(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078571
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】電気化学デバイス用電極及びこれを備えた非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20240604BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240604BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20240604BHJP
H01G 11/50 20130101ALI20240604BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/48
H01G11/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191006
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】515066771
【氏名又は名称】株式会社アイ・エレクトロライト
(72)【発明者】
【氏名】副田 和位
(72)【発明者】
【氏名】石川 正司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 卓矢
【テーマコード(参考)】
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA07
5E078AB06
5E078BA18
5E078BA27
5E078BA30
5E078BA53
5E078CA02
5E078CA06
5E078CA07
5E078DA03
5E078DA06
5H050AA07
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA11
5H050DA13
5H050EA11
5H050EA23
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】耐熱性に優れた電気化学デバイス用電極および非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】本発明の電気化学デバイス用電極は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な電極活物質と、水に分散している有機高分子であるバインダと、ポリホウ酸塩とを含有することで、電極に対する熱の負荷が、ポリホウ酸塩が持つ吸熱効果によって軽減されることにより、電極側の熱劣化を防ぎ、電池の内部抵抗増加を遅延させることが可能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な電極活物質と、
水に分散している有機高分子であるバインダと、ポリホウ酸塩とを含有することを特徴とする電気化学デバイス用電極。
【請求項2】
少なくとも、前記電極活物質と、前記バインダと、前記ポリホウ酸塩を含む電極合剤から形成した電気化学デバイス用電極であって、
前記ポリホウ酸塩は前記電極合剤に対し0.05重量%~6重量%の範囲で含有される請求項1に記載の電気化学デバイス用電極。
【請求項3】
ポリホウ酸塩を含み、かつ、吸光度法でホウ素濃度含有量が全重量に対して0.89重量%以上6.15重量%以下の範囲である請求項1に記載の電気化学デバイス用電極。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の電気化学デバイス用電極であって、
前記電極活物質として炭素、チタン酸化物又はシリコン酸化物から選択される電気化学デバイス用電極。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の電気化学デバイス用電極を備えた非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池等の電気化学デバイス用電極及びこれを備えた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機器、電気自動車等に搭載される電気化学デバイスとして、例えば、電気化学キャパシタ、リチウムイオン二次電池等の蓄電デバイスが開発されている。これらの中でも、リチウムイオン二次電池は、機器の小型化や軽量化を可能にし、充放電効率がよく、高いエネルギー密度を有しているため、例えば、携帯機器やノート型PC、家電機器、さらにはハイブリッド自動車や電気自動車の電源として使用されている。また、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーシステムと組み合わせ、発電した電力の貯蔵用蓄電デバイスとして新たに注目されている。
【0003】
電気化学デバイスを構成する電極は、電気エネルギーの蓄電に直接関わる電極活物質、活物質間の導通パスを担う導電助剤、バインダ、および集電体等から構成される。電気化学デバイスの特性は電極に大きく依存し、それぞれの材料自体の特性と、材料の組み合わせ方とに大きく影響を受ける。
【0004】
近年、リチウムイオン二次電池等の用途は拡大し、電気自動車のみならず、災害対策や電力事業活用などを想定した定置用蓄電池としても市場の広がりをみせており、電池の高性能化に対する要求が高まっている。定置用途では特に満充電状態で待機することが多く、様々な温度環境での保存特性が重視される。この満充電状態での待機は電解液に負担のかかる状態であり、電解液の耐久力がそのまま二次電池の寿命につながることが多い。そのため良好な耐久性を示す電解液組成についてさまざまな検討がなされている。
【0005】
例えば、特許文献1においては、電池の高電圧化に対応でき、かつ高温保存特性の改善を目的とする発明として、フッ素化飽和環状カーボネート及びフッ素化鎖状カーボネートを含む溶媒と、さらにリチウムイミド塩とを有する非水電解質が記載されている。
【0006】
また新たな非水電解質候補として、イオン液体(室温溶融塩又は常温溶融塩とも呼ばれる)を用いた非水系電解液が提案されている。イオン液体は、室温で液体の状態を示す塩であり、難揮発性、難燃性であることから、リチウム二次電池用電解液として使用することで、安全性向上に期待される材料である。特許文献2では還元安定性に優れる4級アンモニウムカチオンを有するイオン液体に加えて、エチレンカーボネートやビニレンカーボネートのように、前記イオン液体に比べて貴な電位で還元分解する化合物を溶解させることにより、イオン液体に比べて貴な電位で還元分解する化合物が初期充放電過程において電気化学反応し、電極活物質上、特に負極活物質上に電極保護被膜を形成することにより、高温保存特性が向上することが開示されている。
【0007】
これらの電解液の組成検討による技術では、電極上に形成される被膜保護の効果によって熱は遮断され、短期的には温度による電池の劣化を遅らせることができる。しかしながらさらなる中長期的な時間スケールでは、電極に対する熱による負担も顕著となり、そちらの影響が優位となるため、寿命に15~20年以上の期間を想定する定置用蓄電池における高温保存特性への対策としては、上記の電解液だけに焦点を当てた検討では不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許6483943号公報
【特許文献2】特開2009-64564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、高温保存の観点で電極の負担を軽減することが可能となる、電極用添加剤を含んだ電気化学デバイス用電極および非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ポリホウ酸塩を添加した電極用スラリーを、塗布乾燥して製造する電気化学デバイス用電極および非水電解質二次電池は、長期間に亘る高温保存時の電池容量の容量残存特性が高水準で維持が可能であり、前記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の電気化学デバイス用電極は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な電極活物質と、水に分散している有機高分子であるバインダと、ポリホウ酸塩とを含有することを特徴とする。
【0012】
本発明の電気化学デバイス用電極において、少なくとも、前記電極活物質と、前記バインダと、前記ポリホウ酸塩を含む電極合剤から形成した電気化学デバイス用電極であって、前記ポリホウ酸塩は前記電極合剤に対し0.05重量%~6重量%の範囲で含有されることが好ましい。
【0013】
本発明の電気化学デバイス用電極において、ポリホウ酸塩を含み、かつ、吸光度法でホウ素含有量が全重量に対して0.89重量%以上6.15重量%以下の範囲であることが好ましい。
【0014】
本発明の電気化学デバイス用電極であって、前記電極活物質として炭素、チタン酸化物又はシリコン酸化物から選択される電気化学デバイス用電極であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、電極に対する熱の負荷が、ポリホウ酸塩が持つ吸熱効果によって軽減されることにより、電極側の熱劣化を防ぎ、電池の内部抵抗増加を遅延させることが可能となる。これにより電解液の組成検討だけでは十分でなかった、中長期的な時間スケールで高温保存が求められる場合であっても、優れた耐久性を有する非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1はラマン分光法によるポリホウ酸の定性分析を示したグラフである。
【
図2】
図2はホウ素温度-吸光度の線形関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更、実施することができる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、「質量」と「重量」、「質量%」と「重量%」は同義語として扱う。
【0018】
本発明の電気化学デバイス用電極は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な電極活物質と、水に分散している有機高分子であるバインダと、ポリホウ酸塩とを含有する。
【0019】
<リチウムイオンを吸蔵・放出可能な電極活物質>
