカレータの振動加速度又は角速度の分析結果である時間周波数分析及び時系列波形のグラフである。図8(C)は異音の検出データ21の分析結果である時間周波数分析及び時系列波形のグラフである。エスカレータの踏み段が昇降する場合に、部品の変形などにより接触する場合があると、接触部分で異音や振動が発生する。図8(B)あるいは図8(C)に接触に伴う変化が見られた場合、その位置を容易に特定することが可能となる。
【0039】
ビルなどの巡回点検では、階層で隔てられたエリア29の各々を連結するエスカレータの点検が行われる。検出器30は、巡回員が携帯する場合やロボットや3脚などの撮影機材で支持してもよい。巡回員やロボット・撮影機材を、動作中のエスカレータに載せた状態で、検出器30の検出データ21、位置データ22及び方位データ23を収集する。
【0040】
(第4実施形態)
次に図9から図12を参照して本発明における第4実施形態について説明する。図9は第4実施形態に係る巡回点検システム10D(10)を示すブロック図である。図10(A)は、巡回経路32に巡回員の発声位置を記したエリア29のマップデータ25である。図10(B)は、検出データ21から抽出した音声データ24を変換したテキストデータを示すテーブルである。
【0041】
図9に示すように第4実施形態の巡回点検システム10Dは、上述した第1~第3実施形態(図1図4図6)の構成に、巡回員が発声した音声データ24を検出データ21から抽出する抽出部14を追加した構成をとる。さらに記録部16は、音声データ24から変換したテキストデータを記憶する。なお、図9において図1図4図6と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0042】
巡回点検の作業中は、手作業が困難である場合が多い。また気付き等を記録用紙に記載できたとしても、エリア29を退出した後に事務所等で入力作業する必要がある。第4実施形態では、巡回点検の作業中に発声した音声データ24を記録することにより、作業の質の向上と効率化を同時に達成できる。さらに音声データ24は、テキスト変換してから、検出器30の位置データ22に関連付けることで、エリア29で異常が検知された場所や、気付事項の発生場所の特定が容易になる。さらに同時に記録されている撮影データ26も照らし合わせることで、巡回後の現場状況の確認、気づき対象の位置の確認を確実に行なえ、処置・対応の検討に有効活用できる。
【0043】
図11(A)は、図7(B)を再掲した時系列波形40bのグラフである。図11(B)は、時系列波形40bの発声部分を周波数成分毎に分離した周波数分布40dのグラフである。なお図11(A)の破線で囲った領域は、巡回員の「終わりました」という発声の検出波形である。
【0044】
人の発声は、図11(B)に示すように、比較的幅広い周波数帯域において短時間の波形分布で観測される。人の発声と回転機器の異音とは、観測される周波数帯域及び波形分布が大きく相違するために、それぞれの分離が容易である。
【0045】
図12(A)は、注目信号36である異音の周波数成分を抽出した周波数分布40cのグラフ(図7(C)の再掲)である。図12(B)は、異音以外の周波数成分を抽出した周波数分布40eのグラフである。なお図12(B)の50sから70sに観測されているシャープな波形は、機械の異音でも人の音声にも該当しないノイズ成分である。
【0046】
このように、機器に起因する異音と人の音声とでは、周波数帯域が異なるうえに、人の音声は突発的・短時間に発せられるものなので、機器の異音とは明確に分離できる。そして、人の音声をその内容とともに時間(場所)を特定して記録することが可能となる。
【0047】
図13のフローチャートに基づいて実施形態に係る巡回点検方法の工程、及び巡回点検プログラムのアルゴリズムを説明する(適宜、図9参照)。まず、エリア29のマップデータ25を作成して保持する(S11)。そして、巡回経路32の移動をスタートする(S12)。続いて、エリア29において現場状態値を検出器30で検出し、その出力である検出データ21を受信する(S13)。
【0048】
次に、検出器30と一体的に支持されるカメラ37から撮影データ26を取得し(S14)、この撮影データ26から検出器30の位置を示す位置データ22と、検出器30の指向性31を示す方位データ23を生成する(S15,S16)。なお、(S14)の工程を経ずに、直接、位置データ22及び方位データ23を得る場合もある。そして、時間情報が共通する検出データ21、位置データ22及び方位データ23を相互に関連付けたデータセット20を記録する(S17)。
【0049】
一方において、巡回員が発声した音声データ24が、検出データ21から検出された場合は、この音声データ24を抽出しテキストデータに変換し、共通する時間情報に基づきデータセット20に関連付けて記録する(S18 Yes,S17)。そして、巡回経路32をゴールするまで(S13)から(S18)のフローを繰り返す(S19No,Yes)。
【0050】
次に、巡回経路32において得られたデータセット20及びマップデータ25に基づかせ検出データ21に含まれる注目信号36の発生源35又を推定し(S20)、その位置をマップデータ25にマークする。そして、分析結果40のインデックス41(図7)を指定して検出器30の位置データ22や方位データ23を確認したり、検出器30の位置データ22を指定してその方位データ23と分析結果40のインデックス41を確認したりして推定結果の妥当性を検証する(S21、END)。
【0051】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の巡回点検システムによれば、検出器に巡回経路を移動させながら検出データ及び位置データを取得することにより、異常の発生源又はその位置を簡便に高精度で推定することが可能となる。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0053】
以上説明した巡回点検システムは、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスやキーボードなどの入力装置と、通信I/Fとを、備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。このため巡回点検システムの構成要素は、コンピュータのプロセッサで実現することも可能であり、巡回点検プログラムにより動作させることが可能である
【0054】
また巡回点検プログラムは、ROM等に予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供するようにしてもよい。
【0055】
また、本実施形態に係る巡回点検プログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしてもよい。また、巡回点検システムは、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワーク又は専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【符号の説明】
【0056】
10(10A,10B,10C,10D)…巡回点検システム、11…受信部、12…取得部、13…認識部、14…抽出部、15…保持部、16…記録部、17…推定部、18…分析部、19…表示部、20…データセット、21…検出データ、22…位置データ、23…方位データ、24…音声データ、25(25a,25b,25c)…マップデータ、26…撮影データ、27…生成部、28…ヒューマンインターフェース、29(29a,29b)…エリア、30…検出器、31…指向性、32…巡回経路、33…魚眼レンズ(レンズ)、34…映像中心(光軸)、35…発生源、36…注目信号、37…カメラ、38…ヘルメット、40a(40)…時間周波数分析(分析結果)、40b(40)…時系列波形(分析結果)、40c,40d,40e(40)…周波数分布(分析結果)、41…インデックス。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13