電極活物質は正極活物質と負極活物質の2種類が存在し、正極活物質であれば、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な材料であればよく、公知のリチウムイオン二次電池用の正極活物質を採用できる。例えば、リチウム含有遷移金属酸化物、1種類以上の遷移金属からなるリチウム含有遷移金属複合酸化物(一部に非遷移金属を含んでもよい)、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、金属酸化物、オリビン型金属リチウム塩等が挙げられる。正極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお正極活物質は粉末が好ましく、その粒子径には、好ましくは50ミクロン以下、より好ましくは20ミクロン以下のものを用いる。正極活物質の好ましい具体例としては、リチウム含有遷移金属酸化物:LixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCrO2、LixFeO2、LixMn2O4、LiyMnO3、リチウム含有遷移金属複合酸化物:LixCoaMn1-aO2、LixCoaNi1-aO2、LixCoaCr1-aO2、LixCoaFe1-aO2、LixCoaTi1-aO2、LixMnaNi1-aO2、LixMnaCr1-aO2、LixMnaFe1-aO2、LixMnaTi1-aO2、LixNiaCr1-aO2、LixNiaFe1-aO2、LixNiaTi1-aO2、LixCraFe1-aO2、LixCraTi1-aO2、LixFeaTi1-aO2、LixCobMncNi1-b-cO2、LixNiaCobAlcO2、LixCrbMncNi1-b-cO2、LixFebMncNi1-b-cO2、LixTibMncNi1-b-cO2、LixMndCo2-dO4、LixMndNi2-dO4、LixMndCr2-dO4、LixMndFe2-dO4、LixMndTi2-dO4、LiyMneCo1-eO3、LiyMneNi1-eO3、LiyMneFe1-eO3、LiyMneTi1-eO3、 オリビン型金属リチウム塩:LixCoPO4、LixMnPO4、LixNiPO4、LixFePO4、LixFe2(PO4)3、LixFeP2O7、LixCofMn1-fPO4、LixCofNi1-fPO4、LixCofFe1-fPO4、LixMnfNi1-fPO4、LixMnfFe1-fPO4、LixNifFe1-fPO4、LiyCoSiO4、LiyMnSiO4、LiyNiSiO4、LiyFeSiO4、LiyCogMn1-gSiO4、LiyCogNi1-gSiO4、LiyCogFe1-gSiO4、LiyMngNi1-gSiO4、LiyMngFe1-gSiO4、LiyNigFe1-gSiO4、LiyCoPhSi1-hO4、LiyMnPhSi1-hO4、LiyNiPhSi1-hO4、LiyFePhSi1-hO4、LiyCogMn1-gPhSi1-hO4、LiyCogNi1-gPhSi1-hO4、LiyCogFe1-gPhSi1-hO4、LiyMngNi1-gPhSi1-hO4、LiyMngFe1-gPhSi1-hO4、LiyNigFe1-gPhSi1-hO4などをあげることができる。(ここで、x=0.01~1.2、y=0.01~2.2、a=0.01~0.99、b=0.01~0.98、c=0.01~0.98但し、b+c=0.02~0.99、d=1.49~1.99、e=0.01~0.99、f=0.01~0.99、g=0.01~0.99、h=0.01~0.99である。)。一部に非遷移金属を含む場合,その候補となる非遷移金属は例えば、Al、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si、Yb等が好ましい。
【0020】
また、前記の好ましい正極活物質のうち、より好ましい正極活物質としては、具体的には、LixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCrO2、LixCoaNi1-aO2、LixMnaNi1-aO2、LixCobMncNi1-b-cO2、LixNiaCobAlcO2、LixMn2O4、LiyMnO3、LiyMneFe1-eO3、LiyMneTi1-eO3、LixCoPO4、LixMnPO4、LixNiPO4、LixFePO4、LixMnfFe1-fPO4、を挙げることができる。(ここで、x=0.01~1.2、y=0.01~2.2、a=0.01~0.99、b=0.01~0.98、c=0.01~0.98但し、b+c=0.02~0.99、d=1.49~1.99、e=0.01~0.99、f=0.01~0.99である。なお、上記のx、yの値は充放電によって増減する。)。
【0021】
負極活物質としてはリチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材料、シリコン系化合物、チタン系化合物等が挙げられる。形状としては、鱗片状、球状、塊状等が挙げられる。粒子径は10nm以上100μm以下が好ましく、更に好ましくは20nm以上20μm以下である。また、金属と炭素材料との混合活物質として用いてもよい。
【0022】
炭素材料: 炭素材料としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化メゾフェーズカーボン、黒鉛化炭素繊維等。
【0023】
シリコン系化合物:Si元素、Siとの合金、Siを含む酸化物、Siを含む炭化物等であり、Si、SiB4、SiB6、Mg2Si、Ni2Si、TiSi2、MoSi2、CoSi2、NiSi2、CaSi2、CrSi2、Cu5Si、FeSi2、MnSi2、NbSi2、TaSi2、VSi2、WSi2、ZnSi2、SiC、Si3N4、Si2N2O、SiOx(0<x≦2)、SnSiOx、LiSiOを例示することができ、SiOx(0<x≦2)であることが好ましく、一酸化ケイ素(SiO)等。
【0024】
チタン系化合物:Li、TiおよびOを含有する化合物であり、例えば、Li4Ti5O12、Li4TiO4、Li2TiO3、Li2Ti3O7が挙げられる。他の例としては、ニオブチタン系酸化物が挙げられる。ニオブチタン系酸化物は、Ti、NbおよびOを含有する化合物であり、例えば、TiNb2O7、Ti2Nb10O29が挙げられる。
【0025】
電極活物質は、前記の材料のうちの1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。2種類以上を併用する場合、正極には、前記正極に用いることができる材料から選ばれる少なくとも2種類を、負極には、前記負極に用いることができる材料から選ばれる少なくとも2種類を組み合わせて用いることができる。電極活物質を構成する材料の混合比率は任意であってよい。
【0026】
複数の材料の混合に用いる装置としては、特に制限はないが、例えば、回転型混合機の場合:円筒型混合機、双子円筒型混合機、二重円錐型混合機、正立方型混合機、鍬形混合機、固定型混合機の場合:螺旋型混合機、リボン型混合機、Muller型混合機、HelicalFlight型混合機、Pugmill型混合機、流動化型混合機等を用いることができる。
【0027】
電極活物質は粒形であることが好ましく、その場合、粒子径は、400nm~40μm程度であることが好ましく、200nm~20μmの範囲がより好ましい。粒子径が400nm未満であると、スラリーの分散が困難となりやすく、粒子径が40μmを超えると、極板の割れが発生しやすい。
【0028】
また、電池寿命を向上させる目的で、電極活物質に対して少量のフッ素、ホウ素、アルミニウム、クロム、ジルコニウム、モリブデン、鉄等の元素をドープしたものや、電極活物質とは異なる組成の物質を付着させたものを用いることもできる。表面付着物質としては、炭素、酸化物(酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス)、硫酸塩(硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等)、炭酸塩(炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等)等が挙げられる。表面付着物質の量は、0.1質量%~5質量%以下が好ましい。
【0029】
本発明の非水電解質二次電池では、正極および負極の少なくとも一方が本発明の電気化学デバイス用電極である。正極または負極のいずれかが本発明の電気化学デバイス用電極ではない場合に、当該電極に用いられる好適な電極活物質としては、TiS2、MoS2、NbSe3等の金属カルコゲン化物;硫黄、硫黄-セレン複合体、硫黄または硫黄-セレン複合体と鋳型炭素、活性炭等の多孔質炭素との複合体、または、硫黄または硫黄-セレン複合体と変性ポリアクリロニトリル等の変性高分子との複合体;ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子化合物;黒鉛、難黒鉛化炭素、活性炭等が挙げられる。
【0030】
<ポリホウ酸塩>
上記ポリホウ酸塩としては、ホウ酸を脱水縮合したポリホウ酸の塩、ホウ酸塩を脱水縮合したもの、又はホウ酸及びホウ酸塩を脱水縮合したものが考えられ、ポリホウ酸イオンとは、縮合ホウ酸イオンであり、2分子のホウ酸の縮合物に対応するピロホウ酸イオン、3分子のホウ酸の直鎖状縮合物に対応する三ホウ酸イオン等を包含する。これらのアニオンも多価アニオンであるため、金属塩が対カチオンとして前記特定金属カチオンを含むことができる限り、さらに水素イオンを含んだ形態でもよい。
具体的には、例えば、ポリホウ酸ナトリウム、ポリホウ酸カルシウム、ポリホウ酸カリウム、ポリホウ酸バリウム、ポリホウ酸亜鉛、硼砂、およびこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でも、水に対する溶解度が高くすることができるポリホウ酸ナトリウムと硼砂の混合物が好ましい。
【0031】
上述したようなポリホウ酸塩は、その吸熱効果により電極かかる熱負荷を軽減し、電池の高温保存特性に優れた効果を示すため好ましい。
【0032】
本発明におけるポリホウ酸塩の含有量は、0.05重量%以上、好ましくは0.2重量%以上であり、また、6重量%以下、好ましくは5重量%以下である。ポリホウ酸塩の含有量が少なすぎると、吸熱効果が不十分となる。前記含有量が多すぎると、作製した電極の抵抗が高くなり、電池の内部抵抗が大きくなりすぎる。結果電池容量が低下する傾向がある。
【0033】
電極合剤中のホウ素の含有量は、吸光度法で0.89重量%以上、6.15重量%以下の範囲内にあることが好ましい。
【0034】
<分散材>
本発明の非水電解質二次電池を構成する電極(正極、負極)には、分散材を使用することが好ましい。分散材には、ポリホウ酸塩をあらかじめ混合して含んでいてもよい。混合する際の分散材およびポリホウ酸塩の種類や組み合わせとしては特に制限はないが、これらを混合したときに相溶性が高い種類、または組み合わせが好ましい。
【0035】
分散材は水に溶解して分散性と増粘性を発揮する水溶性高分子からなり、イオン結合可能なカチオン、もしくはアニオンを含む官能基、および/または水素結合ドナー(水素供与原子)、もしくはアクセプター(水素受容原子)を含む官能基を有することが好ましい。具体的には、カルボキシル基、水酸基、カルボニル基、エーテル基、エステル基などの含酸素官能基、スルホ基、スルホニル基、スルフィニル基などの含硫黄官能基、アミノ基やアミド基、イミド基などの含窒素官能基、リン酸基などの含リン官能基、もしくは電気陰性度の高いハロゲンなどを含む置換基が挙げられる。この中でも、カルボキシル基、水酸基、カルボニル基、アミノ基やアミド基、イミド基を有するものが好ましい。具体的には、水溶性増粘多糖類、アクリル樹脂、ビニルアルコール樹脂、ポリエーテルなどが挙げられる。
【0036】
これらの中でも、水溶性増粘多糖類が、水溶性と増粘性を適度に有しており、長期的なスラリーの安定性を発現することができ好ましい。また、電極塗工面の平滑性に優れ、比較的低温度での乾燥が可能であり、さらに電池の高容量化とサイクル特性の向上とを両立させることができるため好ましい。
【0037】
多糖類とは、ポリヒドロキシアルデヒドまたはポリヒドロキシケトンとして表される1種、または2種以上の単糖がグリコシド結合により複数重合してなる化合物である。水溶性増粘多糖類の具体的な化合物としては、アルギン酸、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデンプンおよびカラギナン等の化合物のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩や、プルラン、グアーガム、キサンタンガム、等が挙げられる。この中でもカルボキシメチルセルロース、アルギン酸およびカラギナンのいずれかのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩、が分散性に優れる観点からより好ましい。
【0038】
分散材の粘度は、1重量%の水溶液とした場合、250cP~78000cPであることが好ましい。この範囲であれば水への溶解性が容易に確保でき、スラリーの粘度安定性が得られる。粘度が小さすぎると分散状態の長期間保持が難しくなり、活物質の沈降が短時間で発生してしまう。また、粘度が大きすぎると、スラリーの流動性を高めるために多量の水が必要となり、スラリーの固形分濃度を下げる要因となる。結果として乾燥時間の長期化が発生し、生産時の塗布工程のタクトタイムが長期化する原因となる。また、カルボキシメチルセルロースについては、エーテル化度については特に限定はないが、0.4~1.5のものが好ましく用いられる。アルギン酸については、マンヌロン酸とグルロン酸の比率(M/G比と呼ばれる)については特に限定はないが、0.5~1.5のものが好ましく用いられる。
【0039】
本発明における分散材の含有量は電極合剤に対して0.1重量%以上、好ましくは0.2重量%以上であり、また3重量%以下、好ましくは2重量%以下である。分散材の割合が多すぎると、作製した電極の抵抗が高くなり、電池の内部抵抗が大きくなりすぎる。結果電池容量が低下する傾向がある。少なすぎると、分散性が低下し、均一な電極が得られ難くなる。
【0040】
<バインダ組成物>
本発明の非水電解質二次電池を構成する電極(正極、負極)には、電極用バインダ組成物を使用することが好ましい。バインダ組成物には、分散材をあらかじめ混合して含んでいてもよいし、ポリホウ酸塩をあらかじめ混合して含んでいてもよい。バインダの分散材およびポリホウ酸塩の種類や組み合わせとしては特に制限されず、これらをバインダ組成物と混合したときに相溶性が高い種類、または組み合わせが好ましい。
【0041】
混合する際、バインダ組成物と分散材とポリホウ酸塩との混合割合は、バインダ組成物に対する分散材とポリホウ酸塩との合計含有量が10重量%以上、好ましくは25重量%以上である。また、800重量%以下、好ましくは500重量%以下である。前記含有量が少なすぎると、分散性が不十分となり、スラリーの長期保存性が保ちにくくなり、また極板抵抗値が上昇して電池特性が低下するおそれがある。また、前記含有量が多すぎると、極板強度の低下につながる。
【0042】
また、バインダ組成物にはエマルジョンや高分子水分散体を用いることができる。エマルジョンとしては、合成樹脂エマルジョンである「ポリアクリル酸共重合体樹脂のエマルジョン」、「共役ジエン系重合体エマルジョン」、「含フッ素共重合体のエマルジョン」、高分子水分散体としては「含フッ素共重合体の水分散体」、などの電池用途に開発された樹脂系のものを好ましく用いることができる。
【0043】
このようなエマルジョンや高分子水分散体を有するバインダ組成物と、前述の分散材とポリホウ酸塩とを組み合わせて用いることにより、極板の強度を高くすることができる。極板の強度が高いと、長期使用にわたる耐久性や充放電による膨張収縮に対する耐久性が高まり、デバイスの寿命を長くすることができる。また、接着強度が高い極板は電池を捲回して製造する際に、集電体から活物質層が剥離するという課題も起こらないと推察される。
【0044】
「ポリアクリル酸共重合体樹脂のエマルジョン」とは、アクリル酸モノマーおよび他の反応性モノマー等を水中で乳化重合することによって得られる共重合体樹脂のエマルジョンである。前記他の反応性モノマーとしては、フッ化ビニリデンモノマー;スチレンモノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、クロトンニトリル、α-エチルアクリロニトリル、α-シアノアクリレート、シアン化ビニリデン、フマロニトリル等のα、β-不飽和ニトリルモノマー等の、ニトリル基を含むエチレン性不飽和モノマー;メタアクリル酸、アクリル酸等の単官能モノマー、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、1、2、3、6-テトラヒドロフタル酸、3-メチル-1、2、3、6-テトラヒドロフタル酸、4-メチル-1、2、3、6-テトラヒドロフタル酸、メチル-3、6-エンドメチレン-1、2、3、6-テトラヒドロフタル酸、エキソ-3、6-エポキシ-1、2、3、6-テトラヒドロフタル酸、ハイミック酸等の、カルボン酸を含むエチレン性不飽和モノマー;前記カルボン酸を含むエチレン性不飽和モノマーの無水物;前記無水物のケン化物;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、イソプロピルビニルケトン、イソブチルビニルケトン、t-ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン等の、ケトン基を含むエチレン性不飽和モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、トリメチル酢酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等の、有機酸ビニルエステル基を含むエチレン性不飽和モノマー;等を挙げることができる。他の反応性モノマーは、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
また、ポリアクリル酸共重合体樹脂の末端部を、特定の官能基によって置換することにより、特定のモノマー等と反応することが可能な変性体とすることもできる。変性体としては、エポキシ変性体、カルボキシ変性体、イソシアネート変性体、水素変性体等を挙げることができる。
【0046】
「共役ジエン系重合体エマルジョン」としては、スチレンブタジエン共重合体ゴムのエマルジョンを好適に用いることができる。スチレンブタジエン共重合体ゴムのエマルジョンとは、スチレンとブタジエンとの共重合体の粒子であり、スチレンに由来する共重合成分と、ブタジエンに由来する共重合成分とを有する。スチレンに由来する共重合成分の含有量は、スチレンブタジエン共重合体を構成する共重合成分全体を基準として、50~80モル%であることが好ましい。ブタジエンに由来する共重合成分の含有量は、前記共重合成分全体を基準として、20~50モル%であることが好ましい。
【0047】
スチレンブタジエン共重合体は、スチレンに由来する共重合成分およびブタジエンに由来する共重合成分以外の他の反応性モノマーを有していてもよい。他の反応性モノマーとしては、例えば、ポリアクリル酸共重合体樹脂のエマルジョンの成分として前述したものを用いることができる。
【0048】
スチレンブタジエン共重合体が前記他の反応性モノマーを有する場合、他の反応性モノマーの含有量は、スチレンブタジエン共重合体を構成する共重合成分全体を基準として、1~30モル%であることが好ましい。スチレンブタジエン共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。また、スチレンブタジエン共重合体は、カルボキシ変性されていてもよい。
【0049】
スチレンブタジエン共重合体ゴムのエマルジョンとは、スチレンのモノマーおよびブタジエンのモノマー、並びに、必要に応じて他の反応性モノマーを水中で乳化重合することによって得られるゴム粒子のエマルジョンであり、ラテックスまたは合成ゴムラテックスと称される場合もある。
【0050】
なお、スチレンブタジエン共重合体ゴムの代わりに、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、天然ゴム(NR)等を用いることもできる。
【0051】
「含フッ素共重合体」とは、少なくとも1種のフッ素含有モノマーの重合体を分子中に含む共重合体である。含フッ素共重合体としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とポリビニルアルコール(PVA)との共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン(PVdF‐co‐HFP)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、プロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等を挙げることができる。
【0052】
「含フッ素共重合体のエマルジョン」とは、1種のフッ素含有モノマーおよび他の反応性モノマー、もしくは、2種以上のフッ素含有モノマー等を水中で乳化重合することによって得られる共重合体樹脂のエマルジョンである。「含フッ素共重合体の水分散体」とは、1種のフッ素含有モノマーおよび他の反応性モノマー、もしくは、2種以上のフッ素含有モノマー等を共重合してなる共重合体樹脂の水溶液、または、前記共重合体樹脂が水中に分散した分散液である。
【0053】
前記他の反応性モノマーとしては、PVA、ヘキサフルオロプロピレン、エチレン、プロピレン等が挙げられる。
【0054】
ポリアクリル酸共重合体樹脂のエマルジョン、スチレンブタジエン共重合体ゴムのエマルジョン、含フッ素共重合体のエマルジョン、もしくは、含フッ素共重合体の水分散体中の、ポリアクリル酸共重合体樹脂、スチレンブタジエン共重合体ゴム、もしくは含フッ素共重合体の含有量(固形分濃度)としては、0.1~80質量%であることが好ましく、0.5~65質量%であることがより好ましい。
【0055】
バインダ組成物の固形分濃度は、0.5~95質量%であることが好ましく、1.0~85質量%であることがより好ましい。前記固形分濃度とは、バインダ組成物中の質量に対するポリアクリル酸共重合体樹脂、共役ジエン系重合体もしくは含フッ素共重合体の合計の質量割合である。
【0056】
<スラリー>
本発明の電気化学デバイス用電極を作製するためのスラリーは、バインダ組成物と、電極活物質と、水と、ポリホウ酸塩と、分散材と、を含有している。
【0057】
このスラリーは、水溶性のポリホウ酸塩と、同じく水溶性の分散材を含むことで、水系のスラリーとして一様に混ざった状態である。ポリホウ酸塩は分散材によって一部に点在せずスラリー中に均一に存在しており、電極活物質の周囲を取り囲むようにして存在している.
【0058】
スラリーの固形分濃度は、65質量%~95質量%未満であることが好ましい。この範囲外だと水が多すぎて乾燥に時間が掛かったり、粘度が低下しすぎてスラリーが箔の上にとどまらず、塗布量の安定性に懸念が出る。固形分が高すぎても塗布量が安定しない。
【0059】
スラリーの調製は、例えば以下の2種類の方法で行うことができる。
【0060】
[方法1]
電極活物質とポリホウ酸塩と分散材を粉体で混合し、水を加えて混錬する。最後にバインダ組成物を添加し混錬する。
[方法2]
あらかじめ、ポリホウ酸塩および分散材を所定の質量%含んだ水溶液を調整する。ついで、電極活物質と前記水溶液とを混合、混錬し、その後、粘度調整のために水を加える。最後にバインダ組成物を添加し混錬する。
【0061】
これらの方法であれば、スラリーの固形分を高めることができ、固形分濃度を80%以上とすることも可能である。固形分濃度が高ければ、pHや分散の安定性も高まる傾向があり、好ましい。また、乾燥時間が速まるので、それにより工程タクトタイムが短縮され、乾燥熱量も低減でき、結果、製造コスト低減につながるという利点もある。
【0062】
上記において、混合や混練の方法は、例えば、各種の粉砕機、混合器、攪拌機等を用いる混合、超音波による分散等の方法を用いることができる。具体的には、ミキサー、高速回転ミキサー、シェアミキサー、ブレンダー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ボールミル等のせん断力或いは衝突による処理方法;ワーリングブレンダー、フラッシュミキサー、タービュライザーなどを用いた方法を挙げることができる。これらの方法は、適宜組み合わせて用いることもできる。
【0063】
スラリーは、導電性確保のために導電助剤を含有していてもよい。導電助剤を加えれば電池の内部抵抗低減につながる。導電助剤としては、特に制限はなく、金属、炭素材料、導電性高分子、導電性ガラスなどが挙げられる。このうち、炭素材料が好ましく、例えばカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、フラーレン等のナノカーボン;アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャネルブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、バルカン、グラフェン、気相成長カーボンファイバー(VGCF)、黒鉛等が挙げられる。より好ましくは、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、VGCF、カーボンナノチューブである。カーボンナノチューブは、単層、二層、多層のいずれのカーボンナノチューブでもよい。導電助剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。導電助剤は、親水性向上のために、酸処理またはアルカリ処理を行ったものであってもよい。
【0064】
導電助剤のメジアン径(「D50」または「50%粒子径」とも呼ばれる)は、10~1μmの範囲にあることが好ましい。この範囲であると、導電助剤をスラリー中に安定かつ均一に分散できる。前記メジアン径は、かさ密度測定器MT-3300(マイクロトラック社製)を用いたレーザー回折法によって粒子径分布を測定し、算出することができる。
【0065】
スラリーに用いられる水は特に限定されず、一般的に用いられる水を使用することができる。例えば、水道水、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水等を用いることができる。なかでもイオン交換水、純水、超純水が好ましい。
【0066】
前記水には、水と均一に混和可能な有機溶媒(親水性有機溶媒)が含まれていてもよい。親水性有機溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン;ジメチルスルホキシド;メタノール、エタノール、2-プロパノール(IPA)、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)などのケトン類;1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、酢酸エチルなどが挙げられる。親水性有機溶媒は、1種類を用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。ただし、安全性、環境への影響、取扱い性等の観点から、有機溶媒を用いずに、水だけの方が好ましい。
【0067】
水と有機溶媒との配合比は、有機溶媒の種類、水と有機溶媒との親和性等を考慮して適宜決定すればよい。
【0068】
前記スラリーの固形分中の各成分の比率は、例えば、電極活物質、バインダ組成物、分散材、ポリホウ酸塩および導電助剤の合計量を100質量%とした場合、電極活物質が60~99質量%、バインダ組成物、分散材およびポリホウ酸塩の合計量が0.1~25質量%、導電助剤が0.1~10質量%であることが好ましい。また、電極活物質が80~95質量%、バインダ組成物、分散材およびポリホウ酸塩の合計量が0.5~15質量%、導電助剤が0.5~5質量%であることがより好ましい。
【0069】
<電気化学デバイス用電極の製造方法>
本発明の電気化学デバイス用電極の製造方法としては、例えば、上述のスラリーを電極基材(集電体)の表面に塗布し、乾燥、プレス成型させることによって製造することができる。これにより、電極基材の表面に電極合剤層が存在する電気化学デバイス用電極を製造することができる。前記電極合剤は、スラリーを箔等の電極基材へ塗布した乾燥後の電極における電極層の部分であり、ポリホウ酸塩、電極活物質、導電助剤、分散材およびバインダを合わせたものである。
【0070】
前記塗布の方法としては、ナイフコーター、コンマコーター、ダイコーター等を用いた方法を挙げることができる。電極基材(集電体)としては、アルミニウム箔、銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔等を用いることができる。
【0071】
前記スラリーの電極基材への塗布量は、例えば、乾燥後の電極合剤層の厚みが0.02~0.40mm、好ましくは0.03~0.25mmの範囲となるように設定することができる。
【0072】
乾燥工程の温度は、例えば、35~150℃、好ましくは40~135℃の範囲内で適宜設定することができる。乾燥工程の時間としては、例えば、10~120秒、好ましくは10~80秒の範囲内で適宜設定することができる。また、減圧下にて乾燥工程を行うことも好ましい。この場合の減圧条件は、圧力が10Pa以下であることが好ましく、数時間乾燥させる方法を取ることができる。
【0073】
このようにして得られた電気化学デバイス用電極は、電気化学デバイスの正極として用いてもよいし、負極として用いてもよい。
【0074】
<電気化学デバイス用電極>
得られた電気化学デバイス用電極は、均一に混合された状態の分散材とポリホウ酸塩が電極活物質を被覆し、その周囲をバインダが存在している。
そして、前記電極は、分散材によって電極合剤全体に均一に分散されたポリホウ酸塩の被覆によって、電極活物質が保護されている。この保護により、後述のとおり、特に耐熱性に優れた電池特性が得られる。
【0075】
耐熱性向上の理由としては、ポリホウ酸塩の吸熱効果である。すなわち電極にかかる熱負荷がすべてポリホウ酸塩に吸収されることで、電極活物質にかかる熱量が軽減される。熱は電極活物質の劣化を加速させ、電池寿命の短命化につながるが、前記吸熱効果によってこれが軽減され、耐熱性向上につながる効果が得られるものと考えられる。また、ポリホウ酸塩含んだ分散材の被覆による電極活物質の保護により、電解質の酸化還元分解が抑制され、電極表面の分解生成物の堆積抑制や、ガス発生の抑制効果が得られる。これらの効果は、分散材によって均一に分散されたポリホウ酸塩が、電極活物質を被覆することによって発現する。これに対して、ポリホウ酸塩が含有されていない電極は、耐熱性が低く、また、ガス発生、過電圧が出る、容量が低い、金属溶出が抑えられない等の問題が発生する場合がある。
【0076】
電気化学デバイス用電極は、前記の通り、電極合剤中のポリホウ酸塩の含有量は0.05重量%~6重量%の範囲にあることが好ましい。この範囲にあることで、高温での良好な電池特性や、良好なサイクル特性が得られる。
【0077】
一方、電極合剤中のホウ素の含有量は、0.89重量%以上6.15重量%以下の範囲内にあることが好ましい。本発明におけるホウ素の含有量を満たしているか否かを特定するには、吸光度測定による分析等の方法を用いることができる。
ホウ素の含有量がこの範囲よりも多すぎると、電極活物質となる複合酸化物の比率が減少することにより電池容量が低下する傾向がある。ホウ素の含有量が少なすぎると、耐熱性が低下し、良好な高温保存特性が得られ難くなる。
【0078】
<吸光度測定>
電極から削り出して得た、電極合剤2mgを10mlの水に分散させて水溶液を得て、さらにこれをろ過して得られた水溶液(ろ液)について、アゾメチンH吸光光度法により分光光度計を用いて測定した際、410~425μmの範囲にある吸光度の値を測定する。
【0079】
吸光度とホウ素濃度との対比は、ホウ素濃度の標準液(1ppm、2ppm、3ppm、4ppm濃度等)を準備し、これを比色計によって吸光度を測定し、得られた吸光度とホウ素濃度に対してプロットする。吸光度とホウ素濃度はlambert-beerの法則から比例関係にあるので直線グラフになる。これを検量線として使用し、吸光度からホウ素濃度を読み取る。吸光度はホウ酸イオンとアゾメチンH試薬(発色液)とが形成する錯体の吸収極大波長である410~425nmで測定するのが好ましい。またブランク値の測定では、ろ液に錯体形成させる場合と同量のアゾメチンH試料と純水を混合し吸光度を測定する。
【0080】
水溶液の吸光度の値が上記範囲内の場合は、良好な高温耐久性及びエネルギー密度を示す電池を得ることができた。言い換えれば水溶液の吸光度の値が上記範囲外の場合は、電池の高温耐久性が得られなかったり、抵抗が高くなって電池のエネルギー密度が下がることが確認できた。
【0081】
ここで、吸光度とは、前記電極合剤を分散させた水溶液のろ液を、分光光度計によって測定したときに得られる、光の強度の低下量を示す無次元量のことである。アゾメチンH吸光光度法とはホウ素の分析方法である。アゾメチンHとホウ素を反応させることで形成される、特定範囲の可視光波長に呈色した化合物を分光光度法によって測定する方法である。
【0082】
なお、ろ液に遷移金属が混入して発色しづらい場合は、金属イオン除去するキレート剤を含んでもよい。キレート剤としては、EDTA・二ナトリウム塩(二水和物)、EDTA・四ナトリウム塩(四水和物)、CyDTA(トランス-1、2-シクロヘキサンジアミン四酢酸塩)、GEDTA(グリコールエーテルジアミン四酢酸塩)等や、これらの混合物が挙げられるが、特にEDTA・二ナトリウム塩(二水和物)、EDTA・四ナトリウム塩(四水和物)やこれらの混合物が、高濃度の金属イオンをマスキングできるので好ましい。キレート剤によりマスキングが可能な金属イオンとしては、鉄イオン、銅イオン、アルミニウムイオン等が挙げられる。
【0083】
また電極合剤に含有されているホウ素化合物がポリホウ酸塩であるか否かを特定するには、ラマン分光測定による分析等の方法を用いることができる。
【0084】
<ラマン分光法>
レーザーラマン分光法は、分子の振動状態を測定することで、その化学構造を推定するための手法である。レーザーラマン分光法は、水溶液をはじめとする溶液中でも測定を行うことができる。電極から削り出して得た、電極合剤2mgを10mlの水に分散させて水溶液を得て、さらにこれをろ過して得られた水溶液(ろ液)について、レーザーラマン分光法により測定した際、410~425μmの範囲のピークの出現位置を測定する。
【0085】
<電気化学デバイス(非水電解質二次電池)>
本発明の非水電解質二次電池は、正極および負極を備え、前記正極と前記負極との間に電解質を含む電気化学デバイスであって、前記正極および前記負極の少なくとも一方が、本発明の電気化学デバイス用電極である。
【0086】
電気化学デバイスには、正極と負極との短絡を防止するために、正極と負極との間にセパレーターが配置される。正極および負極にはそれぞれ集電体が備えられており、両集電体は電源に接続されている。この電源の操作によって充放電の切り替えがなされる。
【0087】
電気化学デバイスの例としては、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池、電気化学キャパシタ等が挙げられ、さらには非リチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ、色素増感型太陽電池等も包含される。
【0088】
前記電気化学デバイスは、高性能であり、かつ安全性の高い蓄電デバイスとして利用することができる。よって、前記電気化学デバイスは、携帯電話機器、ノートパソコン、携帯情報端末(PDA)、ビデオカメラ、デジタルカメラ等の小型電子機器;電動自転車、電動自動車、電車等の移動用機器(車両);火力発電、風力発電、水力発電、原子力発電、地熱発電等の発電用機器;自然エネルギー蓄電システム等に搭載されてもよい。
【0089】
本発明の非水電解質二次電池は、リチウムイオン二次電池であることがより好ましい。
【0090】
本発明の非水電解質二次電池は、本発明の電気化学デバイス用電極を備えるため、一般的な電極合剤構成材料、例えば電極活物質、導電助剤、バインダ、水またはNMPなどの有機溶媒を用いて調製したスラリーから調製した電極を備える非水電解質二次電池と比べて、特に耐熱性に優れた充放電特性を示す。このことは実施例で実証されている。
【0091】
本発明の非水電解質二次電池は、正極または負極のいずれかが、本発明の電気化学デバイス用電極であればよく、正極負極の一方が本発明の電気化学デバイス用電極であれば、他方の電極(対極)は、ポリホウ酸塩を含まずに製造された電極であってもよい。
【0092】
また、本発明の非水電解質二次電池の形態は、例えば、短冊状の電極とセパレーターとを重ねて巻きとり、巻回体状にした円筒型、電極をセパレーターで包んで積層し、アルミラミネートパウチで包装した積層ラミネート型、電極ペレットとセパレーターを積層したコイン型等が挙げられる。外装ケースは、ステンレス製ケース、アルミ製ケースなどが使用される。
【0093】
<電解質>
電解質としては、非水系溶媒にリチウム塩を溶解させた非水系電解液、非水系電解液と有機高分子化合物との混合により作製されたゲル状、ゴム状、あるいは固体シート状の電解質、固体リチウムイオン伝導性を持つ固体化合物粒子(例えば硫化物や酸化物等)をプレス等で固めた固体電解質などが用いられる。
【0094】
非水系電解液に使用される非水系溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート;ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、3-ジオキソラン等の環状エーテル;ジエトシキエタン、ジメトキシエタン等の鎖状エーテル類;スルホラン、エチルイソプロピルスルホン、ジメチルスルホン、ジノルマルプロピルスルホン等のスルホン系溶媒;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等の鎖状エステル類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル類;アセトニトリル等が挙げられる。
【0095】
これらの非水系溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。混合溶媒とする場合には、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの組合せが好ましい。環状カーボネートがリチウム塩を高濃度に溶解し、鎖状カーボネートがリチウム塩の溶解度を低下させずに、電解液の粘度を低下させることができるため、これらの組み合わせによってイオン伝導率が高い電解液を得ることができる。また、これらの混合溶媒は、高い酸化還元耐性を持っており、リチウムイオン電池の作動電圧範囲で、連続的に電気分解される懸念が少ないという点でも好ましい。
【0096】
前記非水系電解液に使用される非水系溶媒は、イオン液体であってもよい。イオン液体とは、カチオンとアニオンとを組み合わせてなる溶融塩であり、室温を含む幅広い温度領域において液体状態で存在する塩を意味する。イオン液体としては、以下のカチオンの少なくとも1種と、以下のアニオンの少なくとも1種とを適宜組み合わせて構成することができる。
【0097】
このイオン液体のカチオンとしては、電解液中におけるリチウムイオンの移動を可能とし、蓄電デバイスの充電および放電を可能とするものであれば、特に制限されず、例えば、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、テトラアルキルアンモニウム、ピラゾリウムおよびテトラアルキルホスホニウム等が挙げられる。
【0098】
前記イミダゾリウムとしては、例えば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム[EMIm+]、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-アリル-3-メチルイミダゾリウム、1-アリル-3-エチルイミダゾリウム、1-アリル-3-ブチルイミダゾリウムおよび1,3-ジアリルイミダゾリウム等が挙げられる。
【0099】
前記ピリジニウムとしては、例えば、1-プロピルピリジニウム、1-ブチルピリジニウム、1-アリルピリジニウム、1-エチル-3-(ヒドロキシメチル)ピリジニウムおよび1-エチル-3-メチルピリジニウム等が挙げられる。
【0100】
前記ピロリジニウムとしては、例えば、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム[MPPyr+]、N-メチル-N-ブチルピロリジニウム、N-メチル-N-メトキシメチルピロリジニウム、N-アリル-N-メチルピロリジニウム、およびN-アリル-N-プロピルピロリジニウム等が挙げられる。
【0101】
前記ピペリジニウムとしては、例えば、N-メチル-N-プロピルピペリジニウム、N-メチル-N-ブチルピペリジニウム、N-メチル-N-メトキシメチルピペリジニウム、およびN-アリル-N-プロピルピペリジニウム等が挙げられる。
【0102】
前記テトラアルキルアンモニウムとしては、例えば、N、N、N-トリメチル-N-プロピルアンモニウム、およびメチルトリオクチルアンモニウム等が挙げられる。
【0103】
前記ピラゾリウムとしては、例えば、1-エチル-2,3,5-トリメチルピラゾリウム、1-プロピル-2,3,5-トリメチルピラゾリウム、1-ブチル-2,3,5-トリメチルピラゾリウム、および1-アリル-2,3,5-トリメチルピラゾリウム等が挙げられる。
【0104】
前記テトラアルキルホスホニウムとしては、例えば、P-ブチル-P,P,P-トリエチルホスホニウム、およびP,P,P-トリエチル-P-(2-メトキシエチル)ホスホニウム等が挙げられる。
【0105】
また、これらのカチオンと組み合わされてイオン液体を構成するアニオンとしては、電解液中におけるリチウムイオンの移動を可能とし、蓄電デバイスの充電および放電を可能とするものであればよい。例えば、BF4
-、PF6
-、SbF6
-、NO3
-、CF3SO3
-、(FSO2)2N-[ビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオン;FSI-]、(CF3SO2)2N-[ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド;TFSI-]、(C2F5SO2)2N-、(CF3SO2)3C-、CF3CO2
-、C3F7CO2
-、CH3CO2
-、(CN)2N-等が挙げられる。これらのアニオンは2種類以上を含んでいてもよい。
【0106】
非水系電解液に使用されるリチウム塩は特に限定されず、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6等のフッ化物系リチウム塩;LiClO4、LiCl、LiBr、LiI等のハロゲン化物系リチウム塩;LiN(CF3SO2)2(LiTFSI)、LiN(FSO2)2(LiFSI)等のスルホン酸塩系リチウム塩が挙げられる。リチウム塩は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。非水系電解液中におけるリチウム塩の濃度は、0.3~2.5mol/dm3である。
【0107】
上述の非水系電解液と有機高分子化合物とを混合して、ゲル状、ゴム状、あるいは固体シート状の電解質として使用する場合、有機高分子化合物としては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリビニリデンカーボネート、ポリアクリロニトリル、PVDF-HFP等を用いることができる。
【0108】
非水系電解液は、正極での酸化分解または負極での還元分解を抑制するために、電解液添加剤を含んでもよい。電解液添加剤としては、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、エチレンスルフィド、1,3-プロパンスルトン、1,3-プロペンスルトン、リチウムビスオキサレートボレート、リチウムジフルオロオキサレートボレート等が挙げられる。添加剤の含有量は、非水系電解液に対して、10~0.5重量%の範囲とすることが好ましい。含有量が多過ぎると電気化学デバイスの抵抗増大につながり好ましくない。これらの添加物は、電極上に強固な被膜を形成して電極表面を保護する働きがあり、その保護効果によって電極へのサイクルごとのダメージを緩和することで、サイクル特性、耐熱性向上に有効である。
【0109】
なお、本発明におけるポリホウ酸塩を電極添加剤として用いた場合、前記電解液添加剤を含まなくても、サイクル特性、耐熱性を向上させることができる。
【0110】
<セパレーター>
本発明における電気化学デバイスでは、正極と負極との短絡を防止するため、これらの間にセパレーターが備えられる。セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)またはポリイミド等を含む多孔質フィルムが挙げられる。セパレーターの片面、もしくは両面には、コート層が設けられていてもよい。前記コート層は、アルミナ、ジルコニア、シリカ等からなる数nm~数μmの粒子径の無機微粒子の層であり、耐熱性向上や、短絡対策に効果的である。
【実施例0111】
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0112】
<ポリホウ酸塩の製造>
ポリホウ酸塩について、ホウ酸と無水硼砂との重量比は7:3とした。水100gに対して、ホウ酸42g、無水硼砂35gを添加し、90℃以上に加熱して完全に溶解するまで攪拌する。室温に冷却した後、溶け残りをろ過して分離し、得られた水溶液を蒸発乾固させる。得られた固形物をボールミルで粉砕し、ポリホウ酸塩とした。
【0113】
<製造したポリホウ酸塩の定性分析>
<ラマン分光法>
レーザーラマン分光法は、分子の振動状態を測定することで、その化学構造を推定するための手法である。レーザーラマン分光法は、水溶液をはじめとする溶液中でも測定を行うことができる。電極から削り出して得た、電極合剤2mgを10mlの水に分散させて水溶液を得て、さらにこれをろ過して得られた水溶液(ろ液)について、レーザーラマン分光法により測定した際、410~425μmの範囲のピークの出現位置を測定する。
【0114】
<ラマン分光測定に用いる試料調整>
前記ポリホウ酸塩の製造で得られたポリホウ酸塩5gを,水95gに溶解させて5重量%水溶液を作製した。また比較試験としてポリホウ酸塩をホウ酸に変更した5重量%水溶液も調整した。
【0115】
得られた水溶液について、室温でラマンスペクトルを測定したところ、
図1に示すように、ポリホウ酸塩は、ホウ酸飽和水溶液とは異なるスペクトルが得られた。
図1によれば、ホウ酸飽和水溶液は、ホウ酸イオン(BO3
3-)によるスペクトルを示す一方、ポリホウ酸塩ではそれよりもピーク発現位置が低エネルギー側にシフトしている。
【0116】
一般に、ホウ酸イオンの重合度が上がり、大きなポリホウ酸イオンになるにしたがって 、ラマンスペクトルのピークは低エネルギー側にシフトすると考えられ、ホウ酸イオンに比較して、より多くのホウ素を1つのアニオン内に含有するポリホウ酸イオン、例えばB2n+4O3n+7
2-(nは1以 上の整数)となって溶解していることが言われている。
【0117】
<分析方法:ラマンスペクトル(定性分析)>
pH9.0における水溶液のラマンスペクトル
サンプルの作製:ポリホウ酸を含んで調製したスラリーを塗布乾燥させて電極を作製する。その電極を再度水で洗い溶解させる。得られた溶液を濾過して活物質、導電材などを分離。得られた濾液をサンプルとする。
【0118】
<分析サンプル>
1.ポリホウ酸含有スラリーの濾液
2.ホウ酸含有スラリーの濾液
ポリホウ酸ではスペクトルの位置がシフトする。
【0119】
<pHの異なるポリホウ酸を添加した電極特性比較>
ポリホウ酸はホウ酸と無水硼砂の重量比によってpHの異なるポリホウ酸を作製することが可能である。pHの際による特性への影響を確認した。使用した活物質は酸化物系正極材であるNMC622、炭素系負極材である黒鉛、酸化物系負極材であるLTOの3種を検討した。
【0120】
<pHの異なるポリホウ酸の製造>
異なるpHをもつポリホウ酸を(1)(2)(3)の3種類を作製し、それぞれのポリホウ酸を水に溶解した時のpHはそれぞれ(1)10.1、(2)7.1、(3)5.8であった。各製造方法は以下である。
(1)水100gに対して、ホウ酸11g、無水硼砂35gを添加し、90℃以上に加熱して完全に溶解するまで攪拌する。室温に冷却した後、溶け残りをろ過して分離し、得られた水溶液を蒸発乾固させる。得られた固形物をボールミルで粉砕し、ポリホウ酸塩とした。
(2)水100gに対して、ホウ酸25g、無水硼砂35gを添加した以外は(1)と同様の方法で作製した。
(3)水100gに対して、ホウ酸42g、無水硼砂35gを添加した以外は(1)と同様の方法で作製した。
【0121】
<スラリーの作製>
<正極極板>
正極材としてNMC622(LiNi0.6CO0.2Mn0.2O2)を94部、導電助剤としてアセチレンブラック2部、ポリホウ酸塩1部、バインダとしPVDF3部を混合し、これにNMPを25部加えてプラネタリミキサー(TKハイビスミックス、プライミクス社)を用いて混錬することで、正極合材スラリーを作製した。
【0122】
<炭素系負極極板>
負極材として黒鉛を96部、導電助剤としてアセチレンブラックを1部、水溶性分散剤 としてCMC-Naを1部、ポリホウ酸塩を1部、バインダとしてSBRを1部混合し、これに水を50部加えてプラネタリミキサー(TKハイビスミックス、プライミクス社)を用いて混錬することで黒鉛負極合剤スラリーを作製した。
【0123】
<酸化物系負極極板>
負極材としてLTOを96部、導電助剤としてアセチレンブラックを1部、水溶性分散剤 としてCMC-Naを1部、ポリホウ酸塩を1部、バインダとしてSBRを1部混合し、これに水を50部加えてプラネタリミキサー(TKハイビスミックス、プライミクス社)を用いて混錬することで黒鉛負極合剤スラリーを作製した。
【0124】
<塗布電極の作製>
<正極極板>
得られた正極合材スラリーを、厚み15μmの長尺状の正極集電体アルミニウム箔の片面に、ドクターブレード法によって目付量が15mg/cm2となるように塗布した。その後、前記アルミニウム箔を100℃で120秒間乾燥することにより、正極合材層を形成した。この正極合材層をロールプレス機により圧延して、正極充填密度を3.5g/ccに調整することによって、電気化学デバイス用正極を得た。
【0125】
<炭素系負極極板>
得られた炭素系負極合材スラリーを、厚み10μmの長尺状の炭素系負極集電体銅箔の両面に、ドクターブレード法によって帯状に塗布した。片面あたりの目付量が6mg/cm2となるように塗布した。その後、炭素系負極合材スラリーを塗布した前記銅箔または前記アルミニウム箔を100℃ で120秒間乾燥することにより、炭素系負極合材層を形成した。この炭素系負極合材層をロールプレス機により圧延して、炭素負極充填密度を1.5g/ccに調整することによって、電気化学デバイス用炭素系負極を得た。
【0126】
<酸化物系負極極板>
得られた酸化物系負極合材スラリーを、厚み15μmの長尺状の酸化物系負極集電体アルミニウム箔の片面に、ドクターブレード法によって目付量が13mg/cm2となるように塗布した。その後、前記アルミニウム箔を100℃で120秒間乾燥することにより、酸化物系負極合材層を形成した。この酸化物系負極合材層をロールプレス機により圧延して、負極充填密度を1.8g/ccに調整することによって、電気化学デバイス用酸化物系負極を得た。
【0127】
前記で得られた電気化学デバイス用正極、炭素系負極、酸化物系負極を用い、次の構成のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0128】
<正極評価用電池>
作用極:前記 電気化学デバイス用正極 (ポリホウ酸のpH値(1)(2)(3)各種)
対 極:金属リチウム
電解液:エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とを
EC:DMC=1:1(体積比)で含む混合溶媒に、
支持塩としてLiPF6:を1.0Mの濃度となるように溶解させた
非水電解液
(以下「1.0MLiPF6+EC/DMC=1:1(体積比)」と記載)
セパレーター:セルロース不織布
【0129】
<炭素系負極>
作用極を前記電気化学デバイス用炭素負極に変更したこと以外は前記正極評価用電池と同じ構成である。
【0130】
<酸化物系負極>
作用極を前記電気化学デバイス用酸化物系負極に変更したこと以外は前記正極評価用電池と同じ構成である。
これらをCR2032型サイズのコインセル容器を用いて、グローブボックス中(露点-60℃、アルゴン雰囲気)で組み立てた。
【0131】
<放電容量確認試験>
特性評価用リチウムイオン二次電池を、室温で、電流値1時間率(1.0Cレート)で 充電(CC-CVモード)、放電(CCモード)を行い、得られた放電容量を基準容量とした。動作電圧範囲は正極:2.7~4.3V、炭素系負極:0.005~1.5V、酸化物系負極:1.0~2.0Vで実施した。結果を表1に示す。
【0132】
【0133】
ポリホウ酸塩のpHを変化させることで、正極ではよりpH値が低いほど、すなわち酸性を示すほど放電容量の増加が確認された。一方、炭素系負極と酸化物系負極はpH値への依存は確認されなかった。よって正極に関してのみpH値依存性が確認され、酸性を示すポリホウ酸の適用がより好ましいことがわかる。
【0134】
<ポリホウ酸の実施例1-1(添加量A)、実施例1-2(添加量B)、実施例1-3(添加量C)、比較例1(ポリホウ酸なし)>
<添加量の確認試験 正極>
ポリホウ酸の添加量ごとの特性の影響を正極負極でそれぞれ検討した。添加量はA~Cの3通りを設定し、各対極にはポリホウ酸未添加の電極を使用した。
【0135】
<スラリーの作製>
正極材としてNMC622(LiNi0.6CO0.2Mn0.2O2)、導電助剤としてアセチレンブラック、ポリホウ酸塩、バインダとしPVDFを混合し、これにNMPを25部加えてプラネタリミキサー(TKハイビスミックス、プライミクス社)を用いて混錬することで、正極合材スラリーを作製した。ポリホウ酸添加量ごとの電極組成は以下である。
【0136】
・実施例1-1(添加量A)
NMC622:アセチレンブラック:ポリホウ酸:PVDF=89:2:6 :3
・実施例1-2(添加量B)
NMC622:アセチレンブラック:ポリホウ酸:PVDF=94:2:1:3
・実施例1-3(添加量C)
NMC622:アセチレンブラック:ポリホウ酸:PVDF=94.5:2:0.05:3
・比較例1(ポリホウ酸なし)
NMC622:アセチレンブラック: PVDF=95:2:3
【0137】
<塗布電極の作製>
得られた正極合材スラリーを、厚み15μmの長尺状の正極集電体アルミニウム箔の片面に、ドクターブレード法によって目付量が15mg/cm2となるように塗布した。その後、前記アルミニウム箔を100℃で120秒間乾燥することにより、正極合材層を形成した。この正極合材層をロールプレス機により圧延して、正極充填密度を3.5g/ccに調整することによって、電気化学デバイス用正極を得た。
【0138】
<対極(負極)の作製>
対極となる負極材として黒鉛を96部、導電助剤としてアセチレンブラックを1部、水溶性分散剤 としてCMC-Naを1部、ポリホウ酸塩を1部、バインダとしてSBRを1部混合し、これに水を50部加えてプラネタリミキサー(TKハイビスミックス、プライミクス社)を用いて混錬することで黒鉛負極合剤スラリーを作製した。
【0139】
<塗布電極の作製>
得られた負極合材スラリーを、厚み10μmの長尺状の負極集電体銅箔の両面に、ドクターブレード法によって帯状に塗布した。片面あたりの目付量が6mg/cm2となるように塗布した。その後、負極合材スラリーを塗布した前記銅箔または前記アルミニウム箔を100℃ で120秒間乾燥することにより、負極合材層を形成した。この負極合材層をロールプレス機により圧延して、負極充填密度を1.5g/ccに調整することによって、電気化学デバイス用対極(負極)を得た。
【0140】
前記で得られた電気化学デバイス用正極を用い、次の構成のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0141】
正極:前記 電気化学デバイス用正極 (実施例1-1~1-3、比較例1各種)
負極:前記 電気化学デバイス用対極
電解液: 1.0M LiPF6+EC/DMC=1:1(体積比)
セパレーター:セルロース不織布
【0142】
これらをCR2032型サイズのコインセル容器を用いて、グローブボックス中(露点-60℃、アルゴン雰囲気)で組み立てた。
【0143】
<添加量の確認試験 負極>
ポリホウ酸を添加した電極を負極としたこと以外は、添加量の確認試験 正極と同様の方法で検討した。
【0144】
負極材として黒鉛、導電助剤としてアセチレンブラック、水溶性分散剤 としてCMC-Na、ポリホウ酸塩、バインダとしてSBRを混合し、これに水を50部加えてプラネタリミキサー(TKハイビスミックス、プライミクス社)を用いて混錬することで黒鉛負極合剤スラリーを作製した。ポリホウ酸添加量ごとの電極組成は以下である。
【0145】
・実施例2-1(添加量A)
黒鉛:アセチレンブラック:CMC-Na:ポリホウ酸:SBR=91:1:6:1:1
・実施例2-2(添加量B)
黒鉛:アセチレンブラック:CMC-Na:ポリホウ酸:SBR=96:1:1:1
・実施例2-3(添加量C)
黒鉛:アセチレンブラック:CMC-Na:ポリホウ酸:SBR=96.95:1:0.05:1
・比較例2(ポリホウ酸なし)
黒鉛:アセチレンブラック:CMC-Na: SBR=97:1:1:1
【0146】
<塗布電極の作製>
得られた負極合材スラリーを、厚み10μmの長尺状の負極集電体銅箔の両面に、ドクターブレード法によって帯状に塗布した。片面あたりの目付量が6mg/cm2となるように塗布した。その後、負極合材スラリーを塗布した前記銅箔または前記アルミニウム箔を100℃ で120秒間乾燥することにより、負極合材層を形成した。この負極合材層をロールプレス機により圧延して、負極充填密度を1.5g/ccに調整することによって、電気化学デバイス用負極を得た。
【0147】
<対極(正極)の作製>
対極となる正極材としてNMC622を95部、導電助剤としてアセチレンブラックを2部、バインダとしてPVDFを3部混合し、これにNMPを25部加えてプラネタリミキサー(TKハイビスミックス、プライミクス社)を用いて混錬することで正極合剤スラリーを作製した。
【0148】
得られた正極合材スラリーを、厚み15μmの長尺状の正極集電体アルミニウム箔の片面に、ドクターブレード法によって目付量が15mg/cm2となるように塗布した。その後、前記アルミニウム箔を100℃で120秒間乾燥することにより、正極合材層を形成した。この正極合材層をロールプレス機により圧延して、正極充填密度を3.5g/ccに調整することによって、電気化学デバイス用正極を得た。
【0149】
前記で得られた電気化学デバイス用電極を用い、次の構成のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0150】
正極:前記 電気化学デバイス用対極
負極:前記 電気化学デバイス用負極(ポリホウ酸の通常量,過剰量,不足量各種)
電解液:1.0M LiPF6+EC/DMC=1:1(体積比)
セパレーター:セルロース不織布
【0151】
これらをCR2032型サイズのコインセル容器を用いて、グローブボックス中(露点-60℃、アルゴン雰囲気)で組み立てた。
【0152】
<高温保存特性測定条件>
特性評価用リチウムイオン二次電池を、室温で、電流値1時間率(1.0Cレート)で 充電(CC-CVモード)、放電(CCモード)を行い、得られた放電容量を基準容量とした。次に、特性評価用リチウムイオン二次電池を、室温で上限電圧まで1時間率(1. 0 Cレート)で定電流充電した。充電状態を維持したまま、80℃に昇温し、1週間保存した後、室温に戻し、下限電圧まで1時間率(1.0Cレート)で定電流で放電した。得られた容量を測定後容量とし、測定後容量/基準容量×100で容量保持率を算出した。結果を表2に示す。
【0153】
【0154】
ポリホウ酸塩の量を変化させても初期容量は変化しない。一方、保存特性はポリホウ酸塩の添加量を多くした場合(実施例1-1、実施例2-1)、ポリホウ酸が少なくした場合(実施例1-3、実施例2-3)の容量保持率よりは向上がみられるものの、容量保持率はポリホウ酸が通常の場合(実施例1-2、実施例2-2)には及ばなかった。以上の結果から、ポリホウ酸塩は、一定の含有量を超えない範囲で、添加することが好ましいことがわかる。
【0155】
<吸光度法によるホウ素含有量の測定>
作製した塗布電極である前記の黒鉛負極について、実施例2-1,2-2に含有されるホウ素量を定量するために、アゾメチンH吸光光度法による分光光度計を用いて、吸光度測定を実施した。
【0156】
吸光度とホウ素濃度との対比は、ホウ素濃度の標準液(1ppm、2ppm、3ppm、4ppm濃度等)を準備し、これを比色計によって吸光度を測定し、得られた吸光度とホウ素濃度に対してプロットする。吸光度とホウ素濃度はlambert-beerの法則から比例関係にあるので直線グラフになる。これを検量線として使用し、吸光度からホウ素濃度を読み取る。吸光度はホウ酸イオンとアゾメチンH試薬(発色液)とが形成する錯体の吸収極大波長である410~425nmで測定するのが好ましい。またブランク値の測定では、ろ液に錯体形成させる場合と同量のアゾメチンH試料と純水を混合し吸光度を測定する。
【0157】
発色緩衝液の作製:発色緩衝液はマスキング液と発色液であるアゾメチンH試薬を混合して作製する。マスキング液の調整方法として、酢酸アンモニウム280g、酢酸カリウム20g、エチレンジアミン4酢酸ナトリウム20g、ニトリロトリ酢酸8g、酢酸125 mlを400mlの超純水に添加し、撹拌して溶解する。その後不溶物をろ過する(ろ紙はWatman♯40)。アゾメチンH試薬の調製方法として、アゾメチンH0.9g、クエン酸2gを超純水100mlに溶解する。発色溶液の調製として、80mlのマスキング液と20mlアゾメチンH試薬を混合する。
【0158】
<検量線の作製>
ホウ素の100ppm標準液を0.36N濃度の硫酸を用いて希釈し、ホウ素濃度1、2、3、4ppmの溶液をそれぞれ10mlずつ調製した。これらに発色溶液を2.5ml添加し、軽く撹拌した後、2時間静置した。吸光度測定器(PD-303S、japanAPEL)を用いて420nmにおける吸光度を測定した。ブランクには0.36N硫酸を用いた。
得られた吸光度とホウ素濃度をプロットし、検量線を作製した。結果を
図2及び表3に示す。
【0159】
【0160】
<試料の作製と評価>
塗布電極から剥離して得られた黒鉛電極合剤2mgを10mL超純水に再溶解し、6時間撹拌後、ろ過した。この時、剥離した黒鉛電極の組成比は
実施例2-1:負極:導電材:ポリホウ酸:CMC分散材:バインダ=91:1:6:1:1
実施例2-2:負極:導電材:ポリホウ酸:CMC分散材:バインダ=96:1:1:1:1である。得られたろ液10mlに発色緩衝液を5mlと0.36N硫酸5mLとを添加して撹拌し、2時間静置して測定試料を調製した。(この時実施例2-1の測定試料には6 ppmのホウ素,実施例2-2の測定試料には1 ppmのホウ素が含まれる。)
吸光度測定器(PD-303S、japanAPEL)を用いて420nmにおける吸光度を測定した。上記で作成した検量線を用いてLambert-beer則から、得られた吸光度の値によってホウ素の含有量を算出する。結果を表4に示す。
【0161】
【表4】
この結果において吸光度の値0.191は表2の検量線からの換算で、ホウ素量として0.89重量%に相当し、吸光度の値1.411は6.15重量%に相当する。
【0162】
<電解液添加剤との耐熱特性比較>
ポリホウ酸の電極保護に耐熱特性と従来の電解液添加剤による耐熱特性の比較を実施した。使用したリチウムイオン電池の構成は以下の通りである。
【0163】
<実施例3-1>
正極・NMC622:アセチレンブラック:ポリホウ酸:PVDF=94:2:1:3
負極・黒鉛:アセチレンブラック:CMC-Na:ポリホウ酸:SBR=96:1:1:1
電解液: 1.0M LiPF6+EC/DMC=1:1(体積比)+0.8wt%ビニレンカーボネート(電解液添加剤)
セパレーター:セルロース不織布
【0164】
<実施例3-2>
正極・NMC622:アセチレンブラック:ポリホウ酸:PVDF=94:2:1:3
負極・黒鉛:アセチレンブラック:CMC-Na:ポリホウ酸:SBR=96:1:1:1
電解液: 1.0M LiPF6+EC/DMC=1:1(体積比)
セパレーター:セルロース不織布
【0165】
<比較例3>
正極・NMC622:アセチレンブラック:PVDF=95:2:3
負極・黒鉛:アセチレンブラック:CMC-Na:SBR=97:1:1
電解液: 1.0M LiPF6+EC/DMC=1:1(体積比)+0.8wt%ビニレンカーボネート(電解液添加剤)
セパレーター:セルロース不織布
【0166】
これらをCR2032型サイズのコインセル容器を用いて、グローブボックス中(露点-60℃、アルゴン雰囲気)で組み立てた。
【0167】
<耐熱特性測定条件>
試験は前記高温保存特性測定と同様であり,これを4回繰り返して4週間分の特性を確認した。結果を表5に示す。表に示すとおり、電極添加剤としてポリホウ酸塩を用いた実施例1,2では容量保持率が85%を超える良好な結果が得られた。一方、電解液添加剤のみを加え、ポリホウ酸塩を加えていない比較例では、容量保持率が85%未満しか得られなかった。
【0168】
【0169】
以上の実施例等により、ポリホウ酸塩を電極添加剤として含む電極を搭載することで、優れた高温耐久性を有する非水電解質二次電池の提供が期待できることがわかる。
【0170】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
電気化学デバイスの例としては、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池、電気化学キャパシタ等が挙げられ、さらには非リチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ、色素増感型太陽電池等も包含される。
前記電気化学デバイスは、高性能であり、かつ安全性の高い蓄電デバイスとして利用することができる。よって、前記電気化学デバイスは、携帯電話機器、ノートパソコン、携帯情報端末(PDA)、ビデオカメラ、デジタルカメラ等の小型電子機器;電動自転車、電動自動車、電車等の移動用機器(車両);火力発電、風力発電、水力発電、原子力発電、地熱発電等の発電用機器;自然エネルギー蓄電システム等に搭載されてもよい。